JPWO2003075919A1 - 塩酸ピルジカイニド含有錠剤(乾式) - Google Patents
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Abstract
用法用量の遵守やコンプライアンスの確保の点で、注射剤より優れた経口製剤であり、カプセル剤よりも服用し易さを有すると共に、所望の錠剤硬度と速やかな崩壊性を有する塩酸ピルジカイニド含有錠剤を提供することであり、具体的には、塩酸ピルジカイニドを5〜99.5重量%含有し、乾式造粒法で得た顆粒を圧縮成型するか、混合粉末を直接圧縮成型することからなる、錠剤硬度が2.5kg以上であり、その経時的低下がなく、かつ速崩壊特性を有することを特徴とする塩酸ピルジカイニド含有錠剤の製造方法であり、それにより得られた錠剤である。
Description
技術分野
本発明は、不整脈治療剤である塩酸ピルジカイニド含有製剤に係わり、詳しくは、所望の錠剤硬度を有すると共に、錠剤硬度の経時的低下が抑制され、経口服用後に速やかに崩壊し、作用発現時間が短く、かつ、取り扱いが良好であり、服用し易い塩酸ピルジカイニド含有錠剤に関する。
背景技術
塩酸ピルジカイニド[JAN;INN:化学名:N−(2,6−ジメチルフェニル)−8−ピロリジジニルアセトアミド・塩酸塩1/2水和物]は、リドカインの塩基性部分をより塩基性の強いピロリチジン骨格に置き換えた8−置換ピロリチジン誘導体であり、強い抗不整脈作用や、局所麻酔作用などの薬効を有する化合物である(特公平4−24956号公報)。この塩酸ピルジカイニドについては、不整脈治療剤として開発が進められて、注射剤(販売名:サンリズム登録商標注)、およびカプセル剤(販売名:サンリズム登録商標カプセル25mg;販売名:サンリズム登録商標カプセル50mg)が既に上市されている。
ところで、循環器系の疾患である不整脈を発症した場合には、その治療は極めて緊急を要する。したがって、本分野の治療剤について製剤設計を行う際には、特に速やかな薬効の発現に重点を置く必要がある。塩酸ピルジカイニドについても、注射剤は速やかな薬効の発現に配慮した剤型である。しかしながら、注射剤は直接、血中に投与されることから、作用発現までの時間が短いという特徴を持つ反面、投与時に痛みを伴い、連続投与には不向きである。
一方カプセル剤は、注射剤に比較して投与が容易であり、用法用量の遵守やコンプライアンスの確保、あるいは携帯性の点で優れている。しかし、不整脈治療剤という薬効分野を考慮すると、カプセル剤を設計する上では、より速やかな薬効の発現を意識する必要がある。それに加えて、塩酸ピルジカイニドの消化管での主な吸収部位は小腸上部であることから、胃での速やかな崩壊を意図して、造粒されていない単なる混合粉末を充填したカプセル剤が開発された。上述の設計思想に加えて、塩酸ピルジカイニドの高い溶解度(0.89g/ml、20℃、精製水)に起因する溶解速度の速さによって、塩酸ピルジカイニドのカプセル剤では速やかな薬効の発現が達成されている。
しかしながら、一般にカプセル剤は、嚥下後、喉頭部や食道に付着することによる服用し難さを伴う場合があり、特に嚥下力の低下した患者、または幼小児や老人には敬遠される傾向がある。また、カプセル自体の製造原価が比較的高いという問題もある。
これに対し、取り扱い性に極めて優れた剤型として錠剤がある。その取り扱い性はカプセルと同程度以上であり、カプセル剤に比較して服用しやすく、また製造原価もカプセル剤に比較して安い利点がある。しかし、塩酸ピルジカイニド製剤に関しては、注射剤およびカプセル剤以外の剤型、特に錠剤化についてはいまだ充分な検討がなされていない。
特に、塩酸ピルジカイニドを含有する錠剤に求められる条件としては、所望の錠剤硬度を保持する必要がある反面、服用後における速やかな効果の発現を得るための速崩壊性を満足しなければならない。硬度の確保と速崩壊性の確保という相反する特性を有する錠剤の製剤化は困難を伴うものであって、これまで積極的な検討がなされていないのが現状である。
したがって本発明は、上記現状に鑑み、用法用量の遵守やコンプライアンスの確保の点で注射剤より優れた経口製剤であり、カプセル剤よりも服用し易さを有すると共に、所望の錠剤硬度と速やかな崩壊性を有する塩酸ピルジカイニド含有錠剤を提供することを課題とする。
ところで、錠剤は包装工程や運搬中での錠剤の欠け・割れを防止するために、あるいは必要により施されるコーティング工程に耐えるために、ある程度の錠剤強度(錠剤硬度)が求められている。一般に錠剤強度を確保するためには、配合処方中に結合剤を配合することにより行われている。しかしながら、結合剤の添加は錠剤強度の確保には有効なものの、その反面、錠剤の崩壊性が低下し、製剤から有効成分の溶出性(放出性)の遅延を招くこととなる。
特に、本発明が目的とする錠剤は、塩酸ピルジカイニドを有効成分として含有する不整脈の治療剤であることより、錠剤の崩壊性が速いことが要求される。そのために崩壊剤を添加することが考えられるが、崩壊剤の添加は、保存中の錠剤の硬度を徐々に低下させる傾向にある。
そこで本発明者は、塩酸ピルジカイニドの錠剤の製造に関し、崩壊剤を使用したとしても、所望の錠剤の硬度を有するとともに、その錠剤硬度が保存中に経時的に低下することがなく、崩壊性が良好な錠剤の開発し得る技術を開発することに重点をおいて、鋭意研究を行った。
錠剤の崩壊性の付与に用いられる崩壊剤は、吸湿性を有するものが多い。それらを多く含む錠剤は、一般的に製造工程中や保存中における錠剤の物理的・化学的な安定性の確保が難しい。一方、速崩壊性を意図する本発明の錠剤では、添加できる崩壊剤の量や種類を幅広く選択できることが必要である。したがって、本発明者は、水との接触を極力回避した製造方法を選択し、当該製造方法において結合剤を低減できる製造技術を検討した。
その結果、本発明者は、驚くべきことに、塩酸ピルジカイニドについて、水と接触させる製剤化工程を経ないで錠剤を成型した場合に、主薬である塩酸ピルジカイニドを5%以上、好ましくは10%以上配合することにより、圧縮成型後の錠剤の強度を確保でき、且つ、経時的な錠剤硬度の低下を抑制することが可能であることを見出した。
さらに、水と接触させる製剤化工程を経ないで錠剤を成型した場合には、所望の崩壊性を得るために添加する崩壊剤など、保存中に錠剤硬度の低下をもたらす傾向のある添加剤を、その種類や添加量に関係なく自由に添加しうることを見出し、本発明を完成させるに至った。
発明の開示
本発明は、(1)主薬として塩酸ピルジカイニドを5〜99.5重量%含有し、乾式造粒法で得た顆粒を圧縮成型するか、混合粉末を直接圧縮成型することからなる、錠剤硬度が2.5kg以上であり、その経時的低下が抑制され、かつ速崩壊特性を有することを特徴とする塩酸ピルジカイニド含有錠剤の製造方法、(2)塩酸ピルジカイニドを10〜95重量%含有する上記1の塩酸ピルジカイニド含有錠剤の製造方法、(3)苦味抑制物質を添加した上記1に記載の塩酸ピルジカイニド含有錠剤の製造方法、(4)苦味抑制物質の添加量が1〜80重量%である上記3に記載の塩酸ピルジカイニド含有錠剤の製造方法、更に(5)苦味抑制物質が、白糖、ブドウ糖、乳糖、D−マンニトール、アスパルテーム、キシリトール、炭酸水素ナトリウム、炭酸マグネシウム、炭酸ナトリウム、アスコルビン酸、塩化ナトリウム、デンプン、部分アルファー化デンプンおよび結晶セルロースのいずれかである上記4に記載の塩酸ピルジカイニド含有錠剤の製造方法、(6)さらにコーティング層を被覆する上記1に記載の塩酸ピルジカイニド含有錠剤の製造方法、(7)コーティング層が胃内で溶解または崩壊する皮膜である上記6に記載の塩酸ピルジカイニド含有錠剤の製造方法、(8)1錠当たりの主薬含量が12.5mg、25mgまたは50mgである上記1ないし7に記載の塩酸ピルジカイニド含有錠剤の製造方法である。
さらに本発明は、(9)上記1に記載の製造方法により得られた塩酸ピルジカイニド含有錠剤、(10)上記2ないし8のいずれかに記載の製造方法により得られた塩酸ピルジカイニド含有錠剤、(11)胃内崩壊性の錠剤である上記9または10に記載の塩酸ピルジカイニド含有錠剤であり、より具体的には、(12)主薬として20〜80重量%の塩酸ピルジカイニド、結晶セルロースおよびコーンスターチを含有し、さらに崩壊剤を含有する混合物を、直接圧縮成型して素錠となすか、または乾式造粒法で造粒し得られた造粒物を圧縮成型して素錠となし、次いで、当該素錠100部に対してヒドロキシプロピルメチルセルロースを基剤とする胃溶性の皮膜2〜4部を被覆することを特徴とする、胃内崩壊性であり、かつ速崩壊性である塩酸ピルジカイニド含有錠剤の製造方法であり、(13)前記12に記載の方法で得られた塩酸ピルジカイニド含有錠剤でもある。
発明を実施するための最良の形態
本発明が提供する塩酸ピルジカイニド含有の錠剤は、基本的には、水と接触させる製剤化工程を経ないで得た錠剤であることを特徴とする。
ところで、錠剤の製造方法には、▲1▼湿式造粒法により得られた造粒顆粒を圧縮成型する湿式顆粒圧縮法、▲2▼乾式造粒法で得られた造粒顆粒を圧縮成型する乾式顆粒圧縮法、ならびに▲3▼混合粉末を直接圧縮成型する直接粉末圧縮法に大別される。そのなかでも、水と接触する製造工程がない乾式顆粒圧縮法あるいは直接粉末圧縮法は、含有させる薬剤が水に対して不安定であるとか、吸湿性のある添加剤などを使用する場合に有効な錠剤の製造法である。
本発明においては、吸湿性のある崩壊剤等の添加剤を自由に選択できる技術であり、水と接触する製造工程がない乾式顆粒圧縮法あるいは直接粉末圧縮法を好適に用いる。
本発明が提供する錠剤において、有効成分として含有される塩酸ピルジカイニドは、特公平4−46956号公報に記載されている抗不整脈薬である。本発明が提供する、かかる塩酸ピルジカイニドを有効成分として含有する錠剤にあっては、所望の錠剤硬度として、錠剤の直径や形状にもよるが、コーティング工程や包装工程での取り扱いの容易さから2.5kg以上、より好ましくは3kg以上の硬度を有するのがよい。また運搬中、あるいは服用前の包装からの取出しの際などにおける割れ・欠けを防止するためには、保存後においても好ましい硬度を保持する必要がある。そのような所望の錠剤硬度を有する錠剤を得るためには、有効成分である塩酸ピルジカイニドの配合割合は、5〜99.5重量%とするのが好ましい。そのなかでも、崩壊剤等を配合して製造する場合には、保存時の錠剤硬度の経時的低下を抑制する点を考慮すると、10〜90重量%の範囲内にあるのが望ましい。
一方、有効成分である塩酸ピルジカイニドの粒度は、製剤の含量均一性の確保に影響を与えない限り、特に限定されない。必要により粉砕工程または整粒工程を加えることにより塩酸ピルジカイニドの粒度を制御することもできる。錠剤の製造方法や塩酸ピルジカイニドの配合割合により異なるが、例えば、直接粉末圧縮法で錠剤を製造する場合には、打錠用の混合粉末における含量均一性の確保を考慮して、塩酸ピルジカイニドの粒度が75〜500μmの範囲に50%以上分布されていることが好ましい。
本発明が提供する、有効成分として塩酸ピルジカイニドを含有する錠剤の形状は、特に限定されず、円形平面錠、円形局面錠あるいは異型錠などいずれであってもよい。また、錠剤の大きさも特に限定されず、服用のし易さならびに取り扱いの容易さを考慮すると、円形錠の場合には、その直径は5〜14mm程度が好ましく、特に老齢者でも服用が容易である6〜10mm程度の大きさであることが望ましい。
錠剤の重量は、有効成分である塩酸ピルジカイニドの含有量ならびに錠剤の形状にもよるが、服用のし易さおよび取り扱いの容易さを考慮すると、例えば、錠剤重量として、50〜500mg程度が好ましく、特に老齢者でも服用が容易である70〜200mg程度であることが望ましい。
本発明により、適度の錠剤硬度を有し、速やかな崩壊性を有すると共に、有効成分の放出性に優れた錠剤が提供されるが、さらに必要に応じて、製剤学上一般的に必要な要件である安定性や吸収性の確保のため、あるいは製造工程の改善のために、各種添加剤を適宜選択して配合することができる。
そのような添加剤としては、(1)乳糖、デンプン、部分アルファー化デンプン、結晶セルロース、D−マンニトール、ブドウ糖、炭酸カルシウムおよびリン酸カルシウムなどの賦形剤、(2)ヒドロキシプロピルセルロース、デンプン、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース、結晶セルロースのような結合剤、(3)ステアリン酸マグネシウム、ショ糖脂肪酸エステル、タルク、含水二酸化ケイ素のような滑沢剤があげられる。また、さらに必要により、安定化剤、矯味剤、着色剤などを配合することができる。これらの添加剤の種類および配合割合は、本発明が提供する錠剤が求められている特性を考慮して、適宜選択し、設定することができる。
本発明が提供する有効成分である塩酸ピルジカイニドを含有する錠剤においては、その所望の錠剤硬度と速崩壊性を確保するために、崩壊剤を添加することができる。崩壊剤の添加は、錠剤の保存中、その錠剤硬度の経時的低下をもたらす傾向にあるが、本発明の製造法により得られた塩酸ピルジカイニドを含有する錠剤においては、かかる保存時の錠剤硬度の経時的低下が抑制されている点にひとつの特徴を有している。したがって、崩壊剤を配合する場合には、保存時の錠剤硬度の経時的低下が生じない範囲でその配合量が適宜選択される。なお、本発明にいう崩壊剤とは、公定書等で崩壊剤に分類されている添加剤に加え、錠剤の崩壊性を向上させる添加剤全般をさす。
そのような崩壊剤としては、例えば、デンプン、部分アルファー化デンプン、クロスカルメロースナトリウム、クロスポビドン、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルメロースカルシウム、カルボキシメチルスターチナトリウム等をあげることができる。
保存中の錠剤硬度の経時的低下を生じず、かつ良好な崩壊性を損なわない範囲の崩壊剤の配合割合としては、錠剤の形状、サイズ、製造方法、他の成分の組成によっても異なるが、例えば、0.1〜80重量%程度である。
本発明が提供する錠剤にあっては、その錠剤の製造工程において、有効成分である塩酸ピルジカイニドを水と接触させる工程を経ることなく調製され、それにより主薬の物理的、化学的安定性が確保され、また、錠剤の速やかな崩壊性や硬度が確保されると共に、保存時の錠剤硬度の経時的低下が抑制されることが判明した。したがって、本発明が提供する錠剤を製造する方法としては、破砕造粒法といった乾式造粒法で得られた造粒顆粒を圧縮成型する乾式造粒圧縮法や、混合粉末を直接圧縮成型する直接粉末圧縮法で製造するのが好ましい。
また、有効成分である塩酸ピルジカイニドを除いた配合成分を湿式造粒して得られた造粒顆粒に塩酸ピルジカイニドを混合し圧縮成型する、半乾式顆粒圧縮法によっても製造することができる。
乾式造粒法により得られた造粒顆粒、または混合粉末に対して滑沢剤を混合した後、ロータリー打錠機等を用いて圧縮成型し、本発明の錠剤を得ることができる。打錠圧力は、速やかな崩壊性を損なわない範囲で適宜設定できる。錠剤の大きさ、重量にもよるが、主薬の化学的安定性への影響や製造の容易さやを考慮すると、例えば、500kgf〜3000kgfの範囲が望ましい。なお得られた錠剤は、さらに必要により、適宜コーティング皮膜を施してもよい。
本発明が提供する錠剤において、有効成分である塩酸ピルジカイニドは、その特性として、味が苦いことならびに局所麻酔作用を有するといった特徴があり、製剤化においては、服用者のコンプライアンス向上のためにかかる不快な苦味等を改善する必要もある。
そのため、本発明が提供する錠剤においては、口腔内での苦味を抑えるために苦味改添加剤を配合するか、あるいは皮膜を施す等の施策を施すことができる。また、塩酸ピルジカイニドの局所麻酔作用による口腔内や食道での刺激性あるいは局所麻酔作用を抑制する必要がある場合には、錠剤に皮膜を施すことが必要である。
口腔内での苦味の抑制、あるいは局所麻酔作用の抑制を目的として本発明の錠剤に皮膜を施す場合には、かかる皮膜の量は、口腔内での苦味が抑えられ、かつ胃内での速やかな錠剤の崩壊性を損なわない範囲内で、適宜設定することができる。
皮膜の種類としては、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)など水溶性基剤を用いた水溶性皮膜、オイドラギット登録商標E(アミノアルキルメタアクリレートコポリマーE)、AEA(ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート)などの胃溶性コーティング基剤を用いた皮膜、あるいは糖衣といった胃内で溶解するものが望ましい。さらにヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート(HPMCAS)やオイドラギット登録商標−L、LD、S(メタアクリル酸コポリマーL、メタアクリル酸コポリマーLD、メタアクリル酸コポリマーS)等を用いた腸溶皮膜、エチルセルロースやオイドラギット登録商標−RS(アミノアルキルメタアクリレートコポリマーRS)を用いた徐放性皮膜についても、胃内で溶解または崩壊して薬物を放出することができる組成や量であれば、本発明の錠剤への皮膜成分として用いることができる。
そのなかでも、少量の皮膜量で苦味を抑制することができ、水溶性であって、また皮膜液の調製が容易であり、かつコーティング工程の所要時間が短い特徴を有するヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)を基剤とした皮膜を、本発明の錠剤である素錠100部に対して2〜4部程度被覆させることが特に好ましい。なお、錠剤に皮膜を施す被覆方法には特に制限はなく、通常のコーティング機を用いて行うことができる。
また、口腔内での苦味の抑制を目的として、錠剤組成中に苦味抑制添加剤を配合することができる。そのような苦味抑制添加剤としては、白糖、ブドウ糖、乳糖、D−マンニトール、アスパルテーム、キシリトールといった矯味剤または甘味剤;炭酸水素ナトリウム、炭酸マグネシウム、炭酸ナトリウム、アスコルビン酸、塩化ナトリウムなどの緩衝剤またはpH調節剤;さらには、乳糖、デンプン、部分アルファー化デンプン、結晶セルロース、D−マンニトールおよびブドウ糖など苦味を緩和できる賦形剤などをあげることができる。これらの添加割合は、有効成分である塩酸ピルジカイニドの配合割合にもよるが、苦味抑制の効果の面を考慮すると1〜80重量%程度が望ましい。
そのなかでも、優れた苦味の抑制作用に加え崩壊性の改善や、錠剤エッジの強度の確保に効果のあるトウモロコシデンプン;ならびに良好な苦味の抑制作用に加え成型性に優れ、崩壊性を損ねないという特徴を兼ね備えた結晶セルロースが特に好ましい。トウモロコシデンプンや結晶セルロースの添加割合は、有効成分である塩酸ピルジカイニドの配合割合や、他の配合成分の種類・量にもよるが、苦味抑制効果および錠剤の崩壊性や摩損度を考慮すると、いずれも10〜60重量%程度添加するのが望ましい。
本発明が提供する錠剤において、有効成分である塩酸ピルジカイニドの含有量は、不整脈治療剤としての1日有効投与量とその投与回数により種々変更することができる。しかしながら、現在上市されている塩酸ピルジカイニドのカプセル剤が25mgあるいは50mg含有カプセル剤であること、および低含量の製剤のニーズがあることを考慮すると、本発明が提供する錠剤において塩酸ピルジカイニドの含有量は12.5mg、25mgあるいは50mgとすることが好ましい。したがって、かかる塩酸ピルジカイニドの含有量をベースに、上述してきた本発明の特異的構成を適宜組合せ、実際の不整脈治療に有効な塩酸ピルジカイニド含有の錠剤が提供されることとなる。
実施例
以下に、本発明を実施例に代わる種々の錠剤化検討試験によりさらに具体的に説明する。ただし、これらの実施例は本発明の範囲を限定するものではない。なお、以下の記載において「部」および「%」は、特にことわらない限りそれぞれ「重量部」および「重量%」を示す。
試験例1:塩酸ピルジカイニドの各種配合割合の処方での試験(その1)
錠剤中に含有される塩酸ピルジカイニドの配合割合が、錠剤硬度の経時的変化に与える影響を検討した。
下記表1に示す処方により、塩酸ピルジカイニド(以下、「化合物1」と記す場合もある)を各種の割合で配合した組成物を、直接粉末圧縮法により圧縮成型して錠剤を得た。仕込み量を10gとし、打錠機としてオートグラフ(島津製作所社製)を用いた。なお、打錠条件としては、錠剤重量を100mg、錠剤径を6.0mm、曲面径を8.0mm、打錠圧力を1000kgfとした。
得られた8種類の錠剤(試料1〜8)について、その錠剤硬度および崩壊性を評価した。硬度は錠剤硬度計(Schleuniger社製)を用いて測定した。崩壊性の評価については崩壊試験機(富山産業社製、上下数30回/分、振幅55mm、精製水900mL、37℃)で崩壊時間を測定した。
また、これらの錠剤をガラス瓶(開栓)にて、25℃/60%RHの条件下に2週間保存し、保存後の錠剤についても同様に錠剤硬度を測定した。
これらの結果を、まとめて表1中に示した。
表中の結果からも判明するように、各試料1〜8の錠剤の崩壊時間はいずれも2.9〜4.4分の範囲にあり、良好な崩壊性を示した。
錠剤硬度に関しては、化合物1の配合割合が3%以下の錠剤(試料1および2)では、保存前の錠剤の硬度は6.9〜7.2kgと良好なものであったが、保存後の錠剤硬度は2.4〜2.6kgと大きく低下した。すなわち、保存前と保存後における錠剤硬度の差は4.5〜4.6kgと大きなものであり、保存による硬度の低下傾向が認められた。
一方本発明の錠剤(試料3〜8)にあっては、保存前、保存後ともに錠剤硬度は3.6〜6.7kgであり、目標値(2.5kg以上)を達していた。これらの錠剤における保存前後の錠剤硬度の差は2.9kg以下であり、試料1および2に比較して、保存による硬度の低下の程度は小さなものであった。なかでも主薬である塩酸ピルジカイニドの配合割合が10%以上の場合(試料4〜8)にあっては、保存前後の錠剤硬度の差は2.0kg以下と特に良好なものであった。
以上の結果から、塩酸ピルジカイニドを5%以上配合した本発明の錠剤は、良好な崩壊性を有し、かつ、保存中の錠剤硬度の低下を抑制し、保存後にも充分な強度を与えることが確認された。
試験例2:塩酸ピルジカイニドの各種配合割合の処方での試験(その2)
錠剤中に含有される塩酸ピルジカイニドの配合割合が、錠剤硬度の経時的変化に与える影響を、崩壊剤を含む処方により検討した。
下記表2に示す処方により、塩酸ピルジカイニドを含む錠剤を直接粉末圧縮法により調製した。各種処方の混合粉末約200gをロータリー打錠機にて打錠した。錠剤重量を100mg、錠剤径を6.0mm、曲面径を8.0mm、打錠圧力を1000kgfとした。錠剤の保存条件は試験例1と同様とし、保存前および保存後のそれぞれの錠剤の崩壊性および硬度を試験例1に記載の方法で測定した。
これらの結果を、まとめて表2に示した。
錠剤の崩壊性については、保存前、保存後ともに全ての試料(試料9〜13)で極めて速いものであった。これらの錠剤の崩壊性は、崩壊剤を含まない錠剤(試験例1;試料1〜8)よりも総じて良好であった。
硬度に関しては、化合物1の配合割合が3%以下の錠剤(試料9および10)では、保存前後の錠剤硬度の差は約6kgと大きく、崩壊剤を配合しない処方(試験例1、試料1および2)の場合よりも硬度の低下の程度は大きかった。
一方、本発明の錠剤(試料11〜13)は、保存前後ともに充分な硬度(2.5kg以上)を有していた。さらに、保存前後の錠剤硬度の差は2.8kg以下であり、保存中における錠剤硬度の低下の程度は小さなものであった。なかでも主薬である塩酸ピルジカイニドの配合割合が10%以上の場合(試料12および13)では、保存前後の錠剤硬度の差は2.0kg以下と特に良好なものであった。
以上の結果から、有効成分である塩酸ピルジカイニドを5%以上配合する本発明の錠剤は、部分α化デンプンといった吸湿性があり保存後の硬度の低下を招きやすい添加剤を含む処方において、保存後の錠剤硬度の低下を抑制することが分かった。すなわち、良好な崩壊性を付与するために崩壊剤を添加する場合などにおいては、吸湿性のある添加剤を選択することができることから、本発明は有用であることが示された。
試験例3:錠剤重量/サイズの影響の検討
有効成分として塩酸ピルジカイニドを配合する錠剤において、同一の組成処方で錠剤重量/サイズを変化させて錠剤を調製し、その場合の錠剤の硬度、保存前後における硬度の低下の有無、および崩壊性を検討した。
試験例2で使用した試料13と同じ配合組成を用い、サイズの異なる錠剤を調製した。すなわち、錠剤重量を50mg/錠剤径を5.0mmとした錠剤(試料14)、錠剤重量を100mg/錠剤径を6.0mmとした錠剤(試料15)、および錠剤重量を500mg/錠剤径を11.0mmとした錠剤(試料16)を、オートグラフを用いて打錠圧力を1000kgfで調製した。得られた各錠剤について、保存前および保存後のそれぞれの崩壊性および硬度を評価した。保存条件、評価項目および評価方法は試験例1に準じた。
その結果を、まとめて表3中に示した。
試験したすべての錠剤(試料14〜16)とも、良好な硬度と速やかな崩壊性を示した。したがって、本発明により各種重量/サイズの塩酸ピルジカイニド含有の錠剤を提供することができることが分かった。
試験例4:各種量および種類の、崩壊剤および滑沢剤を含む処方での試験
崩壊剤の種類とその添加量、および滑沢剤の種類とその添加量を種々変化させて本発明の錠剤を調製した。すなわち、下記表4に示す処方により、直接粉末圧縮法により錠剤を調製した。得られた錠剤について、保存前および保存後のそれぞれの崩壊性および硬度を評価した。保存条件、評価項目および評価方法は試験例1に準じた。
それらの結果を、まとめて表4中に示した。
表中に示した結果からも判明するように、本発明の塩酸ピルジカイニドを含有する錠剤(試料17〜22)は、いずれも保存前、保存後ともに速やかな崩壊性と充分な硬度を示していた。したがって、本発明の製造方法を用いることにより、崩壊剤や滑沢剤の種類およびその添加量に影響されることなく、錠剤硬度の経時的低下の程度が少ない錠剤が得られることが確認された。すなわち、良好な崩壊性や製造工程の改善等を目的として、各種添加剤を配合する場合に本発明は特に有用であることが示された。
試験例5:苦味に対する塩酸ピルジカイニドの配合割合の影響
本発明が提供する塩酸ピルジカイニド含有の錠剤は、有効成分である塩酸ピルジカイニド由来の苦味が存在する。その苦味の程度に対する主薬である塩酸ピルジカイニドの配合割合の影響を、試験例1で得た錠剤(試料1〜8)を用いて評価した。
すなわち、健常パネリスト3名を対象にして、試料1〜8の各錠剤1錠を口腔内に含み、苦味を感じるまでの時間を測定した。評価は、錠剤を服用する際に錠剤が口腔内に留まる時間を考慮して、苦味を感じるまでの時間を10秒未満(×印)、10〜30秒(△印)、30秒以上(○印)の3段階で判定した。
その結果を、前出の表1中にあわせて示した。
表中の結果からも判明するように、主薬である塩酸ピルジカイニドの配合割合が高くなるにつれて、苦味を感じるまでの時間が早くなっている。したがって、主薬の配合割合が高い場合には、本発明の錠剤では、苦味を抑制する処置を場合によっては施すことを考慮すべきであるといえる。
試験例6:苦味抑制添加剤による苦味の抑制試験
苦味を抑制する手段の一つとして、矯味剤/甘味剤、緩衝剤/pH調節剤、および苦味を緩和する賦形剤といった苦味抑制添加剤を処方中に配合する方法が挙げられる。これらの物質について、本発明の錠剤の苦味を抑制する効果について検討した。
主薬である塩酸ピルジカイニドの配合割合を10%として、下記表5に示す各種配合処方で錠剤を調製した。なお、結合剤として結晶セルロース(セオラス)を用いた。錠剤の調製方法は試験例1に記載の方法に準じた。また、苦味の評価は試験例5に記載した基準に従った。
その結果を、あわせて表5中に示した。
無味である賦形剤(リン酸水素カルシウム)を用いた錠剤(試料23)では、錠剤は苦かった。一方、甘味剤/矯味剤(アスパルテーム、D−マンニトール)、緩衝剤/pH調節剤(炭酸水素ナトリウム)、または苦味を緩和する賦形剤(乳糖、トウモロコシデンプン、結晶セルロース)を添加した錠剤(試料24〜29)では、苦味が抑制されていた。
したがって、本発明の錠剤では、矯味剤/甘味剤、緩衝剤/pH調節剤、あるいは苦味を緩和する賦形剤といった苦味抑制添加剤が、有効成分である塩酸ピルジカイニドに由来する錠剤の苦味を抑制する効果があることが判明した。
試験例7:コーティング皮膜による苦味の抑制試験
錠剤の服用時の苦味を抑制する手段の一つとして、錠剤をコーティング皮膜により被覆する手段がある。そこで、本発明の錠剤における苦味みがコーティング皮膜で抑制され、かつ速崩壊性を確保しうる錠剤となりうるか検討した。
これまでに得られている錠剤(素錠:試料13)を用いて、コーティング錠を調製した。すなわち、下記表6に記載する組成にて、水溶性の皮膜をコーティングした。皮膜の量は素錠100部に対して3部とした。コーティング機として、ハイコーターミニ(フロイント社製;回転数15rpm、排気温度約45℃)を用い、仕込み量は着色プラセボ錠を加えて200gとした。
なお、コーティング工程中において、錠剤の割れや欠けといった障害は認められず、本発明の錠剤の強度は良好なものであった。
得られたコーティング錠(試料30)について、試験例1に記載の方法により錠剤硬度および崩壊性を評価し、また試験例5に記載の評価法により苦味の有無を評価した。
その結果を表7に示した。
本発明の有効成分である塩酸ピルジカイニドを含有するコーティング錠(試料30)は、皮膜を施すことによりコーティング前の素錠(試料13)で認められていた苦味を抑制していた。なお、コーティング錠の製剤特性は、コーティング前の素錠(試料13)と同様に良好であった。
したがって、本発明が提供する錠剤にあっては、含有される有効成分である塩酸ピルジカイニドに由来する錠剤の苦味を、コーティング層を被覆することにより抑制できることが判明した。
産業上の利用の可能性
以上記載のように、本発明により、これまで何ら検討されていなかった不整脈治療剤である塩酸ピルジカイニドの錠剤について、不整脈治療として必須である効果の発現が速やかな速崩壊性であると共に、所望の錠剤硬度、さらに保存による錠剤硬度の低下を防止し得る錠剤が提供される。
本発明により提供される塩酸ピルジカイニドを含有する錠剤は、これまで開発されていた注射剤で認められる投与時の疼痛を回避でき、またカプセル剤で認められていた服用のし難さを回避するものであり、嚥下力の低下した患者、または幼小児や老人にも安全に服用しうるものである。
また、本発明の技術を応用することにより、塩酸ピルジカイニドの含有量を種々変化させた錠剤を提供することが可能であり、そのうえ、カプセル剤に比較して製造原価が安価でもある。したがって、本発明は医療産業上多大な効果を有するものである。
本発明は、不整脈治療剤である塩酸ピルジカイニド含有製剤に係わり、詳しくは、所望の錠剤硬度を有すると共に、錠剤硬度の経時的低下が抑制され、経口服用後に速やかに崩壊し、作用発現時間が短く、かつ、取り扱いが良好であり、服用し易い塩酸ピルジカイニド含有錠剤に関する。
背景技術
塩酸ピルジカイニド[JAN;INN:化学名:N−(2,6−ジメチルフェニル)−8−ピロリジジニルアセトアミド・塩酸塩1/2水和物]は、リドカインの塩基性部分をより塩基性の強いピロリチジン骨格に置き換えた8−置換ピロリチジン誘導体であり、強い抗不整脈作用や、局所麻酔作用などの薬効を有する化合物である(特公平4−24956号公報)。この塩酸ピルジカイニドについては、不整脈治療剤として開発が進められて、注射剤(販売名:サンリズム登録商標注)、およびカプセル剤(販売名:サンリズム登録商標カプセル25mg;販売名:サンリズム登録商標カプセル50mg)が既に上市されている。
ところで、循環器系の疾患である不整脈を発症した場合には、その治療は極めて緊急を要する。したがって、本分野の治療剤について製剤設計を行う際には、特に速やかな薬効の発現に重点を置く必要がある。塩酸ピルジカイニドについても、注射剤は速やかな薬効の発現に配慮した剤型である。しかしながら、注射剤は直接、血中に投与されることから、作用発現までの時間が短いという特徴を持つ反面、投与時に痛みを伴い、連続投与には不向きである。
一方カプセル剤は、注射剤に比較して投与が容易であり、用法用量の遵守やコンプライアンスの確保、あるいは携帯性の点で優れている。しかし、不整脈治療剤という薬効分野を考慮すると、カプセル剤を設計する上では、より速やかな薬効の発現を意識する必要がある。それに加えて、塩酸ピルジカイニドの消化管での主な吸収部位は小腸上部であることから、胃での速やかな崩壊を意図して、造粒されていない単なる混合粉末を充填したカプセル剤が開発された。上述の設計思想に加えて、塩酸ピルジカイニドの高い溶解度(0.89g/ml、20℃、精製水)に起因する溶解速度の速さによって、塩酸ピルジカイニドのカプセル剤では速やかな薬効の発現が達成されている。
しかしながら、一般にカプセル剤は、嚥下後、喉頭部や食道に付着することによる服用し難さを伴う場合があり、特に嚥下力の低下した患者、または幼小児や老人には敬遠される傾向がある。また、カプセル自体の製造原価が比較的高いという問題もある。
これに対し、取り扱い性に極めて優れた剤型として錠剤がある。その取り扱い性はカプセルと同程度以上であり、カプセル剤に比較して服用しやすく、また製造原価もカプセル剤に比較して安い利点がある。しかし、塩酸ピルジカイニド製剤に関しては、注射剤およびカプセル剤以外の剤型、特に錠剤化についてはいまだ充分な検討がなされていない。
特に、塩酸ピルジカイニドを含有する錠剤に求められる条件としては、所望の錠剤硬度を保持する必要がある反面、服用後における速やかな効果の発現を得るための速崩壊性を満足しなければならない。硬度の確保と速崩壊性の確保という相反する特性を有する錠剤の製剤化は困難を伴うものであって、これまで積極的な検討がなされていないのが現状である。
したがって本発明は、上記現状に鑑み、用法用量の遵守やコンプライアンスの確保の点で注射剤より優れた経口製剤であり、カプセル剤よりも服用し易さを有すると共に、所望の錠剤硬度と速やかな崩壊性を有する塩酸ピルジカイニド含有錠剤を提供することを課題とする。
ところで、錠剤は包装工程や運搬中での錠剤の欠け・割れを防止するために、あるいは必要により施されるコーティング工程に耐えるために、ある程度の錠剤強度(錠剤硬度)が求められている。一般に錠剤強度を確保するためには、配合処方中に結合剤を配合することにより行われている。しかしながら、結合剤の添加は錠剤強度の確保には有効なものの、その反面、錠剤の崩壊性が低下し、製剤から有効成分の溶出性(放出性)の遅延を招くこととなる。
特に、本発明が目的とする錠剤は、塩酸ピルジカイニドを有効成分として含有する不整脈の治療剤であることより、錠剤の崩壊性が速いことが要求される。そのために崩壊剤を添加することが考えられるが、崩壊剤の添加は、保存中の錠剤の硬度を徐々に低下させる傾向にある。
そこで本発明者は、塩酸ピルジカイニドの錠剤の製造に関し、崩壊剤を使用したとしても、所望の錠剤の硬度を有するとともに、その錠剤硬度が保存中に経時的に低下することがなく、崩壊性が良好な錠剤の開発し得る技術を開発することに重点をおいて、鋭意研究を行った。
錠剤の崩壊性の付与に用いられる崩壊剤は、吸湿性を有するものが多い。それらを多く含む錠剤は、一般的に製造工程中や保存中における錠剤の物理的・化学的な安定性の確保が難しい。一方、速崩壊性を意図する本発明の錠剤では、添加できる崩壊剤の量や種類を幅広く選択できることが必要である。したがって、本発明者は、水との接触を極力回避した製造方法を選択し、当該製造方法において結合剤を低減できる製造技術を検討した。
その結果、本発明者は、驚くべきことに、塩酸ピルジカイニドについて、水と接触させる製剤化工程を経ないで錠剤を成型した場合に、主薬である塩酸ピルジカイニドを5%以上、好ましくは10%以上配合することにより、圧縮成型後の錠剤の強度を確保でき、且つ、経時的な錠剤硬度の低下を抑制することが可能であることを見出した。
さらに、水と接触させる製剤化工程を経ないで錠剤を成型した場合には、所望の崩壊性を得るために添加する崩壊剤など、保存中に錠剤硬度の低下をもたらす傾向のある添加剤を、その種類や添加量に関係なく自由に添加しうることを見出し、本発明を完成させるに至った。
発明の開示
本発明は、(1)主薬として塩酸ピルジカイニドを5〜99.5重量%含有し、乾式造粒法で得た顆粒を圧縮成型するか、混合粉末を直接圧縮成型することからなる、錠剤硬度が2.5kg以上であり、その経時的低下が抑制され、かつ速崩壊特性を有することを特徴とする塩酸ピルジカイニド含有錠剤の製造方法、(2)塩酸ピルジカイニドを10〜95重量%含有する上記1の塩酸ピルジカイニド含有錠剤の製造方法、(3)苦味抑制物質を添加した上記1に記載の塩酸ピルジカイニド含有錠剤の製造方法、(4)苦味抑制物質の添加量が1〜80重量%である上記3に記載の塩酸ピルジカイニド含有錠剤の製造方法、更に(5)苦味抑制物質が、白糖、ブドウ糖、乳糖、D−マンニトール、アスパルテーム、キシリトール、炭酸水素ナトリウム、炭酸マグネシウム、炭酸ナトリウム、アスコルビン酸、塩化ナトリウム、デンプン、部分アルファー化デンプンおよび結晶セルロースのいずれかである上記4に記載の塩酸ピルジカイニド含有錠剤の製造方法、(6)さらにコーティング層を被覆する上記1に記載の塩酸ピルジカイニド含有錠剤の製造方法、(7)コーティング層が胃内で溶解または崩壊する皮膜である上記6に記載の塩酸ピルジカイニド含有錠剤の製造方法、(8)1錠当たりの主薬含量が12.5mg、25mgまたは50mgである上記1ないし7に記載の塩酸ピルジカイニド含有錠剤の製造方法である。
さらに本発明は、(9)上記1に記載の製造方法により得られた塩酸ピルジカイニド含有錠剤、(10)上記2ないし8のいずれかに記載の製造方法により得られた塩酸ピルジカイニド含有錠剤、(11)胃内崩壊性の錠剤である上記9または10に記載の塩酸ピルジカイニド含有錠剤であり、より具体的には、(12)主薬として20〜80重量%の塩酸ピルジカイニド、結晶セルロースおよびコーンスターチを含有し、さらに崩壊剤を含有する混合物を、直接圧縮成型して素錠となすか、または乾式造粒法で造粒し得られた造粒物を圧縮成型して素錠となし、次いで、当該素錠100部に対してヒドロキシプロピルメチルセルロースを基剤とする胃溶性の皮膜2〜4部を被覆することを特徴とする、胃内崩壊性であり、かつ速崩壊性である塩酸ピルジカイニド含有錠剤の製造方法であり、(13)前記12に記載の方法で得られた塩酸ピルジカイニド含有錠剤でもある。
発明を実施するための最良の形態
本発明が提供する塩酸ピルジカイニド含有の錠剤は、基本的には、水と接触させる製剤化工程を経ないで得た錠剤であることを特徴とする。
ところで、錠剤の製造方法には、▲1▼湿式造粒法により得られた造粒顆粒を圧縮成型する湿式顆粒圧縮法、▲2▼乾式造粒法で得られた造粒顆粒を圧縮成型する乾式顆粒圧縮法、ならびに▲3▼混合粉末を直接圧縮成型する直接粉末圧縮法に大別される。そのなかでも、水と接触する製造工程がない乾式顆粒圧縮法あるいは直接粉末圧縮法は、含有させる薬剤が水に対して不安定であるとか、吸湿性のある添加剤などを使用する場合に有効な錠剤の製造法である。
本発明においては、吸湿性のある崩壊剤等の添加剤を自由に選択できる技術であり、水と接触する製造工程がない乾式顆粒圧縮法あるいは直接粉末圧縮法を好適に用いる。
本発明が提供する錠剤において、有効成分として含有される塩酸ピルジカイニドは、特公平4−46956号公報に記載されている抗不整脈薬である。本発明が提供する、かかる塩酸ピルジカイニドを有効成分として含有する錠剤にあっては、所望の錠剤硬度として、錠剤の直径や形状にもよるが、コーティング工程や包装工程での取り扱いの容易さから2.5kg以上、より好ましくは3kg以上の硬度を有するのがよい。また運搬中、あるいは服用前の包装からの取出しの際などにおける割れ・欠けを防止するためには、保存後においても好ましい硬度を保持する必要がある。そのような所望の錠剤硬度を有する錠剤を得るためには、有効成分である塩酸ピルジカイニドの配合割合は、5〜99.5重量%とするのが好ましい。そのなかでも、崩壊剤等を配合して製造する場合には、保存時の錠剤硬度の経時的低下を抑制する点を考慮すると、10〜90重量%の範囲内にあるのが望ましい。
一方、有効成分である塩酸ピルジカイニドの粒度は、製剤の含量均一性の確保に影響を与えない限り、特に限定されない。必要により粉砕工程または整粒工程を加えることにより塩酸ピルジカイニドの粒度を制御することもできる。錠剤の製造方法や塩酸ピルジカイニドの配合割合により異なるが、例えば、直接粉末圧縮法で錠剤を製造する場合には、打錠用の混合粉末における含量均一性の確保を考慮して、塩酸ピルジカイニドの粒度が75〜500μmの範囲に50%以上分布されていることが好ましい。
本発明が提供する、有効成分として塩酸ピルジカイニドを含有する錠剤の形状は、特に限定されず、円形平面錠、円形局面錠あるいは異型錠などいずれであってもよい。また、錠剤の大きさも特に限定されず、服用のし易さならびに取り扱いの容易さを考慮すると、円形錠の場合には、その直径は5〜14mm程度が好ましく、特に老齢者でも服用が容易である6〜10mm程度の大きさであることが望ましい。
錠剤の重量は、有効成分である塩酸ピルジカイニドの含有量ならびに錠剤の形状にもよるが、服用のし易さおよび取り扱いの容易さを考慮すると、例えば、錠剤重量として、50〜500mg程度が好ましく、特に老齢者でも服用が容易である70〜200mg程度であることが望ましい。
本発明により、適度の錠剤硬度を有し、速やかな崩壊性を有すると共に、有効成分の放出性に優れた錠剤が提供されるが、さらに必要に応じて、製剤学上一般的に必要な要件である安定性や吸収性の確保のため、あるいは製造工程の改善のために、各種添加剤を適宜選択して配合することができる。
そのような添加剤としては、(1)乳糖、デンプン、部分アルファー化デンプン、結晶セルロース、D−マンニトール、ブドウ糖、炭酸カルシウムおよびリン酸カルシウムなどの賦形剤、(2)ヒドロキシプロピルセルロース、デンプン、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース、結晶セルロースのような結合剤、(3)ステアリン酸マグネシウム、ショ糖脂肪酸エステル、タルク、含水二酸化ケイ素のような滑沢剤があげられる。また、さらに必要により、安定化剤、矯味剤、着色剤などを配合することができる。これらの添加剤の種類および配合割合は、本発明が提供する錠剤が求められている特性を考慮して、適宜選択し、設定することができる。
本発明が提供する有効成分である塩酸ピルジカイニドを含有する錠剤においては、その所望の錠剤硬度と速崩壊性を確保するために、崩壊剤を添加することができる。崩壊剤の添加は、錠剤の保存中、その錠剤硬度の経時的低下をもたらす傾向にあるが、本発明の製造法により得られた塩酸ピルジカイニドを含有する錠剤においては、かかる保存時の錠剤硬度の経時的低下が抑制されている点にひとつの特徴を有している。したがって、崩壊剤を配合する場合には、保存時の錠剤硬度の経時的低下が生じない範囲でその配合量が適宜選択される。なお、本発明にいう崩壊剤とは、公定書等で崩壊剤に分類されている添加剤に加え、錠剤の崩壊性を向上させる添加剤全般をさす。
そのような崩壊剤としては、例えば、デンプン、部分アルファー化デンプン、クロスカルメロースナトリウム、クロスポビドン、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルメロースカルシウム、カルボキシメチルスターチナトリウム等をあげることができる。
保存中の錠剤硬度の経時的低下を生じず、かつ良好な崩壊性を損なわない範囲の崩壊剤の配合割合としては、錠剤の形状、サイズ、製造方法、他の成分の組成によっても異なるが、例えば、0.1〜80重量%程度である。
本発明が提供する錠剤にあっては、その錠剤の製造工程において、有効成分である塩酸ピルジカイニドを水と接触させる工程を経ることなく調製され、それにより主薬の物理的、化学的安定性が確保され、また、錠剤の速やかな崩壊性や硬度が確保されると共に、保存時の錠剤硬度の経時的低下が抑制されることが判明した。したがって、本発明が提供する錠剤を製造する方法としては、破砕造粒法といった乾式造粒法で得られた造粒顆粒を圧縮成型する乾式造粒圧縮法や、混合粉末を直接圧縮成型する直接粉末圧縮法で製造するのが好ましい。
また、有効成分である塩酸ピルジカイニドを除いた配合成分を湿式造粒して得られた造粒顆粒に塩酸ピルジカイニドを混合し圧縮成型する、半乾式顆粒圧縮法によっても製造することができる。
乾式造粒法により得られた造粒顆粒、または混合粉末に対して滑沢剤を混合した後、ロータリー打錠機等を用いて圧縮成型し、本発明の錠剤を得ることができる。打錠圧力は、速やかな崩壊性を損なわない範囲で適宜設定できる。錠剤の大きさ、重量にもよるが、主薬の化学的安定性への影響や製造の容易さやを考慮すると、例えば、500kgf〜3000kgfの範囲が望ましい。なお得られた錠剤は、さらに必要により、適宜コーティング皮膜を施してもよい。
本発明が提供する錠剤において、有効成分である塩酸ピルジカイニドは、その特性として、味が苦いことならびに局所麻酔作用を有するといった特徴があり、製剤化においては、服用者のコンプライアンス向上のためにかかる不快な苦味等を改善する必要もある。
そのため、本発明が提供する錠剤においては、口腔内での苦味を抑えるために苦味改添加剤を配合するか、あるいは皮膜を施す等の施策を施すことができる。また、塩酸ピルジカイニドの局所麻酔作用による口腔内や食道での刺激性あるいは局所麻酔作用を抑制する必要がある場合には、錠剤に皮膜を施すことが必要である。
口腔内での苦味の抑制、あるいは局所麻酔作用の抑制を目的として本発明の錠剤に皮膜を施す場合には、かかる皮膜の量は、口腔内での苦味が抑えられ、かつ胃内での速やかな錠剤の崩壊性を損なわない範囲内で、適宜設定することができる。
皮膜の種類としては、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)など水溶性基剤を用いた水溶性皮膜、オイドラギット登録商標E(アミノアルキルメタアクリレートコポリマーE)、AEA(ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート)などの胃溶性コーティング基剤を用いた皮膜、あるいは糖衣といった胃内で溶解するものが望ましい。さらにヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート(HPMCAS)やオイドラギット登録商標−L、LD、S(メタアクリル酸コポリマーL、メタアクリル酸コポリマーLD、メタアクリル酸コポリマーS)等を用いた腸溶皮膜、エチルセルロースやオイドラギット登録商標−RS(アミノアルキルメタアクリレートコポリマーRS)を用いた徐放性皮膜についても、胃内で溶解または崩壊して薬物を放出することができる組成や量であれば、本発明の錠剤への皮膜成分として用いることができる。
そのなかでも、少量の皮膜量で苦味を抑制することができ、水溶性であって、また皮膜液の調製が容易であり、かつコーティング工程の所要時間が短い特徴を有するヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)を基剤とした皮膜を、本発明の錠剤である素錠100部に対して2〜4部程度被覆させることが特に好ましい。なお、錠剤に皮膜を施す被覆方法には特に制限はなく、通常のコーティング機を用いて行うことができる。
また、口腔内での苦味の抑制を目的として、錠剤組成中に苦味抑制添加剤を配合することができる。そのような苦味抑制添加剤としては、白糖、ブドウ糖、乳糖、D−マンニトール、アスパルテーム、キシリトールといった矯味剤または甘味剤;炭酸水素ナトリウム、炭酸マグネシウム、炭酸ナトリウム、アスコルビン酸、塩化ナトリウムなどの緩衝剤またはpH調節剤;さらには、乳糖、デンプン、部分アルファー化デンプン、結晶セルロース、D−マンニトールおよびブドウ糖など苦味を緩和できる賦形剤などをあげることができる。これらの添加割合は、有効成分である塩酸ピルジカイニドの配合割合にもよるが、苦味抑制の効果の面を考慮すると1〜80重量%程度が望ましい。
そのなかでも、優れた苦味の抑制作用に加え崩壊性の改善や、錠剤エッジの強度の確保に効果のあるトウモロコシデンプン;ならびに良好な苦味の抑制作用に加え成型性に優れ、崩壊性を損ねないという特徴を兼ね備えた結晶セルロースが特に好ましい。トウモロコシデンプンや結晶セルロースの添加割合は、有効成分である塩酸ピルジカイニドの配合割合や、他の配合成分の種類・量にもよるが、苦味抑制効果および錠剤の崩壊性や摩損度を考慮すると、いずれも10〜60重量%程度添加するのが望ましい。
本発明が提供する錠剤において、有効成分である塩酸ピルジカイニドの含有量は、不整脈治療剤としての1日有効投与量とその投与回数により種々変更することができる。しかしながら、現在上市されている塩酸ピルジカイニドのカプセル剤が25mgあるいは50mg含有カプセル剤であること、および低含量の製剤のニーズがあることを考慮すると、本発明が提供する錠剤において塩酸ピルジカイニドの含有量は12.5mg、25mgあるいは50mgとすることが好ましい。したがって、かかる塩酸ピルジカイニドの含有量をベースに、上述してきた本発明の特異的構成を適宜組合せ、実際の不整脈治療に有効な塩酸ピルジカイニド含有の錠剤が提供されることとなる。
実施例
以下に、本発明を実施例に代わる種々の錠剤化検討試験によりさらに具体的に説明する。ただし、これらの実施例は本発明の範囲を限定するものではない。なお、以下の記載において「部」および「%」は、特にことわらない限りそれぞれ「重量部」および「重量%」を示す。
試験例1:塩酸ピルジカイニドの各種配合割合の処方での試験(その1)
錠剤中に含有される塩酸ピルジカイニドの配合割合が、錠剤硬度の経時的変化に与える影響を検討した。
下記表1に示す処方により、塩酸ピルジカイニド(以下、「化合物1」と記す場合もある)を各種の割合で配合した組成物を、直接粉末圧縮法により圧縮成型して錠剤を得た。仕込み量を10gとし、打錠機としてオートグラフ(島津製作所社製)を用いた。なお、打錠条件としては、錠剤重量を100mg、錠剤径を6.0mm、曲面径を8.0mm、打錠圧力を1000kgfとした。
得られた8種類の錠剤(試料1〜8)について、その錠剤硬度および崩壊性を評価した。硬度は錠剤硬度計(Schleuniger社製)を用いて測定した。崩壊性の評価については崩壊試験機(富山産業社製、上下数30回/分、振幅55mm、精製水900mL、37℃)で崩壊時間を測定した。
また、これらの錠剤をガラス瓶(開栓)にて、25℃/60%RHの条件下に2週間保存し、保存後の錠剤についても同様に錠剤硬度を測定した。
これらの結果を、まとめて表1中に示した。
表中の結果からも判明するように、各試料1〜8の錠剤の崩壊時間はいずれも2.9〜4.4分の範囲にあり、良好な崩壊性を示した。
錠剤硬度に関しては、化合物1の配合割合が3%以下の錠剤(試料1および2)では、保存前の錠剤の硬度は6.9〜7.2kgと良好なものであったが、保存後の錠剤硬度は2.4〜2.6kgと大きく低下した。すなわち、保存前と保存後における錠剤硬度の差は4.5〜4.6kgと大きなものであり、保存による硬度の低下傾向が認められた。
一方本発明の錠剤(試料3〜8)にあっては、保存前、保存後ともに錠剤硬度は3.6〜6.7kgであり、目標値(2.5kg以上)を達していた。これらの錠剤における保存前後の錠剤硬度の差は2.9kg以下であり、試料1および2に比較して、保存による硬度の低下の程度は小さなものであった。なかでも主薬である塩酸ピルジカイニドの配合割合が10%以上の場合(試料4〜8)にあっては、保存前後の錠剤硬度の差は2.0kg以下と特に良好なものであった。
以上の結果から、塩酸ピルジカイニドを5%以上配合した本発明の錠剤は、良好な崩壊性を有し、かつ、保存中の錠剤硬度の低下を抑制し、保存後にも充分な強度を与えることが確認された。
試験例2:塩酸ピルジカイニドの各種配合割合の処方での試験(その2)
錠剤中に含有される塩酸ピルジカイニドの配合割合が、錠剤硬度の経時的変化に与える影響を、崩壊剤を含む処方により検討した。
下記表2に示す処方により、塩酸ピルジカイニドを含む錠剤を直接粉末圧縮法により調製した。各種処方の混合粉末約200gをロータリー打錠機にて打錠した。錠剤重量を100mg、錠剤径を6.0mm、曲面径を8.0mm、打錠圧力を1000kgfとした。錠剤の保存条件は試験例1と同様とし、保存前および保存後のそれぞれの錠剤の崩壊性および硬度を試験例1に記載の方法で測定した。
これらの結果を、まとめて表2に示した。
錠剤の崩壊性については、保存前、保存後ともに全ての試料(試料9〜13)で極めて速いものであった。これらの錠剤の崩壊性は、崩壊剤を含まない錠剤(試験例1;試料1〜8)よりも総じて良好であった。
硬度に関しては、化合物1の配合割合が3%以下の錠剤(試料9および10)では、保存前後の錠剤硬度の差は約6kgと大きく、崩壊剤を配合しない処方(試験例1、試料1および2)の場合よりも硬度の低下の程度は大きかった。
一方、本発明の錠剤(試料11〜13)は、保存前後ともに充分な硬度(2.5kg以上)を有していた。さらに、保存前後の錠剤硬度の差は2.8kg以下であり、保存中における錠剤硬度の低下の程度は小さなものであった。なかでも主薬である塩酸ピルジカイニドの配合割合が10%以上の場合(試料12および13)では、保存前後の錠剤硬度の差は2.0kg以下と特に良好なものであった。
以上の結果から、有効成分である塩酸ピルジカイニドを5%以上配合する本発明の錠剤は、部分α化デンプンといった吸湿性があり保存後の硬度の低下を招きやすい添加剤を含む処方において、保存後の錠剤硬度の低下を抑制することが分かった。すなわち、良好な崩壊性を付与するために崩壊剤を添加する場合などにおいては、吸湿性のある添加剤を選択することができることから、本発明は有用であることが示された。
試験例3:錠剤重量/サイズの影響の検討
有効成分として塩酸ピルジカイニドを配合する錠剤において、同一の組成処方で錠剤重量/サイズを変化させて錠剤を調製し、その場合の錠剤の硬度、保存前後における硬度の低下の有無、および崩壊性を検討した。
試験例2で使用した試料13と同じ配合組成を用い、サイズの異なる錠剤を調製した。すなわち、錠剤重量を50mg/錠剤径を5.0mmとした錠剤(試料14)、錠剤重量を100mg/錠剤径を6.0mmとした錠剤(試料15)、および錠剤重量を500mg/錠剤径を11.0mmとした錠剤(試料16)を、オートグラフを用いて打錠圧力を1000kgfで調製した。得られた各錠剤について、保存前および保存後のそれぞれの崩壊性および硬度を評価した。保存条件、評価項目および評価方法は試験例1に準じた。
その結果を、まとめて表3中に示した。
試験したすべての錠剤(試料14〜16)とも、良好な硬度と速やかな崩壊性を示した。したがって、本発明により各種重量/サイズの塩酸ピルジカイニド含有の錠剤を提供することができることが分かった。
試験例4:各種量および種類の、崩壊剤および滑沢剤を含む処方での試験
崩壊剤の種類とその添加量、および滑沢剤の種類とその添加量を種々変化させて本発明の錠剤を調製した。すなわち、下記表4に示す処方により、直接粉末圧縮法により錠剤を調製した。得られた錠剤について、保存前および保存後のそれぞれの崩壊性および硬度を評価した。保存条件、評価項目および評価方法は試験例1に準じた。
それらの結果を、まとめて表4中に示した。
表中に示した結果からも判明するように、本発明の塩酸ピルジカイニドを含有する錠剤(試料17〜22)は、いずれも保存前、保存後ともに速やかな崩壊性と充分な硬度を示していた。したがって、本発明の製造方法を用いることにより、崩壊剤や滑沢剤の種類およびその添加量に影響されることなく、錠剤硬度の経時的低下の程度が少ない錠剤が得られることが確認された。すなわち、良好な崩壊性や製造工程の改善等を目的として、各種添加剤を配合する場合に本発明は特に有用であることが示された。
試験例5:苦味に対する塩酸ピルジカイニドの配合割合の影響
本発明が提供する塩酸ピルジカイニド含有の錠剤は、有効成分である塩酸ピルジカイニド由来の苦味が存在する。その苦味の程度に対する主薬である塩酸ピルジカイニドの配合割合の影響を、試験例1で得た錠剤(試料1〜8)を用いて評価した。
すなわち、健常パネリスト3名を対象にして、試料1〜8の各錠剤1錠を口腔内に含み、苦味を感じるまでの時間を測定した。評価は、錠剤を服用する際に錠剤が口腔内に留まる時間を考慮して、苦味を感じるまでの時間を10秒未満(×印)、10〜30秒(△印)、30秒以上(○印)の3段階で判定した。
その結果を、前出の表1中にあわせて示した。
表中の結果からも判明するように、主薬である塩酸ピルジカイニドの配合割合が高くなるにつれて、苦味を感じるまでの時間が早くなっている。したがって、主薬の配合割合が高い場合には、本発明の錠剤では、苦味を抑制する処置を場合によっては施すことを考慮すべきであるといえる。
試験例6:苦味抑制添加剤による苦味の抑制試験
苦味を抑制する手段の一つとして、矯味剤/甘味剤、緩衝剤/pH調節剤、および苦味を緩和する賦形剤といった苦味抑制添加剤を処方中に配合する方法が挙げられる。これらの物質について、本発明の錠剤の苦味を抑制する効果について検討した。
主薬である塩酸ピルジカイニドの配合割合を10%として、下記表5に示す各種配合処方で錠剤を調製した。なお、結合剤として結晶セルロース(セオラス)を用いた。錠剤の調製方法は試験例1に記載の方法に準じた。また、苦味の評価は試験例5に記載した基準に従った。
その結果を、あわせて表5中に示した。
無味である賦形剤(リン酸水素カルシウム)を用いた錠剤(試料23)では、錠剤は苦かった。一方、甘味剤/矯味剤(アスパルテーム、D−マンニトール)、緩衝剤/pH調節剤(炭酸水素ナトリウム)、または苦味を緩和する賦形剤(乳糖、トウモロコシデンプン、結晶セルロース)を添加した錠剤(試料24〜29)では、苦味が抑制されていた。
したがって、本発明の錠剤では、矯味剤/甘味剤、緩衝剤/pH調節剤、あるいは苦味を緩和する賦形剤といった苦味抑制添加剤が、有効成分である塩酸ピルジカイニドに由来する錠剤の苦味を抑制する効果があることが判明した。
試験例7:コーティング皮膜による苦味の抑制試験
錠剤の服用時の苦味を抑制する手段の一つとして、錠剤をコーティング皮膜により被覆する手段がある。そこで、本発明の錠剤における苦味みがコーティング皮膜で抑制され、かつ速崩壊性を確保しうる錠剤となりうるか検討した。
これまでに得られている錠剤(素錠:試料13)を用いて、コーティング錠を調製した。すなわち、下記表6に記載する組成にて、水溶性の皮膜をコーティングした。皮膜の量は素錠100部に対して3部とした。コーティング機として、ハイコーターミニ(フロイント社製;回転数15rpm、排気温度約45℃)を用い、仕込み量は着色プラセボ錠を加えて200gとした。
なお、コーティング工程中において、錠剤の割れや欠けといった障害は認められず、本発明の錠剤の強度は良好なものであった。
得られたコーティング錠(試料30)について、試験例1に記載の方法により錠剤硬度および崩壊性を評価し、また試験例5に記載の評価法により苦味の有無を評価した。
その結果を表7に示した。
本発明の有効成分である塩酸ピルジカイニドを含有するコーティング錠(試料30)は、皮膜を施すことによりコーティング前の素錠(試料13)で認められていた苦味を抑制していた。なお、コーティング錠の製剤特性は、コーティング前の素錠(試料13)と同様に良好であった。
したがって、本発明が提供する錠剤にあっては、含有される有効成分である塩酸ピルジカイニドに由来する錠剤の苦味を、コーティング層を被覆することにより抑制できることが判明した。
産業上の利用の可能性
以上記載のように、本発明により、これまで何ら検討されていなかった不整脈治療剤である塩酸ピルジカイニドの錠剤について、不整脈治療として必須である効果の発現が速やかな速崩壊性であると共に、所望の錠剤硬度、さらに保存による錠剤硬度の低下を防止し得る錠剤が提供される。
本発明により提供される塩酸ピルジカイニドを含有する錠剤は、これまで開発されていた注射剤で認められる投与時の疼痛を回避でき、またカプセル剤で認められていた服用のし難さを回避するものであり、嚥下力の低下した患者、または幼小児や老人にも安全に服用しうるものである。
また、本発明の技術を応用することにより、塩酸ピルジカイニドの含有量を種々変化させた錠剤を提供することが可能であり、そのうえ、カプセル剤に比較して製造原価が安価でもある。したがって、本発明は医療産業上多大な効果を有するものである。
Claims (13)
- 主薬として塩酸ピルジカイニドを5〜99.5重量%含有し、乾式造粒法で得た顆粒を圧縮成型するか、混合粉末を直接圧縮成型することからなる、錠剤硬度が2.5kg以上であり、その経時的低下が抑制され、かつ速崩壊特性を有することを特徴とする塩酸ピルジカイニド含有錠剤の製造方法。
- 塩酸ピルジカイニドの含量が30〜99.5重量%である請求の範囲第1項に記載の塩酸ピルジカイニド含有錠剤の製造方法。
- 苦味抑制物質を添加した請求の範囲第1項に記載の塩酸ピルジカイニド含有錠剤の製造方法。
- 苦味抑制物質の添加量が1〜80重量%である請求の範囲第2項に記載の塩酸ピルジカイニド含有錠剤の製造方法。
- 苦味抑制物質が、白糖、ブドウ糖、乳糖、D−マンニトール、アスパルテーム、キシリトール、炭酸水素ナトリウム、炭酸マグネシウム、炭酸ナトリウム、アスコルビン酸、塩化ナトリウム、デンプン、部分アルファー化デンプンおよび結晶セルロースのいずれかである請求項の範囲第4項に記載の塩酸ピルジカイニド含有錠剤の製造方法。
- さらにコーティング層を被覆する請求の範囲第1項に記載の塩酸ピルジカイニド含有錠剤の製造方法。
- コーティング層が胃内で溶解または崩壊する皮膜である請求の範囲第6項に記載の塩酸ピルジカイニド含有錠剤の製造方法。
- 1錠当たりの主薬含量が12.5mg、25mgまたは50mgである請求の範囲第1項ないし第7項に記載の塩酸ピルジカイニド含有錠剤の製造方法。
- 請求の範囲第1項に記載の製造方法により得られた塩酸ピルジカイニド含有錠剤。
- 請求の範囲第2項ないし第8項のいずれかに記載の製造方法により得られた塩酸ピルジカイニド含有錠剤。
- 胃内崩壊性の錠剤である請求の範囲第9項または第10項に記載の塩酸ピルジカイニド含有錠剤。
- 主薬として20〜80重量%の塩酸ピルジカイニド、結晶セルロースまたはコーンスターチを含有し、さらに崩壊剤を含有する混合物を、直接圧縮成型して素錠となすか、または乾式造粒法で造粒し得られた造粒物を圧縮成型して素錠となし、次いで、当該素錠100部に対してヒドロキシプロピルメチルセルロースを基剤とする皮膜2〜4部を被覆することを特徴とする、胃内崩壊性であり、かつ速崩壊性である塩酸ピルジカイニド含有錠剤の製造方法。
- 請求の範囲第12項に記載の製造方法で得られた塩酸ピルジカイニド含有錠剤。
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