JPH11294476A

JPH11294476A - 等速自在継手

Info

Publication number: JPH11294476A
Application number: JP9484098A
Authority: JP
Inventors: Haruo Hase; 陽夫長谷; Takeshi Obara; 健小原; Yoshihiko Hayama; 佳彦葉山; Kazuhiko Yoshida; 和彦吉田
Original assignee: NTN Corp; NTN Toyo Bearing Co Ltd
Current assignee: NTN Corp
Priority date: 1998-04-07
Filing date: 1998-04-07
Publication date: 1999-10-26

Abstract

(57)【要約】【解決課題】保持器における加工工程の簡略化。【解決手段】保持器４は、外側継手部材１の内径面１
ａに接触案内される球面状の外径面４ａと、内側継手部
材２の外径面２ａに接触案内される球面状の内径面４ｂ
と、トルク伝達ボール３を収容する複数のポケット４ｃ
とを備えた環体である。外径面４ａの球面中心と内径面
４ｂの球面中心とは、それぞれ、ポケット４ｃの中心に
対して軸方向に等距離だけ反対側にオフセットされてい
る。保持器４は、合金鋼を素材とし、所定形状に加工し
た後、熱処理としてオーステンパー処理又はマルクエン
チ処理を施す。これにより、外径面４ａおよび内径面４
ｂに施されていた精度確保のための後加工（研削加工
等）を簡略化又は省略できる。

Description

【発明の詳細な説明】

【０００１】

【発明の属する技術分野】本発明は、自動車や各種産業
機械において、動力伝達用に使用される等速自在継手に
関する。

【０００２】

【従来の技術】等速自在継手には、大別して、２軸間の
角度変位のみを許容する固定型と、角度変位および軸方
向変位を許容する摺動型とがあり、それぞれ使用条件、
用途等に応じて機種選択される。固定型としてはツェッ
パー型等速自在継手、摺動型としてはダブルオフセット
型等速自在継手が代表的であり、いずれもトルク伝達部
材としてボールを用い、これを保持器のポケットに収容
している。

【０００３】例えばダブルオフセット型等速自在継手で
は、外径面の球面中心と内径面の球面中心とが、それぞ
れ、ポケット中心から軸方向に等距離だけ反対側にオフ
セットされた構成の保持器が使用される。この種の継手
が作動角をとりつつ回転トルクを伝達する際、保持器
は、内側継手部材の傾きに応じてボールトラック上を移
動するトルク伝達ボールの位置まで回転し、トルク伝達
ボールを作動角の角度２等分面内に保持する。これによ
り、継手の等速性が確保される。また、外側継手部材と
内側継手部材とが軸方向に相対移動すると、保持器の外
径面と外側継手部材の内径面との間で滑りが生じ、円滑
な軸方向移動（プランジング）を可能にする。

【０００４】従来、上記のような等速自在継手の保持器
は、クロム鋼を素材として、所定形状に加工した後、強
度、耐久性、耐摩耗を確保するため浸炭処理を施し、さ
らに、精度を必要とする部分（外径面、内径面等）を研
削加工により所定の寸法に仕上げていた。

【０００５】

【発明が解決しようとする課題】従来の等速自在継手の
保持器には、以下のような改良すべき点があった。（１）浸炭処理で熱処理されるため、熱処理変形が大き
く、また、寸法のばらつきも安定しない。そのため、熱
処理後、研削による仕上げ加工を行なう必要があった。（２）ポケットの軸方向両側のポケット面は、トルク伝
達ボールの位置を制御する関係上、所要の精度が必要と
されるが、加工工程の簡略化を図るため、熱処理後の研
削加工を省略する場合が多い。その場合、熱処理変形が
大きいと、不良品とされ、そのために不良率が大きかっ
た。（３）これらの点を改善するため、本出願人は炭素鋼の
オーステンパー処理を既に出願している（特願平９−２
６０３４０）が、炭素鋼では型寿命との関係から保持器
ポケットの塑性加工が行いにくいという問題があった。

【０００６】そこで、本発明は等速自在継手の保持器に
おける加工精度の向上、加工性の向上、及び、加工工程
の簡略化を図り、もって加工コストを低減することをそ
の目的とする。

【０００７】

【課題を解決するための手段】上記課題を解決するた
め、本発明は、保持器の材質を合金鋼とすると共に、熱
処理としてオーステンパー処理を施した。これによっ
て、保持器の熱処理変形が少なくなる。

【０００８】「合金鋼」は、ＪＩＳに規定された機械構
造用合金鋼（ＳＭｎ、ＳＭｎＣ、ＳＣｒ、ＳＣＭ、ＳＮ
Ｃ、ＳＮＣＭ、ＳＡＣＭ等）の中から適宜選択したもの
を用いることができ、例えば、クロム鋼（ＳＣｒ）又は
クロム・モリブデン鋼（ＳＣＭ）を用いることができ
る。

【０００９】「オーステンパー処理」は、鋼のＳ曲線を
利用した一種の焼入れ法で、オーステナイト領域まで加
熱した鋼を、ベイナイト生成温度（Ｓ曲線の鼻の部分よ
り下の温度範囲）に保持した塩浴あるいは鉛−ビスマス
浴中に焼入れ、ここで組織が完全にベイナイトに変化す
るまで保持し、浴から取出して室温に冷却する熱処理法
である。熱浴における保持温度が高ければ、羽毛状組織
の上部ベイナイトが生成され、保持温度が低ければ、針
状組織の下部ベイナイトが生成される。

【００１０】オーステンパー処理は、浸炭等の熱処理に
比べて、処理品の熱処理変形が少ない。また、焼入れ・
焼戻しの二重の熱処理操作が一度で済むので、熱処理に
要する総時間が短い。さらに、オーステンパー処理を施
すことによって、炭素鋼の組織がベイナイトに変態し、
じん性に優れた材料となる。オーステンパー処理は、浸
炭雰囲気中で行うと、浸炭により保持器の表面硬度を向
上させることができる。

【００１１】保持器の表面硬度や焼入れ深さが必要であ
る場合は、オーステンパー処理にかえてマルクエンチ処
理を施すと良い。

【００１２】「マルクエンチ処理」は、加熱したオース
テナイト状態の鋼をＭｓ点（Ａｒ"点）直上の温度に保
持した熱浴に焼入れし、鋼の内外が同一温度になるまで
恒温保持し（オーステナイトは変態開始せず）、引上げ
て冷却し、Ａｒ" 変態を均一に起こさせる一種の中断焼
入れである。

【００１３】また、オーステンパー処理又はマルクエン
チ処理を、浸炭又は浸炭後に行うと、保持器の表面硬度
を高める上で有利である。

【００１４】

【発明の実施の形態】以下、本発明の実施形態を図面に
従って説明する。

【００１５】図１は、この実施形態に係わる摺動型等速
自在継手としてのダブルオフセット型等速自在継手（Ｄ
ＯＪ）を示している。この等速自在継手は、円筒状の内
径面１ａに複数（例えば６本）の直線状の案内溝１ｂを
軸方向に形成した外側継手部材１と、球面状の外径面２
ａに複数（例えば６本）の直線状の案内溝２ｂを軸方向
に形成した内側継手部材２と、外側継手部材１の案内溝
１ｂと内側継手部材２の案内溝２ｂとが協働して形成さ
れるボールトラックに配された複数（例えば６個）のト
ルク伝達ボール３と、トルク伝達ボール３を保持する保
持器４とで構成される。

【００１６】図２に拡大して示すように、保持器４は、
外側継手部材１の内径面１ａに接触案内される球面状の
外径面４ａと、内側継手部材２の外径面２ａに接触案内
される球面状の内径面４ｂと、トルク伝達ボール３を収
容する複数（例えば６個）のポケット４ｃとを備えた環
体である。ポケット４ｃの円周方向両側には柱部４ｄが
あり、軸方向一方側には内側継手部材２を組入れるため
の入り口部４ｅがある。外径面４ａの球面中心と内径面
４ｂの球面中心とは、それぞれ、ポケット４ｃの中心に
対して軸方向に等距離だけ反対側にオフセットされてい
る。

【００１７】この継手が作動角θをとりつつ回転トルク
を伝達する際、保持器４は、内側継手部材２の傾きに応
じてボールトラック上を移動するトルク伝達ボール３の
位置まで回転し、トルク伝達ボール３を作動角θの角度
２等分面（θ／２）に保持する。これにより、継手の等
速性が確保される。また、外側継手部材１と内側継手部
材２とが軸方向に相対移動すると、保持器４の外径面４
ａと外側継手部材１の内径面１ａとの間で滑りが生じ、
円滑な軸方向移動（プランジング）を可能にする。

【００１８】保持器４は、合金鋼を素材とし、図２に示
すような形状に鍛造加工等した後、熱処理としてオース
テンパー処理を施す。さらに必要に応じて、外径面４ａ
および内径面４ｂに精度確保のための加工（研削加工
等）を施して仕上げられる。合金鋼は鍛造加工の際の加
工性が良いので、鍛造型の負担が少なく長期使用が可能
であり、又、オーステンパー処理を施すことにより必要
とする表面硬度を得ることができる。

【００１９】オーステンパー処理を行う場合、例えば、
保持器の材質をＳＣｒ４１５材とし、処理条件を（加熱
炉において９００℃×１．５時間加熱）→（塩浴炉にお
いて３８０℃×１．５時間保持）とすることができる。
この処理条件によれば、処理後の組織は下部ベイナイト
になる。９００℃×１．５時間の加熱を浸炭又は浸炭窒
化雰囲気中で行うと、保持器４の表面硬度をさらに高め
ることができる。

【００２０】保持器４は、熱処理としてオーステンパー
処理を採用することにより、熱処理変形が少なくなるの
で、熱処理後における精度確保のための加工（研削加工
等）を簡略化し又は省略することができる。また、例え
ば、ポケット４ｃの軸方向両側ポケット面４ｃ１は熱処
理後における研削加工を省略することができ、その場合
でも、熱処理変形が少ないので、従来に比べて不良率は
小さくなる。また、外径面４ａおよび内径面４ｂの熱処
理後の研削加工を、外側継手部材１および内側継手部材
２と接触する領域に限定して行ったり、場合によっては
省略することもできる。さらに、オーステンパー処理を
施すことにより、合金鋼の組織がベイナイトになるの
で、じん性に優れた材料となり、良好な耐久性が得られ
る。

【００２１】さらに表面硬度と焼入れ深さが必要な場合
は、オーステンパー処理に代えて、マルクエンチ処理を
行うと良い。マルクエンチ処理を行う場合、例えば、保
持器の材質をＳＣｒ４１５材とし、処理条件を（加熱炉
において９３０℃×２．５時間加熱→８５０℃×０．５
時間加熱）→（熱浴炉において２５０℃×０．５時間保
持）とすることができる。９３０℃×２．５時間の加熱
を浸炭又は浸炭窒化雰囲気中で行うと、保持器４の表面
硬度をさらに高めることができる。

【００２２】尚、本発明は、上述したダブルオフセット
型等速自在継手に限らず、ツェッパー型等速自在継手
（ボールフィックスドジョイント：ＢＪ）、又は、クロ
スグループ型等速自在継手（クロスグループジョイン
ト：ＬＪ）にも同様に適用可能である。すなわち、球面
状の内径面に複数の曲線状の案内溝を軸方向に形成した
外側継手部材と、球面状の外径面に複数の曲線状の案内
溝を軸方向に形成した内側継手部材と、外側継手部材の
案内溝と内側継手部材の案内溝とが協働して形成される
複数のボールトラックにそれぞれ配されたトルク伝達ボ
ールと、トルク伝達ボールを保持する保持器とを備え、
ボールトラックが軸方向の一方に向かって楔状に開いた
等速自在継手において、保持器を、オーステンパー処理
を施した合金鋼で形成することができる。

【００２３】

【実施例】保持器について、合金鋼のオーステンパー処
理品及び合金鋼のマルクエンチ処理品（実施例品）と浸
炭処理品（従来品）の熱処理変形量を測定した。実施例
品で用いる合金鋼は、ＪＩＳクロム鋼ＳＣｒ４１５と、
ＪＩＳクロム・モリブデン鋼ＳＣＭ４３５の２種類であ
り、従来品で用いた合金鋼はＪＩＳクロム鋼ＳＣｒ４１
５である。

【００２４】実施例品は、上記２種類の合金鋼につい
て、それぞれツェッパー型等速自在継手（ＢＪ）の保持
器とダブルオフセット型等速自在継手（ＤＯＪ）の保持
器を製作した合計４種類のオーステンパ処理品と、ＪＩ
Ｓクロム鋼ＳＣｒ４１５についてツェッパー型等速自在
継手（ＢＪ）の保持器を製作した１種類のマルクエンチ
処理品とを用意した。

【００２５】従来品はＪＩＳクロム鋼ＳＣｒ４１５のダ
ブルオフセット型等速自在継手（ＤＯＪ）の保持器の浸
炭処理品１種類とした。

【００２６】試験品は上記の５種類についてそれぞれ１
０個づつ製作し、各試験品の外径寸法、内径寸法、ポケ
ットの軸方向寸法を熱処理前と熱処理後にそれぞれ測定
し、その寸法差を熱処理変形量とした。その測定結果を
図３〜図５に示す。

【００２７】測定結果から明らかなように、実施例品の
保持器の熱処理変形量は、従来品の保持器に比べて、外
径で１／２程度、内径で１／５程度、ポケットの軸方向
寸法で１／３程度に縮小することが確認された。また、
耐久試験及び疲労試験を行ったところ、実施例品の保持
器は良好な耐久性を示し、従来品の保持器と同程度の耐
久性が得られることが確認された。

【００２８】

【発明の効果】本発明は、以下に示す効果を有する。

【００２９】（１）保持器の熱処理として、従来の浸炭
処理に代えてオーステンパー処理或いはマルクエンチ処
理を採用しているので、熱処理変形が少なくなる。その
ため、熱処理後に行っていた精度確保のための加工（研
削加工等）を簡略化し又は省略することができる。

【００３０】（２）熱処理変形が少ないので、従来に比
べて不良率が低減する。

【００３１】（３）オーステンパー処理を施すことによ
り、合金鋼の組織がベイナイトになるので、靭性に優れ
た材料となり、良好な耐久性が得られる。また、オース
テンパー処理に代えてマルクエンチ処理を施すことによ
り、合金鋼の表面硬度が向上する。

【００３２】（４）オーステンパー処理やマルクエンチ
処理前の加熱工程を、浸炭又は浸炭窒化雰囲気中で行う
ことにより、合金鋼の表面硬度をさらに向上させること
ができる。

【００３３】（５）熱処理に要する総時間を短縮するこ
とが可能である。

【００３４】（６）保持器の母材に合金鋼を用いている
ので、保持器のポケットの塑性加工における型寿命の問
題が無い。

【００３５】（７）以上により、保持器の加工コスト低
減、ひいては等速自在継手のコスト低減を達成すること
ができる。

【図面の簡単な説明】

【図１】本発明の実施形態に係わる等速自在継手を示す
縦断面図である。

【図２】保持器の拡大断面図である。

【図３】熱変形量の測定結果を示す図である。

【図４】熱変形量の測定結果を示す図である。

【図５】熱変形量の測定結果を示す図である。

【符号の説明】

１外側継手部材１ａ内径面１ｂ案内溝２内側継手部材２ａ外径面２ｂ案内溝３トルク伝達ボール４保持器

Claims

【特許請求の範囲】

【請求項１】内径面に複数の案内溝を軸方向に形成した
外側継手部材と、外径面に複数の案内溝を軸方向に形成
した内側継手部材と、外側継手部材の案内溝と内側継手
部材の案内溝とが協働して形成される複数のボールトラ
ックにそれぞれ配されたトルク伝達ボールと、トルク伝
達ボールを保持する保持器とを備えた等速自在継手にお
いて、前記保持器が、オーステンパー処理を施した合金鋼で形
成されていることを特徴とする等速自在継手。
【請求項２】前記オーステンパー処理が浸炭又は浸炭窒
化後に行われる請求項１の等速自在継手。
【請求項３】内径面に複数の案内溝を軸方向に形成した
外側継手部材と、外径面に複数の案内溝を軸方向に形成
した内側継手部材と、外側継手部材の案内溝と内側継手
部材の案内溝とが協働して形成される複数のボールトラ
ックにそれぞれ配されたトルク伝達ボールと、トルク伝
達ボールを保持する保持器とを備えた等速自在継手にお
いて、前記保持器がマルクエンチ処理を施した合金鋼で形成さ
れていることを特徴とする等速自在継手。
【請求項４】前記マルクエンチ処理が浸炭又は浸炭窒化
後に行われる請求項３の等速自在継手。
【請求項５】前記合金鋼がクロム鋼又はクロム・モリブ
デン鋼であることを特徴とする請求項１乃至４記載の等
速自在継手。
【請求項６】外側継手部材の内径面に接触案内される球
面状の外径面と、内側継手部材の外径面に接触案内され
る球面状の内径面と、トルク伝達ボールを収容する複数
のポケットとを備え、オーステンパー処理を施した合金
鋼で形成されていることを特徴とする等速自在継手の保
持器。
【請求項７】外側継手部材の内径面に接触案内される球
面状の外径面と、内側継手部材の外径面に接触案内され
る球面状の内径面と、トルク伝達ボールを収容する複数
のポケットとを備え、マルクエンチ処理を施した合金鋼
で形成されていることを特徴とする等速自在継手の保持
器。
【請求項８】前記合金鋼がクロム鋼又はクロム・モリブ
デン鋼であることを特徴とする請求項６又は７記載の等
速自在継手の保持器。