【発明の詳細な説明】
ライグラス花粉アレルゲンのT細胞エピトープ
本発明は、ライグラスの免疫優性(immunodominant)T細胞エピトープ、その最
小配列、枯草熱におけるその役割、及び枯草熱の治療又は予防用の薬剤の製造へ
のその使用に関する。
以下で使用するアミノ酸残基の記号は、IUPAC-IUB 生化学命名会議によって特
定されたものであり、全てD又はL−アミノ酸又はその類縁体若しくは誘導体を
含む。記号Xは、未特定のアミノ酸又はその類縁体を意味する。
ヨーロッパにおける枯草熱の主要な原因の一つは、ライグラス(Lolium peren
ne)の花粉であり、普通の花粉である。ライグラス花粉からの幾つかの蛋白質が
単離されており、これらの蛋白質の内、3種類に対する完全なアミノ酸配列(Lo
l pI、Lol pII 及びLol pIII)が公表されている。
Lolium perenne(L.perenne)の主要な画分は、Lol pIという、240個のア
ミノ酸残基の糖蛋白質であることが分かり、草花粉に敏感なヨーロッパの殆ど(
約80%)の枯草熱患者は、この蛋白質に対する特定のIgE抗体を有する。Lo
l pIの完全な配列は公表されており、Lol pIの免疫源性の決定基を含む14個の
連続するアミノ酸残基のポリペプチド配列があることが示唆されている(Bungyら
、Clin Exp Immunol 1993, 94, 111-116)。インビボによる皮内試験をすると、
このようなポリペプチドは、アトピー性ライグラス感受性患者において、24〜
48時間後に、典型的な遅延型の過敏性を示し得る。現在の指針は、鼻に限定さ
れるアレルギー症状(例えば、枯草熱の症状)は、特に、枯草熱が従来の薬剤に
よってコントロールできないような場合には、免疫治療によって処置すべきであ
ることを示唆している。また、花粉喘息を有する患者は、潜在的な副作用のため
に、かかる処置から排除されるべきことが示唆されている。
天然の花粉を使用して患者の感受性を低下させる免疫治療は、感作剤の全てが
潜在的に、気管支痙攣や、アナフィラキー、更には死のような重いアレルギー反
応を誘発する可能性があるという不利益を有する。
アレルゲンの全抽出物を増大させながら注射する計画を使用する枯草熱に対す
る臨床的減感作は、症状を緩和するけれども、治療効果のあるものではない。し
かしながら、全抽出物は、アナフィラキーショック、更には死に至らしめ得るI
gE結合部位を含有する。薬学的処置は、温和な症状を回復させることができる
が、重篤な場合、特に、喘息を伴う場合の免疫的な「治療」はない。
これらの問題を克服する方法の一つは、最初は、より効果的なもので、2番目
は、遙に安全なものとなる、ワクチン用の変性アレルゲンの開発である。
安全かつ効果的なワクチンが利用できれば、大変重要な一群の患者に治療法を
適用できる。
T細胞のエピトープを含有する酵素消化物の減感作の研究は、花粉に対するア
レルギー応答を、動物及びヒトの両者において減少できることを示唆する(上記
Bungy ら)。もし免疫決定T細胞エピトープをライ又は他の草のような主要なア
レルゲンに対してアレルギーを有する患者において、局部的又は全身的にアネル
ギー又は特定のT細胞非応答性を誘導するのに使用することができるならば、潜
在的かつ臨床的な利益がある。
枯草熱の症状は、細胞から細胞外空間へ血管活性アミン媒介物(例えば、ヒス
タミン)を放出させる特定のリンパ球による活性化によって引き起こされる。ア
レルギー反応を媒介するIgE抗体の役割(例えば、枯草熱におけるもの)は、
周知である。
T細胞をトリガーする能力を利用すると、このB細胞エピトープとT細胞エピ
トープを組み合わせることにより、B細胞エピトープに対する抗体を製造するこ
とができる。このような抗体を使用して、アレルゲンに対するIgE介在応答を
阻害することができる(例えば、細胞に対するIgEの結合の阻害)。
IgEは、ジスルフィド結合により結合した2本の軽ポリペプチド鎖と2本の
重ポリペプチド鎖を有する。重鎖は1個の可変ドメイン(VH)と4個の定常ド
メイン(CΣ1、CΣ2、CΣ3及びCΣ4としても知られる、CH1、CH2、
CH3及びCH4)を有する。重鎖の部分を含むIgEの領域はFc領域として知
られている。
Stanworth ら(WO 90/15778,その内容はここに引用されたものとする。)が記
載しているように、ヒスタミン放出をもたらす免疫学的シグナルを与えると考え
られるIgEFc領域内の“エフェクター”部位の性質を定義するために、様々
な研究が行われている。モデルヒスタミン放出ポリペプチドについて、構造−活
性研究が行われており、塩基性アミノ酸のクラスターが、ヒスタミン放出の直接
トリガリングに必須であることが示されている。さらに、隣接する疎水性残基の
存在と、そのC−末端カルボン酸残基のアミド化が、ヒスタミン放出のトリガリ
ングを高くすることが見出されている。
上記の観察に基づいて、その構造が明確になっているヒトIgEのFc領域に
ついて、この規準を満たすアミノ酸残基配列が研究された。CΣ4ドメインの残
基496−506:RKTKGSGFFVF(SEQ ID:1)のアミノ酸残
基配列がこの規準を最もよく満たすもののように思われた。
WO 90/15778 には、ある種の免疫活性ペプチドと抗体、並びにこれらをアレル
ギーの処置に使用して、ヒスタミンの放出のトリガリングを阻害することが記載
されている。このStanworth 出願には、カチオン性N−末端頭部と疎水性C−末
端尾部を含むヒスタミン放出ペプチドの残基と、該ペプチドに対する抗体を誘導
するが該ペプチドによるヒスタミンの放出を阻害することができる残基とを含む
免疫原が抗アレルギー処置に有効であることが記載されている。好ましくは、こ
のヒスタミン放出ペプチドは、式:KTKGSGFFVF(SEQ ID:2)
を有するものであり、任意にC−末端がアミド化されていてもよい。このヒスタ
ミン放出ペプチドに対する抗体は、受動免疫に使用される。
本発明は、花粉症を持つアトピー性患者のT細胞刺激活性を有する免疫優性9
量体ポリペプチドである、ライグラスの最小T細胞エピトープを提供するもので
ある。この免疫優性9量体(9−mer)は、各種タンパク質Lol pI、L
ol pII及びLol pIIIのいずれかまたは幾つかに特異的に感受性の
T細胞を刺激することができる。
本発明は、9個のアミノ酸残基を有し、6個のアミノ酸配列 VXRIDT(
SEQ ID:3)を含むポリペプチドを提供するものである。この配列VXR
IDTはT細胞エピトープモチーフとも呼ばれる。
本発明はまた、配列XVXRIDTXX(SEQ ID:4)の9個のアミノ
酸残基を有するポリペプチドを提供するものである。
さらに本発明は、そのアミノ酸残基の0、1または2個が他のアミノ酸残基に
置換された、配列AVWRIDTPD(SEQ ID:5)またはVWRIDT
PDK(SEQ ID:6)の9個のアミノ酸残基からなる配列を有するポリペ
プチドを提供するものである。
本発明の9個のアミノ酸残基を有するポリペプチドは、ハプテン(例えば、ホ
スホリルコリンまたは2,4ジニトロフェニル)または薬理学的に許容される担
体または両者に結合することができ;結合は直接的に、またはポリペプチドや炭
化水素のようなスペーサーにより間接的に行われ、あるいは同時に投与すること
もできる。従って、本発明は、薬理学的に許容される担体と、T細胞エピトープ
モチーフVXRIDTを有する9個のアミノ酸残基、または配列XVXRIDT
XXの9個のアミノ酸残基、またはそのアミノ酸残基の0、1または2個が他の
アミノ酸残基に置換された、配列AVWRIDTPDまたはVWRIDTPDK
の9個のアミノ酸残基からなる配列を有するポリペプチドを含む複合体を提供す
るものである。さらに本発明は、本発明の9個のアミノ酸ポリペプチドに特異的
な抗体ドメインを有するリガンドを提供するものである。この抗体ドメインは、
その、モノ−またはポリクローナル、または抗原結合性断片であり得る。
本発明の免疫優性ポリペプチド9量体はT細胞活性化の誘導に使用してもよい
。これは次にT細胞の抗体に対する応答を、アネルギー(無作動)、減少または
喪失させることができる。
第2の観点において、本発明は、カチオン性N末端頭部及び疎水性C末端尾部
を含むヒスタミン放出残基を、このペプチドに対する抗体を誘導し得る残基と、
上述したポリペプチド9量体と共に含む免疫源を提供する。
この第2の観点における本発明の目的は、ライグラスの花粉に対して感受性で
ある個体において、免疫源に対する抗体の産生を誘導することである。
本発明は、配列KTKを有するカチオン性N末端頭部及び配列FFを有する疎
水性C末端尾部を含むヒスタミン放出ペプチド残基を含む免疫源を含むことがで
きる。上記C末端はアミド化によりブロックされていてもよい。上記N末端頭部
はC末端尾部から、主に非極性及び非疎水性のアミノ酸残基2〜6により、分離
していてもよい(例えばGSG)。
本発明は、上述した9つのアミノ酸残基を有するポリペプチドと共に、ペプチ
ド配列KTKGSGFFVFを含む免疫源を提供することができ、ポリペプチド
9量体は免疫源と直接複合しているか、または、例えばポリペプチド若しくは炭
化水素のようなスペーサーを介して、間接的に結合しているか、またはポリペプ
チド9量体は免疫源と共に投与されてもよい。
本発明は、配列KTKGSGFFVFを有するヒスタミン放出ポリペプチド残
基、及び配列AVWRIDTPDを有するT細胞エピトープポリペプチドの両方
を含む免疫源を提供することが好ましく、これらは、直接複合しているか、また
は、例えばポリペプチド若しくは炭化水素のようなスペーサーを介して、間接的
に結合しているか、またはポリペプチド9量体は免疫源と共に投与されてもよい
。C末端はアミド化によりブロックされていることが好ましい。
第3の観点において、本発明は、上記の本発明化合物及び免疫源を、特にライ
グラスアレルギーまたは花粉症といったアレルギーの処置または予防用薬剤の製
造に使用する方法を提供する。
第4の観点において、本発明は、上記化合物または免疫源の有効量を投与する
ことによる、特にライグラスアレルギーまたは花粉症といったアレルギーの処置
または予防の方法を提供する。
本発明に従い製造された薬剤は、当業者に既に知られているどのような投与方
法によって患者に投与してもよい。
第5の観点において、本発明は、ライグラスアレルギーに対する感受性のアッ
セイ、即ち花粉症を患っているかどうかの測定を提供する。このようなアッセイ
において、末梢血単核細胞(PBMCs)は免疫優性9量体T細胞エピトープの
存在下培養されてもよく、リンパ球活性化は、決定要素としてチミジン取り込み
(incorporation)を用いて測定してもよい。ライグラスの主たる抗体のいずれか
に対してアレルギーである被験者の細胞は反応することが予想される。
第6の観点において、本発明は、Lol pIのような、ライグラスアレルギーに対
して感受性である、特異的T細胞個体群のアッセイを提供するものであり、アッ
セイは、上記に述べた9量体に対する反応を試験し、反応するT細胞を選択して
かつそれからT細胞系を形成し、及びそれから9量体に対して特異性を有するT
細胞クローンのクローニングをすることにより行われる。
図を参照して本発明をさらに具体的に説明する。
図1は、Lol pIに対するアトピー患者(コード名AS3)の末梢血単核細胞応
答を示す。
図2は、20ペプチドプールに対するPBMC応答を示す。
図3は、免疫優性プール17の解読を示す。
図4は、プール17のペプチドに対する投与量応答曲線を示す。
図5は、9量体に対するアトピー患者AS3のPBMC応答を示す。
図6は、Lol pIに対するT細胞系特異性を示す。
図7は、9量体ペプチドに対するT細胞系及びPBMC応答の比較を示す。
図8は、14アミノ酸ポリペプチドの各アミノ酸残基が、Lol pIのT細胞エピ
トープが個々にリジンに置換されていると思われるとき、リジン置換の結果を示
す。
図9は、14アミノ酸ポリペプチドの各アミノ酸残基が、Lol pIのT細胞エピ
トープが個々にグリシンに置換されていると思われるとき、グリシン置換の結果
を示す。
ドームラボラトリー(ストークコート、英国)から提供されたライグラス(ペ
レニアルライグラス)花粉抽出物を、33%アンモニウムスルフェート沈殿物に供
した。上澄みをリン酸緩衝食塩水(PBS)に対して透析した。透析したサンプ
ルを、ゲル濾過カラムスパロース12上でタンパク質分離するためにFPLC(
高速タンパク質液体クロマトグラフィー)(ファルマシア、LKB、スウェーデ
ン)に注入し、画分0.3 mLを捕集した。ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)ポ
リアクリルアミド−ゲル電気泳動(PAGE)を、垂直スラブ−ゲル装置(バイ
オ−ラド、リッチモンド、CA)上で行った。15%勾配アクリルアミドゲルをこ
の研究に使用して、180 Vで12時間行った。アレルゲンの見掛けの分子量を、前
染色したタンパク質標準を使用して概算した。
Lol pIのイソ−アレルゲン(iso-allergen)クローン5Aは、240のアミノ酸か
らなる。Lol pIのイソ−アレルゲンクローン5Aの全長に及ぶ、一組の115重複
した12量体ペプチドを、T細胞決定子を迅速にマッピングすることができるマル
チ−ピンを使用して、ポリエチレンロッド(pins)上で合成した。全部のペプチ
ドをN末端でアセチル化し、かつ、ピンから離れた結果、C末端ジケトピペラジ
ン(DKP)基を有した。
β−アラニン残基を取り込んで、DKP基からの限定した配列にスペースをい
れた。Maeji らの方法により、0.1 Mリン酸緩衝溶液(pH7)を、4時間室温
で使用してペプチドを固相から離した。プール−1及び15(5ペプチド)及び
ペプチド−20(3ペプチド)を除く、6つの連続したペプチドの組をプールし
た。それにより、20ペプチドプールをエピトープマッピングに使用した。プー
ル−17において全てのペプチドを含む、選択したペプチドの純度を、逆相HP
LC分析により確定し、アミノ酸組成をアミノ酸分析により検討した。
各被検者からの血液100 mLを、防腐剤フリーヘパリン中に捕集した。ヘパリ
ンで凝血防止した静脈血を、RPMI 1640で1対1に希釈し、リンパプレップ(Lymp
hoprep)(ニコメド、オスロ、ノルウェー)上に層状に積み重ねた。勾配を400g
において、25分間、室温下で遠心分離した。単核細胞を捕集して、RPMI1640(ギ
フコ、グランドアイランド、ニューヨーク、米国)中で2回洗浄し、次に、10%
ヒトAB−血清(ICNフロー、バックス、英国)、2mMの1−グルタミン及
び20μg/mLゲンタマイシン(ギフコ、グランドアイランド、ニューヨーク、
米国)で補ったRPMI中で2×106 cells/mLの濃度で再懸濁した。ウェル当た
り2×105の濃度で、U底96−ウェルミクロ滴定プレートにおいて0.2mLの完全
培地で細胞を培養した。
精製したLol pI又はペレニアルライグラス抽出物(LPE)を、濃度範囲で添
加し、PPD又はCon−Aを陽性コントロールとして使用した。培養物を37℃
において、空気中に5%CO2 を含有する、加湿雰囲気中でインキュベートした
。5〜6日後、0.4 μCi/well[メチル−3H] TdR(アメルシャム、英国)を添
加し、6〜18時間後、細胞をタイターテックガラス−繊維紙(ICNフロー、バ
ックス、英国)上で捕集した。DNAへの3H−チミジン組み込みを、液体シンチ
レーション(ナショナルダイアグノスチックス、アトランタ、米国)カウンター
(ミナキシートリス−カーブ4000シリーズ、パッカード)により測定した。
いかなるペプチドに特異的なT細胞の前駆体頻度(precursor frequncy)が非常
に低いので、各ペプチドが1μg/mlである最終濃度で20個のペプチドプール
の各々に対して、12- 24個の複製培地を用いた。ペプチドの20個のプールをスク
リーニングした。各プールは、6つがオーバーラップしているペプチドを含有し
ており(例外を上述した)、出発(N末端)残基の2つのアミノ酸だけが異なっ
ている一連のペプチドを有している。各複製物のチミジン取込みを、別個に測定
した。
FPLCによるライグラス抽出物の精製により、2つのピークを得た(ピーク
1及び2)。プロテイン染色に次いで還元条件下でのL.perenne抽出物の電気泳
動により、ピーク1の分子量が約31 kDaであり、その位置が高度に精製したLol
pIと等価であることがわかった。その他のピークは、分子量が11 kDaである、Lo
l pII及びLol pIIIの混合物であると同定した。
ヒト末梢血単核細胞のL.perenneの主な精製フラクション(Lol pI)への増殖
応答性を見出した(図1)。実験の範囲のこの投与により、アレルゲン及び抗原
で見られる、リンパ球活性化の典型的なベル型の投与応答曲線を示している。ト
リチウム化チミジンのピーク取込みは、精製したLol pIの10μg/mlで見られ
る。これは、アトピー患者のライグラスタンパク質の主なフラクションに対する
リンパ球反応性の証拠である。アトピー患者は、予期されるように、Lol pI及び
LPEの双方に応答する。非アトピー患者は、Lol pIに応答しないが、LPEで少なか
らず刺激をうける。
ペプチドの20個のプール内のT細胞エピトープの存在を、6人のライグラス感
受性患者及び7人の非アトピーのコントロール患者のPBMCについてのインビ
トロ(in vitro)増殖テストにより調べた。6人のうち5人がプール17に応答し
たが、患者Bはプール15及びプール19に反応した。また、患者Eはプール6に応
答し、患者Fはプール13に応答した。プール17は、免疫優性エピトープを明確に
含んでいた。非アトピー患者は、20個のペプチドプールのどれにも応答しなかっ
た。アトピー患者に、クラスIIMHC(主要組織適合性複合体)ドクター制限(
Dr restriction)はなかった。
Lol pIの全長にわたる、20個の異なるペプチドプールに正の増殖応答を示す末
梢血単核細胞を含むウェルの数を、図2に示す。各プールは、2つの残基で差替
えられており、6個(1、15及び20を除く)がオーバーラップする12量体(12-m
er)ペプチドからなっており、よってタンパク質配列の22残基にわたっており、
各患者からの12個の同じ培地に対してテストした。これらのデータは、プール17
を、ライグラスの主なエピトープを含むものとして同定している。応答するウェ
ルの数に関して重要な切捨て(cut-off)は、ポワソン分布に基づく統計学的手法
により決定した。この例において、プール17は、試験する他のプールすべてと、
統計学的に異なっている。さらに、他のアトピー患者からのデータにより、プー
ル17が免疫優性であることを確認した。上述のように、プール17は、試験する他
のプールすべてと、統計学的に異なっている。さらに、他のアトピー患者からの
データにより、プール17が免疫優性であることを確認した。上述のように、プー
ル17は、22個のアミノ酸のスパンをカバーする6個がオーバーラップするペプチ
ドからなっている。
プール17を免疫優性プールとして同定したので、それが含んでいるペプチドの
各々を別々に試験した。実験から、プール17のペプチド3及び4がインビトロで
主な刺激性ペプチドであることがわかった(図3)。Lol pI (3)の活性ポリペプ
チドは、139WGAVWRIDTPDK204(配列番号:9)及び(4) 195AVWRIDTPDKLT206(配
列番号:10)であり、各々は、すべてのプールと同じように、リンパ球増殖アッ
セイに活性であった。
多くの複製物を任意の抗原でテストしたとき、正のウェルが通常分布していな
いことが明確である。これは、複製ウェルの中で、T細胞に特異な抗原が数少な
くランダム分布しているためである。この理由により、通常の分布データに基づ
く統計学的手法ではなく、ポワソンモデルを用いて増殖データを処理しなければ
ならなかった。非応答性ウェルは通常分布しており、ゆえに正又は負としてウェ
ルを数えるために、平均+/−3SDを切捨てとして勘定していた。上記のカウ
ントで、平均及び3つの標準偏差を正とみなしている。
プール17において、6個のペプチドのうち2個のみが刺激活性を有していた
。この異なるプール17ペプチドの活性又は活性の不在は、投与量に関係付ける
ことが可能なものであり、これにより投与応答曲線を作成した。
ある濃度範囲のa)プール17、b)プール17のペプチド4及びc)プール
8(非刺激性ペプチドプール)を用いて、PBMCを温置した。カルチャー中の
細胞を6日後に採集した。
プール17のペプチド4の投与応答はプール17全体と同等であったが、プー
ル8は、ペプチドの濃度が100倍であってもリンパ球を刺激することに関して
なお不活性であった。
従って、非刺激性プール(プール8)が高濃度においてもなお不活性であるこ
とから、プール17が支配的であると認められるのは、最終濃度に起因するもの
ではない。
アトピー症患者(AS3)から採取したPBMCを使用して、1個の残基によ
る8個のオーバーラップする9量体ペプチドオフセットをスクリーニングした。
各ペプチドに対し、インビトロ増殖試験により、最小T細胞エピトープの存在を
調べた。各同型のチミジン導入を、別個に測定した。
図5は、Lol pIの免疫優勢な(immunodominant)エピトープの全長にわ
たる9量体ペプチドの各ペプチドに対して陽性の増殖反応を与える、ライグラス
感受性患者(AS3)から採取した末梢血単核細胞を含むウェルの百分率を表す
。
驚くべきことに、図5に示すように、連鎖(5)AVWRIDTPDの9アミ
ノ酸残基ポリペプチドが、2個の連続する免疫優勢なポリペプチドの長さにわた
る9、10、11、12、13及び14アミノ酸残基ポリペプチドの中で、最も
活性であることが見いだされた。また、連鎖(6)VWRIDTPDKの9アミ
ノ酸残基ポリペプチドも、活性であることが見いだされた。更に驚くべきことに
、これら6個のアミノ酸残基が、ポリペプチドが免疫優勢であるか否かを決定す
る際に最も重要であることも見いだされた。
9量体ペプチドに対するPBMCの応答から得られたデータを補足するために
、9量体ペプチドに対するT細胞線の応答を調べた。
次のようにして、Lol pI特異性T細胞線を得た。即ち、免疫優勢なT細
胞エピトープに対し活性な患者AS3から採取した、1ml当たり0.5×106個
のPBMCを、2mMのL−グルタミン、5×10-5Mの2−メルカプトエタノ
ール、20μg/mlのゲンタマイシン、及び10%のヒトAB血清を補充し
たPRMI1640によるLol pI溶液(10μg/ml)により、24個
のウェルを有する平底培養プレート中で5日間刺激した。次いで、ヒト組換えI
L−2(hrIL−2)(25単位/ml)を添加し、更に7日間カルチャー中
に保持した。目視できるT細胞の芽細胞を次いでフィコル−ハイペーク(Hypaqu
e)密度勾配により分離し、T細胞線のLol pI特異性を検定した。IL−
2及びLol pIを用いた刺激により生成したT細胞線の特異性を調べた。5
×104個のT細胞線細胞を、5×104個の被照射のオートロガス抗原提供細胞
(APC)及び1、5及び10μg/mlのLol pIの存在下、重複する2
00μlのカルチャー中で、96個のウェルを有する丸底ミクロタイタープレー
トを用いて3日間37℃で、二酸化炭素5%の加湿雰囲気中で温置し、次いで0.
4μCi/ウェルの3H−チミジンを用いてパルスした。シンチレーション計測
により、放射性核種の取込みを測定した。図6に示すように、1μg/ml〜1
0μg/mlのLol pIの投与応答を用いることにより、このT細胞線がL
ol pIに関して特異的であることが明らかとなった。T細胞線(T)と被照射
のAPC* (A)の和は、比較の低バックグラウンド計数を与える。
5×104のT細胞系を、重複する200μlのカルチャー中において、被照
射のオートロガスAPCと9量体(9-mers)の個々の単一ペプチド7.5μg/ウェ
ルの存在下において、96個のウェルを有する丸底ミクロタイタープレートにおい
て3日間37℃で、二酸化炭素5%の加湿雰囲気中でインキュベートし、次いで
、0.4μCi/ウェルの3H−チミジンを用いて一晩中パルスした。放射性核種
の取込みを、シンチレーション計測により測定した。2種のペプチド(5)及び(6)
は、明らかに、アトピー症患者からのT細胞系を興奮させる際に、他のペプチド
より活性的なものである。
PBMC及びT細胞系の応答の比較(図7)から、T細胞系及びPBMCが同
様に応答することが分かる。
従来から知られている14量体(14-mer)のペプチドにおける実験を、他のアミ
ノ酸で置換することができるT細胞エピトープの最小配列の部分を確認するため
に行った。図8においては、単一リシン(K)置換を有する、一連の14量体のペ
プチドについての結果、また、図9においては単一グリシン(G)置換を有する一
連のものについての結果を示す。活性についての損失及び減少を引き起こす位置
での置換により、その位置での通常のアミノ酸が、重要であり又は本質的なもの
であることが示される。対象的に、数種のポイントでの数種の置換は、応答につ
いての効果がほとんど又は全くない。この情報から、T細胞エピトープのモチー
フVXRIDTを含む、9つのアミノ酸残基のポリペプチド、又は配列XVXRIDTXX 又は
配列AVWRIDTPD 若しくはVWRIDTPDK を有する9つのアミノ酸残基(その中におい
て、0、1又は2個のアミノ酸残基が、任意の他のアミノ酸残基により置換され
ている)は、ライグラスの共通免疫優性T細胞エピトープである。ライグラスに
おける共通のエピトープモチーフの存在は、明らかなものではなかった。また、
その確認の臨床的意義は非常に高い。植物アレルギーの他の領域(例えば、ラグ
ウイードアレルギー)においては、今までは、タンパクを含む種々の主要なアレ
ルギーの全てについて共通のエピトープを特徴付けることは不可能であった。
免疫学の当業者にとっては、ライグラスについてのT細胞エピトープモチーフ
及び免疫優性T細胞エピトープの意外な特徴付けにより、従来は不可能であった
、ライグラスのアレルゲンに対する免疫応答の分子環境(molecular environment
)の詳細な分析が可能になることは明らかであろう。具体的には、そのモチーフ
及びエピトープのモデルを、構造及び活性化の間の関係の決定のためにポリペプ
チドの型及び配置、帯電(charge)の立体分布、分子の立体拘束(steric constrai
nt)のレベルを決定するためにつくることができる。そのような情報により、当
業者が、化学式は異なるが、本質的に同一又は類似の機能活性を示すであろう、
モチーフ及びエピトープのアナログ又はミネティックス(mimetics)を造ることで
きると予知される。例えば、幾つかの又は全てのアミノ酸残基は、当量の非−ア
ミノ酸成分により置き換えることができる。本発明は、そのような機能的に活性
のアナログ又はミネティックT細胞エピトープ又はモチーフ当量(equivalent)を
カバーすべきことが意図される。
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(51)Int.Cl.6 識別記号 FI
C07K 7/06 G01N 33/53 D
7/08 A61K 37/02 ABM
G01N 33/53 ABF
AED
(81)指定国 EP(AT,BE,CH,DE,
DK,ES,FR,GB,GR,IE,IT,LU,M
C,NL,PT,SE),OA(BF,BJ,CF,CG
,CI,CM,GA,GN,ML,MR,NE,SN,
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(72)発明者 ブンギー アリ ゴーラム
イギリス ロンドン ダブリュー1ピー
9ピージー トーテナム ストリート 40
−50 アーサー スタンリー ハウス メ
ディカル スクール ユニヴァーシティー
カレッジ ロンドン デパートメント
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