【発明の詳細な説明】
ハロゲン化セファロスポリンの酵素的製造 発明の背景
セファクロル(7−〔フェニルグリシルアミド〕−3−クロロ−3−セフェム
−4−カルボン酸)はセファロスポリン類の抗生物質である。この抗生物質の活
性は化膿連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)、大腸菌(Escherichia coli)、
肺炎双球菌(Diplococcus pneumoniae)、赤痢菌種(Shigella sp.)、クレブシ
エラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)、アエロバクター・アエロゲネ
ス(Aerobacter aerogenes)とサルモネラ・ヘイデルベルグ(Salmonella heide
lberg)を含む細菌の範囲に対して有効である。この抗生物質は親化合物から有
機合成技術により合成されてきた(例えば、米国特許第3,925,372号明
細書と第4,064,343号明細書参照)。エステル化により4−カルボン酸
塩を保護するために、一般の合成技術が、単一の塩素原子がその位置に結果的に
共有結合するように3位を修飾し、それからカルボン酸塩からエステル保護基を
除く一連の工程により行われる。この方法で、様々なセファロスポリン抗生物質
が合成されてきた。
セファロスポリン族の他の抗生物質はセファレキシン(7−〔フェニルグリシ
ルアミド〕−3−メチル−3−セフェム−4−カルボン酸)である。この抗生物
質化合物は、3位でのメチルから塩素への置換によりセファクロルと異なる。セ
ファレキシンの合成はセファクロルの合成より容易に達成される。しかしながら
、抗生物質としてのセファクロルの有用性はセファレキシンよりも勝っている。
これらの理由のため、容易にセファレキシンをセファクロルに変換することが望
ましい。有機合成のルートが利用できるが、これらの合成スキームに頼った場合
、この変換を達するのに数工程が必要とされる。簡単な、一工程の過程がより望
ましい。特定の微生物は幅広い種々の有機化合物をハロゲン化できるハロペルオ
キシダーゼを有する(フランセン(Franssen,M.C.R.)ら,Adv.Applied Mic
robiol.37: 41-99(1992))。現在、これらのハロペルオキシダーゼはペルオキ
シダーゼとしての商業上の実用性は無いように見える。しかしながら、それらの
ハロゲン化剤としての使用が求められている。ある化学製品の製造におけるクロ
ロペルオキシダーゼや他のハロゲン化酵素の使用の楽観的な予測にもかかわらず
、この目的のためのハロペルオキシダーゼの使用の可能性は実現化されないまま
である。これらの予測の実現に対する主な障害は、2、3例を挙げると、これら
の酵素の作用の狭いpH範囲、酵素の供給源に対して有毒な高濃度のH2O2の使
用、そして、酵素生体触媒の短い半減期に見出される。
ほとんどのハロペルオキシダーゼはハロゲン化物を酸化する過程で、付随して
過酸化物を水に変換する。この過程に続いて、酵素付加反応が起きる。しかしな
がら、セファレキシンをセファクロルに変換するために、置換反応が必要である
;特に、塩素のメチル基への置換。有機化合物をハロゲン化するだけでなく、同
時に有機化合物の塩化物等のハロゲン化物をメチル基に置換もする酵素標品を持
つことが望ましい。この置換反応をセファレキシン分子の適切な位置で行い、そ
れにより、セファクロル等のハロゲン化生成物を製造する酵素を持つことが特に
好ましい。発明の要約
本発明はセファクロル等のハロゲン化セファロスポリンである抗生物質の製造
に関する。本発明においては、出発原料のセファロスポリン、セファレキシンを
適当な反応条件下でセファレキシン ハロペルオキシダーゼと呼ばれる酵素標品
とインキュベートした時に、この抗生物質の生産が起こる。この酵素標品は適当
な微生物から得ることができる。セファレキシン ハロペルオキシダーゼ活性を
有する酵素標品を含む本発明の特定の微生物は、ラサイバクター(Rathayibacte
r)属のユニークな株であるラサイバクター・ビオプレシス(Rathayibacter bio
puresis)である。
本発明の方法においては、セファレキシンをセファレキシン ハロペルオキシ
ダーゼ酵素標品とインキュベートし、該酵素標品(該微生物由来)がセファレキ
シンをハロゲン化生成物に変換する。本発明の方法におけるセファレキシン ハ
ロペルオキシダーゼ酵素標品は微生物由来の粗抽出物の形態である。図面の簡単な説明
図1は、ラサイバクター・ビオプレシス微生物の顕微鏡写真である。
図2は、一群の物質をラサイバクター・ビオプレシスをホモジェナイザー処理
して得た無細胞粗抽出物を負荷したToyo−Pearl Super Q 陰
イオン交換樹脂から得た時の蛋白質含有量、溶出液伝導度、及びセファレキシン
クロロペルオキシダーゼ活性を図示したものである。
図3は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)技術によるセファレキシン
とセファクロルの分離を図示したものである。図3Aは、生体触媒反応溶液から
のアウトプットを表している;図3Bは、既知のセファレキシンとセファクロル
の混合物を含む標準溶液を表している;そして、図3Cは、生体触媒反応と混合
標準溶液の組み合わせを表している。発明の詳細な説明
本発明はセファレキシンをセファクロル等のハロゲン化生成物に変換する酵素
過程に関する。
この過程において、セファレキシの3位のメチル基はハロゲンに置換される。ハ
ロゲンはヨウ素(I)、臭素(Br)、塩素(Cl)、又はフッ素(F)のいず
れでもよい。好ましい態様は、ハロゲンがClで、ハロゲン化生成物がセファク
ロルである。この酵素過程は、他方ではセファレキシン等の適当な出発原料から
ハロゲン化生成物を製造するために必要ないくつかの有機合成反応工程を省略す
る。酵素過程は水性環境で行うため、汚染有機溶媒の痕跡は、それが反応混合物
から回収された時にハロゲン化生成物と共には残っていない。これらの有機溶媒
の痕跡等の有機残留物はしばしば有機合成手段後に回収される生成物に伴ってい
る。もしヒトにハロゲン化セファロスポリン抗生物質等の治療用生成物と共に投
与するならば、これらの有機残留物は欲しない有害でさえある効果を有すること
が可能である。従って、全合成過程を水性環境で行うことは、それ自体比較とな
る有機合成手段を改良することである。
本発明の酵素過程は、有機合成過程で通常必要とされる数工程ではなく、一工
程でセファレキシンをハロゲン化生成物に変換する。ハロゲン化生成物の収量は
、特定の出発原料からこの生成物を形成する過程において、数工程よりもむしろ
一工程の使用により高められる。
本発明の酵素過程は、必要とする特異性を有する酵素標品を含む微生物の構成
酵素を用いることにより行われる。このセファレキシンをセファクロル等のハロ
ゲン化生成物に変換する特異性を示すこれらの微生物由来の酵素標品をセファレ
キシン ハロペルオキシダーゼと呼ぶ。この酵素標品は、セファレキシンからメ
チル基を除き、それをハロゲンラジカルで置換する望ましい反応において過酸化
物を付随して使用する。
本発明のセファレキシン ハロペルオキシダーゼ酵素標品は、独立にまたは組
み合わせて、セファレキシンをハロゲン化された生産物に変換する機能を果たす
一つ以上の酵素を含む。セファレキシン ハロペルオキシダーゼ酵素標品はTo
yo−Pearl SuperQ陰イオン交換樹脂から、陰イオン交換樹脂にラ
サイバクター ビオプレシス培養物の全ホモジネートを15,000×g(4℃
)で遠心分離して得られる上清が負荷された後、5リットルの0.1M NaC
l(50mMリン酸緩衝液、pH6.0)バッチ溶出を行い、pH6.0の50
mMリン酸緩衝液中、0.3MのNaClバッチ5リットルで溶出される物質の
画分にあることを特徴とすることができる。
本発明の工程で行ったとき、酵素標品は、宿主微生物の粗ホモジネートまたは
宿主微生物からの抽出物であってもよい。酵素標品は溶液中で遊離しているか固
体支持体に固定化されていることができる。後者の構造では、セファレキシンは
水溶液か混合液に入れられ、この溶液あるいは混合液を固定化酵素標品を通過す
るように流してもよい。次いで、ハロゲン生産物を反応系から回収することがで
き、さらにセファレキシンを導入することができる。このような、あるいは似た
ような方法で、ハロゲン化生産物は酵素標品の再使用によりセファレキシンから
継続的に生産されることができる。もし酵素標品が固体支持体にくっつかず、む
しろ溶液中で遊離している場合、ハロゲン化生産物は当業者にとって公知である
クロマトグラフィーか結晶化手法のような適当な手段で回収することができる。
セファレキシンからハロゲン化生産物を生産するための本発明の酵素法は、求
められる酵素的変換が成し遂げられる適切な条件下で行われる。酵素反応はpH
3.5から7.0の間の酸性条件で行うことができ、好ましくはpH5.5付近
である。過酸化物、好ましくは過酸化水素が、反応液中もしくは混合液に入れら
れる。ハロゲン化カリウムが通常反応液中もしくは混合液中に入れられ、好まし
くは50mMの濃度である。ハロゲン化ナトリウムが反応液中もしくは混合液中
でハロゲン化カリウムの代わりに択一的に置き換えられることができる。ハロゲ
ン化生産物がセファクロルであるとき、存在する塩は塩化カリウムまたは塩化ナ
トリウムのいずれかである。酵素反応は以下の反応成分の存在下で行うことがで
きる。
本発明の微生物はセファレキシン ハロペルオキシダーゼ活性を持つ単離する
ことができる酵素標品を含むこれらの微生物である。これらの微生物はセファレ
キシンとインキュベートしたときハロゲン化生産物を生産する。好ましい微生物
はラサイバクター属由来の細菌である。これらの微生物はグラム陽性で、好気性
のコリネフォルム形態を持つ。特に好ましい微生物はラサイバクター ビオプレ
シスである。このラサイバクター ビオプレシス微生物は、従来知られていない
株であり、その生理学的な性質の傾向(脂肪酸と細胞壁の糖組成;サッカライド
、有機酸およびアミノ酸の利用;酸の生産、塩への耐性;等)は特有である。と
りわけ、本微生物の細胞内の脂肪酸16:0の量はラサイバクター属の他の種で
は存在しない。
以下の実施例により本発明の主題を説明する。これらの実施例等により、本発
明が限定されるものではなく、当業者の能力内で修正されるべきものであること
はいうまでもない。
実施例 1.セファレキシンとインキュベート時にセファクロルを製造する特質を有する微生 物の単離
海洋蠕形動物ノトマスタス・ロバタス(Notomastus lobatu
s)の腸から微生物を得、培養した。酵素によりセファレキシンをセファクロル
に変換する酵素標品を含むこのグループの特定の微生物を単離した。単離した微
生物の本質的に純粋な培養物からも酵素によりセファレキシンをセファクロルに
変換する酵素標品を得た。単離した微生物はラサイバクター(Rathayib
acter)属の細菌である。単離した細菌をラサイバクター・ビオプレシスと
命名した。この単離した微生物の培養物を31 D−4として、ブダペスト条約
の条件下、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC)、アメ
リカ合衆国、メリーランド 20852、ロックビル、パークロン・ドライブ1
2301に、1995年12月1日に寄託番号ATCC55728で寄託した。
実施例2微生物ラサイバクター ビオプレシスの分類学的および同定的特性
実施例1のラサイバクター ビオプレシスとして示される単離された微生物を
同定し、分類学的に記述するために、以下の培地および試験手順を使用した:
A.炭素源として炭水化物または有機酸の利用を決定するため、単離された微生
物を次の成分からなる培地中で生育させた:
(NH4)2SO4 0.1%
KH2PO4 0.15%
K2HPO4 0.15%
MgSO4 ・7H2O 0.05%
イーストエキストラクト 0.01%
カザミノ酸 0.01%
試験炭水化物または有機酸 0.5%
pH 6.5
ネガティブコントロールは、炭素源を除いた基本培地であった。ポジティブコン
トロールは、グルコースを添加した基本培地であった。炭素源として炭水化物ま
たは有機酸の利用を決定する手段は、本質的に次に見られるものと同じものであ
った:
M.D.コリンズら(M.D. Collins et al.,)”Plan
t Pathogenic Species of Corynebacter
ium”、1276−1284頁、P.H.A.スネアスら(P.H.A. S
neath et al.)編、Bergey’s Manual of De
terminative Bacteriology、The William
s & Wilkins Co.、Baltimore(1986)。
B.微生物を特定の炭素源の存在下で生育させたときに酸を生産するかどうかを
決定するために、単離された微生物を次の成分からなる培地中で生育させた:
(NH4)2SO4 0.1%
KH2PO4 0.15%
K2HPO4 0.15%
MgSO4・7H2O 0.05%
イーストエキストラクト 0.01%
カザミノ酸 0.01%
ブロモクレゾールパープル 0.0004%
試験炭水化物または有機酸 0.5%
pH 7.0
指示色の顕著な変化があったときにポジティブな反応が生じた。微生物を特定の
炭素源の存在下で生育したときの酸の生産を決定するための手段は、上記パート
A.のコリンズら(the Collins et al.)の参考文献に見ら
れるものと本質的に同じものであった。
C.単独の窒素源としてアミノ酸の利用を決定するため、単離された微生物を次
の成分からなる培地中で生育した:
グルコース 1%
NaCl 0.05%
K2HPO4 0.1%
MgSO4・7H2O 0.05%
ビオチン 10mg/L
チアミン 1mg/L
試験アミノ酸 0.1%
pH 7.0
単独の窒素源としてアミノ酸の利用を決定するための手段は、次の文献中に見ら
れるものと本質的に同じものであった:
H.I.ズグルスカヤら(H.I.Zgurskaya et al.)、”R
athayibacter gen. nov., Including th
e Species Rathayibacter rathayi comb
. nov., Rathayibacter tritici comb.n
ov., Rathayibacter iranicus comb. n
ov. and Six Strains from Annual Gras
ses”、Inter.J.Systemat.Bacteriol.43(1
)、143−149(1993)。
D.塩化ナトリウムまたは亜テルル酸カリウムに対する微生物の耐性を決定する
ために、単離された微生物を次の成分からなる培地中で生育させた:
グルコース 1%
K2HPO4 0.15%
KH2PO4 0.15%
MgSO4・7H2O 0.05%
(NH4)2SO4 0.1%
イーストエキストラクト 0.01%
カザミノ酸 0.01%
5%NaCl、10%NaCl、0.05%亜テルル酸カリウムを用いて試験を
した。
pH 6.5
塩化ナトリウムまたは亜テルル酸カリウムに対する微生物の耐性を決定するため
の手段は、上記パートC.のズグルスカヤらの参考文献に見られるものと本質的
に同じものであった。
E.ツイーン20、40または85を加水分解する微生物の活性を決定するため
、単離された微生物を次の成分からなる培地中で生育させた:
(NH4)2SO4 0.1%
KH2PO4 0.15%
K2HPO4 0.15%
MgSO4・7H2O 0.05%
イーストエキストラクト 0.01%
カザミノ酸 0.01%
試験界面活性剤 0.5%
pH 6.5
ツイーン類を加水分解する微生物の活性を決定するための手段は、上記パートC
.のズグルスカヤらの参考文献に見られるものと本質的に同じものであった。
F.微生物がフォゲス−プロスカウエル反応(the Voges−Prosk
auer reaction)を行なうことができるかどうかを決定するため、
単離された微生物を次の成分からなる培地中で生育させた:
グルコース 0.5%
K2HPO4 0.5%
バクトペプトン 0.5%
pH 7.0
フォゲス―プロスカウエル反応薬を、100mLの40%NaOH中にクレアチ
ン0.3gを溶解することによって調製した。微生物を培地中で2−4日間培養
したのち、3−5mLのサンプルを取り、1−2mLの反応溶液に添加した。混
合液をよく震盪した。ポジティブな結果は、ピンク色の出現によって示された。
ネガティブな結果は、黄色によって示された。
微生物がフォゲス―プロスカウエル反応を行なうことができるかどうかを決定す
るための手段は、次に見られるものと本質的に同じものであった:
B.デイビスら(B.Davis et al.)、Microbiology
、第4版、72頁、J.B.Lippincott Company(1990
)。
G.微生物がメチルレッド反応を行なうことができるかどうかを決定するため、
単離された微生物をフォゲス―プロスカウエル反応で用いたものと同じ培地中で
生育させた。250mLの60%アルコールにメチルレッドを1グラム溶解した
。微生物を培地中で4日間培養したのち、数滴のメチルレッド反応溶液を添加し
た。ポジティブ反応は赤色によって示された。ネガティブな結果は色が変わらな
いことによって示された。微生物がメチルレッド反応を行なうことができるかど
うかを決定するための手段は、上記パートA.のコリンズらの参考文献に見られ
るものと本質的に同じものであった。
H.微生物における、硝酸塩還元、インドール生成、エスクリン加水分解、ゼラ
チン加水分解、ウレアーゼ、オキシダーゼ、アルギニンジヒドロラーゼ、β−ガ
ラクトシダーゼ、ピラジンアミダーゼ、ピロリドニルアリールアミダーゼ、アル
カリホスファターゼ、β−グルクロニダーゼ、α−グルコシダーゼおよびβ−ア
セチルーβ−グルコサミニダーゼの諸性質を決定するため、BioMerieu
x製細菌決定キット(BioMerieux Vitek,Inc.,595
Anglum Drive,Hazelwood,MO 63042)を用いて
単離された微生物に対して特有の反応を行なった。
I.微生物がカタラーゼ活性を持つかどうかを決定するため、1滴の3%H2O2
を単離された微生物の培養物に添加した。泡が生じたときポジティブ反応がおこ
った。微生物がカタラーゼ活性を持つかどうかを決定するための手段は、上記パ
ートA.のコリンズらの参考文献に見られるものと本質的に同じものであった。
J.微生物の脂肪酸組成は、通常のガスクロマトグラフィー技術により決定した
。約40mgのラサイバクター ビオプレシス微生物および1mLの鹸化反応薬
(NaOH45g、メタノール150mLおよび蒸留水150mL)を、ねじ蓋
試験管内に入れた。試験管は確実にテフロン系キャップで密封し、沸騰した水槽
に5分間入れた。それから各試験管を、各回5−10秒間で6回、激しくボルテ
ックスした。試験管を冷却し、蓋を外して各試験管に2mLのメチル化反応薬(
保証6NHCl 325mLおよびメチルアルコール275mL)を添加した。
試験管に再び蓋をし、10分間80℃で加熱した。試験管を再び冷却し、1.2
5mLの抽出試薬(ヘキサン200mLおよびtert−ブチルエーテル200
mL)を各試験管に添加した。試験管を、傾斜回転器で約10分間穏やかに上下
動させた。試験管から蓋をとり、水相をピペットで回収し捨てた。約3mLの洗
浄試薬(蒸留水900mL中にNaOH10.8g)を各試験管の有機相に添加
した。試験管に再び蓋をし、さらに5分間上下動させた。約2/3の有機相を各
試験管からGCバイアル内に次の分析のためピペットで移した。ガスクロマトグ
ラフィー法は25m×0.2mmのフェニルメチルシリコーン融合シリカキャピ
ラリーカラムで、170℃から270℃まで1分毎に5℃づつ温度を上昇する温
度プログラムを用いて行なった。
K.微生物の形態学的特徴を走査型電子顕微鏡技術により決定した。
単離された微生物の以下の特性が観察された:
1)形態学的特性(図1参照)
a)形および大きさ:丸いふちをもつ短桿状体
369×1354nm±31nm
b)運動性:小個体群運動
極性のある1べん毛性のべん毛
c)胞子:無胞子形成
d)グラム染色:陽性
e)蛍光色素:陽性
2)特別培地における生長特性
a)トリプシン大豆寒天プレート培地(28℃)
i)コロニー形成:接種後24時間
ii)形:完全なふちをもつ規則的な円形
iii)表面:平滑、低凸面、光沢あり
iv)色:黄色
v)臭い:あり、腐臭
b)グリセロール寒天培地(28℃)
i)コロニー形成:接種後36時間
ii)形:完全なふちをもつ規則的な円形
iii)表面:平滑、低凸面、光沢あり
iv)色:黄色
c)グルコース栄養寒天培地(28℃)
i)コロニー形成:接種後48時間
ii)形:完全なふちをもつ規則的な円形
iii)表面:平滑、低凸面、光沢あり
iv)色:明るい黄色
d)グルコース硝酸塩寒天培地(28℃)
i)コロニー形成:接種後48時間
ii)形:完全なふちをもつ規則的な円形
iii)表面:平滑、低凸面、光沢あり
iv)色:明るい黄色
3)物理的特性
a)硝酸塩還元 +
b)メチルレッド試験 +
c)フォゲス―プロスカウエル反応 −
d)インドール生成
e)ゼラチン加水分解 +
f)デンプン加水分解 −
g)エスクリン加水分解 +
h)硝酸塩の利用 +
i)カタラーゼ活性 +
j)オキシダーゼ活性 +
k)ウレアーゼ活性 −
l)アルギニンジヒドロラーゼ活性 −
m)アルカリホスファターゼ活性 −
n)β−ガラクトシダーゼ活性 +
o)β−グルクロニダーゼ活性 −
p)α−グルコシダーゼ活性 −
q)β−アセチル−β−グルコサミニダーゼ活性 −
r)ピラジンアミダーゼ活性 +
s)ピロリドニルアリールアミダーゼ活性 −
t)好気性または嫌気性: 好気性
u)炭水化物および有機酸の利用:
キシロース +
アラビノース +
ラクトース +
マンニトール +
ソルビトール +
イヌリン −
グルコース +
ガラクトース +
フルクトース +
マンノース +
マルトース +
シュークロース +
グリセロール +
ラムノース +
メリビオース −
タガトース −
クエン酸塩 +
酒石酸塩 −
セバシン酸塩 −
リンゴ酸塩 +
グルタル酸塩 +
v)特定の炭水化物および有機酸と生育したときの酸生成:
キシロース −
アラビノース +(弱い)
ラクトース −
マンニトール −
ソルビトール −
グルコース +
ガラクトース +
フルクトース +
マンノース +
マルトース +
シュークロース +
グリセロール +
ラムノース +
クエン酸塩 −
リンゴ酸塩 −
グルタル酸塩 −
w)塩化ナトリウムまたは亜テルル酸カリウムに対する耐性:
5% NaCl −
10% NaCl −
0.03% 亜テルル酸カリウム −
x)ツイーン20、40および85の加水分解:
ツイーン20(0.5%) +
ツイーン40(0.5%) +
ツイーン85(0.5%) +
y)窒素源としてのアミノ酸利用:
メチオニン +
DL−バリン −
グルタミン酸 −
DL−オルニチン +
4)ガスクロマトグラフィーにより決定される細胞性脂肪酸組成:
5)ラサイバクター種の異なる特性の比較:
単離された微生物の特性を表2でラサイバクター属の他の微生物の特性と比較
した。
単離された微生物の特性は、以下の特徴によりラサイバクター属の他の種と異
なる:
(1)単離された微生物の脂肪酸構成特性は独特である。特に、16:0細胞性
脂肪酸のパーセントは同じ属の他の微生物の該脂肪酸のパーセントに比べて著し
く高い。
(2)単離された微生物の炭水化物利用特性は独特である。特に、R.イラニク
ス(R.iranicus)がイヌリンを利用しないのに対し、単離された微生
物はイヌリンを利用している。同様にR.トリティシ(R.Tritici)も
イヌリンを利用するが、R.トリティシは単離された微生物(およびR.イラニ
クス)が利用しないようなセバシン酸塩を利用する。
(3)単離された微生物において特別な炭水化物の利用の結果としての酸生成の
特性は独特である。特に、キシロースが代謝される際に、R.種を除く他のラサ
イバクター種が酸を生成しているのに対し、単離された微生物は酸を生成しない
。他方、数種の他の炭水化物(例えば、グルコース、ガラクトース等)が代謝さ
れる際に、単離された微生物はそれらの炭水化物の代謝の結果として酸を生成す
るのに対し、R.種は、酸を生産しない。
(4)単離された微生物のアミノ酸利用特性は独特である。特に、R.種を除く
他のラサイバクター種がグルタミン酸を利用しているのに対し、単離された微生
物はグルタミン酸を利用しない。他方、単離された微生物はDL−オルニチンを
利用するのに対し、R.種はDL−オルニチンを利用しない。
ラサイバクター ビオプレシス微生物に関する16:0細胞性脂肪酸組成の高
いパーセント(11.64%)、独特の物理的特性(炭水化物およびアミノ酸利
用形態ならびに酸生産)に基づいて、この微生物は、ラサイバクター属の独特の
株であることが決定され、したがって、ラサイバクター ビオプレシスと呼称す
るに値する。
実施例 3.ラサイバクター・ビオプレシス由来のセファレキシン クロロペルオキシダーゼ を含む無細胞粗抽出物の調製
実施例1の単離したラサイバクター・ビオプレシス微生物の接種物を、
(NH4)2SO4 0.1%
NaCl 0.25%
KH2PO4 0.15%
K2HPO4 0.15%
MgSO4・7H2O 0.05%
L−リンゴ酸 1.6%
Difco酵母抽出物 0.2%
滅菌前pH 6.10
からなるシード培地に置いた。この接種物の大きさは1〜2%であった。シード
培養物の発酵を10リットルの発酵槽中で28℃で20時間行った。発酵pHが
pH 8.50に達した場合、発酵pHを3N HClでpH 8.50に維持
した。前記シード培地と同じ培地中で培養物の最終発酵を行った。この発酵を5
50リットルの発酵槽中で28℃で25時間行った。再び、発酵pHがpH 8
.50に達した場合、発酵pHを3N HClでpH 8.50に維持した。
550リットルの発酵槽中で製造した発酵ブロス由来の約1.3kg(湿重量
)のラサイバクター・ビオプレシス微生物を遠心分離により集め、2600ml
のpH6.0の50mMリン酸緩衝液に再懸濁し、セル30 CD(AP Ga
ulin,Everett,MA)ホモジェナイザーに14,000psiで2
回通した。この過程の間、アイスバスと熱交換機を用いて温度を4〜8℃にコン
トロールした。それから、生じた破壊細胞混合物をバッチモードを利用して15
,000×g(4℃)で15分間遠心分離した(Sharples)。この遠心
分離手順をもう一度繰り返した。
実施例4.セファレキシン クロロペルオキシダーゼ標品との反応によるセファレキシンの セファクロルへの変換
セファレキシンを10mg/mlの濃度で、様々な反応条件下で実施例3のセ
ファレキシン クロロペルオキシダーゼ標品の粗抽出物とインキュベートし、製
造されたセファクロルの量をガスクロマトグラフィー(GC)技術により、同定
反応時間で決定した。典型的な実験条件と結果を以下に示す。
A. 酸性環境で行われるセファレキシン クロロペルオキシダーゼ反応の能力
を評価するために、酵素反応を以下の条件下で行った:
実施例3由来粗抽出物 1ml
0.5M KCl 100μl
3% H2O2 10μl
10mg/ml セファレキシン 50μl
pHを1N HClを加えて調整し希望の酸性度を達成した。
温度 37℃
2つのpH値で製造したセファクロルの量を表3に示す。
B. セファクロルの製造時のセファレキシン クロロペルオキシダーゼ標品に
よるH2O2の利用を評価するために、酵素反応を以下の条件下で行った:
実施例3由来粗抽出物 1ml
0.5M KCl 100μl
10mg/ml セファレキシン 50μl
H2O2を指定した濃度で10μlの水に加えた。
pH 5.7
様々なH2O2濃度で製造したセファクロルの量と温度を表4に示す。
C. セファレキシン クロロペルオキシダーゼ標品によるセファクロルの製造
時のKCl濃度の効果を評価するために、酵素反応を以下の条件下で行った:
実施例3由来粗抽出物 0.8ml
0.1M KH2PO4 0.2ml
3% H2O2 10μl
10mg/ml セファレキシン 50μl
pH 5.3
温度 42℃
様々なKCl濃度での生産されたセファクロル量は表5に示される。
これらの評価の結果は、酸性環境下、H2O2を使用下の酵素の機能が、KCl
と37℃以上の温度が好ましいということである。温度は少なくとも37〜42
℃にできる。実施例5
ラサイバクター ビオプレシス由来のセファレキシン クロロペルオ キシダーゼの部分精製
実施例3の無細胞抽出物がpH6.0の50mMリン酸緩衝液で平衡化された
陰イオン交換カラム(Toyo−Pearl SuperQ)に負荷された。D
EAE−セファデックス A−50かDE−52陰イオン交換樹脂を二者択一的
に使用することができる。クロロペルオキシダーゼ酵素画分がpH6.0の50
mMリン酸緩衝液中0から3.0MまでのNaClのステップグラジェントを用
いることにより、カラムから溶出された。それぞれのステップグラジェントバッ
チは約5リットルであり、集められた画分は、伝導度によりモニターした。Su
perQが使用されたとき、クロロペルオキシダーゼ画分は約0.3M NaC
lで、8−27mS/cmの伝導度の範囲で、カラムから溶出された。その画分
の蛋白質量、クロロペルオキシダーゼ活性および伝導度を図2に示す。酵素活性
のピークを含むバッチを、バーティス凍結乾燥機を用いた凍結乾燥によりさらに
濃縮した。実施例6
ラサイバクター ビオプレシス由来のセファレキシン クロロペルオ キシダーゼ標品の固定化
実施例5の20mgの凍結乾燥された蛋白質を0.1M NaClを含むpH
5.5の50mMリン酸緩衝液10mlに溶解させた。この溶液を1gの乾燥ユ
ーパジット(Eupergit)C固定化支持体に加えた。溶液スラリーを室温
で48〜65時間ゆるやかに震盪させた。残りの蛋白質溶液は濾過により支持体
物質から除かれた。次いで、生じた固定化生体触媒は、新しい10mlの蒸留水
の洗浄で5回洗浄した。洗浄された固定化生体触媒は10℃未満の0.1M N
aClを有するpH5.5の50mMリン酸緩衝液中で保存した。実施例7
固定化セファレキシン クロロペルオキシダーゼ標品を用いた反応に よるセファレキシンからセファクロルへの変換
実施例6の固定化セファレキシン クロロペルオキシダーゼ標品を、以下の条
件下でセファレキシンからセファクロルを酵素的に生産するために使用した:
実施例6の固定化生体触媒 5g(湿潤)
0.1M リン酸緩衝液、pH6.0 10ml
3M NaCl 9μl
10mg/ml セファレキシン 486μl
3%H2O2 33μl
反応液を35℃で24時間緩やかに震盪しつつインキュベートした。24時間
後生産したセファクロルの量はイオン対HPLCを用いて評価された。HPLC
カラムはノボパックガードカラムの付いたウオーターズ ノボパックであった。
移動相は20%MeCN、8mM 水酸化テトラブチルアンモニウム、pH7.
0であった。カラムは30℃であり、移動相流速は1.5ml/分であった。生
産物はフォトダイオードアレイ検出器で195−300nm全域と258nmの
特異的検出波長で検出された。この固定化生体触媒の工程から得られるセファク
ロルの収率はセファレキシンの出発量に基づいて0.2%であった。
これらの結果は、固定化酵素がセファレキシンをセファクロルに変換できるこ
とを示す。固定化酵素を用いるセファクロルを生産する好ましい条件は、1.4
mMセファレキシン出発物質があるとき、pH6.0、2.8mM H2O2、2
.8mM NaClである。酵素反応は35℃で24時間行なわれる。
セファレキシン クロロペルオキシダーゼが固定化されない場合、例えば酵素
が溶液中で遊離している場合、別のセファレキシンからセファクロルへの反応が
行われた。この反応は、24時間継続することが可能であった。図3Aは24時
間反応終了後の生体触媒反応液成分のHPLC分離の図示である。図3Bと3C
はセファクロルとセファレキシンの混合標準溶液と、混合標準溶液と生体触媒反
応生産物の混合物のそれぞれの図示である。混合標準は溶液中に等重量のセファ
クロルとセファレキシンを含んでいた。これらのグラフはセファクロルがセファ
レキシンとのセファレキシン クロロペルオキシダーゼ反応により生産され、セ
ファクロル生産物は反応液中で容易に同定されることができることを示す。均等物
当業者であれば、単なる日常的実験手法により、本明細書に記載された本発明
の具体的な態様に対する多くの均等物を認識し、または確認することができるで
あろう。そのような均等物は請求の範囲の範疇に含まれるものである。
【手続補正書】特許法第184条の8第1項
【手続補正書】1996年12月30日
【提出日】
【補正内容】
請求の範囲
1. セファレキシン ハロペルオキシダーゼ活性を持つ酵素標品を生産するラ
サイバクター属の単離された種。
2. ラサイバクター ビオプレシスからなる請求項1記載の単離された種。
3. セファレキシンβ−ラクタム環系の3位がハロゲン化される請求項1記載
の単離された種。
4. ハロペルオキシダーゼ反応のハロゲンがヨウ素、臭素、塩素およびフッ素
からなる群より選ばれる請求項3記載の単離された種。
5. 該セファレキシン ハロペルオキシダーゼ活性の生産物がセファクロルで
ある請求項4記載の単離された種。
6. セファレキシン ハロペルオキシダーゼ活性を持つ酵素標品。
7. 該酵素標品がラサイバクター属の微生物種由来の抽出物中に含まれている
請求項6記載の酵素標品。
8. 該微生物種が、ラサイバクター ビオプレシスである請求項7記載の酵素
標品。
9. 1種以上の酵素が、単独でまたは組み合わせてセファレキシンをセファク
ロルに変換する機能を有する請求項6記載の酵素標品。
10. 0.3M NaClバッチでToyo−Pearl SuperQ陰イ
オン交換樹脂から溶出される物質からなり、該Toyo−Pearl Supe
rQ陰イオン交換樹脂がラサイバクター ビオプレシス培養物の全ホモジネート
を15,000×gで遠心分離して得られる上清部分であらかじめ負荷されてい
る、請求項9記載の酵素標品。
11. 該ハロゲン化セファロスポリンが生産されるような適切な条件下で、ラ
サイバクター属の種から得られた蛋白質抽出物を用いてセファレキシンをインキ
ュベーションすることからなり、該蛋白質抽出物がセファレキシン ハロペルオ
キシダーゼ活性を持つ酵素標品を含んでいる、ハロゲン化セファロスポリンの生
産方法。
12. 該適切な条件が、過酸化物の利用と水系(aqueous envir
onment)で該方法を実施することを含む、請求項11記載の生産方法。
13. 該ハロゲン化セファロスポリンがセファクロルである請求項11記載の
生産方法。
14. 該ラサイバクター属の種がラサイバクター ビオプレシスである請求項
11記載の生産方法。
15. 該蛋白質抽出物が固体支持体に固定化された請求項11記載の生産方法
。
16. セファレキシン ハロペルオキシダーゼ活性を持つ酵素標品を生産する
ラサイバクター属の種の本質的に純粋な培養物。
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(51)Int.Cl.6 識別記号 FI
(C12N 9/08
C12R 1:01)
(C12P 35/00
C12R 1:01)
(81)指定国 EP(AT,BE,CH,DE,
DK,ES,FR,GB,GR,IE,IT,LU,M
C,NL,PT,SE),OA(BF,BJ,CF,CG
,CI,CM,GA,GN,ML,MR,NE,SN,
TD,TG),AP(KE,LS,MW,SD,SZ,U
G),AL,AM,AT,AU,BB,BG,BR,B
Y,CA,CH,CN,CZ,DE,DK,EE,ES
,FI,GB,GE,HU,IS,JP,KE,KG,
KP,KR,KZ,LK,LR,LS,LT,LU,L
V,MD,MG,MK,MN,MW,MX,NO,NZ
,PL,PT,RO,RU,SD,SE,SG,SI,
SK,TJ,TM,TT,UA,UG,US,UZ,V
N
(72)発明者 チェン,ユング−ピン
アメリカ合衆国 サウス カロライナ コ
ロンビア,ケンバリー 6244