JPH10509318A - 組換えcmv−ie/hiv−tar/モロニーマウス白血病ウイルスltrを含有するレトロウイルスベクター - Google Patents
組換えcmv−ie/hiv−tar/モロニーマウス白血病ウイルスltrを含有するレトロウイルスベクターInfo
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Abstract
(57)【要約】
モロニーマウス白血病ウイルス(M−MuLV)ロングターミナルリピート(LTR)を修飾することにより新規なレトロウイルスベクターを構築した。ヒトサイトメガロウイルス即時型(CMV−IE)エンハンサーを含むエンハンサー/プロモーター要素およびヒト免疫不全ウイルス(HIV)TATA TAR(トランス活性化応答要素)が、天然M−MuLV TATAボックスに隣接したM−MuLV LTRのV3領域に挿入された。得られた二重プロモーターLTRは野生型M−MuLV LTRより10〜50倍高いプロモーター活性を示した。さらに、修飾LTRはHIVタイプ1のTatタンパク質によりトランス活性化されることがわかった。修飾LTRを含有するレトロウイルスベクターを提供する。さらに、修飾LTRおよびHIV−1パッケージング配列を含有するレトロウイルスベクターを提供する。これらの新規レトロウイルスベクターは各種の細胞型に遺伝子を送達するための改良手段を提供するものである。
Description
【発明の詳細な説明】
組換えCMV−IE/HIV−TAR/モロニーマウス白血病ウイルスLTR
を含有するレトロウイルスベクター発明の分野
本発明は、ヒト細胞での高レベル遺伝子発現に有用な、改良されたウイルスベ
クターに関する。これらのベクターは抗ウイルス治療、抗腫瘍治療および/また
は遺伝子治療にも使用できる。改良ベクターは種々のヒト細胞型において機能す
る有効なプロモーターを提供する新規なロング・ターミナル・リピート(LTR
)を含有する。また、改良ベクターは組換えウイルスゲノムの向上したパッケー
ジング効率をもたらす追加のパッケージング配列を含有する。さらに、改良ベク
ターはHIV由来のパッケージング配列を含むことができる。発明の背景
ウイルスベクターは全胚、受精卵、単離した組織サンプル、培養細胞株を含め
て様々な細胞型に遺伝子を導入するための運搬体として使用されている。細胞へ
の外来遺伝子の導入および発現は遺伝子発現の研究および細胞系統の解明にとっ
て有用である[Watson,J.D.ら,(1992)Recombinant DNA,第2版,W.H Freeman
and Co.,NY,pp.256-263]。細胞の染色体に組み込まれるレトロウイルスベ
クターは、発生的に重要な遺伝子の挿入突然変異誘発による同定にも使用されて
いる[Watson,J.D.ら,(1992),前掲,p.261]。ウイルスベクター、特にレトロ
ウイルスベクターは治療分野(例えば、遺伝子治療)においても使用され、その
場合は欠損または欠陥遺伝子を置換するためにまたはウイルスなどの病原体を不
活性化するために遺伝子が細胞に導入される。
1.AIDSの遺伝子治療戦略
遺伝子治療は後天性免疫不全症候群(AIDS:エイズ)のような慢性の感染
症の治療にも提案されている。レトロウイルスであるヒト免疫不全ウイルス(H
IV)による感染は、必ずといっていいほど、ヒトにAIDSを発症させる。逆
転写酵素阻害剤や可溶性CD4などの抗ウイルス薬を含めて、従来の治療的処置
はAIDSを治すことができなかった。
有効な長期治療用化合物が存在しない現状では、代わりの抗HIV治療法が必
要とされている。AIDS治療用の最近提案された遺伝子治療法として、遺伝子
おとり系(トランス優性変異体)、可溶性CD4結合、毒素ターゲッティング、
抗HIVリボザイム、アンチセンスオリゴヌクレオチド、アンチセンスRNA、
抗HIV細胞内抗体、抗HIV抗原特異的T細胞の移入などがある[詳細につい
ては、Yu,M.,Poeschla,E.and Wong-Staal,F.(1994)Gene Ther.1:13を参
照のこと]。
アンチセンスRNAは標的RNAへの相補的結合により遺伝子発現を阻害する
。レトロウイルスの複製を阻害するためにアンチセンスRNA転写産物が用いら
れている。例えば、アンチセンスRNAはトランスフェクトしたウズラ細胞にお
いてラウス肉腫ウイルスの複製を阻害することが明らかにされた[Chang,L.-J.a
nd Stoltzfus.C.M.(1985)Mol.Cell.Biol.5:2341 およびChang,L.-J.and S
toltzfus.C.M.(1987)J.Virol.61:921]。これらの初期の研究が行われて以来
、アンチセンス調節は基礎研究や臨床研究において広く用いられた。例えば、抗
HIVアンチセンスオリゴヌクレオチドGEM91は現在フランスと米国で臨床
試験が行われている[横浜で1994年8月7〜11日に開催された第10回国際エイズ
会議で報告された]。
レトロウイルス疾患の治療にアンチセンス転写産物を用いることの難点は、感
染細胞内で大量のアンチセンス転写産物を産生させる必要があることである。ト
ランス切断RNA酵素(リボザイム)の最近の開発は、RNA−RNAハイブリ
ッドを含むアンチセンスの化学量論的限界を克服することにより、おそらく、ア
ンチセンス戦略に取って代わるだろう[Cech,T.R.and Bass,B.(1986)Ann.Re
v.Biochem.55:599]。「ハンマーヘッド」モチーフのリボザイムは抗HIV薬
として働くことが明らかにされた[Sarver,N.ら,(1990)Science 247:1222]。HI
V-1 gag 転写産物を特異的に切断するハンマーヘッドリボザイムを安定的に発現
するヒト細胞は、これらの細胞にHIV-1 が感染した際に生産されるgag RNA の量
を実質的に低下させることがわかった。かかる結果から、HIV転写産物に特
異的なハンマーヘッドリボザイムの使用は、感染者の細胞にリボザイムをコード
する遺伝子を送達する有効な手段が開発されるという条件で、効果的な治療薬と
なりうることが示唆される。
近年、「ヘアピン」モチーフのリボザイムが抗HIV薬として機能することが
判明し、NIH組換えDNA諮問委員会から臨床プロトコールとしての承認を得
ている[Appendices,Human Gene Therapy(1994)5:147]。リボザイム法のほか
に、gp160 を発現するレトロウイルスベクター[Yu,M.,Poeschla,E.and Won
g-Staal,F.(1994)Gene Ther.1:13]またはトランス優性HIV変異体Rev M10
[Bahner,I.ら(1993)J.Virol.67:3199 および Appendices,Human Gene The
rapy(1994)5:79]の使用、および患者への遺伝子標識CD8+T細胞クローンの
養子免疫伝達[Riddell,S.R.,Human Gene Therapy(1994)5:141]を含めて、
少数の他の遺伝学的手法も臨床試験の承認を得ている。
2.先天性代謝異常の遺伝子治療戦略
二三の症例において、遺伝子治療は既存のベクター系を使って先天性代謝異常
をうまく修正するために用いられた。例えば、機能的なアデノシンデアミナーゼ
の欠損のために重症の複合免疫欠損をきたしている患者を治療するために、アデ
ノシンデアミナーゼ遺伝子がレトロウイルスベクターにより末梢血リンパ球と膿
帯血幹細胞に導入された[Culver,K.W.ら,(1991)Human Gene Therapy 2:107]。
家族性高コレステロール血症の部分的修正は、既存のレトロウイルスベクターを
使って肝細胞に低密度リポタンパク質(LDL)のレセプターを移入することで
達成された。しかしながら、組換えウイルスに暴露された肝細胞のうち、該ベク
ターによりLDLレセプター遺伝子を組み込んだ細胞はたったの5%にすぎない
と推定された[Grossman,M.ら,(1994)Nat.Genet.6:335]。
多くの単一遺伝子欠損は遺伝子治療を用いて修正するための標的とされている
。こうした欠損症として、血友病(因子VIIIまたは因子IXの欠損)、嚢胞性繊維
症(嚢胞性繊維症膜貫通調節因子の欠損)、気腫(α−1−アンチトリプシン欠
損)、地中海貧血および鎌状赤血球貧血(β−グロビンの欠陥合成)、フェニル
ケトン尿症(フェニルアラニンヒドロキシラーゼ欠損)、および筋ジストロフィ
ー(ジストロフィン欠損)がある[詳細については、Miller,A.D.(1992)Natur
e 357:455を参照のこと]。これらの多くの疾病のためにヒト遺伝子導入試験が
承認されている。
3.がんの遺伝子治療戦略
欠損遺伝子の置換のほかに、ウイルスベクターを使って腫瘍細胞に対する免疫
性を刺激するか、さもなくば腫瘍細胞を破壊するようにデザインされた遺伝子を
送達することが提案されている。腫瘍壊死因子(TNF)またはインターロイキ
ン−2(IL−2)をコードする遺伝子を含有するレトロウイルスベクターが、
患者の腫瘍浸潤性リンパ球に導入された[Kasid,A.ら,Proc.Natl.Acad.Sci
.(1990)および Rosenberg,S.A.,Human Gene Therapy 5:140(1994)]。TNF
やIL−2の分泌は腫瘍特異的免疫応答を刺激して腫瘍を破壊するか、隣接リン
パ節からの有効な腫瘍浸潤性リンパ球の漸増をもたらすと仮定される。その他の
提案された抗腫瘍遺伝子治療戦略として、腫瘍細胞へのトキシン遺伝子の送達が
含まれる。
オンコジーンの阻害と成長因子の調節にアンチセンス遺伝子またはアンチセン
スオリゴヌクレオチドを使用すると、がん、特にヒト白血病の死亡率を低下させ
る可能性がある[詳細については Gewirtz A.M.(1993)Stem Cells 3:96およびN
eckers,L.and Whitesell,L.(1993)Am.J.of Physiol.265:L1を参照のこと
]。
4.現在のウイルスベクター系
治療に利用可能な抗HIV遺伝子がいろいろあることを考慮すると、HIV感
染を治療する手段としての遺伝子治療への期待を実現させるためには、これらの
遺伝子を効率よく送達する手段が非常に必要とされていることは明らかである。
マウスのレトロウイルス、アデノウイルス、パルボウイルス(アデノ随伴ウイル
ス)、ワクシニアウイルス、ヘルペスウイルスを含めた種々のウイルス系が治療
用遺伝子の運搬ベクターとして開発されている[詳細についてはNienhuis,A.W.
ら(1993)Hematology,Vol.16: Viruses and Bone Marrow,Young,N.S.編,
Chapter 12,pp.353-414を参照のこと]。ウイルスベクターは、リン酸カルシ
ウムまたは DEAE-デキストラン媒介トランスフェクション、エレクトロポレーシ
ョン、マイクロインジェクションなどの他の技術と比べて、細胞に遺伝子を運搬
するための効率のよい手段を提供する。ウイルスの運搬効率は、DNAの運搬が
受容体媒介法である(すなわち、ウイルスが感染すべき細胞の表面にある特異的
な受容体タンパク質に結合する)という事実による、と考えられる。
多くのウイルスベクター系が利用可能であるが、現在のヒト遺伝子治療試験の
ほぼ全てが、遺伝子運搬のためにアンホトロピックのモロニーマウス白血病ウイ
ルス(M-MuLV)由来のレトロウイルスベクターを使用している[Miller,A.D.and
Buttimore,C.(1986)Mol.Cell.Biol.6:2895]。M-MuLV系はいくつかの利点を
有している。すなわち、1)この特定レトロウイルスは多くの異なる細胞型に感
染することができ、2)組換えM-MuLVウイルス粒子の作製のために、樹立された
パッケージング細胞系が利用可能であり、そして3)運搬された遺伝子が標的細
胞の染色体に永久に組み込まれる。樹立されたM-MuLVベクター系は、レトロウイ
ルス配列の小部分(該ウイルスのロングターミナルリピートつまり「LTR」お
よびパッケージングつまり「psi」シグナル)を含有するDNAベクター、お
よびパッケージング細胞系を含んでなる。運搬される遺伝子はDNAベクターに
挿入される。DNAベクター上に存在するウイルス配列が、ベクターRNAの挿
入またはウイルス粒子へのパッケージングに必要なシグナルと、挿入遺伝子の発
現に必要なシグナルを提供する。パッケージング細胞系は粒子の組み立てに必要
なウイルスタンパク質を提供する[Markowitz,D.ら(1988)J.Virol.62:1120
]。
ベクターDNAはさまざまな手法(例えば、リン酸カルシウム共沈、エレクト
ロポレーションなど)によりパッケージング細胞に導入される。パッケージング
細胞により産生されたウイルスタンパク質が、ウイルス粒子(培養上清中に出て
くる)へのRNA形態のベクター配列の挿入を媒介する。M-MuLV系は安全対策と
して複製能のあるウイルスの生産を防止するようにデザインされている。これら
の系で産生された組換えウイルス粒子は標的細胞に感染して組み込まれるが、他
の細胞に伝播されることはない。こうした防御手段は処置患者からの組換えウイ
ルスの伝播を防止し、かつヘルパーウイルス誘発疾患の可能性を避けるために必
要である[Miller,A.D.and Buttimore,C.(1986)Mol.Cell.Biol.6:2895お
よび Markowitz,D.ら,前掲]。
こうした利点にもかかわらず、既存のレトロウイルスベクターはいくつかの固
有の問題を抱えている。すなわち、1)それらは非分裂細胞に感染せず[Miller
,D.G.ら(1990)Mol.Cell.Biol.10:4239]、2)それらは低力価の組換えウ
イルスしかもたらさず[Miller,A.D.and Rosman,G.J.(1989)Bio Techniques
7:980 および Miller,A.D.(1992)Nature 357:455]、そして3)それらは外来
タンパク質を低レベルで発現し、しばしば組み込み後に「ターンオフ」つまり不
活性化される[Miller,A.D.(1992)Nature 357:455]。アデノウイルス系(1
012/ml)と比べたときのM-MuLV系により得られる組換えウイルスの低生産(
例えば、106/ml)は、ヒト細胞にきわめて低い感染率で感染することを意
味する。この低い感染率は、感染させようとする組織中に標的細胞型がごく少数
しか存在しない場合に特に問題となる。造血幹細胞は大多数の疾患において遺伝
子治療の好適な標的となるが、これらの細胞は非常に低い頻度でしか存在しない
。例えば、全能胚性幹細胞は骨髄中に10-4から10-6の頻度で存在することが
報告されている[B.R.Glick and J.J.Pasternak,Molecular Biotechnology,A
merican Society for Microbiology,1994,p.412]。したがって、既存のM-MuL
Vベクター系によりもたらされる低力価は幹細胞感染にとって問題となる。
さらに、M-MuLV LTR中に存在するプロモーターは、ヒトサイトメガロウイルス
の即時型(CMV-IE)エンハンサー/プロモーターのような他のウイルスプロモー
ターと比べて非常に弱い。レトロウイルスにより運搬される遺伝子の発現を高め
るために、M-MuLVプロモーターよりも強い活性をもつ内部プロモーターが利用さ
れた。しかし、挿入遺伝子を発現させるために内部プロモーターを含めることが
常に増大した発現レベルにむすびつくとは限らない[Robinson,D.,Elliott,J
.F.and Chang,L.-J.(1995)Gene Therapy 2:269]。明らかに、内部プロモー
ターの活性は上流のM-MuLVプロモーターからの干渉(すなわち、転写読み過ごし
干渉)ゆえに著しく低下する。しかしながら、二重転写単位構築物はほとんど全
てのM-MuLVベクターにおいて共通の特徴である。こうした限界を考えると、哺乳
動物細胞、特にヒト細胞に遺伝子を効率的に送達して発現させる手段を提供する
改良ベクター系が早急に必要とされていることは明白である。改良ベクターは遺
伝子の発現および開発の研究に役立ち、遺伝子治療の期待を実現させるために必
要であろう。発明の概要
本発明は、ヒト細胞において高レベルで遺伝子を発現させるのに有用な改良ウ
イルスベクターに関する。これらのベクターは抗ウイルス治療、抗腫瘍治療およ
び/または遺伝子治療にも使用される。改良ベクターは多種類のヒト細胞型にお
いて機能する効率的なプロモーターを提供する新規なロングターミナルリピート
を含有する。改良ベクターはまた、組換えウイルスゲノムの向上したパッケージ
ング効率をもたらす追加のパッケージング配列をも含有する。
一実施態様において、本発明は、ヒト免疫不全ウイルス1のTatタンパク質
により活性化される組換えモロニーマウス白血病ウイルス・ロングターミナルリ
ピートを含んでなり、該組換えロングターミナルリピートはヒト細胞におけるプ
ロモーター活性が野生型のモロニーマウス白血病ウイルス・ロングターミナルリ
ピートと比べて増大している。この増大した活性は宿主細胞(例:ヒト)におい
てベクター中の組換えLTRと野生型LTRとを平行比較することにより簡単に
アッセイできる。好適な実施態様では、組換えロングターミナルリピートは、モ
ロニーマウス白血病ウイルス・ロングターミナルリピートのU3領域にあるプロ
モーター要素の代わりにヒトサイトメガロウイルス即時型エンハンサー/プロモ
ーターおよびHIVのTATAおよびTAR要素を含有する。このような構築物
の例は配列番号17に示す配列を有するものである。
一実施態様において、本発明の組換えロングターミナルリピートは組換えマウ
スアンホトロピック(amphotropic)レトロウイルスベクター上に担持される。こ
のレトロウイルスベクターは機能しうる順序で次の要素を含有する:a)第1の
ロングターミナルリピート、b)該第1のロングターミナルリピートに結合され
たパッケージングシグナル、およびc)該パッケージングシグナルに結合された
第2のロングターミナルリピート。好適な実施態様では、このベクターは選択マ
ーカー遺伝子をコードするヌクレオチト配列を有するオリゴヌクレオチドをさら
に含み、該選択マーカー遺伝子はパッケージングシグナルと第2のロングターミ
ナルリピートの間に機能しうる状態で連結される。選択マーカー遺伝子は優性選
択マーカー遺伝子でありうる。好適な実施態様では、この優性選択マーカー遺伝
子がネオマイシンホスホリボシルトランスフェラーゼ遺伝子である。このような
好適な実施態様の例として、ベクターpLCTSN(アメリカン・タイプ・カル
チャー・コレクションに寄託)がある。
他の実施態様において、本発明の組換えロングターミナルリピートは延長され
たモロニーマウス白血病ウイルスパッケージングシグナルを含むパッケージング
シグナルを含有し、この延長パッケージングシグナルは組換えベクターの増大し
たパッケージング効率をもたらす。こうした好適な実施態様の例はベクターpL
GCTSN(アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクションに寄託)により示
される。別の好適な実施態様では、パッケージングシグナルがヒト免疫不全ウイ
ルスパッケージングシグナルを含んでなる。このヒト免疫不全ウイルスパッケー
ジングシグナルは配列番号10に示した配列または配列番号11に示した配列か
ら成る。
本発明の別の実施態様において、組換えマウスアンホトロピックレトロウイル
スベクターは機能しうる順序で次の要素を含有する:a)第1のロングターミナ
ルリピート、b)該第1のロングターミナルリピートに結合されたパッケージン
グシグナル、c)該パッケージングシグナルに結合されたポリリンカー、および
d)該ポリリンカーに結合された配列番号17に示した配列からなる第2のロン
グターミナルリピート。
更なる実施態様において、組換えベクターはポリリンカー中に挿入された選択
マーカーをさらに含有する。好適な実施態様では、選択マーカーが優性選択マー
カーである。この優性選択マーカーはネオマイシンホスホリボシルトランスフェ
ラーゼ遺伝子でありうる。
一実施態様において、組換えベクターは延長されたモロニーマウス白血病ウイ
ルスパッケージングシグナルを含むパッケージングシグナルを含有する。好適な
実施態様では、このパッケージングシグナルはヒト免疫不全ウイルス1(HIV
−1)由来のパッケージングシグナルを含む。HIV−1パッケージングシグナ
ルは配列番号10または配列番号11から成りうる。
本発明は既存のベクターを改良することに関する。例えば、臨床的に認可され
ているレトロウイルスベクターpLNL6を修飾してpLLL(ATCCに寄託
)を作製した。本発明は他の好適なベクターを作製するためのpLLLベクター
の修飾を包含する。
上述したとおり、本発明は、改良ウイルスベクターを使用してヒト細胞で遺伝
子を高レベル発現させることに関する。特に、本発明は、a)ヒト細胞系、およ
び配列番号17の組換えロングターミナルリピートと対象の遺伝子を含有するレ
トロウイルスベクターを用意し、そしてb)対象遺伝子の発現を可能にする条件
下で該レトロウイルスベクターをヒト細胞系に導入する、各工程を含んでなるヒ
ト細胞系での遺伝子の発現方法を提供する。
この方法の一実施態様において、該ベクターはさらに選択マーカーを含有する
。好適な実施態様では、選択マーカーが優性選択マーカーである。この優性選択
マーカーはネオマイシンホスホリボシルトランスフェラーゼ遺伝子でありうる。
この方法の別の実施態様は、c)該選択マーカーを発現するヒト細胞のみを増
殖させる条件にヒト細胞系をさらす工程を含んでなる。好適な実施態様では、こ
の条件が選択培地からなる。特に好適な実施態様では、選択培地が抗生物質G4
18を含有する。図面の説明
図1は、パッケージされたレトロウイルスベクターRNAのパッケージング細
胞系における生産を示す簡略図である。
図2は、HeLa細胞でのHIV、CMV−IEおよびMLVの相対的プロモ
ーター強度を示すクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)
アッセイのオートラジオグラフを示す。
図3は、レトロウイルスベクターpLLLの地図を示す。所定の制限酵素部位
を示してある。
図4は、レトロウイルスベクターpLLLSV40の地図を示す。所定の制限
酵素部位を示してある。
図5は、レトロウイルスベクターpLLLSVtatの地図を示す。所定の制
限酵素部位を示してある。
図6は、レトロウイルスベクターpLLLgptの地図を示す。所定の制限酵
素部位を示してある。
図7は、レトロウイルスベクターpLLLgptSVtatの地図を示す。所
定の制限酵素部位を示してある。
図8は、図9に示した実験で用いたプラスミドの構成の簡略図である。
図9は、Tatの存在下でのプロモーター活性を示すCATアッセイのオート
ラジオグラフを示す。
図10は、pMT−catおよびpMCT−cat構築物を示す図である。
図11は、AA2細胞での基底およびTat誘導プロモーター活性を示すCA
Tアッセイのオートラジオグラフを示す。
図12は、CEM−TART細胞におけるCAT発現の相対レベルを示すCA
Tアッセイのオートラジオグラフを示す。
図13は、トランス活性化開始実験の結果を示すノーザンブロットのオートラ
ジオグラフを示す。
図14は、トランス活性化開始実験の結果を示すRNA保護アッセイのオート
ラジオグラフを示す。
図15は、図14に示した実験で用いたプローブを図式的に示す。
図16は、修飾MuLVベクターを作製するために行った修飾の概略図である
。
図17は、HeLa細胞におけるpLSN−catおよびpLCTSN−ca
t構築物中の遺伝子の長期発現を示すCATアッセイのオートラジオグラフを示
す。
図18は、Tatの存在下または不在下での形質導入HepG2細胞における
pLSN−catおよびpLCTSN−cat構築物中の遺伝子の長期発現を示
すCATアッセイのオートラジオグラフを示す。
図19は、レトロウイルスベクターpLLL−PAK100の地図を示す。所
定の制限酵素部位を示してある。
図20は、レトロウイルスベクターpLLLgpt−PAK100の地図を示
す。所定の制限酵素部位を示してある。
図21は、レトロウイルスベクターpLLLgpt−PAK140の地図を示
す。所定の制限酵素部位を示してある。
図22は、レトロウイルスベクターpLLLSVhygの地図を示す。所定の
制限酵素部位を示してある。
図23は、レトロウイルスベクターpLCTSN−PAKの地図を示す。所定
の制限酵素部位を示してある。
図24は、PA317およびGP−AM12培養上清の逆転写酵素ドットブロ
ット結果を示す。
図25は、pLSNnef、pLSN−PAK100、pLCTSN−PAK
140およびpLGCTSN−PAK140レトロウイルスベクターの模式図を
示す。
図26Aは、種々のレトロウイルスベクターを導入し、次いで感染後の日数に
対して0.001のMOIでHIV−1HL4-3を感染させたH9細胞からの培養
上清中に存在するRT活性を示す。
図26Bは、種々のレトロウイルスベクターを導入し、次いで感染後の日数に
対して0.001のMOIでHIV−1HL4-3を感染させたAA2細胞からの培
養上清中に存在するRT活性を示す。
図27Aは、種々のレトロウイルスベクターを導入し、次いで感染後の日数に
対して0.2のMOIでHIV−1HL1を感染させたH9細胞からの培養上清中
に存在するRT活性を示す。
図27Bは、種々のレトロウイルスベクターを導入し、次いで感染後の日数に
対して0.2のMOIでHIV−2−RODを感染させたH9細胞からの培養上
清中に存在するRT活性を示す。定義
本発明を理解しやすくするために、多くの用語を以下で定義する。
本明細書中で用いる「アンチセンス」とは、特定のRNA配列(例:mRN
A)に相補的なRNA配列に関して用いられる。この定義には細菌による遺伝子
調節に関与するアンチセンスRNA(asRNA)が含まれる。アンチセンスR
NAは、コーディング鎖の合成を可能にするウイルスプロモーターに対して逆方
向で対象の遺伝子をスプライシングすることによる合成を含めて、どのような方
法でも作製しうる。ひとたび胚に導入されると、この転写鎖は胚により作られた
天然mRNAと組み合わされて二重鎖を形成する。その後、これらの二重鎖はm
RNAの更なる転写またはその翻訳をブロックする。この方法では、変異表現型
が生じることがある。「アンチセンス鎖」は「センス」鎖に相補的な核酸鎖に対
して用いられる。(−)(すなわち、「マイナス」)の表示は時にアンチセンス
鎖に対して用いられ、一方(+)の表示は時にセンス(すなわち、「プラス」)
鎖に対して用いられる。
本明細書中で用いる「ポリA+RNA」とは、3’末端にアデニンヌクレオチ
ドの配列を有するRNAを指す。このポリアデニン配列は「ポリA尾部」ともい
う。真核mRNA分子はポリA尾部を含み、ポリA+RNAと呼ばれる。
本明細書中で用いる「リボザイム」とは、触媒活性を有するRNA分子に対し
て用いられる。この用語はリボヌクレアーゼPおよびプレrRNA分子を含むが
これらに限らないあらゆる触媒活性RNA分子を包含するものとする。
本明細書中で用いる「自己トリミング」および「自己開裂」とは、リボザイム
および他の分子が自己の構造または配列を開裂する能力をいう。
本明細書中で用いる「トランス」とは、対象の遺伝子類が核酸の異なる鎖上に
存在する(例えば、対立遺伝子が染色体対の2本の染色体上に存在する)ことに
関して用いられる。「トランス作用」とは、異なる染色体に存在する遺伝子に対
する調節遺伝子の制御作用に関して用いられる。プロモーターと対照的に、リプ
レッサーは遺伝情報を含むDNA分子へのその結合に限定されない。それゆえ、
リプレッサーはトランス作用制御要素と呼ばれることがある。
本明細書中で用いる「トランス活性化」とは、調節遺伝子が結合するまたは活
性化する遺伝子配列と必ずしも隣接していない該調節遺伝子によりコードされる
因子による該遺伝子配列の活性化を意味する。例えば、HIV−1調節タンパク
質Tatはtat遺伝子によりコードされ、HIV LTRに結合してHIV
LTRからの発現を活性化(すなわち、トランス活性化)する。
本明細書中で用いる「シス」とは、遺伝子類が同一の染色体上に存在すること
に関して用いられる。「シス作用」とは、同一の染色体上に存在する遺伝子に対
する調節遺伝子の制御作用に関して用いられる。例えば、プロモーターは下流の
mRNAの合成に影響を及ぼすもので、シス作用制御要素である。
本明細書中で用いる「レトロウイルス」とは、その複製サイクル中に逆転写酵
素を利用するRNAウイルスに対して用いられる。レトロウイルスのゲノムRN
Aは逆転写酵素によって二本鎖DNAに変換される。この二本鎖DNA形態のウ
イルスは感染細胞の染色体に組み込まれ、「プロウイルス」と呼ばれる。このプ
ロウイルスはRNAポリメラーゼIIの鋳型として用いられ、そして新ウイルス粒
子の生産に必要とされる構造タンパク質と酵素をコードするRNA分子を発現さ
せる。プロウイルスの各末端部には「ロングターミナルリピート」または「LT
R」と呼ばれる構造がある。LTRは転写制御要素、ポリアデニル化シグナルお
よびウイルスゲノムの複製と組み込みに必要な配列を含めて多数の調節シグナル
を含んでいる。ウイルスLTRはU3、RおよびU5と呼ばれる3つの領域に分
けられる。
U3領域はエンハンサーおよびプロモーター要素を含む。U5領域はポリアデ
ニル化シグナルを含む。R(リピート)領域はU3領域とU5領域を分離してお
り、R領域の転写配列はウイルスRNAの5’末端と3’末端の両方に見られる
。
本明細書中で用いる「内在性ウイルス」とは、その宿主細胞の染色体に(しば
しば多コピー数で)組み込まれており、それにより垂直伝播を示すことができる
不活性ウイルスに関して用いられる。内在性ウイルスは自発的に自己を発現する
ことができ、悪性疾患の原因になりうる。
本明細書中で用いる「アンホトロープ」および「アンホトロピック」とは、ウ
イルスの起源種の細胞および他種の細胞において容易に増殖する内在性ウイルス
に関して用いられる。
本明細書中で用いる「エコトロープ」および「エコトロピック」とは、ウイル
スの起源種の細胞内で容易に増殖するが、他種の細胞内では増殖できない内在性
ウイルスに関して用いられる。
本明細書中で用いる「キセノトロープ」および「キセノトロピック」とは、ウ
イルスの起源種の細胞に感染しないが、他種の細胞に感染して増殖しうる内在性
ウイルスに関して用いられる。
本明細書中で用いる「プロウイルス」とは、宿主細胞の染色体(またはゲノム
)に組み込まれており、宿主細胞の溶解または破壊を起こすことなく一細胞世代
から次細胞世代へ伝播されるウイルスを指す。この用語はまた、RNAレトロウ
イルスのゲノムに対応する真核生物染色体中に存在する二重鎖DNA配列に対し
ても用いられる。
本明細書中で用いる「細胞培養物」とは、細胞のあらゆるin vitro培養物を指
す。この用語には、連続細胞系(例えば、不死の表現型をもつもの)、一次細胞
培養物、有限細胞系(例えば、非形質転換細胞)、およびin vitroで維持される
他のあらゆる細胞集団が含まれる。
「T25フラスコ」とは、増殖表面積が25平方センチメートルの組織培養フ
ラスコのことである。
本明細書中で用いる「パッケージングシグナル」または「パッケージング配列
」とは、ウイルスキャプシドまたは粒子へのウイルスRNAの挿入に必要とされ
るレトロウイルスゲノム内にある配列を指す。数種のレトロウイルスベクターは
ウイルスゲノムの包膜(キャプシド化)に必要な最小限のパッケージングシグナ
ル(psi配列ともいう)を用いている。この最小パッケージングシグナルはM
o−MuLVゲノムの塩基212〜563を含む[Mannら(1983)Cell 33:153]
。
本明細書中で用いる「延長パッケージングシグナル」または「延長パッケージ
ング配列」とは、gag遺伝子への更なる延長を含むpsi配列の周辺の配列の
使用を意味する。Mo−MuLVでは、この延長パッケージング配列が塩基10
39から塩基1906を含む領域に相当する[Akagi,T.ら(1991)Gene 106:2
55]。度々用いられるMo−MuLVベクターpLNL6[Bender,M.A.ら(1987
)J.Virol.61:1639]は、モロニーマウス肉腫ウイルスゲノムの塩基206〜1
039の延長パッケージングシグナルを含むゲノムの全5’領域を含有する[RN
A Tumor Viruses,2nd Ed.(1985)pp.986-988 のSupplements and
Appendicesからの番号付け]。こうした追加のパッケージング配列を含めると、
ウイルス粒子へのベクターRNAの挿入効率が増加する。
本明細書中で用いる「パッケージング細胞系」は、ウイルス構造タンパク質(
例:gag、polおよびenv)を発現するが、パッケージングシグナルを含
まない細胞系に対して用いられる。例えば、ゲノムの一染色体部位に機能的なp
si+配列を欠く(Δpsiと記す)5'-LTR-gag-pol-3'-LTR 断片および別の染
色体部位にやはりΔpsiである5'-LTR-env-3'-LTR 断片を担う細胞系が遺伝子
工学的に作製された。これらのセグメントは両方とも構成的に転写されるが、p
si+領域が失われていて、産生されたウイルスRNA分子がフルサイズより小
さいので、空のウイルス粒子が形成される。
レトロウイルスベクターDNAを細胞にトランスフェクトする場合は、それが
染色体DNAに組み込まれかつ転写されることにより、psi+配列を有する全
長レトロウイルスベクターRNAが生産される。これらの条件下では、ベクター
RNAのみがウイルスキャプシド構造中にパッケージされる。これらの完全では
あるが複製能のないウイルス粒子は、その後、比較的高効率でレトロウイルスベ
クターを標的細胞に送達するために用いられる。
図1は、パッケージされたレトロウイルスベクターRNAのパッケージング細
胞系における生産を示す簡略図である。この図において、放出されたウイルス粒
子は治療用遺伝子(遺伝子X)とネオマイシン耐性の選択マーカー遺伝子(Ne
or)を担っている。
本明細書中で用いる「治療用遺伝子」とは、細胞代謝異常を修正するために、
病原体を不活性化するために、またはがん細胞を撲滅するために細胞内での発現
が望まれる遺伝子を指す。例えば、アデノシンデアミナーゼ(ADA)遺伝子は
、ADA欠損症を治療するためにレトロウイルスベクターに担持させるとき治療
用遺伝子となる。
本明細書中で用いる「選択マーカー」とは、選択マーカーを発現する細胞に抗
生物質または薬剤に対する耐性を与える酵素活性をコードする遺伝子の使用を意
味する。選択マーカーは「優性」でありうる。優性選択マーカーはどのような真
核細胞系においても検出できる酵素活性をコードしている。優性選択マーカーの
例として、哺乳動物細胞において薬剤G418耐性を付与する細菌のアミノグリ
コシド3’ホスホトランスフェラーゼ遺伝子(neo遺伝子ともいう)、抗生物
質ハイグロマイシン耐性を付与する細菌のハイグロマイシンホスホトランスフェ
ラーゼ(hyg)遺伝子、およびマイコフェノール酸の存在下で増殖する能力を
付与する細菌のキサンチン−グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ遺伝子
(gpt遺伝子ともいう)がある。他の選択マーカー遺伝子は、関係する酵素活
性を欠く細胞系と一緒に使用する必要があるという点で優性ではない。非優性選
択マーカーの例として、tk-細胞系と共に用いられるチミジンキナーゼ(tk
)遺伝子、CAD欠損細胞と共に用いられるCAD遺伝子、およびhprt細胞
系と共に用いられる哺乳動物のヒポキサンチン−グアニンホスホリボシルトラン
スフェラーゼ(hprt)遺伝子が挙げられる。哺乳動物細胞系における選択マ
ーカーの使用の詳細は、Sambrook,J.ら,Molecular Cloning: A Laboratory Ma
nual,2nd ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,New York(1989)pp.1
6.9-16.15 に示されている。
本明細書中で用いる「パッケージング配列」、「パッケージングシグナル」お
よび「psi」は、ウイルス粒子形成中のレトロウイルスRNA鎖のキャプシド
化に必要とされる非コーディング配列に対して用いられる。
本明細書中で用いる「レトロウイルスベクター」とは、核酸を細胞に導入する
ためのベクターとして利用するように修飾されたレトロウイルスに対して用いら
れる。
本明細書中で用いる「ベクター」は、DNAセグメントを細胞から細胞へ運搬
する核酸分子に対して用いられる。時に「ビヒクル」が「ベクター」と相互交換
可能に用いられる。
本明細書中で用いる「発現ベクター」とは、所望のコーディング配列および特
定の宿主生物内での機能的に連結されたコーディング配列の発現に必要とされる
適当な核酸配列を含有する組換えDNA分子を指す。原核細胞内での発現にとっ
て必要な核酸配列は通常プロモーター、オペレーター(任意)およびリボソーム
結合部位を、しばしば他の配列とともに含む。真核細胞はプロモーター、エンハ
ンサー、終結およびポリアデニル化シグナルを利用することが知られている。
本明細書中で用いる「機能しうる組合せで」、「機能しうる順序で」および「
機能しうる状態で連結された」とは、所定の遺伝子の転写および/または所望の
タンパク質分子の合成を誘導しうる核酸分子が作製されるような方法での核酸配
列の連結を意味する。この用語は機能性タンパク質が生産されるような方法での
アミノ酸配列の結合をも意味する。
本明細書中で用いる「遺伝子カセット」とは、遺伝要素の特定のグループを含
むDNAの断片またはセグメントを指す。カセットを取り出して、一つの単位と
してベクターまたはプラスミド内に挿入することができる。
本明細書中で用いる「トランスフェクション」とは、真核細胞への外来DNA
の導入を意味する。トランスフェクションはリン酸カルシウム−DNA共沈、D
EAE−デキストラン媒介トランスフェクション、ポリブレン媒介トランスフェ
クション、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション、リポソーム融
合、リポフェクション、プロトプラスト融合、レトロウイルス感染およびバイオ
リスティックス(biolistics)を含めて、当技術分野で公知の種々の手段により行
うことができる。
本明細書中で用いる「形質導入」とは、トランスフェクション以外の感染手段
によるレトロウイルスベクターを用いる1以上の遺伝子の送達を意味する。例え
ば、レトロウイルスベクターにより担持された抗HIV遺伝子は感染およびプロ
ウイルス組み込みにより宿主細胞に導入することができる。
本明細書中で用いる「TATA要素」または「TATAボックス」は、RNA
ポリメラーゼが結合する真核構造遺伝子の開始点から約19〜27塩基対上流に
存在するDNAセグメントに対して用いられる。TATAボックスは約7塩基対
の長さで、しばしば配列「TATAAAA」からなる。時にTATAボックスは
「ホグネスボックス」とも呼ばれる。
「CAATボックス」または「CAAT要素」は、RNAポリメラーゼが結合
する真核構造遺伝子の開始点から約75bp上流にある保存されたDNA配列を
指す。
本明細書中で用いる「tat」は、HIV遺伝子の高レベル発現を引き出す「
Tat」タンパク質をコードするHIV遺伝子に対して用いられる。
本明細書中で用いる「ロングターミナルリピート(LTR)」は、レトロウイ
ルスDNAの両末端部に存在する塩基対のドメインに対して用いられる。これら
のLTRは数百塩基対の長さでありうる。多くの場合、LTRはほとんどの真核
遺伝子の発現にとって基礎的な働き(例えば、プロモーター機能、開始および転
写産物のポリアデニル化)を果たしている。
本明細書中で用いる「TAR」とは、HIV LTRのU5領域に存在する「
トランス活性化応答」遺伝要素に対して用いられる。この要素はウイルスのトラ
ンスアクチベーターtatと物理的に結合することによりtatの作用を媒介す
る。
本明細書中で用いる「養子伝達」は、他の細胞または生物への1つの機能の伝
達に対して用いられる。例えば、「養子免疫」において、免疫機能の伝達は免疫
能力のある細胞の伝達により生物から生物へと行われる。
本明細書中で用いる「相補的」または「相補性」は、塩基対合則により関係し
たポリヌクレオチド(すなわち、ヌクレオチドの配列)に対して用いられる。例
えば、配列「A−G−T」は配列「T−C−A」に相補的である。相補性は「部
分的」であってよく、その場合、核酸塩基の一部のみが塩基対合則に従って対合
する。あるいは、相補性は核酸間の「完全」または「全体的」相補性であっても
よい。核酸鎖間の相補性の程度は、核酸鎖同士のハイブリダイゼーションの効率
および強さに相当の影響を与える。これは増幅反応のみならず核酸鎖同士の結合
に依存する検出法においても特に重要となる。
本明細書中の用語「ハイブリダイゼーション」は、相補的核酸の対合に関して
用いられる。ハイブリダイゼーションおよびハイブリダイゼーションの強さ(す
なわち、核酸間の会合の強さ)は、核酸間の相補性の程度、関係する条件のスト
リンジェンシー、形成されたハイブリッドのTm、核酸内のG:C比などの要因
に左右される。
本明細書中で用いる「Tm」は融解温度に関して用いられる。融解温度は二本
鎖核酸分子の集団の半分が一本鎖に解離するようになる温度のことである。核酸
のTmを計算する式は当技術分野で公知である。標準的な文献に示されるように
、Tm値の簡単な概算は、核酸が1M NaCl の水溶液中に存在するとき、式:Tm=
81.5+0.41(%G+C)により計算できる[例えば、Anderson and You
ng,Quantitative Filter Hybridization,in Nucleic Acid Hybridization(198
5)を参照のこと]。その他の文献は、Tmの計算に構造および配列特徴を考慮に
入れる、より複雑な計算法を提示している。
本明細書中で用いる「ストリンジェンシー」は、核酸ハイブリダイゼーション
を実施する温度、イオン強度、有機溶媒のような他の化合物の存在といった条件
に対して用いられる。「高ストリンジェンシー」条件を用いると、核酸塩基対合
は相補的塩基配列の頻度が高い核酸断片間でのみ起こるだろう。したがって、遺
伝的に分岐している生物に由来する核酸の場合には相補的配列の頻度が通常低い
ので、「弱い」または「低い」ストリンジェンシーの条件がしばしば必要となる
。
本明細書中で用いる「増幅可能核酸」は、任意の増幅法によって増幅されうる
核酸に関して用いられる。「増幅可能核酸」は通常「サンプル鋳型」を含むだろ
う。
本明細書中で用いる「サンプル鋳型」とは、「標的」(以下で定義する)の存
在を分析されるサンプルに由来する核酸のことである。これに対して、「バック
グラウンド鋳型」はサンプル中に存在してもしなくてもよいサンプル鋳型以外の
核酸に対して用いられる。バックグラウンド鋳型は大部分が不注意に基づくもの
である。それはキャリーオーバー(持ち越し)であったり、サンプルから精製さ
れるべき核酸汚染物質の存在のためであったりする。例えば、検出しようとする
核酸以外の生物由来の核酸が試験サンプル中にバックグラウンドとして存在する
ことがある。
本明細書中で用いる「プライマー」とは、核酸鎖に相補的なプライマー伸長産
物の合成が誘導される条件下に(すなわち、ヌクレオチドおよびDNAポリメラ
ーゼのような誘導剤の存在下で適当な温度およびpHに)置いたとき合成の開始
点として機能することができる、精製した制限消化物のような天然に存在するま
たは合成的に製造されたオリゴヌクレオチドを指す。プライマーは好ましくは増
幅の最大効率のために一本鎖であるが、二本鎖であってもよい。二本鎖である場
合は、まずプライマーを処理してその鎖を分離し、その後で伸長産物の製造に使
用する。好ましくは、プライマーはオリゴデオキシリボヌクレオチドである。プ
ライマーは誘導剤の存在下で伸長産物の合成を開始させるに十分な長さでなけれ
ばならない。プライマーの正確な長さは温度、プライマー源、その方法の用途を
含めてさまざまな要因に依存するだろう。
本明細書中で用いる「プローブ」とは、対象のオリゴヌクレオチドにハイブリ
ダイズすることができる、精製した制限消化物などの天然に存在するまたは合成
的に製造されたオリゴヌクレオチド(すなわち、ヌクレオチドの配列)を指す。
プローブは特定の遺伝子配列の検出、同定および単離に有用である。本発明で用
いるプローブを、酵素系(例えば、ELISA、酵素に基づく組織化学的アッセ
イ)、蛍光系、放射性系、発光系を含むがこれらに限らない検出系で検出できる
ように、いずれかの「リポーター分子」で標識することが考えられる。さらに、
対象の(すなわち、検出すべき)オリゴヌクレオチドをリポーター分子で標識す
ることが考えられる。また、プローブと対象のオリゴヌクレオチドの両方を標識
することも考えられる。本発明はどのような特定の検出系または標識にも限定さ
れない。
本明細書中で用いる「標的」とは、ポリメラーゼ連鎖反応に用いるプライマー
が結合する核酸の領域のことである。したがって、「標的」は他の核酸配列から
選別すべく探し求められる。「セグメント」は標的配列内の核酸の領域であると
定義される。
本明細書中で用いる「ポリメラーゼ連鎖反応」(PCR)とは、参考として本
明細書中に組み入れる米国特許第4,683,195 号および同第4,683,202 号に記載さ
れるK.B.Mullis の方法を指す。上記米国特許には、クローニングまたは精製せ
ずにゲノムDNAの混合物中の標的配列のセグメントの濃度を増加させる方法が
記載されている。この標的配列増幅法は、大過剰の2つのオリゴヌクレオチドプ
ライマーを所望の標的配列を含むDNA混合物に導入し、次いでDNAポリメラ
ーゼの存在下での正確な一連のサーマルサイクリングを行うことからなる。2つ
のプライマーは二本鎖標的配列のそれぞれの鎖に相補的である。増幅を行うため
には、混合物を変性し、次に標的分子内のその相補的配列にプライマーをアニー
リングさせる。アニーリングに続いて、プライマーをポリメラーゼにより伸長さ
せて新しい相補鎖対を形成させる。変性、プライマーアニーリングおよびポリメ
ラーゼ伸長反応の工程を多数回繰り返して(すなわち、変性、アニーリングおよ
び伸長反応が1サイクルを構成し、多数のサイクルが存在しうる)所望の標的配
列の増幅セグメントを高濃度で得ることができる。所望の標的配列の増幅セグメ
ントの長さは互いに対するプライマーの相対位置によって決まり、それゆえこの
長さは調節可能なパラメーターである。プロセスの繰り返しという側面から、該
方法は「ポリメラーゼ連鎖反応」(以後PCRという)と呼ばれる。標的配列の
所望の増幅セグメントは(濃度の点で)混合物中の主要な配列になるので、それ
らは「PCR増幅」されたと言われる。
PCRを用いると、ゲノムDNA中の単一コピーの特定の標的配列を、いくつ
かの異なる方法(例えば、標識プローブによるハイブリダイゼーション;ビオチ
ン化プライマーの組み込みとその後のアビジン−酵素結合体による検出;増幅セ
グメントへのdCTPやdATPのような32P標識デオキシヌクレオシド三リン
酸の組み込み)により検出できるレベルにまで増幅することが可能である。ゲノ
ムDNAのほかに、適当な組のプライマー分子を用いて任意のオリゴヌクレオチ
ド配列を増幅することができる。特に、PCR法で作られた増幅セグメントはそ
れら自体が後続のPCR増幅のための有効な鋳型となる。
「増幅」は鋳型特異性を伴った核酸複製の特殊なケースである。これは非特異
的な鋳型複製(すなわち、鋳型依存的であるが、特定の鋳型に依存しない複製)
と対照的である。鋳型特異性はここでは複製の適合度(すなわち、適切なポリヌ
クレオチド配列の合成)およびヌクレオチド(リボ−またはデオキシリボ−)特
異性と区別される。鋳型特異性はしばしば「標的」特異性の点から記載される。
標的配列は、他の核酸から選別すべく探し求められるという意味で「標的」であ
る。増幅技術は主としてこの選別のためにデザインされたものである。
鋳型特異性は酵素の選択によってほとんどの増幅技術において達成される。増
幅酵素は、それらを用いる条件下で、不均質な核酸混合物中の特定の核酸配列の
みを触媒する酵素である。例えば、Qβレプリカーゼの場合は、MDV−1 R
NAが該レプリカーゼの特異的鋳型となる[D.L.Kacianら,Proc.Nat.Acad.
Sci.USA 69:3038(1972)]。他の核酸はこの増幅酵素によって複製されないだろ
う。同様に、T7 RNAポリメラーゼの場合、この増幅酵素はそれ自身のプ
ロモーターに対して厳格な特異性を有する[M.Chamberlinら,Nature 228:227(1
970)]。T4 DNAリガーゼの場合には、該酵素はライゲーション接合点でオリ
ゴヌクレオチド基質と鋳型との間にミスマッチがあるとき2つのオリゴヌクレオ
チドをライゲートしないだろう[D.Y.Wu and R.B.Wallace,Genomics 4:560(19
89)]。最後に、TaqおよびPfuポリメラーゼは、高温で機能しうることから
、プライマーにより規定された配列に対して高い特異性を示すことがわかった。
高温は非標的配列とのハイブリダイゼーションではなく、標的配列とのプライマ
ーハイブリダイゼーションに有利に働く熱力学的条件をもたらす[PCR Technolog
y,H.A.Erlich(ed.)(Stockton Press 1989)]。
いくつかの増幅技術は標的を増幅してから検出するアプローチを取っており、
また、他の増幅技術は標的を検出し、その後プローブを増幅している。アプロー
チの如何にかかわらず、増幅が高効率で起こるように核酸は増幅阻害物質を含ん
でいてはならない。
本明細書中で用いる「PCR産物」および「増幅産物」とは、変性、アニーリ
ングおよび伸長のPCRステップを2回以上行った後で得られた化合物の混合物
をいう。これらの用語は1以上の標的配列の1以上のセグメントの増幅が行われ
た場合を包含する。
本明細書中で用いる「ネステッドプライマー」(nested primer)とは、PCR
を開始するために用いたアニーリング境界の内部の領域において標的配列にアニ
ーリングするプライマーのことである[K.B.Mullis ら,Cold Spring Harbor S
ymposia,Vol.II,pp.263-273(1986)]。ネステッドプライマーは開始プライ
マーのアニーリング境界の内部で標的にアニーリングするので、開始プライマー
の主要なPCR増幅産物は、ネステッドプライマーのアニーリング境界によって
定められたものより必然的に長い配列である。それゆえ、ネステッドプライマー
のPCR増幅産物は開始プライマーとアニーリングできない標的配列の増幅セグ
メントである。ネステッドプライマーを用いることの利点としては、大きな特異
性と、より小さいサンプル部分を用いても特異的かつ効率的増幅が得られるとい
う事実にある。
本明細書中で用いる「増幅試薬」とは、プライマー、核酸鋳型および増幅酵素
を除いた増幅に必要な試薬(デオキシリボヌクレオシド三リン酸、緩衝液など)
を指す。一般的に、増幅試薬は他の反応成分と共に反応容器(試験管、マイクロ
ウェルなど)に含有される。
本明細書中で用いる「制限エンドヌクレアーゼ」および「制限酵素」とは細菌
の酵素を指し、各酵素は特定のヌクレオチド配列の位置でまたはその近傍で二本
鎖DNAを切断する。
本明細書中で用いる「組換えDNA分子」とは、分子生物学的手法を用いて一
緒に結合されたDNAのセグメントから構成されるDNA分子のことである。
DNA分子は「5’末端」と「3’末端」をもつと言える。というのは、モノ
ヌクレオチドが反応してオリゴヌクレオチドを作るにあたり、1つのモノヌクレ
オチドのペントース環の5’リン酸がホスホジエステル結合を介して一方向にそ
の隣接ヌクレオチドの3’酸素と結合するからである。それゆえ、オリゴヌクレ
オチドの5’リン酸がモノヌクレオチドのペントース環の3’酸素と結合してい
ないとき、そのオリゴヌクレオチドの一端は「5’末端」と呼ばれ、その3’酸
素が後続のモノヌクレオチドのペントース環の5’リン酸と結合していないとき
、そのオリゴヌクレオチドの他端は「3’末端」と呼ばれる。本明細書中で用い
る核酸配列も、たとえ大きなオリゴヌクレオチドの内部であろうと、5’および
3’末端をもつと言える。直鎖状または環状DNA分子では、別個の要素が「下
流」または3’要素の「上流」または5’側にあるといわれる。この用語は転写
がDNA鎖に沿って5’から3’の方向に進行するという事実を反映するもので
ある。連鎖遺伝子の転写を支配するプロモーターおよびエンハンサー要素は一般
にコーディング領域の5’側つまり上流に位置づけられる。しかし、エンハンサ
ー要素は、プロモーター要素とコーディング領域の3’側に配置されたときでさ
え、その効力を発揮することができる。転写終結およびポリアデニル化シグナル
はコーディング領域の3’側つまり下流に位置づけられる。
本明細書中で用いる「遺伝子をコードするヌクレオチド配列を有するオリゴヌ
クレオチド」という用語は、遺伝子のコーディング領域を含むDNA配列、換言
すれば、遺伝子産物をコードするDNA配列を意味する。コーディング領域はc
DNAの形態で存在してもゲノムDNAの形態で存在してもよい。エンハンサー
/プロモーター、スプライス接合部、ポリアデニル化シグナルなどの適当な制御
要素は、転写の適切な開始および/または一次RNA転写産物の正確なプロセシ
ングを可能にするために必要であれば、遺伝子のコーディング領域に極めて接近
した位置に配置させることができる。また、本発明の発現ベクターにおいて用い
られるコーディング領域は内因性のエンハンサー/プロモーター、スプライス接
合部、介在配列、ポリアデニル化シグナルなど、または内因性と外因性の両制御
要素の組合せを含んでいてもよい。
本明細書中で用いる「転写単位」とは、転写の開始部位と終結部位の間のDN
Aセグメントおよび効率のよい開始および終結に必要な調節要素を指す。例えば
、エンハンサー/プロモーター、コーディング領域、終結配列およびポリアデニ
ル化配列を含むDNAセグメントが転写単位を構成する。
本明細書中で用いる「調節要素」とは、核酸配列の発現のある側面を制御する
遺伝要素を指す。例えば、プロモーターは機能的に連結されたコーディング領域
の転写開始を促す調節要素である。その他の調節要素はスプライシングシグナル
、ポリアデニル化シグナル、終結シグナルなど(以下で定義する)である。
真核細胞内の転写制御シグナルは「プロモーター」および「エンハンサー」要
素を含む。プロモーターとエンハンサーは転写に関与する細胞タンパク質と特異
的に相互作用するDNA配列の短鎖アレイからなる[Maniatis,T.ら,Science 2
36:1237(1978)]。プロモーターおよびエンハンサー要素はウイルスと酵母、昆虫
および哺乳動物細胞の遺伝子を含めた種々の真核細胞源から単離されている(類
似の制御要素、すなわちプロモーターは原核細胞にも見られる)。特定のプロモ
ーターおよびエンハンサーの選択は、対象となるタンパク質を発現させるのにど
の細胞型を使うかに依存する。いくつかの真核プロモーターおよびエンハンサー
は広範な宿主域を有する一方で、他のものは細胞型の限られたサブセットにおい
て機能的である[詳細についてはVoss,S.D.ら,Trends Biochem.Sci.,11:287
(1986)および Maniatis,T.ら,前掲(1987)]。例えば、SV40の初期遺伝
子エンハンサーは多くの哺乳動物種由来の多種多様な細胞型において活発に作動
し、哺乳動物細胞でのタンパク質発現に広く用いられている[Dijkema,R.ら,
EMBO J.4:761(1985)]。広範な哺乳動物細胞内で働くプロモーター/エン
ハンサー要素の他の2例は、ヒト延長因子1α遺伝子由来のもの[Uetsuki,T.
ら,J.Biol.Chem.,264:5791(1989);Kim,D.W.ら,Gene 91:217(1990);Mizush
ima,S.and Nagata,S.,Nuc.Acids Res.,18:5322(1990)]およびラウス肉腫
ウイルス[Gorman,C.M.ら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 79:6777(1982)]とヒト
サイトメガロウイルス[Boshart,M.ら,Cell 41:521(1985)]のロングターミ
ナルリピートである。
本明細書中で用いる「プロモーター/エンハンサー」は、プロモーター機能と
エンハンサー機能の両方(すなわち、プロモーター要素とエンハンサー要素がも
たらす機能;これらの機能については上記参照)を提供し得る配列を含むDNA
セグメントを表す。例えば、レトロウイルスのロングターミナルリピートはプロ
モーターとエンハンサーの両機能を備えている。プロモーター/エンハンサーは
「内因性」、「外因性」、「異種」のいずれであってもよい。「内因性」プロモ
ーター/エンハンサーはゲノム内で所与の遺伝子にもともと連結しているもので
ある。「外因性」または「異種」プロモーター/エンハンサーは、遺伝子の転写
が連結されたプロモーター/エンハンサーによって支配されるように遺伝子操作
(すなわち、分子生物学的手法)によって遺伝子に並置されたものである。
「因子」という用語はDNA配列の転写または複製に必要な1種のタンパク質
または1グループのタンパク質を指す。例えば、SV40のT抗原はSV40複
製起点を含有するDNA配列の複製に必要とされる複製因子である。転写因子は
プロモーターやエンハンサーのような調節要素と結合して遺伝子の転写開始を容
易にするタンパク質である。
プロモーターおよびエンハンサーはプロモーターやエンハンサーからの活性率
を高める特定の因子と結合し得る。これらの因子は全部の細胞型に存在しても、
組織特異的にまたはウイルス感染細胞内で発現させてもよい。こうした因子の不
在下では、プロモーターは不活性であったり、低レベルの転写活性しか示さなか
ったりする。このような低レベルの活性はベースラインつまり「基底」活性率と
称される。さらに、ウイルスのプロモーターおよびエンハンサーは、ウイルスプ
ロモーターまたはエンハンサーがウイルス因子の存在下(ウイルス感染細胞内ま
たは該ウイルス因子を発現している細胞内)で「活性化」されるように、ウイル
スによりコードされる因子と結合し得る。該因子の存在下での活性レベル(すな
わち、該因子により「誘導」される活性)は基底活性率より高くなるだろう。
個々のプロモーターは同一または異なる細胞型においてさまざまの基底活性レ
ベルをもち得る。2つの異なるプロモーターを誘導因子の不在下で所与の細胞型
において比較するとき、一方のプロモーターが他方よりも高レベルで発現するの
であれば、それはより高い基底活性をもつと言える。
プロモーターおよび/またはエンハンサーの活性は、該要素からの転写レベル
を直接または間接的に検出することで測定できる。直接検出はプロモーターおよ
び/またはエンハンサーから産生されたRNA転写産物のレベルの定量を含む。
間接検出はプロモーターおよび/またはエンハンサーから転写されたRNAより
生じたタンパク質(しばしば酵素)のレベルの定量を含む。プロモーターまたは
エンハンサー活性の一般的なアッセイはクロラムフェニコールアセチルトランス
フェラーゼ(CAT)遺伝子を利用する。プラスミド上のCAT遺伝子のコーデ
ィング領域から上流にプロモーターおよび/またはエンハンサーを挿入し、該プ
ラスミドを細胞系に導入する。CAT酵素のレベルを測定する。酵素活性のレベ
ルは細胞系により転写されたCATRNAの量に比例する。したがって、このC
ATアッセイにより、所与の細胞系内の異なるプロモーターまたはエンハンサー
の相対強さの比較を行うことができる。プロモーターが細胞系において「高」ま
たは「低」レベルを発現すると言われるとき、それはプロモーター活性の基準ま
たは標準として用いた別のプロモーターに対する活性レベルをいう。
本発明の改良した組換えベクターは、M-MuLV U3 領域がCMV-IEエンハンサー/
プロモーターおよびHIV TATAおよびTAR 要素で置き換えられた組換えロングター
ミナルリピート(LTR)を含有する。この新規なLTR(配列番号17)はほ
とんどのヒト細胞系において親M-MuLV LTRよりも増大したプロモーター活性を示
す。組換えLTRは、親または野生型M-MuLV LTRと比べたとき、ヒト細胞におい
てより高い基底プロモーター活性を有する。さらに、組換えLTRはTatタン
パク質により誘導可能であり、HIV Tat タンパク質を発現する細胞では組換えL
TRの活性が増強される。
組換えLTRがその親M-MuLV LTRよりも強いまたは増大したプロモーター活性
を示すと言われるとき、それは、M-MuLVプロモーター活性の得られた値に対して
、組換えLTR(pMCT中に存在する;配列番号17)がHeLa、HepG2 および
HuH-7 細胞系でM-MuLV LTRを用いて得られた値より少なくとも2倍高い値(クロ
ラムフェニコールのアセチル化クロラムフェニコールへの変換率を測定すること
でプロモーター活性を判定して、一般的には2〜10倍高い値)を示すことを意
味する。プロモーター活性はM-MuLV LTRまたはpMCT LTRの制御下にCAT遺伝子
のようなリポーター遺伝子を配置することにより測定できる。ヒト細胞系をDN
AでトランスフェクトしてCAT活性をアッセイする。活性レベルの比較(クロ
ラムフェニコールのアセチル化クロラムフェニコールへの変換率により判定)を
行うには、少なくとも3つの独立したトランスフェクション実験から再現性のあ
る平均値を得る。その値を、実験間または実験内のDNA取り込みまたは細胞生
存能の差異を明らかにする内部対照遺伝子の発現に対して正規化する。
配列番号17の組換えLTRはHIV Tat タンパク質の存在下でのそのアップレ
ギュレーション能力によってさらに特徴づけられる。組換えLTRのプロモータ
ー活性はTatによって誘導可能であると言える。これは次のことを意味する。
すなわち、組換えLTRからの活性のレベルが、Tatタンパク質の存在しない
ヒト細胞系内での該活性と比較するとき、同一のヒト細胞系内でTatの存在下
では少なくとも2倍(クロラムフェニコールのアセチル化クロラムフェニコール
への変換率を測定することでプロモーター活性を判定して、一般的には2〜16
倍高い値)増加するという意味である。Tatにより活性化されるプロモーター
の能力を測定するには、リポーター遺伝子(例:CAT遺伝子)を該プロモータ
ーの支配下(すなわち、プロモーター配列の下流)に置き、そのDNA構築物を
、Tatタンパク質を発現する構築物の存在下および不在下でヒト細胞に導入す
る。適当なアッセイ(例えばCATアッセイ)を用いて該リポーター遺伝子の活
性を測定する。活性レベルの比較(CATアッセイを用いるときには、クロラム
フェニコールのアセチル化クロラムフェニコールへの変換率により判定)を行う
には、少なくとも3つの独立したトランスフェクション実験から再現性のある平
均値を得る。その値を、実験間または実験内のDNA取り込みまたは細胞生存能
の差異を明らかにする内部対照遺伝子の発現に対して正規化する。
発現ベクター上に「スプライシングシグナル」が存在すると、しばしば組換え
転写産物のより高い発現レベルが得られる。スプライシングシグナルは一次RN
A転写産物からのイントロンの除去を媒介するもので、スプライス供与および受
容部位から成る[Sambrook,J.ら,Molecular Cloning: A Laboratory Manual,2
nd ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,New York(1989)pp.16.7-16
.8]。一般的に用いられるスプライス供与および受容部位はSV40の16SRNA か
らのスプライス接合部である。
真核細胞での組換えDNA配列の効率的な発現には、得られた転写産物の効率
のよいポリアデニル化および終結を支配するシグナルの発現が必要である。転写
終結シグナルは一般にポリアデニル化シグナルの下流に見いだされ、数百ヌクレ
オチドの長さである。本明細書中で用いる「ポリA部位」または「ポリA配列」
は、転写終結および新生RNA転写産物のポリアデニル化の両方を支配するDN
A配列を表す。ポリA尾部を欠いている転写産物は不安定で急速に分解されるの
で、組換え転写産物の効率のよいポリアデニル化が望ましい。発現ベクターで利
用されるポリAシグナルは「異種」であっても「内因性」であってもよい。内因
性のポリAシグナルは、ゲノム内の所与の遺伝子のコーディング領域の3’末端
にもともと存在するものである。異種ポリAシグナルは、ある遺伝子から単離し
て別の遺伝子の3’側に配置したものである。ふつうに用いられる異種ポリAシ
グナルはSV40のポリAシグナルである。SV40ポリAシグナルは237bpのB
amHI/BclI制限断片上に含まれ、終結とポリアデニル化の両方を支配する[Sambro
ok,J.ら,前掲,pp.16.6-16.7]。
また、真核発現ベクターは「ウイルスレプリコン」または「ウイルス複製起点
」を含み得る。ウイルスレプリコンは適当な複製因子を発現している宿主細胞で
のベクターの染色体外複製を可能にするウイルスのDNA配列である。SV40
またはポリオーマウイルスの複製起点を含有するベクターは、適当なウイルスT
抗原を発現している細胞内で高コピー数(最高104コピー/細胞)へと複製す
る。ウシパピローマウイルスまたはエプスタイン- バーウイルス由来のレプリコ
ンを含有するベクターは染色体外で低コピー数(約100コピー/細胞)で複製
する。
本明細書中で用いる「安定したトランスフェクション」または「安定にトラン
スフェクトされた」とは、トランスフェクト細胞への外来DNAの導入およびそ
のゲノムへの組み込みを意味する。「安定したトランスフェクタント」とは、ゲ
ノムDNAに外来DNAを安定に組み込んでいる細胞のことである。
「一時的トランスフェクション」または「一時的にトランスフェクトされた」
とは、細胞への外来DNAの導入を意味し、この場合外来DNAはトランスフェ
クト細胞のゲノムに組み込まれていない。外来DNAはトランスフェクト細胞の
核内に数日間維持される。この間、外来DNAは染色体中の内因性遺伝子の発現
を支配する調節遺伝子のコントロールを受ける。「一時的トランスフェクタント
」とは、外来DNAを受け取ったが該DNAの組み込みに失敗した細胞のことで
ある。
本明細書中で用いる「対象の遺伝子」とは、発現ベクターのポリリンカーに挿
入された遺伝子を指す。対象の遺伝子が治療効果を与える遺伝子(例:抗HIV
遺伝子)をコードする場合、その対象の遺伝子は治療用遺伝子とも呼ばれる。
本明細書中で用いる「コードする核酸分子」、「コードするDNA配列」およ
び「コードするDNA」とは、デオキシリボ核酸鎖に沿ったデオキシリボヌクレ
オチドの順序または配列を意味する。これらのデオキシリボヌクレオチドの順序
はポリペプチド(タンパク質)鎖に沿ったアミノ酸の順序を決定する。したがっ
て、DNA配列はアミノ酸配列をコードする。
HIV−1由来のPAK配列は、やはりHIV−1ゲノムを発現する細胞内の
レトロウイルスベクター上に存在するとき、該HIV−1ゲノムのHIV−1粒
子への「挿入を阻害することができる」。HIV−1ゲノムのパッケージングに
おけるこの阻害または干渉は、PAK配列とHIVの両方を発現している細胞内
の感染性HIV−1粒子の量の低下によって検出される。感染性HIV−1粒子
の力価または数を測定する方法は当技術分野でいくつか知られている。感染性H
IV粒子の力価の少なくとも2倍の阻害が有意と見なされる。
「リポフェクション」(lipofection)とは、細胞内に核酸を導入する技術のこ
とである。リポフェクションはN-[1-(2,3-ジオレイルオキシ)プロピル]-N,N,N-
トリメチルアンモニウムクロリドのようなカチオン脂質または2,3-ジオレイルオ
キシ-N-[2-(スペルミンカルボキサミド)エチル]-N,N-ジメチル-1-プロパンアミ
ニウムトリフルオロアセテートのようなポリカチオン脂質およびジオレオイルホ
スファチジルエタノールアミンのような中性脂質のリポソーム製剤を利用する。
細胞への核酸の導入を容易にするために、核酸を含むリポソーム複合体またはリ
ポソーム−核酸複合体が用いられる。LipofectinTM試薬およびLipofectAMINETM
試薬がLife Technologies,Inc.(Gaithersburg,MD)から販売されている。リポ
フェクションは製造業者の説明書に従ってこれらの試薬のどちらかを用いて実施
される。
「リン酸カルシウム共沈」とは、細胞内に核酸を導入する技術のことである。
核酸をリン酸カルシウム−核酸共沈殿物として細胞に提示すると、細胞への核酸
の取り込みが増加する。Graham and van der Eb(1973)Virol.52:456に記載の
オリジナルの方法はいくつかのグループによって改良されて、特定の細胞型に対
する条件が最適化されている。こうした改良法が当技術分野では公知である。本
明細書中の実験の項には、付着性ヒト細胞系へのDNAの導入に適した当該技術
の改良法が実施例1に記載される。
本明細書中で用いる「ノーザンブロット」とは、アガロースゲル上でRNAを
電気泳動にかけて大きさに従ってRNAを分画化し、続いてゲルからのRNAを
ニトロセルロースやナイロン膜のような固相担体に移行させることによるRNA
の分析を意味する。次に固定化したRNAを標識プローブで釣り上げて、使用し
たプローブに相補的なRNA種を検出する。ノーザンブロットは分子生物学者の
標準的な道具である(Sambrook,J.ら,Molecular Cloning: A Laboratory Manua
l,Cold Spring Harbor Press,Cold Spring Harbor,NY,pp.7.39-7.52)。
本明細書中で用いる「ドットブロット」とは、固相担体上にタンパク質または
核酸を含有するサンプルを点在させることをいう。次に固相担体を標識した核酸
または抗体プローブを用いて釣り上げ、関心のあるタンパク質または核酸種を検
出する(例えば、RNAドットブロットについてはSambrook,前掲,p.7.53を
参照のこと)。また、放射性基質を含有するアッセイの反応生成物を固相担体上
に点在させて、組み込まれなかった基質を洗い流した後でX線フィルムに該担体
を露出することもできる。発明の説明
本発明は、改良されたプロモーター機能、挿入遺伝子からの発現の増加および
パッケージング効率の増加を有する新規なレトロウイルスベクターを提供する。
これらの新規なベクターはヒト細胞に遺伝子を導入して高レベルで発現させるの
に適しており、また、抗HIV治療および一般的な遺伝子治療で用いるのに適し
ている。
改良レトロウイルスベクター
現在認可されている遺伝子治療法のほとんどは、アンホトロピックM−MuL
V系ベクター、例えばpLNL6[配列番号1;Bender,M.A.ら(1987)J.Viro
l.61:1639]を使用している。このベクターを用いた実験の蓄積から、M-MuLV LT
Rの活性はあまり強くないことが認められている。その上、個々の細胞型でのこ
のLTRの活性は予測不能である。
多様な遺伝子発現研究および遺伝子治療法に適する改良レトロウイルスベクタ
ーを作製する目的で、臨床的に認可された遺伝子治療ベクターpLNL6が修飾
された。この改良ベクターはM−MuLVおよびCMVエンハンサー要素、2つ
のTATAプロモーター(HIVおよびM−MuLV由来)およびHIV−1T
AR要素を含む組換えLTRを含有する。上流にあるHIV−1由来のTATA
ボックスはTAR含有mRNAの合成を支配する。TAR含有mRNAはHIV
−1のTatタンパク質に応答する。下流にあるTATAボックスはM−MuL
Vに由来するもので、TAR要素を欠くmRNAを合成させるように機能する。
この二重プロモーターの設計により、Tatタンパク質の不在下で(すなわち、
一般的な遺伝子治療用に)mRNAをベクター配列から高基底レベルで合成させ
ることが可能である。Tatタンパク質の存在下では(すなわち、HIV感染細
胞においては)、この二重プロモーターが誘導され、高レベルのmRNAを生産
させる。pLCTSNと名づけられた、この改良ベクターは親pLNL6ベクタ
ーよりも高レベルで挿入遺伝子から発現させることができる。したがって、pL
CTSNベクターは抗HIV遺伝子を含めた種々の遺伝子の送達に有用である。
これらのベクターのパッケージング効率を高めるために、延長パッケージング
シグナルおよびM−MuLVゲノム由来の3’スプライス受容配列を付加してp
LGCTSNベクターを作製した。こうした修飾はベクターRNAのウイルス粒
子へのパッケージングの効率を高め、高力価の組換えウイルスストックの生産を
可能にする。感染させるべき組織中に標的細胞が低頻度で存在するとき(すなわ
ち、骨髄幹細胞)、高力価ストックが必要になる。延長パッケージングシグナル
の付加は抗HIVゲノム(ベクターにより提供される)とHIVゲノム(感染細
胞中に存在する)との間の競合をもたらす。
新たに遺伝子操作されたこれらのレトロウイルスベクターは、ヒト細胞に遺伝
子を導入し研究するためのベクターとして有用である。こうしたベクターは哺乳
動物の遺伝子発現の研究分野のみならず一般的な遺伝子治療用途においても有用
である。例えば、pLCTSNおよびpLGCTSNベクターは、従来のpLN
L6ベクターよりも肝がん細胞系[HepG2(ATCC HB 8065)および HuH-7(Nakabaya
shi,H.ら(1982)Cancer Res.42:3858)]において高いプロモーター活性を示
した。最も重要なことは、ベクターpLCTSNが肝がん細胞と類上皮細胞[HeL
a細胞(ATCC CCL 2)]において長期の安定性を示したことである。現在の遺伝子治
療ベクターが直面している障害のいくつかは、貧弱な発現レベルと長期的性能の
欠如にある。本発明のベクターは遺伝子治療に使用できると予期される。
HIV感染細胞での遺伝子発現研究用の改良ベクター
一般的な遺伝子発現研究用の遺伝子運搬体としての使用のほかに、改良ベクタ
ーpLCTSNおよびpLGCTSNは抗HIV薬を含めた遺伝子をHIV感染
細胞に送達するのに有用である。上述したとおり、これらのベクター上に担持さ
れた新規LTRは、TAR含有mRNAの合成を支配するHIV−1のTATA
ボックスを含んでいる。TAR含有mRNAはHIV−1のTatタンパク質(
HIV感染細胞中に存在する)に応答する。新規LTRは感染細胞内でTatの
存在下に高レベルのmRNAを合成させる。したがって、pLCTSNベクター
は抗HIV遺伝子を含めた遺伝子をHIV感染細胞に送達するのに有用である。
抗HIV遺伝子の例として、抗HIVリボザイム[Chang,L.-J.and Stoltzf
us,C.M.(1985)Mol.Cell.Biol.5:2341; Chang.L.-J.and Stoltzfus,C.M
.(1987)J.Virol.61:921;および Sarver,N.E.M.ら(1990)Science 247:
1222]および細胞内一本鎖抗体遺伝子[Marasco,W.A.ら(1993)Proc.Natl.
Acad.Sci.USA 90:7889]がある。抗HIV遺伝子をコードする遺伝子配列を改
良レトロウイルスベクター中に挿入すると、抗HIVベクターが得られる。
これらのベクターの治療効能をさらに高めるために、HIV−1ゲノム由来の
パッケージング配列が付加された。HIV−1パッケージングシグナルの付加は
抗HIVゲノム(ベクターにより提供される)とHIVゲノム(HIV感染細胞
中に存在する)との間の競合をもたらす。このin vivo 競合は、ウイルス粒子の
多くがHIV−1ゲノムではなく抗HIVゲノムを含む(例えば、偽型粒子)よ
うになるので、結果的に感染細胞内でのHIV生産を減少させる。HIV生産を
低下させることに加えて、HIV−1パッケージングシグナルを含有するベクタ
ーは、治療用抗HIVベクターの標的HIVゲノムへの接近を可能にする。発明の詳細な説明
本発明は新規なロングターミナルリピート(LTR)構築物および改良された
レトロウイルスベクターを提供する。この改良ベクターは新規なLTRを含有し
、該LTRにより改良されたプロモーター機能、挿入遺伝子の発現増加およびパ
ッケージング効率の増加を有するベクターが得られる。これらの新規なベクター
は抗HIV治療のみならず他の遺伝子治療にも有用である。ここで、詳細な説明
は認可されたベクターからのLTRの再構成による新規ベクターの構築、並びに
それらの機能の評価に用いられる種々のアッセイを提供する。
臨床的に認可された遺伝子治療ベクターを用いるM-MuLV LTRの再構成
既存のM-MuLV系遺伝子治療ベクターからの遺伝子の発現を高めるために、末端
切断(truncated)CMV-IEエンハンサー要素とHIV-1 TAR 要素を含めるようにM-MuL
V LTRを修飾した。この修飾は高い基底活性を示し且つより高いレベルへとTat
により誘導可能なハイブリッドプロモーターを生成させる。
臨床的に認可されたレトロウイルスベクターpLNL6 を開始点として用いた。レ
トロウイルスベクターpLNL6 は長さが6145 bp であり、3'LTR 中にM-MuLVプロモ
ーター、そして5'LTR中にマウス肉腫ウイルス(MSV)プロモーターを含有す
る[Bender,M.A.ら(1987)前掲]。後続のクローニング工程を容易にするため
、
pLNL6 中の少数のクローニング部位と内部SV-neo遺伝子を、以下に示した合成ポ
リリンカーで置き換えてpLLLを作った。pLNL6 をClaIとBclIで消化した。消化し
たベクターを精製し、ポリリンカー部位を含む二本鎖インサートを挿入した。こ
の二本鎖インサートは次の2本のオリゴヌクレオチドを一緒にアニーリングする
ことにより作った:
上記オリゴヌクレオチドのアニーリング後、得られたDNA断片はHindIII、N
otI、BglII、XhoI、NcoI、BamHI、AvrII、StuI、BclI、MluI、SalI、NruIおよび
ClaIの制限部位を含む。pLNL6 の消化に続くアニーリングしたオリゴヌクレオチ
ドの挿入は、pLNL6(配列番号1)中のBclI(nt 1625)からClaI(nt 3049)まで
に存在する配列を欠失させた。
細胞選別用の選択マーカーを担うベクターを得るために、SV40プロモーターを
含むpLNSXのBamHI からStuIまでの断片をpLLLのBamHI およびStuI部位に挿入し
てpLLLSV40を得ることによりpLSNを構築した。ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)
を使って neo遺伝子を増幅して増幅 neo遺伝子を単離した。pLNSX を鋳型として
用い、次のオリゴヌクレオチドを neo遺伝子の増幅に使用した:
次に増幅産物をBclIとBamHI で消化し、BclIで消化したpLLLSV40にクローニング
してpLSNを作った。neo遺伝子の増幅に用いたプライマーは修飾した翻訳開始制
御配列-CCACCATG [Kozak,M.(1986)Cell44:283]を含んでいた。この修飾翻訳開
始制御配列を用いると、組織培養細胞(例えば、HeLa、3T3 および HepG2;デー
タは示さず)におけるネオマイシン耐性遺伝子の強さが大いに増加した。
修飾M-MuLV LTRを含有するベクターを作るために、3'LTR は1回の逆転写後に
5'LTR に取って代わるので、3'LTR のみを再構成した。3'LTR のU3中のM-MuLV T
ATA ボックスの上流にある配列を、CMV-IEエンハンサー/プロモーターとTAR
配列の両方またはTAR 配列のみを含有する遺伝子カセットを含むように修飾した
。
これを行うために、pLNSからの3'LTRをClaIおよびNdeI消化により単離し(pLNL
6のヌクレオチド3049-4082 に対応する)、pSP72 ベクター(Promega)のClaI部位
とNdeI部位の間にクローニングして、ただ1つのM-MuLV LTRを含有するサブクロ
ーン(pSP72-3'LTR)を得た。pSP72-3'LTR に、HIV-1 TAR を含有する断片およびC
MV-TAR DNA 断片を次の一連の工程により挿入した。最初に、M-MuLV LTR TATAボ
ックスに近いSacI部位(pLNL6ナンバリングシステムでヌクレオチド3604)を、Eco
RI アダプター(5'-GAATTCAGCT-3')をアニーリングすることによりEcoRI 部位に
変えた。pU3-R-CAT[Changら,J.Virol.67:743(1993)]および次のプライマ一対
:5'-GCATCTAGAGTACTTCAAGAACTGC-3'(配列番号6)(このプライマーはHIV-1 T
ATAボックス近辺の配列に対応し、XbaI部位を提供する)および5'-GGGAATTCGAGG
CTTAAGCAGTGGGTTCC-3'(配列番号7)(HIV TAR の3'側の配列に対応し、EcoRI
部位を提供する)を用いるPCRにより、HIV-1 TAR 断片(約200bp)を作った。
CMV-TAR 断片(約343bp)は、鋳型としてのdl.kB/Spl CMV-IEa U3-R-CATおよび
次のプライマー対:5'-CCGGAGTAGCTAGCTGGAGTTCCGC-3'(配列番号8)(CMV-IEa
の5'側にある配列に対応し、NheI部位を提供する)および配列番号6(上に示
した;すなわち、TAR 断片を作るために使用した3'プライマーと同じ)を用いる
PCRにより作製した。2つの増幅断片をXbaI(TAR 構築物の場合)またはNheI
(CMV-TAR の場合)で消化し、XbaI-EcoRI消化した修飾pSP72-3'LTR(SacI部位
の代わりにEcoRI部位を含む)にクローニングした。
2つの最終産物 pMTおよびpMCTの本性は制限酵素消化と配列決定により確認さ
れた。CAT リポーター構築物を作るために、5μg のpU3-R-CAT をHindIII とB
amHI で消化してcat-SV40 polyA断片(約1631 bp)を得た。cat-SV40 polyA断片を
ゲル精製し、両末端をT4ポリメラーゼで平滑末端とした。平滑末端にAsp718リン
カー[5'-GCTAGCGGTACC-3'(配列番号9)]を連結し、この断片をAsp718で消化
したpMT またはpMCTにクローニングしてpMT-cat およびpMCT-catを作った。
組換え3'LTRを含有するレトロウイルスベクターの作製
pMT およびpMCTは両方とも単一 LTRプラスミドである。4断片ライゲーション
法を用いて、2LTRパッケージングベクター pLCTSN および pLTSNを構築した。ベ
クターはpLSNであり、これをSacIIとKpnIで消化した。順次挿入した3つの断片
はpLSNのSacIIからXhoI、pLSNのXhoIからNheI、およびpMT またはpMCTのNheIか
らKpnIであった。
遺伝子治療ベクターの更なる修飾は、延長パッケージングシグナル(gag 遺伝
子由来)およびM-MuLVゲノムからの3'スプライス部位(env 遺伝子由来)を含む
断片の挿入により、パッケージングおよびスプライスシグナル修飾レトロウイル
スベクターを作製することを含んでいた。これを行うため、pDGLtax/rex[Akagi
,T.ら,Gene 106: 255(1991)]のSpeI-BamHI断片を、pLGCTSN を作るために上
で用いたものと同じ酵素で消化したpLCTSNにクローニングした。
ヒト細胞における向上したプロモーター活性
ヒト細胞系のパネルに上記の CATリポーター構築物をトランスフェクトするこ
とにより、HIV-1 Tat の存在下または不在下での修飾 LTRのプロモーター活性を
試験した。トランスフェクト細胞系において産生されたCAT 酵素の活性レベルを
用いて異なるプロモーター構築物の相対強度を比較した。これらの細胞系は肝が
ん細胞系、TおよびBリンパ球様細胞系および類上皮細胞系を含んでいた。pMCT
構築物はTat の不在下で高いプロモーター活性を示した。Tat の存在下では、pM
CT LTRは顕著にトランス活性化された(2〜16倍の活性増加がTat の存在下で見
られた)。
一方、M-MuLV-TAR(pMT)構築物は理想的でないことがわかった。なんとなれば
、この構築物は低い基底活性(すなわち、Tat の不在下での活性)を示し、かつ
Tat に応答しなかったからである。実施例4(表1)に示すとおり、すでに強力
なCMV-IEプロモーターと比較したとき、MuLV-CMV-TAR(pMCT)プロモーターは、
トランスフェクト細胞系に存在するCAT 活性の量で判定して、2倍高い基底活性
を示し、さらに、Tat が存在するときには4〜5倍活性化された。
これらの結果は、M-MuLV LTRとHIV TAR の組合せ(pMT)がM-MuLV LTRをTat 応
答性にするのに十分でないが、Tat はpMCTプロモーターをトランス活性化できる
ことを示している。重要なことは、CMV-TAR 修飾がM-MuLVプロモーターをHIV-1T
at 応答性にすることである。
この結論はさらに、Tat タンパク質を構成的に発現するTリンパ球様細胞系CE
M-TART[Chen,H.ら(1992)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:7678]を用いるア
ッセイによっても支持される。CEM-TART細胞を一連のプラスミドDNAによるエ
レクトロポレーションにかけ、CAT リポーター遺伝子発現を測定した。この研究
の結果から、pMCTプロモーターは試験したヒト細胞系においてM-MuLV LTR、CMV-
IEおよびHIV-1 LTRプロモーターの中で最高の活性を示すことが明らかになった
。したがって、HIV 感染細胞を標的とする場合、pMCT構築物はTat の不在下で高
い活性を示し、しかもTat の存在下で(すなわち、HIV に感染しているとき)強
く活性化されるので理想的である。
要約すると、pMCTは試験したほとんどのヒト細胞系においてpLLL(M-MuLVプロ
モーター自体)より高レベルのプロモーター活性を示し、いくつかの肝がん細胞
系(HepG2、HuH-7)およびリンパ球様細胞系(H9、CEM、AA2、CEM-TART)においてpL
LLよりかなり良好であることが判明した。pMCTプロモーターは試験したすべての
ヒト細胞型でHIV-1 Tat によりトランス活性化された。かくして、新たにデザイ
ンされたベクターは抗HIV遺伝子治療および一般的な遺伝子治療のみならず、
ヒト細胞系での遺伝子の発現にも非常に有用であると思われる。
修飾LTR中の転写開始部位の決定
予備的な研究から、ヒト細胞内で良好に作動する修飾CMV/TAR M-MuLV LTRは、
マウス細胞(例:3T3)では天然M-MuLV LTRより活性が低いことが示された。二重T
ATAボックスの特性はマウス細胞では良好に働かないと考えられる。一般的に、
パッケージング生産細胞クローンを選択するには、エコトロピックウイルス感染
の方がDNAトランスフェクションより好ましい。マウス細胞での組換えCMV/TA
R M-MuLV LTRの低発現レベルはエコトロピック感染法の使用を制限する。という
のは、逆転写されて5'末端に再配置されるべき修飾3'LTR がマウス細胞内で働か
ないと予想されるからである。それにもかかわらず、長期生産細胞(PA317)がD
NAトランスフェクションにより作製されて、安定性に関して問題がなかった(
平均力価が104〜105/mlのウイルスを生産する;実施例7、表3参
照)。
CMV/TAR M-MuLV LTR構築物はMuLV TATA ボックスとHIV TATAボックスの両方を
含有するので、これら両者が転写開始を支配していると考えられる。新ベクター
の転写開始部位を決定するために、pMCT-catプラスミドでトランスフェクトした
HepG2 細胞からのmRNAの開始部位を RNaseマッピングにより分析した。トランス
フェクトHepG2 細胞からの細胞質ポリA+RNAを単離してノーザンブロッティング
とRNA 保護で分析した。実施例5に記載したように、HIV とM-MuLVの両方の転写
開始部位が使われているが、上流にあるHIV 転写開始部位が下流にあるM-MuLV開
始部位に優先するという結果が出た。さらに、Tat の存在下または不在下でpMCT
プロモーターから生成されたRNA の相対量を測定することで、pMCT転写がTat に
よりトランス活性化されることを確認できた(実施例5、図14および15参照
)。
パッケージング効率の向上
改良プロモーターの作製に加えて、レトロウイルス遺伝子治療においてはパッ
ケージング細胞のベクター力価を高めることがもう一つの重要な課題となる。ほ
とんどの臨床遺伝子導入研究は造血幹細胞への感染を利用し、したがって高力価
の組換えウイルスを必要とする。効率的な幹細胞形質導入には少なくとも106ウ
イルス粒子/mlの力価を有するウイルスストックを使用する必要がある。
従来のベクターのパッケージング効率を高めるため、このベクターに追加のM-
MuLVパッケージングシグナルをクローニングした。追加のパッケージングシグナ
ルと共に、3'スプライス部位も挿入した。この修飾は該ベクターにより発現され
る転写産物を安定化し、そのパッケージング効率を高めた。pLSN、pLCTSNおよび
pLGCTSN を含めて、これらの新ベクターのパッケージング効率はPA317 パッケー
ジング細胞を使って調べた(実施例7)。リポフェクタミン(BRL)を用いてPA317
細胞にベクターDNAを導入した。パッケージされたベクターRNAを含有す
る培養上清をトランスフェクト細胞から分離し、これをHeLa細胞またはHuh7細胞
に感染させた。感染細胞を抗生物質G418含有培地で培養した(3つのベクターと
もneo 遺伝子を含み、そのため感染細胞にG418耐性を付与する)。用いた培養上
清1mlあたりの生産されたG418耐性コロニーの数が、PA317 細胞におけるベ
クターの力価またはパッケージング効率を与える。得られた結果から、追加のパ
ッケージングシグナルを含んでいたpLGCTSN のパッケージング効率が他のもの(p
LNL6、pLSNまたはpLCTSN)より約3〜5倍高いことがわかった。その上、新ベク
ター(pLGCTSN)の発現は、CATアッセイで調べたとき、pLCTSNまたはpLSN構築物よ
り常に3〜10倍良好であった[3つのベクターともCAT 遺伝子を含有する;それ
ゆえ、ベクターから生産されたCAT 活性のレベルを用いて、CAT アッセイで他の
ベクターに対する所定のベクターの LTR活性を測定できる]。
新規ベクターからの遺伝子発現の長期安定性
修飾ベクターの長期安定性をHeLaおよび HepG2細胞で調べた。pLSN、pLCTSNま
たはpLGCTSN を感染させた細胞を、G418の存在下で増殖させて選別した(耐性コ
ロニーの樹立には約2週間を要した)。その後、選別[すなわち、G418耐性(G418r
)]細胞のCAT 活性をアッセイした。この研究の結果から、pLCTSNからのCAT 発
現はHeLaおよび HepG2細胞においてpLGCTSN からのCAT 発現よりも安定している
ことがわかった。さらに、これらのベクターによる形質導入の1〜2ヵ月後にHe
La細胞でCAT アッセイにより判定したとき、pLCTSNの CAT発現レベルも親構築物
pLSNより2〜3倍高かった。pLGCTSN ベクターからのCAT の安定した発現は、形
質導入の2ヵ月後に安定に形質導入されたHeLa細胞で達成された。また、pLGCTS
N ベクターはHeLa細胞に該ベクターを導入した2ヵ月後にTat トランス活性化に
依然として応答した。かくして、pLCTSNおよびpLGCTSN の両ベクターはヒト細胞
における挿入遺伝子の長期発現を可能にし、さらにこの発現はTat タンパク質に
よる誘導に依然応答する。
改良ベクターへのHIV-1パッケージング配列の付加
従来の遺伝子治療ベクターは、標的細胞中のM-MuLV構造タンパク質の欠如のた
めに、標的細胞に1回感染できるにすぎない。抗HIV 用の遺伝子治療ベクターを
さらに修飾するために、ゲノムパッケージングに不可欠のHIV の配列をpLLLgpt
にクローニングした(以下の実施例2に記載)。2つの合成パッケージング配列
を数種のHIV-1 分離株からの共通配列に基づいてデザインした[分離株の配列お
よび共通配列は Human Retroviruses and AIDS 1993,I-II,Myers,G.ら編,(1
993)Theoretical Biology and Biophysics,Los Alamos,NM より得られた]
。PAK100(配列番号10)はHIV-1 由来の約100 ヌクレオチドと、3'末端にBamH
I の制限認識部位および5'末端にSalIの付着突出部を含有する。PAK140(配列番
号11)はHIV-1 由来の約140 ヌクレオチドと、BamHI およびSalIに適合する突
出末端を含有する。
ベクターRNA 上のPAK140配列の存在は、HIV ゲノムとPAK 含有ベクターゲノム
の両方を発現する細胞において感染性HIV 粒子の生産を減少させる。
PAK100またはPAK140に含まれる配列は天然に存在するどのようなHIV-1 分離株
にも見られない。それらは変異を起こしたスプライス供与配列を含み、PAK140は
gag 遺伝子のATG 付近の配列を既知のHIV 分離株に存在しない配列で置き換える
。これらの配列は数種のHIV-1 分離株の比較により誘導された共通配列に由来す
るが、共通配列と同一ではない。
形質導入後、(HIV 感染)標的細胞におけるHIV パッケージングタンパク質の
発現は、HIV-1 パッケージング配列(PAK100 またはPAK140)を含有するM-MuLVベ
クターのHIV 粒子へのパッケージングを可能にする。このデザインは、感染細胞
により産生されるHIV ゲノム含有ウイルス粒子の量を減少させると同時に、標的
HIV ゲノムに治療用抗HIV ベクターを接近させることにより、抗HIV アンチセン
スおよびリボザイムベクターの治療効能を拡大する可能性がある。これらのパッ
ケージング配列をベクターpLCTSNにクローニングし、その後該ベクターをHIV 感
染細胞にトランスフェクトして、該ベクター配列がHIV 粒子にパッケージされる
かを調べる。
HIV-1 パッケージング配列(例:PAK140)はいくつかのレトロウイルスベクタ
ー(例:pLGCTSN)に挿入した(得られたベクターはpLGCTSN-PAK140と命名した
)。次に、pLGCTSN-PAK140または他のベクターをH9細胞かAA2 細胞に導入し、そ
の後導入細胞にHIV-1 またはHIV-2 を感染させて、HIV 感染から細胞を防御する
このベクターの能力を調べた。
pLGCTSN-PAK140ベクターの存在はHIV 感染からH9またはAA2 細胞を防御するこ
とがわかった。これらの研究は、新規な抗HIV ベクターpLGCTSN-PAK140がさまざ
まなヒトCD4+リンパ球様細胞系において40日以上にわたりHIV-1 およびHIV-2 に
よる感染を最高100%ブロックできることを実証している。pLGCTSN-PAK140ベク
ターを含有する細胞がHIV 感染をブロックする能力を、PAK140配列を欠いている
従来のMLV ベクターpLSN(すなわち、pLSNnef)またはPAK140配列を含むベクタ
ーpLSN(すなわち、pLSN-PAK140)を含有する細胞の能力と比較した。得られた
結果は、pLGCTSN-PAK140に含まれるLTR およびパッケージング(psi)領域におけ
る該ベクターの更なる修飾がpLGCTSN-PAK140の示す抗HIV 効果にとって極めて重
要であることを明らかに示している。というのは、H9またはAA2 細胞中に存在す
るpLSN-PAK140が、これらの細胞に感染するHIV-1NL4-3、HIV-1EL1またはHIV-2 R
OD の能力になんの影響も与えなかったからである(図26および27参照)。
かくして、pLGCTSN ベクターに含まれる新規なTat 誘導可能なLTR および延長パ
ッケージング配列(すなわち、延長パッケージングシグナル)並びにイントロン
は、成功に導く抗HIV 遺伝子治療ベクターを作製するのに必要な特性を提供する
ものである。
本発明はどのような特定の理論にも縛られないが、pLGCTSN-PAK140の阻害効果
は転写レベルで起こり、Tat についての競合がHIV 発現を低下させるのかもしれ
ない。これとは別に、pLGCTSN-PAK140転写産物はHIV 粒子へのパッケージングを
競合しうるので、阻害効果はウイルス粒子の組み立てのレベルで起こるのかもし
れない。さらに、pLGCTSN ベクターは、従来のMLV ベクター(例:pLSN)の使用
と比べて、高レベルでベクターコード化遺伝子を発現することが見いだされた。
さらに、pLGCTSN ベクターからの遺伝子の発現は、従来のMLV ベクター(例:pL
SN)に含まれる遺伝子の発現と比べて、より安定している。
pLGCTSN-PAK140 RNAはHIV 粒子にパッケージされ得る。HIV 感染細胞から放出
されるキメラ粒子(すなわち、HIV ウイルスコートの内側にpLGCTSN-PAK140RNA
)は非感染性であるが、免疫原性をもつ(すなわち、HIV タンパク質に対する免
疫応答を引き出す能力をもつ)かもしれない。それゆえ、pLGCTSN-PAK140ベクタ
ーの使用はHIV 遺伝子治療プロトコールにおいて有利であろう。HIV 感染患者か
ら末梢血リンパ球またはCD34+濃縮リンパ球を分離し、pLGCTSN-PAK140ウイルス
を導入する。次に、形質導入リンパ球を患者に戻す。これらの形質導入細胞はHI
V 感染に対して抵抗を示したり、HIV の複製を抑制するかもしれない。(キメラ
ウイルス粒子によるリンパ球の形質導入のために)in vivo 形質導入された
リンパ球の小集団は、HIV の細胞変性作用ゆえのHIV 感染細胞の速やかな死のた
めに、患者の総リンパ球の割合を増やす可能性がある。したがって、たとえ本発
明の新規な抗HIV 遺伝子治療ウイルスによるヒトリンパ球の形質導入が低効率で
起こるとしても、これはHIV 遺伝子治療にとって問題とはならないだろう。さら
に、in vivo でのHIV 複製に対するマイナーな効果は長期的には患者の病気の発
症・進行に大きな影響を及ぼす可能性がある。
本発明の新規な抗HIV 遺伝子治療ベクター(例:pLGCTSN、pLGCTSN-PAK140)
は、これらのベクターに他の抗HIV 遺伝子を挿入できるように修飾することで、
これらのベクターを含有する細胞でのHIV 複製をブロックする能力に一層大きな
効果を与えることができるだろう。実験
以下の実施例は本発明の好適な実施態様および側面を例示するためのものであ
って、その範囲を限定するものと解釈されるべきでない。
以下の実験の記載において、次の略号を使用する:M(モル); mM(ミリモル);μ
M(マイクロモル); mol(モル); mmol(ミリモル);μmol(マイクロモル);nmol(ナノ
モル); g(重力); gm(グラム); mg(ミリグラム);μg(マイクログラム); pg(ピコ
グラム);L(リットル); ml(ミリリットル);μl(マイクロリットル); cm(センチメ
ートル); mm(ミリメートル);μm(マイクロメートル); nm(ナノメートル); hr(時
); min(分); msec(ミリ秒);℃(摂氏); AMP(アデノシン5'-モノホスフェート); c
DNA(コピーまたは相補DNA); DTT(ジチオトレイトール);ddH2O(2回蒸留した水);
dNTP(デオキシリボヌクレオシド三リン酸); rNTP(リボヌクレオシド三リン酸);
ddNTP(ジデオキシリボヌクレオシド三リン酸);bp(塩基対); kb(キロ塩基対); T
LC(薄層クロマトグラフィー); tRNA(転移RNA); nt(ヌクレオチド); VRC(バナジ
ルリボヌクレオシド複合体); RNase(リボヌクレアーゼ); DNase(デオキシリボヌ
クレアーゼ);ポリA(ポリリボアデニル酸); PBS(リン酸緩衝食塩水); OD(光学密
度); HEPES(N-[2-ヒドロキシエチル]ピペラジン-N-[2-エタンスルホン酸]); HBS
(HEPES緩衝食塩水); SDS(ドデシル硫酸ナトリウム); Tris-HCl(トリス[ヒドロキ
シメチル]アミノメタン-ハ
イドロクロライド); rpm(回転数/分);ライゲーション緩衝液(50mM Tris-HCl,1
0mM MgCl2,10mM ジチオトレイトール,25μg/mlウシ血清アルブミン,26μMNAD
+,pH7.8); EGTA(エチレングリコール -ビス(β-アミノエチルエーテル)N,N,N',
N'- 四酢酸); EDTA(エチレンジアミン四酢酸); ELISA(酵素結合イムノソルベン
トアッセイ); LB(Luria-Bertani培地: 10g トリプトン,5g酵母エキス,10g NaC
l/リットル,pHを1N NaOH で7.5 に調整);スーパーブロス(12g トリプトン,24
g 酵母エキス,5gグリセロール,3.8g KH2PO4,12.5g K2HPO4/リットル); DMEM(
ダルベッコ改良イーグル培地); ABI(Applied Biosystems Inc.,Foster City,C
A); Amersham(Amersham Corporation,Arlington Heights,IL); ATCC(American
Type Culture Collection,Rockville,MY); Beckman(Beckman Instruments In
c.,Fullerton,CA); BM(Boehringer Mannheim Biochemicals,Indianapolis,I
N); Bio-101(Bio-101,Vista,CA); BioRad(BioRad,Richmond,CA); Brinkmann
(Brinkmann Instruments Inc.,Wesbury,NY); BRL,Gibco BRL および Life Te
chnologies(Bethesda Research Laboratories,Life Technologiesinc.,Gaith
ersburg,MD); CRI(Collaborative Research Inc.,Bedford,MA); Eastman Kod
ak(Eastman Kodak Co.,Rochester,NY); Eppendorf(Eppendorf,Eppendorf Nor
th America,Inc.,Madison,WI); Falcon(Falcon Dickenson Labware,Lincoln
Park,NJ);IBI(International Biotechnologies,Inc.,New Haven,CT);ICN(I
CN Biomedicals,Inc.,Costa Mesa,CA); Invitrogen(Invitrogen,San Diego
,CA); New Brunswick(New Brunswick Scientific Co.Inc.,Edison,NJ); NEB
(New England BioLabs Inc.,Beverly,MA); NEN(Du Pont NEN Products,Bosto
n,MA); Nichols Institute Diagnostics(Nichols Institute Diagnostics,San
Juan Capistrano,CA); Pharmacia(Pharmacia LKB,Gaithersburg,MD); Prome
ga(Promega Corporation,Madison,WI);Stratagene(Stratagene Cloning Syste
ms,LaJolla,CA); UVP(UVP.Inc.,San Gabreil,CA); USB(United States Bio
chemical Corp.,Cleveland,OH);および Whatman(Whatman Lab.Products Inc.
,Clifton,NJ)。
特にことわらない限り、制限酵素はすべてNew England Biolabs から入手し、
製造業者の指示に従って使用した。特にことわらない限り、合成オリゴヌクレオ
チドはABI DNA 合成機、モデルNo.391を使って合成した。
実施例1
野生型M-MuLV LTRプロモーターは
ヒト細胞では比較的弱いプロモーターである
現在認可されている遺伝子治療法のほとんどはアンホトロピックM-MuLVベクタ
ーpLNL6を用いている。このベクターに関して蓄積された経験は、M-MuLV LTRの
活性が他のエンハンサー/プロモーターまたはLTR と比べて弱いことを気づかせ
た。さらに、個々の細胞型におけるこのLTR の活性は予測できないことが判明し
た。改良されたレトロウイルスベクターを設計するために、数種のプロモーター
の相対強度が調べられた。
本実施例では、CATリポーター遺伝子アッセイを用いてM-MuLV LTR、CMV-IEお
よび活性化HIV-1 LTR プロモーターの活性を試験した。CAT 遺伝子を支配するこ
れら3つのプロモーターのそれぞれを含有するプラスミドをヒトHeLa細胞系(ATC
C CCL 2)にトランスフェクトした。これら3つのプロモーターの相対強度を調べ
るためにCAT 活性を測定した。CAT 活性はクロラムフェニコールのアセチル化形
態に変換されたクロラムフェニコールのパーセンテージとして表される。
CAT 遺伝子の発現を支配するM-MuLV LTRを含有するプラスミドDNA(M-MuLV LTR
-cat)を構築するにあたり、Asp718(BM)で消化したベクターpSP72-3'LTR をcat
-SV40ポリアデニル化部位を含むDNA 断片にライゲートした。これを行うために
、ClaIおよびNdeI消化によりpLNSX 由来の3'LTR を単離した(pLNL6 中のヌクレ
オチド3049-4082 に対応する)。この断片をClaIおよびNdeIで消化したpSP72(Pr
omega)に挿入して、ただ1つのM-MuLV LTRを含有するサブクローン(pSP72-3'LTR
)を得た。pU3-R-CAT[Chang,L.-J.ら,(1993)J.Virol.76:743]をHindIII とB
amHI で消化してcat-SV40 DNA断片を調製した。次にこの分子の両末端をT4ポリ
メラーゼ(NEB)を使ってフィルイン(fill in)した。これらの平滑末端にT4 DNAリ
ガーゼ(IBI)を用いて製造業者のプロトコールによりAsp718リンカ
ー[5'-GCTAGCGGTACC-3'(配列番号9)]をライゲートした。
プラスミドpCMV-catはCAT 遺伝子の発現を支配するCMV-IEプロモーターを含有
する[Hunninghake,G.W.ら,(1989)J.Virol.63:3026]。プラスミドpU3-R-C
AT[Chang,L.-J.ら,(1993)J.Virol.76:743]はCAT 遺伝子の発現を支配するH
IV-1 LTR を含有する。
プラスミドDNA はアルカリ-SDS、塩化セシウム勾配法を使って精製した[Sambr
ook,J.ら,(1989)Molecular Cloning: A Laboratory Manual,Vol.2,pp.1.2
1-1.52]。簡単に述べると、所望のプラスミドを含有する細菌[一般にはDH5 α
細胞(BRL)]を250ml フラスコに入れたスーパーブロス 150ml中で37℃の環境振
とう器(New Brunswick)内で一夜増殖させた。JA10またはJA14ローター(Beckman)
を使って5000rpm で10分遠心して細菌をペレットとした。このペレットを溶菌緩
衝液5ml[50mMグルコースまたは15%(w/v)スクロース,25mM Tris(pH8.0),10mM
EDTA,5mg/mlリゾチーム含有,4℃]に再懸濁し、氷上で10〜20分インキュベー
トした。この混合物に、10mlの新たに調製した0.2N NaOH,1%SDS(ddH2O中)を
加え、直ちにこのボトルを振とう回転させて混合した。次にボトルを室温で5分
インキュベートした。その後7.5ml の冷却した7.5M NH4OAc(pH7.5)を加えて、ボ
トルを振とう回転させて混合した。この混合物を氷上で5分インキュベートした
。続いて、この溶菌物をBeckman JA10ローターで8000rpm,10 分遠心した。25μ
l のRNase A(10mg/ml)を含む50mlポリプロピレンチューブに上清を移し、混合
し、37℃の水浴で1時間インキュベートした。この混合物を1/2容量のddH2O-
飽和フェノール(約10ml)および1/2容量のクロロホルムとともに1〜2分間
激しく振って抽出した。卓上遠心機(Beckman)で800xg,5分遠心して水相と有機
相を分離した。上層を0.6〜1容量の冷却2-プロパノールと混合し、-20 ℃で少
なくとも30分インキュベートした。
プラスミドDNA をJA20ローター(Beckman)で10000rpm,20分遠心してペレット
とした。次にペレットを真空乾燥した。1.5ml のTE(10mM Tris,pH8.0,0.1mME
DTA)に再懸濁し、3ml のCsCl溶液(1.2g/ml,参照指数 1.4155,オートクレーブ
滅菌したddH2Oを用いて調製し、0.45μフィルターを通して濾過した)と混合し
、Beckman VTi65 チューブに移した。続いて、100 μl のEtBrストック(5mg/ml)
を
加えた。このチューブの首レベルの下までCsCl:ddH2O(2:1)を満たした。チュー
ブの重さは約9.5gであった。チューブを密封し、Beckman VTi80 ローターを使っ
て60000rpm,19℃で少なくとも4時間遠心した。
プラスミドDNA(勾配中の下方のバンド)は 1ml注射器に取り付けた21ゲージ針
を使って抜き取った。プラスミドバンドを1ml の5M NaCl-飽和2-プロパノールで
3回抽出し、4ml のddH2Oと 5mlの冷イソプロパノールを加えた。プラスミドDNA
を-20 ℃で一夜沈殿させた。DNA をBeckman JS13ローターを使って10000rpmで3
0分遠心してペレットとした。ペレットを70%エタノールで十分にリンスし、真空
乾燥させた。DNA を400μl のddH2O に再懸濁した。分光計で260nm での吸収を
測定することによりDNA 濃度を決定した。また、プラスミドDNA の濃度は、アリ
コートを1%アガロースゲル上で泳動し、続いて0.05mg/ml のEtBrで染色すること
により確かめた。
オリジナルのCa3(PO4)2-DNA 共沈法(Graham,F.L.and van der Eb,A.J.,V
irol.,52:456[1973])の変法を用いて、6ウェルプレート(Falcon)においてM-M
uLV LTR、HIV-1 LTR および CMV-IE エンハンサー/プロモーターを含有するプ
ラスミドでHeLa細胞をトランスフェクトした。簡単に述べると、約4x105個のHeL
a細胞を6ウェルプレートにまき、20時間後 DNA沈降物を添加した。DNA 添加時
にHeLa細胞は約80〜90% の集密度であった。10% FBS(BRL)とペニシリンとスト
レプトマイシン(BRL)を含有するDMEM(BRL)でHeLa細胞を増殖させ、DNA 沈降物の
添加の1時間前に10% FBS と抗生物質を含有する新鮮なDMEMを2ml 供給した。
DNA 沈降物は、2μg の所望の CATリポータープラスミド[HIV-1プロモーター
を活性化させるために、pU3-R-CAT を含むチューブに0.2 μg のpCEPtat(実施例
2に記載)も加えた]、10μlの2.5M CaCl2、100 μl の2xBES 緩衝液(50mM N,N-
ビス[2-ヒドロキシエチル]-2-アミノエタンスルホン酸,280mM NaCl,1.5mMNa2H
PO4,pH6.95)を含むddH2O 90μl を混ぜて調製した。各ウェルは2ml の培地と 2
00μl のDNA 沈降物を含み、これを5% CO2を含む雰囲気下37℃で一夜インキュベ
ートした。翌日、ウェルを増殖培地(10% FBSを含むDMEM)で1回洗い、新鮮な培
地を2ml 供給した。培地交換の48時間後に細胞溶解産物を調製し、CAT 酵素アッ
セイを行った。
各トランスフェクションはトランスフェクト細胞にヒト成長ホルモンを培養上
清中に発現させるpXGH5 プラスミド(Nichols Institute Diagnostics)を0.1 μg
含んでいた。ヒト成長ホルモンの定量はNichols Institute Diagnostics から
販売されているELISA キットを用いて行った。これはトランスフェクション実験
の内部対照を提供する。
CAT アッセイは記載のとおりに実施した[Chang,L.-J.ら,(1993)J.Virol.7
6:743]。簡単に述べると、HeLa細胞をDNA 添加の60時間後に収穫し、PBS で3回
洗い、37℃の水浴とドライアイス・エタノール浴で凍結−融解を3回繰り返した
。細胞溶解産物中のタンパク質濃度をDCタンパク質アッセイキット(BioRad)で測
定した。CAT 活性の直線反応速度範囲に入る結果を得るために、各反応で用いる
細胞溶解産物の量を、1時間以内に検出可能なシグナルを与えかつ導入基質[14C
]クロラムフェニコール(0.5μCi; 55mCi/mmol; ICN)の60%未満の消費をもたら
すように調整した。酵素の濃度は高レベルのCAT 活性を有する溶解産物の段階希
釈により測定した。
細胞溶解産物と基質とのインキュベーション後、反応生成物をTLC プレートに
載せ、95% クロロホルムと5% メタノールを含む溶液で45分間クロマトグラフィ
ーを行った。プレートを乾燥させた後、プレートを写真フィルムに室温で12時間
露出してオートラジオグラフィーを行った。アセチル化または非アセチル化形態
で存在するクロラムフェニコールの量は、TLC プレートをイメージングプレート
に2時間露出し、ホスホイメージャー(モデルBAS 1000,Fuji Medical Systems
,USA Inc.)を使って走査することにより定量した。
図2は、HIV,CMV-IE およびMLV プロモーターを含有するプラスミドにより産
生されたCAT 酵素によるクロラムフェニコールのアセチル化クロラムフェニコー
ルへの変換を示す。一時トランスフェクトHeLa細胞中に存在するCAT 酵素の量は
、CAT 遺伝子の発現を誘導するエンハンサー/プロモーターの強さの関数である
。図2は、M-MuLV LTRの活性がHeLa細胞においてHIV LTR の活性の9分の1で、
CMV-IEエンハンサープロモーターの活性の11分の1であることを示す。明らかに
、標的細胞が(全ての遺伝子治療の事例がそうであるように)ヒト由来のもので
あるとき、M-MuLV LTRは最適の制御シグナルとは言えない。
実施例2
レトロウイルスベクター中の内部プロモーターの使用は不利である
図2に示した結果は、M-MuLV LTRがヒト細胞において強力なプロモーターでは
ないことを示している。M-MuLVベクターに担持された遺伝子の高レベル発現を達
成しようとして、内部プロモーターがこれまで用いられてきた。内部プロモータ
ーはウイルスLTR の下流に配置され、挿入遺伝子を発現させるために用いられる
。しかしながら、以下に示すとおり、内部プロモーターの活性はしばしば上流の
M-MuLVプロモーターからの干渉のため相当に低下する。
Tat トランス活性化アッセイを用いて、内部プロモーターの強度を数種の異種
プロモーターの強度と比較した。HeLa細胞を、図8の下に模式的に示した所定の
エンハンサー/プロモーターにより駆動されるtat 遺伝子を含有する一連のプラ
スミドでトランスフェクトした。これらの構築物では、プロモーター不含(pSP72
tat)、SV40プロモーター(pSV-tat)、gpt 遺伝子を駆動するM-MuLV LTR、続いてt
at 遺伝子を駆動する内部SV40プロモーター(pLLLgptSVtat)、CMV-IEプロモータ
ー(pCEP-tat)またはRSV LTR(pREP-tat)のいずれかによりtat 遺伝子が駆動され
る。CAT 遺伝子を駆動するHIV LTR を含有する第2プラスミド(pU3-R-cat)を用
いて全細胞を同時トランスフェクトした。HIV LTR はTat タンパク質によって誘
導またはトランス活性化される。かくして、種々のプロモーターの強度は活性化
されたHIV LTR により産生されるCAT 酵素の量を調べることで測定できる。
プロモーター不含の対照プラスミド(pSP72tat)は、pSP72(Promega)にtat 遺
伝子をクローニングして作製した。tat 遺伝子はプラスミドpSV-tat[Peterlin,
B.M.ら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 83:9734(1986)]からPCR を使って単離し
た。tat 遺伝子の増幅に用いたプライマーは、5'-AAGGATCCTCGAGCCACCATGGAGCCA
GTAGATCCT-3'(配列番号12)および5'-CAAGATCTGCATGCTAATCGAACGGATCTGTC-3'(
配列番号13)であった。反応条件は記載されたとおりであった[Chang,L.-J.ら
,(1993)J.Virol.67:743]。簡単に述べると、0.5 μg の各プライマー,
0.01μ のpSVtat[Peterlin,B.M.ら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 83:9734(1986
)]を含有する反応混合物50 μl 中でPfu ポリメラーゼ(Stratagene)を製造業者
の指示どおりに用いて、次の条件下で30サイクル行った。すなわち、ステップ1
:94℃で5分;ステップ2:50℃で1分;ステップ3:72℃で1分;ステップ4
:92℃で1分;およびステップ5:ステップ2〜4を30サイクル繰り返す。BamH
I およびBglII で消化してPCR 産物からtat 遺伝子を回収して、BamHI およびBg
lII で消化したpSP72(Promega)に挿入すると、pSP72tatが得られた。
pCEP-tat(tat 遺伝子を駆動するCMV-IEプロモーターを含有する)およびpREP
-tat(tat遺伝子を駆動するRSV LTR を含有する)は次のように構築した。pSP72
tatをXhoIおよびBamHI で消化してtat遺伝子を単離した。次に、このXhoI/BamHI
断片を真核発現ベクターpCEP4またはpREP4(Invitrogen)のいずれかに挿入して、
それぞれpCEP-tatおよびpREP-tatを作製した。PCR では、Taq DNAポリメラーゼ
の代わりにPfu ポリメラーゼ(Stratagene)をその低い誤差率のために用いた。PC
R 条件は上記のとおりであった。
pLLLgptSVtat(M-MuLV/SV40 構築物)は次のように作製した。pLNL6 をClaIと
BclIで消化してpLLLを構築した。消化したベクターを精製し、ポリリンカー部位
を含む二本鎖インサートを挿入した。この二本鎖インサートは次の2本のオリゴ
ヌクレオチドを一緒にアニーリングして作った:5'-GATCTAAGCTTGCGGCCGCAGATCT
CGAGCCATGGATCCTAGGCCTGATCACGCGTCGACTCGCGAT-3'(配列番号2)および5'-CGATCG
CGAGTCGACGCGTGATCAGGCCTAGGATCCATGGCTCGAGATCTGCGGCCGCAAGCTTA-3'(配列番号
3)。上記のオリゴヌクレオチドをアニーリングした後に得られるDNA 断片は Hi
ndIII,NotI,BglII,XhoI,NcoI,BamHI,AvrII,StuI,BclI,MluI,SalI,Nr
uI および ClaI の制限部位を含んでいる。pLNL6 の消化に続いてアニーリング
したオリゴヌクレオチドを挿入すると、pLNL6 のヌクレオチド1625(BclI部位)か
ら3049(ClaI部位)までの配列が欠失された。pLLLは図3に模式的に示してある
。
次にpLLLSV40を構築するにあたり、SV40プロモーターを含む断片(pLNSXをBam
HI とStuIで消化して単離した)を、BamHI とStuIで消化しておいたpLLLに挿入
した。これによりpLLLSV40(図4に模式的に示す)が得られた。
tat 遺伝子を上記のように増幅し、BamHI とBglII で消化し、pLLLSV40のBclI
部位にクローニングしてpLLLSVtat を作製した(pLLLSVtat は図5に模式的に示
してある)。
配列 5'-ATCTAGAAGCTTAGTGCGCCAGATCTCTATAATC-3'(配列番号14)および5'−ATC
TAGACTCGAGTTAGCGACCGGAGATTGGC-3'(配列番号15)からなるプライマーを用いてpM
SG(Pharmacia)からPCR でgpt 遺伝子を増幅した。PCR 産物をHindIII とXhoIで
消化し、HindIII とXhoIで消化しておいたpSP72(Promega)にクローニングして
pSP72gptを作製した。
HindIII とXhoIで消化しておいたpLLLにpSP72gptからのgpt(HindIIIからXhoI
)をクローニングしてpLLLgpt(図6に模式的に示す)を作製した。その後、BamHI
とSalIで消化してpLLLSVtat からSvtat 断片を単離し、この断片をBamHIとSalI
で消化しておいたpLLLgpt に挿入してpLLLgptSVtatを作製した(pLLLgptSVtatは
図7に模式的に示してある)。
HeLa細胞を、tat 遺伝子を駆動する異種プロモータープラスミド0.1μg およ
びCAT 遺伝子(リポーター遺伝子)を駆動するHIV LTR を含むpU3-R-cat プラス
ミド2μg でトランスフェクトした。プラスミドの精製、トランスフェクション
およびCAT アッセイは実施例1に記載したとおりに行った。図8は本実施例で用
いたプラスミドの構成の略図である。図8では次の略号が用いられている:X,pS
P72tat(プロモーター不含の対照プラスミド); SV40,pSVtat; M-MuLV/SV40,pLL
LgptSVtat; CMV,pCEP-tat;およびRSV,pREP-tat。
図9は、pSP72tat,pSVtat,pLLLgptSVtat,pCEP-tatまたはpREP-tatでトラン
スフェクトしたHeLa細胞から得られた抽出物に対して行ったCAT アッセイの結果
を示す。図9の変換率のデータから明らかなように、SV40エンハンサー/プロモ
ーターの上流にM-MuLV LTRが存在すると、SV40プロモーターの活性が約2分の1
に低下した(レーン2および3を比較されたい;tat プラスミドにSV40プロモー
ターのみが存在するときのクロラムフェニコールの変換率が10.3% であるのに対
し、SV40プロモーターの上流にM-MuLV LTRが存在するときの変換率は5.4%である
)。図9はまた、SV40プロモーターがヒト細胞においてCMV プロモーターよりも
6〜13倍低い活性であることを示している(レーン2、3および4を比較され
たい)。RSV LTR(レーン5)はHeLa細胞においてCMV プロモーターの約50% の
強さであった。
図2および9に示した結果は、M-MuLV LTRのプロモーター活性が活性化HIV-1
LTR またはCMV-IEプロモーターに強さの点で匹敵しないことを示している。さら
に、これらの結果から、M-MuLVベクターでの内部プロモーターの使用は下流のプ
ロモーターの活性が低下するので不利であることが実証される。それゆえ、改良
LTR は内部プロモーターを使わずにM-MuL VLTRの固有の限界を克服するように設
計された。
実施例3
プロモーター活性を増強するためのM-MuLV LTRの再構成
HIV-1 LTR は、ウイルストランスアクチベーターである Tatが存在するとき、
ほとんど全てのヒト細胞型で活性を示す非常に強力なプロモーターを含有する。
Tat 活性化を媒介するHIV の遺伝要素はTAR(Tat活性化応答: Tat-activation re
sponse)と呼ばれている。TAR 要素はHIV LTR のU5領域に位置している。TAR RNA
はウイルストランスアクチベーターTat に物理的に結合してTat のトランス活
性化機能を媒介する[Vaishnav,Y.N.and Wong-Staal,F.(1991)Ann.Rev.Bi
ochem.60:577]。
TAR に関連したHIV-1 LTR の一連の異種エンハンサー/プロモーターハイブリ
ッドが以前に構築された[Chang,L.-J.ら,(1993)J.Virol.67:743]。これらの
研究から、CMV-IEエンハンサー/プロモーターとHIV-1 TAR 要素を組み合わせる
と、高い基底活性を示し(すなわち、Tat の不在下でのハイブリッドプロモータ
ーの活性が野生型HIV-1 LTR のものより高く)かつTat により一層高レベルへと
誘導される(すなわち、ハイブリッドプロモーターがTat により活性化または誘
導される)ハイブリッドプロモーターが得られることが明らかにされた。これら
の結果は、Tat 応答性を維持したままでHIV-1 LTR の一部(NF-kB およびSpl結
合部位を含む部分)をCMV-IEエンハンサー/プロモーターで置換することによっ
て、HIV-1 LTR の活性が増加する可能性があることを示した。
内因性M-MuLV LTRより一層強力で、Tat に応答性の新規なLTR を作るために、
末端切断CMV-IEエンハンサー要素およびHIV-1 TAR 要素を含むようにM-MuLV LTR
を修飾した(この組換えM-MuLV LTRは下記のpMCT-cat中に存在する)。
MuLV LTRを再構成するために、リポータープラスミドpSP72-3'LTRcatを作製し
た。pSP72-3'LTRcatはpLNL6 ベクター由来の3'LTR[Miller,A.D.and Buttimor
e,C.Mol.Cell.Biol.6:2895(1986); Bender,M.A.ら,J.Virol.61:1639(1
987)およびMiller,A.D.and Rosman,G.J.BioTechniques 7:980(1989)]、CAT
遺伝子およびSV40ポリアデニル化部位を含有する。pSP72-3'LTRcatは次のよう
に構築した。ClaIおよびNdeI消化によりpLLLから3'LTR を単離した(pLNL6 中の
ヌクレオチド3049-4086 に対応する)。次に3'LTR 断片を、ClaIとNdeIで消化し
ておいたpSP72(Promega)にクローニングしてpSP72-3'LTRを作製した。pSP72-3
'LTR はただ1つのM-MuLV LTRを含む。
次に、pSP72-3'LTRcatをさらに修飾してpMT-cat およびpMCT-catを作製した。
pMT-cat 中に存在するLTR は、M-MuLV TATA ボックスの上流のCAATボックスをHI
V-1 TATA/TARで置き換える。pMCT-cat中に存在するLTR は、M-MuLV TATA ボック
スの上流のCAATボックスをCMV-IEエンハンサー+HIV-1 TATA/TARで置き換える。
これらの構築物は図10に模式的に示してある。
pMT-cat およびpMCT-catを作製するために、HIV-1 TAR を含む断片およびCMV-
TAR DNA 断片を次のようにpSP72-3'LTR に挿入した。まず、M-MuLV LTR TATA ボ
ックス近傍のSacI部位(pLNL6 ナンバリングシステムでヌクレオチド3604に対応
)をEcoRI 部位に変えるために、SacI部位にEcoRI アダプター(5'-GAATTCAGCT-
3')をアニーリングした。PCR および次のプライマー対を使ってpU3-R-CAT から
HIV-1 TAR 断片(約200bp)を単離した:5'-GCATCTAGAGTACTTCAAGAACTGC-3'(配列
番号6)(このプライマーはHIV-1 TATAボックス近傍の配列に対応し、XbaI部位を
提供する)および 5'-GGGAATTCGAGGCTTAAGCAGTGGGTTCC-3'(配列番号7)(HIV-1 T
AR の3'側の配列に対応し、EcoRI 部位を提供する)。
PCR および次のプライマー対を使ってdl.kB/Sp1 CMV-IEaU3-R-CAT からCMV-TA
R 断片(約343bp)を単離した:5'-CCGGAGTAGCTAGCTGGAGTTCCGC-3'(配列番号8)(CM
V-IEa 要素の5'側に位置する配列に対応し、NheI部位を提供する)および配
列番号7(上記;すなわち、TAR 断片を作製するのに用いたものと同じプライマ
ー)。2つの増幅断片をXbaI(TAR構築物の場合)またはNheI(CMV-TARの場合)お
よびEcoRI で消化し、XbaIとEcoRI で消化しておいた修飾pSP72-3'LTR(SacI 部
位の代わりにEcoRI 部位を含む)にクローニングした。
2つの最終産物 pMTおよびpMCTの本性は制限酵素消化とDNA シークエンシング
により確かめた。CAT リポーター構築物を作るために、pU3-R-CAT をHindIII と
BamHI で消化することにより、cat-SV40ポリA 配列を含む約1631bpの断片を単離
した。cat-SV40ポリA 断片をゲル精製し、両末端をT4ポリメラーゼにより平滑末
端とした。平滑末端にAsp718リンカー[5'-GCTAGCGGTACC-3'(配列番号9)]をラ
イゲートし、この断片をAsp718で消化したpSP72-3'LTR、pMT またはpMCTにクロ
ーニングして、それぞれpSP72-3'LTRcat、pMT-cat およびpMCT-catを作製した。
pMT-cat 中に存在する組換えM-MuLV LTRの全配列は以下のとおりである:
pMCT-cat中に存在する組換えM-MuLV LTRの全配列は以下のとおりである:
pMT-cat およびpMCT-catのプロモーター活性は、下記のDNA トランスフェクシ
ョン実験においてHIV-1 Tat の存在下または不在下で野生型M-MuLV LTR、HIV-1
LTR および CMV-IE プロモーターと比較された。
実施例4
修飾M-MuLV LTRプロモーターは、種々のヒト細胞型において
効率的に機能し、Tat によってトランス活性化される
HIV-1 の存在下または非存在下における修飾M-MuLV LTRのプロモーター活性を
、ヒト細胞系統のパネル中への一連のCAT リポーター構築物をトランスフェクト
することによって試験した。
A.ヒト細胞系のパネル中におけるpMCTおよびpMT プロモーターの発現
修飾M-MuLV LTR(pMT-cat およびpMCT-cat構築物)のプロモーター活性を、各
種のヒト細胞系において、野生型のM-MuLV LTR、HIV LTR およびCMV-IEプロモー
ターと比較した。Tat タンパク質によってトランス活性化されるプロモーターの
能力もまた、試験した。
下記の細胞系を用いた。HeLa、ヒト類上皮性癌(ATCC CCL2;HepG2、ヒト肝癌
系(ATCC HB8065);HuH-7、ヒト肝癌系[Nakabayashi,Hら(1982)Cancer Res.42
:3858];CCRF-CEM(CEM)、ヒトリンパ芽球細胞系(ATCC CCL119);およびH9、ヒ
トT細胞リンパ腫(ATCC HTB176)。
以下のプラスミドを使用した。pMuLV LTR-cat(野生型M-MuLV LTR-cat)、pMT
-cat(TAR要素を含む修飾M-MuLV LTR)、pMCT-cat(CMV-IEプロモーターおよびT
AR要素を含む修飾M-MuLV LTR)、pHIV LTR-cat(野生型HIV LTR)およびpCMV-ca
t(CMV-IEプロモーター)。Tat発現プラスミドであるpCEtatを、各リポータープ
ラスミドと同時トランスフェクトし、Tatタンパク質が与えられたプロモーター
にトランス活性化する能力を試験した。リポータープラスミドDNA のTatプラス
ミドDNA に対する比は、10:1とした。プラスミドDNA を実施例1に記載したよ
うに調製した。
プラスミドDNA をエレクトロポレーションにより、浮遊細胞系であるCEMおよ
びH9に導入し、リン酸カルシウム沈殿法によって単層細胞系であるHeLa、HepG2
およびHuH-7に導入した。
エレクトロポレーションは以下のように行った。エレクトロポレーションに先
立ち、CEMとH9細胞とを、10%ウシ胎児血清(FBS,Gibco-BRL)およびペニシリン
ならびにストレプトマイシンを含むRPMI1640培地(Gibco-BRL)で、5%CO2含有雰
囲気中、37℃にて増殖させた。約10×106細胞(0.4mL)を0.4cmのキュベット(Bio
Rad)中に入れ、所望のCATリポーター遺伝子(10μg)を含むプラスミドDNAを加
えた。Tatタンパク質が発現されたときに、10μgのリポータープラスミドおよび
1μgのTatプラスミドをエレクトロポレーションに使用した。Gene Pulser(BioR
ad)を、960μFおよび300Vで使用して細胞をエレクトロポレーションした。つい
で、20%FBS を含む10mlのRPMI1640培地を入れたT25フラスコ(Falcon)中に移し
た。
その後48時間インキュベーションし、細胞を600×gで5分間遠心し、ついで
冷リン酸緩衝生理食塩水で1回洗浄した。細胞のペレットを100μlのTris(25mM,
pH7.8)に再懸濁し、ついで37℃の水浴とドライアイス浴とを用いて、3回凍結
融解した。マイクロ遠心機(Brinkman、5415C型)で、フルスピード(約14,000r
pm)で2分間遠心して、溶解産物を回収した。
HeLa、HepG2およびHuH-7細胞系を、実施例1に記載したリン酸カルシウム沈殿
法を用いてトランスフェクトした。トランスフェクトした細胞を、DNA 添加後48
時間で回収した。細胞溶解産物を実施例1のように調製した。
細胞溶解産物は、CAT活性を下記のようにアッセイした。約20μLの溶解産物を
75μLのTris(1M,pH7.8)、5μlのアセチルコエンザイムA(3.5mg/mL)および3
μLの14C-クロラムフェニコールと混合した。この反応混合物を37℃で45分間イ
ンキュベートし、ついで、1mLの酢酸エチルとともにボルテックスした。表層を
1.5mLのマイクロ遠心チューブ(Eppendorf)に移し、真空下で1時間乾燥した。乾
燥産物を30μLの酢酸エチルに再懸濁し、TLCプレート(Whatman)上にスポットし
、蓋をしたガラス容器の中で、95%クロロホルムおよび5%メタノールで展開し
た。展開したTLCプレートを、実施例1に記載のオートラジオグラフィーまたは
ホスホイメージャー(phosphoimager)で分析した。
トランスフェクションの効率は、同時トランスフェクトする内部制御プラスミ
ド(ヒト成長ホルモン)によって制御した。CAT活性のレベルを、内部標準を用
いて標準化した。各トランスフェクションは0.1μgのpXGH5プラスミド(Nichols
Institute Diagnostics)を含み、ヒト成長ホルモンを培養上清中に発現した。
ヒト成長ホルモンの定量は、Nichols Institute Diagnosticsから提供されるELI
SAキットを用いて行われた。
表1に、これらのトランスフェクション実験の結果を要約する。CAT発現の相
対的なレベルを、Tatの非存在下(-Tat)または存在下(+Tat)に、各構築物につい
て示した。
表1に示したように、Tatの非存在下において、pMCTプロモーター(pMCT-cat)
は、CMV-IEプロモーター(pCMV-cat)よりも2〜5倍低い活性を示したが、野生型
のM-MuLV LTR(pMLV LTR-cat)よりもかなり高かった。しかしながら、Tatの存在
下では、pMCT-cat構築物は、一般的に、pCMV-catが示す活性と同等以上の活性を
示した。一方、pMT-cat構築物は、pMLV LTR-catと同様の、極めて低い活性を示
した。さらに、pMT-catはHIV-1 TAR要素を含むという事実にもかかわらず、pMT-
catはTatには応答しなかった。この実験から、pMCT中に存在する修飾M-MuLV LTR
は、肝癌細胞およびTリンパ球の双方において、強力なプロモーターであるとい
うことが示されたが、野生型M-MuLV LTRはリンパ球においてのみ、中程度の活性
であった。これらの活性より、CMV-IE遺伝子のエンハンサー要素に必須であり、
Tatのトランス活性化を可能にする(pMTはこのCMV要素を欠失しており、Tatに応
答できない)ということもまた証明された。
B.ヒトBリンパ芽球細胞系中のpMCTプロモーターの発現
上述のように、プロモーター活性は、明らかに細胞の型に依存して変化する。
pMTプロモーターおよびpMCTプロモーターをさらに特徴づけるために、これらの
プロモーターの活性をヒトBリンパ芽球細胞系AA2において試験した[Chaffee,
S.ら、J.Exp.Med.168:605(1988);AA2細胞はAIDS Research and Reference Re
agent Program,NIH,Bethesda,MD,カタログ番号135より入手した]。この実
験においては、細胞のβ−アクチンプロモーター構築物[p βactin-cat; Ng,S
.-Y.ら(1985)Mol.Cell.Biol.5:2720]並びにCMV-IEプロモーター[pCMV-cat
;Hunninghake,G.W.ら(1989)J.Virol.63:3026]を比較のために含めた。すべ
てのプロモーターを、Tatの存在下または非存在下においてアッセイした。
AA2細胞を、10%ウシ胎児血清(FBS、Gibco-BRL)、1×非必須アミノ酸(Gibco-
BRL)、1mMピルビン酸塩、ペニシリン(50単位/mL; Gibco-BRL)、およびスト
レプトマイシン(50μg/mL; Gibco-BRL)を含むRPMI1640培地(Gibco-BRL)中、5%
CO2含有雰囲気中にて37℃で増殖させる点を除き、上述したように、エレクトロ
ポレーションによってプラスミドDNA をAA2細胞中に導入した。AA2細胞に250μF
、300V(時定数7.5〜11msec)でエレクトロポレーションを行った。DNA 添加後4
8時間で、細胞溶解産物を調製した。細胞溶解産物を調製し、上記のようにCAT活
性をアッセイした。
図11に、これらのトランスフェクション実験の結果を示す。図11のレーン7に
示したように、M-MuLV-CMV-TAR(pMCT)構築物は、Tatの非存在下で高いプロモー
ター活性を示した。図11のレーン8に示すように、Tatの存在下では、pCMTプロ
モーターは有意にトランス活性化した。こうして、AA2細胞においては、試験し
たプロモーターのうち、pCMTプロモーターが、Tatが存在してもしなくても、最
も高い活性を示した。pMCTによって誘導された高レベルのCATの発現は、AA2細胞
における相同的でないウイルスのトランス活性化の存在に起因するものであった
(AA2細胞は、EBVの形質転換によって樹立した)。pCMT構築物は、多くの異なる
ウイルス(すなわち、HIVに加えて)に感染させたか、またはトランスフォーム
した細胞中で、高レベルで発現されるという利点を有する。
対照的に、M-MuLV TAR(pMT)構築物は低い活性を示し、Tatに応答しなかった(
図11のレーン1および2を参照せよ)。強いCMV-IEプロモーターと比較すると、
M-MuLV-CMV-TAR(pMCT)プロモーターは(すなわち、Tatの非存在下において)約
2倍高い基底活性(basal activity)を示した。M-MuLV-CMV-TAR(pMCT)プロモータ
ーは、Tatの存在下において見られる4〜5倍の活性の上昇(基底レベルに比較
して)で示されるように、Tatに応答した。
これらの結果より、M-MuLV LTRとHIV TARとの組合わせ(pMT中に存在する)は
、M-MuLV LTRに対するTat-応答性を付与するためには不十分であることが示され
た。対照的に、CMV-TARの修飾(pMCT-tat中に存在する)によって、pMCTプロモ
ーターのトランス活性化が可能となり、ヒト細胞中での高い基底レベルを有する
ハイブリッドプロモーターがさらに提供される。
C.構成的にTatを発現しているヒト細胞系における修飾M-MuLV LTRの発現
Tatの存在下におけるpCMT-catの発現レベルを、ヒトTリンパ腫細胞系であるC
EM-TART[Chen,H.ら(1992)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:7678; CEM-TART
細胞は、AIDS Research and Reference Reagent Program,NIH,Bethesda,MDよ
り入手した]を用いて評価した。CEM-TART細胞は、構成的にHIV-1 Tatタンパク
質を発現する。下記のCATリポーター構築物(pCMV-cat、pLLL-cat(野生型のMuLV
LTRを含む)pMCT-cat、pHIV LTR-cat)を、CEM-TART細胞中にエレクトロポレー
ションした。
CEM-TART細胞を、実施例4AにおいてCEMおよびH9について上述したように増殖
させ、エレクトロポレーションした。プラスミドDNAは、実施例1に記載したよ
うに精製した。細胞溶解産物をDNA添加後48時間で調製し、実施例1に記載した
ようにCATアッセイを行った。
図12に、CEM-TART細胞における相対的なCAT発現レベルを示す。これらの結果
から、pMCTプロモーターが、M-MuLV LTR、CMV-IE、およびHIV-1 LTRプロモータ
ーのうちで、最も高い活性を示した。それゆえ、HIV-1感染細胞をターゲティン
グするという目的にとって、pMCT構築物が理想的であると思われる。その理由は
、Tatの非存在下において高い活性を示し、Tatの存在下(HIV-1感染中)におい
て強く活性化されるためである。
実施例5
転写はpMCT LTR構築物におけるTATAボックスのいずれからも開始する
pMCT LTR構築物は、M-MuLVのTATAボックスとHIV-1のTATAボックスの2つを含
む。これらのTATAボックスの一方から転写が開始するのか、それとも双方から開
始するのかを決定するために、以下の実験を行った。HepG2細胞をpMCT-catプラ
スミドにトランスフェクトし、RNA転写物をノーザンブロット分析およびRNaseマ
ッピングで分析した。
すべての試薬の量を2.5倍にした点を除いて実施例1に記載したリン酸カルシ
ウム法により、pCEPat(2μg/T25フラスコ(Falcon))の存在下において、HepG
2細胞をプラスミドDNA(10μg/T25フラスコ)でトランスフェクトした。DNA を
除去した24時間後に、細胞を冷PBSで2回洗浄し、1.5mLのマイクロ遠心管中
に1mLのPBSでこそげ落とした。この細胞を3000rpm、1分間の遠心でペレッ
トとした。25μLのVRC(BRL)を含む250μLの溶液I(10mMのTris(pH7.4)、10mMの
NaClおよび3mMのMgCl2、RNase不含)に細胞を再懸濁し、氷上で5分間インキュ
ベーションした。12.5μLの10%NP40を添加し、チューブを軽くボルテックスし
、4000rpmで3分間、マイクロ遠心機で遠心した。250μLの上清を、250μLの2
×プロテイナーゼK緩衝液(200mMのTris(pH7.5)、40mMのEDTAおよび300mMのNa
Cl)を含む第二のチューブに移し、25μLの10%SDS、10μLの5mg/mLのプロテイ
ナーゼKを添加した。この溶液を37℃で30分〜1時間インキュベーションした。
ポリA-RNAを単離するために、この溶液に0.5MのNaClを加え、1%のSDS およ
び30μLのオリゴ-dTセルロース粉(CRI)を添加して、チューブを、室温で1時間
回転させた。オリゴ-dTセルロースをペレットとし、650μLの高-TEN-SDS(20mM
のTris(pH7.5)、10mMのEDTAおよび0.5MのNaCl、1%のSDS)で2回洗浄し、650
μLの低-TEN-SDS(0.5MのNaClに代えて0.1MのNaCl、1%のSDS)で1回洗浄した
。RNA を200μLのTE(10mMのTris(pH7.5)、1mMのEDTA)で2回溶出し、40
μLの5Mの酢酸アンモニウムと1mLの95%エタノールとにより沈殿させた。
ノーザンブロット分析のために、HepG2細胞から単離されたポリA−RNAを、上
記のようにpCEPtatの存在下で、pMCT-catとともにトランスフェクトした。このR
NAを1.6 %のホルムアルデヒドアガロースゲル上で電気泳動した。このRNAをナ
イロン膜(Genescreen(DuPont))に移し、pMCT-cat中に存在するcat遺伝子を用
いてプローブした。pMCT-catをPrime-a-gene labelling system(Promega)を用い
て放射性標識した。各レーンにロードしたRNA量を制御するために、ブロットをc
atプローブのストリップから取り、β−アクチンプローブで再ハイブリダイズし
た(pβ−アクチン:Karlsson,R.ら(1991))Mol.Cell.Biol.11:213)。
図13は、ノーザンブロットのオートラジオグラムを示す。膜上の放射活性(す
なわち、ノーザンブロット)を、ホスホイメージャー(phosphoimager、フジバ
イオ−イメージングアナライザーBAS2000)を用いて定量した。レーン1(pMCT-
catのみ)とレーン2(pMCT-cat+pCEPtat)との比較より、pMCTプロモーターか
らのCAT RNAのTatトランス活性化合成が16倍に高められたことが示された。
RNaseマッピングのために、pU3CMV5CATを用いてプローブを作製した。pU3CMV5
CATは、pMCT-cat(実施例3)のNheI〜EcoRI断片(約930bp)をXbaIおよびNheI
で消化したpSP72(Promega)中に挿入することによって構築した。pU3CMV5CATをSa
lIで消化し、0.5μgの直鎖DNA をT7ポリメラーゼ(Promega)により、製造元の
プロトコルに従って転写した。この反応液は、4μLの5×in vitro転写緩衝液
(Promega)、2μLの100μMのUTP、1μLの直鎖DNA(0.5μg)、5μL(50
μCi)のα32P-UTP(DuPont NENカタログ番号NEG-007H),5.5μLのddH2Oおよ
び1μLのT7ポリメラーゼ(10単位)を含み、37℃で1時間インキュベーショ
ンした。DNA の鋳型を、20μgの酵母tRNA(2μL中)の存在下で、1μLのRNas
e不含DNase(1単位/μL)を用いて、37℃で10分間消化した。標識RNA を80μL
のTE、20μLの5M酢酸アンモニウム、および360μLのエタノールで沈殿させた
。ペレットとした後、RNAを50μLのホルムアルデヒドに再懸濁し、使用まで-
20℃にて保存した。
RNaseマッピングを、トランスフェクトしたHepG2から単離したポリA+RNA の
25%と2μLのRNA プローブとを、80%のホルムアルデヒドを含む30μLの1×
ハイブリダイゼーション緩衝液(2MのNaCl、5mMのEDTAおよび0.2MのMOPS(pH
7.0)からなる5×ハイブリダイゼーション緩衝液)中で、90℃にて5分間、混合
することによって行った。その後、温度を40℃に下げ、終夜反応させた。ハイブ
リダイゼーション溶液に、300μLのRNase消化緩衝液(10mMのTris(pH7.5)、5m
MのEDTA、0.3MのNaCl、40μg/mLのRNaseA、2μg/mLのRNaseT1)を添加し、
このチューブを30℃で1時間インキュベーションした。RNase消化後、10μLの2
0%SDS と5μLのプロテイナーゼK(10mg/mL)を添加し、チューブを37℃で15
分間インキュベーションした。最終産物を、フェノール−クロロホルムで抽出し
、ついでクロロホルムで抽出し、1mLの冷エタノールを添加し、70℃にて少なく
とも3時間インキュベーションすることによって、20μgの酵母tRNA担体を沈殿
させた。
RNA−RNA ハイブリッドを5%の中性ポリアクリルアミドゲルで分析した。Bst
EII消化λDNA(BRL)を、マーカーを提供するためにゲルにのせた。ゲルを乾燥さ
せ、X−線フィルムに露光させ、実施例1で記載したように、ホスホイメージャ
ー(Fuji)を用いて定量した。
図14に、RNaseマッピングの結果を示す。図15は、プローブとpMCT中のTATAボ
ックスの一を模式的に示す。両方の転写開始部位が使用されるなら、2つのRNA
種は434ヌクレオチド長および314ヌクレオチド長のバンドを作製しつつ、保護さ
れる。データより、HIV 転写開始部位およびM-MuLV転写開始部位はいずれも、pM
CT-catプラスミドでトランスフェクトされたHepG2細胞中で使用されることが示
された(図12B)。上流のHIV 開始部位は、下流のM-MuLV部位の8〜12倍活性が
高いために好適である(図12B)。いずれのRNA 種のTatアップレギュレート合
成(HIV プロモーターからの17倍、M-MuLVプロモーターからの22倍)は、TAR は
M-MuLV転写物には存在しないが、下流のM-MuLV転写単位からの転写速度を上流の
Tat-TAR相互作用によって仲介することを示している。
この実施例に示された結果は、pMCT中に存在するLTR はTat単離を誘導するこ
とができることを実証した。pCMTプロモーターから産生されたRNA の量は、Tat
が存在するときには基底レベルの16〜22倍に増加した(ノーザンブロットにより
16倍と判定された;RNaseマッピングにより、17〜22倍と判定された)。
実施例6
延長されたパッケージングおよびスプライシングシグナルを有する
修飾された3'LTR または有しない3'LTR を含む
改良されたレトロウイルスベクターの作製
pMTおよびpMCTは単鎖のプラスミドである。これらの改良されたプロモーター
を含むレトロウイルスベクターを作製するために、この構築物は5'LTRおよび3'L
TR の両方を含まなければならない。これらの改良されたLTR を含むレトロウイ
ルスベクターを構築した。
レトロウイルスベクター中に挿入された遺伝子の発現レベルを上昇させるため
に、両親和性M-MuLVベクターであるpLNL6を修飾した。pLNL6は臨床治療プロトコ
ルで使用が認められていることから、pLNL6を改良されたレトロウイルスベクタ
ーの作製のための開始点として使用した。
特に、CMV-IEエンハンサーおよびHIV-1トランス活性化応答(TAR)要素(pMCT
プロモーター)を含むレトロウイルスベクターを産生するために、M-MuLVのLTR
を再構成した。この新規な組替えM-MuLV LTRはMLV エンハンサー要素とCMV エン
ハンサーエレメン、2つのTATAプロモーター(HIV およびMLV からの)およびHI
V-1 TAR 要素とを含む。これらの修飾は、注意深く設計したため、ウイルスRNA
の逆転写、パッケージングおよびポリアデニル化などの重要な機能は損なわれて
いないはずである。CMV-IEエンハンサーを、種々の細胞の型において強いエンハ
ンサーとして機能するものとして選択した。TAR 要素は、HIV-1トランスアクチ
ベーターTatを発現している細胞において(すなわち、HIV-1感染細胞)、高レベ
ルの発現を指向する。TAR 要素はまた、感染細胞においてHIV-1の産生を誘導す
るHIV-1タンパク質Tatと拮抗する。これらの特徴は、高レベルの発現される抗HI
V遺伝子を生じ、そして、すでに感染した細胞からのウイルスの産生を制限し、
その免疫系がもはや感染しない免疫細胞に次第に再形成される(re-populated)
ことを可能にすることによって、生体の免疫系におけるHIV ウイルスの伝播を
妨げる。CMV-IEエンハンサーとTAR との組合わせは、HIV 感染細胞における挿入
された遺伝子の発現レベルを高める。加えて、pLCTSNのLTR は強いプロモーター
を含むため、このベクターは、種々の哺乳類の細胞型(HIV 未感染細胞を含めて
)において挿入された遺伝子の発現にとって理想的である。哺乳類細胞において
高レベルに遺伝子を発現する能力は、遺伝子の発現の研究、系統マッピング(lin
eage mapping)の研究などを促進するだろう。
この改良されたレトロウイルスベクター(pLCTSN)をさらに修飾して、M-MuLVゲ
ノムからの延長されたパッケージングとスプライシングシグナルとを含めた(pL
GCTSNを作製した)。これらの修飾は、ウイルス粒子中へのベクターRNAのパッケ
ージングの効率を高めるために設計した。図16は、これらの修飾されたMuLVベク
ターを模式的に示したものである。改良されたプロモーターの機能を有するLTR
を含むベクターを作製するための修飾は、3'(M-MuLV)LTRのみで行った。これら
の修飾により、感染、ベクター配列の逆転写および組み込みの後に、両方のLTR
が出現するだろう。図16において用いられる「cat」の語は、CAT 遺伝子が、pLL
Lベクター中に位置するポリリンカーまたはpLSN、pLCTSNおよびpLGCTSNベクター
上のSV-neo遺伝子の上流に位置するポリリンカー中に挿入されていてもよいとい
うことを示唆する。このポリリンカーはまた、抗HIV-1遺伝子を含む配列などの
所望のいかなる配列の挿入のために使用してもよい。
a)pLLLの構築
出発点としてpLNL6(配列番号1)を用いて、pLLLを構築した。pLNL6 は、3'L
TR 中のM-MuLVプロモーターと5'LTR 中のマウス肉種ウイルス(MSV)プロモーター
とを含む。続く工程を容易にするために、pLNL6中の幾つかのクローニング部位
と内部のSV-neo遺伝子を除去し、合成ポリリンカーと置き換え、pLLLを作製した
(図16に模式的に示した)。
pLLLを構築するために、1μgのpLNL6を、5ユニットのClaIを含むNEB 緩衝
液#4(50mMの酢酸カリウム、20mMのTris-酢酸、10mMの酢酸マグネシウムおよ
び1mMのDTT(pH7.9))で、終量20μLにて、37℃で1時間、消化した。ついで、
5ユニット(0.5μL)のBclIを添加し、反応温度を50℃に上げ、1時間反応させ
た。ベクター断片を単離するために、反応混合物を2μLのグリセロール染色液
(10%グリセロール、1mMのEDTA、0.1%のキシレンシアノール(xylene cyanol)
FF、および0.1%のブロモフェノールブルー)と混合し、1%アガロースゲル上
で、染色液のフロントがゲル長の2/3に達するまで電気泳動した。上側のバン
ドを手で持つことができるUVボックス(UVP モデルUVGL-25、366nm)で可視化
し、かみそりの刃で切出した。この寒天のブロックを1.5mLのマイクロ遠心チュ
ーブ(Eppendorf)に移し、GeneClean(Bio-101)を用いて、製造元の説明書に従っ
てDNAを単離した。ClaI消化ベクターを含む寒天ブロックの量を測定した。60℃
で5〜10分間インキュベーションして、寒天を溶解させた。この混合物に、1μ
Lのグラスミルク(glass milk,Bio-101からGeneCleanキット中で提供される)を
添加し、室温で5分間インキュベーションした。マイクロ遠心機(Brinkmann)に
て、14,000rpmで10秒間、チューブを軽く遠心した。ペレットを600μLのGeneCle
anを用いて−20℃で2回洗浄した。ついで、DNA を10ftLのddH2Oを用いて、60℃
で溶出させた。
ポリリンカー部位を含む二本鎖挿入断片を、下記の2つのオリゴヌクレオチド
を用いて構築した。
これらのオリゴヌクレオチドを20μLのddH2Oとともに混合し、85℃で5分間加
熱し、1時間以上かけてゆっくりと室温まで放冷した。このチューブに、2.3μL
の10×キナーゼ緩衝液(700mMのTris-HCl、100mMのMgCl2、50mMのDTT(pH7.6))
と1μLのT4ポリヌクレオチドキナーゼ(NEB)とを添加した。この混合物を37℃で
1時間インキュベーションした。ついで、この混合物を65℃で1時間インキュベ
ーションすることにより、キナーゼ活性を不活化した。
ベクターとオリゴヌクレオチド挿入断片とのライゲーションを、1×ライゲー
ション緩衝液(50mMのTris-HCl、10mMのMgCl2、10mMのDTT、25μg/mLのウシ血清
アルブミン、および26μMのNA+(pH7.8))、0.05μgのpLNL6 ベクター、0.01μg
の挿入断片、および0.5ユニットのT4リガーゼ(IBI)を含む10μLの反応混
合物中にて、15℃で終夜行った。ライゲーション混合物を用いて、コンピテント
DH5α細胞(BRL)を以下のように形質転換した。2μLのライゲーション混合物を
、20μLのコンピテント細胞に添加し、4℃にて30分間インキュベーションした
。ついで、この細胞を40℃で1分間インキュベーションすることによって、温度
ショックに供し、37℃の振盪機(250rpm)中に、アンピシリン寒天プレート(LB
プラス1.5%寒天および0.1mg/mLのアンピシリン)にプレーティングする1時間
前に入れて振盪し、プレーティングし、37℃のインキュベーター中で終夜インキ
ュベーションした。第2日目に、アンピシリン寒天培地からコロニーをとり(通
常12個)、アンピシリン(100mg/mL)を含む3mLのスーパー培地に置いた。チュ
ーブを37℃で振盪しながら、終夜インキュベーションした。
プラスミドDNA を、沸騰法[Sambrook,J.ら(1989)Molecular Cloning: A Lab
oratory Manual,Cold Spring Harbor,NY,pp.1.34-1.35]で調製した。約1.4m
Lの終夜培養物を1.5mのマイクロ遠心チューブ(Eppendorf)に移し、マイクロ遠心
機にて2分間遠心して細菌をペレットとし、上清を除いた。このペレットを50μ
LのSTET緩衝液(8%スクロース、0.5%のTriton X-100、50mMのEDTAおよび50mM
のTris-HCI(pH8.0))中で、ボルテックスして完全に再懸濁した。この細菌を4
μLの5〜50mg/mLのリゾチーム溶液(Sigma,-20℃での凍結保存品)と添加して
溶解させ、チューブを正確に1分間沸騰浴中で沸騰させた。溶解産物をマイクロ
遠心チューブ中で10分間遠心し、浮きかす(scum)ペレットをつまようじで捨てた
。上清に等容(50μL)の冷イソプロパノール(-20℃)を添加し、混合して-20
℃で10分間インキュベーションして、プラスミドDNA を沈殿させた。このプラス
ミドDNA を、マイクロ遠心機中で5〜10分間遠心してペレットとし、このペレッ
トを50μLのddH2O中に再懸濁した。制限酵素マッピングのために、10μLのこのD
NA を最終反応量20μL中で適当な制限酵素を用いて消化した。
ついで、プラスミドDNA をSstI/HindIIIおよびAsp718/BamHI消化によってマッ
ピングした。挿入断片の配列を含むクローンを、実施例1で記載したように、大
容量の調製物中で増殖させた。
挿入部位を、以下のプライマーを用いた配列決定によって確認した。
および
これらのプライマーは、挿入の5'側および3'側に位置する配列に対応する配列を
含む。配列決定試薬および方法は、USB より提供されるシーケナーゼキット(Seq
uenase kit)中で提供される。すなわち、5μLのプラスミド(約4μgのDNA を
含む)を、1μLのプライマー(10ng)および1μLの1NのNaOHと混合し、10分間37
℃でインキュベーションした。この混合物に、1μLの1NのHCl と2μLの5×反
応緩衝液(200mMのTris-HCl(pH7.5)、100mMのMgCl2、250mMのNaCl)を添加し、3
7℃で5分間インキュベーションした。このチューブに、以下の試薬、1μLの0.
1M DTT、2μLの希釈したラベリングミックス(7.5μMのdGTP、7.5μMのdCTP、7.
5μMのdTTPを1〜5倍希釈したもの)、0.5μLの「35S-dATP」(Amersham)、2μL
の希釈したシーケナーゼ(20mMのTris-HCI(pH7.5)、2mMのDTT、0.1mMのEDTAお
よび50%のグリセロールを含む酵素希釈緩衝液で1〜8倍希釈したもの)を順番
に加え、室温で5分未満、インキュベーションした。A、T、G、Cの印をつけ
た96フレックスウェルプレート(Falcon)に、2.5μLのddNTPターミネーションミ
ックス(ddA:80μMのdNTP、8μMのddATP、50mMのNaCl; ddT:80μMのdNTP、
8μMのddTTP、50mMのNaCl; ddC:80μMのdNTP、8μMのddCTP、50mMのNaCl;
ddA:80μMのdNTP、8μMのddGTP、50mMのNaCl)を添加してウェルの側壁上で
よく消化し、プレートを37℃で1分間インキュベーションした。フレックスウェ
ルプレートの底に、3.5μLのシーケナーゼリアクションミックスを添加し、プレ
ートをそっとたたいて反応を開始させ、すべての試薬を同時に混合した。反応液
を37℃で5分間インキュベーションした。反応を停止させるために、4μLの停
止溶液(95%ホルムアミド、20mMのEDTA、0.05%のブロモフェノールブルーおよ
び0.05%のキシレンシアノールFF)を各ウェルの側壁上に添加し、プレートをた
たいてすべての反応を同時に停止させた。96ウェルプレートを、シーケンスゲル
にローディングする前に75℃で2分間、加熱した。ゲルを、読み取り可能な長さ
に依存する期間、2000ボルトで電気泳動した。ゲルを1片の3MMペーパー(Whatm
an)に移し、真空下で乾燥させた。乾燥したゲルをXAR5-OMATフィルム(Eastman
Kodak Co.)に露光させて配列を決定した。
pLLLを図16に模式的に示した。pLLLを含むDH5α細菌細胞をAmerican Type Cu
lture Collectionに寄託した。pLLLは、ATCC として受託された。
ついで、pLLLを2つのLTRレトロウイルスベクターシリーズ、pLSN、pLCTSNお
よびpLGCTSN の構築のために使用した。これらのベクターは、CAT リポーター遺
伝子を挿入して、さらに改変した。得られたベクターを、それぞれ、pLSN-cat、
pLCTSN-catおよびpLGCTSN-catと呼んでもよい。CAT 遺伝子をpCAT3MからBglII/S
an3AI断片として単離し、この断片を上記各プラスミドのSV-neo遺伝子の上流に
位置するポリリンカー領域内にあるBamHI部位にクローニングした。CAT 遺伝子
の配列は、pCAT−制御ベクター(Promega)を含む種々の市販のソースから入手す
ることができる。pLSN、pLCTSNおよびpLGCTSN は、すべて、選択マーカーneoを
駆動するSV40プロモーターを含む(図16に模式的に示されており、SV-neo遺伝子
という)。
b)pLSNの構築
ベクターDNAを取込んだ細胞の単離を可能にする選択マーカーを含むベクター
を形成するために、pLSNを作製した。pLSNはSV40エンハンサー/プロモーターの
転写制御下に、neo遺伝子を含み、pLSNはまた、CAT リポーター遺伝子を含んで
もよい(図16に模式的に示す)。CAT 遺伝子は、pLSN中のSV-neo遺伝子の上流の
ポリリンカー領域に挿入されていてもよい。野生型ベクターとしてのpLSNの機能
は、下記のトランスフェクション実験を制御する。
pLSNを作製するために、SV40エンハンサー/プロモーターを含むBamHI/StuI断
片をpKNSX から単離した(Miller,A.D.およびRoseman,G.J.(1989)BioTechniqu
es 7:980)。pLSNとXpLLL とを、BamHIとStuIとを用いて、NEB 緩衝液#2(50m
MのNaCl、10mMのTris-HCl、10mMのDTT(pH7.9))中で消化した。pLLLの構築のた
めに、消化産物を上述のようにアガロースゲル電気泳動で精製した。pLNSX から
のSV40プロモーターに含まれる約350bpの小断片をpLLLベクター中にクローニン
グした。pLLL/SV40 と称する最終産物を、BamHIとClaIを用いた制限酵素消化で
確認した。
neo遺伝子の開始部分により良い翻訳開始コドンを挿入するために、neo遺伝子
をPCRを用いてpLNSX から単離した。pfuポリメラーゼ(Stratagene)を遺伝子
の増幅のために使用した。この増幅は、5μLの10×Pfu反応緩衝液、0.5μLのdN
TP(15mM)、0.5mMの以下の各プライマー、
および
0.5μLのpLNSX(0.01μg)および38μLのddH2O中で行った。これらのプライマーは
、修飾された翻訳開始制御配列(-CCACATG-)を含み、この修飾は組織培養細胞中
のneo遺伝子の強度を非常に大きく増強させることが見出されている(Kozak,M.(
1986)Cell 44:283)。
混合物を95℃で5分間加熱し、1μLのPfuポリメラーゼを添加した。この反応
混合物を、94℃1分、55℃1分、そして72℃3分を1サイクルとして30サイクル
行った。増幅後、DNA を0.1容の3M酢酸ナトリウムと2容のエタノールとで沈殿
させ、ついで、pLLLの構築のところで上述したように、1%のアガロースゲル上で
分離した。アガロースゲルからのDNA のバンドの精製、BclIで消化したpLLL/SV4
0ベクター由来の断片とのライゲーション、プラスミドpLSNのスクリーニング、
精製および確認を上記のように行った。
c)pLCTSNの構築
pLCTSNは、pCMT構築物中に存在する、修飾されたM-MuLV LTRを含む。ベクター
pLSNをSacIIおよびKpnIで消化した。3つの挿入断片は、pLSNのSacIIからXhoI、
pLSNのXhoIからNheI、およびpMCTのNheIからKpnIである。DNA断片の単離、ライ
ゲーション、コンピテントDH5αの形質転換、コロニーのスクリーニング、およ
び陽性クローンのマッピングをpLSNの構築において上述したように行った。
pLCTSNを図16に模式的に示した。pLCTSNを含むDH5α細菌細胞をAmerican Typ
e Culture Collectionに寄託した。pLCTSNの受託番号は、ATCC であ
る。
d)pLGCTSN の構築
pLGCTSN は、pMCT構築物中に存在する修飾されたM-MuLV LTRを含み、延長され
たパッケージングシグナルおよびM-MuLVゲノム由来の3'スプライスアクセプター
部位を含む。これらの配列の付加により、ベクターRNA のパッケージング効率が
改善され、天然の5'スプライスドナー部位による妨害を避けることができる。5'
スプライスドナー部位は、pLCTSNベクター中の対応するスプライスアクセプター
部位を持たない。この修飾によりベクターによって発現される転写物が安定化さ
れ、ベクターゲノムのパッケージング効率が高められる。
pDGLtax/rexのSpeI-BamHI断片をpLCTSNの同じ部位に挿入することによりpLGCT
SN をクローニングした(Akagi,T.ら、Gene 106:255(1991))。このSpeI/BamHI断
片は、延長されたパッケージングシグナルおよびHIV-1 ゲノム由来の3'スプライ
スアクセプター部位を含む。陽性クローンをSpeI、BamHI、KpnIおよびBglII消化
により確認した。pLGCTSN を図16に模式的に示す。
pLGCTSN を含むDH5α細菌細胞を、American Type Culture Collectionに寄託
した。pLCTSNの受託番号は、ATCC である。
実施例7
改良されたM-MuLVベクターのパッケージング効率
より効率的なプロモーターを提供することに加えて、パッケージング細胞のベ
クター力価を増加させることは、レトロウイルス遺伝子療法におけるさらに別の
鍵となる課題であり、本発明の目的である。新たなレトロウイルスベクターであ
るpLSN、pLCTSNまたはpLGCTSN を作製するために行った修飾は、ベクター配列の
パッケージング効率における効果を決定するために試験した。パッケージング細
胞系、PA317(Miller,A.D.およびButtimore,C.(1986)Mol.Cell.Biol.6:2895
、およびMiller,A.D.(1990)Hum.Gene Ther.1:5)に、リポフェクタミン(BRL)
を用いてpLSN、pLCTSNまたはpLGCTSN をトランスフェクトした。リポフェクショ
ンは、製造元の使用説明書に従って行った。
PA317細胞を10%FBSおよびペニシリンおよびストレプトマイシンを含むDMEM中
で、10%CO2を含む雰囲気中にて、37℃で増殖させた。リポフェクションの24時
間前に、PA317細胞を50%コンフルエント(約1×106細胞/フラスコ)で、T25
フラスコ(Falcon)中に入れた。細胞にトランスフェクトするために、DNA(4μ
g)を300μLの無血清DMEM(抗生物質不含)を含むマイクロ遠心チューブ(Eppendo
rf)に添加し、静かに混合した。15mLのポリカーボネートチューブ(Falcon)で、3
00μLの無血清DMEMおよび12μLのリポフェクタミンを静かに混合した。リポフェ
クタミンのチューブにDNA を含有する溶液を滴下することによって2つの溶液を
一緒にし、この混合物を室温で45分間インキュベーションした。このインキュベ
ーションの後に、2mLの無血清DMEMを添加し、静かに混合した。細胞を無血清DM
EMで洗浄し、DNA/リポフェクタミン混合物を細胞に静かに添加した。この細胞
を、37℃で、10%CO2インキュベーター中にて、5時間インキュベーションした
。5時間のインキュベーションの後、20%FBS と抗生物質とを含む2.5mLのDMEM
をT25フラスコに添加し、細胞を終夜インキュベーションした。この5時間のイ
ンキュベーション後25時間で、培地を20%FBS と抗生物質とを含む新鮮なDMEMと
交換した。ベクターの力価評価のために、新たなDMEMと培地交換した後24時間後
に培地を交換し、24時間後にウイルスを回収した。細胞をクローニングしたとき
、トランスフェクトしたPA317細胞を適当な選択培地中で1:10とした。
パッケージング効率は、トランスフェクトしたPA317細胞または選択されたPA3
17細胞から産生されたウイスルストックを用いて,HeLa細胞またはHuH-7細胞を
感染させることによって決定した。PA317細胞の2μlのプレートを、上記のリポ
フェクションのプロトコルを用いて、等モル量のレトロウイルスのベクターDNA
で一時的にトランスフェクトした。トランスフェクション24時間後の上清を集め
、ウイルス粒子の存在をアッセイした。組換えウイルスをHeLa細胞およびHuH-7
細胞のレトロウイルストランスダクションによって力価評価し、得られたG418耐
性コロニーを定量した。
感染は以下のように行った。HeLa細胞およびHuH-7細胞を、5×106細胞/ウェ
ルの密度で、感染の17〜20時間前に撒いた。この細胞を、4μg/mLのポリブレン
(Polybrene,Sigma)を含む500μLの増殖培地(10%FBS および抗生物質を含むDM
EM)中で1:100、1:1000および1:10000に希釈したウイルスストック(上記のよう
に調製した)で、2時間、感染させた。プレートに2mLの増殖培地を足した。増
殖培地を添加した24時間後に、細胞を選択培地(10%FBS、ペニシリン、ストレ
プトマイシンおよび5mg/mLのG418(GeneticinTM,BRL)を含むDMEM)中で1:20
とした。G418耐性コロニーを8〜10日後にクマシーブリリアントブルー染色(40
%メタノールおよび10%酢酸1L中1g;Miller,A.D.ら(1993)Methods in Enz
ymology 217:581)によってカウントした。2〜3回繰り返して結果を計算した
。
表2に、HeLa細胞およびHuH-7細胞の感染によって行われたパッケージングア
ッセイの結果を示した。パッケージング効率を、トランスフェクトされたPA317
パッケージング細胞から得られた培養上清1mLあたりのウイルス粒子数で判定し
た。これらのウイルス粒子のみがベクター配列を含むため、neo遺伝子が、感染
時にG418耐性HeLa細胞およびHuH-7細胞を生じさせる。
LTR 修飾ベクター、pLCTSNおよびpLGCTSNを、親であるpLNL6 およびpLSNベク
ターに比べて3〜10倍効率的にパッケージングした(得られた力価とコロニー形
成単位(cfu)として集められた上清1mL当たりで予想される力価(すなわち、G
418耐性コロニー)との比較によって判定された)。これらの結果より、M-MuLV
のLTR に施した修飾はRNA のパッケージング、逆転写および組み込みを含めてウ
イルスの複製を妨害しないことが示された。実際、LTR に対する修飾は、未修飾
のM-MuLVのLTR を含む親ベクターよりも効率的にパッケージングされる修飾ベク
ターを生じさせた。同様の結果が、一過性にトランスフェクトされたPA317細胞
系よりも、むしろG418中での選択により確立された、安定してトランスフォーム
されたPA317細胞系を用いて得られた(表3)。表3に示す実験のために、HeLa
細胞を、示されたベクターで安定して形質転換したPA317細胞から得られた上清
で形質導入した。
実施例8
pLCTSNベクターは挿入された遺伝子の安定した発現を支配する
長期間の遺伝子の発現についての修飾されたLTR の能力を評価するために、修
飾されたpLCTSNベクターの長期間の安定性をHeLa細胞およびHepG2細胞中で研究
した。HeLa細胞およびHepG2細胞を、実施例7で記載したようにPA317細胞から集
め、G418で選択したウイルスで感染(すなわち形質導入した)させた。通常、選
択培地で2週間増殖させた後に、細胞のコロニーをプールするか、またはシング
ルセルコロニーを得た。ついで、これらのプールまたはシングルセルコロニー選
択培地中でさらに1〜2ヶ月増殖させた。
1〜2ヶ月の増殖後、おおよそ同数のG418耐性細胞(約5×106個:典型的に
は、異なる一連のクローンから得られた)を溶解させ、相対的なCAT 活性/単位
タンパク質を、実施例1に記載したように各溶解産物について定量した。
図17および18に示すように、HeLa細胞(図17)およびHepG2細胞(図18)のい
ずれにおいても、pLCTSN-catベクターはpLSN-catが示したよりも高いレベルのCA
T 活性を示し、HepG2細胞中では顕著な相違が見られた。Tatのトランス活性化の
効果もまた、Tatプラスミド(pCEP-tat)でトランスフェクトされている細胞によ
って、安定して形質導入されたHepG2細胞中で評価された。この場合は明らかに
、しかし相対的には適度なレベルのトランス活性化が観察された(図18)。β−
ガラクトシダーゼリポーター構築物を用いた制御トランスフェクションより、10
%未満の形質導入されたHepG2細胞はTatプラスミドでトランスフェクトさせられ
たはずであるということを示した。したがって、トランス活性化は、HepG2細胞
がTatプラスミドでトランスフェクした場合には、少なくとも10倍高いことが期
待されるはずである。pLNL6 ベクターはCAT 遺伝子を含まないことに留意せよ。
同様の結果が、長期間発現の研究においてpLGCTSN ベクターを用いることによ
って得られた。pLGCTSN ベクターを、pLCTSNベクターについて上述したようにHe
La細胞中に形質導入した。形質導入された細胞をG418を含む培地の存在下で2ヶ
月増殖させた。pLGCTSN ベクターを含むG418耐性HeLa細胞を、構成的にTatタン
パク質を発現する安定なHeLa細胞系と融合させた(ポリエチレングリコール1500
(BM)を用いるHeLa-III(NIH AIDS Research and Reference Reagent Program,
Bethesda,MD:カタログ番号502から入手した))。Tatタンパク質を導入するこ
の方法は、上記で採用したトランスフェクション法よりも非常に効率が良く、安
定に形質導入されたHeLa細胞のすべてに本質的にTatの導入を生じさせた。CATア
ッセイを、融合細胞からの細胞溶解産物の抽出物で行った。CAT アッセイの結果
から、pLGCTSNベクターが挿入されたCAT 遺伝子を安定的に発現すること、およ
びpLGCTSNからの発現は長期培養中にTatによって誘導され得る(15〜20倍)こと
が示された。
これらの結果から、pLCTSNベクターおよびpLGCTSN ベクターは、相対的に長期
間(2〜3ヶ月)以上、安定であり、野生型のM-MuLV構築物よりも高いレベルの
プロモーター活性を示し続けることが証明された。
実施例9
M-MuLV ベクター中へのHIV パッケージング配列の取込み
従来の遺伝子治療のベクターは標的細胞に1回だけ感染することができる。そ
の理由は、標的細胞中のM-MuLV構成タンパク質の欠失が、ウイルス粒子中へのベ
クターRNA のパッケージングをあらかじめ排除するためである。幾つかの例にお
いては、他の細胞中へのベクターゲノムの拡散を可能にするという利点があるは
ずである。例えば、病原性ウイルス(例えばHIV)を不活化するために設計され
た遺伝子をベクターが有しているときには、抗ウイルスベクター配列の拡散がベ
クターの治療的価値を高めるはずである。
抗HIV のための改良された遺伝子治療ベクターをさらに修飾するために、ゲノ
ムのパッケージングに必須なHIV ゲノム中の配列をpLSNおよびpLLLgptベクター
中にクローニングした。形質導入のときに、標的細胞中(すなわち、HIV 感染細
胞)におけるHIV パッケージングタンパク質の発現によって、HIV 粒子中で治療
用M-MuLVベクターの組み立てが可能となり、こうして、ベクター中に含まれる抗
HIV 遺伝子が標的のHIV ゲノムへのアクセスを高めるだろう。この戦略はまた、
細胞中で標的RNA を発見するための生理学的障害を乗り越えることを助けるはず
である。このことは、抗HIV 遺伝子が治療用ベクターに含まれるときに、特に重
要である。
M-MuLVベースのベクターがHIV 粒子中でパッケージングされることを可能にす
るために、psi部位(gagAUG付近の)にわたるHIV-1 由来のパッケージング配列
を、pLLLベクターおよびpLLLgptベクター中にポリリンカー領域でクローニング
した。2つのHIV-1 由来のパッケージング配列が作製された。PAK100は、HIV-1
由来の約100ヌクレオチドおよび3'端におけるBamHIのための制限認識部位ならび
にSallのための5'端の突出部分を含む。
PAK140は、HIV-1 由来の約140ヌクレオチドおよび以下の配列を含む。
PAK100 配列は、下記の4つのオリゴヌクレオチドを一緒にアニーリングする
ことによって作製した。
アニーリングは実施例3に記載のように行った。これは、HIV パッケージングシ
グナルを含む119bpのDNA 断片を作製し、クローニングを容易にするために、5'S
allおよび3'BamHI制限部位を再形成させた。PAK100配列をXhoI-BamHIで消化した
pLLL中にクローニングし、pLLL-PAK100を作製させた。ついで、BamHI消化によっ
てPAK100配列をpLLL-PAK100から除去し、pLLLgptのBamHI部位に挿入し、pLLLgpt
-PAK100を作製させた。pLLL-PAK100およびpLLLgpt-PAK100を、各々図19と図20と
に模式的に示した。
PAK140配列(配列番号11)を、下記の2つのオリゴヌクレオチドを一緒にアニ
ーリングすることによって構築した。
アニーリングは実施例3に記載のように行った。得られた二本鎖DNA 断片は、Av
rIIおよびSalIと適合する、突き出した末端を含む。この断片をAvrIIおよびSalI
で消化したpLLLgpt-PAK100に挿入し、pLLLgpt-PAK140を作製させた。pLLLgpt-PA
K140を、各々図21に模式的に示した。
合成HIVpsi配列を含むウイルスRNA がHIV 感染細胞中にあるHIV 粒子にパッケ
ージングされる能力を、下記の同時トランスフェクションアッセイによって試験
した。
HeLa細胞を以下の3つのプラスミド、pLLLgpt-PAK140、pHIVhyg(以下に説明
する)およびSV-Ψ-E-MLV(Landau,N.R.およびLittman,D.R.(1992)J.Virol.
66:5110)でトランスフェクトした。対照として、別個に培養した2つのHeLa細胞
をpHIVhygでトランスフェクトした。
pLLLgpt-PAK140は、ミコフェノール酸(mycophenolic acid)の存在下で増殖さ
せることによって選択することを可能にするgpt遺伝子を含む。pLLLgpt-PAK140
は、野生型のM-MuLVのLTR およびHIV のパッケージング配列を含む(PAK140)。
pHIVhygは、ハイグロマイシンの存在下で増殖させることによって選択するこ
とを可能にするhyg遺伝子を含む。pHIVhygは、HIV LTR およびHIV のパッケージ
ング配列を含む。pHIVhygは、HIVgag遺伝子およびHIVpol遺伝子を発現する。gag
遺伝子はウイルス粒子の構成成分をコードし、pol遺伝子は、プロテアーゼ、逆
転写酵素およびインテグラーゼをコードする。感染HeLa細胞中におけるHIVgag遺
伝子産物およびHIVpol遺伝子産物の発現により、HIV LTR とHIV のパッケージン
グシグナル(すなわち、pHIVhyg)とを含むウイルスRNA の逆転写および組み込
みが可能になる。
SV-Ψ-E-MLVはM-MuLV発現ベクターにエコトロピックである。SV-Ψ-E-MLVはM-
MuLVgag遺伝子産物およびSV-Ψ-E-MLVpol遺伝子産物を発現する。感染HeLa細胞
中におけるM-MuLVpol遺伝子産物の存在は、pLLLgpt-PAK140ゲノムの逆転写およ
び組み込みを可能にする。
感染HeLa細胞はHIV およびM-MuLVの両方からgag遺伝子産物およびpol遺伝子産
物を発現させるため、pLLLgpt-PAK140ウイルスRNA がHIV 粒子中でパッケージン
グされる能力を試験した。用いられたアッセイの割り当て(rational)は以下の通
りである。pLLLgpt-PAK140 RNA がHIV 粒子中でパッケージングされる場合には
、次に混合粒子を CD4+細胞(すなわちHIVに感染した細胞型)に感染させるこ
とができる。HeLa CD4をpLLLgpt-PAK、pHIVhygおよびSV-Ψ-E-MLVで同時トラン
スフェクトされたHeLa細胞によって産生されたウイルスで形質導入したとき、pL
LLgpt-PAK140のHIV 粒子中でのパッケージングは期待されず、hyg耐性コロニー
の数は減少するはずである。
pHIVhygは以下のように構築した。ハイグロマイシンBホスホトランスフェラ
ーゼ(hyg)遺伝子をPCRで増幅した。PCRは、下記のプライマーの対を用い
た他は、実施例2に記載のように行った。
pCEP4 プラスミド(Invitrogen)をhyg配列の単離のための鋳型として使用した。
増幅されたhyg遺伝子を、MluIとClaIとで消化したpLLLSV40に挿入し、pLLLSVhyg
を作製させた(図22に模式的に示す)。
SV-hyg遺伝子断片(pLLLSVhygのHindIIIからSalI)を、HIVNNL43(Adachi,A.ら
(1986)J.Virol.59:284)のnef遺伝子のAUG(HIVNNL43のAUG ヌクレオチド8787に
おける部位特異的突然変異誘発によってHindIII部位が再形成された)とXhoI部
位(ヌクレオチド8887)との間に挿入し、pHIVhygを作製した。HIVNL43は、野生
方のHIV ゲノムを含むプラスミドである。nef遺伝子は、組織培養細胞中でのHIV
の複製には必要とされない。このnef遺伝子は、nef遺伝子産物のためのATG の
すぐ下流に位置する単一のXhoIを含む。hyg遺伝子のためのATG の上流のnefATG
を含むことを避けるために、nef遺伝子のATG を部位特異的突然変異誘発によっ
て除去し、このATG をHindIII部位と置き換えた。
この3つのプラスミドを実施例1に記載したように増殖させ、精製した。HeLa
細胞を等モル比の各プラスミドで、実施例1に記載のリン酸カルシウム沈殿プロ
トコルにてトランスフェクトした。
パッケージング効率を決定するために、トランスフェクトしたHeLa細胞からウ
イルスを集め、これを用いてHeLa CD4細胞を感染させた(Chesebro,B.ら(1990)
J.Virol.64:215;HeLa CD4細胞は、NIH AIDS Research and Reference Reagent
program,Bethseda,MD:カタログ番号459から入手することができる)。この細
胞の表面上のCD4分子の存在により、HIVgagタンパク質およびHIVenvタンパク
質を含むウイルス粒子によって細胞を感染させることが可能になる。感染は、実
施例7に記載のように行った。
M-MuLVベースのバクターDNA のPAK 配列の付加がHIV 粒子中へのHIVhyg RNAの
パッケージングを妨害するかどうかを決定するために、HeLa細胞のアリコートを
、pHIVhyg、pLLLgpt-PAK140およびSV-Ψ-E-MLVで同時トランスフェクトした。pH
IVhygのみで同時トランスフェクトしたHeLa細胞を並行して培養した。同時トラ
ンスフェクト後48時間で、2つのHeLa細胞培養物からウイルスを回収した。回収
したウイルス(1mLの培養上清)を用いて、それぞれ培養した2つのHeLa CD4細
胞を感染させた。感染は実施例7に記載したように行った。
pHIVhygRNA のパッケージング効率をハイグロマイシン含有培地(10%FBS およ
び100μg/mLのハイグロマイシンを含むDMEM(Calbiochem,San Diego,CA))中で
形質導入したHeLa CD4細胞を培養して決定した。ハイグロマイシン耐性HeLa CD4
コロニーを、感染10〜12日後にカウントした。結果を表4にまとめた。
表4に示した結果より、pLLLgpt-Pak140中に存在するPAK 配列がHIV 粒子中へ
のpHIVhygゲノムRNA のパッケージングを妨害することが示された。この妨害に
よって、HIV ベクター(pHIVhyg)とPAK ベクター(pLLLgpt-PAK140)の両方を有す
る、トランスフェクトされたHeLa細胞によって産生される感染性HIV 粒子の量は
ほぼ1/3に低下した。これらの結果より、ベクター中にHIV パッケージング配
列(例えばPAK140配列)が含まれていると、このベクターはHIV感染細胞中に遺
伝子を送達できるばかりでなく、ウイルス粒子中へのHIV ゲノムのパッケージン
グを妨害できることが示された。このため、レトロウイルス中にPAK 配列を含む
ことは、ベクターを用いて抗HIV 遺伝子をHIV 感染細胞に送達する場合に、ベク
ターの治療的価値を高める。
HIV 粒子のすべてがpLLLgpt-PAK140 RNAを含むかどうかを決定するために、He
La細胞を、pLLLgpt-PAK140、pHIVhygおよびSV-Ψ-E-MLVで同時トランスフェクト
した。ウイルスを集め、これを用いて、HeLa CD4細胞についてトリプリケートで
培養し、形質導入した。形質導入したHeLa細胞を、XMHAT培地(10%FBS、1×HA
T 添加物、250μg/mLのキサンチンおよび25μg/mLのミコフェノールを含むDMEM
、すべての試薬をBRL より購入した)、ハイグロマイシン含有培地(上記)また
はミコフェノールとハイグロマイシンとを含む培地で増殖させた。hyg+に対する
gpt+の比、および hyg+コロニーを決定した。pLLLgpt-PAK140に存在するPAK 配
列がHIV 粒子中へのベクターRNA のパッケージングと逆転写を可能にする場合は
、同数の gpt+コロニーと gpt++hyg+コロニー(すなわち、コロニーはミコフェ
ノールおよびハイグロマイシンの両方を含んだ培地中で増殖できる)を見ること
を期待できるはずである。
pLLLLgpt-PAK140を構築し、HIV 由来のパッケージングシグナルを含むM-MuLV
ベースのベクターのHIV 粒子中へのパッケージング効率を試験した。抗体HIV 遺
伝子治療のベクターを構築するために、HIVpsi部位(PAK100またはPAK140のいず
れか)を、改良されたLTR を含むpLCTSN中に挿入し、pLCTSN-PAKを作製した(図
23に模式的に示す)。pLCTSN-PAKを、アニールしたHIVpsi配列(上記)をBamHI
で消化したpLCTSN(実施例6c)中に挿入することによって構築した。この設計に
より、抗HIV 遺伝子(抗HIV リボソームなど)を有する改良されたベクターの治
療効果が高められた。
実施例10
高力価のパッケージング細胞クローンの分泌
パッケージング細胞系によって産生された組換えウイルスの力価を上げるため
に、確立されたPA317およびGP-AM12(Markowitz,D.ら(1988)Virol.167:400)細
胞系をサブクローニングし、当初のパッケージング細胞のなかで最も高いレベル
の逆転写酵素を産生するこれらのサブクローンを単離した。この細胞によって産
生される逆転写酵素のレベルは、トランスフェクトした組換えベクターのパッケ
ージングに必要とされる細胞系による構造遺伝子の産生効率の指標である。
PA317細胞およびGP-AM12細胞をT75フラスコ(Falcon)中に低密度でプレーティ
ングした。ついで3〜4週間培養し、個々の細胞のコロニーをトリプシン(Gibco
-BRL)に浸した綿棒で拾った。10個のサブクローンをPA317細胞系から得、そして
6個のサブクローンをGP-AM12細胞系から得た。シングルセルコロニーをT25フ
ラスコ(Falcon)中で集密的になるまで増殖させた。各クローンからの理想的な数
の細胞をT25フラスコ中で増殖させ、24時間および48時間に上清を回収した。逆
転写酵素のレベルは以下のようにして測定した。
培地サンプル(上清)10μLを、50μLの反応カクテル(50mMのTris-HCl(pH8.3
),20mMのDTT,0.6mMのMnCl2,60mMのNaCl,0.05%のNP40,5μg/mLのオリゴデオ
キシチミジン酸、10μg/mLのポリアデニル酸、10μM[α-32P]dTTP(Dupont NEN、
比活性800Ci/mmol)を含む)とともにインキュベートした。37℃で1時間、反応
させた。ついで、3μLのアリコートをDE-81ペーパー(Whatman)上にスポットし
、空気乾燥させた。このDE-81ペーパーを2×SSC(3MのNaCl、0.3Mのクエン酸
ナトリウムを含む20×SSC(pH7.0))で3回洗浄し、オートラジオグラフにかけた
。これらの結果を図24に記載した。
最も高いレベルのRTクローンを発現するクローンを、レトロウイルスのパッケ
ージング研究で使用したものの中から選択した。
実施例11
PAK配列を含むレトロウイルス遺伝子治療ベクターは
HIV感染から細胞を保護する
PAK配列を含む改良されたレトロウイルスベクターのHIV 感染から細胞を保護
する能力を試験するために、以下の実験を行った。この実施例は、
a)遺伝子治療ベクターを有するH9細胞およびAA2 細胞の形質導入
b)遺伝子治療ベクターで形質導入した細胞のHIV-1 およびHIV-2 によるチャ
レンジ
c)HIV 複製のキネティック(kinetic)分析のためのHIV 感染し、形質導入し
た細胞の培養上清を用いた逆転写酵素(RT)アッセイ
を含む。
a)遺伝子治療ベクターを有するH9細胞およびAA2 細胞の形質導入
PAK配列を含むレトロウイルスベクターの治療効能を試験するために、HIV 感
染を許容する細胞系を、レトロウイルスベクター(すなわち、遺伝子治療ベクタ
ー)で最初に形質導入した。遺伝子治療ベクターによってコードされる遺伝子を
安定して発現する形質導入した細胞系を選択し、ついで引き続く感染研究に使用
した。
この研究には、2つの細胞系、H9細胞およびAA2 細胞を使用した。AA2 細胞は
AK-と記載されるAA2 細胞のdCK-サブクローンであり、WIL-2ヒト脾細胞性EBV+B
-リンパ芽球系由来の細胞である(Chafeeら、J.Exp.Med 168:605(1988))。AA2
細胞は、高レベルのCD4 を発現し、HIV 感染を驚くほど許容し、ウイルスの細胞
変性高価に対して極めて感受性が高い。AA2 細胞を、非必須アミノ酸および1mM
のピルビン酸、ならびに10%FBS(すべてGibco/BRLから購入した)を添加したPR
MI1640中で増殖させた。この培地を、以下、AA2PRMIという。
遺伝子治療ベクターである、pLSNnef、pLSN-PAK140またはpLCTSN-PAK140を発
現するAA2 の誘導体を産生するために、AA2 細胞をPA317細胞から産生されたウ
イルスベクターで形質導入した。
pLSNnefは、pLSN中に挿入されたnef遺伝子を含む。感染研究でのこれらの保護
における陰性対照としてはたらくように、pLSNnefを作製した。pLSNnefを構築す
るために、nef遺伝子をPCR と以下のプライマーとを用いて増幅させた。
得られた増幅産物は、各端にNotI部位を含んでいた。PCR 産物をNotIで消化して
NotI消化pLSN中に挿入し、pLSNnefを作製させた。
pLCTSNLL-PAK100を実施例9のようにして構築した。PAK140配列をXhoI部位お
よびSalI部位とフランキングさせるために、pLLLgpt-PAK140ベクター(実施例9
)中に、PAK140配列を挿入した。配列番号24および25で表される配列をアニ
ールしてPAK140を形成し(実施例9に記載したように)、ついでAvrIIで消化し
たpLLLgpt-PAK100に挿入して、pLLLgpt-PAK140を作製した。
pLSN-PAK140およびpLCTSN-PAK140は、pLLLgpt-PAK140からのPAK140配列を含む
XhoI/SalI断片を、pLSNおよびpLCTSNのXhoI部位にクローニングすることによっ
て、各々pLSNとpLCTSNとから得られる。これらのベクター中におけるPAK140配列
の向きを、DNA 配列決定によって確認した。
pLSN-PAK140を、pLGCTSN のBamHI/SalI断片を、PAK140配列およびSV-neo配列
を含むpLCTSN-PAK140からのBglII/SalI断片と置き換えることによって構築した
。上記のプラスミドを図25に模式的に示す。
上述のベクターを用いてPA317細胞を実施例7で記載したようにトランスフェ
クトし、所望の遺伝子治療ベクターを産生する(培地中にこぼれるウイルス粒子
として)PA317細胞系を作り出した。各ベクターを産生するPA317細胞から集めた
上清を、実施例7に記載したように収穫した。収穫した上清を用いて、AA2 細胞
に形質導入した。
各々の場合において、T25組織培養フラスコ中の2×106のAA2 細胞をPA317ウ
イルス産生細胞系から収穫した1mLのウイルス上清および1mLのAA2-PRMIならび
に4μg/mLのポリブレンと接触させた。対照のAA2 細胞またはAA2 細胞への偽の
形質導入を、4μg/mLのポリブレン(すなわち、ウイルス含有上清が存在しない
)を含むAA2-PRMI培地を用いて並行して行った。ウイルス含有上清の存在下で、
細胞を3時間、37℃にて、5%CO2インキュベーター中でインキュベートした。
3時間後、各培養物にさらに3mLのAA2-PRMI培地を添加した。ウイルスと接触さ
せた24時間後、3.5mLの培地を各培養フラスコから抜き取り、各フラスコに3.5mL
の1mg/mLのゲンチシン(G418,O-2-アミノ-2-7- ジデオキシ-D- グリセロ−α-
D- グルコヘプトピラノシル[1→4]-O-3- デオキシ-4C-メチル-3-[メチル−
アミノ]-β-L- アラビノピラノシル-D- ストレプタミン、Boehringer Mannheim
より購入)を含むAA2-PRMIを加えた。G418を選択とネオマイシン耐性遺伝子(ne
o遺伝子)で安定にトランスフェクトされた真核細胞の維持のために使用した。
この実施例に含まれるすべての遺伝子治療ベクターはneo遺伝子を含むので、G
418で形質導入したAA2 細胞を選択することにより、遺伝子治療ベクターの発現
も陽性である細胞系が得られた。対照中の全細胞が死滅したことが決定されるま
で、1ヶ月間G418による選択下に細胞を維持した。この選択期間中、約3日間隔
で培地を交換し、G418の濃度を1mg/mLに維持した。
この研究で使用された第二の細胞系はH9細胞である。H9細胞は、特異的なHUT7
8細胞系由来である(Popovicら、Science 224:497(1984))。H9細胞は、HIV-1の許
容的な増殖を高収率で得るために選択した。H9細胞は、FCS(10%)を含むPRMI1640
(90%)中で維持した。上記の3つの異なる遺伝子治療ベクターを含むH9細胞を、
以下の変更を行いつつ、上記のAA2 細胞について記載したようにして形質導入し
、選択した。
H9細胞はAA2 細胞よりも速やかに選択に反応し、結果として、対照または偽の
形質導入培養中で細胞が死滅したことが決定され、選択が完了するまで、3週間
、G418の選択下に維持されるに過ぎない。
H9およびAA2 細胞は、NIH AIDS Research and Reference Reragent Program o
f National Institute of Health(Bethesda,Maryland,USA)から入手した。
b)遺伝子治療ベクターで形質導入した細胞のHIV-1 およびHIV-2 によるチャ
レンジ
HIV の複製を妨げまたは阻害する遺伝子治療ウイルスの能力を試験するために
、細胞系(上記の遺伝子治療ベクターで安定して形質導入された)由来のAA2 細
胞およびH9細胞に、HIV-1 およびHIV-2 株を感染させた。この実施例で用いたHI
V-1 株は、HIV-1NNL4-3(NL4-3)および HIV-1ELI(ELI)である(HIV-1NL4-3とHIV
-IELIとは、各々、NIH AIDS Research and Reference Reragent Program of Nat
ional Institute of Health(Bethesda,Maryland,USA)から入手した)。用いたH
IV-2 株は、ROD である。HIV-1ELIおよびHIV-2 ROD は、各ウイルス株のプロウ
イルス型(各々、pHIVELI-1およびpROD10)を含むプラスミドとして、Keith Pen
don(米国食品医薬品局)から入手した。
形質導入したAA2 細胞およびH9細胞を以下のようにしてHIV 株に感染させた。
第0日に、2×106個の細胞(所望の遺伝子治療ベクターを含むAA2 およびH9細
胞系)をHIV 含有細胞上清で感染させた。HIV 含有上清は以下のようにして作製
した。HeLa細胞を20μgの所望のプラスミドでトランスフェクトした。48時間後
に、培養上清を収穫し、実施例10に記載したようにin vitro RT 反応を行った。
ウイルスの力価をRT活性とMOI との間の相関を用いて定量した。標準曲線を既知
の力価のウイルスストックを用いて作り、ポリrA鋳型を用いたRT活性のレベル(
取込まれた32P-dTTPのcpm)を、既知の力価に対してプロットした(以下のよう
に)。鋳型中に10cpmを変換するために十分なRT活性が、当量またはMOI=1で見
出された。
HIV 感染細胞(AA2 系およびH9系)をカウントし、15mLのコニカルチューブに
入れた。ついで、細胞を800×gで5分間遠心してペレットとした。その後、1mL
の適当な増殖培地(すなわち、AA2-PRMIまたは10%FCS を含むPRMI)中に再懸濁
し、所望の感染多重度(MOI)でウイルス上清を加えた。MOIの定義は、感染にお
いて、細胞細胞あたりのウイルス数をいう。1 MOI は、10cpmの逆転写酵素活性
と当量である(Changら、J.Virol.67:743(1993)およびVirology 211:157(1995
))。
この細胞とウイルス上清とを含む15mLのコニカルチューブを、ウイルスを感染
させるために、37℃で、3時間、5%CO2雰囲気中で、蓋をゆるめて静置した。
ついで、この細胞を上記のように遠心して集め、5mLの新鮮な培地(AA2 細胞の
ためのAA2-PRMIまたはH9のための10%FCS 含有PRMI)に再懸濁した。ついで細胞
をT25組織培養フラスコに移し、研究の間、37℃にて5%CO2インキュベーター中
で維持した。
c)HIV 複製のキネティック分析のためのHIV 感染し、形質導入したた細胞の
培養上清を用いた逆転写酵素(RT)アッセイ
4日または3日の間隔で、3.5mLの培地を、所望の遺伝子治療ベクターで形質
導入したHIV 感染細胞を含むT25フラスコから抜き取った。この3.5mLからほぼ2
00μLをとり、逆転写酵素アッセイのために−80℃で凍結保存し、残りは捨てた
。抜き取った培地の分の新しい培地を添加した。研究期間の終わりに(29〜39日
)、3〜4日間隔で集めた、収穫された細胞の上清を融解させ、逆転写酵素アッ
セイを実施例10で記載したように行った。存在するRT活性のレベルは、各感染培
養物から培養上清中にこぼれ落ちた感染性HIV 粒子の量で測定した。これらの実
験結果を図26および27にまとめた。
図26のパネルAでは、各種の遺伝子治療ベクターを含むH9細胞から収穫された
培養上清のcpm/μLを、HIVNL4-3 感染後の日数に対してプロットしたものである
。HIV 感染はMOI =0.001で行った。白丸は、未感染のH9細胞(すなわち、RTア
ッセイの陰性対照)から収穫された培養上清を用いて得られた結果を表す。黒丸
は、HIV-1 に感染した遺伝子治療ベクターで形質導入していないH9細胞(すなわ
ち、陽性対照)から収穫された培養上清を用いて得られた結果を表す。白三角は
、pLSNnefベクターで形質導入し、HIV-1 に感染したH9細胞から収穫された培養
上清を用いて得られた結果を表す。黒三角は、pLSN-PAK140ベクターで形質導入
し、HIV-1 に感染したH9細胞から収穫された培養上清を用いて得られた結果を表
す。白四角は、pLCTSN-PAK140ベクターで形質導入し、HIV-1 に感染したH9細胞
から収穫された培養上清を用いて得られた結果を表す。黒四角は、pLGCTSN-PAK1
40 ベクターで形質導入し、HIV-1 に感染したH9細胞から収穫された培養上清を
用いて得られた結果を表す。
図26のパネルBでは、各種の遺伝子治療ベクターを含むAA2 細胞から収穫され
た培養上清のcpm/μLを、HIVNL4-3 感染後の日数に対してプロットしたものであ
る。HIV 感染はMOI =0.001で行った。白丸は、未感染のAA2 細胞(すなわち、R
Tアッセイの陰性対照)から収穫された培養上清を用いて得られた結果を表す。
黒丸は、HIV-1 に感染した遺伝子治療ベクターで形質導入していないAA2 細胞(
すなわち、陽性対照)から収穫された培養上清を用いて得られた結果を表す
。白三角は、pLSNnefベクターで形質導入し、HIV-1 に感染したAA2 細胞から収
穫された培養上清を用いて得られた結果を表す。黒三角は、pLSN-PAK140ベクタ
ーで形質導入し、HIV-1 に感染したAA2 細胞から収穫された培養上清を用いて得
られた結果を表す。白四角は、pLCTSN-PAK140ベクターで形質導入し、HIV-1 に
感染したAA2 細胞から収穫された培養上清を用いて得られた結果を表す。黒四角
は、pLGCTSN-PAK140 ベクターで形質導入し、HIV-1 に感染したAA2 細胞から収
穫された培養上清を用いて得られた結果を表す。
図27のパネルAでは、各種の遺伝子治療ベクターを含むH9細胞から収穫された
培養上清のcpm/μLを、HIVELI 感染後の日数に対してプロットしたものである。
HIV 感染はMOI =0.2で行った。白丸は、未感染のH9細胞(すなわち、RTアッセ
イの陰性対照)から収穫された培養上清を用いて得られた結果を表す。黒丸は、
HIV-1-ELI に感染した遺伝子治療ベクターで形質導入していないH9細胞(すなわ
ち、陽性対照)から収穫された培養上清を用いて得られた結果を表す。白三角は
、pLSNnefベクターで形質導入し、HIV-1-ELI に感染したH9細胞から収穫された
培養上清を用いて得られた結果を表す。黒三角は、pLSN-PAK140ベクターで形質
導入し、HIV-1-ELI に感染したH9細胞から収穫された培養上清を用いて得られた
結果を表す。白四角は、pLCTSN-PAK140ベクターで形質導入し、HIV-1-ELI に感
染したH9細胞から収穫された培養上清を用いて得られた結果を表す。黒四角は、
pLGCTSN-PAK140ベクターで形質導入し、HIV-1-ELI に感染したH9細胞から収穫さ
れた培養上清を用いて得られた結果を表す。
図27のパネルBでは、各種の遺伝子治療ベクターを含むH9細胞から収穫された
培養上清のcpm/μLを、HIV ROD感染後の日数に対してプロットしたものである。
HIV 感染はMOI =0.2で行った。白丸は、未感染のH9細胞(すなわち、RTアッセ
イの陰性対照)から収穫された培養上清を用いて得られた結果を表す。黒丸は、
HIV-2-RODに感染した遺伝子治療ベクターで形質導入していないH9細胞(すなわ
ち、陽性対照)から収穫された培養上清を用いて得られた結果を表す。白三角は
、pLSNnefベクターで形質導入し、HIV-2-RODに感染したH9細胞から収穫された培
養上清を用いて得られた結果を表す。黒三角は、pLSN-PAK140ベクターで形質導
入し、HIV-2-RODに感染したH9細胞から収穫された培養上清を用いて得られ
た結果を表す。白四角は、pLCTSN-PAK140ベクターで形質導入し、HIV-2-RODに感
染したH9細胞から収穫された培養上清を用いて得られた結果を表す。黒四角は、
pLGCTSN-PAK140ベクターで形質導入し、HIV-2-RODに感染したH9細胞から収穫さ
れた培養上清を用いて得られた結果を表す。
図26および図27より、pLGCTSN-PAK140ベクターが存在すると、HIV 感染からAA
2 細胞またはH9細胞が保護されることが証明された。これらの研究の結果から、
新規な抗HIV ベクターpLGCTSN-PAK140は、HIV-1 およびHIV-2 による感染を、40
日以上の長期間にわたって異なるヒトのCD4-リンパ球細胞系で、100%までブロ
ックできることが証明された。この実施例では、pLGCTSN-PAK140ベクターを含む
細胞のHIV による感染防御能を、従来のMLV ベクターであるpLSNを含む細胞の防
御能と比較した。pLSNは、PAK140配列を欠失している(すなわちpLSNnef)か、
またはこれを含んでいる(pLSN-PAK140)ベクターである。この結果から、pLGCT
SN-PAK140のなかに含まれるLTR中およびパッケージング(psi)領域中でのベク
ターのさらなる修飾は、H9細胞またはAA2 細胞がHIV-1NL4-3、HIV-IELIまたはHI
V-2 ROD のこれらの細胞への感染能に対して何の効果も持たないため、抗HIV効
果にとって決定的であるということが明確に証明された(図26および27を参照せ
よ)。このため、新規なTat誘導性LTR および延長されたパッケージング配列(
延長されたパッケージングシグナル)ならびにpLGCTSNベクター中に含まれるイ
ントロンが、成功する抗HIV 遺伝子治療を行う上で必要な特徴を提供する。
本発明は特別の理論に限定されるものではないが、pLGCTSN-PAK140の阻害効果
は転写レベルで生じるかもしれず、そこでは、Tatに対する競合がHIV の発現を
減少させるかもしれない。また、この阻害効果は、pLGCTSN-PAK140の転写がHIV
粒子中へのパッケージングについて競合するかもしれないため、ビリオンの組み
立てで生じるかもしれない。加えて、上記の実施例より、pLGCTSNベクターは、
従来のMLV ベクター(すなわちpLSN)を用いた場合と比較して、コードされた遺
伝子を高レベルで発現するということが証明された。さらに、pLGCTSNベクター
からの遺伝子の発現は、従来のMLV ベクター(すなわちpLSN)に含まれる遺伝子
の発現と比較してより安定である。
pLGCTSN-PAK140のRNA はHIV 粒子中にパッケージングされ得る。得られたキメ
ラ粒子(すなわち、HIV ウイルスの外被中にpLGCTSN-PAK140のRNA)はHIV 感染
細胞から放出され、非感染性である。これらのキメラ粒子は免疫原性であるかも
しれない(すなわち、HIV タンパク質に対して免疫応答を引き起こすことができ
る)。それゆえ、pLGCTSN-PAK140ベクターの使用は、HIV の遺伝子治療に有益な
はずである。HIV 感染患者から末梢血リンパ球またはCD34-細胞に富むリンパ球
を単離し、pLGCTSN-PAK140ウイルスで形質導入した。形質導入したリンパ球を、
その後患者に静注した。形質導入した細胞はHIV 感染に対して抵抗性を示すかも
しれず、すでに感染している場合には、形質導入した細胞はHIV の複製を抑制す
るかもしれない。遺伝子治療ベクターpLGCTSN-PAK140で形質導入したリンパ球の
わずかな部分が、HIV の細胞変性効果に起因するHIV 感染細胞を速やかに死滅さ
せるため、患者の体内に拡がるかもしれない。このため、本発明の新規な抗HIV
遺伝子治療ウイルスによるヒトリンパ球の形質導入が効率が悪くとも、これは、
HIV 遺伝子治療にとっては問題にならない。さらに、in vivoでのHIV の複製に
対する主要ではない影響が、長期間の患者における疾病の進行に対して大きな影
響を与えるかもしれない。
新規なpLGCTSN-PAK140ベクターを用いた上記の結果から、このベクターをCD4-
ヒト細胞系のHIV 感染をブロックするために用いることができることが証明され
た。この実施例で得られた結果から、pLGCTSN-PAK140遺伝子治療ベクターは、文
献で報告された他の抗HIV ベクター(Aguilar-Cordovaら(1995)Gene Therapy 2:4
81; Escaichら(1995)Human Gene Therapy,6:625; Leeら(1995)Gene Therapy 2:
377およびLoriら(1995)Gene Therapy 1:27)より優れていることが示された。
本発明の新規な抗HIV 遺伝子治療ベクター(例えば、pLGCTSN、pLGCTSN-PAK-1
40)を修飾して、他の抗HIV 遺伝子をこれらのベクター中に挿入することを可能
にし、これらのベクターを含んでいる細胞におけるHIV の複製をブロックする能
力に対して大きな効果を与えることを可能にするかもしれない。
上記の実施例から、新規なLTR と延長されたMuLVのパッケージング配列とを含
む、本発明の改良されたレトロウイルスベクターは、ウイルスRNA の効率的なパ
ッケージングと改良されたベクター中に挿入された遺伝子の、効率的で長期間の
発現を提供する。新規なLTR 中に見出された改良されたプロモーターは、挿入さ
れた遺伝子の発現をさせるためには、内部プロモーターの使用を必要とする。挿
入された遺伝子を高レベルで発現させることにより、遺伝子の発現、種々の細胞
系における細胞の系統(lineage)の研究が可能になる。種々のヒト細胞型にお
ける改良されたプロモーターの機能は、種々の細胞系および組織に遺伝子を送達
するために、これらのプロモーターを含むベクターを理想的なものとする。新規
なLTR およびHIV-1 のパッケージング配列を含むベクターは、抗HIV 遺伝子を送
達する改良された手段を提供する。本発明のベクター中の新規なHIV-1 パッケー
ジング配列の存在は、HIV による感染から細胞を保護する手段を提供する。
Claims (1)
- 【特許請求の範囲】 1.ヒト免疫不全ウイルス1のTatタンパク質により活性化される組換えモロ ニーマウス白血病ウイルスロングターミナルリピートであって、ヒト細胞におい て野生型モロニーマウス白血病ウイルスロングターミナルリピートと比べて増強 されたプロモーター活性を有する、前記の組換えロングターミナルリピート。 2.前記のロングターミナルリピートが、該ロングターミナルリピートのU3領 域にあるモロニーマウス白血病ウイルスプロモーター要素の代わりに、ヒトサイ トメガロウイルスの即時型エンハンサー/プロモーターとHIV−1のTATA およびTAR要素を含有する、請求項1に記載の組換えロングターミナルリピー ト。 3.配列番号17に示した配列を有する、請求項2に記載の組換えロングターミ ナルリピート。 4.前記のロングターミナルリピートがベクター上に含まれる、請求項1に記載 の組換えロングターミナルリピート。 5.前記のロングターミナルリピートを含有するベクターが宿主細胞内に含まれ る、請求項4に記載の組換えロングターミナルリピート。 6.前記の宿主細胞が細菌宿主細胞である、請求項5に記載の宿主細胞。 7.前記の宿主細胞がヒト細胞である、請求項5に記載の宿主細胞。 8.前記のベクターが組換えマウスアンホトロピックレトロウイルスベクターで あり、該レトロウイルスベクターが機能しうる順序で、 a)第1ロングターミナルリピート; b)該第1ロングターミナルリピートに結合されたパッケージングシグナル ;および c)該パッケージングシグナルに結合された第2ロングターミナルリピート ; を含有する、請求項4に記載の組換えロングターミナルリピート。 9.前記のベクターが選択マーカー遺伝子をコードするヌクレオチド配列を有す るオリゴヌクレオチドをさらに含有し、該選択マーカー遺伝子が前記のパッケー ジングシグナルと前記の第2ロングターミナルリピートの間に機能しうる状態で 連結されている、請求項6に記載の組換えロングターミナルリピート。 10.前記の選択マーカー遺伝子が優性選択マーカー遺伝子である、請求項7に記 載の組換えロングターミナルリピート 11.前記の優性選択マーカー遺伝子がネオマイシンホスホリボシルトランスフェ ラーゼ遺伝子である、請求項8に記載の組換えロングターミナルリピート。 12.前記のベクターがpLCTSNを含む、請求項9に記載の組換えロングター ミナルリピート。 13.前記のパッケージングシグナルが延長されたモロニーマウス白血病ウイルス パッケージングシグナルを含み、該延長パッケージングシグナルが前記の組換え ベクターのパッケージング効率を向上させる、請求項6に記載の組換えロングタ ーミナルリピート。 14.前記のベクターがpLGCTSNを含む、請求項11に記載の組換えロング ターミナルリピート。 15.前記のパッケージングシグナルがヒト免疫不全ウイルスパッケージングシグ ナルを含む、請求項6に記載の組換えロングターミナルリピート。 16.前記のヒト免疫不全ウイルスパッケージングシグナルが配列番号10に示し た配列からなる、請求項13に記載の組換えレトロウイルスベクター。 17.前記のヒト免疫不全ウイルスパッケージングシグナルが配列番号11に示し た配列からなる、請求項13に記載の組換えレトロウイルスベクター。 18.機能しうる順序で次の要素: a)第1ロングターミナルリピート; b)該第1ロングターミナルリピートに結合されたパッケージングシグナル ; c)該パッケージングシグナルに結合されたポリリンカー;および d)該ポリリンカーに結合された配列番号17に示した配列からなる第2ロ ングターミナルリピート; を含有する、組換えマウスアンホトロピックレトロウイルスベクター。 19.前記のポリリンカーに挿入された選択マーカーをさらに含有する、請求項1 6に記載の組換えベクター。 20.前記の選択マーカーが優性選択マーカーである、請求項17に記載の組換え ベクター。 21.前記の優性選択マーカーがネオマイシンホスホリボシルトランスフェラーゼ 遺伝子である、請求項18に記載の組換えベクター。 22.前記のパッケージングシグナルが延長されたモロニーマウス白血病ウイルス パッケージングシグナルを含む、請求項16に記載の組換えベクター。 23.前記のパッケージングシグナルがヒト免疫不全ウイルス1由来のパッケージ ングシグナルを含む、請求項18に記載の組換えベクター。 24.前記のパッケージングシグナルが配列番号10からなる、請求項21に記載 の組換えベクター。 25.前記のパッケージングシグナルが配列番号11からなる、請求項21に記載 の組換えベクター。 26.組換えレトロウイルスベクターpLLL。 27.ヒト細胞系において遺伝子を発現させる方法であって、 a)i)ヒト細胞系;および ii)配列番号17の組換えロングターミナルリピートおよび対象の遺伝 子を含有するレトロウイルスベクター; を用意し、そして b)対象の遺伝子の発現を可能にする条件下で該ヒト細胞系に該レトロウイ ルスベクターを導入する、 ことを含んでなる前記の方法。 28.前記のベクターが選択マーカーをさらに含有する、請求項27に記載の方法 。 29.前記の選択マーカーが優性選択マーカーである、請求項28に記載の方法。 30.前記の優性選択マーカーがネオマイシンホスホリボシルトランスフェラーゼ 遺伝子である、請求項29に記載の方法。 31.c)前記の選択マーカーを発現するヒト細胞のみを増殖させる条件に前記の ヒト細胞系をさらす、 工程をさらに含んでなる、請求項27に記載の方法。 32.前記の条件が選択培地を含む、請求項31に記載の方法。 33.前記の選択培地が抗生物質G418を含有する、請求項32に記載の方法。
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