明 細 書
DNAのメチル化を定量的に評価する方法
関連出願の参照
[0001] 本特許出願は、先に出願された日本国における特許出願である特願 2004— 1545 58号(出願日: 2004年 5月 25日)に基づく優先権の主張を伴うものである。この先の 特許出願における全開示内容は、引用することにより本明細書の一部とされる。 発明の背景
[0002] 術分野
本発明は、 DNAのメチルイ匕の状態を定量的に評価する方法に関する。
[0003] 普晋 術
ゲノム DNAのメチル化は、ェピジェネティックなゲノム修飾の一つである。このような ゲノム DNAのメチルイ匕は、高等生物にとって重要なゲノム調節因子(要素)として働 くものと考えられており、例えば、組織特異的な遺伝子発現制御、クロマチン構造の 維持、 X染色体の不活性化、ゲノムインプリンティング等に関与することが知られてい る(En Li, Nat. Rev. Genet. 3, 662-673, 2002) 0
[0004] ゲノム DNAの異常なメチルイ匕は、様々な疾患と関連することが知られており、特に 、細胞の癌化と関連することがよく知られている(Esteller M. et al., J. Pathol. 196, 1-7, 2002) o最近では、ゲノム DNAの異常なメチルイ匕が精神疾患と関連している可 能性も指摘されている(Popendikyte V. et al, Neuroreport. 10, 1249-1255, 1999 ; Chen Y. et al., Nucleic Acids Res. 30, 2930—2939, 2002) 0
[0005] 従って、ゲノム DNA上のメチルイ匕 DNAを定性的または定量的に評価することは、 上述のゲノム調節機構の理解、 DNAのメチル化と疾患との新たな関連の調査等に おいて、極めて有用である。
[0006] 現在までに、ゲノム上のメチルイ匕 DNAを検出するための様々な方法が開発されて いる。このような方法としては、例えば、 DNAを重亜硫酸塩 (bisulfite)処理すると、シ トシンはゥラシルに変換されるのに対し、メチルイ匕されたシトシン(5 ' -メチルシトシン) はゥラシルに変換されないという現象を利用した方法がある(Takeo Kubota et al,
Hum. Genet. 104, 49—55, 1999 ; Clark S.J. et al, Nucleic Acids Res. 22, 2990—2997, 1994) oこの方法では、重亜硫酸塩によって処理したゲノム DNAを铸型として PCR を行い、その PCR産物を適当なプラスミドベクターにクローユングし、その後、塩基配 列決定によってシトシン残基のメチルイ匕パターンを検出する。この方法は、 DNAのメ チル化パターンを定性的に解析する上で優れて ヽるが、メチル化程度を定量的に評 価する上では適して ヽな 、。
[0007] さらに、ゲノム DNA上のメチル化 DNAを検出する方法として、ゲノム DNAをメチル 感受性の制限酵素で処理した後にサザンプロット解析を行なう方法がある(Huang T. H. et al., Hum. Mol. Genet. 8, 459-470, 1999)。この方法では、 DNA上のメチル化 の程度を定量的に検出することが可能となるが、大量のサンプルが必要とされ、解析 に時間がかかり、また、その検出感度も十分に高いとはいえない。
発明の概要
[0008] 本発明者らは、今般、 目的のヌクレオチド残基のメチルイ匕によってゲノム上の特定 の切断点における切断作用が阻害される制限酵素を用いてゲノム DNAを消化し、 得られた消化産物を铸型として、ゲノム上の前記切断点を含む領域を増幅しうるブラ イマ一を用いる核酸増幅反応を行ない、これにより得られる増幅産物の量を、前記切 断点を含まない近位の領域を増幅しうるプライマーによる増幅産物の量と比較するこ とにより、前記ヌクレオチド残基のメチルイ匕の状態を定量的に評価できることを見出し た。本発明はこの知見に基づくものである。
[0009] 従って、本発明の目的は、ゲノム上の DNAのメチルイ匕の状態を定量的に評価する 方法を提供することにある。
[0010] そして、本発明による方法は、制限酵素によるゲノム DNAの切断を阻害する、ゲノ ム上のヌクレオチド残基のメチルイ匕の状態を定量的に評価する方法であって、(a)ゲ ノム DNAを含むサンプル中の DNAを、 目的のヌクレオチド残基のメチル化によって ゲノム上の標的切断部位における切断作用が阻害される少なくとも 1種の制限酵素 で消化し、かつ、ゲノム上の標的切断部位よりも 5 '側および 3'側においてゲノム DN Aを切断する工程、(b)ゲノム上において、標的切断部位から 5'側および 3'側に向 けて最も近位に位置する工程 (a)による 2つの切断点の間に存在し、かつ、標的切断
部位を含むゲノム上の標的領域を増幅しうるプライマーを用いて、工程 (a)によって 得られる消化産物を铸型とする核酸増幅反応を行な!ヽ、得られる増幅産物の量を測 定する工程、(c)ゲノム上において、標的切断部位から 5'側および 3'側に向けて最 も近位に位置する工程 (a)による 2つの切断点の間に存在し、かつ、標的切断部位を 含まないゲノム上の対照領域を増幅しうるプライマーを用いて、工程 (a)によって得ら れる消化産物を铸型とする核酸増幅反応を行な!ヽ、得られる増幅産物の量を測定す る工程、ならびに (d)工程 (b)によって得られる測定値と、工程 (c)によって得られる 測定値とを比較する工程、を含んでなるものである。
[0011] 本発明によれば、ゲノム上のヌクレオチド残基のメチルイ匕の状態を、簡便な手順に よって定量的に評価することが可能となる。本発明による方法は、ェピジェネティック なゲノム変化を解析するための基礎的研究および応用研究などにおいて、幅広い有 用性を有する。さらに、本発明による方法は医療分野において利用することができ、 例えば、ゲノム上の特定のヌクレオチド残基のメチルイ匕が特定の疾患 (例えば、癌、 腫瘍、および精神疾患)に関連している場合には、その疾患の診断等に利用すること ができる。
図面の簡単な説明
[0012] [図 1]図 1は、本発明の一つの態様による方法の工程を模式的に示す図である。
[図 2]図 2は、リーリン遺伝子プロモーター中の特定の部位におけるメチルイ匕について 、(ターゲット PCRにおける測定値) Z (内部コントロール PCRにおける測定値)を対 数グラフ上にプロットした図である。
[図 3]図 3は、 DRD2遺伝子プロモーター中の特定の部位におけるメチル化について 、(ターゲット PCRにおける測定値) Z (内部コントロール PCRにおける測定値)を対 数グラフ上にプロットした図である。
[図 4]図 4は、リーリン遺伝子プロモーターの制御下においてホタルルシフェラーゼを 発現するプラスミド pRELN— Lucの構造を示す図である。
[図 5]図 5は、各プラスミドのプロモーター領域におけるメチルイ匕度と、各プラスミドによ るルシフェラーゼの発現量とを示すグラフである。
[図 6A]図 6Aは、躁うつ病患者における死亡時年齢とリーリン遺伝子プロモーター中
の特定部位のメチルイ匕度との関係を示す図である。
[図 6B]図 6Bは、統合失調症患者における死亡時年齢とリーリン遺伝子プロモーター 中の特定部位のメチルイ匕度との関係を示す図である。
[図 6C]図 6Cは、健常者における死亡時年齢とリーリン遺伝子プロモーター中の特定 部位のメチルイ匕度との関係を示す図である。
発明の具体的説明
[0013] 本発明による方法では、ゲノム上の特定のヌクレオチド残基カ チルイ匕されたときに 、ゲノム上の特定の位置における特定の制限酵素の切断作用が阻害されるという現 象を利用している。よって、本発明において評価の対象となるヌクレオチド残基は、そ のメチル化によってゲノム DNA上のいずれかの位置におけるいずれかの制限酵素 の切断作用が阻害されるものである。本発明による方法では、ゲノム DNAを含むサ ンプル中の DNA力 目的のヌクレオチド残基のメチル化によってゲノム上の特定の 切断点 (標的切断点)における切断作用が阻害される制限酵素によって消化される。 その結果、標的切断点においてゲノム DNAが切断されていない場合には、 目的の ヌクレオチド残基力 Sメチルイ匕されていることが示され、標的切断点においてゲノム DN Aが切断された場合には、 目的のヌクレオチド残基カ^チルイ匕されていないことが示 される。
[0014] 標的切断点における酵素的切断の有無は、ゲノム上における標的切断点を含む標 的領域を増幅しうるプライマーを用いた核酸増幅反応にぉ 、て増幅産物が得られる か否かによって示される。ここで、本発明による方法では、標的切断点の 5'側および 3'側においてゲノム DNAが確実に切断されるため、前記標的領域は、標的切断点 力も 5 '側および 3 '側に向けて最も近位に位置する 2つの切断点の間〖こ存在するよう に選択される。前記核酸増幅反応によって得られる増幅産物のコピー数は、前記サ ンプル中に存在する数多くのコピー数のゲノム DNAのうちの、 目的のヌクレオチド残 基カ チルイ匕されているコピーの比率を示す指標となる。
[0015] 本発明による方法では、さらに、前記 2つの切断点の間に存在し、かつ、標的切断 点を含まな 、対照領域を増幅しうるプライマーを用いた核酸増幅反応が行なわれ、 得られる増幅産物のコピー数を内部コントロールとすることにより、 目的のヌクレオチド
残基におけるメチルイ匕を定量的に評価することが可能となる。
[0016] さらに、上述の原理を利用することにより、複数のヌクレオチド残基または複数の標 的切断点についてメチルイ匕の定量的評価を行なうことも可能であり、そのような方法 も本発明に包含される。
[0017] 以上のように、本発明による方法は、 DNA切断処理工程、標的領域の増幅工程、 および対照領域の増幅工程を含んでなる。
[0018] DNA切断処理工程では、ゲノム DNAを含むサンプル中の DNAが、 目的のヌクレ ォチド残基のメチルイ匕によってゲノム上の標的切断部位における切断作用が阻害さ れる少なくとも 1種の制限酵素で消化される。
[0019] 本明細書にぉ 、て「目的のヌクレオチド残基」とは、メチルイ匕の定量的評価の対象 とするゲノム上のヌクレオチド残基を意味する。このようなヌクレオチド残基は、そのメ チルイ匕によってゲノム上の特定の位置における特定の制限酵素による切断作用が阻 害されるものであればよく、当業者により適宜選択される。また、選択される制限酵素 によっては、複数の異なるヌクレオチド残基のいずれかのメチルイ匕によって、同一箇 所におけるその切断作用が阻害される場合もある。本発明による方法では、これら複 数のヌクレオチド残基を目的のヌクレオチド残基とすることもできる。その場合には、 本発明による方法によって定量評価されるメチル化は、前記複数のヌクレオチド残基 のうちのいずれかにおけるメチルイ匕である。さらに、本発明による方法では、複数の 標的切断点における制限酵素による切断を阻害する複数のヌクレオチド残基のメチ ルイ匕を評価の対象とすることもできる。 目的のヌクレオチド残基は、前記制限酵素の 認識配列中に含まれることが多い。従って、本発明の好ましい実施態様によれば、 目 的のヌクレオチド残基は、上述の DNA消化処理に用いられる制限酵素の認識配列 中に含まれるものとされる。
[0020] 本明細書において「標的切断点」とは、いずれかの制限酵素によって切断されるゲ ノム DNA上の特定の位置であって、 目的のヌクレオチド残基のメチル化によって制 限酵素による切断が阻害される位置を意味する。さらに、「標的切断部位」とは、本発 明による方法において単一の標的切断点が利用される場合にはその標的切断点そ のものを意味し、複数の標的切断点が利用される場合には、これら複数の標的切断
点のうち、最も 5'側に存在するものと最も 3'側に存在するものとによって挟まれるゲノ ム上の領域を意味する。
[0021] 上述の DNA消化処理に用いられる制限酵素は、目的のヌクレオチド残基のメチル 化によってゲノム上の特定の切断点 (標的切断点)における切断作用が阻害されるも のである。このような制限酵素は、目的のヌクレオチド残基またはその周辺の配列に 応じて、当業者によって適宜選択される。また、このような制限酵素は、その認識配列 に含まれるヌクレオチド残基のメチルイ匕によって阻害されることが多い。従って、本発 明の好ましい実施態様によれば、上述の DNA消化処理に用いられる制限酵素は、 その認識配列に含まれるヌクレオチド残基のメチルイ匕によって阻害されるものとされる 。このような多くの制限酵素が、メチル化感受性制限酵素として、その活性 (切断作用 )を阻害するメチルイ匕部位およびその他の性質とともに当技術分野にぉ 、てよく知ら れている(例えば、 Nelson M. et al, Nucleic Acids Research, Vol. 21, No. 13, 3139-3154, 1993)。従って、当業者であれば、目的に応じて制限酵素を容易に選択 することができる。また、上述の DNA消化処理に用いられる制限酵素として、複数種 の制限酵素を用いることもできる。
[0022] さらに、 DNA切断処理工程では、ゲノム上の標的切断部位よりも 5'側および 3 '側 において前記 DNAが切断される。これにより、後に行なわれる核酸増幅反応におい て铸型として用いるのに好適な DNA断片を得ることが可能となる。このような DNAの 切断は、当業者であれば容易に行なうことができる。例えば、上述の DNA消化処理 に用いられる制限酵素力 標的切断部位の 5 '側および 3 '側にぉ 、てゲノム DNAを 確実に切断しうる場合には、この DNA切断は、上述の DNA消化処理において同時 に行なうことができる。また、この DNA切断は、必要に応じて、ゲノム上の標的切断 部位よりも 5 '側および 3 '側にぉ 、てゲノム DNAを切断しうる試薬を用いて行なうこと もできる。このような試薬としては、例えば、制限酵素が挙げられる。よって、本発明の 一つの実施態様によれば、 DNA切断処理工程は、ゲノム DN Aを含むサンプル中の DNAを、標的切断部位よりも 5 '側および 3 '側にお 、てゲノム DNAを切断しうる制 限酵素で消化することを含んでなる。また、本発明の他の実施態様によれば、 DNA 切断処理工程は、ゲノム DNAを含むサンプル中の DNAを、標的切断部位よりも 5,
側にお ヽてゲノム DNAを切断しうる制限酵素、および標的切断部位よりも 3 '側にお V、てゲノム DNAを切断しうる制限酵素で消化することを含んでなる。これらの DNA 切断に用いられる制限酵素は、ゲノム上の目的の位置において確実にゲノム DNA を切断しうるように、当業者によって適宜選択される。また、これらの制限酵素はメチ ル化感受性制限酵素であってもよぐこの場合には、これらの制限酵素の活性 (切断 作用)を阻害するメチルイ匕ヌクレオチド残基が存在しないか、または存在するメチル 化ヌクレオチド残基によって前記制限酵素の活性がほとんど阻害されないことが必要 となる。
[0023] DNA切断処理工程では、制限酵素による DNA消化処理と、標的切断部位の 5' 側および 3'側における DNA切断とを別々に行なってもよいし、あるいは、同時に行 なってもょ 、。特に、標的切断部位の 5 '側および 3 '側における DNA切断が制限酵 素によって行なわれる場合には、これに必要な制限酵素と DNA消化処理に用いら れる制限酵素とを含む制限酵素組成物を用いて DNAを消化することにより、 DNA 切断処理工程を一工程で行なうことが可能である。
[0024] ゲノム DNAを含むサンプルは、対象となる生物、例えばヒトから採取したサンプル から、一般的な制限酵素処理に好適なものとなるように、当業者によって適宜調製さ れる。また、制限酵素による DNAの消化は、一般的な制限酵素処理の条件として知 られる反応条件に従って、当業者により適宜実行される。
[0025] 標的領域の増幅工程では、ゲノム上にぉ 、て、標的切断部位から 5 '側および 3 '側 に向けて最も近位に位置する前記 DNA切断処理工程による 2つの切断点の間に存 在し、かつ、標的切断部位を含むゲノム上の標的領域を増幅しうるプライマーを用い て、前記 DNA切断処理工程によって得られる消化産物を铸型とする核酸増幅反応 が行なわれ、さらに、得られる増幅産物の量が測定される。この核酸増幅反応では、 標的切断部位に含まれる 、ずれの標的切断点にぉ 、てもゲノム DNAが切断されて いない場合にのみ増幅産物が得られるため、それぞれの標的切断点に対応する目 的のヌクレオチド残基 (一の標的切断点に対応する目的のヌクレオチド残基が複数 存在する場合には、そのうちの!/、ずれか一つ)の全てカ^チル化されて!/、る場合にの み、増幅産物が得られる。一方で、標的切断部位に含まれるいずれかの標的切断点
にお 、てゲノム DNAが切断されて 、る場合には増幅産物が得られな 、ため、それぞ れの標的切断点に対応する目的のヌクレオチド残基 (一の標的切断点に対応する目 的のヌクレオチド残基が複数存在する場合には、その全て)のいずれかがメチルイ匕さ れていない場合には、増幅産物が得られない。従って、この増幅産物の量は、標的 切断部位に含まれる標的切断点のそれぞれに対応する目的のヌクレオチド残基 (一 の標的切断点に対応する目的のヌクレオチド残基が複数存在する場合には、そのう ちの!/、ずれか一つ)の全て力 Sメチル化されて 、るゲノム DNAのコピー数に対応する ため、 目的のヌクレオチド残基 (群)におけるメチルイ匕の量を示す指標となる。例えば 、標的切断部位に一つの標的切断点が含まれる場合には、増幅産物の量は、その 標的切断点に対応する目的のヌクレオチド残基 (その標的切断点に対応する目的の ヌクレオチド残基が複数存在する場合には、そのうちのいずれか一つ)がメチル化さ れているゲノム DNAのコピー数に対応するため、 目的のヌクレオチド残基 (群)にお けるメチルイ匕の量を示す指標となる。
[0026] 対照領域の増幅工程では、ゲノム上にぉ 、て、標的切断部位から 5 '側および 3 '側 に向けて最も近位に位置する前記 DNA切断処理工程による 2つの切断点の間に存 在し、かつ、標的切断部位を含まないゲノム上の対照領域を増幅しうるプライマーを 用いて、前記 DNA切断処理工程によって得られる消化産物を铸型とする核酸増幅 反応が行なわれ、さらに、得られる増幅産物の量が測定される。この核酸増幅反応で は、 目的のヌクレオチド残基カ チルイ匕されている力否かにかかわらず、一定のコピ 一数の増幅産物が得られる。従って、この増幅産物の量は、 目的のヌクレオチド残基 におけるメチルイ匕の状態を定量的に評価するための内部コントロールとなる。
[0027] 前記核酸増幅反応は、铸型となる DNA配列中の特定の領域を増幅することのでき る方法に従って、当業者により適宜実行される。このような方法としては、当技術分野 において多くの方法が知られており、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応法 (PCR法:米国 特許第 4683195号明細書)、リガーゼ連鎖反応法 (LCR法:欧州特許出願公開第 0 320308号明細書)等が挙げられる。これらの方法は、複数の温度条件を含む温度 サイクルの数によって増幅産物の理論上のコピー数を制御することができるという利 点を有する。また、前記核酸増幅反応としては、一定の温度において核酸を増幅す
る方法を用いることもでき、このような方法としては、例えば、 SDA法 (特開平 5— 192 195号公報)、 LAMP法(国際公開第 00Z28082号パンフレット)、 ICAN法(国際 公開第 02Z16639号パンフレット)等が挙げられる。
[0028] 前記標的領域または前記対照領域を増幅しうるプライマーは、選択された核酸増 幅反応の作用機序に応じて、当業者であれば容易に設計することができる。例えば、 このようなプライマーは、増幅の対象とする領域の第一鎖の 3'末端部分に特異的に ノ、イブリダィズする配列を少なくとも含んでなる第一のプライマーと、前記領域の第二 鎖の 3'末端部分に特異的にハイブリダィズする配列を少なくとも含んでなる第二の プライマーとを少なくとも含んでなるものとすることができる。
[0029] 本明細書において「特異的にハイブリダィズする」とは、前記プライマーがストリンジ ヱントな条件下で増幅の対象とする領域のいずれかの鎖の 3'末端部分にハイブリダ ィズし、かつ、核酸増幅反応に用いられる反応溶液中に存在する他のヌクレオチド分 子またはその一部にはハイブリダィズしないことを意味する。ストリンジェントな条件は 、 2つのヌクレオチド分子のハイブリダィズにより形成される二重鎖の融解温度 Tm ( °C)およびハイブリダィゼーシヨン溶液の塩濃度などに依存して決定することができ、 例 ば、 J. Sambrook, E. F. Frisch, T. Maniatis; Molecularし loning 2nd edition, Cold Spring Harbor Laboratory (1989)等を参照することができる。例えば、プライマ 一として用いられるヌクレオチド分子の融解温度よりわずかに低い温度下でハイプリ ダイゼーシヨンを行なうと、前記プライマーを所定の領域に特異的にノ、イブリダィズさ せることができる。本発明の好ましい実施態様によれば、ある領域 (配列部分)に特異 的にハイブリダィズするプライマーは、その領域に相補的なヌクレオチド配列を含ん でなるものとされる。
[0030] 前記核酸増幅反応において铸型として用いられる消化産物としては、前記 DNA切 断処理工程によって得られる消化産物をそのままの形で用いてもよいし、該消化産 物を含む溶液を核酸増幅反応に好適な溶液となるように改変した溶液を用いてもよ い。また、前記 DNA切断処理工程によって得られる消化産物を、エタノール沈澱法 などの標準的な方法によって単離し、これを核酸増幅反応のための溶液中に溶解さ せることちでさる。
[0031] 本発明の好ましい実施態様によれば、標的領域の増幅工程および対照領域の増 幅工程の一方または両方における核酸増幅反応は、その反応中において増幅産物 の増加に対応して検出可能なシグナルの強度が増加する方法によって行なわれ、よ り好ましくはリアルタイム PCRとされる。このような方法により、核酸増幅反応の終了と 同時に、さらなる複雑な工程を要することなぐ増幅産物の量を測定することが可能と なる。このような方法は、例えば、増幅産物の量に対応する強度のシグナルを発生す るシグナル発生物質を予め核酸増幅反応のための反応溶液の中に添加しておくこと によって行なうことができる。
[0032] 前記シグナル発生物質としては、例えば、インターカレーターが挙げられる。従って 、本発明の一つの実施態様によれば、標的領域の増幅工程および対照領域の増幅 工程の一方または両方における増幅産物量の測定は、インターカレーター力 のシ グナル強度の測定によって行なわれる。本明細書にぉ 、て「インターカレーター」と は、二本鎖 DN Aを形成している二本の DN A鎖の間に侵入して蛍光を発する物質を 意味する。インターカレーターとしては様々な物質が知られており、例えば、臭化工 チジゥム、アタリジン色素、 SYBR Green (「SYBR」は Molecular Probes社の登録商 標である)等が挙げられる。
[0033] また、前記シグナル発生物質としては、 TaqManプローブを挙げることができる。従 つて、本発明の他の実施態様によれば、標的領域の増幅工程および対照領域の増 幅工程の一方または両方における増幅産物量の測定は、 TaqManプローブに起因 する蛍光強度の測定によって行なわれる。 TaqManプローブを用いた PCR法は、 Ta qManPCR法として当技術分野においてよく知られている。従って、本発明に用いる ための TaqManプローブは、当業者によって容易に設計され、調製される。
[0034] 上述の標的領域の増幅工程によって得られる測定値は、対照領域の増幅工程によ つて得られる測定値と比較される。これにより、標的領域の増幅工程によって得られる 測定値が内部コントロールによって標準化され、 目的のヌクレオチド残基 (群)のメチ ルイ匕の量的な指標を得ることができる。本発明の好ましい実施態様によれば、標的領 域の増幅工程によって得られる測定値を、対照領域の増幅工程によって得られる測 定値で除して得られる値力 サンプルにおける目的のヌクレオチド残基 (群)のメチル
化の量的な指標とされる。
[0035] 本発明の一つの好ましい実施態様による方法を、図 1に従って説明する。図 1に示 す方法では、上述の DNA消化処理に用いられる制限酵素として BssH IIが用いら れ、その認識配列中に存在するシトシン残基のメチル化の状態が定量的に評価され る。標的切断部位の 5'側および 3'側における DNA切断には、制限酵素として Eco R Iが用いられる。
[0036] まず、サンプル中に含まれるゲノム DNA上には、 EcoR I部位と BssH II部位とが 交互に存在しており、左側の BssH II部位 (標的 BssH II部位)に目的のシトシン残 基が含まれている(図 1上段)。このゲノム DNAを、 BssH IIと EcoR Iとを含む制限酵 素組成物で消化すると、 BssH II部位にメチルイ匕シトシンが存在する場合にはその 制限酵素部位は切断されず、 BssH II部位にメチルイ匕シトシンが存在しない場合に はその制限酵素部位は切断される。よって、消化産物中には、目的のシトシン残基が メチル化されているゲノム DNAコピーに由来する EcoR I— EcoR I断片と、目的のシ トシン残基がメチル化されていないゲノム DNAコピーに由来する EcoR I— BssH II 断片および BssH II— EcoR I断片とが混在する(図 1中段)。また、目的のシトシン残 基を含まない非標的 BssH II部位においても同様の反応が起こる。よって、消化産物 中には、非標的 BssH II部位とその周辺の領域に由来する EcoR I— EcoR I断片、 E coR I BssH II断片および BssH II— EcoR I断片も存在する(図 1中段の右側)。
[0037] 次 、で、標的 BssH II部位を含む EcoR I— EcoR I断片を铸型とした場合に該標的 BssH II部位を含む標的領域を増幅しうるプライマーを用いて、消化産物を铸型とす るリアルタイム PCRが行なわれる。この PCRでは、標的 BssH II部位を含む EcoR I— EcoR I断片から増幅産物が得られるのに対し、 EcoR I BssH II断片および BssH II EcoR I断片から増幅産物は得られない(図 1下段の左側の増幅)。なお、前記プ ライマーは、前記標的領域に特異的な配列を有するため、非標的 BssH II部位とそ の周辺の領域に由来する EcoR I— EcoR I断片から増幅産物が得られることはない。
[0038] さらに、標的 BssH II部位を含む EcoR I— EcoR I断片を铸型とした場合に該標的 BssH II部位を含まない対照領域を増幅しうるプライマーを用いて、消化産物を铸型 とするリアルタイム PCRが行なわれる。この PCRでは、標的 BssH II部位を含む Eco
R I-EcoR I断片と、 EcoR I— BssH II断片および BssH II— EcoR I断片のいずれ か一方と力 増幅産物が得られる(図 1下段の右側の増幅)。よって、この PCRによれ ば、標的 BssH II部位における DNA切断の有無にかかわらず、一定量の増幅産物 が得られる。
[0039] 最後に、前記標的領域における PCR増幅量を前記対照領域における PCR増幅量 で除することによって、目的のシトシン残基におけるメチルイ匕の状態についての定量 的な評価値が得られる。
[0040] 本発明による方法によって目的のヌクレオチド残基におけるメチルイ匕の状態を定量 的に評価するために、必要な試薬をまとめてキットとすることができる。従って、本発 明によれば、制限酵素によるゲノム DNAの切断を阻害する、ゲノム上のヌクレオチド 残基のメチルイ匕の状態を定量的に評価するためのキットであって、(a)目的のヌクレ ォチド残基のメチルイ匕によってゲノム上の標的切断部位における切断作用が阻害さ れる少なくとも 1種の制限酵素、(b)ゲノム上の標的切断部位よりも 5 '側および 3 '側 においてゲノム DNAを切断しうる試薬、(c)ゲノム上において、標的切断部位から 5' 側および 3 '側に向けて最も近位に位置する前記制限酵素または前記試薬による 2 つの切断点の間に存在し、かつ、標的切断部位を含むゲノム上の標的領域を増幅し うるプライマー、ならびに(d)ゲノム上において、標的切断部位から 5'側および 3 '側 に向けて最も近位に位置する、前記制限酵素または前記試薬による 2つの切断点の 間に存在し、かつ、標的切断部位を含まないゲノム上の対照領域を増幅しうるプライ マー、を含んでなるキットが提供される。
[0041] 本発明によるキットの具体的な構成は、これにより実施しょうとする具体的な方法お よびその作用機序によって異なり、例えば、本発明による方法について上述した説明 に従って設計することができる。
[0042] 従って、目的のヌクレオチド残基は、好ましくは前記制限酵素の認識配列中に含ま れるものとされる。また、前記制限酵素は、好ましくは、その認識配列に含まれるヌク レオチド残基のメチルイ匕によって阻害されるものとされる。
[0043] さらに、本発明の一つの実施態様によれば、前記試薬は、標的切断部位よりも 5' 側および 3 '側にお 、てゲノム DNAを切断しうる制限酵素を含んでなるものとされる。
また、本発明の他の実施態様によれば、前記試薬は、標的切断部位よりも 5'側にお Vヽてゲノム DNAを切断しうる制限酵素、および標的切断部位よりも 3 '側にぉ ヽてゲ ノム DNAを切断しうる制限酵素を含んでなるものとされる。
[0044] また、本発明によるキットは、好ましくは、前記 (c)および (d)の一方または両方のプ ライマーによる核酸増幅反応において増幅産物の量に対応する強度のシグナルを 発生するシグナル発生物質をさらに含んでなるものとされる。前記シグナル発生物質 としては、例えば、上述のインターカレーター、 TaqManプローブ等が挙げられる。
[0045] さらに、本発明によるキットは、二本鎖 DNAの制限酵素処理に用いられる他の試薬 類、核酸増幅反応に用いられる他の試薬類、反応容器、本発明による方法の具体的 手順を記載した説明書等を含んで!/ヽてもよ ヽ。制限酵素処理に用いられる他の試薬 類としては、例えば緩衝液等が挙げられる。核酸増幅反応に用いられる他の試薬類 としては、例えば、塩化マグネシウム、酢酸マグネシウム、硫酸マグネシウム等の触媒 、 dNTPミックス等の基質、緩衝液などが挙げられる。
実施例
[0046] 以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、これら実施例は本発 明を限定するものではな 、。
[0047] 実施例 1:リーリン遣伝子プロモーター領城内の BssH II部位におけるメチル化の定
111名のヒト被験者力もゲノム DNAサンプルを採取し、各サンプルについて、リーリ ン遺伝子プロモーター領域内の特定の BssH II部位におけるメチルイ匕状態を定量的 に評価した。具体的な手順および結果は、以下に示すとおりである。
[0048] (l) DNAの制限酵素消化
ゲノム DNAを、 2種の制限酵素を用いて消化した。ここで、一方の制限酵素は、そ の認識配列が目的のメチルイ匕部位を包含するメチル化感受性制限酵素 BssH IIとし 、他方の制限酵素は、その認識配列が前記メチルイ匕部位の 5'側および 3'側に存在 する制限酵素 EcoR Iとした。具体的には、 500ngのゲノム DNA、 6Uの BssH II、 6 Uの EcoR I、 5 1の 10 X H緩衝液、および蒸留水を含む 50 μ 1の反応溶液を調製 し、得られた反応溶液を、通気下、 37°Cで一晩インキュベートした。
[0049] 次いで、切断された DNA断片をエタノール沈澱によって回収し、これを TE溶液に 溶解した。具体的には、上述のようにして得られた反応溶液に 100 1のエタノール( 100%)および 5 1の 3M酢酸ナトリウムを添カ卩し、これを 20°Cに 20分間置いた。こ の溶液を遠心分離(17, 800 X g、 4°C、 15分間)した後に上清を除去した。この溶液 に 200 1の 70%エタノールを添加し、遠心分離(17, 800 X g、 4。C、 5分間)した後 に、エタノールを完全に蒸発させた。得られた残渣を 50 1の TE溶液に溶解させた。 この溶液中の DNA濃度は、 260nmでの吸光度測定(Dilution Facter: X20
(4:76ddw))により決定した。
[0050] (2)リアルタイム PCR
上述のようにして得られた DNA断片を铸型として、 2通りのリアルタイム PCRを行な つた。一方の PCR (内部コントロール PCR)では、ゲノム DNA上において上述の Bss H II部位から 5'側および 3'側に向力つて最初に存在する 2つの EcoR Iにより挟ま れた EcoR I— EcoR I領域中の、 目的のメチルイ匕部位を含まな 、領域 (対照領域)を 増幅しうるプライマーペアを用いた。内部コントロール PCRでは、増幅産物の量を示 すシグナル発生手段として、 SYBR Greenを用いた。他方の PCR (ターゲット PCR) では、前記 EcoR I— EcoR I領域中の、 目的のメチルイ匕部位を含む領域 (標的領域) を増幅しうるプライマーペアを用いた。ターゲット PCRでは、増幅産物の量を示すシ グナル発生手段として、 TaqManプローブを用いた。これらの PCRに用いたプライマ 一およびプローブのヌクレオチド配列は、以下のとおりである。
[0051] 内部コントロール PCR:
フォワード (RC- Fl) : 5,- GAACAGTCCGGCGAAGAGAG- 3' (配列番号 1); リバース (RC- R1): 5 ' -C AGAGCCTC ATCTGTAGAGGATTT-3 ' (配列番号 2)。
ターゲット PCR:
フォワード (RC- F3) : 5,- CGGCGTCTCCAAAACTGAATGA- 3' (配列番号 3); リバース (RC- R3) : 5,- GTGGGGTTGCCCGCAATATGCAG- 3' (配列番号 4); TaqManプローブ:
5し FAM- CTAGCGCTGTTGCTGGGGGCGACGCTG- TAMRA- 3' (配列番号 5)。
[0052] 内部コントロール PCRのための反応溶液は、 60ngの铸型 DNA、それぞれ 200η
Mの各プライマー、 12. 5 μ 1の 2 X Master Mix (SYBR Green PCR Master Mix: Applied Biosystems)、および蒸留水を含む計 25 μ 1の溶液とした。ターゲット PCRの ための反応溶液は、 60ngの铸型 DNA、それぞれ 200nMの各プライマー、 ΙΟΟηΜ の TaqManプローブ、 12. 5 μ 1の 2 X Master Mix(TaqMan Universal PCR Master Mix: Applied Biosystems)、および蒸留水を含む計 25 μ 1の溶液とした。
[0053] リアルタイム PCRは、 ABI PRISM (登録商標) 7000 Sequence Detection System (
Applied Biosystems)を用いて行なった。温度条件は、反応溶液を 50°Cで 2分間処理 し、さらに 95°Cで 10分間処理した後に、 95°Cで 20秒間および 60°Cで 1分間の処理 を 48サイクノレとした。
[0054] また、標準サンプルとして、 10倍、 100倍および 1000倍に希釈した標準 DNAを用 いた。
[0055] (3)結果
上述の 2通りのリアルタイム PCRにおけるシグナル強度の測定値から、(ターゲット P CRにおける測定値) Z (内部コントロール PCRにおける測定値)を算出し、その値を 対数グラフ上にプロットした。その結果を図 2に示す。図 2において、各データは、 3回 の独立した実験の平均値を示している。図 2によれば、リーリン遺伝子プロモーター 中の上述の部位におけるメチルイ匕の程度は、被験者の間で大幅に異なることが明ら カゝとなった。
[0056] 実施例 2: DRD2遣伝子プロモーター領城内の BssH II部位におけるメチル化の定
111名のヒト被験者からゲノム DNAサンプルを採取し、各サンプルについて、 DR D2遺伝子プロモーター領域内の特定の BssH II部位におけるメチルイ匕状態を定量 的に評価した。具体的な手順および結果は、以下に示すとおりである。
[0057] (l) DNAの制限酵素消化
ゲノム DNAを、 2種の制限酵素を用いて消化した。ここで、一方の制限酵素は、そ の認識配列が目的のメチルイ匕部位を包含するメチル化感受性制限酵素 BssH IIとし 、他方の制限酵素は、その認識配列が前記メチルイ匕部位の 5'側および 3'側に存在 する制限酵素 EcoR Iとした。具体的には、 500ngのゲノム DNA、 6Uの BssH II、 6
Uの EcoR I、 5 1の 10 X H緩衝液、および蒸留水を含む 50 μ 1の反応溶液を調製 し、得られた反応溶液を、通気下、 37°Cで一晩インキュベートした。
[0058] 次いで、切断された DNA断片をエタノール沈澱によって回収し、これを TE溶液に 溶解した。具体的には、上述のようにして得られた反応溶液に 100 1のエタノール( 100%)および 5 1の 3M酢酸ナトリウムを添カ卩し、これを 20°Cに 20分間置いた。こ の溶液を遠心分離(17, 800 X g、 4°C、 15分間)した後に上清を除去した。この溶液 に 200 1の 70%エタノールを添加し、遠心分離(17, 800 X g、 4。C、 5分間)した後 に、エタノールを完全に蒸発させた。得られた残渣を 50 1の TE溶液に溶解させた。 この溶液中の DNA濃度は、 260nmでの吸光度測定(Dilution Facter: X20
(4:76ddw))により決定した。
[0059] (2)リアルタイム PCR
上述のようにして得られた DNA断片を铸型として、 2通りのリアルタイム PCRを行な つた。一方の PCR (内部コントロール PCR)では、ゲノム DNA上において上述の Bss H II部位から 5'側および 3'側に向力つて最初に存在する 2つの EcoR Iにより挟ま れた EcoR I— EcoR I領域中の、 目的のメチルイ匕部位を含まな 、領域 (対照領域)を 増幅しうるプライマーペアを用いた。他方の PCR (ターゲット PCR)では、前記 EcoR I EcoR I領域中の、 目的のメチルイ匕部位を含む領域 (標的領域)を増幅しうるプライ マーペアを用いた。これらの PCRでは、増幅産物の量を示すシグナル発生手段とし て、 SYBR Greenを用いた。これらの PCRに用いたプライマーのヌクレオチド配列は 、以下のとおりである。
[0060] 内部コントロール PCR:
フォワード (DRD2-5FABconF2): 5'- CCTGTCATCAATCACACAGTGC- 3' (配列番 号 6) ;
リバース (DRD2- 5FABconR2): 5'- CATGGCTGAGTGGATTTCATGCT- 3' (配列番 号 7)。
ターゲット PCR:
フォワード (DRD2-5FABmetF2): 5し AGGTACAGCTCCTTTGGTGG- 3' (配列番号 8 );
リバース (DRD2- 5FABmetRl): 5し CAGCAGCTCGGCCGGCTCT- 3' (配列番号 9)。
[0061] PCRのための反応溶液は、 60ngの铸型 DNA、それぞれ 200nMの各プライマー
、 12. 5 1の 2 X Master Mix (SYBR Green PCR Master Mix: Applied Biosystems)
、および蒸留水を含む計 25 μ 1の溶液とした。
[0062] リアルタイム PCRは、 ABI PRISM (登録商標) 7000 Sequence Detection System (
Applied Biosystems)を用いて行なった。温度条件は、反応溶液を 50°Cで 2分間処理 し、さらに 95°Cで 10分間処理した後に、 95°Cで 20秒間および 60°Cで 1分間の処理 を 48サイクノレとした。
[0063] また、標準サンプルとして、 10倍、 100倍および 1000倍に希釈した標準 DNAを用 いた。
[0064] (3)結果
上述の 2通りのリアルタイム PCRにおけるシグナル強度の測定値から、(ターゲット P CRにおける測定値) Z (内部コントロール PCRにおける測定値)を算出し、その値を 対数グラフ上にプロットした。その結果を図 3に示す。図 3において、各データは、 3回 の独立した実験の平均値を示している。図 3によれば、 DRD2遺伝子プロモーター中 の上述の部位におけるメチルイ匕の程度は、被験者の間でほぼ同様であることが明ら カゝとなった。
[0065] 実施例 3:リーリン遺伝子プロモーター領城内の BssH II部位におけるメチル化の定 龍
リーリン遺伝子 (RELN)プロモーターの作用によりホタルルシフェラーゼを発現す るプラスミドを作製し、 RELNプロモーター領域におけるメチルイ匕の程度とホタルルシ フェラーゼの発現効率との関係を調べた。具体的な手順および結果は、以下に示す とおりである。
[0066] (1)プラスミドの作製
プロモーター領域および第一ェクソンを含むリーリン遺伝子 (RELN)領域を、ヒトゲ ノム DNAを铸型とし、以下の配列を有するオリゴヌクレオチドをプライマーとして用い る PCRによって増幅した。
RELN-532F: 5'- GTTCTAGATCTTCCCAGGAAAAACAGGGCACACTG- 3' (配列
番号 10);
RELN+misR: 5 '-AATATCCATGGTGGCGAGCACCTCGCCCTGC-3' (配列番号 11
) o
[0067] 次!、で、得られた増幅産物を Bgl IIおよび Nco Iで消化し、同じく Bgl IIおよび Nco
Iで消化した pGL3— controlベクター(Promega社製)に挿入した。得られる pRELN Lucに含まれるルシフェラーゼ発現カセットの構造を、図 4に示す。 pRELN— Luc では、 pGL3— controlベクター中に含まれていた SV40プロモーターに代えて、 RE LN遺伝子プロモーターがホタルルシフェラーゼのコード配列に連結されている。
[0068] 得られた pRELN— Lucをコンビテント細胞である大腸菌 JM109株に導入してこれ を培養した後、 HiSpeed Plasmid Midi Kit (QIAGEN社製)を用いて該培養物からプラ スミドを抽出した。
[0069] (2)プラスミドの部分メチルイ匕
pRELN— Lucを、 CpGメチラーゼである M. Ssslを用いて部分的にメチル化した。 具体的には、 5. Ο ΐの 10 X NEB Buffer2、 4Uの M. Sssl, 10ngの pRELN—Luc、 10 X SAM基質、および蒸留水を含む 100 1の反応液を調製し、これを 37°Cでイン キュペートした。ここで、異なるメチルイ匕度を有する 3種の pRELN— Lucを作製するた め、 SAM基質の終濃度を 2 X、 I Xおよび 0. 2 Xとし、反応時間をそれぞれ 6時間、 3時間および 2時間とした。反応後のプラスミドの精製は Wizard SV Gel and PCR Clean- Up System (Promega社製)を用いて行ない、 50 1の蒸留水で溶出した。この ようにして、メチルイ匕度の異なる 3種のプラスミドを得た (メチルイ匕度の高い順に、「pR ELN-Luc (H M)」、「pRELN— Luc (M M)」、および「pRELN— Luc (L M)」とい う)。
[0070] (3)メチル化の定量的評価
各メチルイ匕 pRELN— Lucを、 2種の制限酵素を用いて消化した。ここで、一方の制 限酵素は、その認識配列が目的のメチルイ匕部位を包含するメチル化感受性制限酵 素 BssH IIとし、他方の制限酵素は、その認識配列が前記メチルイ匕部位の 5'側およ び 3'側に存在する制限酵素 BamHIとした。具体的には、 25ngのプラスミド、 6Uの B ssH II、 6Uの BamHI、 5 μ 1の 10 X H緩衝液、および蒸留水を含む 50 μ 1の反応溶
液を調製し、得られた反応溶液を、通気下、 37°Cで一晩インキュベートした。
[0071] 次いで、切断された DNA断片をエタノール沈澱によって回収し、これを TE溶液に 溶解した。具体的には、上述のようにして得られた反応溶液に 100 1のエタノール( 100%)および 5 1の 3M酢酸ナトリウムを添カ卩し、これを 20°Cに 20分間置いた。こ の溶液を遠心分離(17, 800 X g、 4°C、 15分間)した後に上清を除去した。この溶液 に 200 1の 70%エタノールを添加し、遠心分離(17, 800 X g、 4。C、 5分間)した後 に、エタノールを完全に蒸発させた。得られた残渣を 50 1の TE溶液に溶解させた。 この溶液中の DNA濃度は、 260nmでの吸光度測定(Dilution Facter: X20
(4:76ddw))により決定した。
[0072] 上述のようにして得られた DNA断片を铸型として、 2通りのリアルタイム PCRを行な つた。一方の PCR (内部コントロール PCR)では、プラスミド上において上述の BssH II部位から 5'側および 3'側に向力つて最初に存在する 2つの BamHIにより挟まれた BamHI— BamHI領域中の、 目的のメチル化部位を含まない領域(対照領域: 150b P)を増幅しうるプライマーペアを用いた。内部コントロール PCRでは、増幅産物の量 を示すシグナル発生手段として、 SYBR Greenを用いた。他方の PCR (ターゲット P CR)では、前記 BamHI— BamHI領域中の、 目的のメチルイ匕部位を含む領域 (標的 領域: 275bp)を増幅しうるプライマーペアを用いた。ターゲット PCRでは、増幅産物 の量を示すシグナル発生手段として、 TaqManプローブを用いた。これらの PCRに 用いたプライマーおよびプローブのヌクレオチド配列は、以下のとおりである。
[0073] 内部コントロール PCR:
フォワード (pGL3ssl044) : 5,- TTTGATATGTGGATTTCGAG- 3' (配列番号 12); リバース (pGL3asl 194): 5し ATCGTATTTGTCAATCAGAG- 3' (配列番号 13)。 ターゲット PCR:
フォワード (RC- F3) : 5,- CGGCGTCTCCAAAACTGAATGA- 3' (配列番号 3); リバース (RC- R3) : 5,- GTGGGGTTGCCCGCAATATGCAG- 3' (配列番号 4); TaqManプローブ:
5し FAM- CTAGCGCTGTTGCTGGGGGCGACGCTG- TAMRA- 3' (配列番号 5)。
[0074] 内部コントロール PCRのための反応溶液は、 lngの铸型 DNA、それぞれ 200nM
の各プライマー、 12. 5 μ 1の 2 X Master Mix (SYBR Green PCR Master Mix: Applied Biosystems)、および蒸留水を含む計 25 μ 1の溶液とした。ターゲット PCRの ための反応溶液は、 lngの铸型 DNA、それぞれ 200nMの各プライマー、 ΙΟΟηΜ の TaqManプローブ、 12. 5 μ 1の 2 X Master Mix (TaqMan Universal PCR Master Mix, No AmpErase UNG: Applied Biosystems)、および蒸留水を含む計 25 μ 1の溶 液とした。
[0075] リアルタイム PCRは、 ABI PRISM (登録商標) 7000 Sequence Detection System (
Applied Biosystems)を用いて行なった。温度条件は、反応溶液を 50°Cで 2分間処理 し、さらに 95°Cで 10分間処理した後に、 95°Cで 20秒間および 60°Cで 1分間の処理 を 48サイクノレとした。
[0076] (4)デュアルルシフェラーゼレポーターアツセィ
レチノイン酸 (RA)で 3週間処理したヒト NTera2Dl細胞に、各メチル化 pRELN— Luc (0. 2 /z gZtest)を、ゥミシィタケルシフェラーゼを発現する phRL— TK ( Promega社製) (0. 05 gZtest)とともに共トランスフエクシヨンした。トランスフエクシ ヨンの 48時間後、 Dua卜 Luciferase Reporter Assay System (Promega社製)を用いて ルシフェラーゼの活性を調べた。対照として、非メチル化 pRELN— Luc (「pRELN— Luc (no M)」)、 SV40プロモーターの制御下でホタルルシフェラーゼを発現する pG L3— promoter (Promega社製)、およびプロモーターにもェンハンサーにも連結され て ヽな 、ホタルルシフェラーゼ配列を有する pGL3— basic (Promega社製)を用いた。
[0077] (5)結果
メチルイ匕の定量的評価の結果およびルシフェラーゼアツセィの結果を、図 5に示す 。図 5の左側に示される棒グラフは、上述の 2通りのリアルタイム PCRにおけるシグナ ル強度の測定値から、(ターゲット PCRにおける測定値) Z (内部コントロール PCRに おける測定値)を算出し、その値を棒グラフとして示したものである。図 5の右側に示 される棒グラフは、デュアルルシフェラーゼアツセィにおける蛍光の測定値を、(ホタ ルルシフェラーゼの測定値) / (ゥミシィタケルシフェラーゼの測定値)を算出すること により標準化し、その値を棒グラフとして示したものである。図 5によれば、プロモータ 一領域におけるメチルイ匕度が高くなるにつれて、そのプロモーターの作用が弱くなり
、発現効率が低下することが確認された。
[0078] 実施例 4 :跺うつ病患者、統合失調症患者および健常者からのリーリン遺伝子プロモ 一ター領城内の BssH II部位におけるメチル化の定量的評価
死亡した 35名の躁うつ病(bipolar disorder)患者(男性: 17名、女性: 18名、死亡年 齢: 19一 64歳、平均死亡年齢: 46歳)、死亡した 35名の統合失調症(schizophrenia )患者 (男性: 26名、女性 : 9名、死亡年齢:19一 59歳、平均死亡年齢 :43歳)、およ び死亡した 35名の健常者 (男性: 26名、女性: 9名、死亡年齢: 31— 60歳、平均死 亡年齢: 45歳)の脳前頭葉力もゲノム DNAサンプルを採取し、各サンプルにつ 、て 、リーリン遺伝子プロモーター領域内の特定の BssH II部位におけるメチルイ匕状態を 定量的に評価した。具体的な手順および結果は、以下に示すとおりである。
[0079] (l) DNAの制限酵素消化
ゲノム DNAを、 2種の制限酵素を用いて消化した。ここで、一方の制限酵素は、そ の認識配列が目的のメチルイ匕部位を包含するメチル化感受性制限酵素 BssH IIとし 、他方の制限酵素は、その認識配列が前記メチルイ匕部位の 5'側および 3'側に存在 する制限酵素 EcoR Iとした。具体的には、 500ngのゲノム DNA、 6Uの BssH II、 6 Uの EcoR I、 5 1の 10 X H緩衝液、および蒸留水を含む 50 μ 1の反応溶液を調製 し、得られた反応溶液を、通気下、 37°Cで一晩インキュベートした。
[0080] 次いで、切断された DNA断片をエタノール沈澱によって回収し、これを TE溶液に 溶解した。具体的には、上述のようにして得られた反応溶液に 100 1のエタノール( 100%)および 5 1の 3M酢酸ナトリウムを添カ卩し、これを 20°Cに 20分間置いた。こ の溶液を遠心分離(17, 800 X g、 4°C、 15分間)した後に上清を除去した。この溶液 に 200 1の 70%エタノールを添加し、遠心分離(17, 800 X g、 4。C、 5分間)した後 に、エタノールを完全に蒸発させた。得られた残渣を 50 1の TE溶液に溶解させた。 この溶液中の DNA濃度は、 260nmでの吸光度測定(Dilution Facter: X20
(4:76ddw))により決定した。
[0081] (2)リアルタイム PCR
上述のようにして得られた DNA断片を铸型として、 2通りのリアルタイム PCRを行な つた。一方の PCR (内部コントロール PCR)では、ゲノム DNA上において上述の Bss
H II部位から 5'側および 3'側に向力つて最初に存在する 2つの EcoR Iにより挟ま れた EcoR I— EcoR I領域中の、 目的のメチルイ匕部位を含まな 、領域 (対照領域)を 増幅しうるプライマーペアを用いた。内部コントロール PCRでは、増幅産物の量を示 すシグナル発生手段として、 SYBR Greenを用いた。他方の PCR (ターゲット PCR) では、前記 EcoR I— EcoR I領域中の、 目的のメチルイ匕部位を含む領域 (標的領域) を増幅しうるプライマーペアを用いた。ターゲット PCRでは、増幅産物の量を示すシ グナル発生手段として、 TaqManプローブを用いた。これらの PCRに用いたプライマ 一およびプローブのヌクレオチド配列は、以下のとおりである。
[0082] 内部コントロール PCR:
フォワード (RC- Fl) : 5,- GAACAGTCCGGCGAAGAGAG- 3' (配列番号 1); リバース (RC- R1): 5 ' -C AGAGCCTC ATCTGTAGAGGATTT-3 ' (配列番号 2)。
ターゲット PCR:
フォワード (RC- F3) : 5,- CGGCGTCTCCAAAACTGAATGA- 3' (配列番号 3); リバース (RC- R3) : 5,- GTGGGGTTGCCCGCAATATGCAG- 3' (配列番号 4); TaqManプローブ:
5し FAM- CTAGCGCTGTTGCTGGGGGCGACGCTG- TAMRA- 3' (配列番号 5)。
[0083] 内部コントロール PCRのための反応溶液は、 60ngの铸型 DNA、それぞれ 200η Μの各プライマー、 12. 5 μ 1の 2 X Master Mix (SYBR Green PCR Master Mix: Applied Biosystems)、および蒸留水を含む計 25 μ 1の溶液とした。ターゲット PCRの ための反応溶液は、 60ngの铸型 DNA、それぞれ 200nMの各プライマー、 ΙΟΟηΜ の TaqManプローブ、 12. 5 μ 1の 2 X Master Mix (TaqMan Universal PCR Master Mix: Applied Biosystems)、および蒸留水を含む計 25 μ 1の溶液とした。
[0084] リアルタイム PCRは、 ABI PRISM (登録商標) 7000 Sequence Detection System (
Applied Biosystems)を用いて行なった。温度条件は、反応溶液を 50°Cで 2分間処理 し、さらに 95°Cで 10分間処理した後に、 95°Cで 20秒間および 60°Cで 1分間の処理 を 48サイクノレとした。
[0085] (3)結果
上述の 2通りのリアルタイム PCRにおけるシグナル強度の測定値から、(ターゲット P
CRにおける測定値) Z (内部コントロール PCRにおける測定値)を算出し、その値を 対数グラフ上にプロットした。その結果を図 6に示す。図 6において、縦軸はメチルイ匕 度を示し、横軸は被験者の死亡時の年齢を示している。また、各データは、 3回の独 立した実験の平均値を示して!/ヽる。
図 6Aは、躁うつ病患者におけるメチルイ匕度と死亡時年齢との関係を示す。図 6Bは 、統合失調症患者におけるメチル化度と死亡時年齢との関係を示す。図 6Cは、健常 者におけるメチルイ匕度と死亡時年齢との関係を示す。図 6A、 Bおよび Cによれば、疾 患群 (躁うつ病患者および統合失調症患者)と健常者とでは分布像が異なっており、 健常者では年齢とメチルイ匕度との間に有意な相関が見られたのに対し、患者群では このような相関は見られない。また、疾患群では、比較的若い年代に高メチルイ匕度を 示すサンプルが存在する。