JP3626008B2 - 耐カジリ性および加工性に優れたアルカリ可溶型樹脂皮膜被覆ステンレス鋼板 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、プレス加工などで金型が高温になっても、保護皮膜が耐カジリ性に優れ、しかも、その保護皮膜をアルカリ溶液で除去可能な保護皮膜被覆ステンレス鋼板に関する。
【0002】
【従来技術】
ステンレス鋼板は、耐食性、耐熱性に優れ、また、その外観は意匠性、清潔感を有しているので、厨房機器、建材、家電製品、自動車部品などに見られるごとく、多くの用途ではステンレス鋼板特有の肌をそのまま活かして使用している。しかし、ステンレス鋼板は表面に一部でも傷があると、極めて目立ち易い。そこで、ステンレス鋼板の表面をそのまま利用する部材をプレス加工で製造する際の傷付きを防止する方法として、アルカリ可溶型樹脂皮膜をステンレス鋼板表面に予め形成しておく方法がある。この方法はステンレス鋼板を部材に加工後に通常実施するアルカリ脱脂で樹脂皮膜を溶解除去できるので、塩化ビニル樹脂やポリオレフィン樹脂などの保護フィルムを貼付けて、加工後剥離する方法より作業性が優れている。
【0003】
アルカリ可溶型樹脂皮膜を形成しておく方法としては、樹脂皮膜を2層構造にして、下層を耐カジリ性に優れたエポキシ変性アクリル樹脂皮膜、上層を耐ブロッキング性に優れたアクリル樹脂皮膜にする方法(特開平8−252887号公報)があるが、この方法は樹脂皮膜が2層構造であるため、樹脂皮膜の形成作業が繁雑で、樹脂皮膜も高価になる。そこで、樹脂皮膜を1層にする方法として、酸価が40〜90、25℃における該樹脂の弾性率が1000〜40000N/cm2のカルボキシル基含有ウレタン樹脂皮膜を形成する方法(特開平9−254312号公報)が提案されている。しかし、ステンレス鋼板のプレス加工を、金型温度を100〜200℃に加温する温間加工で行うと、樹脂皮膜が軟化して、カジリが発生するという問題があった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、樹脂皮膜が1層であっても、温間加工でカジリが発生しないアルカリ可溶型樹脂皮膜被覆ステンレス鋼板を提供するものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明は、分子中にカルボキシル基を有するウレタン樹脂であって、その酸価が40〜90、ウレタン結合含有量がイソシアネ−ト基(NCO)換算で12〜20重量%、100℃における弾性率が1000〜60000N/cm2および流動開始温度が75〜170℃である樹脂を含んでなる樹脂組成物の樹脂皮膜をステンレス鋼板表面に0.2〜10μm形成した。また、樹脂組成物には、必要に応じて平均粒径0.1〜5μmの合成樹脂粉末を1〜25重量%および/またはシリカ粉末を1〜30重量%含有させた。
【0006】
【作用】
本発明者らは、アルカリ脱脂で溶解除去可能で、プレス加工の際の金型温度が常温の場合はもとより、200℃になってもカジリが発生しない樹脂皮膜材料を開発すべく種々検討した結果、分子中に遊離カルボキシル基を有するウレタン系樹脂を用いて、樹脂の酸価、ウレタン結合含有量、弾性率および流動開始温度を調整すれば可能であることを見いだした。
【0007】
ウレタン樹脂は、従来より塗料にも使用されているが、塗料に使用するものは塗膜の耐水性を高めるため、分子中には遊離カルボキシル基を導入していない。しかし、本発明では遊離カルボキシル基を導入して、逆に耐水性を弱め、アルカリ溶液で溶解除去できるようにするのである。このウレタン樹脂に遊離カルボキシル基を導入した場合、酸価が40未満であると、通常のアルカリ脱脂作業では樹脂皮膜を溶解除去できず、90を超えると、造膜性が低下して、耐カジリ性が低下する。このため、カルボキシル基は酸価が40〜90になるように導入する。なお、酸価とはウレタン樹脂1g中に含まれる酸分(酸基)を中和するのに必要な水酸化カリウムのmg数をいう。また、樹脂をカルボキシル基を有するものにするにはカルボキシル基含有親水性化合物をジイソシアネ−トと反応させることにより行えばよい。
【0008】
また、塗料に使用するウレタン樹脂の固形分当たりのウレタン結合含有量は、イソシアネ−ト基(以下NCOという)換算で12〜20重量%であるが、樹脂固形分当たりのウレタン結合含有量がNCO換算で12重量%より少ないと、皮膜強度が低下し、プレス加工でカジリが発生してしまう。しかし、ウレタン結合含有量をNCO換算で20重量%より多くすると、皮膜の凝集力が大きくなり、酸価を大きくしても、皮膜のアルカリ溶解性が低下してしまう。このため、樹脂固形分当たりのウレタン結合含有量はNCO換算で12〜20重量%にする。また、塗料に使用するウレタン樹脂のウレタン結合含有量とは、ウレタン樹脂固形分中のウレタン結合量を樹脂固形分中に添加したイソシアネ−ト(NCO)基の含有量で表したものを言い、下記の計算方法で得ることができる。
【数1】
A:分子内に少なくとも1個以上の活性水素を有し、かつ、カルボン酸塩あるいはカルボキシル基を少なくとも1個有する親水性化合物
B:有機ポリイソシアネ−ト化合物
C:数平均分子量が300〜10000のポリオ−ル化合物
D:低分子量ポリヒドロキシル化合物
E:ポリアミン系鎖伸長剤
【0009】
樹脂皮膜は、樹脂の弾性率の調整により、樹脂皮膜の延性を大きくして、プレス加工の際に樹脂皮膜を絞りに追従させ、金型がステンレス鋼板と接触しないようにする。しかし、樹脂の弾性率があまり小さいと、樹脂皮膜の強度が低下して、耐カジリ性が低下してしまう。このため、樹脂の弾性率は100℃にて1000N/cm2以上にする。一方、100℃での弾性率が60000N/cm2を超えると、皮膜の凝集力が増加し、樹脂皮膜のアルカリ溶解性が低下してしまう。ここで言う樹脂の弾性率とは、樹脂を動的粘弾性測定装置(例えばORIENTEC社製、レオバイブロン DDV−01−FP)で加振周波数=3.5Hz、測定温度=−50〜200℃、昇温速度=5℃/分で測定した100℃におけるE′(貯蔵弾性率)の値をいう。
【0010】
しかし、樹脂の弾性率を大きくしても、温間加工で樹脂皮膜が軟化すると、樹脂皮膜にはカジリが発生してしまう。そこで、樹脂皮膜は温間加工にも耐えられるように、樹脂の流動開始温度を75〜170℃にする。流動開始温度が75℃より低いと、金型が高温になった場合の耐カジリ性が不十分で、170℃より高いと、皮膜の凝集力が増加し、樹脂皮膜のアルカリ溶解性が低下してしまう。ここで言う流動開始温度とは、島津フロ−テスタ−(島津製作所製、CFT−500A)で、口径1mm、長さ1mmのダイスを用いて、荷重=98N、昇温速度=3℃/分で測定した値をいう。
【0011】
本発明のような特性を備えたカルボキシル基含有ウレタン樹脂の具体例としては、(A)分子内に少なくとも1個以上の活性水素を有し、かつ、カルボン酸塩あるいはカルボキシル基を少なくとも1個有する親水性化合物、(B)有機ポリイソシアネ−ト化合物、(C)数平均分子量が300〜10000のポリオ−ル化合物、(D)低分子量ポリヒドロキシル化合物および/または(E)ポリアミン系鎖伸長剤、必要に応じて、(A)のカルボキシル基を中和するための(F)中和剤を反応させることにより得られるものである。
【0012】
ここで、(A)の親水性化合物としては、例えば、2,2−ジメチロ−ルプロピオン酸、2,2−ジメチロ−ルブタン酸、2,2−ジメチロ−ル酪酸、2,2−ジメチロ−ル吉草酸、ジオキシマレイン酸、2,6−ジオキシ安息香酸、3,4−ジアミノ安息香酸等のカルボン酸含有化合物およびこれらの誘導体またはこれらを共重合させて得られるポリエステルポリオ−ル等が挙げられ、これらは単独でも、併用でもよい。さらに、これらの親水性化合物に加えて、本発明の効果を低減させない範囲で、分子量が300〜20000のポリオキシエチレングリコ−ル、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン共重合体グリコ−ルまたはそのモノアルキルエ−テル等のノニオン基含有化合物、あるいはスルホン酸基、リン酸基含有の親水性化合物を併用しても差し支えない。
【0013】
また、(B)の有機ポリイソシアネ−ト化合物としては、フェニレンジイソシアネ−ト、トリレンジイソシアネ−ト、ジフェニルメタンジイソシアネ−ト、ナフタレンジイソシアネ−ト等の芳香族ジイソシアネ−トやヘキサメチレンジイソシアネ−ト、リジンジイソシアネ−ト、シクロヘキサンジイソシアネ−ト、イソホロンジイソシアネ−ト、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネ−ト、キシリレンジイソシアネ−ト、テトラメチルキシリレンジイソシアネ−ト等の脂肪族あるいは脂環族ジイソシアネ−トが挙げられる。
【0014】
(C)のポリオ−ル化合物としては、数平均分子量が300〜10000、好ましくは500〜5000の高分子量ポリオ−ルであり、例えば、ポリエステルポリオ−ル、ポリエ−テルポリオ−ル、ポリカ−ボネ−トポリオ−ル、ポリアセタ−ルポリオ−ル、ポリアクリレ−トポリオ−ル、ポリエステルアミドポリオ−ル、ポリチオエ−テルポリオ−ル、ポリブタジエン系等のポリオレフィンポリオ−ル等が挙げられる。
【0015】
ここで、前記ポリエステルポリオ−ルとしては、エチレングリコ−ル、プロピレングリコ−ル、1,3−プロパンジオ−ル、1,4−ブタンジオ−ル、1,5−ペンタンジオ−ル、1,6−ヘキサンジオ−ル、ネオペンチルグリコ−ル、1,8−オクタンジオ−ル、ジエチレングリコ−ル、トリエチレングリコ−ル、テトラエチレングリコ−ル、ポリエチレングリコ−ル(分子量300〜6000)、ジプロピレングリコ−ル、トリプロピレングリコ−ル、ビスヒドロキシエトキシベンゼン、1,4−シクロヘキサンジオ−ル、1,4−シクロヘキサンジメタノ−ル、ビスフェノ−ルA、水素添加ビスフェノ−ルA、ハイドロキノンおよびそれらのアルキレンオキシド付加体等のグリコ−ル成分と、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、無水マレイン酸、フマル酸、1,3−シクロペンタンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、2,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、ナフタル酸、ビフェニルジカルボン酸、1,2−ビス(フェノキシ)エタン−p,p′−ジカルボン酸、およびこれらのジカルボン酸無水物あるいはエステル形成性誘導体、p−ヒドロキシ安息香酸、p−(2−ヒドロキシエトキシ)安息香酸およびこれらのヒドロキシ安息香酸のエステル形成性誘導体等の酸成分とから脱水縮合反応によって得られるポリエステルの他にε−カプロラクトン等の環状エステル化合物開環重合反応によって得られるポリエステルおよびこれらの共重合ポリエステル等が挙げられる。
【0016】
また、、前記ポリエ−テルポリオ−ルとしては、エチレングリコ−ル、ジエチレングリコ−ル、トリエチレングリコ−ル、プロピレングリコ−ル、トリメチレングリコ−ル、1,3−ブタンジオ−ル、1,4−ブタンジオ−ル、1,6−ヘキサンジオ−ル、ネオペンチルグリコ−ル、グリセリン、トリメチロ−ルエタン、トリメチロ−ルプロパン、ソルビト−ル、蔗糖、アコニット糖、トリメリット酸、ヘミメリット酸、リン酸、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリイソプロパノ−ルアミン、ピロガロ−ル、ジヒドロキシ安息香酸、ヒドロキシフタル酸、1,2,3−プロパントリチオ−ル等の活性水素原子を少なくとも2個以上有する化合物の1種または2種以上を開始剤としてエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、スチレンオキサイド、エピクロルヒドリン、テトラヒドロフラン、シクロヘキシレン等のモノマ−の1種または2種以上を常法により付加重合させたものが挙げられる。
【0017】
さらに、ポリカ−ボネ−トポリオ−ルとしては、1,4−ブタンジオ−ル、1,6−ヘキサンジオ−ル、ジエチレングリコ−ル等のグリコ−ルとジフェニルカ−ボネ−ト、ホスゲンとの反応によって得られる化合物が挙げられる。
【0018】
以上のポリオ−ル化合物のうち、耐カジリ性と樹脂皮膜のアルカリ溶解性とを調和させるには、ポリエステル系ポリオ−ルとポリエ−テル系ポリオ−ルの併用が好ましい。
【0019】
(D)の低分子量ポリヒドロキシル化合物としては、分子量300以下の分子内に少なくとも2個以上の水酸基を含有する化合物で、例えば、ポリエステルポリオ−ルの原料として用いたグリコ−ル成分、グリセリン、トリメチロ−ルエタン、トリメチロ−ルプロパン、ソルビト−ル、ペンタエリスリト−ル等の1種または2種以上のものが挙げられる。
【0020】
(E)のポリアミン系鎖伸長剤としては、エチレンジアミン、1,6−ヘキサメチレンジアミン、ピペラジン、2,5−ジメチルピペラジン、イソホロンジアミン、4,4′−ジシクロヘキシルメタンジアミン、3,3′−ジメチル−4,4′−ジシクロヘキシルメタンジアミン、1,4−シクロヘキサンジアミン、1,2−プロパンジアミン、ヒドラジン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラアミン等が挙げられる。
【0021】
(F)の中和剤としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の不揮発性塩基や、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジメチルエタノ−ルアミン、メチルジエタノ−ルアミン、トリエタノ−ルアミン等の三級アミン類、アンモニア等の揮発性塩基が挙げられるが、この中で特に揮発性塩基が好ましい。中和期としては、(A)のカルボキシル基含有親水化合物がウレタン化反応を起こす反応前、反応中、反応後のいずれでも差し支えない。
【0022】
ウレタン樹脂の合成方法は、特に制限がなく、本発明の効果を損なわない限り公知慣用の方法でよい。また、形態についても、特に制限はないものの、塗装作業の観点からは有機溶剤可溶性、水分散性、水溶性のものが好ましく、作業環境の観点からは水分散性、水溶性のものがより好ましい。水性ウレタン樹脂は造膜性改善のために例えばアルキレングリコ−ル誘導体、あるいは脂肪族ジカルボン酸のジアルキルエステル、N−メチル−2−ピロリドン等のような造膜助剤を含有させてもよい。
【0023】
樹脂皮膜は、厚みが0.2μm未満であると、耐カジリ性が不充分であり、10μmを超えると、アルカリ脱脂での樹脂皮膜溶解に時間を要するので、厚みは0.2〜10μmにする。
【0024】
樹脂組成物には、ウレタン樹脂と相溶しない合成樹脂粉末を、その一部が樹脂皮膜より突出するように添加すると、加工の厳しい部材へも無塗油でプレス加工できる。しかし、合成樹脂粉末の添加量が樹脂組成物の1重量%未満であると、潤滑性が充分でなく、25重量%を超えると、処理液中への安定な分散が困難になり、ゲル化してしまう。このため、樹脂組成物への添加量は1〜25重量%、処理液の長期安定性を確保するためには1〜10重量%にする。また、合成樹脂粉末は平均粒径が0.1μm未満であると、合成樹脂粉末が樹脂皮膜中に埋没し、金型への滑り込み性が不十分となり、5μmを超えると、合成樹脂粉末が樹脂皮膜より突出し過ぎて金型に削り取られ易くなるので、潤滑性を発揮しない。このため、平均粒径は0.1〜5μmにする。
【0025】
合成樹脂粉末の種類としては、特に限定はないが、フッ素樹脂、あるいはポリエチレンやポリプロピレン等のようなポリオレフィン樹脂、ABSやポリスチレン等のスチレン系樹脂、塩化ビニル樹脂や塩化ビニリデン樹脂等のようなハロゲン化樹脂が挙げられる。また、これらの樹脂は1種または2種以上の混合物として使用してもよい。さらに、合成樹脂粉末の形態にも特に制限はなく、所定の粒子径に機械粉砕したもの、化学的にあるいは機械的に媒体中に分散懸濁液にしたものでもよい。
【0026】
樹脂組成物には、シリカ粉末を添加すると、樹脂皮膜の耐熱性が向上し、金型温度を200℃にもする温間プレス加工でも、樹脂皮膜には損傷が認められず、耐カジリ性は向上する。しかし、シリカ粉末の添加量が樹脂組成物の1重量%未満であると、耐カジリ性の向上効果が不十分で、30重量%を超えると、処理液中の安定性が低下するので、樹脂組成物への添加量は1〜30重量%にする。このシリカ粉末は前記合成樹脂粉末と同時に添加してもよい。
【0027】
基材のステンレス鋼板は、鋼種、表面仕上げとも特に制限はなく、例えば、SUS304のBA仕上げ、2B仕上げ、No.4仕上げやSUS430のBA仕上げ、2B仕上げ、No.4仕上げでもよい。また、ステンレス鋼板のクラッド鋼でもよい。
【0028】
ステンレス鋼板表面への樹脂皮膜形成方法は、特に制限はなく、例えば、カルボキシル基含有ウレタン樹脂の処理液またはそれに合成樹脂粉末および/またはシリカ粉末を添加して、刷毛、ロ−ラ−、ロ−ルコ−タ−、バ−コ−タ−、フロ−コ−タ−、シャワ−リング、スプレ−のような塗装方法から経済性と生産性を考慮して塗装方法を選択し、鋼板に均一皮膜が得られるように塗装した後、常温乾燥、加熱強制乾燥等で乾燥すればよい。
【0029】
【実施例】
実施例1
2,2−ジメチロ−ルプロピオン酸、ヘキサメチレンジイソシアネ−ト、アジピン酸、1,4−ブチレングリコ−ル、エチレングリコ−ル系ポリエステルポリオ−ルの各成分を変化させて、反応させることにより酸価、ウレタン結合含有量、100℃での弾性率および流動開始温度を調整したカルボキシル基含有ウレタン樹脂のエマルジョン処理液をまず準備した。そして、次に、それらの処理液をステンレス鋼板(SUS304のBA仕上げ、板厚0.8mm)の表面にバ−コ−タ−で塗布して、オ−ブンで乾燥し、厚さの異なる樹脂皮膜を形成した。表1に得られた樹脂皮膜被覆ステンレス鋼板の樹脂皮膜であるウレタン樹脂と皮膜厚みを示す。次に、この鋼板について下記の特性を調査した。この結果を表2に示す。
【0030】
(1)処理液の安定性試験
処理液をガラス容器中に密封して、40℃の雰囲気中に放置し、処理液に増粘やゲル化が認められる日数を観察した。そして、20日間放置しても増粘やゲル化の認められないものを記号◎で、10日間までに増粘やゲル化の認められないものを記号○で、10日間経過前に増粘やゲル化の認められたものを記号×で評価した。
(2)樹脂皮膜の溶解性試験
試験片をNaOH溶液(pH;12、液温;40℃)に浸漬して、皮膜を溶解除去できるまでに要する時間が1分未満のものを記号◎、1分以上、2分未満のものを記号○、2分以上、5分未満のものを記号△、5分以上のものを記号×で評価した。
【0031】
(3)耐カジリ性試験
円板試験片(30mm×250mm)に対して円筒絞り加工試験(金型温度;20、100、200℃、ポンチ径;40mmφ、絞り比;2.35、しわ押さえ力;1.5×104N)を実施し、試験部の皮膜残存率が80%以上のものを記号◎、60〜80%未満のものを記号○、40〜60%未満のものを記号△、40%未満のものを記号×で評価した。
(4)加工性試験
円板試験片(30mm×250mm)を用いて、円筒絞り加工試験(金型温度;100℃、ポンチ径;40mmφ、絞り比;2.60、しわ押さえ力;2.5×104N)を行い、加工前の試験片径をL1、加工後の試験片平均径をL2とした場合のL2/L1が0.80未満のものを記号◎、0.80〜0.86未満のものを記号○、0.86〜0.90未満のものを記号△、0.90以上のものを記号×で評価した。
【0032】
【表1】
(注1)弾性率はORIENTEC社製のレオバイブロン DDV−01−FPを用いて、加振周波数3.5Hzで測定した。なお、弾性率は貯蔵弾性率の値を示している。
(注2)比較例No . 5は処理液ゲル化のため、塗布困難であった。
【0033】
【表2】
【0034】
実施例2
実施例1において、実施例No.2、4、8、14の処理液に合成樹脂粉末を添加したものを用いた。表3に得られた樹脂皮膜被覆ステンレス鋼板の樹脂皮膜組成を、表4に試験結果を示す。
【0035】
【表3】
(注)ポリエチレン樹脂とフッ素樹脂の混合は重量で前者9、後者1の割合である。
【0036】
【表4】
【0037】
実施例3
2,2−ジメチロ−ルプロピオン酸、イソホロンジイソシアネ−ト、イソフタル酸、無水フタル酸、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオ−ル、1,4−ブチレングリコ−ル系ポリエステルポリオ−ル、ポリプロピレングリコ−ルの各成分を反応させて、酸価が75、100℃での弾性率が36000N/cm2、ウレタン結合含有量がNCO換算で17重量%、流動開始温度が110℃のカルボキシル基含有ウレタン樹脂を合成して、そのエマルジョン処理液に平均粒径1.0μmの合成樹脂粉末(ポリエチレン樹脂粉末/フッ素樹脂粉末=9/1の混合物)を5重量%添加した後、さらに、シリカ粉末を表5に示すように添加し、ガラス容器に密封して、40℃の雰囲気中に10〜20日間放置した。そして、このエマルジョン処理液を実施例1と同一のステンレス鋼板表面にバ−コ−タ−で塗布して、オ−ブンで乾燥し、樹脂皮膜を3μm形成し、実施例1と同様の試験を実施した。表5にこの結果を示す。
【0038】
【表5】
(注)比較例12は処理液ゲル化のため、塗布困難であった。
【0039】
【発明の効果】
以上のように、本発明の樹脂皮膜被覆ステンレス鋼板は、従来と同様にカルボキシル基を有するウレタン樹脂組成物で樹脂皮膜を形成したものであるが、樹脂のウレタン結合含有量、弾性率および流動開始温度を変更すると、加工性と潤滑性が向上するため、プレス加工で金型温度が200℃になっても、樹脂皮膜にカジリが発生しない。また、樹脂組成物には合成樹脂粉末やシリカ粉末を添加すると、潤滑性が良好になるため、樹脂皮膜の耐カジリ性を向上させることができる。
Claims (3)
- 分子中にカルボキシル基を有するウレタン樹脂であって、その酸価が40〜90、ウレタン結合含有量がイソシアネ−ト基(NCO)換算で12〜20重量%、100℃における弾性率が1000〜60000N/cm2および流動開始温度が75〜170℃である樹脂を含んでなる樹脂組成物の樹脂皮膜をステンレス鋼板表面に0.2〜10μm形成したことを特徴とする耐カジリ性および加工性に優れたアルカリ可溶型樹脂皮膜被覆ステンレス鋼板。
- 請求項1において、皮膜中に平均粒径0.1〜5μmの合成樹脂粉末を1〜25重量%含有させたことを特徴とする耐カジリ性および加工性に優れたアルカリ可溶型樹脂皮膜被覆ステンレス鋼板。
- 請求項1において、シリカ粉末を1〜30重量%含有させたことを特徴とする耐カジリ性および加工性に優れたアルカリ可溶型樹脂皮膜被覆ステンレス鋼板。
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