【発明の詳細な説明】
不飽和C3−C5カルボン酸エステルの色を安定化するためのホスフィン酸または
有機ホスホン酸の使用
発明の分野
本発明は、重合禁止された3〜5個の炭素原子を有する不飽和カルボン酸エス
テルの色を安定化するためのホスフィン酸もしくは有機ホスホン酸またはそれら
の混合物の使用、およびホスフィン酸もしくは有機ホスホン酸またはそれらの混
合物を添加することによって色の安定した多価アルコールの(メタ)アクリル酸
エステルの製造のための方法に関する。
従来技術
3〜5個の炭素原子を有する不飽和カルボン酸、例えばアクリル酸、メタクリ
ル酸またはマレイン酸のエステルは、さまざまな用途、とりわけ重合産業におい
て使用される。不飽和カルボン酸エステルは、一般に触媒存在下で、望まない重
合が起こる危険性がある故に重合禁止剤の存在下でのエステル化によって製造さ
れる。
このように製造されるメタクリル酸またはアクリル酸[以下(メタ)アクリル
酸として記載]の多価アルコール、いわゆるポリオールとのエステルも既知であ
る。
問題のタイプのエステルは、例えば、DE−A1 29 13 218に記載さ
れるように、適した触媒および禁止剤の存在下で、例えばトルエンおよび/また
はキシレンのような共留剤の存在下で、多価アルコールの(メタ)アクリル酸と
のエステル化によって製造される。
溶媒を使用しないこれらの多官能性(メタ)アクリル酸の製造方法も既知であ
り、例えば、DE−A1 38 43 854、38 43 938、38 43 9
30、38 43 843および39 39 163に記載されている。
ポリオールメタクリル酸エステルの製造において、エステル化を、禁止剤、特
に2,5−ジtert.ブチルヒドロキノンタイプの禁止剤の存在下で行うと、淡色の
反応生成物が得られるが、これらの反応生成物の色が、長期の貯蔵、特に暗所で
の貯蔵では、濃くなるという問題が生じる。その生成物に光を再照射すると、そ
の色は徐々に淡くなる。この色の変化は何度も起こり得る。このような貯蔵に誘
発される色不安定性は、多くの用途、例えばペイントおよびラッカーにおける反
応性物質の使用に望ましくない。
この問題は、初期に理解され、活性炭素の存在下でエステル化することによっ
て解決する試みがDE−A1 38 43 938ですら行われた。DE−A1 4
0 19 788の教示によれば、いくらかの残っている変色を、適した酸化アル
ミニウムによる処理によって除去できる。しかしながら、可視の顔料だけを記載
の方法で除去できる故に、色不安定性の問題は、この方法によって克服されず、
その後の変色の原因となる物質は、明らかに混合物中に残る。
本発明が解決しようとする課題は、特に暗所で貯蔵しても、色が安定なままで
ある淡色生成物を製造できるポリオールメタクリレートを処理するための方法を
提供することであった。
暗所での貯蔵の間の色および色安定性は、反応の間におよび/または反応後に
得られたエステルに、ホスフィン酸H3PO2または有機ホスホン酸を添加するこ
とによって改良されることが見い出された。
発明の説明
本発明は、重合禁止された3〜5個の炭素原子を有する不飽和カルボン酸エス
テルの色を安定化するためのホスフィン酸もしくは有機ホスホン酸またはそれら
の混合物の使用に関する。
本発明は、酸性エステル化触媒ならびにフェノールおよび/またはヒドロキノ
ン化合物の群からの重合禁止剤の存在下で、(メタ)アクリル酸をアルコールと
反応させることによる色の安定した一価および/または多価アルコールの(メタ
)アクリレートの製造方法であって、ホスフィン酸もしくは有機ホスホン酸また
はそれらの混合物を、エステル化および/または中和反応の初期および/または
終了時に添加することを特徴とする製造方法にも関する。
3〜5個の炭素原子を有する不飽和カルボン酸の例としては、アクリル酸、メ
タクリル酸、クロトン酸、マレイン酸およびフマル酸がある。
アクリル酸およびメタクリル酸が好ましい。
エステルは、1〜22個の炭素原子を有する直鎖または分枝状アルコール、例
えばメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、
ヘキサノール、2−エチルヘキサノール、6〜22個の炭素原子を有する脂肪ア
ルコール、シクロヘキサノールまたはベンジルアルコールから誘導されてよい。
他の適したアルコールとしては、ジオール、例えばエタン−1,2−ジオール
、プロパン−1,2−ジオール、プロパン−1,3−ジオール、ブタン−1,4−
ジオール、ヘキサン−1,6−ジオールまたはネオペンチルグリコール、および
ポリオール、例えばトリメチロールプロパン、グリセロール、トリメチロールエ
タン、ペンタエリトリトール、ソルビトール、オリゴマーグリセロールおよびそ
れらのアルコキシル化物がある。
(メタ)アクリル酸のポリオールエステルが特に好ましい。上記のような一価
アルコールとのエステルと同じように、(メタ)アクリル酸のポリオールエステ
ルは、既知の方法でフェノールおよび/またはヒドロキノン化合物の群からの重
合禁止剤を、制限された量で、例えば200〜3,000ppmの量で、好ましくは
500〜2,000ppmの量で含む。
本発明によれば、色安定性は、ホスフィン酸もしくは有機ホスホン酸またはそ
れらの混合物を添加することによって改良される。
ホスフィン酸は、上記式H3PO2に対応する。本発明において、有機ホスホン
酸を、アルキル置換のホスホン酸であると理解する。好ましい有機ホスホン酸は
、アルキル置換基が1〜6個の炭素原子を含み、更に水酸基、ニトリルおよび/
またはアミノ基もしくはカルボキシル基でさえ含み得る有機ホスホン酸である。
このような有機ホスホン酸の例としては、1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホ
スホン酸、ニトリロ−トリス−メチレンホスホン酸、アミノ−ビス−チレンホス
ホン酸、エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸、ジエチレントリアミンペ
ンタメチレンホスホン酸およびホスホノブタントリカルボン酸がある。1−ヒド
ロキエタン−1,1−ジホスホン酸が特に好ましい。
特に効果的に色を安定化するには、重合禁止剤としてヒドロキノンおよび記載
されたタイプの混合物を含む反応生成物と組み合わせてホスフィン酸を使用する
。これらの助剤または活性物質の組み合わせが、特に好ましい本発明による教示
の態様である。
本発明によれば、不飽和C3-5カルボン酸エステルは、好ましくはエステル化
反応の間にまたは反応生成物の中和の前および/もしくはその後でさえ、ホスフ
ィン酸もしくは有機ホスホン酸またはそれらの混合物を添加することによって安
定化される。
ホスフィン酸を、エステルに対して0.01〜3重量%の量、好ましくは0.1
〜2重量%の量、さらに好ましくは0.5〜1重量%の量で使用してよい。
有機ホスホン酸を、エステルに対して0.1〜3.5重量%の量、好ましくは1
.5〜2.5重量%の量で使用してよい。
C3-5カルボン酸の不飽和エステルは、触媒、通常、p−トルエンスルホン酸
または硫酸のような強酸ならびに重合禁止剤の存在下でエステル化によって既知
の方法で製造される。反応水を、共留剤によって共沸除去してよい。
好ましいポリオール(メタ)アクリレートは、多価アルコール、例えばグリセ
ロールもしくはトリメチロールプロパン、またはそれらのアルコキシル化物と(
メタ)アクリル酸のエステル化によって製造される。この場合においても、通常
、エステル化を、酸性エステル化触媒、通常p−トルエンスルホン酸および禁止
剤の存在下で、溶媒または共沸共留剤を用いずに行う。
既に記載のように、適した禁止剤は、特にフェノールおよび/またはヒドロキ
ノン化合物である。アルキル置換ヒドロキノンの1つの重要な例としては、2,
5−ジtert.ブチルヒドロキノンがある。しかしながら、ホスフィン酸H3PO2
の添加と組み合わせて特に好ましい禁止剤は、非置換ヒドロキノンである。
望まない重合反応を避けるために酸素を添加した不活性ガスの流れの中で、一
般に反応水を除去する。
反応混合物の酸性成分、本質的に(メタ)アクリル酸およびエステル化触媒を
、アルカリおよび/またはアルカリ土類金属の酸化物、水酸化物および/または
炭酸塩、ならびに所望により、塩を形成する制限された量の水を添加することに
よっ
て一般的に中和する。反応の間に形成された中和水を、次いで反応混合物から除
去する。
好ましくはないが、反応混合物を、アルカリ金属水酸化物液によって洗浄して
中和してもよい。
カルシウムおよび/またはマグネシウムの酸化物および/または水酸化物の微
粒子は、中和反応の間に酸性成分を結合するための固体相として特に使用され、
カルシウム化合物が好ましい。最適には約3時間以下の処理時間で、約60〜1
00℃温度で中和反応を行ってよく、数分間〜1時間の処理時間が好ましい。中
和剤は、出発物質の酸価に対して、化学量論的に必要な量の1〜1.5倍、好ま
しくは約1.1〜1.3倍で使用される。中和剤の添加と同時またはその後に、中
和反応を促進するために、好ましくは水を、出発物質に対して約0.5〜15重
量%の量で添加する。
固体成分を通常、加圧下で、特に50℃以上の反応混合物の温度、とりわけ約
70〜90℃の作用温度で、濾過によって除去する。
中和によって形成された水および添加された水を、蒸留、好ましくは減圧蒸留
によって温反応混合物から除去する。約1〜150mbarの最終圧力は、この点に
おいて重要となる。
さまざまな態様における方法は、始めに引用した出願、すなわちDE−A1
38 43 854、38 43 938、38 43 930、38 43 843お
よび39 39 163に詳細に記載されている。
本発明によるホスフィン酸もしくは有機ホスホン酸またはそれらの混合物を、
好ましくはエステル化反応の初期に添加するが、エステル化および/または中和
の終了時に添加してもよい。
本発明によって製造されたポリオール(メタ)アクリレートは、放射線硬化被
覆および接着剤の成分として使用してよい。例としては、電子線によって硬化で
きるペイントのための原料、UV硬化性印刷インキまたはペイントのための原料
ならびに充填、成形および流延材料のための原料がある。
実施例
実施例において、特記しないかぎりすべての%は、重量%である。出発物質
ツルピナル(Turpinal、商標)SL(ヘンケル(Henkel))は、活性物質60重
量%を有する1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸の水溶液である。
使用されるエトキシル化トリメチロールプロパン(TMPx3EO)は670
±5のOH価を有する。実施例1
(0.1%ホスフィン酸)
アクリル酸778.2g、エトキシル化トリメチロールプロパン(TMPx3
EO)750.4g、p−トルエンスルホン酸53.6g、ホスフィン酸1.53
gおよび2,5−ジtert.ブチルヒドロキノン2.48g(生成物の量に対して2,
000ppm)を秤量して2l反応器に入れた。
反応器を通気(40l/h)し、エステル反応の間に水を除去した。エステル
化時間は5時間であり、底部生成物の最高温度は103℃および最大の圧力は4
00mbarであった。
粗生成物:酸価30.2、APHA明度116
粗生成物にCa(OH)229.5gおよびH2O62.6gを添加して中和し、
80℃で15分間、次いで50mbarの圧力下80℃で30分間撹拌し、その後加
圧吸引濾過器によって濾過した。
生成物:酸価<1、APHA明度126実施例2
(ホスフィン酸+ホスフィン酸による後処理)
実施例1の生成物を、0.1%ホスフィン酸の添加後、80℃で60分間撹拌
することによって後処理した。
生成物:酸価<1、APHA明度87実施例3
(ホスフィン酸による後処理のみ)
アクリル酸778.2g、エトキシル化トリメチロールプロパン750.4g、
p−トルエンスルホン酸53.6gおよび2,5−ジtert.ブチルヒドロキノン2.
48g(生成物の量に対して2,000ppm)を秤量して2l反応器に入れた
。
エステル化および中和は実施例1に記載のとおりに行った。
粗生成物:酸価 、APHA明度217
生成物:酸価<1、APHA明度161
0.1%ホスフィン酸の添加後、この生成物を80℃で60分間の撹拌によっ
て後処理した。
生成物:酸価<1、APHA明度145実施例4
(0.5%ホスフィン酸)
アクリル酸778.2g、エトキシル化トリメチロールプロパン750.4g
、p−トルエンスルホン酸53.6g、ホスフィン酸7.65gおよび2,5−
ジtert.ブチルヒドロキノン2.48g(生成物の量に対して2,000ppm)
を秤量して2l反応器に入れた。エステル化および中和は実施例1に記載のとお
りに行った。
粗生成物:酸価31、APHA明度87
生成物:酸価<1、APHA明度70実施例5
(0.3%ホスフィン酸)
アクリル酸778.2g、エトキシル化トリメチロールプロパン750.4g、
p−トルエンスルホン酸53.6g、ホスフィン酸3.83gおよび2,5−ジte
rt.ブチルヒドロキノン2.48g(生成物の量に対して2,000ppm)を秤
量して2l反応器に入れた。エステル化および中和は実施例1に記載のとおりに
行った。
粗生成物:酸価32、APHA明度97
生成物:酸価<1、APHA明度100実施例6
(10日後、ホスフィン酸による後処理)
アクリル酸778.2g、エトキシル化トリメチロールプロパン750.4g、
p−トルエンスルホン酸53.6gおよび2,5−ジtert.ブチルヒドロキノン2.
48g(生成物の量に対して2,000ppm)を秤量して2l反応器に入れた
。エステル化および中和は実施例1に記載のとおりに行った。
粗生成物:酸価29、APHA明度229
生成物:酸価<1、APHA明度167
10日間の貯蔵後、0.1重量%ホスフィン酸を添加し、この生成物を80℃
で60分間の撹拌によって後処理した。
生成物:酸価<1、APHA明度119実施例7
(ツルピナルSL)
アクリル酸778.7g、エトキシル化トリメチロールプロパン746.4g、
p−トルエンスルホン酸18.3g、ツルピナルSL22.9gおよび2,5−ジ
tert.ブチルヒドロキノン2.46g(生成物の量に対して2,000ppm)を
秤量して2l反応器に入れた。
通気(40l/h)し、エステル化反応の間に水を除去した。エステル化時間は
8時間であり、底部生成物の最高温度は103℃および最大の圧力は400mbar
であった。
粗生成物:酸価34、APHA明度<150
粗生成物にCa(OH)234.5gおよびH2O63.8gを添加して中和し、
80℃で15分間、次いで50mbarの圧力下80℃で30分間撹拌し、その後加
圧吸引濾過器によって濾過した。
生成物:酸価<1、APHA明度102実施例8
(実施例7と同様。ただし、少量の中和剤を使用)
実施例7を繰り返した。
粗生成物にCa(OH)212.2gおよびH2O62.6gを添加して中和し、
80℃で15分間、次いで50mbarの圧力下80℃で30分間撹拌し、その後加
圧吸引濾過器によって濾過した。
生成物:酸価<1、APHA明度110実施例9
(実施例7と同様。ただし、二回濾過)
実施例7を繰り返した。
粗生成物にCa(OH)216.0gおよびH2O62.6gを添加して中和し、
80℃で15分間、次いで50mbarの圧力下80℃で30分間撹拌し、その後加
圧吸引濾過器によって濾過した。
生成物:酸価<1、APHA明度97
次いで生成物を80℃でもう一度濾過した。
生成物:酸価<1、APHA明度54実施例10
アクリル酸278.2g、トリプロピレングリコール700.8g、p−トル
エンスルホン酸59.1g、ホスフィン酸5.0gおよびヒドロキノン0.59g
(生成物の量に対して500ppm)を秤量して2l反応器に入れた。
通気(40l/h)し、エステル反応の間に水を除去した。エステル化時間は5
時間であり、底部生成物の最高温度は103℃および最大の圧力は400mbarで
あった。粗生成物
酸価:40mgKOH/g
明度(APHA):50
粗生成物にCa(OH)235gおよびH2O30gを添加して中和し、80℃
で15分間、次いで50mbarの圧力下80℃で30分間撹拌し、その後加圧吸引
濾過器によって濾過した。生成物
酸価<1mgKOH/g
明度(APHA):160
Mg(OH)2による同様の乾燥中和では明度(APHA)70を得た。2,5−ジtert.ブチルーヒドロキノンの使用についての比較例
アクリル酸2,334.6g、エトキシル化トリメチロールプロパン2,251.
4g、p−トルエンスルホン酸160.7gおよび2,5−ジtert.ブチルヒドロ
キノン7.4g(生成物の量に対して2,000ppm)を秤量して6l反応器に
入れた。
通気(50l/h)し、エステル反応の間に水を除去した。エステル化時間は
6時間であり、底部生成物の最高温度は103℃および最大の圧力は400mbar
であった。
粗生成物:酸価2、APHA明度273
粗生成物にCa(OH)283.1gおよびH2O193.5gを添加して中和し
、80℃で15分間、次いで50mbarの圧力下800Cで30分間撹拌し、その後
加圧吸引濾過器によって濾過した。
生成物:酸価<1、明度(APHA)219
色は、DIN ISO6271によるAPHA試験によって測定した。ヒドロキノンの使用についての比較例
方法は、ホスフィン酸を使用しないこと以外は、実施例10に記載のとおりで
あった。
粗生成物は、8の明度(ガードナー)を有する。
中和され濾過された生成物の明度は4.2(ガードナー)である。
色の変化を調べるために、試料を60℃の暗所で貯蔵した。
60℃の暗所で貯蔵した結果を表1に示す。