JPH11253547A - 細胞遮断膜 - Google Patents

細胞遮断膜

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JPH11253547A
JPH11253547A JP10080367A JP8036798A JPH11253547A JP H11253547 A JPH11253547 A JP H11253547A JP 10080367 A JP10080367 A JP 10080367A JP 8036798 A JP8036798 A JP 8036798A JP H11253547 A JPH11253547 A JP H11253547A
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tissue
cell
calcium
alginate
membrane
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JP10080367A
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Kunio Ishikawa
邦夫 石川
Kazutomi Suzuki
一臣 鈴木
Yoshiya Kamiyama
吉哉 上山
Toshihiro Matsumura
智弘 松村
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Abstract

(57)【要約】 【目的】組織再生法において、従来の組織遮断膜と比較
して格段に設置操作が簡便であり、かつ、母床組織と付
着性あるいは粘着性あるいは接着性を示すなど、優れた
性質を示したり、外科領域における癒着を防止する癒着
防止膜としても有用な細胞遮断膜を提供する。 【構成】アルギン酸カルシウムを主構成成分とする細胞
遮断膜。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は新規な医療用細胞遮断膜
に関する。詳しくは医療における組織再生法、すなわち
GTR(Guided Tissue Regener
ation)法に用いる細胞遮断膜あるいは癒着防止に
用いる細胞遮断膜に関する。より詳しくは、病的あるい
は外的原因等により生じた骨や歯槽骨などの硬組織の欠
損部や空隙部、あるいは、病的あるいは外的原因等によ
り退縮した歯肉などの軟組織に適応し、当該個所におい
て、所望の細胞以外の細胞の遊走、増殖を遮断すること
により、当該欠損部等において、所望の細胞の増殖を誘
発し、当該欠損部等を所望の新生組織で再生させる組織
再生法に用いる細胞遮断膜、あるいは外科、整形外科、
形成外科、口腔外科などの外科的手術に伴う組織の癒着
防止に用いる細胞遮断膜に関する。
【0002】
【従来の技術】歯周疾患などにより、上皮組織および歯
肉結合組織の退縮、健全な歯槽骨の吸収、歯根面からの
結合組織の付着の喪失がおこった場合、従来はフラップ
手術を行ない、歯周ポケットの除去を行っていた。プラ
ークコントロールおよびフラップ手術中のルート・プレ
ーニンングにより治癒後の歯肉結合組織中の炎症がかな
り消退するため、歯根面に沿って結合組織の創面をカバ
ーした上皮組織は、炎症がなくなり緊張を取り戻した結
合組織に押しつけられるようにして歯根面に密着する。
しかし、フラップ手術によっても、一度喪失した歯根面
と結合組織の付着は回復されず、決して繊維性に結合し
ているわけではない。したがって、歯周疾患を改善して
いるものの、該組織を歯周疾患以前の状態に修復してい
るのではない。
【0003】また、病的あるいは外的原因等により骨な
どの硬組織に欠損部や空隙部が生じて、該欠損部や空隙
部を再建する必要がある場合には、主に自家骨移植が行
われている。しかし、骨採取を目的とした二次手術が必
要であり、患者に与える影響が大きい。また、採取でき
る骨量、骨形態にも制限がある。
【0004】そのため、骨や歯など生体硬組織の無機主
成分であるアパタイトを化学合成し、ブロック状や顆粒
状に形成されたアパタイト焼結体が骨補填材あるいは骨
充填材として臨床応用されている。アパタイト焼結体は
優れた骨伝導性を示すものの、アパタイト焼結体自体は
吸収されず生体内に残留する。したがって、骨の機能の
うち力学的機能はある程度改善されるが、造血機能など
生物学的機能は全く改善されない。
【0005】最近、歯周疾患の治療法、あるいは骨の再
建、増殖法として組織再生法、すなわち、GTR(Gu
ided Tissue Regeneration)
法がT. KarringとS. Nymanにより発明され、注目を集め
ている。組織再生法の詳細は、例えば「GTRの科学と
臨床」(中村社綱、浦口良治著、クインテッセンス出版
株式会社、1993年)などに記載されているが、欠損
部等に関連する各組織由来の細胞の増殖速度の違いに着
目し、細胞遮断膜を用いて、所望の組織のみを増殖させ
る組織再生法である。例えば、歯周疾患の治療法として
フラップ手術により歯肉弁を剥離し、ポケット上皮を取
り除き、ルート・プレーニングした場合、歯根面上に
は、1)歯肉弁の縁端部の上皮組織、2)歯肉弁内面の
歯肉結合組織、3)欠損内面の歯槽骨組織、4)歯槽骨
と歯根の間の歯根膜組織、が、あり、これら4種類の組
織由来の細胞が歯根面に到達する可能性がある。ところ
が実際の生体では1)歯肉弁の縁端部の上皮組織、が、
かなりのスピードをもって根尖方向に増殖するため、治
癒の場となっている歯根に面する結合組織の創面を覆っ
てしまう。そのため、一度喪失した歯根面と結合組織の
付着は回復されず、決して繊維性に結合しない。
【0006】フラップ手術により歯肉弁を剥離し、ポケ
ット上皮を取り除き、ルート・プレーニングした歯根面
上では、3)欠損内面の歯槽骨組織、4)歯槽骨と歯根
の間の歯根膜組織、も、増殖するが、その増殖速度が、
1)歯肉弁の縁端部の上皮組織、2)歯肉弁内面の歯肉
結合組織、の、増殖速度に比較して遅いことが、治癒の
場となっている歯根に面する結合組織の創面において、
3)欠損内面の歯槽骨組織、4)歯槽骨と歯根の間の歯
根膜組織、が、形成されない原因である。そのため、フ
ラップ手術を行いルート・プレーニングをした根面を細
胞遮断膜(バリヤーメンブレン)でカバーし、その後、
歯肉弁を戻すと、歯肉結合組織と上皮は根面に接触でき
なくなる。その結果、歯根面由来の細胞が根面に沿って
増殖を開始し、数週間後にルート・プレーニングされた
根面上に新付着が形成され、歯槽骨も再生され、理想的
な歯周疾患の治療法となる。
【0007】また、例えば病的あるいは外的原因等によ
り骨など硬組織に欠損部や空隙部が生じた場合、骨欠損
部あるいは空隙部の周囲には、1)上皮組織、2)結合
組織、3)骨組織、が、あり、これら3種の組織由来の
細胞が骨欠損部等に到達する可能性がある。骨欠損部等
が比較的小さい場合等においては骨組織による自然治癒
がおこる場合もあるが、一般に、1)上皮組織、2)結
合性組織、由来の細胞増殖速度が、3)骨組織、由来の
細胞の増殖速度よりも速いため、治癒の場となっている
骨欠損部創面を覆ってしまう。そのため、骨欠損部に骨
組織は形成されずに、軟組織で覆われてしまう。骨欠損
部等を細胞遮断膜でカバーし、その後、軟組織を戻す
と、結合組織は骨欠損部等に遊走できなくなる。その結
果、骨由来の細胞が骨欠損部創面に沿って増殖を開始
し、一定期間後に、骨欠損部等が骨組織により再生され
る。
【0008】このような組織再生法に用いられる細胞遮
断膜としては多様な特性が要求されるが、(あ)細胞遮
断性に優れること、(い)生体親和性に優れること、
(う)生体内分解吸収性を示すこと、(え)スペース形
成能を有すること、(お)封鎖性に優れること、(か)
母床組織に対して付着性あるいは粘着性あるいは接着性
を示すこと、(き)操作性に優れること、(く)所望の
組織由来の細胞の遊走、増殖速度を促進すること、が、
特に重要である。
【0009】組織遮断膜に要求される多様な特性を図1
を用いて説明する。(あ)細胞遮断性に優れること、
は、組織再生法に用いる細胞遮断膜において最も重要な
要求特性である。組織再生法においては、所望の組織で
図1の4のような組織欠損部等を再生するため、所望の
細胞以外の細胞が創面に遊走することを遮断する必要が
あり、細胞レベルで所望の細胞以外の細胞を欠損部等か
ら遮断する必要がある。(い)生体親和性に優れるこ
と、は細胞遮断膜に限らず、生体内で用いる材料に要求
される絶対的な要件である。具体的には異物反応を惹起
しないこと、抗原性を示さないこと、起炎性はあっても
最小限であることなどである。(う)生体内分解吸収性
を示すこと、は、必ずしも必要条件ではない。しかし、
非生体内分解吸収性材料である細胞遮断膜を用いて組織
再生法を行った場合、生体内に埋入させた細胞遮断膜を
摘出する必要があり、そのための二次手術が必要とな
る。また、その際に未熟な再生組織が露出するという欠
点がある。(え)スペース形成能を有すること、は、組
織再生法に用いる細胞遮断膜の重要な必要条件である。
細胞遮断膜により、所望の細胞以外の細胞が創面に遊走
することを防止しても、所望の細胞自体が十分に増殖で
きるだけのスペースが図1の4に示したような組織欠損
部になければ、所望の組織は再生されない。(お)封鎖
性に優れること、は、(あ)細胞遮断性に優れること、
に関係する重要な特性である。図1の1に示した細胞遮
断膜の細胞遮断特性により、所望の細胞以外の細胞が細
胞遮断膜を通過して図1の5に示した組織欠損部創面ま
で遊走することを防止できたとしても、図1の1の細胞
遮断膜と、図1の2に示した母床組織表面の隙間を通っ
て、所望の細胞以外の細胞が創面に遊走するのでは、細
胞遮断膜による細胞遮断効果がない。したがって、細胞
遮断膜には創面を形成する母床組織と密着し、所望の細
胞以外の細胞が創面に遊走することを防止する特性が必
要とされる。(か)母床組織に対して付着性あるいは粘
着性あるいは接着性を示すこと、は、(お)封鎖性に優
れること、を満足させる要因であり、したがって、
(あ)細胞遮断性に優れること、にも密接に関係する要
因である。細胞遮断膜が母床組織、例えば骨に対して、
付着性あるいは粘着性あるいは接着性を示した場合、図
1の1に示した細胞遮断膜は図1の2に示した母床組織
表面と密着するため、組織欠損部創面に所望の細胞以外
の細胞が母床組織表面と細胞遮断膜の隙間を通って遊走
することができない。その結果、図1の4に示した組織
欠損部内においては所望の細胞のみが増殖し、所望の組
織が再生される。(き)操作性に優れること、は、細胞
遮断膜を用いた組織再生法の臨床成績を左右する大きな
要因である。臨床症例は多岐に渡り、また術者の技術も
広範囲にわたる。細胞遮断膜を組織欠損部に設置する際
に術中の困難さが最小である必要がある。欠損組織は三
次元形態を示しており、さらに、個々の欠損形態は症例
により異なる。術後の影響がない場合、母床組織と組織
遮断膜の適合がよい程、組織再生法の成功率が高くな
る。(く)所望の組織由来の細胞の遊走、増殖速度を促
進すること、は、必ずしも必要条件ではない。従来の組
織再生法における細胞遮断膜の目的は組織欠損部を所望
の組織で生成するため、所望の組織由来の細胞以外の細
胞が組織欠損部創面に遊走し、組織欠損部で増殖するこ
とを防止することを目的としている。すなわち、より遊
走、増殖速度の大きい上皮や結合性組織等由来の細胞の
遊走、増殖を防止し、より遊走、増殖速度の小さい骨や
歯根膜組織等由来の細胞増殖を相対的に優勢にすること
により組織欠損部を骨や歯根膜組織等の所望の組織で再
生する。組織欠損部に形成される組織の種類が、当該部
位において増殖する可能性のある組織由来の細胞の遊走
および増殖速度によって決定されるので、所望の細胞以
外の細胞の遊走、増殖を防止するだけでなく、所望の細
胞の遊走、増殖自体を促進すれば、組織再生法に用いら
れる細胞遮断膜は、より機能性の高い細胞遮断膜とな
る。
【0010】現在、臨床応用されている非生体内分解吸
収性の細胞遮断膜としてはポリフルオロエチレンを組成
とするゴアテックス膜が例示される。ゴアテックス膜は
(あ)細胞遮断性に優れること、(い)生体親和性に優
れること、(え)スペース形成能を有すること、を、満
足するが、非生体内分解吸収性膜であることから、
(う)生体内分解吸収性を示すこと、は満足しない。ま
た、ゴアテックス膜は骨組織に対して、付着性あるいは
粘着性あるいは接着性のいずれも示さないため、(お)
封鎖性に優れること、(か)母床組織に対して付着性あ
るいは粘着性あるいは接着性を示すこと、は満足せず、
したがって、その臨床応用においては、縫合糸やスクリ
ューを用いてゴアテックス膜を組織欠損部に固定する必
要がある。ゴアテックス膜を組織欠損部に設置する際に
は欠損部の形態にあわせて、ゴアテックス膜のトリミン
グを行い、縫合糸やスクリューを用いてゴアテックス膜
を骨欠損部に固定するが、症例によって大きく形態が異
なる三次元的な組織欠損部に二次元的なゴアテックス膜
を密接に固定することは困難である。その結果、(き)
操作性に優れること、も満足しない。また、ゴアテック
ス膜は所望の細胞以外の細胞の遮断のみを目的に製造さ
れており、骨組織や歯根膜などの所望の組織の遊走、増
殖速度を促進するようには設計されていない。したがっ
て、(く)所望の組織由来の細胞の遊走、増殖速度を促
進すること、も満足しない。
【0011】ゴアテックス膜が満足しない細胞遮断膜の
必要特性である(う)生体内分解吸収性を示すこと、を
解決するため、ポリ乳酸、ポリ乳酸と他の生体内分解吸
収性化合物との共重合体、ポリグリコール酸、ポリグリ
コール酸と他の生体内分解吸収性化合物、コラーゲン、
キチン、キトサンなどの生体内分解吸収膜を細胞遮断膜
として用いる研究が、特開平2−63465、特開平4
−285565、特開平5−49692、特公平6−8
3713などで報告されている。これらの細胞遮断膜は
生体内で分解吸収されるため、細胞遮断膜の必要特性で
ある(う)生体内分解吸収性を示すこと、を、満足する
細胞遮断膜であるが、(お)封鎖性に優れること、
(か)母床組織に対して付着性あるいは粘着性あるいは
接着性を示すこと、(き)操作性に優れること、(く)
所望の組織由来の細胞の遊走、増殖速度を促進するこ
と、に関してはゴアテックス膜と同様に満足しない細胞
遮断膜であった。
【0012】また、外科、整形外科、形成外科、口腔外
科などにおいて外科的手術を行った場合、組織の癒着が
おこる。癒着は切開面の封鎖など、本来の治癒過程でも
あるが、表皮組織と結合組織間などのように、所望の組
織間以外の癒着も進行する。所望の組織以外の癒着は二
次手術を困難にするだけでなく、当該手術の効果自体を
も低減することが多い。例えば、椎間板ヘルニアなので
は椎間板を構成している髄核または繊維輪内層が周囲を
取り囲んでいる繊維輪を穿破して、神経を圧迫し、痛み
を発生させる。外科的治療においては脊髄から突出した
椎間板組織を外科的に除去するが、その際に神経組織が
結合性組織などに癒着すると、運動にともない、結合性
組織が神経組織に刺激を与えることになり、痛みが発生
する。また、虫垂炎は腹部内臓外科の中で最も頻度の高
い疾患であるが、虫垂切除術による刺激は大綱や小腸な
どの癒着を惹起する場合がある。癒着が重度な場合は癒
着性イレウスをおこす。しかし、現在、癒着防止を目的
とした細胞遮断膜は存在しない。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】従来の組織再生法にお
ける細胞遮断膜である、非生体内分解吸収性のゴアテッ
クス膜や、生体内分解吸収性のポリ乳酸膜、ポリ乳酸と
他の生体内分解吸収性化合物との共重合体膜、ポリグリ
コール酸膜、ポリグリコール酸と他の生体内分解吸収性
化合物膜、コラーゲン膜、キチン膜、キトサン膜など
は、組織再生法に用いられる細胞遮断膜の要求特性のう
ち一部しか満足しない。また、癒着防止を目的とした細
胞遮断膜は存在しない。本発明は組織再生法に用いられ
る細胞遮断膜の要求特性を、全て、あるいは、従来の組
織遮断膜と比較して、より広範囲に満足する細胞遮断膜
を提供するものであり、また、癒着防止を目的とした細
胞遮断膜を初めて提供するものである。
【0014】
【課題を解決するための手段】前項に記載した細胞遮断
膜の問題点を解決するために本発明者は新たな細胞遮断
膜を種々検討した結果、アルギン酸カルシウムを主構成
成分とする細胞遮断膜、が、組織再生法に用いられる細
胞遮断膜の要求特性である(あ)細胞遮断性に優れるこ
と、(い)生体親和性に優れること、(う)生体内分解
吸収性を示すこと、(え)スペース形成能を有するこ
と、(お)封鎖性に優れること、(か)母床組織に対し
て付着性あるいは粘着性あるいは接着性を示すこと、
(き)操作性に優れること、(く)所望の組織由来の細
胞の遊走、増殖速度を促進すること、の全て、あるい
は、ほぼ全て、を満足する臨床応用上有用な細胞遮断膜
であることを見いだし、また、癒着防止の細胞遮断膜と
して有用であることを見出し、本発明を完成した。
【0015】即ち、本発明の細胞遮断膜とは、以下に記
載される(1)から(5)の細胞遮断膜である。
【0016】(1)アルギン酸カルシウムを主構成成分
とする細胞遮断膜。
【0017】(2)上記(1)記載の細胞遮断膜におい
て、アルギン酸カルシウムがリン酸カルシウムを含有す
ることを特徴とする細胞遮断膜。
【0018】(3)上記(1)あるいは(2)記載の細
胞遮断膜において、アルギン酸カルシウムが薬物を含有
していることを特徴とする細胞遮断膜。
【0019】(4)上記(1)、(2)あるいは(3)
記載の細胞遮断膜において、形成された細胞遮断膜、繊
維、網、不繊布から選ばれる少なくとも一つを、その構
成成分の一部として用いることを特徴とする細胞遮断
膜。
【0020】本発明でいうアルギン酸化合物とは、多糖
類の一種で(C574COOH)nで表されるアルギン
酸、およびアルギン酸の塩で、アルギン酸の塩としては
アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、アルギン
酸アンモニウム、アルギン酸プロピレングリコールエス
テルなどが例示される。これらは、化学薬品として購入
可能である。
【0021】本発明でいうカルシウム化合物溶液とは、
水やアルコールなどの有機溶媒、混合溶媒などにカルシ
ウム化合物を溶解したものであり、カルシウム化合物と
しては塩化カルシウム、酢酸カルシウム、安息香酸カル
シウム、臭化カルシウム、炭酸カルシウム、クエン酸カ
ルシウム、フッ化カルシウム、ギ酸カルシウム、水酸化
カルシウム、乳酸カルシウム、レブリン酸カルシウム、
メタほう酸カルシウム、硝酸カルシウム、シュウ酸カル
シウム、酸化カルシウム、サリチル酸カルシウム、硫酸
カルシウム、酒石酸カルシウム、チオシアン酸カルシウ
ム、などが例示される。
【0022】本発明でいうリン酸化合物とはリン酸およ
びリン酸塩である。すなわち、H3PO4、P25およ
び、リン酸基PO4を含有する塩である。リン酸基PO4
を含有する塩としては、リン酸三ナトリウム、リン酸水
素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸三カ
リウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウ
ム、リン酸三アンモニウム、リン酸水素二アンモニウ
ム、リン酸二水素アンモニウム、などが例示される。
【0023】本発明でいうリン酸カルシウムとは、リン
酸水素カルシウム(CaHPO4、CaHPO4・2H2
O)、リン酸三カルシウム(Ca3(PO42)、リン
酸八カルシウム(Ca82(PO46・5H20)、リ
ン酸二水素カルシウムは(Ca(H2PO42、Ca
(H2PO42・2H20)、非晶質リン酸カルシウ
ム、リン酸四カルシウム(Ca4(PO42O)、アパ
タイト(Ca10(PO46(OH)2の基本構造を持つ
もの。Ca欠損型のアパタイトCa10-x(PO4y(P
46 -y(OH)2-zや、炭酸含有アパタイトCa10-x
(PO4y(PO46-y-a(CO3b(OH)2-zなど
もアパタイトと定義する。)に代表されるリン酸カルシ
ウムである。これらのリン酸カルシウムの一部が他の金
属に置換した、例えばCa8Ba2(PO46(OH)2
などもリン酸カルシウムと定義する。
【0024】本発明は以下に記述する原理で構成され
る。アルギン酸化合物溶液はカルシウム化合物溶液と接
触すると、両者の界面において、両者の反応により、ア
ルギン酸カルシウムを主構成成分とする膜が形成され
る。このアルギン酸カルシウムを主構成成分とする膜は
基本的には無孔性膜であり、したがって、組織再生法に
用いられる細胞遮断膜に要求される特性である(あ)細
胞遮断性に優れること、を満足する。
【0025】アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウ
ム、アルギン酸カルシウム、アルギン酸アンモニウムお
よびアルギン酸は1963年のFAO/WHO合同委員
会においても安全性が評価され、アルギン酸カルシウム
は傷創被覆材などに、臨床応用使用されている。アルギ
ン酸ナトリウムは逆流性食道炎、消化性潰瘍の治療剤で
あり、血液拡散に対する抑制作用、赤血球との親和性、
フィブリン形成の促進作用などが報告されており、また
一時期血液増量剤としても臨床応用されており生体親和
性に関しては問題がない。したがって、組織再生法に用
いられる細胞遮断膜に要求される特性である(い)生体
親和性に優れること、を満足する。
【0026】アルギン酸カルシウムは、その乾燥体が吸
収性縫合糸に使用されていることからも明かであるよう
に、一定期間、生体内に埋入しておくと分解吸収消失す
る。したがって、組織再生法に用いられる細胞遮断膜に
要求される特性である(う)生体内分解吸収性を示すこ
と、を満足する。
【0027】アルギン酸化合物溶液とカルシウム化合物
溶液との接触により形成されるアルギン酸カルシウムを
主成分とする膜の膜厚は、使用するアルギン酸化合物の
種類、濃度および分子量、カルシウム化合物溶液の種類
および濃度、またアルギン酸化合物溶液とカルシウム化
合物溶液との接触時間などに影響されるが、アルギン酸
カルシウム膜は図2(b)に示したように、組織欠損部
表面に形成され、組織欠損部内部においてはアルギン酸
化合物溶液が残留する。このアルギン酸化合物溶液は骨
細胞や歯根膜組織など組織再生法で再生を期待する所望
組織の細胞増殖を阻害しない、あるいは、増殖作用を示
す、あるいは、阻害効果が小さい。したがって、組織再
生法に用いられる細胞遮断膜に要求される特性である
(え)スペース形成能を有すること、を満足する。
【0028】アルギン酸カルシウムを主成分とする膜は
ゲル状膜であり、そのため母床組織表面に密着する。特
に、アルギン酸化合物溶液とカルシウム化合物溶液との
接触により事前に形成されたアルギン酸カルシウムを主
成分とする膜を、母床組織表面に設置するのでなく、組
織欠損部にアルギン酸化合物溶液を充填し、組織欠損部
周囲にもアルギン酸化合物を塗布し、その後にカルシウ
ム化合物溶液を滴下した場合に形成されるアルギン酸カ
ルシウムを主成分とする膜は、骨などの硬組織と、付着
性あるいは粘着性あるいは接着性を示す。したがって、
組織再生法に用いられる細胞遮断膜に要求される特性で
ある(お)封鎖性に優れること、(か)母床組織に対し
て付着性あるいは粘着性あるいは接着性を示すこと、を
満足する。
【0029】アルギン酸カルシウムを主構成成分とする
膜は、ゲル状膜であるため、事前に形成されたアルギン
酸カルシウムを主成分とする膜を欠損組織に設置する場
合でも、トリミングが容易であり、母床組織と付着する
ために組織欠損部への設置が容易である。特に、組織欠
損部にアルギン酸化合物溶液を充填し、組織欠損部周囲
にもアルギン酸化合物を塗布し、その後にカルシウム化
合物溶液を滴下した場合に形成されるアルギン酸カルシ
ウムを主成分とする膜は、組織欠損部および組織欠損部
周囲にアルギン酸化合物溶液を充填、塗布し、その後に
カルシウム化合物溶液を滴下するなどの方法でアルギン
酸カルシウムを主成分とする膜の組織欠損部への設置が
完了するため極めて操作が簡便であり、操作性に優れ
る。したがって、細胞再生法に用いられる組織遮断膜に
要求される特性である(き)操作性に優れること、を満
足する。
【0030】アルギン酸化合物にはフィブリン形成抑
制、赤血球凝集作用、血小板凝集作用など骨形成を促進
すると考えられる特性が報告されている。また、骨組織
の遊走、増殖を促進するリン酸カルシウム化合物を細胞
遮断膜内に形成することが可能である。したがって、ア
ルギン酸化合物溶液と、カルシウム化合物溶液との接触
により形成されるアルギン酸カルシウムを主構成成分と
する膜は、細胞再生法に用いられる組織遮断膜に要求さ
れる特性である(く)所望の組織由来の細胞の遊走、増
殖速度を促進すること、を満足する、あるいは、満足す
るようにさらに設計することが可能である。
【0031】これらの結果、アルギン酸カルシウムを主
構成成分とする膜は、組織再生法における細胞遮断膜に
要求される特性である、(あ)細胞遮断性に優れるこ
と、(い)生体親和性に優れること、(う)生体内分解
吸収性を示すこと、(え)スペース形成能を有するこ
と、(お)封鎖性に優れること、(か)母床組織に対し
て付着性あるいは粘着性あるいは接着性を示すこと、
(き)操作性に優れること、(く)所望の組織由来の細
胞の遊走、増殖速度を促進すること、を全て、あるい
は、ほぼ全て、を、満足する優れた組織遮断膜となる。
【0032】さて、組織再生法において組織欠損部に再
生を期待される組織のうち、骨組織の無機主成分はリン
酸カルシウムの一種であるアパタイトであり、リン酸カ
ルシウムは骨の伝導性に優れること、すなわち、骨組織
由来の細胞の遊走、増殖速度はリン酸カルシウムと接し
ている部位において促進されていることが知られてい
る。したがって、リン酸カルシウムを細胞遮断膜内ある
いは細胞遮断膜近傍に形成すれば、細胞遮断膜内の組織
欠損部は骨組織による再生速度が大きくなる。
【0033】アルギン酸カルシウム内にリン酸カルシウ
ムを含有させるには、アルギン酸カルシウム膜を製造す
る際に、同時にアルギン酸カルシウム内にリン酸カルシ
ウムを含有させることが好ましい。その場合、アルギン
酸カルシウムの製造と同時にリン酸カルシウムを製造す
る方法と、あらかじめ製造されたリン酸カルシウムをア
ルギン酸カルシウムの製造時に添加する製造方法が例示
されるる。
【0034】アルギン酸カルシウムの製造と同時にリン
酸カルシウムを製造する場合、アルギン酸化合物溶液に
リン酸化合物を含有させ、リン酸化合物を含有したアル
ギン酸化合物溶液とカルシウム化合物溶液と接触させる
と、アルギン酸化合物とカルシウム化合物の反応でアル
ギン酸カルシウム膜が製造されるだけでなく、製造され
たアルギン酸カルシウム膜の中にはアルギン酸化合物に
含有されるリン酸化合物とカルシウム化合物の反応によ
りリン酸カルシウムが製造される。その結果、リン酸カ
ルシウムを含有したアルギン酸カルシウムを主構成成分
とする細胞遮断膜が製造できる。リン酸カルシウムを含
有したアルギン酸カルシウムを主構成成分とする細胞遮
断膜は、細胞遮断膜に骨伝導性を示すリン酸カルシウム
が含有されているため、リン酸カルシウムが含有されて
いない細胞遮断膜を用いた場合に比較して、より骨組織
の遊走、増殖が速い。
【0035】一方、リン酸カルシウムを含有したアルギ
ン酸カルシウム膜を、あらかじめ製造されたリン酸カル
シウムをアルギン酸カルシウムの製造時に添加する方法
で製造する場合、あらかじめ製造されたリン酸カルシウ
ムをアルギン酸化合物溶液あるいはカルシウム化合物溶
液の少なくとも一方に懸濁させる。すなわち、リン酸カ
ルシウム化合物をアルギン酸化合物溶液あるいはカルシ
ウム化合物溶液の少なくとも一方に懸濁し、アルギン酸
化合物溶液とカルシウム化合物溶液を接触させたる。そ
の結果、リン酸カルシウムを含有するアルギン酸カルシ
ウムを主構成成分とする細胞遮断膜が製造される。
【0036】これらのリン酸カルシウムを含有した、ア
ルギン酸カルシウムを主構成成分とする細胞遮断膜は含
有されるリン酸カルシウムにより骨組織の遊走、増殖速
度を促進することにより、組織再生法における機能性を
高めたものであるが、骨組織の遊走、増殖速度はさまざ
まな薬剤によっても促進されることが公知になってい
る。また、歯根膜由来の細胞はリン酸カルシウムによっ
てはその遊走、増殖速度が促進されない、あるいは促進
の程度が小さいが、さまざまな薬剤によって歯根膜由来
の細胞の遊走、増殖速度を促進することが可能である。
これらの薬剤はアルギン酸化合物溶液あるいはカルシウ
ム化合物溶液の少なくとも一方に添加されると、形成さ
れるアルギン酸カルシウムを主構成成分とする細胞遮断
膜に含有され、経時的に徐放される。特に、アルギン酸
化合物溶液にこれらの薬物を含有させた場合は、未反応
のまま組織欠損部に残留するアルギン酸化合物溶液に薬
剤が含有されるため、所望の組織由来の細胞の遊走、増
殖速度の促進により効果的である。
【0037】アルギン酸カルシウムを主構成成分とする
細胞遮断膜に含有されるリン酸カルシウムや所望の細胞
の遊走、増殖を促進する薬剤により、所望の組織由来の
細胞が迅速に遊走、増殖して組織欠損部が所望の組織に
より再生されることは、所望の組織が再生される部位が
組織欠損部全体でない場合でも有用である。すなわち、
所望の細胞の遊走、増殖を促進するリン酸カルシウムや
薬剤が細胞遮断膜のみに含有される場合、組織欠損部全
体ではなく、細胞遮断膜に接する部位に優先的に所望の
組織が形成される場合があるが、その場合は、組織欠損
部は所望の組織で囲われる。したがって、所望の組織以
外の細胞は残存している組織欠損部に遊走、増殖するこ
とが不可能になり、残存した組織欠損部は経時的に所望
の組織で再生される。
【0038】細胞遮断膜近傍への所望の組織の遊走、増
殖は細胞遮断膜における、(え)スペース形成能を有す
ること、の観点からも重要である。細胞遮断膜に接して
所望の組織が再生された場合は、所望の組織自体がスペ
ース形成能を示すことになる。さらに、組織欠損が残存
する場合においても当該組織欠損が所望の組織で覆われ
ている場合は感染等の心配がない。
【0039】さて、感染は組織再生法の臨床成績に大き
な 影響を及ぼす因子である。骨組織および歯根膜組織
は感染に対して非常に敏感であり、感染した場合には、
細胞遮断膜が組織欠損部に適切に設置されていても組織
欠損部において所望の細胞が遊走、増殖できない、ある
いは遊走、増殖の速度が著しく抑制される。また、その
ため感染防止を目的として、アルギン酸化合物溶液ある
いはカルシウム化合物溶液中の少なくとも一方に抗生物
質を含有させることは極めて効果的である。
【0040】組織再生法に用いられる細胞遮断膜に要求
される特性である(え)スペース形成能を有すること、
は、重要な特性であり、スペース形成能は細胞遮断膜の
機械的性質に密接に関連するが、その要求水準は組織欠
損部の大きさ、および形態に大きく依存する。比較的小
さな組織欠損部の場合は、比較的機械的強さが小さな細
胞遮断膜でも十分にスペース形成能を示す。一方、組織
欠損部が大きい場合には、機械的強さが大きな細胞遮断
膜が必要とされる。アルギン酸カルシウムを主構成成分
とする細胞遮断膜の機械的強さは、製造に用いるアルギ
ン酸化合物の種類、濃度および分子量、カルシウム化合
物溶液の種類および濃度、またアルギン酸化合物溶液と
カルシウム化合物溶液との接触時間などに影響される
が、より大きな機械的強さが要求される症例において
は、形成された細胞遮断膜、繊維、網、不繊布などを補
強材として用いることが有用である。
【0041】組織欠損部を金属メッシュ、ポリマーメッ
シュなどの網で覆い、その後、アルギン酸カルシウムを
主構成成分とする細胞遮断膜で組織欠損部を覆った場合
は、網の機械的強さにより、アルギン酸カルシウムを主
構成成分とする細胞遮断膜の機械的強さが補強され、そ
の結果、(え)スペース形成能を有すること、に対する
水準が、より高い組織遮断膜を提供できる。網の代わり
に、繊維や不織布や織布、を用いて細胞遮断膜の機械的
強さを向上させ、組織再生法に用いられる細胞遮断膜の
要求特性である、(え)スペース形成能を有すること、
に対する水準を向上させることも本質的に同じである。
【0042】組織再生法に用いられる細胞遮断膜の要求
特性である、(え)スペース形成能を有すること、に対
する水準を向上させる場合に、製造されている細胞遮断
膜を、アルギン酸カルシウムを主構成成分とする細胞遮
断膜の一部として使用することも有用である。この場
合、アルギン酸カルシウムを主構成成分とする細胞遮断
膜で組織欠損部を完全に被覆する必要は必ずしもなく、
形成された細胞遮断膜を組織欠損部の形態にあわせてト
リミングし、組織欠損部に設置し、形成された細胞遮断
膜と母床組織表面をアルギン酸化合物溶液と、カルシウ
ム化合物溶液から製造され、両者の反応により形成され
るアルギン酸カルシウムを主構成成分とする細胞遮断膜
で被覆することも可能である。
【0043】次に癒着防止膜として細胞遮断膜が有用で
ある原理を説明する。外科、整形外科、形成外科、口腔
外科などの外科的手術を行った場合、創面が癒着するこ
とが極めて多い。癒着自体は細胞の遊走、増殖による切
開組織の治癒過程であるたが、所望の組織間以外の組織
間に癒着が進行することが問題である。癒着は炎症反応
の防御機構として進行する場合もあるが、一般的には組
織切開に対する修復過程で惹起される。また癒着は切開
後に進行するが、経時的にその進行の程度は減衰する。
したがって、外科的術式を行う際に、癒着を希望しない
組織間を物理的に遮断することにより癒着を防止するこ
とができる。
【0044】癒着防止膜としての細胞遮断膜に要求され
る特性としては(ア)細胞遮断性に優れること、(イ)
生体親和性に優れること、(ウ)生体内分解吸収性を示
すこと、(エ)操作性に優れること、(オ)軟性材料で
あること、を全て、あるいは、ほぼ全て、を、満足する
ことが好ましい。
【0045】癒着防止膜としての細胞遮断膜に要求され
る特性のうち、(ア)細胞遮断性に優れること、(イ)
生体親和性に優れること、(ウ)生体内分解吸収性を示
すこと、(エ)操作性に優れること、は組織再建法にお
ける細胞遮断膜における要求特性と同じであり、アルギ
ン酸カルシウムを主構成成分とする細胞遮断膜が満足す
ることは上述の通りである。さらに、完全に乾燥してい
ないアルギン酸カルシウムを主構成成分とする細胞遮断
膜はゲル状等の粘性材料であるので、(オ)軟性材料で
あること、を満たす場合が多い。
【0046】本発明の細胞遮断膜は以下に記載する方法
で製造される。
【0047】アルギン酸化合物溶液はアルギン酸化合物
を水に代表される溶媒に溶解させて製造する。アルギン
酸化合物の種類、分子量、含有量等は特に制限されず、
適応症例に応じて、適宜選択するべきものである。ま
た、2種類以上のアルギン酸化合物を混合することも可
能である。ただ、アルギン酸化合物としては、アルギン
酸あるいはアルギン酸ナトリウムが他のアルギン酸化合
物に比較して、より好ましい。また、アルギン酸化合物
の分子量に関しては低分子量のアルギン酸化合物は生体
内における吸収分解速度が大きく、同濃度のアルギン酸
化合物溶液を調整した場合において高分子量のアルギン
酸化合物溶液と比較して形成される溶液の粘度が低い。
またカルシウム化合物溶液と接触した場合に形成される
アルギン酸カルシウム膜の膜厚は薄くなり、またその機
械的強さは小さくなる。
【0048】アルギン酸化合物溶液に含有されるアルギ
ン酸化合物の濃度は制限されない。ただ、アルギン酸化
合物濃度が低い場合には、カルシウム化合物溶液と接触
した場合に形成されるアルギン酸カルシウム膜の膜厚は
薄くなり、またその機械的強さは小さくなる。一方、ア
ルギン酸化合物溶液に含有されるアルギン酸化合物の濃
度が高すぎる場合には、形成されるアルギン酸化合物溶
液の粘性が高くなりすぎ、また、カルシウム化合物溶液
と接触した場合に形成されるアルギン酸カルシウム膜の
膜厚が必要以上に厚くなる。したがって、アルギン酸化
合物の濃度としては0.01重量パーセント濃度以上で
20重量パーセント濃度以下であることが好ましく、
0.1重量パーセント濃度以上で10重量パーセント濃
度以下であることがより好ましく、0.5重量パーセン
ト濃度以上で5重量パーセント濃度以下であることが、
さらに好ましい。
【0049】アルギン酸化合物溶液はアルギン酸化合物
を水に代表される溶媒、あるいは溶液、に溶解させて調
整されるが、溶媒は水以外でもよく、また高濃度のアル
ギン酸化合物溶液の粘性を低下させる目的で、エタノー
ルなどの非水溶媒等を添加した混合溶媒の使用も可能で
ある。また生理食塩水などの溶液にアルギン酸化合物を
溶解することも可能である。
【0050】カルシウム化合物溶液はカルシウム化合物
を水に代表される溶媒、あるいは溶液、に溶解させて製
造する。カルシウム化合物の種類、含有量等は特に制限
されず、適応症例に応じて、適宜選択するべきものであ
る。また、2種類以上のカルシウム化合物を混合するこ
とも可能である。ただ、カルシウム化合物としては、塩
化カルシウムが他のアルギン酸化合物に比較して、生体
親和性の観点から、好ましい。また、カルシウム化合物
濃度が低くなると、アルギン酸化合物溶液と接触した場
合に形成されるアルギン酸カルシウム膜の膜厚は薄くな
り、またその機械的強さは小さくなる。したがって、カ
ルシウム化合物濃度としては0.1重量パーセント濃度
以上であることが好ましく、1重量パーセント濃度以上
であることがより好ましく、3重量パーセント濃度以上
であることが、さらに好ましい。
【0051】アルギン酸化合物溶液およびカルシウム化
合物溶液のpHを調整するために各種の酸や塩基、バッ
ファーを添加することも可能である。アルギン酸化合物
溶液およびカルシウム化合物溶液のpHは特に制限され
ないが、生体親和性の観点からそれぞれの溶液のpHが
2以上12以下であることが好ましく、pHが3以上1
1以下であることがより好ましく、pHが5以上9以下
であることがさらに好ましい。
【0052】アルギン酸化合物溶液あるいはカルシウム
化合物溶液に、リン酸化合物やリン酸カルシウム化合
物、あるいは薬物を含有させる場合には、アルギン酸化
合物溶液あるいはカルシウム化合物溶液に、リン酸化合
物やリン酸カルシウム化合物、あるいは薬物を溶解ある
いは懸濁させて調整する。アルギン酸化合物溶液あるい
はカルシウム化合物溶液に、含有させるリン酸化合物や
リン酸カルシウム化合物、あるいは薬物の種類や含有量
は特に限定されない。ただ、アルギン酸化合物溶液ある
いはカルシウム化合物溶液に、含有させる薬物として
は、骨組織や歯根膜など所望の組織由来の細胞の遊走、
増殖を促進する薬物であるBMP、TGF−β、FG
F、ビタミンや感染予防の抗生物質が好ましい薬物とし
て例示される。
【0053】次に図2を用いて、アルギン酸化合物溶液
と、カルシウム化合物溶液から製造され、両者の反応に
より形成されるアルギン酸カルシウムを主構成成分とす
る細胞遮断膜を組織欠損部に設置する方法を説明する。
【0054】アルギン酸カルシウムを主構成成分とする
細胞遮断膜は組織再生法の施術中に組織欠損部におい
て、あるいは事前に、アルギン酸化合物溶液と、カルシ
ウム化合物溶液を接触させて製造する。アルギン酸カル
シウムを主構成成分とする細胞遮断膜を組織再生法の施
術中に組織欠損部において製造する場合、図2(a)の
7に示すようにアルギン酸化合物溶液を組織欠損部に充
填する。その際に図2(a)に示したように、組織欠損
部のみでなく、組織欠損部近傍の母床組織表面にもアル
ギン酸化合物溶液を塗布することが、細胞遮断膜の要求
特性である(お)封鎖性に優れること、(か)母床組織
に対して付着性あるいは粘着性あるいは接着性を示すこ
と、に、対する満足度を高める観点から好ましい。組織
欠損部および組織欠損部近傍の母床組織表面にアルギン
酸化合物溶液を充填および塗布後に、カルシウム化合物
溶液を接触させると、図2(b)のようにアルギン酸化
合物溶液とカルシウム化合物溶液との界面に図2(b)
の8に示したようにアルギン酸カルシウムを主成分とす
る細胞遮断膜が形成され、さらに、形成された細胞遮断
膜は母床組織と付着性あるいは粘着性あるいは接着性を
示す。
【0055】アルギン酸カルシウムを主構成成分とする
細胞遮断膜を組織再生法の施術以前に製造する場合、単
純にアルギン酸化合物溶液と、カルシウム化合物溶液と
を接触させることにより両者の界面にアルギン酸カルシ
ウムを主構成成分とする細胞遮断膜が形成される。例え
ばバーコーダーなどでアルギン酸ナトリウム溶液を塗布
した板に塩化カルシウム溶液を塗布、噴霧などの方法で
接触すると製造できる。製造されたゲル状のアルギン酸
カルシウムを主構成成分とする細胞遮断膜はそのまま使
用することも可能であり、また赤外線乾燥機などで所望
の程度に乾燥し、使用することも可能である。
【0056】次に実施例および比較例により本発明を、
より詳しく説明する。なお、本発明は以下に記述される
実施例のみに限定されるものではない。なお、実験動物
としては7週齢の雄性ウィスター系ラット(清水実験動
物製)を用いた。本発明の細胞遮断膜の組織再生法にお
ける有用性を示す実験結果である、実施例および比較例
ではラット脛骨に幅約3mm長さ約10mmの骨欠損を
形成して組織欠損とした。同形状の骨欠損は骨組織で自
然治癒されず、骨組織欠損部は所望の組織以外の軟組織
に覆われることが公知となっており、われわれも別途動
物実験で確認している。本発明の細胞遮断膜の癒着防止
膜としての有用性を示す実験でも、7週齢の雄性ウィス
ター系ラットを用いた。なお、動物実験に使用したアル
ギン酸化合物溶液およびカルシウム化合物溶液は0.2
2ミクロンのメンブランフィルターで濾過滅菌したもの
を使用し、その後の混合、溶解、懸濁操作等は滅菌操作
で行った。
【0057】(実施例1)アルギン酸ナトリウム(ナカ
ライテスク株式会社製)を蒸留水に溶解し、1重量パー
セント濃度のアルギン酸化合物溶液を調整した。また塩
化カルシウムを蒸留水に溶解し、3重量パーセント濃度
のカルシウム化合物溶液を調整した。実験動物として用
いたラットの脛骨に幅約3mm長さ約10mmの骨欠損
をラウンドバーを用いて作製した。アルギン酸ナトリウ
ム水溶液にて当該骨欠損部を充填するとともに、骨欠損
部から約5mm以内の母床骨表面にもアルギン酸ナトリ
ウム水溶液を塗布した。その後、スポイトを用いて、塩
化カルシウム水溶液をアルギン酸ナトリウム水溶液に接
触させ、骨欠損部および当該骨欠損部から約5mm以内
の母床骨表面にもアルギン酸カルシウムを主構成成分で
ある細胞遮断膜を形成した。別途、同様な術式を行い、
形成されたアルギン酸カルシウムを主構成成分とする細
胞遮断膜を母床骨表面から剥離しようとすると、抵抗が
感じられ、アルギン酸カルシウムを主構成成分とする細
胞遮断膜は母床骨表面にある程度の力で付着あるいは粘
着あるいは接着していることがわかった。その結果、ア
ルギン酸カルシウムを主構成成分とする細胞遮断膜は、
組織再生法に用いられる細胞遮断膜に要求される特性の
うち、(お)封鎖性に優れること、(か)母床組織に対
して付着性あるいは粘着性あるいは接着性を示すこと、
を、満足する細胞遮断膜であることがわかった。また、
骨欠損部に細胞遮断膜を形成する術式は、非常に簡便で
あり、したがって、組織再生法に用いられる細胞遮断膜
に要求される特性のうち、(き)操作性に優れること、
を、満足する細胞遮断膜であることがわかった。また、
該細胞遮断膜を切開すると、骨欠損部内部には未反応の
アルギン酸ナトリウム溶液と思われる液体と血液が混合
された状態であり、アルギン酸化合物溶液とカルシウム
化合物溶液との接触により膜が形成されていること、ま
た、その結果、組織再生法に用いられる細胞遮断膜に要
求される特性のうち、(え)スペース形成能を有するこ
と、を、満足する細胞遮断膜であることがわかった。骨
欠損部および骨欠損部から約5mm以内の母床骨表面に
アルギン酸カルシウムを主構成成分とする細胞遮断膜を
上述の術式で設置後、切開組織を縫合し、感染予防の目
的で抗生物質を実験動物に投与した。組織再生法を施術
して3週間後に、細胞遮断膜および骨欠損部を周囲組織
と一塊に摘出し、通法にしたがって、固定、脱灰し、組
織標本を作製した。作製された組織標本を光学顕微鏡で
観察すると、細胞遮断膜の内面に沿って骨が新生されて
いることがわかった。しかし、この段階では骨欠損は完
全には新生骨で封鎖されていなかった。なお、骨欠損部
内部において軟組織の増殖は認められなかった。組織再
生法を施術して6週間後に、細胞遮断膜および骨欠損部
を周囲組織と一塊に摘出し、通法にしたがって、固定、
脱灰し、組織標本を作製した。作製された組織標本を光
学顕微鏡で観察すると、骨欠損部は完全に新生骨により
覆われていた。アルギン酸カルシウムを主構成成分とす
る細胞遮断膜はかなりの部分が分解あるいは吸収されて
おり、当該膜は経時的に生体内で分解吸収性を示すこと
がわかった。また、実験期間中に著明な炎症性所見は認
められなかった。これらの結果から、アルギン酸カルシ
ウムを主構成成分とする細胞遮断膜は、組織再生法に用
いられる細胞遮断膜に要求される特性のうち、(あ)細
胞遮断性に優れること、(い)生体親和性に優れるこ
と、(う)生体内分解吸収性を示すこと、(え)スペー
ス形成能を有すること、を、満たす細胞遮断膜であるこ
とがわかった。しかし、骨欠損部内部に再生された骨組
織が、単純に上皮および結合性組織由来の細胞の遮断に
よって再生されたのか、アルギン酸カルシウム膜が骨組
織由来の細胞の遊走、増殖速度を促進したのかは判断で
きなかった。従って、(く)所望の組織由来の細胞の遊
走、増殖速度を促進すること、に関する判定は不可能で
あった。したがって、アルギン酸カルシウムを主構成成
分とする細胞遮断膜は、組織再生法に用いられる細胞遮
断膜に要求される特性のうち、少なくとも(あ)〜
(か)、すなわち、ほぼ全て、を満たす細胞遮断膜であ
ることがわかった。
【0058】(比較例1)実施例1の効果を明らかにす
るために、比較例として、実験動物に形成した骨欠損部
に本発明の範囲を外れており、現在臨床応用されている
非生体吸収分解性のゴアテックス膜を用いて組織再生法
を施術した。ゴアテックス膜は母床骨に対して付着性、
粘着性、接着性のいずれも示さないため、ゴアテックス
膜を固定用微小チタンスクリューで固定した。しかし、
固定操作は煩雑であり、三次元形態を示す骨欠損を、二
次元のゴアテックス膜により封鎖する術式は困難であ
り、また封鎖後も微少ではあるが、母床骨とゴアテック
ス膜の間に隙間が観察される部位があった。したがっ
て、ゴアテックス膜は、(お)封鎖性に優れること、
(か)母床組織に対して付着性あるいは粘着性あるいは
接着性を示すこと、も、(き)操作性に優れること、も
満足しない細胞遮断膜であることがわかった。ゴアテッ
クス膜を用いて組織再生法を施術し、3週間後に摘出し
た組織を組織学的に観察すると、細胞遮断膜の内面に沿
って骨が新生されていることがわかった。しかし、この
段階では骨欠損は完全には新生骨で封鎖されていなかっ
た。なお、新生骨の形成状態は実施例1の細胞遮断膜を
用いた場合とほぼ同様であった。組織再生法施術6週間
後には骨欠損部がほぼ完全に新生骨で覆われていた。ゴ
アテックス膜は全く、吸収分解を受けていなかった。ま
た、実験期間中に著明な炎症性所見は認められなかっ
た。また、ゴアテックス膜には骨組織骨組織由来の細胞
の遊走、増殖速度を促進する効果は知られていないの
で、(く)所望の組織由来の細胞の遊走、増殖速度を促
進すること、は起こっていないと判断された。これらの
結果から、ゴアテックス膜は、組織再生法に用いられる
細胞遮断膜に要求される特性のうち、(あ)細胞遮断性
に優れること、(い)生体親和性に優れること、(え)
スペース形成能を有すること、を、満たす細胞遮断膜で
あることが、(う)生体内分解吸収性を示すこと、
(く)所望の組織の遊走、増殖速度を促進すること、は
満足しない細胞遮断膜であることがわかった。
【0059】(実施例2)実施例1で用いたアルギン酸
ナトリウムをバーコーダーを用いてガラス板に塗布し
た。その後、実施例1で用いた塩化カルシウム溶液を噴
霧し、アルギン酸カルシウムを主成分とする細胞遮断膜
を製造した。該細胞遮断膜をガラス板より剥離し、実験
動物に形成した骨欠損形態に併せてトリミングを行い、
骨欠損部に設置した。該細胞遮断膜はゲル状膜であり、
そのため、骨と付着したが、実施例1において認められ
た細胞遮断膜を母床骨表面から剥離しようとする際の抵
抗はほとんど感じられなかった。また、骨欠損内が血液
で満たされていない場合には細胞遮断膜がやや、骨内方
法へ陥没する傾向が認められた。組織再生法施術4週後
の組織観察によると、骨欠損部はほぼ新生骨により覆わ
れていたが骨欠損部の中央部分に相当するの部位がやや
骨内方法へ陥没する傾向が認められた。これらの所見以
外は実施例1で得られた所見とほぼ同様の所見が得られ
た。したがって、本実施例の細胞遮断膜は、組織再生法
に用いられる細胞遮断膜の要求特性である(あ)細胞遮
断性に優れること、(い)生体親和性に優れること、
(う)生体内分解吸収性を示すこと、(え)スペース形
成能を有すること、(お)封鎖性に優れること、(か)
母床組織に対して付着性あるいは粘着性あるいは接着性
を示すこと、(き)操作性に優れること、(く)所望の
組織の遊走、増殖速度を促進すること、のうち、
(え)、(き)については実施例1の細胞遮断膜よりそ
の満足度は低いものの、基本的には(あ)〜(き)、す
なわち、組織再生法に用いられる細胞遮断膜の要求特性
の、ほぼ全て、を満足する臨床応用上有用な細胞遮断膜
であることがわかった。
【0060】(実施例3)アルギン酸ナトリウムをリン
酸水素二ナトリウム(ナカライテスク株式会社製)の
0.5モル濃度水溶液に溶解し、アルギン酸化合物濃度
として1重量パーセント濃度のリン酸化合物を含有する
アルギン酸化合物溶液を調整した。また塩化カルシウム
を蒸留水に溶解し、3重量パーセント濃度のカルシウム
化合物溶液を調整した。リン酸水素二ナトリウムを含む
アルギン酸ナトリウム水溶液をガラス板にバーコーダー
を用いて塗布し、その後、塩化カルシウム水溶液を噴霧
し、アルギン酸カルシウムを主成分とする細胞遮断膜を
調整した。同細胞遮断膜に含有される成分を分析するた
め、同細胞遮断膜を粉末X線回折用ガラス板に付着さ
せ、粉末X線回折装置により分析をおこなったが、ブロ
ードなピークが観測されるのみで、結晶相は認められな
かった。そこで、アルギン酸カルシウムを主成分とする
細胞遮断膜を電気炉を用いて900度に加熱し、粉末X
線回折装置により分析した。その結果、アパタイトおよ
びリン酸三カルシウム由来のピークが検出された。した
がって、アルギン酸カルシウムを主成分とする細胞遮断
膜に非晶質のリン酸カルシウムが含有されていることが
わかった。実施例1のアルギン酸ナトリウム水溶液の変
わりに、リン酸水素二ナトリウムを含むアルギン酸ナト
リウム水溶液を用いた以外は実施例1と同様に組織再生
法を実験動物に施術した。組織再生法施術3週間後には
実施例1と比較してより、多量の新生骨が骨欠損部に認
められた。新生骨は組織再生膜表面にも観察された。す
なわち、リン酸カルシウムを含有するアルギン酸カルシ
ウムを主構成成分とする組織遮断膜は、組織再生法に用
いられる細胞遮断膜の要求特性である、(く)所望の組
織由来の細胞の遊走、増殖を促進すること、を満足する
細胞遮断膜であることがわかった。上述の所見以外は実
施例1で得られた所見とほぼ同様の所見が得られた。し
たがって、本実施例の細胞遮断膜は、組織再生法に用い
られる細胞遮断膜の要求特性である(あ)〜(く)の、
全て、を満足する細胞遮断膜であることがわかった。
【0061】(実施例4)実施例1で用いたアルギン酸
ナトリウム水溶液にアルギン酸ナトリウム10ccに対
してアパタイト粉末(太平化学社製)0.5gの割合で
混合し、リン酸カルシウム化合物が懸濁したアルギン酸
化合物を調整した。実施例1のアルギン酸ナトリウム水
溶液の変わりに、アパタイトを懸濁したアルギン酸ナト
リウム水溶液を用いた以外は実施例1と同様に組織再生
法を実験動物に施術した。組織再生法施術3週間後には
実施例1と比較してより、多量の新生骨が骨欠損部に認
められた。新生骨は組織再生膜表面にも観察された。す
なわち、リン酸カルシウム化合物が懸濁したアルギン酸
化合物溶液から製造されるアルギン酸カルシウムを主構
成成分とする組織遮断膜は、組織再生法に用いられる細
胞遮断膜の要求特性である、(く)所望の組織由来の細
胞の遊走、増殖を促進すること、を満足する細胞遮断膜
であることがわかった。しかし、細胞遮断膜で覆われた
骨欠損内部には異物巨細胞が観察され、リン酸カルシウ
ム粉末を貪食している所見が観察された。したがって、
やや生体親和性を阻害していることがわかった。組織欠
損部組織再生法施術6週間後には骨欠損部は完全に新生
骨により覆われていた。アルギン酸カルシウムを主構成
成分とする細胞遮断膜はかなりの部分が分解あるいは吸
収されていたが、リン酸カルシウム粉末は残存してお
り、吸収されていなかった。おり、当該膜は経時的に生
体内で分解吸収性を示すことがわかった。上述の所見以
外は実施例1で得られた所見とほぼ同様の所見が得られ
た。したがって、本実施例の細胞遮断膜は、組織再生法
に用いられる細胞遮断膜の要求特性である(あ)〜
(く)のうち、(い)生体親和性に優れること、(う)
生体内分解吸収性を示すこと、に対する満足度が実施例
1で用いた細胞遮断膜よりやや劣るが、基本的には組織
再生法に用いられる細胞遮断膜の要求特性である(あ)
〜(く)の、全て、を満足する細胞遮断膜であることが
わかった。
【0062】(実施例5)実施例1で用いたアルギン酸
ナトリウム水溶液にBMPを混合し、薬物を含有したア
ルギン酸化合物を調整した。実施例1のアルギン酸ナト
リウム水溶液の変わりに、BMPを混合したアルギン酸
ナトリウム水溶液を用いた以外は実施例1と同様に組織
再生法を実験動物に施術した。組織再生法施術3週間後
には実施例1と比較して、より多量の、実施例3、実施
例4と比較しても、多量の新生骨が骨欠損部に認められ
た。新生骨は組織再生膜表面にも観察された。すなわ
ち、BMPを混合したアルギン酸化合物溶液から製造さ
れるアルギン酸カルシウムを主構成成分とする組織遮断
膜は、組織再生法に用いられる細胞遮断膜の要求特性で
ある、(く)所望の組織由来の細胞の遊走、増殖を促進
すること、を満足する細胞遮断膜であることがわかっ
た。上述の所見以外は実施例1で得られた所見とほぼ同
様の所見が得られた。したがって、本実施例の細胞遮断
膜は、組織再生法に用いられる細胞遮断膜の要求特性で
ある(あ)〜(く)の、全て、を満足する細胞遮断膜で
あることがわかった。
【0063】(実施例6)実験動物に形成した骨欠損部
に実施例1のアルギン酸ナトリウム水溶液を充填すると
ともに、骨欠損部から約5mm以内の母床骨表面にもア
ルギン酸ナトリウム水溶液を塗布した。その後、形成さ
れた組織遮断膜であるゴアテックス膜を、実験動物の骨
欠損部形態に併せてトリミングし、骨欠損部に設置し
た。通常のゴアテックス膜を用いた組織再生法で行われ
るスクリューなどによりゴアテックス膜の固定は行わな
かった。次いで、ゴアテックス膜全体がアルギン酸ナト
リウム水溶液で囲まれるように、さらに、アルギン酸ナ
トリウム水溶液を塗布した。その後、実施例1と同様に
スポイトを用いて、塩化カルシウム水溶液をアルギン酸
ナトリウム水溶液に接触させ、骨欠損部および当該骨欠
損部から約5mm以内の母床骨表面にもアルギン酸カル
シウムを主構成成分である細胞遮断膜を形成した。別
途、同様な術式を行い、形成されたアルギン酸カルシウ
ムを主構成成分とする細胞遮断膜を母床骨表面から剥離
しようとすると、抵抗が感じられ、アルギン酸カルシウ
ムを主構成成分とする細胞遮断膜は母床骨表面にある程
度の力で付着あるいは粘着あるいは接着していることが
わかった。また、ゴアテックス膜はアルギン酸カルシウ
ムを主構成成分とする細胞遮断膜に覆われていた。組織
遮断膜の骨欠損部中央に相当する部分に、骨の中心方向
への応力をかけた場合、実施例1の場合と比較して、よ
り大きな抵抗力が感じられた。その強さは比較例1と同
程度であった。したがって、当該組織遮断膜は、(え)
スペース形成能を有すること、を高度に満足する組織遮
断膜であることがわかった。組織再生法施術後6週間後
において、本実施例の組織遮断膜の主構成成分であるア
ルギン酸カルシウムは、かなり分解あるいは吸収されて
いたが、ゴアテックス膜の部分は全く分解吸収を受けて
いなかった。したがって、組織再生法に用いられる細胞
遮断膜の要求特性である、(う)生体内分解吸収性を示
すこと、は満足しない細胞遮断膜であることがわかっ
た。また、ゴアテックス膜の形態を骨欠損部の形態に併
せてトリミングを行う必要があるため、組織再生法に用
いられる細胞遮断膜の要求特性である、(う)操作性に
優れること、に関しては実施例1の細胞遮断膜と比較し
て満足度がやや低い細胞遮断膜であることがわかった。
上述の所見以外は実施例1で得られた所見とほぼ同様の
所見が得られた。したがって、本実施例の細胞遮断膜
は、組織再生法に用いられる細胞遮断膜の要求特性であ
る(あ)、(い)、(え)〜(き)、すなわち、ほぼ全
て、を満足する細胞遮断膜であることがわかった。
【0064】(実施例7)アルギン酸ナトリウムを蒸留
水に溶解し、2重量パーセント濃度のアルギン酸化合物
溶液を調整した以外は実施例1と同様な実験を行った。
形成されたアルギン酸カルシウム膜を主構成成分とする
細胞遮断膜を母床骨表面から剥離しようとする時の抵抗
は実施例1のそれより大きかった。一方、組織再建法施
術3週後および6週後の新生骨量は実施例1のそれに比
較して少なかった。また組織再建法施術6週後における
アルギン酸カルシウム膜の分解あるいは吸収が実施例1
より少なかった。
【0065】(実施例8)アルギン酸カリウムを蒸留水
に溶解し、1重量パーセント濃度のアルギン酸化合物溶
液を調整した以外は実施例1と同様な実験を行った。ナ
トリウムイオンをカリウムイオンに置換した影響は認め
られず、実施例1と同様な結果が得られた。
【0066】(実施例9)アルギン酸カルシウムを主構
成成分とする細胞遮断膜の癒着防止膜としての有用性を
検討するために、ラット腹部を開腹し、小腸の一部を外
に取り出した。小腸に適度の機械刺激を与え、その後小
腸の一部の表面に実施例1で調整したアルギン酸ナトリ
ウム溶液を塗布し、実施例1の塩化カルシウム水溶液を
噴霧塗布した。小腸表面の一部にはゲル状で軟性のアル
ギン酸カルシウム膜が簡便に形成された。小腸を腹腔内
にもどし、上皮組織を縫合した。術後12週目に摘出し
た組織を組織学的に観察すると、アルギン酸カルシウム
を主構成成分とする細胞遮断膜を形成した小腸は隣接す
る小腸と癒着していなかった。また、アルギン酸カルシ
ウム膜はかなりの部分が分解あるいは吸収されていた。
またアルギン酸カルシウムによる炎症反応は認められな
かった。
【0067】(比較例2)実施例9の効果を明らかにす
るために、比較例としてアルギン酸ナトリウム溶液の変
わりに本発明の範囲を外れている生理的食塩水を用いた
以外は実施例9と同様の動物実験をおこなった。術後1
2週目に摘出した組織を組織学的に観察すると、小腸の
一部に隣接する小腸と癒着している所見が得られた。
【0068】
【発明の効果】本発明の細胞遮断膜は、アルギン酸化合
物溶液と、カルシウム化合物溶液から製造され、両者の
反応により形成されるアルギン酸カルシウムを主構成成
分とする細胞遮断膜、である。本発明で製造される細胞
遮断膜は、組織再生法に用いられる細胞遮断膜の要求特
性である(あ)細胞遮断性に優れること、(い)生体親
和性に優れること、(う)生体内分解吸収性を示すこ
と、(え)スペース形成能を有すること、(お)封鎖性
に優れること、(か)母床組織に対して付着性あるいは
粘着性あるいは接着性を示すこと、(き)操作性に優れ
ること、(く)所望の組織由来の細胞の遊走、増殖を促
進すること、の全て、あるいは、ほぼ全て、を満足する
臨床応用上有用な細胞遮断膜であり、組織再生法の臨床
応用に適する細胞遮断膜を提供することができる。ま
た、外科的手術でおこる癒着を防止する癒着防止膜を提
供することができる。
【0069】
【図面の簡単な説明】
【図1】組織欠損部と設置される細胞遮断膜の断面図で
ある。
【図2】アルギン酸ナトリウム水溶液と塩化カルシウム
水溶液を用いてアルギン酸カルシウムを主構成成分とす
る組織遮断膜を製造する概念図である。
【符号の説明】
1 細胞遮断膜 2 母床組織表面 3 母床組織 4 組織欠損部 5 組織欠損部創面 6 カルシウム化合物溶液 7 アルギン酸化合物溶液 8 アルギン酸カルシウム膜

Claims (4)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 アルギン酸カルシウムを主構成成分とす
    る細胞遮断膜。
  2. 【請求項2】 アルギン酸カルシウムがリン酸カルシウ
    ムを含有することを特徴とする請求項1記載の細胞遮断
    膜。
  3. 【請求項3】 アルギン酸カルシウムが薬物を含有して
    いることを特徴とする請求項1、あるいは請求項2記載
    の細胞遮断膜。
  4. 【請求項4】 形成された細胞遮断膜、繊維、網、不繊
    布から選ばれる少なくとも一つを、その構成成分の一部
    として用いることを特徴とする請求項1、請求項2ある
    いは請求項3記載の細胞遮断膜。
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