JPH11315321A - 磁場中熱処理による複相組織鋼材の組織制御方法 - Google Patents

磁場中熱処理による複相組織鋼材の組織制御方法

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JPH11315321A JP13424198A JP13424198A JPH11315321A JP H11315321 A JPH11315321 A JP H11315321A JP 13424198 A JP13424198 A JP 13424198A JP 13424198 A JP13424198 A JP 13424198A JP H11315321 A JPH11315321 A JP H11315321A
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Abstract

(57)【要約】 【解決手段】 常磁性相と強磁性相からなる複相組織鋼
の再加熱を、印加磁場:0.1 〜20T、下限温度:Ac
1点、上限温度:Ac3点または(A2 点+100 ℃)のい
ずれか低い温度の条件下で行うことにより、磁場中加熱
時に新たに形成される逆変態オーステナイト相が、磁場
印加方向に延び、しかもフェライト相などの残留強磁性
相と組合わさった複相構造となる組織とする。 【効果】 鋼組織を、網目状あるいはハニカム構造とな
り、強度および靱性が格段に向上する。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、磁場中熱処理に
よる複相組織鋼材の組織制御方法に関し、特に複相組織
となる鋼材の製造過程における再加熱逆変態を磁場印加
の下で行うことにより、鋼組織の有利な改質ひいては力
学特性の有利な改善を図ろうとするものである。
【0002】
【従来の技術】鋼材の望ましい特性として、高強度でか
つ高靱性(高延性)であることが要求されているが、一
般にこの二つの特性は両立し難いことが知られている。
その解決策として、鋼組織を複相組織とすることが提案
されている。
【0003】例えば、特公昭61-11291号公報には、フェ
ライト相とマルテンサイト相の2相組織とすることによ
り、強度と伸びのバランスを改善した鋼板の製造方法が
開示されている。また、特公平5-64215号公報には、残
留オーステナイト相とフェライト相の2相からなる延性
の優れた高強度鋼板の製造方法が記載されている。この
ように、鋼組織を複相組織とすることによって、強度と
靱性を両立させた鋼材が工業材料として社会に供されて
いる。
【0004】しかしながら、温度や加工パターンを工夫
して特性の向上を図る手法は、もはや限界に近づいてお
り、現在では、複相組織のサイズや形態の制御が可能な
全く新しい方法が求められている。
【0005】その方法の一つとして、外場として磁場を
印加する方法が考えられる。例えば、旧ソ連のSadovsky
ら(Fiz. Metal. Metalloved, 12巻 (1961) P.302)は、
鋼材に磁場を加えるとマルテンサイト変態温度が上昇
し、マルテンサイト量が増加することを実験により明ら
かにした。この効果のメカニズムは、通常成分の鋼で
は、オーステナイト相は非磁性であるのに対し、フェラ
イト相やマルテンサイト相は強磁性であるため、磁場下
では磁気的エネルギーの分だけ熱力学的自由エネルギー
が低くなり、その結果、変態の駆動力が高くなって、変
態温度が上昇するというものである。
【0006】高温相のオーステナイト相から低温相のフ
ェライト相やマルテンサイト相への変態に磁場印加の効
果があれば、その逆変態、すなわちフェライト相やマル
テンサイト相からオーステナイト相への変態においても
磁場の効果があると考えても不思議ではない。実際、ハ
ンガリーの Palmai (Gepgyartastechnologia. 22巻 (19
82) P.463)は、Fe−0.60C−0.30Si−0.72Mnの組成の鋼
材をマルテンサイト組織からオーステナイト組織に逆変
態させる熱処理において、0.57T(Tは磁場の強さを表
す単位:テスラ)の磁場を印加するとフェライト相が安
定化されて残留フェライト量が増加することを観察して
いる。
【0007】しかしながら、上記したような先駆的な研
究では、磁場印加手段が常電導磁石であるため、印加磁
場が小さく、磁場印加の判然たる効果が実験データに認
め難いことから、工業的応用までには至っていない。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】この発明は、上述した
現状に鑑み開発されたもので、磁場中では強磁性相の自
由エネルギーが低下するという公知の事実から出発し
て、複相組織のサイズや形態の制御ならびにそれに伴う
力学特性の有利な改善を可能ならしめる磁場中熱処理に
よる複相組織鋼材の組織制御方法を提案することを目的
とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】さて、発明者らは、強度
と靱性の両立を実現したとして供されている鋼材を急冷
してフェライト相、ベイナイト相およびマルテンサイト
相とした後、1〜20Tの強磁場中にて、Ac1変態点を下
限とし、一方Ac3変態点または(A2 変態点+100 ℃)
のいずれか低い温度を上限とする温度範囲に15分間加熱
した後、室温に冷却すると、逆変態によって生じたオー
ステナイト相と残留強磁性相(フェライト相、ベイナイ
ト相、マルテンサイト相など)が印加磁場の方向に伸び
た網目状またはハニカム状の構造を呈することの知見を
得た。さらに、得られた試料の強度と靱性を測定したと
ころ、無磁場の場合に得られた試料に比べて格段に向上
していることが究明された。この発明は、上記の知見に
立脚するものである。
【0010】すなわち、この発明の要旨構成は次のとお
りである。 1.C:0.1 〜0.8 mass%、Si:0.1 〜2.0 mass%、M
n:0.2 〜2.5 mass%およびCr:0.1 〜1.5 mass%を含
有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になる鋼材
に、加熱処理を施すに際し、0.1 〜20Tの磁場中で、下
限温度をAc1点、上限温度をAc3点または(A2点+100
℃)のいずれか低い温度とする温度範囲において加熱
することにより、磁場中加熱時に新たに形成される逆変
態オーステナイト相が、磁場印加方向に延びた形状を呈
し、しかもフェライト相などの残留強磁性相と組合わさ
った複相構造の組織とすることを特徴とする磁場中熱処
理による複相組織鋼材の組織制御方法。
【0011】2.上記1において、磁場中熱処理を鋼材
に複数回施すものとし、その際、磁場印加方向を逐次直
交させることを特徴とする磁場中熱処理による複相組織
鋼材の組織制御方法。
【0012】
【発明の実施の形態】以下、この発明の端緒となった実
験結果について説明する。 〔実験1〕熱間圧延後、室温にまで油冷却した、C:0.
54mass%、Si:0.2 mass%、Mn:0.64mass%およびCr:
0.3 mass%を含み、残部は実質的にFeの組成になる厚
さ:1.5 mm、幅:50mmの鋼板を、Ac3点以下である 745
℃にまで急加熱し、5Tの静磁場を板の長手方向に印加
しつつ5分間の焼鈍を施した後、油に焼き入れて室温ま
で冷却した。印加磁場に平行な試料面を研磨してナイタ
ール液で腐食したのち、顕微鏡観察して写真撮影した。
それを図1(a) に示す。また、印加磁場方向に垂直な断
面を同様にして観察した結果を図1(b) に示す。
【0013】図1(a) および(b) を合わせて考えると、
磁場中熱処理時には、強磁場印加方向にオーステナイト
相が成長し、強磁性のフェライト相が途切れ途切れでは
あるがハニカム構造に近い網目状構造の形態で残留して
いることが分かる。磁場を印加しない点以外は同じ条件
で熱処理した試料の長手方向断面の観察結果を図2に示
すが、この場合には、残留フェライトが乱雑に分散した
混粒組織となっている。また、垂直断面も同様であっ
た。このように、強磁場の印加によって強靱性のフェラ
イト相が安定になるので、図1(a), (b)では、図2の場
合に比べて、フェライト相の存在割合が大きくなってい
る。
【0014】次に、磁場中熱処理により図1の組織とし
た鋼板について、磁場印加方向を長手方向とする曲げ試
験片を作製し、曲げ試験を室温にて行った。その結果、
曲げ強度として 1245 MPa と高い値が得られた。しか
も、曲げ角度が 170°となった後の試験片の表面にも欠
陥は認められなかった。比較のため、磁場印加を行わな
かった鋼板についても、同様の試験を行ったところ、得
られた曲げ強度は 1046 MPa にすぎなかった。また、曲
げ角度が 170°となった後の試験片の表面には割れ欠陥
が認められた。
【0015】〔実験2〕実験1の条件で磁場中熱処理を
施して得たオーステナイト・フェライト複相組織鋼板
に、室温で圧下率:20%の圧延を施した後、750 ℃にま
で急加熱し、ついで5Tの静磁場を、前回とほぼ直交す
る向きに板面に沿って印加しつつ2分間の焼鈍を施した
後、油中で室温まで冷却した。
【0016】得られた鋼板の板面を顕微鏡観察したとこ
ろ、2回目の磁場中熱処理の際に、1回目の磁場中熱処
理で残留したフェライト相から逆変態オーステナイト
が、磁場印加方向すなわち1回目の磁場中熱処理で形成
された逆変態オーステナイト相と直交する向きに成長し
ていることが認められた。換言すれば、圧延された1回
目のオーステナイト相の太い横縞に、2回目のオーステ
ナイト相の細い縦縞が交わった組織となっていることが
確認された。
【0017】〔実験3〕実験2において、2回目の磁場
中熱処理のあと、鋼板試料を水中に焼き入れした。顕微
鏡で組織を観察したところ、オーステナイトの変態によ
って形成されたマルテンサイト相が格子を組み、その内
部に残留フェライトが分布する組織となっていた。引張
り試験片を作製して室温にて引張り試験を行ったとこ
ろ、曲げ強度:1302MPa 、全伸び:30.8%の値が得られ
た。
【0018】
【作用】この発明に従い、磁場中で鉄鋼材料を逆変態さ
せると、逆変態オーステナイト相が磁場印加方向に延び
た形状を示す理由、およびその結果力学特性が改善され
る理由については、まだ明確に解明されたわけではない
が、以下のモデルで推察することが可能である。すなわ
ち、フェライト相、マルテンサイト相およびベイナイト
相などからなる鉄鋼材料は、オーステナイト相に逆変態
が始まる温度まで加熱しても強磁性である。強磁性組織
の内部で常磁性のオーステナイト相が核発生する際に
は、静磁エネルギーの増加が最小となる形状を取ると予
想される。そのような形状として最も考えやすいのは、
磁場方向に伸びた回転楕円体である。従って、このよう
なオーステナイト核が多数発生して成長しつつ合体する
ことになるが、その際も残留強磁性相の静磁エネルギー
が最小となるような構造を取るはずで、それがハニカム
構造あるいはそれに至る前段階としての網目状構造であ
ると考えられる。2つ以上の結晶相から構成される複相
鉄鋼材料において、それが網目状構造あるいはハニカム
構造となっていれば、強度や靱性に優れるであろうこと
は構造力学の教科書の教えることである。以上が今の時
点でのモデルである。
【0019】次に、この発明において、鋼材の成分組成
範囲および熱処理条件を前記の範囲に限定した理由につ
いて説明する。この発明は、常磁性相と強磁性相を有す
る複相組織鋼であればいずれにも適合するが、特に好適
には、C,Si,MnおよびCrを以下の範囲で含み、残部は
実質的にFeの組成になる鋼材である。 C:0.1 〜0.8 mass% Cの下限を0.1 mass%としたのは、Cがこの値未満では
残留オーステナイト相が少なくなるため、靱性の向上な
ど複相組織特有の特性向上が望めなくなるからである。
一方、上限を0.8 mass%としたのは、共析組成の0.8 ma
ss%では2相域逆変態が起こり得なくなるためである。
【0020】Si:0.1 〜2.0 mass% Siの下限を0.1 mass%としたのは、Cと同様、残留オー
ステナイト量が少なくなり、複相組織化による特性向上
が望めないからである。一方、上限を2.0 mass%とした
のは、この値を超えて多量に添加しても効果が飽和に達
するだけでなく、フェライト相が固溶硬化して靱性の低
下を招くからである。
【0021】Mn:0.2 〜2.5 mass% Mnの下限を0.2 mass%としてのは、熱延工程における熱
間脆性防止のために必要な最小量だからである。一方、
上限を2.5 mass%としたのは、この値を超えると溶接性
に悪影響が出るためである。
【0022】Cr:0.1 〜1.5 mass% Crは、焼入性を向上させる元素であることが知られてい
るが、この発明では、オーステナイトの安定性を高め、
複相組織化を容易にする成分として添加する。この効果
を十分に発揮させるためには0.1 mass%以上の含有が必
要である。一方、上限は経済性を考慮して1.5 mass%に
定めた。
【0023】次に、熱処理中に印加する磁場の強さを
0.1〜20Tとした理由は、 0.1T未満では、磁気的効果
が小さく実用的でないからであり、一方上限について
は、室温以上の大空間に工業的に発生可能な磁場の強さ
を考慮して、20Tとした。より好適には2〜20Tの範囲
である。なお、磁場の種類は、静磁場でも低周波変動磁
場でもいずれでも構わないが、通常は直流静磁場の方が
好適である。
【0024】次に、磁場印加温度について説明すると、
Ac1点以上の温度とすることが、逆変態を行わせる上で
不可欠な条件であることは鉄・炭素系状態図から明らか
である。同様に、上限温度条件の一つであるAc3点も状
態図から明らかである。なお、Ac3点は印加磁場と共に
1〜2℃/Tの割合で上昇することが予想されるので、
印加磁場の下でのAc3点と定義することにする。また、
もう一つの上限温度条件の(A2 点+100 ℃)は、フェ
ライト相、マルテンサイト相およびベイナイト相等の低
温相が強磁性を示す上限の温度である。ここで、A2
はキュリー温度であるが、強磁場を印加した場合はキュ
リー温度を超えて、その上の 100℃程度まで磁気秩序が
存在すると予想される。上記の理由から、下限温度はA
c1点、また上限温度はAc3温度または(A2 温度+100
℃) のいずれか低い温度としたのである。なお、加熱時
間については特に制限されることはないが、2〜20分程
度が好適である。また、磁場印加のタイミングについて
は、鋼材温度がA1 点に到達するまでには磁場を所定の
値に励磁しておくことが望ましい。
【0025】
【実施例】表1に示す種々の組成になる熱延鋼板(厚
さ:4.0 mm)を、酸洗後、冷間圧延により厚さ:2.0 mm
の冷延板としたのち、表2に示す種々の条件で供試材を
作成した。得られた供試材から、JIS 13号B引張試験片
を採取し(磁場に平行方向および垂直方向)、引張速
度:10 mm/s で試験を行い、強度、全伸びおよび局部伸
びについて調査した。得られた結果を表3に示す。な
お、全伸び値は成形性の評価尺度であり、また局部伸び
値は衝撃特性の評価尺度となるもので、いずれも値が大
きいことが望ましい。
【0026】
【表1】
【0027】
【表2】
【0028】
【表3】
【0029】表3から明らかなように、この発明に従い
得られた供試材No.1〜7はいずれも、800 MPa 以上の強
度を有し、また磁場印加方向に平行および直角のいずれ
の方向においても全伸び:30%以上、局部伸び:7%以
上が達成されていた。特性の向上の度合いは、磁場に垂
直な方向で、言い換えれば、長く伸びたハニカムあるい
は網目に垂直な方向でより顕著であった。特に、供試材
No.5のように、印加磁場の方向が直交するように磁場中
熱処理を2回施した場合には、この特性の異方性が解消
されるばかりでなく、3次元的に配列した組織とするこ
とによって、強度、全伸びおよび局部伸びとも一層改善
することができた。
【0030】これに対し、No.8の比較例では、磁場印加
温度が高すぎて、複相組織の制御が成されていなかっ
た。また、供試材No.9, 11では、ともに磁場強度が0.05
Tと弱すぎて、有意な改善効果が得られなかった。さら
に、供試材No.10 では、熱処理温度がAc1点より低かっ
たため、逆変態の進行に至らず、従って磁場印加の効果
も発現しなかった。
【0031】
【発明の効果】かくして、この発明によれば、常磁性相
と強磁性相からなる複相組織鋼を、逆変態熱処理プロセ
スで製造する際に、印加磁場によってその組織形態を制
御することができ、その結果、800 MPa 以上の強度を有
し、かつ全伸びおよび局部伸びにも優れた鋼板を提供す
ることができ、その産業界に対する貢献は極めて大きい
といえる。
【図面の簡単な説明】
【図1】C:0.54mass%を含有する鋼板を、5Tの磁場
中にて、745 ℃, 5分間逆変態させた試料の顕微鏡写真
であり、(a) は印加磁場に平行な試料面、(b) は印加磁
場方向に垂直な断面の組織写真である。
【図2】磁場を印加しない点以外は図1と同じ条件で熱
処理をした試料の顕微鏡組織写真である。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 丸田 慶一 千葉県千葉市中央区川崎町1番地 川崎製 鉄株式会社技術研究所内 (72)発明者 米花 康典 千葉県千葉市中央区川崎町1番地 川崎製 鉄株式会社技術研究所内 (72)発明者 阿部 義男 千葉県富津市新富20−1 新日本製鐵株式 会社技術開発本部内

Claims (2)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 C:0.1 〜0.8 mass%、Si:0.1 〜2.0
    mass%、Mn:0.2 〜2.5 mass%およびCr:0.1 〜1.5 ma
    ss%を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成に
    なる鋼材に、加熱処理を施すに際し、 0.1 〜20Tの磁場中で、下限温度をAc1点、上限温度を
    Ac3点または(A2 点+100 ℃)のいずれか低い温度と
    する温度範囲において加熱することにより、磁場中加熱
    時に新たに形成される逆変態オーステナイト相が、磁場
    印加方向に延びた形状を呈し、しかもフェライト相など
    の残留強磁性相と組合わさった複相構造の組織とするこ
    とを特徴とする磁場中熱処理による複相組織鋼材の組織
    制御方法。
  2. 【請求項2】 請求項1において、磁場中熱処理を鋼材
    に複数回施すものとし、その際、磁場印加方向を逐次直
    交させることを特徴とする磁場中熱処理による複相組織
    鋼材の組織制御方法。
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