本発明の導波路素子は、コア及びクラッドの一部が流動体であり、流動体以外の部分を流動体に浸けることによって形成することができるので、容易に作製することができる。また、本発明の導波路素子は、比較的屈折率の低い水溶液や空気等をコアの一部として用いることができる。また、本発明の導波路素子は、コアがフォトニック結晶であるので、光制御素子として用いることもできる。ここで、流動体とは、液体又は気体等の、容易に変形し得る材料のことである。
また、本発明の導波路素子の構成においては、前記コアの側面に接している前記クラッドの前記少なくとも一部は、前記屈折率周期性を有する方向に平行な前記コアの少なくとも1つの側面に接しており、前記コア内を伝播する電磁波の進行方向における周期をλZ、前記流動体の屈折率をnF、前記フォトニック結晶である前記コアの周期をa、前記コア内を伝播する電磁波の真空中における波長をλ0とした場合に、
aλZ/(λZ 2/4+a2)0.5<λ0/nF
の条件を満たすのが好ましい。この好ましい例によれば、屈折率周期性を有する方向に対して平行であるコアの少なくとも1つの側面から伝播光が漏れることはないので、伝播損失の低い導波路素子を実現することができる。
また、本発明の導波路素子の構成においては、基板上に複数の平板がそれぞれ等間隔及び平行に、かつ、前記基板に対して垂直に設けられ、前記各平板同士の間及び前記各平板の周りに前記流動体が配置され、前記平板と、前記各平板同士の間に配置された前記流動体とにより前記フォトニック結晶である前記コアが構成され、前記コアの側面に配置されている流動体が、前記クラッドの前記少なくとも一部であるのが好ましい。この好ましい例によれば、平板が設けられた基板を流動体中に浸けるだけで形成することができるので、容易に作製することができる。また、この場合には、前記コア内を伝播する電磁波の進行方向における周期をλZ、前記流動体の屈折率をnF前記フォトニック結晶である前記コアの周期をa、前記コア内を伝播する電磁波の真空中における波長をλ0とした場合に、
aλZ/(λZ 2/4+a2)0.5<λ0/nF
の条件を満たすのが好ましい。この好ましい例によれば、コアの側面のうち、屈折率周期性を有する方向に対して平行で、かつ、流動体であるクラッドに接している面から伝播光が漏れることはないので、伝播損失の低い導波路素子を実現することができる。この場合にはさらに、前記基板の屈折率をnSとした場合に、
aλZ/(λZ 2/4+a2)0.5<λ0/nS
の条件を満たすのが好ましい。この好ましい例によれば、コアの側面のうち、基板に接している面から伝播光が漏れることはないので、伝播損失の低い導波路素子を実現することができる。この場合にはさらに、
λZ<λ0/nF
の条件を満たすのが好ましい。この好ましい例によれば、コアの側面のうち、屈折率周期性を有する方向に対して垂直である面から伝播光が漏れることはないので、伝播損失の低い導波路素子を実現することができる。さらには、前記基板上における前記コアの外側であって前記コアの前記屈折率周期性を有する方向に、さらに複数のクラッド用平板が、それぞれ等間隔及び平行に、かつ、前記基板に対して垂直に設けられ、前記複数の平板の厚さと前記複数のクラッド用平板の厚さとが異なるか、又は、前記各平板同士の間の前記間隔と前記各クラッド用平板同士の間の前記間隔とが異なり、前記各クラッド用平板同士の間及び前記各クラッド用平板の周りに前記流動体が配置され、前記クラッド用平板と前記流動体とが、前記コアに対して、フォトニックバンドギャップによる光の閉じ込めを行うクラッドを構成するのが好ましい。この好ましい例によれば、クラッド用平板と流動体とにより1次元フォトニック結晶が構成され、コアにおけるこの1次元フォトニック結晶側の面から伝播光が漏れることはないので、伝播損失の低い導波路素子を実現することができる。また、平板及びクラッド用平板が設けられた基板を流動体中に浸けるだけで形成することができるので、容易に作製することができる。さらには、前記基板と前記複数の平板との間に、前記基板の主面に対して垂直方向に積層された多層膜が設けられているのが好ましい。この好ましい例によれば、コアの基板側の側面から伝播光が漏れることがないように多層膜を設計することにより、基板に用いる材料を、その材料の屈折率を考慮せずに選択することができる。さらには、前記基板と前記複数の平板との間に、前記基板よりも屈折率の低い材料からなる低屈折率層が設けられ、
前記低屈折率層の屈折率をnSLとした場合に、
aλZ/(λZ 2/4+a2)0.5<λ0/nSL
の条件を満たすのが好ましい。この好ましい例によれば、基板に用いる材料を、その材料の屈折率を考慮せずに選択することができる。
また、本発明の導波路素子の構成においては、ブリルアンゾーン境界上のバンドによる伝播光を前記コア中に生じさせる入力部を備えているのが好ましい。この好ましい例によれば、コア中にブリルアンゾーン境界上のバンドによる伝播光を伝播させることができるので、光遅延素子や光通信における分散補償素子などの光制御素子を実現することができる。また、この場合には、前記ブリルアンゾーン境界上のバンドによる伝播光が、第1バンド又は第2バンドによる伝播光であるのが好ましい。また、この場合には、前記入力部が、周期構造を有しない導波路であるのが好ましい。この場合にはさらに、その主面上に前記フォトニック結晶である前記コアが配置される基板をさらに備え、前記コアの入力側の端面が、前記基板の前記主面に対して垂直であり、かつ、前記コアの周期方向と平行でなく傾斜しているのが好ましい。この好ましい例によれば、簡単な構成で、ブリルアンゾーン境界上のバンドによる伝播光を前記コア中に生じさせる入力部を実現することができる。また、この場合には、前記入力部が、前記コアの周期の2倍の周期を有する位相格子を備えているのが好ましい。この好ましい例によれば、簡単な構成で、ブリルアンゾーン境界上のバンドによる伝播光を前記コア中に生じさせる入力部を実現することができる。
また、本発明の導波路素子の構成においては、ブリルアンゾーンの中心線上もしくはその近傍にあり、かつ、最低次ではないフォトニックバンドの伝播モードの伝播光を前記コア中に生じさせる入力部を備えているのが好ましい。また、この場合には、前記入力部が、周期構造を有しない導波路であるのが好ましい。この場合にはさらに、その主面上に前記フォトニック結晶である前記コアが配置される基板をさらに備え、前記コアの入力側の端面が、前記基板の前記主面に対して垂直であり、かつ、前記コアの周期方向と平行でなく傾斜しているのが好ましい。また、この場合には、前記入力部が、前記コアの周期と同一の周期を有する位相格子を備えているのが好ましい。この好ましい例によれば、簡単な構成で、ブリルアンゾーンの中心線上もしくはその近傍にあり、かつ、最低次ではないフォトニックバンドの伝播モードの伝播光を前記コア中に生じさせる入力部を実現することができる。
また、本発明の光学センサは、大型化せず、簡単な構成であり、高精度の測定が可能である。さらに、本発明の光学センサによれば、導波路を用いた光学センサでありながら、比較的屈折率の低い水溶液や空気等に対しても、高精度の測定を行うことが可能となる。
また、本発明の光学センサの構成においては、前記検知部が、前記導波路部から出射される光の種類、強度、周波数又は位相を検出するのが好ましい。
また、本発明の光学センサの構成においては、前記平板の表面の少なくとも一部に、前記被検物質に含まれる特定の成分と選択的に反応する層が形成されているのが好ましい。この好ましい例によれば、被検物質が特定の成分と反応するか否かや、その反応による変化を検出することができる。
また、本発明の光学センサの構成においては、前記平板の表面の少なくとも一部に、金属膜が形成されているのが好ましい。この好ましい例によれば、当該光学センサをSPRセンサとして機能させることができる。また、この場合には、前記金属膜の表面の少なくとも一部に、前記被検物質に含まれる特定の成分と選択的に反応する層がさらに形成されているのが好ましい。この好ましい例によれば、被検物質が特定の成分と反応するか否かや、その反応による変化をSPRセンサによって検出することができる。
また、本発明の導波路素子の製造方法によれば、一部が流動体によって構成されている導波路素子の当該流動体を固化させることにより、全てが固体からなる導波路素子を容易に作製することができる。
以下、本発明の実施の形態について、図を参照しながら具体的に説明する。
まず、屈折率周期構造を有するフォトニック結晶内の光(電磁波)の伝播について説明する。特に、高次モード光を伝播させる方法について説明する。
図1は、一方向に屈折率周期性を有するフォトニック結晶の電磁波伝播を示す断面図である。図1において、屈折率周期性を有する方向(屈折率周期方向)をY軸方向とし、Y軸方向に対して垂直で、かつ、それぞれ互いに垂直な方向をX軸方向及びZ軸方向とする。フォトニック結晶11は、Y軸方向にのみ屈折率周期性を有する1次元フォトニック結晶である。物質15a及び物質15bがY軸方向に交互に積層されて、多層構造体が形成されている。物質15aの厚さ(Y軸方向の長さ)をtA、物質15aの屈折率をnAとする。また、物質15bの厚さ(Y軸方向の長さ)をtB、物質15bの屈折率をnBとする。フォトニック結晶11は、物質15a及び物質15bが交互に積層された周期aの多層構造体である。尚、周期aは、(tA+tB)である。
図1において、フォトニック結晶11がコアであり、フォトニック結晶11の側面の周りがクラッドとなり、これらコアとクラッドとにより光導波路が構成されている。尚、クラッドについては図示していないが、当該クラッドは、例えば、空気であってもよい。フォトニック結晶11の入射端である、Z軸に対して垂直な端面11aから、真空中における波長がλ0の平面波を入射光12として入射させると、当該入射光12は、伝播光14としてフォトニック結晶11内を伝播する。伝播光14は、入射端とは反対側の出射端である端面11bから出射光13として出射される。伝播光14がフォトニック結晶11内の物質15a及び物質15bの多層膜内をどのように伝播するかは、フォトニックバンドを計算し、それを図示することによって知ることができる。フォトニックバンドのバンド計算の方法は、例えば「Photonic Crystals,Princeton University Press,(1995)」、あるいは、「Physical Review B,1991年,44巻,16号,p.8565」などに詳しく述べられている。
バンド計算に際しては、図1に示すフォトニック結晶11は、Y軸方向(積層方向)には無限に続く周期構造を有し、X軸方向及びZ軸方向(層面の広がる方向)には無限に広がっているものと仮定する。以下、バンド計算によって求められた内容について説明する。このバンド計算は、図1に示すフォトニック結晶11に関するものであるので、バンド計算によって求められた内容については、図1を参照しながら説明する。
図2は、図1に示したフォトニック結晶11のバンド図である。このときのフォトニック結晶11の条件は、以下のとおりである。まず、物質15aは、屈折率nAが2.1011であり、その厚さtAは、周期aを用いて表わすと、tA=0.3aである。また、物質15bは、屈折率nBが1.4578であり、その厚さtBは、周期aを用いて表わすと、tB=0.7aである。このような物質15a及び物質15bを交互に積層した周期aの多層構造体であるフォトニック結晶11の、Y軸方向及びZ軸方向におけるバンド計算の結果を、図2に示している。尚、図2は、TE偏光の第1、第2及び第3バンドについて、第1ブリルアンゾーンの範囲内で示したものである。図2は、規格化周波数ωa/2πcが同じ値となる点を結んだもので、等高線状となっている。以下、この等高線状の線のことを「等周波数線」という。各線の添字は、規格化周波数ωa/2πcの値を表わしている。尚、規格化周波数ωa/2πcは、入射光12の角振動数ω、多層構造体の周期a及び真空中における光速cを用いて表わされている。また、規格化周波数は、入射光12の真空中における波長λ0を用いて、a/λ0と表わすこともできる。以下においては、規格化周波数を簡単にa/λ0と記述する。
図2において、フォトニック結晶11におけるブリルアンゾーンのY軸方向の幅は2π/aであるが、Z軸方向には周期性がないので、横方向(Z軸方向)には、ブリルアンゾーンの境界が存在せず、どこまでも広がっている。尚、TE偏光とは、電場の向きがX軸方向の偏光のことである。また、磁場の向きがX軸方向の偏光であるTM偏光のバンド図は示されていない。TM偏光のバンド図は、TE偏光のバンド図に類似しているが、幾分異なった形状となる。
フォトニック結晶11の端面11aに入射した平面波(入射光12)に対応するフォトニック結晶11内での伝播光14について検討する。
図3は、図1に示したフォトニック結晶11への入射光も含む、光の伝播を説明するためのバンド図である。図3に示すように、作図によってフォトニック結晶11の結合バンドを求めることができる。
図3は、具体的には、図1のフォトニック結晶11の端面11aから、特定の周波数a/λ0の平面波(TE偏光)を、Z軸方向に入射させた場合のバンド図である。尚、後述するように、第2バンドの伝播光は存在しないので、図3においては、第1バンド及び第3バンドのバンド図のみが示されている。また、Z軸に対して垂直な端面11aに接している媒体、すなわち、フォトニック結晶11の周りに存在するクラッドとなる媒体は、その屈折率nが一様な均質媒体である。
図3において、右側がフォトニック結晶11中のバンド図であり、左側がフォトニック結晶11の外側である均質媒体のバンド図である。また、図3において、上段が入射光と第1バンドとの結合を表わし、下段が入射光と第3バンドとの結合を表わしている。入射光12は均質媒体から端面11aに入射しているので、入射光12のバンド図は、均質媒体中でのバンド図となる。
ここで、均質媒体のバンド図は、半径rが下記式で表わされる球(YZ平面においては円)となる。
r=n・(a/λ0)・(2π/a)
尚、上記式の右辺の(2π/a)は、フォトニック結晶11のバンド図に対応させるための係数である。
図3において、第1及び第3バンド上に、規格化周波数a/λ0が入射光12と一致する対応点105及び対応点106があるので、フォトニック結晶11内ではそれぞれのバンドに対応した波動が伝播することになる。尚、図3において、入射光12の波面の方向と周期とは、波数ベクトルである矢印100の向きと長さの逆数とで表わされ、伝播光14の波面の方向と周期とは、同様に、波数ベクトルである矢印103(第1バンド)及び矢印104(第3バンド)の向きと長さの逆数とで表わされる。また、伝播光14の波動エネルギーの進行方向は、各等周波数線の法線方向となり、矢印101及び矢印102で表わされている。このように、いずれのバンドによる伝播光もZ軸方向に進行している。
図3のバンド図をZ軸方向に限定して示したものが図4である。図4においては、横軸が波数ベクトルのZ軸方向成分kzであり、縦軸が規格化周波数である。図4に示すように、フォトニック結晶11の構造によっては、第3バンドの規格化周波数が第2バンドの規格化周波数よりも下回る場合もあり得る。入射光12の真空中における波長がλ0である場合、規格化周波数の値はa/λ0によって決まる。このため、図4に示すように、入射光12の真空中における波長がλ0である場合、フォトニック結晶11内では各バンドに対応する波数ベクトルのZ軸方向成分k1、k3が存在する。すなわち、伝播光14が波長λ1=2π/k1及び波長λ3=2π/k3の波動としてフォトニック結晶11内をZ軸方向に伝播する。尚、第2バンドに対応する波数ベクトルは存在しないので、第2バンドの伝播光は存在しない。
ここで、真空中における光の波長λ0を、フォトニック結晶11内を伝播する場合の光の波長(例えば、λ1、λ3など)で除した数値を、「実効屈折率」と定義する。図4から分かるように、第1バンドにおいては、規格化周波数(縦軸)と波数ベクトルのZ軸方向成分kz(横軸)とがほぼ比例するため、実効屈折率もλ0の変化に対してほとんど不変である。しかし、高次バンド(図4では、第2バンド及び第3バンド)においては、実効屈折率がλ0によって大きく変化し、a/λ0が下限値に近づいた場合には、実効屈折率が1未満になることもある。
また、図4に示すバンド曲線をkzで微分した値(すなわち、接線の傾き)が伝播光14の群速度となることはよく知られている。図4の場合、第2及び第3バンド(高次バンド)においては、a/λ0の値が小さくなるにつれてバンド曲線の接線の傾きは急速に小さくなり、a/λ0が下限値の場合には、バンド曲線の接線の傾きは0となる。これが、フォトニック結晶11に特有の群速度異常である。フォトニック結晶11における群速度異常は、極めて大きく、かつ、通常の均質物質の分散とは逆である(入射光12の波長が長くなるにつれて群速度が遅くなる)。従って、この高次バンド光を利用することができる光導波路は、光遅延素子や光通信における分散補償素子などの光制御素子として用いることができる。このように、高次バンド伝播光を利用する光学素子は非常に有用なものである。しかし、図4から明らかなように、第3バンド光が伝播する場合には、必ず第1バンド光も伝播している。第1バンド伝播光は、上述した「非常に大きい波長分散」、「群速度異常」といった効果をほとんど示さないため、これらの効果を求めて高次バンド伝播光を利用する場合には、単なる損失でしかない。つまり、入射光エネルギーの利用効率を大きく低下させ、さらには、迷光として光学素子のS/N比を低下させる。
ここで、本発明者らの研究により、「周期aの多層膜層(1次元フォトニック結晶)に対して、同じ方向に周期aを有する適当な位相変調波を入射させると、特定の高次バンドに属する伝播光のみを得ることができる」ということが明らかになっている。これにより、特定の高次フォトニックバンドに属する波動のみを伝播させることができる。また、その他にも、フォトニック結晶中に高次バンド伝播光のみを伝播させる方法については、本発明者らが明らかにしている(例えば、特開2003−215362号公報及び特開2003−287633号公報参照)。
さらに、本発明者らの研究により、「フォトニック結晶中の伝播光をブリルアンゾーン境界上のバンドと結合させることによって、第1バンドを含む全てのバンドが、高次バンドと同様な変化を呈する」ということが分かっている。これにより、損失をもたらすバンド光を無くすことができ、従って、有益な光学素子を作製することができる。
また、光路を逆方向に折り返して考えると、高次バンド伝播光である伝播光14がフォトニック結晶11の端面11b(図1参照)から出射された後に、その出射光13を適当な位相変調手段によって平面波に戻すことができることも容易に理解することができる。
以下、フォトニック結晶中の伝播光をブリルアンゾーン境界上のバンドと結合させるための方法について説明する。まず、フォトニック結晶の入射側端面に対して、入射光を入射角θで斜め入射させることにより、フォトニック結晶中の伝播光をブリルアンゾーン境界上のバンドと結合させる方法について説明する。図5は、1次元フォトニック結晶への入射光を、入射側端面に対して入射角θの斜め入射とした場合のバンド図である。ここで、1次元フォトニック結晶は、図1に示したフォトニック結晶11とする。尚、入射角θは、入射側端面11aに対して垂直な方向つまりZ軸方向と入射光の進行方向とのなす角度である。また、入射光の傾きは、YZ平面内に限られるものとする。また、フォトニック結晶11の入射側端面11aは、Z軸に対して垂直である。
図5に示すバンド図において、フォトニック結晶11内を伝播する伝播光の進行方向は、等周波数線の法線方向となる。図5から分かるように、フォトニック結晶11内を伝播する伝播光の方向は、第1バンドと第2バンドとで異なるために2種類となり、どちらもZ軸方向とはならない。
図5のバンド図について、具体的に説明する。第1及び第2バンド上には、規格化周波数a/λ0が入射光と一致する対応点115及び対応点116があるので、フォトニック結晶11内ではそれぞれのバンドに対応した波動が伝播することになる。入射光の波数ベクトルは矢印110であり、伝播光の波数ベクトルは矢印113(第1バンド)及び矢印114(第2バンド)である。また、伝播光の第1バンドのエネルギー進行方向は矢印111で、伝播光の第2バンドのエネルギー進行方向は矢印112で表わすことができる。
次に、第1バンド及び第2バンドの伝播光がともにZ軸方向に伝播する場合について説明する。図6は、第1バンド及び第2バンドと入射光とがブリルアンゾーン境界上で結合する場合の1次元フォトニック結晶のバンド図である。このような伝播を実現するためには、具体的には、入射角θを下記式(1)の条件を満たすように設定する。ここで、1次元フォトニック結晶は、図1に示したフォトニック結晶11とする。尚、フォトニック結晶11の入射側端面11aが光の伝播方向であるZ軸方向に対して垂直であるので、「入射角θで入射する」とは、Z軸方向に対して角度θ傾いた光が入射することである。
n・sinθ・(a/λ0)=±0.5 (1)
上記(1)式中、nは、フォトニック結晶11の端面11aに接する媒体、すなわち、フォトニック結晶11の周りに存在するクラッドとなる媒体の屈折率である。
上記式(1)の条件を満たす入射角θでフォトニック結晶11に対して入射光12を入射させると、図6から分かるように、ブリルアンゾーン境界127上に第1及び第2の伝播バンドが存在する。図6において、入射光の波数ベクトルは矢印120で表わされ、フォトニック結晶中11の伝播光のエネルギー進行方向は矢印121(第1バンド)及び矢印122(第2バンド)で表わされている。また、ブリルアンゾーン境界127上には、第1及び第2バンド上の規格化周波数a/λ0が入射光と一致するそれぞれの対応点125、126がある。伝播光の波数ベクトルは、矢印123(第1バンド)及び矢印124(第2バンド)である。
ブリルアンゾーン境界127での対称性より、波動エネルギーの進行方向はZ軸方向に一致しているので、伝播光はZ軸方向に進行する。ここで、Z軸方向への伝播を実現するための入射角θが満たす条件は、ブリルアンゾーンのY軸方向の周期性を考慮して、例えば、
n・sinθ・(a/λ0)=±1.0,±1.5,±2.0,・・・
としてもよいが、右辺の値(絶対値)が増加するにつれて、n及びθを大きい値とする必要があるので、実現が難しくなる。
図6のブリルアンゾーン境界上のバンド図を、Z軸方向に限定して示したバンド図が図7である。図7において、横軸及び縦軸は図4と同じである。図7から分かるように、ブリルアンゾーン境界上においては、第1バンドを含む全てのバンドが、図4に示した高次バンドと同様な変化を呈する。つまり、全てのバンドにおいて、「実効屈折率の波長による大きな変化」や「群速度異常」が起こっている。従って、ブリルアンゾーン境界上のバンドによる伝播を実現する導波路は、低損失で上記特性を示す光を伝播させることができるので、光制御素子等に応用することができる。このような、「ブリルアンゾーン境界上における伝播」を実現する方法は、いくつか明らかになっており、以下、それらについて説明する。
ブリルアンゾーン境界における伝播を実現する第1の方法(斜め入射による複数バンド伝播による方法)については、すでに説明した(上記参照)。上記したブリルアンゾーン境界における伝播を実現する第1の方法は、入射光(平面波)を傾けてフォトニック結晶に入射させるだけであるので、簡単に実現することができる。この第1の方法により、「実効屈折率の波長による大きな変化」や「群速度異常」といった現象を生じさせることができる。また、「第1バンドと第2バンドとの両方が存在する周波数域」は広いので、入射角θと屈折率nを、実施しやすい範囲に選ぶことができる。また、規格化周波数a/λ0の値を大きくすれば、第3バンド以上の高次バンドによる伝播光も加えることができる。
この第1の方法においては、2種類もしくはそれ以上のバンドによる伝播光が混合する。以下、この場合の伝播光の伝播形状について説明する。
図6、図7に示すようなバンド図となる、第1バンド及び第2バンドの両方が存在する周波数域の光を、上記式(1)、すなわち、
n・sinθ・(a/λ0)=±0.5
の条件を満たす入射角θでフォトニック結晶11に入射させれば、高次バンドの特徴を呈する第1バンド及び第2バンドによる伝播を重ね合わせた波動を得ることができる。この現象について、図8〜図10を用いて説明する。図8は、1次元フォトニック結晶のブリルアンゾーン境界上の第1バンドによる伝播形状を模式的に示した断面図である。図9は、1次元フォトニック結晶のブリルアンゾーン境界上の第2バンドによる伝播形状を模式的に示した断面図である。図10は、1次元フォトニック結晶のブリルアンゾーン境界上の第1バンド及び第2バンドによる伝播形状を模式的に示した断面図である。
具体的には、図8は、上記式(1)の条件を満たす入射角θで、図1に示したフォトニック結晶11に端面11aから入射した入射光130の、第1バンドによる伝播形状のみを模式的に表わしている。また、図9は、上記式(1)の条件を満たす入射角θでフォトニック結晶11に端面11aから入射した入射光130の、第2バンドによる伝播形状のみを模式的に表わしている。図10は、これらを重ね合わせたものであり、フォトニック結晶11に端面11aから、第1バンド及び第2バンドの両方が存在する周波数域の光を、上記式(1)の条件を満たす入射角θで入射させた場合の、伝播形状を模式的に表わしている。図8、図9には、伝播光の山131(電場の振幅がプラス側の極大となる位置)及び谷132(電場の振幅がマイナス側の極大となる位置)がそれぞれ示されている。図8〜図10におけるフォトニック結晶11は、図1に示したものと同じであり、物質15a及び物質15bが交互に積層されて構成されている。
第1バンドによる伝播光は、高屈折率層(例えば、物質15a)を腹、低屈折率層(例えば、物質15b)を節としている(図8参照)。ここで、隣接する高屈折率層(物質15a)間では位相が半周期ずれている。
また、第2バンドによる伝播光は、低屈折率層(物質15b)を腹、高屈折率層(物質15a)を節とし、周期は第1バンドによる伝播光の場合よりも長い(図9参照)。ここで、隣接する低屈折率層(物質15b)間では位相が半周期ずれている。
図10は、図8と図9を重ねて電場のピークを線で繋いだものである。図10において、実線で繋いだ個所が伝播光の山133であり、破線で繋いだ個所が伝播光の谷134であり、フォトニック結晶11中には、山と谷のラインがジグザグ状に並ぶ電場パターンが生じている。このように、フォトニック結晶11に端面11aから、第1バンド及び第2バンドの両方が存在する周波数域の光を、上記式(1)の条件を満たす入射角θで入射させると、それらの伝播光が混合して、図10に示すようなパターンの光となる。
ここで、異なるバンドによる伝播光は、フォトニック結晶11内での波長や群速度が異なる。第1の方法では、2種類もしくはそれ以上のバンドによる伝播光が混合するので、波長や群速度が単一であることが必要な素子の場合には、これが大きな支障となる。従って、この第1の方法(斜め入射による複数バンド伝播による方法)は、「伝播光の群速度が遅くなって非線型作用が大きくなるだけでよい」といった用途に特に好適である。
次に、ブリルアンゾーン境界における伝播を実現する第2の方法(斜め入射による第1バンドの単独の伝播による方法)について説明する。
図11は、ブリルアンゾーン境界における伝播を実現する第2の方法を説明するためのバンド図である。図11は、例えば、図1に示すフォトニック結晶11に、上記式(1)の条件を満たす入射角θで、第1バンドのみが存在する周波数域の光を入射させる場合のバンド図である。図11においては、ブリルアンゾーン境界144上に第1バンドのみが存在し、それ以外のバンドは存在していない。図11において、矢印140は入射光の波数ベクトルであり、矢印142は伝播光の波数ベクトルである。また、矢印141はエネルギー進行方向であり、ブリルアンゾーン境界144上には、第1バンド上の規格化周波数が入射光と一致する対応点143がある。
図11に示すように、第1バンドの伝播光のみが存在する周波数域において、上記式(1)の条件を満たすように入射角θを設定すれば、単一のバンドによる伝播を得ることができる。
このような条件において、フォトニック結晶内を伝播する伝播光は、図8に示すような伝播形状となる。また、フォトニック結晶内を伝播する伝播光は、第1バンドの伝播であるにもかかわらず、高次の伝播の特徴を備えている。
第2の方法(斜め入射による第1バンドの単独の伝播による方法)は、入射光(平面波)を傾けてフォトニック結晶に入射させるだけであるので、上記第1の方法と同様に、簡単に実現することができる。しかし、「第1バンドのみが存在する周波数域」は、a/λ0の値が小さいので、入射角θと屈折率nをともに大きくする必要があり、従って、フォトニック結晶の端面での反射率が相当大きくなって損失が増える点が問題となる。
次に、ブリルアンゾーン境界における伝播を実現する第3の方法(平面波の干渉による入射光の位相変調)について説明する。
図12は、ブリルアンゾーン境界における伝播を実現する第3の方法を説明するための1次元フォトニック結晶の断面図である。図12におけるフォトニック結晶11は、図1に示したものと同じである。
図12に示すように、同一波長の平面波153、154をそれぞれ交差させて、フォトニック結晶11に入射させる。これらの平面波153、154は、上記式(1)の条件を満たすそれぞれの入射角±θでフォトニック結晶11に入射される。図12において、平面波153、154のうち、実線で示しているのはそれぞれ電場の山153a、154aの部分であり、破線で示しているのはそれぞれ電場の谷153b、154bの部分である。
このような、入射角がそれぞれ±θであり、互いに交差する平面波153、154をフォトニック結晶11に入射させることにより、フォトニック結晶11の入射側端面11aには、2つの平面波153、154の干渉によってY軸方向に節と腹のある電場パターンが形成される。そこで、腹の部分に高屈折率層(物質15a)がくるようにフォトニック結晶11を配置する。尚、伝播光の山151と谷152とが図示されている。これにより、第1バンドによる伝播光のみが発生する。また、腹の部分に低屈折率層(物質15b)がくるようにフォトニック結晶11を配置すれば、第2バンドによる伝播光のみが発生する。
次に、ブリルアンゾーン境界における伝播を実現する第4の方法(周期2aの位相格子による入射光の位相変調)について説明する。図13は、ブリルアンゾーン境界における伝播を実現する第4の方法を説明するための1次元フォトニック結晶の断面図である。尚、図13における1次元フォトニック結晶11は、図1に示したものと同じである。
図13に示すように、第4の方法においては、フォトニック結晶11の入射側端面11a及び出射側端面11bに接触又は近接させて、フォトニック結晶11の屈折率周期aの2倍の屈折率周期(2a)を有する位相格子166a、166bが配置される。このとき、位相格子166a、166bの入射端及び出射端は、伝播方向(Z軸方向)に対して垂直である。この位相格子166aに垂直に平面波である入射光167aを入射させれば、+1次回折光と−1次回折光との干渉により、図12に示した、第3の方法(平面波の干渉による入射光の位相変調)の場合と同様の、節と腹のある電場パターンを形成することができる。すなわち、平面波である入射光167aは、位相格子166aを通過することにより、図12の平面波153、154と同様の光168aとなる。つまり、上記式(1)の条件を満たす入射角で交差する2つの同一波長の平面波が生じる。そこで、腹の部分に高屈折率層がくるようにフォトニック結晶11を配置すれば、第1バンドによる伝播光のみが発生する。また、腹の部分に低屈折率層がくるようにフォトニック結晶11を配置すれば、第2バンドによる伝播光のみが発生する。
位相格子166aによる0次光や2次以上の回折光は、フォトニック結晶の特定のバンドと結合することはできないので、+1次回折光と−1次回折光がともに50%の回折効率となるのが理想的である。従って、位相格子166aは、±1次回折光ができるだけ強くなるように最適化された形状であるのが望ましい。
また、特定の波長で最適化された位相格子は、波長が多少変わっても、1次回折光の効率は急激には低下せず、高いレベルに留まる。そのため、第4の方法(周期2aの位相格子による入射光の位相変調)によれば、使用できる波長域を他の方法の場合よりも広くとることができる。また、フォトニック結晶11の出射側端面11b側に、位相格子166aと同じ周期の位相格子166bを配置することにより、フォトニック結晶11から出射された光168bを平面波である出射光167bに変換することができる。
尚、第4の方法においては、位相格子として、フォトニック結晶11の屈折率周期aの2倍の屈折率周期(2a)を有する位相格子166a、166bを用いているが、フォトニック結晶11の屈折率周期aと同じ屈折率周期を有する位相格子を用いてもよい。この場合には、ブリルアンゾーン中央における高次バンドによる伝播となる。また、屈折率周期aの位相格子を用いる場合の条件については、例えば、特開2003−215362号公報に開示されている。
次に、ブリルアンゾーン境界における伝播を実現する第5の方法(斜め入射側端面の利用)について説明する。図14は、ブリルアンゾーン境界における伝播を実現する第5の方法を説明するための斜めの入射側端面を有するフォトニック結晶の電磁波伝播を示す断面図である。図14において、屈折率周期性を有する方向(屈折率周期方向)をY軸方向とし、Y軸方向に対して垂直で、かつ、それぞれ互いに垂直な方向をX軸方向及びZ軸方向とする。また、図15は、ブリルアンゾーン境界における伝播を実現する第5の方法を説明するためのバンド図である。図15のバンド図は、第1バンドを示しており、また、第1ブリルアンゾーン、第2ブリルアンゾーン及び第3ブリルアンゾーンを示している。
図14に示すように、入射側端面171aが斜めのフォトニック結晶171は、物質173a及び物質173bがY軸方向に交互に積層されて構成されている。入射側端面171aは、伝播光174の伝播方向であるZ軸方向に対して角度αだけ傾斜している。この端面171aに対して入射角θで入射光172が入射する。入射角θは、端面171aに対して垂直な方向(法線方向)と入射光172の進行方向とのなす角度である。尚、前記各角度は、YZ平面内に限られるものとする。フォトニック結晶171中において、伝播光174はZ軸方向に伝播する。
図15は、入射側端面171aが斜めのフォトニック結晶171を光が伝播している場合のバンド図であり、図15から、斜めの入射側端面171aを有するフォトニック結晶171においてブリルアンゾーン境界170上での伝播が可能であることが分かる。
図15において、入射光172の波数ベクトルは矢印175で表わされている。また、ブリルアンゾーン境界170上には、第1バンド上の規格化周波数a/λ0が入射光172と一致する対応点176がある。伝播光174のエネルギー進行方向は矢印177である。また、対応点176は、入射側端面171aを表わす線178の法線179上にある。
端面171aが伝播光174の伝播方向に対して傾斜しているフォトニック結晶171において、図15に示すように角度α及び入射角θを調整することにより、ブリルアンゾーン境界170上での伝播が可能となる。
以上説明した第1〜第5の方法により、1次元フォトニック結晶において、ブリルアンゾーン境界における伝播を実現することができる。そして、これにより、1次元フォトニック結晶内に高次バンド伝播光を効率良く生じさせることができる。尚、ブリルアンゾーン境界上の伝播を用いることにより、第1バンドを含む全てのバンドが高次バンドと同様な特性を示す。さらに、ブリルアンゾーン境界上の各バンドによる伝播光をそれぞれ単一で伝播させることも可能である。また、このように、フォトニック結晶内を伝播する光が、フォトニック結晶のZ軸に対して垂直な出射側端面から均質媒体中に出射される場合には、著しい回折が生じるために平面波としては出射されず、取り扱いが困難となる。そこで、第4の方法でフォトニック結晶の入射側端面に用いた位相格子と同様の位相格子を出射側端面にも配置したり、第5の方法でフォトニック結晶の入射側端面を斜めの入射側端面としたように、出射側端面を斜めの出射側端面としたりすればよい。これにより、入射光である平面波を、フォトニック結晶内ではブリルアンゾーン境界における伝播光としたのとは逆に、フォトニック結晶からの出射光を平面波に戻すことができる。つまり、フォトニック結晶から平面波を取り出すことができる。出射光を平面波とすることにより、光ファイバなどとの結合が容易となる。
次に、これらの方法を実現する光学素子である、フォトニック結晶を用いた導波路素子の構成例について説明する。例えば、図16に模式的に示すような導波路素子の構成を用いれば、光ファイバとの結合などが容易になるので望ましい。図16は、1次元フォトニック結晶を用いた導波路素子の一構成例を示す斜視図である。図16に示す導波路素子180においては、適当な基板181上に、図1に示した、一方向に屈折率周期性を有する1次元フォトニック結晶11が設けられている。図16において、XZ平面に平行な方向の伝播モードを減らして単一モード化するためには、1次元フォトニック結晶11は線状導波路に加工されているのが望ましい。このフォトニック結晶11の両端には、上記第4の方法で示した位相変調部である位相格子166a、166bが設けられている。さらに、位相格子166aに平面波である入射光167aを入射させるロッドレンズ182a等の入射手段が設けられている。このロッドレンズ182aにより、位相格子166aの端面に入射光167aが集光される。このような構成とすることにより、位相格子166aに対して、光を垂直入射させることができる。そして、位相格子166aとフォトニック結晶11との関係を、上記第4の方法で示した構成とすることにより、フォトニック結晶11において、ブリルアンゾーン境界における伝播が実現される。これにより、「非常に大きい波長分散」、「群速度異常」などを生じさせることができる。フォトニック結晶11内を伝播した伝播光は、位相格子166bで平面波に変換された後、ロッドレンズ182bに結合し、ロッドレンズ182b中を出射光167bが伝播していく。従って、導波路素子180は、光遅延素子や光通信における分散補償素子などの光制御素子として用いることができる。尚、ブリルアンゾーン境界における伝播が実現される導波路素子は、図16に示した構成に限定されるものではなく、様々な構成が考えられる。
このように、1次元フォトニック結晶をコアとする導波路素子を構成する場合には、クラッドを設けて、上下方向(Y軸方向)及び左右方向(X軸方向)の十分な光の閉じ込めを行うのが望ましい。光の閉じ込めが十分でない場合には、伝播光がフォトニック結晶から漏れてしまう。尚、特にクラッドを設けなくても、フォトニック結晶の周りに存在している媒体(例えば、空気)をクラッドとして機能させることもできる。以下、1次元フォトニック結晶における光の閉じ込めについて説明する。
まず、図1に示す1次元フォトニック結晶11を参照しながら、屈折率周期方向である上下方向(Y軸方向)の光の閉じ込めについて説明する。尚、上下方向の光の閉じ込め条件とは、フォトニック結晶11のXZ平面と平行な面からの光の漏れをなくすための条件のことである。図17は、1次元フォトニック結晶中の伝播光のYZ平面における第1バンドを示すバンド図である。つまり、図17は、X座標が0であるYZ平面上の第1バンドを示している。尚、図17の等周波数線191は、伝播光14の規格化周波数a/λ0に対応するものである。
等周波数線191上の点(0,ky,kz)による伝播光14の波数ベクトルKは、
K=(0,ky,kz)
と表わすことができる。また、フォトニック結晶11中に生じる伝播光14の波面は、波数ベクトルKと垂直である。この伝播光14の波長λkは、2πを波数ベクトルKの大きさで除することによって求めることができる。波数ベクトルKの大きさは、図17を参照して、三平方の定理を用いて求めることができる。波数ベクトルKの波長λk及び方向角ψは、図17を参照して、容易に求めることができる。すなわち、
λk=2π/|K|=2π/(ky2+kz2)0.5 (2)
tanψ=ky/kz (3)
と表わすことができる。
フォトニック結晶11について、コア部分の構成と層数を示す図18を用いてさらに詳細に説明する。ここで、フォトニック結晶11の最下層及び最上層が高屈折率層(例えば、物質15a)であるとし、物質15aの層数を(m+1)とすると、物質15b(低屈折率層)の層数はmである(mは正の整数)。
コア部分であるフォトニック結晶11内を伝播する波動の位相整合条件は、
2A|K|sinψ=Φ+πN(N=0,1,2,3,・・・) (4)
と表わすことができる。但し、2Aはコアの厚さである(國分泰雄著「光波工学」共立出版48頁参照)。
上記式(4)において、Φはコアとクラッドとの界面での位相変化量であるが、ブリルアンゾーン境界での第1バンドの伝播光においては、高屈折率層(物質15a)の中心に電場の腹がくるので(図8参照)、
Φ=0 (5)
である。
また、コアの厚さ2Aとは、図18に示しているように、Y軸方向における、フォトニック結晶11の、最上層の中間部と最下層の中間部との間の距離であるので、
2A=ma (6)
と単純化することができる。
上記式(4)に、上記式(2)、式(3)、式(5)及び式(6)式を代入して整理すると、下記式(7)が得られる。
ky=πN/ma (7)
上記式(7)の条件を満たすバンド上の点が、位相整合条件を満たす伝播光、すなわち、モードとなる。図19は、図17に示したYZ平面における第1バンドのバンド図に、さらにモードを記入したバンド図である。等周波数線191におけるモードとしては、N=0の場合に対応する0次モードからN=mに対応するm次モードまで存在する。尚、図19においては、N=m,m−1,1,0の場合のみ図示している。
図19から分かるように、ブリルアンゾーン中心線192上の伝播光は0次モードであり、ブリルアンゾーン境界193上の伝播光はm次モードである。
図20は、図19に示したバンド図に、モードを記入した第2バンドをさらに記載したバンド図である。図20には、第1バンドの等周波数線191と第2バンドの等周波数線194とが示されている。規格化周波数a/λ0に対応する第2バンドが存在する場合、フォトニック結晶11の最下層及び最上層が低屈折率層であるとし、低屈折率層の層数を(m+1)とすると、第2バンドにはm個のモードが存在する。
通常の単一モード光導波路の場合には、第1バンドにおける0次モード(N=0)のみを伝播させるが、フォトニック結晶11においては、上述したようにブリルアンゾーン境界上のm次モードを伝播させることができる。そのため、m次モードのZ軸方向における実効屈折率が、フォトニック結晶11の上下方向(Y軸方向)に接して設けられたクラッドである媒体の屈折率よりも大きい場合には、その屈折率差により、フォトニック結晶11内に光が閉じ込められる。しかし、m次モードのZ軸方向における実効屈折率が、フォトニック結晶11の上下方向(Y軸方向)に接して設けられたクラッドである媒体の屈折率よりも小さい場合には、その屈折率差により、伝播光がクラッドである媒体側に漏れてしまう。特に、Z軸方向における光の実効屈折率が1未満になると、クラッドである媒体を空気にしても、光の漏れを防ぐことができなくなる。
このような場合には、クラッドをフォトニック結晶とすることにより、フォトニックバンドギャップを利用した光の閉じ込めが可能である。図21は、1次元フォトニック結晶のクラッド及びコアを有するフォトニック結晶導波路の構成を示す断面図である。図21に示すフォトニック結晶導波路17は、図1に示した1次元フォトニック結晶11をコアとし、その屈折率周期方向と同一方向に屈折率周期性を有する1次元フォトニック結晶であるクラッド16が設けられた構成である。クラッド16は、フォトニック結晶11の上下方向(Y軸方向)に設けられている。クラッド16は、フォトニック結晶11の屈折率周期方向と同一方向に、フォトニック結晶11を構成している物質15a及び物質15bと同様の2つの物質が周期的に配置されて構成されている。つまり、クラッド16は、フォトニック結晶11と同一の物質が、Y軸方向に屈折率周期性を有するように配置されて構成されており、その周期bはフォトニック結晶11の周期aと異なっている。フォトニック結晶導波路17は、1次元フォトニック結晶であって、屈折率周期方向において、屈折率周期が周期bの個所(クラッド16)と周期aの個所(コアであるフォトニック結晶11)とを有し、周期aの個所が周期bの個所によって挟まれた構成となっている。尚、クラッド16の周期bとフォトニック結晶11の周期aとの間には、a<bなる関係が成り立つものとする。
さらに図22を加えて説明する。図22は、図21に示したフォトニック結晶導波路のバンド図である。図22のうち、上段はクラッドにおける第1バンド及び第2バンドのバンド図であり、下段はコアにおける第1バンドのバンド図である。図22において、太線201で示されているのは、真空中における波長がλ0である伝播光に対するバンドである。また、下段における太線201上の点は、それぞれのモードを表わしている。
クラッド16のバンド図中、Z軸方向の第1バンドと第2バンドとにおける太線201同士が連続していない個所は、クラッド16のフォトニックバンドギャップ202である。フォトニックバンドギャップ202の範囲では、伝播光が生じない。そして、このフォトニックバンドギャップ202の範囲に含まれるコア(フォトニック結晶11)の伝播光は、クラッド16中を伝播することがないため、クラッド16から漏れることはない。その結果、このフォトニックバンドギャップ202の範囲にフォトニック結晶11(コア)中の伝播モードがあれば、クラッド16から光が漏れることはなく、Y軸方向の光の閉じ込めがなされる。図22の下段の図から分かるように、フォトニックバンドギャップ202中に含まれているのは、ブリルアンゾーン境界上にあるモードN=mとモードN=(m−1)の光である。従って、このフォトニックバンドギャップ202におけるコア(フォトニック結晶11)の第1バンドによって伝播する光は、ブリルアンゾーン境界上にあるモードN=mとモードN=(m−1)の光である。つまり、フォトニック結晶導波路17のコアであるフォトニック結晶11を伝播する第1バンドの光のうち、クラッド16によって閉じ込めがなされるのは、モードN=mとモードN=(m−1)の2つの光のみである。
図21に示すフォトニック結晶導波路17は、クラッド16の周期bがコア(フォトニック結晶11)の周期aよりも僅かに大きいが、周期aと周期bとの差をさらに小さくしていくと、フォトニックバンドギャップ202が、図22においてより左側に移動する。このように、フォトニックバンドギャップ202の位置を調整することにより、フォトニックバンドギャップ202に含まれるモードを調整することができる。そして、これにより、所望のm次モードだけを伝播させる単一モード伝播を実現することもできる。尚、コアのモード数が多くなると、バンド図上でm次モードと(m−1)次モードとの位置が接近するために、単一モード伝播を実現することが困難となるが、理論的には、周期aと周期bとの値を近づけることにより、どのような場合でも、単一モード伝播を実現することができる。
しかし、発明者らのシミュレーションにより、周期aと周期bとの値をあまり近づけると、閉じ込め作用が弱くなることが分かっている。従って、実際のフォトニック結晶導波路を設計するにあたっては、クラッド16の周期bの実用的な上限、十分な閉じ込めが可能な、周期aと周期bとの値の間隔、及びコアであるフォトニック結晶11の周期aの値等の条件のバランスが取れた構成とする必要がある。
また、例えば図20に示されているような、第2バンドのブリルアンゾーン境界上にあるモードを、コアであるフォトニック結晶11に伝播させることも可能である。以下、その方法について説明する。このような伝播を実現するためには、図22におけるフォトニックバンドギャップ202を、バンド図においてさらに左側に移動させる必要がある。そして、そのためには、周期bを周期aよりも幾分小さい値にして、フォトニックバンドギャップ202の位置を調整すればよい。このようにすることにより、フォトニックバンドギャップ202の範囲に、第2バンドのブリルアンゾーン境界上にある所望のモードが含まれるようになる。これにより、所望のモードが、クラッド16によって閉じ込められて、コアであるフォトニック結晶11内を伝播できるようにすることができ、単一モード伝播を実現することが可能となる。
尚、コア(フォトニック結晶11)とクラッド16の周期を同じにし、それらを構成する媒体の膜厚比を異ならせることにより、フォトニックバンドギャップ202の位置を調節することもできる。そして、これにより、単一モード条件を実現して、単一モード伝播を実現することができる。
また、1次元フォトニック結晶であるコアを構成する媒体とは異なる媒体を積層することによって1次元フォトニック結晶であるクラッドを構成したフォトニック結晶導波路においても、単一モード条件を実現して、単一モード伝播を実現することができる。また、3種類以上の媒体を積層することによってコア又はクラッドを構成し、コア又はクラッドの1周期を3層以上としたフォトニック結晶導波路においても、単一モード条件を実現して、単一モード伝播を実現することができる。また、上記した、単一モード条件を実現するためのそれぞれの方法は、単独で用いても、あるいは複合して用いてもよい。
また、上述したバンド図による光の閉じ込めの判定は、無限周期構造を前提としたものである。従って、光閉じ込め用のフォトニック結晶(クラッド16)の周期数が例えば3周期くらいであると、光の閉じ込めが不十分となって、伝播光が外部に漏れてしまうことがある。しかし、不必要に周期数を多くすることは、製造コストや多層膜の耐久性や精度の点から望ましくない。実際に必要な最低限の周期数は、実験や電磁波シミュレーションにより、使用条件を考慮して決定するのが望ましい。具体的には、光閉じ込め用のフォトニック結晶(クラッド16)の周期数は、10周期程度であるのが望ましい。
次に、1次元フォトニック結晶におけるYZ平面と平行な側面からの光の漏れを防ぐための、光の閉じ込め条件について説明する。まず、フォトニック結晶11内を上述したm次の伝播光がZ軸方向に進む場合を考える。図23は、1次元フォトニック結晶内をm次の伝播光がZ軸方向に進む場合の電場を示す模式図である。図23に示すように、フォトニック結晶11内をm次の伝播光がZ軸方向に進む場合の、フォトニック結晶11の周期構造が露出している側面(YZ平面に平行な面)203には、市松状の模様として示す電場パターンが生じている。具体的には、電場の山204と電場の谷205とが図23に示されている。尚、図示していないが、フォトニック結晶11の周りに存在するクラッドとなる媒体は、その屈折率nが一様な均質媒体である。よって、フォトニック結晶11の周期構造が露出している側面203は、屈折率がnの均質媒体に接している。
フォトニック結晶11の周期aを用いて、これら電場の特性について説明する。図23に示すように、均質媒体に接している、周期構造が露出した側面203には、周期206を有する波面が均質媒体側に生じている。この波が、漏れ光となり得る。図23には、互いに垂直な補助線207、208と、周期206(斜辺)とからなる直角三角形が形成されており、補助線207、208の長さは、それぞれλZ/2及びaとなることから、周期206の長さ(大きさ)は容易に求められる。ここで、λZは、伝播光の進行方向における周期である。
すなわち、周期206の大きさは、具体的にはaλZ/(λZ 2/4+a2)0.5と表わされる。従って、周期206の大きさaλZ/(λZ 2/4+a2)0.5が、屈折率nの均質媒体中における波長λ0/nよりも大きい場合に、この波が漏れ光となる。よって、屈折率nの均質媒体中を伝播する光がフォトニック結晶11のYZ平面に平行な面から漏れないための条件は、下記式(8)のようになる。
λ0/n>aλZ/(λZ 2/4+a2)0.5 (8)
例えば、図7における波数ベクトルのZ軸方向成分kzを用いた、λ=2π/kzの式により、具体的には、真空中における波長λ0に対して、第1バンドの伝播を用いる場合には、λZ=2π/k1によりλZを求めることができる。
[実施の形態1]
上述したフォトニック結晶に関する説明において、フォトニック結晶を構成する材料については、特に限定されるものではない。本発明の実施の形態1の導波路素子は、一方向に屈折率周期性を有する1次元フォトニック結晶を有し、屈折率周期性を有しない方向に光を伝播させる導波路素子である。この場合、コアがフォトニック結晶であり、フォトニック結晶を構成する材料の少なくとも1つは、流動体である。また、流動体は、コアの側面に接しているクラッドの少なくとも一部でもある。流動体とは、液体又は気体等の、容易に変形し得る材料のことである。また、フォトニック結晶が、クラッドの少なくとも一部に形成されていてもよい。
本発明の実施の形態1における導波路素子について、図を参照しながら説明する。図24は、本発明の実施の形態1における導波路素子の構成を示す斜視図である。図24は、1次元フォトニック結晶を用いた導波路素子の構成を示している。図24において、屈折率周期性を有する方向(屈折率周期方向)をY軸方向とし、Y軸方向に対して垂直で、かつ、それぞれ互いに垂直な方向をX軸方向及びZ軸方向とする。
図24に示した実施の形態1の導波路素子1は、1次元フォトニック結晶を有する導波路型の光学素子である。図24に示すように、実施の形態1の導波路素子1は、基板2と、基板2上に設けられた導波路3a及び導波路3bと、基板2上に周期的にリッジ状に複数配置された平板5と、流動体6と、流動体6とにより位相格子9a、9bを構成する、それぞれ複数配置された位相格子用平板8a、8bとを備えている。尚、入力部は導波路3a及び位相格子9aであり、出力部は導波路3b及び位相格子9bである。
平板5は、基板2上において、それぞれ平行にY軸方向に周期的に配置されており、それら各平板5同士の間は流動体6で満たされている。平板5と流動体6とは交互に周期的に配置されており、当該平板5及び流動体6によりフォトニック結晶4(コア)が構成されている。つまり、フォトニック結晶4は、Y軸方向にのみ屈折率周期性を有する1次元フォトニック結晶である。また、それぞれ複数の位相格子用平板8a、8bは、流動体6と交互に周期的に配置されており、これにより、上記第4の方法で用いた位相格子166a、166b(図13参照)と同様の位相格子9a、9bが構成されている。入力側の位相格子9aは、導波路3aとフォトニック結晶4との間に設けられ、出力側の位相格子9bは、フォトニック結晶4と導波路3bとの間に設けられている。位相格子9a、9bは、例えば、流動体6を含む、Y軸方向にのみ屈折率周期性を有する構造とすればよいので、容易に構成することができる。また、フォトニック結晶4の出力側に位相格子9bを設けることにより、フォトニック結晶4から出射された光を平面波へと変換することができる。位相格子9a及び位相格子9bは、図13に示した位相格子166a及び位相格子166bと同様の構成にすればよく、その周期は、例えば、フォトニック結晶4の周期の2倍であればよい。これにより、上記第4の方法を実現することができ、かつ、簡単な構成で、ブリルアンゾーン境界上のバンドによる伝播光をフォトニック結晶4(コア)中に生じさせる入力部を実現することができる。
また、流動体6は、各平板5同士の間及び各位相格子用平板8a、8b同士の間だけでなく、平板5、導波路3a、3b及び位相格子用平板8a、8bの周りにも配置されている。つまり、コアであるフォトニック結晶4の側面に位置するクラッドの少なくとも一部は流動体である。尚、実際には、流動体6が平板5、導波路3a、3b及び位相格子用平板8a、8bの周りに配置されているため、平板5、導波路3a、3b及び位相格子用平板8a、8bは流動体6によって覆われているが、図24においては、見易さを考慮して、平板5、導波路3a、3b及び位相格子用平板8a、8bが実線で示されている。また、図24においては、流動体6が基板2上に固定されているように図示されているが、流動体6は、例えば、気体や液体であって、基板2上に固定されることはない。実際には、例えば、流動体6が満たされた容器中に、平板5、導波路3a、3b及び位相格子用平板8a、8bが載置された基板2を浸ける等することにより、平板5、導波路3a、3b及び位相格子用平板8a、8bの周りと、各平板5同士の間及び各位相格子用平板8a、8b同士の間とに流動体6が配置されるようにすればよい。
以上により、材料の少なくとも1つを流動体6とした、一方向に屈折率周期性を有するフォトニック結晶4であるコアを備えた導波路素子1を構成することができる。尚、このコアに対するクラッドは、流動体6及び基板2である。また、導波路素子1は、流動体6を含む位相格子9a、9bを備えている。
このように、平板5及び位相格子用平板8a、8bを、基板2上に周期的に配置されるように固定し、さらに、基板2上に設けられる導波路3a、3b等を形成した後、各平板5同士の間及び各位相格子用平板8a、8b同士の間に流動体6が流れ込むように、平板5、導波路3a、3b及び位相格子用平板8a、8bの周りに流動体6を配置することにより、導波路素子1を容易に作製することができる。また、屈折率周期構造体であるフォトニック結晶4及び位相格子9a、9bも容易に形成することができる。
実施の形態1における導波路素子1は、上述したように、フォトニック結晶4の一部、クラッドの一部及び各位相格子9a、9bの一部を流動体6としているので、作製が容易である。また、この導波路素子1において、ブリルアンゾーン境界における伝播を実現することにより、「非常に大きい波長分散」、「群速度異常」などを生じさせることができ、当該導波路素子1を様々な光学制御素子として用いることが可能となる。
導波路素子1のフォトニック結晶4において、ブリルアンゾーン境界上のバンド光を伝播させるためには、ブリルアンゾーン境界における伝播を実現する上記第1〜第5の方法を用いればよく、特に、上記第4及び第5の方法を用いればよい。上記第4の方法については上述している。
以下、上記第5の方法を用いる場合について説明する。上記第5の方法を用いるには、図24に示した導波路素子1において、位相格子9a、9bを取り去り、その代わりに、フォトニック結晶4の入射側端面及び出射側端面を斜めにすればよい。図25は、ブリルアンゾーン境界における伝播を実現する第5の方法を用いる場合の導波路素子の構成を示す斜視図である。図25に示すように、上記第5の方法を用いる場合の導波路素子31は、具体的には、入射側端面が斜めのフォトニック結晶34を備えた構成となっている。尚、図25において、図24に示す部材と同様の機能を有する部材には同一の参照符号を付し、その説明は省略する。
図25に示す導波路素子31において、上記第5の方法で用いた端面171a(図14参照)と同様の端面34aを用いればよい。図25に示す導波路素子31において、フォトニック結晶34の入射側端面34aは、伝播光の伝播方向(Z軸方向)に垂直な面(XY平面)に対して傾いている。具体的には、上記第5の方法の場合と同様の条件にすればよい。また、フォトニック結晶34の出射側端面34bについても、入射側端面34aと同様に、伝播光の伝播方向(Z軸方向)に垂直な面(XY平面)に対して傾いた状態にすればよい。これにより、端面34bから出射される光を平面波に変換することができる。尚、入力部は導波路3aであり、出力部は導波路3bである。
以上、上記第4及び第5の方法を用いた導波路素子1、31について説明したが、これらの導波路素子1、31によれば、伝播光を容易にブリルアンゾーン境界上のバンドと結合させることができる。また、これら以外の構成であっても、例えば、上記第1〜第3の方法を用いた導波路素子の構成とし、フォトニック結晶の一部を流動体によって構成することとすれば、伝播光を容易にブリルアンゾーン境界上のバンドと結合させることができる。これにより、第1バンド光を含む全ての伝播光が高次バンド光と同様な伝播特性を呈するようにすることができるので、これらの導波路素子1、31を用いて、「実効屈折率の波長による大きな変化」や「群速度異常」を利用した光制御素子を構成することができる。これらの導波路素子1、31を、例えば、量子ドットによる発光素子、光信号増幅素子、エルビウム、ツリウム、クロムなどの成分による光増幅素子、有機色素によるレーザ発振素子等に利用することもできる。尚、ブリルアンゾーン境界上の第1又は第2バンドによる伝播光をそれぞれ単一で伝播させるようにしてもよい。また、ブリルアンゾーン境界上ではなくても、ブリルアンゾーンの中心線上もしくはその近傍にあり、かつ、最低次ではないフォトニックバンドの伝播モードの伝播光を伝播させるようにしてもよい。
また、実施の形態1の導波路素子1、31は、例えば、流動体6にその他の部材を浸けるだけで作製することができるので、容易に作製することができる。
次に、実施の形態1の導波路素子1、31のフォトニック結晶4、34に、ブリルアンゾーン境界上の高次モード伝播光を閉じ込めるための条件について説明する。ここで、伝播させる光の真空中における波長をλ0、高次モード伝播光の波数ベクトルのZ軸方向成分をkz、フォトニック結晶4、34の周期をa、流動体6の屈折率をnF、基板2の屈折率をnSとする。従って、伝播光のZ軸方向の周期λZは、2π/kzである。上記したように、コアの周期構造が露出している側面203(図23参照)における、実質的な伝播光の周期206の大きさは、aλZ/(λZ 2/4+a2)0.5である。
まず、フォトニック結晶4、34のYZ平面と平行な面のうち、流動体6側の表面は、屈折率がnFである流動体6のバルクと接しているので、この面の光の閉じ込め条件は、上記式(8)より、下記式(9)のようになる。
aλZ/(λZ 2/4+a2)0.5<λ0/nF (9)
フォトニック結晶4、34内において、ブリルアンゾーン境界上の第2バンドによる高次モード伝播が生じている場合について説明する。例えば、図24に示す導波路素子1においては、周期が2aの位相格子9aがフォトニック結晶4の入力側に設けられているので、フォトニック結晶4内に、ブリルアンゾーン境界上の第2バンドによる高次モード伝播が生じている。この場合、フォトニック結晶4の側面すなわちXZ平面に平行な面の、光の閉じ込め条件は、伝播光のZ軸方向の周期λZが流動体6中における波長λ0/nFよりも小さいことである。すなわち、下記式(10)のようになる。
λZ(=2π/kz)<λ0/nF (10)
また、フォトニック結晶4、34のYZ平面と平行な面のうち、基板2に接している側の面の光の閉じ込め条件は、基板2の屈折率がnSであるので、上記式(8)より、下記式(11)のようになる。
aλZ/(λZ 2/4+a2)0.5<λ0/nS (11)
以上より、フォトニック結晶4、34の光の閉じ込め条件は、上記式(9)、式(10)及び式(11)を全て満たすことである。但し、上記式(10)の条件は上記式(9)の条件を含んでいるので、上記式(10)が満たされれば、上記式(9)の条件は不要となる。尚、nS>nFであれば、上記式(11)を満たすことにより、上記式(9)を満たしたことになる。また、nS<nFであれば、上記式(9)を満たすことにより、上記式(11)を満たしたことになる。
導波路素子1、31の各部材について説明する。平板5と基板2とが同じ材料であるとすれば、基板2をエッチング等の方法によって加工することにより、平板5を容易に形成することができる。この場合には、基板2の屈折率nSがコアであるフォトニック結晶4、34の平均屈折率よりも高くなりがちであるので、上記式(11)の条件を満たすことが困難となる場合がある。そのような場合には、平板5を基板2よりも屈折率の高い物質で形成すればよい。
導波路素子1、31の基板2の材料としては、光の閉じ込めを行う必要があることから、屈折率の低い光学ガラス、結晶化ガラス、石英又はフッ化物等が特に適している。
また、平板5の材料は、使用波長域における透明性が確保できるものであれば特に限定されない。平板5を得るには、基板2上に薄膜を形成し、それをエッチング等の方法によって複数の平板に加工すればよい。従って、平板5の材料としては、例えば、一般的に薄膜の材料として用いられていて耐久性や成膜コストの点で優れた、シリカ、シリコン、酸化チタン、酸化タンタル、酸化ニオブ、フッ化マグネシウム、窒化シリコン等が適している。これらの材料は、スパッタリング、真空蒸着、イオンアシスト蒸着、プラズマCVDなどの一般的な方法により、容易に薄膜とすることができ、エッチング等の方法によって容易に平板5に加工することができる。また、平板5を、ナノインプリンティングあるいはゾルゲルガラスのプレスといった方法によって形成してもよい。
また、導波路3a、3b及び位相格子9a、9bの流動体6以外の個所は、平板5と同じ加工によって形成することができるので、平板5の加工の際に同一の材料を用いて同時に形成するのが望ましい。これによれば、製造工程を増やす必要がなく、また、材料も新たに用意する必要がないので、実施の形態1の導波路素子1、31を低コストで作製することが可能となる。
尚、実施の形態1においては、ブリルアンゾーン境界上の伝播光と結合することができる導波路素子について具体的に説明したが、ブリルアンゾーン境界上の伝播光と結合することができる導波路素子に限定されるものではない。例えば、図26に示す構成の導波路素子としてもよい。図26は、ブリルアンゾーン境界上の伝播光と結合しない、実施の形態1における導波路素子の構成を示す斜視図である。尚、図26に示す導波路素子21は、図24に示す導波路素子1と基本構成が同一であり、位相格子9a、9bを備えていない点で図24に示す導波路素子1と異なっている。図26に示す導波路素子21においては、導波路3aを伝播している光が、流動体6と複数の平板5とにより構成されているフォトニック結晶4に入射する。
また、図24に示す導波路素子1においては、位相格子9a、9bの周期と、フォトニック結晶4の周期とを同一にしてもよい。これによれば、ブリルアンゾーンの中心線上もしくはその近傍にあり、かつ、最低次ではないフォトニックバンドの伝播モードの伝播光と容易に結合することができる。尚、例えば、特開2003−215362号公報及び特開2003−287633号公報に開示されているように、周期aの位相格子9aを設けることにより、第1バンドによる伝播光を減らし、高次バンドによる伝播光を増やすことも可能である。
このように、実施の形態1における導波路素子は、流動体6と複数の平板5とを備え、流動体6と平板5とによりフォトニック結晶が構成されている導波路素子であればよい。この導波路素子は、例えば、流動体にその他の部材を浸けるだけで、容易に作製することができる。尚、実施の形態1においては、1次元フォトニック結晶を用いているが、2次元フォトニック結晶や3次元フォトニック結晶を有する導波路素子も、そのフォトニック結晶を構成する材料の少なくとも1つを流動体とすることにより、容易に作製することができる。
また、流動体6を、外部からの要因によって硬化するような材料、例えば、熱硬化性樹脂等としておけば、流動体6を配置した後、当該流動体6に熱を加えることによって硬化させて、固体からなるフォトニック結晶4、34を形成することができる。具体的には、基板2上に、複数の平板5をそれぞれ平行に、かつ、基板2に対して垂直に形成し、各平板5同士の間及び各平板5の周りに流動体6を配置した後に、流動体6を固化させればよい。このように、流動体を含まない導波路素子も容易に作製することができる。尚、外部からの要因によって硬化するような材料としては、熱硬化性樹脂の他に、例えば、紫外線硬化性樹脂等がある。
[実施の形態2]
本発明の実施の形態2における導波路素子について、図を参照しながら説明する。図27は、本発明の実施の形態2における導波路素子の構成を示す斜視図である。本発明の実施の形態2における導波路素子は、上記実施の形態1の導波路素子の屈折率周期方向に、クラッドであるフォトニック結晶を追加したものである。尚、図27において、図24に示す部材と同様の機能を有する部材には同一の参照符号を付し、その説明は省略する。
図27において、クラッド7は、クラッド用平板10と流動体6とにより構成されるフォトニック結晶である。クラッド用平板10は、平板5と同様に、基板2上において、それぞれ平行にY軸方向に周期的に配置されており、それら各クラッド用平板10同士の間は流動体6で満たされている。クラッド用平板10と流動体6とは交互に周期的に配置されており、当該クラッド用平板10及び流動体6によりフォトニック結晶が構成されている。つまり、クラッド7は、Y軸方向にのみ屈折率周期性を有する1次元フォトニック結晶であり、コアであるフォトニック結晶4のY軸方向に配置されて、Y軸方向の伝播光の閉じ込めを行う。
伝播光の群速度を遅くして流動体との相互作用を強くしようとすると、伝播光のZ軸方向の周期λZ(=2π/kz)が大きくなるので、図24に示す上記実施の形態1の導波路素子1の場合には、流動体6を屈折率が1である空気としても、光の閉じ込めが困難となる。そのような場合には、実施の形態2の導波路素子41のように、フォトニック結晶であるクラッド7を設け、クラッド7のフォトニックバンドギャップを用いて、光が、コアであるフォトニック結晶4内に閉じ込められるようにするのが望ましい。尚、フォトニックバンドギャップによる光の閉じ込めは、図22を用いて説明したとおりである。
この導波路素子41において、ブリルアンゾーン境界上の高次モード伝播光を閉じ込めるためには、上記実施の形態1で説明したように、
nS>nFであれば、上記式(11)を満たすようにすればよい。すなわち、
aλZ/(λZ 2/4+a2)0.5<λ0/nS (11)
を満たすようにすればよい。
また、nS<nFであれば、上記式(9)を満たすようにすればよい。すなわち、
aλZ/(λZ 2/4+a2)0.5<λ0/nF (9)
を満たすようにすればよい。
尚、伝播させる光の真空中における波長をλ0、高次モード伝播光の波数ベクトルのZ軸方向成分をkz、フォトニック結晶4の周期をa、流動体6の屈折率をnF、基板2の屈折率をnSとしている。従って、伝播光のZ軸方向の周期λZは、2π/kzである。
クラッド7となるフォトニック結晶を構成する材料の屈折率や厚さ比率を調整することにより、フォトニックバンドギャップの位置を調整することができるので、フォトニック結晶4のXZ平面に平行な側面から伝播光が漏れないようにすることができる。
クラッド7を構成するクラッド用平板10は、平板5を形成する際に同様にして形成することができるので、容易に形成することができる。
図27に示した、実施の形態2における導波路素子41は、位相格子を備えた構成となっているが、ブリルアンゾーン境界における伝播を実現する上記第5の方法を用いる場合には、図25に示したように、入射側端面が斜めのフォトニック結晶34を備えた構成とすればよい。また、同様に、上記第1〜第3の方法を用いた導波路素子を作製することも可能である。
[実施の形態3]
本発明の実施の形態3における導波路素子について、図を参照しながら説明する。図28は、本発明の実施の形態3における導波路素子の構成を示す斜視図である。本発明の実施の形態3における導波路素子42は、図24に示す上記実施の形態1の導波路素子において、基板2のフォトニック結晶4側の面に、X軸方向に積層された1次元フォトニック結晶である多層膜25を配置した構成となっている。つまり、基板2とフォトニック結晶4との間に多層膜25が形成されている。尚、図28において、図24に示す部材と同様の機能を有する部材には同一の参照符号を付し、その説明は省略する。
図28において、多層膜25は、複数の物質が周期的に積層され、X軸方向に屈折率周期性を有するフォトニック結晶である。この多層膜25を構成する材料の屈折率や厚さ比率を調整することにより、フォトニックバンドギャップの位置を調整することができるので、フォトニック結晶4から基板2側に伝播光が漏れないようにすることができる。
従って、この導波路素子42において、ブリルアンゾーン境界上の高次モード伝播光を閉じ込めるためには、上記実施の形態1で説明したように、上記式(10)を満たすようにすればよい。すなわち、
λZ(=2π/kz)<λ0/nF (10)
を満たすようにすればよい。
尚、多層膜25の材料としては、例えば、一般的に薄膜の材料として用いられていて耐久性や成膜コストの点で優れた、シリカ、シリコン、酸化チタン、酸化タンタル、酸化ニオブ、フッ化マグネシウム、窒化シリコン等が適している。これらの材料は、スパッタリング、真空蒸着、イオンアシスト蒸着、プラズマCVDなどの一般的な方法により、容易に薄膜とすることができる。薄膜を順次積層することにより、多層膜25を形成することができる。
図29は、本発明の実施の形態3における他の導波路素子の構成を示す斜視図である。図29に示す導波路素子42aは、図28に示す導波路素子42の多層膜25の代わりに、低屈折率層25aを配置した構成となっている。低屈折率層25aは、基板2よりも低い屈折率を有する材料による薄膜(バッファー層)であり、フォトニック結晶4に接している。低屈折率層25aは、フォトニック結晶4内を伝播する光が低屈折率層25a側に漏れないような屈折率である材料を用いて構成されている。このような構成とすることにより、フォトニック結晶4から低屈折率層25a側に伝播光が漏れないようにすることができる。低屈折率層25aの厚さは、少なくとも伝播光の波長よりも大きくするのが望ましい。これにより、エバネッセント光による基板2へのリークを防止することができる。尚、低屈折率層25aの材料としては、石英よりも屈折率の低いフッ化マグネシウムなどが適している。また、低屈折率層25aの屈折率をnSLとすると、フォトニック結晶4から伝播光が漏れないための条件は、上記式(10)、及び、nSをnSLに置き換えた上記式(11)が成り立つことである。具体的には、
λZ(=2π/kz)<λ0/nF (10)
aλZ/(λZ 2/4+a2)0.5<λ0/nSL (11)’
が成り立つことである。
尚、nSL<nFであれば、上記式(10)を満たすことにより、上記(11)’を満たしたことになる。
以上のように、多層膜25又は低屈折率層25aを用いることにより、基板2の材料の選択において、その屈折率を考慮する必要がないので、材料の選択の幅が広がる。
図28、図29に示した、実施の形態3における導波路素子42、42aは、位相格子を備えた構成となっているが、ブリルアンゾーン境界における伝播を実現する上記第5の方法を用いる場合には、図25に示したように、入射側端面が斜めのフォトニック結晶34を備えた構成とすればよい。また、同様に、上記第1〜第3の方法を用いた導波路素子を作製することも可能である。さらに、図26に示した導波路素子を用いることにより、ブリルアンゾーン境界における伝播を実現しない(ブリルアンゾーン境界上の伝播光と結合しない)導波路素子を作製することも可能である。
[実施の形態4]
本発明の実施の形態4における導波路素子について、図を参照しながら説明する。図30は、本発明の実施の形態4における導波路素子の構成を示す斜視図である。本発明の実施の形態4における導波路素子43は、図27に示す上記実施の形態2の導波路素子41と図28に示す上記実施の形態3の導波路素子42とを組み合わせた構成となっている。具体的には、基板2上に、クラッド7を構成する複数のクラッド用平板10がフォトニック結晶4を挟む形でそれぞれ平行にY軸方向に周期的に配置されており、それら各クラッド用平板10同士の間は流動体6で満たされている(クラッド7は、クラッド用平板10と流動体6とにより構成されるフォトニック結晶である)。また、基板2のフォトニック結晶4側の面には、X軸方向に積層された1次元フォトニック結晶である多層膜25が配置されている。尚、図30において、図27、図28に示す他の部材と同様の機能を有する部材には同一の参照符号を付し、その説明は省略する。
実施の形態4の導波路素子43においては、フォトニック結晶4の、XZ平面に平行な2つの側面及び基板2側の側面に、フォトニック結晶が配置されているので、フォトニックバンドギャップにより、それら側面の3方向の光の閉じ込めを行うことができる。すなわち、クラッド7及び多層膜25となるフォトニック結晶を構成する材料の屈折率や厚さ比率を調整することにより、フォトニックバンドギャップの位置を調整することができるので、フォトニック結晶4のXZ平面に平行な側面及びフォトニック結晶4の基板2側の側面から伝播光が漏れないようにすることができる。
従って、この導波路素子43において、ブリルアンゾーン境界上の高次モード伝播光を閉じ込めるためには、上記実施の形態1で説明したように、上記式(9)を満たすようにすればよい。すなわち、
aλZ/(λZ 2/4+a2)0.5<λ0/nF (9)
を満たすようにすればよい。
図30に示した、実施の形態4における導波路素子43は、位相格子を備えた構成となっているが、ブリルアンゾーン境界における伝播を実現する上記第5の方法を用いる場合には、図25に示したように、入射側端面が斜めのフォトニック結晶34を備えた構成とすればよい。また、同様に、上記第1〜第3の方法を用いた導波路素子を作製することも可能である。
尚、上記実施の形態3及び実施の形態4においては、基板2によって光を閉じ込めるわけではないので、基板2の屈折率を考慮する必要がない。従って、基板2として、Si基板等の半導体材料を用いてもよい。
以上、説明したように、上記実施の形態1〜4における導波路素子は、簡単な構成であるため、容易に作製することができる。また、上記実施の形態1〜4における導波路素子は、伝播光を容易にブリルアンゾーン境界上のバンドと結合させる導波路素子として用いることもできる。
[実施の形態5]
本発明の実施の形態5における光学センサについて、図を参照しながら説明する。実施の形態5の光学センサは、上記実施の形態1で説明した図24に示す導波路素子1から流動体6が取り除かれた構造を基本構造とする。また、実施の形態5の光学センサにおいては、流動体6が被検物質となる。
図31は、本発明の実施の形態5における光学センサの構成を示す斜視図である。尚、図31において、図24に示す部材と同様の機能を有する部材には同一の参照符号を付している。図31に示すように、実施の形態5の光学センサ50は、基板2と、基板2上に設けられた導波路3a及び導波路3bと、基板2上に周期的にリッジ状に複数配置された平板5とを備えている。平板5は、基板2上において、それぞれ平行にY軸方向に周期的に配置されている。各平板5同士が間隙をあけて、周期的に配置されていることから、平板5は、例えば空気とによりフォトニック結晶4を構成している。また、導波路3aとフォトニック結晶4との間、及びフォトニック結晶4と導波路3bとの間には、それぞれ位相格子9a及び位相格子9bが配置されている。尚、位相格子9a、9bは、それぞれ複数の位相格子用平板8a、8bと空気とにより構成されている。また、入力部は導波路3a及び位相格子9aであり、出力部は導波路3b及び位相格子9bである。
導波路3aは、フォトニック結晶4へと光を入射させるものであり、導波路3bへはフォトニック結晶4から出射された光が入力される。導波路3bを伝播した光は、ディテクタや分光器等の検知部に到達する。
以下、このような光学センサ50の使用方法について説明する。例えば、被検物質である液体を光学センサ50に滴下することにより、複数の平板5は被検物質によって覆われることになる。具体的には、光学センサ50の、各平板5同士の間及び各平板5の周りに被検物質が配置されることになる。つまり、被検物質は、平板5を構成部材とするフォトニック結晶の一部となる。すなわち、上記実施の形態1で説明した図24に示す導波路素子1と同様の構成となる。尚、被検物質は流動体6である(図24参照)。流動体6である被検物質を光学センサ50に滴下した後の手順については、図24をも参照しながら説明する。
流動体6である被検物質を光学センサ50に滴下することにより、図24に示す導波路素子1が形成される。導波路素子1のフォトニック結晶4に光を伝播させる場合、屈折率等の、被検物質(流動体6)の特性の変化が、伝播光に直接影響を与える。このことより、導波路素子1は、被検物質(流動体6)の特性の変化を鋭敏に感知する光学センサとして機能する。尚、被検物質(流動体6)を滴下するとしたが、例えば、被検物質(流動体6)が満たされている容器に光学センサ50を浸す等してもよい。被検物質(流動体6)が、各平板5同士の間及び各平板5の周りに満たされればよい。また、被検物質としては流動体を用いればよく、例えば、気体を用いてもよい。
光学センサ50の大きさは、導波路素子1として機能する程度とすればよく、例えば、フォトニック結晶4のY軸方向の長さは、伝播光の波長の数倍程度であるのが望ましい。これにより、被検物質(流動体6)の特性が変化した場合等に、その変化が各平板5同士の間を満たす全ての被検物質(流動体6)に速やかに伝わるので、高速応答が可能な光学センサ50を実現することができる。例えば、被検物質として流体物を使用し、その流体物を反応させて、反応が完了したかどうかを調べる場合には、フォトニック結晶4の伝播光が入力された導波路3b中を伝播している光をディテクタ等によって調べておくことにより、反応前後における伝播光の特性の違いに基づいて、反応が完了したかどうかを容易に知ることができる。このように、実施の形態5における光学センサ50によれば、簡単な構成で、被検物質(流動体6)の特性を高精度に測定することができる。
また、平板5よりも被検物質(流動体6)の屈折率が低い場合には、一般的に、光等の電磁波のエネルギーは屈折率の大きい部分に局在する傾向がある。つまり、フォトニック結晶4において、電場は屈折率の高い平板5に局在することになり、被検物質である流動体6の電場は小さくなる。従って、伝播光と被検物質(流動体6)との相互作用が小さく、被検物質(流動体6)の特性の変化に対する応答が低下する。しかし、平板5と被検物質(流動体6)とによりフォトニック結晶が構成されているので、例えば、第2バンドのブリルアンゾーン境界上の伝播モードを用いて光を伝播させることにより、屈折率の低い被検物質(流動体6)側の電場を大きくすることができる。そして、これにより、被検物質(流動体6)の特性の変化を、さらに高精度に検知することが可能となる。第2バンドのブリルアンゾーン境界上の伝播モードを用いて光を伝播させる場合には、上述した方法を用いればよい。
また、フォトニック結晶4は、伝播方向(Z軸方向)に長い構造とするのが望ましい。これにより、光と流体物6との相互作用の生じる領域が拡大するので、光による作用をより強くすることができる。その結果、光学センサ50の感度をより高くすることができる。
尚、平板5よりも高い屈折率を有する被検物質(流動体6)を用いる場合には、第1バンドのブリルアンゾーン境界上の伝播モードを用いればよい。これにより、高屈折率側である被検物質(流動体6)に電場を局在させることができる。
上記したように、平板5よりも低い屈折率を有する媒体を被検物質(流動体6)とする場合には、第2バンドのブリルアンゾーン境界上の伝播モードを用いればよく、平板5よりも高い屈折率を有する媒体を被検物質(流動体6)とする場合には、第1バンドのブリルアンゾーン境界上の伝播モードを用いればよい。これにより、被検物質である流動体6側に電場を局在させることができるので、光学センサ50にセンサとして最大の効果を発揮させることができる。
このように、実施の形態5における光学センサ50にブリルアンゾーン境界上の伝播モードを用いるためには、上記実施の形態1で説明した上記第1〜第5の方法を用いればよい。また、光学センサ50は、例えば、入射側端面が斜めのフォトニック結晶34を備えた構成(図25参照)としてもよい。
さらに、フォトニック結晶4の光の閉じ込めを強くするために、フォトニック結晶であるクラッド7を設けたり(図27参照)、基板2上に多層膜25を設けたり(図28参照)、低屈折率層25aを設けたり(図29参照)してもよい。また、例えば、これらを組み合わせた(複合した)構成(図30参照)としてもよい。
また、光学センサ50のフォトニック結晶4がブリルアンゾーン境界上のモードを用いない場合であっても、センサとして十分に機能する。このセンサは、具体的には、図26に示す導波路素子21において、流動体6を被検物質とした構成である。この場合のバンド図は、図3、図4に示されている。これらのバンド図に示されているように、規格化周波数が小さい場合には、第1バンドのみによる伝播となり、規格化周波数がある程度大きくなると、複数のバンドによる伝播となる。高次のバンドでは低屈折率層の電場もある程度強くなるので、このような構成でも、センサとしての効果は十分にある。
また、上記のように、フォトニック結晶4と同一の周期aの位相格子を、フォトニック結晶4の入力側に設けることにより、第1バンドによる伝播光を減らし、高次バンドによる伝播光を増やすことも可能である。
次に、以上説明した光学センサ50を用いる場合の、測定する特性について具体的に説明する。
まず、光学センサ50を、被検物質の屈折率及びその変化を測定する屈折率センサとして用いる場合について説明する。図32は、本発明の実施の形態5における屈折率センサの構成を示すブロック図である。図32に示すように、被検物質が滴下されている光学センサ50の出力が入力される干渉計52を設置しておく。光学センサ50の入力側から入力光51が入力され、被検物質を含むフォトニック結晶を伝播した光は、光学センサ50の出力側から出力光53として出力され、当該出力光53が干渉計52に入力される。また、入力光51は、光学センサ50に入力される前に分岐され、その分岐された入力光51も干渉計52に入力される。干渉計52においては、入力光51を参照光として、出力光53との位相差が測定される。そして、この位相差に基づいて、被検物質の屈折率が求められる。また、被検物質の屈折率が変化すれば、前記位相差も変化するので、位相差を検知することにより、屈折率の変化量を検出することもできる。また、同様にして、光の周波数や強度等を検出することもできる。
次に、光学センサ50を、被検物質の蛍光を分析する蛍光分析用センサとして用いる場合について説明する。この場合の光学センサ50は、フォトニック結晶4中にブリルアンゾーン境界上の第2バンド伝播光を伝播させることができる構成とすればよい。この構成において、被検物質を含むフォトニック結晶4に、被検物質に蛍光を発生させる周波数の励起光をブリルアンゾーン境界上の第2バンド伝播光として伝播させる。これにより、フォトニック結晶4においては被検物質が電場の腹にあたるので、強い蛍光が発生する。蛍光は、フォトニック結晶4の周りにランダムに出射される。蛍光は空間的にインコヒーレントであるので、この蛍光のうち、導波路3bから出力される蛍光を、レンズ等を用いて集光し、集光した蛍光を分析すればよい。また、蛍光には、導波路3bに入力されないものもあるので、それらをフォトニック結晶4の周りから取り出して分析してもよい。
また、同様にして、ラマン散乱分析、2光子吸収蛍光反応による分析、SHGの検出、THGの検出を行う光学センサ50を作製することができる。ラマン散乱、2光子吸収蛍光反応、SHG及びTHG等の非線型反応の強度は、電場強度の2乗あるいは3乗に比例するので、被検物質が電場の腹にあたる構成とするのが望ましい。
また、フォトニック結晶4の導波路長を長くすることにより、それぞれの光の強度を強くすることができるので、分析等の精度を高くすることができる。
図33は、本発明の実施の形態5における他の光学センサの構成を示す斜視図である。実施の形態5における光学センサ60は、光学センサ50と略同様の構成であるが、平板5の、XY平面に平行でない、露出された表面に、薄膜層61が設けられている点で光学センサ50と異なっている。その他の構成は、光学センサ50と略同様であるので、同様の機能を有する部材には同一の参照符号を付し、その説明は省略する。
図33において、薄膜層61の材料としては、任意の特定成分と選択的に反応する材料を用いればよい。具体的には、薄膜層61の材料としては、例えば、有機樹脂の薄膜に、特定のイオンを取り込むイオノフォアを分散させたものや、多孔性物質の薄膜に、特定のタンパク質と結合する酵素を担持させたもの等を用いればよい。このような構成とすることにより、測定の際に、被検物質中に特定の成分(イオン又はタンパク質等)が含まれていた場合には、フォトニック結晶4の構成が異なることとなり、伝播光が変化する。これにより、被検物質中に特定の成分が含まれているかどうかを検知することができる。
また、薄膜層61として金属膜を用いることにより、光学センサ60を、SPRセンサとして機能させることもできる。すなわち、SPR波長と一致する波長を有する伝播光の場合には、被検物質にリークし易い。そこで、伝播光の波長を検知した場合に、伝播損失が極大となる波長が共鳴波長であれば、伝播光の波長を容易に検知することができる。また、被検物質の屈折率が変化すると、共鳴波長も変化するので、共鳴波長を検知することにより、屈折率の変化量を検出することもできる。また、被検物質の屈折率も同様に測定することができる。従って、当該光学センサ60を、屈折率センサとして用いることもできる。
また、薄膜層61を2層構造としてもよい。例えば、平板5の表面に金属膜を形成し、その上に、特定の成分と反応する層を形成してもよい。これにより、SPRセンサとしての効果をさらに上げることができる。
尚、実施の形態5においては、図24に示す導波路素子1から流動体6を取り除いた構成の光学センサ50を例に挙げて説明したが、例えば、上記実施の形態1〜4で説明した導波路素子21、31、41、42、42a、43(図25〜図30参照)から流動体6を取り除いた構成の光学センサも、光学センサ50と同様の上記効果を発揮することができる。従って、これらの各光学センサにおいて、図33を用いて説明した光学センサ60のように、平板5の、XY平面に平行でない、露出された表面に、薄膜層61を設けることにより、光学センサ60と同様の効果を発揮させることができる。
以上、実施の形態5の光学センサについて説明したが、被検物質としては、上記実施の形態1〜4の導波路素子の流動体に用いることができる材料であればよく、例えば、空気や水溶液の他、各種有機溶媒、有機樹脂、無機溶媒等を用いることができる。また、各平板5同士の間及び各平板5の周りに被検物質が配置されてから、当該被検物質を固化させれば、固体の分析にも利用することができる。固化させることができる被検物質としては、例えば、紫外線硬化性樹脂やゾルゲルガラス等がある。また、有機化合物やタンパク質、酵素、抗体、微生物といった高温に弱い成分の検出においては、これらを低温で固化させる流動体に含有させて、その流動体を被検物質とすればよい。
実施の形態5の光学センサ50においては、各部材及び被検物質の材料を適切に選定することにより、通常使用される光の波長域である200nm〜20μm程度の波長範囲でその性能が発揮される。
実施の形態5の光学センサ50は、フォトニック結晶4による導波路を有しており、そのフォトニック結晶4が被検物質(流動体6)を含んで構成されていることから、フォトニック結晶4の伝播光は、被検物質(流動体6)の特性の変化を鋭敏に捉えることができる。
さらに、伝播光として、高次バンド光を用いれば、さらに高精度の測定が可能となる。
以下に、上記実施の形態1〜4の導波路素子を具体的に構成し、その伝播特性を電磁波シミュレーション計算によって求めた結果を示す。計算にはFDTD(Finite Difference Time Domain)法を用いた。計算に用いたソフトウェアは、日本総研製の「JMAG」である。
(計算例1)
図34は、計算例1に用いた導波路素子の構成を示す図であって、図34Aは導波路素子のYZ平面断面図、図34Bは図34AのI−I矢視断面図(導波路素子のXZ平面断面図)である。尚、光の伝播方向はZ軸方向であり、1次元フォトニック結晶の屈折率周期方向はY軸方向である。
計算例1に用いた導波路素子は、図28に示した導波路素子42の一部分に相当する構成のものである。そのため、図34には、出力側の導波路等は図示されていない。均質導波路である入力側の導波路3aから、真空中における波長λ0の平面波を、位相格子9aを介してフォトニック結晶4に入射させた場合の、フォトニック結晶4中の電磁波の伝播を計算した。流動体6は空気(屈折率1.00)とした。屈折率1.45の基板2の上に光閉じ込め用の多層膜25を形成し、多層膜25の表面上に屈折率2.00の材質からなる平板5、位相格子9a及び導波路3aを配置した。平板5と流動体6は、周期aでY軸方向に周期的に配置されている。Y軸と直交する境界面は周期境界面となっており、Y軸方向の構造は無限周期構造と等価である。以下に、具体的な数値を示す。ここで、長さの基準は、フォトニック結晶4の周期aである。
(1)フォトニック結晶4の構造に関する各数値
平板5の屈折率:2.00
平板5の厚さd5:0.30a
流動体6の厚さd6:0.70a
平板5の高さH5:2.00a
平板5のZ軸方向の長さD5:8.30a
平板5の数:4
(2)位相格子9aの構造に関する各数値
周期:2a
高さH9a:2.00a
屈折率:2.00
厚さd9a:1.06a
Z軸方向の長さD9a:0.500a
フォトニック結晶4との間隔R:1.00a
尚、隣接する位相格子9aを構成する各位相格子用平板のうち、隣接するもの同士のY軸方向の中間位置は、フォトニック結晶4の隣接する平板5同士のY軸方向の中間位置と一致している。
(3)導波路3aの構造に関する各数値
高さH3a:2.00a
屈折率:2.00
厚さd3a(Y軸方向の長さ):4.00a
(4)流動体6の特性に関する数値
屈折率:1.00
(5)基板2の特性に関する数値
屈折率:1.45
(6)多層膜25の構造に関する数値
多層膜25は、第1薄膜と第2薄膜とが交互に10周期(20層)積層されて形成されている。尚、第1薄膜は基板2に接しており、第2薄膜はフォトニック結晶4に接している。
(第1薄膜)
屈折率:2.10
高さ(X軸方向の長さ):0.165a
(第2薄膜)
屈折率:1.45
高さ(X軸方向の長さ):0.165a
(7)各軸方向における計算範囲
X軸方向:7.80a(基板2と多層膜25のX軸方向の長さの総和は3.00a、流動体6の平板5からの高さ(X軸方向の長さ)は4.30aである)
Y軸方向:4.00a(=d3a)
Z軸方向:10.00a
(8)入射平面波の特性
真空中における波長λ0:1.06a TM偏向(磁場の方向がX方向)
強度分布はY軸方向のみガウシアンビーム
Y軸方向の長さdY:1.00a
尚、dYは、入射平面波の中心強度が1/e2(13.5%)に低下する距離を指している。ここで、eは自然対数の底(=2.718・・・)である。
上記のように、計算例1において、流動体6の屈折率nFは1.00であり、基板2に形成された多層膜25のフォトニックバンドギャップにより、基板2側へ光が漏れることはないので、伝播光の閉じ込め条件は、上記式(10)を満たすことである。従って、
λZ(=2π/kz)<λ0/nF (10)
を満たしていない場合には、漏れ光が生じる。
計算例1の条件においては、フォトニックバンドのバンド計算より、第2バンドブリルアンゾーン境界上のモードによるフォトニック結晶4内を伝播する電磁波の進行方向における周期λZは、0.896aであり、フォトニック結晶4内を伝播する電磁波の、真空中における波長λ0は、1.06aである。従って、計算例1においては、上記式(10)が満たされることとなり、伝播光は、漏れることなくフォトニック結晶4内を伝播する。
図35は、計算例1のシミュレーション結果を示す図であり、電場の強度分布を示している。図35Aは導波路素子のYZ平面におけるものであり、図35Bは導波路素子のXZ平面におけるものである。図35A及び図35Bは、それぞれ図34A及び図34Bに対応している。図35A及び図35Bにおいて、黒い個所が電場の強度の強い個所である。図35A及び図35Bより、流動体6部分に電場が局在していることが分かり、さらに、第2バンドブリルアンゾーン境界上のモードによる伝播であることも分かる。また、フォトニック結晶4内を波が伝播しており、基板2及びクラッドである流体部6への漏れ光はほとんど見られない。
(計算例2)
図36は、計算例2に用いた導波路素子の構成を示す図であって、図36Aは導波路素子のYZ平面断面図、図36Bは図36AのII−II矢視断面図(導波路素子のXZ平面断面図)である。尚、光の伝播方向はZ軸方向であり、1次元フォトニック結晶の屈折率周期方向はY軸方向である。
計算例2に用いた導波路素子は、図29に示した導波路素子42aの一部分に相当する構成のものである。そのため、図36には、出力側の導波路等は図示されていない。均質導波路である入力側の導波路3aから、真空中における波長λ0の平面波を、位相格子9aを介してフォトニック結晶4に入射させた場合の、フォトニック結晶4中の電磁波の伝播を計算した。流動体6は水(屈折率1.33)とした。屈折率1.45の基板2の上に光閉じ込め用の低屈折率層25a(屈折率1.38)を形成し、低屈折率層25aの表面上に屈折率2.00の材質からなる平板5、位相格子9a及び導波路3aを配置した。平板5と流動体6は、周期aでY軸方向に周期的に配置されている。Y軸と直交する境界面は周期境界面となっており、Y軸方向の構造は無限周期構造と等価である。以下に、具体的な数値を示す。ここで、長さの基準は、フォトニック結晶4の周期aである。
(1)フォトニック結晶4の構造に関する各数値
平板5の屈折率:2.00
平板5の厚さd5:0.50a
流動体6の厚さd6:0.50a
平板5の高さH5:2.00a
平板5のZ軸方向の長さD5:13.0a
平板5の数:4
(2)位相格子9aの構造に関する各数値
周期:2a
高さH9a:2.00a
屈折率:2.00
厚さd9a:0.745a
Z軸方向の長さD9a:0.943a
フォトニック結晶4との間隔R:0.985a
尚、隣接する位相格子9aを構成する各位相格子用平板のうち、隣接するもの同士のY軸方向の中間位置は、フォトニック結晶4の隣接する平板5同士のY軸方向の中間位置と一致している。
(3)導波路3aの構造に関する各数値
高さH3a:2.00a
屈折率:2.00
厚さd3a(Y軸方向の長さ):4.00a
(4)流動体6の特性に関する数値
屈折率:1.33
(5)基板2の特性に関する数値
屈折率:1.45
(6)低屈折率層25aの構造に関する数値
屈折率:1.38
高さH25a(X軸方向の長さ):1.500a
(7)各軸方向における計算範囲
X軸方向:8.00a(基板2と低屈折率層25aのX軸方向の長さの総和は3.00a、位相格子9aの高さH 9a (X軸方向の長さ)又は導波路3aの高さH3a(X軸方向の長さ)は2.00a、流動体6の平板5からの高さ(X軸方向の長さ)は3.00aである)
Y軸方向:4.00a(=d3a)
Z軸方向:15.128a
(8)入射平面波の特性
真空中における波長λ0:1.19a TE偏向(電場の方向がX方向)
強度分布はY軸方向のみガウシアンビーム
Y軸方向の長さdY:1.00a
尚、dYは、入射平面波の中心強度が1/e2(13.5%)に低下する距離を指している。ここで、eは自然対数の底(=2.718・・・)である。
上記のように、計算例2において、流動体6の屈折率nFは1.33、低屈折率層25aの屈折率nSLは1.38であり、nSL>nFとなっている。従って、伝播光の閉じ込め条件は、上記式(10)、及び、nSをnSLに置き換えた上記式(11)を満たすことである。従って、
λZ(=2π/kz)<λ0/nF (10)
aλZ/(λZ 2/4+a2)0.5<λ0/nSL (11)’
を満たしていない場合には、漏れ光が生じる。
計算例2の条件においては、フォトニックバンドのバンド計算より、第2バンドブリルアンゾーン境界上のモードによるフォトニック結晶4内を伝播する電磁波の進行方向における波長λZは、0.824aであり、フォトニック結晶4内を伝播する電磁波の、真空中における波長λ0は、1.19aである。従って、計算例2においては、上記式(10)及び式(11)’式がともに満たされることとなり、伝播光は、漏れることなくフォトニック結晶4内を伝播する。
図37は、計算例2のシミュレーション結果を示す図であり、電場の強度分布を示している。図37Aは導波路素子のYZ平面におけるものであり、図37Bは導波路素子のXZ平面におけるものである。図37A及び図37Bは、それぞれ図36A及び図36Bに対応している。図37A及び図37Bにおいて、黒い個所が電場の強度の強い個所である。図37A及び図37Bより、高屈折率層を節とする第2バンドブリルアンゾーン境界上のモードによる伝播光が得られていることが分かる。また、フォトニック結晶4内を波が伝播しており、低屈折率層25a及びクラッドである流体部6への漏れ光はほとんど見られない。