JPH1122686A - 冷媒圧縮機 - Google Patents

Abstract

(57)【要約】 【課題】 ＨＦＣ冷媒用の冷媒圧縮機において、動力を
与えるクランクシャフトにダクタイル鋳鉄、およびクラ
ンクシャフトの回転を支持する鉄系焼結軸受け材の組み
合わせで、耐摩耗性に優れた材料を提供する。 【解決手段】 耐摩耗性に優れたクランクシャフトを提
供するために、適用材料であるダクタイル鋳鉄の基地中
のフェライト面積率を２０％以下にし、摺動性と潤滑性
を確保する球状黒鉛の大きさを３０μｍ以上とし、クラ
ンクシャフトの回転を支持する上下軸受けに適用する鉄
系焼結材を、基地中にニッケル（Ｎｉ），モリブデン
（Ｍｏ）の硬質相を分散させ、またはスチーム処理後の
オイル含浸をさせ焼結基地組織内の不純物を残さないよ
うにし、耐焼付き性を高めた材料とした部品で構成され
たことを特徴とする冷媒圧縮機。

Description

【発明の詳細な説明】

【０００１】

【発明の属する技術分野】本発明は主として業務用及び
家庭用の冷凍空調に使用されるＨＦＣ代替冷媒用の冷媒
圧縮機に関するものである。

【０００２】

【従来の技術】従来の冷媒圧縮機として代表的な例はロ
ータリ圧縮機であり、これを図４に縦断面図、図５にメ
カ構造部の横断面図を示す。圧縮機は密閉容器１１１の
内部に電動機部１０９と圧縮機構部１１３を収納してい
る。前記圧縮機構部１１３はよく知られているように、
上軸受け１０２と下軸受け１０３に支持され、電動機部
１０９によって動力を伝えられ回転するクランクシャフ
ト１０１により前記シリンダ１０５内で偏心して回転す
るローラ１０４と、前記シリンダ１０５に半径方向に形
成されたベーン溝１１０に先端部を上部ローラ１０４の
外周面に摺接させたベーン１０６が摺動自在に設けられ
ており、これらの構成部品がフロンガス等の冷媒ガスを
溶解させた冷凍機油の潤滑により、冷媒ガスの圧縮動作
をする。

【０００３】従来冷媒としてＣＦＣ１２冷媒（Ｒ１２冷
媒）またはＨＣＦ２２（Ｒ２２冷媒が用いられてきた。
これらの冷媒中には塩素（Ｃｌ）が含まれるため、部品
基材である鉄（Ｆｅ）と反応して塩化鉄となり、これが
潤滑性を有するため金属間の接触に対して優れた摺動性
を発揮する。

【０００４】しかし、前記Ｒ１２冷媒及びＲ２２冷媒は
オゾンを破壊したり、オゾンを破壊する効果があるた
め、国際的に将来は使用しないことが決定しており、オ
ゾンを破壊しないＨＦＣ（ハイドロフルオロカーボン）
の開発が急務である。

【０００５】

【発明が解決しようとする課題】前記従来冷媒圧縮機の
構成部品では適正な潤滑条件及び対磨耗性が要求される
場合、クランクシャフト１０１及び上下軸受け１０２，
１０３に普通鋳鉄または普通鋳鉄に若干の合金を添加し
たネズミ鋳鉄品を用いるのが一般的であった。

【０００６】しかしながらＨＦＣ代替冷媒における圧縮
機では、現行冷媒より高負荷条件になり、高速高負荷や
急速始動運転などの苛酷な運転条件下では、普通鋳鉄の
クランクシャフトにおいては剛性が不足するため、クラ
ンクシャフトに回転駆動を伝えるロータとステータとの
間隙を一定にたもつことが困難でロータとステータとの
間で摺接し、ギャップ音を発生する状況にある。従って
クランクシャフト材料自体の剛性が要求される。

【０００７】そのためＨＦＣ代替冷媒用の冷媒圧縮機に
おけるクランクシャフトはより剛性の高いダクタイル鋳
鉄が望ましい。また軸受けはバルブ等を配するため複雑
な形状となるので鉄焼結品が望ましい。

【０００８】上記ダクタイル鋳鉄の代表的な組織を図６
に示す。基地はフェライト１２１及びパーライト１２２
となっている。ダクタイル鋳鉄は黒鉛が球状化すなわち
球状黒鉛１２３となっており、一般にはフェライト１２
１に囲まれるように上記球状黒鉛２３が分散した、いわ
ゆるブルスアイ１２４（牛の目）と称される形態で晶出
している。

【０００９】このような代替冷媒ＨＦＣでは冷媒中に塩
素（Ｃｌ）を含まないため塩化鉄による潤滑作用がな
い。代替冷媒ＨＦＣ冷媒条件下での圧縮機の運転で、ク
ランクシャフトにダクタイル鋳鉄を使用すると、ダクタ
イル鋳鉄クランクシャフト基地中のフェライトの量が多
いと相手軸受け材との摺接により、ダクタイル鋳鉄の表
面層のフェライト２５が球状黒鉛２６にかえり２７状と
なって覆い被さり、相手材に凝着し摩耗の起点となり、
冷媒圧縮機の性能と信頼性を著しく低下させる。従来冷
媒においては、冷媒中の塩素がこの凝着を防ぐ作用をし
ていたが、ＨＦＣ冷媒においてはそのような作用がない
ので摩耗が激しくなる。本発明はこのような課題を解決
するためになされたものである。

【００１０】

【課題を解決するための手段】上記課題を解決するため
に本発明は、ＨＦＣを冷媒とする冷媒圧縮機において、
クランクシャフトにダクタイル鋳鉄、及び軸受けに鉄焼
結品を使用し、前記ダクタイル鋳鉄の基地組織を構成す
るフェライトの面積率を２０％以下としたものである。

【００１１】またダクタイル鋳鉄の基地中に分散してい
る球状黒鉛の粒径を３０μｍ以上としたものである。

【００１２】一方鉄焼結品である軸受け材の基地中にニ
ッケル（Ｎｉ），モリブデン（Ｍｏ）の硬質層を分散さ
せたものを使用し、またはスチーム処理後オイルを真空
含浸させたものである。

【００１３】このようにダクタイル鋳鉄の基地中のフェ
ライト面積率を低く押さえたものは、運転初期における
フェライトのかえりが押さえられ焼き付きの発生が押さ
えられる。

【００１４】また球状黒鉛の粒径を大きくしたものは、
黒鉛のもつ潤滑性、含油性が活かされ優れた耐摩耗性を
示す。

【００１５】さらに、基地中に硬質層を分散させた鉄焼
結の軸受けでは、運転初期に発生しやすいダクタイル鋳
鉄表面のフェライトのかえりを除去する効果があるので
結果として摩擦摩耗を低減させることができる。

【００１６】またスチーム処理後オイルを真空含浸させ
た鉄焼結の軸受けでは、焼結材の基地中の不純物のにじ
み出しが押さえられることにより摺動面の焼き付き防止
となる。

【００１７】

【発明の実施の形態】請求項１に記載の発明は、ＨＦＣ
を冷媒とする冷媒圧縮機においてクランクシャフトのダ
クタイル鋳鉄の基地組織を構成するフェライトの面積率
を２０％以下にするものである。クランクシャフトに用
いられるダクタイル鋳鉄の基地中のフェライト面積率が
高いと、冷媒圧縮機の運転初期段階での摺動によりダク
タイル鋳鉄の表面のフェライトがかえりとなりまたはバ
リとなって表面に開口している球状黒鉛に覆いかぶさ
り、焼き付きの要因となることから、フェライト面積率
を２０％以下にすることにより圧縮機の運転中の摩耗を
低減させた。

【００１８】請求項２に記載の発明は、クランクシャフ
トのダクタイル鋳鉄の基地中に分散している球状黒鉛の
粒径を３０μｍ以上としたものである。ダクタイル鋳鉄
の球状黒鉛が本来有する特性である摺動性及び含油性を
高めるために、ダクタイル鋳鉄基地中の球状黒鉛の粒径
を大きくする方が効果が高いため、黒鉛粒径を３０μｍ
以上にすることにより、耐摩耗性を向上させたものであ
る。

【００１９】請求項３に記載の発明は、クランクシャフ
トの回転を支持する鉄焼結の軸受けとして基地中にニッ
ケル（Ｎｉ）、モリブデン（Ｍｏ）の硬質層を分散させ
たものである。この硬質層により、冷媒圧縮機の運転初
期に発生するダクタイル鋳鉄性クランクシャフトの表面
のフェライトのかえりを除去し、結果として摩擦摩耗を
低減させたものである。

【００２０】請求項４に記載の発明は、クランクシャフ
トの回転を支持する焼結品である軸受け材を、スチーム
処理後オイル含浸させ、焼結基地組織内の不純物を残さ
ないようにし、摺動部に焼結品組織内の不純物がにじみ
出し、摺動面が焼き付くことを防止するものである。

【００２１】請求項５に記載の発明は、ＨＦＣ冷媒とし
てＲ４１０Ａ冷媒を使用した上記請求項１から４までの
冷媒圧縮機で、Ｒ４１０Ａは圧力が高いため特に効果が
顕著である。

【００２２】

【実施例】以下、本発明の実施例について説明する。

【００２３】図１及び図２は、本発明における実施例の
冷媒圧縮機の縦断面図，メカ機構部の横断面図である。

【００２４】よく知られているように冷媒圧縮機は、密
閉容器１１の内部電動機部９と圧縮機構部１３が配され
ており、前記圧縮機構部は電動機９によって動力を伝達
されるクランクシャフト８の回転によってローラ４が偏
心回転し、シリンダ５内半径方向に形成された貫通溝１
０に出没可能に挿入され前記ローラ４と摺接するベーン
６を備えたもので、またクランクシャフト８の回転を指
示する上軸受けから構成されている。

【００２５】クランクシャフト８及び軸受け（２，
３）、苛酷な摺動条件下にあり、特に代替冷媒としてＨ
ＦＣ冷媒を使用した冷媒圧縮機では、現行冷媒より高負
荷条件となるため、クランクシャフト８に要求される特
性として材料自体の剛性が必要となりダクタイル鋳鉄を
選定する必要となる。またクランクシャフト８の回転を
支持し摺動する上下軸受け（２，３）についてもバルブ
等を配するため複雑な形状となるので従来の鋳鉄品から
鉄系焼結品を選定する。

【００２６】本発明のダクタイル鋳鉄の組織を図３に示
すように、基地はフェライト２１及びパーライト２２か
らなっており、黒鉛は球状化すなわち球状黒鉛２４とな
っており、一般にはフェライト２１に囲まれるように球
状黒鉛２４が分散するいわゆるブルスアイ２４（牛の
目）と称される形態で晶出する。

【００２７】また基地組織の硬さは、パーライト２２が
ビッカーズ硬さ（Ｈｖ）で約２８０〜３２０で硬質相で
耐摩耗性があるが、フェライト２１は約１２０〜２００
と軟質である。

【００２８】クランクシャフトにおけるダクタイル鋳鉄
の表面層のフェライト相が運転の初期段階で球状黒鉛に
かえりとして覆い被さるのを防止するために、ダクタイ
ル中のフェライト面積率を組織視野内に占める面積率を
可能な限り低く押さえる必要がある。

【００２９】フェライト面積率は下記のように定義さ
れ、本発明ではその面積率が２０％以下に押さえられて
いる。

【００３０】

【数１】

【００３１】本発明によりＨＦＣ冷媒において耐摩耗性
が悪化する条件下でもフェライト面積率を押さえること
により、運転初期におけるフェライトのバリ及びかえり
の発生を最小限にしたものである。

【００３２】またダクタイル鋳鉄の球状黒鉛が本来有す
る特性である摺動性及び含油性を高めるためには、同一
基地組織であるダクタイル鋳鉄の場合、黒鉛の粒径は大
きくした方が効果が高いという結果により、黒鉛粒径は
３０μｍ以上とした。

【００３３】さらにクランクシャフトと摺接する軸受け
材についても、上記ダクタイル鋳鉄の特性を十分考慮し
た材料選定をすることによって、耐摩耗性を向上するた
め種々の組織改質を実施する必要があるため、軸受け材
である鉄系焼結部品の基地組織を、ニッケル（Ｎｉ）及
びモリブデン（Ｍｏ）炭化物の硬質相を分散させたもの
である。冷媒圧縮機の運転初期において作用するダクタ
イル鋳鉄製クランクシャフトの表面のフェライトのかえ
りを、本発明の硬質相を分散させた焼結品を適用するこ
とによって、焼き付きの原因となるフェライトのかえり
の要因を除去する。ダクタイル鋳鉄表面のフェライトの
かえり発生は圧縮機の運転初期段階で発生するもので、
この段階で焼結材の基地中の硬質分散相でかえりを除去
すると以降の運転では、摩擦摩耗の原因となるフェライ
トのかえりは発生しないため、圧縮機の運転の信頼性が
向上する。

【００３４】さらにダクタイル鋳鉄製クランクシャフト
を支持する軸受けに、スチーム処理の後オイル真空含浸
を施し、焼結基地組織内に不純物を残さないようにし、
運転中において摺動部に焼結材基地中の不純物がにじみ
出さないようにすることにより耐焼き付き性を改善した
ものである。

【００３５】ダクタイル鋳鉄のフェライト相はこのよう
な特性を有していることから、クランクシャフトの加工
時における研削及び研磨工程で発生する上記フェライト
のミクロ的なかえりがクランクシャフトの回転に対して
順目になるように注意する必要がある。さらに上記効果
を高めるために、クランクシャフトの規定の荒さを確保
するために、順目方向に研磨（ラップ）を施すことも必
要となる場合がある。

【００３６】すなわち、ダクタイル鋳鉄製クランクシャ
フトの適用において最も注意しなければならないこと
は、基地中のフェライト相が多く存在する場合は、上記
圧縮機の回転方向に対して順目となるよう研削、研磨を
施しても、クランクシャフト表面のフェライトが、同様
に表面に点在開口する球状黒鉛に薄い層となって覆い被
さり、これが運転の初期段階でバリの作用を引き起こ
し、相手軸受け材に凝着し、摩擦摩耗を発生させること
があることが判明した。

【００３７】以上ロータリ圧縮機について説明したが、
同様な作用及び効果はスクロール圧縮機についてもいえ
る。

【００３８】

【発明の効果】クランクシャフトにダクタイル鋳鉄を使
用する上記冷媒圧縮機において、ダクタイル鋳鉄の基地
組織及び相手材として焼結鉄品を適用する場合、上記の
材料の組み合わせで、耐摩耗性及び信頼性に優れたロー
タリ圧縮機が実現できる。

【００３９】上記実施例から明らかなように、請求項１
記載の発明によれば、ダクタイル鋳鉄のクランクシャフ
トの基地中のフェライト面積率を２０％以下としたもの
で、圧縮機の運転初期における摺動によるダクタイル鋳
鉄表面部のフェライトのかえりが押さえられ、焼き付き
摩耗が押さえられる。

【００４０】請求項２に記載の発明は、ダクタイル鋳鉄
のクランクシャフトの基地に分散している球状黒鉛の粒
径を３０μｍ以上とするものである。従って黒鉛が本来
有する摺動性または含油性が活かされ焼き付きが押さえ
られる。

【００４１】請求項３に記載の発明は、軸受けに使用さ
れる鉄焼結品の基地中にニッケル（Ｎｉ），モリブデン
（Ｍｏ）の硬質層を分散させたもので、このことにより
圧縮機の初期運転の摺動によって発生するダクタイル鋳
鉄のクランクシャフト表面のフェライトのかえりを除去
するものであり、以降の運転の信頼性を高めるものであ
る。

【００４２】請求項４に記載の発明は、焼結品である軸
受けをスチーム処理後真空含浸し、焼結基地内に不純物
を残さないようにしたものである。したがって運転中に
摺動面への焼結品基地内からの不純物のにじみ出しがな
く、圧縮機メカ機構部の耐摩耗性及び信頼性が高まる。

【００４３】以上クランクシャフトにダクタイル鋳鉄及
び軸受けに焼結品を使用する冷媒圧縮機において、上記
の材料の組み合わせで、耐摩耗及び信頼性の優れた冷媒
圧縮機が実現できる。

【図面の簡単な説明】

【図１】本発明の冷媒圧縮機の縦断面図

【図２】本発明の冷媒圧縮機のメカ構造部の横断面図

【図３】本発明のダクタイル鋳鉄の組織説明図

【図４】本発明の冷媒圧縮機として代表的なロータリ圧
縮機の縦断面図

【図５】本発明の冷媒圧縮機として代表的なロータリ圧
縮機のメカ構造部の横断面図

【図６】（ａ）は一般的なダクタイル鋳鉄の組織説明図 （ｂ）は同説明図

【符号の説明】

１ クランクシャフト ２ 上軸受け ３ 下軸受け ４ ローラ ５ シリンダ ６ ベーン ７ ローラ ８ ステータ ９ 電動機部 １０ ベーン溝 ２１ フェライト ２２ パーライト ２３ 球状黒鉛 ２４ ブルスアイ ２５ フェライト層 ２６ 球状黒鉛

Claims (5)

【特許請求の範囲】
1. 【請求項１】ＨＦＣを冷媒とする冷媒圧縮機において、
   動力を与えるクランクシャフトにダクタイル鋳鉄（球状
   黒鉛鋳鉄）、及びクランクシャフトの回転を支持する軸
   受けに鉄系焼結鉄を使用し、前記クランクシャフトのダ
   クタイル鋳鉄の基地組織を構成するフェライトの面積率
   を２０％以下とした冷媒圧縮機。
2. 【請求項２】クランクシャフトのダクタイル鋳鉄の基地
   中に分散している球状黒鉛の粒径を３０μｍ以上とした
   請求項１記載の冷媒圧縮機。
3. 【請求項３】クランクシャフトの回転を支持する軸受け
   として基地中にニッケル（Ｎｉ），モリブデン（Ｍｏ）
   の硬質相を分散させた鉄系焼結品を使用する請求項１ま
   たは２記載の冷媒圧縮機。
4. 【請求項４】クランクシャフトの回転を支持する軸受け
   を、スチーム処理の後オイルを真空含浸をさせ、焼結基
   地組織内の不純物を残さないようにした請求項１または
   ２記載の冷媒圧縮機。
5. 【請求項５】ＨＦＣ冷媒としてＲ４１０Ａ冷媒を使用す
   る請求項１から４いずれかに記載の冷媒圧縮機。