JPH0978185A - 靭性に優れた金型用鋼およびその製造方法 - Google Patents

靭性に優れた金型用鋼およびその製造方法

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JPH0978185A
JPH0978185A JP23222695A JP23222695A JPH0978185A JP H0978185 A JPH0978185 A JP H0978185A JP 23222695 A JP23222695 A JP 23222695A JP 23222695 A JP23222695 A JP 23222695A JP H0978185 A JPH0978185 A JP H0978185A
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steel
present
toughness
ceq
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JP23222695A
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English (en)
Inventor
Shiho Fukumoto
志保 福元
Kunichika Kubota
邦親 久保田
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Proterial Ltd
Original Assignee
Hitachi Metals Ltd
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 初期クラックの発生を抑制可能な十分な強度
と、十分な延性を有する金型用鋼を提供する。 【解決手段】 重量%で、C0.1〜0.2%、Si2
%以下、Mn2%以下、Ni2〜5%、Cr3.5〜
7.0%、WまたはMoの1種または2種をW当量(W
+2Mo)として3〜10%、V0.5%以上で1.1
%未満含有するFe基のマルテンサイト系鋼であって、 Vの炭素当量Cv=0.2[V] 炭化物形成元素の炭素当量Ceq=0.063[Cr]
+0.06[Mo]+0.033[W]+0.2[V] としたとき、Cv/Ceq≦0.3であり、オーステナ
イト化温度におけるδフェライトがミクロ組織の面積率
で3%以下である金型用鋼。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、鍛造、ダイカスト
等に用いられる金型に適する金型用鋼にかかわり、特に
靭性値が高い金型用鋼およびその製造方法に関するもの
である。
【0002】
【従来の技術】近年、金型にかかるコストの削減等の要
求により金型の長寿命化のニーズが高まってきた。温間
および熱間で使用される金型においては、クラッキング
による損耗で寿命に至る場合が多い。従来こういった金
型材には、基本的にはJISSKD61を代表とする強
靱性熱間工具鋼が使用されてきた。現在、SKD61お
よびその改良鋼が、温熱間鍛造型・アルミダイカスト型
・アルミ押出ダイス・アルミ鍛造型に適用されている。
しかし、本系鋼種は基本的には、強靱性の確保と同時
に、主に熱間用途に用いられ、軟化抵抗も維持する必要
があるため、耐割れ性を主眼においた合金設計がなされ
ていない。
【0003】これらの材料で特に強靱化の成分操作に関
しては、上原 日本金属学会 第III総合分科シンポジウ
ム予稿(1974)に示されているように低C化および高Ni
化、ならびに特開昭58−113352号に示される低
Si化が特に上げられるが、この中で特に強靱化の効果
の高い高Ni化は、軟化抵抗を減じるといった作用を有
するため、熱間工具鋼への積極的添加はなされていな
い。特開昭60−12420号に示される析出硬化型熱
間工具鋼は1〜4重量%のNiを含有させているが、本
系鋼はもともとアンダーエージングで使用する方法であ
り、靭性の乏しい領域での使用のため、Niの積極的靭
性化効果が生じない。このNiの強靱化効果について積
極的に活用されているのが、マルエージング鋼系である
が、8重量%以上のNiを含有させているため、コスト
高となり、金型用鋼としての主流の座を占めることがで
きていない。
【0004】金型の割れによる寿命挙動は、クラック発
生と大割れに大別される。クラック発生は、仕上げ型で
問題になり、製品肌にバリが転写されるために寿命とな
る。一方大割れによる寿命は型底から発生したクラック
が成長し、金型材の破壊靭性値に到達すると、一気に破
壊し寿命となるものである。このように、いずれにして
も初期のクラックの発生が金型材の寿命に大きく影響す
る。したがって、初期のクラックの発生を防止すること
が金型材の寿命向上に極めて有効である。クラック発生
については、たとえば海野ら「型技術」 9.7(1994)P142
などが知られているが、初期のクラックの発生を抑制す
るのに極めて有効な金型用鋼は提案されていないのが現
状である。本発明者は、初期クラックの発生を抑制する
には、塑性歪が抑制されるのに十分な強度と、クラック
を進展させない十分な延性とが必要であるとの知見か
ら、合金成分とミクロ組織との両面から検討を行なっ
た。
【0005】
【課題を解決するための手段】そして、まず本発明者等
は、金型の瞬間的に近い破壊を防ぐために靭性の高い材
料を考えた。靭性を向上させるためには、硬さを下げた
り、炭化物を大幅に減少させる手段が考えられるが、こ
れでは強度や耐熱性を満足させることができない。すな
わち材料においては、ある程度のCr、W、Mo、V等
の炭化物を生成し、基地に固溶して強化する元素が必須
である。そこで本発明では、構成する材料のミクロ組織
において生成されるMC型の炭化物とM2C型の炭化物
の量と形態を制御することでクラックの進展を抑制する
ことを検討した。
【0006】その結果、本発明者等はMC炭化物を生成
するV量の靭性への影響が極めて大きいこと、基本的な
考え方として、Vを従来のAISI M50クラスの鋼
より低くするとともに、MC炭化物の析出を抑え、さら
にMC型炭化物より形態が大きいM2C型炭化物を適当
量分散させることがクラックの進展抑制に有効であるこ
とを見いだした。すなわち、本発明では主要元素の割合
だけでなく、MC型炭化物とM2C型炭化物の構成割合
が重要であり、後者の関係を炭化物形成元素全部に結合
可能な炭素当量(Ceq)と、Vの炭素当量(Cv)の
比を規定するものである。
【0007】すなわち本発明は、重量%で、C0.1〜
0.2%、Si2%以下、Mn2%以下、Ni2〜5
%、Cr3.5〜7.0%、WまたはMoの1種または
2種をW当量(W+2Mo)として3〜10%、V0.
5%以上で1.1%未満含有するFe基のマルテンサイ
ト系鋼であって、 Vの炭素当量Cv Cv=0.2[V] 炭化物形成元素の炭素当量Ceq Ceq=0.063[Cr]+0.06[Mo]+0.
033[W]+0.2[V] としたとき、Cv/Ceq≦0.3であり、オーステナ
イト化温度におけるδフェライトがミクロ組織の面積率
で3%以下であることを特徴とする金型用鋼である。
【0008】本発明では、Fe基をベースにし、C,N
i,Cr,VおよびWとMoの1種または2種を必須元
素として前記範囲で含有すればよく、その他の任意の元
素は必要に応じて添加することができる。より具体的な
好ましい鋼を例示すると、重量%で、C0.1〜0.2
%、Si1%以下、Mn1%以下、Ni3〜5%、Cr
3.5〜7.0%、WまたはMoの1種または2種をW
当量(W+2Mo)として3〜8、V0.5%以上で
1.0%以下含有するFe基のマルテンサイト系の鋼で
ある。またFeの一部を10%以下のCoで置換しても
良い。
【0009】上述した本発明の金型用鋼は、上述した組
成を満足する合金を、1000℃以上のオーステナイト化温
度で焼入れ、次いで焼戻し、δフェライトがミクロ組織
の面積率で3%以下であるマルテンサイト組織とするこ
とによって得られる。本発明においては、上述した靭性
を得る上でフェライトの生成を抑制する必要がある。そ
のためには、焼入れ時のオーステナイト化を十分なもの
とする必要があり、フェライト生成が起らない十分に高
温の領域からの焼入れを行なう必要がある。本発明にお
いては、十分なオーステナイト化を行なうため、1000℃
以上と規定した。ここで、言及したフェライトはオース
テナイト化温度より十分に高い温度域で安定化するフェ
ライトと同一系結晶構造を持つδフェライトも含まれ
る。
【0010】本発明は、上述したように焼戻しにおける
2次硬化析出炭化物のうちMC炭化物の析出を抑えた組
織とすることで基本的な強度を保ったままクラックの進
展抑制が可能な高い靭性を得たものである。そのため本
発明では主要元素の割合だけでなく、VCを主体とする
MC型炭化物とM2C型炭化物の構成割合が重要であ
る。そして、本発明においてはCv/Ceqの値を0.
3以下と規定することによって、MC型炭化物とM2
型炭化物の構成割合を最適化できることを見いだしたも
のである。
【0011】この構成割合は炭化物形成元素全部に結合
可能な炭素当量(Ceq)と、Vの炭素当量(Cv)の
比として示すものである。Cv/Ceqの値が0.3を
越えるようになると、芯部の焼戻し組織の二次硬化析出
において、電子線回折パターンとしてMC型とM2C型
の炭化物の回折パターンが強く検出され、明確なMC炭
化物の存在が確認されるようになる。一方本発明の規定
範囲であるCv/Ceqの値が0.3以下の範囲とする
と、MC型炭化物の回折パターンが局所的にしか認めら
れない組織となる。本発明は、このようにしてMC型炭
化物を低減し、かつM2C型炭化物を確保することによ
って、クラックの進展を抑制する。
【0012】上述した組織を確保する上で最も重要な元
素一つはVである。Vは強力な炭化物生成元素であり、
炭素の低い組成においてVが多く存在すると、炭素の大
部分がVと結合してVC型の炭化物となってしまう。こ
うなるとVに比べて炭素との結合エネルギーの低いC
r、W、Moを多く添加してもクラックの進展を阻止で
きるM2C型の炭化物の量の存在量を確保することがで
きない。そのためV量の上限を設けることが必要であ
り、本発明においては、V量を1.1%未満と規定する
ものである。なお、V量が1.1%未満であってもC
r、WあるいはMoが少ないとVCを主体とするMC型
炭化物が多くなり靭性が劣化する場合がある。そのた
め、本発明においては上述したようにCv/Ceqの値
を0.3以下とする規定を設けて、炭化物生成元素全体
に対する割合としてのV量の制限を行っている。
【0013】なお、本発明においては、V量の下限を
0.5%と規定した。Vが0.5%未満では靭性は高い
ものであるが、V添加による耐熱性の効果が小さくなり
好ましくない。したがって、本発明においては、Vの下
限は0.5%と規定した。また本発明の別の重要な特徴
の一つは、オーステナイト化温度におけるδフェライト
量を規定したことである。δフェライトが生成すると金
型の靭性は著しく低下する。またδフェライトは焼入れ
時にマルテンサイト変態を起さないので硬度も低いもの
となる。このような理由からδフェライトの存在は、金
型寿命を著しく劣化する原因となるため、制限しなけれ
ばならない。本発明においては、δフェライトの量はミ
クロ組織の面積率で3%以下であると規定したが、この
規定は基本的にはδフェライトが極めて少ないか、また
は無いことが望ましいことを意味するものである。
【0014】以下、V以外の各元素の規定理由について
述べる。CはVについで重要な元素であり、本発明の金
型用鋼の靭性および硬さを決定する元素である。Cはマ
ルテンサイト変態により焼入れ硬化を起こし、硬さを高
める。またオーステナイト安定化元素であり、オーステ
ナイト化温度まで加熱した時に靭性を劣化するδフェラ
イトが生成するのを抑制する効果がある。一方C量を高
め過ぎると、硬さが高くなりすぎ、靭性を低下する。本
発明においては、靭性の確保が最も重要であり、炭化物
の生成過多による靭性の低下を防ぐため、Cの上限を
0.2%とした。またδフェライトの生成を抑制するた
めに0.1%以上とする。
【0015】Crはマトリクスと炭化物の両方に固溶
し、マトリクスの焼入れ性の確保、炭化物の焼入れ時の
基地への固溶の促進に有効な元素である。Crは3.5
%未満では焼入れ焼戻し後の靭性が低下するため、下限
値を3.5%とした。また7.0%以上添加すると、δ
フェライトが安定し、靭性を著しく劣化するため7%以
下と規定した。
【0016】WとMoは、硬さを高め、また耐熱性を付
与するという点で同一の作用を有する元素であり、一種
または二種を添加する。重量比でMo1%はW2%と等
価であり、W当量(W+2Mo)として規定する。また
微細な炭化物によりオーステナイト結晶粒の粗大化が防
止されるため靭性の確保にも有効である。また、W当量
が高すぎるとδフェライトが安定化し、靭性を著しく劣
化する。本発明では、金型用鋼として充分な硬さを得る
ために、W当量は3%以上と規定し、充分な靭性を確保
するためにW当量の上限を10%とした。好ましいW当
量の上限は8%である。
【0017】本発明の金型用鋼の組成において、V以外
の炭化物形成元素としては、上述したCrおよびMoも
しくはWが添加される。上述したようにCr、Moまた
はWは、M2C型炭化物も生成する。したがって、VC
を主体とするMC型炭化物の生成を抑制して金型用鋼と
して靭性を確保するという点においては、Cr、Moま
たはWの添加は必須であり、上述した下限以上の量を確
保してM2C型炭化物を存在させることが必要である。
【0018】そこで本発明では、MC型炭化物の主体と
なるVCに消費されるVの炭素当量Cv(Cv=0.2
[V]で計算される炭素量を表す)と、Cr,Mo,W
,Vからなる炭化物形成元素に消費される炭素当量C
eq(Ceq=0.063[Cr]+0.06[Mo]
+0.033[W]+0.2[V]で計算される炭素
量)に着目したものである。すなわち、MC型炭化物よ
りもサイズが大きく成長しやすいM2C型炭化物を析出
させて、クラック進展のストッパの役目を持たせるので
ある。言い換えれば、本発明では、MC型よりもM2
型炭化物を優先的に採用していることになる。 そのた
め、本発明においては、炭素当量で言えばCv/Ceq
≦0.3としてCvに対するCeqの割合を大きく取る
ものである。
【0019】また、上述したように本発明のような炭素
が0.2%以下という、著しく靭性を劣化するδフェラ
イトが生成しやすい炭素の低い組成範囲を適用する。ま
た本発明においてはCrを3.5%〜7.0%、Moあ
るいはWをW当量で3〜10%というδフェライトを安
定化する元素を多量に含む組成を適用する。したがっ
て、このような組成系においては、δフェライトの生成
を抑えることは必須である。
【0020】本発明においては、このδフェライト生成
を抑制するためにNiを添加する手段をとった。このよ
うに本発明で添加するNiは、δフェライトの生成を抑
制して本発明の金型用鋼の靭性を確保する上で最も重要
な元素の一つである。また、Niはδフェライトの生成
を抑制するだけでなく、添加量を増やすことによって靭
性を向上するという点においても極めて重要である。し
かし、5%を超えるとA1変態点の低下が大きく、焼き
なまし硬さを上げ、被削性等を劣化するため5%以下と
する。Niは2%未満であるとδフェライトが安定しや
すくなるので下限を2%とした。靭性をさらに確保する
ため好ましい範囲は3〜5%である。
【0021】Siは、脱酸元素として、あるいは硬さや
耐熱性を向上させる目的で添加する。ただし、添加量は
2%を超えると靭性が劣化するので上限を2%とした。
Mnは、脱酸元素として、あるいはMnSとして析出さ
せ、不純物として含有されるSの有害性を抑える効果が
ある。一方、2%を超えると靭性を劣化するため、2%
を上限とする。Coは、主にマトリックスに固溶し、硬
さと耐熱性を向上させる効果がある。ただし、添加量を
増やしていくと、強度と靭性は漸減する。Coの10%
超える添加は、靭性が劣化し過ぎて、金型用鋼として不
適となるので上限は10%とした。
【0022】また本発明においては、さらにその他の添
加可能元素としてNbがある。Nbは合金組織の微細化
に効果のある元素である。Nbは添加しすぎると、硬さ
が高くなり、クラックの進展速度を速めてしまうため、
添加する場合は0.5%以下とする。Nbを含有する場
合の本発明の軸受鋼の好ましい具体的な組成範囲の一例
を示すと、CvとCeqは前述と同じようにCv/Ce
q≦0.3を満足し、かつ重量%で、C0.1〜0.2
%,Si2%以下、Mn2%以下、Ni3〜5%、Cr
3.5〜7.0%、WまたはMoの1種または2種をW
当量(W+2Mo)として3〜10%、V0.5%以上
で1.1%未満、Nb0.5%以下、残部実質的にFe
からなる鋼である。
【0023】上述した組成および組織を満足させ、かつ
焼入れ温度を最適化することによって、最も好ましいも
のは破壊靭性値 100MPam^1/2以上、常温で
の絞り値 70%以上を同時に有するものとなる。
【0024】
【実施例】
(実施例1)表1に示すV含有量を変化させた成分に
て、素材を真空溶解法で溶製した。まず、得られた素材
を熱間加工により断面サイズ22mm×47mmの板形
状に鍛伸し本発明の金型用鋼に相当する板材を得た。こ
の板材から破壊靭性試験片を採取した。また、同じ素材
を熱間加工により22mmの丸棒に鍛伸し、2mmUノ
ッチシャルピー衝撃試験片および引張試験片を採取し
た。得られた破壊靭性試験片とシャルピー衝撃試験片と
引張試験片とは、オーステナイト化温度1100℃で焼
入れ、530℃に1時間保持した後空冷し、もう一度5
30℃加熱して1時間保持してから空冷する焼戻しを行
った。また、焼戻し温度を590℃に変えて同様の熱処
理を行った試料を別に作製した。
【0025】なお、得られた本発明の試料1〜試料3の
全てにおいて、δフェライトの組織における面積%を表
1に示すが、定量可能な0.1面積%以上のδフェライ
トは存在しないものであった。表1の本発明試料1〜試
料3および比較例の試料4〜試料5は、いずれも炭素量
が本発明の規定範囲における低めのものであり、W当量
(W+2Mo)も従来の金型用鋼に比較すると大きいも
のである。この場合は、δフェライトが生成しやすいの
であるが、これらいずれの試料においてもNiが3.4
%前後添加されており、これがδフェライトの生成防止
に大きく貢献している。一方、表1に示すように本発明
で規定するVの範囲よりも極めて多くVを含有する試料
6は、δフェライトの存在が確認される。このことはV
を添加しすぎるとδフェライトの発生により靭性が低下
することを示している。
【0026】
【表1】
【0027】このような本発明例および比較例に対し
て、焼戻し温度を530℃とした試料に対する破壊靭性
値と硬さを図1に示す。また、焼戻し温度を590℃と
した試料に対する破壊靭性値と硬さを図2に示す。な
お、それぞれの図に示す曲線は図中の矢印に示す側の特
性に対応する曲線である。530℃の焼戻しを適用した
場合の破壊靭性値の変化を示す図1および590℃の焼
戻しを適用した場合の破壊靭性値の変化を示す図2をみ
ると、両方のとも破壊靭性値は、Vを1.06%としC
v/Ceq=0.29とした本発明の試料3付近から、
更にVを下げてCv/Ceqの値を低くすることにより
破壊靭性値を著しく高めることができることがわかる。
図1および図2に示すように、このとき硬さはほとんど
変化しない。これは、炭素量から言うとVCに消費され
る炭素量が他のM2C型に消費される炭素量に比較して
相対的に少なくすること、すなわちCv/Ceq値を低
くすることにより、強度を同程度に保ったまま靭性を高
めることができたことを示している。
【0028】また、図3および図4にそれぞれ530℃
および590℃で焼戻した場合のシャルピー衝撃値の変
化を示す。図3および図4に示すように、シャルピー衝
撃値も、破壊靭性値と同様にV1.06%としCv/C
eq=0.29とした本発明の試料3付近から、更にV
を下げてCv/Ceqの値を小さくすることにより著し
く高めることができることがわかる。このように、衝撃
値の点からもCv/Ceqを0.3以下に設定すること
が靭性を確保する上で極めて有効であることがわかる。
【0029】また、透過型電子顕微鏡による電子線回折
によって焼戻し組織の炭化物の種類を同定することを試
みたところ、本発明で規定する範囲よりVを多く(V
1.22%)含有する試料4においては、MC型とM2
C型の両方の回折像が明確に認められるものであった
が、V量を下げて、本発明の範囲にしていくと、MC型
の炭化物を示す回折像が局所的にしか認められなくな
り、実質的にM2C型炭化物が大部分を占めているもの
と判断された。これより、本発明は、M2C型炭化物が
大部分を占める組織とすることにより、本発明の金型用
鋼の靭性を高めているものと判断された。
【0030】また、590℃で焼戻したときの硬さで耐
熱性を評価すると、図2に示すように、本発明の試料2
で39.6HRC、Vの高い比較例の試料4で40.2
HRC、Vが0.05%と本発明の規定範囲より低い比
較例5で33.5HRCであり、高温硬さを確保する上
ではVの添加が必要であることがわかる。したがって、
Vには適正な下限値を設けることが必要であり、図2に
示す590℃の焼戻しの硬さの変化によれば、Vを0.
5%以上添加すれば、硬さに対してV量の影響が少なく
なり、好ましいことがわかる。
【0031】(実施例2)表2に示す組成にて、真空溶
解法で溶製し、実施例1と同様に破壊靭性値、シャルピ
ー衝撃値を評価した。本発明鋼のδフェライトは定量可
能な0.1面積%以上のδフェライトは存在しないもの
であった。530℃の焼戻しを適用した場合の評価結果
を表3に示す。また590℃の焼戻し処理を行った場合
の評価結果を表4にそれぞれ示す。なお、実施例1に記
載した本発明鋼試料2も表3および表4に付記する。
【0032】
【表2】
【0033】
【表3】
【0034】表2に示すように、本発明の試料7と試料
8は試料2とほぼ同組成でCを高めたものである。表3
に示すように、Cの低い試料2に対して、試料8は硬さ
が得られるが、反面で破壊靭性値は低下する。したがっ
て、単純なC量の増加は、破壊靭性値よりも強度を優先
する場合には有効である。ところで、焼戻し温度を高め
ると、硬さは低くなり、反対に靭性を高めることが可能
である。Cを高めた試料8について焼戻し温度を590
℃に高めた表4に示す結果を見ると、表4の試料8にお
いては、硬さが45.4HRCであって、破壊靭性値が
133MPam^1/2という値が得られている。この
値は、表3に示す試料2の値に比べて、硬さおよび破壊
靭性値の両方とも高くなっている。
【0035】
【表4】
【0036】このことから、Cの添加量を増加する場合
には、焼戻し温度をCの低い場合の条件よりも高めてや
れば、高い強度と高い靭性を両立することができ、金型
用鋼として一層好ましいものとなることがわかる。
【0037】また、本発明の試料2よりCrを高めた本
発明鋼No9、10は、試料2よりも硬さが高くなり、
破壊靭性値はやや低下する傾向が見られる。本発明鋼N
o2よりCrを高め、Moを低めた本発明鋼No11の
靭性は、本発明鋼No2と同等であり、さらにCも高め
たNo12では硬さが高くなったにもかかわわらず、焼
戻し温度を590℃にして、46HRC程度に調整する
と、高い破壊靭性値および高いシャルピー衝撃値を有す
るようになることがわかる。この傾向は、試料12に対
してさらにCrを高めた試料13に対しても同様であ
る。
【0038】Moの一部または全てをWで置き換えた試
料15と16はW当量、その他の組成がほぼ同一の試料
2とほぼ同じ靭性を得た。Coを添加した試料17は硬
さが向上するが、試料2に対して靭性が低下する傾向が
見られた。Nbを添加した試料19においては、本発明
の試料2に対して靭性が低下する傾向が見られた。
【0039】また、本発明の試料2よりもNiを高めた
本発明の試料18、Niを少なくした試料20およびN
iを添加しない試料21を比較すると、Niの添加によ
り破壊靭性値が著しく高くなることがわかる。また、N
iを添加しない試料21においては、δフェライトが極
めて多く存在する組織になり、芯部硬さが30HRCを
下回ることになるため、金型用鋼として必要な硬さが得
られず使用できないものとなることがわかる。また、本
発明の試料2と試料2よりもCrを低めた比較例を対比
すると、Cr量が3%程度の比較例では、本発明の試料
に比べて破壊靭性値およびシャルピー衝撃値が大きく低
下し、好ましくないことがわかる。
【0040】(実施例3)金型のコーナ部にクラック発
生することで、製品にバリが転写され寿命となる状況で
の本発明の金型用鋼の寿命評価を行なった。この評価
は、実型の仕上げ型で特に問題となり、クラック発生数
を抑制することが必要となる問題も想定している。実施
例1,2で得られた金型用鋼から図5に示す金型1を製
作し、調質は焼入れ 1100℃、焼戻しは530℃を
2回行なった。被加工材は、JIS 6061アルミニ
ウム合金とし、常温で鍛造寿命評価テストを行なった。
使用した金型は直径が90mmφ、高さ 30mmの金
型に概略15mm幅、65mm長さ、15mm深さの直
方体形を作るように型彫り3がなされており、型中央に
はノックアウト用の8mm丸のピン穴4があいているも
のである。パンチ2は、SKH51で硬さ60HRCの
ものを使用し、金型形状にはまり込むように加工したも
のを使用した。
【0041】上述したアルミニウム合金でなる被加工材
を、仕上げ寸法が断面が金型1の型彫りの概略 65m
m長さ、15mm深さのサイズで厚みが5mmとなるよ
うに、鍛造を行ない寿命評価を行なった。実験Aとし
て、仕上型の廃却を想定し、内圧が70kgf/mm2
で行ない、コーナーR部に発生したクラックによって形
成される転写された製品のバリの高さが、1mmになる
条件を寿命数(ショット数)として評価した。また、実
験Bとしてクラックの金型外周への貫通(通称:大割
れ)による金型の廃却を想定し、内圧 100kgf/
mm2の場合の金型が破断するまでの寿命数(ショット
数)を計測した。その結果、表5に示す。また同時に図
6に図示した。これより、実験A,B両方の寿命を向上
させる領域は、破壊靭性値 100MPam^1/2以
上、絞り値が70%以上のものが特に効果が高いことが
わかった。
【0042】
【表5】
【0043】
【発明の効果】本発明の金型用鋼によれば、例えば44
HRC程度の硬さにおいて、最大100MPam^1/
2以上という優れた破壊靭性値を得ることができるもの
である。すなわち、本発明においては靭性と高強度とい
う相反する特性を一方の特性を犠牲にすることなく、金
型用鋼の性能向上が達成できたものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】焼戻し温度を530℃とした試料に対するV量
と、破壊靭性値および芯部硬さとの関係の一例を示す図
である。
【図2】焼戻し温度を590℃とした試料に対するV量
と、破壊靭性値および芯部硬さとの関係の一例を示す図
である。
【図3】焼戻し温度を530℃とした試料に対するV量
と、シャルピー衝撃値との関係を示す図である。
【図4】焼戻し温度を590℃とした試料に対するV量
と、シャルピー衝撃値との関係の一例を示す図である。
【図5】金型用鋼の寿命評価に用いた鍛造用金型の概略
を示す図である。
【図6】本発明の金型用鋼の機械特性と寿命の関係を示
す図である。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (51)Int.Cl.6 識別記号 庁内整理番号 FI 技術表示箇所 C22C 38/52 C22C 38/52

Claims (5)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 重量%で、C0.1〜0.2%、Si2
    %以下、Mn2%以下、Ni2〜5%、Cr3.5〜
    7.0%、WまたはMoの1種または2種をW当量(W
    +2Mo)として3〜10%、V0.5%以上で1.1
    %未満含有するFe基のマルテンサイト系鋼であって、 Vの炭素当量Cv Cv=0.2[V] 炭化物形成元素の炭素当量Ceq Ceq=0.063[Cr]+0.06[Mo]+0.
    033[W]+0.2[V] としたとき、Cv/Ceq≦0.3であり、オーステナ
    イト化温度におけるδフェライトがミクロ組織の面積率
    で3%以下であることを特徴とする金型用鋼。
  2. 【請求項2】 重量%で、C0.1〜0.2%、Si1
    %以下、Mn1%以下、Ni3〜5%、Cr3.5〜
    7.0%、WまたはMoの1種または2種をW当量(W
    +2Mo)として3〜8、V0.5%以上で1.0%以
    下含有するFe基のマルテンサイト系鋼であって、 Vの炭素当量 Cv=0.2[V] 炭化物形成元素の炭素当量Ceq Ceq=0.063[Cr]+0.06[Mo]+0.
    033[W]+0.2[V] としたとき、Cv/Ceq≦0.3であることを特徴と
    する請求項1に記載の金型用鋼。
  3. 【請求項3】 請求項1ないし3のいずれかに記載の金
    型用鋼であって、Feの一部を10%以下のCoで置換
    したことを特徴とする金型用鋼。
  4. 【請求項4】 破壊靭性値 100MPam^1/2以
    上(^はべき数を示す)、常温での絞り値 70%以上を同
    時に有することを特徴とする金型用鋼。
  5. 【請求項5】 重量%で、C0.1〜0.4%、Si2
    %以下、Mn2%以下、Ni2〜5%、Cr3.5〜
    7.0%、WまたはMoの1種または2種をW当量(W
    +2Mo)として3〜10%、V0.5%以上で1.1
    %未満含有する合金を1000℃以上のオーステナイト
    化温度で焼入れ、焼戻し、δフェライトがミクロ組織の
    面積率で3%以下であるマルテンサイト組織を得ること
    を特徴とする靭性に優れた金型用鋼およびその製造方
    法。
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Cited By (3)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
CN101956136A (zh) * 2010-11-01 2011-01-26 机械科学研究总院先进制造技术研究中心 一种马氏体加粒状贝氏体塑料模具钢及其制备方法
CN105088086A (zh) * 2015-09-01 2015-11-25 广西南宁智翠科技咨询有限公司 一种高强度合金钢
CN110218955A (zh) * 2019-04-18 2019-09-10 江油市长祥特殊钢制造有限公司 SA182F92防止δ铁素体产生的制备方法

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