JPWO2006049201A1 - 植物病害抵抗性向上剤及びその製造方法 - Google Patents

植物病害抵抗性向上剤及びその製造方法 Download PDF

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Abstract

本発明は、食品として安全性の確立されている酵母由来成分を用い、病害や害虫に対する抵抗性を向上させることによって植物体を頑強にし、健苗育成を可能とし、更には高品質高生産を可能とすることが期待される、植物病害抵抗性向上剤を提供することを目的とする。本発明は、酵母細胞壁分解物を含む植物病害抵抗性向上剤を提供する。また、本発明は、酵母細胞壁分解物を含む、植物病害抵抗性を付与するために用いられる特定防除用資材を提供する。また、本発明は、植物の病害抵抗性を向上させるための酵母細胞壁分解物の使用を提供する。また、本発明は、植物活性剤に酵母細胞壁分解物を添加することを特徴とする、該植物活性剤の植物病害抵抗性向上効果を向上させる方法を提供する。また、本発明は、前記植物病害抵抗性向上剤を幼苗及び/又は定植後の苗に与えることを含む栽培方法を提供する。

Description

本発明は、植物の種子・根・茎・葉面もしくは果実に、溶液状態、もしくは固体状態で葉面散布、土壌散布、土壌潅水、土壌潅注等の方法で、又は水耕栽培等の培養液に添加する方法で投与している植物病害抵抗性向上剤に関する。
植物の病害にはウイルスや細菌(バクテリア)、糸状菌(カビ)によるものが知られている。その代表的な植物病害としては、ウイルス病菌によるモザイク病、細菌による斑点細菌病、軟腐病、シュードモナス属菌によるタール病(腐敗病)などがある。また、植物病害の原因となる糸状菌(カビ)としては、各種植物の白絹病の原因となるコルチシウム属菌、苗立枯病、紋枯病などの原因となるリゾクトニア属菌、つる割病、萎ちょう病等の原因となるフザリウム属菌、ナスのすすかび病等の原因となるマイコベラシェラ属菌、トマトのすすかび病等の原因となるサーコポラス属菌、イネのごま葉枯病等の原因となるヘルミントスポリウム属菌、イネのいもち病等の原因となるピリキュラリア属菌、トウガラシ・ビーマンの白斑病等の原因となるステムヒリウム属菌、各種植物の黒斑病の原因となるアルタナリア属菌、トマトの葉かび病の原因となるグランドスポリウム属菌、半身萎ちょう病等の原因となるバーチシリウム属菌、うどんこ病の原因となるオイディウム属菌、オイディプシス属菌、果樹の灰星病等の原因となるモニリア属菌、各種植物の灰かび病等の原因となるボトリチス属菌、ゴボウの黒斑病等の原因となるフィロスディカ属菌、セルリーの斑点病等の原因となるセプトリア属菌、ウリ類のつる枯病等の原因となるアスコキータ属菌、炭そ病の原因となるコレクトリクム属菌・グレオスポリウム属菌、ナスの褐紋病・ゴボウの黒斑病等の原因となるホモプシス属菌、アスパラガスの茎枯病等の原因となるホーマ属菌、イネの立枯病・イチゴの軟腐病等の原因となるリゾープス属菌、各種植物の立枯病の原因となるピシウム属菌のほか、さび病菌、菌核菌、ウドンコ菌などがある。また、ゴルフ場やサッカー場などの芝生植生地の芝生のブラウンパッチ病やラージパッチ病の原因となるリゾクトニア属菌、ピシウム病の原因となるピシウム属菌などがある。
特に、フザリウム属菌は種々多用な植物の病原となっており、ムギの赤かび病、トマトの萎ちょう病、根腐萎ちょう病、イチゴの萎黄病、ゴボウの萎ちょう病、キャベツ・カリフラワーの萎黄病、キュウリのつる割病、ナスの半枯病、メロンのつり割病、スイカのつる割病、ヤマイモの褐色腐敗病、ほうれん草の萎ちょう病、トウモロコシの苗立枯病などがある。
農業生産上において、農作物の健全育成を図ることは重要課題であり、植物の上記病害に対する耐病性を高め、生長を促進するために、各種の肥料、農薬等が用いられている。しかし、化学合成によって製造された農薬等の薬剤は、有害動物などに対し毒性を有する反面、これらの有害動物以外に対しても影響が出てしまう可能性がある。特に、無機化合物などを用いる場合、人体への影響や植物自体に与える影響、或いは果実に対する影響等も考慮して、その使用量などを厳密に制限することが必要であった。特に、食材としての植物の成長剤に関しては農薬等は必要とされる反面、この毒性等に着目し、無農薬により栽培しているところも散見される。また、上記薬剤はいったん散布すると土壌中に長期間残存することが多く、環境汚染や公害等にもつながるという問題がある。このため、環境汚染や公害の問題がなく、植物の耐病性を向上させ、生長を促進させる物質が求められている。
このような状況の下で、サリチル酸又はその誘導体により植物体の質量(地上部、根)を増加させ頑強な植物体を形成させる方法(例えば、特許文献1参照。)が提案されている。また、含硫アミノ酸とD−グルコースとの混合物を投与することにより、植物自身の抗菌物質であるファイトアレキシンの発生を促し、病害抵抗性を高める技術(例えば、特許文献2参照。)が提案されている。これらの化学物質は、上述した農薬とは異なり、環境汚染の危険性は少ないが、動植物に与える影響が懸念される。
一方、近年では天然由来から得られた病害虫・雑草防除作用又は植物生理機能を増進する成分について特定防除資材として認可する政策もとられている。この特定防除資材とは特定農薬とも呼ばれ、農薬取締法に基づき指定された農業用資材である。特定防除資材(特定農薬)は原材料に照らし農作物等、人畜及び水産動植物に害を及ぼすおそれがないことが明らかであると確認された農薬でなければならならず、(1)病害虫や雑草に対する防除効果又は農作物等の生理機能の増進若しくは抑制の効果が確認されていること、(2)農作物等、人畜及び水産動植物への安全性が確認されることが満たされていなければならない。
特開2003−95821号公報 特開2000−95609号公報
従って、本発明は、食品として安全性の確立されている酵母由来成分を用い、病害や害虫に対する抵抗性を向上させることによって植物体を頑強にし、健苗育成を可能とし、更には高品質高生産を可能とすることが期待される、植物病害抵抗性向上剤を提供することを目的とする。
本発明者等は、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、酵母細胞壁をグルカナーゼを含む酵素等で分解して得られた植物病害抵抗性向上剤を幼苗、及び/又は畑へ定植後の苗に与えることにより、植物の病害抵抗性を向上させることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は、酵母細胞壁分解物を含む植物病害抵抗性向上剤を提供する。
また、本発明は、酵母細胞壁分解物を含む、植物病害抵抗性を付与するために用いられる特定防除用資材を提供する。
また、本発明は、植物の病害抵抗性を向上させるための酵母細胞壁分解物の使用を提供する。
また、本発明は、植物活性剤に酵母細胞壁分解物を添加することを特徴とする、該植物活性剤の植物病害抵抗性向上効果を向上させる方法を提供する。
また、本発明は、前記植物病害抵抗性向上剤を幼苗及び/又は定植後の苗に与えることを含む栽培方法を提供する。
なお、本明細書において、「植物」は、植物の語自体から認識され得るもの、例えば穀物、種子、球根、草花、野菜、果実、果樹、香草(ハーブ)、光合成能を有する単細胞生物、分類学上の植物等を意味するものとする。
本発明により、病害や害虫に対する抵抗性を向上させ、健苗育成を可能とし、更には高品質高生産を可能とすることが期待される、植物病害抵抗性向上剤を提供することができる。
本発明の植物病害抵抗性向上剤は酵母細胞壁分解物を含む。
酵母細胞壁分解物は、例えば酵母細胞壁を、グルカナーゼを含む酵素で処理することによって得ることができる。酵母細胞壁として、酵母そのものを用いてもよく、又は自己消化法(酵母菌体内に本来あるタンパク質分解酵素等を利用して菌体を可溶化する方法)、酵素分解法(微生物や植物由来の酵素製剤を添加して可溶化する方法)、熱水抽出法(熱水中に一定時間浸漬して可溶化する方法)、酸あるいはアルカリ分解法(種々の酸あるいはアルカリを添加して可溶化する方法)、物理的破砕法(超音波処理や、高圧ホモジェナイズ法、グラスビーズ等の固形物と混合して混合・磨砕することにより破砕する方法)、凍結融解法(凍結・融解を1回以上行うことにより破砕する方法)等により得られた細胞壁、あるいは酵母から酵母エキスを抽出した後の残渣を用いてもよい。
本発明で使用する酵母としては、分類学上あるいは工業利用上酵母と称されるものであれば特に制限はなく、ビール酵母、パン酵母、清酒酵母、ウイスキー酵母、焼酎酵母、その他アルコール発酵用酵母等が挙げられる。
酵母細胞壁を分解する酵素としては、グルカナーゼ、α−アミラーゼ、β−アミラーゼ、グルコアミラーゼ、プルナラーゼ、トランスグルコシダーゼ、デキストラナーゼ、グルコースイソメラーゼ、セルラナーゼ、ナリンギナーゼ、ヘスペリジナーゼ、キシラナーゼ、ヘルセミラーゼ、マンナナーゼ、ペクチナーゼ、インベルダーゼ、ラクターゼ、キチナーゼ、リゾチーム、イヌリナーゼ、キトサナーゼ、α−ガラクトシダーゼ、プロテアーゼ、パパイン、ペプチダーゼ、アミノペプチダーゼ、リパーゼ、ホスホリパーゼ、フィターゼ、酸性フォスファターゼ、ホスホジエステラーゼ、カタラーゼ、グルコースオキシダーゼ、ペルオキシダーゼ、タンナーゼ、ポリフェノールオキシダーゼ、デアミナーゼ、ヌクレアーゼなどの工業的に利用できる酵素を用いることができる。例えばグルカナーゼを含む任意の酵素を用いることができる。例えば、市販されているツニカーゼ(大和化成(株)製)、YL-NL及びYL-15(いずれも天野エンザイム(株)製)等を用いることができる。酵母細胞壁を分解する酵素の添加量は、酵母細胞壁乾物質量に対し、一般に0.00001〜10000質量%、好ましくは0.01〜10質量%、より好ましくは0.1〜2質量%である。
前記酵素により酵母細胞壁を分解する際の条件は、使用する酵素の種類、酵素の添加量等に応じて、当業者によって適宜決定すればよい。
一方、酵母細胞壁の分解には、酵素分解法以外に、50MPaの高圧ホモジナイザーでの分解や、熱水抽出、酵母細胞壁分解菌(例えばPseudomonas paucimobilis、Arthrobacter luteusなど)を接種し酵母細胞壁分解物を得ることができる。
前記酵母細胞壁分解物を幼苗、及び/又は畑へ定植後の苗に与えることにより、病害や害虫に対する抵抗性を向上させることができる。具体的には、ウイルス病菌によるモザイク病、細菌による斑点細菌病、軟腐病、シュードモナス属菌によるタール病(腐敗病)などに対する抵抗性を向上させることができる。また、糸状菌(カビ)であるコルチシウム属菌による各種植物の白絹病、リゾクトニア属菌による苗立枯病、紋枯病等、フザリウム属菌によるつる割病、萎ちょう病等、マイコベラシェラ属菌によるナスのすすかび病等、サーコポラス属菌によるトマトのすすかび病等、ヘルミントスポリウム属菌によるイネのごま葉枯病等、ピリキュラリア属菌によるイネのいもち病等、ステムヒリウム属菌によるトウガラシ・ビーマンの白斑病等、アルタナリア属菌による各種植物の黒斑病、グランドスポリウム属菌によるトマトの葉かび病、バーチシリウム属菌による半身萎ちょう病等、うどんこ病の原因となるオイディウム属菌、オイディオプシス属菌等、モニリア属菌による果樹の灰星病等、ボトリチス属菌による各種植物の灰かび病等、フィロスディカ属菌によるゴボウの黒斑病等、セプトリア属菌によるセルリーの斑点病等、アスコキータ属菌によるウリ類のつる枯病等、コレクトリクム属菌・グレオスポリウム属菌による炭そ病、ホモプシス属菌によるナスの褐紋病・ゴボウの黒斑病等、ホーマ属菌によるアスパラガスの茎枯病等、リゾープス属菌によるイネの立枯病・イチゴの軟腐病等、ピシウム属菌による各種植物の立枯病のほか、さび病菌、菌核菌、ウドンコ菌などによる病害に対する抵抗性を向上させることができる。
特に、細菌による斑点細菌病、軟腐病、シュードモナス属菌によるタール病(腐敗病)、フザリウム属菌によるつる割病、萎ちょう病等に対する抵抗性を向上させるのに効果的である。
前記酵母細胞壁分解物は、単独で用いてもよく、また農薬、肥料、園芸用培養土等と組み合わせて用いてもよい。
また、本発明の植物病害抵抗性向上剤の形態は、液状、粉状、顆粒状等のいずれの形態で製品化してもよい。また、散布に関しては、蒸気製品を直接散布しても、あるいは水等で適当な濃度になるように希釈して散布してもよい。さらに、散布方法も特に限定されず、例えば、植物の種子、葉、茎等に直接散布する方法、植物を栽培する培養期や土壌中に散布する方法等のいずれであってもよい。なお、肥料中に配合する場合、肥料としては、窒素、燐酸、カリウムを含有する化学肥料、油カス、魚カス、骨粉、海藻粉末、アミノ酸、糖類、ビタミン類などの有機質肥料等、その種類は限定されない。
本発明の植物病害抵抗性向上剤には、酵母細胞壁分解物の病害や害虫に対する抵抗性を向上する効果を妨げない範囲で、水溶性溶剤、界面活性剤等の成分を配合することができる。
水溶性溶剤としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコールなどの2価アルコールや、グリセリンのような3価アルコール等が挙げられる。
界面活性剤としては、非イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤、両性界面活性剤及び陰イオン界面活性剤等水に溶解するものが使用できる。
非イオン界面活性剤としては、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレングリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、樹脂酸エステル、ポリオキシアルキレン樹脂酸エステル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル、アルキル(ポリ)グリコシド、ポリオキシアルキレンアルキル(ポリ)グリコシド等が挙げられる。好ましくは、窒素原子を含まないエーテル基含有非イオン界面活性剤及びエステル基含有非イオン界面活性剤が挙げられる。特に好ましくは、ポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンポリグリセリン脂肪酸エステル等のオキシアルキレン基を含むエステル基含有非イオン界面活性剤や、アルキル(ポリ)グリコシド等の糖骨格を有する窒素原子を含まないエーテル基含有非イオン界面活性剤が挙げられる。
陰イオン界面活性剤としては、カルボン酸系、スルホン酸系、硫酸エステル系及びリン酸エステル系界面活性剤が挙げられる。好ましくは、カルボン酸系及びリン酸エステル系界面活性剤である。カルボン酸系界面活性剤としては、例えば炭素数6〜30の脂肪酸又はその塩、多価カルボン酸塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルカルボン酸塩、ポリオキシアルキレンアルキルアミドエーテルカルボン酸塩、ロジン酸塩、ダイマー酸塩、ポリマー酸塩、トール油脂肪酸塩等が挙げられる。スルホン酸系界面活性剤としては、例えばアルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩、ジフェニルエーテルスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸の縮合物塩、ナフタレンスルホン酸の縮合物塩等が挙げられる。硫酸エステル系界面活性剤としては、例えばアルキル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアルキル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩、トリスチレン化フェノール硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレンジスチレン化フェノール硫酸エステル塩、アルキルポリグリコシド硫酸塩等が挙げられる。リン酸エステル系界面活性剤として、例えばアルキルリン酸エステル塩、アルキルフェニルリン酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアルキルリン酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルリン酸エステル塩等が挙げられる。前記塩としては、例えば金属塩(Na、K、Ca、Mg、Zn等)、アンモニウム塩、アルカノールアミン塩、脂肪族アミン塩等が挙げられる。
両性界面活性剤としては、アミノ酸系、ベタイン系、イミダゾリン系、アミンオキサイド系が挙げられる。アミノ酸系としては、例えばアシルアミノ酸塩、アシルサルコシン酸塩、アシロイルメチルアミノプロピオン酸塩、アルキルアミノプロピオン酸塩、アシルアミドエチルヒドロキシエチルメチルカルボン酸塩等が挙げられる。ベタイン系としては、アルキルジメチルベタイン、アルキルヒドロキシエチルベタイン、アシルアミドプロピルヒドロキシプロピルアンモニアスルホベタイン、アシルアミドプロピルヒドロキシプロピルアンモニアスルホベタイン、リシノレイン酸アミドプロピルジメチルカルボキシメチルアンモニアベタイン等が挙げられる。イミダゾリン系としては、アルキルカルボキシメチルヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、アルキルエトキシカルボキシメチルイミダゾリウムベタイン等が挙げられる。アミンオキサイド系としては、アルキルジメチルアミンオキサイド、アルキルジエタノールアミンオキサイド、アルキルアミドプロピルアミンオキサイド等が挙げられる。
上記界面活性剤は、単独で、又は二種以上混合して使用してもよい。
本発明の植物病害抵抗性向上剤は、更に、植物病害抵抗性を付与するための薬剤として、ペプチド、多糖類、糖タンパク質及び脂質から選ばれるエリシター活性を有する物質の一種以上を含有するもの等を添加することもできる。エリシター活性とは、植物体内におけるファイトアレキシン等の抗菌性物質の合成を誘発する作用である。
エリシター活性を有する物質は、植物に固有の物質が種々知られており、対象とする植物に応じて適宜選定すればよいが、グルカンオリゴ糖、キチンオリゴ糖、キトサンオリゴ糖、ヘプタ−β−グルコシド、システミン、カゼインタンパクのキモトリプシン分解物などの外因性エリシター、オリゴガラクチュロン酸、ヘキソース、ウロン酸、ペントース、デオキシヘキソースなどの内因性エリシター、その他に、ショ糖エステル、カルボキシメチルセルロース(CMC)、カラギーナン、真菌類の菌糸分解物、海藻抽出物などが挙げられ、水溶性で安定供給可能なものが好ましい。
本発明の植物病害抵抗性向上剤は、更に、植物成長調節剤を添加することもできる。植物成長調節剤としては、オーキシン拮抗剤としては、マレイン酸ヒドラジド剤、ウニコナゾール剤等、オーキシン剤としては、インドール酪酸剤、1-ナフチルアセトアミド剤、4-CPA剤等、サイトカイニン剤としては、ホルクロルフェニュロン剤等、ジベレリン剤としてはジベレリン剤等、その他のわい化剤としては、ダミノジット剤等、蒸散抑制剤としては、パラフィン剤等、その他の植物成長調整剤としては、コリン剤等、生物由来の植物成長調整剤としては、クロレラ抽出物剤等、エチレン剤としては、エテホン剤等が挙げられる。
本発明の植物病害抵抗性向上剤は、酵母細胞壁分解物を乾物として0.00001〜30質量%、特に0.001〜0.1質量%含有することが好ましい。また、本発明の組成物は、好ましくは酵母細胞壁分解物を乾物として10アール当たり10〜800gで与えられ、より好ましくは10アールあたり50〜250gで与えられる。上記範囲内で与えることにより、より有効な植物病害抵抗性を得ることができる。
(酵母細胞壁液の調製)
ビール醸造後の酵母を原料とし、酵素分解法により得られた、乾物濃度15質量%の酵母液1.5Lから遠心分離により上清を除去し、酵母細胞壁スラリー1000gを得た。水500gを加え、pHを5.5に調整後、乾物質量に対し0.5%のYL-15(天野エンザイム)を添加し、55℃で18時間反応させ、80℃で10分間処理した後に酵母細胞壁液1500gを得た。
(実施例1)
育苗用ポッドにレタス種子を播種し、発芽直後の幼苗を、水道水に浸潤させた。2週間後、水道水に浸潤し、畑への定植を行った。定植後、2週間ごとに3回、乾物濃度250ppmに調整した酵母細胞壁液を葉面散布し、定植から2ヵ月後、無作為に選抜した60株について、軟腐病、タール病、斑点細菌病の発症率を調査した。
(実施例2)
ポッドにレタス種子を播種し、発芽直後の幼苗を、乾物濃度250ppmに調整した上記酵母細胞壁液に浸潤させた。2週間後、再度乾物濃度250ppmに調整した酵母細胞壁液に浸潤し、畑への定植を行った。定植から2ヵ月後、無作為に選抜した60株について、軟腐病、タール病、斑点細菌病の発症率を調査した。
(実施例3)
育苗用ポッドにレタス種子を播種し、発芽直後の幼苗を、乾物濃度250ppmに調整した上記酵母細胞壁液に浸潤させた。2週間後、再度乾物濃度250ppmに調整した酵母細胞壁液に浸潤し、畑への定植を行った。定植後、2週間ごとに3回、乾物濃度250ppmに調整した酵母細胞壁液を葉面散布し、定植から2ヵ月後、無作為に選抜した60株について、軟腐病、レタス腐敗病、斑点細菌病の発症率を調査した。
(比較例1)
育苗用ポッドにレタス種子を播種し、発芽直後の幼苗を、水道水に浸潤させた。2週間後、水道水に浸潤し、畑への定植を行った。定植から2ヵ月後、無作為に選抜した60株について、軟腐病、タール病、斑点細菌病の発症率を調査した。
(結果)
表1に示した結果から以下の事が明らかである。本発明の植物病害抵抗性向上剤を幼苗に適用することにより、比較例と比べると、軟腐病、タール病、斑点細菌病の発症率が低下した。また、畑へ定植後に本発明の植物病害抵抗性向上剤を適用することにより、軟腐病、斑点細菌病の発症率が低下した。
本発明の植物病害抵抗性向上剤は、優れた植物の増強効果をもたらす。例えば、実施例で示すように、各種病害への抵抗性を向上させ、頑強な植物体を得ることができる。
(実施例4)
育苗用ポッドにトマト(品種:ルネッサンス)種子を播種し、発芽直後の幼苗を、乾物濃度10ppmに調整した上記酵母細胞壁液を4ml/根に潅注した後、定植した。定植後、乾物濃度100ppmに調整した酵母細胞壁液を1週間毎に1株あたり60〜100ml葉面散布し、定植から3ヵ月後、無作為に一株を選抜し、フザリウム(Fusarium)属菌感染調査を行った。
(比較例2)
育苗用ポッドにトマト(品種:ルネッサンス)種子を播種し、発芽直後の幼苗を、水道水に浸潤させた後、定植を行った。定植から3ヶ月後、無作為に一株を選抜し、フザリウム(Fusarium)属菌感染調査を行った。
(フザリウム(Fusarium)属菌感染調査方法)
実施例4及び比較例2から得られたそれぞれの株(茎長約70cmに成長)の根部、及び地上5〜10cmの茎部、地上20〜25cmの茎部、地上30〜35cmの茎部を水平に切断した。0.5%次亜塩素酸ナトリウム溶液で表面殺菌後、茎部は導管部が露出するように切断し、フザリウム(Fusarium)属菌選択用合成培地である駒田培地(表2)上で培養し、3日後に観察を行った。
(結果)
フザリウム(Fusarium)属菌選択培地である駒田培地上で培養試験を行ったところ、酵母細胞壁液に浸潤(まはた葉面散布)しなかった比較例2群では根から地上35cmの茎部に至るまでフザリウム属菌に汚染されていた。酵母細胞壁液に浸潤した実施例4群では、フザリウム属菌の生育する土壌に近い根や地上5〜10cmの茎部ではフザリウム属菌の汚染が見られたが、地上20〜25cmの茎部、地上30〜35cmの茎部ではフザリウム属菌の汚染はほとんどみられず、酵母細胞壁分解物によりフザリウム属菌の侵入が阻害されることが明らかとなった。
(実施例5)
育苗用ポッドにトマト(品種:ルネッサンス)種子を播種し育苗後、乾物濃度10ppmに調整した上記酵母細胞壁液を4ml/根に潅注させた後、定植した。定植から4ヵ月後のうどんこ病の発症率を調査した。
(実施例6)
育苗用ポッドにトマト(品種:ルネッサンス)種子を播種し育苗後、乾物濃度10ppmに調整した上記酵母細胞壁液を4ml/根に潅注した後、定植した。定植後、乾物濃度100ppmに調整した酵母細胞壁液を1週間毎に1株あたり60〜100ml葉面散布し、定植から4ヵ月後のうどんこ病の発症率を調査した。
(比較例3)
育苗用ポッドにトマト(品種:ルネッサンス)種子を播種し育苗後、定植を行った。定植から4ヵ月後のうどんこ病の発症率を調査した。
(病徴の判定)
実施例5、実施例6、比較例3のそれぞれの群から8株を無作為に選択し、表4に示す判定基準で1株ごとのうどんこ病発症率を判定した。その判定結果の平均値を図2に示す。
(結果)
酵母細胞壁分解物を施用または葉面散布により、トマトうどんこ病の発症が抑制されることが明らかとなった。
(実施例7)
150ml容ポッドにベントグラス(品種:ハイランド)を30mgずつ播種し、発芽後3〜4日に1回の割合でシバの草丈が1cmになるように刈った。播種後7日目に乾物濃度250ppmに調整した前記酵母細胞壁液を20mlずつ株元に潅注した。発芽後、3週間目に1.5%寒天培地で培養したブラウンパッチの病原菌(Rhizoctonia solani AG2-2IIIB)を接種した。病原菌を接種後、25℃で栽培し、3週間後の発病率と防除価を算出した。
(比較例4)
150ml容ボトルにベントグラス(品種:ハイランド)を30mgずつ播種し、発芽後3〜4日に1回の割合でシバの草丈が1cmになるように刈った。発芽後、3週間目に1.5%寒天培地で培養したブラウンパッチの病原菌(Rhizoctonia solani AG2-2IIIB)を接種した。病原菌を接種後、25℃で栽培し、3週間後の発病度と防除価を算出した。
実施例7及び比較例4のそれぞれの群から5株を無作為に選択し、表5に示す判定基準で1株ごとの発病度を判定した。その結果を表6に示す。
(発病度の算定方法)
発病度=(0×A+1×B+2×C+3×D+4×E)/調査個体(A+B+C+D+E)
(防除価の算定方法)
防除価={(X−Y)/X}×100
X:比較例4の発病度 Y:実施例7の発病度
表6の結果から、防除価は70と算出され、高い防除価を示している。発病度及び防除価から、酵母細胞壁分解物の施用により、シバのRhizoctonia solani感染による発病が抑制されることが明らかとなった
(実施例8)
キュウリ(トキワ地這)を寒天培地(1.5%)に播種し、7日後に乾物濃度250ppmに調整した酵母細胞壁液を100μlずつキュウリの根に接種した。48時間後、リゾクトニア(Rhizoctonia solani AG4 HGII Mat7)を含む寒天培地(直径6mm)に根を置き、10日後に発病の有無を確認した。
(比較例5)
キュウリ(トキワ地這)を寒天培地(1.5%)に播種し、7日後に蒸留水を100μlずつキュウリの根に接種した。48時間後、リゾクトニア(Rhizoctonia solani AG4 HGII Mat7)を含む寒天培地(直径6mm)を根に置き、10日後に発病の有無を確認した。
実施例8及び比較例5のそれぞれの群から10株を無作為に選択し、発病率を算定した。胚軸部が枯れた株を発病したと判定し、発病率は全体の株に対する発病した株の割合から算定した。
表7の結果から、酵母細胞壁分解物の施用により、キュウリのリゾクトニア感染による発病が抑制されることが明らかとなった
(パン酵母細胞壁液の調製:酵素分解法)
パン酵母を原料とし、酵素分解法により得られた、乾物濃度15質量%の酵母液1.5Lから遠心分離により上清を除去し、酵母細胞壁スラリー1000gを得た。水500gを加え、pHを5.5に調整後、乾物質量に対し0.5%のYL-15(天野エンザイム)を添加し、55℃で18時間反応させ、80℃で10分間処理した後に酵母細胞壁液1500gを得た。
(パン酵母細胞壁液の調製:熱水抽出法)
パン酵母を原料とし、酵素分解法により得られた、乾物濃度15質量%の酵母液1.5Lから遠心分離により上清を除去し、酵母細胞壁スラリー1000gを得た。水500gを加え、80℃で18時間反応させ、酵母細胞壁液1500gを得た。
(海洋酵母細胞壁液の調製:酵素分解法)
海洋酵母を原料とし、酵素分解法により得られた乾物濃度15質量%の酵母液1.5Lから遠心分離により上清を除去し、酵母細胞壁スラリー1000gを得た。水500gを加え、pHを5.5に調整後、乾物質量に対し0.5%のYL-15(天野エンザイム)を添加し、55℃で18時間反応させ、80℃で10分間処理した後に酵母細胞壁液1500gを得た。
(実施例9)
トマト(ハウス桃太郎)を寒天培地(1.5%)に播種し、7日後に乾物濃度250ppmに調整した酵母細胞壁液を100μlずつトマトの根に接種した。48時間後、トマトの根の組織をフザリウム(Fusarium oxysporum f.sp.radicis-lycopersici)菌の胞子(105/mL)混和ポテトデキストロース寒天培地(Difco社製)に置き、5日後に菌糸の生育を観察した。
(実施例10)
トマト(ハウス桃太郎)を寒天培地(1.5%)に播種し、7日後に乾物濃度250ppmに調整した酵素分解法で調製したパン酵母細胞壁液を100μlずつトマトの根に接種した。48時間後、トマトの根の組織をフザリウム(Fusarium oxysporum f.sp.radicis-lycopersici)菌の胞子(105/mL)混和ポテトデキストロース寒天培地(Difco社製)に置き、5日後に菌糸の生育を観察した。
(実施例11)
トマト(ハウス桃太郎)を寒天培地(1.5%)に播種し、7日後に乾物濃度250ppmに調整した熱水抽出法で調製したパン酵母細胞壁液を100μlずつトマトの根に接種した。48時間後、トマトの根の組織をフザリウム(Fusarium oxysporum f.sp.radicis-lycopersici)菌の胞子(105/mL)混和ポテトデキストロース寒天培地(Difco社製)に置き、5日後に菌糸の生育を観察した。
(実施例12)
トマト(ハウス桃太郎)を寒天培地(1.5%)に播種し、7日後に乾物濃度250ppmに調整した酵素分解法で調製した海洋酵母細胞壁液を100μlずつトマトの根に接種した。48時間後、トマトの根の組織をフザリウム(Fusarium oxysporum f.sp.radicis-lycopersici)菌の胞子(105/mL)混和ポテトデキストロース寒天培地(Difco社製)に置き、5日後に菌糸の生育を観察した。
(比較例6)
トマト(ハウス桃太郎)を寒天培地(1.5%)に播種し、7日後に蒸留水を100μlずつトマトの根に接種した。48時間後、トマトの根の組織をフザリウム(Fusarium oxysporum f.sp.radicis-lycopersici)菌の胞子(105/mL)混和ポテトデキストロース寒天培地(Difco社製)に置き、5日後に菌糸の生育を観察した。
実施例9〜12及び比較例6について、表8に示す判定基準で菌糸の生育を判定した。
(結果)
酵母細胞壁分解物、パン酵母細胞壁分解物、海洋酵母細胞壁分解物の施用により、フザリウム菌菌糸の生育を抑制することが明らかになった。
駒田培地上での培養結果を示す写真である。 うどんこ病の発症率の判定結果である。

Claims (8)

  1. 酵母細胞壁分解物を含む植物病害抵抗性向上剤。
  2. 酵母細胞壁分解物を乾物として0.00001〜30質量%含む請求項1記載の植物病害抵抗性向上剤。
  3. 酵母細胞壁分解物を有効成分として含む請求項1記載の植物病害抵抗性向上剤。
  4. さらに植物病害抵抗性を付与するための薬剤を含む請求項1〜3のいずれか1項に記載の植物病害抵抗性向上剤。
  5. 酵母細胞壁分解物を含む、植物病害抵抗性を付与するために用いられる特定防除用資材。
  6. 植物の病害抵抗性を向上させるための酵母細胞壁分解物の使用。
  7. 植物活性剤に酵母細胞壁分解物を添加することを特徴とする、該植物活性剤の植物病害抵抗性向上効果を向上させる方法。
  8. 請求項1〜4のいずれか1項に記載の植物病害抵抗性向上剤又は請求項5に記載の特定防除用資材を幼苗及び/又は定植後の苗に与えることを含む栽培方法。
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