【発明の詳細な説明】
RANTESペプチドおよびフラグメント並びに
それを含んでなる炎症治療用組成物
本発明はRANTESの誘導体とそれらの用途に関する。
RANTESとして知られるタンパク質は、Stanford University School of
MedicineのKrensky's研究室でSchall T.J.et al.(J.Immunol.141,1018-1025(19
88))により初めてクローニングされた。RANTESという用語は"Raised on
activation,normal T-cell derived and secreted"という語句(下線部分の関連
文字)からきている。その発現はT細胞の抗原刺激または変異原活性化により誘
導される。そのタンパク質はケモカインスーパーファミリーのメンバーである(
Schall T.J.,Cytokine 3,165-183(1991);Oppenheim,J.J.et al.,Ann.Rev.Immun
ol.9,617-48(1991))。純粋なタンパク質は1992年に血小板において初めて
同定された(Kameyoshi et al.,J.Exp.Med.176,587-592(1992))。それは好酸球
、CD4+CD45RO+T細胞と、更に単球にとって強力な誘引物質である。そ
れは68のアミノ酸配列を有している。
RANTESのレセプターが最近クローニングされ(Gao,J.L.et al.,J.Exp.M
ed.177,1421-7(1993);Neote,K.,et al.,Cell 72,415-25(1993))、これはMI
P‐1α>RANTESの効力順序でケモカインと結合することが示された。
本発明はRANTESおよび/またはMIP‐1αのアンタゴニストであるポ
リペプチドを提供する。
一般的にサイトカインに関する相当な関心と、特にRANTESおよびRAN
TESレセプターについて上記された研究にもかかわらず、本発明の以前には、
上記アンタゴニストまたはこのようなアンタゴニストの利用可能性について開示
がなかった。
本発明によれば、RANTESと実質的なアミノ酸配列相同性を有し、かつ下
記のうち1以上:
(a)RANTESに応答したおよび/またはMIP‐1αに応答したTHP
‐1細胞の走化性;
(b)RANTESの存在および/またはMIP‐1αの存在によるTHP‐
1細胞におけるカルシウムイオンの移動;および
(c)THP‐1細胞のレセプターへのRANTESおよび/またはMIP‐
1αの結合
に関して、RANTESおよび/またはMIP‐1αのアンタゴニストとして機
能するポリペプチドが提供される。
本発明により提供されるポリペプチドは、RANTESとその効果を更に特徴
付ける上で、例えばRANTES誘導走化性、カルシウムイオンの移動性および
レセプター結合性について研究する上で有用である。それらはレセプターへのR
ANTESの結合性の特徴付けにも有用である。それらは対応した理由について
MIP‐1αを研究する上で有用である。
しかも、本発明のポリペプチドは、後で説明されているように、様々な疾患の
治療に有用であると考えられる。
本発明の好ましいポリペプチドは(RANTESの対応位置に存在せず、した
がってRANTESのN末端に存在するものに対して追加のN末端アミノ酸とし
てみなすことができる)1以上のN末端アミノ酸の存在により、RANTESお
よび/またはMIP‐1αのアンタゴニストとして作用する。これらのN末端ア
ミノ酸は(組換えDNA技術を用いるか、またはペプチド融合技術により組込む
ことができる)天然(L‐)アミノ酸であることが好ましい。しかしながら、非
天然アミノ酸(例えばD‐アミノ酸)も用いることができる。これらは化学合成
技術を用いて組込むこともできる。
このような追加アミノ酸は1つだけでもよく、その場合には例えばロイシンま
たはメチオニンである。このようなポリペプチドはいずれか適切な技術により(
例えば、遺伝子クローニング技術、化学合成などを用いることにより)作製でき
る。本発明の1つの態様において、それらは望ましい配列を含んだ大きなポリペ
プチドを用意して、その後酵素開裂を用いて望ましい配列からなるポリペプチド
を作ることにより作製される。
本発明のポリペプチドは2以上の追加N末端アミノ酸を含んでいてもよく、例
えばそれらは5以内、10以内または20以内の追加アミノ酸を含んでいてもよ
い。一部の場合には、20を超えるN末端アミノ酸が存在していてもよい。
更に、いかなる適切な技術もこのようなポリペプチドを作製するために使用で
きる。
本発明の様々な態様が以下で更に詳細に記載されている。
本発明者らは、成熟ヒトRANTESに相当する(即ち、シグナル配列が除か
れた)形でRANTESを発現するE.coli発現系を用いると、追加N末端メチオ
ニンが存在する(これは内在E.coliプロテアーゼにより残留配列から開裂されな
い)ポリペプチドが発現されることを発見した。この追加アミノ酸の存在はRA
NTESの場合と比較してポリペプチドの特徴を実質的に変化させることが意外
にもわかった。メチオニル化ポリペプチド(以下、メチオニル化RANTESま
たはMet‐RANTESと称される)は様々なアッセイでRANTESおよび
MIP‐1αのアンタゴニストとして作用することがわかり、いかなる実質的ア
ゴニスト活性も有しないことがわかった。
N末端メチオニル化がE.coliで生じる多くの場合において、ポリペプチドの性
質にはほとんどまたは全く差異を生じないか、あるいはその以前の生物活性のレ
ベルを単に減少させるだけであることは明らかなはずである。したがって、N末
端メチオニル化が本発明において実際上アンタゴニスト活性になるとは、全体と
して予測されなかった。
この効果がN末端メチオニンの存在に限定されるのかどうかを調べるために、
N末端メチオニンがN末端ロイシンに代えられたもう1つのポリペプチドが作ら
れた。これもRANTESのアンタゴニストとして作用することがわかり、N末
端メチオニンがN末端グルタミンに代えられた別のポリペプチドでもそうであっ
た。
好ましい形において、本発明のポリペプチドは下記配列:
(i)MSPYSSDT TPCCFAYIAR PLPRAHIKEY FY
TSGKCSNP AVVFVTRKNR QVCANPEKKW VREYI
NSLEM S(場合によって本明細書において“Met‐RANTES”と称
される)
(ii)LSPYSSDT TPCCFAYIAR PLPRAHIKEY FY
TSGKCSNP AVVFVTRKNR QVCANPEKKW VREYI
NSLEM S(場合によって本明細書において“Leu‐RANTES”と
称される)または
(iii)QSPYSSDT TPCCFAYIAR PLPRAHIKEY F
YTSGKCSNP AVVFVTRKNR QVCANPEKKW VREY
INSLEM S(場合によって本明細書において“Gln‐RANTES”と
称される)
を有するか、または上記配列のいずれかと実質上相同的である配列を有している
。ポリペプチドはグリコシル化形でも、または非グリコシル化形であってもよい
。
“実質上相同的”という用語は、本明細書で用いられるとき、所定配列と(好
ましい順序で)少くとも40%、50%、60%、70%、80%、90%、9
5%または99%の配列相同性を有したアミノ酸配列を含む。この用語には、得
られるポリペプチドがRANTESまたはMIP‐1αに対するアンタゴニスト
として作用するのであれば、限定されないが所定配列に対して1〜20、1〜1
0または1〜5の単一アミノ酸欠失、挿入または置換を有するアミノ酸配列も含
む。
ポリペプチドは実質上純粋な形であってもよい。それは天然ポリペプチドから
単離してもよい。
ポリペプチドの性質に実質的変化を生じさせずにあるアミノ酸が他に代えうる
ことは当業界で周知であることに留意しておくべきである。このような可能性は
本発明の範囲内である。
ポリペプチドの性質を実質的に変えないアミノ酸の欠失または挿入がしばしば
なしうることも留意しておくべきである。本発明には(上記された具体的なアン
タゴニスト配列の長さの例えば10、20または50%以内で)このような欠失
または挿入を含む。本発明には、本発明のポリペプチドがもう1つの部分と融合
された融合タンパク質もその範囲内に含んでいる。これは例えば標識目的または
医薬目的で行ってもよい。
本発明者らは、本発明によるポリペプチドがTHP‐1細胞(単球細胞系)で
走化性、カルシウム移動およびレセプター結合に関するRANTESまたはMI
P‐1αの効果へのアンタゴニストとして作用しうることを証明した。これらの
細胞はATCC(American Tissue Culture Collection)から入手でき、RAN
TESを研究する上で良いモデル系として働くが、その理由はそれらがRANT
ESおよびMIP‐1αと、MCP‐1のような他のケモカインに対してカルシ
ウム応答および走化性応答を示すからである。本ポリペプチドは、これらの細胞
で走化性、カルシウム移動およびレセプター結合に関するRANTESまたはM
IP‐1αのアンタゴニストとしても作用できる。MIP‐1αはマクロファー
ジ炎症ポリペプチドフラクション(MIP‐1αおよび‐βに分けられる)の一
部として最初に同定された(Obaru,K et al.,J.Biochem.99:885-894(1988);Sip
pel,P.F.et al.,J.Immunol.142:1582-1590(1989))。それはT細胞および単球に
対して走化活性を示す。それは幹細胞増殖の強いインヒビターであることも示さ
れた。
これらの観察に基づくと、本発明のポリペプチドはRANTESおよび/また
はMIP‐1αの効果を遮断する上で有益であり、したがって治療上有用である
と考えられる。本発明によるポリペプチドの好ましい用途は、前炎症細胞の補充
および/または活性化に際してRANTESおよび/またはMIP‐1αの効果
を遮断することである。したがって、本発明は喘息、アレルギー性鼻炎、アトピ
ー性皮膚炎、アテローム/アテローム性動脈硬化症およびリウマチ様関節炎のよ
うな疾患の治療に有用である。
上記ポリペプチドに加えて、本発明はこのようなポリペプチドをコードするD
NA配列(単離または組換え形でもよい)と、このような配列を組込んだベクタ
ーと、本発明のポリペプチドを発現できるこのようなベクターを組込んだ宿主細
胞とをもまた包含している。
本発明によるポリペプチドは、適切なDNAコード配列を利用して、原核また
は真核宿主細胞からの発現により産生することができる。適切な技術はSambrook
et al.,(1989),Molecular Cloning: A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor
,Laboratory Press,USAに記載されている。一方、それらはRANTESを共有
結合で修飾することにより産生してもよい。これは例えばRANTESをそのN
末端でメチオニル化することにより行える。
本発明は、下記添付図面を参考にして例としてのみ記載される:
図1は、E.coliでクローニングされたRANTESコード配列のヌクレオチド
配列を、このヌクレオチド配列によりコードされるアミノ酸配列とともに示すも
のである。
図2はプラスミドpCBA‐Mの地図を示すものである。
図3はプラスミドpT7‐7の地図を示すものである。
図4は様々なケモカインがTHP‐1細胞において走化性を誘導できることを
示している。
図5は、Met‐RANTESがTHP‐1細胞においてMIP‐1αおよび
RANTES誘導走化性を阻害できることを示している。
図6は様々なケモカインがTHP‐1細胞においてカルシウム流動を誘導でき
ることを示している。
図7は、Met‐RANTESがTHP‐1細胞においてRANTES誘導カ
ルシウム応答を阻害できることを示している。
図8はCCKR1レセプターに対するMet‐RANTESとRANTESと
の競合的結合について示している。
図9はLeu‐RANTESがRANTES誘導走化性のアンタゴニストとし
て作用できることを示している。
図10はGln‐RANTESがRANTES誘導走化性のアンタゴニストと
して作用できることを示している。
例
(a)PCRによるヒトRANTESコード配列のクローニング
ヒトRANTESはPCRによりヒト骨髄λGT11 cDNAライブラリー
(Clontech)からクローニングした。簡単に言えば、骨髄ライブラリー中の全c
DNAインサートを、2μlのファージストック(106pfus)、10mM Tris
‐HCl pH8.3、50mM KCl、1.5mM MgCl2、0.2m
M dNTP、2.5単位AMPLITAQTM(Perkin Elmer-Cetus)および1
μMの各プライマー(λGT11PCR‐1(フォワードプライマー)5′GA
TTGGTGGCGACGACTCCTおよびλGT11PCR‐2(リバーズ
プライマー)5′CAACTGGTAATGGTAGCGAC)を含有した反応
液100μl中において、Techne PHC‐2サーモサイクラーで95℃2分間
、55℃2分間および72℃5分間の30サイクルにわたり、EcoRIクロー
ニング部位に隣接するλGT11プライマーを用いて最初に増幅させた。次いで
反応混合液の1/10を、公表されたRANTES配列(Schall T.J.et al.,(J
.Immunol.141,1018-1025(1988)))に基づく特定プライマー(RANTES‐1
5′CCATGAAGGTCTCCGCGGCACセンスおよびRANTES
‐2 5′CCTAGCTCATCTCCAAAGAGアンチセンス)各々1μ
Mを含有した反応液100μl中で、95℃2分間、55℃2分間および72℃
2分間の30サイクルにわたり、2回目のPCRに付した。PCR産物は3%Nu
-Sieve(FMC)アガロースゲル上で0.5μg/ml臭化エチジウムで染色させて
視覚化させ、予想サイズのRANTES cDNA(278bp)で移動するバ
ンドを標準法によりゲル精製した(Sambrook J.et al.,(1989),Molecular Cloni
ng-A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor,Laboratory Press,USA)。次いで
ゲル精製されたDNAを、50μlの全容量中37℃で1時間にわたり、製造業
者の指示に従いT4ポリヌクレオチドキナーゼ(New England Biolabs)での連
続処理により平滑末端化させた。この後、2.5mM dNTP2.5μlおよ
びE.coli DNAポリメラーゼIクレノウ断片(New England Biolabs)1μlを
加え、インキュベートを37℃で更に30分間続けた。次いで反応混合液を70
℃で30分間かけて熱不活化させ、その後Tris‐HCl pH8.0飽和フェノ
ール/クロロホルム(1:1v/v)で1回抽出した。DNAを3M酢酸ナトリ
ウムpH5.5 10μl、グリコーゲン(20mg/ml)(Boehringer)1μl
およびエタノール250μlの添加により−20℃で沈降させた。DNA
を10,000×gで20分間かけて4℃で遠心により回収し、70%エタノー
ルで洗浄した。最終ペレットを10ng/μlの濃度で滅菌水に再懸濁した。
平滑末端PCR産物(10ng)を、15℃で少くとも16時間にわたりT4
DNAリガーゼ(400,000単位/ml)(New England Biolabs)2μlを
用いて、20μlの容量中で、EcoRV切断アルカリホスファターゼ処理pBl
uescript II SK‐プラスミド(Stratagene)50ngに連結させた。連結産物
を1×TE(10mM Tris-HCl pH8.0/1mM EDTA)で100
μlまで希釈し、前記のようにフェノール/クロロホルム抽出した。連結産物を
3M酢酸ナトリウムpH5.5 10μl、グリコーゲン(20mg/ml)1μl
およびエタノール250μlの添加により−70℃で15分間かけて沈降させた
。DNAを前記のように遠心で回収し、滅菌水10μlに再懸濁した。次いで再
懸濁された連結産物5μlを製造業者の指示に従いBio Rad Geneパルサーを用い
てエレクトロコンピテントE.coli株XL‐1ブルー(40μl)中にエレクトロ
ポレーションした。エレクトロポレーション後に、LB培地1mlを加え、細胞
を37℃で1時間増殖させた。この後、培地の一部100μlを100μg/mlア
ンピシリン含有LBプレート上におき、37℃で16時間増殖させた。次いで個
別の細菌コロニーを100μg/mlアンピシリン含有LB5ml中に拾い出し、3
7℃で一夜増殖させた。次いで小規模のプラスミドDNA調製物(mini-prep)
を製造業者の指示に従いWIZARDTMmini-prep DNA精製系(Promega)を用いて
各培養物3mlから作った。次いでmini-prep DNAの一部3μlを製造業者の
指示に従い15μlの反応容量中で制限酵素HindIIIおよびEcoRI(双
方ともNew England Biolabs製)で切断した。反応産物を0.5μg/ml臭化エチ
ジウム含有1%アガロースゲル上で分析した。次いで約280bpのインサート
サイズを示したmini-prep DNAを、製造業者の指示に従いT3およびT7プラ
イマーとSequenase(USB)を用いてDNA配列分析に付した。
pBluescript II SK‐クローニングベクターを下記のように作った:
CsCl勾配精製プラスミド20μgを製造業者の指示に従いEcoRV(New
England Biolabs)200単位で100μlの反応容量中37℃で2時間かけて
切断した。2時間後、切断されたベクターを37℃で更に30分間かけて子牛腸
アルカリホスファターゼ(20単位/ml)(Boehringer)10μlで処理した。
反応混合液を68℃で15分間加熱することにより不活化させ、その後Tris‐H
Cl pH8.0飽和フェノール/クロロホルム(1:1v/v)で1回抽出し
た。プラスミドDNAを3M酢酸ナトリウムpH5.5 10μlおよびエタノ
ール250μlの添加により−20℃で沈降させた。DNAを10,000×g
で20分間かけて4℃で遠心により回収し、70%エタノールで洗浄した。最終
ペレットを50ng/mlの濃度で滅菌水に再懸濁した。
配列決定では、得られたすべてのクローンが、RANTESプロペプチドの提
示シグナル配列でArgからProに代わったPCR配列の22位ヌクレオチド
における単一の塩基変化を除いて、公表された配列と同一であることを示した。
これは図1で示されており、そこではクローニングされたDNAコード配列が
対応アミノ酸配列と一緒に掲載されている。
(b)メチオニル化RANTES(RANTESアンタゴニスト)に関する発現 ベクターの作製
RANTESに関する遺伝子を含んだ構築体は、下記プライマーを用いてPC
Rに付した:
5′‐TTAATTAATTAAATCGATTCATATG.TCC.CCA
.TAT.TCC.TCG.GAC.AC‐3′
上記において2つの下線部分は各々ClaIおよびNdeI制限部位である(N
deI部位は開始メチオニンコドンの部分を含んでいる)
5′‐TACTGATATAAATCTAGACTAGCTCATCTCCAA
AGAGTTG‐3′
次いでこの断片を5′末端でClaIおよび3′末端でXbaIにより切断し
た。次いで図2に示されたプラスミドpCba‐MをXbaI/SalIで切断
した。大きな断片をSalIおよびClaIで切断した。次いで3通りの連結を
第一切断物から小さなSalI/XbaI断片、第二切断物からSalI/Cl
aI断片、およびPCR断片を用いて行い、mTNF遺伝子が開始メチオニンで
始まるヒトRANTESの分泌形のものに代えられたpCba‐Mと類似した構
築体を得た(分泌形のヒトRANTESは図1に示されたアミノ酸配列の初めの
23アミノ酸を含んでいない。それは図1に示された残りのアミノ酸を含んでい
て、アミノ酸SPY...で始まる)。
次いでこのNdeI/SalI断片をこのベクターから除いて、図3に示され
た発現プラスミドpT7‐7中に入れた。この断片は対象遺伝子+600bpの
他物質を含んでいるが、後の実験(本明細書に含まれていない)では他物質(ベ
クター配列)の除去が発現レベルに影響を有しないことを示した。
pT7タイプ発現ベクターはStudier FW,Rosenberg AH et al.,Meth.Enzymol.
185,60-89(1990)に記載されている。次いで構築体をプラスミドpACYC18
4(Chang and Cohen,J.Bact.134,1141,1978)にLysS遺伝子を含んだE.coli
BL21(DE3)株(F−ompT、hsd SB(rB -、mB -))中に組込
んで形質転換させた。発現ベクターはタンパク質発現を行わせるためにT7ポリ
メラーゼを誘導させることを要する。T7ポリメラーゼは培地へのIPTG(イ
ソプロピルチオガラクトシド)の添加により細胞で誘導される。
(c)Met‐RANTESが実際にアンタゴニスト活性を示す証明
(i)走化性アッセイ
インビトロ走化は、製造業者の指示に従い96ウェルチャンバー(Neuro Prob
e MBシリーズ、Cabin John,MD 20818,USA)を用いて行った。CCケモカ
イン、RANTES、MIP‐1αおよびMCP‐1により誘導される走化性は
ヒト単球細胞系THP‐1を用いて調べた。2%不活化牛胎児血清を含有したR
PMI1640培地(Gibco)200μl中で4×105THP‐1細胞を上部チ
ャンバーの各ウェルでインキュベートした。化学誘引物質(即ち、ケモカイン)
を含有したRPMI1640培地(FCSなし)370μlを適切な希釈倍率で
下部チャンバーに入れた。走化性の阻害のため、化学誘引物質を各ケモカインに
ついて既に調べられたEC50×5の一定濃度に保ち、Met‐RANTESを様
々な濃度で加えた。チャンバーを5%CO2下37℃で1時間インキュベートし
た。培地を上部チャンバーから除去し、20mM EDTA含有PBSと入れ換
え、チャンバーを4℃で30分間インキュベートした。PBSを上部ウェルから
除去してから、ふきとり乾燥させた。ユニットを1800rpmで10分間遠心
して底部チャンバーにある細胞を収集し、上澄を吸引除去した。底部チャンバー
にある細胞は、テトラゾリウムブルーからそのホルマザン生成物への変換をモニ
ターするCell Titer 88TM Non-Radioactive Cell Proliferation Assay(Promeg
a,Madison,USA)を用いて測定した。RPMI1640培地中色素の10%溶液
100μlを各ウェルに加え、チャンバーを5%CO2下37℃で一夜インキュ
ベートした。次いで可溶化溶液100μlを各ウェルに加え、吸光度をThermoma
x微量滴定プレートリーダー(Molecular Devices,Palo Alto,CA)で4時間後に
590nmで読取った。
結果は図4および図5に示されている。
(ii)カルシウム流動
ケモカインRANTESおよびMIP‐1αにより誘導されるカルシウム流動
は、Tsien R.Y.,Pozzan T.and Rink T.J.((1982)"Calcium homeostasis in inta
ct lymphocyte: cytoplasmic free calcium monitored with a new,intracellul
arly trapped fluorescent indicator",J.Cell Biolog y94)に従い、
但し蛍光指示薬としてQuin2の代わりにFura-2/AM(Fluka)を用いて測定し
た。THP‐1細胞は、それらが確かに指数期にあるように106/ml以下で収
集した。細胞を0.2%Fura-2/AMおよび1mg/ml BSAを含有したKrebs-Ringe
r溶液に106/mlの濃度で再懸濁し、光の不在下37℃で30分間インキュベー
トした。細胞を遠心により収集し、Krebs-Ringer溶液に再懸濁し、氷上においた
。一部1mlを使用前に37℃で2分間インキュベートした。ケモカインを撹拌
下で細胞懸濁液に加えた。Met‐RANTESによる阻害を研究するために、
アンタゴニストの一部を37℃で2分間のインキュベート中に様々な濃度で細胞
に加えた。結果は図6および図7に示されている。
(iii)レセプター結合アッセイ
競合アッセイは、1mM CaCl2、5mM MgCl2および0.5% B
SAを含有した50mM HEPES緩衝液pH7.2(結合緩衝液)で2時間
前処理された96ウェルマルチスクリーンフィルタープレート(Millipore,MADV
N6500)で実施した。アッセイは組換えCC‐CKR1レセプターを発現するT
HP‐1細胞またはCOS細胞を用いて行った(Neote,K.,DiGregorio,Mak,J.Y.
,Horuk,R.and Schall,T.J.,(1993)Molecular cloning,functional expression a
nd signalling characteristics of a C-C chemokine receptor,Cell 72,415-42
5;Gao,J.L.et al,J.Exp.Med.177,1421-7(1993))。各ウェルは0.4nM〔I1 25
〕MIP‐1αまたは0.4nM〔I125〕RANTES(new England Nucle
ar,NEX277)と様々な濃度の競合Met‐RANTESを含有した結合緩
衝液150μlの容量中に105細胞を含んでいた。アッセイは重複して3回行
った。4℃で90分間のインキュベート後、細胞は0.5M NaClを含有し
た氷冷結合緩衝液200μlで4回洗浄し、これを吸引除去した。フィルターを
乾燥させ、Ultima Gold Scintillation液(Packard)3.5mlを加え、Beckma
n LS5000カウンターでカウントした。結果は図8に示
されている。
(d)Leu‐RANTES(以下L‐RANTESとも称される)の作製およ び拮抗作用の証明
L‐RANTES発現ベクターを2ステップで作製した。最初のPCRは、第
一システインコドン内でヒトRANTESの遺伝子を切り取って、その遺伝子の
末端にユニーク制限部位を導入するために利用した。このPCR産物は、遺伝子
の5′末端に導入されたSacI部位と、遺伝子の3′末端でHindIII適合
性オーバーハングを得るためのBsmAI部位を用いて、T7ベースE.coli発現
ベクターpET23d(Novagen)中にクローニングした。次いでヒトRANT
ESのN末端変異体についてエンコードする遺伝子を、その変異体についてエン
コードするオリゴヌクレオチドをRANTESコード配列のすぐ5′側に挿入す
ることにより作製した。この目的のために、pET23dにおける端部切欠RA
NTESクローンをSacIで切断してから、SacIにより残された突出3′
オーバーハングを除去するためにT4DNAポリメラーゼで処理し、その後2回
目の切断をNcoIで行った。次いでペプチド配列MKKKWPRLSPYSS
DTTPについてエンコードするオリゴヌクレオチドを切断されたベクター中に
クローニングした。pET23d/L‐RANTES構築体の発現はpT7‐7
構築体について記載されたように行った。
pET23d/RANTES NcoI pET23d/RANTES SacI/T4
5′C C TGC TTT 3′
3′GGTAC G ACG AAA 5′
L‐RANTESオリゴヌクレオチド
pET23d/L‐RANTES構築体は、1位に異なるアミノ酸をもつRA
NTESを作るために使用できる、一連の発現ベクターの1つである。これらの
T7発現ベクターはMKKKWPR‐X‐RANTESのN末端配列を有するタ
ンパク質についてエンコードしている。Xには、例えばL、I、Q、EまたはG
がある。エンド‐Arg‐Cの開裂は異なるX‐RANTESタンパク質を作り
出す。
Leu‐RANTESの精製は下記のように実施した:
E.coli細胞ペースト4gを、1mMジチオスレイトール、5mMベンズアミジ
ン‐HCl、0.1mMフェニルメチルスルホニルフルオリドおよびDNアーゼ
(0.02mg/ml)を含有した50mM Tris-HCl緩衝液pH7.8 15m
lに懸濁した。細胞をFrench Pressureセルに3回通過させて破壊し、各通過後
に氷上で1分間音波処理した。得られた溶液を10,000×gで80分間遠心
した。ペレットを8Mグアニジン‐HClおよび1mMジチオスレイトールを含
有した100mM Tris-HCl緩衝液pH8.0 2mlに溶解した。溶液を6
0℃で60分間加熱して確実にモノマー化させ、室温まで冷却し、同緩衝液で平
衡化されたSuperdex‐200 16/60カラムでゲルロ過した。組換えRAN
TES構築体を含有したフラクション(16ml)は1mM酸化グルタチオンお
よび0.1mM還元グルタチオンを含有した100mM Tris-HCl緩衝液pH
8.0 384mlへの滴下により再生させ、一夜撹拌した。この溶液を50m
M酢酸ナトリウムpH4.5に対して透析し、その後同緩衝液で平衡化されたH1
Load SP26/10カラムに適用した。タンパク質を同緩衝液で0〜2M NaClの
直線勾配により溶出させた。再生タンパク質を含有したフラクションは1%酢酸
3×5lに対して透析し、凍結乾燥させた。
融合タンパク質からKKKWPRヘキサペプチドを除去するために、凍結乾燥
粉末を水に溶解させ、1mg/ml 50mM Tris-HCl緩衝液pH8.0に調整し
た。この溶液2mlにエンドプロテイナーゼArg C(Boehringer Mannheim
)20μgを加え、溶液を37℃で2時間インキュベートした。切断タンパク質
は0.1%トリフルオロ酢酸で平衡化されたNucleosil-C8(10×250mm
)カラムを用いて逆相HPLCにより出発物質から分離させた。そのタンパク質
を0.1%トリフルオロ酢酸中22.5〜45%アセトニトリルの勾配で溶出さ
せ、凍結乾燥して、−80℃で貯蔵した。
THP‐1細胞のRANTES誘導走化性に関するアンタゴニスト活性は、M
et‐RANTESタンパク質について記載されたように試験した。
結果は図9に示されている。
(e)Gln‐RANTES(時々Q‐RANTESと称される)の作製および 拮抗作用の証明
上記操作(d)を、Gln‐RANTESを作製するために、必要な変更を加
えて繰り返した。
THP‐1細胞のRANTES誘導走化性に関するGln‐RANTESのア
ンタゴニスト活性を、Met‐RANTESタンパク質について記載されたよう
に試験した。結果は図10に示されている。
【手続補正書】特許法第184条の8第1項
【提出日】1996年11月18日
【補正内容】
請求の範囲
1. RANTESと少くとも40%のアミノ酸配列相同性を有し、かつ下記
のうち1以上:
(a)RANTESまたはMIP‐1αに応答したTHP‐1細胞の走化性、
(b)RANTESの存在またはMIP‐1αの存在によるTHP‐1細胞に
おけるカルシウムイオンの移動、および
(c)THP‐1細胞のレセプターへのRANTESの結合
に関して、RANTESまたはMIP‐1αのアンタゴニストとして機能するポ
リペプチドであって、
1以上のN末端アミノ酸の存在によりRANTESまたはMIP‐1αのアン
タゴニストとして作用する、ポリペプチド。
2. 1以上のN末端アミノ酸が、配列SPYSSDT TPCCFAYIA
R PLPRAHIKEY FYTSGKCSNP AVVFVTRKNR Q
VCANPEKKW VREYINSLEM SのN末端に存在する、請求項1
に記載のポリペプチド。
3. 前記1以上のN末端アミノ酸が、メチオニン、ロイシンまたはグルタミ
ンを含むものであるか、またはそれらからなる、請求項1または2に記載のポリ
ペプチド。
4. メチオニン、ロイシンまたはグルタミンが前記ポリペプチドのN末端に
ある、請求項3に記載のポリペプチド。
5. 前記ポリペプチドが、下記配列:
(i)MSPYSSDT TPCCFAYIAR PLPRAHIKEY FY
TSGKCSNP AVVFVTRKNR QVCANPEKKW VREYI
NSLEM S
(ii)LSPYSSDT TPCCFAYIAR PLPRAHIKEY FY
TSGKCSNP AVVFVTRKNR QVCANPEKKW VREYI
NSLEM S
(iii)QSPYSSDT TPCCFAYIAR PLPRAHIKEY F
YTSGKCSNP AVVFVTRKNR QVCANPEKKW VREY
INSLEM S
を有するか、あるいは上記配列のいずれかと実質上相同的である配列を有してな
る、請求項1〜4のいずれか一項に記載のポリペプチド。
6. 請求項1〜5のいずれか一項に記載のポリペプチドをコードする、DN
AまたはRNA配列。
7. 請求項6に記載の配列を含んでなる、ベクター。
8. 請求項7に記載のベクターを含んでなる、宿主細胞。
9. ヒトまたは非ヒト動物における治療または診断に用いられる、請求項1
〜5のいずれか一項に記載のポリペプチド。
10. RANTESまたはMIP‐1αにより媒介される炎症を阻害または
減少させることにより疾患を治療するために用いられる、請求項1〜5のいずれ
か一項に記載のポリペプチド。
11. 喘息、アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎、アテローム/アテロー
ム性動脈硬化症またはリウマチ様関節炎の治療に用いられる、請求項10に記載
のポリペプチド。
12. 請求項8に記載の宿主細胞にポリペプチドを発現させることからなる
、請求項1〜5のいずれか一項に記載のポリペプチドの産生方法。
13. 実質的に添付の例に記載されたようなポリペプチド。
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(51)Int.Cl.6 識別記号 FI
C07K 14/52 A61K 37/02 ABF
C12N 5/10 ABX
C12P 21/02 ABM
(81)指定国 EP(AT,BE,CH,DE,
DK,ES,FR,GB,GR,IE,IT,LU,M
C,NL,PT,SE),OA(BF,BJ,CF,CG
,CI,CM,GA,GN,ML,MR,NE,SN,
TD,TG),AP(KE,LS,MW,SD,SZ,U
G),AL,AM,AT,AU,BB,BG,BR,B
Y,CA,CH,CN,CZ,DE,DK,EE,ES
,FI,GB,GE,HU,IS,JP,KE,KG,
KP,KR,KZ,LK,LR,LS,LT,LU,L
V,MD,MG,MK,MN,MW,MX,NO,NZ
,PL,PT,RO,RU,SD,SE,SG,SI,
SK,TJ,TM,TT,UA,UG,US,UZ,V
N
(72)発明者 プラウドフート,アマンダ エリザベス
インズ
スイス国プラン−レ−ズアート、シュマ
ン、ド、オール、14、グラクソ、インステ
ィテュート、フォー、モレキュラー、バイ
オロジー、ソシエテ、アノニム内