JPWO2007023933A1 - アルカリ乾電池 - Google Patents

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Abstract

優れた強負荷放電特性を維持しつつ、強負荷パルス放電時の分極を抑制してデジタル機器の動作安定性を向上させ、かつ耐漏液性や短絡時の安全性に関して高い信頼性を有するアルカリ乾電池を提供するため、正極活物質としてオキシ水酸化ニッケル粉末および二酸化マンガン粉末を含み、導電剤として黒鉛を含む正極と;負極活物質として亜鉛または亜鉛合金を含む負極と;前記正極と前記負極との間に配されるセパレータと;前記負極内に挿入される負極集電体と;前記セパレータに含まれるアルカリ水溶液と;前記正極、前記負極、前記セパレータ、前記負極集電体および前記アルカリ水溶液を収容する電池ケースと;前記電池ケースの開口部を封口する封口体と;を具備するアルカリ乾電池において、前記正極に、前記正極活物質の総量の0.1〜10モル%のカルシウム化合物を添加し、前記カルシウム化合物における、鉄元素の含有量を150ppm以下とする。

Description

本発明は、正極活物質としてオキシ水酸化ニッケル粉末と二酸化マンガン粉末とを含むアルカリ乾電池に関する。
アルカリ乾電池はインサイドアウト型の構造を有し、正極端子を兼ねる正極ケースの中に、正極ケースに密着して中空円筒状の正極合剤が配置されており、正極合剤の中空にセパレータを介してゲル状負極が配置されている。近年のデジタル機器の普及に伴い、これらの電池が使用される機器の負荷電力は次第に大きくなっている。そのため、強負荷放電性能に優れる電池が要望されてきた。これに対応するべく、特許文献1では、正極活物質にオキシ水酸化ニッケル粉末を混合することが提案されている。正極活物質としてオキシ水酸化ニッケル粉末を含むアルカリ乾電池は、従来のアルカリ乾電池に比べて強負荷放電特性に優れている。そのため、デジタルカメラに代表されるデジタル機器の主電源として普及しつつある。
正極活物質にオキシ水酸化ニッケル粉末を含むアルカリ乾電池は、高温保存することで、正極ケースと正極合剤との間の抵抗が増大する。また、放電可能な正極活物質の量が減少する。そのため、オキシ水酸化ニッケルを含まないアルカリ乾電池よりも、高温保存後の強負荷放電特性が劣るという問題があった。これに対して、特許文献2は、正極合剤への亜鉛酸化物およびカルシウム酸化物の添加などを提案している。
特開2000−48827号公報 特開2001−15106号公報
電源としてアルカリ乾電池を使用するデジタル機器、例えば、デジタルカメラでは、ストロボ発光、光学レンズの出し入れ、液晶部の表示および画像データの記録媒体への書き込みといった様々な機能に応じた強負荷電力を瞬時に必要とする。オキシ水酸化ニッケルを含むアルカリ乾電池は、放電により絶縁体である水酸化ニッケルが生成する。そのため、強負荷パルス放電末期において分極が大きくなる。すなわち、電池の放電が進むと、瞬時に強負荷電力を供給することができなくなる。分極が大きくなる結果、突然デジタルカメラの電源が切れる等、動作の安定性が低いという問題がある。
また、カルシウム化合物には鉄元素などの不純物が多く含まれている。不純物は、電池の負極活物質である亜鉛合金の腐食を助長する。特許文献2で提案されているように、正極合剤にカルシウム酸化物を添加した場合、常温での長期保存における耐漏液性の低下や、電池短絡時に電池温度が高くなる等の問題がある。
本発明は、上記のような従来の問題に鑑み、正極活物質としてオキシ水酸化ニッケルと二酸化マンガンを含むアルカリ乾電池の優れた強負荷放電特性を維持しつつ、優れた放電特性を得ることを目的とする。具体的には、強負荷パルス放電時の分極を抑制してデジタル機器の動作安定性を向上させるとともに、高温保存後の強負荷放電特性を向上させ、かつ耐漏液性や電池短絡時の安全性に関して高い信頼性を有するアルカリ乾電池を提供することを目的とする。
上記のような問題を解決するため、本発明は、正極活物質としてオキシ水酸化ニッケル粉末および二酸化マンガン粉末を含み、導電剤として黒鉛を含む正極と、負極活物質として亜鉛または亜鉛合金を含む負極と、前記正極と前記負極との間に配されるセパレータと、前記負極内に挿入される負極集電体と、前記セパレータに含まれるアルカリ水溶液と、前記正極、前記負極、前記セパレータ、前記負極集電体および前記アルカリ水溶液を収容する電池ケースと、前記電池ケースの開口部を封口する封口体と、を具備するアルカリ(一次)乾電池であって、前記正極が、前記正極活物質の総量の0.1〜10モル%のカルシウム化合物を含み、前記カルシウム化合物における鉄元素の含有量が150ppm以下であること、を特徴とするアルカリ乾電池を提供する。
このように正極がカルシウム化合物を含むことにより、アルカリ乾電池の高温保存後の強負荷放電特性を維持することができる。また、カルシウム化合物における鉄元素の含有量を150ppm以下とすることで、耐漏液性および電池短絡時の安全性を向上させることができる。
前記カルシウム化合物は、酸化カルシウムまたは水酸化カルシウムであることが好ましい。
前記オキシ水酸化ニッケル粉末は、平均ニッケル価数が2.95以上であることが好ましい。また、平均粒径が8〜18μmであることが好ましい。
前記オキシ水酸化ニッケル粉末と前記二酸化マンガン粉末との重量比が、20:80〜90:10であることが好ましい。また、重量比は、20:80〜60:40であることがさらに好ましい。
前記オキシ水酸化ニッケル粉末は、粉末X線回折における(101)面の半値幅が0.6〜0.8deg./2θで、かつ(001)面の半値幅が0.5〜0.7deg./2θである水酸化ニッケル粉末を酸化して得られるものであることが好ましい。
本発明によると、正極活物質としてオキシ水酸化ニッケルと二酸化マンガンを含むアルカリ乾電池の優れた強負荷放電特性を維持しつつ、優れた放電特性を得ることができる。具体的には、電池の強負荷パルス放電時の分極を抑制してデジタル機器の動作安定性を向上させるとともに、高温保存後の強負荷放電特性を向上させ、かつ耐漏液性や短絡時の安全性に関して高い信頼性を有するアルカリ乾電池を提供することができる。
本発明の実施例に係るアルカリ電池の一部を断面にした正面図である。 水酸化ニッケル粉末の粉末X線回折図である。
本発明は、優れた強負荷放電特性を有するオキシ水酸化ニッケルを含むアルカリ乾電池において、正極にカルシウム化合物を添加し、さらにカルシウム化合物に含まれる不純物である、鉄元素の含有量を低減することで、高温保存後の強負荷放電特性、耐漏液性および電池短絡時の安全性を向上させるものである。
正極に対するカルシウム化合物(例えば酸化カルシウムまたは水酸化カルシウム)の含有量は、正極活物質の総量に対して0.1モル%未満であると、高温保存後における強負荷パルス放電特性を向上することができない。また、10モル%を超えると、正極合剤における正極活物質の割合が低くなり、所望の電池容量が得られなくなる。
また、カルシウム化合物のうち特に酸化物および水酸化物は、例えば天然に存在する石灰石から得ることができる。製造段階での精製の程度により、カルシウム化合物には鉄元素などの不可避不純物が多く含まれている。この不純物として含まれる鉄元素は、アルカリ乾電池の負極活物質である亜鉛合金粉末の腐食を助長する。カルシウム化合物における鉄元素の含有量が150ppm以下であれば、耐漏液性および電池短絡時の安全性を向上させることができる。鉄元素の含有量は少なければ少ないほどよいが、1〜50ppmであっても構わない。
ここで、カルシウム化合物に含まれる鉄元素の含有量は、例えば、以下の方法で測定することができる。まず、カルシウム化合物と、水と、例えば等量の2倍以上の塩酸とを加え、加熱してカルシウム化合物を溶解する。不溶成分が確認されない場合は、そのまま適切な容量に定容して測定試料とすることができる。不溶成分が認められる場合は、これを濾別し、濾液を定容して測定試料とする。
次に、測定試料中のFe濃度をICP発光分光分析法または原子吸光分光分析法で測定する。測定方法は、マトリックス(塩酸およびカルシウムの濃度)を一致させた検量線法、または標準添加法で行う。いずれの方法においても、測定波長の選択および試料の希釈などの条件を、使用する装置に応じて設定する。Feの標準試料としてはトレーサビリティーが確認できるものを使用する。測定したFe濃度、測定試料の容積およびカルシウム化合物量を用いて、カルシウム化合物に含まれる鉄元素の含有量を求めることができる。
上記カルシウム化合物は酸化カルシウムまたは水酸化カルシウムであることが好ましい。酸化カルシウムは、例えば、以下のようにして得ることができる。原料には、例えば鉄元素の含有量が110ppm以下の天然の石灰石(炭酸カルシウム)を用いることができる。石灰石を焼成炉に投入し、例えば重油・ガス・石炭や電気等の熱源を用いて例えば約1000℃で焼成することで炭酸根を除去し、酸化カルシウムを得ることができる。
水酸化カルシウムは、酸化カルシウムと純水とを、例えば消化機に定量供給し、消化機内で混合攪拌して酸化カルシウムの消化(水和)を行って得ることができる。消化機から排出された水酸化カルシウムを熟成機に供給する。熟成機を経た水酸化カルシウムは消化のムラがなくなり付着水分が均一になった状態で排出される。この間に過剰な水分は蒸発し、水酸化カルシウム中に含まれる水分が殆どなくなるように消化水の量を調節する。
原料である天然の石灰石における鉄元素の含有量にもよるが、上記操作により、カルシウム化合物(酸化カルシウムまたは水酸化カルシウム)に含まれる鉄元素の含有量を制御することができる。なお、上記操作は、繰り返し行ってもよい。
オキシ水酸化ニッケル粉末は、平均ニッケル価数が2.95以上であることが好ましい。水酸化ニッケルを用いてオキシ水酸化ニッケルを調製した場合、得られたオキシ水酸化ニッケルの平均ニッケル価数が2.95以上であると、結果として、正極活物質に含まれる水酸化ニッケルの割合が小さくなる。得られた正極活物質において、残留物である水酸化ニッケルの含有量が少ないと、オキシ水酸化ニッケルを含むことによる強負荷放電特性が阻害されにくい。特に、オキシ水酸化ニッケル粉末の平均ニッケル価数が3.00〜3.05であることで、正極活物質における水酸化ニッケルの含有量がさらに小さくなり、電池の放電特性が安定してバラツキが少なくなることから好ましい。
本発明においては、正極活物質が、オキシ水酸化ニッケルおよび二酸化マンガンを含む。オキシ水酸化ニッケルは、例えば、水酸化ニッケル粉末を水酸化ナトリウム水溶液中に投入し、次亜塩素酸ナトリウム水溶液を十分量加え、攪拌することで得られる。オキシ水酸化ニッケルの平均ニッケル価数は、オキシ水酸化ニッケルを得る工程において、例えば、次亜塩素酸ナトリウムの添加量に依存する。
オキシ水酸化ニッケルの平均ニッケル価数は、例えば、以下のような方法により求められる。オキシ水酸化ニッケルにおけるニッケル重量比率を重量法(ジメチルグリオキシム法)により求める。また、オキシ水酸化ニッケル粉末を、例えば硝酸に溶解させ、酸化還元滴定を行うことにより、ニッケルイオン量を求める。そして、上記で得られたニッケルイオン量およびニッケルの重量比率を用い、オキシ水酸化ニッケルの固溶体のニッケルの平均価数を求めることができる。
オキシ水酸化ニッケル粉末は、平均粒径が8〜18μmであることが好ましい。平均粒径が8μm以上であることで、正極合剤の充填性が向上し、良好な放電特性が得られる。また、18μm以下であることで、導電材である黒鉛粒子との接触性が向上するため、良好な初度および高温保存後の強負荷放電特性が得られる。
オキシ水酸化ニッケル粉末と二酸化マンガン粉末との重量比が20:80〜90:10であることが、初度および高温保存後の放電特性と、強負荷パルス特性とを向上させ、電池短絡時の温度上昇を抑制できることから好ましい。特に、重量比が20:80〜60:40であることが、さらに良好な効果が得られることから好ましい。
本発明におけるオキシ水酸化ニッケルは、本発明の効果を損なわない範囲で、他の追加元素を含む固溶体であってもかまわない。オキシ水酸化ニッケルに含まれ得る原子をMとすると、原子Mを含むオキシ水酸化ニッケルの固溶体とは、オキシ水酸化ニッケルの結晶内に上記原子Mを含むものをいう。具体的には、オキシ水酸化ニッケルの結晶内においてニッケル原子の少なくとも一部が原子Mで置換されている固溶体と、オキシ水酸化ニッケルの結晶内に原子Mが挿入されている固溶体と、のいずれであってもよい。もちろん、上記固溶体は、置換された原子Mと、挿入された原子Mの両方を含んでいても構わない。なおかかるMとしては、例えばマンガン、コバルトおよび亜鉛などが挙げられる。
オキシ水酸化ニッケルを作製するために用いる水酸化ニッケル粉末は、粉末X線回折における(101)面の半値幅が0.6〜0.8deg./2θで、かつ(001)面の半値幅が0.5〜0.7deg./2θである水酸化ニッケル粉末を酸化して得られるものであることが好ましい。水酸化ニッケル粉末の(101)面の半値幅が0.6deg./2θ以上であることで、次亜塩素酸ナトリウム等による酸化が容易となり、水酸化ニッケル粉末からオキシ水酸化ニッケルを調製する際に、残留物として含まれる水酸化ニッケルの割合が小さくなる。その結果、上記の理由により優れた強負荷放電特性が得られる。また、水酸化ニッケル粉末の(101)面の半値幅が0.8deg./2θ以下であることで、水酸化ニッケル粉末から得られるオキシ水酸化ニッケル粉末の結晶サイズが大きくなる。これにより、強負荷パルス放電の際に、結晶表面全体に放電生成物である水酸化ニッケル層が形成されにくい。よって、強負荷パルス放電時の分極を抑制することができる。
水酸化ニッケル粉末の(001)面の半値幅が0.5deg./2θ以上であることで、粒径8μm以上のオキシ水酸化ニッケル粉末を調製することが容易となる。その結果、上記の理由により良好な放電特性を得ることができる。また、水酸化ニッケル粉末の(001)面の半値幅が0.7deg./2θ以下であることで、正極合剤中の黒鉛等との密着性が向上する。このため、特に電池の保存後の強負荷放電特性が向上する。
水酸化ニッケル粉末は、例えば、以下のようにして得られる。
まず、硫酸ニッケル水溶液と、水酸化ナトリウム水溶液と、アンモニア水溶液とを反応装置内で混合し、懸濁液を得る。懸濁液から、デカンテーションにより沈殿物を分離する。沈殿物にpH13〜14の水酸化ナトリウム水溶液でアルカリ処理を行い、水洗、乾燥を行って、水酸化ニッケル粉末が得られる。
水酸化ニッケル粉末の平均粒径は、例えば、上記工程において、硫酸ニッケル、水酸化ナトリウム水溶液およびアンモニア水溶液の流量に依存する。また、水酸化ニッケルの(101)面および(001)面の半値幅は、例えば、水酸化ナトリウム水溶液の濃度およびアンモニア水溶液の濃度に依存する。
以下に、本発明のアルカリ乾電池の他の構成要素について説明する。
正極は、例えば、正極活物質である二酸化マンガンと、導電材である黒鉛と、上記のようなカルシウム化合物と、電解液とをミキサーで混合する。その後、一定粒度に整粒したものを、正極合剤とする。さらに、正極合剤を中空円筒状に加圧成形する。こうして得られた正極合剤ペレットを正極として用いることができる。
負極活物質には、従来公知のものを用いることができる。例えば亜鉛、またはビスマス、インジウム、アルミニウム等を含む亜鉛合金を用いることができる。亜鉛または亜鉛合金は、例えばガスアトマイズ法によって得られる亜鉛粉末または亜鉛合金粉末を用いることができる。
電解液には、従来公知のものを用いることができる。例えば、水酸化カリウム水溶液等が挙げられる。例えば水酸化カリウム水溶液の場合、水溶液中に水酸化カリウムが、例えば25〜40重量%含まれていることが好ましい。
また、セパレータにも、従来公知のものを用いることができる。例えば、ポリビニルアルコール繊維およびレーヨン繊維等を混抄した不織布が用いられる。
負極は、例えば、上記のような負極活物質と、電解液と、ゲル化剤とを混合し、従来公知の方法でゲル化することで得られる、ゲル状負極を用いることができる。ゲル化剤には、従来公知のものを用いることができる。例えば、ポリアクリル酸ナトリウムが挙げられる。
ここで、本発明の一実施形態に係るアルカリ乾電池について、図1を参照しながら説明する。図1は、本発明の一実施形態に係るアルカリ乾電池の一部を断面にした正面図である。アルカリ乾電池は、筒状の正極合剤ペレット3と、その中空に充填されたゲル状負極6とを有する。正極と負極との間にはセパレータ4が介在している。正極ケース1の内面は、ニッケルのメッキ層を有し、その上には、黒鉛塗装膜2が形成されている。
アルカリ乾電池は、例えば以下のようにして作製される。まず、正極ケース1の内部に、短筒状の正極合剤ペレット3を複数個挿入し、正極ケース1内において正極合剤ペレット3を再加圧する。これにより正極合剤ペレット3は、正極ケース1の内面に密着する。次に、正極合剤ペレット3の中空にセパレータ4と絶縁キャップ5とを配置する。その後、セパレータ4と正極合剤ペレット3とを湿潤させる目的でアルカリ電解液を中空に注液する。電解液の注液後、セパレータ4の内側にゲル状負極6を充填する。次に、樹脂製封口板7、負極端子を兼ねる底板8および絶縁ワッシャ9と一体化されている負極集電体10をゲル状負極6に差し込む。正極ケース1の開口端部を、樹脂封口体7の端部を介して、底板8の周縁部にかしめつけることにより、正極ケース1の開口部が密閉される。最後に、正極ケース1の外表面を外装ラベル11で被覆することで、アルカリ乾電池が得られる。
以下、本発明の実施例について説明する。本発明の内容は、これらの実施例に限定されるものではない。
《実験例》
図1に示すような単3サイズのアルカリ乾電池を作製した。
(1)水酸化ニッケル粉末の作製
2.4mol/l硫酸ニッケル水溶液、5mol/l水酸化ナトリウム水溶液、5mol/lのアンモニア水溶液をそれぞれ、反応装置内に供給した。反応装置は内部に攪拌翼を有し、装置内は40℃に保持した。各水溶液の流量を0.5ml/minとし、ポンプを用いて連続的に供給した。反応装置内のpHが一定となり、金属塩濃度と金属水酸化物粒子濃度のバランスが一定となり、定常状態になったところで、オーバーフローにて得られた懸濁液を採取した。この懸濁液から、デカンテーションにより沈殿物を分離した。
分離した沈殿物をpH13〜14の水酸化ナトリウム水溶液でアルカリ処理し、金属水酸化物粒子に含まれる硫酸イオン等のアニオンを除去した。得られたものを水洗し、乾燥した。このようにして、水酸化ニッケル粉末1を得た。得られた水酸化ニッケル粉末1は、レーザー回折式粒度分布計による体積基準の平均粒径が12.3μmであった。作製した水酸化ニッケル粉末の結晶構造を、以下に示す条件の粉末X線回折法により測定した。図2に代表的な水酸化ニッケル粉末の粉末X線回折図を示す。
[測定装置]理学株式会社製、粉末X線回折装置「RINT1400」
[対陰極] Cu
[フィルタ] Ni
[管電圧] 40kV
[管電流] 100mA
[サンプリング角度] 0.02deg.
[走査速度] 3.0deg./min.
[発散スリット] 1/2deg.
[散乱スリット] 1/2deg.
水酸化ニッケル粉末1について、CuKα線を用いたX線回折パターンを記録したところ、β−Ni(OH)2型の単相であることが確認できた。2θ=37〜40°付近の(101)面のピーク半値幅は0.92deg./2θ、2θ=18〜21°付近に位置する(001)面のピーク半値幅は0.90deg./2θであった。なお、この半値幅は、二次電池の高率充放電特性を重視して水酸化ニッケル粉末の結晶性を制御した場合に有効な値である。
(2)オキシ水酸化ニッケル粉末の作製
上記で作製した水酸化ニッケル粉末に化学酸化処理を行い、オキシ水酸化ニッケルを作製した。具体的には、水酸化ニッケル粉末を0.5mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液中に投入した。さらに、次亜塩素酸ナトリウム水溶液(有効塩素濃度:12wt%)の添加量が酸化剤当量として1.2となるように添加した。これを反応雰囲気温度45℃で3時間攪拌して、水酸化ニッケル粉末1〜10および25〜29に対応するオキシ水酸化ニッケル粉末1〜10および25〜29作製した。得られたオキシ水酸化ニッケル粉末は十分に水洗を行った後、60℃の真空乾燥を行い正極活物質を得た。
オキシ水酸化ニッケル粉末の平均ニッケル価数を以下の(a)および(b)の測定により算出した。
(a)重量法(ジメチルグリオキシム法)によるニッケル重量比率の測定
オキシ水酸化ニッケル粉末0.05gに濃硝酸10cmを加えて加熱し、オキシ水酸化ニッケル粉末を溶解させた。さらに、酒石酸水溶液10cmを加えた後、イオン交換水を加えて全量を200cmに体積調整した混合溶液を得た。混合溶液のpHをアンモニア水および酢酸を用いて調整した後、臭素酸カリウム1gを加えて測定誤差となり得る他の不純物イオンを3価の状態に酸化させた。次に、この溶液を加熱攪拌しながらジメチルグリオキシムのエタノール溶液を添加し、ニッケル(II)イオンをジメチルグリオキシム錯化合物として沈殿させた。続いて吸引濾過を行い、生成した沈殿物を捕集して110℃雰囲気で乾燥させ、沈殿物の重量を測定した。測定した重量を用いて、次式より活物質粉末中に含まれるニッケル重量比率を求めた。
ニッケル重量比率={沈殿物の重量(g)×0.2032}/{正極活物質粉末の試料重量(g)}
(b)酸化還元滴定によるニッケルイオン量の測定
オキシ水酸化ニッケル粉末0.2gにヨウ化カリウム1gと硫酸25cmを加え、十分に攪拌を続けることで完全に溶解させた。この過程で価数の高いニッケルイオンは、ヨウ化カリウムをヨウ素に酸化し、自身は2価に還元される。20分間放置した後、pH緩衝液としての酢酸−酢酸アンモニウム水溶液と、イオン交換水とを加えて反応を停止させた。生成・遊離したヨウ素を0.1mol/Lのチオ硫酸ナトリウム水溶液で滴定した。このとき得られる滴定量は、上記のような価数が2価よりも大きい金属イオン量(ニッケルイオン量)を反映する。そこで、ニッケルイオン量と、(a)で求めたニッケル重量比率とを用いてオキシ水酸化ニッケル粉末の平均ニッケル価数を求めた。
上記で得られたオキシ水酸化ニッケル粉末、二酸化マンガン粉末、黒鉛および電解液を重量比50:50:6.5:1の割合で混合した。さらにカルシウム化合物として、鉄元素の含有量が21ppmである水酸化カルシウムAを、オキシ水酸化ニッケルと二酸化マンガンの総量に対して5モル%となるように添加した。これをミキサーで均一に混合して一定粒度に整粒し、正極合剤を得た。正極合剤を中空円筒型に加圧成型して得られた正極合剤ペレットを、正極として用いた。また、電解液には40重量%の水酸化カリウム水溶液を用いた。
負極には、ゲル化剤(ポリアクリル酸ナトリウム)と、電解液と、負極活物質とを混合して、従来と同様にゲル化を行って得られたゲル状負極を用いた。また、ビスマス250ppm、インジウム250ppmおよびアルミニウム35ppmを溶融状態の亜鉛に溶解させ、得られた溶解物をアトマイズすることによって得られた亜鉛合金粉末を、負極活物質として用いた。またセパレータには、ポリビニルアルコール繊維およびレーヨン繊維等を混抄した不織布を用いた。
(3)アルカリ乾電池の作製
図1に示す構造を有する単3サイズのアルカリ乾電池を作製した。まず、正極ケース1の内部に、中空円筒状の正極合剤ペレット3を複数個挿入した。これを正極ケース1内において再加圧することで、正極ケース1の内面に密着させた。そして、この正極合剤ペレット3の内側にセパレータ4および絶縁キャップ5を挿入した後、電解液を注液した。注液後、セパレータ4の内側にゲル状負極6を充填した。次に、樹脂製封口板7、負極端子を兼ねる底板8、および絶縁ワッシャ9と一体化された負極集電体10を、ゲル状負極6に差し込んだ。そして正極ケース1の開口端部を樹脂製封口板7の端部を介して底板8の周縁部にかしめつけて、正極ケース1の開口部を密封した。最後に、正極ケース1の外表面に外装ラベル11を被覆し、アルカリ乾電池(電池1)を作製した。
水酸化ナトリウム水溶液濃度およびアンモニア水溶液濃度を変化させたこと以外、水酸化ニッケル粉末1と同様にして、(101)面または(001)面の半値幅の異なる水酸化ニッケル粉末2〜10を作製した。なお、水酸化ニッケル粉末10では、平均粒径6.4μmと細かな粒子しか得られなかった。
また、硫酸ニッケル水溶液、水酸化ナトリウム水溶液およびアンモニア水溶液の流量を変化させたこと以外、水酸化ニッケル粉末4と同様にして平均粒径の異なる水酸化ニッケル粉末25〜29を作製した。
水酸化ニッケル粉末2〜10および25〜29について、水酸化ニッケル粉末1と同様に粉末X線回折装置を用いて測定を行った。測定結果を表1に示す。
次亜塩素酸ナトリウム水溶液(有効塩素濃度:12wt%)の添加量を、酸化剤当量として0.9〜1.4まで変化させたこと以外、オキシ水酸化ニッケル粉末4と同様にしてオキシ水酸化ニッケル粉末30〜32を作製した。
上記で作製したオキシ水酸化ニッケル粉末2〜10および25〜32を用いたこと以外、電池1と同様にして電池2〜10および電池25〜32を作製した。
また、正極合剤にカルシウム化合物を添加しなかったこと以外、電池4と同様にして従来電池2を作製した。
オキシ水酸化ニッケル粉末1と4とを用いて、正極活物質に含まれるオキシ水酸化ニッケル粉末と二酸化マンガン粉末との重量比を変化させたこと以外は、電池1と同様にして電池11〜24を作製した。
また、正極活物質に含まれる二酸化マンガン粉末の割合を100重量%とし、これにカルシウム化合物を添加しなかったこと以外、電池1と同様にして従来電池1を作製した。
正極合剤に、正極活物質の総量に対して0.05〜15モル%の水酸化カルシウムを添加したこと以外、電池4と同様にして電池33〜38を作製した。
正極合剤に、鉄元素の含有量が異なるカルシウム化合物B〜Kを添加したこと以外、電池4と同様にして電池39〜48を作製した。上記で作製した電池の物性、添加量等を表1に示す。また、用いたカルシウム化合物A〜Kの組成および鉄元素の含有量を表2に示す。鉄元素の含有量は、ICP発光分光分析法により測定を行った。
Figure 2007023933
Figure 2007023933
電池1〜38を用いて、初度および60℃で2週間保存後に、20℃で、1Wの定電力で連続放電を行い、電圧が終止電圧0.9Vに至るまでの持続時間を測定し、強負荷放電特性の評価を行った。また、デジタルカメラでの電池実使用を想定した評価として、1.5W2秒−0.65W28秒のパルスを10サイクルとするパルス放電を1時間毎に行い、電圧が1.05Vに至るまでのサイクル数と1.05V時の電圧降下幅(ΔV)を測定した。表1〜7には、電池1の各放電における持続時間を100とし、電池2〜38について各々10個の測定値の平均を示した。
また、電池1〜38について電池を強制的に短絡させて電池温度が上昇した際の電池最高到達温度を熱電対により測定した。表4〜9には、電池1〜38について各々5個の最高到達温度の平均値を示した。ここで、電池の安全性は、短絡時の電池最高到達温度が150℃以下であれば良とした。
Figure 2007023933
正極合剤が水酸化カルシウムを含まない電池は、正極合剤が水酸化カルシウムを含む電池に比べて、各放電特性の伸びが小さく、電池短絡時の電池温度上昇も大きい。また、電池38からわかるように、正極活物質の総量に対する水酸化カルシウムの添加量が10モル%を超えると、電池の初度の強負荷放電特性が低下した。これは、正極合剤に含まれる正極活物質の割合が低くなったためと考えられる。
Figure 2007023933
オキシ水酸化ニッケル粉末の平均ニッケル価数が2.95以上であることで、電池の初度および高温保存後の強負荷放電特性がさらに向上した。これは、オキシ水酸化ニッケルに含まれる水酸化ニッケルの割合が小さくなった結果、水酸化ニッケルによるオキシ水酸化ニッケルの放電の阻害を抑制できたためと考えられる。
Figure 2007023933
平均粒径が8μm〜18μmであることで、電池の初度および高温保存後の強負荷放電特性がさらに向上した。これは、平均粒径が8μm以上であることで、正極合剤の成型性が向上したと考えられる。また、平均粒径が18μm以下であることで、放電末期におけるオキシ水酸化ニッケルの電子伝導性の低下が抑制された。そのため、電池の内部抵抗の増大を抑制できたと考えられる。
Figure 2007023933
オキシ水酸化ニッケルと二酸化マンガンとの重量比を20:80〜90:10とすると、電池の各放電特性が大きく向上させることができるとともに、電池短絡時の電池温度上昇も抑制できた。特に、オキシ水酸化ニッケルと二酸化マンガンとの重量比を20:80〜60:40とすると、電池短絡時の温度上昇をさらに抑制できた。
ここで、種々の水酸化ニッケルから得られたオキシ水酸化ニッケルを含む正極活物質を用いた場合のデータを、上記表1から抽出し、表7にまとめた。
Figure 2007023933
電池4、5、8、9からわかるように、水酸化ニッケル粉末の粉末X線回折における(101)面の半値幅が0.6〜0.8deg./2θで、かつ(001)面の半値幅が0.5〜0.7deg./2θである水酸化ニッケルを用いた場合には、優れた強負荷放電特性を維持しつつ、強負荷パルス放電時の分極が抑制されかつ高温保存後の強負荷放電特性も著しく向上させることができた。さらに、電池4、5、8、9では短絡時の電池温度上昇も抑制することができた。
正極活物質がオキシ水酸化ニッケル粉末を含まない従来電池1と比較すると、電池1および電池11〜17の各電池においても、良好な強負荷連続放電特性およびパルス放電特性が得られた。しかし、これらの電池は、用いた水酸化ニッケル粉末の粉末X線回折における(101)面の半値幅が0.92deg./2θで、かつ(001)面の半値幅が0.90deg./2θであり、前記各放電特性の伸びは小さく、電池短絡時の電池最高到達温度も高い状態であった。
また、電池4および電池39〜48の各電池100個を常温雰囲気下で6ヶ月間保存した後、それぞれの開放電圧を測定し、開放電圧が降下した電池の数量を調べた。結果を表8に示す。
Figure 2007023933
鉄元素の含有量が150ppmを超えるカルシウム化合物C、E、Kを添加した電池40、42、48でのみ、常温保存後の電圧降下が認められる結果となった。
[評価試験(シミュレーション)]
また、正極合剤に添加するカルシウム化合物に含まれる鉄元素が、負極に及ぼす電池特性への影響を、直接負極にカルシウム化合物を添加することで調べた。すなわち、本発明のアルカリ乾電池において、正極が含むカルシウム化合物に含まれる鉄が、乾電池内を移動して負極に到達した場合の影響を、直接負極にカルシウム化合物を添加することにより調べた。
ポリアクリル酸ナトリウム、アルカリ電解液、およびBi250ppm、In250ppm、Al35ppmを含有する亜鉛合金粉末からなるゲル状負極100gに対して、ICP発光分光分析で測定した鉄元素の含有量の異なるカルシウム化合物A〜Kまでをそれぞれを1g添加してよく撹拌した。これら各々のカルシウム化合物を混合したゲル状負極10gをガラス製測定器具に分取し、45℃雰囲気下にて、3日後のガス発生量を測定した。表9にカルシウム化合物の鉄元素の含有量とガス発生量との関係を示す。
Figure 2007023933
表9からわかるように、カルシウム化合物中の鉄元素の含有量が150ppmを超えると、負極からのガス発生量が急激に多くなっていた。
本発明は、初度および高温保存後の放電特性、強負荷放電特性の向上、さらに安全性の向上を必要とするアルカリ乾電池に利用することができる。
本発明は、正極活物質としてオキシ水酸化ニッケル粉末と二酸化マンガン粉末とを含むアルカリ乾電池に関する。
アルカリ乾電池はインサイドアウト型の構造を有し、正極端子を兼ねる正極ケースの中に、正極ケースに密着して中空円筒状の正極合剤が配置されており、正極合剤の中空にセパレータを介してゲル状負極が配置されている。近年のデジタル機器の普及に伴い、これらの電池が使用される機器の負荷電力は次第に大きくなっている。そのため、強負荷放電性能に優れる電池が要望されてきた。これに対応するべく、特許文献1では、正極活物質にオキシ水酸化ニッケル粉末を混合することが提案されている。正極活物質としてオキシ水酸化ニッケル粉末を含むアルカリ乾電池は、従来のアルカリ乾電池に比べて強負荷放電特性に優れている。そのため、デジタルカメラに代表されるデジタル機器の主電源として普及しつつある。
正極活物質にオキシ水酸化ニッケル粉末を含むアルカリ乾電池は、高温保存することで、正極ケースと正極合剤との間の抵抗が増大する。また、放電可能な正極活物質の量が減少する。そのため、オキシ水酸化ニッケルを含まないアルカリ乾電池よりも、高温保存後の強負荷放電特性が劣るという問題があった。これに対して、特許文献2は、正極合剤への亜鉛酸化物およびカルシウム酸化物の添加などを提案している。
特開2000−48827号公報 特開2001−15106号公報
電源としてアルカリ乾電池を使用するデジタル機器、例えば、デジタルカメラでは、ストロボ発光、光学レンズの出し入れ、液晶部の表示および画像データの記録媒体への書き込みといった様々な機能に応じた強負荷電力を瞬時に必要とする。オキシ水酸化ニッケルを含むアルカリ乾電池は、放電により絶縁体である水酸化ニッケルが生成する。そのため、強負荷パルス放電末期において分極が大きくなる。すなわち、電池の放電が進むと、瞬時に強負荷電力を供給することができなくなる。分極が大きくなる結果、突然デジタルカメラの電源が切れる等、動作の安定性が低いという問題がある。
また、カルシウム化合物には鉄元素などの不純物が多く含まれている。不純物は、電池の負極活物質である亜鉛合金の腐食を助長する。特許文献2で提案されているように、正極合剤にカルシウム酸化物を添加した場合、常温での長期保存における耐漏液性の低下や、電池短絡時に電池温度が高くなる等の問題がある。
本発明は、上記のような従来の問題に鑑み、正極活物質としてオキシ水酸化ニッケルと二酸化マンガンを含むアルカリ乾電池の優れた強負荷放電特性を維持しつつ、優れた放電特性を得ることを目的とする。具体的には、強負荷パルス放電時の分極を抑制してデジタル機器の動作安定性を向上させるとともに、高温保存後の強負荷放電特性を向上させ、かつ耐漏液性や電池短絡時の安全性に関して高い信頼性を有するアルカリ乾電池を提供することを目的とする。
上記のような問題を解決するため、本発明は、正極活物質としてオキシ水酸化ニッケル粉末および二酸化マンガン粉末を含み、導電剤として黒鉛を含む正極と、負極活物質として亜鉛または亜鉛合金を含む負極と、前記正極と前記負極との間に配されるセパレータと、前記負極内に挿入される負極集電体と、前記セパレータに含まれるアルカリ水溶液と、前記正極、前記負極、前記セパレータ、前記負極集電体および前記アルカリ水溶液を収容する電池ケースと、前記電池ケースの開口部を封口する封口体と、を具備するアルカリ(一次)乾電池であって、前記正極が、前記正極活物質の総量の0.1〜10モル%のカルシウム化合物を含み、前記カルシウム化合物における鉄元素の含有量が150ppm以下であること、を特徴とするアルカリ乾電池を提供する。
このように正極がカルシウム化合物を含むことにより、アルカリ乾電池の高温保存後の強負荷放電特性を維持することができる。また、カルシウム化合物における鉄元素の含有量を150ppm以下とすることで、耐漏液性および電池短絡時の安全性を向上させることができる。
前記カルシウム化合物は、酸化カルシウムまたは水酸化カルシウムであることが好ましい。
前記オキシ水酸化ニッケル粉末は、平均ニッケル価数が2.95以上であることが好ましい。また、平均粒径が8〜18μmであることが好ましい。
前記オキシ水酸化ニッケル粉末と前記二酸化マンガン粉末との重量比が、20:80〜90:10であることが好ましい。また、重量比は、20:80〜60:40であることがさらに好ましい。
前記オキシ水酸化ニッケル粉末は、粉末X線回折における(101)面の半値幅が0.6〜0.8deg./2θで、かつ(001)面の半値幅が0.5〜0.7deg./2θである水酸化ニッケル粉末を酸化して得られるものであることが好ましい。
本発明によると、正極活物質としてオキシ水酸化ニッケルと二酸化マンガンを含むアルカリ乾電池の優れた強負荷放電特性を維持しつつ、優れた放電特性を得ることができる。具体的には、電池の強負荷パルス放電時の分極を抑制してデジタル機器の動作安定性を向上させるとともに、高温保存後の強負荷放電特性を向上させ、かつ耐漏液性や短絡時の安全性に関して高い信頼性を有するアルカリ乾電池を提供することができる。
本発明は、優れた強負荷放電特性を有するオキシ水酸化ニッケルを含むアルカリ乾電池において、正極にカルシウム化合物を添加し、さらにカルシウム化合物に含まれる不純物である、鉄元素の含有量を低減することで、高温保存後の強負荷放電特性、耐漏液性および電池短絡時の安全性を向上させるものである。
正極に対するカルシウム化合物(例えば酸化カルシウムまたは水酸化カルシウム)の含有量は、正極活物質の総量に対して0.1モル%未満であると、高温保存後における強負荷パルス放電特性を向上することができない。また、10モル%を超えると、正極合剤における正極活物質の割合が低くなり、所望の電池容量が得られなくなる。
また、カルシウム化合物のうち特に酸化物および水酸化物は、例えば天然に存在する石灰石から得ることができる。製造段階での精製の程度により、カルシウム化合物には鉄元素などの不可避不純物が多く含まれている。この不純物として含まれる鉄元素は、アルカリ乾電池の負極活物質である亜鉛合金粉末の腐食を助長する。カルシウム化合物における鉄元素の含有量が150ppm以下であれば、耐漏液性および電池短絡時の安全性を向上させることができる。鉄元素の含有量は少なければ少ないほどよいが、1〜50ppmであっても構わない。
ここで、カルシウム化合物に含まれる鉄元素の含有量は、例えば、以下の方法で測定することができる。まず、カルシウム化合物と、水と、例えば等量の2倍以上の塩酸とを加え、加熱してカルシウム化合物を溶解する。不溶成分が確認されない場合は、そのまま適切な容量に定容して測定試料とすることができる。不溶成分が認められる場合は、これを濾別し、濾液を定容して測定試料とする。
次に、測定試料中のFe濃度をICP発光分光分析法または原子吸光分光分析法で測定する。測定方法は、マトリックス(塩酸およびカルシウムの濃度)を一致させた検量線法、または標準添加法で行う。いずれの方法においても、測定波長の選択および試料の希釈などの条件を、使用する装置に応じて設定する。Feの標準試料としてはトレーサビリティーが確認できるものを使用する。測定したFe濃度、測定試料の容積およびカルシウム化合物量を用いて、カルシウム化合物に含まれる鉄元素の含有量を求めることができる。
上記カルシウム化合物は酸化カルシウムまたは水酸化カルシウムであることが好ましい。酸化カルシウムは、例えば、以下のようにして得ることができる。原料には、例えば鉄元素の含有量が110ppm以下の天然の石灰石(炭酸カルシウム)を用いることができる。石灰石を焼成炉に投入し、例えば重油・ガス・石炭や電気等の熱源を用いて例えば約1000℃で焼成することで炭酸根を除去し、酸化カルシウムを得ることができる。
水酸化カルシウムは、酸化カルシウムと純水とを、例えば消化機に定量供給し、消化機内で混合攪拌して酸化カルシウムの消化(水和)を行って得ることができる。消化機から排出された水酸化カルシウムを熟成機に供給する。熟成機を経た水酸化カルシウムは消化のムラがなくなり付着水分が均一になった状態で排出される。この間に過剰な水分は蒸発し、水酸化カルシウム中に含まれる水分が殆どなくなるように消化水の量を調節する。
原料である天然の石灰石における鉄元素の含有量にもよるが、上記操作により、カルシウム化合物(酸化カルシウムまたは水酸化カルシウム)に含まれる鉄元素の含有量を制御することができる。なお、上記操作は、繰り返し行ってもよい。
オキシ水酸化ニッケル粉末は、平均ニッケル価数が2.95以上であることが好ましい。水酸化ニッケルを用いてオキシ水酸化ニッケルを調製した場合、得られたオキシ水酸化ニッケルの平均ニッケル価数が2.95以上であると、結果として、正極活物質に含まれる水酸化ニッケルの割合が小さくなる。得られた正極活物質において、残留物である水酸化ニッケルの含有量が少ないと、オキシ水酸化ニッケルを含むことによる強負荷放電特性が阻害されにくい。特に、オキシ水酸化ニッケル粉末の平均ニッケル価数が3.00〜3.05であることで、正極活物質における水酸化ニッケルの含有量がさらに小さくなり、電池の放電特性が安定してバラツキが少なくなることから好ましい。
本発明においては、正極活物質が、オキシ水酸化ニッケルおよび二酸化マンガンを含む。オキシ水酸化ニッケルは、例えば、水酸化ニッケル粉末を水酸化ナトリウム水溶液中に投入し、次亜塩素酸ナトリウム水溶液を十分量加え、攪拌することで得られる。オキシ水酸化ニッケルの平均ニッケル価数は、オキシ水酸化ニッケルを得る工程において、例えば、次亜塩素酸ナトリウムの添加量に依存する。
オキシ水酸化ニッケルの平均ニッケル価数は、例えば、以下のような方法により求められる。オキシ水酸化ニッケルにおけるニッケル重量比率を重量法(ジメチルグリオキシム法)により求める。また、オキシ水酸化ニッケル粉末を、例えば硝酸に溶解させ、酸化還元滴定を行うことにより、ニッケルイオン量を求める。そして、上記で得られたニッケルイオン量およびニッケルの重量比率を用い、オキシ水酸化ニッケルの固溶体のニッケルの平均価数を求めることができる。
オキシ水酸化ニッケル粉末は、平均粒径が8〜18μmであることが好ましい。平均粒径が8μm以上であることで、正極合剤の充填性が向上し、良好な放電特性が得られる。また、18μm以下であることで、導電材である黒鉛粒子との接触性が向上するため、良好な初度および高温保存後の強負荷放電特性が得られる。
オキシ水酸化ニッケル粉末と二酸化マンガン粉末との重量比が20:80〜90:10であることが、初度および高温保存後の放電特性と、強負荷パルス特性とを向上させ、電池短絡時の温度上昇を抑制できることから好ましい。特に、重量比が20:80〜60:40であることが、さらに良好な効果が得られることから好ましい。
本発明におけるオキシ水酸化ニッケルは、本発明の効果を損なわない範囲で、他の追加元素を含む固溶体であってもかまわない。オキシ水酸化ニッケルに含まれ得る原子をMとすると、原子Mを含むオキシ水酸化ニッケルの固溶体とは、オキシ水酸化ニッケルの結晶内に上記原子Mを含むものをいう。具体的には、オキシ水酸化ニッケルの結晶内においてニッケル原子の少なくとも一部が原子Mで置換されている固溶体と、オキシ水酸化ニッケルの結晶内に原子Mが挿入されている固溶体と、のいずれであってもよい。もちろん、上記固溶体は、置換された原子Mと、挿入された原子Mの両方を含んでいても構わない。なおかかるMとしては、例えばマンガン、コバルトおよび亜鉛などが挙げられる。
オキシ水酸化ニッケルを作製するために用いる水酸化ニッケル粉末は、粉末X線回折における(101)面の半値幅が0.6〜0.8deg./2θで、かつ(001)面の半値幅が0.5〜0.7deg./2θである水酸化ニッケル粉末が好ましい。水酸化ニッケル粉末の(101)面の半値幅が0.6deg./2θ以上であることで、次亜塩素酸ナトリウム等による酸化が容易となり、水酸化ニッケル粉末からオキシ水酸化ニッケルを調製する際に、残留物として含まれる水酸化ニッケルの割合が小さくなる。その結果、上記の理由により優れた強負荷放電特性が得られる。また、水酸化ニッケル粉末の(101)面の半値幅が0.8deg./2θ以下であることで、水酸化ニッケル粉末から得られるオキシ水酸化ニッケル粉末の結晶サイズが大きくなる。これにより、強負荷パルス放電の際に、結晶表面全体に放電生成物である水酸化ニッケル層が形成されにくい。よって、強負荷パルス放電時の分極を抑制することができる。
水酸化ニッケル粉末の(001)面の半値幅が0.5deg./2θ以上であることで、粒径8μm以上のオキシ水酸化ニッケル粉末を調製することが容易となる。その結果、上記の理由により良好な放電特性を得ることができる。また、水酸化ニッケル粉末の(001)面の半値幅が0.7deg./2θ以下であることで、正極合剤中の黒鉛等との密着性が向上する。このため、特に電池の保存後の強負荷放電特性が向上する。
水酸化ニッケル粉末は、例えば、以下のようにして得られる。
まず、硫酸ニッケル水溶液と、水酸化ナトリウム水溶液と、アンモニア水溶液とを反応装置内で混合し、懸濁液を得る。懸濁液から、デカンテーションにより沈殿物を分離する。沈殿物にpH13〜14の水酸化ナトリウム水溶液でアルカリ処理を行い、水洗、乾燥を行って、水酸化ニッケル粉末が得られる。
水酸化ニッケル粉末の平均粒径は、例えば、上記工程において、硫酸ニッケル水溶液、水酸化ナトリウム水溶液およびアンモニア水溶液の流量に依存する。また、水酸化ニッケルの(101)面および(001)面の半値幅は、例えば、水酸化ナトリウム水溶液の濃度およびアンモニア水溶液の濃度に依存する。
以下に、本発明のアルカリ乾電池の他の構成要素について説明する。
正極は、例えば、正極活物質である二酸化マンガンと、導電材である黒鉛と、上記のようなカルシウム化合物と、電解液とをミキサーで混合する。その後、一定粒度に整粒したものを、正極合剤とする。さらに、正極合剤を中空円筒状に加圧成形する。こうして得られた正極合剤ペレットを正極として用いることができる。
負極活物質には、従来公知のものを用いることができる。例えば亜鉛、またはビスマス、インジウム、アルミニウム等を含む亜鉛合金を用いることができる。亜鉛または亜鉛合金は、例えばガスアトマイズ法によって得られる亜鉛粉末または亜鉛合金粉末を用いることができる。
電解液には、従来公知のものを用いることができる。例えば、水酸化カリウム水溶液等が挙げられる。例えば水酸化カリウム水溶液の場合、水溶液中に水酸化カリウムが、例えば25〜40重量%含まれていることが好ましい。
また、セパレータにも、従来公知のものを用いることができる。例えば、ポリビニルアルコール繊維およびレーヨン繊維等を混抄した不織布が用いられる。
負極は、例えば、上記のような負極活物質と、電解液と、ゲル化剤とを混合し、従来公知の方法でゲル化することで得られる、ゲル状負極を用いることができる。ゲル化剤には、従来公知のものを用いることができる。例えば、ポリアクリル酸ナトリウムが挙げられる。
ここで、本発明の一実施形態に係るアルカリ乾電池について、図1を参照しながら説明する。図1は、本発明の一実施形態に係るアルカリ乾電池の一部を断面にした正面図である。アルカリ乾電池は、筒状の正極合剤ペレット3と、その中空に充填されたゲル状負極6とを有する。正極と負極との間にはセパレータ4が介在している。正極ケース1の内面は、ニッケルのメッキ層を有し、その上には、黒鉛塗装膜2が形成されている。
アルカリ乾電池は、例えば以下のようにして作製される。まず、正極ケース1の内部に、短筒状の正極合剤ペレット3を複数個挿入し、正極ケース1内において正極合剤ペレット3を再加圧する。これにより正極合剤ペレット3は、正極ケース1の内面に密着する。次に、正極合剤ペレット3の中空にセパレータ4と絶縁キャップ5とを配置する。その後、セパレータ4と正極合剤ペレット3とを湿潤させる目的でアルカリ電解液を中空に注液する。電解液の注液後、セパレータ4の内側にゲル状負極6を充填する。次に、樹脂製封口板7、負極端子を兼ねる底板8および絶縁ワッシャ9と一体化されている負極集電体10をゲル状負極6に差し込む。正極ケース1の開口端部を、樹脂封口体7の端部を介して、底板8の周縁部にかしめつけることにより、正極ケース1の開口部が密閉される。最後に、正極ケース1の外表面を外装ラベル11で被覆することで、アルカリ乾電池が得られる。
以下、本発明の実施例について説明する。本発明の内容は、これらの実施例に限定されるものではない。
《実験例》
図1に示すような単3サイズのアルカリ乾電池を作製した。
(1)水酸化ニッケル粉末の作製
2.4mol/l硫酸ニッケル水溶液、5mol/lの水酸化ナトリウム水溶液、5mol/lのアンモニア水溶液をそれぞれ、反応装置内に供給した。反応装置は内部に攪拌翼を有し、装置内は40℃に保持した。各水溶液の流量を0.5ml/minとし、ポンプを用いて連続的に供給した。反応装置内のpHが一定となり、金属塩濃度と金属水酸化物粒子濃度のバランスが一定となり、定常状態になったところで、オーバーフローにて得られた懸濁液を採取した。この懸濁液から、デカンテーションにより沈殿物を分離した。
分離した沈殿物をpH13〜14の水酸化ナトリウム水溶液でアルカリ処理し、金属水酸化物粒子に含まれる硫酸イオン等のアニオンを除去した。得られたものを水洗し、乾燥した。このようにして、水酸化ニッケル粉末1を得た。得られた水酸化ニッケル粉末1は、レーザー回折式粒度分布計による体積基準の平均粒径が12.3μmであった。作製した水酸化ニッケル粉末の結晶構造を、以下に示す条件の粉末X線回折法により測定した。図2に代表的な水酸化ニッケル粉末の粉末X線回折図を示す。
[測定装置] 理学株式会社製、粉末X線回折装置 「RINT1400」
[対陰極] Cu
[フィルタ] Ni
[管電圧] 40kV
[管電流] 100mA
[サンプリング角度] 0.02deg.
[走査速度] 3.0deg./min.
[発散スリット] 1/2deg.
[散乱スリット] 1/2deg.
水酸化ニッケル粉末1について、CuKα線を用いたX線回折パターンを記録したところ、β−Ni(OH)2型の単相であることが確認できた。2θ=37〜40゜付近に存在する、(101)面に起因するピーク半値幅は0.92deg./2θ、2θ=18〜21゜付近に存在する(001)面に起因するピーク半値幅は0.90deg./2θであった。なお、これらの半値幅は、二次電池の高率充放電特性を重視して水酸化ニッケル粉末の結晶性を制御した場合に有効な値である。
(2)オキシ水酸化ニッケル粉末の作製
上記で作製した水酸化ニッケル粉末に化学酸化処理を行い、オキシ水酸化ニッケルを作製した。具体的には、水酸化ニッケル粉末を0.5mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液中に投入した。さらに、次亜塩素酸ナトリウム水溶液(有効塩素濃度:12wt%)の添加量が酸化剤当量として1.2となるように添加した。これを反応雰囲気温度45℃で3時間攪拌して、水酸化ニッケル粉末1〜10および25〜29に対応するオキシ水酸化ニッケル粉末1〜10および25〜29作製した。得られたオキシ水酸化ニッケル粉末は十分に水洗を行った後、60℃の真空乾燥を行い正極活物質を得た。
オキシ水酸化ニッケル粉末の平均ニッケル価数を以下の(a)および(b)の測定により算出した。
(a)重量法(ジメチルグリオキシム法)によるニッケル重量比率の測定
オキシ水酸化ニッケル粉末0.05gに濃硝酸10cm3を加えて加熱し、オキシ水酸化ニッケル粉末を溶解させた。さらに、酒石酸水溶液10cm3を加えた後、イオン交換水を加えて全量を200cm3に体積調整した混合溶液を得た。混合溶液のpHをアンモニア水および酢酸を用いて調整した後、臭素酸カリウム1gを加えて測定誤差となり得る他の不純物イオンを3価の状態に酸化させた。次に、この溶液を加熱攪拌しながらジメチルグリオキシムのエタノール溶液を添加し、ニッケル(II)イオンをジメチルグリオキシム錯化合物として沈殿させた。続いて吸引濾過を行い、生成した沈殿物を捕集して110℃雰囲気で乾燥させ、沈殿物の重量を測定した。測定した重量を用いて、次式より活物質粉末中に含まれるニッケル重量比率を求めた。
ニッケル重量比率={沈殿物の重量(g)×0.2032}/{正極活物質粉末の試料重量(g)}
(b)酸化還元滴定によるニッケルイオン量の測定
オキシ水酸化ニッケル粉末0.2gにヨウ化カリウム1gと硫酸25cm3を加え、十分に攪拌を続けることで完全に溶解させた。この過程で価数の高いニッケルイオンは、ヨウ化カリウムをヨウ素に酸化し、自身は2価に還元される。20分間放置した後、pH緩衝液としての酢酸−酢酸アンモニウム水溶液と、イオン交換水とを加えて反応を停止させた。生成・遊離したヨウ素を0.1mol/Lのチオ硫酸ナトリウム水溶液で滴定した。このとき得られる滴定量は、上記のような価数が2価よりも大きい金属イオン量(ニッケルイオン量)を反映する。そこで、ニッケルイオン量と、(a)で求めたニッケル重量比率とを用いてオキシ水酸化ニッケル粉末の平均ニッケル価数を求めた。
上記で得られたオキシ水酸化ニッケル粉末、二酸化マンガン粉末、黒鉛および電解液を重量比50:50:6.5:1の割合で混合した。さらにカルシウム化合物として、鉄元素の含有量が21ppmである水酸化カルシウムAを、オキシ水酸化ニッケルと二酸化マンガンの総量に対して5モル%となるように添加した。これをミキサーで均一に混合して一定粒度に整粒し、正極合剤を得た。正極合剤を中空円筒型に加圧成型して得られた正極合剤ペレットを、正極として用いた。また、電解液には40重量%の水酸化カリウム水溶液を用いた。
負極には、ゲル化剤(ポリアクリル酸ナトリウム)と、電解液と、負極活物質とを混合して、従来と同様にゲル化を行って得られたゲル状負極を用いた。また、ビスマス250ppm、インジウム250ppmおよびアルミニウム35ppmを溶融状態の亜鉛に溶解させ、得られた溶解物をアトマイズすることによって得られた亜鉛合金粉末を、負極活物質として用いた。またセパレータには、ポリビニルアルコール繊維およびレーヨン繊維等を混抄した不織布を用いた。
(3)アルカリ乾電池の作製
図1に示す構造を有する単3サイズのアルカリ乾電池を作製した。まず、正極ケース1の内部に、中空円筒状の正極合剤ペレット3を複数個挿入した。これを正極ケース1内において再加圧することで、正極ケース1の内面に密着させた。そして、この正極合剤ペレット3の内側にセパレータ4および絶縁キャップ5を挿入した後、電解液を注液した。注液後、セパレータ4の内側にゲル状負極6を充填した。次に、樹脂製封口板7、負極端子を兼ねる底板8、および絶縁ワッシャ9と一体化された負極集電体10を、ゲル状負極6に差し込んだ。そして正極ケース1の開口端部を樹脂製封口板7の端部を介して底板8の周縁部にかしめつけて、正極ケース1の開口部を密封した。最後に、正極ケース1の外表面に外装ラベル11を被覆し、アルカリ乾電池(電池1)を作製した。
水酸化ナトリウム水溶液濃度およびアンモニア水溶液濃度を変化させたこと以外、水酸化ニッケル粉末1と同様にして、(101)面または(001)面の半値幅の異なる水酸化ニッケル粉末2〜10を作製した。なお、水酸化ニッケル粉末10では、平均粒径6.4μmと細かな粒子しか得られなかった。
また、硫酸ニッケル水溶液、水酸化ナトリウム水溶液およびアンモニア水溶液の流量を変化させたこと以外、水酸化ニッケル粉末4と同様にして平均粒径の異なる水酸化ニッケル粉末25〜29を作製した。
水酸化ニッケル粉末2〜10および25〜29について、水酸化ニッケル粉末1と同様に粉末X線回折装置を用いて測定を行った。測定結果を表1に示す。
次亜塩素酸ナトリウム水溶液(有効塩素濃度:12wt%)の添加量を、酸化剤当量として0.9〜1.4まで変化させたこと以外、オキシ水酸化ニッケル粉末4と同様にしてオキシ水酸化ニッケル粉末30〜32を作製した。
上記で作製したオキシ水酸化ニッケル粉末2〜10および25〜32を用いたこと以外、電池1と同様にして電池2〜10および電池25〜32を作製した。
また、正極合剤にカルシウム化合物を添加しなかったこと以外、電池4と同様にして従来電池2を作製した。
オキシ水酸化ニッケル粉末1と4とを用いて、正極活物質に含まれるオキシ水酸化ニッケル粉末と二酸化マンガン粉末との重量比を変化させたこと以外は、電池1と同様にして電池11〜24を作製した。
また、正極活物質に含まれる二酸化マンガン粉末の割合を100重量%とし、これにカルシウム化合物を添加しなかったこと以外、電池1と同様にして従来電池1を作製した。
正極合剤に、正極活物質の総量に対して0.05〜15モル%の水酸化カルシウムを添加したこと以外、電池4と同様にして電池33〜38を作製した。
正極合剤に、鉄元素の含有量が異なるカルシウム化合物B〜Kを添加したこと以外、電池4と同様にして電池39〜48を作製した。上記で作製した電池の物性、添加量等を表1に示す。また、用いたカルシウム化合物A〜Kの組成および鉄元素の含有量を表2に示す。鉄元素の含有量は、ICP発光分光分析法により測定を行った。
Figure 2007023933
Figure 2007023933
電池1〜38を用いて、初度および60℃で2週間保存後に、20℃で、1Wの定電力で連続放電を行い、電圧が終止電圧0.9Vに至るまでの持続時間を測定し、強負荷放電特性の評価を行った。また、デジタルカメラでの電池実使用を想定した評価として、1.5W2秒−0.65W28秒のパルスを10サイクルとするパルス放電を1時間毎に行い、電圧が1.05Vに至るまでのサイクル数と1.05V時の電圧降下幅(ΔV)を測定した。表1〜7には、電池1の各放電における持続時間を100とし、電池2〜38について各々10個の測定値の平均を示した。
また、電池1〜38について電池を強制的に短絡させて電池温度が上昇した際の電池最高到達温度を熱電対により測定した。表3〜7には、電池1〜38について各々5個の最高到達温度の平均値を示した。ここで、電池の安全性は、短絡時の電池最高到達温度が150℃以下であれば良とした。
Figure 2007023933
正極合剤が水酸化カルシウムを含まない電池は、正極合剤が水酸化カルシウムを含む電池に比べて、各放電特性の伸びが小さく、電池短絡時の電池温度上昇も大きい。また、電池38からわかるように、正極活物質の総量に対する水酸化カルシウムの添加量が10モル%を超えると、電池の初度の強負荷放電特性が低下した。これは、正極合剤に含まれる正極活物質の割合が低くなったためと考えられる。
Figure 2007023933
オキシ水酸化ニッケル粉末の平均ニッケル価数が2.95以上であることで、電池の初度および高温保存後の強負荷放電特性がさらに向上した。これは、オキシ水酸化ニッケルに含まれる水酸化ニッケルの割合が小さくなった結果、水酸化ニッケルによるオキシ水酸化ニッケルの放電の阻害を抑制できたためと考えられる。
Figure 2007023933
平均粒径が8μm〜18μmであることで、電池の初度および高温保存後の強負荷放電特性がさらに向上した。これは、平均粒径が8μm以上であることで、正極合剤の成型性が向上したと考えられる。また、平均粒径が18μm以下であることで、放電末期におけるオキシ水酸化ニッケルの電子伝導性の低下が抑制された。そのため、電池の内部抵抗の増大を抑制できたと考えられる。
Figure 2007023933
オキシ水酸化ニッケルと二酸化マンガンとの重量比を20:80〜90:10とすると、電池の各放電特性が大きく向上させることができるとともに、電池短絡時の電池温度上昇も抑制できた。特に、オキシ水酸化ニッケルと二酸化マンガンとの重量比を20:80〜60:40とすると、電池短絡時の温度上昇をさらに抑制できた。
ここで、種々の水酸化ニッケルから得られたオキシ水酸化ニッケルを含む正極活物質を用いた場合のデータを、上記表1から抽出し、表7にまとめた。
Figure 2007023933
電池4、5、8、9からわかるように、水酸化ニッケル粉末の粉末X線回折における(101)面の半値幅が0.6〜0.8deg./2θで、かつ(001)面の半値幅が0.5〜0.7deg./2θである水酸化ニッケルを用いた場合には、優れた強負荷放電特性を維持しつつ、強負荷パルス放電時の分極が抑制されかつ高温保存後の強負荷放電特性も著しく向上させることができた。さらに、電池4、5、8、9では短絡時の電池温度上昇も抑制することができた。
正極活物質がオキシ水酸化ニッケル粉末を含まない従来電池1と比較すると、電池1および電池11〜17の各電池においても、良好な強負荷連続放電特性およびパルス放電特性が得られた。しかし、これらの電池は、用いた水酸化ニッケル粉末の粉末X線回折における(101)面の半値幅が0.92deg./2θで、かつ(001)面の半値幅が0.90deg./2θであり、前記各放電特性の伸びは小さく、電池短絡時の電池最高到達温度も高い状態であった。
また、電池4および電池39〜48の各電池100個を常温雰囲気下で6ヶ月間保存した後、それぞれの開放電圧を測定し、開放電圧が降下した電池の数量を調べた。結果を表8に示す。
Figure 2007023933
鉄元素の含有量が150ppmを超えるカルシウム化合物C、E、Kを添加した電池40、42、48でのみ、常温保存後の電圧降下が認められる結果となった。
[評価試験(シミュレーション)]
また、正極合剤に添加するカルシウム化合物に含まれる鉄元素が、負極に及ぼす電池特性への影響を、直接負極にカルシウム化合物を添加することで調べた。すなわち、本発明のアルカリ乾電池において、正極が含むカルシウム化合物に含まれる鉄が、乾電池内を移動して負極に到達した場合の影響を、直接負極にカルシウム化合物を添加することにより調べた。
ポリアクリル酸ナトリウム、アルカリ電解液、およびBi250ppm、In250ppm、Al35ppmを含有する亜鉛合金粉末からなるゲル状負極100gに対して、ICP発光分光分析で測定した鉄元素の含有量の異なるカルシウム化合物A〜Kまでをそれぞれを1g添加してよく撹拌した。これら各々のカルシウム化合物を混合したゲル状負極10gをガラス製測定器具に分取し、45℃雰囲気下にて、3日後のガス発生量を測定した。表9にカルシウム化合物の鉄元素の含有量とガス発生量との関係を示す。
Figure 2007023933
表9からわかるように、カルシウム化合物中の鉄元素の含有量が150ppmを超えると、負極からのガス発生量が急激に多くなっていた。
本発明は、初度および高温保存後の放電特性、強負荷放電特性の向上、さらに安全性の向上を必要とするアルカリ乾電池に利用することができる。
本発明の実施例に係るアルカリ電池の一部を断面にした正面図である。 水酸化ニッケル粉末の粉末X線回折図である。
電池1〜38を用いて、初度および60℃で2週間保存後に、20℃で、1Wの定電力で連続放電を行い、電圧が終止電圧0.9Vに至るまでの持続時間を測定し、強負荷放電特性の評価を行った。また、デジタルカメラでの電池実使用を想定した評価として、1.5W2秒−0.65W28秒のパルスを10サイクルとするパルス放電を1時間毎に行い、電圧が1.05Vに至るまでのサイクル数と1.05V時の電圧降下幅(ΔV)を測定した。ΔVとは、閉路電圧が1.05Vに達した1.5W放電の直前の0.65W放電終了時(28秒目)の閉路電圧と、1.05Vとの差である。0.65W放電時より1.5W放電時のほうが電圧降下が早期に起こるため、先に閉路電圧が1.05Vに達するのは1.5W放電のときである。表1〜7には、電池1の各放電における持続時間を100とし、電池2〜38について各々10個の測定値の平均を示した。

Claims (7)

  1. 正極活物質としてオキシ水酸化ニッケル粉末および二酸化マンガン粉末を含み、導電剤として黒鉛を含む正極と;負極活物質として亜鉛または亜鉛合金を含む負極と;前記正極と前記負極との間に配されるセパレータと;前記負極内に挿入される負極集電体と;前記セパレータに含まれるアルカリ水溶液と;前記正極、前記負極、前記セパレータ、前記負極集電体および前記アルカリ水溶液を収容する電池ケースと;前記電池ケースの開口部を封口する封口体と;を具備するアルカリ乾電池であって、
    前記正極が、前記正極活物質の総量の0.1〜10モル%のカルシウム化合物を含み、前記カルシウム化合物における、鉄元素の含有量が150ppm以下であること、を特徴とするアルカリ乾電池。
  2. 前記カルシウム化合物は、酸化カルシウムまたは水酸化カルシウムであること、を特徴とする請求項1記載のアルカリ乾電池。
  3. 前記オキシ水酸化ニッケル粉末は、2.95以上の平均ニッケル価数を有すること、を特徴とする請求項1または2記載のアルカリ乾電池。
  4. 前記オキシ水酸化ニッケル粉末は、8〜18μmの平均粒径を有すること、を特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のアルカリ乾電池。
  5. 前記オキシ水酸化ニッケル粉末と前記二酸化マンガン粉末との重量比が、20:80〜90:10であること、を特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のアルカリ乾電池。
  6. 前記オキシ水酸化ニッケル粉末と前記二酸化マンガン粉末との重量比が、20:80〜60:40であること、を特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のアルカリ乾電池。
  7. 前記オキシ水酸化ニッケル粉末は、粉末X線回折における(101)面の半値幅が0.6〜0.8deg./2θであり、かつ(001)面の半値幅が0.5〜0.7deg./2θである水酸化ニッケル粉末を酸化して得られるものであること、を特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のアルカリ乾電池。
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