JPH11268184A - 耐カジリ性および加工性に優れたアルカリ可溶型樹脂皮膜被覆ステンレス鋼板 - Google Patents

耐カジリ性および加工性に優れたアルカリ可溶型樹脂皮膜被覆ステンレス鋼板

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JPH11268184A
JPH11268184A JP9543098A JP9543098A JPH11268184A JP H11268184 A JPH11268184 A JP H11268184A JP 9543098 A JP9543098 A JP 9543098A JP 9543098 A JP9543098 A JP 9543098A JP H11268184 A JPH11268184 A JP H11268184A
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Yoshifumi Tamaki
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 表面にアルカリ溶液で除去可能なカルボキシ
ル基含有ウレタン樹脂皮膜を形成したステンレス鋼板に
おいて、プレス加工の際に金型温度が200℃になって
も、樹脂皮膜にカジリが発生しないものを提供する。 【解決手段】 樹脂を酸価が40〜90、ウレタン結合
含有量がイソシアネ−ト基(NCO)換算で12〜20
重量%、100℃における弾性率が1000〜6000
0N/cm2および流動開始温度が75〜170℃であ
るものにして、皮膜厚を0.2〜10μmにした。ま
た、樹脂皮膜には、必要に応じて平均粒径0.1〜5μ
mの合成樹脂粉末を1〜25重量%および/またはシリ
カ粉末を1〜30重量%含有させた。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、プレス加工などで金型
が高温になっても、保護皮膜が耐カジリ性に優れ、しか
も、その保護皮膜をアルカリ溶液で除去可能な保護皮膜
被覆ステンレス鋼板に関する。
【0002】
【従来技術】ステンレス鋼板は、耐食性、耐熱性に優
れ、また、その外観は意匠性、清潔感を有しているの
で、厨房機器、建材、家電製品、自動車部品などに見ら
れるごとく、多くの用途ではステンレス鋼板特有の肌を
そのまま活かして使用している。しかし、ステンレス鋼
板は表面に一部でも傷があると、極めて目立ち易い。そ
こで、ステンレス鋼板の表面をそのまま利用する部材を
プレス加工で製造する際の傷付きを防止する方法とし
て、アルカリ可溶型樹脂皮膜をステンレス鋼板表面に予
め形成しておく方法がある。この方法はステンレス鋼板
を部材に加工後に通常実施するアルカリ脱脂で樹脂皮膜
を溶解除去できるので、塩化ビニル樹脂やポリオレフィ
ン樹脂などの保護フィルムを貼付けて、加工後剥離する
方法より作業性が優れている。
【0003】アルカリ可溶型樹脂皮膜を形成しておく方
法としては、樹脂皮膜を2層構造にして、下層を耐カジ
リ性に優れたエポキシ変性アクリル樹脂皮膜、上層を耐
ブロッキング性に優れたアクリル樹脂皮膜にする方法
(特開平8−252887号公報)があるが、この方法
は樹脂皮膜が2層構造であるため、樹脂皮膜の形成作業
が繁雑で、樹脂皮膜も高価になる。そこで、樹脂皮膜を
1層にする方法として、酸価が40〜90、25℃にお
ける該樹脂の弾性率が1000〜40000N/cm2
のカルボキシル基含有ウレタン樹脂皮膜を形成する方法
(特開平9−254312号公報)が提案されている。
しかし、ステンレス鋼板のプレス加工を、金型温度を1
00〜200℃に加温する温間加工で行うと、樹脂皮膜
が軟化して、カジリが発生するという問題があった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、樹脂皮膜が
1層であっても、温間加工でカジリが発生しないアルカ
リ可溶型樹脂皮膜被覆ステンレス鋼板を提供するもので
ある。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明は、分子中にカル
ボキシル基を有するウレタン樹脂であって、その酸価が
40〜90、ウレタン結合含有量がイソシアネ−ト基
(NCO)換算で12〜20重量%、100℃における
弾性率が1000〜60000N/cm2および流動開
始温度が75〜170℃である樹脂を含んでなる樹脂組
成物の樹脂皮膜をステンレス鋼板表面に0.2〜10μ
m形成した。また、樹脂組成物には、必要に応じて平均
粒径0.1〜5μmの合成樹脂粉末を1〜25重量%お
よび/またはシリカ粉末を1〜30重量%含有させた。
【0006】
【作用】本発明者らは、アルカリ脱脂で溶解除去可能
で、プレス加工の際の金型温度が常温の場合はもとよ
り、200℃になってもカジリが発生しない樹脂皮膜材
料を開発すべく種々検討した結果、分子中に遊離カルボ
キシル基を有するウレタン系樹脂を用いて、樹脂の酸
価、ウレタン結合含有量、弾性率および流動開始温度を
調整すれば可能であることを見いだした。
【0007】ウレタン樹脂は、従来より塗料にも使用さ
れているが、塗料に使用するものは塗膜の耐水性を高め
るため、分子中には遊離カルボキシル基を導入していな
い。しかし、本発明では遊離カルボキシル基を導入し
て、逆に耐水性を弱め、アルカリ溶液で溶解除去できる
ようにするのである。このウレタン樹脂に遊離カルボキ
シル基を導入した場合、酸価が40未満であると、通常
のアルカリ脱脂作業では樹脂皮膜を溶解除去できず、9
0を超えると、造膜性が低下して、耐カジリ性が低下す
る。このため、カルボキシル基は酸価が40〜90にな
るように導入する。なお、酸価とはウレタン樹脂1g中
に含まれる酸分(酸基)を中和するのに必要な水酸化カ
リウムのmg数をいう。また、樹脂をカルボキシル基を
有するものにするにはカルボキシル基含有親水性化合物
をジイソシアネ−トと反応させることにより行えばよ
い。
【0008】また、塗料に使用するウレタン樹脂の固形
分当たりのウレタン結合含有量は、イソシアネ−ト基
(以下NCOという)換算で12〜22重量%である
が、樹脂固形分当たりのウレタン結合含有量がNCO換
算で12重量%より少ないと、皮膜強度が低下し、プレ
ス加工でカジリが発生してしまう。しかし、ウレタン結
合含有量をNCO換算で20重量%より多くすると、皮
膜の凝集力が大きくなり、酸価を大きくしても、皮膜の
アルカリ溶解性が低下してしまう。このため、樹脂固形
分当たりのウレタン結合含有量はNCO換算で12〜2
0重量%にする。また、塗料に使用するウレタン樹脂の
ウレタン結合含有量とは、ウレタン樹脂固形分中のウレ
タン結合量を樹脂固形分中に添加したイソシアネ−ト
(NCO)基の含有量で表したものを言い、下記の計算
方法で得ることができる。
【数1】 A:分子内に少なくとも1個以上の活性水素を有し、か
つ、カルボン酸塩あるいはカルボキシル基を少なくとも
1個有する親水性化合物 B:有機ポリイソシアネ−ト化合物 C:数平均分子量が300〜10000のポリオ−ル化
合物 D:低分子量ポリヒドロキシル化合物 E:ポリアミン系鎖伸長剤
【0009】樹脂皮膜は、樹脂の弾性率の調整により、
樹脂皮膜の延性を大きくして、プレス加工の際に樹脂皮
膜を絞りに追従させ、金型がステンレス鋼板と接触しな
いようにする。しかし、樹脂の弾性率があまり小さい
と、樹脂皮膜の強度が低下して、耐カジリ性が低下して
しまう。このため、樹脂の弾性率は100℃にて100
0N/cm2以上にする。一方、100℃での弾性率が
60000N/cm2を超えると、皮膜の凝集力が増加
し、樹脂皮膜のアルカリ溶解性が低下してしまう。ここ
で言う樹脂の弾性率とは、樹脂を動的粘弾性測定装置
(例えばORIENTEC社製、レオバイブロン DD
V−01−FP)で加振周波数=3.5Hz、測定温度
=−50〜200℃、昇温速度=5℃/分で測定した1
00℃におけるE(貯蔵弾性率)の値をいう。
【0010】しかし、樹脂の弾性率を大きくしても、温
間加工で樹脂皮膜が軟化すると、樹脂皮膜にはカジリが
発生してしまう。そこで、樹脂皮膜は温間加工にも耐え
られるように、樹脂の流動開始温度を75〜170℃に
する。流動開始温度が75℃より低いと、金型が高温に
なった場合の耐カジリ性が不十分で、170℃より高い
と、皮膜の凝集力が増加し、樹脂皮膜のアルカリ溶解性
が低下してしまう。ここで言う流動開始温度とは、島津
フロ−テスタ−(島津製作所製、CFT−500A)
で、口径1mm、長さ1mmのダイスを用いて、荷重=
98N、昇温速度=3℃/分で測定した値をいう。
【0011】本発明のような特性を備えたカルボキシル
基含有ウレタン樹脂の具体例としては、(A)分子内に
少なくとも1個以上の活性水素を有し、かつ、カルボン
酸塩あるいはカルボキシル基を少なくとも1個有する親
水性化合物、(B)有機ポリイソシアネ−ト化合物、
(C)数平均分子量が300〜10000のポリオ−ル
化合物、(D)低分子量ポリヒドロキシル化合物および
/または(E)ポリアミン系鎖伸長剤、必要に応じて、
(A)のカルボキシル基を中和するための(F)中和剤
を反応させることにより得られるものである。
【0012】ここで、(A)の親水性化合物としては、
例えば、2,2−ジメチロ−ルプロピオン酸、2,2−ジ
メチロ−ルブタン酸、2,2−ジメチロ−ル酪酸、2,2
−ジメチロ−ル吉草酸、ジオキシマレイン酸、2,6−
ジオキシ安息香酸、3,4−ジアミノ安息香酸等のカル
ボン酸含有化合物およびこれらの誘導体またはこれらを
共重合させて得られるポリエステルポリオ−ル等が挙げ
られ、これらは単独でも、併用でもよい。さらに、これ
らの親水性化合物に加えて、本発明の効果を低減させな
い範囲で、分子量が300〜20000のポリオキシエ
チレングリコ−ル、ポリオキシエチレン−ポリオキシプ
ロピレン共重合体グリコ−ルまたはそのモノアルキルエ
−テル等のノニオン基含有化合物、あるいはスルホン酸
基、リン酸基含有の親水性化合物を併用しても差し支え
ない。
【0013】また、(B)の有機ポリイソシアネ−ト化
合物としては、フェニレンジイソシアネ−ト、トリレン
ジイソシアネ−ト、ジフェニルメタンジイソシアネ−
ト、ナフタレンジイソシアネ−ト等の芳香族ジイソシア
ネ−トやヘキサメチレンジイソシアネ−ト、リジンジイ
ソシアネ−ト、シクロヘキサンジイソシアネ−ト、イソ
ホロンジイソシアネ−ト、ジシクロヘキシルメタンジイ
ソシアネ−ト、キシリレンジイソシアネ−ト、テトラメ
チルキシリレンジイソシアネ−ト等の脂肪族あるいは脂
環族ジイソシアネ−トが挙げられる。
【0014】(C)のポリオ−ル化合物としては、数平
均分子量が300〜10000、好ましくは500〜5
000の高分子量ポリオ−ルであり、例えば、ポリエス
テルポリオ−ル、ポリエ−テルポリオ−ル、ポリカ−ボ
ネ−トポリオ−ル、ポリアセタ−ルポリオ−ル、ポリア
クリレ−トポリオ−ル、ポリエステルアミドポリオ−
ル、ポリチオエ−テルポリオ−ル、ポリブタジエン系等
のポリオレフィンポリオ−ル等が挙げられる。
【0015】ここで、前記ポリエステルポリオ−ルとし
ては、エチレングリコ−ル、プロピレングリコ−ル、
1,3−プロパンジオ−ル、1,4−ブタンジオ−ル、
1,5−ペンタンジオ−ル、1,6−ヘキサンジオ−ル、
ネオペンチルグリコ−ル、1,8−オクタンジオ−ル、
ジエチレングリコ−ル、トリエチレングリコ−ル、テト
ラエチレングリコ−ル、ポリエチレングリコ−ル(分子
量300〜6000)、ジプロピレングリコ−ル、トリ
プロピレングリコ−ル、ビスヒドロキシエトキシベンゼ
ン、1,4−シクロヘキサンジオ−ル、1,4−シクロヘ
キサンジメタノ−ル、ビスフェノ−ルA、水素添加ビス
フェノ−ルA、ハイドロキノンおよびそれらのアルキレ
ンオキシド付加体等のグリコ−ル成分と、コハク酸、ア
ジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカル
ボン酸、無水マレイン酸、フマル酸、1,3−シクロペ
ンタンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボ
ン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、1,4
−ナフタレンジカルボン酸、2,5−ナフタレンジカル
ボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、ナフタル
酸、ビフェニルジカルボン酸、1,2−ビス(フェノキ
シ)エタン−p,p′−ジカルボン酸、およびこれらの
ジカルボン酸無水物あるいはエステル形成性誘導体、p
−ヒドロキシ安息香酸、p−(2−ヒドロキシエトキ
シ)安息香酸およびこれらのヒドロキシ安息香酸のエス
テル形成性誘導体等の酸成分とから脱水縮合反応によっ
て得られるポリエステルの他にε−カプロラクトン等の
環状エステル化合物開環重合反応によって得られるポリ
エステルおよびこれらの共重合ポリエステル等が挙げら
れる。
【0016】また、、前記ポリエ−テルポリオ−ルとし
ては、エチレングリコ−ル、ジエチレングリコ−ル、ト
リエチレングリコ−ル、プロピレングリコ−ル、トリメ
チレングリコ−ル、1,3−ブタンジオ−ル、1,4−ブ
タンジオ−ル、1,6−ヘキサンジオ−ル、ネオペンチ
ルグリコ−ル、グリセリン、トリメチロ−ルエタン、ト
リメチロ−ルプロパン、ソルビト−ル、蔗糖、アコニッ
ト糖、トリメリット酸、ヘミメリット酸、リン酸、エチ
レンジアミン、ジエチレントリアミン、トリイソプロパ
ノ−ルアミン、ピロガロ−ル、ジヒドロキシ安息香酸、
ヒドロキシフタル酸、1,2,3−プロパントリチオ−ル
等の活性水素原子を少なくとも2個以上有する化合物の
1種または2種以上を開始剤としてエチレンオキサイ
ド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、スチ
レンオキサイド、エピクロルヒドリン、テトラヒドロフ
ラン、シクロヘキシレン等のモノマ−の1種または2種
以上を常法により付加重合させたものが挙げられる。
【0017】さらに、ポリカ−ボネ−トポリオ−ルとし
ては、1,4−ブタンジオ−ル、1,6−ヘキサンジオ−
ル、ジエチレングリコ−ル等のグリコ−ルとジフェニル
カ−ボネ−ト、ホスゲンとの反応によって得られる化合
物が挙げられる。
【0018】以上のポリオ−ル化合物のうち、耐カジリ
性と樹脂皮膜のアルカリ溶解性とを調和させるには、ポ
リエステル系ポリオ−ルとポリエ−テル系ポリオ−ルの
併用が好ましい。
【0019】(D)の低分子量ポリヒドロキシル化合物
としては、分子量300以下の分子内に少なくとも2個
以上の水酸基を含有する化合物で、例えば、ポリエステ
ルポリオ−ルの原料として用いたグリコ−ル成分、グリ
セリン、トリメチロ−ルエタン、トリメチロ−ルプロパ
ン、ソルビト−ル、ペンタエリスリト−ル等の1種また
は2種以上のものが挙げられる。
【0020】(E)のポリアミン系鎖伸長剤としては、
エチレンジアミン、1,6−ヘキサメチレンジアミン、
ピペラジン、2,5−ジメチルピペラジン、イソホロン
ジアミン、4,4′−ジシクロヘキシルメタンジアミ
ン、3,3′−ジメチル−4,4′−ジシクロヘキシルメ
タンジアミン、1,4−シクロヘキサンジアミン、1,2
−プロパンジアミン、ヒドラジン、ジエチレントリアミ
ン、トリエチレンテトラアミン等が挙げられる。
【0021】(F)の中和剤としては、例えば、水酸化
ナトリウム、水酸化カリウム等の不揮発性塩基や、トリ
メチルアミン、トリエチルアミン、ジメチルエタノ−ル
アミン、メチルジエタノ−ルアミン、トリエタノ−ルア
ミン等の三級アミン類、アンモニア等の揮発性塩基が挙
げられるが、この中で特に揮発性塩基が好ましい。中和
期としては、(A)のカルボキシル基含有親水化合物が
ウレタン化反応を起こす反応前、反応中、反応後のいず
れでも差し支えない。
【0022】ウレタン樹脂の合成方法は、特に制限がな
く、本発明の効果を損なわない限り公知慣用の方法でよ
い。また、形態についても、特に制限はないものの、塗
装作業の観点からは有機溶剤可溶性、水分散性、水溶性
のものが好ましく、作業環境の観点からは水分散性、水
溶性のものがより好ましい。水性ウレタン樹脂は造膜性
改善のために例えばアルキレングリコ−ル誘導体、ある
いは脂肪族ジカルボン酸のジアルキルエステル、N−メ
チル−2−ピロリドン等のような造膜助剤を含有させて
もよい。
【0023】樹脂皮膜は、厚みが0.2μm未満である
と、耐カジリ性が不充分であり、10μmを超えると、
アルカリ脱脂での樹脂皮膜溶解に時間を要するので、厚
みは0.2〜10μmにする。
【0024】樹脂組成物には、ウレタン樹脂と相溶しな
い合成樹脂粉末を、その一部が樹脂皮膜より突出するよ
うに添加すると、加工の厳しい部材へも無塗油でプレス
加工できる。しかし、合成樹脂粉末の添加量が樹脂組成
物の1重量%未満であると、潤滑性が充分でなく、25
重量%を超えると、処理液中への安定な分散が困難にな
り、ゲル化してしまう。このため、樹脂組成物への添加
量は1〜25重量%、処理液の長期安定性を確保するた
めには1〜10重量%にする。また、合成樹脂粉末は平
均粒径が0.1μm未満であると、合成樹脂粉末が樹脂
皮膜中に埋没し、金型への滑り込み性が不十分となり、
5μmを超えると、合成樹脂粉末が樹脂皮膜より突出し
過ぎて金型に削り取られ易くなるので、潤滑性を発揮し
ない。このため、平均粒径は0.1〜5μmにする。
【0025】合成樹脂粉末の種類としては、特に限定は
ないが、フッ素樹脂、あるいはポリエチレンやポリプロ
ピレン等のようなポリオレフィン樹脂、ABSやポリス
チレン等のスチレン系樹脂、塩化ビニル樹脂や塩化ビニ
リデン樹脂等のようなハロゲン化樹脂が挙げられる。ま
た、これらの樹脂は1種または2種以上の混合物として
使用してもよい。さらに、合成樹脂粉末の形態にも特に
制限はなく、所定の粒子径に機械粉砕したもの、化学的
にあるいは機械的に媒体中に分散懸濁液にしたものでも
よい。
【0026】樹脂組成物には、シリカ粉末を添加する
と、樹脂皮膜の耐熱性が向上し、金型温度を200℃に
もする温間プレス加工でも、樹脂皮膜には損傷が認めら
れず、耐カジリ性は向上する。しかし、シリカ粉末の添
加量が樹脂組成物の1重量%未満であると、耐カジリ性
の向上効果が不十分で、30重量%を超えると、処理液
中の安定性が低下するので、樹脂組成物への添加量は1
〜30重量%にする。このシリカ粉末は前記合成樹脂粉
末と同時に添加してもよい。
【0027】基材のステンレス鋼板は、鋼種、表面仕上
げとも特に制限はなく、例えば、SUS304のBA仕
上げ、2B仕上げ、No.4仕上げやSUS430のB
A仕上げ、2B仕上げ、No.4仕上げでもよい。ま
た、ステンレス鋼板のクラッド鋼でもよい。
【0028】ステンレス鋼板表面への樹脂皮膜形成方法
は、特に制限はなく、例えば、カルボキシル基含有ウレ
タン樹脂の処理液またはそれに合成樹脂粉末および/ま
たはシリカ粉末を添加して、刷毛、ロ−ラ−、ロ−ルコ
−タ−、バ−コ−タ−、フロ−コ−タ−、シャワ−リン
グ、スプレ−のような塗装方法から経済性と生産性を考
慮して塗装方法を選択し、鋼板に均一皮膜が得られるよ
うに塗装した後、常温乾燥、加熱強制乾燥等で乾燥すれ
ばよい。
【0029】
【実施例】実施例1 2,2−ジメチロ−ルプロピオン酸、ヘキサメチレンジ
イソシアネ−ト、アジピン酸、1,4−ブチレングリコ
−ル、エチレングリコ−ル系ポリエステルポリオ−ルの
各成分を変化させて、反応させることにより酸価、ウレ
タン結合含有量、100℃での弾性率および流動開始温
度を調整したカルボキシル基含有ウレタン樹脂のエマル
ジョン処理液をまず準備した。そして、次に、それらの
処理液をステンレス鋼板(SUS304のBA仕上げ、
板厚0.8mm)の表面にバ−コ−タ−で塗布して、オ
−ブンで乾燥し、厚さの異なる樹脂皮膜を形成した。表
1に得られた樹脂皮膜被覆ステンレス鋼板の樹脂皮膜で
あるウレタン樹脂と皮膜厚みを示す。次に、この鋼板に
ついて下記の特性を調査した。この結果を表2に示す。
【0030】(1)処理液の安定性試験 処理液をガラス容器中に密封して、40℃の雰囲気中に
放置し、処理液に増粘やゲル化が認められる日数を観察
した。そして、20日間放置しても増粘やゲル化の認め
られないものを記号◎で、10日間までに増粘やゲル化
の認められないものを記号○で、10日間経過前に増粘
やゲル化の認められたものを記号×で評価した。 (2)樹脂皮膜の溶解性試験 試験片をNaOH溶液(pH;12、液温;40℃)に
浸漬して、皮膜を溶解除去できるまでに要する時間が1
分未満のものを記号◎、1分以上、2分未満のものを記
号○、2分以上、5分未満のものを記号△、5分以上の
ものを記号×で評価した。
【0031】(3)耐カジリ性試験 円板試験片(30mm×250mm)に対して円筒絞り
加工試験(金型温度;20、100、200℃、ポンチ
径;40mmφ、絞り比;2.35、しわ押さえ力;1.
5×104N)を実施し、試験部の皮膜残存率が80%
以上のものを記号◎、60〜80%未満のものを記号
○、40〜60%未満のものを記号△、40%未満のも
のを記号×で評価した。 (4)加工性試験 円板試験片(30mm×250mm)を用いて、円筒絞
り加工試験(金型温度;100℃、ポンチ径;40mm
φ、絞り比;2.60、しわ押さえ力;2.5×10
4N)を行い、加工前の試験片径をL1、加工後の試験片
平均径をL2とした場合のL2/L1が0.80未満のもの
を記号◎、0.80〜0.86未満のものを記号○、0.
86〜0.90未満のものを記号△、0.90以上のもの
を記号×で評価した。
【0032】
【表1】 (注1)弾性率はORIENTEC社製のレオバイブロ
ン DDV−01−FPを用いて、加振周波数3.5H
zで測定した。なお、弾性率は貯蔵弾性率の値を示して
いる。 (注2)比較例No.6は処理液ゲル化のため、塗布困
難であった。
【0033】
【表2】
【0034】実施例2 実施例1において、実施例No.2、4、8、14の処
理液に合成樹脂粉末を添加したものを用いた。表3に得
られた樹脂皮膜被覆ステンレス鋼板の樹脂皮膜組成を、
表4に試験結果を示す。
【0035】
【表3】 (注)ポリエチレン樹脂とフッ素樹脂の混合は重量で前
者9、後者1の割合である。
【0036】
【表4】
【0037】実施例3 2,2−ジメチロ−ルプロピオン酸、イソホロンジイソ
シアネ−ト、イソフタル酸、無水フタル酸、2,2−ジ
メチル−1,3−プロパンジオ−ル、1,4−ブチレング
リコ−ル系ポリエステルポリオ−ル、ポリプロピレング
リコ−ルの各成分を反応させて、酸価が75、100℃
での弾性率が36000N/cm2、ウレタン結合含有
量がNCO換算で17重量%、流動開始温度が110℃
のカルボキシル基含有ウレタン樹脂を合成して、そのエ
マルジョン処理液に平均粒径1.0μmの合成樹脂粉末
(ポリエチレン樹脂粉末/フッ素樹脂粉末=9/1の混
合物)を5重量%添加した後、さらに、シリカ粉末を表
5に示すように添加し、ガラス容器に密封して、40℃
の雰囲気中に10〜20日間放置した。そして、このエ
マルジョン処理液を実施例1と同一のステンレス鋼板表
面にバ−コ−タ−で塗布して、オ−ブンで乾燥し、樹脂
皮膜を3μm形成し、実施例1と同様の試験を実施し
た。表5にこの結果を示す。
【0038】
【表5】 (注)比較例12は処理液ゲル化のため、塗布困難であ
った。
【0039】
【発明の効果】以上のように、本発明の樹脂皮膜被覆ス
テンレス鋼板は、従来と同様にカルボキシル基を有する
ウレタン樹脂組成物で樹脂皮膜を形成したものである
が、樹脂のウレタン結合含有量、弾性率および流動開始
温度を変更すると、加工性と潤滑性が向上するため、プ
レス加工で金型温度が200℃になっても、樹脂皮膜に
カジリが発生しない。また、樹脂組成物には合成樹脂粉
末やシリカ粉末を添加すると、潤滑性が良好になるた
め、樹脂皮膜の耐カジリ性を向上させることができる。
【手続補正書】
【提出日】平成10年11月20日
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0008
【補正方法】変更
【補正内容】
【0008】また、塗料に使用するウレタン樹脂の固形
分当たりのウレタン結合含有量は、イソシアネ−ト基
(以下NCOという)換算で12〜20重量%である
が、樹脂固形分当たりのウレタン結合含有量がNCO換
算で12重量%より少ないと、皮膜強度が低下し、プレ
ス加工でカジリが発生してしまう。しかし、ウレタン結
合含有量をNCO換算で20重量%より多くすると、皮
膜の凝集力が大きくなり、酸価を大きくしても、皮膜の
アルカリ溶解性が低下してしまう。このため、樹脂固形
分当たりのウレタン結合含有量はNCO換算で12〜2
0重量%にする。また、塗料に使用するウレタン樹脂の
ウレタン結合含有量とは、ウレタン樹脂固形分中のウレ
タン結合量を樹脂固形分中に添加したイソシアネ−ト
(NCO)基の含有量で表したものを言い、下記の計算
方法で得ることができる。
【数1】 A:分子内に少なくとも1個以上の活性水素を有し、か
つ、カルボン酸塩あるいはカルボキシル基を少なくとも
1個有する親水性化合物 B:有機ポリイソシアネ−ト化合物 C:数平均分子量が300〜10000のポリオ−ル化
合物 D:低分子量ポリヒドロキシル化合物 E:ポリアミン系鎖伸長剤
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0009
【補正方法】変更
【補正内容】
【0009】樹脂皮膜は、樹脂の弾性率の調整により、
樹脂皮膜の延性を大きくして、プレス加工の際に樹脂皮
膜を絞りに追従させ、金型がステンレス鋼板と接触しな
いようにする。しかし、樹脂の弾性率があまり小さい
と、樹脂皮膜の強度が低下して、耐カジリ性が低下して
しまう。このため、樹脂の弾性率は100℃にて100
0N/cm2以上にする。一方、100℃での弾性率が
60000N/cm2を超えると、皮膜の凝集力が増加
し、樹脂皮膜のアルカリ溶解性が低下してしまう。ここ
で言う樹脂の弾性率とは、樹脂を動的粘弾性測定装置
(例えばORIENTEC社製、レオバイブロン DD
V−01−FP)で加振周波数=3.5Hz、測定温度
=−50〜200℃、昇温速度=5℃/分で測定した1
00℃におけるE′(貯蔵弾性率)の値をいう。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 内田 幸夫 大阪府堺市石津西町5番地 日新製鋼株式 会社技術研究所表面処理研究部内 (72)発明者 佐竹 英司 大阪府泉大津市条南町4−17−209 (72)発明者 玉木 淑文 大阪府富田林市藤沢台2−2−379

Claims (3)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 分子中にカルボキシル基を有するウレタ
    ン樹脂であって、その酸価が40〜90、ウレタン結合
    含有量がイソシアネ−ト基(NCO)換算で12〜20
    重量%、100℃における弾性率が1000〜6000
    0N/cm2および流動開始温度が75〜170℃であ
    る樹脂を含んでなる樹脂組成物の樹脂皮膜をステンレス
    鋼板表面に0.2〜10μm形成したことを特徴とする
    耐カジリ性および加工性に優れたアルカリ可溶型樹脂皮
    膜被覆ステンレス鋼板。
  2. 【請求項2】 請求項1において、皮膜中に平均粒径
    0.1〜5μmの合成樹脂粉末を1〜25重量%含有さ
    せたことを特徴とする耐カジリ性および加工性に優れた
    アルカリ可溶型樹脂皮膜被覆ステンレス鋼板。
  3. 【請求項3】 請求項1において、シリカ粉末を1〜3
    0重量%含有させたことを特徴とする耐カジリ性および
    加工性に優れたアルカリ可溶型樹脂皮膜被覆ステンレス
    鋼板。
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