JPH10298668A - 熱処理装置 - Google Patents

Abstract

(57)【要約】 【課題】 設備がコンパクトであり、溶体化処理を短時
間で充分に行える熱処理装置を提供すること。 【解決手段】 ペイオフリール１から繰出されたアルミ
ストリップを上下方向のパスライン部を通したうえでテ
ンションリール８に巻取るようにした熱処理装置であっ
て、上下方向のパスライン部に熱処理炉10を設置し、熱
処理炉10は誘導加熱装置11と、保持炉12と、水冷式冷却
装置13とからなり、かつその順でパスラインに沿って配
置されている。誘導加熱装置11によってアルミストリッ
プを直接発熱させて昇温レートを高くし、水冷式冷却装
置13によって降温レートを高くしているので、加熱と冷
却の間に充分な保持時間をとれ、溶体化が充分に行え
る。

Description

【発明の詳細な説明】

【０００１】

【発明の属する技術分野】本発明は熱処理装置に関す
る。さらに詳しくは、金属ストリップの焼入れに際し、
溶体化処理を必要とする材料に好適な熱処理装置に関す
る。

【０００２】

【従来の技術】金属の熱処理は加熱と冷却によって行わ
れるが、焼なましや焼入れにおける加熱は徐々に行うの
が一般的であり、急速加熱は表面硬化焼入れのような特
殊な場合にしか用いられていない。

【０００３】ところで、アルミニウムストリップ（以
下、アルミストリップという）の連続熱処理装置として
は、図３に示すような連続焼鈍設備がある。この連続焼
鈍設備も徐々に加熱するもので、つぎのように構成され
ている。すなわち、ストリップｓの水平方向に長いパス
ラインに沿って加熱室51，徐冷室52，冷却室53からなる
熱処理炉50が設けられており、ペイオフリール54から繰
り出されたアルミストリップｓが入側アキュムレータ55
で送り量を調整されて加熱室51に入り、徐冷室52および
冷却室53を通過したのち、出側アキュムレータ56で送り
量を調整されてテンションリール55に巻取られるように
なっている。前記熱処理炉50は炉長が長く、一般的には
40〜50ｍ位であり、大がかりな設備である。そして加熱
室51はラジアントチューブによる間接加熱や熱風バーナ
ーによる熱風吹付けが用いられ、冷却室53はジェットフ
ァンにより空気を吹付ける構成が用いられている。

【０００４】

【発明が解決しようとする課題】ところで、アルミスト
リップのうち合金番号（JIS H 4000に規定する合金番
号）2000系，6000系，7000系では、焼入れする場合、焼
入れの前に高温に保って一様な固容体にしておく溶体化
処理が必要とされる。

【０００５】ところが、前記従来の連続焼鈍設備におけ
る加熱室51は間接加熱であるので、図４に示すように昇
温レートが33.3℃/secと低く、また冷却室53の冷却方法
も空冷であり降温レートが30℃/secと低いものでしかな
い。したがって、アルミストリップｓが熱処理炉50に入
ってから出るまでの間の温度変化は図４に示すように山
形状を描き、高温で一定時間保持する状態が得られな
い。

【０００６】この結果、溶体化のための保持時間を充分
得ることができず、一様な固溶体にすることができな
い。また充分な保持時間を得ようとすれば、現状の炉長
を２〜３倍にしなければならず、溶体化処理時間が長く
なるばかりか、設備コストの高騰を招いてしまう。

【０００７】なお、溶体化処理時間を短くする方法とし
て融点直下まで昇温することが挙げられるが、従来の焼
鈍設備では融点直下− 100℃までの昇温能力しかなく、
例え融点直下まで昇温させたとしても金属ストリップの
テンション制御が困難となり板切れの危険があるので、
いずれにしても現実には採用できない。

【０００８】そこで本発明は、設備がコンパクトであ
り、溶体化処理を短時間で行える熱処理装置を提供する
ことを目的とする。

【０００９】また本発明は、従来の連続焼鈍装置の代替
としてではなく、今後開発される材料もしくは現在の材
料なかで、とくに溶体化処理を必要とする材料に好適な
熱処理装置を提供することを目的とする。

【００１０】

【課題を解決するための手段】本発明の熱処理装置は、
ペイオフリールから繰出された金属ストリップを上下方
向のパスライン部を通したうえでテンションリールに巻
取るようにした熱処理装置であって、上下方向のパスラ
イン部に熱処理炉を設置し、該熱処理炉は誘導加熱装置
と、保持炉と、水冷式冷却装置とからなり、かつその順
でパスラインに沿って配置されていることを特徴とす
る。

【００１１】本発明では、熱処理炉を上下方向のパスラ
イン部に設置しているので水平方向の長さが短くなり、
設備がコンパクトとなる。

【００１２】加熱室は誘導加熱装置で構成しているの
で、加熱コイルを流れる電流で作られる磁束によって加
熱材中に誘導電流を誘起し、金属シート中にジュール熱
を発生させる。このように金属が直接発熱するので昇温
レートが高くなる。また冷却装置は水冷式であるので、
降温レートが高く、急冷が可能である。このように昇温
レートと降温レートが高いと、昇温と降温に要する時間
が短くなるので、全体の熱処理時間が制約されたなかで
あっても昇温終了から降温開始の間で、保持炉による溶
体化保持時間を充分に取ることができる。

【００１３】

【発明の実施の形態】つぎに、本発明の実施形態を図面
に基づき説明する。

【００１４】図１は本発明の一実施形態であって、アル
ミストリップの溶体化処理を行う熱処理装置の説明図で
ある。同図において、１はペイオフリールで、アルミス
トリップｓを繰り出す。このアルミストリップｓのパス
ラインはガイドロール２，３で方向が変えられ、ガイド
ロール３から下方に向けられる。ガイドロール３より下
方に離れた位置にはガイドロール４が配置され、このガ
イドロール３，４の間が上下方向のパスライン部となっ
ている。ガイドロール４の下流側はガイドロール５、リ
ンガーロール６，７でさらに案内され、テンションリー
ル８に熱処理済みアルミストリップｓが巻取られるよう
になっている。熱処理炉10は、誘導加熱装置11、保持炉
12、水冷式冷却装置13からなり、上下方向のパスライン
部分にその順で設けられている。

【００１５】前記誘導加熱装置11は、パスラインを通る
アルミストリップｓの周囲に加熱コイルを配置したもの
で、加熱コイルに交流電流を流したときに生じる磁束に
よってアルミストリップ内に電流を誘起し、それにより
ジュール熱を発生させて、アルミストリップを直接加熱
するものである。直接加熱型であるので、昇温レートは
高く、 100℃/sec以上が可能であり、例えばアルミスト
リップの溶体化処理用としては、 100〜300℃/secの能
力のものが用いられる。前記下限値 100℃/secを下廻る
とアルミストリップに再結晶が生ずることがあり、また
上限値300℃/secを越えると装置構成上コスト高になる
ので、いずれも好ましくない。なお前記下限値および上
限値は処理する金属の種類によって異なるので、それぞ
れの金属に適切な数値に設定すればよい。アルミストリ
ップの溶体化処理に用いる本実施例の誘導加熱装置11は
昇温レートが 173.3℃/secのもので，長さが 5,000mmで
ある。

【００１６】前記保持炉12は前記誘導加熱装置11によっ
て加熱されたアルミストリップｓの温度を低下しないよ
うにするため設けられており、一般的には熱風吹付けバ
ーナーでガスを吹付けるガス炉で構成されている。本実
施例ではその長さは15ｍである。

【００１７】前記水冷式冷却装置13は水を吹付ける冷却
スプレー13ａから構成されたものであり、必要な降温レ
ートが得られるよう適数個設けられる。本発明では充分
な固溶化を得るため 150〜 200℃/secの冷却能力のもの
が好適である。冷却能力が前記下限値 150℃/secを下廻
ると固溶化が充分でなくなり、前記上限値 200℃/secを
越えると急激な板の収縮がおこるので、いずれも好まし
くない。

【００１８】前記冷却装置13の下流側にはドライヤー14
が設けられている。これはリンガーロールとエアーブロ
ーにより構成されており、水冷後のアルミストリップを
乾燥させるために設けられている。

【００１９】つぎに、前記熱処理装置Ａを用いてするア
ルミストリップｓの溶体化処理の一例を図２に基づき説
明する。アルミ合金のうち合金番号6000系はAl−Mg−Si
系、7000系はAl−Zn系、2000系はAl−Cu系であり、これ
らの合金では常温において、アルミニウムのマトリック
ス中に過飽和にMg，Cuが固溶している。

【００２０】これらのアルミ合金ストリップｓを図１の
熱処理装置Ａで溶体化処理および焼入れを行う場合を説
明する。まずアルミ合金ストリップｓが誘導加熱装置11
に入り、加熱され出ていくが、その間の時間が約３秒で
あり、誘導加熱装置11の昇温レートは 173.3℃/secであ
るから、アルミ合金ストリップｓは常温から 520℃まで
昇温する。この段階でMgやCuが折出する。ついで、保持
炉に入り、 520℃の温度を保ったまま保持され、ついで
出ていくが、この間約９秒であり、この段階で折出して
いたMgやCuが溶けてアルミ合金が均一な材質になる。つ
いで冷却装置13により水冷却で急冷する。このときの降
温レートは 150℃/secであり、このような高い降温レー
トで急冷するとMgやCuが溶け込んだ均一な材質のまま固
化するので、均一組織のアルミ合金ストリップｓが得ら
れる。このようにして焼入れされたアルミ合金ストリッ
プｓはドライヤー14で乾燥され、テンションリール８に
巻取られる。

【００２１】つぎに、一般的自動車用薄板である合金番
号6000系のアルミストリップを熱処理する場合の利点を
説明する。

【００２２】 急速加熱の効果 合金番号6000系のアルミストリップは冷延加工が施され
ているため、280〜400℃の領域で再結晶の起るバンドが
あるが、本実施例の場合その温度域を急速加熱するので
結晶粒径が大きくならないうちにバンドを通過するの
で、結晶粒径が粗大化しない。したがって、伸びに優れ
た機械的性質が得られる。

【００２３】 保持時間の効果 6000系材料の引張り強さを向上させるためには充分な時
効硬化を行うことが必要である。時効硬化はMgやCu等の
第２ＧＰゾーンの形成により促進するため、固溶領域で
のMg，Cu等の均一かつ充分な拡散が必要である。本実施
例の場合、 520℃で９秒間保持するので、第２ＧＰゾー
ンが充分に形成される。

【００２４】なお、アルミニウムのマトリックス中に過
飽和に固溶したMg，Cuが折出したときアルミニウムとの
金属間化合物を形成するが、その金属間化合物を第１Ｇ
Ｐゾーンといい、またその後、 180℃程度の加熱を行う
と化合物形態が変化するが、この加熱後の金属間化合物
を第２ＧＰゾーンという。

【００２５】 急冷の効果 時効硬化するためには降温で充分にマトリックス中に固
溶したMg，Cu等の元素を急冷により過飽和に室温付近で
固溶させる必要がある。そのためには高い降温レート、
例えば 100〜 200℃/secでの冷却が必要であるが、本実
施例では充分な急速冷却が行えるので、時効硬化が行え
る。

【００２６】以上のように本発明では従来の連続焼鈍設
備では不可能であった時効硬化型合金の溶体化処理とそ
れに続く焼入れ処理を効果的に行うことができる。なお
本明細書でいう時効硬化型合金とは、時効硬化特性を示
す合金をいい、熱処理型アルミ合金（2000系，4000系合
金、6000系合金、7000系合金）のほか、非熱処理型と称
されながらも時効硬化特性を示す3004アルミ合金、さら
にアルミ合金以外の合金等の金属を含む概念である。

【００２７】

【発明の効果】本発明によれば、設備がコンパクトであ
り、溶体化処理を短時間で充分に行える熱処理装置を提
供することができる。

【図面の簡単な説明】

【図１】本発明の一実施例に係わる熱処理装置Ａの説明
図である。

【図２】図１の熱処理装置Ａによる加熱・保持・冷却パ
ターンの説明図である。

【図３】従来の連続焼鈍設備の説明図である。

【図４】図３の連続焼鈍設備による加熱・冷却パターン
の説明図である。

【符号の説明】

１ ペイオフリール ８ テンションリール ｓ アルミストリップ 10 熱処理炉 11 誘導加熱装置 12 保持炉 13 水冷式冷却装置

Claims (1)

【特許請求の範囲】
1. 【請求項１】ペイオフリールから繰出された金属ストリ
   ップを上下方向のパスライン部を通したうえでテンショ
   ンリールに巻取るようにした熱処理装置であって、上下
   方向のパスライン部に熱処理炉を設置し、該熱処理炉は
   誘導加熱装置と、保持炉と、水冷式冷却装置とからな
   り、かつその順でパスラインに沿って配置されているこ
   とを特徴とする熱処理装置。