【発明の詳細な説明】
ヒト腺性カリクレイン−1(hK2)
本発明は、新規なタンパク質に関する。特に、新たに同定されたhK2遺伝子
によりコードされたヒト腺性カリクレイン(hK2)の新規な型およびhK2に
よりコードされたタンパク質を活性タンパク質として得るための組換えDNA技
法の使用に関する。このタンパク質には、以前から認識されているhK2遺伝子
であるArg226−hK2でコードされる成熟タンパク質を含む。
ヒト腺性カリクレイン遺伝子類は、3種の異なるタンパク質:前立腺特異抗原
(PSA)、腺性カリクレイン−1(hK2)および膵臓/腎性カリクレイン(
KLK1)をコードする遺伝子からなる。これらの遺伝子は、19番染色体上に
位置し、PSAおよびhK2遺伝子は12kbの距離で1列に並んでいる(1)
。ヒトKLK1のコード領域の、ヒトPSAおよびK2遺伝子との相同性は、そ
れぞれ74%と75%である。hPSAとhK2遺伝子とのコード領域は85%
の相同性を有し、同じ遺伝子のプロモーター領域は91%の相同性を有する。K
LK1遺伝子は真のカリクレインをコードする。KLK1はキニノゲナーゼ活性
を有し、腎臓、膵臓および唾液腺において発現される(2)。In situハ
イブリゼイションにより、hPSAおよびhK2遺伝子は、前立腺上皮細胞中で
のみ発現することが知られている。hK2とhPSA遺伝子との類似性にかかわ
らず、mRNAレベルでのhK2の発現レベルは前立腺におけるhK2遺伝子の
それの約10−30%に過ぎない(3)。LNCap細胞で試験すると、hK2
およびhPSAの両方についてmRNAレベルの明らかな上昇調節がアンドロゲ
ンの存在で見られた(4)。
最近の別の結果では、hK2およびhPSAの発現が以前考えられていたよう
に前立腺特異的でないことが指摘されている。RT−PCR後の遺伝子特異的オ
リゴヌクレオチド・プローブでのサザンブロット分析により、前から同定されて
いる全3種のヒトカリクレイン遺伝子がヒト子宮内膜において検知されている(
5)。
hPSAは授乳期の母乳中にもイムノアッセイにより検出されている(6)。ス
テロイドホルモン刺激乳房組織と同様に乳房腫瘍の30−40%がhK2を含む
ことがさらに見いだされている(7)。
hK2遺伝子は、ヒトゲノム胎児肝ライブラリーから単離され、配列決定され
ている(8a)。このhK2遺伝子の5コードエキソンのヌクレオチド配列は、
PSAのような、17アミノ酸のシグナルペプチドと7アミノ酸の活性化ペプチ
ドを有する261アミノ酸プレプロタンパク質をコードことが見いだされた。h
K2は、セリンプロテアーゼの典型的触媒トリアド(His41−Asp96−
Ser189)を有していることが知られている。hK2中のアミノ酸183位
にアスパルテート残基が存在することは、このタンパク質のトリプシン様基質活
性に適合する。PSAにおいて、キモトリプシン様活性を発揮する基となる同じ
位置でのセリン残基が存在する(8)。
PSAの機能はセメノゲリン血餅の解裂であるが、hK2の機能は分かってい
ない。血清中のPSAの集中は前立腺の癌および過形成において増加するので、
PSAは前立腺癌の発見および監視にマーカーとして広く用いられている(10
)。しかし、hPSAとhK2遺伝子との大きい相同性からして、hK2は精製
されるに止まっている。しかも、PSAの純度は必ずしも常にはっきりしていな
い。このことは、hPSAに対するポリクローナルまたモノクローナル抗体に基
ずくhPSAアッセイに問題を起こす。
hK2タンパク質は、ヒト前立腺癌組織cDNAライブラリーからのhK2c
DNAを発現ベクター中でクローン化し、適当な宿主細胞中でcDNAを発現す
ることにより、hPSAの混入なしに、現在得られている。さらに具体的には、
hK2は、プレプロhK2タンパク質をコードするバキュロウイルス発現ベクタ
ーを昆虫細胞で用いて、生産される(参照、実施例4および5)。そこにはhK
2タンパク質産生のためのバキュロウイルス発現ベクター系の使用のみが記載さ
れているが、ポリヘドリンプロモーターの調節下での組換えオウトグラファ・カ
リフォルニア・ヌクレアル・ポリヘドロシス・ウイルス(AcNPV)や、ヒト
タンパク質の産生に普通に用いられる他の発現ベクター系も使用することができ
る。しかし、例えば、大腸菌細胞などの細菌細胞を形質転換するのにプレプロタ
ンパク質をコードする発現ベクターを用いるときは、上記のバキュロウイルス発
現ベクター系とは異なり、プレプロ配列が翻訳後プロセシングにより除去されな
いで、対応する成熟タンパク質、例えば活性成熟Arg226−hK2が直接的に
得られることが十分理解されるであろう。
ヒト前立腺cDNAライブラリーからのhK2 cDNAのクローニングによ
り、hK2 cDNAは現在、以前に報告されたhK2のコード配列と1塩基の
相違があると同定されている。塩基792位でのこの相違(CからTへ)はアミ
ノ酸226位でのArgからTrpへの変化に等しい。この観察された相違は、
cDNAクローニングおよび配列決定の過程で起きたものでなく、前に同定され
ていなかったhK2の存在からきている。このhK2の存在は、PCRを用いて
、多数のヒト前立腺および白血球サンプルのゲノムDNAからhK2遺伝子を増
幅して、確認された(実施例2)。
ひとつの観点において、本発明は、Arg226のTrpへの変換によるArg2 26
−hK2と同様の配列を有するTrp226−hK2であるタンパク質、または
N末および/またはC末の伸展を有するTrp226−hK2であって、Trp226
−hK2抗体またはhPSA抗体を結合する能力を保持するタンパク質を提供す
る。ただし、該タンパク質が天然発生のタンパク質であるときは、それが元から
関係している他のタンパク質を実質的に含まない。
これらのタンパク質は、実質的に純粋な形でのTrp226−hK2に加えて、
例えば実質的に純粋な形でのプロTrp226−hK2またはプレプロTrp226−
hK2を含む。この中で、Trp226−hK2は、前にArg226−hK2と同定
されたプロおよびプレプロ配列にN末で接合している。本発明の実施態様を形成
する更に新規なタンパク質は、N末のジペプチド伸展Ser−Argを有するT
rp226−hK2である。昆虫細胞におけるプレプロTrp226−hK2をコード
するcDNAの発現によって、このTrp226−hK2誘導体がTrp226−hK
2自体よりも得られることが分かった。これは、臨床試験の使用のために市販さ
れている通常のhPSAイムノアッセイを用い、既知のアンチhPSA抗体との
交差活性を見ることにより検出し得るが、不活性である(実施例3参照)。
本発明は、下記するような、抗原性とTrp226アミノ酸残基を保持するTr
p226−hK2のフラグメントにさらに広がる。すべてこれらのフラグメントお
よびTrp226−hK2配列を有するタンパク質は、以下で使用する用語Trp2 26
−hK2タンパク質の範囲に含まれる。
別の観点において、本発明は、本発明のTrp226−hK2をコードする単離
DNAまたは組換えDNAを提供する。好ましくは、このDNAはTrp226−
hK2の天然コード配列を含み、さらに好ましくは、プレプロTrp226−hK
2の完全な天然コード配列を含む。この組換えDNAはベクター、例えばプラス
ミドまたはウイルスベクターの形で存在し得る。望ましくは、このベクターは、
宿主細胞中に存在するときに、その細胞または培養基での本発明のTrp226−
hK2タンパク質の産生を指向し得る発現ベクターである。上記において特に好
ましい例は、バキュロウイルス発現ベクターであり、これは宿主細胞中に存在し
、その細胞または培養基での本発明のTrp226−hK2タンパク質の産生を指
向する。
別の観点において、本発明は、上記の本発明のベクターを含む宿主細胞および
本発明のTrp226−hK2タンパク質を製造する方法を提供する。この方法は
、発現ベクターを含有する本発明の宿主細胞を該タンパク質が宿主細胞または培
養基中で産生される条件で培養し、該タンパク質を該細胞または培養基から単離
する。例えば、該細胞がプレプロTrp226−hK2の細胞における発現のため
のバキュロウイルス発現ベクターを含む昆虫細胞である場合、上記のN末ジペプ
チド伸展Ser−Argを有するTrp226−hK2が培養基から精製される。
この目的のための精製法には、例えばイオン交換クロマトグラフィーとゲル濾過
クロマトグラフィーの併用がある(実施例5参照)。このようにして得たTrp226
−hK2誘導体は、タンパク質工学の当業者によく知られた技術を用いて、
続いて容易にTrp226−hK2に変換し得る。
もし、上記のバキュロウイルス発現系において、プレプロTrp226−hK2
配列が、分泌成熟Arg226−hK2をもたらすために昆虫細胞においてプログ
レシング可能な代用のN末配列に接合したプレプロArg226−hK2またはA
rg226−hK2をコードする配列によって置換されると、活性Arg226−hK
2は、例えばイオン交換クロマトグラフィーとゲル濾過クロマトグラフィーの併
用を含む精製法により宿主昆虫細胞の培養基から単離され得る(実施例5参照)
。このように、元から関係する他のタンパク質を実質的に含有しない活性Arg226
−hK2、および実質的に純粋な形における特に活性のArg226−hK2が
提供される。
活性Arg226−hK2とは、成熟Arg226−hK2配列を有し、合成色素産
生性ポリペプチド基質H−D−Pro−Phe−Arg−pNA・2HClを加
水分解し得るタンパク質を意味する。下記の実施例5のアッセイ法ではpNAが
パラニトロアニリンである。このように最初に得た活性Arg226−hK2は続
いて抗原性フラグメントに消化される。Arg226−hK2またはその抗原性フ
ラグメントの単離はタンパク質を標識してなされる。
イムノアッセイなどの利用において、本明細書のタンパク質は標識タンパク質
に通常的に用いられている標識で処置し得る。例えば、放射標識、酵素標識(例
えば、アルカリポスファターゼ)、蛍光標識(例えば、フルオレセンまたはロー
ダミン)、ランタニドまたはビオチン(ペルオキシダオーゼに結合するアヴィジ
ンまたはストレプタヴィジンにより検出され得る)により標識される。
本発明のタンパク質が、標準対照として用いられ、あるいは適当なイムノアッ
セイまたはイムノ組織化学アッセイにおけるタンパク質に対する抗体活性の試験
に用いられることは、十分理解されるであろう。このような試験は、例えばhP
SA、Arg226−hK2またはTrp226−hK2に対する抗体の交差活性の試
験を含む。
非標識型の本発明のタンパク質は、ポリクローナルまたはモノクローナル抗体
の産生のための免疫原としての用途がある。ポリクローナルまたはモノクローナ
ル抗体の産生の方法は抗体産生に通常知られている方法と同じである。この目的
のために、タンパク質は、好ましくは免疫組成物においてフロインドの完全アジ
ュバントなどのアジュバントと結合される。Trp226−hK2またはArg226
−
hK2に対するモノクローナル抗体産生の適当な方法は、例えば、ヒト前立腺酸
ホスファターゼに対するモノクローナル抗体を得るためのClinical Chemistry(1
987)33、103-107記載の方法と同じであり、またはヒト前立腺特異抗原に対するモ
ノクローナル抗体を得るためのClinical Chemistry(1990)26,92-95記載の方法と
同様である。このようにして得た抗体は、通常の方法、例えば放射標識、酵素標
識、蛍光標識ランタニドまたはビオチンで標識され得る。
モノクローナル抗体産生の免疫原としてTrp226−hK2を用い、ついで精
製Trp226−hK2と市販の精製hPSAによるハイブリドーマをスクリーニ
ングして、モノクローナル抗体を選別できる。これは、ヒト体液サンプルにおい
てTrp226−hK2と結合するが、hPSAとは結合できないので、診断目的
のために特に価値がある。このような方法においてArg226−hK2の使用ま
たはArg226−hK2とTrp226−hK2との併用も免疫原になし得ることは
、十分に理解されるであろう。スクリーニング法において、Trp226−hK2
に加えて、または代わりに、Arg226−hK2を使用できる。Arg226−hK
2とTrp226−hK2の両者を用いる抗体スクリーニング法は、Arg226−h
K2とTrp226−hK2とを識別し得る非hPSA結合抗体を選択するように
設計され得る。
他の観点において、本発明は、Trp226−hK2および/またはArg226−
hK2に結合し得るが、hPSAとは結合し得ない抗体を標識または非標識型で
提供する。さらにこのような抗体を産生し得るハイブリドーマを提供する。本発
明の抗体の使用によって、Trp226−hK2および/またはArg226−hK2
が体液などのサンプル中に特異的に検出され得る。このような抗体は、前立腺疾
患を診断するのに用いる新しい重要な手段を提供する。
本明細書での用語“抗体”は、完全な抗体分子およびその抗原結合フラグメン
ト、例えばFabやF(ab')2フラグメントなどを含むと理解されるべきであ
る。ヒト抗体およびそのフラグメントも用語“抗体”に含まれる。
新たに同定されたTrp226−hK2遺伝子について同型接合または異型接合
の患者において、Trp226−hK2タンパク質が前立腺の癌や過形成などの前
立腺疾患のマーカーとして使用されることは、十分に理解されるであろう。さら
に、本発明は、Trp226−hK2遺伝子について同型接合または異型接合の患
者について前立腺疾患を診断する方法を提供する。それは、前立腺組織またはヒ
ト体液サンプル中の該遺伝子によりコードされるタンパク質の発現または濃度に
関する変化を測定することを含む。
以下の実施例は、下記の図1および2と共に本発明を説明する。
図1a−1d: 組換えhK2タンパク質の銀ステイン・ポリアクリルアミド
ゲル電気泳動および免疫ブロット法。純粋の組換えTrp226−hK2タンパク
質(欄1)および市販のhPSA(欄2)を天然(1a)および還元SDS−P
AGE(1b)において銀着色した。精液から精製したhPSAに対する家兎ポ
リクローナル抗体を、天然PAGE(1c)および還元SDS−PAGE(1d
)上に、組換えArg226−hK2(欄1)、組換えTrp226−hK2(欄2)
および市販のhPSA(欄3)を検出するために、使用した。
図2Aおよび2B: 時間分解蛍光イムノアッセイ(1A)およびIRMA(
1B)による組換えTrp226−hK2および市販のhPSAの定量的回収。純
粋のTrp226−hK2および市販hPSAを、キットのウシ血清アルブミン含
有ゼロ緩衝液に1、10、25、50、100および500μlの濃度で溶解し
た。これらの濃度でhPSAについて時間分解蛍光イムノアッセイおよびIRM
Aキットにより検定した。データは3−5回の測定からの平均値±SDである。
実施例1: ヒト前立腺癌組織cDNAライブラリーからのhK2−cDNA
のクローニング
hK2 cDNAをヒト前立腺含有組織cDNAからPCRにより増幅した。
このPCR増幅においてN末オリゴマーは5'−TCCCCCGGGAGATC
TCACCATGTGGGACCTGGTTCTC−3'であり、これはSma
IおよびBglII制限部位を含んでいた。C末オリゴマーは5'−CGCTC
TAGATCAGGGGTTGGCTGCGATGGT−3'であり、部分的h
K2配列に加えてXbal制限部位を含んでいた。ジデオキシ法(Sanger et al
.Proc.Natl.Acad.Sci USA(1977)74,5463)によるベクター(Invitrogen)中の
hK2配列の確認後、プレプロhK2 cDNAを転移ベクターpVL1392
(Invitrogen)のBglII/XbaI部位に挿入した。
このcDNAのコード配列は、Schedlichら(8a)により前に報告されてい
たhK2についてのヒトDNAコード配列と異なる。そのコード位置792はCよ
りもむしろTであった。
実施例2: ヒト前立腺組織および白血球サンプル中のhK2遺伝子の配列解
析−Arg226Trp−多形性の検定
ゲノムDNAは、前立腺切開、生検または尿道移転切除により得た前立腺組織
から、およびヒト白血球から分離した。女性および若い男性の白血球を対照物と
して用いた。特殊なオリゴヌクレオチドをhK2遺伝子のPCR増幅および配列
決定に使用した。増幅において、N末オリゴマーは5'−TTCTCACTGT
GTCTCTCCTCTGGGACAGGGGCACTCA−3'であり、ビオ
チン標識C末オリゴマーは5'−GTGGGACAGGGGCACTCA−3'で
あった。PCR直接配列決定において、フルオレセイン・アミジト標識オリゴマ
ーは5'−ATCATGGGGCCCTGAGCC−3'であった。
塩基位置792(CまたはT)に変化がみられた。前立腺疾患の36人の患者
の組織および白血球標本からの配列決定されたDNAサンプルは、この塩基位置
で多形性が起きていることを示した(表1a)。この限定された標本において、
前立腺癌患者24人中13人が異型接合体CT、10人が同型接合体CC、およ
び1人が同型接合体であった。良性前立腺過形成標本12中8が異型接合体CT
、および4が同型接合体CCであった。同じ変化が組織および白血球標本で検知
された。対照において、女性白血球DNA標本10中5が異型接合体CT,4が
同型接合体CC、および1が同型接合体TTであり、若い男性白血球DNA標本
6中4が異型接合体CTおよび2が同型接合体CCであった。Arg226対立遺
伝子の頻度は、前立腺癌患者で69%(N=24),良性前立腺過形成患者で6
7%(N=12)、および対照で66%(N=16)であり、Trp226対立遺
伝子の頻度は、それぞれ31%、33%および34%であった(表1b)。
実施例3: 組換えTrp226−hK2の定量的回収
精製組換えTrp226−hK2のタンパク質濃度をLowryらの方法(J.Biol.Ch
em.1951;193:265)により標準としてウシ血清アルブミン(Bio−Rad,Richmon
d,CA)で調べた。組換えTrp226−hK2の回収を時間分割蛍光イムノアッ
セイ(DELFIA PSAキット、Wallac、フインランド)およびIRMA
(Tandem(商標)−R PSAキット、Hybritech、ベルギー)でさらに測定
した。この検定において、組換えTrp226−hK2および市販PSAをウシ血
清アルブミン含有イムノアッセイキットのゼロ標準液で希釈した。
hPSA検出の蛍光イムノアッセイにおけるTrp226−hK2および市販h
PSAの回収は、蛍光イムノアッセイの検量体に比較すると、それぞれ128±
13%(平均±SD,N=20)および107±20%(平均±SD,n=20)
であった。hPSA検出IRMAにおいて調べたときの回収は、IRMAキット
の検量体に比較すると、それぞれ110±14%(平均±SD,n=15)およ
び98±6%(平均±SD,n=15)であった。
血清hPSA濃度の測定を意図する検定は、hPSAに特異的でなく、加えた
不活性hK2の100%を検出した。活性組換えhK2がhPSAについての市
販蛍光イムノアッセイおよびIRMAにおいて等しく検出可能であった。
実施例4: バキュロウイルス発現ベクターにおけるプレプロhK2 cDN
Aのクローニングおよび昆虫細胞における発現
同じクローニング法が、Vihko et al.Proc.Natl.Acad.Sci USA(1993)90,799-
803に記載のように、AcNPV DNA(Invitrogen)および実施例1のよう
に得たプレプロhK2 cDNA含有PVL1392転移ベクターの共トランス
フェクションで出発して、Spodoptera frugiperda(Sf9)細胞(Invitroge
n)になされる。組換えAcNPV DNA含有昆虫細胞の培養物は、hPSA
蛍光イムノアッセイキット(DELFIA,Wallac)を用いてhPSAモノクロ
ーナル抗体に結合し得る分泌タンパク質について検定した。
プレプロTrp226−hK2またはプレプロArg226−hK2のいずれかのコ
ード配列を含有する昆虫細胞は、プレプロTrp226−hK2コード配列により
高い発現が見られたが、hPSAアッセイにより検出可能な培養タンパク質中に
分泌するのが認められた。
実施例5: 組換えTrp226−hK2タンパク質および活性Arg226−hK
2の精製
組換えウイルス感染からの収穫培地をペリコン・カセット系(切除、10kD
a,ミリポア)で濃縮し、50mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.5)中に透析
した。濃縮物をカチオン交換カラム(S−Sepharose HP 35/100,Ph
armacia)に充填した。水洗後、hK2タンパク質をカラムから0.1−0.25
MのNaClの直線塩勾配液で溶出した。ポリクローナルhPSA抗体(細長い
染み)と免疫活性であるこれらのフラクションを、ゲル濾過クロマトグラフィー
(Sephacryl S−75,Pharmacia)のために濃縮し(Amicon),150mM
のNaClを含むpH7.0の10mMトリス−HClで溶出した。hK2含有
フラクションを集め、カチオン交換クロマトグラフィー(Mono−S,Pharmacia
)のために20mMリン酸ナトリウム(pH7.0)中で透析した。hK2タン
パク質をカラムから直線NaCl勾配液(0−60mM)で溶出した。S−セフ
ァロースおよびセファクリルS−75カラムをBioPilotに、モノ−Sカ
ラムをFPLC自動クロマトグラフィー系(Pharmacia)に接続した。
得た組換えTrp226−hK2タンパク質の純度は、SOS−PAGE、天然
PAGEおよび銀ステインまたはイムノステイン法による等電点収束により調べ
た(12)。還元SDS−PAGE(図1bおよび1d)により、組換えTrp226
−hK2タンパク質の分子量(Mr)が約33kDa(12)であり、市販
hPSAが34kDaであることが分かった。組換えTrp226−hK2タンパ
ク質をイオン・スプレイ・マススペクトロメトリーで分析すると、測定された平
均Mrは27.4kDaであった。銀ステイン天然PAGEの場合(図1a、1
c)、組換えTrp226−hK2タンパク質は370kDaに1バンドを示し、
市販hPSAは70と140kDAの間に4バンドを示した。hPSAに見られ
る多相性は、ジスルフィド橋で結びつけられている2または4のポリペプチド鎖
へのタンパク質の内部タンパク質分解性開裂によると思われた(13)。
N末アミノ酸解析は、翻訳後プロセシングが昆虫細胞においてプレプロTrp226
−hK2のプレプロ配列を完全に除去しなかったことを示した。
開裂はArg−1とIle−1との間よりもむしろGlnとSer−2との間
に起きた。組換えhK2のこの型は、下記のアッセイ法を用いて合成ポリペプチ
ドで検定すると、不活性であることが分かった。
hK2加水分解アッセイ法
H−D−Pro−Phe−Arg−pNA・2HClおよびMeO−Suc−
Arg−Pro−Tyr−pNA−HClの加水分解(Chromogenix AB)を
最終濃度1mMで405nmで測定した。反応は370℃で行われ、hK2タン
パク質含有の100mMNaClでの50mMトリス緩衝液(pH7.8)20
0mlに色素産生性基質を加えることで始めた。1時間後に0.6M酢酸800
mlを加えて反応を停止し、反応速度(mlにつき形成したnmol pNA)
をpNAの標準曲線から計算した。
血清中において、PSAがα1−アンチキモトリプシンとの複合体として圧倒
的多数で存在する(15)。α1−アンチキモトリプシンおよびα1−アンチト
リプシンなどのセリンプロテアーゼ阻害剤は、プロテイナーゼの活性部位と常に
反応する(16)。しかし、上記のように得られた組換えTrp226−hK2タ
ンパク質はこれらのセルピン類のいずれとも複合しないことが分かった。
上記の精製法は培養基からArg226−hK2を回収するのにも適用される。
この手段により、ポリヘドリンプロモータと操作可能的に結合したAcNPVベ
クター中のプレプロArg226−hK2コード配列を含む昆虫細胞が、トリプシ
ン様活性を有する活性hK2タンパク質を産生することが示された。回収Arg226
−hK2タンパク質の免疫ステイン天然PAGEは、組換えTrp226−hK
2タンパク質に比較すると、異なる形態を示した(図1bおよび1c)。
以上に説明したように、上記方法で得た精製組換えhK2タンパク質および精
製成熟Trp226−hK2、例えば上記タイプのTrp226−hK2誘導体をさら
にプロセシングして得た成熟Trp226−hK2は、モノクローナル抗体産生た
めの抗原として使用することができる。例えば、Hoyhtya et al in Clin.Chem.
(1987)33,103-107に記載の方法に従い、モノクローナル抗体産生のために成熟T
rp226−hK2または成熟Arg226−hK2を用い、市販の精製hPSAを加
えてArg226−hK2およびTrp226−hK2の一方または両方とのハイブリ
ドーマを選別して、人体サンプルを含むサンプル、例えばヒト前立腺組織からの
サンプル中のhK2をhPSAと識別し得るモノクローナル抗体を得ることがで
きる。この抗体はVihko et al.Clinical Chemistry(1990)26,92-95に記載のよう
に、望ましくはEu原子で標識され得る。
【手続補正書】特許法第184条の8第1項
【提出日】1997年9月25日
【補正内容】
請求の範囲
1.Arg226のTrpへの変換によるArg226−hK2と同様の配列を有す
るヒト腺性カリクレイン−1(Trp226−hK2)であるタンパク質、または
N末および/またはC末の伸展を有するTrp226−hK2であって、Trp226
−hK2抗体またはヒト前立腺特異抗原抗体を結合する能力を保持するタンパク
質(ただし、該タンパク質が天然発生のタンパク質であるときは、それが元から
関係している他のタンパク質を実質的に含まない)。
2.Trp226−hK2がN末においてプレプロArg226−hK2のプローま
たはプレプロー配列に結合している、プロTrp226−hK2またはプレプロT
rp226−hK2から選択される、請求項1のタンパク質。
3.N末ジペプチド伸展Ser−Argを有するTrp226−hK2である、
請求項1のタンパク質。
4.純粋な形であるTrp226−hK2。
5.Trp226−hK2のTrp226アミノ酸残基を保持する請求項1から4の
いずれかのタンパク質(ただし、該タンパク質が天然発生のタンパク質であると
きは、それが元から関係している他のタンパク質を実質的に含まない)の抗原性
フラグメント。
6.請求項1から5のいずれかのタンパク質をコードする単離DNA。
7.請求項1から5のいずれかのタンパク質をコードする組換えDNA。
8.ベクターの形態中にある、請求項7の組換えDNA。
9.請求項1から5のいずれかのタンパク質のコード配列が昆虫細胞において
該コード配列の発現を指向し得るプロモーター配列と操作可能的に連結している
発現ベクターである、請求項8のベクター。
10.請求項1から5のいずれかのタンパク質のコード配列が昆虫細胞におい
て該コード配列の発現を指向し得るプロモーター配列と操作可能的に連結してい
るバキュロウイルス発現ベクターである、請求項9の発現ベクター。
11.昆虫細胞においてプレプロTrp226−hK2の発現を指向し得るプロ
モーターの調節下にプレプロTrp226−hK2のコード配列を含む、請求項1
0のバキュロウイルス発現ベクター。
12.プレプロTrp226−hK2のコード配列がポリヘドリンプロモーター
の調節下にある組換えAcNPVである、請求項11のバキュロウイルス発現ベ
クター。
13.請求項8から12のいずれかのベクターを含む宿主細胞。
14.請求項9から12のいずれかの発現ベクターを含有する培養宿主細胞を
該タンパク質が宿主細胞または培養基中で産生される条件下に培養し、次いで該
タンパク質を該細胞または培養基から単離することを含む、請求項1から5のタ
ンパク質を調製する方法。
15.請求項11または請求項12のバキュロウイルス発現ベクター含有の昆
虫細胞を用い、N末ジペプチド伸展Ser−Argを有するTrp226−hK2
を培養基から単離する、請求項14の方法。
16.該単離法がイオン交換クロマトグラフィーおよびゲル濾過クロマトグラ
フィーを含む、請求項15の方法。
17.請求項15または請求項16の方法を実施し、次いで該Trp226−h
K2誘導体をTrp226−hK2に転換することを含む、Trp226−hK2を調
製する方法。
18.該タンパク質と結合し得る抗体を取得するための免疫原としての請求項
1から5のいずれかのタンパク質の使用。
19.タンパク質と結合し得るモノクローナル抗体を取得するための免疫原と
しての請求項1から5のいずれかのタンパク質の使用。
20.該抗体を標識することをさらに含む、請求項18または請求項19のタ
ンパク質の使用。
21.標識されている請求項1から5のいずれかのタンパク質。
22.イムノアッセイまたはイムノ組織化学アッセイにおいて、標準参照物と
しての、または該タンパク質に対する抗体活性を調べるための、請求項1から5
または21のいずれかのタンパク質の使用。
23.前立腺組織またはヒト体液においてTrp226−hK2遺伝子によりコ
ードされたタンパク質の発現変化または濃度変化を測定することを含む、患者に
おける前立腺疾患を診断する方法。
24.Trp226−hK2と結合するが、hPSAと結合し得ない抗体。
25.標識された請求項24の抗体。
26.サンプル中のTrp226−hK2を検出するための請求項24または請
求項25の抗体の使用。
27.請求項24のモノクローナル抗体を産生し得るハイブリドーマ。
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(51)Int.Cl.6 識別記号 FI
C12P 21/08 G01N 33/577 B
G01N 33/53 C12N 5/00 B
33/577 15/00 C