JPH09184035A - ニッケル基超合金の製造方法および高温耐食性と高温強度に優れたニッケル基超合金 - Google Patents

ニッケル基超合金の製造方法および高温耐食性と高温強度に優れたニッケル基超合金

Info

Publication number
JPH09184035A
JPH09184035A JP34206495A JP34206495A JPH09184035A JP H09184035 A JPH09184035 A JP H09184035A JP 34206495 A JP34206495 A JP 34206495A JP 34206495 A JP34206495 A JP 34206495A JP H09184035 A JPH09184035 A JP H09184035A
Authority
JP
Japan
Prior art keywords
nickel
alloy
value
average
phase
Prior art date
Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
Pending
Application number
JP34206495A
Other languages
English (en)
Inventor
Masahiko Morinaga
正彦 森永
Suminori Murata
純教 村田
Ryokichi Hashizume
良吉 橋詰
Current Assignee (The listed assignees may be inaccurate. Google has not performed a legal analysis and makes no representation or warranty as to the accuracy of the list.)
Kansai Electric Power Co Inc
Original Assignee
Kansai Electric Power Co Inc
Priority date (The priority date is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the date listed.)
Filing date
Publication date
Application filed by Kansai Electric Power Co Inc filed Critical Kansai Electric Power Co Inc
Priority to JP34206495A priority Critical patent/JPH09184035A/ja
Publication of JPH09184035A publication Critical patent/JPH09184035A/ja
Pending legal-status Critical Current

Links

Landscapes

  • Crystals, And After-Treatments Of Crystals (AREA)

Abstract

(57)【要約】 【課題】理論的な手法で効率的にニッケル基超合金、特
に高温耐食性と高温強度に優れたNi基超合金の設計を行
い実用合金を提供すること。 【解決手段】ニッケル基合金中における各種合金元素に
ついて、d電子軌道エネルギーレベル(Md)およびニ
ッケル(Ni)との結合次数(Bo)をDV−Xαクラスタ
ー法によって求め、下記(1) 式で表される平均Bo値が
0.66〜0.72の範囲、下記(2) 式で表される平均Md値が
0.96〜1.00の範囲(図のメッシュの範囲)となるように
化学組成を決定することを特徴とする高温強度に優れた
ニッケル基超合金の製造方法。 平均Bo値=ΣXi ・(Bo)i ・・・・(1) 平均Md値=ΣXi ・(Md)i ・・・・(2) ただし、Xi は合金元素iのモル分率、(Bo)i およ
び(Md)i はそれぞれi元素のBo値およびMd値で
ある。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明が属する技術分野】本発明は、高温強度に優れた
Ni基超合金の製造方法、およびその方法によって製造す
ることができる高温強度とともに高温耐食性にも優れた
ニッケル基超合金に関する。本発明のニッケル基超合金
は、発電用タービンの各種部品、自動車用過給気用部品
等の高温において強度と耐食性を必要とする多くに部品
の材料として使用できるものである。特に、このニッケ
ル基超合金の中でも単結晶合金または一方向凝固法で製
造する柱状晶の合金は、高い靱性と高温強度を持つので
タービン動翼材料として好適である。
【0002】
【従来の技術】高温強度に優れたニッケル基超合金の用
途はきわめて広汎であるが、中でも発電用ガスタービン
動翼用の材料はその代表的なものである。以下、これを
例にして従来のニッケル基超合金について説明する。
【0003】発電用ガスタービン動翼用材料として、こ
れまでに開発されたニッケル基超合金は、Crをはじめと
して、Co、Al、Ti、Ta、Nb、W、Mo、C(炭素)、B
(ボロン)、Zr(ジルコニウム)Hf(ハフニウム)等の
合金成分を組み合わせて含有させたものである。なお、
この明細書では、特に断らない限り合金元素の含有量に
関する%は原子%(mol%) を意味する。
【0004】強化相であるγ’相(Ni3Al型 L12規則相)
の体積率が 30 %程度までのニッケル基超合金は、これ
まで、溶製後、鍛造などの加工工程を経て造られてい
た。しかしながら、合金性能を向上させるために、年々
γ’相の体積率を増加させる傾向にあり、最近ではその
体積率が 65 %以上にも及ぶ合金が製造されている。こ
のようにγ’相の体積率の大きいニッケル基超合金は、
精密鋳造によって最終製品に近い形状に造られる。通常
の精密鋳造法で造られた等軸晶からなる多結晶材を一般
に普通鋳造材 (CC材) と呼ぶ。
【0005】一方、高温、高応力下で用いられるタービ
ン動翼材では、高温での破壊の起点となる結晶粒界を少
なくするように工夫され、まず、応力方向に垂直な方向
の結晶粒界を無くした柱状晶超合金が一方向凝固法によ
って製造された。この合金の柱状晶方向は<100>方
向で、通常、一方向凝固材(DS材)と呼ばれる。
【0006】さらに、すべての結晶粒界を無くして、動
翼1枚を単結晶で造った単結晶超合金も造られるように
なってきている。この単結晶材は、通常、SC材と呼ば
れ、遠心力のかかる応力方向が結晶の<100>方向に
なっている。
【0007】上述のニッケル基合金の中で、最後に述べ
た単結晶材(SC材)は合金成分としてのC、B、Zrお
よびHfを通常は含有しない。これらの元素は、結晶粒界
強化元素として知られているものであり、単結晶合金に
は不要だからである。しかし、多結晶材や一方向凝固材
(柱状晶材)では結晶粒界強化のために、上記4元素の
中の1種以上を添加することがある。ただし、これらの
元素は凝固の最終過程でしばしば結晶粒界近傍に低融点
の相を形成するので、添加する場合も微量である。な
お、単結晶材でも、近年、動翼にセラミックスコーティ
ングを施す場合、その密着性を上げるために極くわずか
のHfを添加する例も見られる。
【0008】表1は、発電用ガスタービン動翼用の主な
ニッケル基耐熱合金の組成を示すものである(「High T
emperature Materials for Power Engineering 1990 」
PartII (1990) 1261〜1270頁…文献1、および日本学術
振興会耐熱金属材料第123 委員会研究報告、第34巻、2
号(1993) 223〜228 …文献2、参照) 。このなかでIN73
8LC は普通鋳造多結晶合金であり、SC-16 、PWA1484 お
よび CMSX-4Gは単結晶合金である。そのほか、DSと付記
された合金は一方向凝固柱状晶合金である。なお、表2
に表1の合金について後述する方法で算出した平均Md
値、平均Bo値、その他(密度等)を示す。
【0009】
【表1】
【0010】
【表2】
【0011】上記のような既存の合金は、添加する合金
元素の種類とそれらの添加量を様々に変化させた膨大な
実験による試行錯誤的手法で開発されてきた。そのよう
な実験によってこれまでに知られた各合金元素の作用効
果は概ね下記のようにまとめることができる。
【0012】Cr:高温耐食性の向上に有効な元素であ
り、その効果が顕著に現れるのは7原子%からである。
そして、Cr含有量の増加に従ってその効果は大きくなる
が、逆に高温強度を劣化させる。また、含有量が多くな
ると固溶強化元素の固溶限を下げるとともに、脆化相で
ある TCP相 (Topologically Closed Packed 相、σ相な
どの最密構造の原子団により構成される脆い相) が析出
して高温強度を害する。
【0013】Al:析出強化相であるγ’相(Ni3Al) の主
要構成元素であり、高温の耐酸化性に有効な元素であ
る。その添加量によってγ' 相の体積率が大きく変化す
る。
【0014】Ti:主に、γ' 相に Ni3(Al,Ti) の形で固
溶し、γ' 相の体積率に影響を及ぼす。
【0015】また、高温耐食性に有効な元素であるとも
言われている。
【0016】Ta、Nb:Tiと同様に、主にγ' 相に{Ni3
Al,Ta(Nb) }の形で固溶し、γ’相の固溶強化元素とし
て添加されている。γ’相の体積率に影響し、過剰に添
加すると脆化相の一つである共晶γ’相が生成しやすく
なる。
【0017】W、Mo:合金母相であるγ相(Ni固溶体)
に多く固溶し、γ相の固溶強化元素として添加されてい
る。高温耐食性には有害な元素であるが、高温強度の向
上のためには有効な元素である。また、過剰に添加する
と脆化相である TCP相が生成しやすくなる。
【0018】Co:Niと全律固溶する元素で、超合金中で
はNiと完全に置換する。中温度域(500〜800 ℃) での微
細析出γ’相の体積率を増加させるとともに、粗大なM
236 型炭化物の形成を抑制すると言われている。ま
た、高温耐食性の向上に有益であるとされているが、こ
れらの効果については不明確な点も残る。本発明者らの
研究では耐食性に対するCoの効果は認められなかった。
Coは、資源が偏在し、供給不安定な元素であり、きわめ
て戦略的に扱われる元素でもある。従って、実用合金で
はできるだけその使用を避けたい元素である。
【0019】C、B、Zr:これらの元素は、従来の普通
鋳造用多結晶合金および一方向凝固柱状晶合金において
粒界強化元素として用いられた元素である。しかし、単
結晶合金では、これら粒界強化元素は必要なく、むしろ
有害元素となるため添加されない。
【0020】Hf:γ相よりもγ’相に入りやすくγ’相
を強化すると言われているが、その量はTi、Ta、Nbに較
べて極めて少ない。また、Hfは強炭化物形成元素であ
り、粒界にMC型炭化物を形成するとともに、粒界に形
成される共晶γ’相の形状を変化させ、高温における粒
界辷りを阻止する効果があるとされている。更に、Hfは
一方向柱状晶合金の精密鋳造時の粒界割れを防止する元
素でもあるが、粒界のない単結晶では、熱遮蔽のための
セラミックスコーティングと金属地相との密着性の向上
のため以外には通常添加しない。
【0021】上記のように、従来の合金開発の方法によ
って、各合金元素の効果はある程度明らかにされてき
た。しかし、さらに改良された性質を持つ新たな合金を
開発するためには、さらに膨大な実験が必要となる。例
えば5種の合金元素からなる合金の各元素の含有量を、
それぞれ3種類ずつ変えて調べるとすれば、単純に計算
して35、即ち、243 種類もの合金を溶製し、それぞれか
ら各種の試験片を作製して実験を繰り返すことが必要と
なる。表1に示すように、最近のニッケル基合金は10種
類に余る合金元素からなり、この種の新規な合金を従来
の手法で開発するとすれば多大な労力、時間および費用
を必要とする。
【0022】本発明者らは、先に分子軌道理論に基づく
新しい金属材料の設計方法を開発した。その方法の概要
は、「日本金属学会報」第31巻、第7号(1992) 599〜60
3 頁(文献3)および「アルトピア」1991,9,23 〜31頁
(文献4)に開示している。
【0023】また、その方法を用いて種々の合金の設計
指針を得る方法について特許出願を行った〔特許第1831
647 号(特公平5-40806 号公報)および米国特許第4,82
4,637号明細書、参照〕。しかし、これらの文献および
特許明細書等に開示されているのは、分子軌道理論に基
づいて合金設計の指標を得ることを特徴とする発明であ
って、特定の化学組成および結晶構造を持つ具体的な実
用合金またはその製造方法の発明ではない。
【0024】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、前記の分子
軌道理論に基づく合金設計手法を高温耐食性と高温強度
に優れたニッケル基超合金の開発に適用し、従来の合金
を凌ぐ優れた特性のニッケル基超合金を開発することを
課題としてなされたものである。
【0025】本発明の第1の目的は、前述のような試行
錯誤を繰り返す古典的な手法によらず、目標性能を備え
たニッケル基超合金を効率的に設計する方法を提供する
ことにある。
【0026】本発明の第2の目的は、高温耐食性と高温
強度に優れたニッケル基超合金を提供することにある。
【0027】本発明の第3の目的は、例えば発電用ガス
タービンの動翼用として十分な性能を持つニッケル基単
結晶超合金またはニッケル基一方向凝固柱状晶超合金を
提供することにある。
【0028】
【課題を解決するための手段】本発明は下記(1) のニッ
ケル基超合金の製造方法、および下記 (2)〜(4) の高温
耐食性と高温強度に優れたニッケル基超合金をその要旨
とする。
【0029】(1) ニッケル基合金中における各種合金元
素について、d 電子軌道エネルギーレベル(Md)およ
びニッケル(Ni)との結合次数(Bo)をDV−Xαクラ
スター法によって求め、下記(1) 式で表される平均Bo
値が0.66〜0.72の範囲、下記(2) 式で表される平均Md
値が0.96〜1.00の範囲となるように化学組成を決定する
ことを特徴とするニッケル基合金の製造方法。
【0030】 平均Bo値=ΣXi ・(Bo)i ・・・・(1) 平均Md値=ΣXi ・(Md)i ・・・・(2) ただし、Xi は合金元素iのモル分率、(Bo)i およ
び(Md)i はそれぞれi元素のBo値およびMd値で
ある。
【0031】(2) 下記のからまでのすべての要件を
満たす化学組成を有することを特徴とする高温耐食性と
高温強度に優れたニッケル基超合金。
【0032】合金中における各種合金元素について、
d 電子軌道エネルギーレベル(Md)およびニッケル(N
i)との結合次数(Bo)をDV−Xαクラスター法によ
って求めたとき、下記(1) 式で表される平均Bo値が0.
66〜0.72の範囲、下記(2) 式で表されると平均Md値が
0.96〜1.00の範囲であること。 平均Bo値=ΣXi ・(Bo)i ・・・・(1) 平均Md値=ΣXi ・(Md)i ・・・・(2) ただし、Xi は合金元素iのモル分率、(Bo)i およ
び(Md)i はそれぞれi元素のBo値およびMd値で
ある。
【0033】合金成分であるCrとReの合計含有量が 1
2 原子%以上であること。
【0034】合金成分であるAl、Ti、TaおよびNbの含
有量の合計(Al+Ti+Ta)が 9.0原子%以上であるこ
と。
【0035】合金成分であるW、MoおよびReの含有量
の合計(W+Mo+Re)が 2.0〜3.5原子%であること。
【0036】合金成分であるTi、TaおよびNbの含有量
の合計とAlの含有量との原子%比、即ち、「(Ti+Ta+
Nb)/Al」が 0.35 以下であること。
【0037】MoとWの含有量の原子%比(Mo/W)が
0.5〜2.0 であること。
【0038】この(2) の合金は、等軸晶からなる多結晶
材(普通鋳造材)でもよいが、単結晶合金または一方向
凝固した柱状晶合金であることが望ましい。
【0039】(3) 原子%で、 クロム(Cr): 12.0〜20.0%、 アルミニウム(Al): 7.0〜15.0% チタン(Ti): 0 〜 5.0%、 タンタル(Ta): 0.1〜5.0 % ニオブ(Nb): 0 〜 3.0%、 タングステン(W) : 0.4〜4.0 % モリブデン(Mo): 0 〜 4.0%、 ハフニウム (Hf) : 0 〜1.0 % レニウム(Re): 0 〜 4.0%、 ニッケルおよび不可避不純物: 残部 から成り、かつ、前記からまでの要件を全て満たす
ことを特徴とする高温耐食性と高温強度に優れたニッケ
ル基単結晶超合金。
【0040】(4) 原子%で、 クロム(Cr): 12.0〜20.0%、 アルミニウム(Al): 7.0〜15.0% チタン(Ti): 0 〜 5.0%、 タンタル(Ta): 0.1〜5.0 % ニオブ(Nb): 0 〜 3.0%、 タングステン(W): 0.4〜4.0 % モリブデン(Mo): 0 〜 4.0%、 レニウム(Re): 0 〜4.0 % を含有し、さらに、 炭素(C): 0.10〜1.00%、 ボロン(B): 0.025〜0.100 % ハフニウム(Hf) : 0.01〜1.00%、 ジルコニウム(Zr):0.005〜0.050 % の4元素の中の少なくとも1種を含有し、残部がニッケ
ルおよび不可避不純物から成り、かつ、前記からま
での要件を全て満たすことを特徴とする高温耐食性と高
温強度に優れたニッケル基一方向凝固柱状晶超合金。
【0041】なお、前記(2) から(4) までの合金は、タ
ービン動翼用とする場合には、その密度が 9.0g/cm3
下であることが望ましい。
【0042】
【発明の実施の形態】
I.高強度ニッケル基超合金の製造方法について 本発明方法の最大の特徴は、分子軌道法の一つであるD
V−Xαクラスター法を用いて面心立方晶(以下、fcc
と記す)のニッケル基合金中の各種元素の合金パラメー
タを導出し、その合金パラメータにより、合金元素の特
徴を解明して、所望の特性を持つニッケル基超合金にふ
さわしい合金元素およびその含有量の選定を行うことに
ある。また、上記の合金パラメータを用いれば、ニッケ
ル基超合金の相安定性と既存のニッケル基超合金の理論
的な評価が可能であり、その評価結果を新しい特性を持
つニッケル基超合金の開発に役立てることができる。
【0043】まず、本発明方法の基本原理について順次
説明する。
【0044】(i)分子軌道法による合金パラメータの導
出について:図1は、fcc ニッケル基合金の電子構造の
計算に用いたクラスターモデルを示す図である。このモ
デルでは、中心にある合金元素Mがその第1 近接位置に
ある12個のNi原子、および第2近接位置にある6個のAl
原子に取り囲まれた構造になっている。クラスター内の
原子間距離を格子定数 0.357 nm を基に設定し、中心の
原子を各種合金元素Mに置き換えたときの電子構造を、
分子軌道計算法の一つであるDV−Xαクラスター法
(Discrete-Variation−Xαクラスター法、詳しくは、
例えば、三共出版「量子材料化学入門」…文献5、およ
び前掲の特公平5-40806 号公報、参照) により計算し
た。
【0045】表3に計算によって得られた2つの合金パ
ラメータの値を示す、その1つは、Ni−M原子間の電子
雲の重なり度合いを表す結合次数 (Bond Order、Boと
略記する) である。このBoが大きいほど原子間の結合
は強い。もう一つは、合金元素Mのd軌道エネルギーレ
ベル(Mdと略記する) である。このMdは、電気陰性
度や原子半径と相関のあるパラメータである。Mdの単
位はエレクトロン・ボルト(eV)であるが、簡単にするた
め以下の説明では単位を省略する。
【0046】表3に示した非遷移金属元素のアルミニウ
ム( Al)と珪素(Si)のMd値は、状態図や実験データを
基にして決定した。d電子を持たないこれらの元素を遷
移金属と同じ枠組の中で議論するために、このような取
り扱いを行った。なお、表2に記載されていない元素の
Md値およびBo値は、いずれも0とする。
【0047】合金においては次式のように各元素の組成
平均をとり、平均のBoおよびMdを定義する。
【0048】 平均Bo値=ΣXi ・(Bo)i ・・・・(1) 平均Md値=ΣXi ・(Md)i ・・・・(2) ただし、Xi は合金元素iのモル分率、(Bo)i およ
び(Md)i はそれぞれi元素のBo値およびMd値で
あり、ニッケル基合金では表3の値を使う。
【0049】
【表3】
【0050】(ii) ニッケル基超合金の「平均Bo−平
均Mdマップ」上における最適設計領域について:図2
は、各元素(M)の合金パラメータを「平均Bo−平均
Mdマップ」上にまとめたものである。このように、合
金元素によってその位置は大きく変化する。ニッケル基
合金の合金元素としては、Boは高く、Mdは低い方が
良い。Boが高ければ原子間の結合力が強くなるので、
材料強化に有効である。しかし、あまりに平均Bo値が
高過ぎると、α−Wなどの耐食性や靱性に有害な相が析
出する。一方、Md値は、後述するするように合金の相
安定性と関係しており、合金の平均Md値が高くなると
共晶相などの脆化相が析出する。
【0051】図3〜図5は、「平均Bo−平均Mdマッ
プ」上に既存の普通鋳造ニッケル基合金の位置を示し、
1255 K (約 980℃) での 0.2%耐力およびクリープ強
度、ならびに 137.9 MPaでの使用可能温度について整理
したものである。いずれの図においても、平均Bo値が
0.65〜0.71の範囲、平均Md値が0.96〜1.00の範囲にお
いて、これらの特性が極大値を示す。
【0052】図3〜図5に示した既存の普通鋳造ニッケ
ル基合金は、表2に示した種々の遷移金属元素の合金効
果を膨大な実験によって調べて開発されたもので、必ず
しも同じ合金系ではない。このような合金の強度特性が
合金系によらず平均Bo値および平均Md値の2つのパ
ラメーターで統一的に示されることは驚くべきことであ
る。この原理を新しいニッケル基超合金の開発に利用す
ることが本発明の大きな特徴の一つである。
【0053】図3〜図5中に、近年開発された高性能単
結晶超合金の平均Bo値および平均Md値の範囲をシャ
ドウ領域で示すが、その領域と上記の極大値は一致す
る。即ち、効率よく高性能超合金を得るには、この領域
内に位置する合金組成を選定すればよいことがわかる。
【0054】表1に示したように、既存の、単結晶超合
金はいずれもCrの含有量が10原子%以下である。これ
は、相安定性を保って、合金地金であるγ相を強化する
WやMoといった耐火金属元素や、Al、Ta、Nbなどのγ’
相形成、強化元素をできるだけ添加するとともに、γ’
相の体積率をできるだけ高く設定し、高温強度を向上さ
せることを考慮した結果である。しかし、耐食性を重視
する産業用 (特に発電用) のガスタービン用超合金では
Cr量をさらに増加させる必要がある。これにともない、
高Cr合金では、図2のCrのベクトルから理解されるよう
に、前記シャドウ領域よりも平均Bo値はやや高くな
る。
【0055】上記の観点から、本発明においては平均B
o値を0.66〜0.72、平均Md値を0.96〜1.00の範囲に選
定した。図6は、この最適設計領域内を拡大し、0.01刻
みの平均Boと平均Mdの交点に1〜35の番号(以下メ
ッシュ番号という)を付けたものである。同図中には、
既存の代表的ニッケル基超合金のIN738LC と SC-16の位
置も示してある。
【0056】II. 本発明のニッケル基超合金について (i)本発明のニッケル基超合金の基本的特徴:これまで
に述べた理論および経験則を基にして得られた本発明の
ニッケル基超合金は、前述の図6に示す「平均Bo−平
均Mdマップ」上の最適設計領域内にある。即ち、平均
Bo値が0.66〜0.72の範囲、平均Md値が0.96〜1.00の
範囲にある。その特徴(の特徴)に加えて、さらに前
記のからまでの特徴を備えた高温耐食性と高温強度
に優れた合金である。
【0057】以下、これらの特徴について説明する。
【0058】の特徴:これは「平均Bo値が0.66〜0.7
2の範囲、平均Md値が0.96〜1.00の範囲にある」とい
うことであり、前記のように主に高温での高強度を確保
するための条件である。
【0059】の特徴:CrとReの含有量の合計(Cr+R
e)が、12原子%以上であることであり、これは高温耐
食性を向上させるための条件である。先に述べたよう
に、従来の単結晶ニッケル基超合金には、Crの含有量を
10原子%以下に制限したものが多い。しかし、Crには高
温耐食性を大きく向上させる効果があり、良好な高温耐
食性を得るには10原子%を超えるCr量が必要である。ま
た、これまで使用されることがなかった Re(レニウム)
にも、Crと同様に高温耐食性改善の効果がある。
【0060】そこで、本発明合金では、これらの含有量
の合計を12原子%以上として、高温耐食性を確保するこ
ととした。CrとReのこの効果は、図2の合金ベクトルに
おいて、これら2つの元素が同じようなベクトル方向を
もつことと対応している。
【0061】なお、Reは高価な元素であるから、これを
添加せず、Crだけでその含有量を12原子%以上としても
よい。また、Crまたは/およびReがあまり多くなり過ぎ
ると、γ' 相析出の固相線温度が低下し、クリープ強度
特性を害する。さらに、σ相やα相といった脆化相の析
出を防ぐためにもCr+Reの上限は、20原子%程度に抑え
るのがよい。
【0062】の特徴:Al、Ti、TaおよびNbの含有量の
合計 (Al+Ti+Ta) が 9.0原子%以上であることであ
る。これにより、十分なγ '相の体積率が得られる。し
かし、「Al+Ti+Ta」の含有量が 16 原子%を超える
と、脆化相の一つである共晶γ’相が残存し、合金の強
度特性を損なうことがあるので、その上限は 16 原子%
とするのが望ましい。
【0063】の特徴:W、MoおよびReの含有量の合計
(W+Mo+Re) が 2.0〜3.5 原子%の範囲にあることで
ある。なお、これらの3元素は全てが含有されていなけ
ればならないというのではない。いずれか1種または2
種で上記の範囲にあればよいが、実用合金としては、後
述するようにWを必須とし、MoおよびReは必要に応じて
添加するのがよい。
【0064】W、MoおよびReは図2に示したように、B
o/Mdの比が大きく、相安定性に関連するMd値が比
較的小さく、一方、強度と関連するBo値が大きな元素
であり、かつ、いずれもγ相の固溶強化に寄与する元素
である。これらの合計含有量が 2.0原子%未満では、γ
相の十分な固溶強化が行えず、一方、3.5 原子%を超え
ると脆化相である体心立方晶のα相が析出し、高温強度
と高温耐食性に悪影響を与える。
【0065】の特徴:これは、Ti、TaおよびNbの合計
とAlの原子%比〔 (Ti+Ta+Nb)/Al〕が 0.35以下であ
ることである。これにより、γ' 相が最も強化される。
前述のように、Alは析出強化相であるγ’相(Ni3Al) の
主要構成元素である。そして、Ti、Ta、Nbは、γ' 相に
Ni3(Al,Ti) 、または{Ni3 Al,Ta(Nb) }の形で固溶
し、γ’相を固溶強化する元素である。しかし、Ti、Ta
およびNbが過剰になると脆化相の一つである共晶γ’相
が生成しやすくなる。さらに、Ni−Ti、Ni−TaおよびNi
−Nbの各二元系状態図には立方晶のγ' 相は安定相とし
て存在せず、Ni3 Ti、Ni3Ta、Ni3 Nbはいずれも六方晶
の化合物相である。したがって、Ti、TaおよびNbが過剰
になると、γ' 相自体の安定性も損なわれる。
【0066】Ni-Al、 Ni-Ti、Ni-Ta 、Ni-Nb の各二元
系の状態図をみると、Alは1000〜1100℃でNiに対して約
15原子%の固溶限をもっている。一方、Ti、Ta、Nbの各
元素は1000℃付近でNiに対してそれぞれ12原子%、5原
子%、5原子%の固溶限であり、Alの固溶限の 4/5から
1/3 (0.8〜0.33) 程度である。従って、Ti、Ta、Nbの各
元素をこの比、即ち 4/5から1/3 まで(0.8〜0.33) を超
えて添加することはγ’相を不安定にすると考えられ
る。さらに、一般に複数の元素が添加された場合、その
固溶限は減少する傾向にあるので、γ' 相自体の安定性
を考慮すると、 (Ti+Ta+Nb)/Alを 0.35 以下とするこ
とが望ましい。すなわち、これ以上Ti、Ta、Nbの各元素
を添加するとγ' 相に固溶しきれなくなり、合金自体の
相安定性を悪くする。従って、γ' 相を最大限強化する
限界がこの (Ti+Ta+Nb)/Al=0.35と考えられる。な
お、 (Ti+Ta+Nb)/Alの下限は、γ' 相の強化が不可欠
であることから、0.1 程度とするのが望ましい。
【0067】の特徴:MoとWの原子%の比(Mo/W)
を 0.5以上、 2.0以下とする。これにより、高温耐食性
を損なうことなくγ相が最も強化される。すなわち、W
は、Moよりも高Bo値であるため、固溶強化にはMoより
も有効で、(Mo/W)の値の上限を 2.0とすることがγ
相の強化に有効である。一方、Wの腐食生成物はMoのそ
れより揮発性が強く、(Mo/W)の値が 0.5未満である
と、合金の耐高温腐食特性を損なう。さらに、Wは高M
d値であるため、Moよりもα相の析出を招きやすく、合
金の相安定性を悪くする。従って、(Mo/W)値の下限
を 0.5とすることが必要である。
【0068】上記の特徴を備えた本発明合金は、等軸晶
からなる多結晶材(普通鋳造材)でもよい。しかし、結
晶粒界の影響を無くすために、単結晶合金であることが
望ましい。ただし、タービン動翼用のように応力負荷方
向が一定の材料として使用される場合には、一方向凝固
法で製造した柱状晶合金であってもよい。柱状晶合金を
応力負荷方向が鋳造方向になるようにして使用すれば、
結晶粒界の影響を小さくすることができるからである。
【0069】さらに、タービン動翼用として用いる合金
は、その密度を 9.0g/cm3 以下とする (の特徴) こと
が推奨される。それは、合金をタービンの動翼用として
使用したときに高速回転による遠心力にともなって生じ
る応力を小さくできるからである。
【0070】なお、合金の密度は、例えば F.C.Hull, M
etal Progress, Vol.96 (1969), p.139(文献6) に解説
されている Hull の回帰式によって合金組成から求める
ことができる。
【0071】(ii) 本発明のニッケル基超合金の具体的
組成: ii-1 単結晶合金 前記からまでの要件を備えることを前提として、各
合金成分の含有量 (原子%) は下記の範囲とする。
【0072】 クロム(Cr): 12.0〜20.0%、 アルミニウム(Al): 7.0〜15.0% チタン(Ti): 0 〜 5.0%、 タンタル(Ta): 0.1〜5.0 % ニオブ(Nb): 0 〜 3.0%、 タングステン(W): 0.4〜4.0 % モリブデン(Mo): 0 〜 4.0%、 ハフニウム(Hf) : 0〜 1.0% レニウム(Re): 0 〜4.0 %、 ニッケルおよび不可避不純物: 残部 以下、上記各成分の含有量の限定理由を説明する。な
お、成分含有量の%は原子%を意味する。
【0073】Cr: 12.0〜20.0% Crは燃料から生成される腐食性硫酸化合物や塩化物に対
する耐高温腐食性を得る上で必須元素である。特に発電
用として用いられる場合、ガス化した石炭などの燃料使
用や、また、長時間の使用中のコーティングの破れなど
も考えると、材料自体の耐高温腐食性を保っておく必要
がある。この高温耐食性は、上述したように、Reとの複
合で改善されるが、Reを含まない材料ではCrを20.0%程
度まで含有させることが必要な場合もある。しかしなが
ら、20.0%を超える含有量になると、高温強度特性の劣
化を招く。一方、使用環境や、Reとの複合添加を考えた
場合、最低 12.0 %程度で必要な高温耐食性を得ること
ができる。
【0074】Al: 7.0〜15.0% Alはγ' 相形成の主要元素であり、高温強度を得る上で
30%以上のγ’相体積率を得ようとすれば最低7.0%は
必要である。しかし、15.0%を超えるとγ' 相体積率が
60%をこえ、脆化相である、共晶γ' 相の形成を招く。
【0075】Ti: 0〜5.0 % γ' 相を強化するとともに、耐高温腐食特性を向上させ
る元素として知られている。しかしながら、5.0%を超
えると、 (Ti+Ta+Nb)/Al が0.35以下という条件を満
足できず、Ni3 Ti型η相を析出し、脆化を招く。Tiは必
ずしも添加する必要はないが、高温耐食性、やγ' 相強
化を期待して下限を 0.2%とするのが望ましい。
【0076】Ta: 0.1〜5.0 % Tiと同様な効果をもち、Tiよりもγ' 相強化への効果が
大きいので、必須成分として0.1 %以上含有させる。た
だし、5.0%を超えると (Ti+Ta+Nb)/Al が0.35以下
という条件を満足できないとともに、固溶体化の熱処理
に必要な温度範囲が狭くなり、製造上問題がでる。した
がって、上限を5.0%とした。
【0077】Nb: 0〜3.0 % Ta、Tiと同様な効果をもつが、Taほどその効果は大きく
なく、Tiより大きい。
【0078】ただ、Taより比重が小さく、合金の密度を
下げる上ではTaより有利である。したがって、Taとの複
合添加を考えて、上限を3.0%とした。Nbは、特に添加
する必要もないが、密度を下げるという効果を期待し
て、下限を 0.5%とするのが望ましい。
【0079】W: 0.4〜4.0 % 合金の地相であるγ相の主強化元素であり最低 0.4%は
必要である。しかし、4.0%を超えると脆化相であるα
相を生成する恐れがあるとともに、高温耐食性の劣化を
招く。従って、上限を4.0%とした。
【0080】Mo: 0〜4.0 % Wと同様な効果を持ち、γ相の強化元素である。4.0%
を超えると脆化相を生成する恐れがあるので、上限を
4.0%とした。Moは添加しなくてもよいが、Wより比重
が小さいことと、Wほど高温耐食性を劣化させないの
で、これらの効果を期待して下限を 0.5%とするのが望
ましい。
【0081】Hf: 0〜1.0 % 耐腐食性の向上と熱遮蔽を期待して合金にジルコニアな
どのセラミックスを溶射などの方法でコーティングをす
る際、合金とコーティング層との密着性を向上させる元
素と言われている。しかし、表2からもわかるように、
NiとのMd値の差が大きく、また原子寸法差も大きいた
め、超合金中では、ほとんどγ相に固溶せず、粒界には
いる。従って、粒界のない単結晶で1.0%を超える含有
量では共晶γ' 相やNi7Hf2などの低融点化合物を生成
し、合金性能の劣化を招く。これらの理由から上限を
1.0%とする。特に添加する必要もないが、上述の密着
性を期待する場合、下限を0.05%とすることが望まし
い。
【0082】Re: 0〜4.0 % 合金の強度と耐高温腐食性の両者を向上させる元素であ
る。強度に対してはWとほぼ同様な効果をもつが、図2
からもわかるように、WよりBo/Md比が大きく、そ
の効果が大きい。4.0%を超えると体心立方晶のα相を
生成し、脆化を招く。また、高価な元素でもあるので、
その上限を4.0%とした。特に、強度と耐高温腐食特性
を向上させる必要がある場合は下限を 0.1%として添加
するのが望ましい。
【0083】不可避不純物:単結晶ニッケル基超合金に
おける主な不可避不純物元素としてC(炭素)、B(硼
素)、O(酸素)、N(窒素)およびZrが考えられる
が、これらのうち特にOとNについては、高温強度特性
上それぞれ 0.005%以下に抑えることが望ましい。
【0084】ii-2 一方向凝固柱状晶合金 これは、一方向凝固法によって製造されるものである。
この合金は、前記単結晶合金の成分に加えてさらに、結
晶粒界を強化するために下記の範囲のC、B、Zrおよび
Hfの中の少なくとも1種を含有する。
【0085】 炭素(C): 0.10〜1.00%、 ボロン(B): 0.025 〜0.100 % ハフニウム(Hf) : 0.01〜1.00%、 ジルコニウム (Zr): 0.005〜0.050 % 上記C、B、HfおよびZrの含有量の限定理由は次のとお
りである。
【0086】C: 0.10〜1.00% 凝固に際してTi、Ta、Nb、Zr、HfなどとMC型 (NaCl型
のB1構造) 炭化物を主として粒界に形成し、高温におけ
る粒界移動に伴う変形を防止する効果をもつ。
【0087】したがって、最低 0.10 %は必要である。
しかし、一方向凝固柱状晶合金は普通鋳造材に比べ粒界
が少ないので、上限を1.00%とした。これを超えると過
剰な炭化物を形成して合金を脆化させるのみならず、強
化に有効な上記の元素の効果を減ずるおそれがある。
【0088】B: 0.025〜0.100 % 多くの合金で粒界を強化する元素として知られており、
その効果を発現させるためには最低 0.025%必要である
が、 0.100%を超えると粒界に硼化物を形成し脆化を招
く。
【0089】Hf: 0.01〜1.00% 一方向柱状晶合金を精密鋳造で作製する際の粒界の縦割
れを防ぐ効果のある元素であるとともに、MC型炭化物
を粒界に形成して粒界を強化する元素であり、その効果
を発揮させるには最低0.01原子%必要である。しかし、
1.00%を超えると共晶γ' 相やNi7Hf2などの低融点化合
物を形成しやすくなり、合金特性の劣化を招く。
【0090】Zr: 0.005〜0.050 % Hfと同様Niと原子寸法、Md値ともに大きくことなり、
γ相にはほとんど固溶しない。しかし粒界に炭化物を形
成するとともに、単体でも粒界を強化する効果があると
言われている。このような理由により最低 0.005%必要
である。しかし0.050 %を超えると、粗大炭化物を形成
したり、Ni7Zr2などの低融点化合物を形成し、合金特性
の低下を招く。
【0091】(iii)本発明のニッケル基超合金の製造方
法について:本発明のニッケル基超合金は、普通鋳造に
よる多結晶合金であってもよい。これは、慣用の溶解−
鋳造方法で鋳物とし、機械加工などによって所定の物品
形状に加工して使用される。このような物品としては、
バーナーのノズル、タービンディスク、自動車用排気
管、等がある。
【0092】本発明合金をタービン動翼のような厳しい
条件で使用される製品の材料として用いる場合は、単結
晶合金または一方向凝固柱状晶合金とするのが望まし
い。この中で、単結晶合金は、溶湯をチルプレート上に
流し込み、その上で成長した柱状晶のうちの一つの結晶
をセレクターと呼ばれる細いパスで選択してブリッジマ
ン法 (例えば Superalloys 1980, The American Societ
y for Metals発行、1980、pp.205-214…文献7…参照)
により<100>方向に成長させて製造する。また、一
方向凝固柱状晶合金は、基本的には上記の単結晶合金の
製造法と同じ製造法で、結晶を成長させる際にセレクタ
ーを設けないで製造する。
【0093】本発明合金の熱処理としては、例えば、次
の条件が推奨される。
【0094】1) 単結晶合金 1200〜1320℃で3〜6時間保持する溶体化処理を施し、
衝風冷却した後、 950〜1250℃で4〜20時間保持して空
冷する処理と、 700〜980 ℃で5〜48時間保持して空冷
する処理とからなる二段階時効処理を施す。
【0095】2) 一方向凝固柱状晶合金 1100〜1280℃で2〜4時間保持する溶体化処理を施し、
空冷した後、 900〜1200℃で4〜20時間保持して空冷す
る処理と 700〜900 ℃で10〜48時間保持して空冷すると
処理からなる二段階時効処理を施す。
【0096】
【実施例】以下、本発明の望ましい実施例として、単結
晶合金および一方向凝固柱状晶合金の具体的組成と高温
耐食性および高温強度の試験結果を示す。
【0097】1. 試験材の製作 表4および表6に示す化学組成の合金、合計 23 チャー
ジを高周波真空溶解炉で溶解し、直径約11mmの丸棒イン
ゴットに鋳造した。表4の合金は単結晶用で、S-1からS
-6 まではReを含んでいない合金であり、SR-1からSR-3
まではReを含む合金である。これらの合金の平均Md
値、平均Bo値、密度、その他を表5に示す。表6の合
金は一方向凝固柱状晶用であり、D-1 からD-7 まではRe
を含まない合金であり、DR-1からDR-7まではReを含む合
金である。これらの合金の平均Md値、平均Bo値、密
度、その他を表7に示す。
【0098】上記の合金のインゴットから、一方向凝固
炉を用いて単結晶試料および一方向凝固柱状晶試料を作
製した。
【0099】
【表4】
【0100】
【表5】
【0101】
【表6】
【0102】
【表7】
【0103】上記の単結晶試料(表4の合金)および柱
状晶試料(表6の合金)から試験片を切り出し、不透明
石英管にアルゴン封入し、「1250℃×4Hr 保持−衝風冷
却」の溶体化処理を行い、その後「1050℃×16Hr保持−
空冷」と「850 ℃×20Hr保持−空冷」の二段階時効熱処
理を施して試験材とした。
【0104】2. 試験方法 (1) 高温耐食性試験 熱処理を施した単結晶材および一方向凝固柱状晶材か
ら、長さ10mm、幅 5mm、厚さ 1〜2 mmの試験片を切り出
し、単結晶材についてはNa2SO4−25wt%NaCl 混合塩を塗
布し 900℃で、一方向凝固柱状晶材についてはV2O5−15
wt%Na2SO4 混合塩を塗布して 800℃で高温耐食性試験を
実施した。いずれも混合塩の塗布量は 20mg/cm2とし、
試験時間は20時間とした。耐食性は脱スケールした試験
片の腐食減量を測定して評価した。
【0105】通常、一方向凝固柱状晶材は単結晶材より
低い温度で用いられるが、その場合、 650℃〜800 ℃で
最も顕著となるV2O5とNa2SO4による腐食が問題となる。
したがって、一方向凝固柱状晶材の耐食性の評価には、
V2O5−15wt%Na2SO4混合塩を用いることとした。一方、
800℃以上の温度では、Na2SO4−25wt%NaCl混合塩によ
る腐食が問題となるので、より高温で用いられる単結晶
材についてはNa2SO4−25wt%NaCl混合塩を用いて評価し
た。
【0106】(2) クリープ破断試験 前記の熱処理を施した単結晶材および一方向凝固柱状晶
材から、ゲージ部直径4mm、ゲージ部長さ20mmの試験片
を加工した。その後、以下の条件でクリープ試験を行っ
た。
【0107】試験温度 :950 ℃ 負荷応力 :20.4kgf/mm2 ( 約 200 MPa ) 応力負荷方向: 結晶成長方向(<100>方向) 3.試験結果 (1) 高温腐食特性 表8に単結晶材の試験結果、表9に一方向凝固柱状晶材
の試験結果を示す。いずれにも、比較例としてCr含有量
が高く高温耐食性に優れている既存合金の IN738LC (表
1に示した多結晶合金) についての試験結果を併記し
た。
【0108】表8および表9から明らかなように、単結
晶材、一方向凝固柱状晶材ともに、腐食減量は既存ニッ
ケル基超合金の中で最も高温耐食性が優れるとされる I
N738LC合金と同等またはそれ以下であり、本発明合金が
優れた高温耐食性をもつことが確認できた。
【0109】なお、結晶粒界に特に低融点化合物相など
が生成していない限り、耐食性は、単結晶、多結晶とい
った結晶構造によって大きく変わることはない。
【0110】
【表8】
【0111】
【表9】
【0112】(2) クリープ破断特性 表10に単結晶合金のクリープ破断試験結果を示す。こ
の表10には、既存の代表的な単結晶ニッケル基超合金
であるSC-16 (表1参照)の試験結果を併記した。本発
明合金は、いずれもこのSC-16 合金を凌ぐ破断寿命を持
つ。
【0113】表11は、一方向凝固柱状晶材の試験結果
である。ここには前記の IN738LC合金(多結晶材)およ
び一方向凝固柱状晶合金である表1の三菱DS合金の破断
寿命(前掲の文献2から) を参考値として併記した。本
発明の一方向凝固柱状晶材はこれら既存合金に勝るクリ
ープ破断特性を持つことが明らかである。
【0114】
【表10】
【0115】
【表11】
【0116】
【発明の効果】本発明によれば、膨大な時間、費用、労
力を要する実験を行うことなく、理論的予測によって効
率よく所望の特性を持つニッケル基超合金の設計ができ
る。実施例に示したとおり、この方法で設計された本発
明のニッケル基超合金は、高温耐食性と高温強度に優
れ、既存の最高レベルの材料を凌ぐ優れた特性を有する
ものである。本発明の合金は、耐熱材料、耐食材料とし
て広汎な用途を有するが、特に過酷な条件に曝される発
電用ガスタービンの高温部品等の材料としてきわめて有
用である。その単結晶材または一方向凝固柱状晶材はガ
スタービンの動翼として好適であり、発電効率の向上に
大きく寄与するものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】fcc ニッケル合金のMdとBoの計算に用いた
クラスターモデルである。
【図2】Niに4mol%の各種元素を添加した合金のMdと
Boの位置(合金ベクトル)を示す図である。
【図3】「平均Bo−平均Mdマップ」上に示した普通
鋳造ニッケル基超合金の位置と0.2 %耐力との関係を示
す図である。
【図4】「平均Bo−平均Mdマップ」上に示した普通
鋳造ニッケル基超合金の位置とクリープ強度との関係を
示す図である。
【図5】「平均Bo−平均Mdマップ」上に示した普通
鋳造ニッケル基超合金の位置と使用許容温度との関係を
示す図である。
【図6】「平均Bo−平均Mdマップ」上に示したニッ
ケル基超合金の最適設計領域を示す図である。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 森永 正彦 愛知県名古屋市東区矢田町2丁目66番地 名大矢田町宿舎152 (72)発明者 村田 純教 愛知県豊橋市飯村北5丁目12番地の6 (72)発明者 橋詰 良吉 大阪府大阪市北区中之島3丁目3番22号 関西電力株式会社内

Claims (6)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】ニッケル基合金中における各種合金元素に
    ついて、d電子軌道エネルギーレベル(Md)およびニ
    ッケル(Ni)との結合次数(Bo)をDV−Xαクラスタ
    ー法によって求め、下記(1) 式で表される平均Bo値が
    0.66〜0.72の範囲、下記(2)式で表される平均Md値が
    0.96〜1.00の範囲となるように化学組成を決定すること
    を特徴とするニッケル基超合金の製造方法。 平均Bo値=ΣXi ・(Bo)i ・・・・(1) 平均Md値=ΣXi ・(Md)i ・・・・(2) ただし、Xi は合金元素iのモル分率、(Bo)i およ
    び(Md)i はそれぞれi元素のBo値およびMd値で
    ある。
  2. 【請求項2】下記のからまでのすべての要件を満た
    す化学組成を有することを特徴とする高温耐食性と高温
    強度に優れたニッケル基超合金。 ニッケル基合金中における各種合金元素について、
    d 電子軌道エネルギーレベル(Md)およびニッケル(N
    i)との結合次数(Bo)をDV−Xαクラスター法によ
    って求めたとき、下記(1) 式で表される平均Bo値が0.
    66〜0.72の範囲、下記(2) 式で表される平均Md値が0.
    96〜1.00の範囲であること。 平均Bo値=ΣXi ・(Bo)i ・・・・(1) 平均Md値=ΣXi ・(Md)i ・・・・(2) ただし、Xi は合金元素iのモル分率、(Bo)i およ
    び(Md)i はそれぞれi元素のBo値およびMd値で
    ある。 合金成分であるCrとReの合計含有量が 12 原子%以
    上であること。 合金成分であるAl、Ti、TaおよびNbの含有量の合計
    が 9.0原子%以上であること。 合金成分であるW、MoおよびReの含有量の合計が
    2.0〜3.5 原子%であること。 合金成分であるTi、TaおよびNbの含有量の合計とAl
    の含有量との原子%比が0.35 以下であること。 MoとWの含有量の原子%比が 0.5〜2.0 であるこ
    と。
  3. 【請求項3】単結晶合金または一方向凝固柱状晶超合金
    である請求項2に記載の高温耐食性と高温強度に優れた
    ニッケル基超合金。
  4. 【請求項4】原子%で、 クロム(Cr): 12.0〜20.0%、 アルミニウム(Al): 7.0〜15.0% チタン(Ti): 0 〜 5.0%、 タンタル(Ta): 0.1〜5.0 % ニオブ(Nb): 0 〜 3.0%、 タングステン(W) : 0.4〜4.0 % モリブデン(Mo): 0 〜 4.0%、 ハフニウム (Hf) : 0 〜1.0 % レニウム(Re): 0 〜 4.0%、 ニッケルおよび不可避不純物: 残部 から成り、かつ、請求項2に記載のからまでの要件
    を全て満たすことを特徴とする高温耐食性と高温強度に
    優れたニッケル基単結晶超合金。
  5. 【請求項5】原子%で、 クロム(Cr): 12.0〜20.0%、 アルミニウム(Al): 7.0〜15.0% チタン(Ti): 0 〜 5.0%、 タンタル(Ta): 0.1〜5.0 % ニオブ(Nb): 0 〜 3.0%、 タングステン(W): 0.4〜4.0 % モリブデン(Mo): 0 〜 4.0%、 レニウム(Re): 0 〜4.0 % を含有し、さらに、 炭素(C): 0.10〜1.00%、 ボロン(B): 0.025〜0.100 % ハフニウム(Hf) : 0.01〜1.00%、 ジルコニウム(Zr):0.005〜0.050 % の4元素の中の少なくとも1種を含有し、残部がニッケ
    ルおよび不可避不純物から成り、かつ、請求項2に記載
    のからまでの要件を全て満たすことを特徴とする高
    温耐食性と高温強度に優れたニッケル基一方向凝固柱状
    晶超合金。
  6. 【請求項6】密度が 9.0 g/cm3以下であることを特徴と
    する請求項2から5までのいずれかに記載のニッケル基
    超合金。
JP34206495A 1995-12-28 1995-12-28 ニッケル基超合金の製造方法および高温耐食性と高温強度に優れたニッケル基超合金 Pending JPH09184035A (ja)

Priority Applications (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP34206495A JPH09184035A (ja) 1995-12-28 1995-12-28 ニッケル基超合金の製造方法および高温耐食性と高温強度に優れたニッケル基超合金

Applications Claiming Priority (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP34206495A JPH09184035A (ja) 1995-12-28 1995-12-28 ニッケル基超合金の製造方法および高温耐食性と高温強度に優れたニッケル基超合金

Publications (1)

Publication Number Publication Date
JPH09184035A true JPH09184035A (ja) 1997-07-15

Family

ID=18350884

Family Applications (1)

Application Number Title Priority Date Filing Date
JP34206495A Pending JPH09184035A (ja) 1995-12-28 1995-12-28 ニッケル基超合金の製造方法および高温耐食性と高温強度に優れたニッケル基超合金

Country Status (1)

Country Link
JP (1) JPH09184035A (ja)

Cited By (5)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP2011052688A (ja) * 2009-08-31 2011-03-17 General Electric Co <Ge> タービンブレード用のプロセス及び合金並びにそれから形成されるブレード
TWI668310B (zh) * 2018-03-01 2019-08-11 國家中山科學研究院 Superalloy material for laminate manufacturing
KR20190113456A (ko) * 2018-03-28 2019-10-08 한국기계연구원 크립 특성이 우수한 단련용 니켈기 초내열합금 및 이의 제조방법
CN111326220A (zh) * 2020-04-16 2020-06-23 重庆大学 一种高强韧锆钛基合金的设计方法
CN113514625A (zh) * 2021-05-25 2021-10-19 上海工程技术大学 一种基于Md-δ进行Al系高熵合金相结构预测的方法

Cited By (7)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP2011052688A (ja) * 2009-08-31 2011-03-17 General Electric Co <Ge> タービンブレード用のプロセス及び合金並びにそれから形成されるブレード
TWI668310B (zh) * 2018-03-01 2019-08-11 國家中山科學研究院 Superalloy material for laminate manufacturing
KR20190113456A (ko) * 2018-03-28 2019-10-08 한국기계연구원 크립 특성이 우수한 단련용 니켈기 초내열합금 및 이의 제조방법
CN111326220A (zh) * 2020-04-16 2020-06-23 重庆大学 一种高强韧锆钛基合金的设计方法
CN111326220B (zh) * 2020-04-16 2023-08-15 重庆大学 一种高强韧锆钛基合金的设计方法
CN113514625A (zh) * 2021-05-25 2021-10-19 上海工程技术大学 一种基于Md-δ进行Al系高熵合金相结构预测的方法
CN113514625B (zh) * 2021-05-25 2024-01-26 上海工程技术大学 一种基于Md-δ进行Al系高熵合金相结构预测的方法

Similar Documents

Publication Publication Date Title
JP5773596B2 (ja) ニッケル基超合金及び物品
US5540790A (en) Single crystal nickel-based superalloy
EP0789087B1 (en) High strength Ni-base superalloy for directionally solidified castings
JP2753148B2 (ja) ニッケル基単結晶超合金
JP4885530B2 (ja) 高強度高延性Ni基超合金と、それを用いた部材及び製造方法
JP3892831B2 (ja) 単結晶タービンベーン用の超合金
JPS62267440A (ja) 単結晶合金製品およびその製造方法
JPS6343459B2 (ja)
CN102803528B (zh) Ni基单晶超合金及使用其的涡轮叶片
WO1994000611A9 (en) Single crystal nickel-based superalloy
JP2011074493A (ja) ニッケル基超合金及び物品
KR100954683B1 (ko) 고강도 내부식성 및 내산화성의 니켈계 초합금 및 이를 포함하는 방향성 고화 제품
JP5186215B2 (ja) ニッケルベース超合金
JP2011074492A (ja) ニッケル基超合金及び物品
JPH0239573B2 (ja)
JP2011074491A (ja) ニッケル基超合金及び物品
EP1927669B1 (en) Low-density directionally solidified single-crystal superalloys
JP4222540B2 (ja) ニッケル基単結晶超合金、その製造方法およびガスタービン高温部品
KR101785333B1 (ko) 니켈기 초내열합금 및 이의 제조방법
JPH0211660B2 (ja)
JP6982172B2 (ja) Ni基超合金鋳造材およびそれを用いたNi基超合金製造物
JPH09184035A (ja) ニッケル基超合金の製造方法および高温耐食性と高温強度に優れたニッケル基超合金
JPH1121645A (ja) Ni基耐熱超合金、Ni基耐熱超合金の製造方法及びNi基耐熱超合金部品
JPH07207391A (ja) ガスタービンのタービン翼の合金材料
JP2023018394A (ja) Ni基超合金及びタービンホイール

Legal Events

Date Code Title Description
A02 Decision of refusal

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A02

Effective date: 20040518