【発明の詳細な説明】
エキソポリサッカリド分解酵素およびその使用
本発明は、エキソポリサッカリド分解酵素、エキソポリサッカリドを分解しう
る酵素組成物、および特に表面上の生物皮膜の減少または除去、および該表面上
の生物皮膜形成の防止に関する。さらに具体的には、本発明は、水系(水保持系
、流体系)の表面上の生物皮膜の減少、除去および/または防止のための、酵素
および/または酵素組成物(少なくとも1種のエキソポリサッカリド分解酵素を
含有する)の使用に関する。さらに、本発明は、エキソポリサッカリド分解酵素
を産生する細菌株、およびストレプトミセス(Streptomyces)属の新たに単離した
菌株から調製したエキソポリサッカリド分解酵素に関する。具体的には、本発明
のエキソポリサッカリド分解酵素は、コラン酸(colanic acid)分解酵素である。
固体表面への微生物の付着は、水系においては普通のことである。一般にこの
現象は生物付着と呼ばれ、微生物の層は生物皮膜と呼ばれる。生物皮膜堆積は、
(1)大量の流体から表面への物質の輸送およびその後の付着、(2)生物皮膜内での
微生物の代謝、(3)皮膜表面での流体の剪断応力、(4)表面物質および粗雑性、(5
)付着制御処置、が関与する過程の結果である。
異なる工業過程における生物皮膜形成に関連する問題は、エネルギー損失、材
料品質低下および過程の効率低下である。エネルギー損失は、海運業および流体
分配系における動力消費の増加ならびに冷却塔における熱交換能力の低下を意味
する。固体表面に隣接する生物皮膜層によって引き起こされる材料品質低下は、
腐食および腐敗を意味する。過程の効率低下は、水処理、パルプおよび紙工業な
らびに水質データ収集において見られる。
また、生物付着は健康管理にも関係している。これらは、例えば、歯苔の形成
、疾患を引き起こす真核組織への微生物細胞の付着、飲料水の品質、生物皮膜か
ら工業用水系への病原生物の放出である。工業用プロセス水または運転水系(例
えば、冷却水系または紙工場の開放もしくは閉鎖水循環系など)は、微生物増殖
に
適した条件を供し、その結果として水保持系の表面に生物皮膜(または、スライ
ム)を形成させる。特に冷却水系の場合には、これらの生物皮膜堆積は、熱交換
の低下、パイプライン接続部の損傷および系内の腐食を導きうる。このようにし
て過程制御に悪影響が出ることがあり、これが上記工業過程の効率を低下させ、
生成物の品質を損なうことがある。これに加えて、生物皮膜またはスライムの堆
積は、より高いエネルギー消費を導くのが普通である。生物皮膜形成の増加によ
って最も影響を受けるのは、パルプ、紙、板および織物の製造などの工業過程で
ある。例えば抄紙機の場合、かなり大量の水が、「白水系」と呼ばれる回路系中
を再循環している(一次または二次回路、即ち、白水IまたはII)。分散したパル
プを含有するこの白水は、微生物増殖のための理想的な培養培地を構成する。
工業用の水系とは別に、生物皮膜形成は、他の環境における表面でも、例えば
健康管理における限外濾過および透析膜においても起こりうる。本発明の範囲内
で酵素組成物を、生物皮膜形成が起こる任意の系において、スライムを防止およ
び除去するために利用することができる。
生物皮膜またはスライムは、細菌、特にグラム陰性細菌、例えばシュードモナ
ス(Pseudomonas)、アシネトバクター(Acinetobacter)およびエーロバクター(Aer
obacter)に加えて、フラボバクテリウム(Flavobacterium)、デスルホビブリオ(D
esulfovibrio)、エシェリキア(Escherichia)、スフェロチルス(Sphaerotilus)、
エンテロバクター(Enterobacter)およびサルシナ(Sarcina)によって形成される
。グラム陰性細菌の細胞壁構造は、スライム形成に特に寄与する因子である。こ
の細胞壁は、タンパク質、リポポリサッカリドおよびリポタンパク質からなる外
部膜に加えてアミノ酸およびアセチルアミノ糖からなるペプチドグリカンから構
成される。対照的に、グラム陽性細菌、例えばバシルス(Bacillus)の細胞壁は、
大部分がテイコン酸(teichonic acid)とペプチドグリカンから構成される。
さらに生物皮膜は、真菌および酵母、例えばプルラリア・プルランス(Pullula
ria pullulans)、アルテルナリア(Alternaria)種、レンジテス(Lenzytes)、レン
チヌス(Lentinus)、ポリポルス(Polyporus)、フォメス(Fomes)、ステリウム(Ste
rium)、アスペルギルス(Aspergillus)、フサリウム(Fusarium)、ペニシリウム(P
enicillium)、カンジダ(Candida)、サッカロミセス(Saccharomyces)およびバシ
ドマイセテス(Basidomycetes)によっても形成される。
生物皮膜は種々の微生物を含むことができる。生物皮膜内に、グラム陰性およ
びグラム陽性細菌、真菌および藻類の種を見い出すことができる。生物皮膜の成
長は、不活性表面における有機分子(即ち、脂質、タンパク質、糖)の濃縮によっ
て開始される。次いで、この層への微生物の引き付けおよびその後のエキソポリ
マーによる付着が起こる。次いで、この付着した微生物は、独立した微小コロニ
ーを形成する。しばらく後に、さらに多くのコロニーが互いに成長したときに、
真の生物皮膜が形成される。この生物皮膜は、定常状態に達するまで厚くなる。
流体から既存の生物皮膜への微生物の引き付けは、生物皮膜から流動流体への微
生物の剪断によって相殺される。
生物皮膜の厚みは、基質濃度に応じて増加する。厚い生物皮膜内の一部の領域
は栄養物を消費し尽くし、その結果として弱い構造になる。これらの弱い点が分
離して、生物マトリックス中に穴を創製する。その後のこれら穴上の流れの作用
がより多くの物質を分離することができ、薄い生物皮膜を残す。生物皮膜がより
厚くなるにつれて、表面近くに嫌気性領域が現れる。この領域において、微生物
は表面を破壊することができる。
一般に、生物皮膜中の微生物は、多量のグリコカリックスと呼ばれる細胞外バ
イオポリマーに囲まれている。このグリコカリックスは、「グラム陽性細菌のペ
プチドグリカン層の表面またはグラム陰性細菌の外側膜の表面に対して遠位の細
菌表面構造を含むあらゆるポリサッカリド」と定義される。これらの細胞外ポリ
サッカリドは、エキソポリサッカリド(EPS)として知られている。
このグリコカリックスは、細胞壁において規則的に配列した糖タンパク質(S-
層と呼ばれる)から、または細胞表面において繊維状ポリサッカリドマトリック
ス(カプセル)からなることができ、溶媒中に部分的に流出することもある。この
カプセルを高度に組織化することができる。ときには、微生物を取巻くポリサッ
カリドカプセルが細胞表面に共有結合していないことが観察される。次いで、細
胞をペレット化すると、上清中にグリコカリックスが残る。
グリコカリックスに囲まれた微小コロニーは、両方の娘細胞が同じグリコカリ
ックス内に捕捉されるように細胞複製が起こることによって生成する。グリコカ
リックスバイオポリマーの分子間結合は、二価陽イオンによって影響を受ける。
EDTAによるこれら陽イオンのキレート形成は、生物皮膜を分離させるのに有
効である。
何人かの研究者が、現在既知の細菌グリコカリックスの機能について全般的な
結論を得ている。これは、
(1)固体表面への、または他の原核もしくは真核細胞への細胞の接着において
、および
(2)培地からの有機栄養物の捕捉において、
機能を有しており、
(3)カプセルを十分かつ高度に組織化して粒子を排除し、微生物を環境から保
護することができる。このグリコカリックスを、抗生物質、抗体、バクテリオフ
ァージに対する第1の防御壁と考えることができる。
生物皮膜が微生物物質単独からなることはめったにない。無機物、例えばCa
CO3、アルミナ、シリカ、鉄、マグネシウム、銅がスライムの一部となること
が多い。紙粉砕機においては、多数の物質、例えば繊維、充填剤、ピッチ、ロジ
ンサイズ剤などが皮膜中に含まれうる。
細菌スライムの堆積は殺生物剤によって最も効果的に制御することができるが
、これら殺生物剤の効果は、運転水中の微生物を死滅させ、こうしてスライム生
成を防止することに基づいている。しかし、生物皮膜生成細菌は、浮遊細菌より
も毒性物質に対してはるかに耐性が高い。従って、極めて高濃度の殺生物剤が生
物皮膜の除去のために必要になる。この理由は、生物皮膜細胞の成長が遅く、代
謝の活発性が低いため、ならびに、これら細胞がグリコカリックス(これは、毒
性物質を固定化するイオン交換樹脂として作用するだけでなく、疎水性/親水性
の障壁としても作用する)によって保護され、殺生物剤が細胞に到達するのを妨
げるためである。さらに、殺生物剤は、環境との関係が提起され、その毒性のゆ
えに取扱い時に大きな問題が生じる。このため、生物皮膜を排除する別の方法が
過
去において求められており、酵素が特に注目されていた。
生物皮膜マトリックスは異質でありうる。このマトリックスは主としてポリサ
ッカリドから構築される。従って、スライム除去の分野での研究は、特にポリサ
ッカリドを加水分解する酵素(以下においては、ポリサッカリダーゼと言う)の研
究に集中していた。ポリサッカリダーゼなどの酵素を用いてグリコカリックスを
分解すること、こうして工業用の水系においてスライム形成を防止すること、ま
たは生物皮膜を除去することは、当分野では周知である。
工業的なスライムまたは生物皮膜の組成に関する異なる見方にそれぞれ基づい
て、上記目的に対していくつかの方法が既に示唆されている。
第1の方法は、スライム中に分泌されたエキソポリサッカリドに対しては活性
ではないが、細胞壁中のポリサッカリドに対して活性である分解酵素を用いるも
のである。即ち、これらの酵素は細胞壁を破壊し、細菌を死滅させる。例えば、
DE 37 41 583には、細胞壁中の1,3-グルコース結合に対して分解酵素活性を有
するプロテアーゼとグルカナーゼからなる混合物の使用が開示されている。しか
し、細菌細胞を保護するスライム層が、これら酵素の細胞壁への到達を妨げるこ
とがある。
第2の方法は、工業的なスライムが、1種類の細菌種によって産生される単一
のポリサッカリド型からなると考えるものである。例えば、US 3,824,184および
US 3,773,623には、多種多様の細菌によって産生され、レバンを分解するレバン
ヒドロラーゼの使用が開示されている。しかし、レバンは、スクロースにより増
殖する細菌によって産生されるにすぎない。紙粉砕機または冷却系に関しては、
スクロースが有意量で存在する可能性は低く、従ってレバンは生物皮膜の重要成
分ではないであろう。
CA 1,274,442およびWO 90/02794は、主としてシュードモナス種によって産生
されるアルギネートを分解する酵素アルギン酸リアーゼの使用を開示している。
しかし、シュードモナス種は実地条件下で大量のアルギン酸リアーゼを産生する
ことはほとんどなく、このようなアルギン酸リアーゼの使用は限定された価値し
か持たない。
さらに工業的なスライムは、常に、工業的立地に依存して変化しうる異種微生
物の集団によって産生される。それぞれの微生物はそれ自身の典型的なエキソポ
リサッカリド(EPS)を産生するので、工業的なスライム(生物皮膜)が単一のエ
キソポリサッカリドからなることは決してないであろう。
US 4,055,467には、冷却塔における生物皮膜形成を防止するためのペントサナ
ーゼ-ヘキソサナーゼの使用が開示されている。
第3の方法は、多数の異なるヘテロポリサッカリドが工業的スライム中に存在
しているという事実から出発する。これらのポリサッカリドが、主として、非常
に複雑な配列にあるグルコース、ガラクトース、マンノース、フコース、ラムノ
ース、リボース、グルコサミン、ガラクトサミン、マンヌロン酸、ガラクツロン
酸およびグルクロン酸からなることが当分野で周知である[ケンネ(L.Kenne)ら、
「ポリサッカリド」、アスピナル(G.Aspinall)編、Vol.II(1983)、アカデミック
・プレス(Academic Press);サザーランド(I.W.Sutherland)、「原核細胞の表面
炭水化物」中、アカデミック・プレス、ロンドン(1977)、27-96]。さらに、夥し
い他の糖成分が、比較的少量で存在している。
従って、工業的スライムにある種の効果を有するためには、多数の異なる酵素
活性を組合せるべきと考えられた。しかし、スライムのモノサッカリド組成の知
識は、生物皮膜の除去を成功させる酵素混合物を規定するには十分ではない。そ
れぞれのモノサッカリドは、多くの異なる方法で結合することができる。例えば
、グルコースは、α-1,2、α-1,3、α-1,4、α-1,6、β-1,2、β-1,
3、β-1,4またはβ-1,6結合することができる。これらのそれぞれに対して
、別の酵素活性を付加することができる。また、隣接するモノサッカリドおよび
サッカリド上の置換基が、ある種のポリサッカリダーゼの活性にとって非常に重
要である。
さらに、1つのポリサッカリダーゼ(生物皮膜中に存在するポリサッカリドの
ブロックを構成する主サッカリドの1つに対して、多数の可能な活性の1つを有
する)あるいは数種類のポリサッカリダーゼの混合物であっても、生物皮膜中の
複雑な組成のヘテロポリサッカリドに対しては効果を持たないか、または非常に
限定された効果しか持たないと予想されるのが普通であろう。しかし、ある種の
複雑な混合物がヘテロポリサッカリドの分解に対して陽性効果を示すことが当分
野でわかっている。US 5,071,765およびEP-A-0 388 115は、β-およびα-1,4-
結合したグルコースおよび細胞外タンパク質をそれぞれ攻撃するセルラーゼ、α
-アミラーゼおよびプロテアーゼの混合物の使用に関する。このアミラーゼがス
ライム分子の外側に傷を付け、これによりセルラーゼを構造中に侵入させ、スラ
イムを分解することが開示されている。しかし、スライムが外側に特異的にα-
1,4-結合を持ち、内側にβ-1,4-結合を持つことは決して証明されていた訳
ではない。
US 5,238,572には、ガラクトシダーゼ、ガラクツロニダーゼ、ラムノシダーゼ
、キシロシダーゼ、フコシダーゼ、アラビノシダーゼおよびα-グルコシダーゼ
からなる群から選択される酵素の組合せが開示されている。
生物皮膜形成を防止するための第4の方法は、スライム形成の最初の段階、即
ち、細菌の付着を制御することである。EP-A-0 425 017には、微生物がその一部
において、II型エンドグリコシダーゼと反応する結合によって表面に結合されて
いることが開示されている。これら種類の酵素(エンド-β-N-アセチルグルコサ
ミニダーゼ、エンド-α-N-アセチルガラクトサミニダーゼおよびエンド-β-N-
アセチルガラクトシダーゼ)は、糖タンパク質中に見い出される特異的な内部グ
リコシド結合を切断することができる。これら酵素の一部が分解性でもあること
が知られている。
生物皮膜除去または生物皮膜防止のために多数の異なる酵素法が当分野で提案
されているが、これらは多数の酵素の組合せを必要とするか、または1種類のみ
もしくは数種類の酵素を使用する限り、これらは限定された作用範囲しか持って
いなかった。さらに、これらの方法は、スライムの除去または制御は別にして、
水系の表面への細菌付着を防止し、付着した細菌の分離にも効果のある組成物を
供することができなかった。
従って、本発明の課題は、広い作用範囲を有する酵素または酵素組成物を提供
することである。好ましくは、この組成物は、細菌の付着を防止し、かつ、系の
表面に既に付着している細菌を分離しうるものであるべきである。特に、1種類
の酵素のみまたは非常に少ない種類の酵素の単純な混合物をそれぞれ含有する製
剤を提供すべきである。この組成物はどのような殺生物剤をも含有しないのが有
利である。この酵素または酵素群は、当分野で既知の酵素または酵素混合物より
も少ない量の酵素の使用を可能にする活性を有しているべきである。
即ち、本発明の目的は、通常の殺生物剤の欠点を回避するが、それらの効果を
達成するかまたは越える、水系の表面の生物皮膜の減少および/または除去のた
めの、およびスライム形成の防止のための組成物および方法をそれぞれ利用可能
にすることである。
本発明によれば、この課題は、水系において見い出される細菌、特に腸内細菌
科の群からの細菌によって産生されるエキソポリサッカリドを分解しうる少なく
とも1つの酵素を含有する酵素組成物を提供することにより解決される。本発明
の酵素および酵素組成物は、水系の表面の生物皮膜の減少および/または除去お
よび/またはスライム形成の防止に有用である。本発明の特定の態様においては
、本発明の酵素は、コラン酸を分解することができる。
本発明において、生物皮膜の減少、除去および/または防止とは、生物皮膜中
のエキソポリサッカリドの減少および/または除去、および/または水系表面の
エキソポリサッカリドの付着の防止を包含する。
腸内細菌科の細菌は遍在性の微生物であり、これら細菌と結合して、カプセル
またはゆるいスライムのどちらかとして大量のスライムを構築することができる
。腸内細菌科の細菌は、紙粉砕機ならびに冷却水[ドリユー・ケミカル・コーポ
レイション(Drew Chemical Corporation)、「工業用水処理の原理」、1978、第2
版、p.90]において、または飲料水分配系[レケバリアー(LeChevallier)ら:Appl
.& Env.Microb.53,1987,2714-2724]において見い出される。この群の細菌は
、コラン酸として知られているM-抗原ポリサッカリドを含むエキソポリサッカ
リドを産生することが知られている[アスピナル(Aspinall)、「ポリサッカリド
」、アカデミック・プレス(1983)、314]。
本発明によれば、驚くべきことに、エキソポリサッカリド分解酵素、特にコラ
ン酸分解酵素を含有する組成物が広い活性を持ち、異なる種類の多数の微生物に
対して活性であることが見い出された。
本発明の範囲内で、エキソポリサッカリド分解酵素(本明細書においては、エ
キソポリサッカリダーゼまたはEPSアーゼとも言う)またはコラン酸分解酵素
のそれぞれは、微生物、特に細菌起源のものまたはファージ放出酵素のどちらで
あってもよい。
本発明の好ましい態様によれば、組成物は、変性条件下にドデシル硫酸ナトリ
ウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)によって測定したとき
に約100kDaの分子量を有する、細菌起源の細胞外酵素であるエキソポリサッ
カリド分解酵素(エキソポリサッカリダーゼ)を含有する。好ましくは、この酵素
は、適当な培地においてストレプトミセス菌株GDR-7を培養することによっ
て製造する。この菌株は、ブダペスト条約のもとで1994年7月27日にアメリカン
・タイプ・カルチャー・コレクション[American Type Culture Collection(AT
CC):12301 Parklawn Drive,Rockville,MD 20852,アメリカ合衆国]に寄託
されており、この寄託は受託番号ATCC 55601に対応している。
本発明の酵素および酵素組成物は、この細菌株ATCC 55601を、また
は当分野で周知の方法によってこの細菌株ATCC 55601から、もしくは
ファージゲノムから得た該酵素をコードする遺伝子[サザーランド、「原核細胞
の表面炭水化物」、1977、p.232]で形質転換した適当な宿主細胞(微生物、特に
細菌、植物または動物細胞)を培養することによって調製する。
上記の細菌から、またはファージの培養によって、または遺伝子工学の方法に
よって得た酵素を、粗酵素培養上清の形態またはその精製された形態(即ち、酵
素を細胞および培地から分離する)のどちらかで、スライム形成の防止および/
または生物皮膜の減少および/または除去のために使用することができる。酵素
の回収および精製のための適当な方法は、当分野で周知である。
本発明の好ましい態様においては、細菌宿主細胞、特にストレプトミセス属の
細菌宿主細胞(該酵素をコードする遺伝子または遺伝子群を保持する)を、適当な
培地において培養することによって該酵素を調製する。特に、ATCC受託番号
55601に対応するストレプトミセス菌株GDR-7またはそれから導かれる
細胞株が、本発明の酵素(即ち、エキソポリサッカリダーゼ)の製造に最も適して
いる。本発明の最も好ましい態様においては、このエキソポリサッカリダーゼは
、変性条件下でSDS-PAGEによって測定したときに、約100kDaの分子
量を有する。また、エキソポリサッカリド分解活性を有する酵素を産生しうるス
トレプトミセス菌株ATCC 55601の突然変異体、変異体または形質転換
体も、本発明によれば好ましい。
さらに、適当な宿主細胞、特に細菌、植物または動物細胞において、ストレプ
トミセス菌株ATCC 55601由来のエキソポリサッカリダーゼ分解酵素を
コードする遺伝子またはそのフラグメントを発現させ、そしてクローン化するこ
ともできる。
本明細書において、「酵素」なる用語は、エキソポリサッカリドを分解しうる
該酵素の生物学的に活性な類似体、(天然および合成の)変異体、フラグメントお
よび化学的に修飾した誘導体を包含する。本発明によれば、酵素の1次、2次お
よび/または3次構造を、その生物学的活性が保持される限り、修飾することが
できる。
本発明によれば、本エキソポリサッカリダーゼ(精製された形態または粗製の
形態)は、他の細菌株、例えばクレブシエラ(Klebsiella)、シュードモナス(Pseu
domonas)、キサントモナス(Xanthomonas)などに対しても活性である。即ち、こ
の活性は、腸内細菌科の細菌に加えて種々の細菌種を含む系における生物皮膜除
去において、酵素組成物の有効性に寄与する。
本発明の範囲内で、本酵素組成物は、ポリサッカリダーゼ、プロテアーゼ、リ
パーゼおよびグリコプロテアーゼからなる群からの少なくとも1種の酵素をさら
に含有する。1つの態様においては、少なくとも1種のプロテアーゼ、例えば、
バシルス・リケニフォルミス(Bacillus Licheniformis)によって産生されるセリ
ンプロテアーゼ(この酵素はアルカリプロテアーゼと呼ばれることが多い)、スト
レプトミセス・グリセウス(Streptomyces griseus)のXXI型プロテアーゼおよび
バシルス・ポリミキサ(Bacillus polymyxa)IX型メタロプロテアーゼからなる群
からのプロテアーゼを追加使用するのが好ましい。清浄用組成物において最も広
く使用されているプロテアーゼは、バシルス属の種々の菌株から得られるアルカ
リプロテアーゼである。ノボ・ノルディスク・バイオインダストリアルズ社(NOV
O Nordisk Bioindustrials Inc.)からエスペラーゼ(EsperaseR)およびアルカラ
ーゼ(AlcalaseR)、ならびに、ジスト-ブロケイズ(Gist-Brocades)からマクサタ
ーゼ(MaxataseR)およびマクサカル(MaxacalR)などの商標名で市販されているプ
ロテアーゼが、EPSアーゼとの混合に有用な望ましいアルカリ安定性の性質お
よびタンパク質分解活性を有している。特に、アスペルギルス・サイトイ(Asper
gillus saitoi)のアスペルギルス酸プロテイナーゼとエキソポリサッカリダーゼ
との組合せが最も有利である。
さらに、本組成物は、少なくとも1種の酵素安定化剤、特にグリセロール、ソ
ルビトール、グルコースおよびEDTAからなる群から選択される安定化剤を含
有していてもよい。
本発明の酵素組成物は、水系表面の生物皮膜の減少および/または除去のため
に、および/またはスライム形成の回避のためにプロセスにおいて成功裏に使用
される。このようなプロセスにおいて、本組成物は、単一位置において、または
異なる複数の位置において水系に添加される。本酵素組成物が1を越える(活性)
成分を含有しているときには、ある種の状況下では、異なる複数の部位において
これら成分を添加するのが望ましいこともある。
本酵素組成物は、系の体積に応じて、発酵ブロスの1〜10,000ppm、好ま
しくは5〜500ppmの量で添加してよい。コラン酸分解活性に関する本発明の
好ましい態様によれば、0.001〜100,000単位/ml、好ましくは0.0
1〜10,000単位/mlの範囲の濃度で添加する。
本発明の酵素組成物は、生物皮膜を生成する微生物を含む任意の水系、即ち開
放または閉鎖の工業用プロセス水系における、スライム防止および生物皮膜除去
に適している。本発明の酵素組成物の使用は、紙工場における開放または閉鎖の
水回路、特に白水回路に、または冷却回路に特に適している。さらに、この使用
には、工業用の冷却水塔、水貯蔵タンク、水分配系、パルプおよび紙粉砕水なら
びに限外濾過および透析膜における、および健康管理における生物皮膜除去が含
まれる。また、発酵において、粘度制御のために、または特定のモノもしくはオ
リゴサッカリドの製造のために使用することができる。
本発明に従い、腸内細菌科の細菌によって産生されるエキソポリサッカリドを
加水分解(分解)する単一の酵素が、多種多様の細菌によって形成される生物皮膜
の防止に、および既存の生物皮膜の減少および/または除去に適していることは
特に驚くべきことであった。さらに、単一微生物のエキソポリサッカリドに対し
て活性なこの単一酵素が、広く複数のエキソポリサッカリドに対して高い活性を
発揮することは全く予想外のことであった。
本発明の利点は、特に、この酵素が生物付着過程の開始時点であっても既にそ
の活性を現し、エキソポリサッカリダーゼが生物皮膜の形成前に細菌の付着を防
止する点にある。さらに、この酵素は、水系の表面から生物皮膜を効率的に除去
し、既に付着した細菌を分離することができる。
本発明によれば、スライムの減少、生物皮膜形成の防止および除去に関して相
乗的または少なくとも付加的な効果が、エキソポリサッカリダーゼと、ポリサッ
カリダーゼ、プロテアーゼ、リパーゼおよびグリコプロテアーゼからなる群から
の少なくとも1種の別の酵素(プロテアーゼが最も好ましい)とを組合せることに
よって達成される。
この効果は、バシルス・リケニフォルミスのセリンエンドプロテアーゼ、スト
レプトミセス・グリセウスのXXI型プロテアーゼまたはバシルス・ポリミキサIX
型メタロプロテアーゼなどのプロテアーゼによって、および特にアスペルギルス
・サイトイ由来のアスペルギルス酸プロテイナーゼによって特に増強される。
本発明によれば、本酵素および酵素組成物は、(a)細菌付着の防止、(b)付着細
菌の分離、および/または(c)生物皮膜の分解に適している。
殺生物剤の代わりにエキソポリサッカリダーゼまたは酵素組成物を使用するの
が好ましいが、殺生物剤との組合せも可能であり、ある種の場合には望ましいこ
ともある。
また、本発明の酵素および/または酵素組成物を、当業者には明らかである界
面活性剤および分散剤などの適当な界面活性物質と組合せることもできる。適当
な界面活性剤は、陽イオン、非イオン、陰イオン、両性および双性イオン界面活
性剤から選択してよい。このような適当な界面活性剤の一部の例には、次のもの
が含まれるが、これらに限定はされない:適当な陰イオン界面活性剤としては、
アルキルベンゼンスルホン酸、アルキル硫酸、アルキルポリエトキシエーテル硫
酸、パラフィンスルホン酸、α-オレフィンスルホン酸、α-スルホカルボン酸お
よびそのエステル、アルキルグリセリルエーテルスルホン酸、脂肪酸モノグリセ
リド硫酸およびスルホン酸、アルキルフェノールポリエトキシエーテル硫酸、2
-アシルオキシ-アルカン-1-スルホン酸およびβ-アルキルオキシアルカンスル
ホン酸の水溶性塩が含まれ、適当な非イオン界面活性剤としては、水溶性エトキ
シル化物質、例えば脂肪アルコールアルコキシレート(脂肪アルコールエトキシ
レート、第一および第二エトキシレートを含む)、アルキルフェノールアルコキ
シレート(アルキルフェノールエトキシレートを含む)、およびEOPO(エトキ
シレート-プロポキシレート)ブロックポリマーが含まれる。
以下に実施例を挙げて本発明を説明する。
実施例において、エキソポリサッカリドを分解しうる酵素(エキソポリサッカ
リダーゼまたはEPSアーゼと言う)は、栄養培地におけるストレプトミセス種
ATCC 55601の発酵、その後のブロスからの酵素の回収によって製造す
る。以下に、それぞれ菌株ストレプトミセス種、酵素の製造および回収、酵素調
製物の活性を測定するための検定、ならびに生物皮膜の防止および除去における
助剤としての酵素の利用の詳細な説明を挙げる。
実施例1 エキソポリサッカリドを分解しうる酵素を産生するストレプトミセ
ス菌株ATCC 55601、該酵素の単離および同定
1.菌株の説明
酵素を産生する菌株ATCC 55601を、16S rRNA分析および化学
分類学マーカーによりストレプトミセス属に属すると同定した。種の同定は、こ
れらデータによっては得ることができなかった。
形態学的マーカー:
気生菌糸体 貧/灰色
胞子鎖 螺旋状
メラニン生成 陽性
基質菌糸体 褐色
拡散性色素 赤色
化学分類学マーカー:
LL-ジアミノピメリン酸 有
ミコール酸 無
メナキノン MK-9(H4)、MK-9(H6)、
MK-9(H8)
脂肪酸プロフィール:
イソおよびアンテイソ分岐した脂肪酸
この微生物を、本明細書においてはストレプトミセス種と言う。この微生物は
、1994年7月27日にブダペスト条約のもとでアメリカン・タイプ・カルチャー・
コレクション(ATCC)[12301 Parklane Drive,Rockville,MD 20852,アメリ
カ合衆国]に寄託されており、ATCC受託番号55601に対応している。
ストレプトミセス種(ATCC 55601)は好ましいエキソポリサッカリダ
ーゼ供給源を構成するが、説明したようなエキソポリサッカリダーゼを産生する
有用なストレプトミセス属細菌の他の種を同定することができる。
2.菌株の増殖および酵素の産生
菌株(ATCC 55601)は、種々の通常の培地(例えば、トリプシン-ダイ
ズ寒天)で容易に増殖する。気生菌糸体の形成は、デンプン無機塩寒天などの特
定の培地に限定される。適当な炭素源、例えばグルコース、グリセロール、ラク
トース、フルクトース、スクロース、デンプンなどを含有する適当な培養培地に
おいて微生物ストレプトミセス種を培養することによって、酵素を産生させるこ
とができる。窒素源として、別の物質、例えばアンモニウム塩、硝酸塩など、お
よび/または複合有機窒素源、例えばペプトン、酵母エキス、肉エキス、ダイズ
エキス、ダイズ粉、コーンスチープリカー、ディスティラーズ・ドライド・ソル
ブルス、カゼイン、綿実タンパク質などを使用することができる。無機塩には、
塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マンガン、リン酸二水素ナトリウム、リン
酸二水素カリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素二カリウム、硫酸マグ
ネシウム、硫酸第二鉄、硫酸亜鉛、塩化カルシウムなどが含まれる。さらに、有
機刺激剤、例えばコラン酸、ビタミン、ソイトーン(soytone)、コーンスチープ
リカーなどを加えることもできる。また、消泡剤を添加することもできる。本発
明の構成内の好ましい培養培地は、例えば、サッラ(M.Sarra)ら[Biotechnology
Letters 15(1993)559-564]により記載されている。
発酵の初期pHは、5.5〜8であるのが好ましい。また、このpHを発酵中に
、好ましくはpH5〜9に、より具体的にはpH5.5〜8に制御してもよい。発
酵は、20〜40℃、好ましくは25〜35℃で起こる。
発酵パラメーターおよび接種物の大きさに依存して、通常の発酵には0.5〜
3日間を要する。発酵は、通常の液内発酵として、または表面培養として行なう
ことができる。
ストレプトミセス種(ATCC 55601)を用いる発酵による酵素の直接製
造に加えて、該酵素をコードする遺伝子またはそのフラグメントを、適当な発現
ベクターにおいてクローニングおよび発現させることができる。加水分解酵素を
クローニングするための方法は当業者には周知であり、あらゆる適当なクローニ
ング法を本発明のエキソポリサッカリダーゼの調製に使用することができる。こ
の点に関しては、マニアティスらの文献[J.Sambrook,E.F.FritschおよびT.Mani
atis、「分子クローニング」、コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー
・プレス(Cold Spring Harbor Laboratory Press)、第2版、1989]が参考になる
。
3.酵素の回収および下流プロセッシング
発酵後に、遠心または濾過によって細胞を除去することができる。必要なら、
当分野で既知の方法、例えば、濾過、凍結乾燥、水性2相系を用いる抽出または
有機溶媒(アセトンなど)もしくは無機塩(硫酸アンモニウムなど)を用いる沈殿に
よって酵素をさらに濃縮および/または精製することができる。必要なら、クロ
マトグラフィー法、例えばゲル透過、イオン交換、アフィニティークロマトグラ
フィーまたは当分野で既知の他の方法を用いて、上清ブロスを濃縮および精製す
ることができる。濃縮要因が必要ではないときには、粗製の上清、好ましくは細
胞除去後の上清を、酵素の粗供給源として用いることができる。
4.酵素検定の説明
A.エキソポリサッカリダーゼが活性であるか否かを、以下で説明する方法(
塗抹平板法または「スポット試験」とも言う)により定性的に検定することがで
きる。
細菌株を、液体培地、例えばトリプチカーゼ-ダイズブロス、栄養ブロスにお
いて対数期になるまで増殖させた。次いで、この培養物(100μl)を、好まし
くは高いC/N比を有する固体培地上にスポットした。適当な培地は、例えば、
サッラ(M.Sarra)ら[Biotechnology Letters 15(1993)559-564]によって記載さ
れている。得られた培養物を、均一なスライム状の培地被覆物が現れるまで、3
0℃で2または3日間インキュベートした。次いで、エキソポリサッカリダーゼ
(10μl)をスライム層の頂上に添加した。透明な穴(即ち、「ハロー」)が現れ
たときに、この酵素は、評価した菌株に対して活性であるとみなした。
B.また、酵素の活性を、粘度検定によって定量的に検定することができる。
酵素が、細菌、それが産生するスライムおよび/またはポリサッカリドの試験試
料に対して活性であれば、このような試験試料への酵素の添加は、ポリサッカリ
ドの酵素加水分解により粘度の低下を引き起こすであろう。
エキソポリサッカリド(以下においてはEPSとも言う)の溶液を調製し(後記
の実施例2の方法による)、ある量の酵素と共にインキュベートした。次いで、
この混合物を100℃で10分間加熱して酵素を不活性化した。次に、この不活
性化した混合物を全量16mlになるまで蒸留水で希釈した。
次いで、ウッベローデ粘度計を用いて粘度を測定した。1単位の活性を、ある
条件下(即ち、pH7および30℃)で30分間に50%の粘度低下を引き起こし
た酵素量とした。
粘度低下は、以下の式に従って決定した:
[式中、ブランク1粘度は、EPS溶液への添加前に酵素を不活性化したもので
あり、ブランク2粘度は、EPS溶液の代わりに緩衝液(3ml)を含む溶液に酵素
を添加したものである]。
5.ATCC 55601により産生されたエキソポリサッカリダーゼの特徴
このエキソポリサッカリダーゼは、変性条件下にSDS-PAGEによって測
定したときに、約100kDaの分子量を有する細胞外酵素である。温度の関数と
しての活性を図1に示す。最高の活性が45℃付近に見られる。
図2は、pHの関数として活性を示すものである。最適pHはpH4.5〜5.5
に位置している。
得られた酵素の熱安定性の研究により、35℃で3.5時間および50℃で4
5分間の半減期が示された。この熱安定性は、当分野で既知の方法により、例え
ば、グリセロール、ソルビトール、グルコース、EDTAなどの添加によって高
めることができる。
この酵素は、バシルス・リケニフォルミスのセリンエンドプロテアーゼ[例え
ば、アルカラーゼ(AlcalaseR)-ノボ(Novo)、エスペラーゼ(EsperaseR)-ノボ]、
ストレプトミセス・グリセウスのXXI型プロテアーゼ、バシルス・ポリミキサIX
型メタロプロテアーゼなどのプロテアーゼによって不活性化されない。アスペル
ギルス・サイトイ由来のアスペルギルス酸プロテイナーゼと組合せると、さらに
高い活性の調製物が得られる。EPSアーゼとアスペルギルス酸プロテイナーゼ
との組合せは、1/99〜99/1のEPSアーゼ/プロテイナーゼの範囲で活
性(細菌付着の防止、付着した細菌の分離および/または生物皮膜の除去に関す
る活性)に影響を与える。
スライム制御に使用するためには、エキソポリサッカリダーゼとこれらプロテ
アーゼなどを組合せるのが有益である。スライム除去に適する他のプロテアーゼ
は、当分野では、例えばEP 0 590 746から周知である。
6.ATCC 55601の培養に由来する上清ブロスの活性
特異的なエキソポリサッカリダーゼ活性とは別に、対応する糖のp-ニトロフ
ェニル誘導体を用いて以下の活性を検出した:
*N-アセチル-β-D-グルコサミニダーゼ
*α-L-フコシダーゼ
また、スルファニルアミド-アゾカゼイン[トマレリ(R.M.Tomarelli)ら:J.Lab
.Clin.Med.34,1949,428]を用いて、プロテアーゼ活性が観察された。
酵素を以下の培養物コレクションの菌株からなる細胞層にスポットしたときに
、透明作用を見ることができた:
エンテロバクター・クロアセ(Enterobacter Cloacae)NCTC 9395
クレブシエラ・オキシトカ(Klebsiella oxytoca)LMG 3055
クレブシエラ・テリゲナ(Klebsiella terrigena)LMG 3207
クレブシエラ・プランチコラ(Klebsiella planticola)LMG 3065
クレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)LMG 2095
シュードモナス・ピケッチー(Pseudomonas picketii)LMG 5942
キサントモナス・カンペストリス(Xanthomonas campestris)NRRL 1453。
水系の種々の細菌に対するEPSアーゼの活性は、スライム試料から単離した
細菌を用いる定性酵素検定(上記4.Aのスポット試験)によって確認した。細菌
をポテト-デキストロース寒天で増殖させ、30℃で48時間インキュベートし
てスライムの全面層を形成させた。EPSアーゼの3%保存溶液を調製した。次
いで、EPSアーゼの3%保存溶液(10μl)を層の上にスポットした。この結
果は以下の通りであった:
この実験は、本発明のEPSアーゼが腸内細菌科の細菌に対してだけでなく他
の細菌種(即ち、アクロバクテリウムおよびシュードモナス)に対しても活性であ
ることを示すものである。しかし、エンテロバクター菌株に対する活性は、他の
菌株に対する活性よりもさらに顕著である。
また、本発明のEPSアーゼを他の市販の酵素と組合せて使用することもでき
る。EPSアーゼ(3%保存溶液、ここでは3%EPSアーゼと言う)を3種類の
市販酵素、即ちノボ・ノルディスク(Novo Nordisk)から得られるエスペラーゼ(E
speraseR)、セレフロ(CerefloR)およびガマナーゼ(GamanaseR)と共に用いて、上
記のスポット試験を繰返した。
エスペラーゼは、バシルス属の好アルカリ性の種の液内発酵によって製造され
るセリン型プロテアーゼである。
セレフロは、バシルス・スブチリス(Bacillus Subtilis)の液内発酵によって
製造される精製細菌性β-グルカナーゼ調製物である。この酵素は、麦芽および
大麦のβ-グルカン(1,4-β-、1,3-β-グルカン)を、3〜5個のグルコース
単位を含むオリゴサッカリドに分解するエンドグルカナーゼである。
ガマナーゼは、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)から調製される
ガラクトマンナナーゼ(1,4-β-D-マンナン マンナノヒドロラーゼ)である。
この酵素は、マンナン、ガラクトマンナンおよびグルコマンナン中のβ(1-4)
結合をランダムに加水分解する。
この試験においては、細菌単離体に対して以下の組合せを使用した。酵素は5
0:50比で混合した。それぞれの混合物(10μl)を細菌層にスポットした。
(a) 3%EPSアーゼ+エスペラーゼ8.0L(50/50)
(b) 3%EPSアーゼ+セレフロ200L(50/50)
(c) 3%EPSアーゼ+ガマナーゼ1.5L(50/50)
この結果は以下の通りであった:
上記の結果は、本発明のEPSアーゼが他の市販の酵素と組合せて使用するの
に適していることを実質的に示すものである。
7.生物皮膜の防止および除去能力
生物皮膜形成は、工業用冷却水塔、水貯蔵タンク、水分配系、パルプおよび紙
粉砕水、健康管理における限外濾過および透析膜などの異なる環境で発生する。
紙粉砕機のプロセス水を想定した実験(後記を参照)において、本発明の対象で
あるエキソポリサッカリダーゼの適用は、生物皮膜を互いに結合させているスラ
イムを加水分解することによって、対照と比較して生物皮膜の厚みを減少させた
。本酵素の適用は、2つの機構によって、即ち細菌の付着を防止することによっ
て、および付着した細菌の分離を促進することによって、生物皮膜の形成を減少
させる。
生物皮膜の防止または除去に必要なエキソポリサッカリダーゼの量は、系の汚
染に依存する。目安として、1〜10,000ppm、好ましくは5〜500ppmの
用量が適当である。コラン酸分解活性に関しては、0.001〜100,000単
位/ml、好ましくは0.01〜10,000単位/mlの用量が適当である。酵素を
、1回(ショック)で、またはパルス的に投与することができ、必要なら連続的に
添加することができる。液体配合物を投与する方が容易であるので、該酵素を含
有する液体組成物が好ましい。必要なら、例えばタブレット形態にある乾燥生成
物を添加することもできる。液体配合物として添加するときには、当分野で既知
の方法に従って、例えばグルコース、ソルビトール、グリセロール、EDTAな
どの添加によって、酵素を安定化するのが好ましい。
実施例2
定量検定のための代表的なエキソポリサッカリド構造、または「EPS」構造
を、ガレッグ(Garegg)ら[Acta Chem.Scand.1971,25(4),1185-1194]の方法に
従って調製することができる。細菌株、好ましくはエンテロバクター・クロアセ
(Enterobacter cloacae)NCTC 9395を、以下の組成を有する固体培地(p
H7)で増殖させた。
細菌を30℃で48時間増殖させた。次いで、細菌をかき取り、リン酸緩衝液
(pH7)中に懸濁させた。次に、この溶液を30000Gで30分間遠心した。
この上清を蒸留水に対して透析し、0.1N NaOHの添加によってpH10〜1
1にした。この調製物中に存在するEPSを、2倍容量の冷アセトン(−18℃)
の添加によって沈殿させた。次いで、得られたEPSを凍結乾燥した。
実施例3
ストレプトミセス種菌株ATCC 55601を、以下の培地(pH7)を入れた
エルレンマイヤーフラスコ中で増殖させた。
この培養物を、30℃および250rpmの回転振盪器で36時間増殖させた。
エンテロバクター・クロアセNCTC 9395に対するスポット試験によって
活性を測定した。透明な穴が1時間以内に現れ、高いエキソポリサッカリダーゼ
活性が示された。次いで、ブロスを遠心し、その上清を硫酸アンモニウムで65
%飽和にした。この沈殿を凍結乾燥し、エキソポリサッカリダーゼ(EPSアー
ゼ)の粗供給源として用いた。
実施例4
実施例3に記載した凍結乾燥EPSアーゼ粉末(2g)を、トリス緩衝液(0.1
M、pH7)(100ml)に溶解した。腸内細菌科EPS(0.5g)を、トリス緩衝液
(0.1M、pH7)(100ml)に溶解した。EPSアーゼ(1ml)をEPS溶液(3m
l)と混合し、30℃で30分間インキュベートした。30分後に、混合物を10
0℃で5分間加熱することによって反応を停止させた。第1のブランクは、予め
不活性化した酵素(1ml)とEPS(3ml)を含んでいた。第2のブランクも不活性
化した酵素(1ml)を含んでいたが、EPS溶液をトリス緩衝液(3ml)によって置
換した。3つの試料の粘度を、自動表示により30℃でウッベローデ粘度計を用
いて測定した。結果を表1に示す。
エキソポリサッカリダーゼはEPS溶液の粘度の明らかな低下を引き起こすが
、これはエキソポリサッカリドの分解を示すものである。実施例1の4.Bの式
によって計算すると、この粘度低下は91.9%であった。
実施例5
生物皮膜の除去を試験するために、生物付着反応器を用い、紙粉砕機の湿末端
部分を模擬した。この発酵器中で増殖している細菌は、紙粉砕機の障害となる単
離体であり、腸内細菌科に属し、大量のEPSを産生することが知られている。
この混合容器において、細菌を希釈水および栄養物と混合した。以下の濃度の栄
養物をこの試験ユニットに使用した。
この混合容器を、円形金属試験片を装着したPVC導管に接続した。これら試
験片を、酵素添加の前後に重量測定した。また、全浮遊固形分を、酵素の添加中
にモニターした。
このユニットを、pH7および30〜35℃の温度で運転した。平均滞留時間
は1時間であった。
7日間にわたって生物皮膜を形成させた。この期間の後に、2〜5mm厚みの生
物皮膜が形成された。酵素として、ストレプトミセス種のエルレンマイヤー培養
物の粗製上清を用いた。酵素を4等分してショック投与で添加した。各ショック
投与は4500ppmの用量に相当した。重量測定結果を図3に示す。
添加開始の24時間後に、75%の生物皮膜が除去された。添加と同時に、除
去を目で追跡することができた。混合容器中に形成された生物皮膜の比較的大き
い部分が、酵素の添加時に剥離した。この除去は連続的に起こらず、段階的に起
こった。これは、恐らくは、装置中に形成された大量のスライムによるものであ
ろう。
実施例6
EPSアーゼの防止能力を、IR検知器を備えた第2の装置系で評価した。I
R吸収は、生物皮膜の厚さに直線的な相関関係がある。この装置を以下の条件で
運転した:
紙粉砕機からの単離体をここでも接種物として用いた(実施例5を参照)。装置
系の細菌濃度は、まず5.0・106CFU/mlに設定した。
EPSアーゼは、1日4回、30分間用いた。この系における最高濃度は、3
0分後に200ppmであった。
酵素処理した装置中の生物皮膜形成は、未処理の装置中での形成を大きく下回
っていた(図4)。両装置は同時に運転した。これは、エキソポリサッカリダーゼ
が生物スライムの除去に有用なだけでなく、その防止にも有用であることを示唆
している。
実施例7
観察された生物皮膜の除去および防止効果が単にEPSの酵素的加水分解によ
るものかどうかを確認するために、以下の実験を行った。紙粉砕機からの細菌単
離体を、次の組成を有する液体培地(pH7)で培養した:
2つの500mlのエルレンマイヤーにこの培地(100ml)を入れ、細菌を接種
した。一方のエルレンマイヤーにEPSアーゼ溶液(1ml)を添加した。両エルレ
ンマイヤー中での増殖を、600nmで光学密度を測定することにより追跡した。
30時間後の発酵終了時に、エルレンマイヤーの内容物を遠心し、上清の粘度を
測定した(表2)。
EPSの形成はEPSアーゼの投与によって防止される。両エルレンマイヤー
の光学密度は同等の結果を与えたので、増殖は影響を受けない(図5)。
この実験は、ストレプトミセス種の上清がEPSに対する効果のみを発揮する
こと、および酵素調製物が細胞の増殖を制限または死滅させないことを示す。
上記の実験はさらに、この酵素を用いてEPS形成微生物の発酵中にレオロジ
ーおよび粘度パラメーターを制御することができたことを示す。これを、粘度制
御の目的で、エキソポリサッカリドが産生される発酵に用いることができる。こ
れは発酵槽中の酸素移動を強め、撹拌のためのエネルギー消費を軽減するであろ
う。
さらに、エキソポリサッカリダーゼを、単離された(即ち、精製された)形態で
使用することができる。単離は、当分野で周知の酵素の回収および精製のための
適当な方法によって行うことができる。
また、この酵素を用いて、酸加水分解の代わりに、産生後のポリサッカリドを
加水分解することができる。この応用例はポリサッカリドからの糖の意図的な分
離である。例えば、このポリサッカリドはコラン酸であってもよい。
実施例8
EPS形成生物(実施例7を参照)にEPSを産生させた。次いで、この培養物
を遠心し、合成粉砕機(ミル)緩衝液中に再懸濁した。
多くの酵素が殺生物剤によって不活性化されうることは既知であるので、各実
験を2部分に分けた。酵素が存在しない殺生物剤対照および増殖対照とは別に、
酵素および殺生物剤を同時に添加した組(同時実験)、および殺生物剤を酵素の1
時間後に添加した別の組(連続実験)が存在した。このような方法で、殺生物剤が
添加される前に、酵素が培養物の増殖中に形成されたEPSを分解する機会を持
つようにした。ブロノポール(Bronopol)(2−ブロモ−2−ニトロ−1,3−プロ
パンジオール)に対する結果が表3に示されているが、陽性効果が示された。酵
素を殺生物剤の前に供したときには、3時間後の99.99%死滅のために必要
な濃度は半減する(即ち、25から12.5ppmに)。また、カーソン(Kathon)WT
(5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン)およびグルタルアル
デヒドを用いたときの結果も示されている。
実施例9
さらに様々な細菌および細菌が産生したスライムについてEPSアーゼの活性
を示すために、アシネトバクター種を粘度検定を用いて試験した(実施例1の4.
Bを参照)。エンテロバクター種を比較のために同時に試験した。
分析のために選択した具体的な試料は、単細胞細菌の大きなプレート計測数(
顕微鏡によって測定)と、さらにスライム状マトリックスを有していることに基
づいて選択した。アシネトバクター種は、アシネトバクター・バウマニー(Acine
tobacter baumannii)/遺伝的種2を含有し、シュードモナス・メンドシナ(Pseu
domonas mendocina)、シュードモナス・フルオレッセンス(Pseudomonas fluores
cens)C、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)Aおよびアシネトバク
ター・カルコアセチクス(Acinetobacter calcoaceticus)/遺伝的種2を含むも
のとして同定した。エンテロバクター種は、クレブシエラ・ニューモニエ(Klebs
iella pneumoniae)Aを含有し、クレブシエラ・テリゲナ(Klebsiella terrigena
)を含むものとして同定した。
生物皮膜を、実施例5の生物付着反応装置を用いてアシネトバクター種および
エンテロバクター種の両方について産生させた。次いで、生物皮膜スライムを円
形金属試験片の壁から単離し、それぞれを同じ高速遠心に供してそれぞれのエキ
ソポリサッカリド溶液を分離した。それぞれのエキソポリサッカリド溶液の試料
にEPSアーゼの3%保存溶液(「3%EPSアーゼ」)を1000ppmの濃度で
添加し、その後、50rpmおよび35℃で2時間インキュベートした。粘度の減
少を、熱不活性化対照および水を考慮した上で計算した(実施例1の4.Bの方法
による)。この結果は以下の通りであった:
これらの結果は、本発明のEPSアーゼが腸内細菌科の細菌に対して活性であ
るというだけでなく、水系において普通に見い出される他の細菌に対しても活性
であるということを示すものである。
実施例10
EPS形成に好ましい適当な培地中で微生物を増殖させ、アセトン沈澱によっ
て培地からEPSを集め、最終産物を凍結乾燥することによって、紙粉砕機から
の細菌単離体(エンテロバクター)からエキソポリサッカリド(EPS)を精製した
。
エンテロバクターを、以下の培地(使用容量1.2リットル)を含む2リットル
の発酵槽中で増殖させた。培地組成は、次の通りである(1リットルに対してgま
たはmlで示す):バクト-ペプトン(7g);NaCl(5g);K2HPO4(3g);K
H2PO4(0.9g);グルコース(15g)および消泡剤8270[ディアボーン・
ケミカルズ(Deaborn Chemicals)](0.05ml)。発酵は、750rpmで撹拌しなが
らpH7.0および30℃で行い、培地の体積に対して1分あたり0.6体積の空
気を通気した。56時間後に、発酵ブロスを、13,600xgで1時間遠心し
て細胞を除去した。氷冷アセトン(1リットル)を培養物の上清分画(1900ml)
に添加した。これは、混合物表面に浮遊するゼラチン状物質を与えた。このゼラ
チン状物質を表面からすくい取り、残りの溶液のpHを1N NaOHの添加によ
ってpH11に調整した。アセトン(500ml)をさらに添加し、この溶液を4℃
で24時間冷却した。これは、溶液の表面に浮遊したゼラチン状物質をさらに与
えた。この物質を表面から回収し、最初のゼラチン状分画と一緒にした。この混
合分画を4℃で一晩ミリQ(Milli-Q)水に溶解し、次いで透析物の伝導度が0.0
37μΩ/cm2になるまでミリQ水に対して徹底的に透析した。透析後に透析物
を凍結乾燥し、4℃で保存した。
実施例11
ゲル透過クロマトグラフィーは、実施例10で調製したエンテロバクターEP
Sが2・106以上のMwを持つことを示す。104〜106の領域中には他の分子
量分画は観察されない。EPSアーゼを用いて3時間接触させた後に、分解産物
は見られなかったが、粘度はそのときまでに既に実質的に減少していた。24時
間後には、Mw>2・106のピークは消失し、新たな広いピークが4・105に
見られる。これは、さらに長いインキュベーション時間であっても実質的に一定
のままである。GPCによって示されるEPSアーゼによる精製EPSの分解を
図6に示す。
実施例12
実施例10に従って調製したEPSのグリコシル組成分析を、カルボキシル基
の還元の前後での酢酸アルジトールの調製およびGC分析によって行った。
この方法は、ヨーク(York)らが記載している[Methods Enzymol.118(1985)3
-40]。簡単に説明すると、少量のエンテロバクターEPSを2Mトリフルオロ酢
酸(TFA)を用いて121℃で2時間、加水分解した。得られたモノサッカリド
を、重水素化ホウ素ナトリウムを用いてそのアルジトールに還元した。次いで、
得られたアルジトールを、ピリジン中で無水酢酸を用いてアセチル化した。この
酢酸アルジトールを、スペルコ(Supelco)のキャピラリーSP2330カラムを
用いてGC分析した。存在するウロン酸のタイプを特徴づけるために、少量の試
料を80℃で数時間、1M HCl/メタノールで処理した。グルクロン酸または
ガラクツロン酸などのいずれかの酸性糖のメチルエステルを含む得られたメチル
グリコシドを、重水素化ホウ素ナトリウムを用いて還元した。この操作は、ウロ
ン酸のメチルエステルを対応するヘキソースに還元する。例えば、グルクロン酸
メチルエステルはグルコースに還元される。次いで上記のように、得られた混合
物をTFAで加水分解し、酢酸アルジトールに変換した。GC分析は上記のよう
に行う。
グリコシル結合分析は、部分的にメチル化した酢酸アルジトールを調製および
分析することによって行った。これは、シュカノ(Ciucanu)およびケレック(Kere
k)[Carbohydrate Res.,131(1984)209-217]の方法によって行った。この方法
において、試料をジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解し、粉末の水酸化ナト
リウムを添加してDMSO陰イオンを生成させた。これを室温で数時間撹拌した
後、過剰のヨウ化メチルを添加してパーメチル化ポリサッカリドを得た。この時
点で、パーメチル化した試料を2つの部分に分けた。一方の部分は、上記のよう
にTFA中で加水分解し、酢酸アルジトールに変換した。ポリサッカリドの第2
の部分はメタノール中の1M HClにおいてメタノール分解し、得られた部分的
にメチル化されたメチルグリコシドを重水素化ホウ素ナトリウムで処理して、あ
らゆる部分的にメチル化されたウロン酸残基を対応するヘキソースに変換した。
この変換が為されると、これらの糖残基はC-6に結合した2個の重水素原子を
持つことになり、これにより、これらを質量スペクトル分析によって通常のヘキ
ソースと区別することが可能になる。次いで、上記のように、得られたパーメチ
ル化されカルボキシル還元されたメチルグリコシドを加水分解し、部分的メチル
化アセテートに変換した。両部分の分析は、スペルコのSP2330キャピラリ
ーカラムを用いて、組合せGC-MSによって行った。
結果
グリコシル組成およびメチル化の結果を以下の表4に示す。
表4に示した組成についての分析は、カルボキシル基還元の前に行った。カル
ボキシル基還元の後には、グルコース量が有意に増加し、このEPS中に存在す
るウロン酸残基のタイプがグルクロン酸であることを示した。
表5は、この細胞外ポリサッカリドのグリコシル結合分析の結果を示すもので
ある。
カルボキシル基還元後の結合分析は別のピークを与え、これは4,6-結合ガラ
クトースなどと等量で存在する4-結合グルクロン酸と同定された。これらの結
果は、このEPSが、1:1:1:1:1:1比の4-結合フコース:3,4-結
合フコース:3-結合グルコース:3-結合ガラクトース:4-結合グルクロン酸
:4,6-結合ガラクトースを有することを示すものである。これらの結合は、コ
ラン酸に対して既に公表されている構造[アスピナル(G.Aspinall)編、「ポリサ
ッカリド」、第II巻(1983)、アカデミック・プレス(Academic Press)を参照]に
概ね一致する。
実施例13
別の装置研究を行って、EPSアーゼが腸内細菌科の細菌による生物付着を防
止することを確認した(実施例6を参照)。これらの装置研究に使用したEPSア
ーゼは、実施例3に従って得た。
生物皮膜防止能力は、実施例5に記載した装置を用いて評価した:
試験A
EPSアーゼの投与処方:(94ppm)4.4・105単位のコラン酸分解活性/
Lのピーク濃度を与える1日4回30分間。これは35%抑制を与えた。
試験B
EPSアーゼの投与処方:44単位のコラン酸分解活性/Lのピーク濃度を与
える1日4回30分間。これは30%抑制を与えた。
装置研究のためのEPSアーゼの活性単位は、次のように測定した:
1.EPS発酵ブロスから、50mM MES(pH5.5)[MES=2-(N-モル
ホリノ)エタンスルホン酸]中の連続希釈液を調製した。
2.各希釈液からの25μlを、48時間経過したエンテロバクター菌叢表面
にスポットした。32℃で60分間、インキュベートを行った。
3.透明な領域の直径を測定した。
4.各透明領域の直径を、対応する希釈値と乗じた。
5.全生成物の合計が、EPSアーゼ単位/0.025mlに釣り合う。
実施例14
以下の実験は、EPSアーゼがエキソポリサッカリド分解酵素であること、即
ち、EPSアーゼ活性が腸内細菌科の細菌に限定されないことに対する別の証拠
を与えるものである。
以下に挙げた野外スライムから単離して同定した細菌を用いて、上記実施例1
の6に記載した実験を繰返した。以下の単離体の細胞層においてハローが見られ
た。不活性化した酵素を使用すると、ハローが生じなかった。
エンテロバクター種の単離体1
エンテロバクター種の単離体2
シュードモナス・フラギ
クレブシエラ・ニューモニエA
シュードモナス・メンドシナ
シュードモナス・フルオレッセンス
エンテロバクター・アスブリエ
図面の説明
図1は、実施例1の酵素の活性を、温度の関数として示すものである。
図2は、実施例の酵素の活性を、pHの関数として示すものである。最適値は
、pH4.5〜5.5に位置している。
図3は、生物皮膜除去の結果を、実施例1の酵素を用いた時間の関数として示
すものである(実施例5を参照)。
図4は、スライム防止の結果を、実施例1の酵素を用いた時間の関数として示
すものである(実施例6を参照)。
図5は、EPS生成の防止の結果を、実施例1の酵素を用いた時間の関数とし
て示すものである(実施例7を参照)。
図6は、GPCで測定したときの、EPSアーゼによる精製EPSの分解を示
すものである(実施例11を参照)。
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(51)Int.Cl.6 識別記号 FI
(C12N 1/20
C12R 1:645)
(81)指定国 EP(AT,BE,CH,DE,
DK,ES,FI,FR,GB,GR,IE,IT,L
U,MC,NL,PT,SE),OA(BF,BJ,CF
,CG,CI,CM,GA,GN,ML,MR,NE,
SN,TD,TG),AP(KE,LS,MW,SD,S
Z,UG),UA(AM,AZ,BY,KG,KZ,MD
,RU,TJ,TM),AL,AM,AT,AU,AZ
,BB,BG,BR,BY,CA,CH,CN,CZ,
DE,DK,EE,ES,FI,GB,GE,HU,I
S,JP,KE,KG,KP,KR,KZ,LK,LR
,LS,LT,LU,LV,MD,MG,MK,MN,
MW,MX,NO,NZ,PL,PT,RO,RU,S
D,SE,SG,SI,SK,TJ,TM,TR,TT
,UA,UG,US,UZ,VN
(72)発明者 ファン・プール,ヨーゼフ
ベルギー、ベー−2140ボルゲルホウト、ヘ
ルムストラート14 1/2番
(72)発明者 ファン・ペー,クリスティン・ローラ・イ
グナティウス
ベルギー、ベー−9880アールター、ロステ
ィネドレーフ48番
(72)発明者 ファンダメ,エリック・イェー
ベルギー、ベー−9032ウォンデルヘム、カ
ットウィルヘンストラート10番