JPH09202953A - Fe−Al−Si合金層を形成した熱器具用鋼材およびその製造方法 - Google Patents

Fe−Al−Si合金層を形成した熱器具用鋼材およびその製造方法

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JPH09202953A
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 溶融Alめっき鋼板をベースとして、高温で
塩分が付着するような部位に使用しても十分に耐えるだ
けの耐熱性・耐食性を有し、かつ家庭用熱器具や厨房機
器の用途に好適な意匠性をも具備した熱器具用鋼材を安
価に提供する。 【解決手段】 Siを7〜17mass%含有する溶融
Alめっき浴で製造したAlめっき鋼板またはこのAl
めっき鋼板を成形加工した鋼材を、図4の斜線部分で示
す特定の温度および時間で加熱処理することにより、鋼
材の表面に、Al濃度が35〜65mass%,Si濃
度が5〜15mass%,厚さが10〜40μm,最表
面の平均粗さRaが2〜7μmであるFe−Al−Si
合金層を形成させる。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、溶融Alめっき鋼
板または溶融Alめっき鋼板を成形加工した鋼材を加熱
処理して、表面にFe−Al−Si合金層を形成した意
匠性,耐熱性,耐食性に優れる熱器具用鋼材に関するも
のである。
【0002】
【従来の技術】従来から、厨房機器,ストーブ等の熱器
具用途には、冷延鋼板にホーロー掛けした材料(以下、
冷延ホーロー材と称す),SUS430等のステンレス
鋼板,溶融Alめっき鋼板等が使用されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかし、冷延ホーロー
材は、冷延鋼板を成形加工し、脱脂した後、ホーロー釉
薬を塗布し、乾燥後、焼成炉で焼成するという工程を経
て製造されており、製造工程が多いため製造コストが高
くなるという欠点を有する。また、ステンレス鋼板は成
形加工のみで製造でき、冷延ホーロー材よりも製造工程
は少ないが、鋼自体が高価であり、耐食性に関しても高
温で塩分が付着するような部位に対しては不十分である
場合がある。また、溶融Alめっき鋼板は比較的安価で
あるが、高温で塩分が付着するような環境では耐食性に
劣るため、家庭用熱器具ではストーブの熱反射板等の限
られた用途にしか適用できなかった。
【0004】そこで、本発明は、比較的安価な溶融Al
めっき鋼板をベースとして、高温で塩分が付着するよう
な部位に使用しても十分に耐えるだけの耐熱性・耐食性
を有し、かつ家庭用熱器具や厨房機器の用途に好適な意
匠性をも具備した熱器具用鋼材を安価に提供することを
目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】上記目的は、鋼材の表面
に、Al濃度が35〜65mass%,Si濃度が5〜
15mass%,厚さが10〜40μm,最表面の平均
粗さRaが2〜7μmであるFe−Al−Si合金層を
形成した、意匠性,耐熱性,耐食性に優れる熱器具用鋼
材により達成される。また、この熱器具用鋼材は、Si
を7〜17mass%含有する溶融Alめっき浴で製造
したAlめっき鋼板またはこのAlめっき鋼板を成形加
工した鋼材を、昇温速度5〜200℃/secで昇温し
て、図4の斜線部分で表される範囲の温度および時間で
加熱処理することにより、安定して製造することができ
る。
【0006】ここで、平均粗さRaとは、JIS−B−
0601に規定される中心線平均粗さ(Ra)を意味す
る。また、図4の斜線部分で表される範囲の温度および
時間とは、加熱処理温度T(℃)と加熱処理時間t(m
in)の間に成立する下記5つの関係式を同時に満たす
範囲の温度および時間を意味する。 (a) T≦850 (b) T≧700 (c) t≧30−0.04T (d) t≦246.7−0.266T (e) t≧0 (t=0のときは、目標温度に到達
後、直ちに冷却することを意味する) また、熱器具用とは、熱源の発する熱で最高温度が概ね
400〜600℃の温度になる部材に使用される用途を
意味し、具体的には、ガステーブルグリルのバーナー,
ケーシング等の用途が挙げられる。また、成形加工と
は、鋼板を熱器具部材として適用できる形状にするため
の加工を意味し、具体的には打ち抜き加工,曲げ加工,
プレス成形加工等が挙げられる。
【0007】
【発明の実施の形態】溶融Alめっき鋼板は、一般にゼ
ンジマー方式の溶融めっきラインで連続的に製造されて
おり、このときに使用するめっき浴には、通常、Alの
他にSiが9mass%前後添加されている。めっき浴
にSiを添加するのは、Alめっき時にAlめっき層と
鋼素地の界面に生成するFe−Al合金層の成長を抑制
し、加工時のAlめっき層の密着性や耐熱性を向上させ
るためである。
【0008】図1に、Siを添加したAlめっき浴でめ
っきを行った直後のAlめっき鋼板の断面組織を表す模
式図を示す。鋼素地(2)とAlめっき層(1)の界面
には、Fe−Al−Si合金層(3)が生成している。
Alめっき層(1)は溶融Alめっき浴の化学組成とほ
ぼ同様の組成を有し、表面はAlめっき特有の光沢を呈
する。Fe−Al−Si合金層(3)は、この段階では
主としてα−FeAlSi合金相等の金属間化合物相か
らなる。めっき直後のこのような断面組織構造では、高
温で塩分が付着するような環境で十分な耐食性を示さな
い。
【0009】この溶融Alめっき鋼板を特定条件下で加
熱処理すると、Fe−Al−Si合金層(3)が成長
し、やがてAlめっき層(1)は表面まで全部Fe−A
l−Si合金層(3)に変わる。図2に、加熱処理によ
り表面までFe−Al−Si合金層(3)が成長した鋼
材の断面組織を表す模式図を示す。このときFe−Al
−Si合金層(3)の表面は微細な凹凸形状となる。加
熱処理によりFe−Al−Si合金層(3)が成長する
過程では、Alめっき層と鋼素地との相互拡散により、
Fe−Al−Si三元系金属間化合物相であるα−Fe
AlSi相,β−FeAlSi相,γ−FeAlSi
相、およびFe−Al二元系金属間化合物相であるη相
(Fe2Al5),α2相(FeAl)が生成する。加熱
処理後に表層に形成されているFe−Al−Si合金層
はこれらの金属間化合物からなり、熱的に安定で、耐熱
性・耐食性に優れている。
【0010】このFe−Al−Si合金層の表面には、
その成長過程で生じた微細な凹凸が形成されているので
無光沢の黒色を呈し、家庭用熱器具を構成する素材とし
てふさわしい意匠性を有している。さらに、厨房機器に
使用した場合には、調理中に食材等から飛散した油分が
表面の微細な凹凸の中に入り、タール状に材料表面を覆
う。図3に、油分に覆われた鋼材の断面組織を表す模式
図を示す。油分(4)はFe−Al−Si合金層(3)
の凹凸の中に入って強固に付着し、「汚れ」に対するバ
リアー層となる。すなわち、水分や調味料等の汚れによ
るFe−Al−Si合金層(3)の腐食が抑制されると
ともに、油分(4)の上に付着した汚れは取れやすくな
る。このため、表面に凹凸を有するFe−Al−Si合
金層に覆われた鋼材は厨房機器用材料として特に好適で
ある。
【0011】本発明により鋼材表面に形成されるFe−
Al−Si合金層の組成は、Al:35〜65mass
%,Si:5〜15mass%,残部は実質的にFeか
らなる。Fe−Al−Si合金層中のAl濃度が35m
ass%未満になると、耐熱性および耐食性がともに低
下し、熱器具用材料としての特性が不十分である。逆に
Al濃度が65mass%を超える場合には合金化不足
で合金層表層にAlめっき層が残存しやすく、Alめっ
き層が残存する場合には耐食性が低下する。したがっ
て、Fe−Al−Si合金層のAl濃度は35〜65m
ass%に限定する。
【0012】Fe−Al−Si合金層中のSi濃度が5
mass%未満になると耐熱性・耐食性が低下するの
で、熱器具用材料としての特性が不十分である。逆にS
i濃度が15mass%を超えると耐熱衝撃性が低下
し、調理中に水分等が付着するとFe−Al−Si合金
層にクラックが発生しやすくなるので熱器具用材料とし
ての特性が不十分である。したがって、Fe−Al−S
i合金層のSi濃度は5〜15mass%に限定する。
【0013】鋼材表面に形成されるFe−Al−Si合
金層の厚さが10μm未満では、熱器具用材料として要
求される耐熱性・耐食性が不十分である。一方、Fe−
Al−Si合金層の厚さは厚いほど耐熱性・耐食性には
優れるが、反面、鋼材素地との密着性や合金層自体の加
工性が低下する。また、Fe−Al−Si合金層の厚み
を厚くするためには加熱処理前のAlめっき層を厚くし
なければならないが、その場合、めっき層表面まで合金
化するには加熱温度を高く、あるいは加熱時間を長くし
なければならず、製造コストが高くなる。さらに、加熱
処理前のAlめっき層が厚いと、めっき層の加工性・密
着性が低下し、クラックの発生やめっき層の剥離が生じ
やすい。これらの点を考慮すると、熱器具用材料として
は、Fe−Al−Si合金層の厚さは40μm以下に制
限する必要がある。以上の理由から、Fe−Al−Si
合金層の厚さは10〜40μmに限定する。
【0014】Fe−Al−Si合金層の最表面に形成さ
れる凹凸の平均粗さRaが2μm未満では、見かけ状の
光沢の度合いが増し、熱器具材料としての意匠性が損な
われる。また、厨房機器として使用したときの油分の付
着能が十分に発揮できない。一方、凹凸の平均粗さRa
が7μmを超える場合には、凹凸が大きくなりすぎて合
金層が局部的に薄くなり、この部分での耐熱性・耐食性
が低下する恐れがある。したがって、Fe−Al−Si
合金層の凹凸は、平均粗さRaが2〜7μmの範囲にな
るように限定する。
【0015】本発明のFe−Al−Si合金層に覆われ
た鋼材は、Siを含有するAlめっき浴で溶融Alめっ
きを施した鋼板またはこの溶融Alめっき鋼板を成形加
工して得た鋼材を、特定の条件下で加熱処理することに
よって得ることができる。溶融Alめっきは、ゼンジマ
ー方式等の通常の連続ラインで行うことができる。ただ
し、後の加熱処理によりAl濃度が35〜65mass
%,Si濃度が5〜15mass%,厚さが10〜40
μmのFe−Al−Si合金層を形成させるためには、
Alめっき浴中のSi濃度を7〜17mass%の範囲
に制御する必要がある。特に、めっき浴中のSi濃度が
7mass%未満になれば、溶融Alめっき時に生成す
る初期の合金層が厚くなり、めっき層の加工性・密着性
が劣化するので好ましくない。
【0016】次に、加熱処理条件の限定理由について説
明する。本発明では、図4の斜線部分で表される範囲、
すなわち、図4中の5つの直線(a)(b)(c)
(d)(e)に囲まれる範囲(境界を含む)の温度T
(℃)と時間t(min)で加熱処理を行う。
【0017】加熱温度が850℃を越えると合金化過多
でFe−Al−Si合金層中のAl濃度が低くなり、耐
熱性および耐食性が低下するので、熱器具用材料として
の特性が不十分となる。また高温の加熱は製造コストの
増大を招く。したがって、直線(a)を境界とするT≦
850の規定を設ける。
【0018】加熱温度が700℃未満ではめっき層表面
まで短時間で完全にFe−Al−Si合金層を成長させ
ることが困難な場合があり、完全を期すためには長時間
の加熱を要し、生産性が低下するとともに、製造コスト
が高くなる。したがって、直線(b)を境界とするT≧
700の規定を設ける。
【0019】加熱温度が700℃以上750℃未満の場
合は、加熱時間が図4の直線(c)の左下の範囲では合
金化不足となり、めっき層表面まで完全に合金化されず
にAlが残存する恐れがある。したがって、直線(c)
を境界とするt≧30−0.04Tの規定を設ける。
【0020】加熱時間が図4の直線(d)の右上の範囲
では合金化過多でFe−Al−Si合金層中のAl濃度
が低くなり、耐熱性および耐食性が低下するので、熱器
具用材料としての特性が不十分となる。また高温・長時
間の加熱は製造コストの増大を招く。したがって、直線
(d)を境界とするt≦246.7−0.266Tの規
定を設ける。
【0021】加熱温度が750℃以上850℃以下の場
合は、材料がこの加熱温度範囲に到達すれば即めっき層
表面まで合金化するため、加熱時間の下限を設ける必要
はない。したがって、図4においては形式的に直線
(e)で表されるt≧0(ここで、t=0のときは、目
標温度に到達後、直ちに冷却することを意味する)の規
定を設ける。
【0022】加熱処理の昇温速度が5℃/sec未満の
場合はトータルの処理時間が長くなり不経済である。ま
た、200℃/secを超える昇温速度を得ようとすれ
ば加熱炉の投入熱量が大きくなり、却って製造コストが
高くなる。したがって、実操業においては昇温速度は5
〜200℃/secとすることが好ましい。
【0023】本発明では、加熱処理時の雰囲気は特に限
定しないが、大気中が好適である。大気中の加熱処理に
より形成したFe−Al−Si合金層は、非酸化性雰囲
気等で形成したものに比べ、表面の色調および肌触りの
点で熱器具用材料としての意匠性に優れる。さらに、大
気中加熱処理では、非酸化性雰囲気や気密性を保つ加熱
炉が不要で、設備面・操業面でコストが低減できる。な
お、本発明では、溶融Alめっき鋼板またはこの溶融A
lめっき鋼板を成形加工して得た鋼材の加熱手段は、ラ
ジアントチューブ方式,電気抵抗加熱方式,高周波誘導
加熱方式等のいずれの方法を用いてもよい。
【0024】本発明では、めっき原板の鋼種に特に限定
はないが、極低炭素Ti添加鋼や特公平3−53379
号公報に開示されているような極低炭素Ti添加鋼にS
i,Mn,Cr,Nb,Moを添加して高温強度を高め
た冷延鋼板(以下、Ti−Cr添加鋼と称す)をめっき
原板に用いるのが好適である。これらの原板を用いた鋼
材では固溶Cが少ないため、使用中にFe−Al−Si
合金層からの鋼素地へのAl,Siの拡散が促進されて
鋼材の耐熱性・耐食性が向上する。また、Ti−Cr添
加鋼では、高温強度が大きく、さらにCrが添加されて
いることから、加工により鋼素地が露出してもその部分
の耐熱性・耐食性に優れている。
【0025】なお、本発明では、加熱処理は成形加工前
または成形加工後のいずれの段階で施してもよい。成形
加工が打ち抜き程度の軽度の加工であれば、Alめっき
後の鋼板を連続的に加熱処理したのち成形加工すれば製
造コストが低減できる。しかし、Fe−Al−Si合金
層は硬質で加工性に劣るため、プレス成形等の加工度の
大きい加工を要する部材を製造する場合は成形加工後に
加熱処理するのが好適である。
【0026】
【実施例】ゼンジマー方式の溶融めっきラインで製造し
た溶融Alめっき鋼板を本発明の条件範囲内と条件範囲
外で加熱処理し、促進試験により耐熱性、耐食性を調査
した。以下に、溶融Alめっき鋼板の製造条件,試験片
形状,加熱処理条件,合金層厚さの測定方法,合金層組
成の測定方法,耐熱性・耐食性の促進試験条件を示す。
【0027】〔溶融Alめっき鋼板の製造条件〕 めっき原板鋼種および寸法:板厚0.7mm、幅100
0mmのTi添加鋼の冷延コイル めっき原板の組成:C:0.005,Si:0.01,
Mn:0.21,sol.Al:0.025,Ti:
0.08mass% ガス還元・焼鈍条件:800℃×30sec,50vo
l.%H2−N2 Alめっき浴中のSi濃度:実施例:7〜17mass
%,比較例:5〜18mass% Alめっき層の厚さ:実施例:8〜35μm,比較例:
4〜45μm
【0028】〔試験片形状〕上記条件にて製造した溶融
Alめっき鋼板から、幅50mm,長さ100mmの平
板材を切り出した。この平板材と、この平板材の中央部
を半径5mmで90゜曲げた曲げ加工材の2種類を準備
した。
【0029】〔加熱処理条件〕 加熱炉:電気抵抗加熱炉 昇温速度:5℃/s 加熱温度:実施例:700〜850℃,比較例:650
〜900℃ 加熱時間:実施例:0(保持なし)〜60min,比較
例:0(保持なし)〜120min 雰囲気:大気中
【0030】〔合金層の厚さの測定方法〕耐熱性・耐食
性の促進試験用の試験片を採取した部分のごく近傍から
幅10mm,長さ20mmの試験片を切り出し、断面を
研磨後、走査型電子顕微鏡にて倍率5000倍でランダ
ムに10ヶ所合金層断面を写真撮影し、その写真から合
金層の断面積を測定し、断面積を合金層の長さで除して
平均合金層厚さを算出した。
【0031】〔合金層組成の測定方法〕耐熱性・耐食性
の促進試験用の試験片を採取した部分のごく近傍から直
径30mmの試験片を採取し、化学分析法にてAl,S
i,Fe濃度を測定した。
【0032】〔耐熱性・耐食性の促進試験条件〕 試験方法:電気炉内で試験片を600℃で4h加熱し、
加熱後、試験片を取り出して直ちに試験片の表面のみに
試験液を噴霧する。噴霧後、試験片を電気炉内に戻して
加熱する。以後、この操作を繰り返す。なお、曲げ加工
材では曲げ部の外側を促進試験した。 試験液組成:5mass%NaCl水溶液 試験片1枚当たりの噴霧量:2mL
【0033】以上の方法・条件で5日間試験した平板材
と曲げ加工材から断面観察用試料を切り出し、断面を研
磨して光学顕微鏡で1000倍の倍率で平坦部と曲部を
観察して腐食状況を観察した。その結果を表1および表
2に示す。
【0034】
【表1】
【0035】
【表2】
【0036】表1に示すように、本発明の条件範囲内で
加熱処理した実施例No.1〜18では、平坦部,曲げ
部ともに合金層表面が腐食され、赤錆が生成したが、腐
食は合金層表層部で止まっており、合金層および鋼素地
の著しい腐食および酸化は認められなかった。
【0037】これに対し、表2に示すように、本発明よ
りも合金層が薄く、また、加熱温度が高く、加熱時間が
長い比較例No.19〜23では、合金化過多で合金層
中のAl濃度が低くなり、平坦部、曲げ部ともに合金層
が著しく腐食および酸化され、局部的に鋼素地も腐食さ
れた。比較例No.24、25では、Al濃度は本発明
の範囲内であるが、Si濃度が本発明の範囲以下である
ため、Alめっき時にFe−Al−Si合金層が厚く生
成し、曲げ加工時にAlめっき層が剥離し鋼素地が露出
したため、曲げ部で鋼素地が著しく腐食および酸化され
た。また、No.26では、Alめっき層が厚いため、
曲げ加工時にAlめっき層にクラックが発生し、鋼素地
が露出したため、曲げ部で鋼素地が著しく腐食および酸
化された。また、本発明よりも加熱温度が低く、加熱時
間が短い比較例No.27〜29では、合金化不足でめ
っき層表層にAlが残存したため、平坦部、曲げ部とも
に鋼素地まで腐食および酸化された。
【0038】以上のように、本発明の条件範囲内で加熱
処理した実施例ではいずれも良好な耐食性・耐熱性を示
した。しかし、本発明の条件範囲外で加熱処理した比較
例では合金層および鋼素地が著しく腐食された。
【0039】
【発明の効果】従来、溶融Alめっき鋼板は高温で塩分
が付着するような部位には使用できなかったが、溶融A
lめっき鋼板をベースとして造られる本発明のFe−A
l−Si合金層を有する鋼材は、このような部位にも適
用できるようになり、耐熱性・耐食性に優れた熱器具用
鋼材が安価に提供できるようになった。また、本発明に
より形成されるFe−Al−Si合金層は、無光沢の黒
色を呈し、かつ、油分を固着させるに最適な表面粗度を
有しているので、家庭用熱器具や厨房機器にふさわしい
意匠性・機能性を備えている。したがって、本発明は、
溶融Alめっき鋼板の用途拡大を通じて溶融Alめっき
鋼板のさらなる普及に寄与し、工業的価値が大きいもの
である。
【図面の簡単な説明】
【図1】Siを添加したAlめっき浴でめっきを行った
直後のAlめっき鋼板の断面組織を表す模式図である。
【図2】加熱処理により表面までFe−Al−Si合金
層が成長した鋼材の断面組織を表す模式図である。
【図3】Fe−Al−Si合金層に油分が付着した鋼材
の断面組織を表す模式図である。
【図4】本発明の加熱処理温度と加熱処理時間の適正範
囲を表すグラフである。
【符号の説明】
1 Alめっき層 2 鋼素地 3 Fe−Al−Si合金層 4 油分
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 橘高 敏晴 大阪府堺市石津西町5番地 日新製鋼株式 会社技術研究所内

Claims (3)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】鋼材の表面に、Al濃度が35〜65ma
    ss%,Si濃度が5〜15mass%,厚さが10〜
    40μm,最表面の平均粗さRaが2〜7μmであるF
    e−Al−Si合金層を形成した、意匠性,耐熱性,耐
    食性に優れる熱器具用鋼材。
  2. 【請求項2】Siを7〜17mass%含有する溶融A
    lめっき浴で製造したAlめっき鋼板を、昇温速度5〜
    200℃/secで昇温して、図4の斜線部分で表され
    る範囲の温度および時間で加熱処理する請求項1に記載
    の熱器具用鋼材の製造方法。
  3. 【請求項3】Siを7〜17mass%含有する溶融A
    lめっき浴で製造したAlめっき鋼板を成形加工した鋼
    材を、昇温速度5〜200℃/secで昇温して、図4
    の斜線部分で表される範囲の温度および時間で加熱処理
    する請求項1に記載の熱器具用鋼材の製造方法。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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