JPH08947B2 - 黒化処理性に優れたシャドウマスク用Fe−Ni合金 - Google Patents

黒化処理性に優れたシャドウマスク用Fe−Ni合金

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JPH08947B2
JPH08947B2 JP2902092A JP2902092A JPH08947B2 JP H08947 B2 JPH08947 B2 JP H08947B2 JP 2902092 A JP2902092 A JP 2902092A JP 2902092 A JP2902092 A JP 2902092A JP H08947 B2 JPH08947 B2 JP H08947B2
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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、黒化処理性に優れた
Fe−Ni合金に係り、カラーブラウン管に使用される好ま
しいシャドウマスク用Fe−Ni系合金系薄板に関するもの
である。
【0002】
【従来の技術】近年、カラーテレビの高品位化に伴い、
色ずれの問題に対処できるシャドウマスク用合金とし
て、34〜38wt%のNiを含有するFe−Ni系合金(以下
「従来のFe−Ni系合金」という)が使用されている。こ
の従来のFe−Ni系合金は、シャドウマスク用材料として
従来から使用されてきた低炭素鋼に比べ、熱膨張率が著
しく小さい。従って、従来のFe−Ni系合金によってシャ
ドウマスクを作れば、シャドウマスクが電子ビームによ
り加熱されても、シャドウマスクの熱膨張による色ずれ
の問題は生じ難い。
【0003】シャドウマスク用合金薄板は、通常、下記
工程によって、製造される。即ち連続鋳造法または造塊
法によって、合金塊を調製し、次いで、このように調製
された合金塊に、分塊圧延、熱間圧延および冷間圧延を
施して、合金薄板を製造する。
【0004】上述のように製造されたシャドウマスク用
合金薄板は、通常、下記工程によって、シャドウマスク
に加工される。即ちシャドウマスク用合金薄板に、フォ
トエッチングによって、電子ビームの通過孔(以下、単
に「孔」という)を形成し(以下、エッチングによって
穿孔されたままのシャドウマスク用合金薄板を「フラッ
トマスク」という)、次いで、フラットマスクに焼鈍を
施し、その後、焼鈍を施したフラットマスクを、ブラウ
ン管の形状に合うように曲面形状にプレス成形し、それ
をシャドウマスクに組立て、次いでその表面上に黒化処
理を施す。
【0005】しかしながら、このような従来のFe−Ni系
合金は、従来の低炭素鋼のシャドウマスク材に比べて黒
化処理性に劣るという大きな問題を有しており、この黒
化処理性の問題は、特に黒化処理時に形成される酸化膜
(以下、黒化膜と称す)の黒色度、色調のむら、および
密着性が従来の低炭素鋼に比べて良くないことを意味す
る。そこで斯かる黒化処理性の問題を解決するために、
次の先行技術が知られている。
【0006】即ち、(a)特開昭60−194059号
公報は、Fe−Ni系インバー合金に充分な黒色度を有し且
つ緻密で密着性の良い黒化膜を形成させるようにした熱
処理方法が提案されている。この方法は、水蒸気を適正
量に制御し、且つ前段は酸化力の弱い雰囲気中で、また
後段は酸化力の強い雰囲気中でそれぞれ処理するという
ものである(以下、「先行技術1」という)。
【0007】また、(b)特開平3−199384号公
報のものは、Fe−Ni系インバー合金の表面に緻密で均質
で密着性の高い酸化膜を、適正な黒化処理条件(大気中
400〜800℃)に加え、その処理前の焼処理の条
件、すなわち温度400〜800℃、雰囲気中の露点0
℃以上により得ようとするものである(以下、「先行技
術2」という)。
【0008】更に、特開昭61−42838号公報のも
のは、Fe−Ni系インバー合金において、Mnを0.8〜10
%添加し、黒化酸化膜をFe、Ni、Mn、Oからなるスピネ
ル構造とすることにより、熱輻射率を向上させるもので
ある(以下、「先行技術3」という)。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】しかし、前記した先行
技術1は、黒色度と密着性を向上させているが、黒化処
理を特定雰囲気で行うため、従来用いられている黒化処
理炉が使用できず、工業上の実用性に乏しく、実際にこ
の技術では、素材の成分によって、黒色度が必ずしも均
一にならず、優れた熱輻射性能を均一に発揮することが
できない。
【0010】また、先行技術2は、緻密で均質で密着性
の良好な黒化膜が形成可能であるが、この技術では、黒
化処理前のアニールでの焼鈍条件(雰囲気、温度)を特
定条件とする必要があり、工業上の実用性に乏しく、実
際にこの技術でも、黒色度が必ずしも均一にならず、優
れた熱輻射性能を均一に発揮することができなかった。
【0011】更に、先行技術3は、成分的にMnを0.8〜
10%含有するため、黒化処理性は向上させているが、
酸化し易いMnを多量に含むため、シャドウマスク用素材
の製造工程中における熱処理で強固な酸化膜が形成さ
れ、エッチング性が劣化する。また、Mnは固溶強化元素
であり、この元素を多量に含むことにより、強度が上昇
し、プレス成形性が劣化するといった問題も有してい
る。更には、最近のブラウン管メーカーでの生産性向
上、コスト低減の要望から、黒化処理の低温化、短時間
化といった傾向もみられている。
【0012】このような要望に対して、たとえば、先行
技術1では500〜700℃で10分以上の処理に加
え、550〜750℃で10分以上の処理を施すという
もの、先行技術2では、450℃で180min 、550
℃で100min 、600℃で60min という処理を施す
ものであり、先行技術3では、620℃で30min とい
う処理を施すものであって、基本的には500℃以上で
も10min 以上、450℃では180min と、長時間の
処理をせざるを得ないのが現状である。実際、ブラウン
管メーカーでの黒化処理も、前記した処理条件よりも、
より低温化、短時間化を指向しているものの、このよう
な処理条件では、所要の黒化処理性、すなわち、所要の
黒化膜の黒色度、色調のむら品位、および密着性が得ら
れなくなるといった問題も有していた。
【0013】
【課題を解決するため手段】本発明は、上記したような
実情に鑑み、検討を重ねて創案されたものであって、黒
化処理性が優れ、所要の性能を有する黒化膜を従来より
も短時間で形成可能な、シャドウマスク用インバー合金
を提供することに成功したものである。なお、所要の黒
化膜の性能とは優れた黒色度、むらがなく、優れた密着
性、高い熱輻射能を有することを意味するもので、本発
明の要旨は以下の如くである。
【0014】(1) wt%で、Ni:34〜38%を含有
し、H:1ppm 以下、Mn:0.35%以下、Al:0.02%
以下、Si:0.05%以下、Cr:0.05%以下、Ti:0.0
2%以下であって、〔Ti〕+〔Cr〕+〔Al〕+Si≦0.1
0%であり、 Mo:0.05%以下、 W:0.02%以下、 N
b:0.02%以下、 V:0.02%以下、 Cu:0.02%以下として黒
化処理前における合金板表面への{210}結晶面集積
度(以下単に「{210}結晶面の集積度」という。)
が16%以下であることを特徴とする黒化処理性に優れ
たシャドウマスク用Fe−Ni合金。
【0015】(2)wt%で、 Ni:34〜38%を含有
し、H:1ppm 以下、Mn:0.35%以下、Al:0.02%
以下、Si:0.05%以下、Cr:0.05%以下、Ti:0.0
2%以下であって、〔Ti〕+〔Cr〕+〔Al〕+〔Si〕≦
0.10%であり、 Mo:0.05%以下、 W:0.02%以下、 N
b:0.02%以下、 V:0.02%以下、 Cu:0.02%以下として、
熱延鋼帯を810〜890℃の範囲内で焼鈍し、以降、
冷延−焼鈍−仕上げ冷延を行い、エッチング後焼鈍する
ことにより、黒化処理前における合金表面への{21
0}結晶面集積度が16%以下であることを特徴とする
前記(1)に記載の黒化処理性に優れたシャドウマスク
用Fe−Ni合金。
【0016】
【作用】上記したような本発明について更に説明する
と、本発明者等は、上述した観点から、黒化処理性に優
れたシャドウマスク用Fe−Ni系合金薄板を開発すべく、
鋭意研究を重ねた結果、次の知見を得た。即ち、シャド
ウマスク用Fe−Ni系合金薄板の化学成分組成、更には特
定の結晶面の集積度を所定の範囲内に調整することによ
り、黒化処理性が優れ、所要の性能を有する黒化膜を従
来よりも短時間で形成可能なシャドウマスク用インバー
合金を得ることができる。
【0017】即ち、従来よりも、より低温度化、短時間
化を指向した黒化処理の条件においても所定の範囲内の
Hの含有により黒化膜の密着性を高め、所定の範囲内の
Mn、Cr、Al、Ti、Siの含有により黒化膜の黒色度を高め
ることにより熱輻射率を高め、所定値の内のMo、W,N
b、V、Cuの含有により黒化膜の成長速度を高め、また
合金薄板表面への{210}結晶面の集積度を所定の範
囲内とすることにより黒化膜のムラを抑制した、所要の
性能を有する黒化膜の形成を可能とすることができる。
【0018】本発明は、上述した知見に基づいてなされ
たものである。即ち以下に、この発明のシャドウマスク
用Fe−Ni系合金薄板の化学組成および{210}結晶面
の集積度を上述した範囲内に限定した理由について述べ
ると以下の如くである。
【0019】(1)ニッケル: 色ずれの発生を防止するために、シャドウマスク用Fe−
Ni系合金薄板に要求される、30〜100℃の温度域に
おける平均熱膨張係数の上限値は、約2.0×10-6/℃
である。前記熱膨張係数は、前記合金薄板のニッケル含
有量に依存する。そして、上述した平均熱膨張係数の条
件を満たすニッケル含有量の範囲は、34〜38%の範
囲内である。従って、ニッケル含有量は、34〜38%
の範囲内に限定すべきである。なお、0.01〜6%のコ
バルトを含有する場合には、上述した平均熱膨張係数の
条件を満たすニッケル含有量の範囲は、30〜40%の
範囲内であるので、ニッケル含有量は、34〜38%の
範囲内であってもよい。
【0020】(2)水素: 水素は、Fe−Ni系合金の溶製時に不可避的に混入する元
素である。特にFe−34〜38%Niのインバー合金にお
いては従来その溶製時の精錬工程で、CaO 系のスラグを
用い、このCaO は水分を吸収しやすく、メタル側への水
素の供給源となり、不可避的に1ppm を超える水素、場
合によっては4〜5ppm 程度の水素が混入する。この水
素ガスがこの合金に黒化膜が形成される時に、合金内よ
り放出されることによって黒化膜が多孔質となり、この
ため黒化膜の剛性が小さくなり、黒化膜の密着性が劣化
してしまうため有害な元素である。即ち、H量が1ppm
を越えると、上記した黒化膜の密着性の劣化が著しいた
め、1ppm を上限とした。Hによる黒化膜の密着性の劣
化は、従来よりも黒化処理が低温、短時間の条件が採ら
れる場合に形成される黒化膜において特に著しくなって
いた。
【0021】以下、本発明における黒化処理条件とは、
上記のような条件でのものを意味するもので、斯かる合
金に形成される黒化膜の熱輻射率を高めるには、まず黒
化膜の黒色度を高める必要があり、このためには、合金
中のMn、Cr、Al、Ti、Si量を特定値内に制御する必要が
ある。
【0022】Mnは、高い黒色度を有する黒化膜の形成の
ためには有害な元素であり、低減することが好ましい。
Mn量が0.35%を超えると、Mnを含むスピネル酸化物が
生成され、本発明で意図する黒化処理条件で黒色度の優
れた黒化膜が形成ができないため、0.35%を上限とし
た。なお、このMn量は0.35%以下で低ければ、低いほ
ど黒色度は高まり、熱輻射率も高くすることができる。
【0023】Crは、本合金中の溶製時に不可避的に混入
する元素であり、このCr量が多くなると黒化膜中にCrの
酸化物が形成され、本発明で意図する黒化処理条件での
黒色度の優れた黒化膜が形成できない。即ちCr量が0.0
5%を超えると、上記した黒化膜の黒色度が劣化するた
め、0.05%を上限とした。
【0024】Alは、本合金の溶製時に脱酸元素として用
いられるものであるが、0.020%を超えると、Alの酸
化物が形成され、本発明で意図する黒化処理条件での黒
色度に優れた黒化膜が形成できない。従って、Al量の上
限は0.020%と定めた。
【0025】Tiは、本合金の溶製時に不可避的に混入す
る元素であり、0.02%を超えると、Tiの酸化物が形成
され、本発明で意図する黒化処理条件で黒色度の優れた
黒化膜が形成できない。従って、Tiの上限は0.02%と
した。
【0026】Siは、本合金の溶製時に脱酸元素として用
いられるが、0.05%を超えると、Siの酸化物が形成さ
れ、本発明で意図する黒化処理条件における黒色度の優
れた黒化膜が形成できない。従ってSi量の上限は0.05
%と定めた。
【0027】なお、上記したCr、Al、Ti、Siの含有量
は、本発明規定値以下であっても、より低くすることに
より黒化膜の黒色度をより優れたレベルとすることが可
能である。また、黒化膜の黒色度を本発明で意図するレ
ベルとするためには、Cr、Al、Ti、Siの総量制御が重要
である。図1は、黒化膜の黒色度および熱輻射率とMn
量、〔Cr〕+〔Al〕+〔Ti〕+〔Si〕量の関係を示した
ものである。Mn量が0.35%以下で、しかも〔Cr+Al+
Ti+Si〕量が0.10%以下であると本発明で意図する黒
化膜の黒色度および熱輻射率が得られている。即ち、
〔Cr+Al+Ti+Si〕量の上限を0.10%に定めた。
【0028】さて、本合金の黒化膜の熱輻射率を高める
ためには、黒化膜の黒色度を前記のように高めることに
加えて、所定の膜厚まで黒化膜を成長させねばならな
い。このためには、本発明で意図する黒化処理条件での
黒化膜の成長速度を高める必要がある。
【0029】前記のように黒化膜の成長速度を高めるに
は、Mo、W、Nb、V、Cu量の低減が必要である。即ちこ
れらの元素は、本合金を電気炉にて溶製、精錬する際
に、不可避的に混入する元素であって、Mo:0.05%、
W:0.02%、Nb:0.02%、V:0.02%、Cu:0.0
2%の各特定値を超えると黒化膜の成長速度が低くな
り、所定の黒化処理条件下でも十分な膜厚の黒化膜が形
成できない。従って、Mo:0.05%以下、W:0.02%
以下、Nb:0.02%以下、V:0.02%以下、Cu:0.0
2%以下と定めた。
【0030】Mo、W、Nb、V、Cuが黒化膜の成長速度を
阻害している原因については、必ずしも充分に解明され
ていないが、これら元素の含有量が本発明規定量を超え
るものでは、黒化膜と合金の界面に、これら元素の濃化
が認められていることから、これら元素の界面での濃化
により、鉄が外部に拡散し難くなるため、結果として、
黒化膜の成長速度が低くなってしまったのではないかと
推察される。
【0031】なお、本発明においては、特に規定しない
が、C、N、O、S、P、B量を低減することにより黒
化膜の密着性をより向上させることが可能である。具体
的にはC:0.0050%以下、N:0.0015%以下、
O:0.0030%以下、S:0.0020%以下、P:0.
0040%以下とすることにより、黒化膜の密着性をよ
り優れたものとすることができる。
【0032】また本発明においては希土類元素は黒化膜
の黒色度向上には有害であって、これらの元素の1種ま
たは2種以上が合計で0.0002%以下とすることが必
要である。
【0033】上記したような成分の制御により、所要の
膜厚と黒色度を有する黒化膜は形成可能であるが、TV
用フラットマスクのサイズで見ると、依然として、黒化
膜にムラが発生するといった問題が残っており、シャド
ウマスクの品質上問題として残されていた。本発明者ら
は、このような問題を解決すべく、本発明規定内の成分
を有する合金板を用いて、本発明合金薄板の結晶方位を
様々に変えて黒化膜のムラ発生との関係を調べた。その
結果、本合金の黒化膜のムラを抑制するには、黒化処理
直前の合金板表面への{210}結晶面の集積度を特定
値以下に制御することが有効であることを見出した。
【0034】図2は、黒化膜のムラ発生状況と{21
0}結晶面の集積度の関係を示す。{210}結晶面の
集積度の測定は、黒化処理直前の合金板表面の(42
0)回折面の相対X線回折強度比を(111)、(20
0)、(220)、(311)、(331)、(42
0)および(422)の各回折面の相対X線回折強度比
の和で割ることにより求めた。
【0035】ここで相対X線強度比とは各回折面で測定
されたX線回折強度を、その結晶面の理論X線回折強度
で割ったものである。たとえば、(111)回折面の相
対X線強度比とは、(111)回折面のX線回折強度を
(111)回折面のX線回折理論強度で割ったものであ
る。なお、{210}結晶面の集積度の測定に際しては
{210}結晶面と方位でみて等価な(420)回折面
のX線回折強度により測定した。
【0036】この図より、{210}結晶面の集積度が
16%以下で黒化膜のムラはなく、本発明で意図した優
れた効果が得られていることがわかる。これらのことか
ら{210}結晶面の集積度を16%以下と定めた。
【0037】{210}結晶面が特定値を越えると黒化
膜のムラが著しくなる機構についてははっきりわかって
いないが、特にムラの部分の結晶方位は{210}結晶
面となっている頻度が高いため、この結晶面での酸化速
度や酸化物の性状が他の方位に比べて著しく異なるため
ではないかと推定される。
【0038】{210}結晶面の集積度を本発明で規定
した値以下とするためには、合金薄板の製造にかかわ
る、凝固から熱間での加工、以降の冷間圧延・焼鈍工程
で極力この{210}結晶面を形成させない製造条件を
採ることにより達成される。例えば、本合金が、造塊ま
たは連続鋳造スラブを分塊圧延し、熱間圧延することに
よって得た熱延鋼帯により製造する場合は、熱間圧延後
で適正な熱延板焼鈍を施すことが{210}結晶面を形
成させないためには有効であり、この際熱延板焼鈍の温
度は、810〜890℃の範囲内で適切な温度を選択す
ることにより本発明で意図する{210}結晶面の集積
度を得ることが可能である。
【0039】なお、このような熱延板焼鈍の効果は、本
合金の熱延鋼帯が熱延板焼鈍前で十分に再結晶している
時に発揮されるものである。また、本発明で意図する
{210}結晶面の集積度を得るには、本合金を製造す
るに際して分塊圧延後のスラブの均一化熱処理の実施は
好ましくない。たとえば、上記の均一化熱処理が120
0℃以上、10Hr以上の条件で行なわれる場合、{21
0}結晶面の集積度が本発明の規定値を超えてしまうの
で、このような処理は避けねばならない。
【0040】
【実施例】上記した本発明を具体的実施例によって、更
に詳しく説明すると、以下の如くである。 (実施例) 取鍋精錬によって、次の表1および表2に示す化学成分
を有するNo1〜26からなる鋼塊をそれぞれ調製した。
いずれの合金もB量は0.0002%以下である。
【0041】
【表1】
【0042】
【表2】
【0043】これらのインゴットの各々を手入れ後、分
塊圧延、表面疵取り、熱間圧延(熱延加熱は1100℃
×3時間)、疵取りして得られた熱延コイルを用いて次
の表3に示す条件にて、熱延板焼鈍を行なった。以降、
冷延−焼鈍−仕上げ冷延を行ない、板厚0.25mmの合金
板を得た。なおこれらの合金は熱間圧延後で十分再結晶
していた。
【0044】
【表3】
【0045】これを、エッチングによりフラットマスク
にした後、マスクを810℃にてアニールし、プレス成
形ののち550℃×8min の条件にて黒化処理を行なっ
た。黒化処理直前の合金板の表面の{210}結晶面の
集積度は前記したX線回折による方法により求めた。こ
の結果を表4に示した。また黒化膜の密着性、膜厚、ム
ラ発生状況および熱輻射率も表4に併せて示す。黒化膜
の密着性は、黒化膜の上にテープをはり、180℃密着
曲げをしてからテープを剥がし、テープ上への黒化膜の
付着状況により評価した。
【0046】
【表4】
【0047】前述した表4に示した結果から明らかなよ
うに、本発明の範囲内の成分組成を有し、且つ本発明の
範囲内の{210}結晶面の集積度を有する、合金No1
〜No13は黒化膜の密着性、黒色度、ムラ発生状況およ
び熱輻射率はいずれも、本発明で意図する優れたレベル
を示している。とくに、合金No1およびNo13はMn、A
l、Si、Cr、Tiがより好ましいレベルまで低減されてお
り、黒化膜の黒色度および熱輻射率は発明例の合金No2
〜No12より優れている。また合金No1,No4〜No10
の{210}結晶面の集積度もより好ましいレベルまで
制御されており、黒化膜のムラ発生状況も発明例の合金
No2,No3,No11〜No13より優れている。
【0048】これに対して、合金No14は、本発明範囲
外のHを含有しており、黒化膜の密着性は悪かった。合
金No15〜No20はそれぞれ本発明の範囲外のMn,Al,
Si,Cr,Ti,(Ti)+(Cr)+(Al)+(Si)を含有し
ているものであり、黒化膜の黒色度および熱輻射率は本
発明例に比べて劣っている。
【0049】また合金No21〜No25はそれぞれ、本発
明範囲外のMo,W,Nb,V,Cuを含有しているものであ
り、黒化膜の膜厚が本発明例に比べて薄く、黒化膜の黒
色度は本発明で意図するレベルを示しているが、熱輻射
率は本発明例に比べて小さくなっており、本発明で意図
する黒化処理条件にて所定の膜厚まで黒化膜を成長させ
ることが必要であることが理解される。
【0050】更に、合金No17、No18、No21、No2
2およびNo26は{210}結晶面の集積度が本発明の
規定値を超えるものであり、黒化膜のムラ発生状況は本
発明例に比べて劣っている。
【0051】上記したところから明らかなように、本発
明範囲内の成分組成および本発明範囲内における{21
0}結晶面の集積度とすることにより、黒化膜の密着
性、黒色度、ムラ発生状況および熱輻射率ともに優れた
レベルを有するシャドウマスク用Fe−Ni系合金薄板が得
られることがわかる。
【0052】
【発明の効果】以上詳述したような、本発明によれば、
黒化処理性が優れ、優れた黒色度、ムラがなくて優れた
密着性、高い熱輻射率を有する黒化膜を従来よりも比較
的低温かつ短時間で形成可能なシャドウマスク用インバ
ー合金を提供することができるものであるから、工業的
に有利な効果がもたらされ、その効果の大きい発明であ
る。
【図面の簡単な説明】
【図1】黒化膜の黒色度と、Mn量、(Ti)+(Cr)+
(Al)+(Si)量の関係を示した図表である。
【図2】黒化膜のムラ発生状況と{210}結晶面の集
合度の関係を示した図表である。
フロントページの続き (56)参考文献 特開 昭61−218050(JP,A) 特開 平1−247558(JP,A) 特開 平4−341543(JP,A) 特開 平4−371550(JP,A)

Claims (2)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 wt%で、 Ni:34〜38%を含有し、 H:1ppm 以下、 Mn:0.35%以下、 Al:0.02
    %以下、 Si:0.05%以下、 Cr:0.05%以下、 Ti:0.0
    2%以下 であって、〔Ti〕+〔Cr〕+〔Al〕+〔Si〕≦0.10%
    であり、 Mo:0.05%以下、 W:0.02%以下、 N
    b:0.02%以下、 V:0.02%以下、 Cu:0.02%以下として黒
    化処理前における合金板表面への{210}結晶面集積
    度が16%以下であることを特徴とする黒化処理性に優
    れたシャドウマスク用Fe−Ni合金。
  2. 【請求項2】 wt%で、 Ni:34〜38%を含有
    し、 H:1ppm 以下、 Mn:0.35%以下、 Al:0.02
    %以下、 Si:0.05%以下、 Cr:0.05%以下、 Ti:0.0
    2%以下 であって、〔Ti〕+〔Cr〕+〔Al〕+〔Si〕≦0.10%
    であり、 Mo:0.05%以下、 W:0.02%以下、 N
    b:0.02%以下、 V:0.02%以下、 Cu:0.02%以下として、
    熱延鋼帯を810〜890℃の範囲内で焼鈍し、以降、
    冷延−焼鈍−仕上げ冷延を行い、エッチング後焼鈍する
    ことにより、黒化処理前における合金表面への{21
    0}結晶面集積度が16%以下であることを特徴とする
    請求項1に記載の黒化処理性に優れたシャドウマスク用
    Fe−Ni合金。
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