JPH0979339A - トロイダル式無段変速機用転動体 - Google Patents

トロイダル式無段変速機用転動体

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JPH0979339A
JPH0979339A JP23880595A JP23880595A JPH0979339A JP H0979339 A JPH0979339 A JP H0979339A JP 23880595 A JP23880595 A JP 23880595A JP 23880595 A JP23880595 A JP 23880595A JP H0979339 A JPH0979339 A JP H0979339A
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部 聡 安
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山 典 子 内
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本 隆 松
Shunzo Umegaki
垣 俊 造 梅
Shinji Fushimi
見 慎 二 伏
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    • F16H15/38Gearings providing a continuous range of gear ratios in which a member A of uniform effective diameter mounted on a shaft may co-operate with different parts of a member B in which the member B has a curved friction surface formed as a surface of a body of revolution generated by a curve which is neither a circular arc centered on its axis of revolution nor a straight line with concave friction surface, e.g. a hollow toroid surface with two members B having hollow toroid surfaces opposite to each other, the member or members A being adjustably mounted between the surfaces
    • F16H2015/383Gearings providing a continuous range of gear ratios in which a member A of uniform effective diameter mounted on a shaft may co-operate with different parts of a member B in which the member B has a curved friction surface formed as a surface of a body of revolution generated by a curve which is neither a circular arc centered on its axis of revolution nor a straight line with concave friction surface, e.g. a hollow toroid surface with two members B having hollow toroid surfaces opposite to each other, the member or members A being adjustably mounted between the surfaces with two or more sets of toroid gearings arranged in parallel

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Abstract

(57)【要約】 【目的】 第1段階で高周波焼入れされた面が、第2段
階の高周波焼入時の熱影響を受けたとしても、高い硬度
を維持し、転動面に剥離や塑性変形を生じることがな
く、疲労寿命に優れたトロイダル式無段変速機用転動体
を提供する。 【構成】 転動体組成をC:0.4〜0.6%,Si:
0.1〜0.5%,Mn:0.20〜2.0%,Al:
0.005〜0.1%,Ti:0.005%以下,P:
0.02%以下,N:0.005〜0.03%,O:
0.002%以下を含み,残部がFeおよび不可避的不
純物であって、X=3.1C+1.2Si+0.3Mn
で表わされるX値が2.5以上のものとし、高周波焼入
処理が施された表層部焼入れ組織のオーステナイト結晶
粒度を粒度番号で9以上にする。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、例えば自動車などの無
段変速機として使用されるトロイダル式無段変速機にお
ける入力ディスク,出力ディスク,パワーローラに利用
されるトロイダル式無段変速機用転動体に関するもので
ある。
【0002】
【従来の技術】トロイダル式無段変速機は、例えば図1
に示すように、潤滑油を介して接触する転動体、すなわ
ち入力ディスク1,出力ディスク2およびパワーローラ
3から主に構成され、入力ディスク1と出力ディスク2
に挟まれたパワーローラ3の回転軸を傾動させることに
よって、入力ディスク1および出力ディスク2との接触
点の回転半径を連続的に変化させ、入力ディスク1の回
転速度を無段階に変えて出力ディスク2に伝達し、出力
ディスク2の回転動力を同軸に固定された歯車4を介し
て出力歯車5に伝達する仕組みとなっている。
【0003】トロイダル式無段変速機の転動体は、大き
な動力を伝達するため、高面圧下での転動疲労寿命に優
れる深い硬化層が要求される(例えば特開平7−715
55号公報など)。そのため、処理時間が長時間にわた
ることから、生産性が非常に悪く、コストアップを招い
てしまう。
【0004】そこで、迅速に疲労強度を付与するため
に、高周波焼入れ処理を施した場合、鋼材としては、J
IS G 4051,4052,4102,4103,
4104,4105,4106などに規定される機械構
造用炭素鋼および低合金鋼のうちの中炭素レベルのもの
が用いられる。
【0005】そして、これらの炭素鋼あるいは低合金鋼
からなるトロイダル式無段変速機用転動体に高周波焼入
れ処理を施すに際しては、まず第1段階として、例えば
図2(a)および(b)に示すように、転動体の内径面
1a,2a,3a、および底面1b,2b,3bの形状
に合わせて作成した誘導加熱コイルC1 ,C2 およびC
3 ,C4 によって、これら内径面および底面を加熱して
焼入れしたのち、第2段階として、第1段階で焼入れさ
れた内径面1a,2a,3a、および底面1b,2b,
3bが第2段階の熱によって鈍されないように、これら
内径面および底面を冷却しながら、図2(c)および
(d)に示すように、転動体の転動面1c,2cおよび
3cの形状に合わせて作成した誘導加熱コイルC5 およ
びC6 によって、これら転動面1c,2cおよび3cを
加熱して焼入れするようにしていた。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記し
た従来の2段階方式による高周波焼入れ方法において
は、第1段階で焼入れされた面を第2段階の焼入れ時の
熱によって鈍されないように冷却してはいるものの、図
3に示すように、第2段階における加熱部位と隣接する
ような部分A,B,Cにおいては、どうしても加熱を避
けることができず、このような部分では、第1段階の焼
入れによって得られた硬度が低下してしまう傾向があっ
た。このため、転動面に作用する高い面圧により剥離を
生じて、転動疲労寿命が短くなったり、塑性変形を生じ
て陥没したり、さらには軟化部分を起点として疲労破壊
するという問題点があり、このような問題点を解決する
ことが従来のトロイダル式無段変速機用転動体における
品質上の課題となっていた。
【0007】
【発明の目的】本発明は、従来のトロイダル式無段変速
機用転動体における上記課題に着目してなされたもので
あって、第1段階で焼入れされた面が、第2段階の焼入
時の熱影響を受けたとしても、高い硬度を維持し、転動
面に剥離や塑性変形を生じることがなく、疲労寿命に優
れたトロイダル式無段変速機用転動体を提供することを
目的としている。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明者は、上記目的を
達成するために、トロイダル式無段変速機用転動体の素
材となる鋼材成分や結晶粒度などの焼入れ性や焼入れ後
の熱影響による軟化特性(軟化抵抗性),疲労寿命など
に及ぼす影響について鋭意検討を重ねた結果、靭性や疲
労強度に有害なPおよびOを規制すると共に、硬さおよ
び焼入れ性を確保するC,Mn,Ni、結晶粒微細化に
効果のあるAl,N,Nb、軟化抵抗性を高めるSi,
Cr,Mo,V,Wを所定量添加し、さらに軟化抵抗性
を表す指標として新たに見出された数式により求められ
るX値を所定値以上とすることにより、いったん焼入れ
された部分が熱影響を受けたとしてもさほど軟化するこ
とがなく、焼入れ硬化層の表面から最大せん断応力位置
までの間が高い硬度に維持され、転動体の転動疲労寿命
が大幅に向上することを見出すに至った。
【0009】本発明は、上記知見に基づくものであっ
て、本発明の請求項1に係わるトロイダル式無段変速機
用転動体は、重量%で、C:0.4〜0.6%,Si:
0.1〜0.5%,Mn:0.20〜2.0%,P:
0.02%以下,Al:0.005〜0.1%,Ti:
0.005%以下,N:0.005〜0.03%,O:
0.002%以下を含み,残部がFeおよび不可避的不
純物であって、X=3.1C+1.2Si+0.3Mn
で表わされるX値が2.5以上の構造用鋼からなり、表
層部焼入れ組織のオーステナイト結晶粒度が粒度番号で
9以上である構成としたことを特徴としており、本発明
の請求項2に係わるトロイダル式無段変速機用転動体
は、重量%で、C:0.4〜0.6%,Si:0.1〜
0.5%,Mn:0.20〜2.0%,P:0.02%
以下,Al:0.005〜0.1%,Ti:0.005
%以下,N:0.005〜0.03%,O:0.002
%以下と共に、S:0.03〜0.1%,Pb:0.0
1〜0.3%,Te:0.005〜0.1%,Se:
0.005〜0.1%,Ca:0.0005〜0.01
%,Zr:0.005〜0.1%の群から選択される1
種以上をを含み,残部がFeおよび不可避的不純物であ
って、X=3.1C+1.2Si+0.3Mnで表わさ
れるX値が2.5以上の構造用鋼からなり、高周波焼入
処理が施され表層部焼入れ組織のオーステナイト結晶粒
度が粒度番号で9以上である構成としたことを特徴とし
ており、本発明の請求項3に係わるトロイダル式無段変
速機用転動体は、重量%で、C:0.4〜0.6%,S
i:0.1〜0.5%,Mn:0.20〜2.0%,
P:0.02%以下,Al:0.005〜0.1%,T
i:0.005%以下,N:0.005〜0.03%,
O:0.002%以下と共に、Ni:0.2〜2.0
%,Cr:0.2〜2.0%,Mo:0.05〜1.0
%,V:0.03〜0.5%,W:0.03〜0.5
%,Nb:0.01〜0.1%の群から選択される1種
以上を含み、残部がFeおよび不可避的不純物であっ
て、X=3.1C+1.2Si+0.3Mn+0.4C
r+1.4Mo+0.4V+0.3Wで表わされるX値
が2.5以上の構造用鋼からなり、表層部焼入れ組織の
オーステナイト結晶粒度が粒度番号で9以上である構成
とし、請求項4に係わるトロイダル式無段変速機用転動
体は、重量%で、C:0.4〜0.6%,Si:0.1
〜0.5%,Mn:0.20〜2.0%,P:0.02
%以下,Al:0.005〜0.1%,Ti:0.00
5%以下,N:0.005〜0.03%,O:0.00
2%以下と共に、Ni:0.2〜2.0%,Cr:0.
2〜2.0%,Mo:0.05〜1.0%,V:0.0
3〜0.5%,W:0.03〜0.5%,Nb:0.0
1〜0.1%の群から選択される1種以上、およびS:
0.03〜0.1%,Pb:0.01〜0.3%,T
e:0.005〜0.1%,Se:0.005〜0.1
%,Ca:0.0005〜0.01%,Zr:0.00
5〜0.1%の群から選択される1種以上を含み、残部
がFeおよび不可避的不純物であって、X=3.1C+
1.2Si+0.3Mn+0.4Cr+1.4Mo+
0.4V+0.3Wで表わされるX値が2.5以上の構
造用鋼からなり、表層部焼入れ組織のオーステナイト結
晶粒度が粒度番号で9以上である構成としたことを特徴
としてこのようなトロイダル式無段変速機用転動体の構
成を前述した従来の課題を解決するための手段としてい
る。
【0010】また、請求項1あるいは請求項2記載のト
ロイダル式無段変速機用転動体の実施態様として請求項
5記載のトロイダル式無段変速機用転動体においては、
Y=3.2C+0.6Si+2.2Mnで表わされるY
値が4.5以下である構成、さらに請求項3あるいは請
求項4記載のトロイダル式無段変速機用転動体の実施態
様として請求項6記載のトロイダル式無段変速機用転動
体においては、Y=3.2C+0.6Si+2.2Mn
+1.2Ni+0.4Cr+0.4Mo+0.7V+
0.4Wで表わされるY値が4.5以下である構成とし
たことを特徴としている。
【0011】
【発明の作用】以下、本発明に係わるトロイダル式無段
変速機用転動体の化学成分範囲,X値,Y値および表層
部焼入れ組織の結晶粒度限定理由をそれぞれの作用と共
に説明する。
【0012】C:0.4〜0.6% Cは、高周波焼入れ後の表面硬化層および芯部の硬さを
確保するのに寄与する元素であって、とくに第1段階の
高周波焼入れで高い表面硬度を確保することにより、第
2段階の高周波焼入れに際して熱影響を受けても高い硬
さがもたらされる。このために本発明では、0.4%以
上の添加を要する。しかし、多すぎると被削性が低下す
ると共に、靭性の劣化を招くので、上限値を0.6%と
する。
【0013】Si:0.1〜0.5% Siは、高周波焼入れ部の軟化抵抗性を向上させる作用
を有し、第2段階の高周波焼入れ時の熱影響による軟化
を抑制するのに寄与する元素であり、このためには0.
1%以上の添加が必要である。一方、添加量が0.5%
を超えると被削性を悪くするので、上限値を0.5%と
する。
【0014】Mn:0.2〜2.0% Mnは、鋼材の溶製時に脱酸剤として添加されると共
に、鋼の焼入れ性を向上させる作用を有し、高周波焼入
れによる硬化層を深くして、転動体の転動疲労寿命を向
上させるのに寄与する元素であり、0.2%以上の添加
を要する。しかし、2.0%を超えて添加すると、素材
が硬くなり、加工性が劣化するので、上限値を2.0%
とする。
【0015】P:0.02%以下 Pは、粒界強度を低下させ、表面硬化層の靭性を劣化さ
せるので、その上限値を0.02%とする。
【0016】Al:0.005〜0.1% Alは、鋼材の溶製時に脱酸剤として添加されると共
に、焼入れ時の昇温に際してオーステナイト結晶粒の成
長を抑制する作用を有し、このような作用を期待するに
は、0.005%以上の添加を必要とする。一方、0.
1%を超えて添加したとしても、結晶粒成長の抑制に対
する働きが飽和するばかりか、硬質の非金属介在物が多
数生成して、転動疲労寿命の低下を招くので上限値を
0.1%とする。
【0017】Ti:0.005%以下 Tiは、硬質の介在物を生成し、転動疲労寿命に悪影響
を与えるので、その上限を0.005%とする。
【0018】N:0.005〜0.03% Nは、AlNを生成してオーステナイト結晶粒を微細化
し、転動疲労寿命を向上させる。しかし、0.005%
未満の含有量では、このような作用が期待できず、逆に
0.03%を超えた場合には、鍛造や熱間圧延時の割れ
の原因となるので、0.03%をその上限とする。
【0019】O:0.002%以下 Oは、Al2 3 やSi2 3 などの酸化物系介在物を
多く生成して疲労強度、とくに転動疲労寿命を劣化させ
ると共に、切削加工時の超硬工具の寿命に悪影響を及ぼ
すので、0.002%をその上限とする。
【0020】Ni:0.2〜2.0% Niは、鋼の焼入れ性を高め、高周波焼入れによる硬化
層を深くする作用を有する。 しかし、0.2%未満で
は、このような作用を期待できず、逆に添加量が多すぎ
ると被削性を損なうので、上限値を2.0%とする。
【0021】Cr:0.2〜2.0% Crは、高周波焼入れ部の軟化抵抗性を向上させる作用
を有し、第2段階の高周波焼入れ時の熱影響による軟化
を抑制するのに寄与する。また、焼入れ性を高め、高周
波焼入れによる硬化層を深くする。しかし、0.2%未
満では、このような作用を期待できず、逆に添加量が多
すぎると被削性を損なうので、上限値を2.0%とす
る。
【0022】Mo:0.05〜1.0% Moは、高周波焼入れ部の軟化抵抗性を向上させるのに
顕著な作用を有し、第2段階の高周波焼入れ時の熱影響
による軟化を抑制する。また、高周波焼入れ部のオース
テナイト結晶粒を微細化するのに寄与する。しかし、
0.05%未満では、これらの作用を期待できず、逆に
添加量が多いと被削性が劣化するので、上限値を1.0
%とする。
【0023】V:0.03〜0.5% Vは、高周波焼入れ部の軟化抵抗性を向上させる作用を
有し、第2段階の高周波焼入れ時の熱影響による軟化を
抑制する。しかし、0.03%未満では、このような作
用を期待できず、逆に添加量が多いと被削性が劣化する
ので、上限値を0.5%とする。
【0024】W:0.03〜0.5% Wは、高周波焼入れ部の軟化抵抗性を向上させると共
に、内部硬さを高める作用を有する。しかし、0.03
%未満では、このような作用を期待できず、添加量が
0.5%を超えると素材硬さが高くなり、被削性に悪影
響を及ぼすので、上限値を0.5%とする。
【0025】Nb:0.01〜0.1% Nbは、結晶粒度の微細化作用を有するので、0.01
%以上を添加する。しかし、0.1%を超えて添加して
も微細化作用が飽和するので、0.1%を上限値とす
る。
【0026】S:0.03〜0.1% Sは、鋼の被削性の向上に寄与する元素であり、このよ
うな作用を期待するには、0.003%以上の添加を要
する。しかし、添加量が多すぎるとMnS組成の非金属
介在物が増加し、転動疲労寿命に悪影響を与えるので、
0.1%を上限値とする。
【0027】Pb:0.01〜0.3% Pbは、被削性向上元素であり、このような作用を期待
するには、0.01%以上添加する必要がある。ただ
し、0.3%を超えて添加すると転動疲労寿命が低下す
るので、0.3%を上限値とする。
【0028】Te,Se:0.005〜0.1% Te,Seは、Pbと同様に被削性向上元素であり、こ
のような作用を期待するには、いずれも0.005%以
上添加する必要がある。ただし、0.1%を超えて添加
すると転動疲労寿命が低下するので、いずれも0.1%
を上限値とする。
【0029】Ca:0.0005〜0.01% Caは、MnSと複合介在物を生成して球状化するた
め、鋼の靭性を劣化させることなく被削性を向上させる
作用を有する元素である。このような作用は、添加量が
0.0005%未満では期待できず、0.01%を超え
ると作用が飽和するので、0.01%をその上限とす
る。
【0030】Zr:0.005〜0.1% Zrは、Caと同様に、熱間圧延時にMnSの変形を抑
制してMnSの球状化に寄与し、鋼の靭性を劣化させる
ことなく被削性を向上させる作用を有する元素である。
このような作用は、添加量が0.005%未満では期待
できず、0.1%を超えるとZrO2 などの非金属介在
物が多く生成して、転動疲労寿命が低下するので、0.
1%を上限値とする。
【0031】X値:2.5以上 本発明に係わるトロイダル式無段変速機用転動体におい
て、その疲労強度を確保するためには、2段階方式の高
周波焼入れに際して、最初(第1段階)に高周波焼入れ
された面は、第2段階の焼入れにおける高周波加熱の熱
影響を受けたとしても軟化せず、高い硬度を備えていな
ければならない。とくに、疲労破壊の起点となる表面お
よび転動面における最大せん断応力位置(表面より0.
8mm深さ)における硬さを高くすることが要求され
る。本発明者は、第1段階で焼入れされた部分が第2段
階の焼入れによる熱影響を受けた場合の鋼成分と硬度の
関係について種々検討した結果として、次式を見出し、
これによって求めたX値が2.5以上の値をとるとき
に、いったん焼入れされた部分が熱影響を受けたとして
もさほど軟化することがなく、焼入れ硬化層の表面から
最大せん断応力位置までの間が高い硬度に維持され、転
動体の転動疲労寿命が大幅に向上することを確認した。 X=3.1C+1.2Si+0.3Mn+0.4Cr+
1.4Mo+0.4V+0.3W オーステナイト結晶粒度:粒度番号9以上 オーステナイト結晶粒度は、焼入れ性に影響を及ぼし、
結晶粒の微細化により転動疲労寿命および曲げ疲労強度
が向上する。このような作用を期待するには、結晶粒度
番号で9以上に微細化する必要がある。
【0032】高周波焼入材の結晶粒度に影響を及ぼす因
子としては、材料因子として高周波焼入処理を施す前の
組織、Al,N量、Nb,Mo等の炭窒化物形成元素の
添加、高周波焼入条件としては出力、加熱時間、焼入れ
時の冷却速度等が挙げられる。
【0033】本発明の場合、例えば水冷の場合、請求項
1および2の炭素鋼では、出力×時間が800kW・s
ec以下、Nb,Mo,V,Wなどの炭化物形成元素添
加の請求項3および4の鋼では、出力×時間が1000
kW・sec以下の条件で加熱することにより結晶粒度
が粒度番号で9番以上を得ることができる。
【0034】Y値:4.5以下 焼入れに先立って、鋼素材を部品形状に切削加工するに
際して、素材の硬さが高いと切削加工のコストが上昇し
たり、切削加工自体が不可能になったりする。本発明者
は、焼入れ前の素材硬さに及ぼす鋼成分の影響について
検討した結果、次式により求められるY値を4.5以下
に規制することにより、焼入れ前の鋼素材の硬さが抑制
され、素材の切削加工性が大幅に向上することを見出し
た。
【0035】このように、本発明に係わるトロイダル式
無段変速機用転動体においては、靭性や疲労強度に有害
なPおよびOを規制すると共に、硬さおよび焼入れ性を
確保するC,Mn、結晶粒微細化作用を有するAl,
N、軟化抵抗性を高めるSiを所定量添加して軟化抵抗
性を示す指標として新たに見出された数式により求めら
れるX値を2.5以上にし、さらに表層部焼入れ組織の
オーステナイト結晶粒度を粒度番号9以上としたもので
あるから、いったん焼入れされた部分が熱影響を受けた
としてもさほど軟化することがなく、焼入れ硬化層の表
面から最大せん断応力位置までの間が高い硬度に維持さ
れ、転動体の転動疲労寿命が大幅に向上することにな
る。
【0036】また、本発明の他の請求項あるいは実施態
様に係わるトロイダル式無段変速機用転動体において
は、さらに焼入れ性を向上させるNi、結晶粒微細化作
用を有するNb、軟化抵抗性を高めるCr,Mo,V,
Wの1種以上、被削性を向上させるS,Pb,Te,S
e,Ca,Zrの1種以上を必要に応じてそれぞれ添加
し、さらに必要に応じて焼入れ前の素材硬さを示す指標
として新たに見出された数式により求められるY値を
4.5以下に規制するようにしているので、トロイダル
式無段変速機用転動体として要求される種々の特性がさ
らに改善されることになる。
【0037】
【実施例】以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説
明する。
【0038】まず、表1〜3に示す化学組成の素材鋼
(発明組成23種、比較組成13種)を用いて、入力デ
ィスク,出力ディスク,パワーローラの粗形状および切
削性試験片(85φ×250L)形状に熱間鍛造したの
ち、焼き鈍し処理して、所定の部品形状に切削加工し
た。
【0039】
【表1】
【0040】
【表2】
【0041】
【表3】
【0042】そして、入力ディスク1,出力ディスク2
およびパワーローラ3用の切削素材については、2段階
の高周波焼入れ処理、すなわち第1段階として内径面1
a,2a,3aおよび底面1b,2b,3bを出力80
kW,周波数30kHzで7秒間加熱して水冷焼入れ
し、続いて第2段階として転動面1c,2c,3c(図
2参照)を出力30kW,周波数100kHzの条件で
20秒間加熱したのち水冷することによって焼入れを行
った。その後、160℃×2時間の焼戻し処理を施し、
仕上げ研磨加工を行うことによって入力ディスク1,出
力ディスク2,パワーローラ3(トロイダル式無段変速
機用転動体)を得た。
【0043】上記によって得られた各転動体1ないし3
のビッカース硬度およびオーステナイト結晶粒度を測定
し、その結果を表4,5に示す。
【0044】なお、硬さは、図4(a)および(b)に
示すa−a線およびb−b線に沿って、表面より0.1
mmの位置、および表面より0.8mmの位置(最大せ
ん断応力作用位置)で測定した。また、オーステナイト
結晶粒度については、JISG 0551に従って、図
4(a)および(b)に示すa−a線およびb−b線上
の表面より0.1mmの位置で測定した。
【0045】
【表4】
【0046】
【表5】
【0047】また、切削性試験片については、焼き鈍し
処理ののち、表6に示す条件により切削加工性を調査し
た。その結果を表4,5に併せて示す。
【0048】
【表6】
【0049】さらに、このようにして製作したトロイダ
ル式無段変速機用転動体、すなわち入力ディスク1,出
力ディスク2およびパワーローラ3を組合わせて、図1
に示したようなトロイダル式無段変速機に組込み、表7
に示す条件のもとで、目標繰り返し数1×107 回まで
耐久試験を実施した。その結果を表4,5に併せて示
す。
【0050】
【表7】
【0051】表4,5に示す結果から明らかなように、
素材鋼の化学成分,表層部焼入れ組織のオーステナイト
結晶粒度および軟化抵抗性の指標としてのX値、あるい
は焼入れ前の素材硬さの指標としてのY値などが本発明
の要件を満足する実施例1ないし21のトロイダル式無
段変速機用転動体においては、焼き鈍し後の素材硬さが
低く、切削加工時の工具摩耗量が少なく良好な切削性を
示すと共に、第2段階の高周波焼入れを行っても、表面
より0.1mmの位置、および0.8mmの位置(最大
せん断応力作用位置)で高い硬度が得られ、1×107
回を超える良好な耐久性を示すことが確認された。
【0052】これに対し、素材鋼の化学成分やX値など
が本発明の要件を満足しない比較例24ないし36のト
ロイダル式無段変速機用転動体においては、焼き鈍し後
の素材硬さが高くて切削性が劣ったり、第2段階の高周
波焼入れ時の熱影響による軟化によって転動体としての
耐久性が劣ったりする不具合が生じることが判明した。
【0053】すなわち、比較例24の転動体において
は、素材鋼のC量が少ないため、第2段階高周波焼入れ
の熱影響部の硬さが得られず、疲労寿命が短く、逆にC
量が多すぎる比較例25および26の転動体において
は、素材硬さが高いため、工具の摩耗量が著しく多くな
ることが確認された。
【0054】また、比較例27の転動体においては、素
材鋼のSi量が少なく、軟化抵抗性が低いので熱影響部
の硬さを確保することができないため疲労寿命が短く、
Si量およびMn量が過剰な比較例28および29の転
動体においては、素材硬さが高いため工具の摩耗量が著
しく多く、切削性に劣ることが確認された。
【0055】比較例30の転動体においては、素材鋼の
Ti量が多く、硬質の介在物が生成することから切削加
工時の工具摩耗量が多い。
【0056】また、比較例31においては、素材鋼のN
含有量が少なく、結晶粒が粗大化しているため疲労寿命
が短く、比較例32においては、O含有量が多く、介在
物が多く生成しているため、切削加工時の工具摩耗量が
多い。
【0057】そして、素材鋼のNi量,Cr量,Mo量
が多い比較例33,34,35の転動体においては、素
材硬さが高いため、工具の摩耗量が著しく多くなること
が確認された。
【0058】さらに、比較例36の転動体においては、
素材鋼のV量が多く、素材硬さが高くなっているため、
チッピング(欠け)が発生する結果となった。
【0059】
【発明の効果】以上説明したように、本発明の請求項1
に係わるトロイダル式無段変速機用転動体においては、
靭性や疲労強度に有害なPおよびOを規制すると共に、
硬さおよび焼入れ性を確保するC,Mn、結晶粒微細化
に有効なAl,N、軟化抵抗性を向上させるSiを所定
量添加し、軟化抵抗性を示す指標として新たに見出され
た数式により求められるX値を2.5以上にし、さらに
表層部焼入れ組織のオーステナイト結晶粒度を粒度番号
9以上に微細化したものであるから、いったん焼入れさ
れた部分が熱影響を受けたとしても軟化を防止すること
ができ、焼入れ硬化層の表面から最大せん断応力位置ま
での間を高い硬度に維持して転動体の転動疲労寿命を大
幅に向上させることができるという極めて優れた効果が
もたらされる。
【0060】本発明の請求項2に係わるトロイダル式無
段変速機用転動体においては、被削性を向上させるS,
Pb,Te,Se,Ca,Zrなどが添加されているの
で、素材鋼の被削性を改善することができ、当該転動体
の加工コストの低減を達成することができるという優れ
た効果がもたらされる。
【0061】また、本発明の請求項3に係わるトロイダ
ル式無段変速機用転動体においては、焼入れ性を向上さ
せるNi、結晶粒微細化作用を有するNb、軟化抵抗性
を高めるCr,Mo,V,Wなどが添加されているの
で、焼入れ硬化層の表面から最大せん断応力位置までの
間を高い硬度に確実に維持することができ、転動体の転
動疲労寿命をより確実に向上させることができるという
優れた効果がもたらされる。
【0062】さらに、本発明の請求項4に係わるトロイ
ダル式無段変速機用転動体においては、上記S,Pb,
Te,Se,Ca,Zrなどと共に、Ni,Nb,C
r,Mo,V,Wなどが添加されているので、被削性の
改善によって当該転動体の加工コストの低減を達成する
ことができると同時に、焼入れ硬化層の表面から最大せ
ん断応力位置までの間を高い硬度に確実に維持すること
ができ、転動体の転動疲労寿命をより確実に向上させる
ことができるというさらに優れた効果がもたらされる。
【0063】本発明に係わるトロイダル式無段変速機用
転動体の実施態様として請求項5および請求項6記載の
転動体においては、焼入れ前の素材硬さを示す指標とし
て新たに見出された数式により求められるY値を4.5
以下に規制したものであるから、素材鋼の切削加工性を
確実に改善することができ、加工コストをさらに確実に
低減させることができるという優れた効果がもたらされ
る。
【図面の簡単な説明】
【図1】トロイダル式無段変速機の構造および原理を示
す概略説明図である。
【図2】(a) 入力ディスクおよび出力ディスクの高
周波焼入れの第1段階を示す概略説明図である。 (b) パワーローラの高周波焼入れの第1段階を示す
概略説明図である。 (c) 入力ディスクおよび出力ディスクの高周波焼入
の第2段階を示す概略説明図である。 (d) パワーローラの高周波焼入れの第2段階を示す
概略説明図である。
【図3】(a) 入力ディスクのおよび出力ディスクの
軟化部分を示す断面説明図である。 (b) パワーローラの軟化部分を示す断面説明図であ
る。
【図4】(a) 本発明の実施例における硬度測定位置
を示す入力ディスクおよび出力ディスクの断面図であ
る。 (b) 本発明の実施例における硬度測定位置を示すパ
ワーローラの断面図である。
【符号の説明】
1 入力ディスク(トロイダル式無段変速機用転動体) 2 出力ディスク(トロイダル式無段変速機用転動体) 3 パワーローラ(トロイダル式無段変速機用転動体)
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 安 部 聡 兵庫県神戸市灘区灘浜東町2 株式会社神 戸製鋼所神戸製鉄所内 (72)発明者 内 山 典 子 神奈川県横浜市神奈川区宝町2番地 日産 自動車株式会社内 (72)発明者 松 本 隆 神奈川県横浜市神奈川区宝町2番地 日産 自動車株式会社内 (72)発明者 梅 垣 俊 造 神奈川県横浜市神奈川区宝町2番地 日産 自動車株式会社内 (72)発明者 伏 見 慎 二 神奈川県横浜市神奈川区宝町2番地 日産 自動車株式会社内

Claims (6)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 重量%で、C:0.4〜0.6%,S
    i:0.1〜0.5%,Mn:0.20〜2.0%,
    P:0.02%以下,Al:0.005〜0.1%,T
    i:0.005%以下,N:0.005〜0.03%,
    O:0.002%以下を含み,残部がFeおよび不可避
    的不純物であって、 X=3.1C+1.2Si+0.3Mn で表わされるX値が2.5以上の構造用鋼からなり、高
    周波焼入処理が施され表層部焼入れ組織のオーステナイ
    ト結晶粒度が粒度番号で9以上であることを特徴とする
    トロイダル式無段変速機用転動体。
  2. 【請求項2】 重量%で、C:0.4〜0.6%,S
    i:0.1〜0.5%,Mn:0.20〜2.0%,
    P:0.02%以下,Al:0.005〜0.1%,T
    i:0.005%以下,N:0.005〜0.03%,
    O:0.002%以下と共に、S:0.03〜0.1
    %,Pb:0.01〜0.3%,Te:0.005〜
    0.1%,Se:0.005〜0.1%,Ca:0.0
    005〜0.01%,Zr:0.005〜0.1%の群
    から選択される1種以上をを含み,残部がFeおよび不
    可避的不純物であって、 X=3.1C+1.2Si+0.3Mn で表わされるX値が2.5以上の構造用鋼からなり、高
    周波焼入処理が施され表層部焼入れ組織のオーステナイ
    ト結晶粒度が粒度番号で9以上であることを特徴とする
    トロイダル式無段変速機用転動体。
  3. 【請求項3】 重量%で、C:0.4〜0.6%,S
    i:0.1〜0.5%,Mn:0.20〜2.0%,
    P:0.02%以下,Al:0.005〜0.1%,T
    i:0.005%以下,N:0.005〜0.03%,
    O:0.002%以下と共に、Ni:0.2〜2.0
    %,Cr:0.2〜2.0%,Mo:0.05〜1.0
    %,V:0.03〜0.5%,W:0.03〜0.5
    %,Nb:0.01〜0.1%の群から選択される1種
    以上を含み、残部がFeおよび不可避的不純物であっ
    て、 X=3.1C+1.2Si+0.3Mn+0.4Cr+
    1.4Mo+0.4V+0.3W で表わされるX値が2.5以上の構造用鋼からなり、高
    周波焼入処理が施され表層部焼入れ組織のオーステナイ
    ト結晶粒度が粒度番号で9以上であることを特徴とする
    トロイダル式無段変速機用転動体。
  4. 【請求項4】 重量%で、C:0.4〜0.6%,S
    i:0.1〜0.5%,Mn:0.20〜2.0%,
    P:0.02%以下,Al:0.005〜0.1%,T
    i:0.005%以下,N:0.005〜0.03%,
    O:0.002%以下と共に、Ni:0.2〜2.0
    %,Cr:0.2〜2.0%,Mo:0.05〜1.0
    %,V:0.03〜0.5%,W:0.03〜0.5
    %,Nb:0.01〜0.1%の群から選択される1種
    以上、およびS:0.03〜0.1%,Pb:0.01
    〜0.3%,Te:0.005〜0.1%,Se:0.
    005〜0.1%,Ca:0.0005〜0.01%,
    Zr:0.005〜0.1%の群から選択される1種以
    上を含み、残部がFeおよび不可避的不純物であって、 X=3.1C+1.2Si+0.3Mn+0.4Cr+
    1.4Mo+0.4V+0.3W で表わされるX値が2.5以上の構造用鋼からなり、高
    周波焼入処理が施され表層部焼入れ組織のオーステナイ
    ト結晶粒度が粒度番号で9以上であることを特徴とする
    トロイダル式無段変速機用転動体。
  5. 【請求項5】 請求項1または請求項2記載のトロイダ
    ル式無段変速機用転動体において、 Y=3.2C+
    0.6Si+2.2Mnで表わされるY値が4.5以下
    であることを特徴とするトロイダル式無段変速機用転動
    体。
  6. 【請求項6】 請求項3または請求項4記載のトロイダ
    ル式無段変速機用転動体において、 Y=3.2C+0.6Si+2.2Mn+1.2Ni+
    0.4Cr+0.4Mo+0.7V+0.4W で表わされるY値が4.5以下であることを特徴とする
    トロイダル式無段変速機用転動体。
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