JPH11172320A - 製鋼用電気炉又は製鋼用電気炉と取鍋アーク精錬装置との組合せにおけるスラグ中MgOの活用による鋼の精錬方法 - Google Patents

製鋼用電気炉又は製鋼用電気炉と取鍋アーク精錬装置との組合せにおけるスラグ中MgOの活用による鋼の精錬方法

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JPH11172320A
JPH11172320A JP9338830A JP33883097A JPH11172320A JP H11172320 A JPH11172320 A JP H11172320A JP 9338830 A JP9338830 A JP 9338830A JP 33883097 A JP33883097 A JP 33883097A JP H11172320 A JPH11172320 A JP H11172320A
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Masahisa Tate
昌久 楯
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NK MATEC KK
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  • Refinement Of Pig-Iron, Manufacture Of Cast Iron, And Steel Manufacture Other Than In Revolving Furnaces (AREA)

Abstract

(57)【要約】 【課題】 電気炉、取鍋耐火物の予防保全的溶損管理技
術であって、溶融スラグの成分調整をその機能を維持し
つつ且つ低コストで行なえる技術を開発する。 【解決手段】 精錬時のスラグに含有される少なくとも
CaO+FeOのモル分率和が0.4〜0.7であるヒ
ートに、軽焼ドロマイトやMgO含有耐火物屑等のMg
O源物質を製鋼炉、取鍋、又は製鋼炉+取鍋の両方に添
加して、スラグ中のMgO濃度を、実験式(4’):l
og(wt.%MgO)=1.65−1.39(NCaO +N
FeO )で当該スラグのMgO飽和溶解度を評価し、原則
としてこの値以上にMgO濃度調整し、このスラグで、
電気炉のみ又は電気炉と取鍋との組合せで鋼をアーク製
鋼法で精錬する。 【効果】 製造コストの低減、生産性向上、耐火物溶損
の保護、MgO及びCaO含有の輸入資源の節減、Mg
O系煉瓦屑のリサイクル等に大きく寄与する。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、製鋼用電気炉又
は製鋼用電気炉と取鍋アーク炉とを用いて鋼を精錬する
過程で、炉壁、炉床、出鋼口、出鋼樋を、あるいは出鋼
後に取鍋内張り耐火物の溶損を減少させるために、そし
て、炉体及び取鍋の内張り耐火物等の表面にスラグコー
ティングを施すために、溶湯を精錬中の製鋼用電気炉の
炉内スラグや取鍋精錬中の取鍋内スラグに、ドロマイト
やマグネシア系煉瓦屑等のマグネシア含有物質(以下、
MgO源物質という)を添加して、MgOを飽和溶解度
以上まで含有させたスラグを用いて製鋼用電気炉、又は
製鋼用電気炉と取鍋アーク精錬装置との組合せで操業す
る場合に、スラグ中MgOの活用による鋼の精錬方法に
関するものである。
【0002】
【従来の技術】製鋼用電気炉(以下、「電気炉」とい
う)を用いて鋼を精錬する過程は、通常、屑鉄等の原料
を電気炉に装入し、これをアーク熱及びO2 ガス吹付け
溶断等で溶解して溶湯を得る溶解期、こうして得られた
溶湯をスラグとの反応及び酸素ガスの吹込みにより脱
炭、脱リン、脱水素及び脱窒反応等を行なわせる酸化精
錬期、また溶解後期から酸化精錬期にかけて、主として
スラグ中へコクークス粉を吹き込む方法(C−インジェ
クション)を行なうことが多い。C吹込みによりスラグ
を泡立て、サブマージドアークにし熱効率を高めたり、
スラグ中の酸化鉄の還元を促進し、鉄歩留を向上させる
ことがしばしば行なわれる。そして溶鋼に合金鉄を添加
して成分組成を調節し、溶鋼の主として脱硫及び脱酸反
応を行なわせる還元精錬期、次いで溶鋼温度を適切な範
囲に調節し、取鍋へ出鋼する工程からなる。出鋼中、取
鍋に脱酸剤や合金鉄等を投入し、溶鋼の清浄化及び成分
調整、あるいはスラグ改質等の処理を施す。次いで、取
鍋精錬した後に、又は、取鍋精錬後に脱ガス処理を施し
た後に、取鍋内溶鋼は鋳造工程へ搬送され、連続鋳造機
等で鋼片が鋳造される。
【0003】上記電気炉精錬において、炉内溶湯の上表
面を覆う溶融スラグは、電気炉内で溶湯との精錬反応に
より溶湯から不純物を除去する重要な機能を有するもの
である。一方、高温の溶融スラグは絶えず炉壁等の耐火
物と接触しており、これを溶損する。特に、所謂スラグ
ライン及び炉壁ないし炉床を著しく溶損する。また、溶
融スラグは出鋼時には、炉床、出鋼口周辺、及び出鋼樋
とも接触しこれを溶損する。更に、出鋼後は、特に、取
鍋精錬中には取鍋内のスラグラインを溶損する。このよ
うな炉壁、炉床、出鋼口、出鋼樋あるいは取鍋内張り等
の耐火物が著しく溶損されると、簡単な補修で復旧させ
ることが困難となり、設備休止等を余儀なくされたり、
あるいは、更に激しい溶損の場合には溶湯漏れやそれに
よる設備損傷等の重大な故障や事故につながる危険があ
る。通常は、このような激しい溶損を発生させないよう
にするため、常時監視と補修を行ない、炉体その他の耐
火物の延命を図る。炉体延命は、生産性及び製造コスト
を大きく左右する要因でもある。従って、電気炉操業に
おいて、溶融スラグによる炉壁等耐火物の溶損対策作業
は極めて重要なものである。
【0004】電気炉操業におけるこのような耐火物溶損
対策作業としては、従来、作業者が操業中の炉壁、ある
いは電気炉からの出鋼後の炉内を目視観察し、溶損異常
の有無や溶損の進行状況を把握し、軽度な場合にはヒー
ト間の空き時間に補修材を投入したり、吹き付けたりし
て局部補修をする。また、炉床、炉壁耐火物の保護を目
的として数ヒート出鋼後に、MgO系の耐火物粉体を吹
き付けている。しかしながら、吹付け材はバインダー中
にリン酸塩を含んでいるので、溶湯のP濃度が高くなる
短所がある。また、溶損が重度の場合には、ヒートを休
止して補修作業をする。出鋼口や出鋼樋、あるいは取鍋
の溶損対応も上記作業に準じて行なわれる。一方、操業
中の炉内溶融スラグに対する耐火物溶損緩和方法とし
て、スラグと耐火物との高温反応を和らげ、スラグの流
動性を抑えるために石灰、マグネシア煉瓦屑等を多量に
添加したり、スラグ温度を調節するためにアーク入熱を
調節する等の応急処置を施すこともある。しかし、これ
らの応急処置は対症療法的に、しかも作業者の経験によ
り行なわれるので、適時に適切なアクションをとるのは
難しい。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】上述したように、電気
炉操業における炉壁、炉床、出鋼口、出鋼樋あるいは取
鍋内張り等の耐火物に対する従来の溶損管理方法は、所
謂対症療法であったり、あるいは、溶融スラグの成分組
成変動や温度低下により、スラグ本来の機能が低下した
りするという問題がある。また、電気炉耐火物の延命策
として必ずしも十分とはいえず、生産性及びコスト的な
面からもその管理方法の改善が望まれる。
【0006】そこで、本発明者等は、電気炉耐火物及び
取鍋耐火物の溶損管理方法として、予防保全の観点から
溶融スラグそのものに対するアクションをとり、しかも
スラグ本来の機能を阻害することなく、安定した精錬反
応が行われ得るスラグを維持する技術を開発することに
着眼した。
【0007】電気炉精錬時には、溶融スラグは溶湯と接
触して精錬反応を起こすと同時に、炉壁及び炉床と接し
て耐火物を徐々にではあるが絶えず溶損する。電気炉精
錬の主原料として屑鉄や一部銑鉄を使用する電気炉で
は、炉壁及び炉床共に塩基性耐火物が使用されており、
炉壁には、ホットスポット部とそれ以外の部分で違いは
あるが、マグネシア煉瓦(MgO:94wt.%程度)、あ
るいはマグネシアカーボン煉瓦(MgO:77wt.%程
度)等が多く使われている。また、炉床は多くの場合ス
タンプ施工され、スタンプ材質は高マグネシア質(Mg
O:95wt.%程度)、低マグネシア質(MgO:75w
t.%程度)、あるいはその両方が混合使用される。この
ように、電気炉のスラグと接する主な耐火物はいずれも
MgO主体のものである。
【0008】電気炉で鋼を溶製する場合のスラグの成分
は、CaO、SiO2 、MgO、FeO、Fe2 3
MnO、Al2 3 及びP2 5 の8成分を主とする多
元系が基本になっている。ここで、電気炉操業において
スラグ中MgOの起源を考える。電気炉の主原料である
屑鉄や銑鉄中には、MgOは殆ど存在しない。また、媒
溶材である生石灰中にもMgO含有量は少ない。従っ
て、スラグ中MgOの起源は、MgO系耐火物の溶損、
MgO系吹付材のリバウンドロス、及び電気炉へのスク
ラップ装入時の衝撃による耐火物破損によりスラグ中に
混入するものであると考えられる。
【0009】このようにMgOを多量に含む耐火物の溶
損機構は複雑であるが、溶融スラグによるMgO系耐火
物の溶損過程は、下記(1)式: 〈MgO〉(s)=(MgO)(s) (MgO)(l)=Mg2+(in slag)+O2-(in slag) --------------(1) の反応で説明することができる。即ち、耐火物中のMg
O成分〈MgO〉(s)は耐火物とスラグとの界面にお
いて高温に加熱されスラグ相中に入り、(MgO)
(s)となる。そして上記多元系溶融スラグと接して溶
融点が下がり、スラグ中に溶出し、(MgO)(l)と
なり、Mg2+イオンとO2-イオンとに解離する。スラグ
は高温においてイオン性融体であり、Mg2+イオンとO
2-イオンとは溶融スラグ相中に存在することになる。こ
のようにして耐火物中のMgO成分は溶損されてスラグ
相に移行する。上述した電気炉精錬時におけるスラグ、
溶鋼及び耐火物間の反応ないし現象は、取鍋アーク精錬
時においても同様に起こっていると考えられる。
【0010】従来、精錬期(酸化精錬期及び還元精錬
期)においてはP及びSはスラグ相−メタル相間で化学
平衡が成立していることが知られており、両相間のP及
びSの分配について多くの研究がなされ、各分配係数も
知られている。そこで、本発明者等は、酸化精錬期にお
ける耐火物相からスラグ相へのMgOの溶出阻止を検討
するに際して、スラグ相と耐火物相との界面において化
学平衡が成立している可能性を、実炉実験に基づき検討
し、更に、その平衡関係を定量化し、それに基づくスラ
グ成分の調整アクションにより耐火物の溶損を保護し、
抑制する全く新しい方法を開発することを課題とした。
そして、この耐火物溶損抑制技術の開発に際しては、特
に、下記諸点: スラグ成分組成の調整により、スラグ本来の機能を
阻害しないこと、 当該方法の実施により、製造コストがアップしない
こと。望ましくは製造コストの低減が図られること、 スラグ成分組成の調整作業が簡単であること、に留
意した。
【0011】従って、この発明の目的は、上述した課題
を解決することにより、電気炉又は電気炉と取鍋アーク
精錬装置とを用いて鋼を精錬する際に、電気炉及び取鍋
耐火物の溶損を抑制することができる簡単で有効な方法
を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】本発明者等は、上述した
観点から、電気炉及び取鍋耐火物の溶損を抑制する精錬
方法を開発すべく鋭意実験及び検討を重ねた。
【0013】実験及び検討した主な項目を大別すると、
(1)耐火物保護のために操業中の電気炉及び/又は取
鍋内のスラグにMgO源物質を添加することとし、この
場合のMgOの添加量規準を確立すること、(2)添加
すべきMgO源として使用すべき物質の種類を決定する
こと、及び、(3)上記MgO添加に適した時期を決定
すること、の三項目である。以下、順に説明する。
【0014】(1)電気炉スラグへのMgO添加量の決
定 先ず、電気炉耐火物の主成分であるMgOが、炉内スラ
グで溶損されて十分にスラグ中に移行し、スラグがMg
Oで飽和した状態にあるスラグ(以下、「MgO飽和ス
ラグ」という)について、そのスラグ中のMgOの濃度
と他成分の濃度との間に成立している関係を見い出すべ
く検討した。MgO飽和スラグを試験・解析の対象とし
た理由は、精錬中のスラグによる耐火物溶損の反応進行
方向は常にスラグがMgOで飽和した成分組成となるよ
うな方向に向かうからである。
【0015】そこで、MgO飽和スラグとして、酸化精
錬期での精錬時間が長く保持され、P及びSが溶鋼−ス
ラグ間で平衡に到達している時期を選んだ。従って、こ
の時期には、MgOもスラグと耐火物界面との間で平衡
に準じる状態になっていると考えた。そして、この時期
にC吹込みを行なったヒートと、C吹込みを行なわなか
ったヒートとの両方の場合について、当該ヒートのスラ
グ分析結果を用いスラグ中MgO溶解度についてスラグ
を解析した。以下、C吹込みを行なった場合、及びC吹
込みを行なわなかった場合について順次説明する。
【0016】(1)−1.電気炉精錬期にC吹込みを行
なった場合のスラグの解析 (1)−1−1.スラグ成分の分析結果 この時期にC吹込みを行なったヒートのスラグをサンプ
リングし、その成分組成を分析した。スラグサンプルを
採取したヒート数は合計37ヒートである。上記37ヒ
ート分のスラグサンプルにつき、CaO、SiO2 、M
gO、FeO、Fe2 3 、MnO、Al2 3 及びP
2 5 の8成分の濃度を分析した。
【0017】表1に、スラグの各成分の平均組成を示
す。
【0018】
【表1】
【0019】ここで、塩基度はCaO(wt.%)/SiO
2 (wt.%)を指す。 (1)−1−2.スラグ分析結果の解析 得られたスラグ分析値を次の手順で解析した。
【0020】 解析した成分系のスラグには、2Ca
O・SiO2 が含まれている。この化合物の成分組成
は、重量%で、所謂塩基度CaO(wt.%)/SiO
2 (wt.%)が、ほぼ2となる。そこで、上記スラグを、
低塩基度のCaO(wt.%)/SiO 2 (wt.%)≦2のス
ラグと、高塩基度のCaO(wt.%)/SiO2 (wt.%)
>2のスラグとの2グループに分け、各グループ毎に、
スラグ中MgO濃度と他成分濃度との相関関係の有無を
検討した。その結果、下記の事項が得られた。
【0021】検討結果 −1).CaO(wt.%)/SiO2 (wt.%)≦2のス
ラグのグループについて MgO(wt.%)とCaO(wt.%)/SiO2 (wt.%)と
の間には明らかな関係は見られなかったが、MgO(w
t.%)とFeO(wt.%)との間には相関が認められ、F
eO(wt.%)の上昇につれてMgO(wt.%)は低下し
た。即ち、 MgO(wt.%)=13.72−0.1677FeO(wt.%) r=−0.53 であった。図1に、上記MgO(wt.%)とFeO(wt.
%)との関係を示す。なお、MgOの平均組成=10.
36wt.%であった。
【0022】−2).CaO(wt.%)/SiO2 (w
t.%)>2のスラグのグループについて CaO(wt.%)/SiO2 (wt.%)の上昇につれてMg
O(wt.%)は低下する傾向が認められる。即ち、 MgO(wt.%)=14.61 −2.2846(CaO(wt.%)/SiO2 (wt.%)) r=−0.53 図2に、上記MgO(wt.%)と(CaO(wt.%)/Si
2 (wt.%))との関係を示す。しかし、MgO(wt.
%)とFeO(wt.%)との間には関係は見られなかっ
た。また、MgOの平均組成=8.50wt.%であった。
ここで、MgOの平均組成に注目すると、高塩基度側の
グループの方が低塩基度側のグループよりも低いことが
わかる。
【0023】 上記解析結果から、スラグ中のMgO
濃度を、従来の塩基度(CaO(wt.%)/SiO2 (w
t.%))では塩基度=1〜4の広範囲にわたって一元的
に定量的に表示することはできないことがわかった。
【0024】しかしながら、−1)及び−2)によ
れば、MgO濃度は、低塩基度側ではFeO濃度との間
に関係があり、一方、高塩基度側では塩基度CaO/S
iO 2 との間に相関関係が認められ、更に、MgOの平
均組成は高塩基度側の方が低くなっていたことから、本
発明者等は、MgO濃度と、スラグ中の塩基性酸化物で
あるFeO及びCaO濃度との間に何らかの関係がある
ものと考えた。なお、スラグ中のMgO濃度の平均値に
注目すると、塩基度が高い方がMgO濃度が低くなって
いるということは、スラグ組成が高塩基度側の方がMg
O系耐火物の溶損が抑制されていることを示唆するもの
である。そして、更に検討を重ねた。
【0025】 上記の考察によるMgO濃度が塩基
性酸化物の濃度と関係しているとの推定に基づき、スラ
グ中のMgO濃度(特性値)を決定する因子として、ス
ラグ中の下記成分を取り上げ、MgO濃度との関係を解
析した。
【0026】但し、本発明者等は、この解析において電
気炉のスラグ成分の内、MnO及びP2 5 の2成分に
ついては、スラグ中MgOの溶解度に及ぼす影響につい
ての因子としての解析を省略した。その理由は下記によ
る。
【0027】〔MnOについて〕: スラグ中MnOは、下記反応: (MnO)(l)=Mn2++O2- に従い解離しており、塩基性酸化物である。しかしなが
ら、スラグ中MnO濃度は、平均5.20wt.%で、バラ
ツキが少なくほぼ一定している。そこで、スラグ中Mg
Oの溶解度の解析に際して、その支配因子から外した。
しかし、もし、スラグ中MnO濃度の変動が大きい場合
は、特に低塩基度((V)≦2)域においてMgOの溶
損にFeOの挙動と同様の影響を及ぼすと考えられるの
で、スラグ中MgO溶解度の解析に際してスラグ中Mn
O濃度も解析因子として加える必要がある。
【0028】〔P2 5 について〕: スラグ中のP2 5 は、下記反応: 1/2P2 +5/4O2 +3/2(O2-)=PO4 3- に従い解離し、PO4 3-イオンを形成する酸性物質であ
る。スラグ中P2 5 濃度は、スクラップ中のP含有率
が低いので低い。従って、今回の解析モデルから外し
た。スラグ中P2 5 濃度が2wt.%以上になればその解
析モデルの作成時に無視することはできない。以上が、
MnO及びP2 5 の2成分をこの解析の因子として省
略した理由である。
【0029】溶融スラグ中における塩基性酸化物と酸性
酸化物との基本反応は次のように要約される。Ca、M
n、Fe及びMg等の塩基性酸化物を形成する金属元素
をMで表わす。溶融スラグはイオン性融体であり、下記
の通り(イ)、(ロ)式に解離し、(ハ)式の総括反応
で示される。
【0030】 2MO =2M2++2O2- ------------------ (イ) SiO2 +2O2-=SiO4 4- ------------------ (ロ) 2MO +SiO2 =2M2++SiO4 4------------------- (ハ) 塩基性酸化物の塩基の強さは、CaO>MnO>FeO
>MgOの順で表わされる。また、酸性成分としては、
SiO2 及びP2 5 が該当する。溶融スラグ中の塩基
性酸化物と酸性酸化物の代表例であるSiO2 を例にと
ってみた場合、塩基性酸化物は(イ)式に示す通り解離
してO2-を放出する。一方、酸性酸化物としておSiO
2 はO2-を受け取り(ロ)式で示すように、錯陰イオン
(SiO4 4-)を形成する。同様に酸性酸化物のP2
5 は錯陰イオン(PO4 3-)となる。
【0031】さて、上記C吹込みを行なった37ヒート
の全データの解析に当たって、溶融スラグは各成分がイ
オンに解離した融体構造をとっている点を考慮し、Mg
O濃度(特性)を支配する因子としてのスラグ成分濃度
の単位はモル分率を採用した。検討した因子は下記のと
おりである。 (a)塩基性酸化物であるCaOの濃度のモル分率:N
CaO (b)塩基性酸化物であるFeOの濃度のモル分率:N
FeO (c)CaO濃度のモル分率とFeO濃度のモル分率と
の和:NCaO +NFeO (d)塩基酸化物の濃度和から酸性酸化物の濃度を差し
引いた、有効塩基性酸化物濃度:NCaO +NFeO −N
SiO2 (e)塩基度≦2のグループで、NCaO +NFeO (f)塩基度>2のグループで、NCaO +NFeO 特性値(y)としてlog(wt.%MgO)をとり、因子
(x)として上記NCaO、NFeO 、NCaO +NFeO 、N
CaO +NFeO −NSiO2をとり、yとxとの関係を解析し
た。更に、 (g)特性値(y)としてlog(wt.%MgO)をと
り、因子として塩基度(wt.%CaO/wt.%SiO2 )を
とった場合、及び、 (h)特性値(y)としてNCaO +NFeO をとり、因子
として塩基度(wt.%CaO/wt.%SiO2 )をとった場
合、を加えて、回帰式、特性値(y)及び因子(x)の
平均値及び標準偏差(σ)、並びに相関係数(r)を求
めた。その結果を、表2に示す。
【0032】
【表2】
【0033】(1)−1−3.解析結果のまとめ MgO濃度の対数値y=log(wt.%MgO)をとり、
これとその支配因子(x)との関係を解析した。その結
果は次のとおりである。 [1] スラグ中MgO濃度(y)と、塩基性酸化物である
CaO及びFeOそれぞれ単独の濃度(NCaO 及びN
FeO )との間には、相関関係は認められない。 [2] スラグ中MgO濃度(y)と、塩基性酸化物の濃度
和から酸性酸化物濃度を差し引いた有効塩基性酸化物濃
度との間には、弱い相関関係が認められた。 [3] また、NCaO +NFeO と、wt.%CaO/wt.%SiO
2 との間には相関関係は認められたが、スラグ中MgO
濃度(y)と、従来の特性値であるスラグの塩基度、即
ちCaO(wt.%)/SiO2 (wt.%)との間には相関関
係は認められなかった。 [4] これに対して、MgO濃度(y)と、塩基性酸化物
濃度の和との間には、塩基度が2以下1以上の低塩基度
側でも、塩基度が2以上4以下の高塩基度側でも、それ
ぞれの相関関係が認められ、更に、塩基度1〜4の範囲
全域を通じても、相関関係が認められた。
【0034】図3に、スラグ中MgO濃度(y)と塩基
性酸化物の濃度(モル分率)和(N CaO +NFeO
(x)との値をプロットし、全プロットに対する回帰線
を求め、yとxとの関係を示す。同図中のプロットで、
○印は塩基度=1〜2の場合のデータであり、●は塩基
度=2超〜4の場合のデータである。塩基度の高低値に
より2区分して求めた各回帰式及びその相関係数と、塩
基度により2区分せず全域を通じて求めた回帰式及びそ
の相関係数とを比較・検討した。その結果、電気炉精錬
中に、耐火物の溶損保護のためにスラグの組成を調節す
るという観点から考えて、全域を通じて塩基性酸化物濃
度和で求めた下記式: y=1.93−1.82x (r=−0.74) 但し、y:log(wt.%MgO) x:NCaO +NFeO 即ち、下記(2)式: log(wt.%MgO)=1.93−1.82(NCaO +NFeO ) ------------------------(2) で表わされる実験式を用いるのが適当であると判断し
た。
【0035】上述したスラグ中MgO濃度とこれを決め
る因子との関係についての解析結果、及び、上記(2)
式からわかるとおりのx、y間のよい相関関係から、塩
基性酸化物の濃度和(NCaO +NFeO )は、従来の塩基
度特性を包含し、しかもスラグ中MgO濃度との関係を
決定する支配的因子であると結論付けられる。
【0036】(1)−1−4.考察 次に、上記解析結果について考察する。スラグはSiO
2 を含む多元系酸化物の均一溶液である。その特性は、
(CaO)と(SiO2 )との存在割合により大きく左
右される。溶融スラグはイオン性融体であり、図4にそ
の解離状態の説明図を示す。
【0037】電気炉の操業においては、スラグの塩基
度:(V)=CaO(wt.%)/SiO 2 (wt.%)は、
(V)=1.1〜3.8程度の範囲内に広がっている。
このスラグの注意すべき点は、2CaO・SiO2 の存
在である。この2CaO・SiO 2 の組成の塩基度は、
(V)≒2であり、これを境にしてスラグ中MgOの溶
解度に与えるスラグ組成の影響が異なっていることを前
記解析において説明した。
【0038】(V)≦2の場合 2CaO・SiO2 が形成され、CaOはすべて2Ca
O・SiO2 に使われる。即ち、塩基性酸化物CaOよ
り放出されるO2-イオンは、SiO2 の錯陰イオン化に
際して消費され、CaOの有効な塩基としての働きはな
くなると考えられる。そこで、CaOに代わってFeO
から放出されるO2-イオンにより塩基が保持されること
になる。従って、(V)≦2では、スラグ中FeO濃度
が高いほどO2-イオンは多く放出され、(MgO)→M
2++O2-の解離反応の進行度合いは減少し、スラグ中
Mg2+イオンの濃度は低下する。この結果、スラグ中M
gOの飽和溶解度は低下し、耐火物の溶損量は減少す
る。逆に、スラグ中FeO濃度が低いほどFeOから解
離し放出されるO2-イオンは少なく、(MgO)→Mg
2++O2-の反応によりO2-イオンを放出しようとするた
め、スラグ中Mg2+イオンの濃度は増加する。この結
果、スラグ中MgOの飽和溶解度は上昇し、MgO系耐
火物の溶損量が増える。これを抑えるために、軽焼ドロ
マイト、MgO煉瓦屑及びMgO粉粒品等のMgO源物
質をスラグ中に添加・溶解し、スラグ中MgO濃度を高
めてやれば、MgO系耐火物の溶損量が減少し、また、
MgOの高濃度スラグはスラグコーティング能もあり、
耐火物表面に溶着し易く、耐火物の補修効果を持つ。
【0039】(V)>2の場合 2CaO・SiO2 が形成されても、塩基性酸化物Ca
Oより放出されるO2-イオンは、SiO2 の錯イオン化
に際しすべてが消費されることはなく、なお過剰に存在
する。従って、スラグ中CaO及びFeOの両者からO
2-イオンは供給されるので、スラグ中CaOとFeOと
の濃度和が上昇すれば、O2-イオンは増加し、スラグ中
MgOの解離反応は低下し、飽和溶解度は減少する。ま
た、スラグ中CaOとFeOとの濃度和が減少すれば、
2-イオンも減少し、(MgO)→Mg2++O2-の解離
反応によりO2-イオンを補なおうとし、スラグ中Mg2+
イオンの濃度は増加する。この結果、スラグ中MgOの
飽和溶解度は上昇し、MgO系耐火物の溶損量は増え
る。
【0040】従って、上記考察より、スラグ中MgOの
飽和溶解度をCaOとFeOとの濃度和の関数として求
めることは、スラグの特性を知る上でも、実操業におい
て炉体や取鍋等の耐火物の溶損量を推測し、操業因子を
調整管理すること、並びに、MgO系造滓材添加量、及
び添加時期を決める上でも重要である。
【0041】上記考察も踏まえ、上述した結論に基づ
き、電気炉での酸化精錬期で長時間経過した溶融スラグ
は、これが接している炉壁や炉床等のMgO系耐火物と
の界面において実用上の化学平衡が成立しているとみな
した。
【0042】上記実験式(2)を変形すると、下記
(2’)式: log(wt.%MgO)+1.82(NCaO +NFeO )=1.93(一定) --------------------(2’) が得られる。従って、(2’)式から、電気炉精錬過程
において、スラグと接する炉体耐火物がマグネシア系耐
火物である場合、この耐火物のスラグによる溶損は次の
ように進行することがわかった。即ち、スラグ中の(N
CaO +NFeO )濃度が低いときは、耐火物から(Mg
O)が多く溶出し、スラグ中の(NMgO )濃度を高め
る。また、スラグ中の(NCaO +NFeO )濃度が高いと
きは、耐火物からの(MgO)の溶出は少なく、スラグ
中の(NMgO )濃度は低い値を保ち、スラグ系の塩基性
酸化物の総濃度を一定に保とうとしている。スラグと耐
火物との間の上記化学平衡関係を定量的に表わしたもの
が、(2)又は(2’)式である。そして、実験式
(2)又は(2’)式が満たされるまで耐火物の溶損は
進行する。
【0043】(1)−1−5.MgO添加量の算出 以上の結果より、電気炉の操業において、炉体耐火物の
溶損を抑制する方法として、操業中にスラグの成分組成
を分析し、この分析値を用いて(2)又は(2’)式の
(wt.%MgO)を計算し、得られた(wt.%MgO)の値
を(wt.%MgO)cal で表わす。そして、スラグ中のM
gO濃度の分析値(wt.%MgO)obs と(wt.%MgO)
cal との差Δ(wt.%MgO)、即ち、下記(3)式: Δ(wt.%MgO)=(wt.%MgO)obs −(wt.%MgO)cal ----------------------(3) のΔ(wt.%MgO)を計算する。Δ(wt.%MgO)が負
の値の場合には、スラグ中のMgO濃度が飽和に達して
いず、Δ(wt.%MgO)の絶対値に相当するMgO(w
t.%)濃度だけ不足していることを示している。従っ
て、スラグにその分に相当するMgOを添加してやる。
一方、Δ(wt.%MgO)が零又は正の値の場合はスラグ
中にMgOが飽和しているか、又は過飽和状態にあるこ
とを示す。従って、この場合は原則としてMgOは添加
しない。なお、(2)又は(2’)式で、MgO濃度を
モル分率で表示せずwt.%で表示した理由は、通常、スラ
グ分析値がwt.%で表示されるので、これに合わせたため
である。
【0044】上記(1)−1.項において、電気炉の操
業時におけるスラグ中MgOの溶解度は、前記(2)式
に示したとおり、塩基度(V)=(wt.%CaO)/(w
t.%SiO2 )=1.0〜4.0の範囲に亘って、塩基
性酸化物CaOとFeOとのモル分率表示による濃度和
(NCaO +NFeO )の関数として表わすことができるこ
とを示した。即ち、(2)式は下記に示すとおりであ
る: log(wt.%MgO)=1.93−1.82(NCaO +NFeO ) ------------------------(2) (2)式は、溶落前の溶解期後期から酸化精錬期にかけ
てコークス粉を電気炉内浴中に吹込む、所謂C吹込みを
行ない、スラグ中の酸化鉄を還元して鋼浴中に回収する
と共に、フォーミングスラグを利用し電極先端部をフォ
ーミングスラグで完全に覆うサブマージドアーク法によ
る熱効率の向上及び電力原単位の低減等を図る操業方法
のヒートの試験結果を解析して得られた実験式である。
【0045】しかし、操業条件や鋼種の仕様によって
は、溶解期後期から酸化精錬期にかけての電気炉内浴中
へのコークス粉吹込みを実施しない。そこで、次に、こ
の場合のスラグ中MgOの溶解度を調査・解析した結果
について、以下(1)−2.で説明する。
【0046】(1)−2.電気炉精錬期にC吹込みを行
なわなかった場合のスラグの解析調査・解析対象のヒー
ト数は合計23ヒートである。電気炉へのC吹込みには
通常、コークス粉を用いる。C吹込み用コークス粉の分
析値の一例は次のとおりである。 工業分析値:固定炭素=88wt.%、灰分=11wt.%、揮
発分=1wt.% 化学分析値:C=87〜88wt.%、S=0.5〜0.6
wt.%、P=0.3〜0.4wt.%、N=0.8〜1.0w
t.% この場合のように、溶解期及び酸化製錬期に電気炉内の
浴中に上記コークス粉の吹込みを実施しない場合があ
る。それは、溶製鋼種の成分仕様による制限があるため
である。例えば、 低P材として、SWRS(P≦0.025wt.%)、S
WRY(P≦0.025wt.%)、SLA(P≦0.03
0wt.%)、SC(P≦0.030wt.%) 低S材として、SWRS(S≦0.025wt.%)、S
WRY(S≦0.023wt.%)、SLA(S≦0.02
5wt.%)、SCM(S≦0.030wt.%) 低N材としてユーザーからの個別仕様(N≦80pp
m) 低C材としてSWRM(C≦0.08wt.%)、SWR
Y(C≦0.09wt.%)、及びユーザーの個別仕様 による場合等である。
【0047】また、操業条件としてはC粉吹込みにより
フォーミングスラグを作ることにより、使用中の電極が
スラグに浸漬して溶損され異常発生が予想されるとき
は、C粉吹込みを実施しない。
【0048】さて、今回のようにC吹込みを行なわない
操業においても、C吹込みを行なった操業における精錬
反応ないし現象は基本的には変わらない。そこで、今回
の試験においても上記(1)−1.項のC吹込みを行な
った場合と同様な実機試験を行ない、スラグのサンプリ
ング時期、スラグの分析成分、及び分析値の解析方法等
のすべてについて、上記場合に準じて行なった。その結
果、log(wt.%MgO)と(NCaO +NFeO )との間
には良い相関が見られ、下記(4)式: log(wt.%MgO)=1.65−1.39(NCaO +NFeO ) ------------------------(4) γ=−0.800 が得られた。この場合のスラグ中のMgO濃度の分析値
を(wt.%MgO)obs ’、(4)式で算出された(wt.%
MgO)を(wt.%MgO)cal ’と表記し、その差をΔ
(wt.%MgO)’と表記すると、スラグ中MgO濃度の
飽和溶解度からのずれはΔ(wt.%MgO)’となり、下
記(5’)式: Δ(wt.%MgO)’=(wt.%MgO)obs ’−(wt.%MgO)cal ’ --------------------(5’) で表わされる。
【0049】更に、ここで、C吹込みを行なわなかった
場合の実験式(4)を、C吹込みを行なった場合の実験
式(2)と区別するために、実験式(4)の(wt.%Mg
O)に「’」を付し、得られた式を(4’)式とする
と、 log(wt.%MgO)’=1.65−1.39(NCaO +NFeO ) ----------------------(4’) となる。
【0050】図5に、スラグ中MgOの溶解度(wt.%M
gO)と、スラグ中CaOとFeOとの濃度和(NCaO
+NFeO )との関係を、コークス粉によるC吹込みを行
なった場合((2)式)、及びこれを行なわなかった場
合((4’)式)についてグラフで示した。(2)式と
(4’)式とのグラフを比較すると明らかなように、ス
ラグ中のMgO溶解度に関し、(NCaO +NFeO )の値
が減少するほど、C吹込みを行なった(2)式の方が、
C吹込みを行なわなかった(4’)式より高い値を示
す。ところが、(NCaO +NFeO )の値が増加すると共
に、(2)式と(4’)式との差は減少し、(NCaO
FeO )が0.53を超えると、両者はほぼ一致する。
【0051】そこで、上記(NCaO +NFeO )=0.5
3の意味について考える。2CaO・SiO2 に相当す
る(NCaO +NFeO )は0.52〜0.53程度であ
る。従って、C吹込みを行なった場合と行なわなかった
場合とでスラグ中MgOの溶解度がほぼ一致するNCaO
+NFeO の値と、スラグ中にみられる鉱物組織2CaO
・SiO2 のNCaO +NFeO の値とがほぼ一致している
ことになる。このことは、C吹込みの有無にかかわら
ず、塩基性酸化物であるCaOとFeOとのモル表示に
よる濃度和で一定値以上含有するスラグでは、MgO溶
解度が飽和に達していることを示唆する。
【0052】一方、C吹込みの有無によるFeO濃度差
がMgO溶解度に与える影響をまとめると、表3のよう
になる。
【0053】
【表3】
【0054】表3からわかるように、C粉(コークス)
の吹込みにより、スラグ、メタル共に激しく撹拌され、
耐火物とメタルとの界面、耐火物とスラグとの界面が常
に更新され、またC粉の吹込みにより、スラグ中のFe
Oは還元され、FeO濃度は低下する。これに対して、
C粉の吹込みが行なわれない場合は、スラグ、メタルの
撹拌が弱く、FeOの還元量が少なく、スラグ中FeO
濃度は高いまま推移することになる。2CaO・SiO
2 組成以下の塩基度域では、スラグ中FeO濃度が低い
ほどスラグのMgO溶解度は増加し、またスラグ中Fe
O濃度が高いほどスラグのMgO溶解度は低下する特性
がある。この結果、MgOの溶解度は、スラグ中のFe
O濃度の高低に依存することになる。
【0055】C吹込みを行なわなかった場合は、上記実
験式である(4’)式を用いて、MgO源物質の添加量
を決める。この決め方は、C吹込みを行なった場合に準
じる。即ち、操業中にスラグの成分組成を分析し、この
分析値を用いて(4’)式から(wt.%MgO)’を計算
する。またスラグ中MgO濃度の分析値(wt.%Mg
O)’obs を求める。
【0056】さて、Δ(wt.%MgO)’が負の値の場合
には、スラグ中のMgO濃度が飽和に達していず、Δ
(wt.%MgO)’の絶対値に相当するMgO(wt.%)濃
度だけ不足していることを示している。そこで、スラグ
にその分に相当するMgOを添加してやる。一方、Δ
(wt.%MgO)’が零又は正の値の場合はスラグ中にM
gOが飽和しているか、又は過飽和状態にあることを示
す。従って、通常は、MgO源物質の添加は行なわない
ことが多い。
【0057】(1)−3.C吹込みの有無に依らない試
験結果の解析の結論 電気炉や取鍋の耐火物の溶損によるトラブルや耐火物費
用の上昇を防止することを考慮し、MgO源物質をスラ
グ中に添加し、スラグ中のMgO濃度を飽和溶解度に近
づける努力をする必要がある。更に、精錬途上において
耐火物に対して安全性の高いアクションを迅速にとるこ
とが肝要である。
【0058】実際の操業において、スラグ分析結果よ
りMgO源物質の添加量を決める際、スラグ量(WS
の算定、MgO源物質のMgO含有率(M2 )、スラグ
分析試料の代表特性及び迅速分析等に避けられない精度
上の誤差を伴う。
【0059】また、スラグ中のMgO濃度が15wt.%
を超える組成では、スラグの融点が急激に上昇し、スラ
グが硬くなり、スラグ−メタル間の精錬反応の低下、出
鋼時のスラグの排出不良から生ずる炉床隆起現象等がし
ばしば発生する。スラグ中のMgO濃度が13wt.%以下
での操業が望ましい。
【0060】後述する実施例1〜6、8〜15、及び
比較例1、2における各ヒートの試験結果を用い、実験
式(2)及び(4’)によるスラグのMgO飽和溶解度
をそれぞれ算出し、スラグ分析によるMgO濃度の上記
飽和溶解度からのずれ、及び、上記実験式(2)と
(4’)とによるそれぞれのMgO飽和溶解度間の差を
求めて、表4に示す。
【0061】
【表4】
【0062】表4からわかるように、C吹込み有りにつ
いての実験式(2)式によるMgO飽和溶解度の算定値
が15wt.%を超えるところで、C吹込み無しについての
実験式(4’)式によるMgO飽和溶解度の算定値との
差が3.39wt.%となった。しかも、このスラグ組成は
CaO +NFeO =0.404と下限値近くに位置してお
り、塩基性酸化物濃度は低い。MgO濃度が15wt.%以
上のスラグ組成は、上記に述べたことからわかる通
り、スラグの流動特性が変わるので、通常は実施しな
い。更に、それ以外のヒートでは実験式(2)と
(4’)式とによるMgO飽和溶解度の算定値の差は高
々2wt.%程度であり実操業上問題にならない。その理由
は、仮に(4’)式を使って操業し、耐火物の溶損が進
むようであれば、実施例2や13に示すように、炉内状
況を観察し、MgO添加量をヒート毎に繰り返し補正す
る。その際、スラグ中FeO、CaO及びMgO濃度に
よりMgOの飽和溶解度からのずれを求める。その時、
上記ずれから更にどれだけの上乗せ量を添加するかを勘
案するので、上記ずれの下限基準を明確にする必要があ
り、(4’)式をこの下限基準のベースにする。一方、
スラグ中MgO濃度の上限は、スラグの流動性及び硬さ
を考え、13wt.%とした。このように、炉況や取鍋状況
を耐火物溶損保護のアクションに付加する。
【0063】以上、、及びの理由から、スラグ中
MgOの飽和溶解度を示す解析式として、電気炉へのC
吹込みの有無に関わらず、(4’)式を操業及び制御に
使用することにした。かくして、この発明においては
(4’)式に基づき算定されるスラグのMgO飽和溶解
度以上の濃度になるようにMgO源物質を添加する。
【0064】なお、この発明の請求項において炉況や取
鍋の状況により耐火物溶損保護のアクションを一義的に
規定しないのは、炉況は出鋼後でないとわからないこ
と、アクションは1チャージずつ対応するのが望ましい
が、炉況や取鍋の状況によりノーアクションの場合もあ
ること、また炉況や取鍋の状況を一義的に決定すること
ができず、固有の状況判断を要することもあるからであ
る。
【0065】(2)電気炉スラグへ添加するMgO源物
質の種類の決定 次に、電気炉スラグへMgO成分を添加するためのMg
O源物質として適切なものを選定した。選定条件として
は、MgOの含有率が高いこと、鋼質を害する不純
物の含有量が少ないこと、安定して供給され得るこ
と、そして、安価であること、が必要である。このよ
うな条件を満たすものとして、MgO煉瓦屑並びに軽焼
ドロマイト及びMgO低含有率石灰が挙げられる。表5
に、その成分組成例を示す。
【0066】
【表5】
【0067】軽焼ドロマイトはMgO源物質の選定条件
を満たす。その他に、製鉄所内で発生するMgO系耐火
物の屑及びMgO含有率=2〜10wt.%の低含有率ドロ
マイトの焼成品を石灰代替として大量使用する場合もM
gO源物質として選定条件を満たす。これに対して、従
来、電気炉耐火物の補修用に使用されているMgO系吹
付け材は、表6にその成分組成を示すようにP濃度が高
く、またバインダーにリン酸塩を含むのでスラグ中のP
濃度が高くなり、脱リン作業が必要となるので、望まし
くない。
【0068】
【表6】
【0069】(3)電気炉及び/又は取鍋へのMgOの
添加時期の決定 次に、電気炉スラグへMgO成分を添加するのに適した
時期について検討する。前述したように、電気炉操業過
程は溶解期、酸化精錬期、還元精錬期及び出鋼時に分け
られる。溶解初期においては、MgOに関する(2)式
の平衡実験式は適用されず、溶解後期及び酸化精錬期以
後の時期に適用される。前述した実験ヒートにおけるサ
ンプリング時期から判断すると、実験式(2)が有効に
当てはまるのは、酸化精錬開始後である点を考えると、
それ以降が望ましい。しかしながら、電気炉へ装入され
る主原料、副原料及び造滓材中にはMgOは殆ど含まれ
ず、耐火物溶損以外のスラグへのMgO混入起源は、補
修用のマグネシア及び焼成ドロマイトの混入、並びに鉄
スクラップ装入時の煉瓦破損に伴う混入程度である。従
って、スラグの構成成分として酸化精錬期以前に予めM
gO源物質を炉内に装入しておく方法も考えられる。
【0070】一方、軽焼ドロマイトはMgO及びCaO
を主成分とする(表5参照)。従って、スラグの主要成
分の一つであるCaO源となり得るので、造滓材の生石
灰の節減に寄与しうる。よって、MgO源物質の添加時
期は特に限定せず、精錬パターンや溶製する鋼種の仕様
等に応じて最も適した時期にすべきである。具体的には
以下の説明の実施例において述べる。
【0071】なお、ここで、電気炉での還元精錬とは、
出鋼前に炉内に炉内にSi−Mn、Fe−Si、Fe−
Mn、含Alフラックス及びSiC等の合金鉄や脱酸剤
を炉中に添加し、炉内脱酸及び合金元素の添加を行なう
ことをいう。スラグ中のFeOやMnOの還元も併せて
行なう。この時、石灰を添加すれば脱硫も可能である。
【0072】 軽焼ドロマイトを初期装入後、又は溶
解初期に添加し、生石灰の一部代替造滓材として利用す
る場合には、1.0kg/tのCaO添加量に対して、
ドロマイト添加量は1.53kg/t必要であり、その
差0.53kg/tの溶融に要する消費電力約0.74
kwh/tだけ多く電力を必要とする。このように、溶
解期にスラグ量を増加させると、消費電力が増える他
に、製鋼時間も伸びる。また、電極原単位が増え、更に
鉄分ロスが増えて歩留が低下するので、これらの対策と
して排滓をできる限り抑えて操業する(無排滓操業)こ
とが肝要である。なお、上記電力差の算定例は下記式に
より求めた。 (1.53−1.0)×0.41×(1630−30)
÷0.55÷860≒0.74kwh/t 但し、ドロマイトの比熱を0.41、電気炉の熱効率を
0.55、そしてスラグ温度を1630℃とした。
【0073】 溶落期は、スラグの泡立ち(フォーミ
ング)を行なわせ、溶鋼を昇温することが重要であり、
更に、溶鋼中のP及びSを除去するために、溶解期末に
は多量のスラグを炉外に排出する。このような操業特性
から、折角添加したMgO源物質中の(MgO)が炉外
に流出ロスせざるを得ない。また、この時期にはスラグ
が完全に溶けていないので、スラグ中の(MgO)濃度
が判らず、添加量は概略値となる。従って、後に添加量
を補正する必要がある。
【0074】 なお、溶落ち後、多量の排滓が終わ
り、フォーミングスラグも安定した状態の時期に、C粉
の吹込みと並行してMgO源物質を炉内に添加してもよ
い。この時期の添加のメリットは、スラグが膨張してい
るので、スラグ高さが高く、炉内壁の上層部へのスラグ
コーティングによる補修ができる点にある。
【0075】 これに対して、酸化精錬期での添加
は、溶鋼温度が高い時期であるから、炉床、炉壁の耐火
物溶損が進行し易い時期であり、このときドロマイト等
をスラグに添加して(MgO)wt.%濃度を飽和値と等し
くするか、又はそれ以上の過飽和にすれば、耐火物溶損
は進行しない。従って、この時期でのドロマイト等の添
加が望ましい。そして、 スラグ量が増えても、上記記載の操業上のマイナ
ス要因も、この時期での添加であれば、ドロマイト等の
添加時点から出鋼までの時間が通常10分程度と短いの
で生じない。更に、 酸化精錬期より前にMgO源物質を添加する操業をす
る場合には、排滓量を可能な限り少なくする無排滓操業
を採用し、添加MgO源、鉄分ロスをなくすると共に、
スラグの含有する熱量の炉外への排出を抑える操業方法
を行ない、MgO源の添加時期を余り選択しない。但
し、メタル分析によりPあるいはS濃度が予想に反して
高いことが判った場合には、MgO源、鉄分ロスが生じ
ても酸化精錬に入る前に排滓する。通常、この操業は高
Fe歩留を目標とし、炉体及び取鍋耐火物の溶損量を減
少させる目的で採用される。しかし、主原料である屑鉄
の不純物P及びSが高いときは、排滓を必要とするた
め、採用されない。
【0076】 (MgO)wt.%濃度が飽和値に近いス
ラグは、炉壁、炉床、出鋼口煉瓦、出鋼樋内張り耐火
物、取鍋内張り耐火物、更には、取鍋精錬(レードルフ
ァーネス)時の取鍋耐火物の溶損防止のために有益であ
る。(MgO)wt.%濃度が飽和値に近いスラグは、Mg
O耐火物に溶着し易く、スラグコーティングにより溶損
部位を埋めてくれるので、MgO系粉粒材を吹付け補修
する必要性が減少するからである。
【0077】この発明は、上述した多数の知見に基づき
なされたものであって、この発明の構成は次のとおりで
ある。請求項1記載の製鋼用電気炉による鋼の精錬方法
は、製鋼用電気炉において酸化精錬、又は、酸化精錬及
び還元精錬をした後に出鋼する鋼の精錬方法において、
少なくとも、精錬時のスラグ中のCaOモル分率とFe
Oモル分率との和が0.4〜0.7の範囲内にあるヒー
トを対象として、酸化精錬期の初頭においてマグネシア
源物質を製鋼用電気炉内のスラグに添加し、当該スラグ
中のMgOの重量%濃度を下記式: log(wt.%MgO)=1.65−1.39(NCaO
FeO ) 但し、wt.%MgO:スラグ中MgOの推定飽和重量%濃
度 NCaO :スラグ中CaOのモル分率濃度 NFeO :スラグ中FeOのモル分率濃度 で表わされる当該スラグ中MgOの推定飽和重量%濃度
以上、13重量%以下の濃度に調整し、こうして調整さ
れたスラグで鋼を精錬し、そして取鍋に出鋼することに
特徴を有するものである。
【0078】請求項2記載の製鋼用電気炉による鋼の精
錬方法は、製鋼用電気炉において酸化精錬をした後に出
鋼する鋼の精錬方法において、製鋼用電気炉での原料装
入時又は溶解期に製鋼用電気炉内に予めマグネシア源物
質を添加し、少なくとも、スラグ中のCaOモル分率と
FeOモル分率との和が0.4〜0.7の範囲内にある
ヒートを対象として、溶解期及び精錬期を通じて排滓せ
ず、精錬期において当該スラグ中のMgOの重量%濃度
を下記式: log(wt.%MgO)=1.65−1.39(NCaO
FeO ) 但し、wt.%MgO:スラグ中MgOの推定飽和重量%濃
度 NCaO :スラグ中CaOのモル分率濃度 NFeO :スラグ中FeOのモル分率濃度 で表わされる当該スラグ中MgOの推定飽和重量%濃度
以上、13重量%以下の濃度に補充調整し、こうして調
整されたスラグで鋼を精錬し、そして取鍋に出鋼するこ
とに特徴を有するものである。
【0079】請求項3記載の製鋼用電気炉による鋼の精
錬方法は、製鋼用電気炉において酸化精錬、又は、酸化
精錬及び還元精錬をした後に出鋼する鋼の精錬方法にお
いて、製鋼用電気炉での原料装入時又は溶解期に炉内に
マグネシア源物質を添加し、少なくとも、スラグ中のC
aOモル分率とFeOモル分率との和が0.4〜0.7
の範囲内にあるヒートを対象とし、溶落ちに入る前にス
ラグの少なくとも一部を排滓し、次いで精錬期におい
て、当該スラグ中のMgOの重量%濃度を下記式: log(wt.%MgO)=1.65−1.39(NCaO
FeO ) 但し、wt.%MgO:スラグ中MgOの推定飽和重量%濃
度 NCaO :スラグ中CaOのモル分率濃度 NFeO :スラグ中FeOのモル分率濃度 で表わされる当該スラグ中MgOの推定飽和重量%濃度
以上、13重量%以下の濃度に補充調整し、こうして調
整されたスラグで鋼を精錬し、そして取鍋に出鋼するこ
とに特徴を有するものである。
【0080】請求項4記載の製鋼用電気炉と取鍋アーク
精錬装置との組合せによる鋼の精錬方法は、製鋼用電気
炉で酸化精錬をし、次いで取鍋アーク精錬装置で還元精
錬をする鋼の精錬方法において、少なくとも、スラグ中
のCaOモル分率とFeOモル分率との和が0.4〜
0.7の範囲内にあるヒートを対象として、酸化精錬期
の初頭においてマグネシア源物質を前記製鋼用電気炉内
のスラグに添加し、当該スラグ中のMgOの重量%濃度
を下記式: log(wt.%MgO)=1.65−1.39(NCaO
FeO ) 但し、wt.%MgO:スラグ中MgOの推定飽和重量%濃
度 NCaO :スラグ中CaOのモル分率濃度 NFeO :スラグ中FeOのモル分率濃度 で表わされる当該スラグ中MgOの推定飽和重量%濃度
以上、13重量%以下の濃度に調整し、こうして調整さ
れたスラグで鋼を酸化精錬した後、鋼を未脱酸状態で取
鍋に出鋼し、次いで、鋼を取鍋アーク精錬装置に移送
し、取鍋内スラグに対して、少なくとも、スラグ中のC
aOモル分率とFeOモル分率との和が0.4〜0.7
の範囲内にあるヒートを対象として、マグネシア源物質
を取鍋内スラグに添加し、当該スラグ中のMgOの重量
%濃度を下記式: log(wt.%MgO)=1.65−1.39(NCaO
FeO ) 但し、wt.%MgO:スラグ中MgOの推定飽和重量%濃
度 NCaO :スラグ中CaOのモル分率濃度 NFeO :スラグ中FeOのモル分率濃度 で表わされる当該スラグ中MgOの推定飽和重量%濃度
以上、13重量%以下の濃度に補充調整し、こうして調
整されたスラグで鋼を還元精錬することに特徴を有する
ものである。
【0081】請求項5記載の製鋼用電気炉と取鍋アーク
精錬装置との組合せによる鋼の精錬方法は、製鋼用電気
炉で酸化精錬をし、次いで取鍋アーク精錬装置で還元精
錬をする鋼の精錬方法において、製鋼用電気炉での原料
装入時又は溶解期に製鋼用電気炉内にマグネシア源物質
を添加し、少なくとも、スラグ中のCaOモル分率とF
eOモル分率との和が0.4〜0.7の範囲内にあるヒ
ートを対象として、溶解期及び精錬期を通じて排滓せず
に当該スラグで鋼を酸化精錬した後、鋼を未脱酸状態で
取鍋に出鋼し、次いで、鋼を取鍋アーク精錬装置に移送
し、取鍋内スラグに対して、少なくとも、スラグ中のC
aOモル分率とFeOモル分率との和が0.4〜0.7
の範囲内にあるヒートを対象として、マグネシア源物質
を取鍋内スラグに添加し、当該スラグ中のMgOの重量
%濃度を下記式: log(wt.%MgO)=1.65−1.39(NCaO
FeO ) 但し、wt.%MgO:スラグ中MgOの推定飽和重量%濃
度 NCaO :スラグ中CaOのモル分率濃度 NFeO :スラグ中FeOのモル分率濃度 で表わされる当該スラグ中MgOの推定飽和重量%濃度
以上、13重量%以下の濃度に補充調整し、こうして調
整されたスラグで鋼を還元精錬することに特徴を有する
ものである。
【0082】請求項6記載の製鋼用電気炉と取鍋アーク
精錬装置との組合せによる鋼の精錬方法は、製鋼用電気
炉で酸化精錬をし、次いで取鍋アーク精錬装置で還元精
錬をする鋼の精錬方法において、製鋼用電気炉での酸化
精錬が終了した後、未脱酸状態で取鍋に出鋼し、次い
で、鋼を取鍋アーク精錬装置に移送し、取鍋内スラグに
対して、少なくとも、スラグ中のCaOモル分率とFe
Oモル分率との和が0.4〜0.7の範囲内にあるヒー
トを対象として、マグネシア源物質を取鍋内スラグに添
加し、当該スラグ中のMgOの重量%濃度を下記式: log(wt.%MgO)=1.65−1.39(NCaO
FeO ) 但し、wt.%MgO:スラグ中MgOの推定飽和重量%濃
度 NCaO :スラグ中CaOのモル分率濃度 NFeO :スラグ中FeOのモル分率濃度 で表わされる当該スラグ中MgOの推定飽和重量%濃度
以上、13重量%以下の濃度に調整し、こうして調整さ
れたスラグで鋼を還元精錬することに特徴を有するもの
である。
【0083】
【発明の実施の形態】次に、この発明の実施の形態を説
明する。この発明の実施の形態を、使用する精錬装置の
利用形態で分類すると、電気炉だけで鋼の精錬を完了
する場合と、電気炉及びこれに続く取鍋アーク精錬装
置の両方を用いる場合とに2分類する。そして、MgO
添加時期により及びのそれぞれを更に2分類する。
【0084】上記、いずれの場合においても、MgOの
添加量を、操作者の電気炉内部の観察や取鍋アークの観
察等、前ヒート終了後の炉内や取鍋内の状況観察、及び
操業経験のみにより決定する方法が従来とられている
が、この発明では、耐火物の溶損保護をより適切に行な
うために、従来の方法に望ましくはMgO源物質の添加
量を決めるのに、下記方法を併用するものである。
【0085】〔1〕電気炉だけで鋼の精錬を完了する場
合を、MgO源物質を添加する時期により下記の2ケー
スに分ける。 ケース〔A〕:MgO源物質を精錬期に添加する場合 (1)MgO源物質の添加は、酸化精錬期の初頭で行な
う。
【0086】(2)電気炉で酸化精錬のみ、又は酸化精
錬及び還元精錬を行なった後、出鋼期に合金鉄添加及び
脱酸を行ない、取鍋に出鋼を完了したらヒートを終了す
る。 (3)上記(1)のMgO源物質の添加量を下記の手順
で決める。
【0087】(3)−1.製鋼用電気炉の精錬過程にお
いて、溶解期後期から酸化精錬期にかけてスラグをサン
プリングする。次いで、採取されたスラグサンプルにつ
いて、FeO、Fe2 3 、CaO、MgO、Si
2 、MnO、Al2 3 及びP 2 5 の8成分の濃度
を分析する。
【0088】(3)−2.得られたスラグの分析値(w
t.%)を用いて、各成分のモル分率を算出する。 (3)−3.得られたCaO及びFeOのモル分率の値
(NCaO 及びNFeO )を、下記実験式(4’)式: log(wt.%MgO)’=1.65−1.39(NCaO +NFeO ) ----------------------(4’) に代入して、(wt.%MgO)’cal の値を求め、この値
と上記(3)−1項で得られたスラグ中MgO濃度(w
t.%)の分析値(wt.%MgO)’obs の値とを下記
(5’)式: Δ(wt.%MgO)’=(wt.%MgO)’obs −(wt.%MgO)’cal --------------------(5’) に代入して、Δ(wt.%MgO)’の値を求める。ここ
で、Δ(wt.%MgO)’の値は、精錬中の現実のスラグ
中MgO濃度の飽和濃度(飽和溶解度)からのずれを示
す。
【0089】(a)Δ(wt.%MgO)’=0のとき スラグ中のMgOが飽和溶解度に達していると判断す
る。この場合は、原則、MgO源物質をスラグに添加し
なくてよい。但し、炉床、炉壁、取鍋等の耐火物が溶損
されている場合は、操業条件に応じた判断に基づき、飽
和溶解度以上にMgO濃度を過剰に添加し(例えば、+
1〜+2wt.%程度)、耐火物を保護する。
【0090】(b)Δ(wt.%MgO)’<0のとき スラグ中のMgOが飽和溶解度に達しておらず、スラグ
によって耐火物が溶損される可能性が強いと判断する。
この場合は、MgO源物質をスラグに添加してスラグ中
MgO濃度を飽和又は過飽和にする。そのために、軽焼
ドロマイト等のMgO源物質を用いて、Δ(wt.%Mg
O)’の絶対値のMgO濃度以上のMgO分をスラグに
添加する。望ましくは、MgO濃度の過飽和分は+1〜
+2wt.%になるよう調節する。
【0091】(c)Δ(wt.%MgO)’>0のとき スラグ中のMgOが飽和溶解度を超えており、(Mg
O)の一部は固体状態で溶融スラグ中に存在しており、
炉床、炉壁、取鍋等のスラグによる耐火物溶損は少ない
と判断する。
【0092】MgO源物質のスラグへの添加量z(kg
/t)は、下記(6)式: (ws ×M1 )+(z×M2 )=(ws +z)×M0 ----------(6) 但し、ws :添加前のスラグ量(kg/t) M1 :添加前のスラグ中のMgO濃度の分析値(wt.%) M2 :MgO源物質中のMgO含有率(wt.%) M0 :添加後のスラグ中の目標MgO濃度(wt.%) により算出する。
【0093】また、軽焼ドロマイトのようなMgO源物
質の添加に付随して入るCaO分によりNCaO +NFeO
の値が大きくなる。従って、実験式(4’)で求められ
る(wt.%MgO)’cal は、MgO源物質添加前の(w
t.%MgO)’cal よりも小さくなり、式(5’)で計
算されるΔ(wt.%MgO)’がMgO源物質添加前より
も大きくなる。即ち、スラグ中MgO濃度はより過飽和
の方向に移動する。よって、MgO源物質添加に伴なう
スラグ中CaO濃度の上昇は、耐火物溶損抑制に有利に
作用する。
【0094】なお、スラグに添加するMgO源物質とし
ては、軽焼ドロマイトの他、主要成分としてMgOを含
む耐火物の屑等、前述したMgO含有物質の選定条件を
満たす物質を使用してもよい。但し、Δ(wt.%Mg
O)’>0の場合は既にスラグ中MgO濃度は飽和溶解
度を超えているから、前ヒート終了後の耐火物溶損状況
や当該ヒートの精錬条件(出鋼温度目標値等)を考慮
し、余分なコストがかからないようにすべきである。
【0095】上述した方法により、適切量のMgO源物
質を電気炉スラグに添加し、電気炉耐火物の溶損を抑
制、保護する。ケース〔A〕は、請求項1の発明の実施
形態に対応する。
【0096】ケース〔B〕:MgO源物質を溶解期に添
加する場合 (1)この方法は、MgO源物質の添加を原料装入時又
は溶解期に行なう。また、必要に応じ酸化期にも補充添
加する。
【0097】(2)原料装入時又は溶解期で既にMgO
を添加しているので、スラグ中のMgO濃度を有効に保
持するため、溶落ちに入る前での排滓は行なわない。但
し、メタル中のP又はS濃度が高い場合にはその限りで
ない。
【0098】(3)電気炉で酸化精錬のみ、又は酸化精
錬及び還元精錬を行なった後、出鋼期に合金鉄添加及び
脱酸を行ない、取鍋に出鋼を完了し、ヒートを終了す
る。これは、ケース〔A〕の(2)と同じである。
【0099】(4)このケースで、MgO源物質をスラ
グ生成以前に添加を行なう場合は、MgO源物質の添加
量の決定は、電気炉での精錬条件が同じないし類似のそ
れ以前の多数ヒートの操業データに基づいて行なう。但
し、溶落ちに入る前に排滓を行なった場合は、スラグの
分析結果を用い、ケース〔A〕の(3)と同じ手順でM
gO添加量を決め、酸化期に添加する。
【0100】こうして、電気炉耐火物の溶損を抑制、保
護する。ケース〔B〕で溶落ち直前に排滓をしない場合
が請求項2、そして溶落ち直前に排滓をする場合が請求
項3の発明の実施形態に対応する。
【0101】〔2〕電気炉及び取鍋アーク精錬装置で精
錬する場合を、精錬プロセスにより大きく2つの精錬プ
ロセスに分ける。即ち、第1のプロセスは、電気炉では
酸化精錬までを行ない、未脱酸で出鋼し、取鍋アーク精
錬装置で還元精錬をする、通常の電気炉+取鍋アーク精
錬装置を用いるプロセスであり、第2のプロセスは、電
気炉で酸化精錬は行なうが、電気炉ではMgO源物質を
添加せず、未脱酸で出鋼し、取鍋アーク精錬装置で還元
精錬をするプロセスとに分ける。そして、両プロセスを
それぞれ、MgO源物質の添加時期、及び電気炉の設備
・工程運用の特殊性により更に2ケースずつに分ける。
【0102】〔2〕−1.第1のプロセスを、MgO源
物質を酸化精錬初期に添加するケース〔C〕と、MgO
源物質を溶解期に添加するケース〔D〕とに分ける。 ケース〔C〕:MgOを電気炉で精錬期に添加する場合 (1)この方法は電気炉における精錬を酸化精錬までに
留め、出鋼後、取鍋精錬を施すものである。この方法で
は、電気炉内へのMgO源物質の添加を酸化精錬初期に
行なうが、ケース〔A〕の(3)と同様にスラグ分析に
よりスラグ中のNCaO +NFeO を算出し、(4’)式及
び(5’)式に基づきΔ(wt.%MgO)’の値を求め、
スラグ中MgOの飽和溶解度からのずれを調整し、Mg
O源物質添加量を求め、電気炉耐火物の溶損を抑制す
る。
【0103】(2)次いで、取鍋に出鋼後、必要に応じ
除滓し、取鍋アーク精錬装置へ移行する。スラグ量が多
いとき、溶鋼中P、S含有率が高いとき、あるいはスラ
グ中のSiO2 濃度が高いときなどでは除滓する。
【0104】今度は取鍋内スラグに対して、上記と同様
の方法でΔ(wt.%MgO)’の値を求め、必要に応じて
MgO源物質を補充添加する。ここで、MgO源物質の
添加及び溶解は、媒溶材と同じ時期に行なうことが重要
である。こうして、取鍋耐火物の溶損を抑制する。
【0105】(3)この方法は、電気炉における精錬を
酸化精錬までに留め、未脱酸にて出鋼後、取鍋精錬を施
す場合に効果を発揮するものである。ケース〔C〕の方
法は、請求項4の発明の実施形態に対応する。なお、実
施例10で、この方法を具体的に説明する。
【0106】ケース〔D〕:MgOを電気炉で溶解期に
添加する場合 (1)この方法は、電気炉内へのMgO源物質の添加方
法として原料装入時又は溶解期にMgO源物質を添加
し、媒溶材と共に溶解させてスラグを形成させる方法で
ある。この際、MgO源物質の添加量は、過去の操業実
績値及び媒溶材の配合量から適切な量を推定する。
【0107】なお、炉内スラグをサンプリングし、ケー
ス〔A〕の(3)に準じてΔ(wt.%MgO)’の値を求
め、スラグ中MgOの飽和溶解度からのずれを把握し、
操業条件によってはMgO源物質を添加する。ここで、
MgO源物質の添加及び溶解は、媒溶材と同じ時期に行
なうことが重要である。
【0108】(2)この方法では、原料装入時又は溶解
期で既にMgOを添加しているので、スラグ中のMgO
濃度を有効に保持するため、溶落ちに入る前での排滓は
行なわない。但し、メタル中のP又はS濃度が高い場合
にはその限りでない。
【0109】(3)次いで、取鍋に出鋼後、取鍋内スラ
グに対して、ケース〔A〕の(3)に準じてΔ(wt.%M
gO)’の値を求め、スラグ中MgOの飽和溶解度から
のずれを把握し、必要に応じてMgO源物質を補充添加
する。ここでも、MgO源物質の添加及び溶解は、媒溶
材と同じ時期に行なうことが重要である。こうして、取
鍋耐火物の溶損を抑制する。ケース〔D〕の方法は、請
求項5の発明の実施形態に対応する。なお、実施例11
で、この方法を具体的に説明する。
【0110】上記ケース〔C〕及び〔D〕の場合は通
常、取鍋内の溶鋼及びスラグの温度は低目であるから、
スラグ中MgOの飽和溶解度の推定時に、実験式(4)
を適用するに際し温度補正操作をケース〔A〕の(3)
の手順に追加する必要がある。その温度補正方法は実施
例11に例示した。
【0111】〔2〕−2.第2のプロセスは、電気炉の
設備・工程運用上の特殊性により、電気炉では酸化精錬
をできるだけ短時間で終了させ、MgO源物質を電気炉
には添加せずに出鋼し、取鍋アーク精錬時にのみに添加
するものである。ケース〔E〕と〔F〕とに分ける。
【0112】ケース〔E〕:MgO源物質貯蔵用設備に
制約があるとき (1)この方法は、副原料貯蔵用設備に余裕がなく、M
gO源物質を取扱い得ない場合等の操業方法がこれに該
当する。そして、連続鋳造工程で生産能力に余裕があ
り、電気炉の能率を更に高めることを要求される場合、
電気炉は酸化精錬のまま未脱酸で出鋼し、出鋼時に溶鋼
の酸化防止のため、Si−Mnを1.5kg/t程度を
炉内又は取鍋に添加する。電気炉では還元精錬をしない
ので、製鋼時間が短縮される。この場合は、取鍋アーク
精錬装置で還元精錬を行ない、スラグ中のFe及びMn
分を還元回収する。また、合金鉄より添加されるSi、
Mn及びCr等の歩留を高め、脱酸、脱硫を促進させ
る。
【0113】(2)電気炉では酸化精錬のまま未脱酸で
出鋼する。出鋼前にスラグをサンプリングし、ケース
〔A〕の(3)に準じてスラグ中MgO濃度の飽和溶解
度からのずれを求め、MgO源物質添加量をきめる。取
鍋内スラグを除滓せずに取鍋アーク精錬装置に移す。取
鍋精錬初期に取鍋に媒溶材を添加し、次いでMgO源物
質を添加し、取鍋精錬により仕上げる。なお、実施例1
2でケース〔E〕の具体的な方法を説明する。
【0114】ケース〔F〕:電気炉の床直しを必要とす
るとき (1)この方法は、電気炉の操業期間中に石灰などが堆
積して炉床が隆起し、浴の深さが浅くなることがしばし
ば発生する。このようになると、炉内容量が減少し、所
定の装入量を装入することができなくなる。そこで、炉
床を下げるための「床直し」が必要となる。この場合は
電気炉にはMgO源物質を添加せず、酸化精錬のまま未
脱酸で出鋼する。出鋼期には、溶鋼の酸化防止のためS
i−Mnを1.5kg/t程度取鍋に添加する。この場
合もケース〔E〕と同様、取鍋アーク精錬装置で還元精
錬を行ない、スラグ中のFe及びMn分を還元回収す
る。また、合金鉄より添加されるSi、Mn及びCr等
の歩留を高め、脱酸、脱硫を促進させる。
【0115】(2)電気炉では酸化精錬をしたまま未脱
酸で出鋼する。出鋼前にスラグをサンプリングし、ケー
ス〔A〕の(3)に準じてスラグ中MgO濃度の飽和溶
解度からのずれを求め、MgO源物質添加量をきめる。
この場合は出鋼後、取鍋内スラグを除滓する点において
ケース〔E〕とは異なる。次いで取鍋アーク精錬装置に
移送し、媒溶材と共にMgO源物質を取鍋に添加し、取
鍋精錬により仕上げる。実施例13でケース〔F〕の具
体的な方法を説明する。
【0116】ケース〔E〕及びケース〔F〕は請求項6
の実施形態に対応する。次に、この発明においては、電
気炉又は取鍋内スラグの成分組成において、CaOとF
eO濃度の和がNCaO +NFeO =0.4〜0.7の範囲
内にある場合に限定した理由を説明する。
【0117】1.NCaO +NFeO ≧0.4とした理由 表7は、電気炉での酸化精錬初期のスラグ中NCaO +N
FeO が、0.421のヒート例のスラグ分析結果を示
す。
【0118】
【表7】
【0119】表7に見られるように、スラグ中CaO濃
度が30.38wt.%と低いため、塩基性酸化物の濃度和
CaO +NFeO は低く、スラグ中MgO濃度は15wt.%
と高く、スラグの流動性も低下し、硬化し易いものであ
った。またその飽和溶解度も高い領域に達している。こ
のことは、炉体内張り耐火物が多く溶損されていること
を示しており、更に、このスラグの塩基性酸化物濃度は
CaO =0.323、NFeO =0.098といずれも低
いため、スラグ−メタル間の硫黄の分配係数(S)/
〔S〕が0.526と低い。即ち、スラグ中の硫黄濃度
(S)=0.040wt.%、メタル中の硫黄濃度〔S〕=
0.076wt.%であり、通常の電気炉操業における硫黄
分配係数の平均値が2.7であったことを考慮すると、
スラグの脱硫能が著しく低下している。これに対して、
リンの分配係数(P)/〔P〕は6.40を示した。こ
のときのスラグ及びメタル中P濃度はそれぞれ、(P)
=0.096wt.%、〔P〕=0.015wt.%であり、ス
ラグの脱リン能は残っている。
【0120】このような成分組成のスラグは、MgO系
耐火物を多く溶損し、精錬機能として脱リン能は保持す
るものの、脱硫能はない。従って、NCaO +NFeO
0.4ではもはや塩基性電気炉スラグとしての特性がな
くなってしまう。これらの事実を総合的に勘案し、この
発明ではスラグの塩基性酸化物の濃度和NCaO +NFeO
の下限を0.4に決めた。
【0121】2.NCaO +NFeO ≦0.7とした理由 表8は、電気炉での酸化精錬初期のスラグ中NCaO +N
FeO が、0.672のヒートのスラグ分析結果を示す。
【0122】
【表8】
【0123】表8に見られるように、このヒートは高塩
基性酸化物濃度のスラグを形成させた場合の例であり、
スラグの組成が耐火物の溶損に与える影響、並びに脱硫
及び脱リン等の精錬機能に与える作用を述べる。
【0124】スラグの主要組成は、CaO=41.20
wt.%、FeO=24.34wt.%及びMgO=6.20w
t.%である。スラグの塩基性酸化物の濃度和NCaO +N
FeO は、0.672と高い。そしてMgO濃度は6.2
0wt.%と低く、耐火物の溶損が少ないことを示してい
る。このスラグの塩基性酸化物濃度はNCaO =0.46
0、NFeO =0.212といずれも高く、実際操業にお
いてNCaO +NFeO =0.672はかなり高いレベルで
ある。
【0125】原料を厳選してSiO2 及びAl2 3
の減少を計画してもその値は僅かである。屑鉄へのSi
2 及びAl2 3 の付着除去、Al缶の混入防止、電
気炉スラグの更新等を継続しなければ、NCaO +NFeO
が0.7を超えることはできず、製造コスト面からかな
りの負担になる。
【0126】精錬面においては、NCaO =0.460、
FeO =0.212、NCaO +NFe O =0.672であ
るスラグは、メタル−スラグ間の硫黄の分配係数(S)
/〔S〕が4.22であり、通常の電気炉操業における
硫黄の分配係数の平均値が2.7であったことを考慮す
るとかなり高い。リンの分配係数(P)/〔P〕は4
3.21であり、その平均値27より大幅に向上してい
る。このようにこの場合のスラグの精錬機能は優れてい
る。
【0127】上述したように、耐火物の溶損、並びに脱
硫及び脱リン等の精錬機能、及び、屑鉄へのSiO2
びAl2 3 といった不純物の混入等を勘案して、この
発明ではスラグの塩基性酸化物の濃度和NCaO +NFeO
の上限を0.7に決めた。
【0128】
【実施例】次に、この発明を、実施例によって更に詳細
に説明する。上記実施の形態に準じて、この発明の範囲
内の電気炉操業方法の試験を実炉で行なった。なお、実
施例は電気炉においてC吹込みを行なった場合を主とし
て示し、そしてC吹込みを行なわなかった場合も一部例
示した。
【0129】なお、C吹込みを行なった実施例におい
て、スラグ中のMgO濃度分析値の飽和溶解度からの不
足のずれに対してMgO源物質を添加する場合には、耐
火物溶損の抑制に関して本発明によるMgO分の必要最
小添加量よりも多く添加して安全サイドのアクションを
とった。即ち、具体的には、実験式(2)によるMgO
濃度の飽和溶解度からのずれを補正した。
【0130】〔1〕電気炉だけで精錬する場合の実施例
(但し、C吹込みを行なった場合) 鋼を精錬中の電気炉において、溶解末期及び酸化精錬期
の所定時点において、電気炉炉内の溶融スラグサンプル
を採取し、これを迅速分析し、得られた分析値を用いて
CaO +NFeO の値を算出し、これを用いてC吹込みを
行なった場合の実験式である(2)及び(3)式から算
出されるΔ(wt.%MgO)を求めた。更に、C吹込みを
行なわなかった場合の実験式である(4’)式中のN
CaO +NFe O に、上記と同じNCaO +NFeO の値を代入
して(wt.%MgO)’を求めてこれを前述したように
(wt.%MgO) cal ' と表記して、(5’)式からΔ
(wt.%MgO)’の値を求めた。そして、各実施例(実
施例1〜6、実施例8及び9)について、Δ(wt.%Mg
O)とΔ(wt.%MgO)’とを比較した。
【0131】その結果、Δ(wt.%MgO)’とΔ(wt.%
MgO)との差をΔQで表記すると(ΔQ≡Δ(wt.%M
gO)’−Δ(wt.%MgO))、ΔQの値は小さいこと
がわかった。一方、スラグ中MgO濃度の飽和溶解度か
らの未飽和分のずれを無くすための調整として、この発
明によれば、実際の操業ではC吹込みを行なわなかった
場合の実験式である(4’)式から求められたΔ(wt.%
MgO)’に基づいてMgO源物質の添加量を決めれば
よい。しかし、この実施例1〜6、実施例8及び9では
試験ヒートであることを考慮し、MgO源物質の添加量
としてはC吹込みを行なった場合の実験式である(2)
式から求められたΔ(wt.%MgO)に基づいてMgO源
物質の添加量を決めることにした。
【0132】次いで、当該ヒートの操業条件を考慮し
て、スラグ中の目標MgO濃度((5’)式のM0 )を
最終的に決定した。そして、添加前の推定スラグ量
((5’)式のWs )(kg/t)、添加前のスラグ中
のMgO濃度の分析値((5’)式のM1 )(wt.%)、
及び使用するMgO含有物質中のMgO含有率
((5’)式のM2 )(wt.%)を用いて、スラグへ添加
すべきMgO含有物質の重量((5’)式のz)(kg
/t)を求め、電気炉に当該MgO含有物質を投入し
た。MgO含有物質としては、軽焼ドロマイト塊状品、
軽焼ドロマイト粉粒品、又はMgO煉瓦屑のいずれか1
種を使用した。表9及び10に、実施例1〜6、8及び
9の主な試験条件及び試験結果を示す。
【0133】なお、本発明の範囲外の方法である比較例
1の試験も行ない、その主な試験条件及び試験結果を、
表10に併記した。
【0134】
【表9】
【0135】
【表10】
【0136】(実施例1):請求項1に対応 スラグ分析結果からの算定値NCaO =0.446、N
FeO =0.109、NCa O +NFeO =0.555によ
り、Δ(wt.%MgO)=(wt.%MgO)obs −(wt.%M
gO)cal =8.30−8.32≒0が得られた。従っ
て、(MgO)濃度は飽和溶解度に丁度達しており、M
gO源の添加の必要はないと判断した。そこで、還元精
錬期用石灰(CaO)のみを7.5kg/t添加し、還
元精錬を行ない、順調に出鋼した。
【0137】(実施例2):請求項1に対応 スラグ分析結果からの算定値NCaO =0.398、N
FeO =0.132、NCa O +NFeO =0.530によ
り、Δ(wt.%MgO)=(wt.%MgO)obs −(wt.%M
gO)cal =9.10−9.23≒0が得られた。従っ
て、(MgO)濃度は飽和溶解度にほぼ等しいが、炉床
及びスラグライン部に2〜3ヒート前から溶損が部分的
に認められてきていたので、軽焼ドロマイト塊を用い、
MgO濃度=+1wt.%を酸化精錬期に添加してスラグ中
のMgO濃度を高め、スラグコーティング法による部分
的溶損部の補修を行なった。出鋼後、炉内観察をしたと
ころ、スラグが焼き付いており十分効果が認められた。
また、軽焼ドロマイトを添加しても還元精錬には何ら影
響はなく、順調に出鋼した。
【0138】(実施例3):請求項2に対応 実施例2で炉床及びスラグライン部の溶損部位をスラグ
コーティング法により補修しているので、軽焼ドロマイ
ト塊を3kg/t溶解期に添加し、無排滓作業を継続し
た。
【0139】そして、スラグ分析結果からの算定値N
CaO =0.455、NFeO =0.101、NCaO +N
FeO =0.556により、Δ(wt.%MgO)=(wt.%M
gO)ob s −(wt.%MgO)cal =6.40−8.28
=−1.88wt.%が得られた。(MgO)濃度は飽和溶
解度より低く、MgO濃度=1.88wt.%を追加添加し
た。出鋼後、炉内観察をした結果、炉床部及びスラグラ
イン部共に異常は認められず、スラグが十分焼きついて
おり(MgO)を添加することが有効であることが確認
された。酸化精錬のまま出鋼し、出鋼時取鍋に合金鉄を
添加し、成分調整及び脱酸を行ない仕上げた。
【0140】(実施例4):請求項3に対応 溶解末期に脱Pのためにスラグの一部を除滓した。スラ
グ分析結果からの算定値NCaO =0.412、NFeO
0.113、NCaO+NFeO =0.525により、Δ(w
t.%MgO)=(wt.%MgO)obs −(wt.%MgO)
cal =8.20−9.43=−1.23wt.%が得られ
た。従って、(MgO)濃度は飽和溶解度より低い。軽
焼ドロマイト粉粒品をスラグラインの補修を目的に溶解
末期のスラグ中に、中圧空気(4〜5Kg/cm2 )に
て吹込み、MgO濃度を1.23wt.%だけ高めた。
【0141】軽焼ドロマイトの粉粒品は、粒度最大≒
6.7mm程度で、塊状品の径≒30mmに比べて細か
いため溶解性能はよく、スラグに速やかに溶けた。スラ
グラインの溶損部にもよく付着し、スラグコーティング
性能も塊状軽焼ドロマイトと比べて遜色ないことが判明
し、MgO添加源として十分使用可能である。また、粉
粒品を添加しても還元精錬には何ら影響なく、順調に出
鋼した。
【0142】(実施例5):請求項6に対応 スラグ分析結果からの算定値NCaO =0.420、N
FeO =0.121、NCa O +NFeO =0.541によ
り、Δ(wt.%MgO)=(wt.%MgO)obs −(wt.%M
gO)cal =9.70−8.82=+0.88wt.%が得
られた。従って、(MgO)濃度は飽和溶解度以上の過
飽和状態となっており、スラグ中に固体のMgO系耐火
物の小粒子が存在しているのが観察された。MgO濃度
をこれ以上にする必要がないのでMgO源物質は添加せ
ず、石灰のみを添加して順調に出鋼した。出鋼後炉内を
観察したが、スラグライン、炉床共に異常なかった。そ
の後、取鍋精錬に際し、除滓後初期にCaOと一緒に軽
焼ドロマイト3.5kg/tを添加した。取鍋精錬につ
いては実施例10〜13及び15にて詳しく後述する。
【0143】(実施例6):請求項1に対応 スラグ分析結果からの算定値NCaO =0.506、N
FeO =0.123、NCa O +NFeO =0.629によ
り、Δ(wt.%MgO)=(wt.%MgO)obs −(wt.%M
gO)cal =7.90−6.10=+1.80wt.%が得
られた。スラグを採取して観察したところ、小粒子の固
体のMgO系耐火物がふくまれており、スラグ中のMg
O濃度は過飽和状態になっていた。前ヒート出鋼後スラ
グライン、炉床共に異常がなかったので、MgO源物質
は添加せず、石灰のみを添加して酸化精錬のまま出鋼し
た。取鍋は実施例3と同様に処理した。出鋼後炉内を観
察したが、スラグライン、炉床共に良好であった。
【0144】(比較例1)NCaO +NFeO の下限値及び
スラグ中MgO濃度の上限値を示す例である。スラグ分
析結果からの算定値NCaO =0.313、NFeO =0.
091、NCaO+NFeO =0.404により、Δ(wt.%
MgO)=(wt.%MgO)obs −(wt.%MgO)cal
14.30−15.65=−1.35wt.%が得られた。
スラグ中の塩基性酸化物CaO及びFeO濃度が共に低
いため、スラグ中のMgOの飽和溶解度15.65wt.%
と推定される。これに対して実測値は、MgO濃度=1
4.30wt.%で飽和溶解度に達していなかった。スラグ
量も多く、スラグライン部及び炉床部の溶損が生じてい
ることが推測された。スラグ量(53kg/t)をこれ
以上大幅に増加させると還元精錬時間が5分程度延長す
るので、MgO含有率の高いマグネシア煉瓦屑の破砕品
を酸化精錬期にドロマイトに代えてMgO源物質として
使用し、スラグ量の増加を抑えた。この煉瓦屑の成分
は、MgO=75.2wt.%、CaO=12.3wt.%、S
iO2 =3.5wt.%、及びAl2 3 =2.9wt.%であ
る。スラグのMgO濃度を+1.35wt.%上昇させて飽
和溶解度まで高めるために、上記マグネシア煉瓦屑を
1.20kg/tスラグに添加した。
【0145】マグネシア煉瓦屑はスラグによく溶解し、
塊状物として残存しなかった。この場合は、スラグ中M
gOの飽和溶解度の推定を、実験式(4’)を用いる
と、Δ(wt.%MgO)’=(wt.%MgO)obs ’−(w
t.%MgO)cal ’=14.30−12.26=2.0
4wt.%が得られ、スラグ中MgO濃度は、飽和溶解度以
上になっていると評価される。しかし、この試験では耐
火物溶損を一層抑制することと、スラグの物理的特性を
調べることとを目的として、飽和溶解度を実験式(2)
で推定した。スラグのMgO濃度は15wt.%以上とな
り、スラグの流動性は低下し、スラグライン及び炉床に
スラグが付着しており、溶損の進行を食い止めることが
できた。しかし、このヒートのスラグは明らかに高Mg
O含有スラグであり、硬く排出しにくい性状のものであ
った。
【0146】酸化精錬末期脱リン、脱硫状況は次の通り
である。 〔P〕=0.029wt.%、(P)=0.087wt.%、 (P)/〔P〕=3.00 〔S〕=0.056wt.%、(S)=0.040wt.%、 (S)/〔S〕=0.714 脱リン及び脱硫の精錬機能は低下している。
【0147】(実施例8):請求項1に対応 酸化精錬初期に、軽焼ドロマイト塊を2.0kg/t添
加した。スラグ分析結果からの算定値NCaO =0.48
6、NFeO =0.166、NCaO+NFeO =0.652
により、Δ(wt.%MgO)=(wt.%MgO)obs −(w
t.%MgO)cal =6.70−5.54=+1.16wt.
%が得られた。スラグ中のCaO、FeOのモル分率濃
度和は0.652と高い値を示している。そのため、M
gO濃度の値は5.54wt.%と低く、スラグ中のMgO
濃度が6.70wt.%とそれほど高くないにも関わらずM
gOの飽和溶解度以上に存在しており、スラグ中に小粒
の固体MgOが認められた。MgO源物質の添加は必要
なかった。石灰のみを添加して還元精錬を行ない順調に
出鋼した。出鋼後の炉内観察をしたが、耐火物の異常溶
損はなかった。
【0148】酸化精錬末期脱リン、脱硫状況は次の通り
である。 〔P〕=0.003wt.%、(P)=0.336wt.%、 (P)/〔P〕=112.02 〔S〕=0.032wt.%、(S)=0.190wt.%、 (S)/〔S〕=5.938 脱リン及び脱硫の精錬機能は高く、スラグ−メタル間反
応は十分行なわれている。
【0149】(実施例9):請求項1に対応 スラグ分析結果からの算定値NCaO =0.462、N
FeO =0.172、NCa O +NFeO =0.634によ
り、Δ(wt.%MgO)=(wt.%MgO)obs −(wt.%M
gO)cal =3.86−5.97=−2.11wt.%が得
られた。スラグ中のCaO、FeOのモル分率濃度和は
0.634とかなり高い値を示している。そのため、M
gO濃度は5.97wt.%とかなり低いが、スラグ中のM
gO濃度が3.86wt.%と低いので、スラグ中のMgO
濃度は、飽和溶解度より低い。スラグライン部、出鋼孔
周りの耐火物の溶損防止を目的に、酸化精錬期のスラグ
中に中圧空気(4〜5Kg/cm2 )にて軽焼ドロマイ
ト粉粒品を吹き込み、スラグ中にMgOを添加し溶解し
た。スラグの(wt.%MgO)を+2.11wt.%上昇させ
て飽和溶解度まで高めるために、軽焼ドロマイト粉粒品
を3.6kg/t吹き込んだ。
【0150】軽焼ドロマイト粉粒品はスラグへの溶解性
能は優れており、速やかに溶けた。このスラグはその後
の精錬にも全く支障はなく、順調に出鋼した。取鍋内に
合金鉄を添加し、成分調整及び脱酸を行なった。軽焼ド
ロマイトを添加し、処理したスラグは、スラグライン部
及び出鋼孔周辺の耐火物によく焼き付き、耐火物の補修
をすることができた。
【0151】〔2〕電気炉精錬と取鍋アーク精錬との組
合せで精錬する場合の実施例(但し、電気炉でC吹込み
を行なった場合) 次に、電気炉操業において、電気炉にて仕上げをせず出
鋼後、取鍋内にて還元精錬を行ない、そして仕上げ作業
を行なうプロセスがあり、この方法を実施した。この
際、取鍋内張り耐火物が浸食されるので、本発明の方法
を適用した。なお、本発明の範囲外の方法である比較例
2の試験も行なった。
【0152】この〔2〕においても、〔1〕の場合と同
様、MgO源物質の添加量は、耐火物の溶損とスラグの
流動特性とを調べる目的で、MgO量を多く必要とする
C吹込みを行なった場合の実験式である(2)式から求
められたΔ(wt.%MgO)に基づいてMgO源物質の添
加量を決めることにした。表11に比較例2の主な試験
条件及び試験結果を、そして表12並びに13のそれぞ
れに実施例11並びに実施例12及び13の主な試験条
件及び試験結果を示す。
【0153】
【表11】
【0154】
【表12】
【0155】
【表13】
【0156】(比較例2) [1] スラグ分析結果からの算定値NCaO =0.350、
FeO =0.149、NCaO +NFeO =0.499によ
り、Δ(wt.%MgO)=(wt.%MgO)obs −(wt.%M
gO)cal =8.80−10.51=−1.71wt.%が
得られた。スラグ中のMgO濃度は飽和溶解度には達し
ていない。前ヒート出鋼後の炉内観察によりスラグライ
ン及び炉床共に溶損が少ないことが判明していたので、
スラグにMgO源物質を添加せずに、酸化精錬終了のま
ま取鍋に出鋼した。出鋼時、取鍋にSi−Mn合金鉄を
1kg/t添加し、溶鋼の過酸化防止に努めた。そし
て、取鍋を取鍋精錬設備(レードル精錬設備)に運び、
除滓を行ない、取鍋内スラグ量を調整した。出鋼後炉内
観察を行なったところ、スラグライン及び炉床共溶損量
は許容限界内であった。炉耐火物の状態が良好であり、
且つ、出鋼までの精錬による耐火物溶損度が軽度であっ
たので、MgO源物質無添加でも耐火物溶損に問題がな
かった。
【0157】このように、スラグへのMgO分添加量の
決定は、スラグ中MgO濃度の飽和溶解度への不足分で
あるΔ(wt.%MgO)’の値を参考にしながら、対象耐
火物の現在の溶損状態、及び当該ヒート終了までの溶損
量予測や、スラグの流動性等の物性上の状況、当該電気
炉固有の事情である生産計画対象鋼種の仕様等を総合的
に判断して実施すべきである。
【0158】[2] 引き続き、取鍋に蓋をかぶせ、外気を
遮断し、MgO源物質は添加せず電極加熱により還元精
錬を行なった。媒溶材としてCaOを、還元剤として含
Alアルミナ、炭化ケイ素、及び炭素粉を添加し、スラ
グ中の酸化鉄、MnOを還元し、脱硫、脱酸を行なう。
この時、溶鋼中にN2 又はアルゴンガスを取鍋底部より
吹き込み、溶鋼を撹拌しながら溶鋼の成分及び温度を調
整・管理し、最後にSi−Mn及びFe−Si等の合金
鉄を添加し、仕上げた。表14に、媒溶材のCaO、還
元剤及び合金鉄の使用原単位、組成、及び成分別添加量
の目標例を示す。
【0159】
【表14】
【0160】このヒートの仕上げスラグ組成は、塩基度
(CaO(wt.%)/SiO2 (wt.%))=39.69/
24.41=1.62で、2以下である。しかも、Fe
O濃度が1.01wt.%と低いので、スラグ中MgOの飽
和溶解度は増大することが前述した解析結果から容易に
想定できる。実際に溶鋼の還元精錬処理後の取鍋スラグ
ライン部のMgO系耐火物は深く溶損されていた。スラ
グ分析の結果から、N CaO =0.435、NFeO =0.
009、NCaO +NFeO =0.444が得られ、Δ(w
t.%MgO)=9.85−13.24=−3.39wt.%
と負で絶対値の大きな値となり、スラグ中にMgO濃度
を増加させる必要があることが明らかとなった。
【0161】(4’)式を用いた場合でも、Δ(wt.%M
gO)=9.85−10.78=−0.93wt.%とな
り、スラグ中のMgO濃度を増加させる必要がある(表
4参照)。
【0162】取鍋精錬では、還元剤によりスラグ中のF
eO濃度が著しく低下し、塩基度≦2のときにはスラグ
中MgOの飽和溶解度は上昇し、MgO系耐火物は溶損
するので、軽焼ドロマイト又はMgO系煉瓦屑等のMg
O源物質を、媒溶剤と一緒に添加することが取鍋耐火物
の溶損防止策として重要である。
【0163】(実施例10):請求項4に対応 [1] スラグ分析結果からの算定値NCaO =0.327、
FeO =0.142、NCaO +NFeO =0.469によ
り、Δ(wt.%MgO)=(wt.%MgO)obs −(wt.%M
gO)cal =9.27−11.92=−2.65wt.%が
得られた。スラグ中のMgO濃度は飽和溶解度に達して
いない。スラグライン及び出鋼孔周りの耐火物保護を目
的に、酸化精錬期に軽焼ドロマイト塊状品を炉中に添加
した。その添加量は、スラグのMgO濃度を+2.65
wt.%上昇させて飽和溶解度まで高めるために、5.90
kg/tとした。軽焼ドロマイトの溶解後約4分で、酸
化精錬を終了したままの状態で、溶鋼及びスラグの一部
を炉内に残すホットヒール法で出鋼した。出鋼時、溶鋼
の過酸化防止のため、合金鉄Si−Mnを1kg/t取
鍋に投入した。出鋼後、炉内観察をしたところ、スラグ
ライン部の耐火物損傷箇所にスラグがよく焼き付き、ス
ラグコーティングされ、補修されており、ホットヒール
法にもドロマイト添加が有効であることがわかった。受
鋼後の取鍋は、取鍋アーク精錬装置に運び、スラグ量が
多かったので除滓を行ない、取鍋内スラグ量を調整し
た。
【0164】[2] 引き続き、取鍋に蓋を設置し、媒溶材
としてCaO=10kg/t、軽焼ドロマイト粉粒品3
kg/tを取鍋に添加し、外気を絶って電極加熱をしな
がら取鍋底部よりN2 ガス又はアルゴンガスの吹込みを
継続した。次に、スラグの還元剤として、含Alアルミ
ナ、炭化珪素、カーボン粉を添加し、還元精錬を行な
い、スラグ中の溶鋼の酸化鉄、(MnO)を還元し、脱
酸・脱硫を進めた。溶鋼の成分、温度及びスラグ組成等
を調整管理し、最後に合金鉄としてFe−Si及びSi
−Mnを添加し、精錬を完了した。
【0165】仕上げ後のスラグ成分を調査解析したとこ
ろ;NCaO =0.448、NFeO =0.011、NCaO
+NFeO =0.459、Δ(wt.%MgO)=(wt.%Mg
O)obs −(wt.%MgO)cal =12.14−12.4
3=−0.29wt.%であった。軽焼ドロマイト粉粒品の
使用量をxkg/tとし、スラグ量=20kg/tとす
ると、x=0.4kg/tとなるが、取鍋精錬初期に軽
焼ドロマイト3kg/tを添加しているので、取鍋精錬
終了後、スラグを分析し、検証したところ、取鍋精錬ス
ラグ中のMgO濃度は、飽和溶解度にほぼ達しており、
MgO源物質の追加添加は必要なかった。精錬終了後の
温度1640℃の溶鋼は脱ガス処理設備に移された。
【0166】軽焼ドロマイトを取鍋精錬初期に添加し、
スラグ中MgO濃度を高めることにより、取鍋内張り耐
火物の溶損を少なくすることができた。 (実施例11):請求項5対応 この実施例は、電気炉の操業において、下記特徴を有す
るものである。
【0167】電気炉の溶解精錬工程において、Fe歩
留を上げるため排滓を行なわず、MgO源物質を初期添
加する、 精錬時間を極力短縮し、溶鋼温度が1570℃に達し
たら直ちに出鋼する。出鋼時に合金鉄Fe−Siを、
1.5kg/t取鍋に投入する、 出鋼後、取鍋内スラグを除滓せず、取鍋精錬に入る。
取鍋精錬の適用目的は、温度及び成分調整のみである。
【0168】[1] このヒートは、溶解精錬工程において
排滓をしない操業であるため、MgO源物質は第1回の
装入後、CaO13kg/tと共に軽焼ドロマイト塊状
品で6.5kg/tを添加し溶解した。その後、屑鉄の
追加装入を繰り返し、O2 吹精を実施しながら溶解を進
めた。そして、溶落ちの約10分前に、CaOを10k
g/t添加し、C粉の吹込みをO 2 吹精に追加して開始
した。溶落ち後も、C粉の吹込みとO2 浴中吹精を継続
し、酸化昇熱を行ない、酸化精錬を実施した。溶鋼温度
が1570℃に達した時期にスラグ試料を採取し、その
後、含Alアルミナフラックスを加えて軽脱酸を行ない
出鋼した。出鋼時、溶鋼の過酸化防止のためにFe−S
iを1.5kg/t取鍋内溶鋼に添加した。
【0169】採取したスラグ試料の分析値は、表8に示
したとおりである。上記より、このスラグ分析値は15
70℃におけるスラグの成分組成である。ところで、前
記実験式(2)式は1640℃において求められたもの
であるから、上記スラグ分析値を用いるためには、
(2)式を1570℃での実験式に補正する必要があ
る。しかしながら、この温度補正は現状では極めて困難
である。そこで、便宜上、第1段階として、(2)式: log(wt.%MgO)=1.93−1.82(NCaO +NFeO ) ------------------------(2) は1570℃におけるスラグとMgO系耐火物との界面
においても近似的に適用されるものと仮想して、上記ス
ラグ分析値を(2)式に代入し、一旦(wt.%MgO)を
算出する(MgO濃度の算出値=10.78が得られ
る)。しかしながら、現実にはこうして得られた上記
(wt.%MgO)をそのまま1570℃におけるスラグ中
のMgO濃度であるとするのは無理があると考えられ
る。そこで、第2段階として、上記(wt.%MgO)の値
=10.78は1640℃における算定MgO濃度であ
るとし、これを下記(6)式の温度補正式を用いて15
70℃に温度補正して得られる値を、現実の1570℃
におけるスラグ中MgOの飽和溶解度と考えることにし
た。
【0170】即ち、スラグの既知の温度をT1 (℃)、
そのスラグ中の既知のMgOの溶解度をS1 (wt.%)と
し、スラグ温度がT2 (℃)に変化した場合におけるM
gOの推定溶解度をS2 (wt.%)とすると、下記(6)
式: log(S1 )−log(S2 )≒6000(1/T2 −1/T1 ) ----------------------(6) で近似することができる。上記(6)式を用いて、上記
1640℃における算定MgO濃度10.78wt.%を1
570℃に温度補正すると、7.29wt.%が得られる。
即ち、スラグ中のMgOの飽和溶解度の推定計算値は、
(wt.%MgO)ca l =7.29wt.%となる。従って、1
570℃において、Δ(wt.%MgO)=(wt.%MgO)
obs −(wt.%MgO)cal =6.75−7.29=−
0.54wt.%が得られた。
【0171】Δ(wt.%MgO)は−0.54wt.%であり
その絶対値が小さいので、スラグ中MgO濃度は飽和溶
解度からのずれが小さいと判断され、しかも出鋼温度が
低かった。そのため、炉床、炉壁及びスラグラインの溶
損は認められなかった。
【0172】[2] 次に、取鍋を取鍋アーク精錬装置へ搬
送した。取鍋精錬設備へ到着時の取鍋内溶鋼温度は、1
525℃であった。取鍋内溶鋼は出鋼時から取鍋底部よ
りArガスにより撹拌を継続した。取鍋精錬の開始時、
CaO添加に続き、軽焼ドロマイト塊状品を3.5kg
/t添加した。その後、昇熱を進め、Fe−Si及びS
i−Mnを添加し、溶鋼中Si濃度を0.15wt.%、M
n濃度を0.45wt.%に成分調整し、溶鋼温度を159
0℃まで加熱し、取鍋精錬を終了した。取鍋精錬終了
後、スラグを採取し分析した。
【0173】この場合のスラグ温度は1590℃とみな
される。そこで、スラグ中MgOの飽和溶解度を、上記
[1] と同じ方法で推定した。即ち、第1段階として、ス
ラグ分析結果から得られた算定値NCaO =0.454、
Feo =0.021、NCaO+NFeo =0.475を前
記実験式(2)に代入して、スラグ中MgOの飽和溶解
度を算出すると、11.63wt.%が得られた。第2段階
として、これを1590℃に温度補正すると、(wt.%M
gO)cal =8.78wt.%が得られた。従って、Δ(w
t.%MgO)=(wt.%MgO)obs −(wt.%MgO)
cal =8.60−8.78=−0.18wt.%が得られ
た。即ち、スラグ中MgO濃度は、飽和溶解度に対して
0.18wt.%だけ不足している。しかし、この値は小さ
いのでスラグ中へのMg源物質の追加添加はしなかっ
た。使用後の取鍋内張りMgO系耐火物の溶損は認めら
れなかった。
【0174】以上のように、実施例11では、軽焼ドロ
マイトのスラグ中への添加を、電気炉精錬及び取鍋精錬
共にその初期段階にて添加し操業した。このヒートは、
上記軽焼ドロマイト添加によりスラグ中MgO濃度はほ
ぼ飽和溶解度に近くなっていた例である。このように、
この電気炉操業方法における取鍋精錬の目的は昇熱温度
調整と成分(Si及びMn)組成の調整にした例であ
り、この場合にも本発明の方法は有効であることがわか
る。
【0175】(実施例12):請求項6に対応 [1] 電気炉で酸化精錬を行なった後、未脱酸にて取鍋に
出鋼した。このヒートは、電気炉ではMgO源物質をス
ラグに添加していない。スラグサンプルは出鋼前に採取
した。スラグ分析結果からの算定値NCaO =0.40
0、NFeO =0.109、NCaO +NFeO =0.509
により、Δ(wt.%MgO)=(wt.%MgO)obs −(w
t.%MgO)cal =9.12−10.08=−0.96w
t.%が得られた。出鋼後、電気炉の炉内を観察したとこ
ろ、炉床及びスラグライン共に局所的な溶損個所はな
く、一様に溶損されていた。電気炉の製鋼時間は、還元
精錬が省略されたので約4分短縮された。取鍋スラグは
除滓していないので、スラグ量は40kg/tと多い。
取鍋精錬初期にCaOを11kg/t添加した。次い
で、スラグ中MgO濃度の飽和溶解度に対する不足分の
MgOを補った。軽焼ドロマイトのブリケットの添加量
xkg/t=4.23kg/tを、方程式: (40 ×0.0912) +(x×0.2667)=(40 +x)×(0.0912 +0.
0096) より求め、取鍋に添加し溶解させた。この後、SiC及
び含Alアルミナ等の還元剤及び合金鉄としてSi−M
n及びFe−Siを取鍋内に添加して仕上げた。
【0176】[2] 取鍋精錬にて仕上げ後、スラグサンプ
ルを採取し分析・解析した。その結果は次のとおりであ
る。スラグ分析結果からの算定値NCaO =0.487、
FeO =0.015、NCa O +NFeO =0.502によ
り、Δ(wt.%MgO)=(wt.%MgO)obs −(wt.%M
gO)cal =11.24−10.38=0.86wt.%が
得られた。スラグ中のMgO濃度は、飽和溶解度以上で
過飽和になっていた。スラグ中のFeO、MnO含有量
は取鍋精錬前の分析値に比べ、還元され大幅に低減して
おり、スラグFe及びMnの回収率及び合金鉄歩留が良
いことが判明した。使用後の取鍋耐火物の溶損は少な
く、有効であることが判った。取鍋に付着したスラグは
透明な茶色を呈していた。このプロセスの短所は、除滓
しないので、スラグのリンが還元され、スラグ中のP2
5 濃度が低下し、復リンが起きる点にある。従って、
取鍋精錬に入る前のスラグの除滓の程度は溶鋼中のP濃
度を左右する重要な要因となる。S濃度についても除滓
の程度が多いほど、溶鋼中のS濃度は低下する。
【0177】(実施例13):請求項6に対応 [1] 溶解・精錬期を通じて電気炉内にMgO源物質を添
加せず、酸化精錬のまま未脱酸にて取鍋に出鋼した。ス
ラグサンプルは出鋼前に採取した。スラグ分析結果から
の算定値NCaO =0.457、NFeO =0.099、N
CaO +NFeO =0.556により、Δ(wt.%MgO)=
(wt.%MgO)obs −(wt.%MgO)ca l =6.67−
8.28=−1.61wt.%が得られた。炉内のスラグ
は、CaO濃度が高く、炉床にスラグが堆積し、炉床が
浅くなってきており、炉床を下げる必要があった。出鋼
後、炉内観察したところ、堆積石灰も溶損され小型化し
ておりこのMgO源物質添加なしの操業をしばらく継続
する必要があることが判った。出鋼後、取鍋内のスラグ
を除滓し、取鍋を取鍋アーク精錬装置へ移送した。
【0178】[2] 取鍋精錬にて石灰を13kg/t、軽
焼ドロマイト塊を6kg/t添加した。その後、温度を
上げながら還元剤としてSiC及び含Alアルミナを、
また合金鉄としてSi−Mn、Fe−Siを添加し、還
元精錬をして仕上げた。この間、スラグサンプルを採取
し、分析・解析した。その結果はつぎの通りであった。
スラグ分析結果からの算定値NCaO =0.484、N
FeO =0.010、NCa O +NFeO =0.494によ
り、Δ(wt.%MgO)=(wt.%MgO)obs −(wt.%M
gO)cal =10.83−10.73=0.10wt.%が
得られた。仕上げ後のスラグ中のMgO濃度は、飽和溶
解度以上で過飽和になっていた。スラグ中のFeO及び
MnO濃度は還元され低い値を示し、合金鉄の添加歩留
が良好であった。また、取鍋精錬に入る前にスラグを除
滓してあるため、P及びS濃度共に問題はなかった。使
用後の取鍋耐火物の溶損は少なく、軽焼ドロマイトの添
加が有効であった。
【0179】〔3〕電気炉だけで精錬する場合の実施例
(但し、電気炉でC吹込みを行なわなかった場合) 溶製鋼種の仕様や操業条件によっては、電気炉において
C粉の吹込みを行なわない。このような場合の実施例に
ついて説明する。この場合には、電気炉でC吹込みを行
なわなかった場合の実験式である下記(4’)式、及び
(5’)式: log(wt.%MgO)’=1.65−1.39(NCaO +NFeO ) ----------------------(4’) Δ(wt.%MgO)’=(wt.%MgO)’obs −(wt.%MgO)’cal --------------------(5’) を使用してスラグ中MgO濃度の飽和溶解度からの未飽
和度Δ(wt.%MgO)’を計算した。
【0180】(実施例14):請求項1に対応 表15に、実施例14の主な試験条件及び試験結果を示
す。
【0181】
【表15】
【0182】電気炉での酸化精錬初期にスラグサンプル
を採取した。スラグ分析結果からの算定値NCaO =0.
447、NFeO =0.139、NCaO +NFeO =0.5
86により、Δ(wt.%MgO)’=(wt.%MgO)’
obs −(wt.%MgO)’cal =6.35−6.85=−
0.50wt.%が得られた。解析結果から、スラグ中のM
gO濃度は飽和溶解度より低い。炉床及びスラグライン
部の溶損部位をスラグコーティング法により補修する目
的で軽焼ドロマイトを酸化精錬期に添加した。炉内スラ
グ量を45kg/tと推定し、スラグ中MgO濃度の飽
和溶解度に対する不足分のMgOを補った。軽焼ドロマ
イトの添加量xkg/t=1.14kg/tを、下記方
程式: (45 ×0.0635) +(x×0.2667)=(45 +x)×(0.0635 +0.
0050) より求め、粉粒状軽焼ドロマイトを電気炉に添加し溶解
させた。軽焼ドロマイトに含有されるCaOは0.6k
g/tとなる。次いで、CaOを6.9kg/t添加
し、還元精錬を行ない取鍋に出鋼した。出鋼後、炉内を
観察したが、炉床、スラグライン共に異常なく良好であ
った。
【0183】〔4〕電気炉精錬と取鍋アーク精錬との組
合せで精錬する場合の実施例(但し、電気炉でC吹込み
を行なわなかった場合) この場合にも、上記〔3〕のときと同様、電気炉でC吹
込みを行なわなかった場合の実験式である(4’)式、
及び(5’)式を使用してスラグ中MgO濃度の飽和溶
解度からの未飽和度Δ(wt.%MgO)’を計算した。
【0184】(実施例15):請求項5に対応 表16に、実施例15の主な試験条件及び試験結果を示
す。
【0185】
【表16】
【0186】[1] この試験ヒートでは電気炉での溶解期
に軽焼ドロマイト塊を3kg/t添加した。そして酸化
精錬初期にスラグサンプルを採取した。スラグ分析結果
からの算定値NCaO =0.392、NFeO =0.22
9、NCaO +NFeO =0.621により、Δ(wt.%Mg
O)’=(wt.%MgO)’obs −(wt.%MgO)’cal
=6.41−6.12=0.29wt.%が得られた。解析
結果から、スラグ中のMgO濃度は飽和溶解度より高い
ので、MgO源物質の添加補正はせず酸化精錬のまま出
鋼した。出鋼後の炉内耐火物はスラグライン及び炉床共
に溶損は少なく良好であった。取鍋スラグの除滓を行な
い取鍋アーク精錬装置へ移送した。
【0187】[2] 取鍋精錬初期にCaOを13kg/
t、軽焼ドロマイトを6kg/t添加し、含Alアルミ
ナを加えて溶解させた。造滓工程を繰り返し、その後、
昇熱を行なう。次いで合金鉄としてSi−Mn、Fe−
Siを添加し、還元剤としてSiC及び含Alアルミナ
等を使用し、還元精錬を行ない、仕上げた。仕上げ後の
スラグサンプルを採取した。スラグ分析結果からの算定
値NCaO =0.473、NFeO =0.008、NCaO
FeO =0.481により、Δ(wt.%MgO)=(wt.%
MgO)’obs −(wt.%MgO)’cal =9.60−
9.58=0.02wt.%が得られた。スラグ中MgO濃
度はほぼ飽和値に達していた。Fe及びMn共に還元状
況は良好であり、スラグ中のFeO及びMnO共に低い
値を示した。取鍋精錬終了後の取鍋内張り耐火物の観察
をしたところ、スラグが一部に付着していたが溶損は認
められなかった。
【0188】以上に電気炉でC吹込みを行なわなかった
場合の操業例を示した。C吹込みが行なわれないとき
は、スラグ中のFeO濃度が高くなるので、2CaO・
SiO 2 の生成組成以下の塩基度(V)では、スラグ中
のMgO飽和溶解度は低下する特徴がある。この傾向は
上記実施例15の[1] の工程にも見られた。(4’)式
の実験式:log(wt.%MgO)’=1.65−1.3
9(NCaO +NFeO )は、スラグ中MgOの溶解度の下
限設定値を示す解析式として使用することができる。
【0189】
【発明の効果】以上述べたように、この発明によれば、
製鋼用電気炉の操業において鋼を精錬する過程で、炉
壁、スラグライン、炉床、出鋼口、出鋼樋を、あるいは
出鋼後に取鍋内張り耐火物の溶損を保護することが可能
となり、次に述べる多くの効果が得られる電気炉精錬方
法を提供することができ、工業上有用な効果がもたらさ
れる。
【0190】1.電気炉操業において、スラグ中のMg
O飽和溶解度を算定する技術を開発したことにより、ド
ロマイトや煉瓦屑等の安価な材料を用いて、電気炉耐火
物の溶損、取鍋耐火物の溶損特にレードル精錬時の取鍋
耐火物の溶損を抑制することができるので、製造コスト
の低減効果が得られる。関連原単位の比較でその効果を
算定すると、表17に示すとおりである。
【0191】
【表17】
【0192】2.電気炉精錬期間中、又は取鍋アーク精
錬期間中のMgO飽和溶解度を算定し、MgO源物質を
添加するアクションにより耐火物溶損保護の効果が得ら
れるので、従来よりも耐火物補修に要する時間が短縮さ
れる。従って、生産性が向上する。その効果を試算する
と、表18に示す通りである。
【0193】
【表18】
【0194】3.日本国内に豊富に産出するドロマイト
の用途拡大により、その主要成分であるMgO及びCa
O成分を含む他の輸入資源の節減に寄与する。4.Mg
O系煉瓦屑の再利用により、資源リサイクルに寄与す
る。
【図面の簡単な説明】
【図1】酸化精錬期のスラグ中MgO(wt.%)とFeO
(wt.%)との関係を示すグラフである。
【図2】酸化精錬期のスラグ中MgO(wt.%)と(Ca
O/SiO2 )との関係を示すグラフである。
【図3】酸化精錬期のスラグ中MgO(wt.%)と塩基性
酸化物濃度の和(NCaO +NFe O )との関係を示すグラ
フである。
【図4】溶融スラグのイオン解離状態の説明図である。
【図5】スラグ中MgO溶解度とスラグ中NCaO +N
FeO との関係を、電気炉におけるC吹込みの有無による
MgO溶解度差を比較するグラフである。
─────────────────────────────────────────────────────
【手続補正書】
【提出日】平成10年3月12日
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0116
【補正方法】変更
【補正内容】
【0116】ケース〔E〕及びケース〔F〕は請求項6
の実施形態に対応する。ケース〔A〕の(3)に記載し
た手順をはじめとして、ケース〔A〕からケース〔F〕
までの数々の工程において、スラグ試料採取後、スラグ
試料の分析及び分析値の確定、各成分のモル分率の算
出、式(4’)によるMgO飽和濃度の算出、式
(5’)によるスラグ中MgOの飽和濃度(飽和溶解
度)からの偏差量の算出、式(6)によるMgO源物質
のスラグへの添加量の算出等が実施される。これら一連
の手順をプログラム化し、分析機器と計算機をつなぎ、
演算処理する装置を設け、これによりMgO源物質の添
加量を自動的に算出することもできる。なお、対象とす
るスラグは、電気炉炉内スラグ及び取鍋内スラグであ
る。次に、この発明においては、電気炉又は取鍋内スラ
グの成分組成において、CaOとFeO濃度の和がN
CaO +NFeO =0.4〜0.7の範囲内にある場合に限
定した理由を説明する。

Claims (6)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 製鋼用電気炉において酸化精錬、又は、
    酸化精錬及び還元精錬をした後に出鋼する鋼の精錬方法
    において、 少なくとも、精錬時のスラグ中のCaOモル分率とFe
    Oモル分率との和が0.4〜0.7の範囲内にあるヒー
    トを対象として、前記酸化精錬期の初頭においてマグネ
    シア源物質を前記製鋼用電気炉内のスラグに添加し、当
    該スラグ中のMgOの重量%濃度を下記式: log(wt.%MgO)=1.65−1.39(NCaO
    FeO ) 但し、wt.%MgO:スラグ中MgOの推定飽和重量%濃
    度 NCaO :スラグ中CaOのモル分率濃度 NFeO :スラグ中FeOのモル分率濃度 で表わされる当該スラグ中MgOの推定飽和重量%濃度
    以上、13重量%以下の濃度に調整し、こうして調整さ
    れたスラグで前記鋼を精錬し、そして取鍋に出鋼するこ
    とを特徴とする、製鋼用電気炉による鋼の精錬方法。
  2. 【請求項2】 製鋼用電気炉において酸化精錬をした後
    に出鋼する鋼の精錬方法において、 前記製鋼用電気炉での原料装入時又は溶解期に前記製鋼
    用電気炉内に予めマグネシア源物質を添加し、少なくと
    も、スラグ中のCaOモル分率とFeOモル分率との和
    が0.4〜0.7の範囲内にあるヒートを対象として、
    溶解期及び精錬期を通じて排滓せず、精錬期において当
    該スラグ中のMgOの重量%濃度を下記式: log(wt.%MgO)=1.65−1.39(NCaO
    FeO ) 但し、wt.%MgO:スラグ中MgOの推定飽和重量%濃
    度 NCaO :スラグ中CaOのモル分率濃度 NFeO :スラグ中FeOのモル分率濃度 で表わされる当該スラグ中MgOの推定飽和重量%濃度
    以上、13重量%以下の濃度に補充調整し、こうして調
    整されたスラグで前記鋼を精錬し、そして取鍋に出鋼す
    ることを特徴とする、製鋼用電気炉による鋼の精錬方
    法。
  3. 【請求項3】 製鋼用電気炉において酸化精錬、又は、
    酸化精錬及び還元精錬をした後に出鋼する鋼の精錬方法
    において、 前記製鋼用電気炉での原料装入時又は溶解期に炉内にマ
    グネシア源物質を添加し、少なくとも、スラグ中のCa
    Oモル分率とFeOモル分率との和が0.4〜0.7の
    範囲内にあるヒートを対象とし、溶落ちに入る前に前記
    スラグの少なくとも一部を排滓し、次いで精錬期におい
    て、当該スラグ中のMgOの重量%濃度を下記式: log(wt.%MgO)=1.65−1.39(NCaO
    FeO ) 但し、wt.%MgO:スラグ中MgOの推定飽和重量%濃
    度 NCaO :スラグ中CaOのモル分率濃度 NFeO :スラグ中FeOのモル分率濃度 で表わされる当該スラグ中MgOの推定飽和重量%濃度
    以上、13重量%以下の濃度に補充調整し、こうして調
    整されたスラグで前記鋼を精錬し、そして取鍋に出鋼す
    ることを特徴とする、製鋼用電気炉による鋼の精錬方
    法。
  4. 【請求項4】 製鋼用電気炉で酸化精錬をし、次いで取
    鍋アーク精錬装置で還元精錬をする鋼の精錬方法におい
    て、 少なくとも、スラグ中のCaOモル分率とFeOモル分
    率との和が0.4〜0.7の範囲内にあるヒートを対象
    として、前記酸化精錬期の初頭においてマグネシア源物
    質を前記製鋼用電気炉内のスラグに添加し、当該スラグ
    中のMgOの重量%濃度を下記式: log(wt.%MgO)=1.65−1.39(NCaO
    FeO ) 但し、wt.%MgO:スラグ中MgOの推定飽和重量%濃
    度 NCaO :スラグ中CaOのモル分率濃度 NFeO :スラグ中FeOのモル分率濃度 で表わされる当該スラグ中MgOの推定飽和重量%濃度
    以上、13重量%以下の濃度に調整し、こうして調整さ
    れたスラグで前記鋼を酸化精錬した後、前記鋼を未脱酸
    状態で全部又は一部を取鍋に出鋼し、 次いで、前記鋼を取鍋アーク精錬装置に移送し、前記取
    鍋内スラグに対して、少なくとも、スラグ中のCaOモ
    ル分率とFeOモル分率との和が0.4〜0.7の範囲
    内にあるヒートを対象として、マグネシア源物質を前記
    取鍋内スラグに添加し、当該スラグ中のMgOの重量%
    濃度を下記式: log(wt.%MgO)=1.65−1.39(NCaO
    FeO ) 但し、wt.%MgO:スラグ中MgOの推定飽和重量%濃
    度 NCaO :スラグ中CaOのモル分率濃度 NFeO :スラグ中FeOのモル分率濃度 で表わされる当該スラグ中MgOの推定飽和重量%濃度
    以上、13重量%以下の濃度に補充調整し、こうして調
    整されたスラグで前記鋼を還元精錬することを特徴とす
    る、製鋼用電気炉と取鍋アーク精錬装置との組合せによ
    る鋼の精錬方法。
  5. 【請求項5】 製鋼用電気炉で酸化精錬をし、次いで取
    鍋アーク精錬装置で還元精錬をする鋼の精錬方法におい
    て、 前記製鋼用電気炉での原料装入時又は溶解期に前記製鋼
    用電気炉内にマグネシア源物質を添加し、少なくとも、
    スラグ中のCaOモル分率とFeOモル分率との和が
    0.4〜0.7の範囲内にあるヒートを対象として、溶
    解期及び精錬期を通じて排滓せずに当該スラグで前記鋼
    を酸化精錬した後、前記鋼を未脱酸状態で全部又は一部
    を取鍋に出鋼し、 次いで、前記鋼を取鍋アーク精錬装置に移送し、前記取
    鍋内スラグに対して、少なくとも、スラグ中のCaOモ
    ル分率とFeOモル分率との和が0.4〜0.7の範囲
    内にあるヒートを対象として、マグネシア源物質を前記
    取鍋内スラグに添加し、当該スラグ中のMgOの重量%
    濃度を下記式: log(wt.%MgO)=1.65−1.39(NCaO
    FeO ) 但し、wt.%MgO:スラグ中MgOの推定飽和重量%濃
    度 NCaO :スラグ中CaOのモル分率濃度 NFeO :スラグ中FeOのモル分率濃度 で表わされる当該スラグ中MgOの推定飽和重量%濃度
    以上、13重量%以下の濃度に補充調整し、こうして調
    整されたスラグで前記鋼を還元精錬することを特徴とす
    る、製鋼用電気炉と取鍋アーク精錬装置との組合せによ
    る鋼の精錬方法。
  6. 【請求項6】 製鋼用電気炉で酸化精錬をし、次いで取
    鍋アーク精錬装置で還元精錬をする鋼の精錬方法におい
    て、 前記製鋼用電気炉での酸化精錬が終了した後、未脱酸状
    態で取鍋に出鋼し、 次いで、前記鋼を取鍋アーク精錬装置に移送し、前記取
    鍋内スラグに対して、少なくとも、スラグ中のCaOモ
    ル分率とFeOモル分率との和が0.4〜0.7の範囲
    内にあるヒートを対象として、マグネシア源物質を前記
    取鍋内スラグに添加し、当該スラグ中のMgOの重量%
    濃度を下記式: log(wt.%MgO)=1.65−1.39(NCaO
    FeO ) 但し、wt.%MgO:スラグ中MgOの推定飽和重量%濃
    度 NCaO :スラグ中CaOのモル分率濃度 NFeO :スラグ中FeOのモル分率濃度 で表わされる当該スラグ中MgOの推定飽和重量%濃度
    以上、13重量%以下の濃度に調整し、こうして調整さ
    れたスラグで前記鋼を還元精錬することを特徴とする、
    製鋼用電気炉と取鍋アーク精錬装置との組合せによる鋼
    の精錬方法。
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Cited By (3)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP2012158495A (ja) * 2011-02-01 2012-08-23 Nippon Material Kk 製鋼用炉壁保護材及びその製造方法
WO2017136679A1 (en) * 2016-02-04 2017-08-10 Liquid Minerals Group Ltd. A system and method for disrupting slag deposits and the compositions used
CN107841594A (zh) * 2017-10-12 2018-03-27 河钢股份有限公司承德分公司 一种降低钢包包衬侵蚀的精炼方法

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