JPWO2004070028A1 - 脱皮ホルモン受容体及び当該受容体に対するリガンドのスクリーニング方法 - Google Patents
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Abstract
Description
一方、昆虫の脱皮・変態は、昆虫を特徴付ける現象であり、ホルモンにより制御されている。昆虫における脱皮・変態の制御は、ステロイドホルモンであるエクジステロイドによることが知られている。先ず、昆虫体内で合成されたエクジステロイドは、細胞膜を通過して、核内に存在する脱皮ホルモン受容体及びUSP(ultraspiracle)のヘテロダイマーと結合して複合体を形成する。次に、この複合体は、初期遺伝子群の上流に存在する応答配列に結合することで、当該初期遺伝子群の発現を誘導する。その後、初期遺伝子群の発現を契機にして、昆虫の脱皮・変態に関連する遺伝子群の発現を促進するとともに昆虫の脱皮・変態が進行する。
このように、脱皮ホルモン受容体は、昆虫が脱皮・変態する際のシグナル伝達経路において最上流に位置することが知られている。したがって、上述したような昆虫成長抑制物質として、エクジステロイドと脱皮ホルモン受容体との結合を阻害する物質を探索することが、害虫駆除剤の開発に有効であることが判る。
しかしながら、エクジステロイドと脱皮ホルモン受容体との結合を阻害する物質のスクリーニング方法としては確立されたものはなく、害虫駆除剤として有効な物質を容易にスクリーニングすることができなかった。また、従来、昆虫成長抑制物質のスクリーニングには、昆虫全体を用いる系、表皮等の一部の組織を用いる系及び培養細胞を用いる系などのスクリーニング系が知られている(非特許文献1乃至4参照)。しかしながら、昆虫成長抑制物質のスクリーニングについて、分子レベル(タンパク質レベル)での研究は殆ど行われていないの現状である。
Kenichi Mikitani Appl.Entomol.Zool.31(4):531−536
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そこで、本発明は、上述した実状に鑑み、害虫駆除剤等に応用可能な物質を効率的にスクリーニングすべく、全く新規な脱皮ホルモン受容体及び当該受容体に対するリガンドのスクリーニング方法を提供することを目的としている。
本発明は以下を包含する。
(1)以下の(a)のポリペプチドと、(b)のポリペプチド若しくは(c)のポリペプチドとからなる昆虫脱皮ホルモン受容体。
(a)配列番号1(EcR−DF)のアミノ酸配列からなるポリペプチド、又は、配列番号1(EcR−DF)のアミノ酸配列において1又は複数のアミノ酸が欠失、置換及び付加されたアミノ酸配列からなり下記(b)又は(c)のポリペプチドと複合体をなし且つ当該複合体をなした状態で脱皮ホルモンと結合できるポリペプチド
(b)配列番号2(USP−AE)のアミノ酸配列からなるポリペプチド、又は、配列番号2(USP−AE)のアミノ酸配列において1又は複数のアミノ酸が欠失、置換及び付加されたアミノ酸配列からなり上記(a)のポリペプチドと複合体をなしうるポリペプチド
(c)配列番号3(USP−DE)のアミノ酸配列からなるポリペプチド、又は、配列番号3(USP−DE)のアミノ酸配列において1又は複数のアミノ酸が欠失、置換及び付加されたアミノ酸配列からなり上記(a)のポリペプチドと複合体をなしうるポリペプチド
(2)上記(a)のポリペプチド、上記(b)のポリペプチド及び上記(c)のポリペプチドが大腸菌で発現したものであることを特徴とする(1)記載の昆虫脱皮ホルモン受容体。
(3)上記(a)のポリペプチドは、大腸菌で発現させた後にゲルろ過によって、上記(b)のポリペプチド又は上記(c)のポリペプチドに対する結合活性をもつようにしたものであることを特徴とする(1)記載の昆虫脱皮ホルモン受容体。
(4)(1)乃至(3)いずれか一に記載の昆虫脱皮ホルモン受容体に、供試物質を作用させる第1工程と、前記複合体と前記供試物質との結合を測定する第2工程とを含む脱皮ホルモン受容体に対するリガンドのスクリーニング方法。
(5)上記第1工程では、上記昆虫脱皮ホルモン受容体と上記供試物質とを混合した後、30〜90分反応させることを特徴とする(4)記載の脱皮ホルモン受容体に対するリガンドのスクリーニング方法。
(6)上記第1工程では、上記昆虫脱皮ホルモン受容体と上記供試物質とを混合した後、20〜37℃の条件下で反応させることを特徴とする(4)記載の脱皮ホルモン受容体に対するリガンドのスクリーニング方法。
(7)上記第1工程では、上記昆虫脱皮ホルモン受容体と上記供試物質とを混合した後、実質的に塩を含まない条件下で反応させることを特徴とする(4)記載の脱皮ホルモン受容体に対するリガンドのスクリーニング方法。
(8)以下の(a)のポリペプチドと、(b)のポリペプチド若しくは(c)のポリペプチドとからなる、昆虫脱皮ホルモン受容体に対するリガンドのスクリーニング剤。
(a)配列番号1(EcR−DF)のアミノ酸配列からなるポリペプチド、又は、配列番号1(EcR−DF)のアミノ酸配列において1又は複数のアミノ酸が欠失、置換及び付加されたアミノ酸配列からなり下記(b)又は(c)のポリペプチドと複合体をなし且つ当該複合体をなした状態で脱皮ホルモンと結合できるポリペプチド
(b)配列番号2(USP−AE)のアミノ酸配列からなるポリペプチド、又は、配列番号2(USP−AE)のアミノ酸配列において1又は複数のアミノ酸が欠失、置換及び付加されたアミノ酸配列からなり上記(a)のポリペプチドと複合体をなしうるポリペプチド
(c)配列番号3(USP−DE)のアミノ酸配列からなるポリペプチド、又は、配列番号3(USP−DE)のアミノ酸配列において1又は複数のアミノ酸が欠失、置換及び付加されたアミノ酸配列からなり上記(a)のポリペプチドと複合体をなしうるポリペプチド
(9)上記(a)のポリペプチド、上記(b)のポリペプチド及び上記(c)のポリペプチドが大腸菌で発現したものであることを特徴とする(7)記載の昆虫脱皮ホルモン受容体に対するリガンドのスクリーニング剤。
(10)上記(a)のポリペプチドは、大腸菌で発現させた後にゲルろ過によって、上記(b)のポリペプチド又は上記(c)のポリペプチドに対する結合活性をもつようにしたものであることを特徴とする(8)記載の昆虫脱皮ホルモン受容体に対するリガンドのスクリーニング剤。
本明細書は本願の優先権の基礎である日本国特許出願2003−031606号の明細書および/または図面に記載される内容を包含する。
図2は、EcRのcDNAクローニングにおいて作製したプライマーの位置及び配列を示す模式図である。
図3は、USPのcDNAクローニングにおいて作製したプライマーの位置及び配列を示す模式図である。
図4は、実施例2で作製した様々な長さのEcR組換え体を示す模式図である。
図5は、実施例2で作製した様々な長さのUSP組換え体を示す模式図である。
図6は、大腸菌で発現したEcR組換え体のSDS−PAGEの結果を示す写真である。
図7は、大腸菌で発現したUSP組換え体のSDS−PAGEの結果を示す写真である。
図8は、EcR組換え体を確認するために行ったウエスタンブロッティングの結果を示す写真である。
図9Aは、MALDI−TOF−MSを用いてEcR組換え体の分子質量を測定した結果を示す特性図である。
図9Bは、MALDI−TOF−MSを用いてEcR組換え体の分子質量を測定した結果を示す特性図である。
図9Cは、MALDI−TOF−MSを用いてEcR組換え体の分子質量を測定した結果を示す特性図である。
図9Dは、MALDI−TOF−MSを用いてEcR組換え体の分子質量を測定した結果を示す特性図である。
図9Eは、MALDI−TOF−MSを用いてEcR組換え体の分子質量を測定した結果を示す特性図である。
図10は、ゲルろ過クロマトグラフィーを用いてすべてのEcR組換え体についてリフォールディング反応を行い、すべてのEcR組換え体について排除限界の位置に溶出されたことを確認したSDS−PAGEの結果を示す写真である。
図11は、精製したEcR組換え体のSDS−PAGEの結果を示す写真である。
図12は、USP組換え体をアフィニティー精製した後の各フラクションのSDS−PAGEの結果を示す写真である。
図13は、実施例3で作製した発現ベクターを示す模式図である。
図14は、哺乳類細胞を用いてEcR組換え体を発現させた系において、当該EcR組換え体を確認するために行ったウエスタンブロッティングの結果を示す写真である。
図15は、実施例4における実験の工程を示すフローチャートである。
図16は、大腸菌で発現させたEcR組換え体及びUSP組換え体を用いて、ポナステロンAとの結合能を測定した結果を示す特性図である。
図17は、哺乳類細胞で発現させたEcR組換え体及びUSP組換え体を用いて、ポナステロンAとの結合能を測定した結果を示す特性図である。
図18は、EcR−DF及びUSP−AEの複合体とリガンドとの結合反応に関して、EcR−DF及びUSP−AEの最適なモル比を検討した結果を示す特性図である。
図19は、EcR−DF及びUSP−AEの複合体とリガンドとの結合反応に関して、最適な反応時間を検討した結果を示す特性図である。
図20は、EcR−DF及びUSP−AEの複合体とリガンドとの結合反応に関して、最適な反応温度を検討した結果を示す特性図である。
図21は、EcR−DF及びUSP−AEの複合体とリガンドとの結合反応に関して、最適な塩濃度を検討した結果を示す特性図である。
図22は、EcR−DF及びUSP−AEの複合体とリガンドとの結合反応における、結合曲線を示す特性図である。
図23は、EcR−DF及びUSP−AEの複合体とリガンドとの結合反応における、スキャッチャード解析を行った結果を示す特性図である。
図24は、エクダイソン及びエクダイソンアゴニストとEcR−DF及びUSP−AEの複合体との結合を解析した結果を示す特性図である。
図25は、EcR−DF及びUSP−AEの複合体と内分泌攪乱物質及び女性ホルモンとの結合を解析した結果を示す特性図である。
本発明を適用したスクリーニング方法(以下、単に「本スクリーニング法」と称する)は、ハスモンヨトウ由来の脱皮ホルモン受容体(以下、EcRと略記する場合もある)におけるD領域からF領域までのセグメント(以下、EcR−DFと略記する場合もある)と、ハスモンヨトウ由来のUltraspiracle(以下、USPと略記する場合もある)のA領域からE領域までのセグメント(以下、USP−AEと略記する場合もある)若しくは当該USPにおけるD領域からE領域までのセグメント(以下、USP−DEと略記する場合もある)との複合体を、供試物質に作用させ、その後、前記複合体と前記供試物質との結合を測定することで、供試物質における脱皮ホルモン受容体に対する結合能(リガンド能)を評価するものである。
ここで、脱皮ホルモン受容体とは、図1aに示すように、A/B領域、C領域、D領域、E領域及びF領域の6領域から構成された、脱皮ホルモンに対する受容体である。ハスモンヨトウ以外の昆虫においても脱皮ホルモン受容体は同定されており、このようなハスモンヨトウ以外の昆虫における研究からEcRのC領域はDNA結合領域であることが示唆されている。また、ハスモンヨトウ以外の昆虫において、EcRのE領域はホルモン結合領域であることが示唆されている。
また、USPとは、図1bに示すように、A/B領域、C領域、D領域及びE領域の5領域から構成され、脱皮ホルモン受容体とヘテロダイマーを形成するオーファン受容体である。
先ず、本スクリーニング方法において使用するEcR−DFについて説明する。EcR−DFとしては、例えば、配列番号1に表すアミノ酸配列からなるものを挙げることができる。しかしながら、EcR−DFは、配列番号1に表すアミノ酸配列からなるものに限定されず、例えば、配列番号1に表すアミノ酸配列における1又は複数のアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加されたアミノ酸配列からなるものであって、USP−AE若しくはUSP−DEと複合体をなし且つ当該複合体をなした状態でエクダイソンと結合できるものであっても良い。ここで、「複数のアミノ酸」としては、例えば2〜50個であり、好ましくは2〜20個であり、より好ましくは2〜10個である。
また、EcR−DFは、EcRのD領域及びF領域を含むセグメントであれば良く、例えばEcRのD領域のN末端側にC領域の一部を含んでいても良い。すなわち、配列番号1に表すアミノ酸配列における1又は複数のアミノ酸が付加されたアミノ酸配列としては、EcRのD領域及びF領域を含み、当該D領域のN末端側にC領域の一部が含まれているアミノ酸配列を挙げることができる。ここで、C領域の一部とは、例えば1〜20個のアミノ酸、好ましくは1〜10個のアミノ酸、より好ましくは1〜5個のアミノ酸である。
次に、EcR−DFの調製方法について説明する。本スクリーニング方法において、EcR−DFの調整方法としては特に限定されないが、例えば以下のように調製することができる。すなわち、先ず、ハスモンヨトウのcDNAライブラリーを作製し、所定のプライマーを用いてEcRをコードするcDNAをクローニングする。次に、このEcRのcDNAを用いてEcR遺伝子のコーディング領域の塩基配列を決定する。塩基配列に基づいて設計したEcR−DFをコードする領域を増幅するためのプライマーを用い、EcRのcDNAを鋳型としたPCRによってEcR−DFをコードするDNAを増幅する。その後、増幅したDNAを適当なベクターにクローニングし、適当な宿主に形質転換した後、得られた形質転換体において発現させたEcR−DFを回収することで、EcR−DFを調製することができる。
このEcRの調製方法において、cDNAライブラリーを作製するためのmRNAは、ハスモンヨトウの成虫、幼虫、蛹の如何なる段階から抽出しても良いし、ハスモンヨトウの如何なる部位から抽出してもよい。具体的に、ハスモンヨトウ幼虫に脂肪体から全量RNAを抽出し、抽出した全量RNAに含まれるmRNAを使用することができる。
全量RNAに含まれるmRNAを用いたcDNAライブリーの作製は、定法に従って行うことができる。すなわち、全量RNAを用いてfirst strand cDNAを合成し、これを鋳型としてEcRのcDNAをクローニングすることができる。
EcRのcDNAをクローニングする際のプライマーとしては、他の鱗翅目昆虫において保存されている配列を基に設計した縮重プライマーを使用することができる。具体的に、縮重プライマーとしては、図2に示すように6組の縮重プライマーを挙げることができる。これら6組の縮重プライマーは、それぞれEcR−F1及びEcR−R1と、EcR−F2及びEcR−R2と、EcR−F3及びEcR−R3と、EcR−F4及びEcR−R4と、EcR−F5及びEcR−R5と、EcR−F6及びEcR−R6と命名された。
また、縮重プライマーの塩基配列を以下に示す。
これら縮重プライマーを用いて、全量RNAから合成したfirst strand cDNAを鋳型としたRT−PCRによりcDNA断片を合成することができる。そして、合成したcDNA断片の塩基配列を決定し、他の鱗翅目昆虫におけるEcRとの相同性を検討する。
そして他の鱗翅目昆虫におけるEcRとの相同性が高いことから、EcRのcDNAであると判断することができる。
次に、この塩基配列に基づいて、EcRの全長cDNA塩基配列を決定するための5’RACE用の特異的プライマー(EcR−5’R)及び3’RACE用の特異的プライマー(EcR−3’F1)を設計することができる。
これら、EcR−5’R及びEcR−3’F1と、SMARTTMRACE cDNA Amplification Kitのアンカー配列に特異的なプライマー(UPM)とを用いて、全量RNAから合成したfirst strand cDNAを鋳型としたPCRによりcDNA断片を合成することができる。UPMの塩基配列を以下に示す。
そして、合成したcDNA断片の塩基配列と、上記縮重プライマーを用いて合成したcDNA断片の塩基配列とから、EcRの全長cDNAの塩基配列を決定することができる。EcRの全長cDNAの塩基配列を配列番号19に示し、EcRの演繹アミノ酸配列を配列番号20に示す。
EcR−DFをコードするDNAを有する発現ベクターを構築するには、先ず、EcRの全長cDNAの塩基配列(配列番号19)に基づいて設計したプライマーEcR−D:5’−CATATGGCTAGCAGGCCTGAGTGCGTGGTGCC−3’(配列番号21)及びプライマーEcR−F:5’−TTCGCAAGCTTCTAGAGCGCCGCGCTTTCCG−3’(配列番号46)を用い、クローニングしたEcRのcDNAを鋳型としてPCRを行うことによってEcR−DFをコードするDNA断片を取得する。
次に、このDNA断片を宿主に応じて適当なベクターに挿入することによって、発現ベクターを構築することができる。また、宿主内でEcR−DFを発現させる場合、EcR−DFのN末端にヒスチジンタグを付加するように発現ベクターを構築してもよい。
ここで、宿主としては、比較的に大量のEcR−DFを得る目的で大腸菌を使用することが好ましい。なお、宿主としては、大腸菌に限定されず、COS−7細胞、CHO細胞等の哺乳類細胞株、Sf−9等の昆虫細胞など、従来より遺伝子発現系で用いられている各種細胞を用いることができる。
例えば、宿主として大腸菌を用いる場合、発現ベクターは、例えば、大腸菌発現用ベクターpET−28b(+)を使用することができる。大腸菌発現用ベクターpET−28b(+)によれば、発現するEcR−DFのN末端にヒスチジンタグを付加することができる。
宿主内で発現したEcR−DFは、定法に従って生成することができる。なお、宿主として大腸菌BL21(DE3)株を、EcR−DFをコードするDNAをpET−28b(+)に組み込んでなる発現ベクターで形質転換し、IPTGにより発現誘導した場合、EcR−DFは不溶性の封入体を形成する。このため、この場合には、封入体を可溶化させた後にリフォールディングさせることで、目的とするかたちでEcR−DFを取得することができる。
次に、本スクリーニング方法において使用するUSP−AE及びUSP−DEについて説明する。
USP−AEとしては、例えば、配列番号2に表すアミノ酸配列からなるものを挙げることができる。しかしながら、USP−AEは、配列番号2に表すアミノ酸配列からなるものに限定されず、例えば、配列番号2に表すアミノ酸配列における1又は複数のアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加されたアミノ酸配列からなるものであって、EcR−DFと複合体をなしうるものであっても良い。ここで、「複数のアミノ酸」としては、例えば2〜200個であり、好ましくは2〜100個であり、より好ましくは2〜50個である。
USP−DEとしては、例えば、配列番号3に表すアミノ酸配列からなるものを挙げることができる。しかしながら、USP−DEは、配列番号3に表すアミノ酸配列からなるものに限定されず、例えば、配列番号3に表すアミノ酸配列における1又は複数のアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加されたアミノ酸配列からなるものであって、EcR−DFと複合体をなしうるものであっても良い。ここで、「複数のアミノ酸」としては、例えば2〜20個であり、好ましくは2〜10個であり、より好ましくは2〜5個である。
これらUSP−AE及びUSP−DEの調製方法は、上述したEcR−DFの調製方法に準じて行うことができる。特に、USPのcDNAをクローニングする際の4組の縮重プライマー、5’RACE用の特異的プライマー及び3’RACE用の特異的プライマーを図3に示す。これら4組の縮重プライマーは、それぞれUSP−F1及びUSP−R1と、USP−F2及びUSP−R2と、USP−F3及びUSP−R3と、USP−F4及びUSP−R4と命名された。
4種類の縮重プライマー、5’RACE用の特異的プライマー(USP−5’R1、USP−5’R2)、3’RACE用の特異的プライマー(USP−3’F1、USP−3’F2)及びSMARTTMRACE cDNA Amplification Kitのアンカー配列に特異的なプライマー(UPM、NUP、RTG、RTG−N)の塩基配列を以下に示す。
上述したEcR−DFの調製方法に準じてクローニングされたUSPのcDNA塩基配列を配列番号39に示し、USPの演繹アミノ酸配列を配列番号40に示す。
EcRのcDNAを鋳型としたPCRによってEcR−DFをコードするDNAを増幅する。その後、増幅したDNAを適当なベクターにクローニングし、適当な宿主に形質転換した後、得られた形質転換体において発現させたEcR−DFを回収することで、EcR−DFを調製することができる。
USP−AEをコードするDNAを有する発現ベクターを構築するには、プライマーUSP−A:5’−TTCTTGCTAGCATGTCCATAGAGTCGCGTTTAG−3’(配列番号41)及びプライマーUSP−Er1:5’−ATTACAAGCTTACATGACGTTGGCGTCGATG−3’(配列番号42)を用い、USP−DEをコードするDNAを有する発現ベクターを構築するには、プライマーUSP−D:5’−CATATGGCTAGCAAGAGGGAGGCAGTTCAGGAG−3’(配列番号43)及びプライマーUSP−Er1(配列番号42)を用いることによって、上述したEcR−DFの場合と同様に、USP−AE及びUSP−DEを取得することができる。
本スクリーニング法では、上述のように得られるEcR−DF、USP−AE及びUSP−DEを用いて、供試物質の脱皮ホルモン受容体に対する結合能(リガンド能)を評価する。例えば、供試物質に対して標識することで、EcR−DFとUSP−AE若しくはUSP−DEとの複合体に対する供試物質の結合能を評価することができる。このとき、EcR−DFとUSP−AE若しくはUSP−DEと供試物質とを混合して、EcR−DFとUSP−AE若しくはUSP−DEとの複合体に対する供試物質の結合能を評価しても良いし、EcR−DFとUSP−AE若しくはUSP−DEとの複合体を予め調製した後に、供試物質を作用させ、その結合能を評価しても良い。
また、供試物質の標識には、放射性同位元素を用いる方法を使用することができる。
以上のように、本スクリーニング法によれば、EcR−DFとUSP−AE若しくはUSP−DEとの複合体を用いて、EcRとUSPとのヘテロダイマーによる脱皮・変態に関連する遺伝子群の発現誘導を抑制するような物質を探求する有力な手段を提供することができる。
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
〔実施例1〕ハスモンヨトウ由来EcR及びUSPの塩基配列決定
材料
本実施例では、クミアイ化学工業株式会社より供与されたハスモンヨトウ幼虫(終齢(6齢)幼虫(体長約4cm、重さ約1.5g))を使用した。ハスモンヨトウ幼虫を実体顕微鏡下で解剖し、ピンセットを用いて脂肪体を摘出し、エッペンドルフチューブに回収、液体窒素で凍結後、total RNAの抽出に用いるまで−80℃で保存した。
RT−PCR
摘出したハスモンヨトウの脂肪体よりtotal RNAを抽出する際には、RNA抽出用試薬ISOGEN(ニッポンジーン)を、製品付属のプロトコールに従って用いた。抽出したtotal RNA溶液は、一部をDEPC処理水で希釈して分光光度計を用いその濃度を定量した。
得られたtotal RNA溶液から2μgのtotal RNAを調製し、これをReady−To−GoTM T−Primed First−Strand Kit(Amersham Biosciences)を用い、製品付属のプロトコールに従い、first strand cDNAの合成を行った。またこれとは別に、1μgのtotal RNAより、SMARTTMRACE cDNA Amplification Kit(CLONTECH)を用いたfirst strand cDNAの合成も行った。
合成したfirst strand cDNAをテンプレートとして、サーマルサイクラーを用いてPCR反応を行った。縮重プライマーとしては、図2及び図3に示したものを使用した。また、PCR反応液の組成を表1に示した。
また、反応サイクルは、94℃で3分維持した後、94℃で30秒の変性、55℃で30秒のアニール及び72℃で30秒の伸長を35サイクル行った後、72℃で7分の処理を行うものとした。
PCR産物はTA Cloning Kit(Invitrogen)を用いてサブクローニングを行った。キットに含まれるベクター(pCR2.1)にPCR産物をライゲーションし、得られたプラスミドDNAをコンピテントセルINVαF’(Invitrogen)に形質転換した。そして、PCR産物が挿入されたプラスミドDNAを選択して、PCR産物の塩基配列を決定した。プラスミドDNAを鋳型としたサイクルシーケンス反応は、Thermo Sequence Cy5.5 dye terminator cycle sequencing kit(Amersham Biosciences)を用いた。
5’RACE及び3’RACE
上記RT−PCRにより増幅したcDNA断片の塩基配列を基にして、5’RACE用のプライマー及び3’RACE用のプライマーを作製した。また、テンプレートとなるcDNAは、5’RACEにおいては、SMARTTMRACE cDNA Amplification Kitを用いて合成したものを使用した。また3’RACEにおいては、テンプレートとなるcDNAとしてReady−To−GoTM T−Primed First−Strand Kitを用いて合成したものを使用した。
これにより、EcRの全長cDNA塩基配列及びUSPの全長cDNA塩基配列を決定することができた。EcRの全長cDNA塩基配列を配列番号19、EcRの演繹アミノ酸配列を配列番号20に示した。また、USPの全長cDNA塩基配列を配列番号39、USPの演繹アミノ酸配列を配列番号40に示した。
〔実施例2〕EcR組換え体及びUSP組換え体の発現(大腸菌)
DNA断片の調製
まず、EcRのリガンド結合領域(E領域)を含む、様々な長さの組換え体を作製するために、実施例1で得られた塩基配列を基に、特定の制限酵素サイトの配列を付加したプライマーを以下のように設計した。
また、USPのリガンド結合領域(E領域)を含む、様々な長さの組換え体を作製するために、実施例1で得られた塩基配列を基に、特定の制限酵素サイトの配列を付加したプライマーを以下のように設計した。
これらプライマーを用いて、実施例1でクローニングに用いたプラスミドをテンプレートDNAとして、PCR反応を行い、そのPCR産物をサブクローニングした。PCR反応液の組成を表2に示した。
また、反応サイクルは、94℃で3分維持した後、94℃で30秒の変性、60℃で30秒のアニール及び72℃で1分の伸長を15サイクル行った後、72℃で7分の処理を行うものとした。
PCR産物をアガロースゲルから回収した後、TOPO TA CloningTMKit(Invitrogen)を用い、製品付属のプロトコールに従ってサブクローニングを行った。DNAシーケンサーを用い、目的のPCR産物の塩基配列に間違いがないことを確認した後、特定の制限酵素(BamHI−HindIII、もしくはNheI−HindIIIの組み合わせ)でプラスミドを消化した。これを再び1%アガロースゲル電気泳動に供し、ゲルより目的のDNA断片を回収した。
なお、本実施例では、図4に示すように、プライマーEcR−A及びプライマーEcR−Fにより全長のEcR(EcR−AF)、プライマーEcR−D及びプライマーEcR−FによりEcRのD領域からF領域までのセグメント(EcR−DF)、プライマーEcR−D及びプライマーEcR−Er1によりEcRのD領域からE領域までのセグメント(EcR−DE)、プライマーEcR−Ef及びプライマーEcR−FによりEcRのE領域からF領域までのセグメント(EcR−EF)並びに、プライマーEcR−Ef及びプライマーEcR−Er1によりEcRのE領域セグメント(EcR−E)をコードするDNA断片をそれぞれ取得した。また、本実施例では、図5に示すように、プライマーUSP−A及びプライマーUSP−Er1によりUSPのA領域からE領域までのセグメント(USP−AE)、プライマーUSP−D及びプライマーUSP−Er1によりUSPのD領域からE領域までのセグメント(USP−DE)並びにプライマーUSP−Ef及びプライマーUSP−Er1によりUSPのE領域セグメント(USP−E)をコードするDNA断片をそれぞれ取得した。
形質転換
先ず、得られたDNA断片がコードするEcR組換え体及びUSP組換え体を、大腸菌内で発現させるため、形質転換ようの発現ベクターを構築した。プラスミドベクターはpET−28b(+)(Novagen)を用いた。このベクターには、目的タンパク質のN末端にヒスチジン(His)タグが付加されるように構成されている。このプラスミドDNAは、25mlの培養液よりHigh Purity Plasmid Midiprep System(MARLINGEN BIOSCIENCE)を用いて調製した。目的のインサートDNAが、トリプレットコドンのフレームのずれがなく、正確にベクターに挿入されていることを確認し、以降の実験に供する発現ベクターとした。
次に、上述のように構築した発現ベクター及び大腸菌DH5α株のコンピテントセルを用いて、ヒートショック法及びエレクトロポレーション法によって形質転換した。
目的タンパク質の発現
上述した発現ベクターを保持する大腸菌BL21(DE3)株のシングルコロニーを、5mLのLB培地に植菌し37℃で一晩浸盪培養した(前培養)。その後、培養容器は500mlのバッフル付きの三角フラスコあるいは坂口フラスコを用い、そこに100mlのLB培地、100μlのカナマイシンを加え、これに5mlの前培養液を加えた。37℃で浸盪培養し(本培養)、OD600が0.6〜0.8になったところでIPTGを加え、目的タンパク質の誘導を開始した。各コンストラクトの誘導条件を表3に示した。なお、EcR−AF、EcR−DF、EcR−DE、EcR−EF及びEcR−Eについては、同一の条件で行った。
誘導後、培養液を4℃、8,000rpm、5分間遠心して集菌した。EcR組換え体は、菌体を15mlのPBSで、USP組換え体は、10mlのlysis buffer(50mM NaH2PO4/300mM NaCl/10mM imidazole(pH8.0))で良く懸濁し、それぞれに10mgのリゾチーム(SIGMA)を加え、低温室にてローテーターを用い、1時間ゆるやかに懸濁した後、−80℃で凍結させた。1時間以上経過した後、解凍し超音波破砕機を用いて120Wで5分間(USP組換え体)、もしくは10分間(EcR組換え体)菌体を破砕し、4℃、10,000rpm、で15分間遠心した。
EcR組換え体については、遠心後の沈殿画分を4mlのPBSに懸濁し、これに25%Triron X−100を1mlを加えて室温で4時間〜一晩、ローテーターでゆるやかに懸濁した。次に4℃、9,000rpmで10分間遠心し、沈殿を4mlのPBSで4℃、9,000rpmで5分間遠心し、洗浄した。この操作は、Triton X−100を除くように(沈殿がサラサラになるまで)5〜10回繰り返した。最後に沈殿画分は上清を完全に除去した後、精製に用いるまで−20℃で保存した。一方、USP組換え体については菌体破砕、遠心後の上清画分を次の精製に用いた。
次に、SDS−PAGEにて確認した結果、発現したEcR組換え体(EcR−AF、−DF、−DE、−EF、−E)は、不溶性の封入体画分に存在した(図6)。一方、USPのすべての発現した組換え体(USP−AE、−DE、−E)は、その一部が可溶性画分で回収された(図7)。
なお、SDS−PAGEに際しては、以下のように行った。サンプルは適量のサンプルバッファー(0.2M Tris−HCl(pH6.8)/8%SDS/24%β−ME/40%glycerol/0.05%BPB)と混合し、100℃で5分間処理して調製した。また、分子量マーカーは、LMW Calibration Kit for SDS Electrophoresis(Amersham Biosciences)を用いた。泳動終了後、ゲルを脱色液(50%メタノール/7%酢酸)で15分間固定した後、CBB染色液(0.25%CBB R−250/50%メタノール/5%酢酸)中で15分間浸盪した。最後に、脱色液でバックグラウンドの色が抜けるまで脱色した。
発現した組換え体が目的のものであることを確認するために、抗His−tag抗体を用いたウエスタンブロッティングを行った。分子量マーカーは、プレシジョンプレステインドスタンダード(BIO−RAD)を用いた。泳動終了後、ブロッティング装置を用いて、ゲルをPVDF膜(ATTO)に100mAで30分間ブロッティングした。ブロッティング終了後、抗体の非特異的な吸着を防ぐために、5%スキムミルク入りのTBST(137mM NaCl/2.68mM KCl/25mM Tris/0.05%Tween−20)中で2時間から一晩、ブロッキングを行った。ブロッキング終了後、TBSTで10分間、4回、膜を洗浄した。次にTBSTで2,000倍希釈したanti−His−antibody(Amersham Biosciences)で室温にてインキュベートした。1.5時間後、TBSTで10分間、4回、膜を洗浄しTBSTで5,000倍希釈したanti−mouse IgG conjugated HRPを加え、室温でインキュベートした。1時間後、TBSTで10分間、4回、膜を洗浄し、HRPの基質としてSuperSignal West Dura Extended Duration Substrate(Pierce)を加え、化学発光させ、イメージングアナライザーで分析した。その結果、図8に示すように、すべての発現産物は目的のものであった。さらに、SDS−PAGEに供したサンプルをゲルより切り出して、トリプシン消化により得られた消化物を、MALDI−TOF−MSを用いてその分子質量を測定した。図9A、9B、9C、9D及び9Eに示すように、目的産物の消化物が確認されたことからも、今回の発現産物はすべて目的のものであった。
目的タンパク質の精製
(EcR組換え体)
EcRの組換え体は、上述したように、すべて不溶性の封入体を形成し、発現産物は封入体に存在していた。このままでは、後述するリガンドとの結合実験に用いることができないので、可溶化させリガンドと結合するように、リフォールディングする必要があった。リフォールディング反応には、封入体を高濃度の尿素やグアニジン塩酸塩水溶液で可溶化後、徐々にそれらを除去していくことが必要である。そのために、透析法や、希釈法などが良く行われている。本実施例では、まず、8Mの尿素で可溶化したEcR組換え体を、希釈法を用いたリフォールディング反応を試みたが、尿素の終濃度が1M以下になると、可溶化していたタンパク質が再び沈殿になり、不溶化したのが観察された。そこで、ゲルろ過クロマトグラフィーを用いたリフォールディングを試みた。この方法の狙いは、排除限界が小さいゲルを用いることによって、ゲルの孔隙に入ることのできないEcR組換え体が排除限界の位置に溶出される。一方、尿素は低分子量のために、ゲルの孔隙に入り込み、EcR組換え体より遅れて溶出される。これにより、可溶化したEcR組換え体尿素溶液より、尿素を除くことができ、EcR組換え体は可溶化した状態で回収できるのではないかと考えた。このゲルろ過クロマトグラフィーを用いたリフォールディング反応を行った結果、すべてのEcR組換え体は、排除限界の位置に溶出されたことを、SDS−PAGEにより確認した(図10)。
溶出されたそれぞれのEcR組換え体を、限外ろ過により濃縮した。このサンプルの濃度をBradford法により定量した。その結果、25mlの培養液から186μgのEcR−AF、206μgのEcR−DF、98μgのEcR−DE、46μgのEcR−EF、182μgのEcR−Eが得られた。このように精製したEcR組換え体溶液をSDS−PAGEに供した際の結果を図11に示す。
(USP組換え体)
USP組換え体は、上述したように、その一部が可溶性画分に存在していた(図7参照)。このUSP組換え体には、N末端にHis−タグが付加していることを利用して、ニッケル樹脂を用いたアフィニティー精製を行った(図12)。限外ろ過により濃縮後、Bradford法により定量した。その結果、100mlの培養液から、814μgのUSP−AE、417μgのUSP−DE、1.3mgのUSP−Eが得られた。
〔実施例3〕EcR組換え体及びUSP組換え体の発現(動物培養細胞)
実施例3では、後述する実施例4「EcR組換え体及びUSP組換え体を用いたリガンド結合能解析」におけるポジティブコントロールとして、動物培養細胞でEcR組換え体及びUSP組換え体を発現させ、細胞からの抽出液を調製した。
動物培養細胞としてはCOS−7細胞を用いた。発現用プラスミドとしては、SRαプロモーターの下流にEcR−AF、EcR−DF、USP−AE又はUSP−DEを挿入し、それぞれのN末端にFLAGタグを付けたものを用いた(図13)。
この発現用プラスミドに組み込まれるEcR−AFは、実施例1でクローニングに用いたプラスミドを鋳型として、一対のプライマーEcR−Af及びプライマーEcR−Frを用いたPCRによって得ることができる。また、発現用プラスミドに組み込まれるEcR−DFは、実施例1でクローニングに用いたプラスミドを鋳型として、一対のプライマーEcR−Df及びプライマーEcR−Frを用いたPCRによって得ることができる。なお、プライマーEcR−Af、プライマーEcR−Df及びプライマーEcR−Frの塩基配列を以下に示す。
また、この発現用プラスミドに組み込まれるUSP−AEは、実施例1でクローニングに用いたプラスミドを鋳型として、一対のプライマーUSP−Af及びプライマーUSP−Erを用いたPCRによって得ることができる。また、発現用プラスミドに組み込まれるUSP−DEは、実施例1でクローニングに用いたプラスミドを鋳型として、一対のプライマーUSP−Df及びプライマーUSP−Erを用いたPCRによって得ることができる。なお、プライマーUSP−Af、プライマーUSP−Df及びプライマーUSP−Erの塩基配列を以下に示す。
各発現用プラスミドDNAをCOS−7細胞に対して単独で形質導入し、48時間後の細胞から抽出液をそれぞれ調製した。また、EcR−AFを挿入したプラスミドDNA及びUSP−AEを挿入したプラスミドDNAをCOS−7細胞に対して共に形質導入し、同様に抽出液を調製した。さらにEcR−DFを挿入したプラスミドDNA及びUSP−AEを挿入したプラスミドDNAをCOS−7細胞に対して共に形質導入し、同様に抽出液を調製した。さらにEcR−AFを挿入したプラスミドDNA及びUSP−DEを挿入したプラスミドDNAをCOS−7細胞に対して共に形質導入し、同様に抽出液を調製した。さらにEcR−DFを挿入したプラスミドDNA及びUSP−DEを挿入したプラスミドDNAをCOS−7細胞に対して共に形質導入し、同様に抽出液を調製した。なお、COS−7細胞における目的産物の発現は、抗FLAG抗体を用いたウエスタンブロッティングによって確認した。
以上のようにして、EcR−AF、EcR−DF、USP−AE及びUSP−DEを単独で含む4種類の抽出液と、共発現させたEcR−AF及びUSP−AEを含む抽出液と、共発現させたEcR−DF及びUSP−AEを含む抽出液と、共発現させたEcR−AF及びUSP−DEを含む抽出液と、共発現させたEcR−DF及びUSP−DEを含む抽出液とを準備した。
得られた抽出液に対して抗FLAG抗体を用いたウエスタンブロッティングを行い、目的タンパク質の発現を確認した結果を図14に示す。図14に示すように、すべての抽出液において、目的とするタンパク質の単独発現及び共発現を確認することができた。
〔実施例4〕EcR組換え体及びUSP組換え体を用いたリガンド結合能解析
実施例4では、実施例2及び実施例3で得られたEcR組換え体及びUSP組換え体を用いて、これらEcR組換え体及びUSP組換え体の複合体とリガンドとの結合能に関して解析した。本例では、リガンドとして、植物由来のエクダイソンアゴニストであるポナステロンAを使用した。
実施例4において、結合型と遊離型を分離するために、チャコールデキストラン法を用いた。これはステロイドホルモンをリガンドとする場合の一般的な方法で、反応停止の際に、デキストランでコーティングされた活性炭溶液を加えることにより、活性炭が受容体と未結合のリガンドを吸着する。これを遠心分離することによって活性炭画分(沈殿画分)と、受容体/リガンドの複合体が存在する上清画分とに分けることが可能となる。
実施例4における実験のフローを図15に示した。すなわち、まず、Binding buffer(20mM HEPES(pH7.4)/5mM DTT/1mM PMSF)にポナステロンAの受容体(EcR組換え体及びUSP組換え体の複合体)への非特異的な結合を防ぐため1%のBSAを添加した。これに、実施例2で精製したEcR−AF、EcR−DF、EcR−DE、EcR−EF或いはEcR−Eに対し、それぞれUSP−AE或いはUSP−DEを混ぜ、終濃度1.37nMの[3H]ポナステロンA([24,25,26,27−3H]Ponasterone A(American Radiolabeled Chemicals Inc.))を加えた。これを25℃で反応させ、40分後に200μlの活性炭溶液(0.5%Charcoal,dextran coated(SIGMA)/20mM HEPES/50mM NaCl)添加により反応を停止させた。遠心分離後の上清画分を液体シンチレーターと混合させ、これを液体シンチレーションカウンタ(ALOKA LSC−5100)を用いて放射活性(DPM)を測定した。この時の測定値を全結合量とした。また、[3H]ポナステロンAの10,000倍の非放射能標識ポナステロンAを加えて同様の実験を行い、受容体に対するリガンドの非特異的結合量を求めた。受容体に対するリガンドの特異的結合量は、全結合量から非特異的結合量を引いた値とした。
結果を図16に示す。図16により、EcR−DF及びUSP−AEの複合体と、EcR−DF及びUSP−DEの複合体には、リガンドとの結合能が認められた。一方、のEcRおよびUSPはいずれの長さでも、単独では特異的な結合は見られなかった。
一方、実施例3で調製した抽出液を用いて、同様に結合実験を行った。その結果、図17に示すように、EcR−DFとUSP−AE、およびEcR−DFとUSP−DEを細胞内で共発現させた場合に、リガンドとの強い結合が見られた(lane7及び8)。しかし、これらの組み合わせを、それぞれ単独で発現させたものを、後で混合した場合には、結合が見られなかった(lane3及び4)。また、EcR−AFとUSP−AE、およびEcR−AFとUSP−DEとの組み合わせにおいては共発現、およびそれぞれ単独発現後に混合したもののいずれにおいても、リガンドとの結合は見られなかった。
以上の結果より、EcR−DFがポナステロンAと結合することから、E領域に加え、少なくともD領域とF領域の両方がポナステロンAとの結合に必要であることが分かった。これまでD領域はUSPとの二量体化に関与することが示唆されている。本実施例でえられた結果では、二量体化がリガンドとの結合に必須であることを強く支持する。F領域に関しては、そのアミノ酸の長さが非常に短く、各生物間の保存性も低くその構造化学的な活性についての役割があいまいなのが現状であるが、少なくともリガンドとの結合に重要な役割を担っている領域であることが判明した。
一方、大腸菌を用いた発現系及び哺乳類細胞を用いた発現系の両方において、EcRの全長の組換え体(EcR−AF)とポナステロンAとの結合が認められたが、極めて弱いものであった。したがって、EcRに対するリガンドをスクリーニングする際には、全長のEcRを用いるのではなく、EcR−DF組換え体を用いる必要があることが、本実施例によって初めて明らかとなった。
〔実施例5〕結合実験の条件検討
実施例5では、上述したEcR−DF及びUSP−AEの複合体とリガンドとの結合をより高効率で見られるように、複合体−リガンド間の相互作用に重要であると考えられる、モル比、反応時間、反応温度、および塩濃度の条件を検討することにした。
EcR−DF及びUSP−AEのモル比の検討
EcR−DF及びUSP−AEの複合体とリガンドとの結合反応に関して、最適な反応時間を以下のようにして検討した。先ず、一定量のEcR−DFに対し、種々の濃度のUSP−AEを加え、ウォーターバス中25℃にて40分間反応させた。なお、反応溶液中のポナステロンAは1.34nMとした。そして、ポナステロンAの複合体に対する結合を測定した結果を図18に示す。図18から判るように、EcR−DF:USP−AEが約1:1でポナステロンAのEcR−DF/USP−AE複合体に対する結合が飽和状態に達した。この結果から、EcR−DF及びUSP−AEの複合体とリガンドとの結合反応に際して、EcR−DF:USP−AEを、モル比で1:1とすることが好ましいと言える。なお、以降の実験ではEcR−DF:USP−AEをモル比で1:1で行うことにした。
反応時間の検討
EcR−DF及びUSP−AEの複合体とリガンドとの結合反応に関して、最適な反応時間を以下のようにして検討した。まず、EcR−DFとUSP−AEをモル比1:1で混合し、ウォーターバス中25℃にて1分、5分、15分、30分、60分、120分、240分間反応させた。なお、反応溶液中のポナステロンAは1.34nMとした。その結果を図19に示す。図19から判るように、60分間の反応で、ポナステロンAの当該複合体に対する結合が、ほぼ飽和状態に達した。この結果から、EcR−DF及びUSP−AEの複合体とリガンドとの結合反応に際して、30〜90分の反応時間とすることが好ましいと言える。なお、以降の実験では反応時間は60分で行うことにした。
反応温度の検討
EcR−DF及びUSP−AEの複合体とリガンドとの結合反応に関して、最適な反応温度を以下のようにして検討した。まず、低温室内4℃にて反応させる以外は、上記「反応時間の検討」と同様に結合反応を行った。その結果を図20に示す。図20から判るように、低温室内4℃においては、結合が飽和に達する時間は8時間であった。これに対して、図20に示したように、反応温度25℃においては、結合が飽和に達する時間は60分であった。この結果から、EcR−DF及びUSP−AEの複合体とリガンドとの結合反応に際して、20〜37℃の反応温度とすることが好ましいと言える。なお、以降の実験では反応温度は25℃で行うことにした。
塩濃度の検討
EcR−DF及びUSP−AEの複合体とリガンドとの結合反応に関して、最適な塩濃度を以下のようにして検討した。まず、EcR−DFとUSP−AEとをモル比1:1で混合し、ウォーターバス中25℃で反応させた。この時の反応溶液中の塩(NaCl)濃度を終濃度0mM、50mM、100mM、300mM、500mMで行った。その結果を図21に示す。図21から判るように、塩濃度の増加と共に、当該複合体に対するリガンドの特異的結合が減少した。この結果から、EcR−DF及びUSP−AEの複合体とリガンドとの結合反応に際して、0〜100mMの塩濃度とすることが好ましいと言える。なお、以降の実験では反応溶液には塩を加えないものを使用した。
〔実施例6〕複合体とリガンドとの結合のスキャッチャード解析
実施例6では、EcR−DFとUSP−AEを用いて、以下のようにして、複合体のポナステロンAに対する解離定数を(Kd)を求めた。まず、EcR−DFとUSP−AEをモル比1:1で混合し、これに種々の濃度の[3H]ポナステロンAを加えた。この反応液に遊離のリガンドを除くために活性炭溶液を加えた。EcR−DF及びUSP−AEの複合体の[3H]ポナステロンAに対する結合量(全結合量)は、遠心分離後の上清画分の放射活性を測定することにより求めた。また、[3H]ポナステロンAの10,000倍の非放射標識ポナステロンAを加えて同様の実験を行い、非特異的結合を求めた。測定結果より結合曲線をプロットし他結果を図22に示す。そして、図22に示した結合曲線における値をもとにスキャッチャード解析を行った。結果を図23に示す。なお図23において、横軸は[3H]ポナステロンAの特異的結合量(nM)を示し、縦軸は特異的結合量(bound)/全結合量−特異的結合量(free)を示す。
図23から判るように、スキャッチャード解析の結果1本の直線が得られ、Kd=2.79nM、Bmax=0.17nMとなった。
〔実施例7〕昆虫抑制物質のスクリーニング系の構築
実施例7では、実施例1乃至6の結果に基づいて、昆虫抑制物質のスクリーニング系を構築した。実施例1乃至6に示したように、エクダイソンアゴニストであるポナステロンAを用いた結合解析を行った結果、EcR−DF及びUSP−AEの複合体に対するポナステロンAの結合が示された。この系がスクリーニング系として機能するかどうかは、他のエクダイソンアゴニストとの結合も観察されなければならない。そこで、昆虫の生体内での活性型のエクダイソンである20−ヒドロキシエクダイソンと、合成エクダイソンアゴニストであるテブフェノジド(RH−5992)とを用いて、EcR−DF及びUSP−AEの複合体との結合実験を試みた。
まず、実施例4と同様に、Binding bufferにEcR−DFに対してUSP−AEを混ぜ、[3H]ポナステロンAを加えた。また、[3H]ポナステロンAの10,000倍の20−ヒドロキシエクダイソン、またはテブフェノジドを加えて同様の実験を行い、非特異的結合を求めた。その結果、20−ヒドロキシエクダイソン及びテブフェノジド共にEcR−DF及びUSP−AEの複合体との結合活性が認められた。そこで、20−ヒドロキシエクダイソン、またはテブフェノジドの濃度を変化させて同様の実験を行った。その結果を図24に示す。図24から判るように、20−ヒドロキシエクダイソン及びテブフェノジドは、共に濃度依存的に[3H]ポナステロンAの当該複合体への結合を阻害することが分かった。
以上の結果より、EcR−DFとUSP−AEを用いた結合実験を、昆虫成育制御物質のスクリーニング系に用いることができることが判明した。
次に、本実施例では、EcR−DF及びUSP−AEの複合体に対する結合能を指標としたスクリーニング系を用いて、4種の化合物について当該結合能を評価した。化合物としては、4−ノニルフェノール、スチルベストロール、フタル酸ジエチル(内分泌攪乱物質)及び17β−エストラジオール(女性ホルモン)を用いた。
結果を図25に示す。図25から判るように、4−ノニルフェノール、スチルベストロール、17β−エストラジオールについて、EcR−DF及びUSP−AEの複合体に対する結合活性が認められた。特に4−ノニルフェノール、スチルベストロールについては結合活性が強いものであった。これまでEcRは、基本的にポナステロンAなど、ステロイド骨格を有する化合物と結合することが知られている。一方、ステロイド骨格を持たないものでは、テブフェノジドなど数種に限られていた。本実施例において結合活性を示した物質は、いずれもステロイド骨格は有しておらず、またEcRとの結合はこれまで知られていなかった。また、この結果から、大腸菌において発現したEcR−DFと、USP−AE若しくはUSP−DEとを用いたスクリーニング系を、昆虫成育制御物質の探索のための新たな系として確立することができた。
本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。
Claims (10)
- 以下の(a)のポリペプチドと、(b)のポリペプチド若しくは(c)のポリペプチドとからなる昆虫脱皮ホルモン受容体。
(a)配列番号1のアミノ酸配列からなるポリペプチド、又は、配列番号1のアミノ酸配列において1又は複数のアミノ酸が欠失、置換及び付加されたアミノ酸配列からなり下記(b)又は(c)のポリペプチドと複合体をなし且つ当該複合体をなした状態で脱皮ホルモンと結合できるポリペプチド
(b)配列番号2のアミノ酸配列からなるポリペプチド、又は、配列番号2のアミノ酸配列において1又は複数のアミノ酸が欠失、置換及び付加されたアミノ酸配列からなり上記(a)のポリペプチドと複合体をなしうるポリペプチド
(c)配列番号3のアミノ酸配列からなるポリペプチド、又は、配列番号3のアミノ酸配列において1又は複数のアミノ酸が欠失、置換及び付加されたアミノ酸配列からなり上記(a)のポリペプチドと複合体をなしうるポリペプチド - 上記(a)のポリペプチド、上記(b)のポリペプチド及び上記(c)のポリペプチドが大腸菌で発現したものであることを特徴とする請求項1記載の昆虫脱皮ホルモン受容体。
- 上記(a)のポリペプチドは、大腸菌で発現させた後にゲルろ過によって、上記(b)のポリペプチド又は上記(c)のポリペプチドに対する結合活性をもつようにしたものであることを特徴とする請求項1記載の昆虫脱皮ホルモン受容体。
- 請求項1乃至3いずれか1項記載の昆虫脱皮ホルモン受容体に、供試物質を作用させる第1工程と、
前記複合体と前記供試物質との結合を測定する第2工程と
を含む脱皮ホルモン受容体に対するリガンドのスクリーニング方法。 - 上記第1工程では、上記昆虫脱皮ホルモン受容体と上記供試物質とを混合した後、30〜90分反応させることを特徴とする請求項4記載の脱皮ホルモン受容体に対するリガンドのスクリーニング方法。
- 上記第1工程では、上記昆虫脱皮ホルモン受容体と上記供試物質とを混合した後、20〜37℃の条件下で反応させることを特徴とする請求項4記載の脱皮ホルモン受容体に対するリガンドのスクリーニング方法。
- 上記第1工程では、上記昆虫脱皮ホルモン受容体と上記供試物質とを混合した後、実質的に塩を含まない条件下で反応させることを特徴とする請求項4記載の脱皮ホルモン受容体に対するリガンドのスクリーニング方法。
- 以下の(a)のポリペプチドと、(b)のポリペプチド若しくは(c)のポリペプチドとからなる、昆虫脱皮ホルモン受容体に対するリガンドのスクリーニング剤。
(a)配列番号1のアミノ酸配列からなるポリペプチド、又は、配列番号1のアミノ酸配列において1又は複数のアミノ酸が欠失、置換及び付加されたアミノ酸配列からなり下記(b)又は(c)のポリペプチドと複合体をなし且つ当該複合体をなした状態で脱皮ホルモンと結合できるポリペプチド
(b)配列番号2のアミノ酸配列からなるポリペプチド、又は、配列番号2のアミノ酸配列において1又は複数のアミノ酸が欠失、置換及び付加されたアミノ酸配列からなり上記(a)のポリペプチドと複合体をなしうるポリペプチド
(c)配列番号3のアミノ酸配列からなるポリペプチド、又は、配列番号3のアミノ酸配列において1又は複数のアミノ酸が欠失、置換及び付加されたアミノ酸配列からなり上記(a)のポリペプチドと複合体をなしうるポリペプチド - 上記(a)のポリペプチド、上記(b)のポリペプチド及び上記(c)のポリペプチドが大腸菌で発現したものであることを特徴とする請求項8記載の昆虫脱皮ホルモン受容体に対するリガンドのスクリーニング剤。
- 上記(a)のポリペプチドは、大腸菌で発現させた後にゲルろ過によって、上記(b)のポリペプチド又は上記(c)のポリペプチドに対する結合活性をもつようにしたものであることを特徴とする請求項8記載の昆虫脱皮ホルモン受容体に対するリガンドのスクリーニング剤。
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