JPWO2006009209A1 - 慢性炎症性肺疾患を予防もしくは治療する薬剤 - Google Patents

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Abstract

2−{N−[4−(4−クロロベンゼンスルホニルアミノ)ブチル]−N−{3−[(4−イソプロピル−2−チアゾリル)メトキシ]ベンジル}}スルファモイル安息香酸またはその薬学的に許容し得る塩を、肺組織に吸入投与することにより、急性および慢性間質性肺炎または肺線維症や、肺気腫、慢性気管支炎などの慢性閉塞性肺疾患を有効に予防もしくは治療することができる。

Description

本発明は、2−{N−[4−(4−クロロベンゼンスルホニルアミノ)ブチル]−N−{3−[(4−イソプロピル−2−チアゾリル)メトキシ]ベンジル}}スルファモイル安息香酸またはその薬学的に許容し得る塩を有効成分とする、間質性肺炎、肺線維症あるいは肺気腫、慢性気管支炎などの慢性閉塞性肺疾患等の慢性炎症性肺疾患を予防もしくは治療する薬剤に関する。
呼吸器疾患は、間質性肺炎、慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease、COPD)、呼吸器感染症、アレルギー性喘息、肺癌等に分類される。このうち、間質性肺炎とCOPD は、マクロファージや好中球を主体とする慢性炎症性肺疾患と言えるものである。
間質性肺炎は、肺間質組織の炎症性病変が主体となる肺疾患で、臨床的分類において、急性および慢性間質性肺炎に分けられる。急性間質性肺炎(acute interstitial pneumonia、AIP)は急激な呼吸不全を来たし、致死率の高い肺疾患である。
慢性間質性肺炎(chronic interstitial pneumonia、CIP)は、慢性に進行する咳、呼吸不全を特徴とし、進行性の肺線維症(pulmonary fibrosis、PF)を伴う疾患である。何らかの起因物質が炎症性細胞やリンパ球を肺胞壁に動員することで急性炎症を誘発し、この炎症が持続すると肺胞壁ならびに肺胞が破壊して慢性炎症に移行する。その後、炎症の修復過程において、結合組織の過剰な増殖が起こり、肺線維症に進展すると考えられている。この間質性肺炎は、膠原病などの自己免疫疾患によるもの、感染症による反応、ブレオマイシン(Bleomycin、BLM)のような抗がん剤や放射線の副作用、また、異物吸入によるなど、原因の明確な二次性間質性肺炎と、殆どの場合が原因が明らかでない特発性(idiopathic)間質性肺炎に分類される。
原因が明らかなものは、まずその要因を取り除く事で改善あるいは進行を抑える事が出来る。一方、特発性間質性肺炎の確立された治療法はないが、一時的に炎症を抑えるという点からステロイド剤や免疫抑制剤が使用されている。しかしながら、これらの薬剤はその副作用の問題や、また、病態の進行状態によっては十分な効果が得られていないのが現状である。
COPDは、慢性気管支炎、肺気腫または両者の併発により誘発される閉塞性換気障害を特徴とし、ゆっくり進行し、不可逆的で、世界的に羅患率および死亡率の高い疾患である。慢性気管支炎は、慢性または反復に喀出される気道分泌物の増加状態が少なくとも2年以上継続する疾患である。肺気腫は、終末細気管支より末梢の気腔が異常に拡大し、肺胞壁の破壊を伴う疾患である。喫煙や大気汚染物質により活性化した気道上皮細胞やマクロファージから、サイトカインやケモカインが産生・遊離され、マクロファージ、好中球やCD8陽性細胞などの炎症性細胞が肺に集積するとともに活性化し、種々のプロテアーゼ、オキシダントおよび脂質メディエーターを過剰に産生する結果、結合組織の破壊や粘液分泌の亢進が引き起こされると考えられている。
現在、COPDに対する薬物治療として、β2刺激薬、抗コリン薬およびテオフィリン製剤等の気管支拡張作用を有する薬剤が、症状の一時的な予防または抑制のために用いられている。また、炎症を抑制する目的でステロイドが使用される。しかし、複数の大規模臨床試験で検討されたが、肺機能の低下を長期に亘って改善できなかったことが幾つかの文献で報告されている(非特許文献1、2)。
このように、間質性肺炎やCOPDは炎症性病態でありながら、炎症を抑制できる薬剤がない。ステロイドが効かない理由は、これらの病態が好中球性炎症であるからである。好中球やマクロファージは、異物、プロスタノイド、サイトカインやケモカインなどの各種メディエーター刺激により活性化する。活性化することで、活性酸素を産生し、エラスターゼなどのタンパク分解酵素を放出するとともに、サイトカインを放出して炎症反応を増強する。そこで、インターロイキン(IL)-1、IL-8、腫瘍壊死因子(TNF)-α、単球走化性因子(MCP)-1、ロイコトリエン(LT)B4などの各種サイトカインや活性酵素などの炎症性メディエーターに注目した予防治療剤の検討が行われている。
肺線維症患者の末梢血液中や気管支肺胞洗浄液中には、脂質性メディエーターであるペプチドロイコトリエン(pLT)、プロスタグランディン(PG)やトロンボキサンB2(TXB2)等のアラキドン酸代謝物が多く含まれ、本疾患形成に関与していることが示唆されている(非特許文献3)。肺線維症患者の肺病態像が類似したBLM誘発肺線維症マウスでは、LTB4、ペプチドロイコトリエン(LTC4、LTD4およびLTE4)の濃度が肺洗浄液中では高くなり、その産生酵素であるリポキシゲナーゼ阻害剤が肺線維化を抑制することが示され、これらのメディエーターが発症に促進的に関与していることが明らかになった(非特許文献4)。また、アラキドン酸カスケードの起点となるホスホリパーゼ A2 遺伝子を破壊したマウスでは、BLM誘発性肺線維症モデルにおいて、肺線維症が抑制されることが報告されている(非特許文献5)。さらに、トロンボキサン合成酵素阻害剤は、BLM誘発性肺線維症モデルにおいて、コラーゲンmRNA発現を抑制することが報告されている(非特許文献6)。しかし、LTB4、pLTやアラギドン酸代謝物の作用を直接阻害することが、間質性肺炎の予防治療効果を発揮するかどうかに関する報告は一切ない。
COPD患者の気管支肺胞洗浄液中にはLTB4、IL-8が多く含まれ、血中の白血球で有意にTNF-α産生が増加する。COPDの原因であるタバコ煙の抽出液は、肺線維芽細胞から好中球やマクロファージの走化性因子の産生を促進させる。これらのメディエーターは、炎症部位に好中球を遊走させ、炎症を促進させる。一方、LTD4やTXA2の代謝物TXB2は気管支肺胞洗浄液中には見出されず、COPDに関与しているという直接的な報告はない。今まで、LTD4受容体アンタゴニストであるモンテルカスト(montelukast)やザフィルルカスト(zafirlukast)あるいはTXA2受容体アンタゴニストであるセラトロダスト(seratrodast)がCOPD患者の呼吸機能を改善し、QOLを向上させることが報告されている(非特許文献7、非特許文献8、特許文献1)。しかし、これらの薬剤は、COPDにおける炎症性病態の予防または治療に対する有効性を証明するに至っていない。
LTD4およびTXA2の両メディエーターの受容体に対し拮抗作用を持つ化合物として、2−{N−[4−(4−クロロベンゼンスルホニルアミノ)ブチル]−N−{3−[(4−イソプロピル−2−チアゾリル)メトキシ]ベンジル}}スルファモイル安息香酸などの2−スルファモイル安息香酸誘導体が知られている(特許文献2)。しかしながら、これらの化合物が、間質性肺炎やCOPDなどの慢性炎症性肺疾患の予防もしくは治療剤となり得るか否かは全く不明である。
国際公開第00/30633号パンフレット 国際公開第98/57935号パンフレット Pauwels RA. et al., N Engl J Med, 340: 1948-1953(1999) Vestbo J. et al., Lancet, 353: 1819-1823(1999) 北村諭、他、日内学会誌、80: 1508-1513 (1991) Nagase T. et al., Nature Medicine, 8: 480-484 (2002) Golden M. et al., Am J Respir Crit Care Med, 165: 229-235 (2002) Sato Y. et al., Biomed Pharmacother, 58: 381-387(2004) Rubinstein I. et al., Repir Med, 98: 134-138(2004) Luis J. et al., Pulm Pharmacol Ther, 16: 305-311 (2003)
そこで本発明は、上記のごとき従来技術に鑑みて、間質性肺炎、COPD などの慢性炎症性肺疾患の予防もしくは治療剤を提供することを目的とする。
本発明者は、間質性肺炎、COPDなどの慢性炎症性肺疾患の予防もしくは治療剤を得ることを目的として鋭意研究した結果、LTD4/TXA2の2重アンタゴニスト(dual antagonist)として知られる2−{N−[4−(4−クロロベンゼンスルホニルアミノ)ブチル]−N−{3−[(4−イソプロピル−2−チアゾリル)メトキシ]ベンジル}}スルファモイル安息香酸が、慢性炎症性肺疾患の重要な促進因子であるLTB4による好中球の遊走を抑制すること、さらに間質性肺炎モデルおよびCOPDモデルで病態を顕著に改善することを見出し、本発明を完成させた。
従って、本発明は、2−{N−[4−(4−クロロベンゼンスルホニルアミノ)ブチル]−N−{3−[(4−イソプロピル−2−チアゾリル)メトキシ]ベンジル}}スルファモイル安息香酸またはその薬学的に許容し得る塩を有効成分として含有する、慢性炎症性肺疾患を予防もしくは治療するための薬剤に関する。
更に、本発明は、慢性炎症性肺疾患を予防もしくは治療するための薬剤を製造するための、2−{N−[4−(4−クロロベンゼンスルホニルアミノ)ブチル]−N−{3−[(4−イソプロピル−2−チアゾリル)メトキシ]ベンジル}}スルファモイル安息香酸またはその薬学的に許容し得る塩の使用に関する。
更に、本発明は、ヒトを含む哺乳動物における慢性炎症性肺疾患を予防もしくは治療する方法であって、2−{N−[4−(4−クロロベンゼンスルホニルアミノ)ブチル]−N−{3−[(4−イソプロピル−2−チアゾリル)メトキシ]ベンジル}}スルファモイル安息香酸またはその薬学的に許容し得る塩を該哺乳動物に投与することを含む上記方法に関する。
以後に記載する実施例に示されるように、LTB4 誘発ヒト好中球遊走に対して、本発明の薬剤の有効成分である2−{N−[4−(4−クロロベンゼンスルホニルアミノ)ブチル]−N−{3−[(4−イソプロピル−2−チアゾリル)メトキシ]ベンジル}}スルファモイル安息香酸(以下、KP-496 と略記することもある)は、濃度依存的な抑制作用を示した。
以後に記載する実施例に示されるように、マウス BLM 誘発性肺線維症モデルに対して、本発明の薬剤の有効成分であるKP-496は、BLM 惹起による好中球、好酸球およびリンパ球等の炎症性細胞の浸潤を有意に抑制した。また、BLMで惹起された肺組織の病理組織学的変化に対し、本発明の上記有効成分は、急性炎症ならびに慢性炎症を明らかに軽減し、本疾患モデルの最終的な病態像である線維化への進展も明らかに抑制した。さらに、線維成分の特異的なマーカーであるヒドロキシプロリンが肺組織中において、明らかに減少した。これらの結果から、本発明の上記有効成分は、BLM 惹起による肺組織における初期の急性炎症を軽減し、その後の慢性炎症さらには線維化を抑制でき、従って、急性および慢性間質性肺炎または肺線維症の予防もしくは治療剤として極めて有効である。
また、以後に記載する実施例に示されるように、ブタ膵臓エラスターゼ(PPE)誘発マウス肺気腫モデルにおいて、本発明の有効成分であるKP-496は、肺気腫形成に対して改善作用を示した。投与開始時期を変えた実験においても、本発明の上記有効成分は、肺気腫形成に対して改善作用を示した。さらに、五酸化バナジウム誘発マウス気管支炎モデルにおいて、本発明の上記有効成分は、肺内気管支(葉気管支)における炎症に伴う粘液過剰分泌を軽減した。
これらの結果から、本発明の上記有効成分は、PPE惹起による肺気腫形成を改善し、五酸化バナジウム惹起による気管支における粘液産生を抑制でき、従って、COPDの予防もしくは治療剤として極めて有用である。
LTB4誘発ヒト好中球遊走に及ぼすKP-496、モンテルカスト、プランルカストおよびセラトロダストの影響を示す。 マウスBLM誘発性肺線維症モデルのBALF中総細胞数に及ぼすKP-496の影響を示す。 マウスBLM誘発性肺線維症モデルのBALF中肺胞マクロファージ数に及ぼすKP-496 の影響を示す。 マウスBLM誘発性肺線維症モデルのBALF中好中球数に及ぼすKP-496の影響を示す。 マウスBLM誘発性肺線維症モデルのBALF中好酸球数に及ぼすKP-496の影響を示す。 マウスBLM誘発性肺線維症モデルのBALF中リンパ球数に及ぼすKP-496の影響を示す。 マウスBLM誘発性肺線維症モデルの肺臓中ヒドロキシプロリン含量に及ぼすKP-496の影響を示す。 マウスBLM誘発性肺線維症モデルの肺傷害スコアに及ぼすKP-496の影響を示す。図Aは、BLM投与7日目における急性炎症性病変に対するKP-496の影響を示す。図Bは、BLM投与21日目における慢性炎症性病変に対するKP-496の影響を示す。図Cは、BLM投与21日目における線維化病変に対するKP-496の影響を示す。 マウスPPE誘発肺気腫モデルの体重推移に及ぼすKP-496の影響を示す。 マウスPPE誘発肺気腫モデルのBALF中総細胞数に及ぼすKP-496の影響を示す。 マウスPPE誘発肺気腫モデルのBALF中マクロファージ数に及ぼすKP-496の影響を示す。 マウスPPE誘発肺気腫モデルのBALF中好中球数に及ぼすKP-496の影響を示す。 マウスPPE誘発肺気腫モデルのBALF中好酸球数に及ぼすKP-496の影響を示す。 マウスPPE誘発肺気腫モデルの肺重量に及ぼすKP-496の影響を示す。 マウスPPE誘発肺気腫モデルの肺傷害スコアに及ぼすKP-496の影響を示す。 マウスPPE誘発肺気腫モデルの肺胞腔平均面積に及ぼすKP-496の影響を示す。 マウスPPE誘発肺気腫モデルの肝臓、脾臓および胸腺の臓器重量に及ぼすKP-496 の影響を示す。図A、BおよびCはそれぞれ肝臓、脾臓および胸腺である。 マウス五酸化バナジウム誘発気管支炎モデルの肺組織内気管支上皮における粘液産生に及ぼすKP-496の影響を示す。
本発明の慢性炎症性肺疾患の予防もしくは治療のための薬剤における有効成分は、2−{N−[4−(4−クロロベンゼンスルホニルアミノ)ブチル]−N−{3−[(4−イソプロピル−2−チアゾリル)メトキシ]ベンジル}}スルファモイル安息香酸(KP-496)またはその薬学的に許容し得る塩である。これらの塩としては、例えば、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム等の金属塩;トリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、ピコリン、N-メチルピロリジン、N-メチルピペリジン、N-メチルモルホリン等の有機塩が挙げられる。これらの有効成分は水和物であってもよい。
これらの有効成分は、国際公開第98/57935号パンフレットに記載される化学合成法により製造することができる。
本発明の薬剤が対象とする慢性炎症性疾患である間質性肺炎としては、より具体的には、急性または慢性の間質性肺炎が挙げられる。また、膠原病などの自己免疫疾患、感染症、放射線、ブレオマイシンなどの薬剤または異物吸入などの原因が明確である二次性の間質性肺炎、または原因が明らかでない特発性の間質性肺炎が挙げられる。
慢性炎症性肺疾患であるCOPDとしては、肺気腫または慢性気管支炎が挙げられる。COPDは、喫煙または大気汚染物質によって引き起こされるものであり、大気汚染物質としては、喫煙ガス、排ガス、無機粉塵、煤煙などが挙げられる。
本発明の有効成分は、それ自体単独あるいは公知の製剤方法を利用して各種の剤型にして投与することができる。例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、液剤、シロップ剤などの経口剤や、注射剤、点鼻剤、点滴剤、吸入剤、経皮吸収剤、貼付剤などの非経口剤の剤型にして投与することができる。特に、本発明の有効成分は、吸入剤の剤型で鼻腔もしくは口腔内から吸入投与するのが好ましい。吸入剤は、例えば、有効成分を通常の方法により散剤、細粒剤、顆粒剤などに成型し、カプセルに充填してカプセル製剤とし、通常用いられる吸入デバイスから吸入する投与方法が好ましく、特に、エリスリトールやトレハロースなどの担体粒子の表面に、本発明の有効成分を微細化したものを付着させて粉末剤とし、これをカプセルに充填して、吸入デバイスから吸入投与するのが好ましい(例えば、国際公開第01/026630号パンフレット参照)。あるいは、エアロゾル剤とするか、または、有効成分の液剤をネブライザーを用いて霧状にして吸入投与するのが好ましい。
本発明の有効成分のヒトへの投与量は患者の症状、年齢、体重、治療効果、投与方法、投与期間により異なるが、例えば、経口投与の場合、成人1日当り、1mg〜1gの範囲で投与するのが好適である。吸入投与する場合には、成人1日当り、0.1mg〜50mgの範囲で投与するのが好適である。
以下、実施例に沿って本発明を更に詳細に解説するが、以下の記載は本発明の範囲を何ら限定するものでない。
実施例1
ヒト好中球遊走に対するKP-496 の抑制効果
1.方法
a)ヒト白血球の調製
ヒト末梢血液中の白血球は、予め試験の目的など十分なインフォームド・コンセントを行い、本人の承諾を得た健常人(男性)4名から、医師により 20mL の静脈採血を行った。得られたヘパリン加血に等量の 3% デキストラン(M.W.208000)生理食塩液を混和し、1時間、静置した。その後、上清を回収し、4℃、150gで 5 分間遠心分離した。上清を捨て、沈殿に赤血球の溶血操作を2回繰り返した。すなわち、氷冷した0.2%NaCl溶液4mLを加え素早く懸濁し、20秒〜30秒放置した後、氷冷した1.6%NaCl溶液4mLを加えて混和し、等張に戻した。その後4℃、150gで5分間遠心した後、同様の操作を繰り返し、最終的に得られた細胞の沈殿を緩衝液(0.1% FBS含有Hank’s 液)に浮遊させ、試験に用いた。
b)遊走の誘発
48 ウエル改変式ボイデンチャンバー(Neuro Probe)を用いて行った。すなわち、チャンバーの下層ウエルには LTB410nmol/L を含む溶媒液を25μLを満たし、その上にポリカーボネートフィルター(PVP-free、ポアサイズ3μm)を置いた。チャンバーの上層部分を装着し、上層ウエルには緩衝液で調製した白血球懸濁液(1.0×106 cells/mL)をそれぞれ 45μL分注した。その後、直ちに試験物質(最終濃度の 10 倍濃度液)5μL を上層側ウエルに添加した。チャンバーは、培養インキュベ-ター(37℃、5%CO2−95%空気)内で1.5時間、インキュベ−トした。終了後、フィルタ−の上層側にある非遊走細胞を削り取り、下層側に遊走した細胞をメタノ−ルで5分間、固定した。遊走細胞は、Diff-Quick 染色液で染色し、スライドガラス上で風乾後、エンテランニューで封入した。フィルターを完全に通り抜けた細胞を、1ウエルあたり高出力顕微鏡下視野(×400倍)で4視野カウントし、その平均値を遊走細胞数とした。各試験物質は、それぞれ3ウエルで行い、その平均値を算出し個体値とした。
c)統計解析
各群の平均値と標準偏差を算出した。無処置対照群とLTB4処置対照群の比較は、まず等分散検定を Levene 法で行い、その後t検定を行った。LTB4処置対照群および各試験物質処置群の比較を行うため、まず Levene 法で等分散性を確認した後、一元分散分析を行い、群間の有意水準(p)値が 0.05 未満の場合に、Dunnett 法により多重比較を行った。有意水準値は 0.05%とした。
2.結果
調製したヒト末梢血液中の白血球は、平均で好中球78.3±9.7%、好酸球6.5±2.7%、リンパ球9.8±6.6%および単球5.6±2.6%であった。顕微鏡観察では、LTB4処置により遊走した細胞は、好中球のみであった。この遊走を、KP-496 は濃度依存的に抑制し、1μmol/L では有意であった。LTD4 受容体アンタゴニストであるモンテルカストおよびプランルカストも10μmol/Lでは抑制したが、1μmol/L では全く抑制しなかった。TXA2 受容体アンタゴニストであるセラトロダストは、10μmol/L でも全く抑制しなかった(図1)。
3.考察および結論
KP-496はヒト白血球を用いた遊走試験で、好中球のLTB4誘発性遊走を濃度依存的に抑制した。抗LTD4剤の効果は低濃度は観察されず、抗TXA2剤は高濃度でも観察されないことから、KP-496は、抗LTD4や抗TXA2以外のメカニズムを介して、炎症性細胞の活性化及び浸潤を抑制する事が示唆された。
実施例2
間質性肺炎および肺線維症に対する KP-496 の薬理効果
1.マウス BLM 誘発性肺線維症モデル実験の方法
a)病態作製と薬物投与
塩酸ブレオマイシン(BLM)を生理食塩液(生食)で溶解した。10週齢の雄性ICR系マウスにBLMを150mg/10mL/kgの用量で1回静脈内投与し、病態を誘発した。BLM 非投与群には生食を代わりに投与した。KP-496 の投与は、BLM 投与日より剖検前日まで1日2回、吸入投与した。簡潔に述べると、ポリエチレン容器に無拘束状態で収容したマウスに、ネブライザーを用いて噴霧したKP-496 溶液(0.5 w/v%)を30分間自発吸入させた。また、対照として KP-496 の溶媒(生食)を同様に吸入投与した。1 群の動物数は8例とした。
b)気管支肺胞洗浄(以下BAL と略す)液評価
BLM 投与後、7日目または 21日目に、マウスをペントバルビタール麻酔下で、放血致死させ、直ちに 右肺のみにBAL を行った。BAL液(BALF)は、遠心分離して上層を除去後、沈殿した細胞を生食に再浮遊させた。粒子計数分析装置を用いて総細胞数を測定した。さらに、残った細胞浮遊液を用いて、細胞塗末標本を作製し、ギムザ染色を施し、細胞を型別に分類して、その百分率から型別細胞数を算出した。
c)肺臓中ヒドロキシプロリン含量測定
BAL 終了後、右肺を凍結乾燥し、肺組織中のヒドロキシプロリン含量をクロラミンTを用いたKISO法に準じて測定した(Inayama et al., Keio J. Med., 27: 43(1978))。
d)肺臓病理組織学的評価
BAL 終了後、左肺は 10 vol % 中性緩衝ホルマリン液に固定後、常法に従いパラフィン切片を作製し、H.E.染色およびアザン染色を施して、肺臓の病理組織学的検査を実施した。観察された異常所見については、その程度を盲検下で主観的に4段階にスコア付けして評価した。
0:異常所見は全くみられない。 1:病変が標本の限局性に観察される。 2:病変が標本の約1/3領域に観察される。3:病変が標本の約1/2領域に観察される。 4:病変が標本のほぼ全域に観察される。
e)統計解析
各群の平均値と標準偏差を求め、BLM 投与溶媒群とBLM 投与 KP-496 群あるいは生食投与溶媒群の2群間比較を Student の t 検定で実施した。また、病理組織傷害スコアでは、Mann-Whitney 検定を用いた。有意水準(P)は 0.05 % とした。
2.結果
a)BALF中総細胞数および型別細胞数
BLM 投与溶媒群および生食投与溶媒群の投与 7 日目の BALF 中総細胞数は、それぞれ 1.1 ± 0.31 x 105 cells および 0.4 ± 0.06 x 105 cells で、生食投与溶媒群に比べてBLM 投与溶媒群が有意な増加を示した。BLM 投与KP-496 群は、 0.6 ± 0.29 x 105 cells で、BLM 投与溶媒群に比べて有意な減少を示した(図2)。また、細胞型別で見ると、生食投与溶媒群では、0.4 ± 0.05 x 105 cells と大部分が肺胞マクロファージであり、その他に好中球 0.01 ± 0.02 x 104 cellsおよびリンパ球 0.01 ± 0.01 x 104 cells が僅かに認められた。BLM 投与溶媒群では、肺胞マクロファージ、好中球、好酸球およびリンパ球がそれぞれ0.9 ± 0.25 x105 cells、0.9 ± 0.57 x 104 cells、1.4 ± 0.93 x 103 cells および 0.5 ± 0.31 x 104 cells であり、生食投与溶媒群に比べていずれの細胞も有意な増加を示した。BLM 投与 KP-496 群では、肺胞マクロファージ、好中球、好酸球およびリンパ球がそれぞれ 0.6 ± 0.27 x 105 cells、0.2 ± 0.11 x 104 cells、0.3 ± 0.68 x 103 cells および 0.1 ± 0.09 x104 cells であり、BLM 投与溶媒群に比べていずれの細胞も有意な減少を示した(図3、4、5および6)。
21 日目における BLM 投与溶媒群および生食投与溶媒群の BALF 中総細胞数は、それぞれ 1.2 ± 0.42 x 105 cells および 0.3 ± 0.12 x 105 cells で、生食投与溶媒群に比べてBLM 投与溶媒群が有意な増加を示した。BLM 投与KP-496 群は、 0.8 ± 0.24 x 105 cells で、BLM 投与溶媒群に比べて有意な減少を示した(図2)。また、細胞型に分類すると、生食投与溶媒群では、大部分が肺胞マクロファージ0.3 ± 0.11 x 105 cells であり、その他にも好中球0.01 ± 0.01 x 104 cellsおよびリンパ球0.1 ± 0.02 x 104 cells が僅かに認められた。BLM 投与溶媒群では、肺胞マクロファージ、好中球、好酸球およびリンパ球がそれぞれ1.2 ± 0.40 x 105 cells、0.2 ± 0.10 x 104 cells、0.5 ± 0.35 x 103 cells および 0.4 ± 0.22 x 104 cells を示し、生食投与溶媒群に比べていずれの細胞も有意な増加を示した。BLM 投与 KP-496 群では、肺胞マクロファージ、好中球、好酸球およびリンパ球がそれぞれ 0.7 ± 0.23 x 105 cells、0.02 ± 0.02 x 104 cells、0.1 ± 0.21 x 103 cellsおよび 0.3 ± 0.10x 104 cells で、BLM 投与溶媒群に比べて肺胞マクロファージ、好中球および好酸球が有意な減少を示した(図3、4、5、および6)。
b)肺臓右葉中ヒドロキシプロリン含量
BLM 投与溶媒群および生食投与溶媒群の投与 7 日目のヒドロキシプロリン含量は、それぞれ 125.6 ± 10.81 μg および 132.3 ± 9.54 μg で、両群間に差は認められなかった。BLM 投与 KP-496 群は、129.9 ± 11.35 μg で、BLM 投与溶媒群に比べて差は認められなかった(図7)。
21日目における BLM 投与溶媒群および生食投与溶媒群のヒドロキシプロリン含量は、それぞれ 171.6±26.37 μgおよび125.5±9.25μg で、生食投与溶媒群に比べて BLM 投与溶媒群が有意な増加を示した。これに対し、BLM 投与KP-496群は、138.0±9.93 μg で、BLM 投与溶媒群に比べて有意な減少を示した(図7)。
c)肺臓左葉病理組織学的評価
生食投与溶媒群の投与 7 日目および 21 日目で、いずれもの肺臓も病理組織学的に異常所見は認められなかった。一方、BLM 投与溶媒群では、投与 7 日目で肺胞中隔や肺胞腔内に好中球や肺胞マクロファージの浸潤およびうっ血や出血等の急性炎症性変化が観察され、そのスコアは 2.1 ± 0.83 であった(図8)。投与 21 日目において、急性炎症は消失し、代わって肺胞上皮細胞の腫大・増生やリンパ球集簇等の慢性炎症性変化に移行し、そのスコアは 2.4± 0.92 であった(図8)。さらに、肺胞中隔や肺胞腔内において、線維増生がみられ、そのスコアは 1.8 ± 1.04 であった。これに対し、BLM 投与 KP-496 群における急性炎症、慢性炎症および線維増生のスコアは、それぞれ 1.0 ± 0.76、1.0± 0.76 および 0.6 ± 0.52 で BLM 投与溶媒群に比べていずれのスコアも有意に軽減した(図8)。
d)考察および結論
本発明者らは、マウス BLM 静脈内単回投与誘発性肺線維症モデルを用いて、KP-496 の吸入投与が間質性肺炎および肺線維症に有効性を示すのかを検討した。投与経路に吸入投与を選んだ理由は、BLM 投与によって炎症が誘発される肺組織に直接作用させるためである。その結果、BLM 投与後 7 日目および 21 日目で確認されたBALF中総細胞数の有意な増加を、KP-496はいずれの時点においても明らかに抑制した。BALF中細胞の型別分類では、BLM 投与によりマクロファージ、好中球、好酸球およびリンパ球等の炎症性細胞の浸潤が顕著にみられ、KP-496 は、この細胞浸潤を有意に抑制した。ステロイドが抑制しにくい好中球の浸潤をKP-496が抑制したことは特記に値する。
肺臓の病理組織学的所見では、BLM 投与によって、肺胞中隔や肺胞腔内に好中球や肺胞マクロファージの浸潤およびうっ血や出血等が投与後 7 日目で顕著に観察され、急性間質性肺炎像を呈していた。その後、21 日目では、急性間質性肺炎は消失し、代わって肺胞上皮細胞の腫大・増生やリンパ球集簇等の慢性炎症へ移行すると共に、肺胞中隔および肺胞腔内に線維増生が生じて、肺組織は明らかに線維化に進展した。さらに、線維成分の特異的なマーカーであるヒドロキシプロリンが肺組織中において、明らかな増加を示した。これらの BLM による肺組織の病理組織学的変化に対し、KP-496 は、急性炎症ならびに慢性炎症を明らかに軽減し、本疾患モデルの最終的な病態像である線維化への進展も明らかに抑制した。さらに、KP-496 吸入投与で肺組織中のヒドロキシプロリン含量が明らかに減少した。この結果は、BLM 投与により肺毛細血管内皮細胞や肺胞上皮細胞が刺激され炎症反応によって産生されるpLTやTXA2等の脂質メディエーターの活性に対して、KP-496が拮抗作用を示したことで、初期の急性炎症を軽減し、その後の慢性炎症さらには線維化を抑制したものと推察した。
以上の結果から、肺局所へのKP-496 の吸入投与は、急性および慢性間質性肺炎または肺線維症の予防治療剤として有効であることが示された。
実施例3
肺気腫に対する KP-496 の薬理効果
1.マウスPPE誘発肺気腫モデル実験の方法
a)病態作製と薬物投与
8 週齢の雄性 C57BL 系マウスをイソフルラン麻酔した。咽喉頭部から気管内に挿入したカニューレを介して PPE の25μgを肺に 1 回投与し、肺傷害を誘発した。PPE 非投与群(正常群)には、生食を代わりに投与した。KP-496 の予防的投与実験(以下、予防実験)では、PPE 投与2日後のBALF中の炎症性細胞と、10日後の肺病理検査で薬効を評価した。KP-496 の治療的投与実験(以下、治療実験)では、PPE 投与14日後に肺病理検査と臓器重量で薬効を評価した。
薬物投与期間は、予防実験では、PPE 投与当日より剖検前日まで、治療実験では決められた日(KP-496A群,PPE投与日;KP-496B群,PPE投与3日後;KP-496C群,PPE投与7日後)から剖検前日までとした。KP-496 の吸入投与は実施例2と同様に行った。また、正常群および対照群には、代わりに生食を同様に自発吸入させた。比較対照薬のプレドニゾロンは 5mg/kg の用量で1日2回経口投与した。1群の例数は10匹とした。
b)BALと薬効評価
動物をペントバルビタール麻酔し、放血致死させ、直ちに 左右の肺に生食2mlでBAL を行った。実施例2と同様に、BALF中総細胞数と型別細胞数を測定した。
c)肺病理組織学的評価
前項と同様に放血致死させた動物から、肺を摘出して、重量測定した。肺臓は、10vol% 中性緩衝ホルマリン液に固定後、常法に従って病理組織標本を作製し、観察された肺組織傷害の程度を実施例2と同様にスコア付けして評価した。また、肺組織標本全体の肺胞腔平均面積を、画像処理ソフトを用いて計測した。
d) 統計解析
各群の平均値と標準偏差を算出した。正常群と対照群の比較は、まず等分散検定を Levene 法で行い、結果に応じたt検定を行った。対照群と試験物質投与群との比較を行うため、まず Levene 法で等分散性を確認した後、Dunnett 法により多重比較を行った。但し、等分散性が認められない評価項目および肺組織傷害スコアに関しては、Mann-Whitney 法によるノンパラメトリック解析を行った。有意水準として0.05%を採用した。
2.結果
a)体重変化
予防実験で、正常群は、生食投与翌日に僅かな体重減少がみられたが、2日以降は穏やかな増加推移を示した。一方、対照群は、PPE投与翌日に顕著な体重減少を示し、4日後まで正常群に比して有意な増加抑制を示した。その後、5日以降は正常群とほぼ同様の増加推移を示し、10日後の体重は正常群と同程度であった。KP-496 群は、対照群とほぼ同様の体重推移を示した。プレドニゾロン群は、投与3日以降に体重増加の強い抑制がみられ、6日後から10日後にかけて対照群に比して有意に減少した(図9)。
b)BALF中総細胞数および型別細胞数
投与2日後の正常群および対照群の総細胞数は、0.7±0.1x105cellsおよび 4.8±1.2x105cellsであり、対照群は正常群に比して有意に増加した。KP-496 群は、3.1±0.8x105cellsであり、対照群に比して有意に低かった。一方、プレドニゾロン群は、4.3±2.1x105cellsであり、対照群と同等であった(図10)。
細胞型別で見ると、正常群はマクロファージがその殆どを占め、好中球および好酸球は極めてわずかであった(図11、12、13)。対照群は、マクロファージ、好中球および好酸球が正常群に比していずれも有意に増加した。これに対し、KP-496群は、いずれの細胞も対照群に比して低値を示し、マクロファージおよび好酸球では有意に低下した。一方、プレドニゾロン群では、好酸球のみが対照群と比して有意に低下した。
c)肺重量、肺病理組織評価および肺傷害スコア
予防実験において、対照群の肺重量が正常群に比して有意に増加した。これに対し、KP-496およびプレドニゾロンは、いずれも肺重量の増加を有意に抑制した。治療実験では、KP-496群は、投与開始日の違いにかかわらず、対照群に比して低値を示した。特に、PPE 投与当日から KP-496 投与を開始した群は、対照群との間に有意な差が認められた(図14)。
予防実験における投与 10 日後の正常群の肺には、異常所見は全く認められなかった。一方、対照群では、末梢気道や肺胞腔が著しく拡大し、肺組織は気腫様変化を呈した。これに対し、KP-496 群では、気腫像は観察されるものの、病変は限局的で軽度であった。また、対照群では、肺胞壁にマクロファージや小円形細胞の浸潤および肺胞上皮細胞の増生等の慢性炎症像が観察され、その肺傷害スコアは正常群に比して有意に増加した。これに対し、KP-496 およびプレドニゾロンは、いずれも肺傷害スコアを有意に低下させた。さらに、治療実験においても、KP-496 は、いずれの群でも肺傷害スコアを有意に低下させた(図15)。
e)肺胞腔平均面積
予防実験において、対照群の肺胞腔平均面積は正常群に比して有意に増加した。これに対し、KP-496 およびプレドニゾロンは、いずれも肺胞腔平均面積の増加を有意に抑制した。さらに、治療実験においても、KP-496は、いずれの群でも肺胞腔平均面積の有意な増加抑制を示した(図16)。
f)臓器重量
KP-496 群では、臓器重量に影響が認められなかった。しかし、プレドニゾロン群では、肝臓、脾臓および胸腺が、対照群に比して有意に減少していた(図17)。
3.考察および結論
KP-496 は、PPE により誘発される急性炎症を抑制し、肺気腫病変の進展に対して明らかな改善作用を示した。PPE投与2日後に肺気腫病変は生じていなかったので、PPEは酵素作用により直接的に肺気腫病変をもたらすのではなく、おそらく浸潤させた炎症性細胞が肺気腫病変をもたらすと考えられる。KP-496 の肺気腫病変改善効果は急性炎症期以降の投与においても認められた。つまり、KP-496 は、浸潤した炎症性細胞の活性化を抑制することで、肺気腫病変の進展抑制効果を示すと考えられる。これらの効果は、プレドニゾロンで認められるような胸腺や脾臓の免疫臓器の抑制によるものではなく、末梢炎症性細胞の抑制であることが強く示唆された。KP-496 は、肝臓重量や体重推移にも影響なく、安全性の高い薬剤であると推察される。
実施例4
粘液産生に対する KP-496 の薬理効果
1.マウス五酸化バナジウム誘発気管支炎モデル実験の方法
a)病態作製と薬物投与
7週齢の雄性 C57BL 系マウスを用いた。イソフルラン麻酔下に、咽喉頭部から気管内に挿入したカニューレを介し、五酸化バナジウム20μgを肺に1回投与し、病態を誘発させた。五酸化バナジウム非投与群(正常群)には、生食を代わりに投与した。KP-496 は、実施例2と同様に、五酸化バナジウム投与当日より剖検前日まで1日2回、吸入投与した。また、正常群および対照群には、生食を同様に自発吸入させた。比較対照薬のプレドニゾロンは5mg/kg の経口投与で、五酸化バナジウム投与当日から剖検前日まで1日2回投与した。なお、正常群は6例、他の群は1群10例とした。
b)肺組織内気管支粘液産生領域測定
五酸化バナジウム投与7日後にマウスをペントバルビタール麻酔下で腹大動静脈から放血致死させた。肺を摘出し、10vol% 中性緩衝ホルマリン液で固定後、常法に従って病理組織標本を作製した。PAS 染色を施して、肺内気管支上皮細胞の粘液産生領域の面積を、画像解析ソフトを用いて計測した。計測された値を気管支内腔周囲長(粘膜基底膜で求めた)で割り、その商を気管支1mmあたりの粘液産生領域面積として表現した。
c)統計解析
実施例3と同様に、統計解析を行った。
2.結果
肺内気管支上皮粘液産生領域
対照群の PAS 陽性面積は、正常群に比して有意に増加した。これに対し、KP-496 群およびプレドニゾロン群では、いずれも PAS 陽性面積の有意な増加抑制が認められた(図18)。
3.考察および結論
KP-496 は、五酸化バナジウムにより誘発される、肺内気管支上皮細胞における粘液過剰分泌を明らかに抑制した。気管支上皮の粘液産生亢進は、COPD 病態である慢性気管支炎の一つの特徴である。したがって、 KP-496 は COPD 治療剤として極めて有用であると考える。
実施例5
マウスの肺組織中 KP-496 濃度
1.方法
7週齢の雄性 C57BL 系マウスを用いた。KP-496 は、実施例2と同様に、30 分間噴霧して鼻腔より肺組織に自発吸入させた。吸入終了後、ペントバルビタール麻酔下で放血致死させ、直ちに、肺を摘出して重量測定後、−80℃に凍結保存した。肺重量の4倍量のリン酸緩衝液を加えてホモジネートし、LC-MSを用いて測定した。動物数は5例とした。
2.結果
マウス肺のKP-496含量は、418±114ngであった。
3.考察および結論
KP-496の吸入投与量は、約0.4μg/マウスであった。マウスの体重は20gであり、体重換算すると、20μg/kgとなる。ヒト体重を60kgとすると1mg/ヒトであり、この用量で慢性炎症性肺疾患を予防もしくは治療できる可能性が示唆された。
2−{N−[4−(4−クロロベンゼンスルホニルアミノ)ブチル]−N−{3−[(4−イソプロピル−2−チアゾリル)メトキシ]ベンジル}}スルファモイル安息香酸またはその薬学的に許容し得る塩を有効成分として含有する本発明の薬剤は、急性および慢性の間質性肺炎または肺線維症の予防もしくは治療剤として極めて有効である。また、肺気腫や慢性気管支炎などの慢性閉塞性肺疾患の予防もしくは治療剤としても極めて有効である。

Claims (7)

  1. 2−{N−[4−(4−クロロベンゼンスルホニルアミノ)ブチル]−N−{3−[(4−イソプロピル−2−チアゾリル)メトキシ]ベンジル}}スルファモイル安息香酸またはその薬学的に許容し得る塩を有効成分として含有する、慢性炎症性肺疾患を予防もしくは治療するための薬剤。
  2. 慢性炎症性肺疾患が、間質性肺炎または肺線維症である請求項1の薬剤。
  3. 間質性肺炎または肺線維症が、化学療法を行った際の副作用として発症したものである請求項2の薬剤。
  4. 慢性炎症性肺疾患が、慢性閉塞性肺疾患である請求項1の薬剤。
  5. 有効成分を肺組織内に吸入投与するための請求項1から4のいずれかに記載の薬剤。
  6. 慢性炎症性肺疾患を予防もしくは治療するための薬剤を製造するための、2−{N−[4−(4−クロロベンゼンスルホニルアミノ)ブチル]−N−{3−[(4−イソプロピル−2−チアゾリル)メトキシ]ベンジル}}スルファモイル安息香酸またはその薬学的に許容し得る塩の使用。
  7. ヒトを含む哺乳動物における慢性炎症性肺疾患を予防もしくは治療する方法であって、2−{N−[4−(4−クロロベンゼンスルホニルアミノ)ブチル]−N−{3−[(4−イソプロピル−2−チアゾリル)メトキシ]ベンジル}}スルファモイル安息香酸またはその薬学的に許容し得る塩を該哺乳動物に投与することを含む上記方法。
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