JPH10176752A - メタルガスケット及びその製造方法 - Google Patents

メタルガスケット及びその製造方法

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JPH10176752A
JPH10176752A JP33564696A JP33564696A JPH10176752A JP H10176752 A JPH10176752 A JP H10176752A JP 33564696 A JP33564696 A JP 33564696A JP 33564696 A JP33564696 A JP 33564696A JP H10176752 A JPH10176752 A JP H10176752A
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博信 今中
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吉隆 阿部
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 折返し縁部におけるクラックの発生を防止し
つつ、折返し部以外におけるバネ特性を十分に確保し得
るガスケット構成板を備えたメタルガスケット及びその
製造方法を提供する。 【解決手段】 シリンダ孔6に対応させて開口部11を
形成し、開口部11の縁部に全周に亙って折返し部20
を形成したガスケット構成板15を有する単板構成又は
複板構成のメタルガスケット10であって、少なくとも
折返し部20の折返し縁部21の全周又は一部に、局部
的に硬度を低下させた硬度低減領域を設けた。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、折返し部を有する
ガスケット構成板を備えたメタルガスケット及びその製
造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】エンジンのシリンダブロックとシリンダ
ヘッド間に介装されるメタルガスケットとして、シリン
ダ孔に対応させて開口部を形成し、この開口部の縁部に
折返し部を形成して、折返し部の板厚分の隙間をその外
周側に確保することで、折返し部の外周側に配置される
ビードの異常変形を規制するように構成した単板構成又
は複板構成のメタルガスケットが種々提案され実用化さ
れている。ところが、折返し部はシリンダヘッドとシリ
ンダブロック間に挟持される関係上、エンジン駆動時に
は折返し縁部に対してメタルガスケットの厚さ方向(以
下、圧縮方向と称する)への繰返し荷重が作用し、また
シリンダヘッドとシリンダブロックとの熱膨張率の差か
ら、エンジンの温度変化により折返し部に対してメタル
ガスケットの面方向(以下、剪断方向と称する)への繰
り返し荷重も作用するため、図16に示すように、折返
し縁部100にその内側からクラック101が入って、
折返し部102が破断するという問題があった。
【0003】このため、従来はメタルガスケットを少な
くとも2枚以上の複板構成とし、第1のガスケット構成
板の開口縁を抱き込むように、第2のガスケット構成板
に折返し部を形成することで、折返し部の曲率半径を大
きくして、折返し縁部におけるクラックの発生を防止し
たものや、第1のガスケット構成板の素材として伸びは
少ないが引張強度が高くバネ性に優れた素材を用い、第
2のガスケット構成板の素材として引張強度は低いが伸
びの大きな素材を用い、第1のガスケットにビードを形
成することでビード性能を十分に確保し、第2のガスケ
ット構成板に折返し部を形成することで折返し縁部にお
けるクラックの発生を防止するように構成したものが主
流となっている。また、特開平5−65959号公報に
記載のように、ガスケット構成板の素材としての弾性金
属板に対して折返し部を形成する前に、折返し縁部の内
面側に対応する位置に環状溝を形成して、折返し縁部の
曲率半径を大きく設定することで、折返し縁部における
クラックの発生を抑制するように構成したメタルガスケ
ットも提案されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】従来のメタルガスケッ
トでは、基本的には、折返し縁部の曲率半径を大きく設
定する方法と、折返し部を形成するガスケット構成板の
素材として伸びの大きなものを用いる方法を採用するこ
とで折返し縁部におけるクラックの発生を防止するよう
に構成していたが、前者の方法では折返し縁部にけるク
ラックの発生を十分に低減することが困難であり、後者
の方法では、単板構成のメタルガスケットを製作するこ
とができず、しかも伸び特性の優れた高価な材料を用い
る必要があり製作コストが高くなるという問題がある。
本出願人は、折返し縁部におけるクラック発生のメカニ
ズムとして、弾性金属板を折返し加工すると、加工硬化
作用により折返し部付近の硬度が、例えばSUS430
2Bでは、図17に示すような数値となり、折返し縁
部における硬度が、他の部分よりも高くなってクラック
が入り易くなっていることに着目し、折返し縁部付近の
みの硬度を下げてその伸びを十分に確保することで、折
返し縁部におけるクラックの発生を防止しつつ、その他
の部分のバネ特性を十分に確保できるという発想を得
た。
【0005】本発明の目的は、折返し縁部におけるクラ
ックの発生を防止しつつ、折返し部以外におけるバネ特
性を十分に確保し得るガスケット構成板を備えたメタル
ガスケット及びその製造方法を提供することである。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明に係るメタルガス
ケットは、シリンダ孔に対応させて開口部を形成し、開
口部の縁部に全周に亙って折返し部を形成したガスケッ
ト構成板を有する単板構成又は複板構成のメタルガスケ
ットであって、少なくとも折返し部の折返し縁部の全周
又は一部に、局部的に硬度を低下させた硬度低減領域を
設けたものである。このよに構成してあるので、ガスケ
ット構成板に対して折返し部を形成するときに、折返し
縁部の硬度が加工硬化作用により上昇しても、硬度低減
領域においては局部的に硬度を低下させてあるので、折
返し縁部における硬度は実質的に低く抑えられることに
なる。つまり、折返し縁部における素材の伸びが十分に
確保されて、折返し縁部におけるクラックの発生が防止
されることになる。また、硬度低減領域においては局部
的に硬度を低減させてあるので他の部分におけるバネ特
性が低下することもない。
【0007】ここで、請求項2記載のように、硬度低減
領域の硬度を他の部分の硬度以下に設定することが好ま
しい。このように設定すると、折返し縁部における伸び
が十分に確保され、折返し縁部におけるクラックの発生
が効果的に防止されることになる。請求項3記載のよう
に、ガスケット構成板を圧延板材で構成し、折返し縁部
のうちの圧延板材の圧延方向と直交方向へ延びる部分を
中心とした一定角度の範囲内の部分に硬度低減領域を設
けてもよい。このように構成すると、硬度低減領域の形
成範囲を極力小さくしつつ、折返し縁部におけるクラッ
クの発生が効果的に防止されることになる。つまり、圧
延板材においては圧延方向への伸びがそれと直交する方
向への伸びよりも小さくなるので、折返し縁部のうちの
折返し部の形成時に圧延方向へ伸ばされる部分のみの硬
度を下げることで、硬度低減領域の形成範囲を極力小さ
くしつつ、折返し縁部におけるクラックの発生を防止で
きることになる。
【0008】請求項4記載のように、折返し部の外周側
に環状ビードを形成し、環状ビードよりも内周側の部分
の全周又は一部に硬度低減領域を設けてもよい。この場
合には、折返し縁部におけるクラックの発生が防止され
るとともに、環状ビードのバネ特性が十分に確保される
ことになる。
【0009】請求項5記載のように、折返し部を形成し
たガスケット構成板の素材として、JIS規格で規定す
るSUS301−CSP H又はSUS304−CSP
H或いはSUS430で代表されるフェライト系のス
テンレス鋼板を用いることが、硬度低減領域以外の部分
におけるバネ特性を十分に確保し、且つ折返し縁部の硬
度低減領域における伸びを十分に確保する上で好まし
い。具体的な硬度としては、請求項6記載のように、硬
度低減領域の硬度をビッカース硬さHvにおいて170
〜445に設定することが好ましい。また、請求項7記
載のように、硬度低減領域と他の領域の硬さの差をビッ
カース硬さHvにおいて0〜260に設定することで、
極端な硬度差によるクラックの発生等を未然に防止でき
ることになる。
【0010】また、請求項8記載のように、少なくとも
折返し縁部の全周又は一部を他の部分よりも薄肉に構成
してもよく、このように構成すると折返し部の曲率半径
を大きく設定できるとともに、折返し部を形成するとき
における折返し縁部の伸び量を少なくして、折返し縁部
におけるクラックの発生を一層効果的に防止できること
になる。
【0011】請求項9に係るメタルガスケットの製造方
法は、請求項1〜8のいずれか1項記載のメタルガスケ
ットにおけるガスケット構成板の素材としての弾性金属
板にシリンダ孔に対応させて要求サイズの開口部を形成
する工程と、弾性金属板のうちのガスケット構成板にお
ける硬度低減領域に対応する部分に対して焼鈍処理を施
す工程と、開口部付近を折返して折返し部を形成する工
程とを備えたものである。この製造方法においては、弾
性金属板に折返し部を形成することで、折返し縁部の硬
度は加工硬化作用により高くなるが、折返し縁部に対応
するクラックの発生し易い部分、つまりガスケット構成
板の硬度低減領域に対応する部分は、折返し前に施した
焼鈍処理によりその硬度が大幅に低くなっているので、
折返しにより硬度が高くなったとしても、見掛け上の硬
度は低く抑えられることになる。つまり、このようにし
て製作したガスケット構成板では、折返し縁部の硬度が
低く抑えられ、折返し縁部における伸びが十分に確保さ
れて、クラックの発生が防止されることになる。
【0012】請求項10に係るメタルガスケットの製造
方法は、請求項1〜8のいずれか1項記載のメタルガス
ケットにおけるガスケット構成板の素材としての弾性金
属板にシリンダ孔に対応させて要求サイズよりも多少小
径の開口部を形成する工程と、弾性金属板のうちのガス
ケット構成板における硬度低減領域に対応する部分及び
その内周側の部分に焼鈍処理を施す工程と、開口部を要
求サイズに打抜き加工する工程と、要求サイズの開口部
付近を折返して折返し部を形成する工程とを備えたもの
である。この製造方法においては、請求項9と同様の作
用が得られるとともに、予め要求サイズよりも多少小径
の開口部を形成し、焼鈍処理した後打抜き加工を施して
要求サイズに成形するので、焼鈍処理により開口部の寸
法が変動しても、焼鈍処理後における打抜き加工により
寸法の変動した部分が除去されて、適正な寸法の開口部
が形成されることになる。
【0013】請求項11に係るメタルガスケットの製造
方法は、請求項1〜8のいずれか1項記載のメタルガス
ケットにおけるガスケット構成板の素材としての弾性金
属板にシリンダ孔に対応させて要求サイズの開口部を形
成する工程と、要求サイズの開口部付近をバーリングし
て立起部を形成する工程と、立起部の基端部のうちのガ
スケット構成板における硬度低減領域に対応する部分に
焼鈍処理を施す工程と、立起部を折返して折返し部を形
成する工程とを備えたものである。この製造方法におい
ては、請求項9と同様の作用が得られるとともに、バー
リング加工して立起させた部分に対して焼鈍処理を施す
ので、立起部の基端部を効率的に加熱して焼鈍処理する
ことが可能となり、硬度低減領域以外の部分への伝熱を
極力少なくすることが可能となる。
【0014】焼鈍処理時における加熱は、局部的に弾性
金属板を加熱できるものであれば種々の加熱手段を用い
ることが可能であるが、例えば、請求項12記載のよう
に、誘導加熱手段或いはレーザ加熱手段を用いることが
好ましい。
【0015】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施例について図
面を参照しながら説明する。本実施例は、直列4気筒エ
ンジンのメタルガスケットに本発明を適用した場合のも
のである。図1に示すように、エンジン1のシリンダブ
ロック2には図示外の複数のヘッド固定用ボルトを介し
てシリンダヘッド3が固定され、シリンダブロック2と
シリンダヘッド3間には両者の合わせ面をシールするた
めのメタルガスケット10が介装されている。シリンダ
ブロック2には4つのシリンダ孔4が形成され、シリン
ダ孔4内にはピストン5が上下移動自在に略気密状に組
付けられ、ピストン5の上側においてシリンダ孔4内に
は燃焼室6が形成されている。シリンダヘッド3には燃
焼室6に開口する図示外の吸気ポート及び排気ポートが
形成され、これらのポートはシリンダヘッド3に組付け
られた動弁機構により所定のタイミングで開閉操作され
るように構成されている。
【0016】メタルガスケット10には、シリンダ孔4
に対応させて設けた4つの開口部11と、ヘッド固定用
ボルトが挿通する複数のボルト孔12と、シリンダブロ
ック2とシリンダヘッド3間において冷却水や潤滑油を
流通させるための水孔(図示略)や油孔13などが形成
されている。メタルガスケット10は、図1〜図4に示
すように、弾性金属板からなるガスケット構成板15の
上下両面にNBRゴムやフッ素ゴムなどからなる図示外
のゴムコーティング層を形成した単板構成のメタルガス
ケット10であり、開口部11の外周側にはシリンダブ
ロック2側へ突出する環状ビード16が開口部11を取
り囲んで形成され、この環状ビード16により燃焼室6
が気密状にシールされるように構成されている。また、
隣接する環状ビード16は、シリンダ孔4間距離を極力
小さくしてエンジン1を小型に構成するため、最接近位
置付近において合流されている。ガスケット構成板15
の外周部にはシリンダブロック2側へ突出した外周ビー
ド17が連続的に形成され、ボルト孔12及び油孔13
の外周部には外周ビード17の一部を環状に分岐させた
孔ビード18が形成され、外周ビード17及び孔ビード
18により冷却水や潤滑油がシールされるように構成さ
れている。
【0017】ガスケット構成板15の開口部11の縁部
にはシリンダブロック2側へ折返した折返し部20が形
成され、この折返し部20の厚さ分の隙間が環状ビード
16付近に形成されることで、ヘッド固定用ボルトを締
結したときにおけるビード16〜18の異常変形が防止
されている。但し、メタルガスケット10のビード16
〜18の突出方向や断面形状やレイアウト、折返し部2
0の折返し方向等に関しては、エンジン1の構成等に応
じて適宜に設定することになる。例えば、環状ビード1
6として合流部分を有しない独立の環状ビードを設けた
り、外周ビード17と孔ビード18とを独立のビードで
構成したり、外周ビードとして単に段差を形成しただけ
のステップビードを採用したりすることが可能で、基本
的には、折返し部20を有するメタルガスケットであれ
ば図例以外の構成のメタルガスケットに対しても本発明
を同様に適用できる。
【0018】ガスケット構成板15の環状ビード16よ
りも内側において少なくとも折返し縁部21付近には、
後述のように折返し前に焼鈍処理を行うことで他の部分
の硬度と同等或いはそれ以下の硬度に設定した図2にハ
ッチングで示す硬度低減領域23が、全周に亙って形成
されている。ガスケット構成板15の素材としては、伸
び率が小さくバネ特性に優れた素材で且つ焼鈍処理によ
り伸び率が格段に大きくなるステンレス鋼板やバネ鋼板
などを用いることが好ましい。つまり、ガスケット構成
板15のビード16〜18においては、シール性能を高
めるため優れたバネ特性が得られ、焼鈍処理される硬度
低減領域23においては、伸び率が大きくなって折返し
縁部21におけるクラックの発生が防止されるような素
材を用いることになる。
【0019】硬度低減領域23以外の部分の硬度は、ビ
ード16〜18におけるバネ特性を高めるため、ビッカ
ース硬さHvにおいて400〜550に設定することが
好ましい。また、硬度低減領域23の硬度は、硬度低減
領域23以外の部分の硬度と同等或いはそれ以下の硬度
に設定されるとともに、折返し縁部21におけるクラッ
クの発生を防止するため、ビッカース硬さHvにおいて
170〜445に設定することが好ましい。更に硬度低
減領域23と他の領域の硬さの差が大きくなると、硬さ
の急激な変化によりクラック等が発生することも考えら
れるので、硬度低減領域23と他の領域の硬さの差はビ
ッカース硬さHvにおいて0〜260に設定することが
好ましい。具体的な素材としては、表1に示すような組
成及び表2に示すような機械的性質を有する、JIS規
格で規定されるSUS301−CSP H、SUS30
4−CSP H、SUS430 2Bで代表されるフェ
ライト系のステンレス鋼板、或いはS−4H(日本金属
工業株式会社製)を用いることが好ましい。但し、前述
のような特性を備えた素材であれば、SUS301−C
SP H、SUS304−CSP H、SUS430
2B、S−4H以外の素材も用いることも可能である。
尚、表2では、固溶化処理材を焼鈍後、ハード材を焼鈍
前として取扱い、それぞれの機械的性質を記載した。
【0020】
【表1】
【0021】
【表2】
【0022】そして、このように折返し縁部21の伸び
が十分に確保されることで、エンジン1駆動時における
メタルガスケット10の厚さ方向(以下、圧縮方向と称
する)への繰返し荷重や、シリンダブロック2とシリン
ダヘッド3の熱膨張率の差により発生するメタルガスケ
ット10の面方向(以下、剪断方向と称する)への繰返
し荷重が効果的に吸収され、折返し縁部21におけるク
ラックの発生が未然に防止されることになる。また、硬
度低減領域23以外の部分、つまりビード部分に対して
は焼鈍処理が施されず、バネ特性が十分に確保されるの
で、燃焼室6や潤滑油通路や冷却水通路を効果的にシー
ルすることが可能となる。つまり、メタルガスケット1
0においては、安価な素材を用い且つ単板構成とするこ
とで、その製作コストを大幅に低減し、しかもシール性
能を十分に確保し且つ折返し縁部21におけるクラック
の発生を防止できるといった優れた特性を有する単板構
成のメタルガスケット10を実現できるのである。尚、
図1に示すように、開口部11の内径D1をシリンダ孔
4の内径D2よりも多少小さく設定して、折返し縁部2
1がシリンダブロック2とシリンダヘッド3間に挟持さ
れないようにし、エンジン1駆動時における圧縮方向へ
の荷重が折返し縁部21に直接的に作用しないように構
成してもよい。
【0023】次に、前記メタルガスケット10の製造方
法について説明する。先ず、図5(a)に示すように、
ガスケット構成板15の素材としての弾性金属板15’
に対して、折返し部20の径方向の長さ分だけ開口径を
小さく設定した開口部11Aを打抜き加工により形成す
る。但し、このとき、図示していないが、水孔や油孔1
3も開口部11Aとともに弾性金属板15’に対して形
成することもある。
【0024】次に、図5(b)に示すように、弾性金属
板15’を脱脂処理した後、開口部11Aに誘導コイル
30を挿入して、ガスケット構成板15の硬度低減領域
23に対応するハッチングで示す領域23’を固溶化温
度或いは固溶化温度付近まで加熱し、その後空冷又は徐
冷することで領域23’に対して焼鈍処理を施す。尚、
このとき環状ビード16が形成される部分まで加熱され
ないようにするため、領域23’以外の部分の上下両面
に絶縁材からなるマスキング板を積層状に配置させた状
態で加熱してもよい。また、加熱方法としては、局部加
熱が可能な、例えばレーザー加熱手段を用いることも可
能である。尚、前記弾性金属板15’に形成する開口部
11Aの直径を前述よりも多少小径に構成し、領域2
3’に対して焼鈍処理を施した後、要求サイズに打抜き
加工を施してもよい。この場合には、焼鈍処理により熱
収縮した部分を除去して適正な寸法の開口部11Aを形
成することが可能となる。
【0025】次に、図5(c)〜(d)に示すように、
開口部11Aに対してバーリング加工とカーリング加工
とフラットニング加工を順次施し、領域23’を半径方
向の途中部で折返すことで、弾性金属板15’の開口縁
部に折返し部20を形成する。但し、前述の焼鈍処理を
省略し、バーリング加工或いはカーリング加工した状態
で、開口部11Aに誘導コイル30を挿入して焼鈍処理
を施してもよい。この場合には、図5(c)、(d)に
示すように、バーリング加工或いはカーリング加工によ
り開口部11Aにより形成された立起部31の基端部に
誘導加熱が集中するので、折返し縁部21付近の極限ら
れ範囲に対して焼鈍処理を施すことが可能となる。次
に、プレス加工により弾性金属板15’に対してビード
16〜18を形成してガスケット構成板15を製作し、
このガスケット構成板15の上下両面にゴムコーティン
グ層を形成して、メタルガスケット10を得ることにな
る。
【0026】このような製造方法では、焼鈍処理を行う
ための工程を新設する必要はあるが、温間状態で折返し
加工等を行う訳ではないので、既存の製造ラインを殆ど
変更することなく、メタルガスケット10を製作するこ
とが可能となる。また、このようにして製作したガスケ
ット構成板15の折返し部20付近の硬度分布は、SU
S301H CSPを用いたガスケット構成板15では
図6(a)のような分布になり、SUS304H CS
Pを用いたガスケット構成板15では、図6(b)のよ
うな分布となり、S−4Hを用いたガスケット構成板1
5では、図6(c)のような分布となっており、いずれ
の素材を用いた場合でも、折返し縁部21における硬度
は他の部分における硬度と同等或いはそれ以下になり、
折返し縁部21におけるクラックの発生が防止されてい
ることが判る。
【0027】次に、前記実施例と同じ構成の折返し部2
0を備えた複板構成のメタルガスケットについて簡単に
説明する。尚、前記実施例と同一部材には同一符号を付
してその詳細な説明を省略する。図7に示すメタルガス
ケット10Aは、開口部11の外周側に環状ビード16
を形成したビード板40と、開口縁部に折返し部20を
形成したストッパー板41とを上下に積層状に配した、
2枚のガスケット構成板からなるメタルガスケットであ
る。このメタルガスケット10Aにおけるストッパー板
41は、前記実施例におけるガスケット構成板15と同
様の素材からなり、折返し縁部21を含むクロスハッチ
ングで示す部分に焼鈍処理が施され、前記実施例と同様
に焼鈍処理により折返し縁部21における伸びが十分に
確保されてクラックの発生が防止されている。尚、符号
42は、ストッパー板41の反りを防止するため、折返
し部20の外周側に形成した段差部である。
【0028】尚、図8に示すメタルガスケット10Bの
ように、メタルガスケット10Aのストッパー板41の
下側に環状ビード16を有する別のビード板43を積層
した、3枚のガスケット構成板からなるメタルガスケッ
トを製作することも可能である。また、図9に示すメタ
ルガスケット10Cのように、ガスケット構成板15の
下側にスペーサ板44とビード板43とを積層して、3
枚のガスケット構成板からなるメタルガスケットを製作
することも可能である。また、図10に示すメタルガス
ケット10Dのように、2枚のビード板40、43間に
スペーサ板44とストッパー板41とを上下に積層状に
設け、4枚のガスケット構成板からなるメタルガスケッ
トを製作することも可能である。
【0029】図11に示すメタルガスケット10Eは、
上下1対のビード板40、43間にストッパー板45と
スペーサ板44とを上下に配し、スペーサ板44の開口
縁部を抱き込むようにストッパー板45の開口縁部に折
返し部20Eを形成した、4枚のガスケット構成板から
なるメタルガスケットである。このメタルガスケット1
0Eでは、クロスハッチングで示す折返し縁部21Eに
焼鈍処理を施すことにより、折返し縁部21Eの伸びが
大きなり、しかも折返し縁部21Eの曲率半径が大きく
設定されているので、折返し縁部21Eにおけるクラッ
クの発生が一層効果的に防止されることになる。尚、こ
れらメタルガスケット10A〜10Eにおいてそれを構
成する複数のガスケット構成板は、図示していないが、
リベットやハトメなどを介して或いはカーリングやメカ
ニカルクリンチや溶接などにより積層状に結合されてい
る。また、これらメタルガスケット10A〜10Eを構
成するガスケット構成板の対向面の少なくとも一方とシ
リンダブロック2及びシリンダヘッド3の対向面にゴム
コーティング層を形成してもよい。
【0030】次に、折返し部20の構成を部分的に変更
した他の実施例について説明する。 (1) ガスケット構成板15或いはストッパー板4
1、45の素材として圧延板材を用いる場合には、図1
2に示すように、折返し部20のうちの圧延方向と直交
方向へ延びる部分を中心とした一定角度の範囲内のハッ
チングで示す部分に硬度低減領域23を設けてもよい。
このように構成すると、硬度低減領域23の形成範囲を
極力小さくしつつ、折返し縁部21におけるクラックの
発生を効果的に防止できることになる。
【0031】(2) 図13(a)に示すように、ガス
ケット構成板15或いはストッパー板41の素材として
の弾性金属板15’に、折返し縁部21の内側に沿って
その全周又は一部に予め凹溝46を形成し、これを
(b)示すように折返して折返し部20を形成してもよ
い。この場合には、折返し縁部21の内側に隙間が形成
されて折返し縁部21の内面側の曲率半径が大きくなる
ので、折返し縁部21におけるクラックの発生が一層効
果的に防止されることになる。また、凹溝46は硬度低
減領域23に対応させて形成してもよい。但し、折返し
縁部21における厚さを薄くすると、折返し部20の成
形時における伸び量(加工量)が少なくなり、折返し縁
部21における伸び可能な量が大きくなってクラックの
発生が防止されるので、折返し縁部21の外面側に凹溝
を形成してもよい。
【0032】(3) 図14(a)に示すように、ガス
ケット構成板15又はストッパー板41の素材としての
弾性金属板15’の折返し縁部21に対応する位置から
開口縁部までの部分に、薄肉部47を開口縁に沿ってそ
の全周又は一部に形成し、(b)に示すように、薄肉部
47の外周部付近を中心に開口縁部を折り返して折返し
部20を形成することで、折返し部20の肉厚を微妙に
調整して、折返し部20の面圧が開口縁前周に亙って略
同じになるように設定してもよい。また、図15(a)
に示すように、折返し部20及びそれに対面する部分に
対応する弾性金属板15’の部分に薄肉部48を全周又
は一部に形成して、(b)のように、薄肉部48の径方
向の途中部を中心に開口縁部を折返して折返し部20を
形成してもよい。尚、薄肉部47、48は硬度低減領域
23に対応させて形成してもよい。尚、本実施例では4
気筒直列エンジンのメタルガスケットに本発明を適用し
たが、4気筒以外の多気筒エンジンや単気筒エンジン或
いはV型エンジンのメタルガスケットに対しても本発明
を同様に適用できる。
【0033】
【発明の効果】本発明に係るメタルガスケットによれ
ば、折返し縁部に局部的に硬度を低下させた硬度低減領
域を設けるという簡単な構成で、メタルガスケットの素
材として一般的に用いられている安価な素材を使用しつ
つ、折返し縁部における素材の伸びを十分に大きく設定
して、折返し縁部におけるクラックの発生を確実に防止
することが可能となる。しかも、硬度低減領域以外の部
分におけるバネ特性は低下しないので、1枚のガスケッ
ト構成板にビードと折返し部とを形成した場合でも、ビ
ードのバネ特性を十分に確保してシール性能を高めつ
つ、折返し部の縁部におけるクラックの発生を防止で
き、品質の良い単板構成や複板構成のメタルガスケット
を実現することが可能となる。
【0034】請求項2記載のように構成すると、折返し
縁部におけるクラックの発生を略確実に防止することが
可能となる。請求項3記載のように構成すると、ガスケ
ット構成板の圧延方向に応じて硬度低減領域を設定する
ことで、硬度低減領域を極力狭くすることが可能とな
る。請求項4記載のように構成すると、折返し部の外周
側に配置される環状ビードのバネ特性を十分に確保する
ことが可能となる。請求項5記載のようにガスケット構
成板の素材として、JIS規格で規定するSUS301
−CSP H又はSUS304−CSP H或いはSU
S430で代表されるフェライト系のステンレス鋼板を
用いると、硬度低減領域以外の部分におけるガスケット
構成板のバネ特性を十分に確保し、且つ折返し縁部の硬
度低減領域における伸びを十分に確保することが可能と
なり、ガスケット構成板によるシール性能を向上しつつ
折返し縁部におけるクラックの発生を防止できる。
【0035】請求項6記載のように、硬度低減領域の硬
度を適正に設定することで、折返し縁部におけるクラッ
クの発生を確実に防止することが可能となる。請求項7
記載のように、硬度低減領域と他の領域の硬さの差を適
正に設定することで、急激な硬度変化を防止して、硬度
の差によるクラックの発生を未然に防止することが可能
となる。
【0036】請求項8記載のように構成すると折返し部
の曲率半径を大きく設定して、折返し加工時における折
返し縁部の伸び量を少なくすることで、折返し縁部にお
けるクラックの発生を一層効果的に防止できる。請求項
9に係るメタルガスケットの製造方法によれば、硬度低
減領域に対して焼鈍処理を施して折返し縁部におけるク
ラックの発生を防止するので、焼鈍処理を行うための工
程を新設する必要はあるが、温間状態で折返し加工等を
行う訳ではないので、既存の製造ラインを殆ど変更する
ことなく、請求項1〜8記載のメタルガスケットを製作
することが可能となる。
【0037】請求項10に係るメタルガスケットの製造
方法によれば、請求項9と同様の効果が得られるととも
に、開口部の寸法精度を向上して品質の良いガスケット
構成板を製作することが可能となる。請求項11に係る
メタルガスケットの製造方法によれば、請求項9と同様
の効果が得られるとともに、開口部をバーリングして立
起部を形成した状態で硬度低減領域に対応する部分に焼
鈍処理を施すので、立起部の基端部に熱を集中させてス
ポット的に硬度低減領域に対して焼鈍処理を施すことが
可能となる。このため、折返し部の外周側にビードを接
近させた配置させる場合でも、ビード部分まで焼鈍処理
が施されることを防止して、ビードのバネ特性を十分に
確保することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明のメタルガスケットを装着したエンジ
ンの要部縦断面図
【図2】 同メタルガスケットの底面図
【図3】 図2のIII-III 線断面図
【図4】 図2のIV−IV線断面図
【図5】 同メタルガスケットの製造方法の説明図
【図6】 同メタルガスケットの折返し縁部付近におけ
る硬度分布の説明図
【図7】 複板構成のメタルガスケットの開口部付近の
縦断面図
【図8】 他の複板構成のメタルガスケットの開口部付
近の縦断面図
【図9】 他の複板構成のメタルガスケットの開口部付
近の縦断面図
【図10】 他の複板構成のメタルガスケットの開口部
付近の縦断面図
【図11】 他の複板構成のメタルガスケットの開口部
付近の縦断面図
【図12】 硬度低減領域の他の設定方法の説明図
【図13】 他の構成の折返し部付近の(a)は折返し
前、(b)は折返し後の縦断面図
【図14】 他の構成の折返し部付近の(a)は折返し
前、(b)は折返し後の縦断面図
【図15】 他の構成の折返し部付近の(a)は折返し
前、(b)は折返し後の縦断面図
【図16】 折返し部におけるクラックの発生し易い箇
所の説明図
【図17】 従来のガスケット構成板における折返し縁
部付近における硬度分布の説明図
【符号の説明】
1 エンジン 2 シリンダブロ
ック 3 シリンダヘッド 4 シリンダ孔 5 ピストン 6 燃焼室 10 メタルガスケット 11 開口部 12 ボルト孔 13 油孔 15 ガスケット構成板 16 環状ビード 17 外周ビード 18 孔ビード 20 折返し部 21 折返し縁部 23 硬度低減領域 15’ 弾性金属板 23’ 領域 11A 開口部 30 誘導コイル 31 立起部 10A メタルガスケット 40 ビード板 41 ストッパー板 42 段差部 10B メタルガスケット 43 ビード板 10C メタルガスケット 44 スペーサ板 10D メタルガスケット 10E メタルガスケット 45 ストッパー板 20E 折返し部 21E 折返し縁部 46 凹溝 47 薄肉部 48 薄肉部

Claims (12)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 シリンダ孔に対応させて開口部を形成
    し、開口部の縁部に全周に亙って折返し部を形成したガ
    スケット構成板を有する単板構成又は複板構成のメタル
    ガスケットであって、 少なくとも折返し部の折返し縁部の全周又は一部に、局
    部的に硬度を低下させた硬度低減領域を設けたメタルガ
    スケット。
  2. 【請求項2】 硬度低減領域の硬度を他の部分の硬度以
    下に設定した請求項1記載のメタルガスケット。
  3. 【請求項3】 ガスケット構成板を圧延板材で構成し、
    折返し縁部のうちの圧延板材の圧延方向と直交方向へ延
    びる部分を中心とした一定角度の範囲内の部分に硬度低
    減領域を設けた請求項1又は2記載のメタルガスケッ
    ト。
  4. 【請求項4】 折返し部の外周側に環状ビードを形成
    し、環状ビードよりも内周側の部分の全周又は一部に硬
    度低減領域を設けた請求項1〜3のいずれか1項記載の
    メタルガスケット。
  5. 【請求項5】 折返し部を形成したガスケット構成板の
    素材として、JIS規格で規定するSUS301−CS
    P H又はSUS304−CSP H或いはSUS43
    0で代表されるフェライト系のステンレス鋼板を用いた
    請求項1〜4のいずれか1項記載のメタルガスケット。
  6. 【請求項6】 硬度低減領域の硬度をビッカース硬さH
    vにおいて170〜445に設定した請求項1〜5のい
    ずれか1項記載のメタルガスケット。
  7. 【請求項7】 硬度低減領域と他の領域の硬さの差をビ
    ッカース硬さHvにおいて0〜260に設定した請求項
    1〜6のいずれか1項記載のメタルガスケット。
  8. 【請求項8】 少なくとも折返し縁部の全周又は一部を
    他の部分よりも薄肉に構成した請求項1〜7のいずれか
    1項記載のメタルガスケット。
  9. 【請求項9】 請求項1〜8のいずれか1項記載のメタ
    ルガスケットにおけるガスケット構成板の素材としての
    弾性金属板にシリンダ孔に対応させて要求サイズの開口
    部を形成する工程と、 弾性金属板のうちのガスケット構成板における硬度低減
    領域に対応する部分に対して焼鈍処理を施す工程と、 開口部付近を折返して折返し部を形成する工程と、 を備えたメタルガスケットの製造方法。
  10. 【請求項10】 請求項1〜8のいずれか1項記載のメ
    タルガスケットにおけるガスケット構成板の素材として
    の弾性金属板にシリンダ孔に対応させて要求サイズより
    も多少小径の開口部を形成する工程と、 弾性金属板のうちのガスケット構成板における硬度低減
    領域に対応する部分及びその内周側の部分に焼鈍処理を
    施す工程と、 開口部を要求サイズに打抜き加工する工程と、 要求サイズの開口部付近を折返して折返し部を形成する
    工程と、 を備えたメタルガスケットの製造方法。
  11. 【請求項11】 請求項1〜8のいずれか1項記載のメ
    タルガスケットにおけるガスケット構成板の素材として
    の弾性金属板にシリンダ孔に対応させて要求サイズの開
    口部を形成する工程と、 要求サイズの開口部付近をバーリングして立起部を形成
    する工程と、 立起部の基端部のうちのガスケット構成板における硬度
    低減領域に対応する部分に焼鈍処理を施す工程と、 立起部を折返して折返し部を形成する工程と、 を備えたメタルガスケットの製造方法。
  12. 【請求項12】 誘導加熱手段或いはレーザ加熱手段を
    用いて焼鈍処理を施す請求項9〜11のいずれか1項記
    載のメタルガスケットの製造方法。
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