JPWO2002027844A1 - 燃料電池及びその製造方法 - Google Patents
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Abstract
燃料電極と酸素電極を備え、これら燃料電極と酸素電極が電解質膜を介して互いに対向配置されてなる燃料電池である。燃料電極、酸素電極は、針状の炭素質材料を含み、電解質膜上に直接形成されている。針状の炭素質材料としては、カーボンナノチューブや針状黒鉛等が挙げられる。燃料電極や酸素電極を電解質膜上に直接形成する方法としては、スプレー法や滴下法等が挙げられる。カーボンナノチューブのような針状の炭素質材料は、互いに絡み合って膜構造を形成し、電解質膜上に直接電極が形成される。
Description
技術分野
本発明は、燃料、例えば水素と酸素の反応により起電力を得る燃料電及びその製造方法に関する。
背景技術
近年、石油等の化石燃料に代り得る代替クリーンエネルギー源が要望されている。この種のエネルギー源として水素ガス燃料が注目されている。
水素は、単位質量あたりに含まれる化学エネルギー量が大きく、また使用に際して有害物質や地球温暖化ガスなどを放出しない等の理由から、クリーンでかつ無尽蔵な理想的なエネルギー源であると言える。
最近、水素エネルギーから電気エネルギーを取り出すことができる燃料電池の開発が盛んに行われており、大規模発電からオンサイトな自家発電、更には電気自動車用の電源等としての応用等が期待されている。
燃料電池は、電解質膜を挟んで燃料電極、例えば水素電極と酸素電極を配置し、これら電極に燃料としての水素や酸素を供給することで電池反応を起こし、起電力を得るものであり、その製造に際しては、通常、電解質膜、燃料電極、酸素電極を別々に成形し、これらを貼り合わせている。
燃料電極や酸素電極を別々に形成する場合、その取り扱いが難しく、様々な不都合が生じている。例えば、燃料電極や酸素電極の強度を考えた場合、ある程度の厚さとして100μm以上が必要になるが、電極の厚さを厚くすると反応の効率が低下し電池性能が低下する。
これを回避するために、電極の厚さを薄くすると、自立して取り扱うことができず、製造歩留まりが大幅に低下する。
発明の開示
本発明は、上述したような実情に鑑みて提案されたものであり、製造が容易で電池性能に優れた燃料電池及びその製造方法を提供することを目的とする。
本発明者等は、上述の目的を達成せんものと、種々の検討を重ねた結果、カーボンナノチューブのような針状の炭素質材料は、互いに絡み合って膜構造を形成し、これを利用することで電解質膜上に直接電極を形成することが可能であることがわかった。
本発明は、このような実験結果に基づいて案出されたものである。すなわち、本発明の燃料電池は、燃料電極と酸素電極を備え、これら燃料電極と酸素電極が電解質膜を介して互いに対向配置されてなる燃料電池において、燃料電極及び/又は酸素電極は、針状の炭素質材料を含み、電解質膜上に直接形成されている。
本発明の製造方法は、燃料電極と酸素電極を備え、これら燃料電極と酸素電極が電解質膜を介して互いに対向配置されてなる燃料電池の製造方法において、針状の炭素質材料を含む燃料電極及び/又は酸素電極をスプレー法や滴下法等により上記電解質膜上に直接形成する。
本発明においては、針状の炭素質材料を含む電極を支持体となる電解質膜上に直接形成しているので、燃料電極や酸素電極を個別に取り扱う必要がなく、機械的強度を考慮する必要がない。したがって、これら電極の厚さを薄くすることができ、その結果、作製される燃料電池においては、電池反応が効率的に行われ、電池性能が向上する。
本発明の更に他の目的、本発明によって得られる具体的な利点は、以下に説明される実施例の説明から一層明らかにされるであろう。
発明を実施するための最良の形態
以下、本発明を適用した燃料電池及びその製造方法について、図面を参照しながら詳細に説明する。
本発明に係る燃料電池は、図1に示すような構成を備えるものであり、基本的な構成として、イオン伝導性を有する電解質膜1の両面に、それぞれ燃料電極2,酸素電極3が形成されている。この燃料電池は、燃料電極2に例えば水素を供給し、酸素電極3に酸素を供給すると、電池反応が起こり、起電力が生ずる。ここで、燃料電極2には、いわゆるダイレクトメタノール方式の場合、水素源としてメタノールを供給することも可能である。
電解質膜1は、イオン伝導性を有するものであれば、任意のものを使用することができる。例えば、セパレータにイオン伝導性を有する材料を塗布したもの等が使用可能である。
具体的に、この電解質膜1に使用可能な材料としては、先ず、パーフルオロスルホン酸樹脂、例えばデュポン社製、商品名 Nafion(R)等のようなプロトン(水素イオン)伝導性の高分子材料を挙げることができる。
また、他のプロトン伝導体としては、最近提案されている、H3Mo12PO40・29H2OやSb2O5・5.4H2O等、多くの水和水を持つポリモリブデン酸類や酸化物も使用可能である。
これらの高分子材料や水和化合物は、湿潤状態に置かれると、常温付近で高いプロトン伝導性を示す。
即ち、パーフルオロスルホン酸樹脂を例にとると、そのスルホン酸基より電離したプロトンは、高分子マトリックス中に大量に取込まれている水分と結合(水素結合)してプロトン化した水、すなわちオキソニウムイオン(H3O+)を生成し、このオキソニウムイオンの形態をとってプロトンが高分子マトリックス内をスムーズに移動することができるので、この種のマトリックス材料は常温下でもかなり高いプロトン伝導効果を発揮できる。
あるいは、これらの材料とは伝導機構の全く異なるプロトン伝導体も使用可能である。
即ち、YbをドープしたSrCeO3等のペロブスカイト構造を有する複合金属酸化物等である。この種のペロブスカイト構造を有する複合金属酸化物は、水分を移動媒体としなくても、プロトン伝導性を有することが見出されている。この複合金属酸化物においては、プロトンはペロブスカイト構造の骨格を形成している酸素イオン間を単独でチャネリングして伝導されると考えられている。
さらには、電解質膜1を構成するプロトン伝導体として、炭素を主成分とする炭素質材料を母体とし、これにプロトン解離性の基が導入されてなるプロトン伝導体も使用可能である。ここで、プロトン解離性の基とは、電離によりプロトン(H+)が離れ得る官能基のことを意味する。
具体的には、プロトン解離性の基として、−OH、−OSO3H、−SO3H、−COOH、−OP(OH)2等を挙げることができる。
このプロトン伝導体においては、プロトン解離性の基を介してプロトンが移動し、イオン伝導性が発現される。
母体となる炭素質材料には、炭素を主成分とするものであれば任意の材料を使用することができるが、プロトン解離性の基を導入した後に、イオン伝導性が比較的大きく、電子伝導性が低いことが望ましい。
具体的には、炭素原子の集合体である炭素クラスターや、チューブ状炭素質であるいわゆるカーボンナノチューブを含む炭素質材料等を挙げることができる。
炭素クラスターには、種々のものがあり、フラーレンや、フラーレン構造の少なくとも一部に開放端を持つもの、ダイヤモンド構造を持つもの等が好適である。
以下、この炭素クラスターについてさらに詳細に説明する。
クラスターとは通常は、数個から数百個の原子が結合又は凝集して形成されている集合体のことであり、この原子が炭素である場合、この凝集(集合)体によってプロトン伝導性が向上すると同時に、化学的性質を保持して膜強度が十分となり、層を形成し易い。また、炭素を主成分とするクラスターとは、炭素原子が、炭素−炭素間結合の種類は問わず数個から数百個結合して形成されている集合体のことである。ただし、必ずしも100%炭素のみで構成されているとは限らず、他原子の混在もあり得る。このような場合も含めて、炭素原子が多数を占める集合体を炭素クラスターと呼ぶこととする。この集合体を図面で説明すると、図2〜図5に示す通りであり、プロトン伝導体の原料としての選択の幅が広いものである。図2〜図5においては、プロトン解離性の基は、図示を省略している。
ここで、図2に示すものは、炭素原子が多数個集合してなる、球体又は長球、又はこれらに類似する閉じた面構造を有する種々の炭素クラスターである。但し、分子状のフラーレンも併せて示す。それに対して、それらの球構造の一部が欠損した炭素クラスターを図3に種々示す。この場合は、構造中に開放端を有する点が特徴的であり、このような構造体は、アーク放電によるフラーレンの製造過程で副生成物として数多く見られるものである。炭素クラスターの大部分の炭素原子がSP3結合していると、図4に示すようなダイヤモンドの構造を持つ種々のクラスターとなる。
図5は、クラスター同士が結合した場合を種々示すものであり、このような構造体でも、本発明に適用できる。
プロトンと結合し得る基を有する炭素質材料を主成分として含有するプロトン伝導体は、乾燥状態でもプロトンが前記基から解離し易く、しかもこのプロトンは常温を含む広い温度域、少なくとも約160℃〜−40℃の範囲に亘って高伝導性を発揮することが可能である。なお、前述のようにこのプロトン伝導体は、乾燥状態でも十分なプロトン伝導性を示すが、水分が存在していても差支えない。この水分は、外部から浸入したものでもよい。
本発明においては、上記のような材料からなる電解質膜1上に、燃料電極2及び酸素電極3の両者、あるいは、いずれか一方を直接形成する。
このとき、直接形成される電極は、カーボンナノチューブや針状黒鉛(例えば、東邦レーヨン社製、商品名VGCF等)のような針状の炭素質材料を含んでいることが必要である。
図6は、カーボンナノチューブを含む炭素質材料を製造するためのアーク放電装置の一例を示すものである。この装置においては、真空チャンバと呼ばれる反応室11内にいずれもグラファイト等の炭素棒からなる陰極12と陽極13とが間隙Gを介して対向配置され、陽極13の後端は直線運動導入機構14に連絡され、各極はそれぞれ電流導入端子15a,15bに接続されている。
このような構成において、反応室11内を脱気したのち、ヘリウム等の希ガスで充満させ、各電極に直流を通電すると、陰極12と陽極13との間にアーク放電が生じ、反応室11の内面、すなわち、側壁面、天井面、底面及び陰極12上にスス状の炭素質材料が堆積する。なお、側壁面等に予め小容器を取付けておけば、その中にも炭素質材料が堆積する。
反応室11から回収されたスス状の炭素質材料には、図7Aに示すようなカーボンナノチューブ、図7Bに示すC60フラーレン、及び図示はしないがC70フラーレン、それに図7Cに示す炭素スス等が含有されている。この炭素ススは、フラーレン分子やカーボンナノチューブに成長し切れなかった曲率を有するススである。なお、このスス状の炭素質材料の典型的な組成を挙げると、C60、C70等フラーレンが10〜20%、カーボンナノチューブが数%、その外に多量の炭素スス等が含まれる。
なお、炭素質材料においては、その少なくとも表面に対し、水素分子を水素原子へ、更にはプロトンと電子へと分離できる触媒能を有する金属を公知の方法で20重量%以下、担持させることが好ましい。触媒能を有する金属としては、例えば白金、若しくは白金合金等を挙げることができる。このような触媒金属を担持させると、それを担持させない場合に比べ、電池反応の効率を高めることができる。
上述の針状の炭素質材料を用いて燃料電極2あるいは酸素電極3を電解質膜1上に直接形成するが、ここで形成方法としては、スプレー法や滴下法を挙げることができる。
スプレー法の場合、上記炭素質材料を水、あるいはエタノール等を含む溶剤に分散し、これを電解質膜1に直接吹き付ける。滴下法の場合、やはり、上記炭素質材料を水、あるいはエタノール等を含む溶剤に分散し、これを電解質膜1に直接滴下する。
これによって、電解質膜1上に上記の炭素質材料が降り積もった状態となる。このとき、上記カーボンナノチューブは直径1〜3nm程度、長さ1〜10μm程度の細長い繊維状の形状を呈し、また、針状黒鉛も直径0.1〜0.5μm程度、長さ1〜50μm程度の針状の形状を呈するため、互いに絡み合って、特段の結合剤が無くとも良好な層状体を構成する。勿論、必要に応じて、結合剤(バインダー)を併用することも可能であることは言うまでもない。
上記によって形成される燃料電極2や酸素電極3は、自立させる必要がないため、機械的強度が要求されることはなく、したがって、その厚さは例えば2〜4μm程度と、極めて薄く設定することができる。
実際に上記の方法で燃料電池を作製したところ、0.6V、100mWの能力を有する燃料電池を得ることができた。
また、カーボンナノチューブや針状黒鉛をスプレー法や滴下法で電解質膜1上に直接形成した電極は、電解質膜1に対する密着性も良く、剥がれが生ずることもない。
表1に、カーボンナノチューブ(CNT)と針状黒鉛(VGCF)の比率R[=VGCF/(CNT+VGCF)]による剥がれ頻度の測定結果を示す。
剥がれ頻度Sは、面積9cm2の膜に粘着テープを貼り付け、剥がし操作で剥がれずに残った面積を測定した。なお、表1には、比較のため、カーボンブラックやグラファイトを用いた場合の剥がれ頻度Sの値も示す。
カーボンナノチューブや針状黒鉛を使用した場合、剥がれず残る面積が大きく、良好な密着性を有することがわかる。これに対して、カーボンブラックやグラファイトを使用した場合には、剥がし操作後にほとんど残らず、電極として使用するには密着性が不足していることが明らかである。
なお、ここで作製した燃料電池の構成は、図8に示す通りである。
この燃料電池は、触媒27a及び27bをそれぞれ密着又は分散させた互いに対向する負極(燃料極又は水素極)28及び正極(酸素極)29を有し、これらの両極間にプロトン伝導体部30が挟持されている。これら負極28、正極29からは、それぞれ端子28a,29aが引き出されており、外部回路と接続するような構造とされている。
この燃料電池では、使用時には、負極28側では導入口31から水素が供給され、排出口32から排出される。なお、排出口32は、設けないこともある。燃料(H2)33が流路34を通過する間にプロトンを発生し、このプロトンはプロトン伝導体部30を移動し正極29に達し、そこで導入口35から流路36に供給されて排気口37へ向かう酸素(空気)38と反応し、これにより所望の起電力が取り出される。
以上の構成において、水素供給源39には、水素吸蔵用炭素質材料や水素吸蔵合金、水素ボンベ等が収納されている。なお、予めこの材料に水素を吸蔵させておき、水素供給源89に収納してもよい。
産業上の利用可能性
本発明は、製造が容易で電池性能に優れた燃料電池を提供することが可能である。
また、本発明の製造方法は、燃料電極や酸素電極を個別に取り扱う必要がないため、煩雑な作業が不要であり、製造歩留まりを大幅に向上することができる。
【図面の簡単な説明】
図1は、燃料電池の基本構成を示す概略断面図である。
図2は、炭素クラスターの種々の例を示す模式図である。
図3は、炭素クラスターの他の例である部分フラーレン構造を示す模式図である。
図4は、炭素クラスターの更に他の例であるダイヤモンド構造を示す模式図である。
図5は、炭素クラスターの更に他の例であるクラスター同士が結合しているものを示す模式図である。
図6は、カーボンナノチューブを作成するためのアーク放電装置の一例を示す模式図である。
図7A、図7B、図7Cは、アーク放電により作製される炭素ススに含まれる各種炭素質材料を示す模式図である。
図8は、燃料電池の具体的構成例を示す模式図である。
本発明は、燃料、例えば水素と酸素の反応により起電力を得る燃料電及びその製造方法に関する。
背景技術
近年、石油等の化石燃料に代り得る代替クリーンエネルギー源が要望されている。この種のエネルギー源として水素ガス燃料が注目されている。
水素は、単位質量あたりに含まれる化学エネルギー量が大きく、また使用に際して有害物質や地球温暖化ガスなどを放出しない等の理由から、クリーンでかつ無尽蔵な理想的なエネルギー源であると言える。
最近、水素エネルギーから電気エネルギーを取り出すことができる燃料電池の開発が盛んに行われており、大規模発電からオンサイトな自家発電、更には電気自動車用の電源等としての応用等が期待されている。
燃料電池は、電解質膜を挟んで燃料電極、例えば水素電極と酸素電極を配置し、これら電極に燃料としての水素や酸素を供給することで電池反応を起こし、起電力を得るものであり、その製造に際しては、通常、電解質膜、燃料電極、酸素電極を別々に成形し、これらを貼り合わせている。
燃料電極や酸素電極を別々に形成する場合、その取り扱いが難しく、様々な不都合が生じている。例えば、燃料電極や酸素電極の強度を考えた場合、ある程度の厚さとして100μm以上が必要になるが、電極の厚さを厚くすると反応の効率が低下し電池性能が低下する。
これを回避するために、電極の厚さを薄くすると、自立して取り扱うことができず、製造歩留まりが大幅に低下する。
発明の開示
本発明は、上述したような実情に鑑みて提案されたものであり、製造が容易で電池性能に優れた燃料電池及びその製造方法を提供することを目的とする。
本発明者等は、上述の目的を達成せんものと、種々の検討を重ねた結果、カーボンナノチューブのような針状の炭素質材料は、互いに絡み合って膜構造を形成し、これを利用することで電解質膜上に直接電極を形成することが可能であることがわかった。
本発明は、このような実験結果に基づいて案出されたものである。すなわち、本発明の燃料電池は、燃料電極と酸素電極を備え、これら燃料電極と酸素電極が電解質膜を介して互いに対向配置されてなる燃料電池において、燃料電極及び/又は酸素電極は、針状の炭素質材料を含み、電解質膜上に直接形成されている。
本発明の製造方法は、燃料電極と酸素電極を備え、これら燃料電極と酸素電極が電解質膜を介して互いに対向配置されてなる燃料電池の製造方法において、針状の炭素質材料を含む燃料電極及び/又は酸素電極をスプレー法や滴下法等により上記電解質膜上に直接形成する。
本発明においては、針状の炭素質材料を含む電極を支持体となる電解質膜上に直接形成しているので、燃料電極や酸素電極を個別に取り扱う必要がなく、機械的強度を考慮する必要がない。したがって、これら電極の厚さを薄くすることができ、その結果、作製される燃料電池においては、電池反応が効率的に行われ、電池性能が向上する。
本発明の更に他の目的、本発明によって得られる具体的な利点は、以下に説明される実施例の説明から一層明らかにされるであろう。
発明を実施するための最良の形態
以下、本発明を適用した燃料電池及びその製造方法について、図面を参照しながら詳細に説明する。
本発明に係る燃料電池は、図1に示すような構成を備えるものであり、基本的な構成として、イオン伝導性を有する電解質膜1の両面に、それぞれ燃料電極2,酸素電極3が形成されている。この燃料電池は、燃料電極2に例えば水素を供給し、酸素電極3に酸素を供給すると、電池反応が起こり、起電力が生ずる。ここで、燃料電極2には、いわゆるダイレクトメタノール方式の場合、水素源としてメタノールを供給することも可能である。
電解質膜1は、イオン伝導性を有するものであれば、任意のものを使用することができる。例えば、セパレータにイオン伝導性を有する材料を塗布したもの等が使用可能である。
具体的に、この電解質膜1に使用可能な材料としては、先ず、パーフルオロスルホン酸樹脂、例えばデュポン社製、商品名 Nafion(R)等のようなプロトン(水素イオン)伝導性の高分子材料を挙げることができる。
また、他のプロトン伝導体としては、最近提案されている、H3Mo12PO40・29H2OやSb2O5・5.4H2O等、多くの水和水を持つポリモリブデン酸類や酸化物も使用可能である。
これらの高分子材料や水和化合物は、湿潤状態に置かれると、常温付近で高いプロトン伝導性を示す。
即ち、パーフルオロスルホン酸樹脂を例にとると、そのスルホン酸基より電離したプロトンは、高分子マトリックス中に大量に取込まれている水分と結合(水素結合)してプロトン化した水、すなわちオキソニウムイオン(H3O+)を生成し、このオキソニウムイオンの形態をとってプロトンが高分子マトリックス内をスムーズに移動することができるので、この種のマトリックス材料は常温下でもかなり高いプロトン伝導効果を発揮できる。
あるいは、これらの材料とは伝導機構の全く異なるプロトン伝導体も使用可能である。
即ち、YbをドープしたSrCeO3等のペロブスカイト構造を有する複合金属酸化物等である。この種のペロブスカイト構造を有する複合金属酸化物は、水分を移動媒体としなくても、プロトン伝導性を有することが見出されている。この複合金属酸化物においては、プロトンはペロブスカイト構造の骨格を形成している酸素イオン間を単独でチャネリングして伝導されると考えられている。
さらには、電解質膜1を構成するプロトン伝導体として、炭素を主成分とする炭素質材料を母体とし、これにプロトン解離性の基が導入されてなるプロトン伝導体も使用可能である。ここで、プロトン解離性の基とは、電離によりプロトン(H+)が離れ得る官能基のことを意味する。
具体的には、プロトン解離性の基として、−OH、−OSO3H、−SO3H、−COOH、−OP(OH)2等を挙げることができる。
このプロトン伝導体においては、プロトン解離性の基を介してプロトンが移動し、イオン伝導性が発現される。
母体となる炭素質材料には、炭素を主成分とするものであれば任意の材料を使用することができるが、プロトン解離性の基を導入した後に、イオン伝導性が比較的大きく、電子伝導性が低いことが望ましい。
具体的には、炭素原子の集合体である炭素クラスターや、チューブ状炭素質であるいわゆるカーボンナノチューブを含む炭素質材料等を挙げることができる。
炭素クラスターには、種々のものがあり、フラーレンや、フラーレン構造の少なくとも一部に開放端を持つもの、ダイヤモンド構造を持つもの等が好適である。
以下、この炭素クラスターについてさらに詳細に説明する。
クラスターとは通常は、数個から数百個の原子が結合又は凝集して形成されている集合体のことであり、この原子が炭素である場合、この凝集(集合)体によってプロトン伝導性が向上すると同時に、化学的性質を保持して膜強度が十分となり、層を形成し易い。また、炭素を主成分とするクラスターとは、炭素原子が、炭素−炭素間結合の種類は問わず数個から数百個結合して形成されている集合体のことである。ただし、必ずしも100%炭素のみで構成されているとは限らず、他原子の混在もあり得る。このような場合も含めて、炭素原子が多数を占める集合体を炭素クラスターと呼ぶこととする。この集合体を図面で説明すると、図2〜図5に示す通りであり、プロトン伝導体の原料としての選択の幅が広いものである。図2〜図5においては、プロトン解離性の基は、図示を省略している。
ここで、図2に示すものは、炭素原子が多数個集合してなる、球体又は長球、又はこれらに類似する閉じた面構造を有する種々の炭素クラスターである。但し、分子状のフラーレンも併せて示す。それに対して、それらの球構造の一部が欠損した炭素クラスターを図3に種々示す。この場合は、構造中に開放端を有する点が特徴的であり、このような構造体は、アーク放電によるフラーレンの製造過程で副生成物として数多く見られるものである。炭素クラスターの大部分の炭素原子がSP3結合していると、図4に示すようなダイヤモンドの構造を持つ種々のクラスターとなる。
図5は、クラスター同士が結合した場合を種々示すものであり、このような構造体でも、本発明に適用できる。
プロトンと結合し得る基を有する炭素質材料を主成分として含有するプロトン伝導体は、乾燥状態でもプロトンが前記基から解離し易く、しかもこのプロトンは常温を含む広い温度域、少なくとも約160℃〜−40℃の範囲に亘って高伝導性を発揮することが可能である。なお、前述のようにこのプロトン伝導体は、乾燥状態でも十分なプロトン伝導性を示すが、水分が存在していても差支えない。この水分は、外部から浸入したものでもよい。
本発明においては、上記のような材料からなる電解質膜1上に、燃料電極2及び酸素電極3の両者、あるいは、いずれか一方を直接形成する。
このとき、直接形成される電極は、カーボンナノチューブや針状黒鉛(例えば、東邦レーヨン社製、商品名VGCF等)のような針状の炭素質材料を含んでいることが必要である。
図6は、カーボンナノチューブを含む炭素質材料を製造するためのアーク放電装置の一例を示すものである。この装置においては、真空チャンバと呼ばれる反応室11内にいずれもグラファイト等の炭素棒からなる陰極12と陽極13とが間隙Gを介して対向配置され、陽極13の後端は直線運動導入機構14に連絡され、各極はそれぞれ電流導入端子15a,15bに接続されている。
このような構成において、反応室11内を脱気したのち、ヘリウム等の希ガスで充満させ、各電極に直流を通電すると、陰極12と陽極13との間にアーク放電が生じ、反応室11の内面、すなわち、側壁面、天井面、底面及び陰極12上にスス状の炭素質材料が堆積する。なお、側壁面等に予め小容器を取付けておけば、その中にも炭素質材料が堆積する。
反応室11から回収されたスス状の炭素質材料には、図7Aに示すようなカーボンナノチューブ、図7Bに示すC60フラーレン、及び図示はしないがC70フラーレン、それに図7Cに示す炭素スス等が含有されている。この炭素ススは、フラーレン分子やカーボンナノチューブに成長し切れなかった曲率を有するススである。なお、このスス状の炭素質材料の典型的な組成を挙げると、C60、C70等フラーレンが10〜20%、カーボンナノチューブが数%、その外に多量の炭素スス等が含まれる。
なお、炭素質材料においては、その少なくとも表面に対し、水素分子を水素原子へ、更にはプロトンと電子へと分離できる触媒能を有する金属を公知の方法で20重量%以下、担持させることが好ましい。触媒能を有する金属としては、例えば白金、若しくは白金合金等を挙げることができる。このような触媒金属を担持させると、それを担持させない場合に比べ、電池反応の効率を高めることができる。
上述の針状の炭素質材料を用いて燃料電極2あるいは酸素電極3を電解質膜1上に直接形成するが、ここで形成方法としては、スプレー法や滴下法を挙げることができる。
スプレー法の場合、上記炭素質材料を水、あるいはエタノール等を含む溶剤に分散し、これを電解質膜1に直接吹き付ける。滴下法の場合、やはり、上記炭素質材料を水、あるいはエタノール等を含む溶剤に分散し、これを電解質膜1に直接滴下する。
これによって、電解質膜1上に上記の炭素質材料が降り積もった状態となる。このとき、上記カーボンナノチューブは直径1〜3nm程度、長さ1〜10μm程度の細長い繊維状の形状を呈し、また、針状黒鉛も直径0.1〜0.5μm程度、長さ1〜50μm程度の針状の形状を呈するため、互いに絡み合って、特段の結合剤が無くとも良好な層状体を構成する。勿論、必要に応じて、結合剤(バインダー)を併用することも可能であることは言うまでもない。
上記によって形成される燃料電極2や酸素電極3は、自立させる必要がないため、機械的強度が要求されることはなく、したがって、その厚さは例えば2〜4μm程度と、極めて薄く設定することができる。
実際に上記の方法で燃料電池を作製したところ、0.6V、100mWの能力を有する燃料電池を得ることができた。
また、カーボンナノチューブや針状黒鉛をスプレー法や滴下法で電解質膜1上に直接形成した電極は、電解質膜1に対する密着性も良く、剥がれが生ずることもない。
表1に、カーボンナノチューブ(CNT)と針状黒鉛(VGCF)の比率R[=VGCF/(CNT+VGCF)]による剥がれ頻度の測定結果を示す。
剥がれ頻度Sは、面積9cm2の膜に粘着テープを貼り付け、剥がし操作で剥がれずに残った面積を測定した。なお、表1には、比較のため、カーボンブラックやグラファイトを用いた場合の剥がれ頻度Sの値も示す。
カーボンナノチューブや針状黒鉛を使用した場合、剥がれず残る面積が大きく、良好な密着性を有することがわかる。これに対して、カーボンブラックやグラファイトを使用した場合には、剥がし操作後にほとんど残らず、電極として使用するには密着性が不足していることが明らかである。
なお、ここで作製した燃料電池の構成は、図8に示す通りである。
この燃料電池は、触媒27a及び27bをそれぞれ密着又は分散させた互いに対向する負極(燃料極又は水素極)28及び正極(酸素極)29を有し、これらの両極間にプロトン伝導体部30が挟持されている。これら負極28、正極29からは、それぞれ端子28a,29aが引き出されており、外部回路と接続するような構造とされている。
この燃料電池では、使用時には、負極28側では導入口31から水素が供給され、排出口32から排出される。なお、排出口32は、設けないこともある。燃料(H2)33が流路34を通過する間にプロトンを発生し、このプロトンはプロトン伝導体部30を移動し正極29に達し、そこで導入口35から流路36に供給されて排気口37へ向かう酸素(空気)38と反応し、これにより所望の起電力が取り出される。
以上の構成において、水素供給源39には、水素吸蔵用炭素質材料や水素吸蔵合金、水素ボンベ等が収納されている。なお、予めこの材料に水素を吸蔵させておき、水素供給源89に収納してもよい。
産業上の利用可能性
本発明は、製造が容易で電池性能に優れた燃料電池を提供することが可能である。
また、本発明の製造方法は、燃料電極や酸素電極を個別に取り扱う必要がないため、煩雑な作業が不要であり、製造歩留まりを大幅に向上することができる。
【図面の簡単な説明】
図1は、燃料電池の基本構成を示す概略断面図である。
図2は、炭素クラスターの種々の例を示す模式図である。
図3は、炭素クラスターの他の例である部分フラーレン構造を示す模式図である。
図4は、炭素クラスターの更に他の例であるダイヤモンド構造を示す模式図である。
図5は、炭素クラスターの更に他の例であるクラスター同士が結合しているものを示す模式図である。
図6は、カーボンナノチューブを作成するためのアーク放電装置の一例を示す模式図である。
図7A、図7B、図7Cは、アーク放電により作製される炭素ススに含まれる各種炭素質材料を示す模式図である。
図8は、燃料電池の具体的構成例を示す模式図である。
Claims (6)
- 燃料電極と酸素電極を備え、これら燃料電極と酸素電極が電解質膜を介して互いに対向配置されてなる燃料電池において、
上記燃料電極及び/又は酸素電極は、針状の炭素質材料を含み、上記電解質膜上に直接形成されていることを特徴とする燃料電池。 - 上記針状の炭素質材料を含む燃料電極及び/又は酸素電極は、厚さが5μm以下であることを特徴とする請求の範囲第1項記載の燃料電池。
- 上記針状の炭素質材料は、カーボンナノチューブであることを特徴とする請求の範囲第1項記載の燃料電池。
- 上記針状の炭素質材料は、針状黒鉛であることを特徴とする請求の範囲第1項記載の燃料電池。
- 燃料電極と酸素電極を備え、これら燃料電極と酸素電極が電解質膜を介して互いに対向配置されてなる燃料電池の製造方法において、
針状の炭素質材料を含む燃料電極及び/又は酸素電極を上記電解質膜上に直接形成することを特徴とする燃料電池の製造方法。 - 上記針状の炭素質材料を含む燃料電極及び/又は酸素電極をスプレー法又は滴下法により上記電解質膜上に直接形成することを特徴とする請求の範囲第5項記載の燃料電池の製造方法。
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