JPWO2005116254A1 - Dnaのメチル化を定量的に評価する方法 - Google Patents
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Abstract
本発明は、ゲノム上のDNAのメチル化の状態を定量的に評価する方法に関する。本発明による方法によれば、目的のヌクレオチド残基のメチル化によってゲノム上の特定の切断点における切断作用が阻害される制限酵素を用いてゲノムDNAを消化し、得られた消化産物を鋳型として、ゲノム上の前記切断点を含む領域を増幅しうるプライマーを用いる核酸増幅反応を行ない、これにより得られる増幅産物の量を、前記切断点を含まない近位の領域を増幅しうるプライマーによる増幅産物の量と比較することにより、前記ヌクレオチド残基のメチル化の状態が定量的に評価される。
Description
本特許出願は、先に出願された日本国における特許出願である特願2004−154558号(出願日:2004年5月25日)に基づく優先権の主張を伴うものである。この先の特許出願における全開示内容は、引用することにより本明細書の一部とされる。
技術分野
本発明は、DNAのメチル化の状態を定量的に評価する方法に関する。
本発明は、DNAのメチル化の状態を定量的に評価する方法に関する。
背景技術
ゲノムDNAのメチル化は、エピジェネティックなゲノム修飾の一つである。このようなゲノムDNAのメチル化は、高等生物にとって重要なゲノム調節因子(要素)として働くものと考えられており、例えば、組織特異的な遺伝子発現制御、クロマチン構造の維持、X染色体の不活性化、ゲノムインプリンティング等に関与することが知られている(En Li, Nat. Rev. Genet. 3, 662-673, 2002)。
ゲノムDNAのメチル化は、エピジェネティックなゲノム修飾の一つである。このようなゲノムDNAのメチル化は、高等生物にとって重要なゲノム調節因子(要素)として働くものと考えられており、例えば、組織特異的な遺伝子発現制御、クロマチン構造の維持、X染色体の不活性化、ゲノムインプリンティング等に関与することが知られている(En Li, Nat. Rev. Genet. 3, 662-673, 2002)。
ゲノムDNAの異常なメチル化は、様々な疾患と関連することが知られており、特に、細胞の癌化と関連することがよく知られている(Esteller M. et al., J. Pathol. 196, 1-7, 2002)。最近では、ゲノムDNAの異常なメチル化が精神疾患と関連している可能性も指摘されている(Popendikyte V. et al., Neuroreport. 10, 1249-1255, 1999;Chen Y. et al., Nucleic Acids Res. 30, 2930-2939, 2002)。
従って、ゲノムDNA上のメチル化DNAを定性的または定量的に評価することは、上述のゲノム調節機構の理解、DNAのメチル化と疾患との新たな関連の調査等において、極めて有用である。
現在までに、ゲノム上のメチル化DNAを検出するための様々な方法が開発されている。このような方法としては、例えば、DNAを重亜硫酸塩(bisulfite)処理すると、シトシンはウラシルに変換されるのに対し、メチル化されたシトシン(5’−メチルシトシン)はウラシルに変換されないという現象を利用した方法がある(Takeo Kubota et al., Hum. Genet. 104, 49-55, 1999;Clark S.J. et al., Nucleic Acids Res. 22, 2990-2997, 1994)。この方法では、重亜硫酸塩によって処理したゲノムDNAを鋳型としてPCRを行い、そのPCR産物を適当なプラスミドベクターにクローニングし、その後、塩基配列決定によってシトシン残基のメチル化パターンを検出する。この方法は、DNAのメチル化パターンを定性的に解析する上で優れているが、メチル化程度を定量的に評価する上では適していない。
さらに、ゲノムDNA上のメチル化DNAを検出する方法として、ゲノムDNAをメチル感受性の制限酵素で処理した後にサザンブロット解析を行なう方法がある(Huang T. H. et al., Hum. Mol. Genet. 8, 459-470, 1999)。この方法では、DNA上のメチル化の程度を定量的に検出することが可能となるが、大量のサンプルが必要とされ、解析に時間がかかり、また、その検出感度も十分に高いとはいえない。
本発明者らは、今般、目的のヌクレオチド残基のメチル化によってゲノム上の特定の切断点における切断作用が阻害される制限酵素を用いてゲノムDNAを消化し、得られた消化産物を鋳型として、ゲノム上の前記切断点を含む領域を増幅しうるプライマーを用いる核酸増幅反応を行ない、これにより得られる増幅産物の量を、前記切断点を含まない近位の領域を増幅しうるプライマーによる増幅産物の量と比較することにより、前記ヌクレオチド残基のメチル化の状態を定量的に評価できることを見出した。本発明はこの知見に基づくものである。
従って、本発明の目的は、ゲノム上のDNAのメチル化の状態を定量的に評価する方法を提供することにある。
そして、本発明による方法は、制限酵素によるゲノムDNAの切断を阻害する、ゲノム上のヌクレオチド残基のメチル化の状態を定量的に評価する方法であって、(a)ゲノムDNAを含むサンプル中のDNAを、目的のヌクレオチド残基のメチル化によってゲノム上の標的切断部位における切断作用が阻害される少なくとも1種の制限酵素で消化し、かつ、ゲノム上の標的切断部位よりも5’側および3’側においてゲノムDNAを切断する工程、(b)ゲノム上において、標的切断部位から5’側および3’側に向けて最も近位に位置する工程(a)による2つの切断点の間に存在し、かつ、標的切断部位を含むゲノム上の標的領域を増幅しうるプライマーを用いて、工程(a)によって得られる消化産物を鋳型とする核酸増幅反応を行ない、得られる増幅産物の量を測定する工程、(c)ゲノム上において、標的切断部位から5’側および3’側に向けて最も近位に位置する工程(a)による2つの切断点の間に存在し、かつ、標的切断部位を含まないゲノム上の対照領域を増幅しうるプライマーを用いて、工程(a)によって得られる消化産物を鋳型とする核酸増幅反応を行ない、得られる増幅産物の量を測定する工程、ならびに(d)工程(b)によって得られる測定値と、工程(c)によって得られる測定値とを比較する工程、を含んでなるものである。
本発明によれば、ゲノム上のヌクレオチド残基のメチル化の状態を、簡便な手順によって定量的に評価することが可能となる。本発明による方法は、エピジェネティックなゲノム変化を解析するための基礎的研究および応用研究などにおいて、幅広い有用性を有する。さらに、本発明による方法は医療分野において利用することができ、例えば、ゲノム上の特定のヌクレオチド残基のメチル化が特定の疾患(例えば、癌、腫瘍、および精神疾患)に関連している場合には、その疾患の診断等に利用することができる。
本発明による方法では、ゲノム上の特定のヌクレオチド残基がメチル化されたときに、ゲノム上の特定の位置における特定の制限酵素の切断作用が阻害されるという現象を利用している。よって、本発明において評価の対象となるヌクレオチド残基は、そのメチル化によってゲノムDNA上のいずれかの位置におけるいずれかの制限酵素の切断作用が阻害されるものである。本発明による方法では、ゲノムDNAを含むサンプル中のDNAが、目的のヌクレオチド残基のメチル化によってゲノム上の特定の切断点(標的切断点)における切断作用が阻害される制限酵素によって消化される。その結果、標的切断点においてゲノムDNAが切断されていない場合には、目的のヌクレオチド残基がメチル化されていることが示され、標的切断点においてゲノムDNAが切断された場合には、目的のヌクレオチド残基がメチル化されていないことが示される。
標的切断点における酵素的切断の有無は、ゲノム上における標的切断点を含む標的領域を増幅しうるプライマーを用いた核酸増幅反応において増幅産物が得られるか否かによって示される。ここで、本発明による方法では、標的切断点の5’側および3’側においてゲノムDNAが確実に切断されるため、前記標的領域は、標的切断点から5’側および3’側に向けて最も近位に位置する2つの切断点の間に存在するように選択される。前記核酸増幅反応によって得られる増幅産物のコピー数は、前記サンプル中に存在する数多くのコピー数のゲノムDNAのうちの、目的のヌクレオチド残基がメチル化されているコピーの比率を示す指標となる。
本発明による方法では、さらに、前記2つの切断点の間に存在し、かつ、標的切断点を含まない対照領域を増幅しうるプライマーを用いた核酸増幅反応が行なわれ、得られる増幅産物のコピー数を内部コントロールとすることにより、目的のヌクレオチド残基におけるメチル化を定量的に評価することが可能となる。
さらに、上述の原理を利用することにより、複数のヌクレオチド残基または複数の標的切断点についてメチル化の定量的評価を行なうことも可能であり、そのような方法も本発明に包含される。
以上のように、本発明による方法は、DNA切断処理工程、標的領域の増幅工程、および対照領域の増幅工程を含んでなる。
DNA切断処理工程では、ゲノムDNAを含むサンプル中のDNAが、目的のヌクレオチド残基のメチル化によってゲノム上の標的切断部位における切断作用が阻害される少なくとも1種の制限酵素で消化される。
本明細書において「目的のヌクレオチド残基」とは、メチル化の定量的評価の対象とするゲノム上のヌクレオチド残基を意味する。このようなヌクレオチド残基は、そのメチル化によってゲノム上の特定の位置における特定の制限酵素による切断作用が阻害されるものであればよく、当業者により適宜選択される。また、選択される制限酵素によっては、複数の異なるヌクレオチド残基のいずれかのメチル化によって、同一箇所におけるその切断作用が阻害される場合もある。本発明による方法では、これら複数のヌクレオチド残基を目的のヌクレオチド残基とすることもできる。その場合には、本発明による方法によって定量評価されるメチル化は、前記複数のヌクレオチド残基のうちのいずれかにおけるメチル化である。さらに、本発明による方法では、複数の標的切断点における制限酵素による切断を阻害する複数のヌクレオチド残基のメチル化を評価の対象とすることもできる。目的のヌクレオチド残基は、前記制限酵素の認識配列中に含まれることが多い。従って、本発明の好ましい実施態様によれば、目的のヌクレオチド残基は、上述のDNA消化処理に用いられる制限酵素の認識配列中に含まれるものとされる。
本明細書において「標的切断点」とは、いずれかの制限酵素によって切断されるゲノムDNA上の特定の位置であって、目的のヌクレオチド残基のメチル化によって制限酵素による切断が阻害される位置を意味する。さらに、「標的切断部位」とは、本発明による方法において単一の標的切断点が利用される場合にはその標的切断点そのものを意味し、複数の標的切断点が利用される場合には、これら複数の標的切断点のうち、最も5’側に存在するものと最も3’側に存在するものとによって挟まれるゲノム上の領域を意味する。
上述のDNA消化処理に用いられる制限酵素は、目的のヌクレオチド残基のメチル化によってゲノム上の特定の切断点(標的切断点)における切断作用が阻害されるものである。このような制限酵素は、目的のヌクレオチド残基またはその周辺の配列に応じて、当業者によって適宜選択される。また、このような制限酵素は、その認識配列に含まれるヌクレオチド残基のメチル化によって阻害されることが多い。従って、本発明の好ましい実施態様によれば、上述のDNA消化処理に用いられる制限酵素は、その認識配列に含まれるヌクレオチド残基のメチル化によって阻害されるものとされる。このような多くの制限酵素が、メチル化感受性制限酵素として、その活性(切断作用)を阻害するメチル化部位およびその他の性質とともに当技術分野においてよく知られている(例えば、Nelson M. et al., Nucleic Acids Research, Vol. 21, No. 13, 3139-3154, 1993)。従って、当業者であれば、目的に応じて制限酵素を容易に選択することができる。また、上述のDNA消化処理に用いられる制限酵素として、複数種の制限酵素を用いることもできる。
さらに、DNA切断処理工程では、ゲノム上の標的切断部位よりも5’側および3’側において前記DNAが切断される。これにより、後に行なわれる核酸増幅反応において鋳型として用いるのに好適なDNA断片を得ることが可能となる。このようなDNAの切断は、当業者であれば容易に行なうことができる。例えば、上述のDNA消化処理に用いられる制限酵素が、標的切断部位の5’側および3’側においてゲノムDNAを確実に切断しうる場合には、このDNA切断は、上述のDNA消化処理において同時に行なうことができる。また、このDNA切断は、必要に応じて、ゲノム上の標的切断部位よりも5’側および3’側においてゲノムDNAを切断しうる試薬を用いて行なうこともできる。このような試薬としては、例えば、制限酵素が挙げられる。よって、本発明の一つの実施態様によれば、DNA切断処理工程は、ゲノムDNAを含むサンプル中のDNAを、標的切断部位よりも5’側および3’側においてゲノムDNAを切断しうる制限酵素で消化することを含んでなる。また、本発明の他の実施態様によれば、DNA切断処理工程は、ゲノムDNAを含むサンプル中のDNAを、標的切断部位よりも5’側においてゲノムDNAを切断しうる制限酵素、および標的切断部位よりも3’側においてゲノムDNAを切断しうる制限酵素で消化することを含んでなる。これらのDNA切断に用いられる制限酵素は、ゲノム上の目的の位置において確実にゲノムDNAを切断しうるように、当業者によって適宜選択される。また、これらの制限酵素はメチル化感受性制限酵素であってもよく、この場合には、これらの制限酵素の活性(切断作用)を阻害するメチル化ヌクレオチド残基が存在しないか、または存在するメチル化ヌクレオチド残基によって前記制限酵素の活性がほとんど阻害されないことが必要となる。
DNA切断処理工程では、制限酵素によるDNA消化処理と、標的切断部位の5’側および3’側におけるDNA切断とを別々に行なってもよいし、あるいは、同時に行なってもよい。特に、標的切断部位の5’側および3’側におけるDNA切断が制限酵素によって行なわれる場合には、これに必要な制限酵素とDNA消化処理に用いられる制限酵素とを含む制限酵素組成物を用いてDNAを消化することにより、DNA切断処理工程を一工程で行なうことが可能である。
ゲノムDNAを含むサンプルは、対象となる生物、例えばヒトから採取したサンプルから、一般的な制限酵素処理に好適なものとなるように、当業者によって適宜調製される。また、制限酵素によるDNAの消化は、一般的な制限酵素処理の条件として知られる反応条件に従って、当業者により適宜実行される。
標的領域の増幅工程では、ゲノム上において、標的切断部位から5’側および3’側に向けて最も近位に位置する前記DNA切断処理工程による2つの切断点の間に存在し、かつ、標的切断部位を含むゲノム上の標的領域を増幅しうるプライマーを用いて、前記DNA切断処理工程によって得られる消化産物を鋳型とする核酸増幅反応が行なわれ、さらに、得られる増幅産物の量が測定される。この核酸増幅反応では、標的切断部位に含まれるいずれの標的切断点においてもゲノムDNAが切断されていない場合にのみ増幅産物が得られるため、それぞれの標的切断点に対応する目的のヌクレオチド残基(一の標的切断点に対応する目的のヌクレオチド残基が複数存在する場合には、そのうちのいずれか一つ)の全てがメチル化されている場合にのみ、増幅産物が得られる。一方で、標的切断部位に含まれるいずれかの標的切断点においてゲノムDNAが切断されている場合には増幅産物が得られないため、それぞれの標的切断点に対応する目的のヌクレオチド残基(一の標的切断点に対応する目的のヌクレオチド残基が複数存在する場合には、その全て)のいずれかがメチル化されていない場合には、増幅産物が得られない。従って、この増幅産物の量は、標的切断部位に含まれる標的切断点のそれぞれに対応する目的のヌクレオチド残基(一の標的切断点に対応する目的のヌクレオチド残基が複数存在する場合には、そのうちのいずれか一つ)の全てがメチル化されているゲノムDNAのコピー数に対応するため、目的のヌクレオチド残基(群)におけるメチル化の量を示す指標となる。例えば、標的切断部位に一つの標的切断点が含まれる場合には、増幅産物の量は、その標的切断点に対応する目的のヌクレオチド残基(その標的切断点に対応する目的のヌクレオチド残基が複数存在する場合には、そのうちのいずれか一つ)がメチル化されているゲノムDNAのコピー数に対応するため、目的のヌクレオチド残基(群)におけるメチル化の量を示す指標となる。
対照領域の増幅工程では、ゲノム上において、標的切断部位から5’側および3’側に向けて最も近位に位置する前記DNA切断処理工程による2つの切断点の間に存在し、かつ、標的切断部位を含まないゲノム上の対照領域を増幅しうるプライマーを用いて、前記DNA切断処理工程によって得られる消化産物を鋳型とする核酸増幅反応が行なわれ、さらに、得られる増幅産物の量が測定される。この核酸増幅反応では、目的のヌクレオチド残基がメチル化されているか否かにかかわらず、一定のコピー数の増幅産物が得られる。従って、この増幅産物の量は、目的のヌクレオチド残基におけるメチル化の状態を定量的に評価するための内部コントロールとなる。
前記核酸増幅反応は、鋳型となるDNA配列中の特定の領域を増幅することのできる方法に従って、当業者により適宜実行される。このような方法としては、当技術分野において多くの方法が知られており、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応法(PCR法:米国特許第4683195号明細書)、リガーゼ連鎖反応法(LCR法:欧州特許出願公開第0320308号明細書)等が挙げられる。これらの方法は、複数の温度条件を含む温度サイクルの数によって増幅産物の理論上のコピー数を制御することができるという利点を有する。また、前記核酸増幅反応としては、一定の温度において核酸を増幅する方法を用いることもでき、このような方法としては、例えば、SDA法(特開平5−192195号公報)、LAMP法(国際公開第00/28082号パンフレット)、ICAN法(国際公開第02/16639号パンフレット)等が挙げられる。
前記標的領域または前記対照領域を増幅しうるプライマーは、選択された核酸増幅反応の作用機序に応じて、当業者であれば容易に設計することができる。例えば、このようなプライマーは、増幅の対象とする領域の第一鎖の3’末端部分に特異的にハイブリダイズする配列を少なくとも含んでなる第一のプライマーと、前記領域の第二鎖の3’末端部分に特異的にハイブリダイズする配列を少なくとも含んでなる第二のプライマーとを少なくとも含んでなるものとすることができる。
本明細書において「特異的にハイブリダイズする」とは、前記プライマーがストリンジェントな条件下で増幅の対象とする領域のいずれかの鎖の3’末端部分にハイブリダイズし、かつ、核酸増幅反応に用いられる反応溶液中に存在する他のヌクレオチド分子またはその一部にはハイブリダイズしないことを意味する。ストリンジェントな条件は、2つのヌクレオチド分子のハイブリダイズにより形成される二重鎖の融解温度Tm(℃)およびハイブリダイゼーション溶液の塩濃度などに依存して決定することができ、例えば、J. Sambrook, E. F. Frisch, T. Maniatis; Molecular Cloning 2nd edition, Cold Spring Harbor Laboratory (1989)等を参照することができる。例えば、プライマーとして用いられるヌクレオチド分子の融解温度よりわずかに低い温度下でハイブリダイゼーションを行なうと、前記プライマーを所定の領域に特異的にハイブリダイズさせることができる。本発明の好ましい実施態様によれば、ある領域(配列部分)に特異的にハイブリダイズするプライマーは、その領域に相補的なヌクレオチド配列を含んでなるものとされる。
前記核酸増幅反応において鋳型として用いられる消化産物としては、前記DNA切断処理工程によって得られる消化産物をそのままの形で用いてもよいし、該消化産物を含む溶液を核酸増幅反応に好適な溶液となるように改変した溶液を用いてもよい。また、前記DNA切断処理工程によって得られる消化産物を、エタノール沈澱法などの標準的な方法によって単離し、これを核酸増幅反応のための溶液中に溶解させることもできる。
本発明の好ましい実施態様によれば、標的領域の増幅工程および対照領域の増幅工程の一方または両方における核酸増幅反応は、その反応中において増幅産物の増加に対応して検出可能なシグナルの強度が増加する方法によって行なわれ、より好ましくはリアルタイムPCRとされる。このような方法により、核酸増幅反応の終了と同時に、さらなる複雑な工程を要することなく、増幅産物の量を測定することが可能となる。このような方法は、例えば、増幅産物の量に対応する強度のシグナルを発生するシグナル発生物質を予め核酸増幅反応のための反応溶液の中に添加しておくことによって行なうことができる。
前記シグナル発生物質としては、例えば、インターカレーターが挙げられる。従って、本発明の一つの実施態様によれば、標的領域の増幅工程および対照領域の増幅工程の一方または両方における増幅産物量の測定は、インターカレーターからのシグナル強度の測定によって行なわれる。本明細書において「インターカレーター」とは、二本鎖DNAを形成している二本のDNA鎖の間に侵入して蛍光を発する物質を意味する。インターカレーターとしては様々な物質が知られており、例えば、臭化エチジウム、アクリジン色素、SYBR Green(「SYBR」はMolecular Probes社の登録商標である)等が挙げられる。
また、前記シグナル発生物質としては、TaqManプローブを挙げることができる。従って、本発明の他の実施態様によれば、標的領域の増幅工程および対照領域の増幅工程の一方または両方における増幅産物量の測定は、TaqManプローブに起因する蛍光強度の測定によって行なわれる。TaqManプローブを用いたPCR法は、TaqManPCR法として当技術分野においてよく知られている。従って、本発明に用いるためのTaqManプローブは、当業者によって容易に設計され、調製される。
上述の標的領域の増幅工程によって得られる測定値は、対照領域の増幅工程によって得られる測定値と比較される。これにより、標的領域の増幅工程によって得られる測定値が内部コントロールによって標準化され、目的のヌクレオチド残基(群)のメチル化の量的な指標を得ることができる。本発明の好ましい実施態様によれば、標的領域の増幅工程によって得られる測定値を、対照領域の増幅工程によって得られる測定値で除して得られる値が、サンプルにおける目的のヌクレオチド残基(群)のメチル化の量的な指標とされる。
本発明の一つの好ましい実施態様による方法を、図1に従って説明する。図1に示す方法では、上述のDNA消化処理に用いられる制限酵素としてBssH IIが用いられ、その認識配列中に存在するシトシン残基のメチル化の状態が定量的に評価される。標的切断部位の5’側および3’側におけるDNA切断には、制限酵素としてEcoR Iが用いられる。
まず、サンプル中に含まれるゲノムDNA上には、EcoR I部位とBssH II部位とが交互に存在しており、左側のBssH II部位(標的BssH II部位)に目的のシトシン残基が含まれている(図1上段)。このゲノムDNAを、BssH IIとEcoR Iとを含む制限酵素組成物で消化すると、BssH II部位にメチル化シトシンが存在する場合にはその制限酵素部位は切断されず、BssH II部位にメチル化シトシンが存在しない場合にはその制限酵素部位は切断される。よって、消化産物中には、目的のシトシン残基がメチル化されているゲノムDNAコピーに由来するEcoR I−EcoR I断片と、目的のシトシン残基がメチル化されていないゲノムDNAコピーに由来するEcoR I−BssH II断片およびBssH II−EcoR I断片とが混在する(図1中段)。また、目的のシトシン残基を含まない非標的BssH II部位においても同様の反応が起こる。よって、消化産物中には、非標的BssH II部位とその周辺の領域に由来するEcoR I−EcoR I断片、EcoR I−BssH II断片およびBssH II−EcoR I断片も存在する(図1中段の右側)。
次いで、標的BssH II部位を含むEcoR I−EcoR I断片を鋳型とした場合に該標的BssH II部位を含む標的領域を増幅しうるプライマーを用いて、消化産物を鋳型とするリアルタイムPCRが行なわれる。このPCRでは、標的BssH II部位を含むEcoR I−EcoR I断片から増幅産物が得られるのに対し、EcoR I−BssH II断片およびBssH II−EcoR I断片から増幅産物は得られない(図1下段の左側の増幅)。なお、前記プライマーは、前記標的領域に特異的な配列を有するため、非標的BssH II部位とその周辺の領域に由来するEcoR I−EcoR I断片から増幅産物が得られることはない。
さらに、標的BssH II部位を含むEcoR I−EcoR I断片を鋳型とした場合に該標的BssH II部位を含まない対照領域を増幅しうるプライマーを用いて、消化産物を鋳型とするリアルタイムPCRが行なわれる。このPCRでは、標的BssH II部位を含むEcoR I−EcoR I断片と、EcoR I−BssH II断片およびBssH II−EcoR I断片のいずれか一方とから増幅産物が得られる(図1下段の右側の増幅)。よって、このPCRによれば、標的BssH II部位におけるDNA切断の有無にかかわらず、一定量の増幅産物が得られる。
最後に、前記標的領域におけるPCR増幅量を前記対照領域におけるPCR増幅量で除することによって、目的のシトシン残基におけるメチル化の状態についての定量的な評価値が得られる。
本発明による方法によって目的のヌクレオチド残基におけるメチル化の状態を定量的に評価するために、必要な試薬をまとめてキットとすることができる。従って、本発明によれば、制限酵素によるゲノムDNAの切断を阻害する、ゲノム上のヌクレオチド残基のメチル化の状態を定量的に評価するためのキットであって、(a)目的のヌクレオチド残基のメチル化によってゲノム上の標的切断部位における切断作用が阻害される少なくとも1種の制限酵素、(b)ゲノム上の標的切断部位よりも5’側および3’側においてゲノムDNAを切断しうる試薬、(c)ゲノム上において、標的切断部位から5’側および3’側に向けて最も近位に位置する前記制限酵素または前記試薬による2つの切断点の間に存在し、かつ、標的切断部位を含むゲノム上の標的領域を増幅しうるプライマー、ならびに(d)ゲノム上において、標的切断部位から5’側および3’側に向けて最も近位に位置する、前記制限酵素または前記試薬による2つの切断点の間に存在し、かつ、標的切断部位を含まないゲノム上の対照領域を増幅しうるプライマー、を含んでなるキットが提供される。
本発明によるキットの具体的な構成は、これにより実施しようとする具体的な方法およびその作用機序によって異なり、例えば、本発明による方法について上述した説明に従って設計することができる。
従って、目的のヌクレオチド残基は、好ましくは前記制限酵素の認識配列中に含まれるものとされる。また、前記制限酵素は、好ましくは、その認識配列に含まれるヌクレオチド残基のメチル化によって阻害されるものとされる。
さらに、本発明の一つの実施態様によれば、前記試薬は、標的切断部位よりも5’側および3’側においてゲノムDNAを切断しうる制限酵素を含んでなるものとされる。また、本発明の他の実施態様によれば、前記試薬は、標的切断部位よりも5’側においてゲノムDNAを切断しうる制限酵素、および標的切断部位よりも3’側においてゲノムDNAを切断しうる制限酵素を含んでなるものとされる。
また、本発明によるキットは、好ましくは、前記(c)および(d)の一方または両方のプライマーによる核酸増幅反応において増幅産物の量に対応する強度のシグナルを発生するシグナル発生物質をさらに含んでなるものとされる。前記シグナル発生物質としては、例えば、上述のインターカレーター、TaqManプローブ等が挙げられる。
さらに、本発明によるキットは、二本鎖DNAの制限酵素処理に用いられる他の試薬類、核酸増幅反応に用いられる他の試薬類、反応容器、本発明による方法の具体的手順を記載した説明書等を含んでいてもよい。制限酵素処理に用いられる他の試薬類としては、例えば緩衝液等が挙げられる。核酸増幅反応に用いられる他の試薬類としては、例えば、塩化マグネシウム、酢酸マグネシウム、硫酸マグネシウム等の触媒、dNTPミックス等の基質、緩衝液などが挙げられる。
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、これら実施例は本発明を限定するものではない。
実施例1:リーリン遺伝子プロモーター領域内のBssH II部位におけるメチル化の定量的評価
111名のヒト被験者からゲノムDNAサンプルを採取し、各サンプルについて、リーリン遺伝子プロモーター領域内の特定のBssH II部位におけるメチル化状態を定量的に評価した。具体的な手順および結果は、以下に示すとおりである。
111名のヒト被験者からゲノムDNAサンプルを採取し、各サンプルについて、リーリン遺伝子プロモーター領域内の特定のBssH II部位におけるメチル化状態を定量的に評価した。具体的な手順および結果は、以下に示すとおりである。
(1)DNAの制限酵素消化
ゲノムDNAを、2種の制限酵素を用いて消化した。ここで、一方の制限酵素は、その認識配列が目的のメチル化部位を包含するメチル化感受性制限酵素BssH IIとし、他方の制限酵素は、その認識配列が前記メチル化部位の5’側および3’側に存在する制限酵素EcoR Iとした。具体的には、500ngのゲノムDNA、6UのBssH II、6UのEcoR I、5μlの10×H緩衝液、および蒸留水を含む50μlの反応溶液を調製し、得られた反応溶液を、通気下、37℃で一晩インキュベートした。
ゲノムDNAを、2種の制限酵素を用いて消化した。ここで、一方の制限酵素は、その認識配列が目的のメチル化部位を包含するメチル化感受性制限酵素BssH IIとし、他方の制限酵素は、その認識配列が前記メチル化部位の5’側および3’側に存在する制限酵素EcoR Iとした。具体的には、500ngのゲノムDNA、6UのBssH II、6UのEcoR I、5μlの10×H緩衝液、および蒸留水を含む50μlの反応溶液を調製し、得られた反応溶液を、通気下、37℃で一晩インキュベートした。
次いで、切断されたDNA断片をエタノール沈澱によって回収し、これをTE溶液に溶解した。具体的には、上述のようにして得られた反応溶液に100μlのエタノール(100%)および5μlの3M酢酸ナトリウムを添加し、これを−20℃に20分間置いた。この溶液を遠心分離(17,800×g、4℃、15分間)した後に上清を除去した。この溶液に200μlの70%エタノールを添加し、遠心分離(17,800×g、4℃、5分間)した後に、エタノールを完全に蒸発させた。得られた残渣を50μlのTE溶液に溶解させた。この溶液中のDNA濃度は、260nmでの吸光度測定(Dilution Facter: X20 (4:76ddw))により決定した。
(2)リアルタイムPCR
上述のようにして得られたDNA断片を鋳型として、2通りのリアルタイムPCRを行なった。一方のPCR(内部コントロールPCR)では、ゲノムDNA上において上述のBssH II部位から5’側および3’側に向かって最初に存在する2つのEcoR Iにより挟まれたEcoR I−EcoR I領域中の、目的のメチル化部位を含まない領域(対照領域)を増幅しうるプライマーペアを用いた。内部コントロールPCRでは、増幅産物の量を示すシグナル発生手段として、SYBR Greenを用いた。他方のPCR(ターゲットPCR)では、前記EcoR I−EcoR I領域中の、目的のメチル化部位を含む領域(標的領域)を増幅しうるプライマーペアを用いた。ターゲットPCRでは、増幅産物の量を示すシグナル発生手段として、TaqManプローブを用いた。これらのPCRに用いたプライマーおよびプローブのヌクレオチド配列は、以下のとおりである。
上述のようにして得られたDNA断片を鋳型として、2通りのリアルタイムPCRを行なった。一方のPCR(内部コントロールPCR)では、ゲノムDNA上において上述のBssH II部位から5’側および3’側に向かって最初に存在する2つのEcoR Iにより挟まれたEcoR I−EcoR I領域中の、目的のメチル化部位を含まない領域(対照領域)を増幅しうるプライマーペアを用いた。内部コントロールPCRでは、増幅産物の量を示すシグナル発生手段として、SYBR Greenを用いた。他方のPCR(ターゲットPCR)では、前記EcoR I−EcoR I領域中の、目的のメチル化部位を含む領域(標的領域)を増幅しうるプライマーペアを用いた。ターゲットPCRでは、増幅産物の量を示すシグナル発生手段として、TaqManプローブを用いた。これらのPCRに用いたプライマーおよびプローブのヌクレオチド配列は、以下のとおりである。
内部コントロールPCR:
フォワード(RC-F1):5'-GAACAGTCCGGCGAAGAGAG-3'(配列番号1);
リバース(RC-R1):5'-CAGAGCCTCATCTGTAGAGGATTT-3'(配列番号2)。
ターゲットPCR:
フォワード(RC-F3):5'-CGGCGTCTCCAAAACTGAATGA-3'(配列番号3);
リバース(RC-R3):5'-GTGGGGTTGCCCGCAATATGCAG-3'(配列番号4);
TaqManプローブ:5'-FAM-CTAGCGCTGTTGCTGGGGGCGACGCTG-TAMRA-3'(配列番号5)。
フォワード(RC-F1):5'-GAACAGTCCGGCGAAGAGAG-3'(配列番号1);
リバース(RC-R1):5'-CAGAGCCTCATCTGTAGAGGATTT-3'(配列番号2)。
ターゲットPCR:
フォワード(RC-F3):5'-CGGCGTCTCCAAAACTGAATGA-3'(配列番号3);
リバース(RC-R3):5'-GTGGGGTTGCCCGCAATATGCAG-3'(配列番号4);
TaqManプローブ:5'-FAM-CTAGCGCTGTTGCTGGGGGCGACGCTG-TAMRA-3'(配列番号5)。
内部コントロールPCRのための反応溶液は、60ngの鋳型DNA、それぞれ200nMの各プライマー、12.5μlの2×Master Mix(SYBR Green PCR Master Mix: Applied Biosystems)、および蒸留水を含む計25μlの溶液とした。ターゲットPCRのための反応溶液は、60ngの鋳型DNA、それぞれ200nMの各プライマー、100nMのTaqManプローブ、12.5μlの2×Master Mix(TaqMan Universal PCR Master Mix: Applied Biosystems)、および蒸留水を含む計25μlの溶液とした。
リアルタイムPCRは、ABI PRISM(登録商標)7000 Sequence Detection System(Applied Biosystems)を用いて行なった。温度条件は、反応溶液を50℃で2分間処理し、さらに95℃で10分間処理した後に、95℃で20秒間および60℃で1分間の処理を48サイクルとした。
また、標準サンプルとして、10倍、100倍および1000倍に希釈した標準DNAを用いた。
(3)結果
上述の2通りのリアルタイムPCRにおけるシグナル強度の測定値から、(ターゲットPCRにおける測定値)/(内部コントロールPCRにおける測定値)を算出し、その値を対数グラフ上にプロットした。その結果を図2に示す。図2において、各データは、3回の独立した実験の平均値を示している。図2によれば、リーリン遺伝子プロモーター中の上述の部位におけるメチル化の程度は、被験者の間で大幅に異なることが明らかとなった。
上述の2通りのリアルタイムPCRにおけるシグナル強度の測定値から、(ターゲットPCRにおける測定値)/(内部コントロールPCRにおける測定値)を算出し、その値を対数グラフ上にプロットした。その結果を図2に示す。図2において、各データは、3回の独立した実験の平均値を示している。図2によれば、リーリン遺伝子プロモーター中の上述の部位におけるメチル化の程度は、被験者の間で大幅に異なることが明らかとなった。
実施例2:DRD2遺伝子プロモーター領域内のBssH II部位におけるメチル化の定量的評価
111名のヒト被験者からゲノムDNAサンプルを採取し、各サンプルについて、DRD2遺伝子プロモーター領域内の特定のBssH II部位におけるメチル化状態を定量的に評価した。具体的な手順および結果は、以下に示すとおりである。
111名のヒト被験者からゲノムDNAサンプルを採取し、各サンプルについて、DRD2遺伝子プロモーター領域内の特定のBssH II部位におけるメチル化状態を定量的に評価した。具体的な手順および結果は、以下に示すとおりである。
(1)DNAの制限酵素消化
ゲノムDNAを、2種の制限酵素を用いて消化した。ここで、一方の制限酵素は、その認識配列が目的のメチル化部位を包含するメチル化感受性制限酵素BssH IIとし、他方の制限酵素は、その認識配列が前記メチル化部位の5’側および3’側に存在する制限酵素EcoR Iとした。具体的には、500ngのゲノムDNA、6UのBssH II、6UのEcoR I、5μlの10×H緩衝液、および蒸留水を含む50μlの反応溶液を調製し、得られた反応溶液を、通気下、37℃で一晩インキュベートした。
ゲノムDNAを、2種の制限酵素を用いて消化した。ここで、一方の制限酵素は、その認識配列が目的のメチル化部位を包含するメチル化感受性制限酵素BssH IIとし、他方の制限酵素は、その認識配列が前記メチル化部位の5’側および3’側に存在する制限酵素EcoR Iとした。具体的には、500ngのゲノムDNA、6UのBssH II、6UのEcoR I、5μlの10×H緩衝液、および蒸留水を含む50μlの反応溶液を調製し、得られた反応溶液を、通気下、37℃で一晩インキュベートした。
次いで、切断されたDNA断片をエタノール沈澱によって回収し、これをTE溶液に溶解した。具体的には、上述のようにして得られた反応溶液に100μlのエタノール(100%)および5μlの3M酢酸ナトリウムを添加し、これを−20℃に20分間置いた。この溶液を遠心分離(17,800×g、4℃、15分間)した後に上清を除去した。この溶液に200μlの70%エタノールを添加し、遠心分離(17,800×g、4℃、5分間)した後に、エタノールを完全に蒸発させた。得られた残渣を50μlのTE溶液に溶解させた。この溶液中のDNA濃度は、260nmでの吸光度測定(Dilution Facter: X20 (4:76ddw))により決定した。
(2)リアルタイムPCR
上述のようにして得られたDNA断片を鋳型として、2通りのリアルタイムPCRを行なった。一方のPCR(内部コントロールPCR)では、ゲノムDNA上において上述のBssH II部位から5’側および3’側に向かって最初に存在する2つのEcoR Iにより挟まれたEcoR I−EcoR I領域中の、目的のメチル化部位を含まない領域(対照領域)を増幅しうるプライマーペアを用いた。他方のPCR(ターゲットPCR)では、前記EcoR I−EcoR I領域中の、目的のメチル化部位を含む領域(標的領域)を増幅しうるプライマーペアを用いた。これらのPCRでは、増幅産物の量を示すシグナル発生手段として、SYBR Greenを用いた。これらのPCRに用いたプライマーのヌクレオチド配列は、以下のとおりである。
上述のようにして得られたDNA断片を鋳型として、2通りのリアルタイムPCRを行なった。一方のPCR(内部コントロールPCR)では、ゲノムDNA上において上述のBssH II部位から5’側および3’側に向かって最初に存在する2つのEcoR Iにより挟まれたEcoR I−EcoR I領域中の、目的のメチル化部位を含まない領域(対照領域)を増幅しうるプライマーペアを用いた。他方のPCR(ターゲットPCR)では、前記EcoR I−EcoR I領域中の、目的のメチル化部位を含む領域(標的領域)を増幅しうるプライマーペアを用いた。これらのPCRでは、増幅産物の量を示すシグナル発生手段として、SYBR Greenを用いた。これらのPCRに用いたプライマーのヌクレオチド配列は、以下のとおりである。
内部コントロールPCR:
フォワード(DRD2-5FABconF2):5'-CCTGTCATCAATCACACAGTGC-3'(配列番号6);
リバース(DRD2-5FABconR2):5'-CATGGCTGAGTGGATTTCATGCT-3'(配列番号7)。
ターゲットPCR:
フォワード(DRD2-5FABmetF2):5'-AGGTACAGCTCCTTTGGTGG-3'(配列番号8);
リバース(DRD2-5FABmetR1):5'-CAGCAGCTCGGCCGGCTCT-3'(配列番号9)。
フォワード(DRD2-5FABconF2):5'-CCTGTCATCAATCACACAGTGC-3'(配列番号6);
リバース(DRD2-5FABconR2):5'-CATGGCTGAGTGGATTTCATGCT-3'(配列番号7)。
ターゲットPCR:
フォワード(DRD2-5FABmetF2):5'-AGGTACAGCTCCTTTGGTGG-3'(配列番号8);
リバース(DRD2-5FABmetR1):5'-CAGCAGCTCGGCCGGCTCT-3'(配列番号9)。
PCRのための反応溶液は、60ngの鋳型DNA、それぞれ200nMの各プライマー、12.5μlの2×Master Mix(SYBR Green PCR Master Mix: Applied Biosystems)、および蒸留水を含む計25μlの溶液とした。
リアルタイムPCRは、ABI PRISM(登録商標)7000 Sequence Detection System(Applied Biosystems)を用いて行なった。温度条件は、反応溶液を50℃で2分間処理し、さらに95℃で10分間処理した後に、95℃で20秒間および60℃で1分間の処理を48サイクルとした。
また、標準サンプルとして、10倍、100倍および1000倍に希釈した標準DNAを用いた。
(3)結果
上述の2通りのリアルタイムPCRにおけるシグナル強度の測定値から、(ターゲットPCRにおける測定値)/(内部コントロールPCRにおける測定値)を算出し、その値を対数グラフ上にプロットした。その結果を図3に示す。図3において、各データは、3回の独立した実験の平均値を示している。図3によれば、DRD2遺伝子プロモーター中の上述の部位におけるメチル化の程度は、被験者の間でほぼ同様であることが明らかとなった。
上述の2通りのリアルタイムPCRにおけるシグナル強度の測定値から、(ターゲットPCRにおける測定値)/(内部コントロールPCRにおける測定値)を算出し、その値を対数グラフ上にプロットした。その結果を図3に示す。図3において、各データは、3回の独立した実験の平均値を示している。図3によれば、DRD2遺伝子プロモーター中の上述の部位におけるメチル化の程度は、被験者の間でほぼ同様であることが明らかとなった。
実施例3:リーリン遺伝子プロモーター領域内のBssH II部位におけるメチル化の定量的評価
リーリン遺伝子(RELN)プロモーターの作用によりホタルルシフェラーゼを発現するプラスミドを作製し、RELNプロモーター領域におけるメチル化の程度とホタルルシフェラーゼの発現効率との関係を調べた。具体的な手順および結果は、以下に示すとおりである。
リーリン遺伝子(RELN)プロモーターの作用によりホタルルシフェラーゼを発現するプラスミドを作製し、RELNプロモーター領域におけるメチル化の程度とホタルルシフェラーゼの発現効率との関係を調べた。具体的な手順および結果は、以下に示すとおりである。
(1)プラスミドの作製
プロモーター領域および第一エクソンを含むリーリン遺伝子(RELN)領域を、ヒトゲノムDNAを鋳型とし、以下の配列を有するオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いるPCRによって増幅した。
RELN-532F:5'-GTTCTAGATCTTCCCAGGAAAAACAGGGCACACTG-3'(配列番号10);
RELN+misR:5'-AATATCCATGGTGGCGAGCACCTCGCCCTGC-3'(配列番号11)。
プロモーター領域および第一エクソンを含むリーリン遺伝子(RELN)領域を、ヒトゲノムDNAを鋳型とし、以下の配列を有するオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いるPCRによって増幅した。
RELN-532F:5'-GTTCTAGATCTTCCCAGGAAAAACAGGGCACACTG-3'(配列番号10);
RELN+misR:5'-AATATCCATGGTGGCGAGCACCTCGCCCTGC-3'(配列番号11)。
次いで、得られた増幅産物をBgl IIおよびNco Iで消化し、同じくBgl IIおよびNco Iで消化したpGL3−controlベクター(Promega社製)に挿入した。得られるpRELN−Lucに含まれるルシフェラーゼ発現カセットの構造を、図4に示す。pRELN−Lucでは、pGL3−controlベクター中に含まれていたSV40プロモーターに代えて、RELN遺伝子プロモーターがホタルルシフェラーゼのコード配列に連結されている。
得られたpRELN−Lucをコンピテント細胞である大腸菌JM109株に導入してこれを培養した後、HiSpeed Plasmid Midi Kit(QIAGEN社製)を用いて該培養物からプラスミドを抽出した。
(2)プラスミドの部分メチル化
pRELN−Lucを、CpGメチラーゼであるM.SssIを用いて部分的にメチル化した。具体的には、5.0μlの10×NEB Buffer2、4UのM.SssI、10ngのpRELN−Luc、10×SAM基質、および蒸留水を含む100μlの反応液を調製し、これを37℃でインキュベートした。ここで、異なるメチル化度を有する3種のpRELN−Lucを作製するため、SAM基質の終濃度を2×、1×および0.2×とし、反応時間をそれぞれ6時間、3時間および2時間とした。反応後のプラスミドの精製はWizard SV Gel and PCR Clean-Up System(Promega社製)を用いて行ない、50μlの蒸留水で溶出した。このようにして、メチル化度の異なる3種のプラスミドを得た(メチル化度の高い順に、「pRELN−Luc(H M)」、「pRELN−Luc(M M)」、および「pRELN−Luc(L M)」という)。
pRELN−Lucを、CpGメチラーゼであるM.SssIを用いて部分的にメチル化した。具体的には、5.0μlの10×NEB Buffer2、4UのM.SssI、10ngのpRELN−Luc、10×SAM基質、および蒸留水を含む100μlの反応液を調製し、これを37℃でインキュベートした。ここで、異なるメチル化度を有する3種のpRELN−Lucを作製するため、SAM基質の終濃度を2×、1×および0.2×とし、反応時間をそれぞれ6時間、3時間および2時間とした。反応後のプラスミドの精製はWizard SV Gel and PCR Clean-Up System(Promega社製)を用いて行ない、50μlの蒸留水で溶出した。このようにして、メチル化度の異なる3種のプラスミドを得た(メチル化度の高い順に、「pRELN−Luc(H M)」、「pRELN−Luc(M M)」、および「pRELN−Luc(L M)」という)。
(3)メチル化の定量的評価
各メチル化pRELN−Lucを、2種の制限酵素を用いて消化した。ここで、一方の制限酵素は、その認識配列が目的のメチル化部位を包含するメチル化感受性制限酵素BssH IIとし、他方の制限酵素は、その認識配列が前記メチル化部位の5’側および3’側に存在する制限酵素BamHIとした。具体的には、25ngのプラスミド、6UのBssH II、6UのBamHI、5μlの10×H緩衝液、および蒸留水を含む50μlの反応溶液を調製し、得られた反応溶液を、通気下、37℃で一晩インキュベートした。
各メチル化pRELN−Lucを、2種の制限酵素を用いて消化した。ここで、一方の制限酵素は、その認識配列が目的のメチル化部位を包含するメチル化感受性制限酵素BssH IIとし、他方の制限酵素は、その認識配列が前記メチル化部位の5’側および3’側に存在する制限酵素BamHIとした。具体的には、25ngのプラスミド、6UのBssH II、6UのBamHI、5μlの10×H緩衝液、および蒸留水を含む50μlの反応溶液を調製し、得られた反応溶液を、通気下、37℃で一晩インキュベートした。
次いで、切断されたDNA断片をエタノール沈澱によって回収し、これをTE溶液に溶解した。具体的には、上述のようにして得られた反応溶液に100μlのエタノール(100%)および5μlの3M酢酸ナトリウムを添加し、これを−20℃に20分間置いた。この溶液を遠心分離(17,800×g、4℃、15分間)した後に上清を除去した。この溶液に200μlの70%エタノールを添加し、遠心分離(17,800×g、4℃、5分間)した後に、エタノールを完全に蒸発させた。得られた残渣を50μlのTE溶液に溶解させた。この溶液中のDNA濃度は、260nmでの吸光度測定(Dilution Facter: X20 (4:76ddw))により決定した。
上述のようにして得られたDNA断片を鋳型として、2通りのリアルタイムPCRを行なった。一方のPCR(内部コントロールPCR)では、プラスミド上において上述のBssH II部位から5’側および3’側に向かって最初に存在する2つのBamHIにより挟まれたBamHI−BamHI領域中の、目的のメチル化部位を含まない領域(対照領域:150bp)を増幅しうるプライマーペアを用いた。内部コントロールPCRでは、増幅産物の量を示すシグナル発生手段として、SYBR Greenを用いた。他方のPCR(ターゲットPCR)では、前記BamHI−BamHI領域中の、目的のメチル化部位を含む領域(標的領域:275bp)を増幅しうるプライマーペアを用いた。ターゲットPCRでは、増幅産物の量を示すシグナル発生手段として、TaqManプローブを用いた。これらのPCRに用いたプライマーおよびプローブのヌクレオチド配列は、以下のとおりである。
内部コントロールPCR:
フォワード(pGL3ss1044):5'-TTTGATATGTGGATTTCGAG-3'(配列番号12);
リバース(pGL3as1194):5'-ATCGTATTTGTCAATCAGAG-3'(配列番号13)。
ターゲットPCR:
フォワード(RC-F3):5'-CGGCGTCTCCAAAACTGAATGA-3'(配列番号3);
リバース(RC-R3):5'-GTGGGGTTGCCCGCAATATGCAG-3'(配列番号4);
TaqManプローブ:5'-FAM-CTAGCGCTGTTGCTGGGGGCGACGCTG-TAMRA-3'(配列番号5)。
フォワード(pGL3ss1044):5'-TTTGATATGTGGATTTCGAG-3'(配列番号12);
リバース(pGL3as1194):5'-ATCGTATTTGTCAATCAGAG-3'(配列番号13)。
ターゲットPCR:
フォワード(RC-F3):5'-CGGCGTCTCCAAAACTGAATGA-3'(配列番号3);
リバース(RC-R3):5'-GTGGGGTTGCCCGCAATATGCAG-3'(配列番号4);
TaqManプローブ:5'-FAM-CTAGCGCTGTTGCTGGGGGCGACGCTG-TAMRA-3'(配列番号5)。
内部コントロールPCRのための反応溶液は、1ngの鋳型DNA、それぞれ200nMの各プライマー、12.5μlの2×Master Mix(SYBR Green PCR Master Mix: Applied Biosystems)、および蒸留水を含む計25μlの溶液とした。ターゲットPCRのための反応溶液は、1ngの鋳型DNA、それぞれ200nMの各プライマー、100nMのTaqManプローブ、12.5μlの2×Master Mix(TaqMan Universal PCR Master Mix, No AmpErase UNG: Applied Biosystems)、および蒸留水を含む計25μlの溶液とした。
リアルタイムPCRは、ABI PRISM(登録商標)7000 Sequence Detection System(Applied Biosystems)を用いて行なった。温度条件は、反応溶液を50℃で2分間処理し、さらに95℃で10分間処理した後に、95℃で20秒間および60℃で1分間の処理を48サイクルとした。
(4)デュアルルシフェラーゼレポーターアッセイ
レチノイン酸(RA)で3週間処理したヒトNTera2D1細胞に、各メチル化pRELN−Luc(0.2μg/test)を、ウミシイタケルシフェラーゼを発現するphRL−TK(Promega社製)(0.05μg/test)とともに共トランスフェクションした。トランスフェクションの48時間後、Dual-Luciferase Reporter Assay System(Promega社製)を用いてルシフェラーゼの活性を調べた。対照として、非メチル化pRELN−Luc(「pRELN−Luc(no M)」)、SV40プロモーターの制御下でホタルルシフェラーゼを発現するpGL3−promoter(Promega社製)、およびプロモーターにもエンハンサーにも連結されていないホタルルシフェラーゼ配列を有するpGL3−basic(Promega社製)を用いた。
レチノイン酸(RA)で3週間処理したヒトNTera2D1細胞に、各メチル化pRELN−Luc(0.2μg/test)を、ウミシイタケルシフェラーゼを発現するphRL−TK(Promega社製)(0.05μg/test)とともに共トランスフェクションした。トランスフェクションの48時間後、Dual-Luciferase Reporter Assay System(Promega社製)を用いてルシフェラーゼの活性を調べた。対照として、非メチル化pRELN−Luc(「pRELN−Luc(no M)」)、SV40プロモーターの制御下でホタルルシフェラーゼを発現するpGL3−promoter(Promega社製)、およびプロモーターにもエンハンサーにも連結されていないホタルルシフェラーゼ配列を有するpGL3−basic(Promega社製)を用いた。
(5)結果
メチル化の定量的評価の結果およびルシフェラーゼアッセイの結果を、図5に示す。図5の左側に示される棒グラフは、上述の2通りのリアルタイムPCRにおけるシグナル強度の測定値から、(ターゲットPCRにおける測定値)/(内部コントロールPCRにおける測定値)を算出し、その値を棒グラフとして示したものである。図5の右側に示される棒グラフは、デュアルルシフェラーゼアッセイにおける蛍光の測定値を、(ホタルルシフェラーゼの測定値)/(ウミシイタケルシフェラーゼの測定値)を算出することにより標準化し、その値を棒グラフとして示したものである。図5によれば、プロモーター領域におけるメチル化度が高くなるにつれて、そのプロモーターの作用が弱くなり、発現効率が低下することが確認された。
メチル化の定量的評価の結果およびルシフェラーゼアッセイの結果を、図5に示す。図5の左側に示される棒グラフは、上述の2通りのリアルタイムPCRにおけるシグナル強度の測定値から、(ターゲットPCRにおける測定値)/(内部コントロールPCRにおける測定値)を算出し、その値を棒グラフとして示したものである。図5の右側に示される棒グラフは、デュアルルシフェラーゼアッセイにおける蛍光の測定値を、(ホタルルシフェラーゼの測定値)/(ウミシイタケルシフェラーゼの測定値)を算出することにより標準化し、その値を棒グラフとして示したものである。図5によれば、プロモーター領域におけるメチル化度が高くなるにつれて、そのプロモーターの作用が弱くなり、発現効率が低下することが確認された。
実施例4:躁うつ病患者、統合失調症患者および健常者からのリーリン遺伝子プロモーター領域内のBssH II部位におけるメチル化の定量的評価
死亡した35名の躁うつ病(bipolar disorder)患者(男性:17名、女性:18名、死亡年齢:19〜64歳、平均死亡年齢:46歳)、死亡した35名の統合失調症(schizophrenia)患者(男性:26名、女性:9名、死亡年齢:19〜59歳、平均死亡年齢:43歳)、および死亡した35名の健常者(男性:26名、女性:9名、死亡年齢:31〜60歳、平均死亡年齢:45歳)の脳前頭葉からゲノムDNAサンプルを採取し、各サンプルについて、リーリン遺伝子プロモーター領域内の特定のBssH II部位におけるメチル化状態を定量的に評価した。具体的な手順および結果は、以下に示すとおりである。
死亡した35名の躁うつ病(bipolar disorder)患者(男性:17名、女性:18名、死亡年齢:19〜64歳、平均死亡年齢:46歳)、死亡した35名の統合失調症(schizophrenia)患者(男性:26名、女性:9名、死亡年齢:19〜59歳、平均死亡年齢:43歳)、および死亡した35名の健常者(男性:26名、女性:9名、死亡年齢:31〜60歳、平均死亡年齢:45歳)の脳前頭葉からゲノムDNAサンプルを採取し、各サンプルについて、リーリン遺伝子プロモーター領域内の特定のBssH II部位におけるメチル化状態を定量的に評価した。具体的な手順および結果は、以下に示すとおりである。
(1)DNAの制限酵素消化
ゲノムDNAを、2種の制限酵素を用いて消化した。ここで、一方の制限酵素は、その認識配列が目的のメチル化部位を包含するメチル化感受性制限酵素BssH IIとし、他方の制限酵素は、その認識配列が前記メチル化部位の5’側および3’側に存在する制限酵素EcoR Iとした。具体的には、500ngのゲノムDNA、6UのBssH II、6UのEcoR I、5μlの10×H緩衝液、および蒸留水を含む50μlの反応溶液を調製し、得られた反応溶液を、通気下、37℃で一晩インキュベートした。
ゲノムDNAを、2種の制限酵素を用いて消化した。ここで、一方の制限酵素は、その認識配列が目的のメチル化部位を包含するメチル化感受性制限酵素BssH IIとし、他方の制限酵素は、その認識配列が前記メチル化部位の5’側および3’側に存在する制限酵素EcoR Iとした。具体的には、500ngのゲノムDNA、6UのBssH II、6UのEcoR I、5μlの10×H緩衝液、および蒸留水を含む50μlの反応溶液を調製し、得られた反応溶液を、通気下、37℃で一晩インキュベートした。
次いで、切断されたDNA断片をエタノール沈澱によって回収し、これをTE溶液に溶解した。具体的には、上述のようにして得られた反応溶液に100μlのエタノール(100%)および5μlの3M酢酸ナトリウムを添加し、これを−20℃に20分間置いた。この溶液を遠心分離(17,800×g、4℃、15分間)した後に上清を除去した。この溶液に200μlの70%エタノールを添加し、遠心分離(17,800×g、4℃、5分間)した後に、エタノールを完全に蒸発させた。得られた残渣を50μlのTE溶液に溶解させた。この溶液中のDNA濃度は、260nmでの吸光度測定(Dilution Facter: X20 (4:76ddw))により決定した。
(2)リアルタイムPCR
上述のようにして得られたDNA断片を鋳型として、2通りのリアルタイムPCRを行なった。一方のPCR(内部コントロールPCR)では、ゲノムDNA上において上述のBssH II部位から5’側および3’側に向かって最初に存在する2つのEcoR Iにより挟まれたEcoR I−EcoR I領域中の、目的のメチル化部位を含まない領域(対照領域)を増幅しうるプライマーペアを用いた。内部コントロールPCRでは、増幅産物の量を示すシグナル発生手段として、SYBR Greenを用いた。他方のPCR(ターゲットPCR)では、前記EcoR I−EcoR I領域中の、目的のメチル化部位を含む領域(標的領域)を増幅しうるプライマーペアを用いた。ターゲットPCRでは、増幅産物の量を示すシグナル発生手段として、TaqManプローブを用いた。これらのPCRに用いたプライマーおよびプローブのヌクレオチド配列は、以下のとおりである。
上述のようにして得られたDNA断片を鋳型として、2通りのリアルタイムPCRを行なった。一方のPCR(内部コントロールPCR)では、ゲノムDNA上において上述のBssH II部位から5’側および3’側に向かって最初に存在する2つのEcoR Iにより挟まれたEcoR I−EcoR I領域中の、目的のメチル化部位を含まない領域(対照領域)を増幅しうるプライマーペアを用いた。内部コントロールPCRでは、増幅産物の量を示すシグナル発生手段として、SYBR Greenを用いた。他方のPCR(ターゲットPCR)では、前記EcoR I−EcoR I領域中の、目的のメチル化部位を含む領域(標的領域)を増幅しうるプライマーペアを用いた。ターゲットPCRでは、増幅産物の量を示すシグナル発生手段として、TaqManプローブを用いた。これらのPCRに用いたプライマーおよびプローブのヌクレオチド配列は、以下のとおりである。
内部コントロールPCR:
フォワード(RC-F1):5'-GAACAGTCCGGCGAAGAGAG-3'(配列番号1);
リバース(RC-R1):5'-CAGAGCCTCATCTGTAGAGGATTT-3'(配列番号2)。
ターゲットPCR:
フォワード(RC-F3):5'-CGGCGTCTCCAAAACTGAATGA-3'(配列番号3);
リバース(RC-R3):5'-GTGGGGTTGCCCGCAATATGCAG-3'(配列番号4);
TaqManプローブ:5'-FAM-CTAGCGCTGTTGCTGGGGGCGACGCTG-TAMRA-3'(配列番号5)。
フォワード(RC-F1):5'-GAACAGTCCGGCGAAGAGAG-3'(配列番号1);
リバース(RC-R1):5'-CAGAGCCTCATCTGTAGAGGATTT-3'(配列番号2)。
ターゲットPCR:
フォワード(RC-F3):5'-CGGCGTCTCCAAAACTGAATGA-3'(配列番号3);
リバース(RC-R3):5'-GTGGGGTTGCCCGCAATATGCAG-3'(配列番号4);
TaqManプローブ:5'-FAM-CTAGCGCTGTTGCTGGGGGCGACGCTG-TAMRA-3'(配列番号5)。
内部コントロールPCRのための反応溶液は、60ngの鋳型DNA、それぞれ200nMの各プライマー、12.5μlの2×Master Mix(SYBR Green PCR Master Mix: Applied Biosystems)、および蒸留水を含む計25μlの溶液とした。ターゲットPCRのための反応溶液は、60ngの鋳型DNA、それぞれ200nMの各プライマー、100nMのTaqManプローブ、12.5μlの2×Master Mix(TaqMan Universal PCR Master Mix: Applied Biosystems)、および蒸留水を含む計25μlの溶液とした。
リアルタイムPCRは、ABI PRISM(登録商標)7000 Sequence Detection System(Applied Biosystems)を用いて行なった。温度条件は、反応溶液を50℃で2分間処理し、さらに95℃で10分間処理した後に、95℃で20秒間および60℃で1分間の処理を48サイクルとした。
(3)結果
上述の2通りのリアルタイムPCRにおけるシグナル強度の測定値から、(ターゲットPCRにおける測定値)/(内部コントロールPCRにおける測定値)を算出し、その値を対数グラフ上にプロットした。その結果を図6に示す。図6において、縦軸はメチル化度を示し、横軸は被験者の死亡時の年齢を示している。また、各データは、3回の独立した実験の平均値を示している。
上述の2通りのリアルタイムPCRにおけるシグナル強度の測定値から、(ターゲットPCRにおける測定値)/(内部コントロールPCRにおける測定値)を算出し、その値を対数グラフ上にプロットした。その結果を図6に示す。図6において、縦軸はメチル化度を示し、横軸は被験者の死亡時の年齢を示している。また、各データは、3回の独立した実験の平均値を示している。
図6Aは、躁うつ病患者におけるメチル化度と死亡時年齢との関係を示す。図6Bは、統合失調症患者におけるメチル化度と死亡時年齢との関係を示す。図6Cは、健常者におけるメチル化度と死亡時年齢との関係を示す。図6A、BおよびCによれば、疾患群(躁うつ病患者および統合失調症患者)と健常者とでは分布像が異なっており、健常者では年齢とメチル化度との間に有意な相関が見られたのに対し、患者群ではこのような相関は見られない。また、疾患群では、比較的若い年代に高メチル化度を示すサンプルが存在する。
Claims (17)
- 制限酵素によるゲノムDNAの切断を阻害する、ゲノム上のヌクレオチド残基のメチル化の状態を定量的に評価する方法であって、
(a)ゲノムDNAを含むサンプル中のDNAを、目的のヌクレオチド残基のメチル化によってゲノム上の標的切断部位における切断作用が阻害される少なくとも1種の制限酵素で消化し、かつ、ゲノム上の標的切断部位よりも5’側および3’側において前記DNAを切断する工程、
(b)ゲノム上において、標的切断部位から5’側および3’側に向けて最も近位に位置する工程(a)による2つの切断点の間に存在し、かつ、標的切断部位を含むゲノム上の標的領域を増幅しうるプライマーを用いて、工程(a)によって得られる消化産物を鋳型とする核酸増幅反応を行ない、得られる増幅産物の量を測定する工程、
(c)ゲノム上において、標的切断部位から5’側および3’側に向けて最も近位に位置する工程(a)による2つの切断点の間に存在し、かつ、標的切断部位を含まないゲノム上の対照領域を増幅しうるプライマーを用いて、工程(a)によって得られる消化産物を鋳型とする核酸増幅反応を行ない、得られる増幅産物の量を測定する工程、ならびに
(d)工程(b)によって得られる測定値と、工程(c)によって得られる測定値とを比較する工程
を含んでなる、方法。 - 目的のヌクレオチド残基が、前記制限酵素の認識配列中に含まれるものである、請求項1に記載の方法。
- 前記制限酵素が、その認識配列に含まれるヌクレオチド残基のメチル化によって阻害されるものである、請求項1に記載の方法。
- 工程(a)が、ゲノムDNAを含むサンプル中のDNAを、標的切断部位よりも5’側および3’側においてゲノムDNAを切断しうる制限酵素で消化することを含んでなる、請求項1に記載の方法。
- 工程(a)が、ゲノムDNAを含むサンプル中のDNAを、標的切断部位よりも5’側においてゲノムDNAを切断しうる制限酵素、および標的切断部位よりも3’側においてゲノムDNAを切断しうる制限酵素で消化することを含んでなる、請求項1に記載の方法。
- 工程(b)および工程(c)の一方または両方における核酸増幅反応が、リアルタイムPCRである、請求項1に記載の方法。
- 工程(b)および工程(c)の一方または両方における増幅産物量の測定が、インターカレーターからのシグナル強度の測定によって行なわれる、請求項1に記載の方法。
- 工程(b)および工程(c)の一方または両方における増幅産物量の測定が、TaqManプローブに起因する蛍光強度の測定によって行なわれる、請求項1に記載の方法。
- 工程(b)によって得られる測定値を、工程(c)によって得られる測定値で除して得られる値が、前記サンプルにおける目的のヌクレオチド残基のメチル化の量的な指標とされる、請求項1に記載の方法。
- 制限酵素によるゲノムDNAの切断を阻害する、ゲノム上のヌクレオチド残基のメチル化の状態を定量的に評価するためのキットであって、
(a)目的のヌクレオチド残基のメチル化によってゲノム上の標的切断部位における切断作用が阻害される少なくとも1種の制限酵素、
(b)ゲノム上の標的切断部位よりも5’側および3’側においてゲノムDNAを切断しうる試薬、
(c)ゲノム上において、標的切断部位から5’側および3’側に向けて最も近位に位置する前記制限酵素または前記試薬による2つの切断点の間に存在し、かつ、標的切断部位を含むゲノム上の標的領域を増幅しうるプライマー、ならびに
(d)ゲノム上において、標的切断部位から5’側および3’側に向けて最も近位に位置する、前記制限酵素または前記試薬による2つの切断点の間に存在し、かつ、標的切断部位を含まないゲノム上の対照領域を増幅しうるプライマー
を含んでなる、キット。 - 目的のヌクレオチド残基が、前記制限酵素の認識配列中に含まれるものである、請求項10に記載のキット。
- 前記制限酵素が、その認識配列に含まれるヌクレオチド残基のメチル化によって阻害されるものである、請求項10に記載のキット。
- 前記試薬が、標的切断部位よりも5’側および3’側においてゲノムDNAを切断しうる制限酵素を含んでなるものである、請求項10に記載のキット。
- 前記試薬が、標的切断部位よりも5’側においてゲノムDNAを切断しうる制限酵素、および標的切断部位よりも3’側においてゲノムDNAを切断しうる制限酵素を含んでなるものである、請求項10に記載のキット。
- 前記(c)および(d)の一方または両方のプライマーによる核酸増幅反応において増幅産物の量に対応する強度のシグナルを発生するシグナル発生物質をさらに含んでなる、請求項10に記載のキット。
- 前記シグナル発生物質がインターカレーターである、請求項15に記載のキット。
- 前記シグナル発生物質がTaqManプローブである、請求項15に記載のキット。
Applications Claiming Priority (3)
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JP2004154558 | 2004-05-25 | ||
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Citations (2)
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JP2002112799A (ja) * | 2000-10-04 | 2002-04-16 | Otsuka Pharmaceut Co Ltd | 癌疾患の予後判定法 |
JP2002543852A (ja) * | 1999-05-14 | 2002-12-24 | ユニバーシティ オブ サザン カリフォルニア | 高処理dnaメチル化解析のための方法 |
-
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- 2005-03-14 JP JP2006513814A patent/JPWO2005116254A1/ja active Pending
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JP2002112799A (ja) * | 2000-10-04 | 2002-04-16 | Otsuka Pharmaceut Co Ltd | 癌疾患の予後判定法 |
Non-Patent Citations (2)
Title |
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JPN6010054635, Human molecular genetics. 1999, Vol.8, No.3, p.459−470 * |
JPN6010054636, 田村美子、外2名, "メチル化によるエピジェネティクなゲノム変化と統合失調症との関連解析", 第26回日本分子生物学会年会プログラム・講演要旨集, 20031125, p.1042(4PC−158) * |
Also Published As
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