JPH0999371A - 鋼板の下向隅肉サブマージアーク溶接方法 - Google Patents

鋼板の下向隅肉サブマージアーク溶接方法

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JPH0999371A
JPH0999371A JP25541795A JP25541795A JPH0999371A JP H0999371 A JPH0999371 A JP H0999371A JP 25541795 A JP25541795 A JP 25541795A JP 25541795 A JP25541795 A JP 25541795A JP H0999371 A JPH0999371 A JP H0999371A
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Tomoyuki Abe
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Abstract

(57)【要約】 (修正有) 【課題】 ウェブ板厚が100mmまでの鋼板を完全溶
込溶接できる下向隅肉サブマージアーク溶接方法。 【解決手段】 鉄粉:15乃至35重量%を含有し、
C:0.005重量%以下に規制したボンドフラックス
と、C:0.02乃至0.09重量%を含有する溶接用
鋼ワイヤを使用し、開先角度が40乃至60°の両側開
先を設け、母材板厚tに対するルート長さを0.15乃
至0.20t、ワーク傾斜角を55乃至80°、先行電
極の電流値IL2 と後行電極の電流値IT2 との電流比
(IT2/IL2)を0.65乃至1.00、先行電極の
電圧値VL2と後行電極の電圧値VT2との電圧比(VT
2/VL2)を1.00乃至1.50、先行電極のワイヤ
傾斜角を+3乃至+6°、後行電極のワイヤ傾斜角を−
10乃至−3°、先行−後電極間距離を50乃至70m
mとして溶接。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は建築物等の厚板に対して
使用され、ウェブ板厚が100mmまでの鋼板を完全溶
込み溶接することができると共に、優れた溶接作業性及
び溶接金属が得られる鋼板の下向隅肉サブマージアーク
溶接方法に関する。
【0002】
【従来の技術】近時、建築物の高層化に伴って、建築物
に使用される鋼材の板厚が厚くなってきている。また、
溶接H形鋼を梁としてだけでなく柱として利用すること
によって、建設費の低減を図っている。このため、H形
鋼においても厚板化が進んでおり、厚板に対しても高強
度で優れた溶接作業性が得られる溶接方法が要求されて
いる。
【0003】そこで、ウェブ両側に板厚の(1/4)乃
至(1/3)の深さの開先を設けて、2電極両側1パス
法でサブマージアーク溶接することにより、板厚が36
mmを超えて60mmの厚板まで完全溶込み溶接できる
ことが公知である(特開平5−57448号公報)。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、板厚が
60mmを超えると、板厚の(1/5)乃至(1/4)
の開先を設けて部分溶込み溶接しかできなくなる。完全
溶込み溶接を得るために溶接条件を調整し、例えば開先
ルート部を長くすると、溶込み深さが不安定になること
がある。また、溶込み深さを大きくすると、高温割れが
発生しやすくなるか、又は各電極からの溶着金属の融合
不良によって、割れが発生したり、ビードの外観が不良
になる等の問題点がある。
【0005】本発明はかかる問題点に鑑みてなされたも
のであって、ウェブ板厚が100mmまでの鋼板を完全
溶込み溶接することができると共に、優れた溶接作業性
及び溶接金属が得られる鋼板の下向隅肉サブマージアー
ク溶接方法を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明に係る鋼板の下向
隅肉サブマージアーク溶接方法は、C:0.05乃至
0.16重量%を含有し、板厚が40mm以上85mm
未満である鋼板母材を先行極及び後行極からなる2電極
で下向隅肉サブマージアーク溶接する方法において、フ
ラックスは、全SiO2 :15乃至28重量%、Al2
3:10乃至20重量%、全TiO2 :5乃至14重
量%、MgO:10乃至20重量%、CaCO3 :7乃
至15重量%、全Mn:0.5乃至8重量%、鉄粉:1
5乃至35重量%、水溶性SiO2 :1.0乃至6.0
重量%、CaF2 :1.5乃至7.0重量%及び(水溶
性Na2O +水溶性K2O +水溶性Li2O ):1.5
乃至3.5重量%を含有し、C:0.005重量%以下
に規制されており、(水溶性Na2O +水溶性K2O +
水溶性Li2O )/(全Na2O +全K2O +全Li2
O):0.60乃至0.98及び(MgO/全Si
2 ):0.50乃至1.10である組成を有し、嵩密
度が0.90乃至1.30g/cm3 であり、溶接用ワ
イヤは、C:0.02乃至0.09重量%及びMn:
1.80乃至2.20重量%を含有し、ワイヤ径が4.
8乃至7.2mmである鋼ワイヤであり、前記母材に開
先角度が40乃至60°の両側開先を設け、前記母材の
板厚t(mm)に対するルート長さ(mm)を0.15
t乃至0.20t、ワーク傾斜角を55乃至80°、前
記先行極の電流値IL2と前記後行極の電流値IT2との
電流比(IT2/IL2)を0.65乃至1.00、前記
先行極の電圧値VL2 と前記後行極の電圧値VT2 との
電圧比(VT2/VL2)を1.00乃至1.50、前記
先行極のワイヤ傾斜角を+3乃至+6°、前記後行極の
ワイヤ傾斜角を−10乃至−3°、先行−後行極間距離
を50乃至70mmとして前記母材を溶接することを特
徴とする 本発明に係る鋼板の下向隅肉サブマージアーク溶接方法
は、C:0.05乃至0.16重量%を含有し、板厚が
70乃至100mmである鋼板母材を先行極、中間極及
び後行極からなる3電極で下向隅肉サブマージアーク溶
接する方法において、フラックスは、全SiO2 :15
乃至28重量%、Al23:10乃至20重量%、全T
iO2 :5乃至14重量%、MgO:10乃至20重量
%、CaCO3 :7乃至15重量%、全Mn:0.5乃
至8重量%、鉄粉:15乃至35重量%、水溶性SiO
2 :1.0乃至6.0重量%、CaF2 :1.5乃至
7.0重量%及び(水溶性Na2O +水溶性K2O +水
溶性Li2O ):1.5乃至3.5重量%を含有し、
C:0.005重量%以下に規制されており、(水溶性
Na2O +水溶性K2O +水溶性Li2O )/(全Na
2O +全K2O +全Li2O):0.60乃至0.98
及び(MgO/全SiO2 ):0.50乃至1.10で
ある組成を有し、嵩密度が0.90乃至1.30g/c
3 であり、溶接用ワイヤは、C:0.02乃至0.0
9重量%及びMn:1.80乃至2.20重量%を含有
し、ワイヤ径が4.8乃至7.2mmである鋼ワイヤで
あり、前記母材に開先角度が40乃至60°の両側開先
を設け、前記厚鋼板の板厚t(mm)に対するルート長
さ(mm)を0.15t乃至0.20t、ワーク傾斜角
を55乃至80°、前記先行極の電流値IL3と前記中
間極の電流値IM3との電流比(IM3/IL3)を0.
65乃至1.00、前記中間極の電流値IM3 と前記後
行極の電流値IT3 との電流比(IT3/IM3)を0.
65乃至1.00、前記先行極の電圧値VL3と前記中
間極の電圧値VM3との電圧比(VM3 /VL3 )を
1.00乃至1.50、前記中間極の電圧値VM3 と前
記後行極の電圧値VT3 との電圧比(VT3/VM3)を
0.80乃至1.20、前記先行極のワイヤ傾斜角を+
3乃至+6°、前記中間極のワイヤ傾斜角を−2乃至+
2°、前記後行極のワイヤ傾斜角を−10乃至−3°、
先行−中間極間距離を50乃至80mm、中間−後行極
間距離を80乃至140mmとして前記母材を溶接する
ことを特徴とする
【0007】
【作用】本願発明者等は、厚板の隅肉溶接においても完
全溶込みを得ることができるサブマージアーク溶接方法
を開発すべく、種々研究を行った。先ず、溶接母材の開
先深さを大きく設定し、これによる溶着量の不足を補う
ためにフラックスに鉄粉を添加したが、溶着金属の高温
割れが多発した。そこで、本願発明者等は、開先深さに
よる原因の他に、高温割れを発生させる原因を究明した
結果、溶接金属中のC含有量とビードの断面形状とが関
与していることを見い出した。本発明はこのような知見
に基づいてなされたものである。
【0008】以下、本発明における下向隅肉サブマージ
アーク溶接方法について、更に説明する。先ず、使用す
るボンドフラックスの成分及び組成限定理由について説
明する。
【0009】SiO2 (全SiO2 ):15乃至28重
量% SiO2 は酸性成分であり、スラグの粘性を調整するた
めに必須の成分である。SiO2 含有量が15重量%未
満であると、スラグの粘性が不十分になり、ビード幅が
不安定又は不均一になると共に、ビード形状が凸状とな
る。また、スラグ生成量が増加する。一方、SiO2
有量が28重量%を超えると、スラグの粘性が過剰とな
り、ビードの広がりが悪くなる。また、スラグの剥離性
が劣化すると共に、塩基度の低下により靱性が低下しや
すくなる。従って、フラックス重量に対するSiO2
有量は15乃至28重量%とする。このSiO2 含有量
は水溶性SiO2 と非水溶性SiO2 を含むと共に、S
i合金等から添加されたSiのSiO2 換算値の総量で
ある。
【0010】Al23:10乃至20重量% Al23は中性成分であり、溶接金属の靱性を低下させ
ることなく、スラグの粘性及び凝固温度を調整する効果
を有する。Al23含有量が10重量%未満であると、
スラグの粘性及び凝固温度が高くなり、ビード幅が不均
一となるか又はビード形状が凸状となる。一方、Al2
3含有量が20重量%を超えると、スラグの凝固温度
が必要以上に高くなるので、ビードの広がりが不十分と
なるか又はビードが蛇行しやすくなる。従って、フラッ
クス重量に対するAl23含有量は10乃至20重量%
とする。
【0011】TiO2 (全TiO2 ):5乃至14重量
TiO2 はスラグの融点及び粘性の調整剤として有効な
成分である。また、TiO2 は溶接中における還元反応
によってTiとなり、溶接金属中に添加されて衝撃性能
を向上させる効果も有している。TiO2 含有量が5重
量%未満であると、溶接金属中に添加されるTi量が不
足するため、衝撃性能が低下すると共に、アンダカット
が発生しやすくなる。一方、TiO2 含有量が14重量
%を超えると、スラグ剥離性が急激に劣化し、スラグ生
成量が増加する。従って、フラックス重量に対するTi
2 含有量は5乃至14重量%とする。なお、TiO2
はルチール及びルコキシン等のTi酸化物又はFe−T
i等のTi合金とTi酸化物とを組み合わせてフラック
ス成分として使用することができる。フラックス成分と
してFe−Ti等のTi合金を使用する場合は、TiO
2 含有量はTi合金中のTi量をTiO2 に換算した全
TiO2 を示す。
【0012】MgO:10乃至20重量% MgOは塩基性成分であり、溶接金属中のO量を低減さ
せて靱性を確保する効果を有する。また、粘性の調整剤
としての作用も有する。MgO含有量が10重量%未満
であると、溶接金属中のO量を低減させる効果が低下す
るので、靱性が劣化する。また、ビードが蛇行しやす
く、アンダカットが発生する。一方、MgO含有量が2
0重量%を超えると、スラグの焼付きが増加すると共
に、ポックマークが発生しやすくなる。更に、スラグ生
成量が増加する。従って、フラックス重量に対するMg
O含有量は10乃至20重量%とする。
【0013】CaCO3 :7乃至15重量% CaCO3 は溶接中において、CaOとCO2 とに分解
され、CO2 ガスによって溶接部を外気から保護すると
共に、H2 又はN2 等のような不純物ガスの分圧を低下
させることによって、不純物の溶接金属中への侵入を防
止する効果を有する。CaCO3 含有量が7重量%未満
であると、CO2 ガスによる溶接部に対する保護効果が
不十分となるため、溶接金属中の水素及び窒素量が増加
し、低温割れの発生及び靱性の低下が起こりやすくな
る。一方、CaCO3 含有量が15重量%を超えると、
CO2 ガスの発生量が過剰になり、ガスが均一に抜けな
いことから溶接中の吹き上げ現象が極めて多くなるの
で、ビードの外観が劣化しやすくなる。従って、フラッ
クス重量に対するCaCO3 含有量は7乃至15重量%
である。
【0014】Mn(全Mn):0.5乃至8重量% Mnはスラグの粘性及び凝固温度を調整する効果を有
し、更に、溶接金属中のMn量を調整して、溶接金属の
引張性能及び衝撃性能を確保するための必須成分であ
る。Mn含有量が0.5重量%未満であると、アンダカ
ット及びスラグの焼付きが発生しやすくなる。一方、M
n含有量が8重量%を超えると、ビードが蛇行しやすく
なると共に、フラックスの消費量が増加する。従って、
フラックス重量に対するMn含有量は0.5乃至8重量
%とする。なお、Mnは金属Mnの他に、Fe−Mn等
のようなMn合金又はMnO及びMnO2 等のようなM
n酸化物からフラックス中に添加されるものであり、M
n合金又はMn酸化物から添加される場合は、Mn含有
量はこれらに含有される全Mnとする。
【0015】Fe(鉄粉):15乃至35重量% フラックス中に鉄粉を添加すると、溶接中においてFe
が溶融池に移行して溶着量が増加する。これにより、溶
接能率の向上と溶接入熱の低下とを図ることが可能とな
る。鉄粉の添加量が15重量%未満であると、この効果
が低下し、大入熱による溶接時の吹き上げ現象が増加す
ると共に、溶込み深さが浅くなり、溶込み不足が発生す
る。一方、鉄粉の添加量が35重量%を超えると、ビー
ドの広がりが低下するか又はスラグの巻き込みが発生す
ることがある。従って、フラックス重量に対する鉄粉の
添加量は15乃至35重量%とする。
【0016】水溶性SiO2 :1.0乃至6.0重量% フラックスの吸湿性が高いと、溶接金属中の拡散性水素
量が増加することより、水素割れが発生することがあ
る。水溶性SiO2 はフラックスの耐粉化性及び耐吸湿
性を向上させる効果を有する。水溶性SiO2 含有量が
1.0重量%未満であると、強力な回収機によってフラ
ックスを回収する場合に、フラックスが粉化又は微細化
してしまう。フラックスが粉化すると、ガス抜けが悪く
なり、極めて強い吹き上げが発生する。一方、水溶性S
iO2 含有量が6.0重量%を超えると、特に厚板の多
層盛り溶接においては、フラックスの耐吸湿性が低下し
て水素割れが発生しやすくなる。従って、フラックス重
量に対する水溶性SiO2 含有量は1.0乃至6.0重
量%とする。
【0017】水溶性Na2 +水溶性K2 +水溶性L
2 :1.5乃至3.5重量% 溶接母材の板厚が厚くなり、溶接入熱が高くなるほど溶
接が困難になって、適正溶接条件の範囲が狭くなる。特
に、アーク溶接において、アーク電圧を制御することが
極めて重要であり、水溶性Na2 、水溶性K2 又は
水溶性Li2 の添加によりアーク安定性を向上させる
ことができる。しかしながら、(水溶性Na2 +水溶
性K2 +水溶性Li2 )含有量が1.5重量%未満
であると、その効果が低下する。即ち、アーク電圧を測
定する電圧計の針の振れが極めて大きくなり、所定の電
圧値に設定するときに溶接オペレーターによって個人差
が生じるので、アンダカット又は溶込み不足等のような
欠陥が発生する。また、アーク電圧が不安定であるの
で、溶接長が長くなるほど均一な溶接結果が得られなく
なる。一方、(水溶性Na2 +水溶性K2 +水溶性
Li2 )含有量が3.5重量%を超えると、フラック
スの耐吸湿性が低下するので、好ましくない。従って、
(水溶性Na2 +水溶性K2 +水溶性Li2 )含
有量は1.5乃至3.5重量%とする。
【0018】C:0.005重量%以下 Cは、通常、不純物として混入される成分である。溶接
金属中のC含有量が高くなるほど、溶接金属の高温割れ
が発生しやすくなる。このため、溶接材料からのC混入
量を可能な限り低減することが必要である。フラックス
から溶接金属への希釈寄与率は30%程度となるので、
フラックス中のC量は0.005重量%まで許容するこ
とができる。C含有量が0.005重量%を超えると、
高温割れが発生しやすくなる。従って、フラックス重量
に対するC含有量は0.005重量%以下とする。
【0019】(水溶性Na2 +水溶性K2 +水溶性
Li2 )/(全Na2 +全K2 +全Li2 ):
0.60乃至0.98 フラックスの耐粉化性及び耐吸湿性は、アルカリ金属の
酸化物の総量に対する水溶性のアルカリ金属の酸化物の
比の値に影響される。即ち、(水溶性Na2 +水溶性
2 +水溶性Li2 )/(全Na2 +全K2
全Li2 )が0.60未満であると、フラックスの耐
粉化性及び耐吸湿性が低下するので、溶接による製品製
造時において製品の歩留まりが低下すると共に、アーク
の安定性も低下する。一方、(水溶性Na2 +水溶性
2 +水溶性Li2 )/(全Na2 +全K2
全Li2 )が0.98を超えると、20乃至40重量
%の鉄粉を含有する鉄粉系ボンドフラックスが有する耐
粉化性が低下し、繰り返し使用時にフラックスが微細化
されやすくなる。また、フラックスの耐吸湿性も低下す
るので、水素割れが発生する。従って、(水溶性Na2
+水溶性K2 +水溶性Li2 )/(全Na2
+全K2 +全Li2 )は0.60乃至0.98とす
る。
【0020】CaF2 :1.5乃至7.0重量% CaF2 は塩基性成分であり、溶接金属中のO量を低減
する効果を有すると共に、スラグの流動性を調整し、溶
接中におけるスラグと溶接金属との間の反応を促進する
化合物である。CaF2 含有量が1.5重量%未満であ
ると、靱性を向上させる効果がなく、粘性を向上させる
効果も低下する。一方、CaF2 含有量が7.0重量%
を超えると、スラグの流動性が高くなり、ビードの蛇行
又はアンダカットが発生する。従って、フラックス重量
に対するCaF2 含有量は1.5乃至7.0重量%とす
る。
【0021】MgO/全SiO2 :0.50乃至1.1
0重量% MgOの全SiO2 に対する比の値は、塩基度の調整及
び溶接作業性に影響を与える。即ち、MgO/全SiO
2 が0.50未満であると、塩基度が低くなりすぎるた
め、靱性が著しく低下する。また、溶込みが浅くなって
溶け込み不足の欠陥が発生しやすくなる。一方、MgO
/全SiO2 が1.10を超えると、スラグの焼付きが
発生すると共に、ビード形状が大きな凸状となり、開先
残りが発生する。従って、MgO/全SiO2 は0.5
0乃至1.10とする。
【0022】フラックス中のその他の成分としては、例
えば大入熱による潜弧溶接時において、適量のTi、
B、Mo及びNi等を溶接金属中に添加することにより
強度及び靱性が向上することができることは公知であ
る。本発明においても、B含有量が溶接金属中で0.0
020乃至0.0050重量%となるように、フラック
ス及びワイヤのいずれか一方又は両方からBを添加する
ことができる。
【0023】フラックスの嵩密度:0.90乃至1.3
0g/cm3 フラックスの嵩密度が0.90g/cm3 未満である
と、フラックスが必要以上に軽くなり、溶接中において
吹き上げが多くなるので作業性が低下する。また、ビー
ドが過度に広がって溶込みが困難になり、割れ又は融合
不良が発生する。一方、フラックスの嵩密度が1.30
g/cm3 を超えると、フラックスの圧力が増加し、ビ
ード幅が広がらないのでビードの外観が劣化する。
【0024】ボンドフラックスは原材料として水硝子等
の固着材を使用して造粒し、その後、焼成する工程によ
り製造されるものである。本発明におけるフラックスと
してボンドタイプを使用するのは、ボンドフラックスは
溶融型フラックスと比較して、CaCO3 等の金属炭酸
塩を添加することができるので、溶融金属を低水素化で
き、鉄粉の添加により高溶着速度が得られると共に、大
入熱溶接に必要なスラグの塩基度、凝固温度及び粘性の
調整が容易であるという利点を有するからである。
【0025】次に、本発明における下向隅肉サブマージ
アーク溶接用ワイヤの成分等の限定理由について説明す
る。
【0026】C:0.02乃至0.09重量% 前述の如く、溶接金属中のC含有量が増加すると、溶接
金属の高温割れが発生しやすくなるので、ワイヤ中のC
含有量を可能な限り低減することによって、溶接金属中
のC量を低減する必要がある。溶接ワイヤから溶接金属
へのCの希釈寄与率は30%程度であると推定できるの
で、ワイヤ中におけるC含有量は0.09重量%まで許
容することができる。一方、ワイヤ中のC含有量を0.
02重量%未満とすることは、技術的に困難である。従
って、ワイヤ中のC含有量は0.02乃至0.09重量
%とする。
【0027】Mn:1.80乃至2.20重量% 前述の如く、Mnは溶接金属の強度を向上させる元素で
ある。ワイヤ中のMn含有量が1.80重量%未満であ
ると、C含有量を低減させることによって発生する溶接
金属の強度不足を補うことができなくなる。一方、ワイ
ヤ中のMn含有量が2.20重量%を超えると、必要以
上に強度が高くなって、低温割れが発生しやすくなる。
従って、ワイヤ中のMn含有量は、1.80乃至2.2
0重量%とする。
【0028】ワイヤ径:4.8乃至7.2mm ワイヤ径が4.8mm未満であると、アークが集中する
ので溶込み深さは十分に得られるが、溶込み幅が小さく
なりすぎるため、高温割れが発生しやすくなる。一方、
ワイヤ径が大きくなるに従ってワイヤの剛性が高くな
り、ワイヤ径が7.2mmを超えると、ワイヤの送給抵
抗の増加によって送給不良が発生する。従って、ワイヤ
径は4.8乃至7.2mmとする。
【0029】本願発明者等は、溶接条件について、電極
間距離及びワーク傾斜角を重視し、これらを変化させる
ことによってビードの断面幅を調整した。即ち、前述の
如く、フラックス中のC含有量を可能な限り低減すると
共に、2電極の場合において電極間距離を60mmとす
ると、ビードの断面幅が広くなり、高温割れの発生を抑
制することができる。また、ワーク傾斜を70°に設定
すると、最も良好な溶込み形状を得ることができる。
【0030】しかしながら、上述の方法によって、より
一層厚い鋼板を隅肉溶接すると、溶接速度が実用上の最
低限度まで低下し、板厚の増加に伴って溶着量も不足し
てしまう。従って、ウェブ板厚が85mm以上である厚
板に対しては、電極数を3電極とすることにより溶接速
度を向上させることができる。3電極溶接における電極
間距離は、先行−中間極間を70mmとし、中間−後行
極間を120mmとすることによって、ビードの断面幅
を広くすることができる。
【0031】以下、本発明における下向隅肉サブマージ
アーク溶接に適用する溶接母材並びに2電極及び3電極
溶接における溶接条件の限定理由について説明する。
【0032】溶接母材中のC:0.05乃至0.16重
量% 通常、一般構造用圧延鋼、溶接構造用圧延鋼及びそれら
に準ずる鋼材中におけるC含有量はJISによって規定
されている。前述の如く、溶接金属中のC含有量が増加
すると溶接金属の高温割れが発生しやすくなるので、本
発明に適用する溶接母材においても、JISに準ずるも
のとする。従って、溶接母材中のC含有量は0.05乃
至0.16重量%とする。
【0033】板厚tの鋼板におけるルート長さ:0.1
5t乃至0.20t 板厚がt(mm)である鋼板において、ルート長さが
0.15t未満であると、溶け落ちが発生しやすくな
り、更に、溶込みが深くなり溶込み幅が細くなることに
より、高温割れが発生しやすくなる。一方、ルート長さ
が0.20tを超えると、溶込みが不足するか又は不安
定になる。従って、板厚tの鋼板におけるルート長さは
0.15t乃至0.20tとする。
【0034】溶接母材の開先角度:40乃至60° 溶接母材の開先角度が40°未満であると、溶込みが十
分に得られず、また、溶込み幅が細くなることにより、
割れが発生しやすい。一方、開先角度が60°を超える
と、開先断面積が増加するため、溶着量が不足する。従
って、溶接母材の開先角度は40乃至60°の両側開先
とする。
【0035】ワーク傾斜角:55乃至80° 下向き隅肉溶接においては、溶接時にワークを傾斜させ
る必要がある。このワーク傾斜角が55°未満である
と、等脚長のビードを得やすいが、ビード幅が狭くな
り、梨形割れが発生しやすくなる。一方、ワーク傾斜角
が80°を超えると、脚長のバランスがウェブ側に傾き
すぎて、フランジ側になめカットが発生する。また、溶
込み形状が細長くなり、高温割れが発生しやすくなる。
このように、欠陥の発生を抑制するためには、ビードを
ある程度不等脚長として溶込み形状を調整する必要があ
る。従って、ワーク傾斜角は55乃至80°とする。好
ましくは、ワーク傾斜角は60乃至75°である。
【0036】2電極溶接における先行極の電流値IL2
と後行極の電流値IT2 との電流比IT2/IL2:0.
65乃至1.00 3電極溶接における先行極の電流値IL3 と中間極の電
流値IM3 との電流比IM3/IL3:0.65乃至1.
00、中間極の電流値と後行極の電流値IT3 との電流
比IT3/IM3:0.65乃至1.00 電流比は2電極及び3電極のいずれの溶接においても、
全体の溶融池がセミワンプールになるように調整した。
電流比が0.65未満であると、溶融池が2プールとな
り、各電極の溶着金属が融合不良になると共に、ビード
表面が荒れやすくなるので好ましくない。一方、電流比
が1.00を超えると、溶融池が1プール化して溶接金
属が一体化することによって、高温割れが発生しやすく
なる。これは、2電極及び3電極のいずれの溶接におい
ても、同様の現象が発生する。従って、2電極溶接にお
ける先行極の電流値IL2 と後行極の電流値IT2 との
電流比IT2/IL2は0.65乃至1.00とする。ま
た、3電極溶接における先行極の電流値IL3 と中間極
の電流値IM3 との電流比IM3/IL3は0.65乃至
1.00とし、中間極の電流値と後行極の電流値IT3
との電流比IT3/IM3は0.65乃至1.00とす
る。
【0037】2電極溶接における先行極の電圧値VL2
と後行極の電圧値VT2 との電圧比VT2/VL2:1.
00乃至1.50 3電極溶接における先行極の電圧値VL3 と中間極の電
圧値VM3 との電圧比VM3/VL3:1.00乃至1.
50、中間極の電圧値と後行極の電圧値VT3 との電圧
比VT3/VM3:0.80乃至1.20 2電極溶接において、電圧比が1.00未満であると、
溶込み幅が細くなると共に、高温割れが発生しやすくな
って余盛りが不足する。一方、電圧比が1.50を超え
ると、後行極の溶着金属が先行極の溶着金属に溶け込ま
なくなり、融合不良が生じたり、先行極の溶着金属に梨
形割れが発生しやすくなる。従って、2電極溶接におけ
る先行極の電圧値VL2 と後行極の電圧値VT2 との電
圧比VT2/VL2は1.00乃至1.50とする。
【0038】また、3電極溶接において、先行−中間極
に関しては2電極溶接と同様の現象が発生する。また、
中間−後行極において、電圧比が0.80未満である
と、溶着量の不足によって余盛りが不足となり、開先が
残ってしまう。一方、電圧比が1.20を超えると、余
盛りが過多となって、他の電極の溶着金属への溶込みが
浅くなるので融合不良となる。従って、3電極溶接にお
ける先行極の電圧値VL3 と中間極の電圧値VM3 との
電圧比VM3/VL3は1.00乃至1.50とし、中間
極の電圧値と後行極の電圧値VT3 との電圧比VT3
VM3は0.80乃至1.20とする。
【0039】2電極溶接における先行−後行極間距離:
50乃至70mm 3電極溶接における先行−中間極間距離:50乃至80
mm、中間−後行極間距離:80乃至140mm 2電極溶接において、先行−後行極間距離が50mm未
満であると、溶融池が1プール化して高温割れが発生し
やすくなる。一方、先行−後行極間距離が70mmを超
えると、溶融池が2プール化して各電極の溶着金属間に
融合不良が生じやすくなる。また、先行極の溶着金属に
高温割れが発生しやすい。従って、2電極溶接における
先行−後行極間距離は50乃至70mmとする。
【0040】また、3電極溶接においては、一般的に、
溶接入熱を大きくするために溶接速度を低くするが、低
速溶接は効率の点で不利であり、実用上安定して使用で
きる溶接速度範囲の下限近くになるため、溶接速度を上
げる必要がある。更に、3電極溶接の先行−中間極にお
いては2電極間溶接における先行−後行極と同様の現象
が発生する。一方、先行−中間極において形成された溶
融池に対して、中間−後行極間においてもセミワンプー
ルとなるようにする必要がある。従って、3電極溶接に
おける先行−中間極間距離は50乃至80mmとし、中
間−後行極間距離は80乃至140mmとする。
【0041】先行極のワイヤ傾斜角:+3乃至+6°、
後行極のワイヤ傾斜角:−10乃至−3°、3電極溶接
における中間極のワイヤ傾斜角:−2乃至+2° 2電極及び3電極のいずれの溶接においても、先行極の
ワイヤ傾斜角が+3°未満であると、溶融池がアークの
下まで流れ込み、溶込みが浅くなってしまう。一方、先
行極のワイヤ傾斜角が+6°を超えると、溶込み幅が小
さくなって高温割れが発生しやすくなる。また、後行極
のワイヤ傾斜角が−10°未満であると、余盛りが過多
となり、融合不良が発生しやすくなる。一方、後行極の
ワイヤ傾斜角が−3°を超えると、溶込みが細くなりす
ぎて高温割れが発生しやすくなる。
【0042】3電極溶接において、中間極のワイヤ傾斜
角が−2°未満であると、溶融池を先行極へ押しやる形
となり、先行極の溶融池と1プール化すると共に、後行
極の溶融池と2プールとなって、浅い位置において融合
不良又は高温割れが発生する。一方、中間極のワイヤ傾
斜角が+2°を超えると、逆に、後行極の溶融池と1プ
ール化すると共に、先行極の溶融池と2プールとなるの
で、深い位置において融合不良又は高温割れが発生す
る。従って、先行極のワイヤ傾斜角は+3乃至+6°、
後行極のワイヤ傾斜角は−10乃至−3°とし、3電極
溶接における中間極のワイヤ傾斜角は−2乃至+2°と
する。
【0043】
【実施例】以下、本発明に係る鋼板の下向隅肉サブマー
ジアーク溶接方法の実施例について、その比較例と比較
して具体的に説明する。
【0044】先ず、フラックスの鉄粉含有量が溶込み深
さ及びビード外観に対して及ぼす影響を調査するため
に、厚鋼板を使用して、下向隅肉サブマージアーク溶接
を施した。
【0045】図1は本実施例において使用する厚鋼板の
開先形状及び設置方法を示す模式的断面図である。図1
(a)に示すように、鋼板からなる溶接母材1の表面
に、溶接母材2の端部を溶接母材1に垂直になるように
当て、溶接部がK開先となるように切欠を設け、溶接母
材2の端部の表面と裏面とに斜面2b及び2cを形成す
ると共に、溶接母材2の端部の中央にルート部2aを形
成した。そして、上部の開先部4に対して下向きに溶接
するので、開先部4が上向きに開く開先となるように、
溶接母材1及び2を固定板3に固定した。
【0046】本実施例においては、図1(b)に示すよ
うに、ワーク傾斜角αを70°とし、上部の開先角度β
及び下部の開先角度θを、共に42°とした。但し、溶
接母材2の板厚tは80mmのものと100mmのもの
とを準備して、板厚tが80mmである鋼板に対しては
2電極溶接、板厚tが100mmである鋼板に対しては
3電極溶接とした。また、本発明においては、板厚tの
鋼板に対してルート部2aのルート長さmを0.15t
乃至0.20tとするので、80mm鋼板においては、
ルート長さmを14mmとし、100mm鋼板において
は、ルート長さを16mmとした。本発明においては、
溶接母材2の端部の表面及び裏面に同一サイズの切欠を
設けたので、溶接母材2の表面における溶接母材1に平
行方向の切欠の深さkと、溶接母材の裏面における溶接
母材1に平行方向の切欠の深さnとは同一である。即
ち、80mm鋼板の切欠の深さk及びnは33mmと
し、100mm鋼板の切欠の深さk及びnは42mmと
した。
【0047】また、図2はワイヤの傾斜角を示す模式的
断面図である。図2(a)に示すように、ワイヤ4a及
びチップ5aを有する溶接機6aは、溶接方向に向かっ
て前傾しており、ワイヤ4aの先端は溶接方向から後退
して溶接母材7に当てられているので、溶接母材7に垂
直な線に対する後退角を正(+)のワイヤ傾斜角として
表すものとする。従って、ワイヤ4bとチップ5bを有
する溶接機6bは、溶接方向に向かって後傾しており、
ワイヤ4bの先端は溶接方向へ前進するように溶接母材
7に当てられているので、溶接母材7に垂直な線に対す
る前進角は負(−)のワイヤ傾斜角で表される。
【0048】本実施例の80mm鋼板に対する2電極溶
接においては、図2(b)に示すように、先行極10の
ワイヤ8を溶接方向に向かって前傾させて溶接母材14
に当て、ワイヤ傾斜角を+5°とした。また、後行極1
3のワイヤ11は溶接方向に向かって後傾させており、
ワイヤ傾斜角は−8°とした。そして、先行−後行極間
距離は60mmとした。
【0049】また、本実施例の100mm鋼板に対する
3電極溶接においては、先行極16のワイヤ11の傾斜
角は、2電極溶接と同様に+5°とし、中間極19のワ
イヤ17を溶接母材23に垂直に当て(ワイヤ傾斜角0
°)、後行極22のワイヤ20の傾斜角は−7°とし
た。そして、先行−中間極間距離を70mm、中間−後
行極間距離を120mmとした。
【0050】なお、溶接母材1及び2として下記表1に
示す化学成分を有するSM490A鋼板を使用し、供試
溶材として、下記表1に併せて示す化学成分を有するワ
イヤと、下記表2に示す化学成分及び粉体特性を有する
3種のボンドフラックスを使用し、下記表3に示す溶接
条件によって溶接した。これらの溶込み深さ及びビード
の外観等の評価結果を下記表4に示す。但し、下記表3
において、側は溶接サイドを表している。また、下記表
4において○は評価結果が良好であることを示し、×は
実用的でないことを示す。
【0051】
【表1】
【0052】
【表2】
【0053】
【表3】
【0054】
【表4】
【0055】上記表4に示すように、フラックス記号A
−1を使用して溶接したものについては、鉄粉の含有量
が低いので、溶着量が不足してアンダカットが発生しや
すくなった。一方、フラックス記号A−3を使用して溶
接すると、ビードの表面が荒れて、外観が極めて悪くな
った。このように、フラックス中の鉄粉含有量は、ビー
ドの外観に大きく影響している。
【0056】次に、溶接母材の開先形状が溶接金属の成
形性に対して及ぼす影響を調査するために、下記表5に
示す種々の開先形状に加工した厚鋼板を使用して、下向
隅肉サブマージアーク溶接を施した。
【0057】なお、溶接母材及び供試溶材は上記表1に
示す化学成分を有するものを使用すると共に、上記表2
におけるフラックス記号A−2のボンドフラックスを使
用し、上記表3に示す溶接条件によって溶接した。溶接
金属の成形性として、溶込み深さ、ビード外観及び溶接
金属の健全性の3点で評価した。溶接金属の健全性は溶
接金属をUTによって観察し、割れ又は溶込み不良の発
生の有無を確認することによって評価したものである。
これらの評価結果を下記表5に併せて示す。
【0058】
【表5】
【0059】上記表5に示すように、記号B−1及びB
−4の開先形状を有する母材に対して溶接したものにつ
いては、ルート長さが本発明範囲の上限を超えているの
で、十分な溶込みを得ることができず、開先が残ってし
まう。一方、記号B−3及びB−6の開先形状を有する
母材に対して溶接すると、ルート長さが本発明範囲の下
限未満であるので、溶込み幅が細くなり、高温割れが発
生しやすくなったと推定される。
【0060】更に、溶接時における電極間距離が、溶接
作業性及び溶接金属の成形性に対して及ぼす影響を調査
するために、下記表6に示す電極間距離で電極を設置
し、下向隅肉サブマージアーク溶接を実施した。
【0061】なお、溶接母材及び供試溶材は上記表1に
示す化学成分を有するものを使用すると共に、上記表2
のフラックス記号A−2のボンドフラックスを使用し、
上記表5の記号B−2の開先形状に形成した鋼板を上記
表3に示す溶接条件によって溶接した。これらの評価結
果を下記表6に併せて示す。
【0062】
【表6】
【0063】上記表6に示すように、板厚が80mmで
ある鋼板に対する2電極溶接において、記号C−1は電
極間距離が本発明範囲の下限未満であるので、溶込み形
状が細くなって高温割れが発生しやすくなった。一方、
記号C−3は電極間距離が本発明範囲の上限を超えてい
るので、アークが安定せず、ビードの外観に荒れが生じ
たり、溶融池が2プールになることから、先行極の溶着
金属と後行極の溶着金属との間に融合不良が生じ、割れ
が発生しやすくなった。
【0064】また、板厚が100mmである鋼板に対す
る3電極溶接において、記号C−4〜C−7及びC−1
0は、先行−中間極又は中間−後行極間距離が本発明範
囲の下限未満であるので、溶接金属に割れが発生した。
中間−後行極間距離が短いと、先行−中間極間で形成し
た溶融池と一体化して、1プールの溶融池になるため
に、高温割れが発生しやすくなる。記号C−6、C−9
及びC−12については、先行−中間極間距離が本発明
範囲の上限を超えているので、2電極溶接と同様に溶接
作業性が低下した。また、C−10〜C−12は中間−
後行極間距離が本発明範囲の上限を超えているので、ビ
ード外観に荒れが生じ、溶融池が2プールとなることか
ら、先行−中間極の溶着金属と後行極の溶着金属とが融
合不良となって、割れが発生しやすくなった。
【0065】更に、溶接時のワーク傾斜角が溶接金属に
与える影響を調査するために、下記表7に示すワーク傾
斜角で溶接母材を設置し、下向隅肉サブマージアーク溶
接を実施した。
【0066】なお、溶接母材及び供試溶材は上記表1に
示す化学成分を有するものを使用すると共に、フラック
ス記号A−2のボンドフラックス及び記号B−2の開先
形状に形成した鋼板を使用し、電極間距離はC−2及び
C−8として、上記表3に示す溶接条件によって溶接し
た。これらの評価結果を下記表7に併せて示す。
【0067】
【表7】
【0068】上記表7に示すように、80mm及び10
0mmの板厚のいずれにおいても、記号D−1及びD−
6はワーク傾斜角が55°未満であるので、ビード幅が
狭くなり、梨形割れが発生した。一方、D−5及びD−
10はワーク傾斜角が80°を超えているので、フラン
ジ側になめカットが発生し、溶込み形状が細長くなりす
ぎて梨形割れが発生した。なお、ワーク傾斜角が55乃
至80°の範囲においても、D−2、D−4、D−7及
びD−9は欠陥は発生しないが、高温割れが生じるよう
な溶接の溶込み形状に近くなった。このように、溶込み
幅が十分であり、不安がない溶込み形状になるワーク傾
斜角の範囲は60乃至75°であった。
【0069】
【発明の効果】以上詳述したように、本発明によれば、
フラックス中の鉄粉添加量を適正量に規定し、溶接金属
中のC含有量を制限すると共に、溶接母材のルート長
さ、電極間距離及びワーク傾斜角等を適切に選択してい
るので、ウェブ板厚が100mmまでの鋼板を完全溶込
み溶接することができ、優れた溶接作業性及び溶接金属
を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本実施例において使用する厚鋼板の開先形状及
び設置方法を示す模式的断面図である。
【図2】ワイヤの傾斜角を示す模式的断面図である。
【符号の説明】
1、2、7、14、23;母材 2a;ルート部 3;固定板 4;開先部 4a、4b、8、11、14、17、20;ワイヤ 5a、5b、9、12、15、18、21;チップ 6a、6b、10、13、16、19、22;溶接機
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (51)Int.Cl.6 識別記号 庁内整理番号 FI 技術表示箇所 B23K 35/30 320 B23K 35/30 320A 35/362 310 35/362 310B 310C

Claims (2)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 C:0.05乃至0.16重量%を含有
    し、板厚が40mm以上85mm未満である鋼板母材を
    先行極及び後行極からなる2電極で下向隅肉サブマージ
    アーク溶接する方法において、 フラックスは、全SiO2 :15乃至28重量%、Al
    23:10乃至20重量%、全TiO2 :5乃至14重
    量%、MgO:10乃至20重量%、CaCO3 :7乃
    至15重量%、全Mn:0.5乃至8重量%、鉄粉:1
    5乃至35重量%、水溶性SiO2 :1.0乃至6.0
    重量%、CaF2 :1.5乃至7.0重量%及び(水溶
    性Na2O +水溶性K2O +水溶性Li2O ):1.5
    乃至3.5重量%を含有し、C:0.005重量%以下
    に規制されており、(水溶性Na2O +水溶性K2O +
    水溶性Li2O )/(全Na2O +全K2O +全Li2
    O):0.60乃至0.98及び(MgO/全Si
    2 ):0.50乃至1.10である組成を有し、嵩密
    度が0.90乃至1.30g/cm3 であり、 溶接用ワイヤは、C:0.02乃至0.09重量%及び
    Mn:1.80乃至2.20重量%を含有し、ワイヤ径
    が4.8乃至7.2mmである鋼ワイヤであり、前記母
    材に開先角度が40乃至60°の両側開先を設け、前記
    母材の板厚t(mm)に対するルート長さ(mm)を
    0.15t乃至0.20t、ワーク傾斜角を55乃至8
    0°、前記先行極の電流値IL2と前記後行極の電流値
    IT2との電流比(IT2/IL2)を0.65乃至1.
    00、前記先行極の電圧値VL2 と前記後行極の電圧値
    VT2 との電圧比(VT2/VL2)を1.00乃至1.
    50、前記先行極のワイヤ傾斜角を+3乃至+6°、前
    記後行極のワイヤ傾斜角を−10乃至−3°、先行−後
    行極間距離を50乃至70mmとして前記母材を溶接す
    ることを特徴とする鋼板の下向隅肉サブマージアーク溶
    接方法。
  2. 【請求項2】 C:0.05乃至0.16重量%を含有
    し、板厚が70乃至100mmである鋼板母材を先行
    極、中間極及び後行極からなる3電極で下向隅肉サブマ
    ージアーク溶接する方法において、 フラックスは、全SiO2 :15乃至28重量%、Al
    23:10乃至20重量%、全TiO2 :5乃至14重
    量%、MgO:10乃至20重量%、CaCO3 :7乃
    至15重量%、全Mn:0.5乃至8重量%、鉄粉:1
    5乃至35重量%、水溶性SiO2 :1.0乃至6.0
    重量%、CaF2 :1.5乃至7.0重量%及び(水溶
    性Na2O +水溶性K2O +水溶性Li2O ):1.5
    乃至3.5重量%を含有し、C:0.005重量%以下
    に規制されており、(水溶性Na2O +水溶性K2O +
    水溶性Li2O )/(全Na2O +全K2O +全Li2
    O):0.60乃至0.98及び(MgO/全Si
    2 ):0.50乃至1.10である組成を有し、嵩密
    度が0.90乃至1.30g/cm3 であり、 溶接用ワイヤは、C:0.02乃至0.09重量%及び
    Mn:1.80乃至2.20重量%を含有し、ワイヤ径
    が4.8乃至7.2mmである鋼ワイヤであり、前記母
    材に開先角度が40乃至60°の両側開先を設け、前記
    母材の板厚t(mm)に対するルート長さ(mm)を
    0.15t乃至0.20t、ワーク傾斜角を55乃至8
    0°、前記先行極の電流値IL3と前記中間極の電流値
    IM3との電流比(IM3/IL3)を0.65乃至1.
    00、前記中間極の電流値IM3 と前記後行極の電流値
    IT3 との電流比(IT3/IM3)を0.65乃至1.
    00、前記先行極の電圧値VL3と前記中間極の電圧値
    VM3との電圧比(VM3/VL3)を1.00乃至1.
    50、前記中間極の電圧値VM3 と前記後行極の電圧値
    VT3 との電圧比(VT3/VM3)を0.80乃至1.
    20、前記先行極のワイヤ傾斜角を+3乃至+6°、前
    記中間極のワイヤ傾斜角を−2乃至+2°、前記後行極
    のワイヤ傾斜角を−10乃至−3°、先行−中間極間距
    離を50乃至80mm、中間−後行極間距離を80乃至
    140mmとして前記母材を溶接することを特徴とする
    鋼板の下向隅肉サブマージアーク溶接方法。
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