JPWO2006092914A1 - 膜電極接合体およびその製造方法、ならびに直接メタノール形燃料電池 - Google Patents

膜電極接合体およびその製造方法、ならびに直接メタノール形燃料電池 Download PDF

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Abstract

【課題】 非フッ素系高分子材料からなる燃料電池用電解質膜における電極の接着性を向上させ、また、電極に添加する高分子電解質を高濃度メタノールに十分に対応でき、電解質膜の特長を十分に引き出し、燃料電池として運転中に電極と膜の剥離が起こらず、生産性が高く直接メタノール形燃料電池に適した安価な燃料電池用膜電極接合体の提供する。【解決手段】 電解質膜が非フッ素系高分子を基材とするもので、電解質膜の両面に積層された電極の内、少なくも片面の電極は、触媒、電解質および非フッ素系熱可塑性高分子とで構成する。

Description

この発明は、電解質膜と電極の接合体およびその製造方法並びに直接メタノール形燃料電池に関するもので、当該膜電極接合体は電気化学装置用、特に燃料電池用として好適なものである。
高分子電解質を用いた電気化学装置の一種である燃料電池は、近年電解質膜や触媒技術の発展により性能の向上が著しく、低公害自動車用電源や高効率発電方法として注目を集めている。この内、高分子電解質膜を用いた燃料電池(以下、「固体高分子形燃料電池」という。)は、電解質膜の表面に酸化、還元触媒を有する反応層を形成した電極を有する構造とされている。
かかる固体高分子形燃料電池は、アノードにおいて、水素分子がプロトンと電子に分解される反応が起き、発生した電子は電線を通って電気部品を作動させてカソード側に運ばれ、カソードにおいては、酸素とプロトンと、アノードから電線を通って運ばれてきた電子から水が生成する。
また、直接メタノール形燃料電池(以下、「DMFC」ともいう。)においては、アノードへメタノールと水が供給され、膜近傍の触媒によってメタノールと水を反応させてプロトンを取り出す。これらの燃料電池には、通常、ポリパーフルオロアルキルスルホン酸膜からなるフッ素系高分子電解質膜が使用される。
しかしながら、ポリパーフルオロアルキルスルホン酸膜には、メタノール形燃料電池等の溶液状燃料を直接電池セルに供給する燃料電池に用いると、メタノール等の燃料が膜を通過してしまいエネルギーロスが生じるという問題がある。さらに、メタノール等の燃料により膨潤して膜面積が大きく変化するため、電極と膜の接合部が剥がれる等の不具合を生じ易く、燃料濃度が上げられないという問題もある。また、フッ素原子を有することで材料自体の価格が高く、製造工程が複雑で生産性が低いため、非常に高価であるという経済的問題もある。
このため、直接メタノール形燃料電池としたときのメタノール透過を抑制し、しかも安価な炭化水素骨格からなる高分子電解質膜が求められ、様々な炭化水素系電解質膜が提案されている。燃料電池関連業界においては、ポリパーフルオロアルキルスルホン酸膜のようなフッ素含有高分子電解質膜に対して、フッ素を含まない高分子から構成される電解質膜を非フッ素系高分子電解質膜、あるいは炭化水素系高分子電解質膜という呼称が広く用いられている。これらの高分子は、高分子を構成する主たる要素として、炭素および水素を有するもので、また、構成中にアミド結合やエステル結合等に起因する窒素や酸素が含まれていてもよいが、基本的に、高分子中にフッ素を有しない、言い換えれば、含有フッ素により、その高分子の特性が変化しないものである。
高分子電解質膜を用いた燃料電池では、通常、電解質膜は、その両面に白金等の触媒を含有する電極を張り合わせた膜電極接合体(以下、「MEA」という。)の形態にして使用される。このMEAにおいては、アノード電極内の触媒で発生したプロトンを膜に移動させるため、また、カソード側では、膜から触媒近傍へプロトンを移動させるための経路を形成する目的で、電極内部にも高分子電解質が配合される。
さらに、このようなMEAにおいては、電極と電解質膜との間でプロトンの受け渡しを行ない易くし、電池の内部抵抗の上昇を抑えるために、電極内の高分子電解質と電解質膜が常に接触しているように構成されている。
フッ素系高分子電解質膜として、ポリパーフルオロアルキルスルホン酸膜を用いて膜電極接合体を作成する場合は、通常、電極内に用いる高分子電解質にも、同じポリパーフルオロアルキルスルホン酸が使用されるが、電極と膜を張り合わせる際に、これらは融合するため、電極と膜との接着性は良好である。
さらに、ポリパーフルオロアルキルスルホン酸は架橋構造をもたないにもかかわらず、吸水状態であっても凝集力が強く、燃料電池内部のように水分の多い環境下でも、電極が剥がれ難いという特長も有している。
一方、非フッ素系高分子電解質は、吸水した状態で凝集力が弱い寒天状となる場合が多く、このような状態では強度が著しく低下するものである。特に、電極内の高分子電解質として非フッ素系高分子電解質を用いると、電極中の高分子電解質が、燃料の水溶液や発電により生じた水によって膨潤するため、強度が著しく低下し、電極が剥がれて発電しなくなる場合がある。このため、電解質膜として、非フッ素系高分子電解質膜を用いる場合であっても、電極には、フッ素系高分子電解質であるポリパーフルオロアルキルスルホン酸が主として用いられている。
上記の理由で、電極内に用いる高分子電解質としては、ポリパーフルオロアルキルスルホン酸を用いる場合が多い。ポリテトラフルオロエチレンに代表されるようにフッ素系高分子は、非フッ素系高分子材料との親和性が低く、難接着材料である。また、ポリパーフルオロアルキルスルホン酸膜と電解質膜に用いている非フッ素系高分子との接着性も悪いため、非フッ素系高分子電解質膜とフッ素系高分子電解質を用いた燃料電池は、運転している内に電極と膜の間が剥離し易いという問題を有している。
さらに、ポリパーフルオロアルキルスルホン酸膜は、DMFCで用いられるメタノールによって膨潤して性能が低下し易く、電解質膜が高濃度メタノールに対応していても、その特長を生かしきれないという問題があった。
このような要求に対し、特開2002−164055号公報(特許文献1)では、水に難溶で、有機溶媒に可溶なイオン交換基含有炭化水素系高分子を、電極用電解質として用いることが提案されている。
このような水に難溶で有機溶媒可溶性の高分子は、イオン交換基濃度を上げると、水に対する溶解性も高くなるため、イオン交換基濃度を上げることができないという問題を有している。
すなわち、イオン交換基が本質的に親水性であるため、水には難溶で、有機溶剤には可溶とであるという性質を維持するためには、イオン交換基の量を増やすことはできない。また、このような条件下で、高分子内に多少の架橋構造を付与することも提案されているが、本質的に、有機溶媒可溶性のものであるため、メタノールと直接接触するメタノール形燃料電池に用いるには問題のあるものである。
また、発明者らは、WO03/075385号公報(特許文献2)において、メタノールを含む有機溶媒および水に対して、実質的に膨潤しない多孔性基材の細孔にプロトン伝導性を有するポリ2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸を充填してなる電解質膜を提案した。
この電解質膜は、DMFCにも適した燃料電池用として好適なものであって、多孔質基材に、安価な非フッ素系プロトン伝導性高分子を充填してなる非フッ素系高分子電解質膜を用い、多孔質基材にポリイミド、架橋ポリエチレン等、外力に対して変形し難い材料を適用することにより、細孔内に充填されたプロトン伝導性高分子は、メタノール水溶液により過度に膨潤することがなく、その結果、メタノールの透過を抑制することができるものである。
さらに、発明者らは、多孔質基材の細孔内部にイオン交換性を有するポリマーを充填させ、かつ多孔質基材の表面を露出させた構造を有する電解質膜、該電解質膜と電極を、多孔質基材の軟化点温度以上で加熱圧着することによる膜電極接合体、さらには、それらからなる燃料電池(特願2004−11482号;特許文献3)を提案した。この提案は、電解質膜を構成する多孔質基材の表面に電解質を存在させずに、多孔質基材の一部を表面に露出させることで、電極との接着性を向上させたものである。
特開2002−164055号 WO03/75385号 特願2004−114822号
この発明はかかる現状に鑑み、上記のような非フッ素系高分子材料からなる燃料電池用電解質膜における電極の接着性をさらに向上させ、また、電極に添加する高分子電解質を高濃度メタノールに十分に対応でき、電解質膜の特長を十分に引き出し、燃料電池として使用中に、電極と膜の剥離が起こらず、生産性が高く直接メタノール形燃料電池に適した安価な燃料電池用膜電極接合体、およびその製造方法、ならびに直接メタノール形燃料電池を提供せんとするものである。
前記目的を達成するため、この発明の請求項1に記載の発明は、非フッ素系高分子を基材とする電解質膜と、この電解質膜の両面に積層される電極とからなるものであって、前記電極は、少なくも一方が、触媒、電解質および非フッ素系熱可塑性高分子から構成されたものであることを特徴とする燃料電池用膜電極接合体である。
また、この発明の請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の燃料電池用膜電極接合体において、前記電極を構成する電解質が、架橋構造を有する不溶性の高分子電解質であることを特徴とするものである。
また、この発明の請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の燃料電池用膜電極接合体において、前記電極を構成する電解質が、非フッ素系高分子電解質であることを特徴とするものである。
また、この発明の請求項4に記載の発明は、請求項1又は2に記載の燃料電池用膜電極接合体において、前記電極を構成する電解質が、アノード側の電極においては非フッ素系高分子電解質、カソード側の電極においてはフッ素系高分子電解質であることを特徴とするものである。
また、この発明の請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれかに記載の燃料電池用膜電極接合体において、前記電極を構成する非フッ素系熱可塑性高分子が、軟化温度が70〜200℃の範囲のものであることを特徴とするものである。
また、この発明の請求項6に記載の発明は、請求項1〜5のいずれかに記載の燃料電池用膜電極接合体において、前記電極を構成する非フッ素系熱可塑性高分子が、ポリオレフィンであることを特徴としたものである。
また、この発明の請求項7に記載の発明は、請求項1に記載の燃料電池用膜電極接合体において、前記電解質膜が、非フッ素系高分子からなら多孔質基材の孔内に高分子電解質を充填したものであることを特徴とするものである。
また、この発明の請求項8に記載の発明は、請求項7に記載の燃料電池用膜電極接合体において、前記電解質膜が、膜表面に基材の一部が露出していることを特徴とするものである。
また、この発明の請求項9に記載の発明は、請求項7又は8に記載の燃料電池用膜電極接合体において、前記非フッ素系高分子が、ポリオレフィンまたは変性ポリオレフィンであることを特徴とするものである。
さらに、この発明の請求項10に記載の発明は、非フッ素系高分子を基材とする電解質膜の少なくとも一方の面に、触媒、電解質および非フッ素系熱可塑性高分子から構成される電極を積層し、加熱圧着により、当該電極を電解質膜に接合することを特徴とする燃料電池用膜電極接合体の製造方法である。
また、この発明の請求項11に記載の発明は、請求項10に記載の燃料電池用膜電極接合体の製造方法において、前記電極を構成する電解質は、架橋剤および触媒の存在下に、イオン交換基含有単量体を重合することにより調製することを特徴とするものである。
さらにまた、この発明の請求項12に記載の発明は、請求項1〜9のいずれかに記載の燃料電池用膜電極接合体を用いたことを特徴とする直接メタノール形燃料電池である。
この発明の燃料電池用膜電極接合体は、非フッ素系高分子電解質膜をMEAに使用する際、電極内に、電解質膜との加熱により軟化することで、電解質膜への接着性を発現する非フッ素系熱可塑性高分子および高分子電解質を共に配合して、それぞれの役割を分担させた膜電極接合体としたもので、電極内部において、電解質成分と接着成分を分けることで、非フッ素系高分子電解質膜の欠点とされていた電極の接着性を向上させ、従来困難であった非フッ素系高分子電解質の電極への利用をも可能としたものである。
また、このMEAにおいて、当該電解質膜の表面に多孔質基材を露出させた電解質膜を用いて、電極の接着性をより強固にしたことにより、長期間にわたって電池性能を維持することができる膜電極接合体としたものである。
さらに、この発明の膜電極接合体は、電極内に配合した熱可塑性高分子によって電極と膜の接着強度を高めることができ、従来の非フッ素系高分子電解質膜で問題となっていた電極の接着性を改善し、電池運転中の湿潤状態においても接着状態が継続され安定した電池性能を発揮させることができるもので、非フッ素系高分子電解質を電極に使用した場合も同様に電極の接着性を維持することができ、フッ素系高分子の使用の削減あるいは全く使用しなくても安定した性能を発揮するものである。
この発明の燃料電池用膜電極接合体は、電解質膜が非フッ素系高分子を基材とするもので、電解質膜の両面に積層される電極の内、少なくも片面の電極は、触媒、電解質および非フッ素系熱可塑性高分子から構成されることを特徴とするものである。
より具体的には、この発明の燃料電池用膜電極接合体は、非フッ素系高分子を基材とする電解質膜の両面に形成する電極のうち、少なくも片面の電極を、触媒、電解質および非フッ素系熱可塑性高分子とで構成するものである。その際、両面の電極を、電解質および非フッ素系熱可塑性高分子とで構成することが好ましいが、片面のみ上記電極にする場合は、アノード側の電極を、触媒、電解質および非フッ素系熱可塑性高分子とで構成することにより、この発明の目的とする効果が得ることができる。
すなわち、非フッ素系熱可塑性高分子を基材とする電解質膜を採用することにより、アノード側からカソード側へのメタノールの透過を十分に抑えることができる。
このような場合、カソード側は、必ずしも高濃度メタノールに対応する必要はないが、上記電極を用いることにより低コスト化を図ることができる。しかしながら、カソード側は、酸化雰囲気に継続してさらされているので、特に厳しい耐酸化性が求められる場合には、フッ素系高分子を選択することもできる。
この発明の燃料電池用膜電極接合体における電極は、触媒、電解質および非フッ素系熱可塑性高分子から構成されるもので、以下にその詳細について説明する。なお、この電極には、上記3成分以外に、他の成分を加えることができるもので、たとえば、撥水性付与の目的で、燃料電池に用いられることが多いPTFEなどのフッ素系高分子などを併用することもできるものである。
電極に使用する触媒は、燃料電池のアノードおよびカソードにおける反応を促進する機能を有し、燃料電池の電極には必須成分である。触媒の種類は、通常燃料電池に用いるものであれば、特に制限無く使用できる。たとえば、白金などの貴金属微粒子を用いることができる。
前記貴金属触媒は、白金黒と言われるもののような、単独で微粒子になっているものをその他の触媒層成分と配合して使用することもできる。また、カーボンブラックなどの導電性を有する担体上へ担持した形態で配合することもできる。
さらに、貴金属触媒は、白金などを単独で使用することもできるが、その他の金属を混合または合金化して併用することもできる。このような例として、白金とルテニウムを併用することは、アノード側で一酸化炭素による触媒の被毒を軽減する目的で広く行われている。
前記非フッ素系熱可塑性高分子は、MEAを作成する際の加熱圧着工程で軟化もしくは溶融するもので、かつ電池を運転する際の温度では溶融しないものが好ましく、電気化学的に安定であるものがより好ましく、ポリオレフィン系高分子のように極性基がほとんどないものは、燃料電池内部の苛酷な環境に長期間耐えることができるので、特に好ましい。
かかる非フッ素系熱可塑性高分子としては、その軟化温度が70〜200℃の温度範囲にあるものが好ましく、さらに好ましいものは温度90〜150℃の範囲にあるものである。軟化温度が70℃未満では、燃料電池の運転温度や電極反応による発熱によって、当該熱可塑性高分子が再軟化・溶融して電池性能が不安定となり好ましくない。また、軟化温度が200℃を超えると、MEA作成時の温度も高温にする必要があるため高分子電解質が劣化しやすくなり好ましくない。なお、軟化温度の測定方法は様々な方法があるが、たとえば。JIS K7206に規定されるビカット軟化温度が挙げられる。
この発明においては、非フッ素系熱可塑性高分子を溶融状態として、電極を貼り合わせることも可能で、より高い接着力を得るためには好ましいが、通常、MEAを作製する場合は加熱と同時に加圧するため、軟化状態でも接着力を得ることができる。
溶融温度、すなわち融点は、軟化温度より高く、一般的な高分子は、軟化温度に対して融点が10ないし20℃程度高いものである。
このような熱可塑性高分子の具体例としては、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、スチレンブタジエン共重合体水添化物、ポリアミド、ポリエステルなどがある。これらは単独で用いても複数を併用してよく、当該熱可塑性高分子を配合する際の形態は特に規定しないが、粉末状もしくは分散液の形態のものが、触媒等と配合して触媒分散液を調製する際の作業性が良好で好ましい。
電極を構成する電解質は、電解質膜の場合と同様、イオン交換基を有する材料で構成され、燃料電池のアノード、カソード両方の電極に使用され、電極内で生成したプロトンなどのイオン性物質を電解質膜へ移動させ、さらに反対側の電極へ移動させるためのイオン伝導パスとして機能するものである。
このような電解質は、通常燃料電池に用いられるものであれば何れも使用できるが、広く用いられているものの例としては、ポリパーフルオロアルキルスルホン酸がある。
このポリパーフルオロアルキルスルホン酸は、通常アルコールなどに溶解させた状態で入手することができ、触媒などの成分と混合して、触媒分散液とし塗布乾燥することにより触媒層を形成するものである。
また、ポリパーフルオロアルキルスルホン酸は、架橋されていない線状の高分子であるが一旦乾燥させると、水などに簡単には溶けにくくなる性質を有しているため、通常、特に架橋させずに用いられる。
この発明では、非フッ素系熱可塑性高分子を併用することによって、従来接着性に問題のあった非フッ素系高分子電解質を、電極用電解質として使用できるようにもするものである。特に、メタノールと接するアノード側の電極においては、非フッ素系高分子電解質の使用が好ましい。カソード側は、酸化雰囲気に晒される場合は、フッ素系高分子電解質の使用の方が好ましい場合もある。使用可能な非フッ素系高分子電解質は、燃料電池に使用可能なものであれば特に限定しないが、非フッ素系高分子電解質は、燃料電池として高い性能を発生させるためにイオン交換基を増やすと、触媒インキを乾燥した後も水に溶解しやすく、燃料電池としての性能を維持することができない。
このため、触媒層内で水に溶解しない状態になるように、架橋構造を有していることが好ましい。このような非フッ素系高分子電解質としては、あらかじめ架橋させたゲル状重合物を粉砕したもの、触媒と未架橋の高分子を混合してから架橋したもの、または触媒とイオン交換基含有単量体と架橋剤を配合し、重合すると共に架橋したものなどが挙げられる。
このうち、触媒とイオン交換基含有単量体と架橋剤を配合した後に、重合と架橋を行なって非フッ素系高分子電解質を得る方法は、イオン交換基含有単量体の分子量が小さく、液状であるために、白金担持カーボンのような触媒の微細な隙間にも浸透し、触媒を有効利用することができるため、好ましい方法である。
このような重合により、非フッ素系高分子電解質を形成する例としては、たとえば、ラジカル重合性単量体を用いて高分子を形成する方法が好ましく使用でき、高分子の構成成分であるイオン交換基含有単量体と燃料電池用触媒、さらには重合開始剤などの成分を混合後、加熱してラジカル重合する方法等によって得ることができる。
イオン交換基含有単量体としては、スルホン酸基含有ビニル化合物またはリン酸基含有ビニル化合物がプロトン伝導性に優れるため好ましい。その例としては、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタリルスルホン酸、2−アクリロイルオキシエチレンリン酸などがあるが、2−メチルプロパン−2−(メタ)アクリルアミドスルホン酸が高い重合性を有し、さらに好ましい。
また、これらの単量体に架橋剤を配合して重合すると、重合した高分子が溶出しにくくなり好ましい。架橋剤として使用可能な化合物は、一分子中に重合可能な官能基を2個以上有するもので、上記の単量体と配合して重合することによって、高分子中に架橋点を形成し、高分子を不溶不融の三次元網目構造とすることができるものである。
架橋剤の具体例としては、N,N’−メチレンビス(メタ)アクリルアミド、N,N’−エチレンビス(メタ)アクリルアミド、N,N’−プロピレンビス(メタ)アクリルアミド、N,N’−ブチレンビス(メタ)アクリルアミド、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジアリルエーテル、ペンタエリスリトールトリアリルエーテル、ジビニルベンゼン、ビスフェノールジ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸ジ(メタ)アクリレート、テトラアリルオキシエタン、トリアリルアミンなどが挙げられる。
この発明においては、使用されるイオン交換基含有重合性単量体と架橋剤の合計量に対して、架橋剤の割合を5〜70質量%の範囲、より好ましくは10〜50質量%にすることが好ましい。架橋剤の割合がこれより少ないと、電極内で高分子電解質が膨潤して体積が大きく変化するために性能にバラツキが生じ、また、燃料やガスの流路を妨げて性能が低下し易くなるため好ましくなく。一方、架橋剤の量がこれより多いと、イオン交換基の量が少なくなりすぎて、発電性能が低下するため好ましくない。
また、架橋性官能基は、炭素炭素二重結合を有するものに限るものではなく、重合反応速度が遅いという点で劣るものの、2官能以上のエポキシ化合物等も使用することができる。エポキシ化合物を使用する場合は、高分子中にアクリル酸等のカルボキシル基含有単量体を共重合させておき、これに由来するカルボキシル基等と反応して架橋させたり、単量体組成物に第三成分として、水酸基等を有する共重合可能な化合物を添加しておいてもよい。これらの架橋剤は、単独で使用することも、必要に応じて2種類以上を併用することも可能である。
この発明において、電極中に使用される非フッ素系高分子電解質の構成成分として、重合体の膨潤性を調整するため等、必要に応じてプロトン酸性基を有しない第三の共重合成分を配合することができる。第三成分としては、この発明で用いるイオン交換基含有単量体および架橋剤と、共重合が可能であれば特に限定しないが、(メタ)アクリル酸エステル類、(メタ)アクリルアミド類、マレイミド類、スチレン類、有機酸ビニル類、アリル化合物、メタリル化合物等が挙げられる。
上記重合手段の中では、重合反応の制御がし易く、比較的簡便なプロセスで、生産性よく、所望の電解質膜が得られる点で、ラジカル重合が望ましい。
ラジカル重合の開始剤としては、アゾビス系、過酸化物系など加熱重合に使用されるものが好ましく使用できる。この発明では、イオン交換基を有する単量体が低分子であるために、触媒粒子の微細な隙間にまで、単量体を浸透させた後に重合させることが可能であり、分子サイズが大きい高分子電解質では浸透し得ない部分の触媒粒子をも働かせることができる。
また、電極用高分子電解質を重合により得る際は、光重合開始剤も使用することができるが、触媒と配合してから重合する場合は、触媒が光を遮るため、重合性が悪く、触媒内部での重合が進行しにくく使用方法が限定される。このような場合は、光重合を行ってから、もしくは重合反応が開始された後で触媒を配合するのがよいが、加熱重合で得られた電極より性能は低くなりがちである。
上記の非フッ素系熱可塑性高分子、高分子電解質、触媒を配合して電極を作製する際の方法は特に限定しないが、たとえば下記のような方法がある。
(1)高分子電解質を構成するイオン交換基含有単量体、架橋剤、必要に応じて重合開始剤、界面活性剤などの添加剤を水や溶剤で溶解させ単量体組成物溶液とする。
(2)触媒と単量体組成物溶液を配合して数日間放置し触媒内部へ単量体を浸透させる。
(3)加熱重合する。
(4)調製された高分子電解質をすりつぶす。
(5)可塑性高分子を配合して攪拌混合し触媒分散液にする。
(6)カーボンペーパーなどの導電性基材に塗布して電極を作製する。
前記(1)〜(6)の工程は一例であって、たとえば(1)で用いられる開始剤は、重合前であれば、どこの工程で混合されてもかまわない。また、(5)で配合される熱可塑性高分子は、最初から単量体組成物溶液に分散させておいてもかまわない。また、触媒内部へ単量体を浸透させるために、加熱したり、超音波を照射してもよい。この場合は、重合開始剤を、その工程以降に加えるとよい。
この発明の電解質膜は、非フッ素系高分子を基材とする電解質膜で、好ましくは熱可塑性高分子からなる多孔質基材の細孔に、電解質を充填して形成されたもので、その表面に多孔質基材の表層が露出したものである。
上記電解質膜に用いる多孔質基材の材質は、特に限定するものではないが、加熱により軟化もしくは溶融する性質を有する材質、特に、熱可塑性高分子が好ましく、メタノールおよび水に対して実質的に膨潤しない材料であることがさらに好ましい。特に、乾燥時に比べて水による湿潤時の面積変化が少ないか、殆んどないことが望ましい。多孔質基材をメタノールまたは水に浸したときの面積増加率は、浸漬時間や温度によって変化するが、この発明では、温度25℃における純水に1時間浸漬したときの面積増加率が、乾燥時に比較して最大でも20%以下であることが好ましい。さらに、多孔質基材が疎水性の表面を有する材料からなるものが好ましい。
このような多孔質基材が、加熱により、軟化もしくは溶融する性質を有する材料からなれば、電極を貼り合せる際に通常行われている熱圧着工程で、軟化もしくは溶融して電極内部の可塑性高分子と一体化してより強固に接着することができる。
その際の軟化温度は、燃料電池を運転する温度により適宜選択することができるが、目的とする燃料電池の運転温度よりも高く選択する必要がある。すなわち、通常、固体高分子形燃料電池が運転される温度範囲を考慮すれば、軟化温度が70℃〜200℃の範囲にあるのが好ましい。より好ましくは温度90〜150℃の範囲である。
軟化温度が低すぎる場合は、燃料電池を運転できる温度が限られ、燃料電池そのものも反応により発熱するため長時間使用することができない。また、軟化温度がこの範囲よりも高い場合は、加圧圧着時の温度によって電解質内のスルホン酸基等の官能基が分解しやすいという問題や、電極内の触媒の作用によって電解質や触媒単体であるカーボンが酸化劣化しやすいという問題があるためいずれも好ましくない。
さらに、この発明で用いる多孔質基材は、疎水性材料から形成されるのが好ましい。疎水性材料を用いることによって、膜と触媒との界面に不要な水が留まり難くなり、燃料電池の運転時に、出力低下の原因となり易いフラッディングと呼ばれる現象を起こし難くなる。
多孔質基材としては、引張り弾性率が500〜5000MPaであるものが好ましく、さらに好ましくは1000〜5000MPaである。また、破断強度が50〜500MPaを有するのが好ましく、さらに好ましくは100〜500MPaである。
これらの範囲を低い方に外れると、充填した高分子のメタノールや水により膨潤しようとする力によって膜が変形し易くなり、高い方に外れると、基材が脆くなり過ぎて、電極接合時のプレス成形や電池に組み込む際の締付け等によって、膜がひび割れたりし易い。また、多孔質基材は、燃料電池を運転する際の温度に対して耐熱性を有するものがよく、外力が加えられても容易に延びないものがよい。
上記のような性質を持つ材料として、ポリオレフィン、ハロゲン化ポリオレフィン、ポリスルホン、ポリフェニレンオキサイド、ポリアミド、ポリエステル等の熱可塑性高分子、ポリオレフィンを放射線の照射や架橋剤を加えて架橋したり、延伸する等の方法で、外力に対して延び等の変形をし難くした変性ポリオレフィンなどの高分子が挙げられる。これらの材料は、単独で用いても2種以上を積層する等の方法で複合化して用いてもよい。
これらの多孔質基材の中では、延伸ポリオレフィン、架橋ポリオレフィン、延伸後架橋されたポリオレフィンからなるものは、入手が容易で充填工程の作業性が良く好ましい。ポリオレフィン類の中では、ポリエチレンを主成分とするものが疎水性、耐久性、入手しやすさ等の点で優れている。
上記のようにして得られる多孔質基材としては、その空孔率が、5〜95%であることが好ましく、さらに好ましくは5〜90%、特に好ましくは20〜80%のものである。また、平均孔径は0.001〜100μmの範囲にあることが好ましく、さらに好ましくは0.01〜1μmの範囲である。空孔率が小さすぎると、面積当たりのイオン交換基が少なすぎて、燃料電池としては出力が低くなり、大きすぎると膜強度が低下し好ましくない。
さらに、基材の厚さは200μm以下が好ましい。より好ましくは1〜150μm、さらに好ましくは5〜100μm、特に好ましくは5〜50μmである。この膜厚が薄すぎると、膜強度が低下しメタノールの透過量も増え、厚すぎると膜抵抗が大きくなりすぎ、燃料電池の出力が低いため、いずれも好ましくない。
電極に熱可塑性高分子を用いると、非フッ素系高分子電解質膜に対する電極接着性は向上するが、電解質膜に用いる材料との組み合わせを最適にすることで、より強固な接着性が得られる。非フッ素系高分子からなる多孔質基材が、ポリエチレンやポリプロピレンのようなポリオレフィンであれば、電極の熱可塑性高分子もポリエチレンなどのポリオレフィンを用いるのが好ましい。
この発明で用いる電解質膜は、非フッ素系高分子電解質膜であれば、電極との接着性向上効果を得ることができるが、使用する電解質膜として、たとえば上述の非フッ素系高分子からなる多孔質基材の細孔内にイオン交換基を有する非フッ素系高分子電解質を充填してなるものが好ましく使用できる。
当該高分子電解質の充填方法は特に限定しないが、高分子電解質を溶液もしくは溶融状態として多孔質基材に含浸させるか、高分子電解質を構成する単量体またはその溶液若しくは分散液を多孔質基材に含浸させ、その後に重合させることによって得ることができる。その際、充填する単量体またはその溶液等には、必要に応じて架橋剤、重合開始剤、触媒、硬化剤、界面活性剤等を含んでいてもよい。また、イオン交換基はあらかじめ単量体に含有していても、充填後にスルホン化等の工程で高分子に導入してもよい。
この発明で、多孔質基材の細孔内に充填するイオン交換性基を有する高分子電解質は、特に限定されず、通常知られているものを使用することができる。たとえば、ラジカル重合により得られる高分子電解質が好ましく使用できる。また、前出の特許文献1,2などに記載されているように、高分子電解質を構成する成分であるイオン交換基含有単量体を多孔質基材に含浸させた後で、紫外線などにより重合する方法等によって得ることができる。
イオン交換基含有単量体のうち、スルホン酸基含有ビニル化合物またはリン酸基含有ビニル化合物がプロトン伝導性に優れるため好ましく、2−メチルプロパン−2−(メタ)アクリルアミドスルホン酸は、高い重合性を有しているので、さらに好ましい。
また、これらの単量体に架橋剤を配合して重合すると、重合した高分子が溶出し難くなり好ましい。架橋剤として使用可能な化合物は、一分子中に重合可能な官能基を2個以上有するもので、上記の単量体と配合して重合することによって、高分子中に架橋点を形成し、高分子を不溶不融の三次元網目構造とすることができる。
その具体例としては、N,N’−メチレンビス(メタ)アクリルアミド、N,N’−エチレンビス(メタ)アクリルアミド、N,N’−プロピレンビス(メタ)アクリルアミド、N,N’−ブチレンビス(メタ)アクリルアミド、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジアリルエーテル、ペンタエリスリトールトリアリルエーテル、ジビニルベンゼン、ビスフェノールジ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸ジ(メタ)アクリレート、テトラアリルオキシエタン、トリアリルアミン、等が挙げられる。
また、架橋性官能基は、炭素炭素二重結合を有するものに限られるものではなく、重合反応速度が遅いという点で劣るものの、2官能以上のエポキシ化合物等も使用することができる。エポキシ化合物を使用する場合は、電極用高分子電解質の場合と同様高分子中のカルボキシル基等の酸と反応して架橋させたり、単量体組成物に第三成分として水酸基等を有する共重合可能な化合物を添加しておいてもよい。これらの架橋剤は、単独で使用することも、必要に応じて2種類以上を併用することも可能である。
上記単量体組成物には、得られる重合体の膨潤性を調整するため等、必要に応じてプロトン酸性基を有しない第三の共重合成分を配合することができる。
第三成分としては、この発明で用いるイオン交換基含有単量体および架橋剤と、共重合が可能であれば特に限定しないが、(メタ)アクリル酸エステル類、(メタ)アクリルアミド類、マレイミド類、スチレン類、有機酸ビニル類、アリル化合物、メタリル化合物等が挙げられる。
上記重合手段の中では、重合反応の制御がし易く、比較的簡便なプロセスで生産性良く所望の電解質膜が得られる点で、紫外線による光開始重合が望ましい。さらに、光開始重合させる場合には、ラジカル系光重合開始剤を、単量体、その溶液または分散液中に予め溶解若しくは分散させておくことがより好ましい。
この発明による電解質膜は、表面に多孔質基材の表層が露出している物が望ましいが、以下に、その製造工程を説明する。
簡単な方法としては、充填をした後で、表面に形成された高分子電解質層を掻きとる方法が使用できる。その際の方法としては、ブラシ、ナイロンたわし等で擦る方法、スクレーパー等で掻きとる等の方法が使用できる。また、その際は、膜を水で湿らせて表面に付着した高分子電解質を膨潤させながら行なうとよい。表面に高分子層が強固に付着している場合は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ性水溶液で湿らせてから掻きとると、容易に取り除くことができるが、後で酸により洗浄し、内部のイオン交換基をプロトン酸型にすることが必要である。
このようにして製造した電解質膜は、固体高分子形燃料電池、特に直接メタノール形燃料電池に好ましく用いることができる。このような燃料電池に電解質膜を用いる際は、白金に代表される触媒を付与した2枚の電極間に、電解質膜を挟んで加熱プレス等によって一体化した電解質膜電極接合体(MEA)とし、燃料電池セルに組み込んで使用することは広く知られている。この発明においても、同様の方法によってMEAを作成し、燃料電池セルに組み込んで使用することができる。
この発明のMEAは、非フッ素系熱可塑性高分子を配合した一対の電極で、上記のような非フッ素系高分子電解質膜を挟んで加熱プレス工程を経て調製されるが、その工程において、電極中の非フッ素熱可塑性高分子は、電極内の触媒のバインダーとして働くだけでなく、非フッ素系高分子電解質膜へ融着して、電極と電解質膜を強固に接着することができるものである。
また、非フッ素熱軟可塑性高分子により接着強度が確保されることにより、従来接着性不足のために困難であった非フッ素系高分子電解質を、電極内へ導入しても電極が剥がれることがなく、安定した電池性能が得られるようになる、と推察される。
<電解質膜製造例1>
2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(東亞合成株式会社製:商品名ATBS)35g、N,N’−エチレンビスアクリルアミド15g、ノニオン性界面活性剤0.005g、紫外線ラジカル発生剤0.005g、水50gからなる単量体組成物水溶液に、基材の架橋ポリエチレン製多孔質膜(厚さ30μm、空孔率37%、平均孔径約0.1μm)を浸漬し、当該水溶液を含浸させた。
ついで、多孔質基材を水溶液から引き上げた後、気泡ができないように厚さ50μmのPETフィルムで挟んだ。つぎに、高圧水銀ランプを用いて紫外線を裏表からそれぞれ1000mJ/cm照射した。
照射後にPETフィルムを剥がして除去し、さらに純水で表面を濡らしながら、樹脂繊維製不織布からなるたわしで表面を擦って、表面に付着した樹脂を取り除き、膜を自然乾燥させ電解質膜を得た。この電解質膜表面に水滴を垂らすと、水を弾いて基材として用いた架橋ポリエチレン製多孔質膜の表面が露出していることが分かった。
この電解質膜のプロトン伝導度は4.1S/cm、メタノール透過流束は0.09kg/(m・h)であった。この電解質膜および比較例3で用いた市販の含フッ素系高分子電解質膜(デュポン社製:ナフィオン117)を、温度25℃のメタノール水溶液中に1時間浸漬し、乾燥状態の膜に対する面積増加率を測定し、図1に示した。
これによると、含フッ素高分子電解質膜が、メタノール濃度が高くなるに従って膨潤による面積変化が激しくなるのに比べ、本製造例1で作製した電解質膜は、濃度依存性が極めて少ないことがわかる。
さらに、表1において、メタノール透過流束を比較しても、本製造例の膜は、含フッ素高分子電解質膜に比べてメタノールの透過が極めて少なく、図1の結果と合わせて燃料に高濃度のメタノールを使用でき得ることが分かる。また、得られた膜は、各実施例比較例の触媒付き電極で挟んで熱プレスしてMEAとし、直接メタノール形燃料電池として評価した。
実施例1
<触媒、フッ素系高分子電解質、非フッ素系熱可塑性高分子よりなる電極使用>
カーボンブラック上に白金とルテニウムを担持した触媒(田中貴金属工業株式会社製:商品名TEC61E54)60g、電解質としてフッ素系高分子電解質5質量%溶液(デュポン製:商品名ナフィオン)を固形分換算で25g、非フッ素系熱可塑性高分子としてビカット軟化点96℃、融点112℃の低密度ポリエチレン粉末(住友精化株式会社製:商品名フローセンUF−1.5)10gを配合し、ボールミルで攪拌混合してアノード用触媒分散液とした。これをカーボンペーパー(東レ株式会社製:TGP−H−060)の片面上へ塗布し乾燥してアノード電極とした。
同様に、カーボンブラック上に白金を担持した触媒(田中貴金属工業株式会社製:TEC10E50E)を使用したこと以外は、アノード側と同様の組成でカソード用触媒分散液を作製した。これをPTFEにより撥水性を付与したカーボンペーパー(東レ株式会社製:TGP−H−060)の片面上へ塗布し乾燥してカソード電極とした。
これらの一対の電極により、電解質膜製造例1で作製した非フッ素系高分子電解質膜を挟み、温度120℃でホットプレスしてMEAを得た。直接メタノール形燃料電池として評価したところ、良好な発電性能を示した。これらの評価結果を表1に纏めた。これとは別に、アノード電極を用いて別途記述した方法により、電極と電解質膜の接着強度を測定し表2に纏めた。比較例と比べ電極と膜の間の接着力が大きく向上したことが分かる。
実施例2
<触媒、フッ素系高分子電解質、非フッ素系熱可塑性高分子よりなる電極使用>
非フッ素系熱可塑性高分子として、ビカット軟化点124℃、融点130℃の球状高密度ポリエチレン粉末(住友精化株式会社製:商品名フロービーズHE−3040)10gを配合し、ホットプレス時の温度を130℃にしたこと以外は、実施例1と同様にしてMEAを得た。
直接メタノール形燃料電池として評価したところ、良好な発電性能を示した。これらの評価結果を表1に纏めた。これとは別に、アノード電極を用いて別途記述した方法により電極と電解質膜の接着強度を測定し表2に纏めた。比較例と比べ電極と膜の間の接着力が大きく向上したことが分かる。
実施例3
<触媒、非フッ素系高分子電解質、非フッ素系熱可塑性高分子よりなる電極使用>
カーボンブラック上に白金とルテニウムを担持した触媒(田中貴金属工業株式会社製:TEC64E)60g、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(東亞合成株式会社製:商品名ATBS)20g、N,N’−エチレンビスアクリルアミド5g、アゾビス系重合開始剤(和光純薬工業株式会社製:商品名V−50)0.3g、水50g、イソプロピルアルコール50g、非フッ素系熱可塑性高分子としてポリエチレン粉末(住友精化株式会社製:商品名フローセンUF−1.5)10gを配合し攪拌した後に、窒素雰囲気下温度60℃で2時間加熱して重合した。これをボールミルで再度攪拌混合し、アノード用触媒分散液とした。
これをカーボンペーパー(東レ株式会社製:TGP−H060)の片面上へ塗布し、乾燥してアノード電極とした。同様に、カーボンブラック上に白金を担持した触媒(田中貴金属工業株式会社製:TEC10E50E)を使用した以外は、アノード側と同様の組成でカソード用触媒分散液を作製した。これをPTFEにより撥水性を付与したカーボンペーパー(東レ株式会社製:TGP−H060)の片面上へ塗布し、乾燥してカソード電極とした。
これらの一対の電極によって、電解質膜製造例1で作製した非フッ素系高分子電解質膜を挟み、温度120℃でホットプレスしてMEAを得た。
直接メタノール形燃料電池として評価したところ、良好な発電性能を示した。これらの評価結果を表2に纏めた。本実施例では、電極に非フッ素系高分子電解質が使用できることを示しており、比較例と比べ電極と膜の間の接着力も高い。
実施例4
<アノードは電解質に非フッ素系高分子、カソード側はフッ素系高分子を使用>
実施例1で作製したカソードと実施例3で作製したアノードを用い、電解質膜作成例1を用いて、温度120℃でホットプレスしてMEAを得た。このMEAは、直接メタノール形燃料電池として評価したところ、良好な発電性能を示した。これらの評価結果を表2に纏めた。10重量%メタノール水溶液を燃料に用いて、長時間発電した場合の性能低下がアノード側にもナフィオンを用いた実施例1より少なかった。本実施例でも電極に非フッ素系高分子電解質が使用できることを示している。特に、アノード側が高濃度メタノールに強い非フッ素系高分子電解質としたことにより、実施例1よりも高濃度での性能が高くなっている。また、使用比較例と比べ電極と膜の間の接着力も高い。
比較例1
非フッ素系熱可塑性高分子の代わりに、PTFE分散液(軟化温度>200℃、融点325℃)を用いたこと以外は、実施例1で作製した物と同様のアノード、カソード電極を作製し、これらの一対の電極で、電解質膜製造例1で作製した非フッ素系高分子電解質膜を挟み、温度120℃でホットプレスしてMEAを得た。直接メタノール形燃料電池として評価したところ、良好な発電性能を示したが、電極の密着性は実施例1の約1/3であった。これらの評価結果を表2に纏めた。
比較例2
非フッ素系熱可塑性高分子の代替には何も使用しないこと以外は、実施例1で作製した物と同様のアノード、カソード電極を作製し、これらの一対の電極で、電解質膜製造例1で作製した非フッ素系高分子電解質膜を挟み、温度120℃でホットプレスしてMEAを得た。
直接メタノール形燃料電池として評価したところ、良好な発電性能を示したが、電極の密着性は極めて低く実施例1の約1/5であった。これらの評価結果を表2に纏めた。
比較例3
比較例1で作製した電極を用い、電解質膜は市販のフッ素系電解質膜(デュポン社製:商品名ナフィオン117)を用いて、温度120℃でホットプレスしてMEAを作製した。DMFCとしての性能を測定したところ、3重量%メタノール水溶液を用いた場合では良好な性能を示したが、10重量%メタノール水溶液では性能が低かった。
これらの評価結果を表1に纏めた。また、使用した電解質膜のプロトン伝導度は3.8S/cm、メタノール透過流束は0.32kg/(m・h)で、電解質膜作成例1,2で作製した非フッ素系高分子電解質膜に比べてメタノール透過量が多く、DMFCとしては燃料ロスが多く好ましくないものであった。また、高濃度メタノール中での電池性能は3%メタノールで運転した場合よりも低く、DMFCの課題の一つである高濃度メタノールによる運転ができないことがわかる。
<評価方法>
(1)プロトン伝導性
温度25℃の純水に1時間浸して膨潤させた電解質膜を、2枚の白金板で挟み込み測定用試料とした。その後、温度25℃で100Hzから40MHzの交流インピーダンス測定を実施して、伝導率を測定した。
伝導率が高いほど、電解質膜中をプロトンが移動し易く、燃料電池用途に優れていることを示す。
(2)メタノール透過性(25℃における浸透実験)
電解質膜をガラス製セルに挟み、一方のセルに10質量%メタノール水溶液を入れ、もう一方のセルに純水を入れた。純水側に浸透するメタノール量を、ガスクロマトグラフ分析により経時的に測定し、定常状態になった時の透過係数を測定した。
透過係数が低いほど、電解質膜中をメタノールが透過し難く、直接メタノール形燃料電池用途に適していることを示す。

(3)メタノール水溶液中での面積変化
温度25℃のメタノール水溶液中に電解質膜を1時間浸漬し、取り出した直後の面積と予め測定しておいた乾燥時の面積を比較し、面積増加率を算出した。乾燥時とは、電解質膜を温度60℃で5時間真空乾燥した直後の状態である。
(4)燃料電池評価
実施例および比較例で作成したMEAを、直接メタノール形燃料電池単セルに組み込んだ際の運転条件は次の通りである。燃料を3重量%および10重量%メタノール水溶液、酸化剤に空気を用い、セル温度は50℃とした。
電子負荷器により負荷を変化させて、電流密度出力特性を測定した。また、長時間運転して寿命を見る場合は、セル温度60℃、負荷0.1A/cmで1日に1回ON、OFFを行うモードで運転した。
(5)電極と膜の接着性
作成した電極の内アノードを電解質膜の片面だけにあわせ、熱プレスして貼り付けた。これを幅1cm、長さ5cmの短冊状に成形し、電極側を幅2cm長さ6cmの硬質プラスチック板の支持体に両面テープで貼り付けた。このようにして作成した試験片を、水中に1時間浸漬した後、膜の一端を少しはがして引っ張り強度試験機にセットし、濡れたままの状態で、引き剥がし速度50mm/minで180度剥離試験を行った。
Figure 2006092914
Figure 2006092914
この発明による工程で作成した膜電極接合体(MEA)を燃料電池に用いると、炭化水素系電解質膜の欠点であった電極との接着性を改善することができ電池性能が安定する。また、高濃度メタノール中での溶出や膨潤などによる変化が起き難いために、メタノール透過が少なく、高濃度メタノール中での過度な膨潤を起こし難い電解質膜と併用することで、従来困難であった高濃度メタノールを燃料として用いることが可能となる。
これらの特徴のため、直接メタノール形燃料電池等の固体高分子形燃料電池用電解質膜として極めて有用である。
電解質膜製造例1および比較例3に用いた市販品のフッ素系電解質膜について濃度の異なるメタノール水溶液中での濃度−面積変化率曲線を示す図である。
符号の説明
なし

Claims (12)

  1. 非フッ素系高分子を基材とする電解質膜と、この電解質膜の両面に積層される電極とからなるものであって、前記電極は、少なくも一方が、触媒、電解質および非フッ素系熱可塑性高分子から構成されたものであることを特徴とする燃料電池用膜電極接合体。
  2. 前記電極を構成する電解質が、架橋構造を有する不溶性の高分子電解質であることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用膜電極接合体。
  3. 前記電極を構成する電解質が、非フッ素系高分子電解質であることを特徴とする請求項1又は2に記載の燃料電池用膜電極接合体。
  4. 前記電極を構成する電解質が、アノード側の電極においては非フッ素系高分子電解質、カソード側の電極においてはフッ素系高分子電解質であることを特徴とする請求項1又は2に記載の燃料電池用膜電極接合体。
  5. 前記電極を構成する非フッ素系熱可塑性高分子が、軟化温度が70〜200℃の範囲のものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の燃料電池用膜電極接合体。
  6. 前記電極を構成する非フッ素系熱可塑性高分子が、ポリオレフィンであることを特徴とした請求項1〜5のいずれかに記載の燃料電池用膜電極接合体。
  7. 前記電解質膜が、非フッ素系高分子からなら多孔質基材の孔内に高分子電解質を充填したものであることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用膜電極接合体。
  8. 前記電解質膜が、膜表面に基材の一部が露出していることを特徴とする請求項7に記載の燃料電池用膜電極接合体。
  9. 前記非フッ素系高分子が、ポリオレフィンまたは変性ポリオレフィンであることを特徴とする請求項7又は8に記載の燃料電池用膜電極接合体。
  10. 非フッ素系高分子を基材とする電解質膜の少なくとも一方の面に、触媒、電解質および非フッ素系熱可塑性高分子から構成される電極を積層し、加熱圧着により、当該電極を電解質膜に接合することを特徴とする燃料電池用膜電極接合体の製造方法。
  11. 前記電極を構成する電解質は、架橋剤および触媒の存在下に、イオン交換基含有単量体を重合することにより調製することを特徴とする請求項10に記載の燃料電池用膜電極接合体の製造方法。
  12. 請求項1〜9のいずれかに記載の燃料電池用膜電極接合体を用いたことを特徴とする直接メタノール形燃料電池。
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