JPWO2002027829A1 - 燃料電池の製造方法 - Google Patents
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Abstract
本発明は、炭素系電極間でアーク放電を起こし、発生する炭素質材料をプロトン伝導体上に直接堆積させて燃料電極、酸素電極とする。このとき、炭素系電極に触媒金属を混入し、燃料電極や酸素電極に触媒金属を担持させる。プロトン伝導体には、炭素を主成分とする炭素質材料を母体としプロトン解離性の基を導入したものが用いられる。アーク放電により発生する炭素質材料を支持体となるプロトン伝導体上に直接堆積させて電極を形成しているので、電極の厚さを薄くすることができ、その結果、作製される燃料電池においては、電池反応が効率的に行われ、電池性能が向上する。
Description
技術分野
本発明は、燃料電池の製造方法に関し、特に、燃料電極や酸素電極に炭素質材料を用いた燃料電池の製造方法に関する。
背景技術
近年、石油等の化石燃料に代り得る代替クリーンエネルギー源が要望されている。この種のエネルギー源として水素ガス燃料が注目されている。
水素は、単位質量あたりに含まれる化学エネルギー量が大きく、また使用に際して有害物質や地球温暖化ガスなどを放出しない等の理由から、クリーンでかつ無尽蔵な理想的なエネルギー源であると言える。
最近、水素エネルギーから電気エネルギーを取り出すことができる燃料電池の開発が盛んに行われており、大規模発電からオンサイトな自家発電、更には電気自動車用の電源等としての応用等が期待されている。
燃料電池は、プロトン伝導体膜を挟んで燃料電極、例えば水素電極と酸素電極を配置し、これら電極に燃料としての水素や酸素を供給することで電池反応を起こし、起電力を得るものであり、その製造に際しては、通常、プロトン伝導体膜、燃料電極、酸素電極を別々に成形し、これらを貼り合わせている。
この種の電池を構成する燃料電極や酸素電極を別々に形成する場合、その取り扱いが難しく、様々な不都合が生じている。例えば、燃料電極や酸素電極の強度を考えた場合、ある程度の厚さ、例えば、100μm以上が必要になるが、電極の厚さを厚くすると、反応の効率が低下し、電池性能が低下する。
これを回避するために、電極の厚さを薄くすると、自立したままの状態で膜として取り扱うことができず、製造歩留まりが大幅に低下する。
また、その製造を考えたとき、電極材料を予め成形し、これをプロトン伝導体に貼り合わせるという工程は、非常に煩雑で、生産性の点で不利である。
発明の開示
本発明は、上述したような実情に鑑みて提案されたものであり、電池性能に優れた燃料電池を生産性良く製造し得る燃料電池の製造方法を提供することを目的とする。
本発明者等は、上述の目的を達成せんものと、種々の検討を重ねてきた。その結果、アーク放電空間中にプロトン伝導体を置くことで、プロトン伝導体上に炭素質材料からなる電極を直接形成することが可能であることがわかった。
本発明は、このような実験結果に基づいて案出されたものである。すなわち、本発明の燃料電池の製造方法は、炭素系電極間でアーク放電を起こし、発生する炭素質材料をプロトン伝導体上に直接堆積させて燃料電極及び/又は酸素電極とするものである。
本発明は、アーク放電により発生する炭素質材料を支持体となるプロトン伝導体上に直接堆積させて電極を形成しているので、燃料電極や酸素電極を個別に取り扱う必要がなく、機械的強度を考慮する必要がない。これら電極の厚さを薄くすることができ、その結果、作製される燃料電池においては、電池反応が効率的に行われ、電池性能が向上する。
また、燃料電極や酸素電極を別個に作製したり、これをプロトン伝導体に貼り付ける等の作業が不要であり、生産性が大幅に改善される。
本発明の更に他の目的、本発明によって得られる具体的な利点は、以下に説明される実施例の説明から一層明らかにされるであろう。
発明を実施するための最良の形態
以下、本発明を適用した燃料電池の製造方法について、図面を参照しながら詳細に説明する。
本発明方法により製造される燃料電池は、図1に示すような構成を備えるものであり、基本的な構成として、プロトン伝導性を有するプロトン伝導体膜1の両面に、それぞれ燃料電極2,酸素電極3を形成している。
この燃料電池は、燃料電極2に例えば水素が供給され、酸素電極3に酸素が供給されると、電池反応が起こり起電力が生ずる。ここで、燃料電極2には、いわゆるダイレクトメタノール方式の場合、水素源としてメタノールを供給することも可能である。
プロトン伝導体膜1は、プロトン伝導性を有する材料であれば、任意のものを使用することができる。例えば、セパレータにプロトン伝導性を有する材料を塗布し、担持させたもの等も使用可能である。
具体的に、このプロトン伝導体膜1に使用可能な材料としては、先ず、パーフルオロスルホン酸樹脂(例えばデュポン社製、商品名 Nafion(R)等)のようなプロトン(水素イオン)伝導性の高分子材料を挙げることができる。
また、他のプロトン伝導体としては、最近提案されている、H3Mo12PO40・29H2OやSb2O5・5.4H2O等、多くの水和水を持つポリモリブデン酸類や酸化物も使用可能である。
これらの高分子材料や水和化合物は、湿潤状態に置かれると、常温付近で高いプロトン伝導性を示す。
即ち、パーフルオロスルホン酸樹脂を例にとると、そのスルホン酸基より電離したプロトンは、高分子マトリックス中に大量に取込まれている水分と結合(水素結合)してプロトン化した水、つまりオキソニウムイオン(H3O+)を生成し、このオキソニウムイオンの形態をとってプロトンが高分子マトリックス内をスムーズに移動することができるので、この種のマトリックス材料は常温下でもかなり高いプロトン伝導効果を発揮できる。
あるいは、これらの材料とは伝導機構の全く異なるプロトン伝導体も使用可能である。
即ち、YbをドープしたSrCeO3等のペロブスカイト構造を有する複合金属酸化物等である。この種のペロブスカイト構造を有する複合金属酸化物は、水分を移動媒体としなくても、プロトン伝導性を有することが見出されている。この複合金属酸化物においては、プロトンはペロブスカイト構造の骨格を形成している酸素イオン間を単独でチャネリングして伝導されると考えられている。
さらには、プロトン伝導体膜1を構成するプロトン伝導体として、炭素を主成分とする炭素質材料を母体とし、これにプロトン解離性の基が導入されてなるプロトン伝導体も使用可能である。ここで、「プロトン解離性の基」とは、電離によりプロトン(H+)が離れ得る官能基のことを意味する。
具体的には、プロトン解離性の基として、−OH、−OSO3H、−SO3H、−COOH、−OP(OH)2等を挙げることができる。
このプロトン伝導体においては、プロトン解離性の基を介してプロトンが移動し、イオン伝導性が発現される。
母体となる炭素質材料には、炭素を主成分とするものであれば任意の材料を使用することができるが、プロトン解離性の基を導入した後に、イオン伝導性が電子伝導性よりも大であることが必要である。
具体的には、炭素原子の集合体である炭素クラスターや、チューブ状炭素質であるカーボンナノチューブを含む炭素質材料等を挙げることができる。
炭素クラスターには、種々のものがあり、フラーレンや、フラーレン構造の少なくとも一部に開放端を持つものやダイヤモンド構造を持つものを用いて好適である。
以下、この炭素クラスターについてさらに詳細に説明する。
クラスターとは通常は、数個から数百個の原子が結合又は凝集して形成されている集合体のことであり、この原子が炭素である場合、この集合体によってプロトン伝導性が向上すると同時に、化学的性質を保持して膜強度が十分となり、層を形成し易い。また、「炭素を主成分とするクラスター」とは、炭素原子が、炭素−炭素間結合の種類は問わず数個から数百個結合して形成されている集合体のことである。但し、必ずしも100%炭素のみで構成されているとは限らず、他原子の混在もあり得る。このような場合も含めて、炭素原子が多数を占める集合体を炭素クラスターと呼ぶ。この集合体を図面で説明すると、図2〜図5に示す通りであり、プロトン伝導体の原料としての選択の幅が広いものである。なお、ここでは、プロトン解離性の基は、図示を省略している。
図2に示すものは、炭素原子が多数個集合してなる、球体又は長球、又はこれらに類似する閉じた面構造を有する種々の炭素クラスターである。但し、分子状のフラーレンも併せて示す。それに対して、それらの球構造の一部が欠損した炭素クラスターを図3に種々示す。この場合は、構造中に開放端を有する点が特徴的であり、このような構造体は、アーク放電によるフラーレンの製造過程で副生成物として数多く見られるものである。炭素クラスターの大部分の炭素原子がSP3結合していると、図5に示すようなダイヤモンドの構造を持つ種々のクラスターとなる。
図5は、クラスター同士が結合した場合を種々示すものであり、このような構造体でも、本発明に適用できる。
プロトン解離性の基を有する炭素質材料を主成分として含有するプロトン伝導体は、乾燥状態でもプロトンが前記基から解離し易く、しかもこのプロトンは常温を含む広い温度域、少なくとも約160℃〜−40℃の範囲に亘って高伝導性を発揮することが可能である。前述のように、プロトン伝導体は、乾燥状態でも十分なプロトン伝導性を示すが、水分が存在していても差支えない。この水分は、外部から浸入したものでもよい。
本発明においては、上記のような材料からなるプロトン伝導体膜1上に、燃料電極2及び酸素電極3の両者、あるいは、いずれか一方をアーク放電法により直接形成する。
図6は、アーク放電装置の一例を示すものである。この装置においては、真空チャンバと呼ばれる反応室11内にいずれもグラファイト等の炭素棒からなる陰極12と陽極13とが間隙Gを介して対向配置され、陽極13の後端は直線運動導入機構14に連結され、各極はそれぞれ電流導入端子15a,15bに接続されている。
このような構成において、反応室11内を脱気したのち、ヘリウム等の希ガスで充満させ、各電極に直流を通電すると、陰極12と陽極13との間にアーク放電が生じ、反応室11の内面、すなわち、側壁面、天井面、底面及び陰極12上等にスス状の炭素質材料が堆積する。
生成するスス状の炭素質材料には、図7Aに示すようなカーボンナノチューブ、図7Bに示すC60フラーレン、及び図示はしないがC70フラーレン、それに図7Cに示す炭素スス等が含有されている。この炭素ススは、フラーレン分子やカーボンナノチューブに成長し切れなかった曲率を有するススである。なお、このスス状の炭素質材料の典型的な組成を挙げると、C60、C70等フラーレンが10〜20%、カーボンナノチューブが数%、その外に多量の炭素スス等が含まれる。
本発明では、上記反応室11内にプロトン伝導体20を置き、この上に上記炭素質材料を堆積させ、燃料電極あるいは酸素電極として機能する電極層21を形成する。
アーク放電は、常圧以下、例えば0.1〜600Torr程度の圧力下、不活性ガス雰囲気中で行われる。不活性ガス雰囲気中には、若干、他のガスが含まれていてもよい。
アーク放電を起こすための電流密度は、0.8A/mm2以上であればよく、通常は0.8A/mm2〜10A/mm2の範囲内に設定される。
プロトン伝導体21上に堆積する炭素質材料には、上述の通りカーボンナノチューブが含まれている。カーボンナノチューブは、直径1〜3nm程度、長さ1〜10μm程度の細長い繊維状であり、互いに絡み合って、特段の結合剤が無くとも良好な層状体を構成する。
なお、炭素質材料においては、その少なくとも表面に対し、水素分子を水素原子へ、更にはプロトンと電子へと分離できる触媒能を有する金属を20重量%以下、担持させることが好ましい。触媒能を有する金属としては、例えば白金、若しくは白金合金等を挙げることができる。このような触媒金属を担持させると、それを担持させない場合に比べ、電池反応の効率を高めることができる。
触媒能を有する金属を炭素質材料に担持させるためには、陰極12あるいは陽極13に用いる炭素棒に触媒能を有する金属を混入しておけばよい。これにより、必然的に堆積する炭素質材料中に触媒金属が含まれる。
上述のようにして形成される電極層21は、自立させる必要がないため、機械的強度が要求されることはなく、したがって、その厚さは10μm以下、例えば2〜4μm程度と、極めて薄く設定することができる。
以下において、本発明方法により製造した燃料電池と比較例の製造方法により製造した燃料電池の発電評価(出力評価)を行った。
実施例1
実施例1では、白金を10wt%混合した黒鉛電極(99.9%)を電極とし、アルゴン(Ar)ガス雰囲気中で、電流密度1Aの条件下でアーク放電を行った。真空チャンバー内には、厚さ20μmのプロトン伝導膜(ナフィオン)を設置した。炭素電極から伝導膜までの距離は、1mとした。アーク放電は、15分行った。放電後、膜を取り出し、膜厚計で膜厚測定を行った。
膜の組成分析の結果、白金含有量は2wt%であった。カーボン重力は、20mgであった。仕込み比との違いは、カーボンと白金の蒸発速度差を反映しているものと考えられる。この膜付き電極を用いて、燃料極には、水素ガス、酸素極には乾燥空気を流通させて発電させた。発電は、印加電圧を0.6Vとして行った。このときの出力特性は、70mW/cm2であった。
比較例1
比較例1では、白金含有量2wt%の市販の触媒担持カーボンを用いて、燃料極、酸素極を構成した。ここでは、触媒担持カーボンをバインダーによって混練することで電極とした。カーボン量は、20mgであった。発電は、印加電圧を0.6Vとして行った。このときの出力特性は、60mW/cm2であった。
実施例1と比較例1との結果から明らかなように、アーク放電法によって形成された電極は、製造工程が簡略化できるとともに、比較例1に比し優れた出力特性を示すことが明らかである。
産業上の利用可能性
本発明は、燃料電極や酸素電極を個別に取り扱う必要がないため、煩雑な作業が不要であり、製造歩留まりを大幅に向上することができる。
また、燃料電極や酸素電極には、自立させた機械特性が要求されないため、厚さを薄くすることができ、エネルギー密度等の電池特性に優れた燃料電池の製造が可能である。
【図面の簡単な説明】
図1は、燃料電池の基本構成を示す概略断面図である。
図2は、炭素クラスターの種々の例を示す模式図である。
図3は、炭素クラスターの他の例である部分フラーレン構造を示す模式図である。
図4は、炭素クラスターの更に他の例であるダイヤモンド構造を示す模式図である。
図5は、炭素クラスターの更に他の例であるクラスター同士が結合しているものを示す模式図である。
図6は、カーボンナノチューブを作成するためのアーク放電装置の一例を示す模式図である。
図7A、図7B、図7Cは、アーク放電により作製される炭素ススに含まれる各種炭素質材料を示す模式図である。
本発明は、燃料電池の製造方法に関し、特に、燃料電極や酸素電極に炭素質材料を用いた燃料電池の製造方法に関する。
背景技術
近年、石油等の化石燃料に代り得る代替クリーンエネルギー源が要望されている。この種のエネルギー源として水素ガス燃料が注目されている。
水素は、単位質量あたりに含まれる化学エネルギー量が大きく、また使用に際して有害物質や地球温暖化ガスなどを放出しない等の理由から、クリーンでかつ無尽蔵な理想的なエネルギー源であると言える。
最近、水素エネルギーから電気エネルギーを取り出すことができる燃料電池の開発が盛んに行われており、大規模発電からオンサイトな自家発電、更には電気自動車用の電源等としての応用等が期待されている。
燃料電池は、プロトン伝導体膜を挟んで燃料電極、例えば水素電極と酸素電極を配置し、これら電極に燃料としての水素や酸素を供給することで電池反応を起こし、起電力を得るものであり、その製造に際しては、通常、プロトン伝導体膜、燃料電極、酸素電極を別々に成形し、これらを貼り合わせている。
この種の電池を構成する燃料電極や酸素電極を別々に形成する場合、その取り扱いが難しく、様々な不都合が生じている。例えば、燃料電極や酸素電極の強度を考えた場合、ある程度の厚さ、例えば、100μm以上が必要になるが、電極の厚さを厚くすると、反応の効率が低下し、電池性能が低下する。
これを回避するために、電極の厚さを薄くすると、自立したままの状態で膜として取り扱うことができず、製造歩留まりが大幅に低下する。
また、その製造を考えたとき、電極材料を予め成形し、これをプロトン伝導体に貼り合わせるという工程は、非常に煩雑で、生産性の点で不利である。
発明の開示
本発明は、上述したような実情に鑑みて提案されたものであり、電池性能に優れた燃料電池を生産性良く製造し得る燃料電池の製造方法を提供することを目的とする。
本発明者等は、上述の目的を達成せんものと、種々の検討を重ねてきた。その結果、アーク放電空間中にプロトン伝導体を置くことで、プロトン伝導体上に炭素質材料からなる電極を直接形成することが可能であることがわかった。
本発明は、このような実験結果に基づいて案出されたものである。すなわち、本発明の燃料電池の製造方法は、炭素系電極間でアーク放電を起こし、発生する炭素質材料をプロトン伝導体上に直接堆積させて燃料電極及び/又は酸素電極とするものである。
本発明は、アーク放電により発生する炭素質材料を支持体となるプロトン伝導体上に直接堆積させて電極を形成しているので、燃料電極や酸素電極を個別に取り扱う必要がなく、機械的強度を考慮する必要がない。これら電極の厚さを薄くすることができ、その結果、作製される燃料電池においては、電池反応が効率的に行われ、電池性能が向上する。
また、燃料電極や酸素電極を別個に作製したり、これをプロトン伝導体に貼り付ける等の作業が不要であり、生産性が大幅に改善される。
本発明の更に他の目的、本発明によって得られる具体的な利点は、以下に説明される実施例の説明から一層明らかにされるであろう。
発明を実施するための最良の形態
以下、本発明を適用した燃料電池の製造方法について、図面を参照しながら詳細に説明する。
本発明方法により製造される燃料電池は、図1に示すような構成を備えるものであり、基本的な構成として、プロトン伝導性を有するプロトン伝導体膜1の両面に、それぞれ燃料電極2,酸素電極3を形成している。
この燃料電池は、燃料電極2に例えば水素が供給され、酸素電極3に酸素が供給されると、電池反応が起こり起電力が生ずる。ここで、燃料電極2には、いわゆるダイレクトメタノール方式の場合、水素源としてメタノールを供給することも可能である。
プロトン伝導体膜1は、プロトン伝導性を有する材料であれば、任意のものを使用することができる。例えば、セパレータにプロトン伝導性を有する材料を塗布し、担持させたもの等も使用可能である。
具体的に、このプロトン伝導体膜1に使用可能な材料としては、先ず、パーフルオロスルホン酸樹脂(例えばデュポン社製、商品名 Nafion(R)等)のようなプロトン(水素イオン)伝導性の高分子材料を挙げることができる。
また、他のプロトン伝導体としては、最近提案されている、H3Mo12PO40・29H2OやSb2O5・5.4H2O等、多くの水和水を持つポリモリブデン酸類や酸化物も使用可能である。
これらの高分子材料や水和化合物は、湿潤状態に置かれると、常温付近で高いプロトン伝導性を示す。
即ち、パーフルオロスルホン酸樹脂を例にとると、そのスルホン酸基より電離したプロトンは、高分子マトリックス中に大量に取込まれている水分と結合(水素結合)してプロトン化した水、つまりオキソニウムイオン(H3O+)を生成し、このオキソニウムイオンの形態をとってプロトンが高分子マトリックス内をスムーズに移動することができるので、この種のマトリックス材料は常温下でもかなり高いプロトン伝導効果を発揮できる。
あるいは、これらの材料とは伝導機構の全く異なるプロトン伝導体も使用可能である。
即ち、YbをドープしたSrCeO3等のペロブスカイト構造を有する複合金属酸化物等である。この種のペロブスカイト構造を有する複合金属酸化物は、水分を移動媒体としなくても、プロトン伝導性を有することが見出されている。この複合金属酸化物においては、プロトンはペロブスカイト構造の骨格を形成している酸素イオン間を単独でチャネリングして伝導されると考えられている。
さらには、プロトン伝導体膜1を構成するプロトン伝導体として、炭素を主成分とする炭素質材料を母体とし、これにプロトン解離性の基が導入されてなるプロトン伝導体も使用可能である。ここで、「プロトン解離性の基」とは、電離によりプロトン(H+)が離れ得る官能基のことを意味する。
具体的には、プロトン解離性の基として、−OH、−OSO3H、−SO3H、−COOH、−OP(OH)2等を挙げることができる。
このプロトン伝導体においては、プロトン解離性の基を介してプロトンが移動し、イオン伝導性が発現される。
母体となる炭素質材料には、炭素を主成分とするものであれば任意の材料を使用することができるが、プロトン解離性の基を導入した後に、イオン伝導性が電子伝導性よりも大であることが必要である。
具体的には、炭素原子の集合体である炭素クラスターや、チューブ状炭素質であるカーボンナノチューブを含む炭素質材料等を挙げることができる。
炭素クラスターには、種々のものがあり、フラーレンや、フラーレン構造の少なくとも一部に開放端を持つものやダイヤモンド構造を持つものを用いて好適である。
以下、この炭素クラスターについてさらに詳細に説明する。
クラスターとは通常は、数個から数百個の原子が結合又は凝集して形成されている集合体のことであり、この原子が炭素である場合、この集合体によってプロトン伝導性が向上すると同時に、化学的性質を保持して膜強度が十分となり、層を形成し易い。また、「炭素を主成分とするクラスター」とは、炭素原子が、炭素−炭素間結合の種類は問わず数個から数百個結合して形成されている集合体のことである。但し、必ずしも100%炭素のみで構成されているとは限らず、他原子の混在もあり得る。このような場合も含めて、炭素原子が多数を占める集合体を炭素クラスターと呼ぶ。この集合体を図面で説明すると、図2〜図5に示す通りであり、プロトン伝導体の原料としての選択の幅が広いものである。なお、ここでは、プロトン解離性の基は、図示を省略している。
図2に示すものは、炭素原子が多数個集合してなる、球体又は長球、又はこれらに類似する閉じた面構造を有する種々の炭素クラスターである。但し、分子状のフラーレンも併せて示す。それに対して、それらの球構造の一部が欠損した炭素クラスターを図3に種々示す。この場合は、構造中に開放端を有する点が特徴的であり、このような構造体は、アーク放電によるフラーレンの製造過程で副生成物として数多く見られるものである。炭素クラスターの大部分の炭素原子がSP3結合していると、図5に示すようなダイヤモンドの構造を持つ種々のクラスターとなる。
図5は、クラスター同士が結合した場合を種々示すものであり、このような構造体でも、本発明に適用できる。
プロトン解離性の基を有する炭素質材料を主成分として含有するプロトン伝導体は、乾燥状態でもプロトンが前記基から解離し易く、しかもこのプロトンは常温を含む広い温度域、少なくとも約160℃〜−40℃の範囲に亘って高伝導性を発揮することが可能である。前述のように、プロトン伝導体は、乾燥状態でも十分なプロトン伝導性を示すが、水分が存在していても差支えない。この水分は、外部から浸入したものでもよい。
本発明においては、上記のような材料からなるプロトン伝導体膜1上に、燃料電極2及び酸素電極3の両者、あるいは、いずれか一方をアーク放電法により直接形成する。
図6は、アーク放電装置の一例を示すものである。この装置においては、真空チャンバと呼ばれる反応室11内にいずれもグラファイト等の炭素棒からなる陰極12と陽極13とが間隙Gを介して対向配置され、陽極13の後端は直線運動導入機構14に連結され、各極はそれぞれ電流導入端子15a,15bに接続されている。
このような構成において、反応室11内を脱気したのち、ヘリウム等の希ガスで充満させ、各電極に直流を通電すると、陰極12と陽極13との間にアーク放電が生じ、反応室11の内面、すなわち、側壁面、天井面、底面及び陰極12上等にスス状の炭素質材料が堆積する。
生成するスス状の炭素質材料には、図7Aに示すようなカーボンナノチューブ、図7Bに示すC60フラーレン、及び図示はしないがC70フラーレン、それに図7Cに示す炭素スス等が含有されている。この炭素ススは、フラーレン分子やカーボンナノチューブに成長し切れなかった曲率を有するススである。なお、このスス状の炭素質材料の典型的な組成を挙げると、C60、C70等フラーレンが10〜20%、カーボンナノチューブが数%、その外に多量の炭素スス等が含まれる。
本発明では、上記反応室11内にプロトン伝導体20を置き、この上に上記炭素質材料を堆積させ、燃料電極あるいは酸素電極として機能する電極層21を形成する。
アーク放電は、常圧以下、例えば0.1〜600Torr程度の圧力下、不活性ガス雰囲気中で行われる。不活性ガス雰囲気中には、若干、他のガスが含まれていてもよい。
アーク放電を起こすための電流密度は、0.8A/mm2以上であればよく、通常は0.8A/mm2〜10A/mm2の範囲内に設定される。
プロトン伝導体21上に堆積する炭素質材料には、上述の通りカーボンナノチューブが含まれている。カーボンナノチューブは、直径1〜3nm程度、長さ1〜10μm程度の細長い繊維状であり、互いに絡み合って、特段の結合剤が無くとも良好な層状体を構成する。
なお、炭素質材料においては、その少なくとも表面に対し、水素分子を水素原子へ、更にはプロトンと電子へと分離できる触媒能を有する金属を20重量%以下、担持させることが好ましい。触媒能を有する金属としては、例えば白金、若しくは白金合金等を挙げることができる。このような触媒金属を担持させると、それを担持させない場合に比べ、電池反応の効率を高めることができる。
触媒能を有する金属を炭素質材料に担持させるためには、陰極12あるいは陽極13に用いる炭素棒に触媒能を有する金属を混入しておけばよい。これにより、必然的に堆積する炭素質材料中に触媒金属が含まれる。
上述のようにして形成される電極層21は、自立させる必要がないため、機械的強度が要求されることはなく、したがって、その厚さは10μm以下、例えば2〜4μm程度と、極めて薄く設定することができる。
以下において、本発明方法により製造した燃料電池と比較例の製造方法により製造した燃料電池の発電評価(出力評価)を行った。
実施例1
実施例1では、白金を10wt%混合した黒鉛電極(99.9%)を電極とし、アルゴン(Ar)ガス雰囲気中で、電流密度1Aの条件下でアーク放電を行った。真空チャンバー内には、厚さ20μmのプロトン伝導膜(ナフィオン)を設置した。炭素電極から伝導膜までの距離は、1mとした。アーク放電は、15分行った。放電後、膜を取り出し、膜厚計で膜厚測定を行った。
膜の組成分析の結果、白金含有量は2wt%であった。カーボン重力は、20mgであった。仕込み比との違いは、カーボンと白金の蒸発速度差を反映しているものと考えられる。この膜付き電極を用いて、燃料極には、水素ガス、酸素極には乾燥空気を流通させて発電させた。発電は、印加電圧を0.6Vとして行った。このときの出力特性は、70mW/cm2であった。
比較例1
比較例1では、白金含有量2wt%の市販の触媒担持カーボンを用いて、燃料極、酸素極を構成した。ここでは、触媒担持カーボンをバインダーによって混練することで電極とした。カーボン量は、20mgであった。発電は、印加電圧を0.6Vとして行った。このときの出力特性は、60mW/cm2であった。
実施例1と比較例1との結果から明らかなように、アーク放電法によって形成された電極は、製造工程が簡略化できるとともに、比較例1に比し優れた出力特性を示すことが明らかである。
産業上の利用可能性
本発明は、燃料電極や酸素電極を個別に取り扱う必要がないため、煩雑な作業が不要であり、製造歩留まりを大幅に向上することができる。
また、燃料電極や酸素電極には、自立させた機械特性が要求されないため、厚さを薄くすることができ、エネルギー密度等の電池特性に優れた燃料電池の製造が可能である。
【図面の簡単な説明】
図1は、燃料電池の基本構成を示す概略断面図である。
図2は、炭素クラスターの種々の例を示す模式図である。
図3は、炭素クラスターの他の例である部分フラーレン構造を示す模式図である。
図4は、炭素クラスターの更に他の例であるダイヤモンド構造を示す模式図である。
図5は、炭素クラスターの更に他の例であるクラスター同士が結合しているものを示す模式図である。
図6は、カーボンナノチューブを作成するためのアーク放電装置の一例を示す模式図である。
図7A、図7B、図7Cは、アーク放電により作製される炭素ススに含まれる各種炭素質材料を示す模式図である。
Claims (4)
- 炭素系電極間でアーク放電を起こし、発生する炭素質材料をプロトン伝導体上に直接堆積させて燃料電極及び/又は酸素電極とすることを特徴とする燃料電池の製造方法。
- 上記炭素系電極に触媒金属を混入し、上記燃料電極及び/又は酸素電極に触媒金属を担持させることを特徴とする請求の範囲第1項記載の燃料電池の製造方法。
- 上記触媒金属は、白金又はその合金であることを特徴とする請求の範囲第2項記載の燃料電池の製造方法。
- 上記プロトン伝導体は、炭素を主成分とする炭素質材料を母体とし、プロトン解離性の基を導入したものを含むことを特徴とする請求の範囲第1項記載の燃料電池の製造方法。
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