JPWO2001082145A1 - クロストーク解析方法、それを用いた電子回路装置の設計乃至製造方法、及びそのための電子回路ライブラリの記録媒体 - Google Patents
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Abstract
Description
本発明は、半導体集積回路装置やそれらをプリント基板等に実装した電子回路装置における多数の隣接配線間のクロストーク解析方法、遅延時間算出方法及びそれを用いた電子回路装置の設計乃至製造方法等に関するものである。
背景技術
従来より,論理回路を実現する際には,回路セルやブロック(回路ユニットとも称す)と呼ばれる一定の論理機能を持った大小の電子回路を半導体集積回路チップ上またはパッケージ内または基板上に配置後、各セルないしブロックの入出力端子を金属配線を用いて結線する方法が用いられる。
設計の対象となる半導体集積回路チップ、パッケージモジュール、基板上システムをより小さい面積で実現できれば経済的に有利となるため、上記のセルないしブロックや配線の集積密度または実装密度をできる限り大きくすることが望ましい。このため半導体集積回路においては加工技術の微細化を進め、また実装技術においてはパッケージ内実装や基板実装の高密度化が進められてきた。しかしながら、小さい領域に多数の素子や配線を格納しようとすることにより、様々な問題が生じてくる。その一つの問題として信号クロストークの問題がある。
信号クロストークとは、複数の配線を物理的に近い位置に配置した際に配線同士の間で生じてしまう信号の干渉である。一般に集積回路やシステムは仕様により与えられる目標周波数で動作することができるように、回路が処理すべき機能は所定の遅延時間内に終了するように設計される。
その際に、上記クロストークを考慮せずに設計を行うと、信号干渉の影響から生じる遅延時間の変化を見落としてしまうために、半導体集積回路チップやシステムが目標周波数で動作しなくなる状況が起こる。このような事態を避けるために、クロストークによる遅延時間の劣化を精度良く解析するための方法が必要となる。
このクロストークの解析手法に関しては、特開平7−98727、特開平11−40677及び特開平11−154709に開示されている。
上記した従来の技術はクロストーク解析手法としては有効であるが、制限された条件をベースとしているため上記した微細でかつ大規模な電子回路装置での実際の設計に適用するのに様々な制約が有り、実際の複雑な電子回路装置の設計に適用するのが困難になってきている。
例えば、隣接配線の信号遷移時刻に対する制約があり、着目する配線での信号到達時刻と隣接配線での信号到達時刻との組み合わせが遅延時間に大きく影響を与えることがあげられる。また他の制約としては、各配線への信号到達時刻はその入力パターンにダイナミックに依存して変化することがあげられ、特に、多数の隣接配線が存在する高速でかつ大規模な電子回路装置においてのクロストークによる遅延時間を精度良く効率的に算出することが難しくなっている。本発明は、かかる課題を解決するための新規なクロストーク解析手法を提供するものであり、それにより高速で大規模な電子回路装置をより現実的に効率よく設計製造することができるようにすることを目的としている。
本発明は、更に具体的には、一つの着目配線に複数の他の配線が並走して隣接配置されている電子回路装置を対象に、これら複数の隣接配線が着目配線に及ぼすクロストークによる複雑な遅延時間劣化を精度よく効率的に算出する新規な方法を提供することを目的としている。。
発明の開示
上記したように、クロストークの解析で困難となるのは、信号の到達時刻によりその影響が変化することである。
そこで、本発明者等はこのような制約を解決するための新しい解析手法をProceedings of IEEE International ASIC/SOC Conference 1999、p9−13「Cross−talk Delay Analysis using Relative Window Method」(以下、RWM又は引用文献1と呼ぶ)で提案した。
即ち、第1図に示すように遅延時間の解析を行おうとしている対象の配線3(以下、着目配線またはビクティム、victim、と呼ぶ)における信号到達時刻(以下、VSAT:Vctim Signal Arrival Timeと称す)とそれに干渉を与える配線4(以下、隣接配線またはアグレッサ、aggressor、と呼ぶ)における信号到達時刻(以下、ASAT:Aggressor Signal Arrival Timeと呼ぶ)とのタイミングにより遅延時間が様々に変化してしまい、遅延時間劣化が生じてしまうことである(以下、その大きさを遅延時間劣化値と呼ぶ)。
なお、ここでは、第1図の左側に示したように配線のノードに到達する信号が互いに逆相(out−phase−transition)の関係にある場合をあえて取り扱っている。もし、それらの信号が同相(in−phase−transition)の関係にあっても基本的な考え方は同じであるが、同相の場合は逆相の場合よりも遅延時間が小さくなる。
この引用文献1では、信号の到達時刻による影響を取り扱うのに、VSATを基準としてASATを相対的に計った相対信号到達時刻(以下、RSAT:Relative Signal Arrival Timeと呼ぶ)を用いている。ここでは、第2図のように相対信号到達時刻RSATを横軸とした遅延時間劣化値のグラフもしくはテーブルを、あらかじめビクティムとアグレッサを駆動するドライバ(例えば、NANDゲートの出力駆動回路)の組み合わせごとに用意しておき、実際に生じたケースごとにこのグラフもしくはテーブルを引用して、遅延時間の劣化値を計算するというものである。
さらにこの問題を困難にしていることに、VSATとASAT自体が到達する信号の入力パターン(経路も含む)に依存してダイナミックに(動的に)変化してしまう点がある。第3図はこれを示したものである。例えばある入力パターンの変化では、信号が入力ノードin1からノードn1を経由してノードn2に伝達し、この場合のn2点での信号到達時刻は0.40nsである。ところが別の入力パターンの変化では信号がin3からn2に伝達し、この場合のn2点での信号到達時刻は0.10nsとなり、先の値から変化してしまう。このような理由からRSATを一意的に決定できないため、第2図のような劣化グラフ又はテーブルを単純には適用できなくなってしまう。
引用文献1ではこの問題に対して、相対ウィンドウ(Relative Window)と呼ばれる概念を利用して対処している。
第4図(a)(b)(c)にその方法を示す。VSATとASATは入力パターンによりダイナミックに変化するため、ある1点の時刻としては得られない。従って、第4図(a)に示すように、まず各信号が実際に到達する可能性のある時間の範囲(又は幅)を持ったウィンドウとしてVSATとASATを計算する。それぞれをVSAT window、ASAT windowと称する。
次に、RSATは一意には決定できないためその替わりに、第4図(b)に示すようにRSATを幅を持ったウィンドウ(以下、相対ウィンドウ、Relative Window)として計算する。ここで、相対ウィンドウとは、RSATが最小になる時から最大になる時までの範囲である。RSATが最小になるのは、ASATが最小でVSATが最大になるときである。一方、RSATが最大になるのはASATが最大でVSATが最小になるときである。即ち、Min(RSAT)=Min(ASAT)−Max(VSAT)、Max(RSAT)=Max(ASAT)−Min(VSAT)である。
そして、第4図(c)に示すように、かくして得られた相対ウィンドウRSATと予め用意されている前記劣化値グラフ又はテーブルとを用いて、相対ウィンドウRSATの範囲内でのワーストの遅延劣化値を得ることにより、定量化された遅延時間劣化値を求めることができる。
このようにして求められた遅延時間劣化値は、実際の回路でのシュミレーション結果と非常に良く合致しておりその精度は高い。
ところで、一般に、大規模な半導体集積回路や基板上に搭載された電子回路装置での配線部分においては、着目配線に対する隣接配線の数は必ずしも1本とは限らない。すなわち複数の隣接配線が一本の着目配線に対してクロストークを起こす状況が生じる。
しかしながら、このような1本の着目配線に対して複数の隣接配線がある場合に、引用文献1のクロストーク解析手法を適用しようとした際に問題が生じることが判った。
次に、第5図(a)乃至(d)を用いて、1本の着目配線に対し2本の隣接配線が存在する場合を例にして、本発明者が実際に算出してみた解析手法をもとにこの問題について説明する。
第5図(a)は、時間軸上での1本の着目配線と2本の隣接配線の信号到達時刻の範囲(以下、VSAT、ASAT1、ASAT2と呼ぶ)を示している。第5図(b)及び(c)には、縦軸を遅延劣化値として、上記1本の着目配線と各隣接配線との間の遅延時間劣化を起こす範囲(以下、クロストークレンジと呼ぶ)と相対ウィンドウの関係がそれぞれの隣接配線毎に示されている。
まず、各隣接配線に対して引用文献1の解析手法を用いて遅延時間の劣化値を計算し、第5図(b)及び(c)の遅延劣化値特性図から、第1の隣接配線(アグレッサ1)と着目配線(ビクティム)の間におけるワーストケースとなる遅延時間劣化値としてDD1が、また第2の隣接配線(アグレッサ2)と着目配線(ビクティム)の間におけるワーストケースとなる遅延時間劣化値としてDD2を得る。
次に、第5図(d)に示すように、各隣接配線に対して得られたワースト遅延時間劣化値を加算して全隣接配線における遅延時間劣化値の総合値(DD(total)=ΣDDi=DD1+DD2)を求める。上記のごとく計算を行えば複数の隣接配線が存在する場合でも遅延時間劣化値を見積もることが可能であるが、この方法には次のような問題がある。
すなわち、遅延時間劣化値は実際に起こりえる最悪値よりかなり大きな値を与える場合が生じてしまう。これを上述した第5図を用いて説明する。
今ここで、第5図(a)に示したように、ビクティムとアグレッサ1がワーストケースを起こす条件がTv1=5.0nsの時で、ビクティムとアグレッサ2がワーストケースを起こす条件がTv2=7.5nsの時であったとする。上記のごとくそれぞれのワーストケースにおける遅延時間劣化値を単純に総加算することは、この二つの条件が同時に起こっていると仮定していることを意味している。
確かに、このように互いの着目配線と隣接配線のペアに対しての遅延時間劣化値のワーストケースが同時に起こるものと考えれば、その遅延時間劣化値の総合値は最悪なものとなる。しかし、実際にはこれら二つの条件は同時に起こることはない。なぜなら、二つのケースでビクティムは同一の配線であるから、信号到達時刻VSATは、同時に無関係の二つの異なる値を取ることができないからである(信号の伝搬時間の差は存在しても全く無関係の値を取るわけではない)。
このように考えれば、各隣接配線と着目配線の間でのワーストケースが同時に起こるものとする上記手法は、実際に起こりえないケースをも考慮しているため、必要以上に遅延劣化値を大きく計算してしまうこととなる。この状況は特に隣接配線の数が多いケースで深刻な問題となりうる。
本発明は、このように複数の隣接配線が存在する場合で、かつ入力パターン変化(経路変化も含む)に依存して着目配線、隣接配線におけるそれぞれの信号到達時刻が動的に(ダイナミックに)変化する場合に、クロストーク起因の遅延時間劣化値を更に精度よく効率的に解析するための方法を提供するものである。
本発明は、更に具体的には、一つの着目配線に対して複数の隣接配線が及ぼすクロストークによる遅延時間の劣化を算出する際に、実際の電子回路の動作上では起こり得ない余分の遅延時間のマージンを小さくして電子回路装置を設計及び製造することができる設計手法を提供するものである。
本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次の通りである。
即ち、本発明は、一つの着目配線(ビクテイム)に対し複数の隣接配線(アグレッサ)が存在する場合で、かつ信号の入力パターン(経路も含む)に依存して着目配線、隣接配線それぞれにおける信号到達時刻が動的に(ダイナミックに)変化する場合のクロストーク起因の遅延時間劣化の解析方法(前記RWMと区別して、MA−RWM(Multi−Aggressor Relative Window Method)と称する。)を提供するものである。
遅延時間劣化の解析において、引用文献1に示される方法を単純に適用しただけでは絶対時刻としてのVSATが考慮されないために、本来生じ得ないケースが解析で含まれてしまうこととなったが、本発明では、このような実際には生じ得ないケースを解析から除外するために、各隣接配線でのダイナミックな信号到達変化が特定の着目配線に及ぼす遅延時間劣化特性をそれぞれ求め、これら遅延時間劣化特性を着目配線での信号到達時刻をベースとして加算することによって、複数のアグレッサが存在する場合のクロストークを高精度に解析できるようにしたのである。
発明を実施するための最良の形態
一つの着目配線に複数の配線が隣接配置されている場合のクロストーク解析手法における本発明の実施の形態を第6図及び第7図(a)〜(f)を用いて説明する。
着目配線(ビクテイム)における信号到達時刻VSATを考慮した解析を行うことにより、実際に起こりうるVSATごとに、即ち着目配線での起こりうる信号到達時刻をベースにして、複数の隣接配線(アグレッサ)による遅延劣化のワーストケースを求めることが可能となり、これにより同時に起こりえない複数のVSATを用いる状況を回避することが可能になる。
まず、第1のステップで第6図の枠601に示すように、対象とする電子回路装置の論理入力と論理出力との間の論理関係を定める論理ブロックまたは論理セルの接続情報とこれらの接続に用いられる配線の物理的空間情報を遅延時間の計算システムに入力する。
次に、第2のステップで、枠602に示すように、論理回路中の少なくとも一つのノードでの信号到達時刻の計算において、そのノードにおける信号到達時刻がとりうる範囲の計算を行う。このステップは、例えば次の(b−1)〜(b−4)の手続きを実行することにより計算することが可能である。
(b−1):信号到達時刻が既知のノードから着目ノードまでに信号が通過する論理セルまたは論理ブロックの入出力間の遅延時間を計算または検索するステップ。
(b−2):上記(b−1)と同じ経路において、各論理ブロックまたは論理セルの間を接続する配線部分の遅延時間を計算または検索するステップ。
(b−3):上記(b−1)および(b−2)のステップで得られた遅延時間の総和を、経路の始点である既知の信号到達時刻に加算して着目ノードの信号到達時刻とするステップ。
(b−4):信号伝搬経路のそれぞれに対し上記(b−1)、(b−2)、(b−3)のステップを実行して、着目ノードの信号到達時刻のとりうる範囲を計算するステップ。
さらに、第3のステップで、第6図の枠603のように上記第1のステップで入力された配線の物理的空間情報から上記第2のステップで着目したノードに属する配線と隣接する配線を所定の条件に基づいて抽出する。
この第3ステップにおける所定の条件としては、例えば隣接して並走する配線の長さを用いることが可能である。着目配線と隣接配線との間の単位長当たりの容量結合やインダクタンス結合が大きい場合には並走長の条件を短く設定し、一方単位長当たりの容量結合やインダクタンス結合が小さい場合には並走長の条件を大きくしたりするといったことが可能である。その他にも、隣接配線を駆動するドライバ回路の強度、即ち負荷駆動能力、が所定の強度より大きい場合には全て隣接配線とみなしたり、逆にドライバ回路の強度が小さい場合には隣接配線の対象から除外するといったことが可能である。
さらに、第4のステップで、第6図の枠604に示すように上記第2のステップを実行して得られる着目ノードの信号到達時刻の範囲を用いて、下記(d−1)〜(d−4)のステップを実行して、隣接する配線の影響を考慮した着目ノードの信号到達時刻における劣化値を計算する。
(d−1):上記着目配線の駆動回路と上記(c)のステップで抽出された隣接配線の駆動回路の組み合わせに対し、典型的な(又は代表的な)条件におけるクロストークによる遅延時間劣化値を回路シミュレーションにより計算し、これを着目ノードと隣接ノードの信号到達時刻の相対的な時間差により検索可能なデータ形式として保持するステップ(第6図の枠6041)。
(d−2):上記(c)のステップで抽出された隣接配線が属するノードにおける信号到達時刻の範囲を計算するステップ(枠6042)。
(d−3):上記(d−2)のステップで計算された隣接ノードの信号到達時刻の範囲を、着目ノードの信号到達時刻を基準とした相対的な信号到達時刻の範囲に変換し、該相対的信号到達時刻の範囲中における上記(d−1)のステップで得た遅延時間劣化値データから最大値を選びだし、これを着目ノードの信号到達時刻ごとに検索可能なデータ形式として保持するステップ(枠6043)。
(d−4):着目配線と隣接する複数の配線の組み合せに対して、着目ノードの信号到達時刻ごとに、即ち着目ノードでの信号到達時刻を基準として、上記(d−1)のステップで保持したそれぞれの遅延時間劣化値を互いに加算し、これを着目ノードの信号到達時刻ごとの遅延時間劣化値として保持するステップ(枠6044)。
なお、上記(d−1)のステップは、用いられる駆動回路の種類や強度分類に応じて、予め計算を済ませてライブラリの形で保存しておくことが望ましい。このようなライブラリは、計算器上の記憶媒体に記憶しておけば、個別の設計ごとの遅延時間劣化の解析時には、データを検索後即座に利用することが可能となる。またこのようなライブラリは、所謂スタンダードセルシリーズやゲートアレーシリーズといったシリコンファウンドリサービスにおけるデータブック等にも記載されうるものである。
さて、設計ごとの実際に遭遇するケースはライブラリが取得された条件と完全に一致しないことが普通である。したがって、ライブラリの情報は遭遇した条件に応じて補正されて使うことが望ましい。例えば、遭遇した条件での並走長がライブラリを取得した条件での並走長の一定倍(当然整数倍である必要はなく、実数倍で構わない)であった場合には、ライブラリに記述された遅延劣化値を該一定倍するといったことが可能である。このような補正は必ずしも同一比率で行う必要があるわけではなく、複数の実験値によく適合するような計算式を用いて補正することも可能である。
またライブラリを取得する条件についても、必ずしも一つの条件としなくともよい。遭遇した条件を模倣するために、複数の条件で取得されたライブラリを組み合わせて使うといったことも考えられる。
次に、上記(d−2)から(d−4)に示されるように遅延時間劣化値を絶対時刻としてのVSATを考慮して計算するステップを、第7図(a)〜(f)を用いて具体的に説明する。
第7図(a)は第5図で示したものと同じく、時間軸上での着目配線と2本の隣接配線での起こり得る信号到達時刻及びその範囲(以下、VSAT、ASAT1、ASAT2とする)を示している。
第7図(b)及び(c)は、横軸に相対信号到達時刻RSATを、縦軸に遅延時間劣化値をとったそれぞれの隣接配線と着目配線との間の遅延時間劣化特性グラフであり、着目配線と2本の隣接配線のそれぞれの間で上記VSATが最小の時(即ち、第7図(a)でのTv1=5.0nsの時)に遅延時間劣化が生じる相対信号到達時刻RSATの取りうる範囲(RSAT window)が同図の下部に太線で示されている。
さらに、VSATを増加させるに従って、RSATのウィンドウがどのように動くかが同図の下部に矢印でもって示されている。即ち、第7図(b)(c)の下部左側の太線はVSATが最大の時(即ち、第7図(a)でのTv2=7.5nsの時)にそれぞれのRSATが取りうる範囲(RSAT window)を示している。
ここでは、理解を容易にするためにVSATの最小時刻と最大時刻でのRSATの取りうる範囲を述べたが、同図中に矢印で省略したことを示すように、VSATの全範囲をスイープしてVSATの実時刻毎に(即ち、着目配線ビクテイムへの信号到達時刻毎に)RSATの範囲(RSAT window)が算出されている。
第7図(d)及び(e)は、VSATの絶対時刻(即ち、着目配線での取りうる信号到達時刻)を横軸にして、上記各VSATの時刻毎のRSATのウィンドウ中での遅延時間劣化のワースト値を縦軸にプロットして示したものであり、それぞれ隣接配線(アグレッサ1及び2)が着目配線(ビクテイム)に及ぼす遅延時間劣化特性をVSATの実時刻ベースに示している。
第7図(f)は、全ての隣接配線について(ここではアグレッサ1とアグレッサ2について)、これらの遅延時間劣化値特性をVSATの絶対時刻(即ち、着目配線での取りうる信号到達時刻)を基準として重ね合せて加算したグラフである。
このようにして得られたグラフ(f)を用いてVSATのウィンドウ内(実時刻5〜8ns)での遅延時間劣化値のワーストの値(この例では、DD2)を求めることで、遅延時間劣化値(DDtotal2)を得ることができる。
ここでは、先に述べたような本来両立しえない二つのVSATの時のワースト劣化を加算することがなく、実際に起こり得る一つのVSATに対しての劣化値を求めることが可能になる。
これにより本発明の方法により計算される遅延時間劣化値(DDtotal2)は、従来の方法により得られる遅延時間劣化値(DDtotal=DD1+DD2)より小さな値となり、精度が改善される。ここで、この手法の有効性を確認するために上記した二つのアグレッサからのクロストークを有する実際の電子回路での遅延時間劣化について、回路レベルでのシミュレーションによる測定結果と比較して説明する。その結果は第20図に示されており、同図から判るように本発明のMA−RWMによって算出された遅延時間劣化値のグラフは実際に回路シミュレーションした結果と極めて良く合致している。
さらに、VSATの信号到達時刻ごとに遅延時間劣化値が得られているので、遅延時間劣化値が最大となる場合が、次段のブロックやセルに伝わる信号として見たときに、必ずしも最悪ケースではないといったこともわかる。すなわち、次段に伝わる信号として見たときの最悪ケースは、着目配線の信号到達時刻(VSAT)と遅延時間劣化値の和が最大となる場合であるといったこともわかる。
さらに、本発明の上記手法を用いてクロストークによる遅延時間劣化値の解析を計算器上で効率的に処理するための方法について、以下に説明する。
遅延時間劣化グラフもしくはテーブルは、第2図のような相対信号到達時刻RSATと遅延時間劣化値の対応を与える点列で表わされる。これを用いて第7図(d)(e)(f)のグラフ情報を生成するためには、点列の数だけの計算を行う必要があるため、計算時間を大きく要してしまう。従って、上記本発明を用いてクロストークを考慮した遅延時間解析を行うと、対象とする回路規模によっては計算時間が膨大になってしまう恐れがある。
これを解決するための方法を第8図(a)〜(f)に示す。第8図(a)は第7図(a)と同じくVSATとASAT1、ASAT2のウィンドウの関係を示したものである。第8図(b)及び(c)は、第7図(b)及び(c)のように遅延時間劣化テーブルを点列で表わす替りに、幾つかの直線でこれを近似したものである。同図には、直線を決めるための幾つかの特徴点が示されている。
第8図(d)(e)及び(f)は、第7図(d)(e)及び(f)と同様にVSATの絶対時刻(着目配線での取りうる信号到達時刻)を横軸にして、上記VSATを基準としたASATのウィンドウ中での遅延時間劣化値のワースト値を縦軸に示したもの及びそれらを加算したものであるが、第8図(b)や(c)と同様に直線を決定する特徴点においてのみ値を求めて、これを直線で結んで生成したものである。
このようにすると、遅延時間劣化値を得るのに多くの点列について加算を行う必要がないためコンピュータ等を使った計算が高速に行える。また、VSAT範囲中でのワースト値取得の検索についても、直線で与えられる値の加算結果が最大になる可能性があるのは、特徴点においてのみであるという性質から、特徴点のみからの検索でよいため高速検索処理の実行が行える。
さらに、本発明は第9図に示すように、演算処理装置、記憶装置、マンマシンインターフェースを具備してなる自動設計装置901を用いて、上記のごとくして902で示したように遅延時間劣化値や遅延時間そのものを計算することができるのみならず、そこで得られた情報を利用して903で示したように論理回路の構成を変更したり配置や配線の位置を変更することにより、従来より性能が優れた回路やシステムを提供することができる。
また、本発明のその他の目的と新規な特徴は,同様に以下の実施例から明らかとなろう。以下,本発明の種々の実施例について,図面に沿って説明する。
実施例1:
第10図(a)〜(d)及び第11図(a)〜(f)を用いて説明する。
第10図(a)は,論理回路が配線で物理的に接続された様子を示している。ここでゲート回路g2の出力となる配線(ノードEに対応)は他の2つのゲート回路(g5およびg6)の出力である2本の配線(ノードJとノードNに対応)と隣接しており、これにより一つの着目配線(ビクテイム)1003に対し複数(図では2本)の隣接配線(アグレッサ)1004および1005からのクロストーク(1001および1002)が生じている。
ここで着目配線と隣接配線の並走長は、第10図(b)のように与えられている。また、システム全体の設計上の制約では、ノードAからノードFまでの信号遅延時間が1.7nsに設定されているものとする。また、各ゲート回路の入出力間の信号遅延時間が第10図(c)のように与えられているとする。
まず、クロストークが存在しないと仮定した場合、第10図(a)中の各ノードにおける信号到達時刻を計算すると第10図(d)のようになる。
ここで、例えば着目配線であるノードEについてその信号到達時刻を見ると、最小信号到達時刻は0.6nsであり、最大信号到達時刻は1.2nsである。このように信号到達時刻を一意に決定できない理由は、先に説明したとおりである。同様に隣接配線であるノードJおよびノードNについても、信号到達時刻は一意に決定されずに最小信号到達時刻と最大信号到達時刻との間の範囲(又は時間幅)のウィンドウを持つ。
次に、これらの信号到達時刻情報を利用してクロストークによる遅延時間劣化を計算するステップを第11図(a)〜(f)を用いて説明する。
まず、第11図(a)には、第10図(d)の情報をもとに着目配線(ノードE)の信号到達時刻(VSAT)と2つの隣接配線(ノードJとノードN)の信号到達時刻(ASAT1とASAT2)のウィンドウが示してある。
さらに第11図(b)に示すように、着目配線と隣接配線を駆動する2入力NAND回路と2入力NOR回路のペアに対して、典型的な(代表的な)隣接並走長を500μmとしたときの相対信号到達時刻RSATと遅延劣化値との関係を表わすグラフ乃至テーブルがライブラリとして与えられている。このように、隣接並走長をパラメータとして回路データを用意されていることが望ましい。更には、後述の実施例で説明するように複数の異なる隣接並走長を設定しておきその時のRSATと遅延時間劣化値とのデータが電子回路ライブラリとして予め実験や回路シミュレーション等によって与えられていた方が望ましい。
なお、第11図(c)には、着目配線と隣接配線を駆動する2入力NAND回路と2入力OR回路のペアに対して同様のライブラリを図示したものであるが、ここで第10図(a)の回路での配線の実際の隣接並走長が400μmであることから、隣接並走長500μmの条件で作られたライブラリに登録されている遅延劣化値のグラフを縮小して400μmの場合の値として修正したものが点線で示されている。さらに(b)(c)の両グラフの下部には、VSARTが最小のときの相対信号到達時刻のウィンドウがVSATが最大のときのウィンドウへと移動する様子が矢印を使って書いてある。このときVSATがとりうる範囲で、VSATごとのウィンドウ範囲中での最大の遅延劣化値を図示したものが、第11図(d)及び(e)である。なお、(d)、(e)、はそれぞれ隣接配線1,2での到達信号によって着目配線の信号に及ぼされる遅延時間劣化特性を表わしている。
これら複数の(d)(e)の特性をVSATの絶対時刻又は実時刻(即ち、着目配線での信号到達時刻)を基準として重ね合わせて、同一のVSATでの即ちVSATの実時刻での遅延時間劣化値を加算したものが第11図(f)である。
このようにして得られる遅延時間劣化値で最大のものは、(f)の特性図からVSAT=1.0nsのときの0.325nsであることがわかる。
この結果、クロストークがないと仮定した時にノードFでの遅延時間は1.5nsであったが、上記計算により求められた遅延時間劣化の最大値は0.325nsであるから、この場合のクロストークを考慮した場合のF点での遅延時間は1.5ns+0.325ns=1.825nsとなり、これは設計制約である1.7nsを満たしていないことがわかる。
さらに、より詳細に解析を行うことが可能であれば、本発明ではVSATごとの遅延時間劣化値が第11図(f)のようにわかっているから、これを利用すると次のようなことも知ることができる。
即ち、上記の場合のノードEでのVSATは1.0nsであるからこれが0.325ns増加して1.325nsとなり、ノードF点での遅延時間は0.3nsが加算されて1.625nsになる。一方、VSAT=1.1nsのときには、遅延時間劣化値は第11図(f)より0.3nsであるから、ノードEでのVSATは0.3ns増加して1.4nsとなり、ノードFでの遅延時間は0.3nsが加算されて1.7nsとなる。また、VSAT=1.2nsのときには、遅延時間劣化値は第11図(f)より0.233nsであるから、ノードEでのVSATは0.233ns増加して1.433nsとなり、ノードFでの遅延時間は0.3nsが加算されて1.733nsとなる。
これらによりクロストークによるノードFでの最大制約違反はVSAT=1.2nsのときに1.733ns−1.7ns=0.033nsであるといったことがわかる。
従って、上記のごとく設計者は本発明を用いることによりクロストークの存在があるときに、設計した回路が設計制約時間内に正しく動作完了しないことをその定量的な違反値とともに、実際の半導体回路や基板上の回路を作成する前に知ることができるため、実LSIの設計や製造にかかる時間、費用や設計のやり直しに必要となる時間、費用を削減することが可能となる。
実施例2:
上記実施例1での遅延時間算出後に配線を修正する場合の例について、第12図(a)(b)及び第13図(a)〜(f)をもとに説明する。
第12図(a)の回路は、第10図(a)で示したものと同じ回路である。まず、上記実施例1で説明したようにクロストークによる遅延時間劣化値の解析を行なうことにより、この回路は制約条件を満たしていないことを知ることができる。
ここで、この制約条件の違反を修正するために、第2の隣接配線とのクロストーク1201に着目し、第12図(b)のように隣接配線部分に信号到達時刻を遅延させるためのゲート回路1203および1204を挿入して回路を変形乃至修正する。このような変形乃至修正が制約条件違反をどのようにして解消するかについて、第13図(a)〜(f)を用いて説明する。
第13図(a)には、上記回路変形により第2の隣接配線ノードPにおける信号到達時刻が変化している様子が示されている。これに従い、第13図(c)の下部でのRSATのウィンドウの動きと、第13図(e)のVSATごとの遅延時間劣化値特性図とが変化することとなる。
そして二つの隣接配線からのクロストークによる遅延時間劣化値を着目配線での信号到達時刻をベースに重ね合わせると第13図(f)が得られる。ここでの最大の遅延時間劣化値は0.2nsであり、これによりクロストークを考慮した場合のF点での遅延時間は1.5ns+0.2ns=1.7nsとなり、当初の設計上の制約条件を満足することができているのがわかる。
更に、より詳細に解析を行うことが必要であれば、上記最大の遅延時間劣化値の場合のノードEでのVSATは1.0nsであるからこれが0.2ns増加して1.2nsとなり、ノードF点での遅延時間は0.3ns加算されて1.525nsになり、制約条件1.7nsを満足することができているのがわかる。
また、VSAT=1.2nsのときには、遅延時間劣化値は第13図(f)より0.175nsであるから、ノードEでのVSATは0.175ns増加して1.375nsとなり、ノードFでの遅延時間は0.3ns加算されて1.675nsとなる。これらによりクロストークによるノードFでは、制約条件1.7nsを満足することができているのがわかる。
このように、本発明の解析手法で遅延時間を算出後、制約違反を引き起こす隣接配線における信号到達時刻を時間軸上で移動して問題の解決を図ることが容易に可能になる。
信号到達時刻を時間軸上で移動する方法は、様々な方法が使用可能である。例えば上記例のように遅延用のゲートを挿入してもよいし、抵抗と容量を組み合わせた遅延素子といったものでもよい。さらに駆動回路となるゲート位置を移動して、意図的にクロストーク部分から遠い部分に配置することにより、信号の到達時刻を遅らせるといったことも可能である。また、着目配線の信号伝達経路上に遅延素子を挿入するといったことも可能である。
例えば、第14図(a)に示した回路を第14図(b)または(c)のような回路に変形乃至修正すれば、以上の説明からそれぞれのVSAT対遅延時間劣化値特性を示すグラフより遅延時間劣化量が削減されることが容易にわかる。
実施例3:
さらに、本発明のクロストーク解析方法を用いて複数の隣接配線からのクロストークの影響による遅延時間劣化を解析を行い優れた特性を有する半導体集積回路、パッケージ内回路、プリント基板回路を実現することが可能であり、その例を第15図を用いて説明する。同図中に1505や1506で示すように、半導体集積回路の場合はクロストークが論理セル間の配線やブロック間の配線で起こりうるし、パッケージ内回路では複数のチップをパッケージ内で接続する際にこれらの配線間でクロストークが起こりうる。また、同図中の1507や1508に示すように、プリント基板上の回路においてもまた半導体パッケージ間の配線や個別素子との間の配線においても同様のクロストークが起こりうる。
このような場合に、本発明によれば、クロストークを考慮した遅延時間をデータブック等に仕様データとして記載した半導体集積回路、パッケージ内回路、基板上回路を作成することが可能となる。そしてまた、上記した手法を用いて上記した種々のクロストークの影響を低減して第15図の下部左側の回路図に代表して示すように改良された半導体集積回路、パッケージ内回路、基板上回路を作成することが可能である。
実施例4:
さらに、本発明の実施の形態の項で説明した(d−1)のステップ、即ち第6図でのステップ6041、を予め実験や回路シミュレーションを実行しておき信号遅延特性に関する電子回路ライブラリとして、計算機に読み込み可能に光ディスクや磁気ディスク等の記録媒体に記録保存する際のデータ形式を示した例を第16図(a)(b)を用いて説明する。
第16図(a)は、着目配線(ビクテイム)の駆動回路がNAND2ゲートの強度(負荷駆動能力)が2倍力で、隣接配線(アグレッサ)の駆動回路がNAND2ゲートの強度(負荷駆動能力)が1倍力だった場合のアグレッサとの組み合わせでの相対信号到達時刻と遅延時間劣化値のデータ情報(ライブラリ)の例が記載されている。また、第16図(b)は、同様に着目配線(ビクテイム)の駆動回路がNAND2ゲートの強度1倍力で、隣接配線(アグレッサ)の駆動回路がインバータINVゲートの強度2倍力だった場合のアグレッサとの組み合わせでの相対信号到達時刻と遅延時間劣化値のデータ情報(ライブラリ)の例が記載されている。
このように、配線が出力部に接続された回路ブロックやセル(回路ユニットと称す)を構成している出力段の駆動回路(ドライバ)の負荷駆動能力との種々の組み合わせについての条件をそれぞれの回路ユニット毎のライブラリに付しておくことが望ましい。
先にも述べたように、ライブラリを取得する条件は必ずしも一つである必要はなく、むしろ複数の条件について取得するのが望ましい。第16図(a)(b)では、本発明実施例での例として、隣接並走長が500μmの条件と1,000μmの条件との複数の隣接並走長について取得されたライブラリが示されている。実際に遭遇する隣接並走長が例えば500μmと1,000μmとの間にあるような場合には、両者のライブラリデータを補間する形で遅延時間劣化値を求めるといったことが可能である。これは例えば隣接並走長が500μmの条件のみを単独の条件としてライブラリ取得した場合に、隣接並走長が500μmから大きく異なるような実際のケースで遅延時間劣化値が正確に計算されなくなるといった問題を回避することができる。
第16図のようなライブラリを作成する時の条件として、本発明に示されるような、着目配線(ビクテイム)や複数の隣接配線(アグレッサ)においてクロストークを起こす配線部分よりも駆動回路に近い側の配線長(前走配線長)や駆動回路から遠い側(受信側)の配線長(後走配線長)を変化させてライブラリ取得することも可能である。第17図(a)は前走配線長や後走配線長がない場合でのライブラリを取得するケースの例を示したものである。これに対し、第17図(b)は前走配線長をある長さに設定してライブラリを取得した場合を示している。同様に、第17図(c)は後走配線長をある長さに設定してライブラリを取得した場合を示している。
このように前走配線長や後走配線長が存在すると、これらが存在しない場合と比較して遅延時間劣化値は大きくなる傾向がある。第17図(d)はこのような遅延時間劣化値の例を示したものである。第17図(a)のように前走配線長や後走配線長がない場合の遅延時間劣化値が第17図(d)において曲線1701のように与えられるとする。このとき第17図(b)のように前走配線や後走配線が存在する場合には、遅延時間劣化値は第17図(d)において曲線1702のように劣化量や劣化がおこる範囲が拡大(ないし縮小)するのが一般的である。従って、例えば前走配線長や後走配線長を複数変化させてライブラリを取得しておけば、前走配線長や後走配線長が異なる様々なケースを解析する必要が生じた場合に、曲線1701と1702とを補間するような形で遅延時間劣化情報の特性曲線1703を生成することが可能となる。
さらに、ライブラリとして上記した種々の条件を組み合わせたような、より条件数の多いものを予め用意することができれば、より効果的であることはいうまでもない。
実施例5:
さらに本発明のクロストーク解析手法を用いた設計システムを用いれば、設計者がより簡便にクロストークの影響を考慮して遅延時間を計算したり、クロストークを回避または低減するための回路構成やシステム構成を作り上げることが可能となる。このような例を第18図を用いて説明する。
例えば、同図に示したように、複数のアグレッサが存在しそれぞれから着目配線へのクロストークが存在する場合に、第9図中の901で説明した計算機に結合された設計システム1801はその一つのディスプレイ画面上に、1802及び1803に示すように、遅延時間の計算を行うにあたりそれぞれの隣接配線からのクロストークによる遅延時間劣化特性図を離間して表示すると共に、1804で示すように、各隣接配線からの影響の合計値を示す特性図を併せて上記画面に表示することが極めて有効である。即ち、第7図、第8図、第11図、或いは第13図の(d)〜(f)で説明したVSATの実時刻(即ち、着目配線での信号到達時刻)をベースとした遅延時間劣化値の複数の特性図を一つの画面に表示するものである。
なお、必要に応じてこれらの複数の特性図は別個の画面に表示されてもよいが、同一画面の方が設計者にとって使いやすい。
このようにすると、設計者は単に各隣接配線の着目配線に及ぼす影響の大きさをダイナミックな信号到達時間の変化も含めた状態で知ることができ対策すべき個所を見つけ出しやすくなるのみならず、クロストークが存在する箇所の各々に対して対策を施した場合(例えば第14図(a)〜(c)に示すような方法を用いた場合や、またはあるクロストーク箇所の配線間距離を大きくするといった方法を用いた場合等)に、それらの対策の結果としてクロストークによる遅延時間劣化値の総和がどのようになるかを直ちに目視確認することが可能となるため、より短時間で効果的に問題の解決を図ることが可能となる。
また、第19図に示したような別例では、それぞれの隣接配線(アグレッサ)からのクロストークによる遅延時間劣化の影響が、ライブラリ情報としてどのようになっているか(同図中の曲線1904、1907)、またそれが前走配線長の影響でどのように変化しているか(1905、1908)、後走配線長の影響でどのように変化しているか(1906、1909)といったことを設計システムのディスプレイ画面(1901,1902,1903)で確認することが可能とすることも望ましい。
このような設計システムを用いれば、第18図のように単に各アグレッサによるクロストーク起因の遅延時間劣化値を知ることができるのみならず、それが前走配線長や後走配線長のために大きくなっているといった情報まで設計者は知ることができるため、それに対して適切な対処方法を取るといったことが可能となる。
なお、このような設計システムはネットワークに接続されないスタンドアローンのコンピュータ内に実装されている場合のみならず、インターネット等のネットワークを介した遠隔地にあるコンピュータ内に実装されていてもよい。このような場合には本発明記載の遅延時間の解析やクロストークを回避、低減するための処理は遠隔地に存在するコンピュータ上で実行され、そこへの入力やそこからの出力である計算結果等が設計者のもとにあるコンピュータまたは表示及び入力システムを通して行なえることになる。
実施例6:
以上、本発明によるクロストーク解析手法(MA−RWM)及びそれを用いた電子回路装置の設計乃至製造方法について、理解を簡単にするためにアグレッサが2本の場合を中心に説明してきたが、前記したようにこの発明はアグレッサがもっと多数存在する電子回路装置を対象に適用することによってその効果を更に発揮できるものである。以下、そのことについて第21図及び第22図(a)〜(c)をもとに説明する。
第21図は3本の隣接配線即ちアグレッサ(aggressor1,2,3)が1本の着目配線ビクテイム(victim)に近接して配置されている電子回路で実験した時の具体例を示している。同図中のALは近接した並走配線の長さ(adjacency length)であり、各アグレッサは着目配線に対しクロストーク1,2,3を引き起こしている状況を表わしており、この回路はVSAT windowとASAT windowとの関係が次の第22図(a)及び(b)に示したケース1,2の状態となっている回路をシミュレートするために用いられた。
第22図(c)は、これらの各ケース毎に遅延時間劣化値を実際の回路シミュレーションで算出した場合、前記したRWMを使って単純な手法で算出した場合、及び本発明のMA−RWMを使って算出した場合に分けてその算出値をテーブルにまとめたものである。
この結果から、同図(a)に示したケース1のようにVSAT windowが狭く複数のアグレッサwindowsがお互いに近接している場合は、RWM手法でも回路シミュレーションとは4%程度の誤差と比較的に正確な遅延時間劣化値を算出できていることが理解される。しかしながら、同図(b)に示したケース2のようにVSAT windowが大きく複数のアグレッサwindowが比較的に離間されて存在している場合には、このRWM手法では非常に大きな誤差(又はエラー)をもって遅延時間劣化値を算出していることが判る。一方、本発明のMA−RWM手法ではどちらの場合にも誤差(又はエラー)は小さく回路シミュレーション結果と合致した遅延時間劣化値を算出できていることが判る。また、種々の試作実験の結果、RWM手法と本発明のMA−RWM手法によって得られるこのような遅延時間劣化値のエラーはアグレッサの数に依存することも確認できた。即ち、第23図に示すように、アグレッサの数が1本の場合には両方の手法とも殆ど同じ程度の小さいエラーであるが、アグレッサが2本乃至それ以上になると簡便なRWM手法では労力のかかる回路シミュレーションと比較して50%よりも大きいエラーを生み出しているのに対し、本発明のMA−RWM手法では10%よりも小さいエラーで遅延時間劣化値を算出できていることが確認できた。このことからも、本発明は隣接配線の数が多ければ多いほど、例えば大規模な電子回路装置になればなるほどその適用効果が顕著に発揮されるものであることが理解される。。
なお、以上種々の実施例をもとに詳細に説明してきたが、本発明は、半導体集積回路装置、パッケージ内に実装された電子回路装置、基板上に実装された電子回路装置およびそれらを用いた電子回路システム,特に配線により論理回路の入出力が接続される構成を有する汎用プロセッサ,信号処理プロセッサ,画像処理プロセッサ、半導体メモリ、システムモジュール、コンピュータシステム、携帯機器システム等における隣接する配線間のクロストークを考慮した信号遅延時間算出方法及びそれを用いた電子回路装置の設計製造に適用することができる。
産業上の利用可能性
本発明を用いることにより,複数の隣接配線が存在する場合でかつ入力パターンに依存して着目配線および隣接配線のそれぞれの信号到達時刻が動的に変化するようなクロストークを考慮した遅延時間劣化の解析が精度良く行えるようになる。また、クロストークを考慮した上で一定の周波数での動作を検証するシステムが実現できる。
特に、電子回路装置における所謂クリチカルパスを対象に本発明を適用することにより、クロストーク対策のなされた性能の高い集積回路や基板上システムが効率よく実現できる。
【図面の簡単な説明】
第1図は一つの着目配線と一つの隣接配線とからなる二つの配線における信号到達時刻(VSAT,ASAT)の組み合わせにより変化するディレイ劣化を示した図であり、第2図は相対信号到達時刻(RSAT)に依存したディレイの劣化を示した特性図であり、第3図は入力パターン変化(信号伝達経路変化)に依存した信号到達時刻の変化を示した図であり、第4図(a)〜(c)はRSATのウインドウを用いたディレイ劣化解析手順を示した図であり、第5図(a)〜(d)は一つの着目配線に対する複数の隣接配線によるクロストークを解析することを説明する図であり、第6図は本発明によるクロストーク解析手順でのステップを示した図であり、第7図(a)〜(f)は本発明によるクロストーク解析方法を説明するための図であり、第8図(a)〜(f)は本発明による他の解析方法を説明するための図であり、第9図は本発明による遅延時間劣化の解析手法を利用した半導体集積回路または基板回路の設計システムを説明するための図であり、第10図(a)〜(d)は本発明の実施例を説明するための図であり、第11図(a)〜(f)は第10図と共に本発明の実施例を説明するための図であり、第12図(a)(b)は本発明の他の実施例を説明する図であり、第13図(a)〜(f)は本発明の更に他の実施例を説明する図であり、第14図(a)〜(c)は本発明の更に他の実施例を説明する図であり、第15図は本発明の更に他の実施例を説明する図であり、第16図(a)(b)は本発明に用いられるライブラリ情報を説明する図であり、第17図(a)〜(d)は本発明の更に他の実施例を説明する図であり、第18図は本発明の設計システムおよびそこで用いられるディスプレイ表示の例を説明する図であり、第19図は本発明の更に他の設計システムおよびディスプレイ表示の例を説明するための図であり、第20図は本発明の効果を説明するための実際の回路シミュレーション結果と比較した特性図であり、第21図はアグレッサが3本の場合に本発明を適用する例を説明するための回路図であり、第22図(a)〜(c)は第21図の例に本発明を適用した場合の効果を説明するための図であり、第23図は本発明の効果を説明するために実測した特性図である。
Claims (10)
- 一つの着目配線に隣接した複数の隣接配線が上記着目配線に及ぼす信号のクロストークを解析する方法において、上記着目配線及び上記複数の隣接配線でのそれぞれのダイナミックな信号到達時刻が取りうる範囲に応じて上記各隣接配線が上記着目配線に及ぼす遅延時間劣化をそれぞれ求め、それら遅延時間劣化を上記着目配線での信号到達時刻を基準に加算することを特徴とするクロストーク解析方法。
- 第1の電子回路ユニットの出力部に接続された第1の配線に隣接して配置され、それぞれ第2及び第3の電子回路ユニットの出力部に接続された第2及び第3の隣接配線とを有する電子回路装置における上記第2及び第3の隣接配線による上記第1の配線に及ぼすクロストークを算出する際に、上記各電子回路ユニット毎の信号遅延特性をもとに上記各配線におけるそれぞれの信号到達時刻の範囲を算出し、上記第1の配線における信号到達時刻を基準として上記第2及び第3の配線における信号到達時刻を相対的に計った相対信号到達時刻をもとに上記第2及び第3の配線に到達する各信号のタイミングに応じて上記第1の配線に及ぼすクロストークによる遅延時間劣化値をそれぞれ算出し、上記各遅延時間劣化値を上記第1配線における信号到達時刻を基準に加算することを特徴とする電子回路装置のクロストーク算出方法。
- 一つの着目配線に隣接した複数の隣接配線が上記着目配線に及ぼす信号のクロストークを解析する方法において、上記着目配線への信号到達時刻を基準として上記各隣接配線への信号到達時刻の範囲内で上記着目配線に及ぼす最大の遅延時間劣化値を上記各隣接配線毎に算出し、それらの算出結果を上記着目配線への信号到達時刻を基準として加算することによって上記複数の隣接配線がクロストークによって上記着目配線に及ぼす総合遅延時間劣化を算出することを特徴とするクロストーク解析方法。
- 上記請求の範囲第1項乃至第3項のいずれかに記載のクロストーク算出方法を用いて複数の隣接配線を有する電子回路装置を製造することを特徴とする電子回路装置の製造方法。
- 演算処理装置、記憶装置及びマンマシンインターフェースを具備してなる自動設計装置を用いて実現され、着目する一つの配線に対しクロストークを引き起こす隣接配線が複数存在する電子論理回路装置における遅延時間を算出する方法であって、上記電子回路装置の上記クロストークによる信号遅延時間劣化値の計算方法として、上記記憶装置上に保持されたプログラムから次のステップを実行することを特徴とする電子回路装置の遅延時間算出方法、
(a)論理入力と論理出力との間の論理関係を定める論理回路ブロックまたは論理回路セルの接続情報とこれらの接続に用いられる配線の物理的空間情報が入力されるステップ、
(b)上記論理回路中の少なくとも1つのノードでの信号到達時刻の算出において、そのノードにおける信号到達時刻がとりうる範囲の計算を行うステップ、
(c)上記(a)のステップで入力された配線の物理的空間情報から上記(b)で着目したノードに属する配線と隣接する配線を所定の条件に基づいて抽出するステップ、及び
(d)上記(b)のステップを実行して得られる着目ノードの信号到達時刻の範囲を用いて、下記(d−1)、(d−2)、(d−3)及び(d−4)のステップを実行して、隣接する配線の影響を考慮した着目ノードの遅延時間劣化値を算出するステップ、
(d−1):上記着目配線の駆動回路と上記(c)のステップで抽出された隣接配線の駆動回路の強さの組み合わせに対するクロストークによる遅延時間劣化値を着目ノードと隣接ノードの信号到達時刻の相対的な時間差により検索可能なデータ形式として保持するステップ、
(d−2):上記(c)のステップで抽出された隣接配線が属するノードにおける信号到達時刻の範囲を算出するステップ、
(d−3):上記(d−2)のステップで算出された隣接ノードの信号到達時刻の範囲を、着目ノードの信号到達時刻を基準とした相対的な信号到達時刻の範囲に変換し、該相対的信号到達時刻の範囲中における上記(d−1)のステップで得た遅延時間劣化値の最大値を選びだし、これを着目ノードの信号到達時刻ごとに検索可能なデータ形式として保持するステップ、及び
(d−4)上記着目配線と隣接する複数の配線の組み合せに対して、着目ノードの信号到達時刻ごとに上記(d−3)のステップで保持した遅延時間劣化値を互いに加算し、これを着目ノードの信号到達時刻ごとの遅延時間劣化値として保持するステップ。 - 演算処理装置、記憶装置及びマンマシンインターフェースを具備してなる自動設計装置を用いた論理回路の設計システムであって、上記請求の範囲第5項に記載の遅延時間算出方法を用いて遅延時間を計算後、所定の条件に従って回路の変形個所を特定し、論理回路の構成又は回路の配置や配線の位置を変更することにより信号到達時刻を変化させることによって遅延時間劣化量を削減できるようにしたことを特徴とする論理回路の設計システム。
- 一つの着目配線に隣接した複数の隣接配線を有する電子回路装置の設計方法において、上記着目配線のノード及び上記複数の隣接配線のノードでのそれぞれのダイナミックな信号到達時刻が取りうる範囲に応じて上記各隣接配線が上記着目配線に及ぼす遅延時間劣化をそれぞれ求め、それら遅延時間劣化を上記着目配線での信号到達時刻を基準に総合することによって上記複数の隣接配線が上記着目配線に及ぼすクロストークによる総合的な遅延時間劣化を求めて上記着目配線のノードでのトータル信号遅延時間を算出し、この算出結果をもとに上記電子回路装置を設計することを特徴とする電子回路装置の設計方法。
- 一つの着目配線に隣接した複数の隣接配線を有する電子回路装置の設計方法において、上記着目配線のノード及び上記複数の隣接配線のノードでのそれぞれの信号到達時刻が取りうる範囲に応じて上記隣接配線のそれぞれが上記着目配線に及ぼす遅延時間劣化特性を上記着目配線での信号到達時刻を基準に表わしたグラフ画像と、それらの遅延時間劣化特性を上記着目配線での信号到達時刻を基準に総合したグラフ画像とが画面に表示された設計ツールを用いることによって、上記複数の隣接配線が上記着目配線のノードに及ぼすクロストークによる遅延時間劣化特性を解析することを特徴とする電子回路装置の設計方法。
- 隣接配線が着目配線に及ぼすクロストークによる遅延時間劣化値を算出する際に利用される電子回路ライブラリを計算機で読み取り可能に記憶した記録媒体であって、上記ライブラリは上記着目配線と隣接配線を駆動する論理セルもしくは論理ブロックの組み合わせに対し、及び又はこれら駆動論理セルもしくは駆動論理ブロックの負荷駆動能力の組み合わせに対し、上記クロストークが発生する上記隣接配線と着目配線との隣接並走長が複数の場合について上記隣接配線と着目配線に属するノードにおける信号到達時刻の差に応じて遅延時間劣化値が取得できるものであることを特徴とする電子回路ライブラリの記録媒体。
- 隣接配線が着目配線に及ぼすクロストークによる遅延時間劣化値を算出する際に利用される電子回路ライブラリを計算機で読み取り可能に記憶した記録媒体であって、上記ライブラリは上記着目配線と隣接配線を駆動する論理セルもしくは論理ブロックの組み合わせに対し、及び又はこれら駆動論理セルもしくは駆動論理ブロックの負荷駆動能力の組み合わせに対し、上記着目配線と隣接配線に属するノードにおける信号到達時刻の差に応じてクロストークによる遅延時間劣化値が取得でき、かつ上記着目配線と隣接配線のそれぞれの配線が隣接並走する部分に対して駆動論理セルもしくは駆動論理ブロックに近い側と遠い側の少なくとも一方に配線を付加した場合に上記着目配線と隣接配線に属するノードにおける信号到達時刻の差に応じてクロストークによる遅延時間劣化値が取得できるものであることを特徴とする電子回路ライブラリの記録媒体。
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