JPWO2005019447A1 - 単色蛍光プローブ - Google Patents
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Abstract
この出願の発明は、蛍光蛋白質の変異体であって、circular−permuted蛍光蛋白質(cpFP)、基質ドメインおよびリン酸化認識ドメインを有することを特徴とする単色蛍光プローブである。このような特徴を有する単色蛍光プローブによって、細胞や組織が生きた状態(リアルタイム)で蛋白質リン酸化酵素の活性測定ができ、1種類の蛋白質リン酸化酵素の活性測定するために2種類もの蛍光団を用意することなく、しかも複数の細胞や組織においての蛋白質リン酸化酵素の活性を同時に可視化検出、測定することができる。
Description
この出願の発明は、単色蛍光プローブに関するものである。さらに詳しくは、この出願の発明は、蛋白質リン酸化酵素の活性を測定することのできる単色蛍光プローブに関するものである。
蛋白質の翻訳後の修飾反応である蛋白質リン酸化は、細胞内のシグナル伝達系の反応として大変重要である。蛋白質リン酸化は、蛋白質の局部構造を直接変化させると同時に、多くの場合、アロステリックに作用して、蛋白質のコンフォメーション変化を誘起し、蛋白質の性質を変化させる。この蛋白質リン酸化は、「蛋白質リン酸化酵素(プロテインキナーゼとも呼ばれる)」と「蛋白質脱リン酸酵素(ホスホプロテインホスファターゼとも呼ばれる)」とによって行われる。そして、蛋白質リン酸化は、たとえば、細菌の走化性等の刺激応答、ホルモンの刺激応答系等、多くの刺激応答系に深く関与していることが知られている。
また、上記の多くの刺激応答系にかかわる蛋白質リン酸化酵素の同定やその活性の制御機構の解明や測定、リン酸化される基質蛋白質とそのリン酸化部位の同定、リン酸化による活性制御機構の解明等によって、複雑なネットワークを形成する生命現象の解明や蛋白質リン酸化の活性制御機構の異常を原因とする疾患の解明や治療等に貢献できると期待されている。
そこで、蛋白質リン酸化酵素の活性を測定する方法が提案されている。従来では、蛋白質リン酸化酵素の活性の測定には、放射性同位元素である32Pでラベルされた[γ−32P]ATP等を用いて、放射性同位元素ラベルされたリン酸基が基質に転移される活性を測定していた。だが、この方法を実施する場合には、上記のとおり放射性同位元素を利用するため、購入時や廃棄時の諸手続き、利用するための特別な施設等が必要となるという問題があった。
係る問題を解決するため、たとえば、p53のリン酸化酵素の活性を免疫学的に測定する方法等が提案されている(たとえば、特開2000−325086号公報)。
この特開2000−325086号公報に開示されている方法は、ガン抑制遺伝子の発現産物であるp53のリン酸化酵素の活性を、リン酸化p53に対する抗体を用いる免疫学的な測定方法である。この方法は、従来のように放射性同位元素を利用しないため、廃液の処理や、放射性物質を利用するための特別な施設等を必要とせずに、蛋白質リン酸化酵素(この特開2000−325086号公報では、p53に関わる蛋白質リン酸化酵素)の活性を簡便に測定することができるとしている。
また、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)シグナルとして検出する方法も報告されている(たとえば、Sato,M.,et al.:Nat.Biotechnol.,20,287−294,2002)。この方法は、生きた細胞において、蛋白質リン酸化に基づいたシグナル伝達を視覚化するために、遺伝学的にコード化された蛍光性指標分子である。この蛍光性指標分子は、2つの異なる色を有した緑色蛍光蛋白質(Green Fluorescent Protein;GFP)の変異体、目的とする蛋白質リン酸化酵素の基質ドメイン、リンカー配列およびリン酸化された基質ドメインと結合するリン酸化認識ドメインからなる連結融合蛋白質である。この蛍光性指標分子内における基質ドメインおよび隣接したリン酸化認識ドメインとの分子内の相互作用は、蛋白質リン酸化酵素による基質ドメインのリン酸化活性に依存している。この蛋白質リン酸化酵素は、蛍光性指標分子内における上記のとおりの2種類のGFP間における蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)の効率に影響を及ぼすことを特徴としているおり、この影響を元に蛋白質リン酸化酵素の活性を測定している。
しかしながら、上記特開2000−325086号公報に開示されている方法では、生きた細胞内において、すなわちリアルタイムで蛋白質リン酸化酵素の活性を測定することが困難である等という問題があった。
また、上記のSato,M.,et al.:Nat.Biotechnol.,20,287−294,2002におけるFRETシグナルとして検出する方法では、1種類の酵素の活性を測定、検出するために、2種類の蛍光団を必要とし、同一の細胞内に複数のプローブ分子を導入して、複数の蛋白質リン酸化酵素の活性を同時に可視化検出、定量することは、困難であるという問題があった。
そこで、この出願の発明は、以上のとおりの事情に鑑みてなされたものであって、細胞や組織が生きた状態(リアルタイム)で蛋白質リン酸化酵素の活性測定ができ、1種類の蛋白質リン酸化酵素の活性測定するために2種類もの蛍光団を用意することなく、しかも細胞や組織においての複数の蛋白質リン酸化酵素の活性を同時に可視化検出、測定することのできる単色蛍光プローブを提供することを課題としている。
また、上記の多くの刺激応答系にかかわる蛋白質リン酸化酵素の同定やその活性の制御機構の解明や測定、リン酸化される基質蛋白質とそのリン酸化部位の同定、リン酸化による活性制御機構の解明等によって、複雑なネットワークを形成する生命現象の解明や蛋白質リン酸化の活性制御機構の異常を原因とする疾患の解明や治療等に貢献できると期待されている。
そこで、蛋白質リン酸化酵素の活性を測定する方法が提案されている。従来では、蛋白質リン酸化酵素の活性の測定には、放射性同位元素である32Pでラベルされた[γ−32P]ATP等を用いて、放射性同位元素ラベルされたリン酸基が基質に転移される活性を測定していた。だが、この方法を実施する場合には、上記のとおり放射性同位元素を利用するため、購入時や廃棄時の諸手続き、利用するための特別な施設等が必要となるという問題があった。
係る問題を解決するため、たとえば、p53のリン酸化酵素の活性を免疫学的に測定する方法等が提案されている(たとえば、特開2000−325086号公報)。
この特開2000−325086号公報に開示されている方法は、ガン抑制遺伝子の発現産物であるp53のリン酸化酵素の活性を、リン酸化p53に対する抗体を用いる免疫学的な測定方法である。この方法は、従来のように放射性同位元素を利用しないため、廃液の処理や、放射性物質を利用するための特別な施設等を必要とせずに、蛋白質リン酸化酵素(この特開2000−325086号公報では、p53に関わる蛋白質リン酸化酵素)の活性を簡便に測定することができるとしている。
また、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)シグナルとして検出する方法も報告されている(たとえば、Sato,M.,et al.:Nat.Biotechnol.,20,287−294,2002)。この方法は、生きた細胞において、蛋白質リン酸化に基づいたシグナル伝達を視覚化するために、遺伝学的にコード化された蛍光性指標分子である。この蛍光性指標分子は、2つの異なる色を有した緑色蛍光蛋白質(Green Fluorescent Protein;GFP)の変異体、目的とする蛋白質リン酸化酵素の基質ドメイン、リンカー配列およびリン酸化された基質ドメインと結合するリン酸化認識ドメインからなる連結融合蛋白質である。この蛍光性指標分子内における基質ドメインおよび隣接したリン酸化認識ドメインとの分子内の相互作用は、蛋白質リン酸化酵素による基質ドメインのリン酸化活性に依存している。この蛋白質リン酸化酵素は、蛍光性指標分子内における上記のとおりの2種類のGFP間における蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)の効率に影響を及ぼすことを特徴としているおり、この影響を元に蛋白質リン酸化酵素の活性を測定している。
しかしながら、上記特開2000−325086号公報に開示されている方法では、生きた細胞内において、すなわちリアルタイムで蛋白質リン酸化酵素の活性を測定することが困難である等という問題があった。
また、上記のSato,M.,et al.:Nat.Biotechnol.,20,287−294,2002におけるFRETシグナルとして検出する方法では、1種類の酵素の活性を測定、検出するために、2種類の蛍光団を必要とし、同一の細胞内に複数のプローブ分子を導入して、複数の蛋白質リン酸化酵素の活性を同時に可視化検出、定量することは、困難であるという問題があった。
そこで、この出願の発明は、以上のとおりの事情に鑑みてなされたものであって、細胞や組織が生きた状態(リアルタイム)で蛋白質リン酸化酵素の活性測定ができ、1種類の蛋白質リン酸化酵素の活性測定するために2種類もの蛍光団を用意することなく、しかも細胞や組織においての複数の蛋白質リン酸化酵素の活性を同時に可視化検出、測定することのできる単色蛍光プローブを提供することを課題としている。
この出願の発明は、上記の課題を解決する手段として、以下の(1)から(13)の発明を提供することを課題としている。
(1)蛍光蛋白質の変異体であって、circular−permuted蛍光蛋白質(cpFP)、基質ドメインおよびリン酸化認識ドメインを有することを特徴とする単色蛍光プローブ;
(2)蛍光蛋白質が、緑色蛍光蛋白質、黄色蛍光蛋白質、シアン色蛍光蛋白質および赤色蛍光蛋白質のいずれかである(1)の単色蛍光プローブ;
(3)circular−permuted蛍光蛋白質(cpFP)は、蛍光蛋白質のアミノ酸配列第144位と第145位との間、またはアミノ酸配列第142位と第143位との間で切断され、切断前の蛍光蛋白質におけるN末端とC末端とをペプチドリンカーによって連結されている(1)または(2)の単色蛍光プローブ;
(4)ペプチドリンカーが、Gly−Gly−Ser−Gly−Glyである(2)の単色蛍光プローブ;
(5)配列番号2、配列番号4、配列番号6、または配列番号8のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド;
(6)配列番号1、配列番号3、配列番号5、または配列番号7の塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(7)上記(1)から(4)いずれかの単色蛍光プローブのコード配列を有する発現カセットを備えた単色蛍光プローブ発現ベクター;
(8)上記(5)のポリヌクレオチドを有する発現カセットを備えた単色蛍光プローブ発現ベクター;
(9)上記(6)のポリヌクレオチドを有する発現カセットを備えた単色蛍光プローブ発現ベクター;
(10)上記(7)から(9)いずれかの発現ベクターによって形質転換される形質転換細胞;
(11)上記(1)から(4)いずれかの単色蛍光プローブによる蛍光発色を利用した蛋白質リン酸化酵素活性の測定方法であって、蛋白質リン酸化酵素の活性化にともなって、基質ドメインがリン酸化され、リン酸化認識ドメインと相互作用し、circular−permuted蛍光蛋白質(cpFP)の蛍光強度の変化が誘発され、この変化を測定することを特徴とする蛋白質リン酸化酵素活性の測定方法;
(12)上記(10)の細胞に候補物質を接触共存させ、蛋白質リン酸化活性の蛍光強度の変化を指標とし測定することにより、蛋白質リン酸化増強または抑制物質のスクリーニング方法;および
(13)上記(7)から(9)いずれかの発現ベクターを生体から採取した細胞または組織に導入し、疾病に関連した蛋白質リン酸化酵素の活性シグナルを測定することによって、疾病を特定する診断方法。
そして、上記第1の発明の単色蛍光プローブによれば、細胞や組織が生きた状態(リアルタイム)で蛋白質リン酸化酵素の活性測定ができ、1種類の蛋白質リン酸化酵素の活性測定するために2種類もの蛍光団を用意することなく、しかも細胞や組織においての複数の蛋白質リン酸化酵素の活性を同時に可視化検出および測定を実現することができる。
上記第2の発明の単色蛍光プローブによれば、上記第1の発明の単色蛍光プローブと同様な効果が得られ、また蛍光蛋白質として、緑色蛍光蛋白質、黄色蛍光蛋白質、シアン色蛍光蛋白質および赤色蛍光蛋白質のいずれかを用いることにより、取り扱いの簡便性を向上することができる。
上記第3の発明の単色蛍光プローブによれば、上記第1および第2の発明の単色蛍光プロープと同様な効果が得られ、また切断箇所を特定することにより、より効果的な蛍光発光を発することが可能となる。
上記第4の発明の単色蛍光プローブによれば、上記第1〜第3の発明の単色蛍光プローブと同様な効果が得られ、単色蛍光プローブの効果を充分に発揮するため、好適な高次構造の形成を図ることができる。
上記第5の発明のポリヌクレオチドによれば、上記第1〜第4の発明の単色蛍光プローブの配列として、好ましい配列として提供することができる。
上記第6の発明のポリヌクレオチドによれば、上記第5の発明のポリヌクレオチドと同様な効果が得られ、より好ましい配列として提供することができる。
上記第7の発明の単色蛍光プローブ発現ベクターによれば、適宜に、しかも簡便に単色蛍光プローブを産生させることができる、上記第1〜第4の単色蛍光プローブのコード配列を含有する発現ベクターを提供することができる。
上記第8の発明の単色蛍光プローブ発現ベクターによれば、適宜に、しかも簡便に単色蛍光プローブを産生させることができる、上記第5のポリヌクレオチドを含有する発現ベクターを提供することができる。
上記第9の発明の単色蛍光プローブ発現ベクターによれば、適宜に、しかも簡便に単色蛍光プローブを生産させることができる、上記第6のポリヌクレオチドを含有する発現ベクターを提供することができる。
上記第10の発明の形質転換細胞によれば、上記第7〜9の発現ベクターが導入されており、この発現ベクターに備えられた発現カセットに則した単色蛍光プローブが、安定に、かつ、大量に生産させることができる。
上記第11の発明の蛋白質リン酸化酵素活性の測定方法によれば、蛋白質リン酸化活性を細胞や組織が生きた状態(リアルタイム)で測定することが可能となる。
上記第12の発明のスクリーニング方法によれば、蛋白質リン酸化の活性を増強する物質や、抑制する物質を特定することができる。
上記第13の発明の疾病を特定する診断方法によれば、特定の蛋白質リン酸化の検出、定量等を行うことにより、蛋白質リン酸化が関与する各種疾患の早期診断を図ることができる。
(1)蛍光蛋白質の変異体であって、circular−permuted蛍光蛋白質(cpFP)、基質ドメインおよびリン酸化認識ドメインを有することを特徴とする単色蛍光プローブ;
(2)蛍光蛋白質が、緑色蛍光蛋白質、黄色蛍光蛋白質、シアン色蛍光蛋白質および赤色蛍光蛋白質のいずれかである(1)の単色蛍光プローブ;
(3)circular−permuted蛍光蛋白質(cpFP)は、蛍光蛋白質のアミノ酸配列第144位と第145位との間、またはアミノ酸配列第142位と第143位との間で切断され、切断前の蛍光蛋白質におけるN末端とC末端とをペプチドリンカーによって連結されている(1)または(2)の単色蛍光プローブ;
(4)ペプチドリンカーが、Gly−Gly−Ser−Gly−Glyである(2)の単色蛍光プローブ;
(5)配列番号2、配列番号4、配列番号6、または配列番号8のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド;
(6)配列番号1、配列番号3、配列番号5、または配列番号7の塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(7)上記(1)から(4)いずれかの単色蛍光プローブのコード配列を有する発現カセットを備えた単色蛍光プローブ発現ベクター;
(8)上記(5)のポリヌクレオチドを有する発現カセットを備えた単色蛍光プローブ発現ベクター;
(9)上記(6)のポリヌクレオチドを有する発現カセットを備えた単色蛍光プローブ発現ベクター;
(10)上記(7)から(9)いずれかの発現ベクターによって形質転換される形質転換細胞;
(11)上記(1)から(4)いずれかの単色蛍光プローブによる蛍光発色を利用した蛋白質リン酸化酵素活性の測定方法であって、蛋白質リン酸化酵素の活性化にともなって、基質ドメインがリン酸化され、リン酸化認識ドメインと相互作用し、circular−permuted蛍光蛋白質(cpFP)の蛍光強度の変化が誘発され、この変化を測定することを特徴とする蛋白質リン酸化酵素活性の測定方法;
(12)上記(10)の細胞に候補物質を接触共存させ、蛋白質リン酸化活性の蛍光強度の変化を指標とし測定することにより、蛋白質リン酸化増強または抑制物質のスクリーニング方法;および
(13)上記(7)から(9)いずれかの発現ベクターを生体から採取した細胞または組織に導入し、疾病に関連した蛋白質リン酸化酵素の活性シグナルを測定することによって、疾病を特定する診断方法。
そして、上記第1の発明の単色蛍光プローブによれば、細胞や組織が生きた状態(リアルタイム)で蛋白質リン酸化酵素の活性測定ができ、1種類の蛋白質リン酸化酵素の活性測定するために2種類もの蛍光団を用意することなく、しかも細胞や組織においての複数の蛋白質リン酸化酵素の活性を同時に可視化検出および測定を実現することができる。
上記第2の発明の単色蛍光プローブによれば、上記第1の発明の単色蛍光プローブと同様な効果が得られ、また蛍光蛋白質として、緑色蛍光蛋白質、黄色蛍光蛋白質、シアン色蛍光蛋白質および赤色蛍光蛋白質のいずれかを用いることにより、取り扱いの簡便性を向上することができる。
上記第3の発明の単色蛍光プローブによれば、上記第1および第2の発明の単色蛍光プロープと同様な効果が得られ、また切断箇所を特定することにより、より効果的な蛍光発光を発することが可能となる。
上記第4の発明の単色蛍光プローブによれば、上記第1〜第3の発明の単色蛍光プローブと同様な効果が得られ、単色蛍光プローブの効果を充分に発揮するため、好適な高次構造の形成を図ることができる。
上記第5の発明のポリヌクレオチドによれば、上記第1〜第4の発明の単色蛍光プローブの配列として、好ましい配列として提供することができる。
上記第6の発明のポリヌクレオチドによれば、上記第5の発明のポリヌクレオチドと同様な効果が得られ、より好ましい配列として提供することができる。
上記第7の発明の単色蛍光プローブ発現ベクターによれば、適宜に、しかも簡便に単色蛍光プローブを産生させることができる、上記第1〜第4の単色蛍光プローブのコード配列を含有する発現ベクターを提供することができる。
上記第8の発明の単色蛍光プローブ発現ベクターによれば、適宜に、しかも簡便に単色蛍光プローブを産生させることができる、上記第5のポリヌクレオチドを含有する発現ベクターを提供することができる。
上記第9の発明の単色蛍光プローブ発現ベクターによれば、適宜に、しかも簡便に単色蛍光プローブを生産させることができる、上記第6のポリヌクレオチドを含有する発現ベクターを提供することができる。
上記第10の発明の形質転換細胞によれば、上記第7〜9の発現ベクターが導入されており、この発現ベクターに備えられた発現カセットに則した単色蛍光プローブが、安定に、かつ、大量に生産させることができる。
上記第11の発明の蛋白質リン酸化酵素活性の測定方法によれば、蛋白質リン酸化活性を細胞や組織が生きた状態(リアルタイム)で測定することが可能となる。
上記第12の発明のスクリーニング方法によれば、蛋白質リン酸化の活性を増強する物質や、抑制する物質を特定することができる。
上記第13の発明の疾病を特定する診断方法によれば、特定の蛋白質リン酸化の検出、定量等を行うことにより、蛋白質リン酸化が関与する各種疾患の早期診断を図ることができる。
図1は、シアン色単色蛍光プローブ、緑色単色蛍光プローブ、黄色単色蛍光プローブおよびこれらのプローブの基質ドメインのリン酸化サイトであるチロシンをアラニンに置き換えた単色蛍光プローブの構成を概略的に例示した模式図である。
図2は、この出願の発明の単色蛍光プローブの構造と作製手順の概略を例示した模式図である。
図3は、シアン色単色蛍光プローブ、緑色単色蛍光プローブ、黄色単色蛍光プローブの蛍光強度、インスリン添加前と添加後、さらに各単色蛍光プローブのリン酸化サイトアラニン置換変異体のインスリン添加後の結果をそれぞれ示したグラフ図である。
図4は、シアン色単色蛍光プローブとGFP−MAPKが導入された細胞を蛍光顕微鏡で観察した様子を例示した写真である。図4Aおよび図4Cは480nm蛍光フィルターを用いた場合を、図4Bおよび図4Dは535nm蛍光フィルターを用いた場合をそれぞれ示しており、また図4Aおよび図4Bはインスリンの添加前を、図4Cおよび図4Dは100nMインスリンの添加後をそれぞれ示している。
図5は、シアン色単色蛍光プローブとGFP−MAPKの蛍光強度の変化を時間の経過とともに測定した結果を示したグラフ図である。
図6は、濃度の異なるインスリンを添加した際のシアン色単色蛍光プローブの蛍光強度の変化の結果を示したグラフ図である。
図7は、シアン色単色蛍光プローブ、緑色単色蛍光プローブの蛍光スペクトルを示した図である。
図8は、482nm蛍光極大におけるシアン色単色蛍光プローブの蛍光強度および515nm蛍光極大における、緑色単色蛍光プローブの蛍光強度のpH滴定の結果を示したグラフ図である.
図9は、濃度の異なるインスリンを添加した際における、シアン色単色蛍光プローブの免疫抗体反応の結果を例示した図である。
発明の実施のための最良の形態
この出願の発明は上記のとおりの特徴をもつものであるが、以下にその実施の形態について説明する。
この出願の発明として、単色蛍光プローブを提供する。この単色蛍光プローブとは、励起光(紫外線や可視光、赤外線)照射や蛍光フィルター等を使用し、蛍光を発する蛍光蛋白質の変異体であって、蛋白質リン酸化等による化学的環境への感受性を有するcircular−permuted蛍光蛋白質(cpFP)(Baird,G.S.,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,96,11241−11246,1999;Nakai,J.,et al.,Nat.Biotechnol.19,137−141,2001等)、基質ドメインおよびリン酸化認識ドメインを有していることを特徴としている。
この出願の発明における蛍光蛋白質は、たとえば、取り扱いの簡便性および入手の容易性等を考慮すると、緑色蛍光蛋白質、黄色蛍光蛋白質、シアン色蛍光蛋白質および赤色蛍光蛋白質のいずれかであることが好ましい。なお、図1に例示したこの出願の発明の遺伝子マップの模式図のとおり、cpFP作製の際に切断する箇所である第144位(ここでは、Asn)と第145位(ここでは、Tyr)は、緑色蛍光蛋白質、黄色蛍光蛋白質、シアン色蛍光蛋白質いずれにおいても共通箇所である。また、赤色蛍光蛋白質を用いたcpFP作製の際に切断する箇所は、第142位(ここでは、Gly)と第143位(ここでは、Trp)との間が望ましい。もちろん、上記の各色以外の蛍光波長を発する蛍光蛋白質も、GFPと類似した3次構造を有する蛍光蛋白質であれば、cpFP作製に利用することができる。
さらに、最近では数多くの蛍光蛋白質が遺伝子工学的な手法を用いて作製され、また海洋生物等からも発見されている。これら蛍光蛋白質もこの出願の発明に利用することができ、その結果多種多様なカラーバリエーションを獲得することができる。
図2は、この出願の発明の単色蛍光プローブの構成を概略的に例示した模式図である。この図2に例示したとおり、cpFPは、前記の蛍光蛋白質のアミノ酸配列において、第144位と第145位との間、もしくは、第142位と第143位との間を切断し、切断前の蛍光蛋白質におけるN末端とC末端とを適当なペプチドリンカーによって連結されたものである。このcpFPの作製の際における、各種の蛍光蛋白質の切断箇所は、上記の箇所に限定されるものではない。たとえば、緑色蛍光蛋白質において、アミノ酸配列の第142位(Glu)、第143位(Tyr)、第148位(His)、第155位(Asp)、第169位(His)、第172位(Glu)、第173位(Asp)、第227位(Ala)、第229位(Ile)等のアミノ酸手前を切断(Baird,G.S.,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,96,11241−11246,1999)することができ、単色蛍光プローブとして利用することが期待できる。
そして、このcpFPにおけるN末端にはリン酸化認識ドメインが、C末端には基質ドメインがそれぞれ結合されていることが好ましいが、N末端には基質ドメインが、C末端にはリン酸化認識ドメインが、それぞれ結合されていてもよい。
なお、この出願の発明における基質ドメインとは、蛋白質リン酸化酵素のリン酸化の対象となる蛋白質におけるリン酸化されるドメイン(領域)を意味し、リン酸化が起こる部位を有しているものであればよく、その配列、構造、由来等は特に限定されるものではなく、チロシン、セリン、トレオニン、ヒスチジン、アスパラギン酸等の天然アミノ酸や、化学修飾により−OH基が付加されたペプチド等が例示できる。具体的には、天然アミノ酸由来としては、たとえば、インスリン受容体基質−1(IRS−1)由来のチロシンリン酸化ドメイン(Y941)、MAPキナーゼ由来のTXY配列、サイクリン依存性キナーゼ(Cyclin−dependent kinase;CDK)由来のT−ループ、Shc蛋白質由来のチロシンリン酸化部位、Smad蛋白質由来のC末端SSXSモチーフ、ミリストイル化アラニンリッチCキナーゼ基質(myristoylated alanine−rich C−kinase substrate;MARCKS)蛋白質由来のMARCKSドメイン、血小板増殖因子受容体、血管内皮増殖因子受容体、上皮増殖因子受容体、繊維芽細胞増殖因子受容体、肝細胞増殖因子受容体等の受容体型チロシンキナーゼ由来として自己リン酸化ドメイン、さらにトランスフォーミング増殖因子β受容体II型由来のセリン/トレオニンリン酸化ドメイン等、多数の基質ドメインを挙げることができる。
また、リン酸化認識ドメインとは、リン酸化された蛋白質を認識することのできるドメイン(領域)を意味する。すなわち、基質ドメインのリン酸化を認識し、リン酸化した基質ドメインと特異的に相互作用することができるものである。リン酸化認識ドメインは、ホスファチジルイノシトール3−キナーゼ(Phosphatidylinositol 3−kinase;PI3K)のp85調節サブユニット由来のN末端SH2ドメイン(SH2n)をはじめとする、各種のSrc相同性(Src homology2;SH2)ドメイン、リン酸化チロシン結合(Phosphotyrosine binding;PTB)ドメイン、フォークヘッド関連(Forkhead associated;FHA)ドメイン、14−3−3ドメイン、WWドメイン、WD40リピートドメイン、Mad相同性(Mad homology2;MH2)ドメイン等が例示できる。さらに、基質ドメインと相互作用するリン酸化認識ドメインが未知な場合においても、リン酸化した目的の基質ドメインを免疫源として抗体を調製・作製し、この抗体をリン酸化認識ドメインとすることもできる。このような抗体作製には、一般的な免疫学的な方法によって作製することができる。
これら、リン酸化された基質ドメインとリン酸化認識ドメインとの相互作用によって、cpFPの蛍光強度の変化が誘発させることができる。
また、リン酸化認識ドメインのN末端、もしくは、単色蛍光プローブの適当な位置(たとえば、N末端、C末端およびN末端−C末端間の任意箇所)には、種々の局在性シグナルドメインがさらに連結されていることが好ましい。この局在性シグナルドメインによって、特定細胞や細胞内の特定領域、あるいは特定の組織を認識して、この出願の発明の単色蛍光プローブを局在化させることができる。たとえば、核、ミトコンドリア、ゴルジ装置等に局在化することができる。局在性シグナルドメインは、たとえば、核外輸送シグナル(Nuclear export signal;NES)配列、核内移行シグナル(Nuclear import signal;NIS)配列、プレクストリン相同性(pleckstrin homology;PH)ドメイン、リン酸化チロシン結合(phosphotyrosine−binding;PTB)ドメイン、細胞膜局在化ドメイン、ミトコンドリア局在化シグナル、小胞体局在化シグナル、ペルオキシソーム局在化シグナル等を挙げることができ、さらにこれら複数の局在性シグナルドメインを組み合わせてもよい。
上記ペプチドリンカーは、複数のアミノ酸から構成され、cpFP作製の際に2つの断片に分割された蛍光蛋白質を連結するものである。このペプチドリンカーのアミノ酸配列は、適度な柔軟性を有し、適度な鎖長を有しているものであれば、アミノ酸の種類、その配列や鎖長等は特に制限されるものではない(Akemann,W.,et al.,Photochemistry and Photobiology,74,356−363,2001)。特にこの出願の発明におけるペプチドリンカーは、Gly−Gly−Ser−Gly−Glyのアミノ酸配列を有することが好ましい。また、たとえば、この配列の一部他のアミノ酸と置換してもよいし、これより長くする等としてもよい。たとえば、Gly−Gly−Thr−Gly−Gly−Ser等を示すことができる。
この出願の発明の単色蛍光プローブは、以上のとおりのものであるが、その作製方法は、特に限定されない。全合成によって構成してもよいし、またポリメラーゼ連鎖反応法(PCR法)等の一般的に利用されている遺伝子工学的な方法によって、各ドメインを連結して作製してもよい。この時、各ドメインの末端には、各種の制限酵素サイト等を付加・導入してもよい。なお、作製の簡便性等を考慮すると、遺伝子工学的な手法を利用することが好ましい。
このような特徴を有する単色蛍光プローブは、次のような原理で蛍光を発し、蛋白質リン酸化活性を測定することができる。すなわち、たとえば、cpFPにおける蛍光蛋白質の由来を緑色蛍光蛋白質または黄色蛍光蛋白質もしくはシアン色蛍光蛋白質(いずれでもよい)とし、基質ドメインをY941とし、リン酸化認識ドメインをSH2nとした場合、まず、細胞内インスリン受容体によってY941がリン酸化(pY941)される。そして、このpY941とSH2nとの相互作用が生じて、次いでcpFP内においてコンフォメーション変化が誘導される。つまり、蛍光強度が変化することとなり、この蛍光強度の度合い等を測定することに基づいている。
この出願の発明の単色蛍光プローブは、具体的には、緑色蛍光蛋白質としては配列番号2、黄色蛍光蛋白質としては配列番号4、シアン色蛍光蛋白質としては配列番号6、または、赤色蛍光蛋白質としては配列番号8のアミノ酸配列をコードするポリヌクレチドであり、さらに具体的には、緑色蛍光蛋白質としては配列番号1、黄色蛍光蛋白質としては配列番号3、シアン色蛍光蛋白質としては配列番号5、または、赤色蛍光蛋白質としては配列番号7の塩基配列からなるポリヌクレオチドとすることで、効率よく蛍光を発することができるため好ましい。
この出願の発明は、上記の単色蛍光プローブのコード配列、たとえば、上記配列番号2、配列番号4、配列番号6、または配列番号8のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド、あるいは、上記の配列番号1、配列番号3、配列番号5、または配列番号7の塩基配列からなるポリヌクレオチドを有する発現カセットを備えた単色蛍光プローブ発現ベクターも提供することができる。
この発現ベクターは、任意のベースベクターに発現カセットを挿入結合することによって作製することができる。したがって、発現カセットはベースベクターの任意のクローニング部位に対応した制限酵素配列を両端に有することが好ましい。また、この制限酵素配列は、発現カセットの方向を一致させるために、異なる配列であることが好ましい。
ベースベクターは、適当な導入対象細胞で外来タンパク質を発現させるための既存のベクターDNAを一部改変して使用することができる。
たとえば、導入対象細胞として、ヒトやサル、マウス等の哺乳動物等をはじめとする真核細胞を対象とする場合は、真核細胞用ベクターとして、プロモーター、スプライシング領域、ポリ(A)付加部位等を有するpKA1、pCDM8、pSVK3、pMSG、pSVL、pBK−CMV、pBK−RSV、EBVベクター、pRS、pcDNA3、pMSG、pYES2等を使用することができる。またシャトルベクターpAUR系等を使用することもできる。もちろん、大腸菌等の微生物を対象とすることもでき、この場合は、微生物中で複製可能なオリジン、プロモーター、リボソーム結合部位、ターミネーター等を有するpUC系、pBluescript系、pBR系、pET系システム等を使用することができる。
発現カセットは、前記のとおりcircular−permuted蛍光蛋白質(cpFP)、基質ドメインおよびリン酸化認識ドメインをコードするポリヌクレオチド配列であり、また好ましくは局在化シグナルドメインをコードするポリヌクレオチド配列も含まれる。それぞれの配列は連続的に結合していてもよく、あるいは幾つかのヌクレオチドを介して隣接していてもよい。
このような発現カセットの具体的な実体として、上記の配列番号2、配列番号4、配列番号6、または配列番号8のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド、あるいは、上記の配列番号1、配列番号3、配列番号5、または配列番号7の塩基配列からなるポリヌクレオチドを例示することができる。
なお、発現カセットはベースベクターのプロモーター調節下に位置することが好ましい。プロモーターはベースベクターの種類や導入対象細胞の種類、タンパク質の種類や発現条件等に応じて任意に選択することができる。たとえば、ガラクトース誘導プロモーターを使用することによって、培地成分中の糖の種類によってタンパク質の発現を調節することができる。
また、ベースベクターによる形質転換細胞を選択するための手段として、ベースベクターは、選択マーカーを有していることが好ましい。この選択マーカーとしては、アンピシリン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、またテトラサイクリン耐性遺伝子等の薬剤耐性遺伝子を用いることができる。
また、この出願の発明は、単色蛍光プローブが導入された形質転換細胞も提供するが、この形質転換細胞は、上記の発現ベクターを導入することによって、作製することができる。発現ベクターの導入方法としては、たとえば、電気穿孔法、リン酸カルシウム法、リポソーム法、DEAEデキストラン法等の公知の方法を利用することができる。導入の対象となる細胞種は、植物細胞、昆虫細胞、動物細胞等が使用でき、また異種由来の細胞同士あるいは細胞とコラーゲンゲル膜、繭糸、マイクロチップやナイロンメッシュ等の非細胞との融合細胞でもよい。もちろん、初代細胞や株化細胞でもよい。
この出願の発明に用いる細胞種は、動物細胞であることが好ましい。動物細胞における初代細胞としては、ラット初代肝細胞、マウス初代骨髄細胞、ブタ初代肝細胞、ヒト初代臍帯血細胞、ヒト初代骨髄造血細胞、ヒト初代神経細胞等が例示するこができる。また、株化細胞では、チャイニーズハムスター卵巣細胞由来のCHO細胞、ヒト子宮ガン由来のHeLa細胞、ヒト肝ガン由来のHuh7細胞等が例示できる。
なお、一般には、初代細胞とは、生体から細胞を採取して、50回程度の限られた回数のみ増殖および分裂する細胞を指す。株化細胞は、生体から細胞を採取した後も、50回以上の増殖および分裂する細胞のことを指す。
さらに、この出願の発明は、上記の単色蛍光プローブによる蛍光発光を利用した蛋白質リン酸化酵素活性の測定方法も提供する。この測定方法は、単色蛍光プローブが有する基質ドメインが、蛋白質リン酸化酵素の活性化にともなって、リン酸化され、そしてこのリン酸化された基質ドメインをリン酸化認識ドメインが認識・結合して相互作用し、その結果cpFPの蛍光強度の変化が誘発される。この変化をリアルタイムに測定することができる。測定には、たとえば、蛍光顕微鏡や共焦点レーザー走査型蛍光顕微鏡、蛍光分光光度計等を利用することができる。
さらにまた、この出願の発明は、研究・実験目的に合わせて採択した細胞種の形質転換細胞に、候補物質を接触共存させ、蛋白質リン酸化活性の蛍光強度の変化を指標とし測定することにより、この細胞に対して、蛋白質リン酸化の活性を増強する物質、あるいは、抑制する物質であるかを特定することのできるスクリーニング方法を提供する。
そして、この出願の発明は、蛋白質リン酸化システムを原因とする疾病を特定することのできる診断方法も提供することができる。すなわち、この診断方法は、生体から採取した細胞または組織に上記の発現ベクターを導入し、疾病に関連した蛋白質リン酸化酵素の活性シグナルを測定することによって、疾病を特定することを特徴としている。
なお、生体とは、生物個体であって、ヒト、サル、マウス、ラット、ウマ、ウシ、ウサギ等が例示できる。そのため、この出願の発明の診断方法は、ヒトの疾患のみならず、ウマやウシ等の家畜やウサギ等のペット等の疾患の診断にも活用することができる。
そして、蛋白質リン酸化酵素による蛋白質のリン酸化は、多くの細胞や組織(また、これらの集合体であるヒトや、サル、マウス等の生命個体)の生命活動、すなわち細胞の生存、増殖、分化等の過程において重要な役割を担っている。したがって、この蛋白質のリン酸化は多くの疾患においての病因、あるいは、症状の一環として、観察される現象である。すなわち、以上のような特徴を有するこの出願の発明の単色蛍光プローブを用いて、蛋白質リン酸化酵素の活性を測定することによって、疾病の原因となっている蛋白質を同定することにより、様々な疾患の早期診断ができる。また、蛋白質リン酸化を増強する物質、抑制する物質をスクリーニングすることもでき、疾患に関与する物質や新規の治療薬の発見・開発に貢献することができる。
蛋白質リン酸化が関与する疾患としては、たとえば、ガン、糖尿病、自己免疫疾患や免疫不全、アトピー性疾患等の免疫疾患、アルツハイマー病やパーキンソン病、レビー小体型痴呆症、タウオパチー等の各種神経疾患、高血圧症、狭心症、心筋梗塞等の動脈硬化性疾患等が挙げられ、上記診断方法は、これら疾患を対象にすることができる。
以下に実施例を示し、さらに詳しくこの出願の発明について説明する。もちろん、以下の例によってこの出願の発明が限定されることはない。その細部については、様々な態様が可能であることはいうまでもない。
図2は、この出願の発明の単色蛍光プローブの構造と作製手順の概略を例示した模式図である。
図3は、シアン色単色蛍光プローブ、緑色単色蛍光プローブ、黄色単色蛍光プローブの蛍光強度、インスリン添加前と添加後、さらに各単色蛍光プローブのリン酸化サイトアラニン置換変異体のインスリン添加後の結果をそれぞれ示したグラフ図である。
図4は、シアン色単色蛍光プローブとGFP−MAPKが導入された細胞を蛍光顕微鏡で観察した様子を例示した写真である。図4Aおよび図4Cは480nm蛍光フィルターを用いた場合を、図4Bおよび図4Dは535nm蛍光フィルターを用いた場合をそれぞれ示しており、また図4Aおよび図4Bはインスリンの添加前を、図4Cおよび図4Dは100nMインスリンの添加後をそれぞれ示している。
図5は、シアン色単色蛍光プローブとGFP−MAPKの蛍光強度の変化を時間の経過とともに測定した結果を示したグラフ図である。
図6は、濃度の異なるインスリンを添加した際のシアン色単色蛍光プローブの蛍光強度の変化の結果を示したグラフ図である。
図7は、シアン色単色蛍光プローブ、緑色単色蛍光プローブの蛍光スペクトルを示した図である。
図8は、482nm蛍光極大におけるシアン色単色蛍光プローブの蛍光強度および515nm蛍光極大における、緑色単色蛍光プローブの蛍光強度のpH滴定の結果を示したグラフ図である.
図9は、濃度の異なるインスリンを添加した際における、シアン色単色蛍光プローブの免疫抗体反応の結果を例示した図である。
発明の実施のための最良の形態
この出願の発明は上記のとおりの特徴をもつものであるが、以下にその実施の形態について説明する。
この出願の発明として、単色蛍光プローブを提供する。この単色蛍光プローブとは、励起光(紫外線や可視光、赤外線)照射や蛍光フィルター等を使用し、蛍光を発する蛍光蛋白質の変異体であって、蛋白質リン酸化等による化学的環境への感受性を有するcircular−permuted蛍光蛋白質(cpFP)(Baird,G.S.,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,96,11241−11246,1999;Nakai,J.,et al.,Nat.Biotechnol.19,137−141,2001等)、基質ドメインおよびリン酸化認識ドメインを有していることを特徴としている。
この出願の発明における蛍光蛋白質は、たとえば、取り扱いの簡便性および入手の容易性等を考慮すると、緑色蛍光蛋白質、黄色蛍光蛋白質、シアン色蛍光蛋白質および赤色蛍光蛋白質のいずれかであることが好ましい。なお、図1に例示したこの出願の発明の遺伝子マップの模式図のとおり、cpFP作製の際に切断する箇所である第144位(ここでは、Asn)と第145位(ここでは、Tyr)は、緑色蛍光蛋白質、黄色蛍光蛋白質、シアン色蛍光蛋白質いずれにおいても共通箇所である。また、赤色蛍光蛋白質を用いたcpFP作製の際に切断する箇所は、第142位(ここでは、Gly)と第143位(ここでは、Trp)との間が望ましい。もちろん、上記の各色以外の蛍光波長を発する蛍光蛋白質も、GFPと類似した3次構造を有する蛍光蛋白質であれば、cpFP作製に利用することができる。
さらに、最近では数多くの蛍光蛋白質が遺伝子工学的な手法を用いて作製され、また海洋生物等からも発見されている。これら蛍光蛋白質もこの出願の発明に利用することができ、その結果多種多様なカラーバリエーションを獲得することができる。
図2は、この出願の発明の単色蛍光プローブの構成を概略的に例示した模式図である。この図2に例示したとおり、cpFPは、前記の蛍光蛋白質のアミノ酸配列において、第144位と第145位との間、もしくは、第142位と第143位との間を切断し、切断前の蛍光蛋白質におけるN末端とC末端とを適当なペプチドリンカーによって連結されたものである。このcpFPの作製の際における、各種の蛍光蛋白質の切断箇所は、上記の箇所に限定されるものではない。たとえば、緑色蛍光蛋白質において、アミノ酸配列の第142位(Glu)、第143位(Tyr)、第148位(His)、第155位(Asp)、第169位(His)、第172位(Glu)、第173位(Asp)、第227位(Ala)、第229位(Ile)等のアミノ酸手前を切断(Baird,G.S.,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,96,11241−11246,1999)することができ、単色蛍光プローブとして利用することが期待できる。
そして、このcpFPにおけるN末端にはリン酸化認識ドメインが、C末端には基質ドメインがそれぞれ結合されていることが好ましいが、N末端には基質ドメインが、C末端にはリン酸化認識ドメインが、それぞれ結合されていてもよい。
なお、この出願の発明における基質ドメインとは、蛋白質リン酸化酵素のリン酸化の対象となる蛋白質におけるリン酸化されるドメイン(領域)を意味し、リン酸化が起こる部位を有しているものであればよく、その配列、構造、由来等は特に限定されるものではなく、チロシン、セリン、トレオニン、ヒスチジン、アスパラギン酸等の天然アミノ酸や、化学修飾により−OH基が付加されたペプチド等が例示できる。具体的には、天然アミノ酸由来としては、たとえば、インスリン受容体基質−1(IRS−1)由来のチロシンリン酸化ドメイン(Y941)、MAPキナーゼ由来のTXY配列、サイクリン依存性キナーゼ(Cyclin−dependent kinase;CDK)由来のT−ループ、Shc蛋白質由来のチロシンリン酸化部位、Smad蛋白質由来のC末端SSXSモチーフ、ミリストイル化アラニンリッチCキナーゼ基質(myristoylated alanine−rich C−kinase substrate;MARCKS)蛋白質由来のMARCKSドメイン、血小板増殖因子受容体、血管内皮増殖因子受容体、上皮増殖因子受容体、繊維芽細胞増殖因子受容体、肝細胞増殖因子受容体等の受容体型チロシンキナーゼ由来として自己リン酸化ドメイン、さらにトランスフォーミング増殖因子β受容体II型由来のセリン/トレオニンリン酸化ドメイン等、多数の基質ドメインを挙げることができる。
また、リン酸化認識ドメインとは、リン酸化された蛋白質を認識することのできるドメイン(領域)を意味する。すなわち、基質ドメインのリン酸化を認識し、リン酸化した基質ドメインと特異的に相互作用することができるものである。リン酸化認識ドメインは、ホスファチジルイノシトール3−キナーゼ(Phosphatidylinositol 3−kinase;PI3K)のp85調節サブユニット由来のN末端SH2ドメイン(SH2n)をはじめとする、各種のSrc相同性(Src homology2;SH2)ドメイン、リン酸化チロシン結合(Phosphotyrosine binding;PTB)ドメイン、フォークヘッド関連(Forkhead associated;FHA)ドメイン、14−3−3ドメイン、WWドメイン、WD40リピートドメイン、Mad相同性(Mad homology2;MH2)ドメイン等が例示できる。さらに、基質ドメインと相互作用するリン酸化認識ドメインが未知な場合においても、リン酸化した目的の基質ドメインを免疫源として抗体を調製・作製し、この抗体をリン酸化認識ドメインとすることもできる。このような抗体作製には、一般的な免疫学的な方法によって作製することができる。
これら、リン酸化された基質ドメインとリン酸化認識ドメインとの相互作用によって、cpFPの蛍光強度の変化が誘発させることができる。
また、リン酸化認識ドメインのN末端、もしくは、単色蛍光プローブの適当な位置(たとえば、N末端、C末端およびN末端−C末端間の任意箇所)には、種々の局在性シグナルドメインがさらに連結されていることが好ましい。この局在性シグナルドメインによって、特定細胞や細胞内の特定領域、あるいは特定の組織を認識して、この出願の発明の単色蛍光プローブを局在化させることができる。たとえば、核、ミトコンドリア、ゴルジ装置等に局在化することができる。局在性シグナルドメインは、たとえば、核外輸送シグナル(Nuclear export signal;NES)配列、核内移行シグナル(Nuclear import signal;NIS)配列、プレクストリン相同性(pleckstrin homology;PH)ドメイン、リン酸化チロシン結合(phosphotyrosine−binding;PTB)ドメイン、細胞膜局在化ドメイン、ミトコンドリア局在化シグナル、小胞体局在化シグナル、ペルオキシソーム局在化シグナル等を挙げることができ、さらにこれら複数の局在性シグナルドメインを組み合わせてもよい。
上記ペプチドリンカーは、複数のアミノ酸から構成され、cpFP作製の際に2つの断片に分割された蛍光蛋白質を連結するものである。このペプチドリンカーのアミノ酸配列は、適度な柔軟性を有し、適度な鎖長を有しているものであれば、アミノ酸の種類、その配列や鎖長等は特に制限されるものではない(Akemann,W.,et al.,Photochemistry and Photobiology,74,356−363,2001)。特にこの出願の発明におけるペプチドリンカーは、Gly−Gly−Ser−Gly−Glyのアミノ酸配列を有することが好ましい。また、たとえば、この配列の一部他のアミノ酸と置換してもよいし、これより長くする等としてもよい。たとえば、Gly−Gly−Thr−Gly−Gly−Ser等を示すことができる。
この出願の発明の単色蛍光プローブは、以上のとおりのものであるが、その作製方法は、特に限定されない。全合成によって構成してもよいし、またポリメラーゼ連鎖反応法(PCR法)等の一般的に利用されている遺伝子工学的な方法によって、各ドメインを連結して作製してもよい。この時、各ドメインの末端には、各種の制限酵素サイト等を付加・導入してもよい。なお、作製の簡便性等を考慮すると、遺伝子工学的な手法を利用することが好ましい。
このような特徴を有する単色蛍光プローブは、次のような原理で蛍光を発し、蛋白質リン酸化活性を測定することができる。すなわち、たとえば、cpFPにおける蛍光蛋白質の由来を緑色蛍光蛋白質または黄色蛍光蛋白質もしくはシアン色蛍光蛋白質(いずれでもよい)とし、基質ドメインをY941とし、リン酸化認識ドメインをSH2nとした場合、まず、細胞内インスリン受容体によってY941がリン酸化(pY941)される。そして、このpY941とSH2nとの相互作用が生じて、次いでcpFP内においてコンフォメーション変化が誘導される。つまり、蛍光強度が変化することとなり、この蛍光強度の度合い等を測定することに基づいている。
この出願の発明の単色蛍光プローブは、具体的には、緑色蛍光蛋白質としては配列番号2、黄色蛍光蛋白質としては配列番号4、シアン色蛍光蛋白質としては配列番号6、または、赤色蛍光蛋白質としては配列番号8のアミノ酸配列をコードするポリヌクレチドであり、さらに具体的には、緑色蛍光蛋白質としては配列番号1、黄色蛍光蛋白質としては配列番号3、シアン色蛍光蛋白質としては配列番号5、または、赤色蛍光蛋白質としては配列番号7の塩基配列からなるポリヌクレオチドとすることで、効率よく蛍光を発することができるため好ましい。
この出願の発明は、上記の単色蛍光プローブのコード配列、たとえば、上記配列番号2、配列番号4、配列番号6、または配列番号8のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド、あるいは、上記の配列番号1、配列番号3、配列番号5、または配列番号7の塩基配列からなるポリヌクレオチドを有する発現カセットを備えた単色蛍光プローブ発現ベクターも提供することができる。
この発現ベクターは、任意のベースベクターに発現カセットを挿入結合することによって作製することができる。したがって、発現カセットはベースベクターの任意のクローニング部位に対応した制限酵素配列を両端に有することが好ましい。また、この制限酵素配列は、発現カセットの方向を一致させるために、異なる配列であることが好ましい。
ベースベクターは、適当な導入対象細胞で外来タンパク質を発現させるための既存のベクターDNAを一部改変して使用することができる。
たとえば、導入対象細胞として、ヒトやサル、マウス等の哺乳動物等をはじめとする真核細胞を対象とする場合は、真核細胞用ベクターとして、プロモーター、スプライシング領域、ポリ(A)付加部位等を有するpKA1、pCDM8、pSVK3、pMSG、pSVL、pBK−CMV、pBK−RSV、EBVベクター、pRS、pcDNA3、pMSG、pYES2等を使用することができる。またシャトルベクターpAUR系等を使用することもできる。もちろん、大腸菌等の微生物を対象とすることもでき、この場合は、微生物中で複製可能なオリジン、プロモーター、リボソーム結合部位、ターミネーター等を有するpUC系、pBluescript系、pBR系、pET系システム等を使用することができる。
発現カセットは、前記のとおりcircular−permuted蛍光蛋白質(cpFP)、基質ドメインおよびリン酸化認識ドメインをコードするポリヌクレオチド配列であり、また好ましくは局在化シグナルドメインをコードするポリヌクレオチド配列も含まれる。それぞれの配列は連続的に結合していてもよく、あるいは幾つかのヌクレオチドを介して隣接していてもよい。
このような発現カセットの具体的な実体として、上記の配列番号2、配列番号4、配列番号6、または配列番号8のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド、あるいは、上記の配列番号1、配列番号3、配列番号5、または配列番号7の塩基配列からなるポリヌクレオチドを例示することができる。
なお、発現カセットはベースベクターのプロモーター調節下に位置することが好ましい。プロモーターはベースベクターの種類や導入対象細胞の種類、タンパク質の種類や発現条件等に応じて任意に選択することができる。たとえば、ガラクトース誘導プロモーターを使用することによって、培地成分中の糖の種類によってタンパク質の発現を調節することができる。
また、ベースベクターによる形質転換細胞を選択するための手段として、ベースベクターは、選択マーカーを有していることが好ましい。この選択マーカーとしては、アンピシリン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、またテトラサイクリン耐性遺伝子等の薬剤耐性遺伝子を用いることができる。
また、この出願の発明は、単色蛍光プローブが導入された形質転換細胞も提供するが、この形質転換細胞は、上記の発現ベクターを導入することによって、作製することができる。発現ベクターの導入方法としては、たとえば、電気穿孔法、リン酸カルシウム法、リポソーム法、DEAEデキストラン法等の公知の方法を利用することができる。導入の対象となる細胞種は、植物細胞、昆虫細胞、動物細胞等が使用でき、また異種由来の細胞同士あるいは細胞とコラーゲンゲル膜、繭糸、マイクロチップやナイロンメッシュ等の非細胞との融合細胞でもよい。もちろん、初代細胞や株化細胞でもよい。
この出願の発明に用いる細胞種は、動物細胞であることが好ましい。動物細胞における初代細胞としては、ラット初代肝細胞、マウス初代骨髄細胞、ブタ初代肝細胞、ヒト初代臍帯血細胞、ヒト初代骨髄造血細胞、ヒト初代神経細胞等が例示するこができる。また、株化細胞では、チャイニーズハムスター卵巣細胞由来のCHO細胞、ヒト子宮ガン由来のHeLa細胞、ヒト肝ガン由来のHuh7細胞等が例示できる。
なお、一般には、初代細胞とは、生体から細胞を採取して、50回程度の限られた回数のみ増殖および分裂する細胞を指す。株化細胞は、生体から細胞を採取した後も、50回以上の増殖および分裂する細胞のことを指す。
さらに、この出願の発明は、上記の単色蛍光プローブによる蛍光発光を利用した蛋白質リン酸化酵素活性の測定方法も提供する。この測定方法は、単色蛍光プローブが有する基質ドメインが、蛋白質リン酸化酵素の活性化にともなって、リン酸化され、そしてこのリン酸化された基質ドメインをリン酸化認識ドメインが認識・結合して相互作用し、その結果cpFPの蛍光強度の変化が誘発される。この変化をリアルタイムに測定することができる。測定には、たとえば、蛍光顕微鏡や共焦点レーザー走査型蛍光顕微鏡、蛍光分光光度計等を利用することができる。
さらにまた、この出願の発明は、研究・実験目的に合わせて採択した細胞種の形質転換細胞に、候補物質を接触共存させ、蛋白質リン酸化活性の蛍光強度の変化を指標とし測定することにより、この細胞に対して、蛋白質リン酸化の活性を増強する物質、あるいは、抑制する物質であるかを特定することのできるスクリーニング方法を提供する。
そして、この出願の発明は、蛋白質リン酸化システムを原因とする疾病を特定することのできる診断方法も提供することができる。すなわち、この診断方法は、生体から採取した細胞または組織に上記の発現ベクターを導入し、疾病に関連した蛋白質リン酸化酵素の活性シグナルを測定することによって、疾病を特定することを特徴としている。
なお、生体とは、生物個体であって、ヒト、サル、マウス、ラット、ウマ、ウシ、ウサギ等が例示できる。そのため、この出願の発明の診断方法は、ヒトの疾患のみならず、ウマやウシ等の家畜やウサギ等のペット等の疾患の診断にも活用することができる。
そして、蛋白質リン酸化酵素による蛋白質のリン酸化は、多くの細胞や組織(また、これらの集合体であるヒトや、サル、マウス等の生命個体)の生命活動、すなわち細胞の生存、増殖、分化等の過程において重要な役割を担っている。したがって、この蛋白質のリン酸化は多くの疾患においての病因、あるいは、症状の一環として、観察される現象である。すなわち、以上のような特徴を有するこの出願の発明の単色蛍光プローブを用いて、蛋白質リン酸化酵素の活性を測定することによって、疾病の原因となっている蛋白質を同定することにより、様々な疾患の早期診断ができる。また、蛋白質リン酸化を増強する物質、抑制する物質をスクリーニングすることもでき、疾患に関与する物質や新規の治療薬の発見・開発に貢献することができる。
蛋白質リン酸化が関与する疾患としては、たとえば、ガン、糖尿病、自己免疫疾患や免疫不全、アトピー性疾患等の免疫疾患、アルツハイマー病やパーキンソン病、レビー小体型痴呆症、タウオパチー等の各種神経疾患、高血圧症、狭心症、心筋梗塞等の動脈硬化性疾患等が挙げられ、上記診断方法は、これら疾患を対象にすることができる。
以下に実施例を示し、さらに詳しくこの出願の発明について説明する。もちろん、以下の例によってこの出願の発明が限定されることはない。その細部については、様々な態様が可能であることはいうまでもない。
[実施例1]:発現ベクターの構築
単色蛍光プローブのcDNAの構築は、シアン色蛍光蛋白質(CFP)、緑色蛍光蛋白質(GFP)、黄色蛍光蛋白質(Citrine)をそれぞれコードするcDNA断片、基質ドメインとしてY941のcDNA断片およびY941AのcDNA断片、リン酸化認識ドメインとしてSH2nのCDNA断片、また局在性シグナルドメインとしてIRS−11−127由来のPH−PTBドメインのcDNA断片を図1に例示した各制限酵素サイトに合わせて、連結した。これら、cDNA断片は、ポリメラーゼ連鎖反応法(PCR法)を利用して作製した。本実施例で用いた上記3種類の蛍光蛋白質は、Aequorea victoria由来のGFP変異体である。
なお、図2および表1に例示したとおり、本実施例に用いた各色の蛍光蛋白質は、いずれにおいても共通して、アミノ酸配列の第144位および第145位との間で2つの断片に分割されたものを用いた。
Y941のアミノ酸配列は、「ETGTEEYMKMDLGPG」であり、IRS−1内のインスリン受容体によって認識されるチロシンリン酸化ドメインである。また、Y941Aのアミノ酸配列は「ETGTEEAMKMDLGPG」であり、リン酸化サイトであるチロシンがアラニンに置き換えられている。リン酸化認識ドメインとして用いたSH2nドメインは、ウシホスファチジルイノシトール3−キナーゼのp85サブユニット(p85330−429)由来のSH2nドメインを用いた。このSH2nドメインは、リン酸化したIRS−1蛋白質にある基質ドメインと結合することが知られている。単色蛍光プローブをコードする上記各cDNA断片を、哺乳動物用の発現ベクターであるpcDNA3.1(Invitrogen社製)にサブクローニングし、発現ベクターとした。なお、上記各cDNA断片を連結した完全長の単色蛍光プローブのN末端には、翻訳効率を上昇させるためコザック配列(5’−GCCACC−3’)を付加している。
[実施例2]:細胞培養およびトランスフェクション
細胞は、ヒトインスリン受容体過剰発現型チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO−IR細胞)を用いた。細胞は、10%FBS(Invitrogen社製)含有するHam’sF−12培地(Invitrogen社製)を用いて、5%CO2、37℃を培養条件として、培養した。
実施例1で作製した各発現ベクターの上記細胞への導入方法としては、Lipofectamine2000(Invitrogen社製)を用いて、メーカーのマニュアルに従い、トランスフェクション(導入)した。この細胞をトランスフェクションから12−24時間後に、ガラスボトムディッシュまたはプラスチック培養ディッシュ上に移して培養を行い、それぞれについて細胞を生きた状態のままで観察もしくは免疫学的分析を行った。
[実施例3]:細胞の観察
トランスフェクションの2−3日後、細胞を28℃で24時間培養し、観察前に前処理として、血清を含有しない(血清フリー)培地で2時間培養し、血清欠乏の状態にした。次いで、観察時には、培地をHank’s balanced salt solution(HBSS、Invitrogen社製)に置換した。
観察は、公知の方法(たとえば、Sato,M.,et al.,Anal.Chem.,72,5918−5924,2000)に従い、室温で行った。観察装置として、冷却形CCDカメラMicroMAXを備えたCarl Zeiss Axiovert 135マイクロスコープ(Roper Scientific社製)を用いた。この装置は、MetaFluor(Universal Imaging社製)によって制御されている。
(1)シアン色の単色蛍光プロープの蛍光イメージを観察するため、細胞に440±10nmの励起光を100ms照射し、480±15nmの蛍光フィルターを用いて、蛍光を検出した。
(2)緑色または黄色の単色蛍光プローブ、またGFP−MAPKの蛍光イメージを観察するため、細胞に500±10nmの励起光を10ms照射し、535±12.5nmの蛍光フィルターを用いて、蛍光を検出した。
なお、単色蛍光プローブは、温度感受性である。たとえば、37℃の条件下では、シアン色の単色蛍光プローブの場合、発光強度が弱まり(うす暗く)なり、緑色および黄色の単色蛍光プローブの場合、発光しなかった。また、これら3つの単色蛍光プローブ全てにおいて、28℃の条件では蛍光発光するが、2つの断片に分割されていない蛍光蛋白質よりも蛍光の発光強度は弱まるため、これらに留意して本実施例を行った。
結果は、図3に示したとおり、100nMインスリン(ペプチド研究所社製)を添加することによって、単色蛍光プローブを導入したCHO−IR細胞に刺激を与えたところ、シアン色単色蛍光プローブの蛍光強度は、通常の蛍光強度より10%減少した。一方、緑色単色蛍光プローブおよび黄色単色蛍光プローブの蛍光強度においては、15%上昇した。また、蛍光強度の変化がリン酸化によって引き起こされたことを確認するために、負の対照実験を行った。この負の対象実験は、CHO−IR細胞に基質ドメインのリン酸化サイトであるチロシンをアラニンに置き換えた単色蛍光プローブ変異体を導入させ、100nMインスリンを添加して刺激を与えた。この結果、シアン色単色蛍光プローブ変異体および緑色単色蛍光プローブ変異体の蛍光強度は、変化しなかった。一方、黄色単色蛍光プローブの蛍光強度は、リン酸化だけではなく、細胞内pHにも依存することが確認された。
そして、また結果は、図4にも示したとおり、この図4は、CHO−IR細胞にシアン色単色蛍光プローブ、GFP−MAPKおよびMAPKKを共導入させたものである。GFP−MAPKは、マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)に緑色蛍光蛋白質(GFP)を融合したものである。MAPKKは、刺激されていない細胞においてMAPKK−MAPK複合体を形成することによって、MAPKを細胞質に局在化させるために必要なものである。インスリン添加前には、図4Aのとおり、シアン色単色蛍光プローブは細胞質および核の両方に存在し、また図4Bのとおり、GFP−MAPKは大部分が細胞質に局在して核に局在するものは少ない様子を確認することができた。100nMインスリン添加後には、図4Cのとおり、シアン色単色蛍光プローブの局在はほとんど変化しなかったが、図4Dのとおり、GFP−MAPKは細胞質から核へと移動することが確認することができた。
さらに図5は、シアン色単色蛍光プローブとGFP−MAPKの蛍光強度の変化を時間の経過とともに測定した結果を示したグラフ図である。図5に例示したとおり、シアン色単色蛍光プローブの蛍光強度は100nmインスリン添加後直ちに減少し、3分後には飽和レベルに達することが確認された。一方、GFP−MAPKはインスリン添加から7分後に細胞質における蛍光強度が増加し、核における蛍光強度は減少することが確認された。
また、各単色蛍光プローブにおいて、cpFPのC末端にSH2nを連結し、N末端にY941を連結した場合でも、リン酸化活性にともなって蛍光強度が変化することも確認された。
図6は、シアン色単色蛍光プローブを導入したCHO−IR細胞に濃度の異なるインスリンを添加して刺激した結果である。シアン色単色蛍光プローブの蛍光強度の変化量はインスリンの添加量に依存することが確認された。
[実施例4]:インビトロ分光測定
CHO−IR細胞にシアン色単色蛍光プローブおよび緑色単色蛍光プローブをトランスフェクションした。トランスフェクションから24時間後、細胞を28℃で24時間培養した。この細胞を、細胞溶解バッファー(50mM Tris−HCl(pH7.4),100mM NaCl,1mM phenylmethylsulfonyl fluoride(PMSF)、10μg/ml pepstatin、10μg/ml leupeptin、10μg/ml aprotinin)を用いて溶解し、遠心分離機にかけて上清を採取した。
また、蛍光スペクトルの測定は、FP−750分光蛍光光度計(JASCO社製)を用いて行った。シアン色単色蛍光プローブを測定するためには、430nmの励起波長を用いた。緑色単色蛍光プローブを測定するためには、475nmの励起波長を用いた。
pH滴定を行うために、pH6.4から9.2の範囲のバッファーを作製した。このバッファーは、25mMのクエン酸、MOPSもしくはグリシンと、100mM KClを含んでいる。そして、上記の細胞溶解液の上清は、このバッファーで1:1に希釈した。
測定結果は、図7に示したとおりであった。シアン色単色蛍光プローブの蛍光極大波長は482nm、緑色単色蛍光プロープの蛍光極大波長は515nmであった。
また、図8に示したとおり、シアン色単色蛍光プローブは緑色単色蛍光プローブに比べてpH感受性が低いことも確認することができた。
[実施例5]:免疫沈降法および免疫学的分析法
血清欠乏状態にするため血清を含有していない培地で細胞を培養して2時間後、室温でインスリンを単色蛍光プローブを導入したCHO−IR細胞に添加した。この細胞を、氷冷した細胞溶解バッファー(50mM Tris−HCl(pH7.4)、100mM NaCl、1mM phenylmethylsulfonyl fluoride(PMSF)、10μg/ml pepstatin、10μg/ml leupeptin、10μg/ml aprotinin)を用いて細胞を溶解、懸濁した。
CHO−IR細胞の全細胞溶解液から、抗GFP抗体(BD Biosciences Clontech社製)を用いて、4℃で2時間反応させて単色蛍光プローブを免疫沈降させた。次いで、Protein G−Sepharose 4FFビーズ(Amersham Biosciences社製)を用いて、この免疫沈降物を吸着させ、氷冷したウォッシュバッファー(上記の細胞溶解バッファーと同じ)で4回洗浄して回収した。
回収したサンプルをSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)にて展開し、展開後、ゲルをニトロセルロース膜(Amersham Biosciences社製)に重ねて、ゲルに展開された蛋白質を電気泳動的に処理することによって、ニトロセルロース膜に転写した。このニトロセルロース膜を、抗リン酸化チロシン抗体PY20(1:500希釈;Santa Cruz Biotechnology社製)と反応させた。シグナル測定は、イメージアナライザー(LAS−1000plus;Fujifilm社製)を用いて行った。
結果は、図9に示したとおり、シアン色単色蛍光プローブは、インスリンの添加量に依存して抗リン酸化チロシン抗体PY20(図中ではanti−pTyrと表記)との抗体反応を示した。一方、抗GFP抗体とはインスリンの添加量に関係なく、抗体反応を示すことが確認された。
以上の細胞観察の結果と免疫学的分析の結果を合わせて考慮すると、この出願の発明は、各色の蛍光蛋白質からcpFPを作製し、適当な基質ドメイン、リン酸化認識ドメイン、さらには局在化シグナルドメインを適宜に採択して、単色蛍光プローブとすることができる。このような特徴を有する単色蛍光プローブを利用することによって、種々の細胞や組織を対象にすることができ、また、蛋白質リン酸化活性を特定の組織や箇所等に局在化させることをも可能とし、しかも複数種の細胞や組織の蛋白質リン酸化活性の同時測定を実現することができる。
単色蛍光プローブのcDNAの構築は、シアン色蛍光蛋白質(CFP)、緑色蛍光蛋白質(GFP)、黄色蛍光蛋白質(Citrine)をそれぞれコードするcDNA断片、基質ドメインとしてY941のcDNA断片およびY941AのcDNA断片、リン酸化認識ドメインとしてSH2nのCDNA断片、また局在性シグナルドメインとしてIRS−11−127由来のPH−PTBドメインのcDNA断片を図1に例示した各制限酵素サイトに合わせて、連結した。これら、cDNA断片は、ポリメラーゼ連鎖反応法(PCR法)を利用して作製した。本実施例で用いた上記3種類の蛍光蛋白質は、Aequorea victoria由来のGFP変異体である。
なお、図2および表1に例示したとおり、本実施例に用いた各色の蛍光蛋白質は、いずれにおいても共通して、アミノ酸配列の第144位および第145位との間で2つの断片に分割されたものを用いた。
Y941のアミノ酸配列は、「ETGTEEYMKMDLGPG」であり、IRS−1内のインスリン受容体によって認識されるチロシンリン酸化ドメインである。また、Y941Aのアミノ酸配列は「ETGTEEAMKMDLGPG」であり、リン酸化サイトであるチロシンがアラニンに置き換えられている。リン酸化認識ドメインとして用いたSH2nドメインは、ウシホスファチジルイノシトール3−キナーゼのp85サブユニット(p85330−429)由来のSH2nドメインを用いた。このSH2nドメインは、リン酸化したIRS−1蛋白質にある基質ドメインと結合することが知られている。単色蛍光プローブをコードする上記各cDNA断片を、哺乳動物用の発現ベクターであるpcDNA3.1(Invitrogen社製)にサブクローニングし、発現ベクターとした。なお、上記各cDNA断片を連結した完全長の単色蛍光プローブのN末端には、翻訳効率を上昇させるためコザック配列(5’−GCCACC−3’)を付加している。
[実施例2]:細胞培養およびトランスフェクション
細胞は、ヒトインスリン受容体過剰発現型チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO−IR細胞)を用いた。細胞は、10%FBS(Invitrogen社製)含有するHam’sF−12培地(Invitrogen社製)を用いて、5%CO2、37℃を培養条件として、培養した。
実施例1で作製した各発現ベクターの上記細胞への導入方法としては、Lipofectamine2000(Invitrogen社製)を用いて、メーカーのマニュアルに従い、トランスフェクション(導入)した。この細胞をトランスフェクションから12−24時間後に、ガラスボトムディッシュまたはプラスチック培養ディッシュ上に移して培養を行い、それぞれについて細胞を生きた状態のままで観察もしくは免疫学的分析を行った。
[実施例3]:細胞の観察
トランスフェクションの2−3日後、細胞を28℃で24時間培養し、観察前に前処理として、血清を含有しない(血清フリー)培地で2時間培養し、血清欠乏の状態にした。次いで、観察時には、培地をHank’s balanced salt solution(HBSS、Invitrogen社製)に置換した。
観察は、公知の方法(たとえば、Sato,M.,et al.,Anal.Chem.,72,5918−5924,2000)に従い、室温で行った。観察装置として、冷却形CCDカメラMicroMAXを備えたCarl Zeiss Axiovert 135マイクロスコープ(Roper Scientific社製)を用いた。この装置は、MetaFluor(Universal Imaging社製)によって制御されている。
(1)シアン色の単色蛍光プロープの蛍光イメージを観察するため、細胞に440±10nmの励起光を100ms照射し、480±15nmの蛍光フィルターを用いて、蛍光を検出した。
(2)緑色または黄色の単色蛍光プローブ、またGFP−MAPKの蛍光イメージを観察するため、細胞に500±10nmの励起光を10ms照射し、535±12.5nmの蛍光フィルターを用いて、蛍光を検出した。
なお、単色蛍光プローブは、温度感受性である。たとえば、37℃の条件下では、シアン色の単色蛍光プローブの場合、発光強度が弱まり(うす暗く)なり、緑色および黄色の単色蛍光プローブの場合、発光しなかった。また、これら3つの単色蛍光プローブ全てにおいて、28℃の条件では蛍光発光するが、2つの断片に分割されていない蛍光蛋白質よりも蛍光の発光強度は弱まるため、これらに留意して本実施例を行った。
結果は、図3に示したとおり、100nMインスリン(ペプチド研究所社製)を添加することによって、単色蛍光プローブを導入したCHO−IR細胞に刺激を与えたところ、シアン色単色蛍光プローブの蛍光強度は、通常の蛍光強度より10%減少した。一方、緑色単色蛍光プローブおよび黄色単色蛍光プローブの蛍光強度においては、15%上昇した。また、蛍光強度の変化がリン酸化によって引き起こされたことを確認するために、負の対照実験を行った。この負の対象実験は、CHO−IR細胞に基質ドメインのリン酸化サイトであるチロシンをアラニンに置き換えた単色蛍光プローブ変異体を導入させ、100nMインスリンを添加して刺激を与えた。この結果、シアン色単色蛍光プローブ変異体および緑色単色蛍光プローブ変異体の蛍光強度は、変化しなかった。一方、黄色単色蛍光プローブの蛍光強度は、リン酸化だけではなく、細胞内pHにも依存することが確認された。
そして、また結果は、図4にも示したとおり、この図4は、CHO−IR細胞にシアン色単色蛍光プローブ、GFP−MAPKおよびMAPKKを共導入させたものである。GFP−MAPKは、マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)に緑色蛍光蛋白質(GFP)を融合したものである。MAPKKは、刺激されていない細胞においてMAPKK−MAPK複合体を形成することによって、MAPKを細胞質に局在化させるために必要なものである。インスリン添加前には、図4Aのとおり、シアン色単色蛍光プローブは細胞質および核の両方に存在し、また図4Bのとおり、GFP−MAPKは大部分が細胞質に局在して核に局在するものは少ない様子を確認することができた。100nMインスリン添加後には、図4Cのとおり、シアン色単色蛍光プローブの局在はほとんど変化しなかったが、図4Dのとおり、GFP−MAPKは細胞質から核へと移動することが確認することができた。
さらに図5は、シアン色単色蛍光プローブとGFP−MAPKの蛍光強度の変化を時間の経過とともに測定した結果を示したグラフ図である。図5に例示したとおり、シアン色単色蛍光プローブの蛍光強度は100nmインスリン添加後直ちに減少し、3分後には飽和レベルに達することが確認された。一方、GFP−MAPKはインスリン添加から7分後に細胞質における蛍光強度が増加し、核における蛍光強度は減少することが確認された。
また、各単色蛍光プローブにおいて、cpFPのC末端にSH2nを連結し、N末端にY941を連結した場合でも、リン酸化活性にともなって蛍光強度が変化することも確認された。
図6は、シアン色単色蛍光プローブを導入したCHO−IR細胞に濃度の異なるインスリンを添加して刺激した結果である。シアン色単色蛍光プローブの蛍光強度の変化量はインスリンの添加量に依存することが確認された。
[実施例4]:インビトロ分光測定
CHO−IR細胞にシアン色単色蛍光プローブおよび緑色単色蛍光プローブをトランスフェクションした。トランスフェクションから24時間後、細胞を28℃で24時間培養した。この細胞を、細胞溶解バッファー(50mM Tris−HCl(pH7.4),100mM NaCl,1mM phenylmethylsulfonyl fluoride(PMSF)、10μg/ml pepstatin、10μg/ml leupeptin、10μg/ml aprotinin)を用いて溶解し、遠心分離機にかけて上清を採取した。
また、蛍光スペクトルの測定は、FP−750分光蛍光光度計(JASCO社製)を用いて行った。シアン色単色蛍光プローブを測定するためには、430nmの励起波長を用いた。緑色単色蛍光プローブを測定するためには、475nmの励起波長を用いた。
pH滴定を行うために、pH6.4から9.2の範囲のバッファーを作製した。このバッファーは、25mMのクエン酸、MOPSもしくはグリシンと、100mM KClを含んでいる。そして、上記の細胞溶解液の上清は、このバッファーで1:1に希釈した。
測定結果は、図7に示したとおりであった。シアン色単色蛍光プローブの蛍光極大波長は482nm、緑色単色蛍光プロープの蛍光極大波長は515nmであった。
また、図8に示したとおり、シアン色単色蛍光プローブは緑色単色蛍光プローブに比べてpH感受性が低いことも確認することができた。
[実施例5]:免疫沈降法および免疫学的分析法
血清欠乏状態にするため血清を含有していない培地で細胞を培養して2時間後、室温でインスリンを単色蛍光プローブを導入したCHO−IR細胞に添加した。この細胞を、氷冷した細胞溶解バッファー(50mM Tris−HCl(pH7.4)、100mM NaCl、1mM phenylmethylsulfonyl fluoride(PMSF)、10μg/ml pepstatin、10μg/ml leupeptin、10μg/ml aprotinin)を用いて細胞を溶解、懸濁した。
CHO−IR細胞の全細胞溶解液から、抗GFP抗体(BD Biosciences Clontech社製)を用いて、4℃で2時間反応させて単色蛍光プローブを免疫沈降させた。次いで、Protein G−Sepharose 4FFビーズ(Amersham Biosciences社製)を用いて、この免疫沈降物を吸着させ、氷冷したウォッシュバッファー(上記の細胞溶解バッファーと同じ)で4回洗浄して回収した。
回収したサンプルをSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)にて展開し、展開後、ゲルをニトロセルロース膜(Amersham Biosciences社製)に重ねて、ゲルに展開された蛋白質を電気泳動的に処理することによって、ニトロセルロース膜に転写した。このニトロセルロース膜を、抗リン酸化チロシン抗体PY20(1:500希釈;Santa Cruz Biotechnology社製)と反応させた。シグナル測定は、イメージアナライザー(LAS−1000plus;Fujifilm社製)を用いて行った。
結果は、図9に示したとおり、シアン色単色蛍光プローブは、インスリンの添加量に依存して抗リン酸化チロシン抗体PY20(図中ではanti−pTyrと表記)との抗体反応を示した。一方、抗GFP抗体とはインスリンの添加量に関係なく、抗体反応を示すことが確認された。
以上の細胞観察の結果と免疫学的分析の結果を合わせて考慮すると、この出願の発明は、各色の蛍光蛋白質からcpFPを作製し、適当な基質ドメイン、リン酸化認識ドメイン、さらには局在化シグナルドメインを適宜に採択して、単色蛍光プローブとすることができる。このような特徴を有する単色蛍光プローブを利用することによって、種々の細胞や組織を対象にすることができ、また、蛋白質リン酸化活性を特定の組織や箇所等に局在化させることをも可能とし、しかも複数種の細胞や組織の蛋白質リン酸化活性の同時測定を実現することができる。
以上詳しく説明したとおり、この出願の発明によって、細胞や組織が生きた状態(リアルタイム)で蛋白質リン酸化酵素の活性測定ができ、1種類の蛋白質リン酸化酵素の活性測定するために2種類もの蛍光団を用意することなく、しかも複数の細胞や組織においての蛋白質リン酸化酵素の活性を同時に可視化検出、測定することのできる単色蛍光プローブが提供される。
Claims (13)
- 蛍光蛋白質の変異体であって、circular−permuted蛍光蛋白質(cpFP)、基質ドメインおよびリン酸化認識ドメインを有することを特徴とする単色蛍光プローブ。
- 蛍光蛋白質が、緑色蛍光蛋白質、黄色蛍光蛋白質、シアン色蛍光蛋白質および赤色蛍光蛋白質のいずれかである請求項1記載の単色蛍光プローブ。
- circular−permuted蛍光蛋白質(cpFP)は、蛍光蛋白質のアミノ酸配列第144位と第145位との間、またはアミノ酸配列第142位と第143位との間で切断され、切断前の蛍光蛋白質におけるN末端とC末端とをペプチドリンカーによって連結されている請求項1または2記載の単色蛍光プローブ。
- ペプチドリンカーが、Gly−Gly−Ser−Gly−Glyである請求項2記載の単色蛍光プローブ。
- 配列番号2、配列番号4、配列番号6、または配列番号8のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド。
- 配列番号1、配列番号3、配列番号5、または配列番号7の塩基配列からなるポリヌクレオチド。
- 請求項1から4いずれかに記載の単色蛍光プローブのコード配列を有する発現カセットを備えた単色蛍光プローブ発現ベクター。
- 請求項5記載のポリヌクレオチドを有する発現カセットを備えた単色蛍光プローブ発現ベクター。
- 請求項6記載のポリヌクレオチドを有する発現カセットを備えた単色蛍光プローブ発現ベクター。
- 請求項7から9いずれかに記載の発現ベクターによって形質転換される形質転換細胞。
- 請求項1から4いずれか記載の単色蛍光プローブによる蛍光発色を利用した蛋白質リン酸化酵素活性の測定方法であって、蛋白質リン酸化酵素の活性化にともなって、基質ドメインがリン酸化され、リン酸化認識ドメインと相互作用し、circular−permuted蛍光蛋白質(cpFP)の蛍光強度の変化が誘発され、この変化を測定することを特徴とする蛋白質リン酸化酵素活性の測定方法。
- 請求項10記載の細胞に候補物質を接触共存させ、蛋白質リン酸化活性の蛍光強度の変化を指標とし測定することにより、蛋白質リン酸化増強または抑制物質のスクリーニング方法。
- 請求項7から9いずれかに記載の発現ベクターを生体から採取した細胞または組織に導入し、疾病に関連した蛋白質リン酸化酵素の活性シグナルを測定することにより疾病を特定する診断方法。
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2004
- 2004-08-25 WO PCT/JP2004/012608 patent/WO2005019447A1/ja active Application Filing
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Patent Citations (2)
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Non-Patent Citations (4)
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Also Published As
Publication number | Publication date |
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WO2005019447A1 (ja) | 2005-03-03 |
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