JPH10280031A - 炭素鋼の浸炭表面硬化方法 - Google Patents

炭素鋼の浸炭表面硬化方法

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JPH10280031A
JPH10280031A JP8981597A JP8981597A JPH10280031A JP H10280031 A JPH10280031 A JP H10280031A JP 8981597 A JP8981597 A JP 8981597A JP 8981597 A JP8981597 A JP 8981597A JP H10280031 A JPH10280031 A JP H10280031A
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carburizing
carbon
hardening
temperature
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Kuniyasu Genma
国恭 源馬
Mamoru Kawakami
護 河上
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 鋼のマルテンサイト変態を起こすことなく表
面硬化を図る。 【解決手段】 少なくとも表面硬化処理が求められる部
分が低炭素でありかつ鉄よりも炭化物形成傾向の大きい
元素を含む鋼を、A1 変態温度未満の温度により浸炭剤
中で加熱処理するようにしている。炭化物形成傾向の大
きい元素としては、Ti,Nb,V,Ta,W,Mo,
Cr,Mn,Zr,Hfのうち少なくとも1種類である
ことが好ましく、加熱温度としては、500〜650℃
が好ましい。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、炭素鋼の表面だけ
を硬化させる熱処理方法に関する。さらに詳述すると、
本発明は、浸炭処理により表面硬化させる方法の改良に
関する。
【0002】
【従来の技術】炭素鋼の表面だけを硬くする熱処理(表
面硬化法)には、鋼の表面の化学成分を変えて硬化する
化学的表面硬化法として、浸炭によるものが知られてい
る。
【0003】この浸炭は、通常肌焼き鋼と呼ばれている
低炭素鋼や低合金鋼の表面に、炭素を浸み込ませて表面
だけを高炭素鋼とし、その後にこれを焼き入れして表面
を硬くする熱処理である。炭素を浸み込ませるだけでも
硬くすることはできるが、それだけでは不十分なので焼
き入れ操作を行う。例えば、浸炭方法によっても異なる
が、通常、900〜950℃で加熱して浸炭し、その
後、固体浸炭の場合には900℃で一次焼き入れ、80
0℃で二次焼き入れを行い、また液体浸炭やガス浸炭の
場合にはそのまま直焼き入れを行う。そして、焼き入れ
の後、さらに150〜200℃程度で焼きもどしを行っ
ている。また、最近は、1050〜1100℃の高温で
短時間浸炭する高温浸炭法というものもある。
【0004】いずれの浸炭方法を行う場合においても、
1 変態温度(約723℃)からはるかに高い950℃
ないし1000℃付近の高温に加熱して浸炭処理し、そ
の後A1 変態温度よりも高温の温度(A3 変態温度以上
30〜50℃)から急冷することにより行われる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上述し
た浸炭方法では、鋼をA1 変態温度よりも遙かに高温
(900〜950℃あるいは1050〜1100℃)に
加熱しなければならないので、鋼はマルテンサイト変態
により著しい体積膨張を生じてしまい、鋼材を加熱した
場合に焼入れ歪みによって寸法誤差が大きくなってしま
う。加えて、マルテンサイト変態により鋼材に焼き割れ
を生ずることがあるので、鋼製品の歩留まりも悪くなっ
てしまう。
【0006】さらに、浸炭のため900〜950℃ある
いは1050〜1100℃に加熱し、さらにその後にも
一次及び二次の焼き入れあるいは直焼き入れのために9
00℃程度まで加熱し、加えて150〜200℃程度で
焼きもどす必要があるため、加熱処理時間の短縮が難し
い。
【0007】一方、マルテンサイト変態による体積膨張
を避けるために、表面硬化は要求されているものの焼入
れを行うことができない鋼製品が多数存在しており、こ
れらの鋼製品の表面硬化を促進する必要がある。
【0008】そこで、本発明は、鋼のマルテンサイト変
態を起こすことなく表面硬化を図ることができる鋼の浸
炭表面硬化方法を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】かかる目的を達成するた
め、本発明者が種々実験・研究した結果、鉄よりも炭化
物形成傾向の大きい元素の鋼への添加と、A1 変態点以
下の温度で炭素を鋼中に拡散浸透させることとが可能で
あることを知見するに至った。
【0010】元来、純鉄はA1 変態温度以下において浸
炭しても、焼き入れ硬化のために有効な浸炭層は形成さ
れない。これは純鉄をA1 変態温度以下で浸炭すると、
表面に鉄炭化物であるセメンタイト(Fe3 C)層が緻
密に形成され、それが炭素の侵入を阻むためそれ以上浸
炭が進行しなくなるからである。この冶金学上の常識は
合金鋼にも及びA1 変態点以下での浸炭を考慮すること
の盲点となっていた。
【0011】しかしながら、セメンタイトは熱力学的に
はあまり安定ではなく、クロムやモリブデンといった鉄
より炭素との親和力が強い元素が鋼中に共存すれば、そ
れらにより比較的容易に炭素を奪われ鉄を遊離してしま
う。本発明者はかかる事実に基づいて、鉄より炭素との
親和力が強い元素を適当量含有する鋼がA1 変態温度以
下の浸炭性雰囲気において加熱されれば、セメンタイト
層が表面に形成されることなく炭素が当該鋼中に侵入す
るということを考えた。
【0012】そこで、請求項1の鋼の表面硬化方法は、
少なくとも表面硬化が要求される部分が低炭素でありか
つ鉄よりも炭化物形成傾向の大きい元素を含む鋼を、A
1 変態温度未満の温度により浸炭剤中で加熱処理するよ
うにしている(以下、本明細書では、これをサブA1
態浸炭硬化方法と呼ぶ)。ここで、鉄よりも炭化物形成
傾向の大きい元素としては、Ti,Nb,V,Ta,
W,Mo,Cr,Mn,Zr,Hfのうち少なくとも1
種類を含むものであることが好ましい。また、加熱処理
温度は500〜650℃であることが好ましい。なお、
本明細書中では、「少なくとも表面硬化処理が要求され
る部分が低炭素の鋼」とは、炭素量0.20〜0.30
%C以下のいわゆる低炭素鋼の他、炭素量0.30%C
を超えても脱炭することにより表面層が炭素量0.1%
C以下に調整されたものも含む。
【0013】この場合、浸炭表面硬化処理が求められる
部分が低炭素であるので、浸炭前の鋼では鉄よりも炭化
物形成傾向の大きい元素はほとんど炭化物になっていな
い。このため、浸炭により新たな炭素が多量に鋼の表面
に供給されて、その時初めて鉄よりも炭化物形成傾向の
大きい元素が炭化物となる。したがって、鋼の表面層で
の析出硬化を有効に行うことができる。
【0014】そこで、A1 変態温度未満の温度、特に5
00〜650℃に加熱された鉄よりも炭化物形成傾向の
大きい元素を含む鋼は、鉄の結晶の中で鉄よりも炭化物
形成傾向の大きい元素が移動を始め、浸炭剤中の炭素が
鋼の表面で鉄よりも炭化物形成傾向の大きい元素の周囲
に引き寄せられ、セメンタイトFe3 C層を鋼の表面に
形成することなく鋼の表面層に浸透拡散させる。さら
に、鋼の表面層に浸透した炭素が鉄よりも炭化物形成傾
向の大きい元素に結合して炭化物を析出することによ
り、その周囲の鉄の結晶が歪み析出硬化によって鋼の表
面層が硬化する。500〜650℃という温度は、A1
変態温度を大きく下回る温度であるがちょうど鉄の結晶
の中で金属原子が移動でき始める温度であるため、炭化
物形成能の強い元素が溶けていれば、炭素がその周りに
引きつけられて炭化物として析出する。したがって、鋼
をA1 変態温度未満の温度で加熱することにより焼入れ
しなくても表面硬化を行うことができる。
【0015】
【発明の実施の形態】以下、本発明の鋼の表面硬化方法
を実施の形態の一例に基づいて詳細に説明する。
【0016】本発明の炭素鋼の浸炭表面硬化方法は、A
1 変態温度未満の温度により浸炭剤中で加熱処理するよ
うにしている。
【0017】ここで、鉄よりも炭化物形成傾向の大きい
元素としては、特に限定されるものではないが、例えば
Ti,Nb,V,Ta,W,Mo,Cr,Mn,Zr,
Hf等があり、これらの元素のうち少なくとも1種類を
含んでいれば足りる。また、この鋼は低炭素鋼であり、
炭素量0.15%C以下としている。
【0018】浸炭剤としては、現在実用化されている各
浸炭法で使用されているものの使用が可能である。浸炭
法は、現在、固体浸炭法、液体浸炭法、ガス浸炭法、電
解浸炭法、イオン浸炭法、浮遊流動浸炭法などが実用化
されており、中でもガス浸炭法、イオン浸炭法が最も実
用されている。この従来の浸炭法はあくまでも900〜
950℃程度における浸炭を前提としたものであるが、
その加熱温度さえ変更すれば従来の浸炭装置及び浸炭剤
はそのまま活用できる。例えば、ガス浸炭による場合に
は、浸炭剤として水素−アセチレン雰囲気が使用され
る。そして、この雰囲気中で少なくとも表面硬化処理が
求められる部分が低炭素でありかつ鉄よりも炭化物形成
傾向の大きい元素を含む鋼を加熱し浸炭を行う。勿論、
これには限られず、他の種類のガス浸炭剤を使用したガ
ス浸炭法により浸炭したり、イオン浸炭法や電解浸炭法
や液体浸炭剤を使用した液体浸炭法や固形浸炭剤を使用
した固体浸炭法により浸炭することができる。いずれの
浸炭法によっても浸炭により鋼の表面硬化を図ることが
できるのは勿論である。また、イオン窒化法の窒素の代
わりに一酸化炭素やメタン、アセチレンなどの浸炭剤を
使用することによって、イオン窒化法の装置を使用して
サブA1 浸炭変態浸炭硬化方法を実施することも可能で
ある。さらに、電解浸炭法は、従来、920℃に安定さ
せて均一に被浸炭部品を加熱することの困難さから、開
発が遅れているが、本発明のサブA1 変態浸炭硬化方法
によれば550℃程度の比較的低温で安定させれば良い
ので、開発し易い。いずれにしても、煤の発生を伴わず
均一に炭素が鋼材中に浸透するのであればその方法は問
われることがない。
【0019】ここで、Crの含有率の比較的高い鋼を表
面硬化する場合は、イオン浸炭法を採用することが好ま
しい。この理由は、Crの含有率の比較的高い鋼では表
面にCrの水和性皮膜や酸化物皮膜や水酸化物皮膜(不
動態)が形成されるので、鋼の耐食耐熱性が向上して鋼
の表面への炭素の浸透が妨げられるが、イオン浸炭法を
採用するとイオンのスパッタ効果によって炭素が鋼の表
面に浸透可能となるからである。
【0020】そして、加熱温度はA1 変態温度未満の温
度、好ましくは500〜650℃程度である。500〜
650℃の温度のとき、鋼の鉄の結晶の間で鉄よりも炭
化物形成傾向の大きい元素の原子が移動可能となる。
【0021】この鋼を500〜650℃程度に加熱する
ことにより、鉄の結晶の中で鉄よりも炭化物形成傾向の
大きい元素の原子が移動を始める。そして、水素−アセ
チレン雰囲気中の炭素は、鋼の表面で鉄よりも炭化物形
成傾向の大きい元素の周囲に引き寄せられる。このた
め、炭素と鉄とが結合して鋼の表面にセメンタイトFe
3 C層を緻密に形成することはないので、鋼の表面での
炭素の侵入を阻害することがない。これにより、炭素は
鋼の表面層に浸透拡散することができる。さらに、鋼の
表面層に浸透した炭素が鉄よりも炭化物形成傾向の大き
い元素に結合して炭化物を析出することにより、その周
囲の鉄の結晶が歪み析出硬化によって鋼の表面層が硬化
する。ここで、この鋼は低炭素鋼であるので、浸炭前の
鋼では鉄よりも炭化物形成傾向の大きい元素はほとんど
炭化物になっていない。このため、浸炭により新たな炭
素が多量に鋼の表面に供給されて、その時初めて鉄より
も炭化物形成傾向の大きい元素が炭化物となる。したが
って、鋼の表面層での析出硬化を有効に行うことができ
る。したがって、鋼を500〜650℃程度の温度で加
熱することにより焼入れしなくても表面硬化を行うこと
ができる。
【0022】例えば、図1に示すように、鉄よりも炭化
物形成傾向の大きい元素を添加したMAC24鋼を55
0,600,650℃で浸炭した場合、いずれの加熱温
度の場合も表面から約0.2mmの深さまで硬さの上昇
が認められた。また、いずれの加熱温度の場合も表面硬
さはHv400を超えるものとなり、構造用合金鋼であ
る例えばSCM440鋼に焼入れ焼戻しした硬さ(Hv
300〜370)を超えるものとなった。特に、550
℃での加熱の場合は、Hv510程度にまで硬化した。
これは合金工具鋼の熱間金型用鋼である例えばSKD6
1鋼に焼入れ・焼もどしした硬さ(Hv550)に匹敵
するものとなった。したがって、A1 変態温度未満の温
度により浸炭剤中で加熱した鋼材が、A1 変態温度を遙
かに超えて950℃程度から焼入れされた従来品と同等
以上に表面硬化できることが確認された。
【0023】反面、表1に示すSKD61鋼のように低
炭素鋼の炭素含有量よりも多くの炭素を含む鋼は、その
ままではA1 変態温度未満で浸炭を行っても表面硬化は
ほとんど見られない。したがって、本発明の鋼の表面硬
化方法は低炭素鋼に特に有効であると言える。しかし、
表2に示すようにSKD61鋼であっても表面脱炭を行
うことにより、その後のA1 変態温度未満での浸炭で大
きな表面硬化が見られる。したがって、低炭素鋼の炭素
含有量よりも多くの炭素を含む鋼であっても、脱炭を経
て浸炭を行うことにより表面硬化できる。要は、表面硬
化処理が求められる部分が低炭素でありかつ鉄よりも炭
化物形成傾向の大きな元素を含む鋼であれば良い。
【0024】上述した鋼の表面硬化方法によれば、鋼の
加熱温度をA1 変態温度未満、好ましくは500〜65
0℃程度にして焼入れ工程を省いているので、鋼はマル
テンサイト変態を起こさない。このため、鋼はマルテン
サイト変態による著しい体積膨張を起こすことがないの
で、鋼材の寸法精度を向上させることができる。また、
鋼材の焼き割れを防止して歩留まりを良くすることがで
きるので、製造コストを低減することができる。しか
も、従来はマルテンサイト変態による体積膨張を避けて
焼入れを行うことができなかった鋼製品でも表面硬化処
理を行うことができるようになり、表面硬化可能な鋼製
品の範囲を拡大することができる。
【0025】また、本実施形態の表面硬化方法によれ
ば、鋼の加熱温度をA1 変態温度未満にできるので、加
熱に必要な時間を短縮して鋼製品の製造時間の短縮化を
図ることができると共に、加熱に必要なエネルギの使用
量を減少させてエネルギコストを削減することができ
る。特に本実施形態の浸炭処理によれば後処理として焼
入れ及び焼戻しを行う必要がないので、従来の浸炭処理
に比べて表面硬化に必要な時間の短縮とエネルギの低減
とを大幅に行うことができる。
【0026】なお、上述の実施形態は本発明の好適な実
施の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発
明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能で
ある。
【0027】
【実施例】
[実施例1]表1に示す組成のMAC24鋼(熱間圧延
材)を水素−アセチレン浸炭性雰囲気中で3時間550
℃加熱する、いわゆるサブA1 変態浸炭硬化方法を実施
した。
【0028】[実施例2]表1に示す組成のMAC24
鋼(熱間圧延材)を水素−アセチレン浸炭性雰囲気中で
3時間600℃加熱する、いわゆるサブA1 変態浸炭硬
化方法を実施した。した。
【0029】[実施例3]表1に示す組成のMAC24
鋼(熱間圧延材)を水素−アセチレン浸炭性雰囲気中で
3時間650℃加熱する、いわゆるサブA1 変態浸炭硬
化方法を実施した。した。
【0030】以上の実施例1から3のサブA1 変態浸炭
硬化方法を施した3種類のMAC24鋼の表面層のビッ
カース硬さ(荷重は100gf)を測定し、その結果を
図1に示した。
【0031】同図から明らかなように、いずれの加熱温
度の場合も表面から約0.2mmの深さまで硬さの上昇
が認められた。また、いずれの加熱温度の場合も表面硬
さはHv400を超えるものとなり、構造用合金鋼であ
る例えばSCM440鋼に焼入れ・焼戻しした硬さ(H
v300〜370)を超えるものとなった。特に、55
0℃での加熱の場合は、Hv510程度にまで硬化し
た。これは合金工具鋼の熱間金型用鋼である例えばSK
D61鋼に焼入れ焼戻しした硬さ(Hv550)に匹敵
するものとなった。したがって、A1 変態温度未満で加
熱した鋼材がA1変態温度を超えて焼入れされた従来品
と同等以上に表面硬化できることが確認された。
【0032】[実施例4]表1に示す組成のMAC24
鋼(熱間圧延材)を水素−3%アセチレン雰囲気中で3
時間加熱した。加熱温度は723K(450℃)とし
た。この加熱処理を行ったMAC24鋼の表面層のマイ
クロビッカース硬さ(荷重は200gf)を測定した。
この硬さの値としては10回の測定値の算術平均値を採
用した。その結果を表1に示す。
【0033】[比較例1]表1に示す組成のSACM6
45鋼(熱ならし材)を実施例2と同様に水素−3%ア
セチレン雰囲気中で3時間加熱した。加熱温度は723
℃とした。この加熱処理を行ったSACM645鋼の表
面層のマイクロビッカース硬さ(荷重は200gf)を
測定した。この硬さの値としては10回の測定値の算術
平均値を採用した。その結果を表1に示す。
【0034】[比較例2]表1に示す組成のSKD61
鋼(焼きなまし材)を実施例2と同様に水素−3%アセ
チレン雰囲気中で3時間加熱した。加熱温度は723℃
とした。この加熱処理を行ったSKD61鋼の表面層の
マイクロビッカース硬さ(荷重は200gf)を測定し
た。この硬さの値としては10回の測定値の算術平均値
を採用した。その結果を表1に示す。
【0035】
【表1】
【0036】表1に示すように、サブA1 変態浸炭硬化
方法を実施した実施例4の鋼は浸炭によって大きく硬化
した。反面、比較例1の鋼は浸炭によって僅かしか硬化
しなかった。硬化が小さい理由は、SACM645鋼は
中炭素鋼で炭素量が0.46%Cであったので、鋼中の
鉄よりも炭化物形成傾向の大きい元素は浸炭前から炭化
物になっていて、加熱及び浸炭によっても炭化物の析出
硬化がほとんど生じなかったためと考えられる。したが
って、この発明の鋼の表面硬化方法を実現するために
は、鋼は低炭素鋼であることが必要であると推測され
る。さらに、比較例2の鋼も浸炭によって僅かしか硬化
しなかった。硬化が小さい理由は、SKD61鋼は中炭
素鋼で炭素量が0.37%Cであったので、比較例1の
SACM645鋼と同様に鋼中の鉄よりも炭化物形成傾
向の大きい元素は浸炭前から炭化物になっていて、加熱
及び浸炭によっても炭化物の析出硬化がほとんど生じな
かったためと考えられる。また、比較例1のSACM6
45鋼よりは炭素量が少ないので硬化の程度が大きくな
った。
【0037】[実施例5]SKD61鋼を950℃の湿
潤水素中に4時間載置して表面脱炭を行った。そして、
脱炭後の表面硬さを測定した。その後、550℃で3時
間加熱した後焼き戻し(テンパー)たものと、550℃
3時間で本発明のサブA1 変態浸炭硬化方法を行ったも
のとの2種類の鋼を得た。これらの鋼の表面硬さを測定
した。その結果を表2に示す。
【0038】[実施例6]SKD61鋼を1050℃の
湿潤水素中に4時間載置して表面脱炭を行った。そし
て、脱炭後の表面硬さを測定した。その後、550℃で
3時間加熱した後焼き戻し(テンパー)たものと、55
0℃3時間で本発明のサブA1 変態浸炭硬化方法を行っ
たものとの2種類の鋼を得た。これらの鋼の表面硬さを
測定した。その結果を表2に示す。
【0039】
【表2】
【0040】表2に明らかなように、SKD61鋼は極
めて焼入れされ易い鋼であり、脱炭のままでもかなりの
硬さとなった。また、脱炭後のSKD61鋼に焼き戻し
を行っても、ある程度硬さを増すことができた。しか
し、本発明のサブA1 変態浸硬化方法によって浸炭を行
ったものの方が遙かに高い硬さを得ることができた。こ
れは、SKD61鋼の内部で炭化物となっていた鉄より
も炭化物形成傾向の大きい元素が脱炭により金属原子と
して鉄の中に溶け込んだ状態になり、その後の浸炭によ
り炭素が鋼の表面から供給されたため再び炭化物が生じ
て析出硬化が起こったことによるものと考えられる。し
たがって、本発明の鋼の表面硬化方法は低炭素鋼に特に
有効であることが確認された。また、低炭素鋼の炭素含
有量よりも多くの炭素を含む鋼であっても、脱炭を経て
浸炭を行うことにより表面硬化できることが判明した。
【0041】[実施例7]試験片として図2に示す円盤
形状のSKD61鋼1を用意した。このSKD61鋼1
は、直径がW=22mmで中心から7mm離れた点を中
心にS部分が設けられている。このS部分は、図3に示
すようにSKD61鋼1を流通路2中に設置したときに
流通路2の中心部分に相当する位置とされている。そし
て、S部分は、SKD61鋼1の径方向の長さが4mm
であると共に、径方向に垂直な方向の長さが12mmで
その両端部は半円形状とされている。
【0042】このSKD61鋼1を1060℃の水素中
に80分間載置して溶体化を行った。その後、この鋼1
を885℃の湿潤水素中に16時間載置して表面脱炭を
行った。そして、脱炭後の表面硬さを測定した。その結
果、表面硬さHv212であった。
【0043】その後、図3に示すように浸炭ガスの流通
路2とその内部の鋼1の保持部3とを備えた装置を用い
て、550℃の水素−アセチレン雰囲気中を鋼1の片側
面に6時間吹き付けて浸炭を行った。ここで、浸炭ガス
の流通路2の高さはSKD61鋼の直径の2倍弱であっ
たので、SKD61鋼の上部のS部分が流通路2の高さ
方向の中央部に相当した。このため、浸炭ガスはS部分
に最も大きな流速で吹き付けた。そして、この鋼1の表
面硬さを測定した。SKD61鋼1の縦方向の直径W上
で1mmごとに硬さを測定した結果を表3に示し、SK
D61鋼のS部分でランダムな位置で硬さを測定した結
果を表4に示す。
【0044】表3,4に示すように、いずれの位置でも
浸炭前の硬さ(Hv212)よりも遙かに大きくなっ
た。特に表4に示すようにS部分の中では浸炭前の約3
倍の硬さになった部分もあった。したがって、本発明の
鋼の表面硬化方法は低炭素鋼に特に有効であると共に、
低炭素鋼の炭素含有量よりも多くの炭素を含む鋼であっ
ても脱炭を経て浸炭を行うことにより表面硬化できるこ
とが確認された。
【0045】
【表3】
【0046】
【表4】
【0047】
【発明の効果】以上の説明より明らかなように、請求項
1の炭素鋼の浸炭表面硬化方法は、少なくとも表面硬化
処理が求められる部分が低炭素でありかつ鉄よりも炭化
物形成傾向の大きい元素を含む鋼をA1 変態温度未満の
温度により浸炭剤中で加熱処理するようにしているの
で、鉄の結晶の中で鉄よりも炭化物形成傾向の大きい元
素の原子が移動すると共に、浸炭剤中の炭素が鋼の表面
で鉄よりも炭化物形成傾向の大きい元素の周囲に引き寄
せられて、炭素は鉄と結合することなく鋼の表面層に浸
透拡散し、その部分だけを析出硬化原理に基づき硬化さ
せる。しかも、その表面硬化は、焼入れをしなくとも、
1 変態温度よりも遙かに高い温度(950℃)で行う
従来の浸炭法と同等以上の硬度が得られる。
【0048】したがって、炭素鋼はA1 変態温度以上に
加熱されることがなく、マルテンサイト変態を起こさな
い。このため、鋼はマルテンサイト変態による著しい体
積膨張を起こすことがないので、鋼材の寸法精度を向上
させることができる。また、鋼材の焼き割れを防止して
歩留まりを良くすることができるので、製造コストを低
減することができる。しかも、従来はマルテンサイト変
態による体積膨張を避け焼入れを行うことができなかっ
た鋼製品でも表面硬化処理を行うことができるようにな
り、表面硬化可能な鋼製品の範囲を拡大することができ
る。
【0049】また、本発明の表面硬化方法によれば、炭
素鋼の加熱温度はA1 変態温度未満であるので、加熱に
必要な時間を短縮して鋼製品の製造時間の短縮化を図る
ことができると共に、加熱に必要なエネルギの使用量を
減少させてエネルギコストを削減することができる。し
かも、このサブA1 変態浸炭硬化処理によれば、後処理
として焼入れ及び焼戻しを行う必要がないので、従来の
浸炭処理に比べて表面硬化に必要な時間の短縮とエネル
ギの低減とを大幅に行うことができる。特に、500〜
650℃で加熱処理を行う場合には、A1 変態温度を大
きく下回る温度であってもちょうど鉄の結晶の中で金属
原子が移動でき始める温度であるため、炭化物形成能の
強い元素が溶けていれば、炭素がその周りに引きつけら
れて炭化物として析出することができる。即ち、最も少
ない加熱量で所望の表面硬化を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の鋼の表面硬化方法の実施例1により得
られたMAC24鋼の表面深さと硬さとの関係を示す図
である。
【図2】実施例5に使用したSKD61鋼の試験片を示
す斜視図である。
【図3】実施例5で使用した実験装置を示す側面図であ
る。
【符号の説明】
1 SKD61鋼の試験片

Claims (2)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 少なくとも表面硬化が要求される部分が
    低炭素でありかつ鉄よりも炭化物形成傾向の大きい元素
    を含む鋼を、A1 変態温度未満の温度により浸炭剤中で
    加熱処理することを特徴とする炭素鋼の浸炭表面硬化方
    法。
  2. 【請求項2】 前記加熱処理温度は500〜650℃で
    あることを特徴とする請求項1記載の炭素鋼の浸炭表面
    硬化方法。
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Cited By (2)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP2008544085A (ja) * 2005-06-22 2008-12-04 ダンマークス テクニスケ ウニヴァシティット ディ・ティ・ウ 炭化水素ガス中での浸炭化方法
CN103436840A (zh) * 2013-09-06 2013-12-11 安徽工业大学 一种钢材热加工中的补碳方法

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