JPWO2004001038A1 - 細胞または組織の神経化に関与する新規遺伝子およびタンパク質、並びにその利用 - Google Patents

細胞または組織の神経化に関与する新規遺伝子およびタンパク質、並びにその利用 Download PDF

Info

Publication number
JPWO2004001038A1
JPWO2004001038A1 JP2004515511A JP2004515511A JPWO2004001038A1 JP WO2004001038 A1 JPWO2004001038 A1 JP WO2004001038A1 JP 2004515511 A JP2004515511 A JP 2004515511A JP 2004515511 A JP2004515511 A JP 2004515511A JP WO2004001038 A1 JPWO2004001038 A1 JP WO2004001038A1
Authority
JP
Japan
Prior art keywords
protein
septin
cells
amino acid
gene
Prior art date
Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
Pending
Application number
JP2004515511A
Other languages
English (en)
Inventor
柳 茂
茂 柳
Current Assignee (The listed assignees may be inaccurate. Google has not performed a legal analysis and makes no representation or warranty as to the accuracy of the list.)
New Industry Research Organization NIRO
Original Assignee
New Industry Research Organization NIRO
Priority date (The priority date is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the date listed.)
Filing date
Publication date
Application filed by New Industry Research Organization NIRO filed Critical New Industry Research Organization NIRO
Publication of JPWO2004001038A1 publication Critical patent/JPWO2004001038A1/ja
Pending legal-status Critical Current

Links

Images

Classifications

    • CCHEMISTRY; METALLURGY
    • C07ORGANIC CHEMISTRY
    • C07KPEPTIDES
    • C07K14/00Peptides having more than 20 amino acids; Gastrins; Somatostatins; Melanotropins; Derivatives thereof
    • C07K14/435Peptides having more than 20 amino acids; Gastrins; Somatostatins; Melanotropins; Derivatives thereof from animals; from humans
    • C07K14/46Peptides having more than 20 amino acids; Gastrins; Somatostatins; Melanotropins; Derivatives thereof from animals; from humans from vertebrates
    • C07K14/47Peptides having more than 20 amino acids; Gastrins; Somatostatins; Melanotropins; Derivatives thereof from animals; from humans from vertebrates from mammals
    • AHUMAN NECESSITIES
    • A61MEDICAL OR VETERINARY SCIENCE; HYGIENE
    • A61PSPECIFIC THERAPEUTIC ACTIVITY OF CHEMICAL COMPOUNDS OR MEDICINAL PREPARATIONS
    • A61P25/00Drugs for disorders of the nervous system
    • AHUMAN NECESSITIES
    • A61MEDICAL OR VETERINARY SCIENCE; HYGIENE
    • A61PSPECIFIC THERAPEUTIC ACTIVITY OF CHEMICAL COMPOUNDS OR MEDICINAL PREPARATIONS
    • A61P25/00Drugs for disorders of the nervous system
    • A61P25/14Drugs for disorders of the nervous system for treating abnormal movements, e.g. chorea, dyskinesia
    • A61P25/16Anti-Parkinson drugs
    • AHUMAN NECESSITIES
    • A61MEDICAL OR VETERINARY SCIENCE; HYGIENE
    • A61PSPECIFIC THERAPEUTIC ACTIVITY OF CHEMICAL COMPOUNDS OR MEDICINAL PREPARATIONS
    • A61P25/00Drugs for disorders of the nervous system
    • A61P25/28Drugs for disorders of the nervous system for treating neurodegenerative disorders of the central nervous system, e.g. nootropic agents, cognition enhancers, drugs for treating Alzheimer's disease or other forms of dementia
    • AHUMAN NECESSITIES
    • A61MEDICAL OR VETERINARY SCIENCE; HYGIENE
    • A61PSPECIFIC THERAPEUTIC ACTIVITY OF CHEMICAL COMPOUNDS OR MEDICINAL PREPARATIONS
    • A61P43/00Drugs for specific purposes, not provided for in groups A61P1/00-A61P41/00
    • AHUMAN NECESSITIES
    • A61MEDICAL OR VETERINARY SCIENCE; HYGIENE
    • A61KPREPARATIONS FOR MEDICAL, DENTAL OR TOILETRY PURPOSES
    • A61K38/00Medicinal preparations containing peptides
    • AHUMAN NECESSITIES
    • A61MEDICAL OR VETERINARY SCIENCE; HYGIENE
    • A61KPREPARATIONS FOR MEDICAL, DENTAL OR TOILETRY PURPOSES
    • A61K48/00Medicinal preparations containing genetic material which is inserted into cells of the living body to treat genetic diseases; Gene therapy

Abstract

本発明は、細胞または組織の神経化に関与する新規遺伝子およびタンパク質、並びにその利用に関するものであり、特に、再生医療、遺伝子治療への応用が可能な神経化誘導方法や、ミトコンドリアのこの神経化誘導方法に利用できる新規遺伝子、並びにそのタンパク質に関するものである。本発明によれば、CRAMタンパク質に結合するタンパク質または当該タンパク質をコードする遺伝子を用いて、細胞または組織の神経化を誘導することができる。

Description

本発明は、細胞または組織の神経化に関与する新規遺伝子およびタンパク質、並びにその利用に関するものであり、特に、再生医療、遺伝子治療への応用が可能な神経化誘導方法や、ミトコンドリアのこの神経化誘導方法に利用できる新規遺伝子、並びにそのタンパク質に関するものである。
神経発生過程において分化した神経細胞は、軸索を進展し、最終的にそれぞれ特異的な標的を探し当て、神経伝達の場であるシナプスを形成する。この膨大な数にのぼる個々の神経細胞の正確な神経連絡網の確立が、神経系機能の基礎を形成している。この神経回路網の形成過程において、神経細胞が局所の標識分子を認識することの連続により、最終的な標的に至るものと考えられている。したがって、多数の分子および分子間認識が重要な役割を担っており、近年、これらの分子としてセマフォリンやNI35などの反発因子、さらにネトリン,カドヘリンなどの誘因因子が同定されるに至った。
現在、多数のセマフォリンファミリーおよびその受容体が同定され、セマフォリンを介する反発性のシグナル伝達機構が注目されている。セマフォリン(例えば、後述のSema3A)は、標的細胞の表面分子ニューロピリン(例えば、後述のNP−1)と相互作用することで誘引され、膜貫通分子プレキシン(例えば、後述のPlexinA1)と特異的に結合する。プレキシンは、単独またはニューロピリンと共に、セマフォリン受容体として機能する。最近の研究では、プレキシンの細胞質側がチロシンリン酸化されることが報告され、プレキシンが未知のタンパク質チロシンキナーゼ(PTK)によりリン酸化され、シグナル伝達される可能性が示唆されている。
また、1995年には、セマフォリンによる神経成長円錐崩壊の細胞内シグナル伝達に関与する分子としてCRMP(Collapsin Response Mediator Protein)が同定された(Nature 1995;376:509−514参照)。
一方、本発明者は、上記CRMPに結合する新規のシグナル分子を同定し、「CRAM(CRMP−Associated Molecule)」と命名した(J.Biol.Chem.2000;275:27291−27302参照)。さらに、CRMPおよびCRAMは、線虫の神経走行異常を引き起こす原因遺伝子として知られている「UNC−33」の哺乳類ホモログであることが判明し、神経ガイダンスに関与するシグナル分子として注目されている。
ところで、最近は基礎研究から生まれた新技術を、新たな治療法、検査・診断方法、手術方法として臨床現場に利用する動きが活発であり、画期的治療法として注目されている再生医療、遺伝子治療の実現にも、こうした遺伝子レベル細胞レベルでの基礎研究が不可欠になっている。言い換えれば、上記のような神経ガイダンスの仕組みを調べる基礎研究を通じて、神経再生医療、遺伝子治療等さまざまな医療・医薬用途に直接役立つ知見が得られる可能性があり、これを利用し、各種神経疾患(例えば、痴呆、パーキンソン病、アルツハイマー病などのような神経変性疾患、あるいは脊髄損傷や顔面神経麻痺などの神経麻痺)に対して、新たな神経再生技術の開発、新たな遺伝子治療法の開発、各種神経疾患の病態機序の研究、その治療薬の開発、さらには、新たな神経細胞・神経組織の人為的生産技術の開発、といった種々の応用面・臨床面での利用が期待できる。
本発明は、上記の課題に鑑みなされたものであり、その目的は、神経系の研究を通じて、再生医療、遺伝子治療等さまざまな医療・医薬用途への応用が可能な神経化誘導方法を開発すると共に、これら神経化誘導方法等に利用できる新規遺伝子、並びにそのタンパク質を提供することにある。
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、上記CRAMに結合するタンパク質およびその遺伝子を利用することにより、非神経細胞の神経化を誘導することができること、さらには、上記タンパク質およびその遺伝子は、例えば、ミトコンドリアの異常に由来する疾患の治療や診断に利用することが可能であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
A.本発明に係る神経化誘導方法
本発明に係る神経化誘導方法は、CRAMタンパク質に結合するタンパク質または当該タンパク質をコードする遺伝子を用いて、細胞または組織の神経化を誘導する方法であり、具体的には、下記▲1▼〜▲5▼の方法を挙げることができる。
▲1▼ 以下の(a)または(b)に示される第1のタンパク質または当該第1のタンパク質をコードする遺伝子を用いて、神経化を誘導する方法。
(a)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(b)配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が欠失、置換、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、チロシンキナーゼ活性を有するタンパク質。
▲2▼ 上記第1のタンパク質と、プレキシンタンパク質とを対象とする細胞内で共発現させることにより、神経化を誘導する方法。
▲3▼ 以下の(c)、(d)または(e)に示される第2のタンパク質または当該第2のタンパク質をコードする遺伝子を用いて、神経化を誘導する方法。
(c)配列番号4または配列番号14に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(d)配列番号4または配列番号14に示されるアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が欠失、置換、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、CRAMタンパク質との結合能を有するタンパク質。
(e)配列番号4に示されるアミノ酸配列のうち、55番目のグリシン残基が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるタンパク質。
B.本発明に係る遺伝子、タンパク質、神経化誘導剤
本発明に係る神経化誘導剤としては、下記▲1▼および▲2▼の誘導剤を挙げることができる。
▲1▼ 以下の(a)または(b)に示される第1のタンパク質または当該第1のタンパク質をコードする遺伝子を含んでなる神経化誘導剤。
(a)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(b)配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が欠失、置換、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、チロシンキナーゼ活性を有するタンパク質。
▲2▼ 上記▲1▼の神経化誘導剤に、さらに、プレキシンタンパク質または当該タンパク質をコードする遺伝子を含有する神経化誘導剤。
本発明に係るタンパク質としては、下記のタンパク質を挙げることができる。
以下の(c)、(d)または(e)に示される第3のタンパク質。
(c)配列番号4または配列番号14に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(d)配列番号4または配列番号14に示されるアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が欠失、置換、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、CRAMタンパク質との結合能を有するタンパク質。
(e)配列番号4に示されるアミノ酸配列のうち、55番目のグリシン残基が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるタンパク質。
本発明に係る遺伝子としては、下記▲1▼および▲2▼の遺伝子を挙げることができる。
▲1▼ 上記本発明に係るタンパク質をコードする遺伝子。
▲2▼ 配列番号3に示される塩基配列からなる遺伝子。
また、本発明に係る神経化誘導剤には、下記▲1▼および▲2▼の神経化誘導剤も含まれる。
▲1▼ 上記本発明に係るタンパク質、または、上記本発明に係る遺伝子(上記▲1▼または▲2▼の遺伝子)を含んでなる神経化誘導剤。
▲2▼ 上記▲1▼の神経化誘導剤に、さらに、プレキシンタンパク質または当該タンパク質をコードする遺伝子を含有する神経化誘導剤。
以上、本発明に係る神経化誘導方法、神経化誘導剤、遺伝子およびタンパク質によれば、神経ガイダンスに関与する遺伝子群の神経突起誘導活性を利用し、人為的に神経軸索誘導および伸展を操作することによる新たな神経再生技術の確立と遺伝子治療が可能である。特に、神経再生能力のない神経を再生することにより、アルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患および脊髄損傷や顔面神経麻痺などの神経麻痺に対する新しい治療法への開発が期待できる。
C.本発明に係るミトコンドリアDNAの異常に由来する疾患の治療・診断方法等
本発明に係るミトコンドリアDNAの異常に由来する疾患の治療・診断方法等としては、下記▲1▼・▲2▼の方法、並びに、これら方法に用いられる素材等を挙げることができる。
▲1▼ 前記(c)、(d)または(e)に示される第2のタンパク質、あるいは、当該タンパク質をコードする遺伝子または配列番号3に示される塩基配列からなる遺伝子を含む発現ベクター等を含んでなる、ミトコンドリアDNAの異常に由来する疾患の治療用薬剤。
▲2▼ 前記第2のタンパク質のタンパク質、当該タンパク質をコードする遺伝子または配列番号3に示される塩基配列からなる遺伝子、および/または、当該タンパク質に対する抗体を用いる、ミトコンドリアDNAの異常に由来する疾患の診断方法。
変異ミトコンドリアを特異的に認識し、封入体を形成することによりミトコンドリアタンパク質のユビキチン化と酸化誘導および細胞外への封入体の放出を行うことにより、変異ミトコンドリアの消去機構に密接に関与している。そのため、本発明は、ミトコンドリアDNAの異常に由来する疾患の治療・診断方法等に利用することができ、当該疾患についての新しい治療法や診断法への開発が期待できる。
本発明のさらに他の目的、特徴、および優れた点は、以下に示す記載によって十分わかるであろう。また、本発明の利益は、添付図面を参照した次の説明で明白になるであろう。
図1(a)および図1(b)は、本発明に係るタンパク質Mセプチンのアミノ酸配列を、セプチンH5およびARTSと比較して示す図である。
図2(a)は、発現ベクターを用いて種々の遺伝子を細胞に導入した場合の各細胞の形態を示す顕微鏡写真であり、図2(b)は、各場合において細胞が収縮した割合を示すグラフである。
図3は、Fesタンパク質およびプレキシンタンパク質をCOS−7細胞に共発現させた場合の細胞の形態を示す顕微鏡写真である。
図4は、Fes遺伝子を導入したラットPC12細胞に対してNGF処理した後の細胞の形態を示す顕微鏡写真である。
図5は、本発明に係るMセプチンをコードする遺伝子をCOS−7細胞に導入し、同一の細胞におけるMセプチンと微小管との局在を調べた結果を示す顕微鏡写真である。
図6は、P−loopモチーフ欠損型Mセプチン変異体をコードする遺伝子をCOS−7細胞に導入し、同一の細胞におけるMセプチンと微小管との局在を調べた結果を示す顕微鏡写真である。
図7は、コイルドコイル領域欠損型Mセプチン変異体をコードする遺伝子をCOS−7細胞に導入し、同一の細胞におけるMセプチンと微小管との局在を調べた結果を示す顕微鏡写真である。
図8上図は、Mセプチンの凝集塊とミトコンドリアの局在を調べた図である。図8下図は、紫外線刺激後3時間でのMセプチンの凝集塊とミトコンドリアの局在を調べた図である。
図9は、Mセプチン遺伝子をCOS−7細胞に導入し発現させ、細胞を固定後、抗Mセプチン抗体とミトコンドリアタンパク質であるミトコンドリアHSP70の抗体で2重染色した結果を示す図である。
図10は、Mセプチン遺伝子とFlagタグ付きのユビキチン遺伝子をCOS−7細胞に導入し発現させ、細胞を固定後、抗Mセプチン抗体と抗Flag抗体で2重染色した結果である。
図11は、Mセプチン遺伝子をCOS−7細胞に導入し発現した細胞をMitotrackerで染色した結果を示す図である。
図12は、Mセプチン遺伝子をCOS−7細胞に導入し発現した細胞をMitotrackerで染色し、FACS解析でMitotrackerのシグナル増強を定量した結果を示す図である。
図13は、Mセプチン遺伝子をCOS−7細胞に導入し発現させ、細胞を固定後、抗Mセプチン抗体と抗8オキソグアニン抗体で2重染色した結果を示す図である。
図14は、Mセプチン遺伝子をCOS−7細胞に導入し発現させ、細胞を固定後、抗Mセプチン抗体とMitotrackerで2重染色し、時間経過による封入体の動きを観察した結果を示す図である。
以下、本発明についてさらに詳しく説明する。
(1)本発明に係る第1の神経化誘導方法
本発明に係る第1の神経化誘導方法は、前記の(a)または(b)に示される第1のタンパク質または当該第1のタンパク質をコードする遺伝子を用いて、神経化を誘導する方法である。
上記第1のタンパク質の具体的な一例として、マウス(Mus musculus)由来のタンパク質チロシンキナーゼ(PTK)であるFesタンパク質が挙げられる。具体的には、上記Fesタンパク質は、配列番号2に示すアミノ酸配列、即ち820個のアミノ酸からなり、分子量約95kDaのタンパク質である。
上記Fesタンパク質が、CRAMタンパク質に結合し、かつ、神経化を誘導する活性を持つことは、後述の実施例に示すとおりである。なお、ここで、「CRAMタンパク質に結合」するとは、単独のCRAMタンパク質に結合するか、または、CRMPタンパク質と結合し複合体を形成したCRAMタンパク質(以下、この複合体を略して「CRMP/CRAM複合体」という)に結合することをいう。また、「神経化を誘導」するとは、主として未分化細胞や非神経細胞に対してその神経化を誘導することを意味するが、既に神経分化した細胞に対してその軸索や神経突起を伸展・成長させるなどして、神経細胞を活性化することをも含む意味である。神経化の誘導は、軸索や神経突起の伸長の有無を形態観察により確認してもよいし、神経系細胞に特異的に発現するマーカー(例えば、Tau,MAP−2など)によって確認してもよい。
神経化を誘導する方法は、具体的には、上記Fesタンパク質やその遺伝子を目的の細胞に導入することによって行うことができる。例えば、これまで知られている細胞への遺伝子導入方法としては、遺伝子が組み込まれた発現ベクターをエンドサイトーシスによって目的細胞に導入する方法(リン酸カルシウム法、リポフェクタミン法)や、電気パルス刺激により細胞膜に穿孔を開け、遺伝子を流入させる方法(エレクトロポレーション法、遺伝子銃法)、超音波法、単純拡散法、電荷を有する脂質を用いる方法、リポソーム法、あるいは、ウィルスDNAに目的の遺伝子を組み込み、感染性ウィルスを生成して遺伝子導入を行う方法、などがあり、このうち適当な方法によって遺伝子を導入し細胞内発現させればよい。
上記の方法以外に、ウィルスベクター(アデノウィルス、シンドビスウィルス)などを用いた遺伝子導入方法でもよい。特に生体内への導入はこの方法が有効であると考えられる。
以上の方法を用いて、目的の細胞に上記Fesタンパク質のヒトホモログやその遺伝子を導入することを、各種神経疾患の治療法、またはその1ステップとして行うことも可能である。
また、後述の実施例に示すように、上記Fes遺伝子(cDNA:その塩基配列は、配列番号1およびGenBankアクセッションNo.X12616に示される)とプレキシン(PlexinA1)遺伝子(GenBankアクセッションNo.D86948に示されるcDNA)とを哺乳類細胞用発現ベクター(pCMV5)に組込み、非神経細胞であるCOS−7細胞に対してリポソーム法にて遺伝子導入を行ったところ、神経様突起が誘導及び伸展しているのが観察された。さらに、神経細胞としてラット海馬初代培養系においても、同様の方法により神経突起の伸展の増強が観察された。したがって、Fesタンパク質およびプレキシンタンパク質のヒトホモログを対象とする細胞内で共発現させることにより神経化を誘導する方法も、神経再生治療へ利用可能な有効な方法といえる。なお、ヒトホモログのFesタンパク質のcDNAはGenBankアクセッションNo.X52192に、ヒトホモログのプレキシンのcDNAはGenBankアクセッションNo.X87832−1に示されている。
本発明に係る「遺伝子」は、少なくともゲノムDNA、cDNA、mRNAを含む意味であり、アミノ酸配列をコードするオープンリーディングフレームを有するcDNAや、このcDNAの塩基配列に対応する塩基配列を有するmRNAや、このmRNAの転写元のゲノムDNAが含まれる。また、DNAは2本鎖のみならず、それを構成するセンス鎖、アンチセンス鎖といった1本鎖でもよい。さらに、上記「遺伝子」は、前記(a)、(b)のタンパク質をコードする配列以外に、非翻訳領域(UTR)の配列やベクター配列(発現ベクター配列を含む)などの配列を含むものであってもよい。
また、本発明において、前記「1以上のアミノ酸が欠失、置換、挿入、および/または付加」とは、部位特異的突然変異誘発法等の公知の変異タンパク質作製法により置換、欠失、挿入、および/または付加できる程度の数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されることを意味する。このように、上記(b)のタンパク質は、換言すれば、上記(a)のタンパク質の変異タンパク質であり、ここにいう「変異」は、主として公知の変異タンパク質作製法により人為的に導入された変異を意味するが、天然に存在する同様の変異タンパク質を単離精製したものであってもよい。また、タンパク質の精製や検出等を容易に行うために、公知のフラグタグ(Flag tag)等の付加配列を末端に含ませてもよい。
上記のように変異を導入すれば、神経化誘導因子として高い活性を持つ変異型Fesタンパク質や精製の容易な組換えタンパク質等を人為的に得られる可能性がある。
上記Fesタンパク質やその遺伝子、またはそのヒトホモログを神経化誘導剤として用いる場合には、遺伝子やタンパク質以外に、これらを効率よく細胞内に導入するための運搬体(外被タンパク質等)などを含むものであってもよく、また、神経化誘導剤は、各種の試薬や反応液、酵素などと組み合わせて使用することができる。
(2)本発明に係る第2の神経化誘導方法
本発明に係る第2の神経化誘導方法は、前記の(c)、(d)または(e)に示される第2のタンパク質または当該第2のタンパク質をコードする遺伝子を用いて、神経化を誘導する方法である。
上記第2のタンパク質の具体的な一例として、今回、本発明者がマウス(Mus musculus)から単離・同定した新規タンパク質が挙げられる。本発明者は、このタンパク質を「Mセプチン(M−septin)」と命名した。具体的には、このMセプチンは、配列番号4に示すアミノ酸配列、即ち379個のアミノ酸からなり、分子量約42kDaのタンパク質である。
また、上記タンパク質Mセプチンをコードする遺伝子として、1,140bpの全長cDNAを取得した。このMセプチン遺伝子の塩基配列を配列番号3に示す。
相同性検索の結果、上記Mセプチンは、マウス由来のセプチンH5と高い相同性を示し、セプチンH5(478アミノ酸)のアミノ末端近くの99アミノ酸残基を欠失したタンパク質であることが分かった。また、ヒトセプチンH5(GenBankアクセッションNo.AF035811)に示されるcDNA遺伝子のゲノム配列分析により、この99アミノ酸部位がセプチンH5遺伝子の2番目のエクソンと一致していることが分かった。つまり、Mセプチンは、セプチンH5ゲノムDNAから選択的スプライシングにより生じた、2番目のエクソンに対応するアミノ酸配列を欠く選択的スプライシング産物である。
図1は、Mセプチンの構造を、セプチンH5およびARTSと比較して示す図である。ARTSも、セプチンH5ゲノムDNAから作られる選択的スプライシング産物の一つであり、TGF−β誘導アポトーシスを仲介する。同図に示すように、これらMセプチン、セプチンH5、ARTSは、GTPに結合し、GTP ase活性に機能する「P−ループ(P−loop)」モチーフという共通の配列構造を有している。また、ARTS以外の2つのタンパク質Mセプチン、セプチンH5は、C末端部分にタンパク質間の相互作用に関係する「コイルドコイル(coiled−coil)」ドメインを有している。Mセプチンでは、この「P−ループ」モチーフと「コイルドコイル」ドメインとが、機能に必須の領域であると考えられる。
また、上記第2のタンパク質の他の例として、Mセプチンのヒトホモログがある。このヒトホモログMセプチンは、配列番号14に示すアミノ酸配列からなり、その遺伝子は配列番号13に示す塩基配列からなる。
さらに、上記Mセプチンについて機能解析を進めることにより、以下の知見が得られた。
▲1▼ Mセプチンは、神経発生段階初期に一時的に強く発現しており、ラット脳においてCRAMタンパク質と複合体を形成している。
▲2▼ 線維芽細胞であるCOS−7細胞に遺伝子導入すると、ミトコンドリアにおける特異的な局在を示し、ミトコンドリア周辺に微小管の束化を誘導する。
▲3▼ マウス胚性癌細胞であるP19細胞の神経分化過程において発現が誘導され、ミトコンドリアをはじめさまざまな局在を示す。
▲4▼ Mセプチンの変異体(P−ループモチーフの機能を欠損させたもの)では、微小管凝集活性の増強が観察され、異常な微小管構築を誘導する。この変異体は、Mセプチンの活性型であると推測される。また、この変異体は、NGFによるラットPC12細胞の神経分化を増強した。
▲5▼ Mセプチンの変異体(コイルドコイル領域の機能を欠損させたもの)では、微小管凝集活性が消失し、微小管がバラバラになり崩壊することが観察される。この変異体は、Mセプチンの不活性型であると推測される。この変異体をPC12細胞に遺伝子導入すると、細胞死を誘導する。
▲6▼ COS−7細胞における遺伝子導入実験において、Mセプチンは、CRAMタンパク質をミトコンドリアに移行させる活性を有する。
このように、Mセプチンは、多様な機能を有するが、神経発生段階に強く発現し、その活性型では神経分化を増強する作用も観察されたことから、このMセプチンまたはそのヒトホモログを用いた神経化誘導方法も、神経再生を中心とした医療への有効な利用方法と考えられる。
Mセプチンは、また、CRAMをミトコンドリアに輸送し、ミトコンドリア周辺の微小管の束化を誘導する。細胞に軸索や樹状突起が発生するときにミトコンドリアは高い運動性を有するので、ミトコンドリアの移動やミトコンドリアDNAが軸索形成などの神経システムの構築に寄与している可能性がある。ミトコンドリアの移動が神経極性と神経分化に決定的な現象であるとすれば、Mセプチンがミトコンドリアの動きをコントロールして、神経分化における細胞の形態変化の誘導に関わっている可能性がある。
また、Mセプチンは、ミトコンドリアの機能を制御し、神経細胞の生死を制御している可能性が推測される。したがって、例えば、Mセプチンまたはその変異体(P−ループモチーフの機能を欠損させたもの)を神経細胞に遺伝子導入することにより、神経細胞死を抑制できる可能性がある。P−ループモチーフの機能を欠損させる方法としては、具体的には配列番号4に示すアミノ酸配列の55番目のグリシン(G)を他のアミノ酸(例えばバリン(V))に置換するなどの方法が挙げられる。この方法は、痴呆、パーキンソン病やアルツハイマー病などの神経変性疾患に対して、神経細胞のアポトーシスを防ぐ有効な治療方法になり得るものである。
(3)本発明に係るミトコンドリアDNAの異常に由来する疾患の治療方法、治療用薬剤等。
ミトコンドリアは細胞内最大の活性酸素発生源であるためミトコンドリアDNAは核DNAより酸化障害を受けやすい。さらに、ミトコンドリアの修復酵素は核に比べて不十分であり、事実、紫外線による代表的なDNA障害で生じるピリミジン2量体はミトコンドリアでは修復されない。したがって、ミトコンドリアDNAの変異率は核に比べてきわめて高いことが報告されている。このようにミトコンドリアでは修復されないDNA障害が明らかに存在するにもかかわらず、どのようにこれらの障害DNAが処理され、ミトコンドリアゲノムの遺伝情報が守られているのか全く不明である。
ここで、上記Mセプチンは、CRAMと結合するタンパク質であること、ミトコンドリア特異的に局在するセプチンタンパク質であること等については明らかとなっているが、その具体的な機能はこれまで不明であった。
本発明者が上記Mセプチンについてその機能を解析した結果、次の各知見が新たに見出された(実施例3参照)。
▲1▼ Mセプチンは変異ミトコンドリアを特異的に認識し、封入体形成を誘導した。
▲2▼ Mセプチンにより形成された封入体内においてユビキチン化が誘導され、ミトコンドリアタンパク質(チトクロームCやミトコンドリアHSP70)の消去が観察された。このユビキチン化はMセプチンのコイルドコイルドメインが関与していることが示された。
▲3▼ Mセプチンにより形成された封入体内において強いOxidation(酸化)がおこり、8オキソグアニンの生成が観察された。
▲4▼ Mセプチンにより形成された封入体が細胞の外に放出された。
上記の各知見から、Mセプチンは、変異ミトコンドリアを特異的に認識し、封入体を形成することによりミトコンドリアタンパク質のユビキチン化と酸化誘導および細胞外への封入体の放出を行うことにより、変異ミトコンドリアの消去機構に密接に関与していることが明らかとなった。
従って、本発明に係る第2のタンパク質は、ヒトのミトコンドリアDNAの異常に由来する疾患(以下、便宜上、ミトコンドリアDNA異常疾患と称する)の治療方法及び治療用薬剤に用いることができる。
本発明が適用可能なミトコンドリアDNA異常疾患としては、特に限定されるものではないが、例えば、次に示す表1に挙げられる各種疾患を挙げることができる。
Figure 2004001038
Figure 2004001038
本発明に係るミトコンドリアDNA異常疾患の治療方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、前記(c)、(d)または(e)に示されるタンパク質を含む薬剤(便宜上、タンパク質薬剤と称する。)を用いる方法と、前記(c)、(d)または(e)に示されるタンパク質をコードする遺伝子(便宜上、遺伝子薬剤と称する)を用いる方法とを挙げることができる。
前者の方法に用いられる薬剤すなわちタンパク質薬剤の具体的な構成は特に限定されるものではなく、前記(c)、(d)または(e)に示されるタンパク質を含んでおり、使用時に当該タンパク質が十分な機能を発揮できるようになっていればよい。具体的には、例えば、
本発明に係るタンパク質薬剤の使用形態すなわちヒトへの投与方法も特に限定されるものではなく、自体公知の方法を用いて行なえばよい。例えば、静脈注射等により局部的に投与する方法を挙げることができる。さらに、公知のドラッグデリバリーシステム(DDS)を用いてもよい。
後者の方法に用いられる薬剤すなわち遺伝子薬剤の具体的な構成は特に限定されるものではないが、例えば、前記(c)、(d)または(e)に示されるタンパク質をコードする遺伝子を含む発現ベクターを挙げることができる。
より具体的には、本発明に係る組換え発現ベクターとしては、前記(c)、(d)または(e)のタンパク質(Mセプチン)をコードする本発明の遺伝子を含むものであればよいが、例えば、配列番号4または14に示される何れかの塩基配列を有するcDNAが挿入された組換え発現ベクターを挙げることができる。
上記ベクターの具体的な種類は特に限定されるものではなく、ホスト細胞中で発現可能なベクターを適宜選択すればよい。具体的には、プラスミド、ファージ、又はコスミドなどを用いることができるが特に限定されるものではない。すなわち、ホスト細胞の種類に応じて、確実に遺伝子を発現させるために適宜プロモーター配列を選択し、これと本発明に係る遺伝子を各種プラスミド等に組み込んだものを発現ベクターとして用いればよい。
上記発現ベクターを投与する方法、すなわち遺伝子治療方法は特に限定されるものではないが、電気穿孔法、リン酸カルシウム法、リポソーム法、DEAEデキストラン法等の従来公知の方法を用いることができる。
また、上記発現ベクターを投与してMセプチンをコードする遺伝子を発現させる場合、必要に応じて、当該遺伝子がホスト細胞中で確実に発現しているか否かを確認するために、各種マーカーを用いてもよい。例えば、ホスト細胞中で欠失している遺伝子をマーカーとして用い、このマーカーと本発明の遺伝子とを含むプラスミド等を発現ベクターとしてホスト細胞に導入する。これによってマーカー遺伝子の発現から本発明の遺伝子の導入を確認することができる。あるいは、本発明に係るタンパク質を融合タンパク質として発現させてもよく、例えば、オワンクラゲ由来の緑色蛍光タンパク質GFP(Green Fluorescent Protein)をマーカーとして用い、本発明に係るタンパク質をGFP融合タンパク質として発現させてもよい。
また、本発明に係る第2のタンパク質やこれをコードする遺伝子は、ミトコンドリアDNA異常疾患の診断方法等にも応用することができる。例えば、本発明の上記遺伝子における少なくとも一部の塩基配列またはその相補配列をプローブとして用いた遺伝子検出器具は、ミトコンドリアDNA異常疾患に用いることが可能である。
上記遺伝子検出器具は、種々の条件下での本発明の遺伝子の発現パターンの検出・測定などに利用できる。本発明の遺伝子検出器具としては、例えば、本発明の遺伝子と特異的にハイブリダイズする上記プローブを基盤(担体)上に固定化したDNAチップ等が挙げられる。
遺伝子検出器具は、本発明の遺伝子における一部の塩基配列又はその相補配列をプローブとして用いたものである。例えば、基盤(担体)上にオリゴヌクレオチド(プローブ)を固定化してなるDNAチップが挙げられる。ここで「DNAチップ」とは、主として、合成したオリゴヌクレオチドをプローブに用いる合成型DNAチップを意味するが、PCR産物などのcDNAをプローブに用いる貼り付け型DNAマイクロアレイをも包含するものとする。
プローブとして用いる配列は、cDNA配列の中から特徴的な配列を特定する従来公知の方法によって決定することができ、例えば、SAGE:Serial Analysis of Gene Expression法(Science 276:1268,1997;Cell 88:243,1997;Science 270:484,1995;Nature 389:300,1997;米国特許第5,695,937号)などを挙げることができる。
尚、DNAチップの製造には、公知の方法を採用すればよい。例えば、オリゴヌクレオチドとして合成オリゴヌクレオチドを使用する場合には、フォトリソグラフィー技術と固相法DNA合成技術との組み合わせにより、基盤上で該オリゴヌクレオチドを合成すればよい。一方、オリゴヌクレオチドとしてcDNAを用いる場合には、アレイ機を用いて基盤上に貼り付ければよい。
また、一般的なDNAチップと同様、パーフェクトマッチプローブ(オリゴヌクレオチド)と、該パーフェクトマッチプローブにおいて一塩基置換されたミスマッチプローブとを配置して遺伝子の検出精度をより向上させてもよい。さらに、異なる遺伝子を並行して検出するために、複数種のオリゴヌクレオチドを同一の基盤上に固定してDNAチップを構成してもよい。
あるいは、本発明に係る第2のタンパク質もミトコンドリアDNA異常疾患の診断方法等に応用することが可能である。本発明の抗体は、前記(c)、(d)又は(e)のタンパク質、またはその部分ペプチドを抗原として、公知の方法によりポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体として得られる。本発明の抗体は、本発明のタンパク質の検出・測定などに利用でき、その他、診断用・治療用などに利用できる可能性がある。
抗体は、本発明のタンパク質、またはその部分ペプチドを抗原として、公知の方法によりポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体として得られる抗体である。公知の方法としては、例えば、文献(Harlowらの「Antibodies:A laboratory manual(Cold Spring Harbor Laboratory,New York(1988))、岩崎らの「単クローン抗体ハイブリドーマとELISA,講談社(1991)」」に記載の方法が挙げられる。こうして作製した抗体は、本発明のタンパク質の検出に有効である。
(4)本発明に係るタンパク質、遺伝子の取得方法
以上、本発明の神経化誘導方法に利用可能な各タンパク質、各遺伝子の配列、構造および機能などの諸特徴について説明したが、以下では、本発明に係る各タンパク質、各遺伝子の取得方法について説明する。
前記各タンパク質をコードする遺伝子を取得する方法は、特に限定されるものではなく、前述の開示された配列情報等に基づいて種々の方法により、各タンパク質をコードするDNA断片を単離し、クローニングすることができる。例えば、従来公知のDNAライブラリーを用いたハイブリダイゼーション法を用いることもできる。具体的には、適切なクローニング・ベクターを使用して対象となる動物からゲノムライブラリーまたはcDNAライブラリーを調製するステップと、前記各遺伝子の少なくとも一部をプローブとして用いてハイブリダイゼーションを行い、ライブラリーから上記プローブにポジティブの断片を検出するステップとを含む方法を用いることができる。このように本発明の各遺伝子のうち、少なくとも一部の領域はプローブとして有用であり、DNAチップ上やマイクロアレイ上で使用するプローブとしても有用である。
プローブに用いる領域は、例えば、上記各タンパク質をコードするcDNAの塩基配列又はその相補配列の少なくとも一部に特異的にハイブリダイズするプローブであれば、いずれの配列・長さのものを設計して用いてもよい。また、上記ライブラリーからのスクリーニングにおける各ステップについては、通常用いられる条件の下で行えばよい。
また、上記プローブの配列を、上記各タンパク質の機能上重要と考えられる領域(例えば、Mセプチンの場合、前記「P−ループ」ドメインや「コイルドコイル」ドメイン)の中から選択し、ヒトやその他の生物のゲノムDNA(又はcDNA)ライブラリーをスクリーニングすれば、上記タンパク質と同様の機能を有する相同分子や類縁分子をコードする遺伝子を単離しクローニングできる可能性が高い。
本発明に係る各タンパク質を取得する方法についても、特に限定されるものではなく、例えば、上述のようにして取得された遺伝子(上記各タンパク質又はその相同分子等をコードするcDNA)を、周知の方法により大腸菌や酵母等の微生物又は動物細胞などに組み入れ、そのcDNAがコードするタンパク質を発現させ精製することで、本発明に係るタンパク質を容易に取得することができる。尚、このように宿主に外来遺伝子を導入する場合、外来遺伝子の組換え領域に宿主内で機能するプロモーターを組み入れた発現ベクター及び宿主には様々なものがあるので、目的に応じたものを選択すればよい。産生されたタンパク質を取り出す方法は、用いた宿主、タンパク質の性質によって異なるが、適切な条件下で目的のタンパク質を精製することが可能である。
また、上記各タンパク質のアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列を有する変異タンパク質を作製する方法としては、例えば、PCR法を利用して塩基配列に点変異を導入し変異タンパク質を作製する方法や、部位特異的突然変異誘発法(hashimoto−Gotoh,Gene 152,271−275(1995)他)等が挙げられる。また、文献「細胞工学別冊 新細胞工学実験プロトコール 秀潤社 241−248(1993)」に記載の方法、さらには、市販のキット(例えば、Quikchange Site−Directed Mutagenesis Kit ストラタジーン社製)を利用する方法も可能である。
上記のように作製された変異タンパク質が、野生型と同様の活性・機能を有する例は既に多数知られているが、その活性・機能に異常を来すように変異を導入し変異タンパク質を作製することも既に多く行われている。本発明に含まれる変異タンパク質は、野性型と比べてより優れた神経化誘導活性を有するものであってもよいし、野性型と同様の神経化誘導活性を有するものであってもよい。また、サイレント変異(アミノ酸配列は変わらず、塩基配列のみが変化する変異)であってもよい。つまり、本発明に含まれる変異タンパク質は、神経化誘導因子としての活性が野生型タンパク質と略同等であってもよいし、より優れていてもよい。
以下では、実施例によって本発明についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、前述した様々な態様が可能であることはいうまでもない。
以下の実施例では、▲1▼Fes、▲2▼Mセプチンについて行った、神経化誘導に関する実験の各実験結果、およびMセプチンによる変異ミトコンドリアの消去機能についての実験結果について説明する。
〔実施例1:Fesタンパク質による神経分化誘導〕
A.CRAM結合PTKとしてのFesタンパク質の同定
CRAMに結合するPTKが存在するか調べるため、J.Biol.Chem.2000;275:27291−27302に記載の方法に従って、新生児ラット脳を材料に抗CRAM抗体を用いた免疫沈降法とin vitroキナーゼアッセイとを行った。その結果、分子量66kDaおよび95kDaの2つのリン酸化タンパク質が検出された。
CRAMはCRMPと大きな複合体を形成するため、同様のアッセイを抗CRMP2抗体を用いて行ったところ、上記と同様に、新生児ラット脳から66kDaおよび95kDaのタンパク質が検出された。そこで、このうち95kDaのタンパク質に注目し、さらに詳細に検討した。
まず、アミノ酸分析に十分な量の精製95kDaタンパク質を得るため、生後20日齢ラット脳(約100g)を小片に切断し、氷点下で5倍量の抽出液A(組成:20mM Tris/HCl(pH 8.0),1% Nonidet P−40,150mM NaCl,1mM EDTA,1mM PMSF,10μg/ml aprotinin,10μg/ml leupeptin,10mM NaVO)を用いてブレンダーで1分ホモジェナイズし破砕した。以降すべての手順は4℃下で行われた。得られた細胞破砕液を8,000×gで10分間遠心分離して脂質や壊れ残りの細胞を除去した後、さらに100,000×gで60分間遠心して上清の可溶性画分を分離した。得られた可溶性画分は、抗CRAM抗体アフィニティーカラムに吸着させ、抽出液Aで洗浄した後、1mMの抗CRAM抗体抗原ペプチド(CRAMの468〜485番目のアミノ酸配列)を用いて溶出した。
上記溶出した画分を、50mM Tris/HCl(pH 7.5),150mM NaCl,50mM MgCl,1mM ATP,1mMオルトバナジウム酸ナトリウムを含む反応液において、30℃で30分間、リン酸化反応させた。その後、反応液を抗リン酸化チロシン抗体である4G10アガロースビーズのカラムに通し、抽出液Aで洗浄した後、20mMのリン酸フェニルで溶出した。溶出した30mlの溶出画分は、centriplus30(Amicon社)を用いた遠心式限外濾過法により1mlまで約30倍濃縮した。これをSDS−PAGE法およびCCB(coomassie brilliant blue)染色法により分析した結果、最終的に得られた95kDaタンパク質は、10p molであると算出された。
ポリアクリルアミドゲルにおける95kDaタンパク質を含む部分を切り取り、組成20mM NHHCO,10%(v/v)アセトニトリル,0.1%(v/v)トライトンX−100の反応液100μlにて、3μgの溶解エンドペプチダーゼにより37℃で一晩消化した。得られたペプチドは、Perkin Elmer−Applied Biosystem社製のモデル173A、液体クロマトグラフィシステム(reversed−phase HPLC)により分離され、Perkin Elmer−Applied Biosystem社製のモデル492、自動アミノ酸シークエンサーによりアミノ酸配列を決定した。
これにより、2つのペプチド断片が得られた。EMBLデータバンクの公開タンパク質シークエンスを用いたBLAST相同検索を行うと、2つのペプチド断片は、マウスおよびヒト由来のチロシンキナーゼFesのペプチド配列とそれぞれ83.3%および90%の相同性を示した。
次に、Fesの異なった部位をエピトープとして認識する2種類の抗Fes抗体を用いて免疫分析を行った。この結果、上記95kDaタンパク質は、FesのN末端を認識する抗体とC末端を認識する抗体との両方に認識されたので、今回得られたCRAM結合PTKは、Fesであることが示された。
B.細胞内におけるFesとCRAMとの結合およびその共局在
上記FesとCRAMとが、実際に神経細胞のような細胞においても結合しているのか調べた。
初めに、神経分化させたP19細胞におけるFesの発現を調べた。レチノイン酸(RA)処理して神経分化させたP19細胞からoligo−dTセルロースを用いて全mRNAを精製し、逆転写反応によりcDNAを得た。これを鋳型として、FescDNAを特異的に増幅するプライマーとして配列番号5および6に示されるプライマーを設計し、PCRを行った。
PCR産物は、エチジウムブロマイドを含む1.0%アガロースゲルにより電気泳動し、PCR産物の塩基配列は、ABI−377シークエンサーを用いて決定した。この結果、神経分化したP19細胞において、Fesの発現が確認された。RT−PCRノーザン分析においても、同様に、FesがP19細胞で発現されていることが確認された。
次に、上記P19細胞でのFesとCRAMとの間の結合を調べた。P19細胞溶解液を、抗CRAM抗体を用いて免疫沈降した。免疫沈降物は、抗Fes抗体に認識されたので、FesとCRAMとの結合が確認された。
FesとCRAMとの結合をさらに調べるため、P19細胞およびマウス胚DRG細胞において、抗CRAM抗体および抗Fes抗体を用いた2重免疫蛍光染色を行い、共焦点顕微鏡により観察した。
2重染色のために、細胞をまず抗CRAM抗体および抗Fes抗体と共に室温で2時間反応させ、その後、0.2%トライトンX−100を含むPBSで3回洗浄した。次に、適切な2次抗体(FITCラベルしたヤギ抗ウサギIgG、Cy3ラベルしたヤギ抗ウサギIgG、FITCラベルしたロバ抗ヤギIgG)を用いて1時間反応させ、標識した。
その後、細胞は、4%パラホルムアルデヒドを含むPBSで10分固定し、2回PBSで洗浄し、0.2%トライトンX−100を含むPBSで10分透過し、3回PBSで洗浄し、3%牛血清アルブミンを含むPBSでブロックした。すべての処理は室温で行われた。
そして、SlowFade−Light(Molecular Probes社)でスライドに固定し、OPTIPHOT−2(NIKON社)とMRC−1024共焦点画像処理システム(BIORAD社)により分析した。この結果、FesとCRAMとは完全に共局在し、2つのタンパク質が結合していることが示された。
C.細胞内でのFesによるCRAMとCRMPとのチロシンリン酸化
(C−1)P19細胞におけるFesのCRAMリン酸化
次に、細胞内でのFesによるCRAMのチロシンリン酸化について調べた。神経分化したP19細胞を過バナジウム酸塩により10分間刺激してから(または刺激せずに)溶解し、その細胞溶解液を抗CRAM抗体を用いて免疫沈降した後、抗リン酸チロシン抗体(4G10)で免疫ブロットした。この結果、過バナジウム酸塩処理によって、CRAMのチロシンリン酸化が増強されることが分かった。
また、上記免疫沈澱物は、抗Fes抗体による免疫ブロットで、95kDa前後のバンドが認識されたので、リン酸化されたCRAMにFesが結合していることが示された。この結果は、P19細胞内でも、FesがCRAMをチロシンリン酸化するPTKであることを示すものである。
(C−2)COS−7細胞におけるFesのCRAMリン酸化
次に、COS−7細胞(1×10)を培養皿にて培養し、大体50%コンフルエントになったとき、CRAMおよびFesの発現ベクター(1〜2μg)と無血清メディウムで混合し、Lipofectamine plus kit(GIBCO−BRL社)を用いて遺伝子導入した。48時間後、メディウムを無血清メディウムに変え、4時間後セマフォリン(Sema3A)にて刺激した後、免疫沈降−免疫ブロットを行って、FesによりCRAMがリン酸化されるか調べた。なお、上記の発現ベクターに組み込んだ遺伝子は、3週齢のマウス脳抽出液より増幅して得た。
この結果、COS−7細胞のCRAMがチロシンリン酸化されたことが分かった。さらに、Flag−tagged CRAMを用いて同様の実験を行っても、CRAMがチロシンリン酸化された。一方、CRAMとFes欠損変異体とを共発現させたCOS−7細胞では、CRAMのチロシンリン酸化は観察されなかった。これらの結果は、COS−7細胞発現システムにおいて、FesによりCRAMがリン酸化されることを示すものである。
(C−3)FesのCRAMリン酸化を確かめるin vitro実験
次に、FesがCRAMを直接リン酸化しているか調べるため、次のin vitro再構成実験を行った。まず、発現ベクターによりFlag−tagged CRAMを導入したCOS−7細胞を、抗CRAM抗体を用いて免疫沈降し、洗浄後、Flagエピトープペプチドで溶出した。溶出された精製Flag−tagged CRAMは、10ngの精製Fesおよび30μMのATPと共に、30μlの反応液(5mM MgCl,5mM MnCl,20mM HEPES(pH7.4))で10分間インキュベートし、リン酸化反応させた。その後、SDSサンプルバッファーを加えて反応を終了させ、10%SDS−PAGEを行った後、抗リン酸チロシン抗体(4G10)を用いて免疫ブロットした。この結果、Fesが直接CRAMをリン酸化することが示された。
(C−4)FesによるCRMPのリン酸化
次に、FesがCRMPをリン酸化するか調べた。COS−7細胞に4種類のFlag−taggedCRMPとFesとを遺伝子導入すると、すべてのCRMPについてチロシンリン酸化が観察された。さらに、in vitro再構成実験を上記と同様に行うと、FesがCRMP2を直接リン酸化していることが示された。これらの結果は、神経分化のときに、CRAMおよび4つのCRMPがFesの基質になっていることを示すものである。
D.Fesとプレキシンとの結合とその制御
プレキシン(PlexinA1)は、セマフォリン(Sema3A)受容体の1つであり、前述のように、その細胞質部位のチロシンリン酸化が報告されている。そこで、Fesがリン酸化されたプレキシンと結合するか調べた。この目的のため、プレキシンの細胞質部位に対する抗プレキシンポリクローナル抗体を作製した。この抗体は、マウス脳溶解液からの免疫ブロット分析で220kDaのバンドを認識した。
次に、新生児マウス脳の溶解液から抗プレキシン抗体を用いて免疫沈降を行った。この免疫沈降物からFesが検出された。この結果は、神経分化において、Fesがプレキシンに結合していることを示すものである。
Fesとプレキシンとの結合をさらに調べるため、DRGニューロンにおいて、抗プレキシン抗体および抗Fes抗体を用いた2重免疫蛍光染色を行い、共焦点顕微鏡で観察した。この結果、合成蛍光画像は、DRGニューロンの神経突起でのプレキシンおよびFesのほとんど完全な共局在を示した。
次に、Fesとプレキシンとの結合を、COS−7細胞発現システムを用いて調べた。プレキシンのcDNAは、3週齢マウス脳からmRNAを逆転写することで得た。cDNAの前半部分(1〜2934)は、配列番号9および10に示すプライマーを用いて増幅し、一方、後半部分(2911〜5685)は、配列番号11および12を用いて増幅し、得られた2つの断片を連結させ、ベクターに組み込んだ。
プレキシンおよびFesを遺伝子導入したCOS−7細胞から抗プレキシン抗体を用いて免疫沈降し、得られた免疫沈降物からは、抗Fes抗体によりFesが認識され、Fesがプレキシンに結合することが示された。しかし、プレキシン/Fes/ニューロピリン(NP−1)を遺伝子導入したCOS−7細胞では、抗プレキシン抗体による免疫沈降物からはFesが検出されなかった。この結果は、Fesとプレキシンとの結合が、NP−1発現によりネガティブに制御されることを示すものである。なお、上記の「/」は「および」の意味で使用しており、以下も同様である。
次に、プレキシン/Fes/NP−1を発現するCOS−7細胞において、セマフォリン(Sema3A)刺激による、Fesとプレキシンとの結合への影響を調べた。Sema3A刺激は、細胞を20ng/mlのNGFを含むMEMメディウム(無血清)で4時間処理した後に、Sema3Aを加えることで行った。Sema3A刺激された上記COS−7細胞では、抗プレキシン抗体による免疫沈降物からFesが抗Fes抗体により強く認識されたので、Sema3Aは、Fesのプレキシンへの結合を増強することが分かった。この場合、結合は10分で最大レベルに達し、30分以内に減少した。この結果は、Sema3A刺激がNP−1によるネガティブ制御を取り消し、Fesとプレキシンとの相互作用を可能にすることを示すものである。
E.プレキシンのリン酸化とNP−1共発現による阻害
COS−7細胞において、Fesがプレキシンをリン酸化するか調べた。細胞はHAタグを付加したHA−プレキシン、Fes、HA−プレキシン/Fes、HA−プレキシン/Fes/NP−1発現ベクターによりそれぞれ形質転換され、形質転換された細胞溶解液を抗プレキシン抗体、抗NP−1抗体、または抗Fes抗体により免疫ブロットし、その発現を確認した。
次に、各細胞溶解液を抗リン酸化チロシン抗体で免疫ブロットすると、HA−プレキシンおよびFesを共発現させたCOS−7細胞において、顕著なバンドが観察された。このリン酸化チロシンのバンドは、NP−1を共発現させると著しく減少した。この結果は、NP−1のプレキシンとFesとの結合への阻害効果によるものと推測される。つまり、NP−1はプレキシンとFesとの結合を阻害することで、プレキシンのリン酸化を阻害しているものと考えられる。
Sema3A刺激が、Fesによるプレキシンのリン酸化にも影響を与えているのか同様の実験で調べたところ、Sema3A刺激を受けたプレキシン/Fes/NP−1を発現するCOS−7細胞においては、プレキシンのリン酸化が認められた。
さらに、Sema3AがFesを活性化するか調べるため、前記と同様のin vitroキナーゼアッセイを行った。この結果、Fes/プレキシン/NP−1を発現するCOS−7細胞において、Sema3AがFesを活性化していることが分かった。すなわち、FesはSema3Aにより活性化され、10分で最大レベルに達し、20分以内に減少した。同様に、細胞のチロシンリン酸化は、10分で最大レベルに達し、20分以内に減少した。
また、Fesの活性化は、Fes/NP−1/mプレキシン(細胞質部位を欠く変異型プレキシン(アミノ酸1〜1674))を発現するCOS−7細胞では抑制された。この結果は、Sema3Aがプレキシンの細胞質部位に依存したかたちでFesを活性化していることを示すものである。一方、Sema3A刺激は、Fesを介してCRAMおよびCRMP2のリン酸化を増強した。この結果は、Sema3AシグナルとCRMP/CRAM複合体との間の分子機構をはじめて明らかにしたものである。
F.Fesとプレキシンとの共発現による細胞収縮
NP−1/プレキシンを発現するCOS−7細胞をSema3Aと共に培養すると、細胞の面積が劇的に減少した。この結果は、プレキシンが通常は不活性であるが、Sema3A刺激で活性化されて細胞収縮を起こすことを示しており、この細胞収縮は、成長円錐崩壊等のSema3Aシグナルによるアクチン再編成に連動している可能性がある。
上記の細胞収縮をアッセイシステムとして用い、プレキシン活性化へのFesの影響を調べた。COS−7細胞を、GFP−Fes、GFP/プレキシン、GFP−Fes/プレキシン、GFP−Fes/プレキシン/NP−1、GFP−Fesキナーゼ部位欠損変異体(Fes(k−))/プレキシンをコードする発現ベクターでそれぞれ形質転換し、形質転換から48時間後にGFP発現によりFesを可視化した(図2(a)参照)。同図に示されるように、プレキシン発現細胞およびGFP−Fes発現細胞は広がって見えるが、GFP−Fes/プレキシン共発現細胞は劇的に収縮した。一方、Fes/プレキシン/NP−1共発現細胞およびFes(k−)/プレキシン共発現細胞では、細胞の形態は変わらなかった。収縮した細胞の割合を、図2(b)のグラフに示す。この結果から、Fesはプレキシン活性を誘導していることが示された。
G.Fesによる神経分化の誘導
上記と同様に、FesおよびプレキシンのcDNAを哺乳類細胞用発現ベクター(pCMV5)に組込み、COS−7細胞にリポソーム法にて遺伝子導入を行った。24〜48時間後にFesとプレキシンとを共発現させた細胞の形態を蛍光顕微鏡で観察したところ、図3に示されるように、神経様突起が誘導及び伸展しているのが観察された。なお、同図左の写真は、細胞内のFesの局在を蛍光で示したもの、中央の写真は、細胞内のα−tubulinの局在を蛍光で示したもの、右の写真は、これら2つの写真を重ね合わせたものである。
また、Fes遺伝子をラットPC12細胞に導入することで、図4に示されるように、NGFによる神経分化を増強することが確認された。なお、同図左の写真は、GFPを発現させた細胞のNGF投与後4日目の形態を示したもの、中央の写真は、GFP融合Fesタンパク質を発現させた細胞のNGF投与後4日目の形態を示したもの、右の写真は、GFP融合キナーゼ部位欠損型Fesタンパク質を発現させた細胞のNGF投与後4日目の形態を示したものである。
〔実施例2:CRAM結合タンパク質Mセプチンの神経分化誘導における役割〕
A.CRAMに結合する新規タンパク質の同定
生後20日齢ラット脳(約100g)を小片に切断し、氷点下で5倍量の前記抽出液Aを用いてブレンダーで1分ホモジェナイズし破砕した。以降すべての手順は4℃下で行われた。得られた細胞破砕液を8,000×gで10分間遠心分離して脂質や壊れ残りの細胞を除去した後、さらに100,000×gで60分間遠心して上清の可溶性画分を分離した。得られた可溶性画分は、抗CRAM抗体アフィニティーカラムに吸着させ、抽出液Aで洗浄した後、1mMの抗CRAM抗体抗原ペプチド(CRAMの468〜485番目のアミノ酸配列)を用いて溶出した。溶出した30mlの溶出画分は、centriplus30(Amicon社)を用いた遠心式限外濾過法により1mlまで約30倍濃縮した。これをSDS−PAGE法およびCCB(coomassie brilliant blue)染色法により分析した結果、分子量46kDa,56〜60kDa,70kDa,90kDaの位置にタンパク質のバンドが検出されたので、これらのうち46kDaタンパク質に注目し、さらに詳細に分析した。
46kDaタンパク質の量をCCBゲル染色により分析すると、約10p molであると算出された。ポリアクリルアミドゲルにおける46kDaタンパク質を含む部分を切り取り、組成20mM NHHCO,10%(v/v)アセトニトリル,0.1%(v/v)トライトンX−100の反応液100μlにて、3μgの溶解エンドペプチダーゼにより37℃で一晩消化した。得られたペプチドは、Perkin Elmer−Applied Biosystem社製のモデル 173A、液体クロマトグラフィシステム(reversed−phase HPLC)により分離され、Perkin Elmer−Applied Biosystem社製のモデル492、自動アミノ酸シークエンサーによりアミノ酸配列を決定した。
これにより、2つのペプチド断片が得られた。EMBLデータバンクの公開タンパク質シークエンスを用いたBLAST相同検索を行うと、2つのペプチド断片はマウス由来のタンパク質「セプチンH5」のアミノ酸配列とそれぞれ92%および100%一致することが明らかになった。
B.上記タンパク質をコードする遺伝子配列の決定
上記タンパク質をコードするDNAを取得するため、次のようなRT−PCRを行った。まず、生後3週齢マウス脳および生後3月齢のマウス脳からoligo−dTセルロースを用いて全mRNAを精製し、逆転写反応によりcDNAを得た。これを鋳型として、上記タンパク質の決定したアミノ酸配列をもとに配列番号7および8に示されるプライマーを設計し、PCRを行った。
増幅されたPCR産物は0.8%アガロースゲル上で分離された。DNA断片は、geneclean kit(Bio101社)を用いて回収され、pCR2.1 TOPOTA cloning vector(Invitrogen社)にサブクローン化された。クローン化されたすべてのPCR断片は、ABI−377自動DNAシークエンサーにより塩基配列が確認された。
さらに解析を進めた結果、上記タンパク質をコードする全長遺伝子(cDNA)を発生過程のマウス脳から検出した。その全塩基配列(1,140bp)を決定し構造解析したところ、上記タンパク質「セプチンH5」をコードするH5ゲノムDNAから選択的スプライシングにより生じたタンパク質であることが分かった。さらに、このタンパク質の機能解析を行ったところ、後述のように、ミトコンドリアと共局在することが観察されたことから、このタンパク質を「Mセプチン」と命名した。
一方、生後3月齢マウス脳からは、上記セプチンH5をコードするcDNA(1,437bp)が検出された。
C.神経分化の前後におけるMセプチン発現量の変化
(C−1)マウス脳におけるMセプチン発現量
発生過程のマウス脳でのMセプチンの発現を確かめるため、セプチンH5およびMセプチン両方を認識する特異的抗体を用いて、次のように、胎生14日(E14)マウス脳の溶解物の免疫ブロット解析を行った。
まず、E14マウス脳を前記抽出液Aを用いて4℃にて溶解し、SDS−PAGEサンプルバッファーで3分間煮沸し、SDS−PAGEゲルによって分離した後、PVDF膜(Immobilon P,Millipore社)に移して、セプチンH5およびMセプチン両方を認識する特異的抗体でタンパク質の有無を調べた。この抗体は、Mセプチンの配列中192〜208番目のアミノ酸配列と一致する合成ペプチドで免疫したウサギにより得られた。
上記実験の結果、E14マウス脳では、H5ゲノムDNAは、Mセプチンに優性的にスプライシングされていた。さらに、同様の実験をマウス脳の各発達段階に従って行うと、Mセプチンは、E14マウス脳と生後1日(P1)マウス脳とで優性発現していたのに対して、E7マウスでは胚全体にセプチンH5が発現しており、成体マウス脳ではセプチンH5およびMセプチンのどちらも発現していた。このことから、発生中のマウス脳においては、H5ゲノムDNAは、主にMセプチンに転写される様に制御されていることが分かった。
(C−2)P19細胞におけるMセプチン発現量
上記と同様の実験を、レチノイン酸(RA)にさらされることにより神経分化誘導される胚芽腫細胞株P19細胞についても行った。
この結果、神経分化前(RAにさらして0日目)ではMセプチン発現量はごく低いが、P19細胞がRAにさらされるに従って発現量が増加した。Mセプチン発現の最大レベルは、RAを培養液に加えてから4日目の神経分化初期であり、細胞が完全に神経分化した(7日目)後は減少する。逆に、セプチンH5の発現は4日目までに著しく減少し、その後、細胞が培養皿に接着し、神経突起を伸ばし始めるときに発現量が増加した。
以上のように、MセプチンおよびセプチンH5の発現はP19細胞の神経分化に従い制御されており、Mセプチンが神経分化の誘導に重要な役割を果たしていることが示された。
D.各細胞内におけるMセプチンの局在
(D−1)神経分化したP19細胞内でのMセプチンおよびセプチンH5の分布
神経様細胞でのMセプチンおよびセプチンH5の細胞内局在を調べるため、MセプチンおよびセプチンH5をそれぞれ認識する抗体を用いて、免疫組織化学的分析を行った。
P19細胞は、はじめバクテリア用培養皿にて、10%FBSと1μMのレチノイン酸(RA)とを含んだαミニマルエッセンシャルメディウム(α−MEM)で凝集させた。2日後浮遊した凝集体を回収し、α−MEMで洗浄し、再びバクテリア用培養皿に戻し、RA下で2日間培養した。凝集体は、0.05%トリプシン/0.02%EDTAで処理することで細胞単位に分散させ、この細胞懸濁液をカバースリップにまいて培養した。
2重染色のために、細胞をまず抗Mセプチン抗体および抗セプチンH5抗体と共に室温で一時間反応させ、その後、0.2%トライトンX−100を含むPBSで3回洗浄した。次に、適切な2次抗体(FITC−ラベルしたヤギ抗ウサギIgG、Cy3ラベルしたヤギ抗マウスIgG)を用いて1時間反応させ、標識した。
P19細胞は、4%パラホルムアルデヒドを含むPBSで10分固定し、2回PBSで洗浄し、0.2%トライトンX−100を含むPBSで10分透過し、3回PBSで洗浄し、3%牛血清アルブミンを含むPBSでブロックした。すべての処理は室温で行われた。
そして、SlowFade−Light(Molecular Probes社)でスライドに固定し、OPTIPHOT−2(NIKON社)とMRC−1024共焦点画像処理システム(BIORAD社)により分析した。
この結果、P19細胞の神経分化誘導前では、セプチンH5が発現し、びまん的に細胞質、核、細胞膜へ分布していたが、4日目、神経分化が始まる頃になると、P19細胞ではMセプチンが発現し、核の周辺部分に小胞状に分布する。そして、神経分化し終わった7日目頃になると、MセプチンとセプチンH5との両方が核の周辺部と神経突起とに分布する。
同様の実験をマウス胎児(E14)の後根神経節初代培養細胞について行うと、Mセプチンが核周辺部位、軸索および成長円錐にて広範囲に発現していた。
また、いずれの細胞においても、Mセプチンは、神経発達過程では神経突起と軸索の根底に集中して存在していた。これらの結果は、Mセプチンが神経突起誘導と神経細胞の形態変化に重要な役割を果たしていることを示すものである。
(D−2)COS−7細胞におけるMセプチンのミトコンドリア分布
次に、COS−7細胞にMセプチンとセプチンH5とを遺伝子導入し、MセプチンおよびセプチンH5の細胞内局在を、(D−1)と同様の方法を用いて免疫組織化学的に調べた。遺伝子導入は、COS−7細胞を培養皿にて培養し、大体50%コンフルエントになったときに無血清メディウムに移して発現ベクターと混合し、Lipofectamine plus kit(GIBCO−BRL社)を用いることで行われた。分析の結果、Mセプチンは、ほとんどが大きな小胞構造をとって核周辺部に局在するのに対し、セプチンH5は、拡散的に核周辺部から細胞膜へ分布していた。
さらに、Mセプチンの小胞状構造は、ミトコンドリアマーカーMitoTrackerで選択的に染色されたミトコンドリアと完全に一致し、Mセプチンが、ミトコンドリア特異的に局在することが示された。
そこで、Mセプチンでは欠失している、H5ゲノムDNAの2番目のエクソンを含むセプチンH5のN末端部位(1〜119アミノ酸部分)のペプチドを、Mセプチンと共にCOS−7細胞に発現させて同様の顕微鏡観察を行った。この結果、Mセプチンは、細胞質、核、細胞膜に分布することが観察され、H5ゲノムDNAの2番目のエクソンの存在が、Mセプチンのミトコンドリア局在を阻害することが分かった。
E.CRAMタンパク質の細胞内分布に対するMセプチンの影響
上記(D−1)と同様の免疫組織化学的分析を行い、COS−7細胞にCRAMまたはCRMP2を発現させたときに、その細胞内分布がMセプチンによってどのような影響を受けるのか調べた。
この結果、COS−7細胞にCRAM単独を発現させると、CRAMは細胞質に分布したが、CRAMをMセプチンと共発現させると、CRAMはMセプチンと共局在しながらミトコンドリアに蓄積されていた。このことから、Mセプチンは、CRAMを細胞質からミトコンドリアへ移動させるはたらきを持つことが示された。一方、Mセプチンは、CRMP2の細胞質分布には影響を与えなかった。
F.P19細胞の神経突起誘導の前のMセプチンのミトコンドリア分布
上記(D−1)と同様の免疫組織化学的分析を行い、P19細胞の神経分化の間に、内在するMセプチンがミトコンドリアに局在するかどうか調べた。この結果、Mセプチンの発現が最大レベルに達した神経突起誘導4日目に、Mセプチンは一時的にミトコンドリアへ移動した。しかし、細胞が神経突起を伸ばし始めた6日目になると、Mセプチンはミトコンドリアから離れているのが観察された。このことから、Mセプチンは、神経突起誘導前に一時的にミトコンドリアに局在するよう制御されることが示された。
G.Mセプチン変異体の細胞導入
COS−7細胞に、Mセプチンをコードする遺伝子をリポソーム法により導入した後、Mセプチンまたは微小管(Tubulin)を認識する抗体を用いて、上記(D−1)と同様の免疫組織化学的分析を行った。この結果、図5に示すように、Mセプチンの小胞、すなわちミトコンドリアの周辺には微小管が束化しているのが観察された。なお、同図左の写真は、細胞内のMセプチンの局在を蛍光で示したもの、中央の写真は、細胞内のTubulinの局在を蛍光で示したもの、右の写真は、これら2つの写真を重ね合わせたものである。
同様の方法で、「P−loop」モチーフの機能が欠損したMセプチン変異体(M−Septin(PL−))をコードする遺伝子を導入し、分析した結果、微小管の異常な凝集が観察された(図6参照)。このことから、「P−loop」モチーフ欠損型のMセプチン変異体は、Mセプチンの活性型であると考えられた。さらに、この変異遺伝子をラットPC12細胞に導入することで、NGFによる神経分化を増強することが確認された。なお、ここで用いた「P−loop」モチーフの機能が欠損したMセプチンは、配列番号4に示されるアミノ酸配列の55番目のグリシン(G)を、バリン(V)に置換したものである。
一方、「coiled−coil」部位の機能が欠損したMセプチン変異体(M−Septin(CC−))をコードする遺伝子を導入し、同様の方法で分析すると、微小管がバラバラに崩壊し、凝集の消失が観察された(図7参照)。このことから、「coiled−coil」部位欠損型のMセプチン変異体は、Mセプチンの不活性型であると考えられた。さらに、この変異遺伝子をラットP12細胞に導入すると、細胞死が誘導された。
〔実施例3:Mセプチンによる変異ミトコンドリアの消去機能について〕
A.Mセプチンによる変異ミトコンドリアの封入体形成
Mセプチン遺伝子をCOS−7細胞に導入し発現させ、細胞を固定後、抗Mセプチン抗体とミトコンドリアマーカーであるMitotrackerで2重染色し、細胞内局在を比較検討した。
図8右上の図では、Mセプチンの凝集塊とミトコンドリアの局在の一致を示している。さらに紫外線UV(30mJ)刺激後3時間で同様に観察したところ、図8下図に示す通り、Mセプチンがミトコンドリアマーカーで染色される巨大封入体を取り囲んでいることが観察された。この巨大封入体に存在するミトコンドリアDNAは抗ピリミジン2量体抗体で特異的に標識されたので、紫外線照射による変異を受けたミトコンドリアであることが判明した(データ省略)。これらの結果より、Mセプチンは変異ミトコンドリアを特異的に認識し、封入体形成(Mセプチン封入体)を誘導する役割があることが示された。
B.Mセプチン封入体によるミトコンドリアの消去
(B−1)Mセプチン封入体におけるミトコンドリアHSP70の消去
上記Aと同様に、Mセプチン遺伝子をCOS−7細胞に導入し発現させ、細胞を固定後、抗Mセプチン抗体とミトコンドリアタンパク質であるミトコンドリアHSP70の抗体で2重染色した。その結果、図9に示す通り、Mセプチンにより形成された封入体内においてミトコンドリアタンパク質ミトコンドリアHSP70の消去が観察された。同様にチトクロームCも封入体内に存在が認められなかった(データ省略)。したがって、Mセプチンにより形成された封入体内においてミトコンドリア構造はもはや存在せず、封入体内のミトコンドリアタンパク質はなんらかの機構で消去されていることが示唆された。
(B−2)Mセプチン封入体におけるミトコンドリアタンパク質消去機構の解明
上記(B−1)で封入体内におけるミトコンドリアタンパク質の分解が示唆されたので、その機構を探るために、蛋白質分解誘導に密接に関与することが知られているユビキチン化との関連性に注目し、解析を行った。Mセプチン遺伝子とFlagタグ付きのユビキチン遺伝子をCOS−7細胞に導入し発現させ、細胞を固定後、抗Mセプチン抗体と抗Flag抗体で2重染色した。その結果、図10に示す通り、Mセプチンにより形成された封入体とユビキチン化タンパク質の局在の一致が認められた。さらにMセプチンが自らコイルドコイル領域を介してユビキチン化を受けることが認められた(データ省略)。したがって、Mセプチンはユビキチン化を介して、ミトコンドリアタンパク質の分解に関与していることが示唆された。
C.Mセプチン封入体におけるミトコンドリアの酸化
(C−1)Mセプチン封入体におけるミトコンドリアの酸化
図11に示す通り、Mセプチンにより形成された封入体内において、ミトコンドリアマーカーであるMitotrackerのシグナル増強傾向が観察された。Mitotrackerは酸化されることにより蛍光を発するので、封入体内において強い酸化が亢進していることが示唆された。
(C−2)Mセプチンにおける酸化機能を有する領域の検討
Mセプチンによる酸化を定量するために、Mセプチン遺伝子をCOS−7細胞に導入し発現した細胞をMitotrackerで染色し、FACS解析でMitotrackerのシグナル増強を定量した結果を図12に示す。これによって、MセプチンにMitotrackerのシグナル増強傾向が定量的に証明された。また、コイルドコイル領域の決失したMセプチン変異体では酸化亢進が検出されなかった。したがって、Mセプチンはコイルドコイル領域を介して、酸化を誘導していることが示唆された。
(C−3)MセプチンによるミトコンドリアDNAの酸化
Mセプチンによる酸化現象を確認するために、Mセプチン遺伝子をCOS−7細胞に導入し発現させ、細胞を固定後、抗Mセプチン抗体と抗8オキソグアニン抗体で2重染色した。その結果、図13に示す通り、Mセプチンにより形成された封入体内において8オキソグアニンの生成が観察された。したがって、Mセプチンによる酸化誘導がおこり、ミトコンドリアDNAが酸化されていることが確かめられた。
D.Mセプチン封入体の細胞外放出
Mセプチン遺伝子をCOS−7細胞に導入し発現させ、細胞を固定後、抗Mセプチン抗体とMitotrackerで2重染色し、時間経過による封入体の動きを観察した。その結果、図14で示す通り、Mセプチン封入体が細胞の外に放出されるという驚くべき現象が観察された。Mセプチン封入体の細胞外放出がイムノブロット法による生化学的解析でも示された(データ省略)。
以上の結果より、Mセプチンは変異ミトコンドリアを特異的に認識し、封入体を形成することによりミトコンドリアタンパク質のユビキチン化と酸化誘導および細胞外への封入体の放出を行うことにより、変異ミトコンドリアの消去機構に密接に関与していることが示された。
尚、発明を実施するための最良の形態の項においてなした具体的な実施態様または実施例は、あくまでも、本発明の技術内容を明らかにするものであって、そのような具体例にのみ限定して狭義に解釈されるべきものではなく、本発明の精神と次に記載する特許請求の範囲内で、いろいろと変更して実施することができるものである。
産業上の利用の可能性
以上のように、本発明に係る神経化誘導方法、神経化誘導剤、遺伝子およびタンパク質は、神経発生過程や神経分化の制御機構の解明といった神経系の研究を含め、形態形成全般にわたる基礎研究の研究材料・研究手法として幅広く利用できることは勿論であるが、このような基礎研究への利用に止まらず、各種神経疾患に対する治療法としての新たな神経再生技術の開発、新たな遺伝子治療法の開発、各種神経疾患の病態機序の研究、その治療薬の開発、さらには、新たな神経細胞・神経組織の人為的生産技術の開発、またミトコンドリアDNAの異常に由来する疾患の治療・診断方法等といった応用面・臨床面での幅広い利用が期待できるものである。

Claims (15)

  1. CRAMタンパク質に結合するタンパク質または当該タンパク質をコードする遺伝子を用いて、細胞または組織の神経化を誘導する方法。
  2. 以下の(a)または(b)に示される第1のタンパク質または当該第1のタンパク質をコードする遺伝子を用いて、神経化を誘導する請求の範囲1に記載の神経化誘導方法。
    (a)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
    (b)配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が欠失、置換、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつチロシンキナーゼ活性を有するタンパク質。
  3. 上記第1のタンパク質とプレキシンタンパク質とを、対象とする細胞内で共発現させることにより、神経化を誘導する請求の範囲2に記載の神経化誘導方法。
  4. 以下の(c)、(d)または(e)に示される第2のタンパク質または当該第2のタンパク質をコードする遺伝子を用いて、神経化を誘導する請求の範囲1に記載の神経化誘導方法。
    (c)配列番号4または配列番号14に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
    (d)配列番号4または配列番号14に示されるアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、CRAMタンパク質との結合能を有するタンパク質。
    (e)配列番号4に示されるアミノ酸配列のうち、55番目のグリシン残基が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるタンパク質。
  5. 以下の(a)または(b)に示される第1のタンパク質または当該第1のタンパク質をコードする遺伝子を含んでなる神経化誘導剤。
    (a)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
    (b)配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が欠失、置換、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつチロシンキナーゼ活性を有するタンパク質。
  6. さらに、プレキシンタンパク質または当該タンパク質をコードする遺伝子を含有する請求の範囲5に記載の神経化誘導剤。
  7. 以下の(c)、(d)または(e)に示されるタンパク質。
    (c)配列番号4または配列番号14に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
    (d)配列番号4または配列番号14に示されるアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、CRAMタンパク質との結合能を有するタンパク質。
    (e)配列番号4に示されるアミノ酸配列のうち、55番目のグリシン残基が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるタンパク質。
  8. 請求の範囲7に記載のタンパク質をコードする遺伝子。
  9. 配列番号3に示される塩基配列からなる請求の範囲8に記載の遺伝子。
  10. 請求の範囲7に記載のタンパク質、または、請求の範囲8もしくは9に記載の遺伝子を含んでなる神経化誘導剤。
  11. 請求の範囲7に記載のタンパク質を含んでなる、ミトコンドリアDNAの異常に由来する疾患の治療用薬剤。
  12. 請求の範囲8または9に記載の遺伝子を含む発現ベクター。
  13. 請求の範囲12に記載の発現ベクターを含んでなる、ミトコンドリアDNAの異常に由来する疾患の治療用薬剤。
  14. 請求の範囲7に記載のタンパク質に対する抗体。
  15. 請求の範囲7に記載のタンパク質、請求の範囲8または9に記載の遺伝子、および/または、請求の範囲14に記載の抗体を用いる、ミトコンドリアDNAの異常に由来する疾患の診断方法。
JP2004515511A 2002-06-19 2003-06-19 細胞または組織の神経化に関与する新規遺伝子およびタンパク質、並びにその利用 Pending JPWO2004001038A1 (ja)

Applications Claiming Priority (3)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2002179105 2002-06-19
JP2002179105 2002-06-19
PCT/JP2003/007766 WO2004001038A1 (ja) 2002-06-19 2003-06-19 細胞または組織の神経化に関与する新規遺伝子およびタンパク質、並びにその利用

Publications (1)

Publication Number Publication Date
JPWO2004001038A1 true JPWO2004001038A1 (ja) 2005-10-20

Family

ID=29996555

Family Applications (1)

Application Number Title Priority Date Filing Date
JP2004515511A Pending JPWO2004001038A1 (ja) 2002-06-19 2003-06-19 細胞または組織の神経化に関与する新規遺伝子およびタンパク質、並びにその利用

Country Status (3)

Country Link
JP (1) JPWO2004001038A1 (ja)
AU (1) AU2003244286A1 (ja)
WO (1) WO2004001038A1 (ja)

Family Cites Families (2)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
US5871973A (en) * 1997-10-15 1999-02-16 Incyte Pharmaceuticals, Inc. Cell division regulators
JP3141107B2 (ja) * 1998-11-16 2001-03-05 工業技術院長 ヒト由来ブラディオン蛋白質、それをコードするdna及びそれらの使用

Also Published As

Publication number Publication date
WO2004001038A1 (ja) 2003-12-31
AU2003244286A1 (en) 2004-01-06

Similar Documents

Publication Publication Date Title
US6703221B1 (en) Notch receptor ligands and uses thereof
KR100529270B1 (ko) 혈관신생 및 심혈관형성의 촉진 또는 억제
Haass et al. Pantophysin is a ubiquitously expressed synaptophysin homologue and defines constitutive transport vesicles.
WO2003101388A2 (en) Human solute carrier family 7 member 11 (hslc7a11)
Hu et al. Identification and characterization of a novel Nogo‐interacting mitochondrial protein (NIMP)
JP2007195551A (ja) セマホリンレセプター
WO1996026958A2 (en) Eph RECEPTOR LIGAND ELF-2
JPH10504446A (ja) Fas会合タンパク質
KR20040088077A (ko) 혈관신생 및 심혈관형성의 촉진 또는 억제
JP4499414B2 (ja) 免疫系に関する疾病を治療するためのcrmpファミリーのタンパク質の使用
JP2001512971A (ja) 癌および腫瘍随伴性神経症候群の診断および治療におけるulipの使用
WO2003100041A1 (en) Cd100 semaphorin in myelination
Benzel et al. Strain-specific complementation between NRIF1 and NRIF2, two zinc finger proteins sharing structural and biochemical properties
JP2003507029A (ja) Notchレセプターリガンドおよびその使用
WO1996031534A1 (en) ISOLATED NUCLEIC ACID MOLECULES ENCODING p57KIP2 AND USES OF SAME
JP2003523723A (ja) ヘルマンスキー−パドラック症候群タンパク質相互作用タンパク質およびその使用の方法
JP2002511735A (ja) アダプター蛋白質frs2および関連する物質および方法
KR20140038396A (ko) 다중돌연변이체 타우 단백질 변이체 및 인간 타우 병변을 재현하기 위한 그의 용도
US20060160103A1 (en) Mammalian neuralized family transcriptional regulators and uses
US20040229274A1 (en) Synaptic activation protein compositions and method
JPWO2004001038A1 (ja) 細胞または組織の神経化に関与する新規遺伝子およびタンパク質、並びにその利用
JP2002508666A (ja) 神経幹細胞遺伝子
US20100111913A1 (en) Method of enhancing migration of neural precursor cells
JP4530631B2 (ja) 新規タンパク質および癌の予防・治療剤
JP4592352B2 (ja) 神経成長円錐局在分子Shootin1もしくはそのスプライシングバリアントを利用した神経軸索の形成・伸長と神経再生への応用