【発明の詳細な説明】
TGF−βスーパーファミリーのサイトカインの変調因子およびそのアッセイ方
法発明の分野
本発明は、TGF−βスーパーファミリーのサイトカインの変調を必要とする
症状の治療方法ならびに組成物、およびかかる症状の治療に有用な化合物のスク
リーニング方法に関する。発明の背景
形質転換増殖因子ベータ(TGF−β)スーパーファミリーは、細胞機能の諸
相を調節しているサイトカインのグループである。遺伝子スーパーファミリーに
ついての構造上のプロトタイプはTGF−βである。TGF−βは前駆体として
生成され、その前駆体構造は大部分のTGF−βスーパーファミリーのメンバー
と共有されている。該スーパーファミリーは、TGF−βファミリー、インヒビ
ンファミリー、DPP/VGIファミリーおよびミュラーの阻害物質ファミリー
(Mullerian Inhibiting Substances Family)を包含する。
TGF−βファミリーは、TGF−β1からTGF−β5と呼ばれる5種のメ
ンバーを包含し、それらのすべてが約25kdのホモダイマーである(マッサー
グ(Massague)、アニュアル・レビュー・セル・バイオロ(Annu.Review Cell B
iol.)第6巻:597頁、1990年に概説されている)。また、該ファミリー
はTGF−β1.2を包含し、それはジスルフィド結合により結合されたβ1お
よびβ2サブユニットを含むヘテロダイマーである。5種のTGF−β遺伝子は
長い進化距離にわたって高度に保存的である。該遺伝子ファミリーから生成する
成熟しプロセッシングされたサイトカインは、種間においてほとんど100%の
アミノ酸同一性を有し、該5種のペプチドは一群となって約60〜80%の同一
性を示す。
TGF−βのすべての形態は、正常、上皮、内皮、線維芽細胞、ニューロン、
リンパ球および造血細胞タイプにおいて、可逆的に増殖を阻害することが見いだ
されている(レビューのためには、マッサーグ、アニュアル・レビュー・セル・
バイオロ、第6巻:597頁、1990年参照)。組織培養において、TGF−
β は、cdk−4/サイクリンD活性化およびcdk2/サイクリンE活性化
の両方、G1からS相までの遷移に必要なイベントをブロックすることにより、
細胞の増殖を阻害することが示されている(エム・イー・エウェン(M.E.Ewen)
、ヘイチ・ケイ・スルス(H.K.Sluss)、エル・エル・ホワイトハウス(L.L.Whi
tehouse)、ディー・エム・リビングストン(D.M.Livingstone)、セル(Cell)
、第74巻、1009頁(1993年)およびエイ・コフ(A.Koff)、エム・オ
ーツキ(M.Ohtsuki)、ケイ・ポリアク(K.Polyak)、ジェイ・エム・ロバーツ
(J.M.Roberts)、ジェイ・マッサーグ(J.Massague)、サイエンス(Science)
第260巻、536頁(1993年))。また、TGF−βの抗増殖作用はイン
ビボにおいても示されている(シルバーステイン(Silberstein)およびダニエ
ル(Daniel)、1987年、サイエンス第237巻:291〜293頁;および
ラッセル(Russell)ら、1988年、プロシーディングス・オブ・ナショナル
・アカデミー・オブ・サイエンシズ・ユーエスエイ(Proc.Natl.Acad.Sci.USA)
第85巻:5126〜5130頁)。
また、TGF−βは、その効果が他の細胞応答に対して2次的であるとしても
、細胞増殖を刺激しうる。例えば、TGF−β1は、正常ラット・肝臓線維芽細
胞の固定依存性増殖を促進することが示されており(ロバーツ(Roberts)ら、
PNAS USA第78巻:5339頁、1981年;ロバーツら、ネイチャー
(Nature)第295巻:417頁、1982年およびトワージク(Twardzik)ら
、1985年、ジャーナル・セル・バイオケミ(J.Cell Biochem.)第28巻:
289頁、1985年)、それはAKR−2B線維芽細胞のコロニ形成を誘導す
る(タッカー(Tucker)ら、サイエンス第226巻:705頁、1984年)。
TGF−βの阻害/刺激作用は、細胞タイプおよび細胞の生理学的状態に依存す
る可能性がある。
TGF−βは細胞付着の媒介に関与している。正常な間葉、上皮ならびにリン
パ細胞、およびいくつかの腫瘍細胞系に対するTGF−β作用は、一般的に、細
胞付着においてアップ−レギュレーション(up-regulation)を生じる。このア
ップ−レギュレーションは、細胞外マトリックス成分の合成ならび沈着の増加、
細胞周囲の蛋白分解の減少、および細胞付着受容体の修飾によって媒介される(
マッサーグ、1990年)。
多くの細胞系統の細胞分化プロセスは、TGF−βによって、ポジティブまた
はネガティブに影響されうる。TGF−βは、軟骨細胞および骨形成細胞タイプ
のポジティブな影響を及ぼすことが示されている(マッサーグ、1990年)。
上記TGF−βの生物学的作用は、生理学的状況におけるTGF−βの広範な
役割を示唆するものである。DNA複製、細胞分化、細胞付着および細胞外マト
リックスのレイアウトを変調させるTGF−βの能力は、胚発生の形態学的イベ
ントを誘導するシグナルの発生および修飾におけるTGF−βの役割を示すもの
である。細胞外マトリックス形成のプロモーターおよび細胞の移動ならびに発生
のレギュレーターとしてのTGF−β活性は、炎症および組織修復プロセスに大
きな影響を及ぼす。実際、傷害チャンバーまたは切開傷へのTGF−β1の投与
は、一般的に、傷の治癒応答を加速することが示されている(スポーン(Sporn
)ら、1983年、サイエンス、第219巻:1329〜1331頁;ロバーツ
(Roberts)ら、1986年、プロシーディングス・オブ・ナショナル・アカデ
ミー・オブ・サイエンシズ・ユーエスエイ第83巻:4167〜4171頁;お
よびマストウ(Mustoe)ら、1987年、サイエンス、第237巻:1333〜
1336頁)。
サイトカインのTGF−βファミリーは、インビトロおよびインビボにおいて
免疫抑制活性を示し、該活性は、一部には、リンパ球(ケール(Kehrl)ら、1
986年、ジャーナル・オブ・イミュノロジー(J.Immunol.)、第137巻:3
855頁)、Tリンパ球(ケールら、1986年、ジャーナル・イクスペ・メテ
ィ(J.Exp.Med.)第163巻:1037頁)および胸腺細胞(リストウ(Ristow
)、1986年、PNAS USA第83巻:5531頁)に対する
TGF−βの抗増殖作用によるものである。組織における過剰のTGF−β活性
はバランスを失った細胞外マトリックスの沈着を引き起こす可能性があり、それ
は線維症の一因となる可能性があり、一方では、TGF−βの増殖阻害活性の欠
乏は腫瘍原性形質転換を引き起こす可能性がある。
TGF−βの調節不良は、多くの疾病の病理学的プロセスに関与している。T
GF−βは、HIV感染およびその関連疾患における病理学的メディエイタであ
ると報告されている(ロッツ,エム(Lotz,M.)およびセス,ピー(Seth,P.)、ア
ナルス・オブ・ザ・NY・アカデミー・オブ・サイエンシズ(Annals of the NY
Acad.of Sciences)第685巻:501頁、1993年)。
また、TGF−βは、肺の線維症を誘導する線維症(ビーチャー−アラン(Be
acher-Allan)およびバース(Barth)、レジオナル・イミュノロジー(Regional
Immunology)第5巻(3〜4):207頁、1993年)、ならびに慢性肝臓
疾患に関連した線維症(バート,エイ・ディー(Burt,A.D.)、ジャーナル・オブ
・パソロジー(J.of Pathology)第170巻:105頁、1993年)、肝静脈閉
塞および突発間質性肺炎の発症に関与しており、それらは、骨髄移植後(アンシ
ャー,エムエス(Anscher,MS)ら、ニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・
メディシン(N.Eng.J.Med.)第328巻:1592頁、1993年)、腎臓疾患
(ボーダー(Border)ら、ネイチャー第369巻:360頁、1992年)、およ
び放射線療法もしくは放射線事故(マーチン・エム(Martin,M.)ら、ラジエイ
ション・リサーチ(Radiation Research)第134巻:63頁、1993年)の
罹患および死亡の主な原因である。TGF−β2は、増殖性のガラス体網膜症の
ヒトの目、および全身性硬化症の皮膚において増加することが見いだされている
(コナー(Conner)ら、ジャーナル・オブ・クリニカル・インベスティゲイショ
ン(J.Clin Invest.)第83巻:1661頁、1989年およびクロジク(Kulo
zik)ら、ジャーナル・オブ・クリニカル・インベスティゲイション第86巻:
917頁、1990年)。
血圧を変化させるためのTGF−βおよびTGF−βアンタゴニストの使用が
、1991年12月26日公開のPCT/US91/0449に開示されている
。
チャイニーズ・ハムスター・卵巣細胞から得た組み換えTGF−βは、組み換え
型分子を毎日投与されたシノモルグスのサルの動脈血圧の迅速、有意かつ持続性
のある低下を誘導すると報告された。
DPP/VG1ファミリーは、BMP1からBMP7と命名された骨髄骨形成
蛋白(BMP)、DPPおよびVg1を包含する。BMPは成人の骨に存在する
骨誘導剤である。それらは、新たな骨の形成の有効なイニシエーターであり、そ
れらは間葉性前駆細胞に作用して、その軟骨ならびに骨形成細胞への分化を指令
すると思われる。それらは、胚の骨格形成期間において重要な役割を果たしてい
ることも示唆されている(ローゼン(Rosen)およびシース(Thies)、トレンズ
・イン・ジェネティクス(Trends in Genetics)第8巻(3)、97頁、199
2年におけるレビューおよびその中の引用文献参照)。デカペンタプレジック(
Decapentaplegic(DPP))は、ショウジョウバエにおける背腹部のパターン化およ
びイマジナルディスク(imaginal disk)形成において基本的な役割を果たして
いる(パジェット(Padgett)ら、1987年、ネイチャー、第325巻:81
〜84頁)。Vg1はキセノプス・ラエビス(Xenopus laevis)における胚の発
生に関与している。
インヒビンファミリーはアクチビンおよびインヒビンを包含する。アクチビン
は多くの生物学的プロセスの調節に関与している。例えば、それらは多くの腫瘍
細胞の増殖、腹側の下垂体ホルモン(EG、FSH、GH、およびACTH)の
分泌ならびに発現の調節、ニューロンの生存、視床下部オキシトシン分泌、赤血
球産生、胎盤ならびに性腺のステロイド生成、初期胚発達等に関与している。ま
た、インヒビン分子は赤血球産生の調節を助け、FSH放出を変調させる(メイ
ソン(Mason)ら、1985年、ネイチャー第318巻:659〜663頁およ
びリング(Ling)ら、ネイチャー第321巻:779頁、1986年)。
ミュラーの阻害物質ファミリーは、哺乳動物の胚の発達中の再生系における重
要な形態形成シグナルであるミュラーの阻害物質(MIS)を包含する(ケイト
(Cate)ら、セル第45巻:685〜698頁)。
TGF−βスーパーファミリーのメンバーは、関連受容体のファミリーを通し
てのシグナル変換を媒介しうる。TGF−βおよびアクチビン用の細胞表面受容
体はタイプIおよびタイプIIの受容体鎖からなり、いずれもがシステインに富
む細胞外ドメインおよび細胞質ゾルにあるセリン/スレオニン蛋白キナーゼドメ
インを含んでいる。タイプIおよびタイプII受容体はヘテロダイマーを形成し
、該ヘテロダイマーはサイトカイン依存性細胞内シグナリングに必要であると思
われる(マッサーグ、セル、第69巻:1067頁、1992年ならびにその中
の引用文献、およびリン(Lin)ら、セル、第68巻 775頁、1992年)
。
TGF−β阻害蛋白が同定されており、それらはシグナリング受容体としては
機能しない。プロテオグリカンであるベータグリカンは、受容体IおよびIIの
次に最も広く分布しているTGF−β結合蛋白である。ベータグリカンは、コア
蛋白を介してTGF−βと結合する膜固定プロテオグリカンであり、ベータグリ
カンはTGF−βシステムにおける受容体アクセサリー分子として作用すること
が示唆されている(マッサーグ、セル、第69巻:1067頁、1992頁およ
びその中の引用文献)。
他の多くの細胞外マトリックス蛋白がTGF−βに結合することが示されてお
り、デコリン、ビグリカン、スロンボスポンジンおよび血清糖蛋白α2−マクロ
グロブリンを包含する(ワイ・ヤマグチ(Y.Yamaguchi)、ディー・エム・マン
(D.M.Mann)、イー・ルオスラーチ(E.Ruoslahti)、ネイチャー第346巻、
281頁(1990年);エス・ショルツ−シェリー(S.Scholtz-Cherry)、ジ
ェイ・イー・マーフィー−ウルリッヒ(J.E.Murphy-Ullrich)、ジャーナル・セ
ル・バイオロ(J.Cell Biol.)第122巻、923頁(1993年);オコーナ
ー−マクコート,エム(O'Conner-McCourt)、エム・ウェイクフィールド(M.Wak
efield)、ジャーナル・バイオロ・ケミ(J.Biol.Chem.)第262巻、1409
0頁(1987年);およびジェイ・マッサーグ(J.Massague)、カレ・バイオ
ロ(Curr.Biol.)第1巻、117頁(1991年))。スロンボスポンジンは、
潜在的なTGF−βに結合し活性化することが示されているが、サイトカイン活
性を中和しない。対照的に、デコリンは、TGF−βの抗増殖活性を中和するこ
とが示されている(ヤマグチ(Yamaguchi)ら、ネイチャー第346巻:
281頁、1990年)。また、実験的な糸球体腎炎モデルを用いて、デコリン
がインビボにおいてTGF−βの作用に拮抗することが見いだされている(ボー
ター(Border)ら、ネイチャー第360巻、1992年)。
ウシ・フェツインはウシ胎児血清(FCS)から精製された最初の糖蛋白の1
つである。フェツインは、肝臓により産生されると考えられているヒト・α−2
HS−糖蛋白(α2−HS)と類似である(ケラーマン(Kellerman)ら、ジャ
ーナル・バイオロ・ケミ(J.Biol.Chem.)第264巻:14121頁、1989
年)。フェツインは、既知細胞表面受容体を用いなくても、インビトロにおいて
細胞増殖を促進することが示されており(ビー・ティー・パック(B.T.Puck)、
シー・エイ・ワルドレン(C.A.Waldren)、シー・ジョーンズ(C.Jones)、プロ
シーディングス・オブ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシズ・ユーエ
スエイ第59巻、192頁(1968年))、さらにそれは負の急性フェーズの
反応物であることが示されている(ジェイ・ピー・レブレトン(J.P.Lebreton)
、エフ・ジョイセル(F.Joisel)、ジェイ・ピー・ラウール(J.P.Raoult)、ビ
ー・ラヌゼル(B.Lannuzel)、ジェイ・ピー・ロゲス(J.P.Rogez)ら、ジャー
ナル・クリニ・インベスティ(J.Clin.Invest.)第64巻、118頁(1979
年);エム・ダボー(M.Daveau)、シー・ダブリンシェ(C.Davrinche)、エヌ
・ジエラッシ(N.Djelassi)、ジェイ・レメタイヤー(J.Lemetayer)、エヌ・
ジュレン(N.Juren)ら、FEBS Lett第273巻、79頁(1990年
))。血清フェツインは骨に蓄積し(アイ・アール・ディクソン(I.R.Dickson
)、エイ・アール・ポーレ(A.R.Poole)、エイ・ヴェイス(A.Veis)、ネイチ
ャー第256巻、430頁(1975年);ジェイ・ティー・トリフィット(J.
A.Triffitt)、ユー・ゲバウアー(U.Gebauer)、ビー・エイ・アシュトン(B.A
.Ashton)、エム・イー・オーウェン(M.E.Owen)、ネイチャー第262巻、2
26頁(1976年);ジー・ラウス(G.Rauth)、オー・ペシュケ(O.
チッパー(S.Tipper)ら、ヨーロ・ジャーナル・バイオケミ(Eur.J.Biochem.)
第204巻、523頁(1992年))、骨の増殖期間中に最高濃度となる。ま
た、それはインビトロにおいて培養された骨外移植物中の骨再吸収を促進し(ジ
ー・シー・コルクレイジャ(G.C.Colclasure)、ダブリュ・エス・ロイド(W.S.
Lloid)、エム・ラムキン(M.Lamkin)、ダブリュ・ゴナーマン(W.Gonnerman)
、アール・エフ・トリキシラー(R.F.Troxler)ら、ジャーナル・クリニ・エン
ドクリノ・メタボリズム(J.Clin.Endocrin Metabolism)第66巻、187頁(
1988年))、脂質生成を増加させる(エイ・ジェイ・カヤッテ(A.J.Cayatt
e)、エル・クムブラ(L.Kumbla)、エム・ティー・アール・スビアー(M.T.R.S
ubbiah)、ジャーナル・バイオロ・ケミ(J.Biol.Chem.)第265巻、5883
頁(1990年))。炎症は、有意に低下した血清フェツイン濃度に関連してい
る(ジェイ・ピー・レブレトン(J.P.Lebreton)、エフ・ジョイセル(F.Joisel)
、ジェイ・ピー・ラウール(J.P.Raoult)、ビー・ラヌゼル(B.Lannuzel)、ジ
ェイ・ピー・ロゲス(J.P.Rogez)ら、ジャーナル・クリニ・インベスティ第6
4巻、118頁(1979年);エム・ダボー(M.Daveau)、シー・ダブリンシ
ェ(C.Davrinche)、エヌ・ジエラッシ(N.Djelassi)、ジェイ・レメタイヤー
(J.Lemetayer)、エヌ・ジュレン(N.Juren)ら、FEBSLett.第273
巻、79頁(1990年))。さらに、パジェット病(無秩序かつ厚い骨を誘導
する骨のターンオーバーの増加の病気)の患者において血清フェツイン濃度が低
下する(ビー・エイ・アシュトン(B.A.Ashton)、アール・スミス(R.Smith)
、クリニ・サイ(Clin.Sci)第58巻、435頁(1980年))。骨形成不全
の患者の一部において、骨の消失は上昇した血清フェツインレベルに関連してい
る。発明の概要
本発明者らは、フェツインがTGF−βに結合し、TGF−βの抗増殖活性に
拮抗し、さらに、用量依存的様式でTGF−βの抗増殖活性を阻害しうることを
見いだした。また、本発明者らは、組織培養におけるTGF−βのアンタゴニス
トとしてのフェツインの作用はそれら2つの蛋白の結合によるものであることを
示した。リアルタイムで高分子相互作用の可視化を可能にする表面プラズモン共
鳴を用いることにより、フェツインが物理的にTGF−β1に結合しうることが
示された。フェツインは、密接な関連のあるサイトカインTGF−β2にも同様
の親和性で結合することが示された。また、フェツインは、最高の親和性で骨形
態形成蛋白に結合し、骨形態形成蛋白は固定化BMP−2、BMP−4およびB
MP−6を包含する。BMP−2はフェツインに最高の親和性を示し、フェツイ
ンはBMP−2により媒介されるインビトロでの骨分化を抑制することが見いだ
された。
さらにそのうえ、本発明者らは、TGF−β受容体IIホモロジー1ドメイン
(TRH1)と命名されたフェツインおよびTGF−β受容体タイプIIに共通
した結合ドメインを意味深く決定した。該ドメインは、TGF−βスーパーファ
ミリーのサイトカインへの結合を媒介する。該ドメインは、図6〜8においてa
およびbと命名された2個のジスルフィドループによって定義される。
ウシ・チログロブリンのごとき他の蛋白は、TRH1ドメインを含むことが見
いだされた。チログロブリンは、フェツイン以上の親和性で、サイトカインBM
P−2、BMP−4、TGF−β1、およびTGF−β2と結合することが見い
だされた。さらに、チログロブリンは、増殖阻害アッセイにおいて、TGF−β
活性を中和することが見いだされた。
また、本発明者らは、リガンド結合およびリガンド特異性が、TRH1ドメイ
ン中のTRH1b配列によって媒介されることも見いだした(図6および7、な
らびに配列表5〜7参照)。フェツインおよびTRH1中のこのドメインに対応
する合成ジスルフィドループのあるペプチドは、同じ特異性でBMP−2および
TGF−β1に直接結合し、ネイティブ蛋白のドメインが反映された。TRH1
ドメインおよびTRH1bサブドメインは、TGF−βスーパーファミリーのメ
ンバー、例えばデコリンに結合し、その活性を中和することが以前に示されてい
た化合物中には見いだされなかった。
フェツインおよびチログロブリンは、TRH1ドメイン中の配列を介してTG
F−βスーパーフェミリーのサイトカインと複合体形成し、さらにこれらのサイ
イトカインのアンタゴニストであるという知見は、TGF−βスーパーフェ
ミリーのサイトカインを変調させる物質、よってTGF−βスーパーファミリー
サイトカインの変調を必要とする症状の治療に有用である物質の同定を可能にす
る。
それゆえ、本発明は、TGF−βスーパーファミリーのサイトカインを変調さ
せる物質の存在のアッセイ方法であって、(a)TGF−β結合化合物、その一
部もしくは模倣物、およびサイトカインが複合体を形成でき、TGF−β結合化
合物、その一部もしくは模倣物、および/またはサイトカインが既知濃度で存在
している条件下にて、TGF−βスーパーファミリーのサイトカインを変調させ
る可能性のある物質を、TGF−β受容体でなく、かつTRH1ドメインまたは
その一部もしくは模倣物を含むTGF−β結合化合物、およびTGF−βスーパ
ーファミリーのサイトカインと反応させ、(b)複合体、遊離TGF−β結合化
合物、その一部もしくは模倣物、および/またはサイトカインをアッセイし、次
いで、(c)対照と比較することからなる方法に関する。
さらに本発明は、TGF−β受容体でなく、かつTRH1ドメインを含むTG
F−β結合化合物の、TGF−βスーパーファミリーのサイトカインを変調させ
るための使用に関する。詳細には、本発明は、TGF−βスーパーファミリーの
サイトカインの変調を必要とする症状の治療のためのこれらの化合物の使用に関
する。化合物を直接個体に導入してもよく、あるいは化合物を、TGF−β結合
化合物をコードする遺伝子の発現によって直接的に製造してもよい。
それゆえ、本発明は、TGF−β受容体でなく、かつTRH1ドメインまたは
その一部もしくは模倣物を含む少なくとも1種のTGF−β結合化合物、および
医薬上許容される担体、助剤または賦形剤からなる医薬組成物に関する。該組成
物をTGF−βスーパーファミリーサイトカインのアンタゴニストとして用いて
もよく、それゆえ、TGF−βスーパーファミリーサイトカインの変調を必要と
する症状の治療に有用であろう。
また、本発明は、TGF−β受容体でなく、TRH1ドメインまたはその一部
もしくは模倣物を含む少なくとも1種のTGF−β結合化合物をコードする遺伝
子を含む組み換え分子からなる医薬組成物に関する。
また、本発明は、TGF−βスーパーファミリーのサイトカインの変調を必要
とする症状に苦しむ対象の治療方法であって、TGF−β受容体でなく、TRH
1ドメインまたはその一部もしくは模倣物を含む有効量のTGF−β結合化合物
、または本発明方法により同定される物質を投与することからなる方法を企図す
る。
また、本発明は、個体において効果がTGF−βスーパーファミリーのサイト
カインによって抑制されている増殖因子の活性の増強方法であって、本発明組成
物、または本発明方法により同定されたTGF−βスーパーファミリーのサイト
カインのアンタゴニストである物質を個体に投与することからなる方法を企図す
る。
さらに本発明は、試料中のTGF−βスーパーファミリーのサイトカインのア
ッセイ方法であって、(a)化合物およびサイトカインが複合体を形成でき、化
合物および/またはサイトカインが既知能度で存在している条件下にて、サイト
カインを含有する可能性のある試料を、TGF−β受容体でなく、かつTRH1
ドメインまたはその一部もしくは模倣物を含む一定量のTGF−β結合化合物、
および一定量のサイトカインと反応させ、(b)複合体、遊離化合物および/ま
たはサイトカインをアッセイし、次いで、(c)対照と比較することからなる方
法を企図する。
本発明の他の目的、特徴および利点は以下の詳細な説明から明らかであろう。
しかしながら、詳細な説明および特別な実施例は特定の具体例を示すが、それら
は説明のためだけに示され、本発明の精神および範囲内の種々の変更および修飾
はこの詳細な説明から明らかになるであろう。図面の簡単な説明
図面と関連づけて本発明を説明する。
図1は、MvILu細胞の培養においてウシ・フェツインおよびウシ・チログ
ロブリンがTGF−βの抗増殖活性を中和することを示すグラフである。
図2は、ユニット数(R.U.)に対応して固定化TGF−β1に結合するウシ
・
フェツインを示すセンサグラムオーバーレイプロット(sensogram overlay plot
)である。
図3は、非結合対照ヒト・トランスフェリンのセンサグラムオーバーレイプロ
ットである。
図4は、ユニット数(R.U.)に対応して固定化BMP−2に結合するウシ・
フェツインを示すセンサグラムオーバーレイプロット(sensogram overlay plot
)である。
図5は、非結合対照BSAのセンサグラムオーバーレイプロットである。
図6は、ウシ、ブタ、ヒツジ、ラットおよびヒト由来のフェツイン配列を並べ
たものである。
図7は、フェツインのジスルフィドループのスキーム図である。
図8は、フェツインおよびTβRII配列を並べたものである。
図9は、ジスルフィドループ化したTRH1bフェツインペプチドの固定化B
MP−2への結合を示すセンサグラムプロットである。
図10は、還元されアルキル化されたTRH1bペプチドの結合の欠失を示す
センサグラムプロットである。
図11は、TGF−βタイプII受容体の配列を示す。
図12は、MvILu細胞の培養においてウシ・フェツインおよびウシ・チロ
グロブリンがTGF−βサイトカインの抗増殖活性を中和することを示すグラフ
である。
図13は、18個のアミノ酸が環化したTRH1ペプチドの低紫外線CDスペ
クトルである。
図14は、フェツインおよびTRH1由来のループ化したTRH1bペプチド
を用いる、固定化TRH1へのTGF−β1結合の競争を示す棒グラフである。
図15は、フェツインが、デキサメタソンで6日間処理したラット・骨髄細胞
の増殖を刺激することを示すグラフである。
図16は、フェツインが1ないし3週間存在した場合に、デキサメタソン処理
培養物において引き続き起こる無機質化を阻害し、骨形成活性のみを欠くことを
示すグラフである。
図17は、デキサメタソン処理および未処理培養物において測定された活性T
GF−βおよび全TGF−βを示すグラフである。
図18は、中和的抗TGF−β抗体が無機質化を抑制し、1〜3週間の培養期
間においてフェツインとともに添加物であったことを示すグラフである。発明の詳細な説明
上で述べたように、本発明は、TGF−βスーパーファミリーのサイトカイン
を変調させる物質の存在についてのアッセイ方法に関する。TGF−βスーパー
ファミリーのサイトカインを変調させる可能性のある物質を、TGF−β受容体
でなく、かつTRH1またはその一部もしくは模倣物を含むTGF−β結合化合
物、およびTGF−βスーパーファミリーのサイトカインと反応させる。適当な
反応条件を用いて、化合物とサイトカインとの間に複合体を形成させる。複合体
、遊離化合物および/またはサイトカインをアッセイし、結果を対照と比較する
。
本明細書において、「TGF−βスーパーファミリーのサイトカイン」、「T
GF−βのスーパーフェミリーのサイトカイン」、または「TGF−βスーパー
ファミリーサイトカイン」は、TGF−βスーパーファミリーのメンバーの構造
的特徴を有するサイトカインを包含する。遺伝子スーパーファミリーについての
構造上のプロトタイプはTGF−βである。TGF−βは、小胞体を越えた転位
のためのN末端疎水性シグナル配列、プロ領域、およびC末端生物活性ドメイン
を有することにより特徴づけられる前駆体として生成される。細胞からの放出の
前に、プロ領域は、生物活性ドメイン直前の4個の塩基性アミノ酸を含む領域で
開裂される(マッサーグ、1990年)。
TGF−β1の前駆体の構造は、TGF−βスーパーファミリーサイトカイン
のメンバーによって共有されているが、明確なシグナル配列を欠くTGF−β4
前駆体は例外である。C末端生物活性ドメインにおけるファミリーのメンバー間
の同一性の程度は25ないし90%である(バスラー(Basler)ら、セル、第7
3巻:687頁、1993年の図2参照)。スーパーフェミリーのすべての
メンバーにおいて、生物活性ドメイン中の少なくとも7個のシステインが保存さ
れており、9個すべてのシステインがTGF−βファミリーおよびインヒビンβ
鎖において保存されている。ミュラーの阻害物質(MIS)は例外であるが(ケ
イト(Cate)ら、1986年)、生物活性ドメインは開裂されて成熟モノマーを
生じる。
TGF−βスーパーファミリーのサイトカインの例は、TGF−βファミリー
、インヒビンファミリー、DPP/VG1ファミリーおよびミュラーの阻害物質
ファミリーのサイトカインを包含する。
TGF−βファミリーは、TGF−β1からTGF−β5と呼ばれる5種のメ
ンバーを包含し、それらはすべて約25kdのホモダイマーを形成する(マッサ
ーグ、1990年のレビュー)。さらに該ファミリーはTGF−β1.2を包含
し、それはジスルフィド結合により結合したβ1およびβ2サブユニットを含む
ヘテロダイマーである。5種のTGF−β遺伝子は、長い進化距離にわたり非常
に保存されている。該遺伝子ファミリーのメンバーから生成される成熟しプロセ
ッシングされたサイトカインは、種間においてほぼ100%のアミノ酸同一性を
示し、該5種のペプチドは一群として約60〜80%の同一性を示す。
DPP/VG1ファミリーは、BMP−2ないしBMP−7命名された6種の
BMP、Vg1、およびDPPを包含する。BMPは、TGF−βファミリーの
メンバーに対して30〜40%の相同性がある。BMP−2〜7は、インヒビン
/アクチビンを包含するインヒビンファミリーのメンバーとかなりの相同性を共
有している。インヒビンは、αサブユニット、βAサブユニット(インヒビンA)
、またはβBサブユニット(インヒビンB)からなる。2種のβ−サブユニット
のアミノ酸同一性は約60%であるが、αサブユニット配列は非常に多様である
(同一性約25%)。該ファミリーは、インヒビンA(α・βAダイマー)、イ
ンヒビンB(α・βBダイマー)、アクチビンA(βAホモダイマー)、および
アクチビンAB(βA・βBダイマー)を包含する(DPP/VG1ファミリー
および特にBMPについてのレビューのためには、マッサーグ、1990年、お
よびローズ,ブイ(Rose,V.)およびアール・エス・チース(R.S.Thies)、
1992年参照)。
ミュラーの阻害物質ファミリーは、ミュラーの阻害物質(MIS)ホモダイマ
ーを包含する。MISのC末端ドメインの推定配列は、スパーファミリーの他の
メンバーのC末端ドメインと約25%の同一性がある。MISは、70〜74k
dの糖鎖付加された鎖のジスルフィド結合したホモダイマーであり、C末端ドメ
インから開裂されない糖鎖付加されたN末端伸長部を含む(レビューのために、
マッサーグ、1990年およびその中の引用文献参照)。
好ましくは、本明細書記載の方法および組成物は、TGF−βファミリーおよ
びDPP/VG1ファミリーを含み、最も好ましくは、TGF−β1、TGF−
β2、BMP−2、BMP−4およびBMP−6を含む。
TGF−βスーパーファミリーのサイトカインを天然または組み換えソースか
ら単離することができる。例えば、培養中の種々の正常または形質転換細胞によ
ってTGF−βを合成してもよく(ロバーツ(Roberts)ら、1981年、プロ
シーディングス・オブ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシズ・ユーエ
スエイ第78巻:5339〜5343頁)、また、胎盤(フロリク(Frolik)ら
、1983年、プロシーディングス・オブ・ナショナル・アカデミー・オブ・サ
イエンシズ・ユーエスエイ第80巻:3676〜3680頁)、腎臓(ロバーツ
(Roberts)ら、1983年、バイオケミストリー(Biochemistry)第22巻:
5692〜5698ペ頁)、尿(トワルジク(Twardzik)ら、1985年、ジャ
ーナル・セル・バイオケミ(J.Cell Biochem.)第28巻:289〜297頁)
、および血小板(チャイルズ(Childs)ら、1982年、プロシーディングス・
オブ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシズ・ユーエスエイ第79巻:
5312〜5316頁)から精製されている。BMP−2、−3、6および7を
ヒト・および/またはウシ・骨から単離してもよい。
サイトカインのコーディング配列を含む組み換えベクターで形質転換された宿
主細胞を用いる組み換え法を用いることにより、大量のサイトカインを得てもよ
い。また、サイトカインは市販されている(例えば、コラボレイティブ・リサー
チ(Collaborative Research)、ベッドフォード,MaからTGF−β1を得て
もよい)。
本明細書記載の方法および組成物に用いるTGF−β結合化合物は糖蛋白また
はポリペプチドであってもよい。化合物は、TGF−βスーパーファミリーのサ
イトカイン、好ましくはTGF−β1に、10-5よりも大きいKDで結合し、そ
して/または本明細書記載の増殖阻害アッセイにおいてTGF−β1またはBM
P−2のごときTGF−βサイトカインの活性を中和する。TGF−β結合化合
物は、本来の標的TGF−β受容体でなく、すなわち細胞質ゾルにあるセリン/
スレオニン蛋白キナーゼドメインを含むTGF−βまたはアクチビンのタイプI
またはタイプII受容体ではない。TGF−βタイプII受容体の配列を図11
および配列表1に示す。
TGF−β結合化合物の蛋白部分は、少なくとも1個のTRH1ドメインのア
ミノ酸配列、またはその一部もしくは模倣物を含む。TRH1ドメインは、図7
および8においてaおよびbと命名された2個のジスルフィドループを含む長さ
約43個のアミノ酸の領域からなる。GCGルーチン「findPatterns」および下
記パターンを用いてTRH1ドメインを同定してもよい:CX{8,14}(N,
Q)X{12,16}CX{4,5}(K,R)X{2,6}(S,T)X{4,9}
CX{0,2}DX{5,6}(D,E)(本明細書実施例3参照)。フェツイン
由来のTRH1ドメインを配列番号:2および図8に示す。TGF−βタイプI
I受容体由来のTRH1ドメインを配列番号:3および図8に示す。チログロブ
リン由来のTRH1ドメイン配列番号:4および図8に示す。好ましくは、化合
物は、約18〜20個のアミノ酸を含むTRH1bサブドメインのアミノ酸配列
を有するTRH1ドメインの一部を含む。GCGルーチン「findpatterns」およ
び以下のパターンを用いてTRH1bサブドメインを同定してもよい:CX{4
,5}(K,R)X{2,6}(S,T)X{4,9}CX{0,2}DX{5,6}
(D,E)、またはCX{0,1}(V,I,F,Y)X{1,3}(V,W,L)X{
0,1}(K,R)X{4,5}(V,I,F)X{1,2}(L,I)X{2,4}C
X{0,2}D。フェツイン、TGF−βタイプII受容体、およびチログロブ
リン由来のTRH1bサブドメインをそれぞれ配列番号:5、6、および7、お
よ
び図7に示す。配列番号:5、6および7に示す末端アミノ酸を除去して18〜
19TRH1bペプチドを得てもよいことが理解されるてあろう。
本発明方法および組成物に用いてもよいTGF−β結合化合物の例は、α−2
−HS糖蛋白としても知られるヒト・フェツインを包含するフェツイン、チログ
ロブリン、キニノジェン(ケラーマン(Kellerman)ら、バイオケミ・ジャーナ
ル(Biochem.J.)第247巻:15頁、1987年)、およびTRH1bペプチ
ドである。
TGF−β結合化合物の蛋白部分は、TRH1ドメイン、またはTRH1bサ
ブドメインのごときその一部のアミノ酸配列と相同的な配列を包含する。
TRH1ドメイン、またはTRH1bサブドメインのごときその一部のアミノ酸
配列と相同的な配列を、少なくとも、それぞれ約40%および70%同一性を有
する配列と定義する。相同的配列を有するTGF−β結合化合物は、10-5より
も大きいKDでTGF−βサイトカインに、好ましくはTGF−β1に結合でき
、そして/または本明細書記載の増殖阻害アッセイにおいてTGF−β1もしく
はBMP−2のごときTGF−βサイトカインの活性を中和しうるはずである。
アミノ酸を同様のアミノ酸に置換することによりTGF−β結合化合物を修飾
してもよいことが理解されよう。例えば、TRH1ドメインまたはTRH1bサ
ブドメインにおいて、塩基性アミノ酸を別の塩基性アミノ酸に置換してもよく、
あるいは疎水性アミノ酸を別の疎水性アミノ酸に置換してもよい。
本発明方法および組成物にTGF−β結合化合物の模倣物を用いてもよい。用
語「模倣物」は、関連3次元構造を有する化合物、すなわち、図7に図式的に示
す特徴的なジスルフィドループ構造の一方または双方、好ましくは、「b」と命
名されたループ構造を有する化合物をいう。例えば、ピー・エス・ファーマー(
P.S.Farmer)、「ドラッグ・デザイン」第10巻、119〜143頁(イージェ
イ・アリエンス(EJ Ariens)編、ニューヨークのアカデミックプレス);ボー
ル,ジェイビー(Ball JB)、ピーエフ・アレウッド(PF Alewood)、ジャーナル
・モレ・レコグニション(J.Mol.Recognition)第3巻、55頁、1990年;
ビーエイ・モーガン(BA Morgan)およびジェイエイ・ゲイナー(JA Gainer)、
ア
ニュ・レポ・メディ・ケミ(Annu.Rep.Med.Chem.)第24巻、243頁、198
9年;およびアールエム・フリーディンガー(RM Friedinger)、トレンズ・フ
ァーマコロ・サイ(Trends Pharmacol.Sci.)第10巻、270頁、1989年
記載のような方法を用いて模倣物の選択を行ってもよい。
TGF−β結合化合物はキメラ分子であってもよい。例えば、フェツインのT
RH1b領域(配列番号:5および配列番号:2のCys26からCys44ま
で)を、TGF−βタイプII受容体の対応ループ(配列番号:6および配列番
号:3のCys24からCys41まで)によって置換するこができる。
慣用的な単離精製法を用いてフェツインおよびチログロブリンのごときTGF
−β結合化合物を得てもよい。例えば、ウシ胎児血清の硫酸アンモニウム分別沈
殿、次いで、ゲル濾過クロマトグラフィーによって化合物を得てもよい。それら
を市販ソースから得てもよい(例えば、米国ミズーリ州セントルイスのシグマ(
Sigma))。固相合成(メリフィールド(Merrifield)、1964年、ジャーナ
ル・アメ・ケミ・アソシ(J.Am.Chem.Assoc.)第85巻:2149〜2154頁
)または均一溶液中での合成(ハウベンウェイル(Houbenweyl)、1987年、
メソッズ・オブ・オーガニック・ケミストリー(Methods of Organic Chemistry
)(イー・ワンシュ(E.Wansch)編)第15巻IおよびII(シュトゥットガル
トのティーメ)のごとき蛋白化学においてよく知られた方法を用いる化学合成の
ごとき慣用的方法を用いてTGF−β結合化合物を合成的に構築してもよい。
TGF−β結合化合物、およびTRH1ドメインならびにTRH1bサブドメ
インを包含するその一部を、細菌、酵母、昆虫もしくは哺乳動物細胞、動物を包
含する宿主細胞において、当該分野においてよく知られた方法(例えば、イタク
ラ(Itakura)ら、米国特許第4,704,362号;ヒンネン(Hinnen)ら、P
NAS USA第75巻:1929〜1933頁、1978年;マレイ(Murray
)ら、米国特許第4,801,542号;アプショール(Upshall)ら、米国特許
第4,935,349号;ハーゲン(Hagen)ら、米国特許第4,784,950号
;アクセル(Axel)ら、米国特許第4,399,216号;ゲデル(Goeddel)ら
、米国特許第4,766,075号;およびサムブルック
(Sambrook)ら、モレキュラー・クローニング・ア・ラボラトリー・マニュアル
(Molecular Cloning A Laboratory Manual)第2版、コールド・スプリング・
ハーバー・プレス、1989年参照)を用いて発現させてもよい。
好ましくは、発現系は哺乳動物発現系である。例えば、チャイニーズハムスタ
ー卵巣(CHO)細胞を用いて、正しく折り畳まれ糖鎖付加されたフェツインま
たはキメラフェツインを製造でき、無血清培養上清から蛋白を回収することがで
きる。一時的(transient)および安定(stable)なアプローチの両方を用いる
ことができる。前者のアプローチは、比較的大量の組み換え蛋白を迅速に生産す
るために用いることにできるSFUウイルスレプリコンに基づいていてもよい。
安定なアプローチには、より恒久的かつ不変の蛋白源を得ることのできる、十分
に特徴づけられたサイトメガロウイルス(CMV)プロモーターを使用してもよ
い。蛋白をコードしているcDNAのコーディング領域を、ポリメラーゼ連鎖反
応(PCR)増幅法(ムリス(Mullis)ら、米国特許第4,863,195号およ
びムリス、米国特許第4,683,202号)を用いて、cDNAライブラリーか
らクローン化することができる。ヌクレオチド配列をDNA配列決定によって確
認することができる。PCRによるクローニング法は、発現ベクター中へのサブ
クローニングのための便利な制限部位の導入を可能にする。
TGF−β結合化合物およびTRH1ドメインならびにTRH1bサブドメイ
ンを包含するその一部を、ラット、マウス、ウサギ、ヒツジおよびブタのごとき
非ヒト・トランスジェニック動物において発現させてもよい(ハンマー(Hammer
)ら、ネイチャー第315巻:680〜683頁、1985年;パルミテル(Pa
lmiter)ら、サイエンス第222巻:809〜814頁、1983年;ブリンス
ター(Brinster)ら、プロシーディングス・オブ・ナショナル・アカデミー・オ
ブ・サイエンシズ・ユーエスエイ第82巻:4438〜4442頁、1985年
、パルミテルおよびブリンスター、セル第41巻:343〜345頁;および米
国特許第4,736,866号参照)。
本発明方法におけるTGF−β結合化合物およびTGF−βスーパーファミリ
ーサイトカインの選択はアッセイすべき物質の性質によることが理解されるであ
ろう。さらに、本発明方法における化合物およびTGF−βスーパーファミリー
サイトカインの選択は、特異的相互作用に影響する特異的な化合物の同定を可能
にするであろうということも理解されるであろう。かくして、本発明によるTG
F−βスーパーファミリーサイトカインに対するTRH1ドメインの特異的結合
部位の同定は、TGF−βスーパーファミリーサイトカインを変調させる特異的
な物質の同定を可能にする。
サイトカイン−TGF−β結合化合物複合体の生成を可能にする条件を、サイ
トカインおよびTGF−β結合蛋白の性質および量のごとき因子に関連して選択
することができる。
本発明方法における複合体、および遊離の化合物ならびにサイトカインを、慣
用的方法、例えば、塩析、クロマトグラフィー、電気泳動、ゲル濾過、フラクシ
ョネーション、吸着、ポリアクリルアミドゲル電気泳動、凝集、またはそれらの
組み合わせによって単離することができる。
知られた方法を用いて複合体または遊離化合物またはサイトカインをアッセイ
することができる。成分のアッセイを容易にするために、標識されていてもよい
化合物またはサイトカインに対する抗体、あるいは標識化合物またはサイトカイ
ンを用いてもよい。本明細書記載の増殖阻害アッセイにおいて、TGF−β1ま
たはBMP−2のごときTGF−βサイトカインの活性を中和する能力を調べる
ことにより、成分をアッセイしてもよい。
対照として、TGF−βスーパーファミリーのサイトカインを変調させる可能
性のある物質の不存在下で、あるいはTGF−βスーパーファミリーのサイトカ
インを変調させることが知られている物質の存在下で本発明方法を行ってもよい
。
TGF−β結合化合物およびTGF−βスーパーファミリーサイトカインを用
いて抗体を調製してもよく、該抗体を用いて複合体および遊離化合物の単離およ
び分離を容易にしてもよい。下記のごとく、TRH1ドメインおよびその一部に
対する抗体を用いて、ネイティブな受容体への結合をブロックすることにより、
TGF−βサイトカインの活性を中和してもよく、したがって、線維症のように
過剰なTGF−βサイトカイン活性が存在する場合、あるいはTGF−βがオー
トクリン腫瘍増殖因子として作用する場合、抗体は治療的介在を可能にしうる。
それらを、診断への応用として生物学的試料中のTGF−βスーパーファミリー
サイトカインの存在のアッセイに用いてもよい。
本発明の文脈において、抗体は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、
抗体フラグメント(例えば、Fab、およびF(ab')2)および組み換え生産さ
れた結合パートナーを包含するものと理解される。
当業者は、ウマ、ウシ、種々のトリ、ウサギ、マウス、またはラットのごとき
温血動物からポリクローナル抗体を容易に得ることができる。本発明者らは、ウ
サギをTRH1bペプチドで免疫し、自己免疫状態において見られるのと同様な
臨床的徴候を示す動物を得た。詳細には、ウサギは、足の甲の線維症を示し、肝
臓において炎症応答の証拠が存在した。
また、慣用的方法(米国特許RE32,011、第4、902、614、4,5
43,439、および4,411,993号(参照によりそれらを本明細書に記載
されているものとみなす);さらに、ア・ニュー・ディメンジョン・イン・バイ
オロジカル・アナリシス(A New Dimension in Biological Analyses)、プレナ
ム・プレス、ケネット(Kennet)、マクキーン(McKearn)およびベクトル(Bec
htol)編、1980年、およびアンチボディーズ:ア・ラボラトリー・マニュア
ル(Antibodies:A Laboratory Manual)、ハーロウ(Harlow)およびレーン(La
ne)編、コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー・プレス、1988年
(参照によりそれらを本明細書に記載されているとみなす)を参照)を用いてモ
ノクローナル抗体を容易に得ることができる。組み換えDNA法を用いて、特異
的結合抗体をコードする種々の遺伝子領域を取り込むことによって結合パートナ
ーを構築してもよい(バード(Bird)ら、サイエンス第242巻:423〜42
6頁、1988年参照)。
いくつかのサイトカインに特異的な抗体を、市販ソースから得てもよい。例え
ば、TGF−βファミリーのサイトカインに対する抗体を、米国コネチカット州
のアメリカン・ダイアグノスティクス・インコーポレイテッド(American Diagn
ostics Inc)、米国ニューヨーク州のオンコジーン・サイエンス(Oncogene Sci
ence)、およびカナダのミシソーガのディメンジョン・ラボラトリーズ(Dimens
ion Laboratories)から得てもよい。
種々の酵素、蛍光物質、化学発光物質および放射活性物質を用いる慣用的方法
を用いて化合物またはサイトカインに対する抗体を標識してもよい。適当な酵素
の例は、セイヨウワサビ・ペルオキシダーゼ、ビオチン、アルカリ性ホスファタ
ーゼ、β−ガラクトシダーゼ、またはアセチルコリンエステラーゼを包含する。
適当な蛍光物質の例は、ウンベリフェロン、フルオレセイン、フルオレセインイ
ソチオシアネート、ローダミン、ジクロロトリアジニルアミンフルオレセイン、
ダンシルクロライドまたはフィコエリスリンを包含し、化学発光物質の例はルミ
ノールを包含し、適当な放射活性物質の例は、放射活性リン32P、ヨウ素I125
、I131またはトリチウムを包含する。化合物またはサイトカインに特異的な抗
体を、電子顕微鏡により容易に可視化できるフェリチンまたはコロイド状の金の
ごとき電子密度の高い物質に結合させてもよい。
本発明方法に用いるTGF−β結合化合物またはサイトカインを不溶化しても
よい。例えば、それらを適当な担体に結合させてもよい。適当な担体の例は、ア
ガロース、セルロース、デキストラン、セファデックス、セファロース、カルボ
キシメチルセルロースポリスチレン、濾紙、イオン交換樹脂、プラスチックフィ
ルム、プラスチックチューブ、ガラスビーズ、ポリアミン−メチル ビニル−エ
ーテル−マレイン酸コポリマー、アミノ酸コポリマー、エチレン−マレイン酸コ
ポリマー、ナイロン、絹等である。担体は、例えば、管状、テストプレート(te
st plate)状、ビーズ状、ディスク状、球状等であってよい。
知られた化学的または物理的方法を用いて、例えば、臭化シアンカップリング
を用いて、適当な不溶性担体と物質を反応させることにより、不溶化された化合
物またはサイトカインを調製することができる。
本発明方法を用いて、TGF−βスーパーファミリーサイトカインを変調させ
る物質、好ましくはアゴニストまたはアンタゴニストである可能性のある物質を
アッセイすることができる。一般的には、アンタゴニストは、TGF−βスーパ
ーファミリーサイトカインと同様の結合活性を有するが、通常はサイトカインに
よって誘導される生物学的応答を伝達することができない分子を構成要素としう
る。さらに、アンタゴニストはサイトカインに対する受容体上の結合部位を模倣
する分子であってもよい。例えば、アンタゴニストは、TRH1ドメイン、詳細
にはTRH1bサブドメインを含む分子を構成要素とする。本明細書に詳細に説
明するように、TRH1ドメイン(およびTRH1bサブドメイン)を含むフェ
ツインおよびチログロブリンのごとき化合物はTGF−βスーパーファミリーの
サイトカインのアンタゴニストである。一方、アゴニストは、サイトカインに対
する受容体上の特異的結合部位、すなわち、TRH1ドメインまたはTRH1b
サブドメインに、本来のサイトカインと比較していくぶん有利な様式で結合する
分子を構成要素とする。アゴニストまたはアンタゴニストは内在性の生理学的物
質であってもよく、また、天然または合成薬品であってもよい。
さらに、本発明は、少なくとも1種のTGF−β結合化合物からなる医薬組成
物に関する。また、本発明は、本発明方法を用いて同定される物質を含有する医
薬組成物に関する。医薬組成物を、TGF−βサイトカインおよびTβRIIの
相互作用についてのアゴニストまたはアンタゴニストとして用いてもよい。好ま
しくは、組成物はフェツイン、より好ましくはα−2HS−糖蛋白としても知ら
れるヒト・フェツイン、または本明細書記載のキメラフェツインを含有する。フ
ェツインは非免疫性の天然のヒトの化合物であり、本明細書記載のごとく組み換
え分子として製造されうるので、フェツインは医薬上の薬剤として特に適してい
る。
本発明医薬組成物は、少なくとも1種のTGF−β結合化合物または本発明方
法を用いて同定される物質を、それのみ、あるいは他の活性物質と混合された状
態で含有する。かかる医薬組成物を、経口的に、局所的に、直腸から、非経口的
に、局部的に、吸入により、または脳内に使用することができる。それゆえ、そ
れらは、固体または半固体、例えばピル、錠剤、クリーム、ゼラチンカプセル、
カプセル、坐薬、軟ゼラチンカプセル、ゲル、膜、チューブレット(tubelet)
である。本発明組成物をトランスフェリンのごとき輸送分子と結合させて脳関門
を越えた組成物の輸送を容易にしてもよい。
本発明医薬組成物はさらなる治療化合物を含有していてもよい。例えば、リュ
ーマチ性関節炎、慢性活動性肝炎、および喘息を包含する多くの症状に治療に広
く用いられているグルココルチコイドを本発明医薬組成物に含ませてもよい。
本発明医薬組成物はヒトまたは動物への投与用を意図されている。投与量は個
々の必要性、所望の効果および選択された投与経路による。
医薬組成物を、患者に投与できる医薬上許容される組成物の製造に関する自体
公知の方法により製造することができ、有効量の活性物質を医薬上許容される担
体と混合する。例えば、レミントンズ・ファーマシューティカル・サイエンシズ
(Remington's Pharmaceutical Sciences)(マック・パブリッシング・カンパ
ニー、イーストン、Pa、USA,1985年)に適当な担体が記載されている。
これによると、医薬組成物は、1種またはそれ以上の医薬上許容される担体ま
たは希釈剤と混合された活性化合物または物質を含むが、それ以外のものを含ん
でいてもよく、適当なpHであって生理学的液体と等張な緩衝溶液中に含まれて
いてもよい。
また、本発明は、TGF−β受容体でなく、TRH1ドメインまたはその一部
もしくは模倣物を含む少なくとも1種のTGF−β結合化合物をコードしている
遺伝子を含む組み換え分子からなる。さらに組み換え分子は適当な転写または翻
訳調節エレメントを含む。適当な調節エレメントは種々のソース由来であってよ
く、当業者によってそれらは容易に選択されうる。調節エレメントの例は、転写
プロモーターおよび エンハンサー、またはRNAポリメラーゼ結合配列、リボ
ゾーム結合配列、転写開始シグナルを包含する。さらに、使用ベクターによって
は、選択可能マーカーのごとき他の遺伝学的エレメントを組み換え分子中に組み
込んでもよい。レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクターおよびDNA
ウイルスベクターのごときインビトロ送達担体を用いて組み換え分子を対象細胞
に導入することができる。マイクロインジェクションおよびエレクトロポレーシ
ョンのごとき物理的方法または共沈およびリポソーム中へのDNA取り込みのご
とき化学的方法を用いて、それらをかかる細胞中にインビボで導入してもよい。
組
成物をエアロゾル形態または洗浄法によって送達してもよい。
さらに本発明は、TGF−βスーパーファミリーのサイトカインの変調を必要
とする症状に苦しむ患者を有効量のTGF−β結合化合物で治療する方法を提供
する。本発明方法で同定されるアゴニストまたはアンタゴニストを投与すること
からなる治療方法もまた、本発明の範囲内である。
TGF−β結合化合物、本発明方法を用いて同定される物質、抗体、およびそ
れらを含有する組成物を種々の適用例に用いることができる。TGF−βサイト
カインは多くの生物学的プロセスに関与しているため、化合物、物質、抗体およ
び組成物をこれらのプロセスを変調させるために用いることができる。
本発明方法を用いて同定されたTGF−βファミリーのサイトカインのアゴニ
ストを用いて、例えば、傷の治癒の刺激、TGF−β感受性腫瘍の増殖抑制、免
疫応答の抑制、および血管形成の刺激に用いてもよい。移植器官の拒絶反応を停
止させるためにトランスプラントにおいて免疫応答を抑制してもよい。
TGF−βファミリーのサイトカインのアンタゴニストを用いて本来の標的受
容体に対する内在性TGF−βの結合をブロックすることができ、そのことによ
りリガンド−受容体結合イベントにより発生する細胞の増殖または阻害シグナル
をブロックすることができる。よって、TGF−β結合化合物および抗体のごと
きアンタゴニストは免疫応答を刺激し、細胞外マトリックスの沈着を減少させる
であろう。したがって、アンタゴニストは、肺の線維症を包含する線維症、慢性
肝臓疾患に関連した線維症、肝臓静脈閉塞ならびに突発性間質性肺炎、腎臓疾患
、および放射線療法もしくは放射線事故;増殖性ガラス体網膜症;全身性硬化症
;リューマチ性関節炎のごとき自己免疫疾患、グレイブス病、全身性エリテマト
ーデス、ワグナー肉芽腫症、サルコイドーシス、多発性関節炎、天疱そう、類天
疱そう、多型性紅斑、ショーグレン症候群、炎症性腸疾患、多発性硬化症、重症
筋無力症、角膜炎、強膜炎、I型糖尿病、インスリン依存性糖尿病、狼そう、腎
炎、およびアレルギー性脳髄膜炎;白血病、リンパ種(ホジキンおよび非ホジキ
ン)、肉腫、メラノーマ、アデノーマ、固体組織の癌腫、低酸素性腫瘍、口、喉
、咽頭、ならびに肺の鱗状細胞癌腫、頸部および膀胱癌のごとき生殖尿道系の癌
、造血系
の癌、頭部および首の癌、および神経系の癌のごとき種々の形態の癌を包含する
増殖性疾患、乳頭腫のごとき良性の傷害、アテローム性動脈硬化、血管形成、お
よびウイルス感染、詳細にはHIV感染のごとき症状の治療に特に適するであろ
う。
TGF−βファミリーのサイトカインのアンタゴニストを用いて、TGF−β
により誘導される低血圧の阻害を通して血圧を上昇させてもよい。対象中の循環
TGF−βレベルを低下および/または維持する方法は同様の昇圧効果を生じ、
過大な降圧シグナルおよび結果生じる低血圧の発生を防止しうる。
アクチビンによるFSH放出の刺激を、特異的TGF−β 結合化合物の投与
によって促進することができる。その化合物は、アクチビンとその本来の受容体
との間の複合体形成を防止し、次いで、FSH放出刺激作用をするであろう。そ
れゆえ、TGF−β結合化合物は、アクチブンとアクチビン受容体との間の正常
な相互作用をブロックすることにより、アクチビンの効果を減じるであろう。し
たがって、TGF−β結合化合物を適用してヒト、家畜、および商業的に興味が
もたれる動物の受精をコントロールすることができる。赤血球生成に対するアク
チビンの作用を、変調に有効な量のTGF−β結合化合物を投与することにより
変調させることもできる。本発明化合物、物質、抗体および組成物を、アクチビ
ン依存性腫瘍の診断および/または治療、または脳ニューロンの生存促進に用い
ることもできる。
本発明者らの仕事は、骨細胞分化におけるフェツインとTGF−βスーパーフ
ァミリーサイトラインとの相互作用に関する役割を支持する。本発明者らは、フ
ェツインがBMPに対して高い親和性を有していることを見いたしており、しか
もフェツインとBMPは発生中の骨に一緒に局在化していることが知られている
。さらに、本発明者らは、フェツインがインビトロにおけるBMP−2依存性の
骨の分化を抑制することを示している。それゆえ、TGF−βスーパーファミリ
ーサイトカイン、詳細にはBMP−2からBMP−7までを変調させる物質であ
って、本明細書において確認されたものおよび本発明方法を用いて同定されたも
のを用いて骨形成を誘導してもよく、例えば、それらを用いて骨折を修復もしく
は
治癒し、骨粗鬆症を治療し、歯科的問題を取り扱うことができ、さらにそれらを
インプラントとともに用いて骨の増殖を促進してもよい。
TGF−βは、間葉前駆体細胞、軟骨細胞、骨芽細胞および破骨細胞を包含す
るいくつかの細胞タイプの増殖および分化をコントロールすることが見いだされ
ている。TGF−βは、正常ラットの2倍体胎児骨芽細胞の分化をインビトロで
ブロックすることが示されている(イー・シー・ブリーン(E.C.Breen)ら、ジ
ャーナル・セル・フィジオロ(J.Cell.Physiol.)第160巻:323〜335
頁、1994年)。細胞が成熟骨芽細胞表現型を発現するまでは、その効果は培
養の増殖フェーズに限定される。本発明者らは、増殖フェーズの間にフェツイン
が細胞増殖を刺激し、増殖フェーズ後はカルシウム含有マトリックス、すなわち
、骨組織の沈着を阻害したことを示した。それゆえ、TGF−β結合化合物を投
与することによりTGF−βサイトカインの初期の効果を変調させることによっ
て、および/または本発明方法を用いて同定されたTGF−βのアゴニストを投
与することによりTGF−βサイトカインの後期の効果を変調させることによっ
て、骨形成(詳細には、上記適用例に関する)を刺激することができる。TGF
−β結合化合物、および本発明方法を用いて同定された物質を用いてTGF−β
サイトカインを変調させることによって骨形成過剰疾患(例えば、軟骨発育不全
、パジェット病、および骨粗鬆症)を治療してもよい。
TGF−β結合化合物および本発明方法を用いて同定された物質を、リューマ
チ性関節炎、慢性活動性肝炎、喘息、および移植後の組織拒絶反応を包含する多
くの疾病の治療に用いられるグルココルチコイドと混合して用いてもよい。長期
にわたるグルココルチコイド療法は、骨の損失の最大のリスクである骨粗鬆症の
誘導に関連している。TGF−βは、骨細胞機能に対するグルココルチコイド調
節において役割を果たしていることが見いだされている(オースラー,エム・ジ
ェイ(Oursler,M.J.)ら、エンドクリノロジー(Endocrinology)、第133巻(5
)、2187頁、1993年)。
本発明化合物、抗体、および組成物の有用性を動物実験モデルにおいて確認し
てもよい。例えば、硫酸ブレオムチンによる肺の線維症の誘導に対するマウスの
感受性を試験することにより、線維症における治療上の有用性を試験してもよい
(ベヒャー−アラン(Baecher-Allan)、レジオナル・イミュノロジー(Regiona
l Immunology)第5巻(3〜4):207頁、1993年)。マーチン(Martin
)ら、ラジエイション・リサーチ(Radiation Research)第134巻(1)、6
3頁、1993年に記載された、十分に特徴づけられた放射線照射により誘導さ
れる線維症のブタのモデル、およびボーダー(Border)ら、ネイチャー第360
巻:361頁、1992年に記載された実験的糸球体腎炎モデルを用いてもよい
。本発明化合物、物質および組成物の有用性の確認に用いることのできる他のモ
デルは、傷の治癒(例えば、ブリーチャー(Bleacher)ら、ダーマトロジック・
クリニクス(Dermatologic Clinics)第11巻(4):677頁、1993年に
記載された胎児の骨の修復モデル)、骨の修復(例えば、ラットにおける骨誘導
モデル)−ヤスコ,エイダブリュ(Yasko,AW)ら、オーソプ・トランス(Orthop.
Trans.)第15巻:501頁、1991年;ヒツジの大腿骨−ゲルハルト,ティ
ーエヌ(Gerhart,TN)ら、トランス37アニュアル・ミーティング・オーソプ・
リサ・ソサ・アナヘイム CA(Trans 37 Annual Meeting Orthop.Res.Soc.Ana
heim CA)、カサーソン,ビー(Catherson,B.)編第16巻(1)、172頁、1
991年;およびイヌ・下顎骨−トリウミ,ディーエム(Toriumi,DM)ら、アー
チーブ・オトラリノボロ・ヘッド・ネック・サージ(Archiv.Otolarynogol.Head
Neck Surg.)第117巻:1101〜1112頁、1991年)、および自己
免疫疾患(例えば、MRL−lpr/iprマウス(全身性エリテマトーデスに
関するモデル);NZBxNZWf1マウス(ヒトの自己免疫疾患について見ら
れる臨床的徴候に匹敵する臨床的徴候を示す)−テオフィロプーロス(Theofilo
poulos)およびディクソン(Dixon)、アドバ・イムイノロ(Adv.Immunol.)第
37巻、1985年)に関するモデルを包含する。上記方法、化合物、物質、抗
体および組成物を用いてTGF−βスーパーファミリーのサイトカインを研究し
てもよく、したがって、増殖、分化および形態形成におけるサイトカインの役割
に対するさらなる洞察が得られるであろうということが、さらに当業者に理解さ
れるであろう。
TGF−βファミリーのサイトカインは細胞の増殖を停止させ、それにより、
EGF、bFGF、IL−1α、IL−1β、Int−2、ケラチノサイト増殖
因子、IL−2、GM−CSF、G−CSF、CNTF、EGF、TGFα、ヒ
ト・成長ホルモン、NGF、PDGF、インスリン、IGF−1、IGF−2、
ボンビキシン、グリア増殖因子、TNF、およびCD40リガンド(エウェン(
Ewen)ら、セル第74巻:1009頁、1993年)のごとき他の増殖因子の作
用を抑制する。臨床的状況における増殖因子の効果的な利用のためには、TGF
−βサイトカインの活性を同時に低下させることが望ましい。
したがって、さらに本発明は、TGF−βスーパーファミリーのサイトカイン
によって効果が抑制される増殖因子と混合されたTGF−β結合化合物からなる
組成物に関する。さらに本発明は、TGF−βスーパーファミリーのサイトカイ
ンによって効果が抑制される増殖因子を用いて個体の治療を促進する方法であっ
て、TGF−βサイトカインの受容体でなく、TRH1ドメインを含むTGF−
β結合化合物を増殖因子と同時に投与することからなる方法に関する。本発明方
法を用いて同定される、TGF−βスーパーファミリーのサイトカインに結合に
対する他のアンタゴニストを、これらの組成物および方法に用いて増殖因子の活
性を促進してもよい。
本発明のもう1つの適用例は、サイトカインのTGF−βスーパーファミリー
のメンバーの存在または不存在に関する試料のアッセイである。例えば、TGF
−βサイトカインのスーパーファミリーのメンバーにより媒介される経路に関連
した徴候を示す患者由来の血清をアッセイして、観察される徴候がかかるサイト
カインの過剰または過小産生により引き起こされた可能性があるかどうかを調べ
ることができる。アッセイを種々のやり方で行うことができ、当業者によって容
易に確認されうる。例えば、ラジオイムノアッセイ、ELISA、ERMA等の
ごとき、本発明抗体を用いる免疫学的アッセイのみならず、競争的アッセイを用
いることができる。
本発明の具体例において、試料中のTGF−βスーパーファミリーのサイトカ
インをアッセイするために競争的結合アッセイが示され、該競争的アッセイは、
(a)化合物およびサイトカインが複合体を形成でき、化合物および/またはサ
イトカインが既知能度で存在している条件下にて、サイトカインを含有する可能
性のある試料を、TGF−β受容体でなく、かつTRH1ドメインまたはその一
部もしくは模倣物を含む一定量のTGF−β結合化合物、および一定量のサイト
カインと反応させ、(b)複合体、遊離化合物および/またはサイトカインをア
ッセイし、次いで、(c)対照と比較することからなる。
本発明方法を用いて組織および生物学的試料、例えば、サイトカインを含有ま
たは含有する可能性のある血液、血液産物、血清、体液、分泌物、便、咽頭洗浄
物のごとき洗浄物、組織ホモジネートおよび細胞培養液中のTGF−βサイトカ
インをアッセイしてもよい。上の記載において、本発明方法に使用できるサイト
カインおよびTGF−β結合化合物を、TGF−βサイトカインに影響する物質
のアッセイ方法を参照して詳細に説明する。サイトカインおよびTGF−β結合
化蛋白の性質および量のごとき因子を考慮して、サイトカイン−TGF−β結合
化合物複合体の形成を可能にする条件を選択することができる。
下記の非限定的な実施例は本発明の説明である。
実施例:
実施例1
フェツインおよびチログロブリンがTGF−βサイトカインに結合し、TGF
−βサイトカインに拮抗する能力を試験した。ミンクの肺上皮細胞系であるMv
ILu細胞における3H−チミジン取り込みを、TGF−β1(12pM)のみ
存在下、およびTGF−β(12pM)とともにウシ・フェツイン濃度(図1の
黒丸);ウシ・チログロブリン(図1の白丸);または血清アルブミン(図1の
黒三角)を増加させていって評価を行った。サイトカインの不存在下(白丸)ま
たは存在下において、すなわち、18pMヒト・TGF−β1(白四角)、もし
くは33nMヒト・BMP−2(白三角)存在下でフェツインを滴定した(図1
2)。
MvILu細胞を2000個/ウェルとしてα−MEM中0.2%FCSを含
む96ウェルプレートに撒き、示された濃度の蛋白とともに18時間インキュベ
ーションした。次いで、細胞を8μCi/mlのメチル−3H−チミジン(NE
N、マサーセッツ州ボストン)で6時間パルスした。細胞をトリプシン処理し、
フィルターマット上に取り、β−カウンターで計数した。中和パーセント値を、
12pMのTGF−β1のみ存在下での取り込みを0%とすると定義し、添加物
なしの場合の取り込みを100%と定義した。0%と100%との間の3H−チ
ミジン取り込みの相違は7.5倍であった。図1および図12の各点は最小二乗
平均値を示し、結果は3つの実験のものを示す。ウシ・チログロブリンおよびウ
シ・フェツイン(FCSを硫酸アンモニウム沈殿し、次いで、ゲル濾過クロマト
グラフィーにより得た)をシグマ(Sigma)(ミズーリ州セントルイス)から購
入し、BSA(フラクションV)をベーリンガー・マンハイム(Boehringer Man
nheim)(ケベック州ラバル(Laval))から購入し、TGF−β1(ヒトから精
製したもの)をコラボレイティブ・リサーチ(Collaborative Research)(マサ
チューセッツ州ベドフォード(Bedford))から購入した。使用前に、ウシ・チ
ログロブリンをセントリコン(分子量カットオフ10000Da)(アミコン(
Amicon)、マサチューセッツ州ビバリー(Beverly))にて2回遠心分離して過
剰のヨウ素およびT3/T4甲状腺ホルモンを除去した。
図1は、ウシ・フェツインおよびウシ・チログロブリンがMvILu細胞の培
養に対するTGF−β1の抗増殖活性を中和することを示す。MvILu細胞は
ミンクの肺上皮細胞系であり、TGF−β1の抗増殖作用に感受性がある。フェ
ツインおよびチログロブリン双方に関する最大の効果は約150%の中和であり
、培養物中の内在性TGF−βも阻害され、対照と比較すると正味の細胞増殖刺
激を生じたことが示唆された。TGF−βアンタゴニストであるデコリンについ
ても同様の観察結果が報告されている(ワイ・ヤマグチ(Y.Yamaguchi)、ディ
ー・エム・マン(D.M.Mann)、イー・ルオスラーティ(E.Ruoslahti)、ネイチ
ャー第346巻、281頁(1990頁);エス・ショルツ−チェリー(S.Scho
ltz-Cherry)、ジェイ・イー・マーフィー−ウルリヒ(J.E.Murphy-Ullrich)、
ジャーナル・セル・バイオロ(J.Cell Biol.)第122巻、923頁(1933
年);
オコナー−マクコート(O'Conner-McCourt)、エル・エム・ウェイクフィールド
(L.M.Wakefield)、ジャーナル・バイオロ・ケミ(J.Biol.Chem.)第262巻
、14090頁(1987年);およびジェイ・マッサーグ(J.Massague)、カ
レ・バイオロ(Curr.Biol.)第1巻、117頁(1991年))。
フェツインは、用量依存的な様式でMvILu細胞に対するTGF−β1の抗
増殖活性を阻害することができ、4.2x10-6Mにおいて最大値の半分の阻害
(IC50)がみられた。トリグロブリンは、MvILu増殖阻害においてもTG
F−β1活性を中和し、IC50=2.2x10-7(図1)であった(図1)。チ
ログロブリンによるTGF−β1活性の阻害についてのIC50はフェツインに関
するものよりも20倍低く、これらの糖蛋白とのTGF−βの関連についてのKD
値においても相違が反映されていた(表1)。
図12に示すように、フェツインはMvILu細胞の増殖を刺激した(IC50
=8pM)。TGF−βに対する中和抗体も細胞増殖を刺激し、MvILu細胞
が活性のあるTGF−βを産生し、サイトカインアンタゴニストはフェツインと
同じ様式で細胞増殖を刺激しうることが示唆された。さらにそのうえ、フェツイ
ンは、外から添加したTGF−β1の抗増殖活性をブロックし、IC50は約3x
10-6Mであった。BMP−2もMvILu細胞の増殖を阻害(IC50=20n
M)したが、TGF−β1よりもずっと高濃度においてであった。フェツインは
BMP−2の効果を逆転させ、IC50は2〜5x10-6Mであった(図12)。
実施例2
組織培養におけるTGF−β1のアンタゴニストとしてのフェツインの作用が
2つの蛋白の直接結合によるものであるのかどうかを決定するために、BIAc
ore(ファルマシア・バイオセンサー(Pharmacia Biosensor)、ニュージャ
ージー州ピスカタウェイ(Piscataway))を用いて、表面プラズモン共鳴による
それらの相互作用を調べた(エム・マルムクビスト(M.Malmqvist)、ネイチャ
ー第361巻、186頁(1993年)およびエス・シー・シュスター(S.C.Sc
huster)、アール・ブイ・スワンソン(R.V.Swanson)、エル・エイ・アレッ
クス(L.A.Alex)、アール・ビー・ブレット(R.B.Bourret)、エム・アイ・サ
イモン(M.I.Simon)、ネイチャー第365巻、343頁(1993年)。この
系において、リガンドとして役立つ精製蛋白はカルボキシメチル化デキストラン
表面に結合され、結合分子(すなわち、分析物)は表面を通って液相中を通過す
る。リガンドへの分析物の結合は反射光の変化を生じ、該変化は結合質量に直接
比例し、任意応答ユニット(R.U.)として測定される。分析物−リガンド結合
は、分析物を注入している間の経時的応答増加および注入前後のベースライン位
置の相違の両方として観察される。
より詳細には、エム・マルムクビスト(M.Malmqvist)、ネイチャー第361
巻、186頁(1993年)およびエス・シー・シュスター(S.C.Schuster)、
アール・ブイ・スワンソン(R.V.Swanson)、エル・エイ・アレックス(L.A.Ale
x)、アール・ビー・ブレット(R.B.Bourret)、エム・アイ・サイモン(M.I.Si
mon)、ネイチャー第365巻、343頁(1993年)に記載されたようにし
て、精製ヒト・TGF−β1(コラボレイティブ・リサーチ、マサチューセッツ
州ベドフォード)および組み換えヒト・BMP−2(マサチューセッツ州ケンブ
リッジのジェネティクス・インスティチュート(Genetics Institute)から得た
)をCM5センサーチップのカルボキシメチル化デキストラン表面に固定化した
。1000R.U.は約1ng/mm2に等しい。使用バッファーは20mMHe
pes(pH7.2)、150mM NaClであり、すべてのセンサグラムに
つき流速は3μl/分であった。
ウシ胎児フェツイン(ミズーリ州のシグマ製)および成人フェツイン/α2−
HS糖蛋白(カリフォルニア州のカルバイオケム(Calbiochem)製)は、製造者
により異なるプロトコールを用いて精製されていた。10μlの20mM Na
OHを注入することにより結合分析物を除去するための表面の再生を行った。T
RH1ペプチドを環化するために、5mM DTTで材料を還元し、次いで、2
5mM酢酸アンモニウム(pH8.5)中60μMの最終濃度とした。30mM
フェリシアニドカリウムとともに暗所で20℃、30分撹拌した後、ペプチドを
AG3−X4A樹脂(BioRad)と混合し、濾過し、凍結乾燥し、水で展開す
るバイオゲルP2(ファルマシア)の50x2.5cmカラムで脱塩し、さらに
逆相HPLCにより精製した。イオンスプレー質量スペクトル法により環化およ
びペプチド架橋不存在を確認した。
注入体積は、図2、4および5については36μlであり、図3については4
5μlであった。結合分析物を除去するためのに、10μlの1Mグルコース−
6−リン酸、またはTGF−β1およびBMP−2被覆表面については1μlの
20mM NaOHで、それぞれ、再生を行った。各実験における蛋白濃度は2
、5、10、20、30、40μM(図2および3)であり;図4では0.21
、0.31、0.41、0.62、0.82、1.24μMであり、図5については
0.22、0.29、0.44、0.59、0.88μMであった。各実験における
固定化サイトカインについてのR.U.は、それぞれ、図2および3については2
850R.U.、図4については7450R.U.、図5については5300R.U.
であった。
図2ないし5におけるセンサグラムオーバーレイプロット(sensogram overla
y plots)は、固定化TGF−β1へのウシ・フェツインの結合(図2)を応答
ユニット(R.U.)で示し;さらに固定化BMP−2への結合(図4)を示す。
下から上へのそれぞれの線は、後で詳述する注入分析物の濃度増加を示す。図3
および図5は、固定化TGF−β1を通過した非結合対照ヒト・トランスフェリ
ンおよび固定化BMP−2を通過したBSAをそれぞれ示す。注入の始めと終わ
りにおける応答の大きな変化は注入されたバッファー中の蛋白により引き起こさ
れた屈折率の変化によるものであり、結合を示すものではない。TGF−β1お
よびBMP−2へのフェツイン結合は、i)注入の間の経時的応答増加、および
ii)フェツイン濃度を増加させて注入すると各注入終了後の応答が段階的に増
加することにより示される。図4に示すフェツイン−BMP−2相互作用は平衡
に達していないが、図2においては、より低いフェツイン−TGF−β1親和性
が平衡に達している。パネル(A)に示されるように、TGF−β1へのフェツ
イン結合約200秒後、経時的応答の変化がゼロとなった場合に平衡が達成され
る。別の対照実験は、特別な蛋白を固定化した場合にはフェツインが結合しな
かったことを示した(データ示さず)。
フェツイン、チログロブリン、およびTRH1ペプチドと、TGF−β1およ
びBMPについての結合定数を決定した。BIA−evaluationソフト
ウェア(ファルマシア・バイオセンサー)を用いてデータを分析した。まず、応
答に対する経時的応答の変化(すなわち、Rに対してdR/dT)をプロットす
ることにより結合速度定数kassを計算した。このグラフの直線の傾きを分析物
濃度に対してプロットした場合(すなわち、Cに対してd(dR/dT)/dR)
、直線の傾きからkassが得られる。分析物の注入を止めた後、経時的応答が減
少している間に解離速度定数kdissを得る。詳細には、時間に対するln(Rt1
/Rt0)のプロットにおける直線の傾きからkdissを得た。
KD=kdiss/kassから親和性定数を計算した。kassの変動は直線的回帰プロ
ットの標準偏差であり、kdiss値の変動については、平均値±3回またはそれ以
上の独立した注入の範囲である。フェツイン結合については定常状態が観察され
、スキャッチャードプロット(Scatchered plot)によるこれらのデータの分析
により同様のKD値4.6x10-6Mが得られた。表1は、フェツイン、チログロ
ブリン、TRH1b等のサイトカインとの相互作用に関する結合定数を示す。T
GF−βサイトカインに対するフェツインおよびTRH1の結合について計算を
繰り返し、計算値を表2に示す。表1および1の括弧内の数はBMP−2に対す
るサイトカインの相同性のパーセント値を示す。
非平衡結合データの分析により、フェツイン−TGF−β1の結合速度(kas s
)(670M-1s-1)および解離速度(kdiss)(1.6x10-3s-1(表1)
および1.9x10-3(表2))が明らかとなった。図2のデータを用いて、定
常状態のフェツイン−TGF−β1結合についてのスキャッチャードタイプの分
析により4.6x10-6MのKD値が得られ、KD=kdiss/kassから、2.2お
よび2.4x10-6Mの値(それぞれ表1および表2)が得られた。このフェツ
イン−TGF−β1親和性の測定値は、TGF−β1活性のフェツインによる中
和についてのIC50と同様であり(図1および図12)、フェツインがサイトカ
インに直接結合することによってTGF−β1活性を中和するという知見と矛
盾しない。フェツインは密接に関連したサイトカインTGF−β2にも結合し、
同様の親和性を有していた(表1および表2)。
また、フェツインは、TGF−βスーパーファミリーのメンバーであってTG
F−β1とは38%のアミノ酸同一性(ジェイ・エム・ウォズニー(J.M.Wozney
)、ブイ・ローゼン(V.Rosen)、エイ・ジェイ・セレステ(A.J.Celeste)、エル
・エム・ミトソック(L.M.Mitsock)、エム・ジェイ・(ホイターズ(M.J.Whitt
ers)ら、サイエンス第242巻、1528頁およびブイ・ローゼン(V.Rosen)
、アール・エス・シース(R.S.Thies)、TIG第8巻、97頁(1992年)
)を有する固定化BMP−2(図4)に結合した。BMP−2に対するフェツイ
ン結合親和性は、TGF−β1へのフェツイン結合よりも約100倍高かった(
KD=3.6x10-8M、およびKD=2.7x10-8M、それぞれ表1および表2
)。両方の相互作用は同様のオンーレイト(on-rate)(kass=1.7x103M-1
s-1)を示したが、フェツイン−BMP−2はずっと低いオフ−レイト(off-
rate)(kdiss=6.2x10-5s-1(表1)およびkdiss=6.5x10-5(表
2))を有しており、大部分の親和性の相違の根拠となった。また、フェツイン
は固定化BMP−4およびBMP−6と結合し、オフ−レイトにおける変化のた
め大きく異なる特徴的な親和性を有していた(表1および表2)。5種のサイト
カインに対するフェツインの結合親和性はBMP−2に対するアミノ酸相同性と
の直接的関連を示し、BMP−2がフェツインに対して最高の親和性を有するこ
とは注目すべきである(表1および表2)。フェツイン−サイトカイン結合に関
するKD測定値のランク順位は、BMP−2<BMP−4<BMP−6<TGF
−β1<TGF−β2であり、BMP−2に対するそれらの1次配列の相同性に
関連していた(表1および表2)。
さらに、上記BIAcoreアッセイにおいて、チログロブリンをBMPおよ
びTGF−βに対する結合に関して試験した。驚くべきことに、チログロブリン
は、サイトカインに対してフェツインよりも高い親和性で結合し、BMP−2と
は最強の相互作用(KD=3.1x10-9M)を示した。チログロブリンは、BM
P−2>BMP−4>TGF−β1>TGF−β2の順に強く結合し、これ
らのサイトカインに対するフェツインの結合に関して観察された順序と同様であ
った(表1および表2)。チログロブリンは血清中に低レベルで見いだされ、甲
状腺の濾胞においてずっと高濃度で存在し、そこではチロキシンの前駆体となっ
ている。TGF−βは、チログロブリン生合成およびインビトロでの甲状腺細胞
の増殖を阻害することが見いだされている(コレッタ(Colletta)ら、キャンサ
ー・リサ(Cancer Res.)第49巻、3457頁、1989年)。この意味にお
いて、本研究の結果は、チログロブリンは甲状腺においてTGF−βに結合し、
このタイプのTGF−βの作用に拮抗しうることを示唆する。
実施例3
フェツインおよびTGF−β受容体タイプIまたはタイプIIアミノ酸配列を
比較してサイトカイン結合ドメインを同定した。フェツインおよびTβRII配
列を、まず、ンシステイン残基の位置によって併置した。ヘイチ・ワイ・リン(
H.Y.Lin)、エックス・−エフ・ワン(X.-F.Wnag)、イー・Ng−イートン(E.
Ng-Eaton)、アール・エイ・ワインバーグ(R.A.Weinberg)、エイチ・エフ・ロ
ディッシュ(H.F.Lodish)、セル第68巻、775頁(1992年)のごとく、
図8に示すTGF−βタイプI(Tsk 7L)受容体をTβRIIと併置した
。エブナー(Ebner)ら、サイエンス第260巻、1344〜1348頁、19
93年のごとく、図8に示すTGF−βタイプI(Tsk 7L)受容体をTβ
RIIと併置した。併置配列を目で見て調べることにより、TGF−β受容体I
I相同的1ドメイン(TRH1)と命名された43個のアミノ酸の相同的ドメイ
ンが明らかとなった(図8)。TRH1ドメインは、TβRII、ActRII
およびActRIIbに存在するが、タイプIの受容体には存在せず(リン(Li
n)ら、セル第68巻、775〜785頁、1992年;エブナー(Ebner)ら、
サイエンス第260巻、1344〜1348頁、1993年;アッチサノ(Atti
sano)ら、セル第75巻、671〜680頁、1993年;フランゼン(Franze
n)ら、セル第75巻、681〜692頁、1993年;バッシング(Bassing)
ら、サイエンス第263巻、87〜89頁、1994年)、タイ
プI受容体はタイプII受容体の不存在下ではサイトカインに結合しない(ウラ
ナ(Wrana)ら、セル第71巻、1003〜1014頁、1992年;ウラナら
、ネイチャー第370巻、341〜347頁、1994年)。ヒト・フェツイン
の分子内ジスルフィド結合が以前決定されている(ジェイ・ケラーマン(J.Kell
ermann)、エイチ・ハウプト(H.Haupt)、イー・−エイ・アウアースワル
ジャーナル・バイオロ・ケミ(J.Biol.Chem.)第264巻、14121頁(19
89年))。フェツイン中のTRH1ドメインはアミノ末端構造重複(structur
al duplication)におけるペプチドループを形成する。構造重複は、図7におい
て大きいほうの半円として示され、aおよびbと命名される(図7および8)。
図7に示すように、フェツイン中の各構造重複は2個のジスルフィドループを
含んでおり、それはTRH1ドメイン(位置114〜132)および不活性なル
ープ2(すなわち、位置230〜248)を含んでいる。TMおよびキナーゼは
、それぞれ、TβRIIのトランスメンブランドメインおよび蛋白キナーゼドメ
インを示す。2次構造を予測するためのチョウ−ファスマン(チョウ(Chou)お
よびファスマン(Fasman)、1978年)およびガルニエ(Garnier)、オスグ
テョペ(Osguthorpe)ならびにロブソン(Robson)(ガルニエら、1978年)
の方法により、図7の下部に示すように、フェツインおよびTβRIIのTRH
1ドメインについて同様な結果が得られた。
2次構造に関するアルゴリズムにより、フェツイン、TβRIIおよびタイプ
IIアクチビン受容体のTRH1ペプチドについてβ−シート−ターン−β−シ
ート配列が予測されるが、この構造は、フェツインのカルボキシ末端における類
似位置にあるループであるループ2(図7)については予測されなかった。前以
て形成された環化TRH1ペプチトの低紫外線CDスペクトルにより、予想アル
ゴリズムと矛盾しない58%β−シート、41%ランダムコイルが示される(図
13)。
フェツイン中のTRH1ドメインおよび隣接配列は、分子のカルボキシ側半分
に関して、種間において非常に保存されている(すなわち、ヒト・ウシ・ヒツジ
、ラット、マウス)(ジエギエレフスカ(Dzigielewska)ら、ジャーナル・バイ
オロ・ケミ(J.Biol.Chem.)第265巻、4354〜4357頁、1990年;
ラウス(Rauth)ら、ジャーナル・バイオケミ(J.Biochem.)第204巻)52
3〜529頁、1992年;ブラウン(Brown)ら、ヨーロ・ジャーナル・バイ
オケミ(Eur.J.Biochem.)、321〜331頁、1992年)(図6参照)。実
際に、ヒト・フェツイン(α2−HS糖蛋白)は、ウシ・フェツインと同様の親
和性でBMP−2に結合した。
TRH1ドメインを含む他の蛋白を探すためのPIR蛋白配列データバンクの
検索を、GCGルーチン「findpatterns」および下記パターンを用いて行った:
CX{8,14}(N,Q)X{12,16}CX{4,5}(K,R)X{2,6}
(S,T)X{4,9}CX{0,2}DX{5,6}(D,E)。該パターンは、
フェツイン、TβRII、daf−1、およびアクチビン受容体タイプII間の
保存アミノ酸配列に基づいていた。検索により46個のマッチ(match)が得ら
れ、それらの大部分は、受容体の細胞外ドメインまたは分泌糖蛋白であり、フェ
ツイン(n=5)、フェツインの遠いファミリーであるキノジェン(ジェイ・ケ
ラーマン(J.Kellermann)、エイチ・ハウプト(H.Haupt)、イー・−エイ・ア
ウアースワルド(E.-A.Auerswald)、ダブリュ・ミュラー−アステール(W.
14121頁(1989年))(n=5)、daf−1(n=1)、アクチビン
受容体タイプII(n=5)、ウシ・チログロブリン(エル・メルケン(L.Merc
ken)、エム・−ジェイ・シモンズ(M.-J.Simons)、エス・スィロンズ(S.Swil
lons)、エム・マサー(M.Massaer)、ジー・バサート(G.Vassart)、ネイチャ
ー第316巻、647頁(1985年))(n=1)、EGF受容体(n=2)
、LDL受容体(n=1)、IL−1受容体(n=1)およびショウジョウバエ
・crumbs(n=1)を包含していた。括弧内の数はマッチの数を示し、例
えば、フェツインは5つの種に由来する。
フェツインおよびTGF−βならびにアクチビンに対するタイプII受容体の
TRH1ドメインにおける保存残基を用いてPIR蛋白データバンクの低厳密性
検索も行った。GCGルーチン「findpatterns」および下記パターンを用いた:
CX{0,1}(V,I,F,Y)X{1,3}(V,W,L)X{0,1}(K,R)
X{4,5}(V,I,F)X{1,2}(L,I)X{2,4}CX{0,2}D。
検索により32個のマッチが得られ、そのうち25個が、種々の種由来のフェツ
イン(n=5)、TβRII(n=2)、およびタイプIIアクチビン受容体(
n=18)を表した。
TβRII、フェツインおよびチログロブリンのTRH1bサブドメイン間の
配列の類似性は衝撃的であり、63%から71%に及ぶ(図8)。それゆえ、実
施例1および2に説明したBIAcoreアッセイにおいて、BMPおよびTG
F−βへの結合に関してチログロブリンを試験した。
実施例4
TGF−βおよびアクチビンのタイプI受容体はTRH1b配列を欠き(図8
)、タイプII受容体不存在下ではリガンドに結合しない(アール・エブナー(
R.Ebner)、アール・エイチ・チェン(R.H.Chen)、エル・シャム(L.Shum)、
エス・ローラー(S.Lawler)、ティー・エフ・ジノチェク(Zinocheck)ら、サ
イエンス第260巻、1344頁(1993年);ジェイ・マッサーグら、セル
第75巻、671頁(1993年);ピー・フランゼン(P.Franzen)、ピー・
テンディーケ(P.tenDijke)、エイチ・イチジョー(H.Ichijo)、エイチ・ヤマ
シタ(H.Yamashita)、ピー・シュルツ(P.Schultz)ら、セル第75巻、681
頁(1993年);シー・エイチ・バッシング(C.H.Bassing)、ジェイ・エム
・イングリング(J.M.Yingling)、ディー・ジェイ・ハウ(D.J.Howe)、ティー
・ワン(T.Wang)、ダブリュ・ダブリュ・ヘ(W.W.He)ら、サイエンス第263
巻、87頁(1994年);およびジェイ・エル・ウラナ(J.L.Wrana)、エル
・アッチサノ(L.Attisano)、ジェイ・カルカモ(J.Carcamo)、エイ・ゼンテ
ラ(A.Zentella)、ジェイ・ドーディ(J.Doody)ら、セル第71巻、1003
頁(1992年))。これは、タイプII受容体のTRH1bサブドメインがサ
イ
トカイン結合に直接関与している可能性を示唆する。この可能性を試験するため
に、フェツインおよびTβ−RII双方由来のTRH1bペプチドを合成し、環
化TRH1bペプチドを調製した。TRH1bペプチドおよび環化ペプチドを、
TGF−β1およびBMP−2への結合について試験した。
まず、ペプチドをDTTで還元してダイマー、トリマー等を除去することによ
り環化TRH1bペプチドを調製し、次いで、25mM酢酸アンモニウム(pH
8.5)中60μMの最終濃度とした。30mMフェリシアニドカリウムととも
に暗所で20℃において30分撹拌後、ペプチドをAG3−X4A樹脂(BioRad
)と混合し、濾過した。凍結乾燥後、水で展開するBiogel P2(BioRad
)の50x2.5cmカラムで試料を脱塩した。イオンスプレー質量スペクトル
法により環化が確認され、多量体は検出されなかった。0.15M Tris(
pH8.0)、0.15M NaCl、2mM EDTA中のペプチドを、まず、
90倍過剰のDTT中で10分間煮沸し、次いで、45倍過剰のヨードアセトア
ミド(ピアス(Pierce))とともに暗所で撹拌しながらインキュベーションする
ことにより還元し、アルキル化した。試料をP2カラムで脱塩した。イオンスプ
レー質量スペクトル法によりペプチドの還元およびアルキル化が確認された。
図9は、6種の濃度(87、130、174、217、283および348μ
M)のジスルフィドループ形成したTRH1bフェツインペプチドの固定化BM
P−2(5300R.U. 固定化)への結合を示すセンサグラムオーバーレイプ
ロットである。図10は、同じ濃度の還元されアルキル化されたTHR1bペプ
チドの固定化BMP−2への結合の消失を示すセンサグラムプロットである。B
IAcoreシグナル測定質量として、低分子量のTRH1bペプチドは、シグ
ナルを観察するためには飽和付近の結合条件を用いる必要があった。飽和は約5
50R.U.であると決定された。環化TRH1bペプチドによるフェツイン−B
MP−2結合に対する競争が観察されたが、還元されアルキル化されたペプチド
によってはその程度がずっと小さかった(データ示さず)。TRH1bペプチド
はフェツインの1/20の質量であり、それゆえ、それに比例して結合分子あた
りのシグナルが小さいので、フェツインのみ注入した場合と比較して低濃度の
TRH1bがフェツインとともに注入された場合に、対応した減少が観察された
。しかしながら、これらの実験において行われた平衡でない条件で観察されたフ
ェツインおよびTRH1bペプチドのBIAcoreシグナルを定量的方法で分
離することは不可能であった。
結果は、フェツインTRH1bペプチドの分子内ジスルフィドループ形態は固
定化BMP−2に直接結合し、KD=3.2x106M(図9、表1)、KD=2.
4x106M(表2)であり、さらに用量依存的な様式でフェツイン−BMP−
2結合に関して競争したことを示す。しかしながら、このペプチドを還元しアル
キル化した場合にはBMP−2への有意な結合は観察されなかった(図9)。こ
のことは、還元されアルキル化されたフェツインは、ネイティブなフェツインと
比較して、BMP−2およびTGF−β1への結合を減じていたという観察結果
と矛盾しない(データ示さず)。このことは、ジスルフィドループ形成は、サイ
トカイン結合にとり好ましいTHR1ペプチド構造を安定化することを示唆する
。BMP−2へのジスルフィドループ形成TRH1bペプチド結合についてのオ
ン−レイト(on-rate)は、無傷のフェツインのそれと同様であるが、TRH1
bのオフ−レイト(Off-rate)は100倍も早い(表1および表2)。このこと
は、フェツインのTRH1bドメインはサイトカインの最初の認識およびおよび
結合に必要な主要ペプチドモチーフであることを示唆する。フェツイン蛋白の他
の部分は、TRH1bペプチドループの結合および/またはコンホーメーション
を安定化し、そのことにより、ペプチドと比較した場合フェツインのオフ−レイ
トを遅くする。
Tβ−RIIへのサイトカイン結合がTRH1b配列により媒介される場合、
受容体の知られたサイトカイン特異性(ジェイ・エル・ウラナ、エル・アッチサ
ノ、ジェイ・カルカモ、エイ・ゼンテラ、ジェイ・ドーディら、セル第71巻、
1003頁(1992年))により、TβRII由来のペプチト配列はBMP−
2に対するよりも高親和性をもってTGF−β1に結合するはずであると予測さ
れる。BIAcore結合データによりこの予測が確認された(実施例5および
表1、表2参照)。環化Tβ−RIIペプチドは、BMP−2に対するよりも高
親和性で(すなわち、それぞれ、KD=5.2x10-7Mおよび>10-5)TGF
−β1に結合し、フェツイン由来のTRH1bペプチドによって結合選択性の逆
転が示された(表1および表2)。このことは、TRH1b配列はリガンド結合
親和性を決定し、それゆえ、リガンド特異性を決定しうることを示す。
実施例5
フェツインおよびTβRII由来のループ化TRH1ペプチドを用いる、固定
化TβRIIへのTGF−β1結合に対する競争
TβRIIへのTGF−β1結合の阻害を、Quantikine ELIS
Aキット(R&Dシステムズ(R&D Systems))を用いて行った。詳細には、9
6ウェルのプレートをTβRIIの細胞外ドメインでプレコートした。TGF−
β1結合に対する競争を研究するために、キット添付の希釈剤にてサイトカイン
を最終濃度40pMとし、それのみ、またはアンタゴニストフェツイン(40μ
M)、TβRII由来のTRH1ペプチド(20μM)またはBSA(40μM
)とともに20℃で1.5時間シリコン処理したエッペンドルフチューブ中で振
盪しながらインキュベーションした。次いで、TβRII被覆したELISAウ
ェルで振盪しながら5分間インキュベーションし、推奨されたように洗浄し、さ
らに、ポリクローナル抗TGF−β1抗体とともに1時間インキュベーションし
た。プレートを説明書どおりに展開し、3系で測定を行った。図14は、TRH
1bペプチドおよびフェツインが、固定化組み換えTβRIIへのTGF−β1
の結合の競争的阻害剤として役立つことを示す。それゆえ、TRH1bは、Tβ
RII中の主要認識部位であると考えられ、タイプII受容体およびフェツイン
のTRH1bドメイン間の配列の相違は主としてサイトカイン特異性を決定して
いる可能性がある。
上記実施例に記載された実験は、Tβ−RII、フェツインおよびチログロブ
リンに共通したジスルフィドループを形成したモチーフを特定するものであり、
該モチーフはTGF−βスーパーファミリーの2つの異なるメンバーへの結合を
媒介する。TRH1モチーフは、アクチビンタイプII18およびdaf−1受容
体を包含するリガンド結合TβRIIファミリーのメンバーにおいて保存されて
いるが、TGF−β/アクチビンタイプI受容体には存在しない。後者は、タイ
プII受容体不存在下ではサイトカインに結合することができない。フェツイン
およびチログロブリンは、TGF−βに対するよりもBMP−2に対して有意に
高い親和性を有しており、TGF−βおよびTRH1配列の両方におけるバリエ
ーションは、結合親和性の変化によってリガンド−受容体/アンタゴニスト特異
性を決定することが示唆される。さらに、結果は、インビトロにおけるTGF−
βスーパーファミリーのアンタゴニストとしてのフェツインおよびチログロブリ
ンの今まで未知であった機能を示唆し、フェツインに帰属される広範な生物学的
性についての機構を説明しうるものである。
実施例6
この実施例に記載、図16および17に示される研究に用いる方法は以下のご
とし。大腿骨を無菌条件下で成体オスのウィスターラット(120g)から取り
、付着軟組織を除去し、抗生物質中で徹底的に洗浄した。遠位末端を除去し、骨
髄内容物を10mlの培地とともに洗い出す。20ゲージの注射針中を繰り返し
通すことにより細胞を分散させ、15%ウシ胎児血清、アスコルビン酸(50μ
g/ml)抗生物質(ペニシリンG 100μg/ml、ゲンタマイシン 50
μg/ml、フンジゾン 0.3μg/ml)および10mM β−グリセロリ
ン酸を補足したアルファーMEM中でインキュベーションした。さらに培地にデ
キサメタソンのみ(10-8M)、または種々の濃度のフェツインを補足した。空
気中5%CO2を含有する湿雰囲気下で37℃で6日培養後、細胞を1x102個
/mm2の密度で96ウェルプレート(ファルコン(Falcon)3047)に再プ
レーティングし、さらに12〜14日増殖させた。培養の終わりに、細胞を固定
し、骨小結節部位(無機質化部位として報告(mm2)/ウェル)の定量のため
にアリザリンレッドsでカルシウムに関して染色した。培養物中の無機質化組織
形成を評価するために、ライツ・Orthoplan顕微鏡を用い、Bioqu
ant IVシステム(バイオクアント(Bioquant)、米国、TN、
ナッシュビル)の助けを借りて生物形態計測的測定を行った。図12に記載する
インジケーター細胞系としてミンクの細胞を用いて、無機質化の評価の4日前に
取った培養上清中のTGF−βを、熱活性化(80℃10分)の有無につき測定
した。R&Dシステムズにより提供された中和性抗TGF−β抗体はTGF−β
1に特異的であり、TGF−β2およびβ3に対して100倍低い反応性を有し
ていた。
BMPに対するフェツインの高い親和性、ならびに発生中の骨におけるフェツ
インのBMPとの共局在化(ローゼンおよびシース、トレンズ・ジェネテイ(Tr
ends Genet.)第8巻、97〜102頁、1992年;ウォィズニーら、サイエ
ンス第242巻、1528〜1534頁、1988年)により、フェツイン−サ
イトカイン相互作用は骨細胞分化において役割を果たしている可能性がある。こ
の可能性を調べるために、ラット骨髄基質細胞をデキサメタソン存在下で培養し
た(デキサメタソンは、培養3週間後にはカルシウム含有マトリックスの沈着を
伴う骨形成分化を誘導する)(図15ないし18)。培養初期段階での外来性T
GF−βの添加は細胞増殖を阻害する(オールスラーら、エンドクリノロジー第
133巻、2187〜2196頁、1993年)が、骨形成分化の後期フェーズ
においては、該サイトカインはマトリックスの沈着に必要である(ブラセリアー
(Vlasselaer)ら、ジャーナル・セル・バイオロ(J.Cell Biol.)第4巻、56
9〜577頁、1994年)。増殖フェースである培養第1週目におけるフェツ
インの添加は細胞数の増加を刺激し、TGF−βアンタゴニストとしてのその役
割と矛盾しなかった(図15)。培養の最後の2週間に添加した場合、フェツイ
ンは、TGF−βアンタゴニストとして期待されたとおり、カルシウム含有マト
リックスの沈着を阻害した(図16)。カルシウム沈着の阻害に関するIC50は
約10-5Mであり、フェツイン−TGF−β結合についてのKDのBIAcor
e測定値よりの5倍高濃度であった。フェツインは培地の15%FCSとともに
存在しており、2〜3x105の濃度であるため、これによりフェツイン濃度の
30〜50%の増加が示されただけである。デキサメタソンは、潜在的なサイト
カインの活性化を誘導することによってラット・骨髄培養物中のTGF−
βレベルを上昇させた(図17)。全サイトカインレベルが同様であるにもかか
わらず、デキサメタソン処理培養物において活性TGF−βのフラクションは3
倍に増加した。図18のデータは、中和的抗TGF−β抗体は、それのみ、また
はフェツインと混合された場合に、デキサメタソン処理骨髄培養物におけるカル
シウム含有マトリックスの沈着を完全にブロックすることを示す。このことは、
分化の最終段階の完結にはTGF−βが必要であることを確認するが、他のTG
F−βファミリーのメンバーの関与を排除するものではない。骨髄細胞の増殖は
培養の最初の1週間においてフェツインによって刺激されるので、カルシウム含
有マトリックスの沈着に対するフェツインの抑制的効果は細胞毒性によるもので
ある可能性はない(図16)。BMP−2もこれらの培養において骨形成を誘導
し、それはフェツインの添加によりブロックすることができた(データ示さず)
。
要約すると、上記実験は、TβRIIおよびフェツインに存在するジスルフィ
ドループモチーフを画定するものであり、該モチーフはTGF−βスーパーファ
ミリーの多数のメンバーへの結合を媒介する。さらに、TRH1モチーフがアク
チビンタイプII受容体において見いだされているが(マシューズ(Mathews)
およびベイル(Vale)、1991年)、タイプIサイトカイン受容体には存在し
ない(エブナーら、1993年;アッチサノら、1993年;フランゼンら、1
993年;ブラナら、1992年)。また、結果は、これまで知られていなかっ
たインビボにおけるTGF−βスーパーファミリーのアンタゴニストとしてのフ
ェツインに関する機能を示し、以前フェツインに帰属されていた種々の生物学的
活性(ニー(Nie)、アメ・ジャーナル・メディ(Am.J.Med.)、1994年)に
ついての機構を説明しうるものである。最も注目すべきことには、フェツインは
循環系を経て骨に蓄積し(ディクソン(Dickson)ら、ネイチャー第256巻、
430〜432頁、1975年;トリフィット(Triffitt)ら、ネイチャー第2
62巻、226〜227頁、1976年)、骨の成長部位において最高濃度であ
り、そこではBMP(ウォズニー(Wozney)ら、サイエンス第242巻、152
8〜1534頁、1988年;ローゼン(Rosen)およびシース(Thies)、
1992年)およびTGF−β(マッサーグ、1990年)の骨促進活性を調節
している可能性がある。無秩序かつ厚い骨を伴って骨ターンオーバーが増加する
病気であるパジェット病(Paget's disease)においては、血清フェツインレベ
ルが抑制され、一方、フェツインは骨形態形成不全患者の一部において上昇する
。結局、TRH1bペプチドに基づいてサイトカインアンタゴニストは癌患者に
おける免疫抑制の治療および上昇したサイトカイン活性が役割を果たしているこ
と(ボーダー(Border)およびルオスラーティ(Ruoslahti)、ジャーナル・ク
リニ・インベスティ(J.Clin.Invest.)第90巻、1〜7頁、1992年)が知
られている糸球体腎炎(ボーダー(Border)ら、ネイチャー第360巻、361
〜364頁、1992年)ならびにアテローム性動脈硬化症(ロス(Ross)ら、
ネイチャー第362巻、801〜809頁、1993年)のごとき線維症(マッ
サーグ、1990年)の治療において有用であるだろう。
本発明は、特別な好ましい具体例について詳述されたが、本発明の精神および
範囲から離れずに変更を行うことができることを当業者は理解するであろう。
本明細書に引用されたすべての刊行物、特許および特許公報を、参照により各
刊行物、特許または特許公報が個々に示され参照によりその全体を取り込まれる
のと同程度に、参照によりそれらの全体を本明細書に取り込む。
添付した配列表は本発明開示の一部を形成する。
フェツイン、チログロブリンおよびTRH1bペプチドの、TGF−βおよびB
MPとの結合定数。BIA−evaluationソフトウェア(ファルマシア
・バイオセンサー)を用いてデータを分析した。まず、応答に対する経時的応答
の変化(すなわち、Rに対してdR/dT)をプロットすることにより結合速度
定数kassを計算した。このグラフの直線の傾きを分析物濃度に対してプロット
した場合(すなわち、Cに対してd(dR/dT)/dR)、直線の傾きからkas s
が得られる。分析物の注入を止めた後、経時的応答が減少している間に解離速
度定数kdissを得る。詳細には、時間に対するln(Rt1/Rt0)のプロットにお
ける直線の傾きからkdissを得た。KD=kdiss/kassから親和性定数を計算し
た。kassの変動は直線的回帰プロットの標準偏差であり、kdiss値の変動につ
いては、平均値±3回またはそれ以上の独立した注入の範囲である。表1および
1の括弧内の数はBMP−2に対するサイトカインの相同性のパーセント値を示
す。
BIAcoreおよびBIA−evaluationソフトウェア(ファルマシ
ア・バイセンサー)を用いて測定された、フェツインおよびTRH1ペプチドの
TGF−βおよびBMPとの相互作用に関する結合定数。経時的変化を各分析物
濃度に対してプロットし(すなわち、Rに対してdR/dT)、次いで、これら
の直線の傾きを分析物濃度の関数としてプロットした(すなわち、Cに対してd
(dR/dT)/dR)。ここに傾きはkassを生じる。分析物注入を中止した後
、時間に対するln(Rt1/Rt0)の傾きとして解離速度定数kdissが得られる。
KDはkdiss/kassである。kassの変動は直線的回帰プロットの標準偏差で
あり、kdiss値の変動については、平均値±3回またはそれ以上の独立した注入
の範囲である。フェツイン−TGF−β1結合については定常状態が観察され、
スキャッチャードプロット(Scatchered plot)によるこれらのデータの分析に
より同様のKD値4.6x10-6Mが得られた。括弧内の数はBMP−2に対する
サイトカインの相同性のパーセント値を示す。方法 TGF−βおよびBMPを
CM5バイオセンサーチップのカルボキシメチル化デキストラン表面に固定化し
た。1000R.U.は約1ng/mm2に等しい。使用バッファーは20mM
Hepes(pH7.2)、150mM NaClであり、すべてのセンサグラ
ムにつき流速は3μl/分であった。ウシ胎児フェツイン(ミズーリ州のシグマ
製)および成人フェツイン/α2−HS糖蛋白(カリフォルニア州のカルバイオ
ケム(Calbiochem)製)は、製造者により異なるプロトコールを用いて精製され
ていた。10μlの20mM NaOHを注入することにより結合分析物を除去
するための表面の再生を行った。TRH1ペプチドを環化するために、5mM
DTTで材料を還元し、次いで、25mM酢酸アンモニウム(pH8.5)中6
0μMの最終濃度とした。30mMフェリシアニドカリウムとともに暗所で20
℃、30分撹拌した後、ペプチドをAG3−X4A樹脂(BioRad)と混合し、濾
過し、凍結乾燥し、水で展開するバイオゲルP2(ファルマシア)の50x 2
.5cmカラムで脱塩し、さらに逆相HPLCにより精製した。イオンスプレー
質量スペクトル法により環化およびペプチド架橋不存在を確認した。
─────────────────────────────────────────────────────
フロントページの続き
(51)Int.Cl.6 識別記号 庁内整理番号 FI
A61K 38/00 ACD A61K 37/02 ADS
ACS ACV
ACV ADP
ADP ABA
ADS AAB
ADU ADV
ADV ABL
38/22 ABE ADU
G01N 33/566 ABX
(81)指定国 EP(AT,BE,CH,DE,
DK,ES,FR,GB,GR,IE,IT,LU,M
C,NL,PT,SE),OA(BF,BJ,CF,CG
,CI,CM,GA,GN,ML,MR,NE,SN,
TD,TG),AP(KE,MW,SD,SZ,UG),
AM,AT,AU,BB,BG,BR,BY,CA,C
H,CN,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,GB
,GE,HU,IS,JP,KE,KG,KP,KR,
KZ,LK,LR,LT,LU,LV,MD,MG,M
N,MW,MX,NO,NZ,PL,PT,RO,RU
,SD,SE,SG,SI,SK,TJ,TM,TT,
UA,UG,US,UZ,VN
(72)発明者 デメトリオウ,マイケル
カナダ、エム4ワイ・1アール5、オンタ
リオ、トロント、チャールズ・ストリー
ト・ウエスト 30番 アパートメント315