JPH0851022A - 磁気抵抗効果素子 - Google Patents

磁気抵抗効果素子

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JPH0851022A
JPH0851022A JP7202893A JP20289395A JPH0851022A JP H0851022 A JPH0851022 A JP H0851022A JP 7202893 A JP7202893 A JP 7202893A JP 20289395 A JP20289395 A JP 20289395A JP H0851022 A JPH0851022 A JP H0851022A
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裕一 大沢
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Atsuhito Sawabe
厚仁 澤邊
Yuzo Kamiguchi
裕三 上口
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    • H01F10/32Spin-exchange-coupled multilayers, e.g. nanostructured superlattices
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    • H01F10/3268Exchange coupling of magnetic film pairs via a very thin non-magnetic spacer, e.g. by exchange with conduction electrons of the spacer the exchange coupling being asymmetric, e.g. by use of additional pinning, by using antiferromagnetic or ferromagnetic coupling interface, i.e. so-called spin-valve [SV] structure, e.g. NiFe/Cu/NiFe/FeMn

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Abstract

(57)【要約】 【目的】 本発明は、軟磁気特性が良好なスピンバルブ
構造の膜または人工格子膜を結うす、高感度の磁気ヘッ
ドに適用が可能である磁気抵抗効果素子を提供すること
を目的とする。 【構成】 基板上にCo,Fe,およびNiからなる群
より選ばれた少なくとも1種の元素を主成分とする強磁
性膜、非磁性膜、および前記強磁性膜を順次積層されて
なる積層膜を具備し、2つの前記強磁性膜が非結合であ
り、前記強磁性膜の最緻密面が膜面垂直方向に配向して
いることを特徴としている。また、本発明は、基板上に
形成されており前記強磁性膜と非結合である高抵抗磁性
膜と、前記高抵抗磁性膜上に形成されており5層以下の
積層膜からなる強磁性膜、非磁性膜、及び前記強磁性膜
が順次積層されてなる積層膜とを具備することを特徴と
している。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、磁気ヘッド等に用いら
れる磁気抵抗効果素子に関する。
【0002】
【従来の技術】以前より、磁気記録媒体に記録された情
報を読み出す場合は、コイルを有する読取り用の磁気ヘ
ッドを記録媒体に対して相対的に移動させて、その時に
発生する電磁誘導でコイルに誘起される電圧を検出する
方法が一般的である。また、情報を読み出す場合に磁気
抵抗効果型ヘッドを用いることも知られている[IEEE MA
G-7,150(1971)]。この磁気抵抗効果型ヘッドは、ある種
の強磁性体の電気抵抗が外部磁界の強さに応じて変化す
るという現象を利用したものであり、磁気記録媒体用の
高感度ヘッドとして知られている。近年、磁気記録媒体
の小型化・大容量化が進められ、情報読み取り時の読取
り用磁気ヘッドと磁気記録媒体との相対速度が小さくな
ってきているので、小さい相対速度であっても大きな出
力が取り出せる磁気抵抗効果型ヘッドへの期待が高まっ
ている。
【0003】従来、磁気抵抗効果型ヘッドにおいて外部
磁界を感知して抵抗が変化する部分(以下、MRエレメ
ントと呼ぶ)には、NiFe合金(以下、パーマロイと
省略する)が使用されている。パーマロイは、良好な軟
磁気特性を有するものでも磁気抵抗変化率が最大で3%
程度であり、小型化・大容量化された磁気記録媒体用の
MRエレメントに用いる場合には磁気抵抗変化率が不充
分である。このため、MRエレメント材料として、より
高感度な磁気抵抗変化を示すものが望まれている。
【0004】近年、Fe/CrやCo/Cuのように、
強磁性膜と非磁性膜をある条件で交互に積層してなる多
層積層膜、いわゆる人工格子膜には、隣接する強磁性膜
間の反強磁性的結合を利用して巨大な磁気抵抗変化が現
れることが確認されており、最大で100%を超える大
きな磁気抵抗変化率を示すものも報告されている[Phy
s.Rev.Lett.,Vol.61,2472(1988)][Phys.Rev.Lett.,Vol.
64,2304(1990)] 。
【0005】一方、強磁性膜が反強磁性結合しない場合
でも、隣接する強磁性膜間の反強磁性的結合を用いずに
別の手段で非磁性膜を挟んだ2つの強磁性膜の一方に交
換バイアスを及ぼし磁化を固定しておき、もう一方の強
磁性膜が外部磁界により磁化反転することにより、非磁
性膜を挟んで互いに反平行な状態を作り出し、大きな磁
気抵抗変化を実現した例も報告されている。このタイプ
をここではスピンバルブ構造と呼ぶ[Phys.Rev.B.,Vol.
45806(1992)][J.Appl.Phys.,Vol.69,4774(1991)]。
【0006】人工格子膜、スピンバルブ構造の膜のいず
れも、強磁性膜の種類によって、積層膜の抵抗変化特性
および磁気特性はかなり異なる。たとえば、スピンバル
ブ構造でCoを用いた場合、例えばCo/Cu/Co/
FeMnでは、8%の大きな抵抗変化率を生じるが、保
磁力が約20エルステッドと高く、軟磁気特性が良好で
ない。逆に、パーマロイを用いた場合、例えばNiFe
/Cu/NiFe/FeMnでは、保磁力が1エルステ
ッド以下の良好な値が報告されているが、抵抗変化率は
4%程度と大きくはない[J.Al.Phys.,Vol.69,4774(199
1)]。このように、積層膜の軟磁気特性は良好である
が、抵抗変化率が低下する。したがって、軟磁気特性お
よび抵抗変化率の両方を満たす積層膜の構成元素および
膜構造がまだ報告されていない。
【0007】また、2つのタイプの膜には、以下の問題
点がある。
【0008】人工格子膜では、磁界レンジを無視した抵
抗変化率ΔR/Rは、スピンバルブ型に比べて大きい
が、反強磁性結合が大きいために飽和磁界Hsが大きく
軟磁性に難があり、さらにこのRKKY的な反強磁性結合は
界面構造に敏感であるので、安定した成膜が困難であ
り、また、経時変化を生じ易い。
【0009】スピンバルブ構造の膜では、強磁性膜にN
iFe膜を用いると良好な軟磁気特性が得られるが、強
磁性膜と非磁性膜の界面が2つなのでΔR/Rは人工格
子膜に比べて小さい。この界面の数を増やすために強磁
性膜、非磁性膜、反強磁性膜を繰り返して積層してなる
多層積層膜を構成しても、この積層膜中に抵抗の高い反
強磁性膜が存在することになるのでスピン依存散乱が抑
制され、結局ΔR/Rの増加は期待できない。
【0010】また、磁気ヘッドに適する強磁性膜の困難
軸方向に信号磁界を加えた場合、片側のみの強磁性膜で
磁化が回転するので、図83に示すように、信号磁界に
より反強磁性膜1上の強磁性膜2と、非磁性膜3上の強
磁性膜4の磁化のなす角度を約90°までしか変えられ
ない。なお、容易軸方向では180°までの角度変化が
生じる。その結果、ΔR/Rは容易軸方向の約半分に減
少する。ここで、たとえ反強磁性膜1上の強磁性膜2の
交換バイアス磁界を何らかの方法で弱くして両方の強磁
性膜2,4の磁化回転を利用できるようにした場合、非
磁性膜3の膜厚を薄くして抵抗変化率の増大を目指す
と、2つの強磁性膜間に強磁性的な結合が働くために、
信号磁界0の状態では強磁性膜間の磁化は同方向を向
く。その結果、信号磁界により磁化回転しても2つの強
磁性膜間での磁化の角度変化が僅かとなり抵抗変化が僅
かになる。
【0011】さらに、この非磁性膜の膜厚を薄くした場
合に働く2つの強磁性膜間の強磁性的な結合は、強磁性
膜の透磁率を劣化させるという問題もある。また、軟磁
気特性の良好なNiFe膜では、通常の異方性磁気抵抗
効果があるが、センス電流を信号磁界と直交する方向に
流す方式では、図84に示すように、信号磁界0で2つ
の強磁性膜の磁化が同方向に揃った状態で、信号磁界に
よる異方性磁気抵抗効果とスピン依存散乱による抵抗変
化が互いに打ち消し合ってしまう。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】人工格子膜とスピンバ
ルブ構造の膜の共通の問題としては、第1に、磁気ヘッ
ドにおいて高感度を得るためには、供給する電流をでき
る限り増加させる必要があるが、この場合両者の膜と
も、一部の強磁性膜がこの電流が作る磁界により磁化の
方向が乱されて、磁界に対する高感度な抵抗変化が妨げ
られることである。具体的には、積層膜の最上層、最下
層近傍では、電流磁界が強く、磁化が電流磁界方向を向
き易い。
【0013】第2に、バルクハウゼンノイズ抑制や動作
点バイアス等の磁気ヘッドに適用する上で解決すべき重
要な問題がある。
【0014】以上のように、スピン依存散乱を利用した
人工格子膜やスピンバルブ構造の膜を有する磁気抵抗効
果素子では、高感度化に不可欠な、大電流投入時でも良
好な軟磁気特性を示し、しかも大きい抵抗変化率ΔR/
Rを示すことができないのが現状にある。
【0015】本発明はかかる点に鑑みてなされたもので
あり、軟磁気特性が良好で抵抗変化率△R/Rが充分な
スピンバルブ構造の膜または人工格子膜を有し、高感度
の磁気ヘッドに適用が可能である磁気抵抗効果素子を提
供することを目的とする。
【0016】
【課題を解決するための手段および作用】上記目的と達
成するためになされた本発明は、図1に示すようなスピ
ンバルブ構造の膜または図4に示すような人工格子膜を
有する磁気抵抗効果素子に関するものであって、基板上
に、少なくとも強磁性膜、非磁性膜、および強磁性膜が
順次積層されてなる基本構造を有している。ここで、前
記強磁性膜の材料としては、特に規定されない限り、C
o、CoFe、CoNi、NiFe,センダスト、Ni
FeCo、Fe8 N等を挙げることができる。さらに、
Co100-x Fex (0<x≦40原子%)からなる強磁
性膜は、高△R/Rでかつ低Hcを示すので好ましい。
強磁性膜の膜厚は1〜20nmであることが好ましい。な
お、本発明において強磁性とはフェリ磁性を含む意味で
ある。また、非磁性膜の材料としては、Mn、Fe、N
i、Cu、Al、Pd、Pt、Rh、Ru、Ir、A
u、またはAg等の非磁性金属やCuPd、CuPt、
CuAu、CuNi合金等を挙げることができる。非磁
性膜の膜厚は0.5〜20nmであることが好ましく、
0.8〜5nmであることが特に好ましい。
【0017】以下、本発明の磁気抵抗効果素子を具体的
に説明する。
【0018】本発明の第1の発明は、基板上に、少なく
とも強磁性膜、非磁性膜、および強磁性膜が順次積層さ
れてなる積層膜を具備した磁気抵抗効果素子であって、
2つの前記強磁性膜が非結合であり、少なくとも一方の
強磁性膜はCo,Fe,およびNiからなる群より選ば
れた少なくとも1種の元素を主成分とし、かつ、その最
密面が膜面垂直方向に配向していることを特徴とする磁
気抵抗効果素子を提供する。
【0019】第1の発明において、2つの強磁性膜が非
結合であるとは、2つの強磁性膜間に反強磁性的交換結
合が実質的に存在しないことを意味する。したがって、
2つの強磁性膜において、反平行な磁化配列状態を実現
する場合は、強磁性膜間の反強磁性的結合とは別の手段
が強磁性膜へのバイアス磁界印加手段として形成され
る。また、最密面配向とは、fcc相の場合には(11
1)面を意味し、hcp相の場合には(001)面を意
味する。
【0020】第1の発明において、前記強磁性膜の最密
面を膜面垂直方向に配向させる方法としては、前記強磁
性膜の材料にPd,Al,Cu,Ta,In,B,N
b,Hf,Mo,W,Re,Ru,Rh,Ga,Zr,
Ir,Au,およびAgからなる群より選ばれた少なく
とも1種の元素を添加する方法(特に、抵抗変化率の低
下がほとんどないPd,Cu,Au,Agの添加が好ま
しい)、強磁性膜を形成する基板としてサファイア基板
のC面等を用いる方法、基板と強磁性膜との間にCu,
Ni,CuNi,NiFe,Ge,Si,GaAs等の
fcc格子を有する材料、NiO等の菱面体格子を有す
る材料、Ti,磁性非晶質金属(CoZrNb,CoH
fTa等)、および非磁性非晶質材料からなる群より選
ばれたものからなる下地膜を設ける方法、並びにMBE
等の超高真空成膜装置により成膜する方法等が挙げられ
る。
【0021】ここで、詳しく前記下地膜の具体例を示す
と、例えばCo系強磁性膜において、Co90Fe10膜に
代表されるfcc格子を有する強磁性膜を用いる場合に
は、Cu−Ge−Zr、Cu−P、Cu−P−Pd、C
u−Pd−Si、Cu−Si−Zr、Cu−Ti、Cu
−Sn、Cu−Ti−Zr等に代表されるCu系合金、
Au−Dy、Au−Pb−Sb、Au−Pd−Si、A
u−Yb等に代表されるAu系合金、Al−Cr、Al
−Dy、Al−Ga−Mg、Al−Si等に代表される
Al系合金、Pt系合金、Pd−Si、Pd−Zr等に
代表されるPd系合金、Be−Ti、Be−Ti−Z
r、Be−Zr等のBe系合金、Ge−Nb、Ge−P
d−Se等に代表されるGe系合金、Ag系合金、Rh
系合金、Mn系合金、Ir系合金、Pb系合金等のfc
c格子を有する金属系、またはこれらfcc格子を有す
る金属を主成分とする合金系、Ge、Si、ダイヤモン
ド等のダイヤモンド構造を有する材料、GaAs、Ga
−Al−As、Ga−P、In−P等の閃亜鉛鉱型構造
を有する材料等が前記fcc格子を有する材料として挙
げられ、これらの中から選ばれた少なくとも1種類を主
成分とする材料、またはそれらに他の元素を添加した材
料等を用いることができる。上記した材料のうち、単元
素金属以外の物質は、それ自身で既に強磁性膜と比較し
て十分に比抵抗が高いため、シャント分流分の電流を抑
制する効果を有している。また、単元素金属への他元素
の添加による比抵抗の増加は、様々な組み合わせが存在
するが、Cu−Ni、Cu−Cr、Cu−Zr等に代表
されるCu系合金、Au−Cr、Fe−Mn、Pt−M
n、Ni−Mn等の合金がその中の一例として挙げられ
る。
【0022】非磁性非晶質材料としては、非磁性の単元
素金属や合金、および非金属を添加物として含むもの等
の非磁性金属材料や、水素化Siのような非晶質Si、
水素化カーボン、ガラス状炭素、黒鉛状炭素等の非晶質
カーボン等の非磁性非金属材料等が挙げられる。
【0023】上述したような下地膜の膜厚は、特に限定
されるものではないが、100nm以下とすることが好ま
しい。これは、下地膜の膜厚をあまり厚くしてもそれ以
上の効果が得られないばかりか、逆に素子全体における
下地膜に流れる電流の割合が大きく、結果として抵抗変
化率が小さくなるからである。第1の発明において、下
地膜は強磁性膜の最密面配向を改善する。さらに、上述
したような材料のうち非磁性非晶質材料においては、基
板材料によらずに層状成長させることが可能で安定して
平滑な表面が得られるため、(111)配向の改善に加
えて、その上に形成する強磁性膜の表面平滑性、さらに
は非磁性膜との界面の平滑性の向上を図ることができ
る。よって、良好な抵抗変化率を安定して得ることが可
能となる。また、第1の発明における下地膜として、非
磁性材料を用いると、その上に形成される強磁性膜に対
して悪影響を及ぼすこともない。
【0024】なお、下地膜を形成する場合、結晶配向性
は改善されるが、平滑性が劣化して抵抗変化率が低下す
る場合がある。そこで、最密面配向を促進させるための
前記第1の下地膜の材料として、fcc格子を有する材
料や磁性非晶質金属を用いる場合には、Ti、Ta、Z
rや非磁性非晶質材料等からなる平滑性を改善するため
の第2の下地膜を、第1の下地膜と基板との間に配置し
た2層構造にすることが好ましい。このような構成にす
ることにより、最密面結晶配向の向上によって得られる
良好な軟磁気特性と高い磁気抵抗変化率とを併せ持つ磁
気抵抗効果素子が得られる。また、2層構造において、
強磁性膜と同じ結晶系を有し、かつ比抵抗が強磁性膜材
料よりも大きい材料からなる第2の下地膜を用いること
により、上記効果に加えて、素子内に流れる電流におけ
るシャント電流分を少なくすることができる。なお、下
地膜を2層以上の積層構造として使用する場合には、積
層構造の厚さとして100nmを超えないことが望まし
い。
【0025】上述したような下地膜の作製方法として
は、13.56MHz または100MHz以上の高周波放電
を用いた2極スパッタリング法、ECRイオン源やカウ
フマン型イオン源等の様々なイオン源を用いたイオンビ
ームスパッタリング法、電子ビーム蒸発源やクヌーセン
セルを用いた真空蒸着法、熱CVD法、様々なプラズマ
を用いたCVD法、有機金属を原料とするMOCVD法
やMOMBE法等、各種成膜方法を適用することができ
る。これらの成膜方法に共通することとして、超高真空
までの排気や原料ガスの超高純度化を通じて、水および
酸素の管理を行うことが重要である。より具体的には、
2 OおよびO2 の含有量をppm 以下に、望ましくはpp
b オーダーまで低減することが好ましい。
【0026】第1の発明において、強磁性膜の材料とし
ては、Co系合金を用いることが好ましい。この理由
は、Coを含有しない系では、得られる磁気抵抗効果素
子の抵抗率変化△R/Rが4%程度とCo系合金の場合
に比べて低く、またCoの単元素金属では最密面配向を
実現してもCoが有する大きな結晶磁気異方性のため、
軟磁気特性がそれほど向上しない恐れがあるからであ
る。このとき、特に、Co100-x Fex (5≦x≦40
原子%)がfcc相(111)配向とすることで10%
以上の高△R/Rと80A/m未満の低Hcを示すので
好ましい。
【0027】強磁性膜の結晶配向は、そのX線回折曲線
における最密面(例えばfcc相(111)面)反射ピ
ークのロッキングカーブの半値幅が20°未満、特に7
°以下であることが好ましい。
【0028】第1の発明において、添加元素の添加含有
量は、CoFe合金等を主成分とする強磁性膜の強磁性
が室温で損なわれず、かつ、スピン依存散乱を阻害する
金属間化合物が生成されない範囲である必要がある。例
えば、添加元素がAl、Ga、Inである場合には、含
有量が6.5at%未満であることが好ましい。添加元素
がNb、Ta、Zr、Hf、B、Mo、Wである場合に
は含有量が10at%未満であることが好ましい。添加元
素がCu、Pd、Au、Ag、Re、Ru、Rh、Ir
である場合には、含有量は40at%未満であることが好
ましい。
【0029】また、基板材料としては、MgO、サファ
イヤ、ダイヤモンド、グラファイト、シリコン、ゲルマ
ニウム、SiC、BN、SiN、AlN、BeO、Ga
As、GaInP、GaAlAs、BP等に代表される
単結晶体、およびそれらの多結晶体やそれらを主成分と
する焼結体、磁性または非磁性金属の単結晶体、多結晶
体、焼結体等が代表例として挙げられるが、強磁性膜の
種類およびその下地膜材料に応じて、基板材料を選択す
る。特に、Co系合金と良好な格子整合を有し、さらに
平滑な面が容易に得易い特徴を有するサファイア基板の
C面を用いることが好ましい。サファイア基板等の単結
晶基板を用いる場合には、強磁性膜の厚さは20nm以下
にすることが好ましい。これは、強磁性膜の厚さが20
nmを超えると最密面配向が劣化するからである。
【0030】ここで、最密面配向した上記磁性膜では、
磁化方向が最密面面内から僅かに傾くとHcが急増す
る。したがって基板面にうねりがあると、たとえ最密面
配向を実現しても磁化方向が(111)面内から外れる
場合があるので、Hcは低下しない恐れがある。このた
め、基板の表面粗さが5nm未満であることが好ましい。
なお、第1の発明の磁気抵抗効果素子は、上記構成に加
えて非磁性膜と強磁性膜を交互に複数回積層したもので
あってもよい。
【0031】第1の発明において、Co,Fe,および
Niからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を主
成分とする強磁性膜の最緻密面、例えばfcc相(11
1)面が膜面垂直方向に配向することにより良好な軟磁
気特性が得られる。これは、fcc相(111)面内に
おいては、結晶磁気異方性K1 に依存した磁化容易軸が
現れないからである。また、強磁性膜を形成する基板の
表面粗さを制御することにより、強磁性膜における磁化
を最密面面内に保存することができ、これにより結晶磁
気異方性に伴う保磁力を低下させることができる。した
がって、より良好な軟磁気特性が得られる。また、ロッ
キングカーブ半値幅を20°未満、望ましくは7°以下
となるように配向することにより、保磁力(Hc)が1
00A/mまでである良好な軟磁気特性、無配向膜や他
の配向(例えばfcc相(100)配向)を上回る高抵
抗変化率(△R/R)(例えばCoFe膜では△R/R
〜10%)、および高い透磁率を共に有する高感度な磁
気抵抗効果素子を得ることができる。
【0032】なお、ここで、積層膜の主結晶配向面の法
線が、結晶配向面の揺らぎにより膜面内で成分を持ち、
この膜面内成分が異方性を有していたり、結晶性の積層
膜に発生する面欠陥の法線が、膜面内への揺らぎを持
ち、この揺らぎが膜面内で異方性を有していることがあ
る。このような異方性が強い方向は、膜成長する原子面
において強磁性原子と非磁性原子が混在し易い方向であ
る。したがって、この方向、すなわち膜面内成分による
異方性が最も大きくなる方向にセンス電流を流すことに
より、電子が界面でスピン依存散乱する確率が高くなる
と考えられる。
【0033】すなわち、積層膜注の強磁性膜の結晶配向
面が揺らいだり、面欠陥が導入されて原子配列に乱れが
生じることにより、結晶配向面内の原子配列に乱れが生
じた場合、その乱れの大きな方向にセンス電流を流すこ
とによって、電子は等価的に多くの界面および強磁性膜
を通過することになり、スピン依存散乱される確率が高
くなる。このように、センス電流の方向を積層膜の結晶
配向面の揺らぎ方向に沿う方向に設定することにより、
磁気抵抗効果素子はより大きな抵抗変化率を示す。
【0034】第2の発明は、基板上に、少なくとも強磁
性膜、非磁性膜、および強磁性膜が順次積層されてなる
積層膜を具備した磁気抵抗効果素子であって、少なくと
も一方の強磁性膜はCo,Fe,およびNiからなる群
より選ばれた少なくとも2種の元素を主成分とし、P
d,Al,Cu,Ta,In,B,Nb,Hf,Mo,
W,Re,Ru,Rh,Ga,Zr,Ir,Au,およ
びAgからなる群より選ばれた少なくとも一つの元素が
添加含有された組成を有することを特徴とする磁気抵抗
効果素子を提供する。
【0035】第2の発明の磁気抵抗効果素子は、上記構
成に加えて非磁性膜と強磁性膜を交互に複数回積層した
ものであってもよい。
【0036】第2の発明において、添加元素の添加含有
量は、CoFe合金等を主成分とする強磁性膜の強磁性
が室温で損なわれず、かつ、スピン依存散乱を阻害する
金属間化合物が生成されない範囲である必要がある。例
えば、添加元素がAl、Ga、Inである場合には、含
有量が6.5at%未満であることが好ましい。添加元素
がNb、Ta、Zr、Hf、B、Mo、Wである場合に
は含有量が10at%未満であることが好ましい。添加元
素がCu、Pd、Au、Ag、Re、Ru、Rh、Ir
である場合には、含有量は40at%未満であることが好
ましい。
【0037】第2の発明においては、上述したような添
加元素を加えることにより、Hcが100A/mまでで
ある良好な軟磁気特性および5%以上の△R/Rを有す
る高感度な磁気抵抗効果素子を得ることができる。特
に、Al,Ta,Zr,Nb,Hfの添加では、軟磁気
特性が著しく改善される。この場合、軟磁気特性が良好
になる理由は今のところ明確ではないが、結晶配向の改
善によるもの以外に、結晶磁気異方性の低減による効果
も含まれていると考えられる。さらに、Pd,Cu,A
g,Auでは、40at%程度まで大量に添加含有して
も、金属間化合物が生成せず、かつ、格子定数が大きく
なることにより、Cu等の中間非磁性膜との格子整合が
良好になり、いわゆるバルク散乱によるスピン依存散乱
の増大が期待できる。このため、軟磁気特性の改善に加
えて高△R/Rを維持することができる。
【0038】第3の発明は、基板上に、(n+1)層の
強磁性膜とn層の非磁性膜とが交互に形成されてなる積
層膜(ただし、nは1〜4の整数を示す)を具備した磁
気抵抗効果素子であって、前記積層膜の最上層および最
下層の強磁性膜の少なくとも一方に隣接して抵抗率が5
0μΩcm以上である強磁性膜がさらに積層形成されたこ
とを特徴とする磁気抵抗効果素子を提供する。
【0039】第3の発明において、抵抗率が50μΩcm
以上である高抵抗強磁性膜は、強磁性膜またはフェリ磁
性膜のいずれであってもよい。また、強磁性膜を積層数
が5層以下の積層膜としたのは、強磁性膜/非磁性膜の
界面の数が多くなると、高抵抗強磁性膜/強磁性膜の界
面の働きが相対的に低下して△R/Rが向上しないから
である。したがって、第3の発明は、スピンバルブ構造
の膜を有する磁気抵抗効果に適する。
【0040】このように、強磁性膜に高抵抗強磁性膜が
接するように積層することによって、境界面でのマグノ
ンの発生を抑制することができる。その結果として、マ
グノンと電子との衝突による電子のスピンの反転確率を
小さくすることができ、これにより室温での抵抗変化率
を増加させることが可能となり、高感度な磁気抵抗効果
素子が実現できる。ただし、この高抵抗強磁性膜材料の
抵抗率が50μΩcm未満であると、電流が主にこの高抵
抗強磁性膜中を流れてしまい、逆に抵抗変化率が減少し
てしまう。換言すれば、抵抗率が50μΩcm以上の強磁
性膜を用いることにより、高抵抗強磁性膜に電流が取ら
れることを防止することができ、シャント効果による磁
気抵抗変化率の低下が抑えられる。
【0041】高抵抗磁性膜の材料としては、Ni、F
e、Co、NiFe、NiFeCo、CoFe、Co合
金等にTi、V、Cr、Mn、Zn、Nb、Tc、H
f、Ta、W、Re等の元素を添加したものが挙げられ
る。
【0042】第3の発明において、高抵抗強磁性膜は、
高抵抗軟磁性膜であることが好ましい。このとき、隣接
する強磁性膜と高抵抗軟磁性膜とが一体化することによ
り、高抵抗軟磁性膜、例えば良好な軟磁気特性を有する
非晶質膜の磁化回転に伴い、強磁性膜の磁化も同様に磁
化回転する。これにより強磁性膜の軟磁気特性が改善さ
れる。
【0043】高抵抗軟磁性膜としては、CoZrNb等
からなる高抵抗非晶質膜、FeZrN,CoZrN等か
らなる微結晶の高抵抗軟磁性膜、あるいはNiFeXに
おいてXがRh,Nb,Zr,Hf,Ta,Re,I
r,Pd,Pt,Cu,Mo,Mn,W,Ti,Cr,
Au,およびAgからなる群より選ばれたいずれか一つ
の元素である材料からなる膜を用いることができる。ま
たこれらの中で、非晶質膜やCoZrN,NiFeNb
等からなるfcc相を有する材料からなる膜を最下層の
強磁性膜に隣接形成すると、その上の強磁性膜のfcc
(111)配向が促進されるのでよりこの好ましい。
【0044】高抵抗強磁性膜の膜厚は、0.5nm以上と
することが好ましい。これは、膜厚が0.5nm未満であ
ると高抵抗強磁性膜自体の磁性が弱くなり、マグノンの
発生を抑制することが困難となるためである。一方、高
抵抗強磁性膜の軟磁気特性がそれに隣接する強磁性膜の
軟磁気特性よりも劣る場合には、高抵抗強磁性膜の膜厚
は10nm以下であることが望ましい。これは、膜厚が1
0nmを超えると強磁性膜の磁化過程に影響を与え、軟磁
気特性を得ることが困難となるからである。
【0045】第4の発明は、基板上に、(n+1)層の
強磁性膜とn層の第1の非磁性膜とが交互に形成されて
なる積層膜(ただし、nは1〜4の整数を示す)を具備
した磁気抵抗効果素子であって、前記積層膜の最上層お
よび最下層の強磁性膜の少なくとも一方の厚さが5nm以
下であり、この厚さが5nm以下の強磁性膜に隣接して抵
抗率が前記強磁性膜の2倍以下である第2の非磁性膜が
さらに積層形成されたことを特徴とする磁気抵抗効果素
子を提供する。
【0046】第4の発明において、第2の非磁性膜の材
料は、隣接する強磁性膜の材料と同じ結晶構造を有する
ことが好ましい。すなわち、強磁性膜がfcc相を有す
る材料からなる場合、第1の非磁性膜もfcc相を有す
る材料が好ましく用いられる。このとき、第2の非磁性
膜の材料と強磁性膜の材料との間の格子定数の違いが5
%以内であることが好ましい。特に、第2の非磁性膜を
最下層の強磁性膜に隣接して形成する場合は、強磁性膜
と第2の非磁性膜との結晶整合性を高めることにより、
強磁性膜をエピタキシャル成長させることが可能とな
り、よって界面における電子の散乱を抑制することがで
きる。
【0047】具体的に、第2の非磁性膜の材料として
は、Mn,Fe,Ni,Cu,Al,Pd,Pt,R
h,Ir,Au,およびAgからなる群より選ばれた少
なくとも1種の元素を主成分としたものを用いることが
できる。また、基板と第2の非磁性膜との間には、下地
膜を介在させてもよい。
【0048】第4の発明では、各強磁性膜において結晶
成長が阻害されないように、強磁性膜を構成する材料の
結晶は、膜厚方向に結晶粒径が大きいことが望ましい。
なお、強磁性膜は5層を超えると強磁性膜と非磁性膜と
の界面の数が増加し、スピン依存散乱効果が実質的に消
失してしまう恐れがあるので、強磁性膜の積層数は5層
以下とする。
【0049】第4の発明において、第2の非磁性膜の膜
厚は、0.2〜20nmの範囲とすることが好ましい。こ
れは、第2の非磁性膜の膜厚が0.2nm未満であると、
第2の非磁性膜内に流入した電子が基板等との界面にお
いて非弾性散乱を受ける確率が増加し、平均自由行程を
有効に伸すことが困難となり、逆に膜厚が20nmを超え
ても、それ以上の効果が得られないと共に、第2の非磁
性膜のみを流れる電流が増え、大きな抵抗変化率を得る
ことが困難となるからである。
【0050】第4の発明の磁気抵抗効果素子をセンサに
適用する場合、第2の非磁性膜の材料は、強磁性膜の材
料であるCoFe合金等の2倍以下の板状体であること
が必要であり、さらには強磁性膜より小さい抵抗率を有
することが好ましい。これは、第2の非磁性膜の抵抗率
が強磁性膜の抵抗率より著しく大きいと、第2の非磁性
膜に流入した電子が散乱を受け有効的な平均自由行程を
長く保つことができず、抵抗変化率の増大は望めないか
らである。また、第2の非磁性膜の材料は、その抵抗率
が強磁性膜の抵抗率の1/4以上であることが望まし
い。これは、第2の非磁性膜材料の抵抗率が強磁性膜の
抵抗率の1/4未満であると第2の非磁性膜のみに電流
が流れ易くなるからである。
【0051】このような第4の発明は、少なくとも一方
の強磁性膜に隣接して第2の非磁性膜を積層することに
より、この強磁性膜の厚さを5nm以下と薄くしても、電
子の有効な平均自由行程を長く保てることを利用してい
る。例えば、スピンバルブ構造の膜においては、強磁性
膜の厚さを薄くしていくと、比抵抗が大きくなり、抵抗
変化率が減少してしまう。そこで、強磁性膜を薄くする
と同時に、薄くした強磁性膜に接して第2の非磁性膜を
積層することにより、電子は強磁性膜表面において非弾
性散乱を受けることなく、第2の非磁性膜に流入するこ
とができるようになり、有効的な平均自由行程を長く保
ったまま、強磁性膜を薄くすることができる。このとき
以上の作用を得るには、強磁性膜の積層数が5層以下で
ある必要がある。
【0052】上述したように第4の発明では、第2の非
磁性膜を強磁性膜に接して積層することにより、通常は
著しい抵抗変化率の減少を招く強磁性膜の厚さが5nm以
下の場合でも、抵抗変化率の大きな磁気抵抗効果素子が
得られる。しかも、強磁性膜の厚さを5nm以下と薄くし
たことによって、狭トラック幅の高密度磁気記録再生に
対応して強磁性膜を微細形状に加工しても、反磁界によ
る磁壁発生が抑制でき、よって信号磁界の検出感度が低
下することなく、またバルクハウゼンノイズの発生を抑
えることが可能となる。その結果、高密度記録の再生に
適した、ノイズが少なく高感度な磁気抵抗効果素子が実
現できる。
【0053】なお、第4の発明の磁気抵抗効果素子は、
スピンバルブ構造の膜、人工格子膜のいずれを有するも
のであってもよい。ただし、スピンバルブ型磁気抵抗効
果素子については、磁化が反強磁性膜等によって固着さ
れていない強磁性膜に隣接して、第2の強磁性膜を積層
形成することが好ましい。
【0054】第5の発明は、基板上に、少なくとも強磁
性膜、非磁性膜、および強磁性膜が順次積層されてなる
積層膜を具備した磁気抵抗効果素子であって、前記積層
膜の最上層および最下層の強磁性膜の少なくとも一方に
隣接してこの強磁性膜よりも大きい抵抗率および長い平
均自由行程を有する薄膜がさらに積層形成されたことを
特徴とする磁気抵抗効果素子を提供する。
【0055】第5の発明において、薄膜の材料として
は、Bi、Sb、炭素等の半金属、高濃度にドーピング
を行い縮退した半導体、SnO2 、TiO2 等の酸化物
半導体等が挙げられる。また、薄膜の膜厚は、1〜50
nmの範囲とすることが好ましい。これは、薄膜の膜厚が
1nm未満であると電子の平均自由行程の増大効果が十分
に得られず、膜厚が50nmを超えてもそれ以上の効果が
得られないと共に、薄膜のみを流れる電流が増え、大き
な抵抗変化率を得ることが困難となるからである。さら
に、薄膜の抵抗率が強磁性膜の抵抗率より小さいと、電
流が主に当該薄膜中を流れてしまい、磁気抵抗効果は逆
に小さくなるので、薄膜は強磁性膜よりも大きい抵抗率
を有するようにする。
【0056】なお、第5の発明おいて、平均自由行程と
は、他の物に散乱されずに電子が移動する平均の距離を
いう。
【0057】第5の発明において、強磁性膜の膜厚は、
薄膜と接する場合、第4の発明と同様の理由で5nm以下
とすることが好ましく、薄膜と接しない強磁性膜は平均
自由行程を確保するために2〜20nmの範囲とすること
が好ましい。
【0058】このような第5の発明は、少なくとも一方
の強磁性膜に接して、平均自由行程が長い薄膜を積層す
ることにより、積層膜全体の有効的な平均自由行程を長
くすることができることを利用している。例えば、スピ
ンバルブ型積層膜における磁気抵抗効果の物理的機構と
しては、以下のことが知られている。すなわち、スピン
バルブ型積層膜では、2つの強磁性膜間の磁化の方向が
互いに平行なときには、磁化に平行なスピンまたは磁化
に反平行のスピンのどちらか一方のスピンをもつ伝導電
子が、膜全体で長い平均自由行程を持つことができるよ
うになり、全体として低い比抵抗値を示す。これに対し
て、2つの強磁性膜間の磁化の方向が互いに反平行なと
きには、膜全体で平均自由行程の長い伝導電子は存在し
なくなり、比抵抗値が高くなる。スピンバルブ型積層膜
での磁気抵抗効果は、この2つの状態における平均自由
行程の長さの差によって決まる。
【0059】さらに、強磁性膜内部において、磁化に対
して平行なスピンを持った電子と、反平行なスピンを持
った電子とでは、その平均自由行程が異なることが知ら
れており、上述した原因から、強磁性膜内部で長い平均
自由行程を持つスピン方向の電子は、より長い平均自由
行程を持っている方が、スピンバルブ型積層膜の磁気抵
抗効果を大きくすることができる。そこで、第5の発明
においては、平均自由行程が強磁性膜より長い薄膜を積
層することにより、電子の有効的な平均自由行程を長く
して、磁気抵抗効果をより大きくすることを可能にして
いる。ただし、上記薄膜の比抵抗が強磁性膜より小さい
と、電流が主に積層した薄膜中を流れてしまい、磁気抵
抗効果は逆に小さくなってしまう。そのため、上記薄膜
の構成材料は、平均自由行程が長いと同時に、強磁性膜
の抵抗率以上の抵抗率を有することが必要となる。
【0060】また、上記平均自由行程が長い薄膜とし
て、抵抗率が大きい材料を用いると共に、それと接する
強磁性膜の厚さを薄くすることにより、積層膜全体とし
ての比抵抗値を増加させることが可能になる。これによ
り、高い比抵抗値を持った積層膜が得られ、微細パター
ンにおいても低電流密度で大きな信号電圧を取り出すこ
とができる。よって、発熱、マイグレーション等の問題
を回避することが可能となる。
【0061】なお、第5の発明の磁気抵抗効果素子は、
上記構成に加えて非磁性膜と強磁性膜を交互に複数回積
層したものであってもよい。
【0062】第6の発明は、基板上に、少なくとも強磁
性膜、非磁性膜、および強磁性膜が順次積層されてなる
積層膜を具備した磁気抵抗効果素子であって、前記積層
膜の最下層の強磁性膜がCoFe合金からなり、この強
磁性膜に隣接してCoFe合金よりも格子定数の大きい
fcc相を有する下地膜がさらに積層形成されてなるこ
とを特徴とする磁気抵抗効果素子を提供する。
【0063】第6の発明においては、格子定数の大きい
fcc相を有する下地膜上に形成される強磁性膜がCo
Fe合金からなるとき低Hcが実現され、特にCo
100-x Fex (5≦x≦40原子%)からなる強磁性膜
について軟磁気特性の改善が顕著となる。これは、Fe
濃度が5原子%未満であるとhcp相が混入して、逆に
Fe濃度が40原子%を超えるとbcc相が混入して格
子不整合が起こるからである。また、CoFeに添加し
得る他の元素としては、Pd,Al,Cu,Ta,I
n,B,Zr,Nb,Hf,Mo,Ni,W,Re,R
u,Ir,Rh,Ga,Au,Agを挙げることがで
き、これらの元素が添加含有された場合にも同様なHc
低減が実現される。
【0064】第6の発明において、また、下地膜として
は、fcc相で格子定数がCoFeよりも大きい材料で
あれば限定されないが、強磁性膜を構成するCoFr合
金より大きい抵抗率を有する材料を用いることが好まし
い。具体的には、Cu、Pd、Al等、Niやこれらを
主成分とする合金、あるいはfcc相を有する強磁性材
料を用いることができる。この下地膜の膜厚は、1原子
層以上であればHcを低減することができ、さらに10
0nm以下とすることが好ましい。ただし、下地膜にCu
等の抵抗率の低い材料を用いた場合には、センス電流が
下地膜に分流し易くなるので、膜厚が2nm以下であるこ
とが特に好ましい。また、基板と下地膜との間には、平
滑性改善のための膜が形成されていることが好ましく、
平滑性改善のための膜としては、Cr、Ta、Zr、T
i等からなる膜を用いることができる。
【0065】第6の発明では、fcc相であり強磁性膜
の材料よりも大きい格子定数を有する材料からなる下地
膜上に強磁性膜であるCo100-x Fex (0<x<10
0原子%)膜を形成すると、適度な格子歪がCoFe膜
に誘導され、その結果Hcが大幅に低下して良好な軟磁
気特性を示す。なお、この格子歪は下地膜の種類だけで
なく、強磁性膜の膜厚や下地膜の膜厚等を調整すること
により容易に制御できる。したがって、この強磁性膜上
に例えばCu等の非磁性膜、CoFe膜等のスピン依存
散乱能力を有する強磁性膜、および反強磁性膜を順次形
成すると、僅かな信号磁界により大きな抵抗変化を生じ
る高感度な磁気抵抗効果素子となる。ここで、基板上に
形成する下地膜の抵抗率が強磁性膜よりも大きいと、こ
の下地膜へのセンス電流の分流が抑制でき、高い抵抗変
化率を示す。さらに、この下地膜が層状に膜成長しない
ために各界面での平滑性が劣化して抵抗変化率が低下す
る場合には、層状に膜成長させる働きのある別の下地膜
を上述したような下地膜と基板との間に介在させること
により高い抵抗変化率を実現することができる。なお、
第6の発明の磁気抵抗効果素子は、上記構成に加えて非
磁性膜と強磁性膜を交互に複数回積層したものであって
もよい。
【0066】第7の発明は、基板上に、少なくとも強磁
性膜、第1の非磁性膜、および強磁性膜が順次積層され
てなる積層膜を具備した磁気抵抗効果素子であって、少
なくとも一方の強磁性膜の前記第1の非磁性膜と反対側
の主面に隣接して第1の非磁性膜とは異なる厚さを有す
る第2の非磁性膜と強磁性膜とが交互に形成されてお
り、これらの強磁性膜と第2の強磁性膜とからなる単位
積層膜内での各強磁性膜の磁化が互いに強磁性的に結合
されていることを特徴とする磁気抵抗効果素子を提供す
る。
【0067】第7の発明においては、第1の非磁性膜を
挟んで形成される両側の強磁性膜に対して少なくとも第
2の非磁性膜および強磁性膜を隣接形成してもよいし、
第1の非磁性膜の片側については単層の強磁性膜であっ
てもよい。また、強磁性膜の第1の非磁性膜と反対側の
主面に隣接して第2の非磁性膜および強磁性膜を交互に
2周期以上形成して単位積層膜を構成することも可能で
ある。ここで、単位積層膜中の第2の非磁性膜の厚さは
2nm以下であることが好ましく、さらに、互いに近接す
る強磁性膜がRKKY的な反強磁性結合をしない程度の厚さ
であることが好ましい。これは、単位積層膜中での各強
磁性膜の磁化を強磁性的結合状態に保つためである。例
えば、強磁性膜の材料がCoFeであり、第2の非磁性
膜の材料がCuである場合には、第2の非磁性膜の厚さ
は、1nm近傍でないように設定する。
【0068】また、強磁性膜と第2の非磁性膜とは格子
整合を保って成長すること、すなわち強磁性膜と第2の
非磁性膜とが格子整合されて両者の界面における余分な
散乱がないことが望ましい。これにより、抵抗の増加を
防止することができる。
【0069】第7の発明において、強磁性膜と第2の非
磁性膜とからなる単位積層膜は、軟磁気特性が良好であ
り、格子の整合性がよく、強磁性的に結合されているた
め、反強磁性結合状態に比べて抵抗が小さく、スピン依
存散乱を生じる強磁性膜と非磁性膜との界面数が多い。
このため、単位積層膜中でのいわゆるバルク散乱による
抵抗変化率増大が期待できる。したがって、この単位積
層膜を強磁性膜単位として用いた人工格子膜やスピンバ
ルブ構造の膜は、軟磁気特性が良好であり、スピン依存
散乱に起因した高い抵抗変化率を示す。その結果、高感
度な磁気抵抗効果素子が得られる。
【0070】なお、第7の発明の磁気抵抗効果素子は、
上記構成に加えて第1の非磁性膜と単位積層膜または強
磁性膜を交互に複数回積層したものであってもよい。ま
た、第7の発明の磁気抵抗効果素子は、スピンバルブ構
造の膜、人工格子膜のいずれを有するものであってもよ
い。
【0071】第8の発明は、基板上に、少なくとも強磁
性膜、非磁性膜、および強磁性膜が順次積層されてなる
積層膜を具備した磁気抵抗効果素子であって、少なくと
も一方の強磁性膜へのバイアス磁界印加手段として前記
積層膜に隣接または近接して形成されたバイアス膜を備
え、かつ、2つの前記強磁性膜にそれぞれトラック幅方
向の成分が互いに反平行となる方向のバイアス磁界が印
加されて、2つの前記強磁性膜の磁化が信号磁界により
互いに逆方向に回転することを特徴とする磁気抵抗効果
素子を提供する。
【0072】第8の発明において、信号磁界により2つ
の強磁性膜の磁化が互いに逆回転するようなバイアス磁
界を印加する方法としては、積層膜に隣接または近接し
てバイアス膜を形成する方法、より具体的には反強磁性
膜からの交換結合を用いる方法、硬質磁性膜を用いる方
法、スピン依存散乱能力を有する強磁性膜に新たな強磁
性膜を積層することにより生じる交換バイアスを利用す
る方法等や、さらにはセンス電流により発生するバイア
ス磁界や、微細パターン加工時に発する静磁結合(反磁
界)を利用する方法が採用される。ただし、少なくとも
一方の強磁性膜に対しては上述したようなバイアス膜を
形成して、バイアス磁界が印加される。具体的には、例
えば、2つの強磁性膜に隣接してそれぞれ反強磁性膜を
積層し、この反強磁性膜を用い、隣り合う強磁性膜間で
バイアス磁界の方向が180°異なるようにそれぞれの
強磁性膜を着磁する。この場合の着磁は、強磁性膜およ
び反強磁性膜の成膜時に静磁界を加える方向を180°
変えること等により達成できる。ここで、隣り合う強磁
性膜に加えるバイアス磁界は、強磁性膜の単磁区化に必
要最少限の大きさ、例えば5kA/m以下であることが
望ましい。また、両反強磁性膜は、2つの強磁性膜に互
いに異なる方向のバイアス磁界を容易に印加するため
に、それぞれ異なるネール点を有することが好ましい。
【0073】あるいは、以下に示す方法もある。一方の
強磁性膜へのバイアス磁界印加には、反強磁性膜との積
層による交換バイアス磁界を用いる。これに対し、別の
強磁性膜へのバイアス磁界印加には、反強磁性膜の前記
強磁性膜と反対側の主面に隣接して新たな強磁性膜を積
層して、反強磁性膜により磁化固着された新たな強磁性
膜から微細パターンに加工した時に発生する静磁結合磁
界(反磁界)を利用する。なお、この新たな強磁性膜
は、反強磁性膜と接する側から順に交換バイアスが加わ
るのに適した強磁性膜A(例えば、NiFeやCoFe
等の結晶性の良い膜)と、さらに静磁結合磁界を発生す
るのに適した別の強磁性膜B(例えば、Co系の非晶質
強磁性膜や窒化または炭化微結晶強磁性膜等)を強磁性
交換結合するように積層した2層構造とすることが望ま
しい。この2層構造では、強磁性膜Bの膜厚、組成調
整、作製条件等により強磁性膜のBsや抵抗値を例え
ば、Bsが低く、抵抗値が高くなるように調整すること
により、静磁結合バイアス磁界強度や、強磁性膜Bをセ
ンス電流の一部が流れることにより発生するいわゆるシ
ャントバイアス(動作点バイアス)を調整することがで
きる。なお、強磁性膜が異方性磁気抵抗効果を有するN
iFe等からなる場合には、センス電流を信号磁界の方
向と直交する方向に流すことが好ましい。すなわち、セ
ンス電流を信号磁界と直交する方向に流す方式では、N
iFe膜等を用いた場合に無視できない通常の異方性磁
気抵抗効果とスピン依存散乱による抵抗変化とが重畳さ
れるので、ΔR/Rが増大する。
【0074】また、反強磁性膜を用いて強磁性膜にバイ
アス磁界を印加する場合には、そのバイアス磁界が大き
すぎることがときに問題となるが、この大きなバイアス
磁界は反強磁性膜と強磁性膜との間に、反強磁性膜側を
強磁性膜とした強磁性膜と非磁性膜との積層膜を介在さ
せること等により低減できる。
【0075】上述したような第8の発明においては、隣
り合う強磁性膜間での磁化が信号磁界により急峻に反平
行的な状態から平行的な状態に変化する。さらに、両強
磁性膜の信号磁界零の場合の磁化方向を反平行にさせる
ために必要な反強磁性膜等からのバイアス磁界は、バル
クハウゼンノイズ抑制のために必要な最小限に抑制され
る。このため、磁気ヘッドに適する困難軸方向に信号磁
界を加えた場合(高周波特性が良好等の利点を有する)
でも、両強磁性膜の磁化回転により、両強磁性膜間の磁
化が0〜180°まで比較的低い磁界範囲で変化する。
したがって、容易軸方向と同程度の大きな抵抗変化率を
比較的低い磁界レンジで示す。なお、第8の発明では、
2つの強磁性膜に印加されるバイアス磁界の方向を必ず
しも互いに反平行とする必要はなく、換言すれば、信号
磁界零の場合における両強磁性膜の磁化方向と信号磁界
方向とのなす角がそれぞれ+90°、−90°に設定さ
れてなくてもよい。具体的には、信号磁界零の場合の両
強磁性膜の磁化方向と信号磁界とのなす角がそれぞれ+
30°〜60°、−30°〜60°の範囲内に設定され
ることが好ましい。この理由は信号磁界零の場合の両強
磁性膜の磁化方向を、反平行状態から信号磁界とのなす
角が上述したような範囲内となるように傾けることによ
り、動作点バイアスが不要となるからである。
【0076】さらに、従来のスピンバルブ型磁気抵抗効
果素子では、非磁性膜の膜厚が薄くなると抵抗変化率が
指数関数的に増大するので、できるだけ非磁性膜の膜厚
を薄くすることが望ましいが、実際には、非磁性膜の膜
厚が2nm未満になると上下強磁性膜間の強磁性的結合が
強くなり、反強磁性的磁化配列が実現できなくなり、抵
抗変化率が大幅に低下する問題点がある。しかしなが
ら、両強磁性膜にバイアス磁界を加える第8の発明にお
いては、非磁性膜の膜厚が2nm未満になっても反平行バ
イアス磁界強度の調整により反強磁性的磁化配列が実現
できるので、抵抗変化率の飛躍的増大が期待できる。
【0077】また、2つの強磁性膜にバイアス磁界を加
えるので、すべての強磁性膜から磁壁がなくなりバルク
ハウゼンノイズが抑制できる。
【0078】なお、第8の発明の磁気抵抗効果素子は、
上記構成に加えて非磁性膜と強磁性膜を交互に複数回積
層したものであってもよい。
【0079】第9の発明は、基板上に、少なくとも強磁
性膜、非磁性膜、および強磁性膜が順次積層されてなる
積層膜を具備した磁気抵抗効果素子であって、2つの前
記強磁性膜はそれぞれ信号磁界が印加されてもその磁化
方向が実質的に保持される磁化固着膜、および信号磁界
により磁化が変化して信号磁界を検出する磁界検出膜と
なり、信号磁界零の場合における2つの前記強磁性膜の
磁化方向が互いに略直交しており、かつ、信号磁界方向
にセンス電流を通電することを特徴とする磁気抵抗効果
素子を提供する。
【0080】第9の発明において、磁化固着膜の磁化を
固着させる方法としては、反強磁性膜を磁化固着膜と交
換結合するように積層する方法、磁化固着膜の高Hc化
を図る方法、高Hcを有する強磁性膜を磁化固着膜に積
層する方法が挙げられる。また、信号磁界零の場合にお
ける磁化固着膜と磁界検出膜の磁化方向を互いに直交さ
せる方法としては、磁化固着膜の磁化と直交するように
磁界検出膜の磁化容易軸を付与する方法、磁界検出膜に
隣接または近接してバイアス膜を形成し磁化固着膜の磁
化と直交する方向に例えば5kA/m以下程度の弱い交
換結合バイアスを与える方法等が挙げられる。なお、後
者の方法によれば、磁界検出膜が特に大きなバイアス磁
界を有するCoFeからなる場合でも、磁化固着膜の磁
化と略同一方向に磁界検出膜の磁化容易軸を付与して、
この磁化容易軸と直交する膜面内方向にCoFeの異方
性磁界を若干上回る交換結合バイアスを与えることによ
り、磁界検出膜の磁気異方性を低減でき、結果として低
い磁界レンジで大きな抵抗変化率を得ることが可能とな
る。
【0081】第9の発明において、信号磁界0の状態で
磁化固着膜と信号磁界検出膜の磁化のなす角度を約90
°に設定すると、例えば正の信号磁界の方向に磁化固着
膜の磁化が向いている場合には、正の信号磁界では隣り
合う強磁性膜間の磁化のなす角度が強磁性的になるので
抵抗が低下し、逆に、負の信号磁界では、隣り合う強磁
性膜間の磁化のなす角度が反強磁性的になるので抵抗が
上昇する。すなわち動作点バイアスが不要になる。
【0082】さらに、センス電流を信号磁界方向に通電
することにより、磁界検出膜の磁化が電流磁界により信
号磁界と直交する方向に向けて傾く。したがって、磁界
検出膜に加わる電流磁界のためにバルクハウゼンノイズ
が抑制できる。また、この場合、電流磁界があるので磁
界検出膜においては必ずしも磁化容易軸を必要としな
い。
【0083】なお、第9の発明の磁気抵抗効果素子は、
上記構成に加えて非磁性膜と強磁性膜を交互に複数回積
層したものであってもよい。
【0084】第10の発明は、基板上に、少なくとも強
磁性膜、非磁性膜、および強磁性膜が順次積層されてな
る積層膜を具備した磁気抵抗効果素子であって、2つの
前記強磁性膜はそれぞれ信号磁界が印加されてもその磁
化方向が実質的に保持される磁化固着膜、および信号磁
界によりその磁化方向が変化して信号磁界を検出する磁
界検出膜となり、信号磁界零の場合における2つの前記
強磁性膜の磁化方向のなす角θが30°以上60°以下
であることを特徴とする磁気抵抗効果素子を提供する。
【0085】第10の発明において、磁化固着膜の磁化
を固着させる方法としては、第9の発明と同様に磁化固
着膜に反強磁性膜を積層することにより生じる交換バイ
アスを利用する方法や磁化固着膜となる強磁性膜を高保
磁力膜とする方法等がある。また、磁界検出膜へのバイ
アス磁界印加手段としては、磁界検出膜の磁化容易軸、
磁界検出膜に隣接または近接して形成した硬質磁性膜か
らのバイアス磁界、前記反強磁性膜に隣接または近接し
て形成した強磁性膜から発生する静磁バイアス、センス
電流からの電流磁界等を利用できる。なお、センス電流
からの電流磁界を用いるためには、信号磁界とほぼ同じ
方向にセンス電流を通電することが必要である。ただ
し、磁化固着膜において磁化を安定的に固着させる観点
からは、センス電流からの電流磁界が磁化固着膜の磁化
方向とほぼ同じ方向に加わるように、センス電流を信号
磁界と直交する方向に通電することが望ましい。
【0086】第10の発明では、信号磁界零の場合にお
ける磁化固着膜と磁界検出膜とのなす角θを30〜60
°以内に設定したので、磁化固着膜からの漏れ磁界によ
り、動作点バイアスを不要としながらバルクハウゼンノ
イズ除去を行うことができる。第10の発明で上述した
ような磁化固着膜と磁界検出膜とのなす角θを30°〜
60°に設定したのは、角θが30°未満であると信号
磁界に対する線形応答磁界範囲が狭まり、60°を超え
るとバルクハウゼンノイズ除去を充分に行うことができ
ない恐れがあるからである。
【0087】ここで、信号磁界と直交する方向にセンス
電流を流す場合には、2つの強磁性膜間の強磁性的結合
磁界の方向と電流磁界の方向が同じ軸上にある。その結
果、透磁率低下を引き起こす隣り合う強磁性膜間の強磁
性的結合方向とこの電流磁界方向が略同一方向となるよ
うにセンス電流を流すと、この場合には、磁化固着され
ていない強磁性膜の磁化方向が磁化固着されている強磁
性膜の磁化方向に回転するので、両強磁性膜の磁化のな
す角度が減少する。その結果、強磁性膜として異方性磁
気抵抗効果を示す材料を用いても異方性磁気抵抗効果と
スピン依存散乱による抵抗変化が重畳されて、感度の増
大が期待できる。逆に、強磁性的結合方向と電流磁界方
向が逆方向になるようにセンス電流を流すと、この場合
には、両強磁性膜のなす角度が増大するので、信号磁界
に対する線形応磁界範囲を拡大できる。したがって、強
磁性膜の材料等に応じて、センス電流の通電方向を適宜
選択することが好ましい。
【0088】なお、第10の発明の磁気抵抗効果素子
は、上記構成に加えて非磁性膜と強磁性膜を交互に複数
回積層したものであってもよい。
【0089】第11の発明は、基板上に、少なくとも強
磁性膜、非磁性膜、および強磁性膜が順次積層されてな
る積層膜を具備した磁気抵抗効果素子であって、2つの
前記強磁性膜へのバイアス磁界印加手段として前記積層
膜に隣接または近接して積層形成された2層以上のバイ
アス膜を備えることを特徴とする磁気抵抗効果素子を提
供する。
【0090】第11の発明において、バイアス膜は、積
層膜の最上層の強磁性膜上、および最下層の強磁性膜と
基板との間にそれぞれ形成してもよいし、積層膜の最上
層の強磁性膜上に2層以上形成してもよいし、最下層の
強磁性膜と基板との間に2層以上形成してもよい。
【0091】第11の発明において、前記バイアス膜と
しては反強磁性膜または強磁性膜を挙げることができ、
このような反強磁性膜からの交換結合磁界、強磁性膜か
らの交換結合磁界または静磁結合磁界、さらには、セン
ス電流からの電流磁界等がバイアス磁界として積層膜中
の強磁性膜に印加される。なお、ここで、バイアス膜と
しての強磁性膜から交換結合磁界を発生させる場合は、
積層膜の強磁性膜とバイアス膜としての強磁性膜との間
に交換バイアスを低減させる膜を配置しても、積層膜の
強磁性膜上にそのバイアス膜としての強磁性膜を直接形
成してもよい。ただし、前者の場合、バイアス膜の一軸
異方性磁界Hkが積層膜の強磁性膜の一軸異方性磁界H
kよりも大きいことが好ましく、バイアス膜の保磁力H
cが積層膜の強磁性膜の保磁力Hcよりも大きいことが
好ましい。
【0092】第11の発明では、最上層または最下層の
強磁性膜のどちらか一方にはその磁化が実質的に信号磁
界では動かないようなバイアス磁界を加え磁化固着膜と
し、もう一方には信号磁界が検出できバルクハウゼンノ
イズが除去できるようなバイアス磁界を加え磁界検出膜
とすることが好ましい。このときの磁化固着膜へのバイ
アス磁界印加には反強磁性膜の積層が適する。また、磁
界検出膜へのバイアス磁界印加には強磁性膜または反強
磁性膜の積層が適する。ここで、バイアス膜としての強
磁性膜には、回転磁界中で熱処理を施したCo系非晶質
膜等何等かの方法で単磁区化され磁化方向が一方向に揃
った高抵抗の軟磁性膜や、静磁界中で熱処理を施したC
oあるいはCoFe系の非晶質膜等高い一軸磁気異方性
を有する膜、あるいは高保磁力膜等が適する。またバイ
アス膜となる強磁性膜を他の膜よりも幅広く形成して、
そのエッジ部に硬質磁性膜や反強磁性膜を積層しても単
磁区化された高抵抗な軟磁性膜が実現できる。
【0093】第11の発明において、少なくとも2層の
バイアス膜を上述したような積層膜に隣接または近接し
てさらに積層形成することにより、特定の強磁性膜へは
磁化固着を可能にするような強いバイアス磁界を、他の
特定の強磁性膜へはバルクハウゼンノイズを除去するた
めに必要最小限のバイアス磁界を加えることが可能とな
る。このとき、2層以上のバイアス膜が積層形成される
第11の発明では、例えば磁界検出膜のみを他の磁化固
着膜等より幅広く形成してそのエッジ部にバイアス膜を
積層する場合に比べ、一括した連続成膜によりバイアス
膜を含めた多層膜が短時間で容易に作製できる利点があ
る。これは、厚さが1〜20nm程度の磁界検出膜のエッ
ジ部のみを残して他の磁化固着膜等のエッジ部を除去
し、磁界検出膜のみを幅広く形成することが非常に困難
であることに基づく。
【0094】さらに、ここで2層のバイアス膜により強
磁性膜に印加されるバイアス磁界を直交させると、第9
の発明と同様に信号磁界零の場合における磁化固着膜と
磁界検出膜の磁化方向のなす角がほぼ90°になり、動
作点バイアスが不要になる。また、磁界検出膜に加わる
バイアス磁界によりバルクハウゼンノイズが除去でき、
かつ、バイアス磁界の大きさがバイアス膜の磁気異方性
や膜厚、あるいは積層膜とバイアス膜との界面の調整に
より容易に制御できる。しかも、バイアス磁界で強磁性
膜の磁化容易軸の方向と略直交方向に印加すれば、高い
Hkを示すCo系材料からなる強磁性膜についても膜の
透磁率を向上させることができる。
【0095】また、第11の発明は、3層の強磁性膜お
よび2層の非磁性膜が交互に形成されてなる積層膜を基
板上に具備し、最上層および最下層の強磁性膜が磁化固
着膜となり、透磁率が高い中央の強磁性膜が磁界検出膜
となる磁気抵抗効果素子にも好ましく適用できる。
【0096】このような磁気抵抗効果素子では、最上層
の強磁性膜と最下層の強磁性膜は、低透磁率、すなわち
積層膜に隣接または近接してさらに積層形成された2層
以上のバイアス膜で磁化が固着されているので、信号磁
界に対する磁化方向の変化は僅かである。一方、中央の
強磁性膜は透磁率が高いために、僅かな磁界により大き
な磁化回転を生じる。その結果、最上層の強磁性膜と最
下層の強磁性膜の磁化と中央の強磁性膜の磁化のなす角
度が信号磁界により鋭敏に変化する。また、従来のスピ
ンバルブ構造の膜に比べてスピン依存散乱を生じる界面
数が少なくとも2倍に増える。このため、僅かな磁界で
大きな抵抗変化が得られる。
【0097】なお、中央の強磁性膜の磁化を反強磁性膜
等のバイアス膜により固着して透磁率を低下させると、
反強磁性膜は抵抗率が高いのでΔR/Rは大幅に低下す
るが、最上層および最下層の強磁性膜の磁化を固着する
場合は、反強磁性膜をスピン依存散乱ユニットの外に配
置できるので、ΔR/Rを低下させることなく磁化固着
が可能になる。
【0098】さらに、高透磁率の強磁性膜は、スピンバ
ルブ構造の積層膜の中央近傍に存在するので、センス電
流からの電流磁界は弱くなり、その結果、電流磁界によ
り磁界検出膜となる強磁性膜の磁化配列が乱される問題
も回避できる。
【0099】第12の発明は、基板上に、膜面内に六方
晶C軸が存在する高保磁力膜と、前記高保磁力膜よりも
低い保磁力を有する強磁性膜とを具備することを特徴と
する磁気抵抗効果素子を提供する。
【0100】第12の発明において、通常の高保磁力膜
が膜面垂直方向の結晶磁気異方性による強い静磁結合
で、低保磁力膜を高保磁力化してしまうことを抑制でき
る。これにより、この高保磁力膜をスピンバルブ構造の
膜における磁化固着膜とした場合に、信号磁界を検出す
る磁界検出膜の軟磁気特性を劣化させることはない。ま
た、磁化の平行状態、反平行状態を効率良く実現でき、
さらに積層膜中の非磁性膜厚を著しく薄くすることがで
きるため抵抗変化率を増大させることができる。なお、
ここで磁化固着膜としての高保磁力膜および非磁性膜は
交互に複数回積層されてもよい。
【0101】さらに、単結晶様の高保磁力膜は電気抵抗
が低いため、低保磁力膜との積層膜とした場合でもスピ
ン依存散乱には影響せず出力を増大させることができ
る。さらに、この単結晶様の高保磁力膜は高い結晶磁気
異方性を持つことから、高透磁率(磁化が動きにくい)
を有し、磁化固着の効果が大きい。
【0102】また、第12発明において、高保磁力膜は
強磁性膜にバイアス磁界を印加するためのバイアス膜と
して用いてもよい。このとき例えば、高保磁力膜を磁化
固着膜の磁化を固着させるためのバイアス膜として用い
た場合にも、信号磁界を検出する磁界検出膜の軟磁気特
性を劣化させることはない。さらに、この高保磁力膜
は、バルクハウゼンノイズ対策用のバイアス膜や、信号
磁界がない場合に磁化の反結合状態を作るバイアス膜と
しても用いることができ、同時に両方の機能を持たせる
ことも可能である。さらに、第12の発明は、基板上に
強磁性膜および非磁性膜が交互に形成されてなる積層膜
を具備する磁気抵抗効果素子に限らず、NiFe合金等
の異方性磁気抵抗効果を利用する磁気抵抗効果素子にも
適用可能である。
【0103】
【実施例】以下、本発明の実施例を具体的に説明する。 (実施例1)基板として、0.2μmの触針先端半径を
有する触針式表面粗さ計で平均表面凹凸が2nm程度にな
るまでサファイア基板C面(α−Al2 3 基板の(0
001)面)をメカノケミカルポリッシング法により研
磨して鏡面状態としたものを用いた。
【0104】このサファイア基板を真空チャンバー内に
載置し、真空チャンバー内を5×10-7Torr以下にまで
排気した。その後、真空チャンバー内にArガスを導入
し、真空チャンバー内を約3 mTorrとして、約4000
A/mの静磁界中においてスパッタリングを行うことに
より、図1に示すように、サファイア基板10上に強磁
性膜であるCo90Fe10膜11、中間非磁性膜であるC
u膜12、強磁性膜であるCo90Fe10膜11、反強磁
性膜であるFeMn膜13、保護膜であるTi膜14を
順次成膜してTi5nm/FeMn8nm/Co90Fe10
nm/Cu2.2nm/Co90Fe108nmなるスピンバルブ
構造の積層膜を作製して磁気抵抗効果素子を得た。さら
に、この積層膜上にCuリード15を形成した。なお、
CoFe系合金膜の組成は、大きな抵抗変化率を示すこ
と[日本応用磁気学会誌、16,313(1992)] および軟磁気
特性の点からCo90Fe10とした。
【0105】ここで、保護膜の材料としては、Ti以外
にCu、Cr、W、SiN、TiN等の非磁性体を用い
ることができる。なお、FeMnの酸化を防ぐため、酸
化物以外の材料を用いることが望ましい。また、Ti膜
14の膜厚は保護効果があれば5nmでなくてもよいが、
センス電流を流す際のTi膜14への分流による感度低
下を防ぐため、またCo90Fe10膜11に比べて高い電
気抵抗率を有することを考慮して膜厚は数十nm以下であ
ることが望ましい。
【0106】FeMn膜13と接するCo90Fe10膜1
1は、FeMnにより磁化固着され、もう一方のCo90
Fe10膜11は、外部磁界に応じて磁化反転・回転す
る。強磁性膜であるCo90Fe10膜11の膜厚は2層と
も8nmとしたが、2層の強磁性膜の厚さは同じでも異な
っていてもよい。強磁性膜は、その膜厚が一原子層
(0.2nm)以上であれば原理的に使用可能であるが、
MRエレメントの実用上0.5〜20nmが妥当である。
【0107】2つのCo90Fe10膜11の間に形成され
たCu膜12の膜厚は本実施例では2.2nmで形成した
が、この膜厚以外でもよく、実用上0.5〜20nmが望
ましい。また、Cu以外の材料としては、Au、Ag、
Ru、Cu合金等を用いることができる。
【0108】反強磁性膜であるFeMn膜13は、直接
接するCo90Fe10膜11の磁化固着に使用される。こ
の膜厚は、約1nm以上あれば使用可能であるが、信頼性
および実用性から2nm〜50nmであることが望ましい。
なお、FeMn以外に、反強磁性膜の材料としてNi酸
化物も使用できる。反強磁性膜の材料としてNi酸化物
を用いる場合、Arおよび酸素の混合ガス雰囲気中でス
パッタリングを行ったり、イオンビームスパッタ法、デ
ュアルイオンビームスパッタ法等を適用することで良好
なNi酸化物の反強磁性膜を形成することができる。ま
た、Ni酸化物膜は、サファイア基板C面上に良好に形
成することができるので、スピンバルブ構造をTi5nm
/Co90Fe108nm/Cu2.2nm/Co90Fe108nm
/Ni酸化物50nmとすることもできる。この場合、N
i酸化物膜の厚さは1nm以上であれば、安定したバイア
ス磁界をCo90Fe10膜に与えることができる。
【0109】磁気抵抗効果素子の磁気特性、抵抗変化
率、並びに結晶構造を調べた。なお、磁気特性は振動型
磁力計(VSM)にて最大印加磁界1.2MA/mで測
定し、抵抗変化率は静磁界中で4端子抵抗測定法により
測定した。結晶構造はθ−2θスキャンおよびロッキン
グカーブX線回折法で測定した。VSMおよびX線回折
では、メタルマスクで8mm角にパターニングされた膜に
ついて、抵抗変化率はメタルマスクにより1mm×8mmの
ストライプ状にパターニングされた膜について測定し
た。磁気抵抗効果素子の磁界中における抵抗変化は四端
子法で測定した。
【0110】磁気抵抗効果素子の測定結果を図2に示
す。図2から分かるように、磁化容易軸方向に外部磁界
を印加すると、最大抵抗変化率は約10%であった。ま
た、この磁気抵抗効果素子の保磁力は160A/m以下
であった。このように、この磁気抵抗効果素子は、約1
60A/mの弱い磁界で、約10%の大きな抵抗変化が
得られており、良好な軟磁気特性と高い抵抗変化率が得
られたことが分かった。また、磁化困難軸方向に外部磁
界を印加すると、抵抗変化率は約4%であったが、保磁
力は80A/mと軟磁気特性は極めて良好であった。
【0111】また、この磁気抵抗効果素子の磁化曲線を
図3(A)および図3(B)に示す。図3(A)から分
かるように、磁化容易軸方向の保磁力は約160A/
m、磁化困難軸方向の保磁力は約80A/mであること
が分かる。また、図3(B)から分かるように、磁化容
易軸方向には、FeMnに接するCo90Fe10膜に約
5.3KA/mの交換バイアスが印加されていることが
分かる。
【0112】また、この磁気抵抗効果素子の結晶構造
は、強いfcc相(111)面配向(最密面配向)を示
していた。
【0113】熱酸化Si基板上に上記と同様にしてTi
/FeMn/CoFe/Cu/CoFe膜を形成した。
これについて上記と同様にして評価した結果、X線回折
の最密面ピークは上記の場合と比べて1/10以下に低
下し、Hcは容易軸方向で3000A/mであり、磁気
抵抗効果素子には応用困難な高い値であり、抵抗変化率
も上記の(111)配向膜よりも小さな8%以下の値を
示した。
【0114】次に、MgO(100)基板上に上記と同
様にしてTi/FeMn/CoFe/Cu/CoFe膜
を作製した。これについて上記と同様にして評価した結
果、X線回折ピークは高強度(100)ピークのみを、
すなわち良好な(100)配向を示した。このとき、H
cは容易軸方向で1200A/mであり、磁気抵抗効果
素子には応用困難な高い値を示し、抵抗変化率も上記の
(111)配向膜よりも小さな8%以下の値を示した。
【0115】以上のことから、(111)配向を実現す
ると、低Hcかつ高抵抗変化率が実現できることが分か
る。
【0116】次に、強磁性膜としてCo膜を用いたTi
5nm/FeMn8nm/Co8nm/Cu2.2nm/Co8
nmなるスピンバルブ構造の磁気抵抗効果素子をサファイ
アC面基板上に作製し、上記と同様にして磁気特性およ
び抵抗変化率を測定したところ、同様な最密面配向、抵
抗変化率は8%程度の値を示し、保磁力は800A/m
程度あった。なお、熱酸化Si基板では、△R/R=7
%、Hc=2000A/mであった。
【0117】これらの結果から強磁性膜の材料としてC
oを用いても低Hc、高△R/Rが得られるが、強磁性
膜の材料としてCoにFeを添加した合金を用いること
で軟磁気特性が発生しやすくなっており、より望まし
い。
【0118】さらに、Ti5nm/FeMn8nm/Co
100-x Fex 8nm/Cu2.2nm/Co100-x Fex
nm/サファイアC面またはガラス基板からなるスピンバ
ルブ型の磁気抵抗効果素子をCo100-x Fex 強磁性膜
のFe濃度x(原子%)を変化させて作製した。その結
果得られた△R/RとHcの関係を下記表1に示す。表
1から分かるように、サファイアC面上では5≦x≦4
0の範囲で顕著なHc低減と△R/Rの増大が実現され
ることが明らかである。
【0119】
【表1】 (実施例2)サファイア基板のC面上、ガラス基板(コ
ーニング社製#0211)上、Si基板の(111)面
上に、厚さ10nmのCu下地膜を形成し、さらにその上
にそれぞれ実施例1と同様の成膜条件でCo90Fe10
を形成した。なお、Cu下地膜は、バイアススパッタリ
ング法やイオンアシストしたイオンビームスパッタリン
グ法・蒸着法等で成膜できる。このCo90Fe10膜の保
磁力(Hc)を測定した。また、前記それぞれの基板上
にCu下地膜を介してCo90Fe10膜の膜厚を種々変更
して形成し、そのCo90Fe10膜の保磁力(Hc)を測
定した。その結果を図6に示す。さらに、前記基板上に
Cu下地膜を形成せずに上記と同様にして種々の膜厚の
Co90Fe10膜を形成して、それぞれその保磁力(H
c)を測定した。その結果を図7に示す。
【0120】図6および図7から分かるように、いずれ
の基板においても、Cu下地膜が形成されている場合
(図6)は、Cu下地膜が無い場合よりも低いHcを示
している。また、Cu下地膜の有無にかかわらず、サフ
ァイア基板のC面、Si基板の(111)面、ガラス基
板の順にHcが低く、良好であることが分かる。特に、
サファイア基板のC面にCu下地膜を介して厚さ8nmの
Co90Fe10膜を形成した場合に、80A/m以下の低
Hcを示した。なお、Cu下地膜を有するCo90Fe10
膜のHcは、Co90Fe10膜の膜厚増加にしたがって僅
かに増加する傾向を示した。一方、Cu下地膜なしのC
90Fe10膜のHcは、まず膜厚増加に伴い減少し、さ
らに膜厚が増加するにしたがって増加する傾向を示し
た。例えば、Co90Fe10膜の膜厚が約8nmである場
合、そのHcの極小値は160A/m以下であった。
【0121】このように、基板上に強磁性膜を形成する
際に両者の間に下地膜を形成することにより、良好な軟
磁気特性を得ることができることが分かる。
【0122】また、サファイア基板のC面上またはSi
基板上にCo90Fe10膜やCo膜を形成する場合の下地
膜としてCuNi合金膜を用いることにより、良好な軟
磁気特性が得られることが分かった。また、ガラス基板
上またはセラミック基板上にCo90Fe10膜やCo膜を
形成する場合の下地膜として数〜100nmのGe,S
i,またはTi膜を用いることにより、最密面配向が促
進され、その結果、良好な軟磁気特性を得られることが
分かった。
【0123】また、Co90Fe10膜やCo膜より高抵抗
である材料を下地膜に用いることにより、MRセンス電
流の分流を防ぐことができる。例えば、実施例1におい
て記述したNi酸化物膜は高抵抗であり、サファイア基
板のC面上にエピタキシャル成長させることが可能な反
強磁性膜であるので、下地膜と反強磁性バイアス膜を兼
ねることができる。図8にNi酸化物膜26を用いたス
ピンバルブ構造の磁気抵抗効果素子を示す。 (実施例3)Co90Fe10膜が示す保磁力に及ぼすサフ
ァイア基板の面方位の影響を調べた。本実施例では、C
面およびR面(α−Al2 3 基板の(1012)面)
で比較した。
【0124】膜厚10nmのCo90Fe10膜をサファイア
基板のC面とR面上にそれぞれ形成した。この面方位に
よる結晶配向の違いを図9(A)および図9(B)に示
す。図9(A)から分かるように、C面上では、良好な
fcc(111)配向が実現でき、その結果保磁力が1
60A/m以下と良好な軟磁気特性を有するCoFe合
金膜が形成できた。一方、図9(B)から分かるよう
に、R面上では、fcc(111)のピーク以外にもf
cc(200)のピークが検出され、fcc(111)
配向があまり良好でない。このため、保磁力が数百A/
m以上もあり、良好な軟磁気特性は得られなかった。
【0125】図9(A)において、C面では基板である
サファイアのピーク以外に2θ=43.5°付近にfc
c相(111)面に対応するピークのみ(若干のhcp
相(001)面配向を含み得る)が強く現れている。ま
た、このピーク強度が強いほどCo90Fe10膜は低保磁
力を示した。一方、図9(B)において、R面ではサフ
ァイアのピークおよびfcc相(111)面ピーク以外
に、2θ=52.6°付近にfcc相(200)面に対
応するピークが現れている。このfcc相(100)面
配向の存在は、結晶磁気異方性容易軸が面内に現れてい
ることを意味し、これは保磁力を上昇させる原因とな
る。
【0126】次に、このサファイア基板のC面上におけ
るCo90Fe10膜の(111)面(最密面)に対応する
ピークに関して、ロッキングカーブを測定した。そのロ
ッキングカーブを図10に示す。図10から分かるよう
に、θ=21.8°付近をピークとして半値幅が3°程
度と極めて強い配向が確認できる。このロッキングカー
ブには、サファイア基板のピークも重複されているが、
Co90Fe10膜の良好な結晶配向が確認できる。
【0127】次に、図11に、Co90Fe10膜の保磁力
と、Co90Fe10膜の(111)面(最密面)に対応す
るピークのロッキングカーブにおける半値幅との相関を
示す。図11から分かるように、ガラス基板上にCo90
Fe10膜を形成すると、(111)ピークが微弱である
場合が多く、ロッキングカーブ半値幅は20°以上であ
り、Hcは3000A/m以上であった。また、Ar圧
力、基板温度を最適化してロッキングカーブの半値幅が
15°程度になると、Hcは1000A/m程度に減少
する。このCo90Fe10にAlを約1%を添加した材料
からなる膜をガラス基板上に形成すると、半値幅は8°
程度に減少し、Hcは350A/m程度となる。また、
サファイア基板のC面上にCo90Fe10膜を形成するこ
とにより、さらに半値幅は3°程度にまで減少し、Hc
は約160A/m程度となる。したがって、最密面(C
90Fe10膜の場合(111)面)に対応するピークの
ロッキングカーブの半値幅が20°未満に減少するに伴
い、急激に保磁力が減少する傾向にあることが確認でき
る。例えば、ロッキングカーブの半値幅が7°以下で、
保磁力が160A/mと良好な値に近付いてくることが
分かる。すなわち、Co90Fe10膜の最密面配向が強く
なっていくにしたがって、Co90Fe10膜の保磁力が低
下する。このように、良好な軟磁気特性は強磁性膜の配
向度と強く相関があることが分かる。
【0128】Co90Fe10膜の最密面配向を強くする方
法としては、上述したように、第1に後述する各種添加
元素を加える方法、第2に基板材料・方位を選択する方
法、第3に基板とCo90Fe10膜との間に下地膜を設け
る方法、第4にMBE等の超高真空成膜装置により成膜
する方法等いくつかの方法が挙げられる。なお、第2の
方法において、基板にサファイア基板のC面を用いた場
合、その面をメカノケミカルポリッシュ、フロートポリ
ッシュまたはイオンポリッシュ等で研磨して基板の平均
表面粗さ(Ra)を2nm以下にすることにより、その上
に形成したCo90Fe10膜がさらに良好な軟磁気特性を
示すことが分かった。しかし、平均表面粗さが5nm以上
では、Co90Fe10膜の保磁力は1000A/m以上で
あった。 (実施例4)実施例3において、Co90Fe10膜の単層
膜について、第1および第2の方法で最密面配向を強く
することにより保磁力が低下することが分かった。次
に、Co90Fe10膜を含む積層膜についても同様のこと
がいえるかを確認する。
【0129】ガラス基板上にAl含有Co90Fe1010
nm/Cu5nm/Al含有Co90Fe1010nmの積層膜を
実施例1と同様の成膜条件で形成した。この場合のCo
90Fe10膜中のAl元素添加量とCo90Fe10膜の保磁
力との関係を図12に示す。図12から分かるように、
積層膜においてもAl元素の添加により保磁力を低下さ
せることができることが分かる。また、実施例2に示し
た第2から第4の方法でも同様に積層膜におけるCo90
Fe10膜の最密面の配向を強くすることができた。
【0130】次に、積層膜におけるCo90Fe10膜の保
磁力の最密面ピーク強度依存性を図13に示す。図13
から分かるように、単層膜の場合同様に最密面ピーク強
度が大きくなるほど、保磁力が低下しているが確認でき
る。上記構造の場合、ピーク強度は102 (a.u.) と弱
く、保磁力は103 A/m程度である。この場合におい
て、Co90Fe10にAlを1原子%程度加えた材料から
なる膜を用いることにより、保磁力は数百A/m程度に
低下した。また、ガラス基板をサファイア基板のC面に
代えることにより、103 (a.u.) 以上のピーク強度と
100A/m以下の良好な保磁力が得られた。なお、こ
のときの半値幅は7°以下であった。 (実施例5)Co90Fe10にAl以外の添加元素を加え
て保磁力を調べた。この場合、添加元素として、Ta、
Pd、Zr、Hf、Mo、Ti、Nb、Cu、Rh、R
e、In、B、Ru、Ir、Wを用いたときにも保磁力
の低下が認められた。また、それらの元素の組み合わ
せ、例えばTaとPd、NbとPd、ZrとNbを添加
しても保磁力の低下が確認できた。一例として、Ta含
有Co90Fe1010nm/Cu5nm/Ta含有Co90Fe
1010nmの積層膜の構造において、Taの添加量と保磁
力との関係を図14に示す。図14から分かるように、
この場合においてもTa元素の添加により保磁力が低下
したことが確認できる。 (実施例6)以上はCoFe膜に関して(111)高配
向を実現した実施例であるが、CoFe膜に限られず、
CoFeNi膜、CoNi膜等を用いても同様な効果が
見られた。その実施例を下記表2に示す。表2は、
(1)強磁性膜の組成、(2)基板の種類、(3)基板
とスピンバルブ膜との間の下地膜をパラメータとして作
製した図1と同様の構造(FeMn膜と接する側はCo
Fe膜のままである)を有するスピンバルブ膜における
(111)ピークのロッキングカーブ半値幅△θ50、容
易軸方向のHc、△R/Rを示したものである。比較の
ため、表2と同じ組成の強磁性膜のスピンバルブ膜を下
地膜なしにガラス基板上に作製した場合の結果を表2に
併記する。
【0131】
【表2】 表2から分かるように、CoFe膜に限らずCoFeN
i膜やCoNi膜でも、ガラス基板への直接成膜に比べ
て、サファイアC面基板上あるいはTi,Si,Ge等
からなる下地膜を用いることにより、△θ50<7°の良
好な(111)配向膜を得ることができ、その結果Hc
が低下し、高い抵抗変化率が実現できる。
【0132】しかし、Ti等からなる下地膜やサファイ
アC面基板により(111)高配向の(M 1nm厚/Cu
1nm厚)16人工格子膜を作製したところ(M:Co20
80、Co20Fe15Ni65)、△R/Rは2%以下の著
しく小さな値を示しRKKY的反強磁性結合特有の高い飽和
磁界が消失した。(111)配向するとRKKY的反強磁性
結合が得られないので抵抗変化率が低下したことが分か
る。したがって、スピンバルブ膜に限らずRKKY的な反強
磁性結合を用いないタイプ(保磁力の差を用いたいわゆ
る非結合型人工格子膜(第14回日本応用磁気学会学術
講演概要集、1990年、177 頁)等)で(111)高配向
を実現すると高い抵抗変化率と良好な軟磁性が両立しや
すい。
【0133】また、これに加えてFeMnに接する強磁
性膜も下側磁性膜と同じ組成の膜に置き換えても同様の
効果が得られることが確認された。 (実施例7)ガラス基板上(下地膜なし)にTi5nm/
FeMn8nm/CoFe8nm/Cu2.2nm/強磁性膜
8nmのスピンバルブ膜を実施例1と同様の条件で成膜し
た。このとき、下部強磁性膜に加える非磁性添加元素と
容易軸方向の抵抗変化率とHcの関係を下記表3に示
す。
【0134】
【表3】 表3から分かるように、ガラス基板に成膜した非磁性元
素を添加しない膜に比べてHcが低下した。Al,Ta
等の添加ではHcの低下が顕著であるが、大量に添加す
ると抵抗変化率が大幅に低下した。Alでは6.5原子
%未満、Taでは10原子%未満で、NiFeからなる
スピンバルブ膜を上回る5%以上の抵抗変化率と低Hc
を両立できることが分かる。なお、CoFeにAlまた
はTaを添加すると、X線回折において最密面ピーク強
度が増加した。一方、Cu,Au,Ag,Pd等は、H
c低減効果がAlまたはTaほど顕著ではないが、10
原子%以下の大量の添加でも抵抗変化率の低下が見られ
ない。CoFeへのCu,Au,Ag,Pd等の添加で
もX線回折における最密面ピーク強度が増加した。これ
らHcの低下には、X線回折における最密面ピーク強度
が添加元素により向上したことから、前述した結晶配向
性の向上が起因していると考えられる。これに加えて、
添加元素による結晶磁気異方性の低減もHcの低下に起
因している可能性もある。
【0135】さらに、65℃95%RHの恒温恒湿槽に
100時間放置して単層の各強磁性膜(100nm厚)に
ついて耐食性を調べたところ、Pdを7原子%以上添加
した膜では変色はなかったが、非磁性元素を添加しない
CoFe膜、Co20Ni80膜、Co20Fe15Ni65膜や
Alを6.5原子%添加した膜、Taを6原子%添加し
た膜等は変色が見られた。すなわち、Pdの添加は、耐
食性を改善する効果を発揮する。Pdのみの添加ではH
cの低下があまり顕著ではないが、Pdを例えばCuと
共に添加すると、高い抵抗変化率と耐食性を保って軟磁
気特性のさらなる改善が可能になる。さらに、サファイ
アC面基板やアモルファス金属下地膜、fcc格子の下
地膜を用いると、Pdのみの添加でもHcが80A/m
未満にまで低下し、さらに、Pdの40at%までのPd
濃度範囲で〜10%の高い抵抗変化率を示した。しかし
ながら、同じ貴金属で耐食性改善に効果的であると予想
されるPtを添加すると、HcがPtを添加しない膜以
上に増加した。このため、軟磁気特性の観点からPtの
添加は好ましくない。 (実施例8)表面粗さがRa =2nm以下の熱酸化Si基
板表面をSH(硫酸と過酸化水素の混合液)処理により
清浄化した後、この基板を真空装置内に載置して、1×
10-9Torr以下まで排気した。真空装置内の水および酸
素は、質量分析器および露点計によって管理した。以上
の手順が終了した後、装置内に超高純度Arガスを導入
して、装置内の真空度を1×10-4Torrとし、ECRイ
オン源内部において2.45GHz のマイクロ波放電を発
生させて加速したイオンビームによりスパッタリングを
行い、図15に示すように、熱酸化Si基板150上に
第1の下地膜151として、非晶質Si膜を膜厚5nmで
成膜した。その後、真空を保ちながら連続して、第1の
下地膜151上に第2の下地膜152として、Cu−N
i合金を膜厚2nmで成膜した。
【0136】その表面に第1の強磁性膜153としてC
90Fe10合金膜を厚さ8nmで、非磁性膜154として
Cu−Ni合金膜を厚さ2.2nmで、第2の強磁性膜1
55としてCo90Fe10合金膜を厚さ8nmで、反強磁性
膜156としてFe−Mn合金膜を厚さ8nmで、保護膜
157としてTi膜を厚さ5nmで順次成膜し、スピンバ
ルブ構造の積層膜を作製した。以上の薄膜は、いずれも
イオンビームスパッタリングにて形成した。さらに、こ
の積層膜上にCu電極158a,158bを形成するこ
とによって、スピンバルブ型磁気抵抗効果素子159を
得た。
【0137】なお、強磁性膜153,155におけるC
oFe系合金膜の組成物としては、大きな抵抗変化率
(日本応用磁気学会誌:16.313(1992))お
よび軟磁気特性の観点からCo90Fe10とした。
【0138】このようにして得たスピンバルブ型磁気抵
抗効果素子の結晶性、磁気特性および抵抗変化率を測定
したところ、CoFe合金膜のX線回折による半値幅は
1°であり、軟磁気特性を示す物性の一つである保磁力
は0.1Oeであった。また、この素子を用いて測定し
た磁気抵抗変化率は、約10%という高い値を示した。
【0139】また、比較のため、同じ処理を施した基板
を真空装置内に載置し、1×10-7Torr以下まで排気し
た後、通常のArガスを2×10-3Torrまで導入し、そ
の基板表面に非晶質Si膜を成膜することなく、Cu膜
を下地膜として直接成膜し、その表面に実施例8と同一
構成のスピンバルブ構造の積層膜を作製した。さらに、
この積層膜上にCu電極を形成して、磁気抵抗効果素子
とした。この積層膜は、通常の13.56MHz にて励起
された2極スパッタリング法によって形成した。
【0140】この磁気抵抗効果素子の結晶性、磁気特性
および抵抗変化率を測定したところ、CoFe合金膜の
X線回折による半値幅は7°であり、軟磁気特性を示す
物性の一つである保磁力は1.5Oeであった。また、
この素子を用いて測定した磁気抵抗変化率は約5%であ
った。 (実施例9)表面粗さがRa =2nm以下のサファイヤ基
板を表面清浄化した後、この基板を真空装置内に載置
し、1×10-9Torr以下まで排気した。真空装置内の水
および酸素は、質量分析器および露点計によって管理し
た。以上の手順が終了した後、電子ビーム蒸着源を用い
た超高真空蒸着法によって、第1の下地膜として、非晶
質CuTi膜を膜厚3nmで成膜した。その後、真空を保
ったまま連続して、励起周波数100MHz の超高真空R
Fスパッタリングを用いて、第2の下地膜としてFeM
n合金膜を膜厚2nmで成膜した。
【0141】次に、上記下地膜上に、Ti5nm/FeM
n8nm/(Co81Fe9 )Pd108nm/Cu2.2nm/
(Co81Fe9 )Pd108nmの構成を有するスピンバル
ブ構造の積層膜を全て励起周波数100MHz の超高真空
RFスパッタリングを用いて形成し、さらにこの積層膜
上にCu電極を形成して、スピンバルブ型磁気抵抗効果
素子を作製した。
【0142】このようにして得たスピンバルブ型磁気抵
抗効果素子の結晶性、磁気特性および抵抗変化率を実施
例8と同様に測定したところ、CoFe膜のX線回折に
よる半値幅は1.5°であり、軟磁気特性を示す物性の
一つである保磁力は1Oeであった。また、同素子を用
いて測定した磁気抵抗変化率は、約12%という高い値
を示した。 (実施例10)図16に示すように、支持基板30上に
CoZrNb等からなる高抵抗非晶質層31を形成し、
その上にCoFe合金等からなる強磁性膜32、Cu等
よりなる非磁性膜33、強磁性膜32、およびFeMn
等からなる交換バイアス層34を約4kA/mの静磁界
中で順次形成し、交換バイアス層34上にリード35を
形成して磁気抵抗効果素子を作製した。なお、各層は4
元スパッタ装置で下記表4に示す成膜条件で成膜した。
【0143】
【表4】 この磁気抵抗効果素子の磁気特性を調べ、図17および
図18にそのM−Hカーブ(磁化−磁界カーブ)を示
す。なお、図17は容易軸方向のM−Hカーブ、図18
は困難軸方向のM−Hカーブを示す。
【0144】図17から分かるように、FeMnに固着
されていない側のCoFe膜の保磁力Hc(図中a)は
約500A/mとなり、通常のCoFe単層膜のHc約
1600A/mに比べ著しく低い値を示した。さらに信
号磁界入力側である困難軸方向についても、図18から
分かるように、FeMnに固着されていない側のCoF
e膜の保磁力Hc(図中b)が約600A/mとなり、
通常のCoFe単層膜のHc約1600A/mに比べ著
しく低い値を示した。
【0145】また、この磁気抵抗効果素子の抵抗変化特
性を調べ、図19にそのR−Hカーブ(抵抗−磁界カー
ブ)を示す。図19から分かるように、抵抗変化率△R
/Rは従来のCo系スピンバルブ膜と同程度の約9%の
高い抵抗変化率となった。また、FeMnに固着されて
いない側のCoFe膜の保磁力Hc(図中c)は図17
から予想されるように約500A/mの低い値となっ
た。
【0146】本実施例では、交換バイアス層としてFe
Mn膜を用いているが、NiO等の反強磁性膜を用いて
もよいし、また(Co/Cu)n等の構造を有する人工
格子膜を用いても良好な特性が得られることが確認され
た。さらに、本実施例では、高抵抗アモルファス層とし
てCoZrNb膜を用いているが、その他に微小な結晶
のFeZr膜、FeZrN膜、CoZrN膜、FeTa
C膜、あるいはNiFeX膜(X:Rh,Nb,Zr,
Hf,Ta,Re,Ir,Pd,Pt,Cu,Mo,M
n,W,Ti,Cr,Au,またはAg)等を用いても
よい。特に、fcc相の微結晶膜(Co系窒化膜、Co
系炭化膜、NiFeX膜)では、fcc相(111)配
向を促進する効果も相乗し、さらにHcが容易軸方向で
〜250A/mに低下し、抵抗変化率が10%に向上し
た。
【0147】比較のために、高抵抗アモルファス層を設
けないで支持基板上に後述する図23と同様な強磁性
膜、中間層、強磁性膜、交換バイアス層を順次積層して
なる磁気抵抗効果素子の磁気特性を調べ、そのM−Hカ
ーブを図20および図21に示す。なお、図20は容易
軸方向のM−Hカーブ、図21は困難軸方向のM−Hカ
ーブを示す。また、成膜条件は前記表3と同様とした。
【0148】図20から分かるように、FeMnに固着
されていない側のCoFe膜の保磁力Hc(図中d)は
約2000A/mとなり、通常のCoFe単層膜のHc
と同様に高い値を示した。さらに、困難軸方向について
も、図21に示すように、FeMnに固着されていない
側のCoFe膜の保磁力Hc(図中e)は約1400A
/mとなり、通常のCoFe単層膜のHcと同様に高い
値を示し、磁気抵抗効果素子としては不充分であった。 (実施例11)図22に示すように、支持基板30上に
Cu等からなる厚さ約5nmの下地膜36を形成し、さら
にその上に交換バイアス層34、強磁性膜32、非磁性
膜33、強磁性膜32、および高抵抗アモルファス層3
1を順次形成し、高抵抗アモルファス層31上にリード
35を形成して磁気抵抗効果素子を作製した。なお、成
膜条件は上記表3と同様にした。
【0149】図22に示す構造、すなわち高抵抗アモル
ファス層を交換バイアス層よりも上層として形成する場
合においても、低いHcを得ることができた。また、ア
モルファス層が高抵抗であるため、この層が最上層とな
ってもシャント効果による磁気抵抗変化率の低下はなか
った。なお、この場合には、FeMnの結晶配向制御の
ために下地膜を設けることが望ましい。 (実施例12)支持基板41上にCoPtCr膜42を
厚さ8nmで成膜し、その上にレジスト43を塗布した
後、所望のパターンにレジスト43をパターニングし、
図23(A)に示すように、イオンミーリング等により
エッチングした。この際、CoPtCrのテーパ角Xは
90°に近い方が望ましい。
【0150】次に、図25(B)に示すように、エッチ
ング後のレジスト43は除去せず、この状態でCoFe
合金からなる強磁性膜44、Cu等からなる非磁性膜4
5、強磁性膜44、および高抵抗アモルファス層46を
順次形成してスピンバルブ構造の磁気抵抗効果素子を作
製した。この際、レジスト43のテーパ角Yは90°に
近い方が望ましい。
【0151】次に、レジスト43を除去した後に高抵抗
アモルファス層46上にリード47を形成した。なお、
このリード47は、レジスト43を除去する前に形成し
てもよい。このように作製することにより、図25
(C)に示すように、界面状態に敏感なスピンバルブ構
造を特性劣化を伴わずに作製することできる。
【0152】上記構造のように、FeMn等からなる交
換バイアス層を磁化固着膜として用いることなく、高保
磁力膜を用いることができる。高保磁力膜の材料として
は、下地膜を用いなくても適当な面内磁気異方性を発揮
できる材料を用いることが望ましい。そこで、本実施例
では、この特性を満足するCoPtCr膜を高保磁力膜
として用いた。 (実施例13)図24に示すように、支持基板30上に
高抵抗アモルファス層31、強磁性膜32、非磁性膜3
3、強磁性膜32、および高抵抗アモルファス層31を
順次積層し、最上層の高抵抗アモルファス層31上にリ
ード35を形成して磁気抵抗効果素子を作製した。
【0153】図24に示す構造のように、磁化固着膜で
あるFeMnからなる交換バイアス層を用いず、センス
電流により発生する磁界または形状による反磁界の効果
による自己バイアス効果を利用して、強磁性膜32間で
の反強磁性的磁化配列を実現してもよい。
【0154】この場合、センス電流により発生する磁界
が膜幅方向(図中g方向)において、強磁性膜32を挟
んで上下で反対方向となるように加わるようにし、さら
に、膜幅方向の反磁界を低減するために2つの強磁性膜
32は互いに反強磁性的に結合するようにする。その結
果、交換バイアス層がなくても2つの強磁性膜32同士
が反強磁性的に結合できる。したがって、信号磁界Hs
を膜長手方向(図中f方向)に加えると2つの強磁性膜
32の磁化は回転して膜長手方向に揃い強磁性的な結合
となる。その結果、スピン依存散乱に起因した大きな△
R/Rを得ることができる。 (実施例14)図25に示すように、熱酸化Si基板1
60上に、高抵抗強磁性膜161としてCoCr合金膜
をイオンビームスパッタ法によって膜厚1nmで成膜し
た。次に、高抵抗磁性膜161上に、第1の強磁性膜1
62としてCoFe合金膜を厚さ3nmで、非磁性膜16
3としてCu膜を厚さ2nmで、第2の強磁性膜164と
してCoFe合金膜を厚さ3nmで順次成膜し、スピンバ
ルブ型の積層膜を形成した。
【0155】この後、上記積層膜上に、反強磁性膜16
5としてFeMn膜を厚さ15nmで形成した。その上
に、必要に応じて保護膜166を形成し、さらに電極1
67a,167b(間隔:10μm)を形成することに
よって、スピンバルブ型磁気抵抗効果素子168を作製
した。
【0156】このようにして得たスピンバルブ型磁気抵
抗効果素子の抵抗変化率を測定したところ、室温で14
%という高い値を示した。
【0157】比較として、高抵抗強磁性膜161を形成
しない以外は実施例14と同様にして、スピンバルブ型
磁気抵抗効果素子を作製した。このスピンバルブ型磁気
抵抗効果素子の特性を実施例14と同様にして評価した
ところ、室温での抵抗変化率は12%であった。 (実施例16)サファイア基板上に、第1の強磁性膜と
してCo90Fe10合金膜、非磁性膜としてCu膜、第2
の強磁性膜としてCo90Fe10合金膜、反強磁性膜とし
てFeMn膜を順に形成した。この際、第1および第2
の強磁性膜の厚さ(dFeCo)を変化させて、抵抗変化率
(Δρ/ρ0 )を測定した。その結果を図26に示す。
なお、第1および第2の強磁性膜の厚さは同一とし、C
u膜の膜厚は2.2nm、FeMn膜の膜厚は15nmとし
た。また、上記磁気抵抗効果素子においては、反強磁性
膜上に必要に応じて、耐食性等に優れたTa、Ni、N
iCr等の保護膜を介して電極を形成する。図26から
分かるように、dFeCoが5nm以下でMR効果が増大して
いることが分かる。また、dFeCo=3nm付近でピークを
とり、2〜4nmが好ましい範囲となる。
【0158】強磁性膜/非磁性膜(金属薄膜)/強磁性
膜のサンドイッチ構造の厚さが薄くなってくると、金属
薄膜と接していない面での電子散乱が大きくなり、抵抗
のサイズ効果が表れる。サンドイッチ構造の比抵抗の変
動分(Δρ)は、サンドイッチ構造のトータルの膜厚を
t、平均自由行程をl0 とすると、Δρはl0 /tに比
例する。諸条件で変化するが、図26からも明らかなよ
うに、Co系強磁性膜を用いた場合、強磁性膜厚は5nm
以下とすることが良好なMR効果が得る上で好ましい。
【0159】すなわち、強磁性膜の金属薄膜と接してい
ない方の面に、低抵抗例えば30μΩcm以下の比抵抗を
もった材料が接している場合、電子はその界面を通り抜
け、30μΩcm以下の比抵抗をもった材料の中に流れて
しまい、有効な表面散乱が起こりにくくなる。このた
め、有効な表面散乱を引き起こし、サイズ効果を利用す
るためには、30μΩcm以上の材料とするか、接してい
る材料の膜厚を5nm以下とすることが有効である。
【0160】サイズ効果を利用し、大きなMR効果を得
るためには、Co系強磁性膜の膜厚は5nm以下にするこ
とが好ましい。このとき、中間金属薄膜としては、C
u、Ag、Au等の比抵抗の小さい金属を用いることが
望ましく、中間金属薄膜の膜厚はサイズ効果を利用する
ために、5nmより薄いことが好ましい。また、両強磁性
膜の膜厚が大きく異なっている場合には、両強磁性膜に
おける表面散乱の効果が異なってしまうため、磁気抵抗
変化率は小さくなってしまう。このため、両強磁性膜の
厚さの比は、1:1〜1:2の間にあることが望まし
い。 (実施例16)図27に示すように、サファイア基板1
60上に非磁性膜161としてCuPd合金膜をRFス
パッタ法によって厚さ2nmで成膜した。次に、非磁性膜
161上に、第1の強磁性膜162としてCoFe合金
膜を厚さ1nmで、非磁性膜163としてCu膜を厚さ2
nmで、第2の強磁性膜164としてCoFe合金膜を厚
さ3nmで順次成膜し、スピンバルブ型の積層膜を形成し
た。
【0161】この後、上記積層膜上に、反強磁性膜16
5としてFeMn膜を厚さ15nmで形成した。その上
に、必要に応じて保護膜166を形成し、さらに電極1
67a,167bを形成することによって、スピンバル
ブ型磁気抵抗効果素子171を作製した。
【0162】この磁気抵抗効果素子では、反強磁性膜1
65により、第2の強磁性膜164には一方向異方性が
与えられているため、低磁場中では磁化は一方向に固定
されたまま動かない。これに対して、第1の強磁性膜1
62は、低磁場中でも磁場の方向に磁化を向ける。よっ
て、外部磁化を変化させることにより、2つの強磁性膜
の磁化の成す角度を自由に制御することができる。な
お、反強磁性膜165は、第2の強磁性膜164に有効
な一方向異方性を与える上で、1〜50nm程度の厚さと
することが好ましい。
【0163】このようにして得たスピンバルブ型磁気抵
抗効果素子171の抵抗変化率を測定したところ、第1
の強磁性膜162の厚さを1nmと薄くしているにもかか
わらず、室温で8%という高い値を示した。また、上記
スピンバルブ型磁気抵抗効果素子171を、幅2μm×
長さ80μmの微細形状に加工してCuリード間を2μ
mに規定した狭トラック幅の高密度磁気記録の再生に用
いたところ、バルクハウゼンノイズを除去することがで
きた。
【0164】比較として、非磁性膜161を形成しない
以外は実施例17と同様にして、スピンバルブ型磁気抵
抗効果素子を作製した。このスピンバルブ型磁気抵抗効
果素子の特性を実施例17と同様にして評価したとこ
ろ、抵抗変化率は室温で3%と小さい値しか得られなか
った。
【0165】また、第1の強磁性膜162の膜厚を6nm
とする以外は実施例16と同様にして、スピンバルブ型
磁気抵抗効果素子を作製した。このスピンバルブ型磁気
抵抗効果素子の特性を実施例16と同様にして評価した
ところ、抵抗変化率は室温で6%得ることができたが、
実施例16と同様な再生微細素子により高密度記録(狭
トラック幅)の再生を行ったところ、反磁界によるバル
クハウゼンノイズが観測された。 (実施例17)図28に示すように、熱酸化Si基板1
60上に平均自由行程が長い薄膜172として、キャリ
ア濃度が1020cm-3となるようにTeをドープしたGa
As膜をMBE法により厚さ10nmで成膜した。次に、
TeドープGaAs膜172上に第1の強磁性膜162
としてCoFe合金膜を厚さ1nmで、非磁性膜163と
してCu膜を厚さ2nmで、第2の強磁性膜164として
CoFe合金膜を厚さ4nmで順次成膜し、スピンバルブ
型の積層膜を形成した。
【0166】この後、上記積層膜上に、反強磁性膜16
5としてFeMn膜を厚さ15nmで形成した。その上
に、必要に応じて保護膜166を形成し、さらに電極1
67a,167bを形成することによって、スピンバル
ブ型磁気抵抗効果素子173を作製した。
【0167】このようにして得たスピンバルブ型磁気抵
抗効果素子の抵抗変化率を測定したところ、室温で18
%という高い値を示した。また、上記スピンバルブ型磁
気抵抗効果素子を高密度磁気記録の再生に用いて、10
5 A/cm2 という電流密度のセンス電流における出力信
号電圧を測定したところ、1mVp-p という良好な値が
得られた。
【0168】比較として、TeドープGaAs膜172
を形成しない以外は、実施例17と同様にして、スピン
バルブ型磁気抵抗効果素子を作製した。このスピンバル
ブ型磁気抵抗効果素子の特性を実施例17と同様にして
評価したところ、抵抗変化率は室温で2%と小さい値し
か得られなかった。 (実施例18)ガラス基板上に厚さ10nmのCu膜を下
地膜として形成し、その上にCo90Fe10膜を形成し
た。Cu膜およびCo90Fe10膜は、RF2極スパッタ
リング法により成膜した。なお、スパッタリングは、成
膜中に永久磁石により約4000A/mの一方向磁界を
基板近傍に加え、以下に示すスパッタリング条件により
行った。
【0169】 予備排気 1×10-4Pa以下 Arスパッタガス圧 0.4Pa 高周波投入電力 CoFe:300−500W Cu :160W スパッタリング速度 CoFe:0.5−1nm/s Cu :1nm/s このようにして作製したCo90Fe10膜のHc(困難軸
方向)とCo90Fe10膜の膜厚の関係を図29に示す。
また、図29には、比較のためガラス基板上にCu下地
膜を設けないで直接Co90Fe10膜を形成したものも示
した。なお、保磁力Hcは振動型磁力計により測定し
た。
【0170】図29から分かるように、Cu下地膜を設
けない通常のCo90Fe10膜では、膜厚20nm以下では
2000A/m以上の高いHcを示した。一方、Cu下
地膜を設けると、膜厚20nmのCo90Fe10膜ではHc
の低下は僅かであったが、膜厚10nm以下では400〜
900A/mにHcが大幅に低下した。このように、ガ
ラス基板とCo90Fe10膜との間にCu下地膜を設ける
ことにより、Co90Fe10膜のHcを低減できることが
分かった。特に、Cu下地膜の膜厚は、1原子層以上で
あれば上記のHc低減の効果が認められた。なお、Cu
下地膜上にまったく同様にCo膜を形成した場合はCo
Fe膜の場合ほどHcの低下は認められなかった。 (実施例19)ガラス基板上に厚さ5〜6nmのCu下地
膜を形成し、さらにCu下地膜上にCo90Fe10膜、厚
さ2nmのCu中間層、およびCo90Fe10膜を順次形成
した。なお、これらの膜の成膜条件は実施例18と同様
とした。
【0171】この積層膜(Cu/CoFe/Cu/Co
Fe)におけるHc(困難軸方向)とCo90Fe10膜の
膜厚の関係を図30を示す。また、図30には、図29
と同様にガラス基板上にCu下地膜を設けないで直接C
90Fe10膜を形成したものも示した。
【0172】図30から分かるように、Cu下地膜を設
けない積層膜では、単位Co90Fe10膜の膜厚が5nm以
上でHcは急激に増加するが膜厚3nm以下でHcが80
0A/mである。このように、単にCu中間層を設ける
だけでもHcを低減できる。さらに、この積層膜にCu
下地膜を設けることによりHcはさらに低下でき、単位
Co90Fe10膜の膜厚が7nm以下で220〜400A/
mの低いHcが得られることが分かる。したがって、C
u下地膜とCu中間層を用いたCo90Fe10積層膜で
は、実施例18の場合よりもHcを大幅に低減できる。
【0173】また、Cu5nm/Co90Fe102.2nm/
Cu2nm/Co90Fe102.2nmの積層膜の磁化曲線
(容易軸方向)を図31に示す。図31から分かるよう
に、磁界が0でも残留磁化が90%以上であり、この2
つのCo90Fe10強磁性膜の磁化は反強磁性的ではなく
強磁性的な磁化挙動を示すことが分かる。 (実施例20)Co90Fe10膜の単位膜厚を1.5nmと
し、Cu膜の単位膜厚を1.5nmとして、(CoFe/
Cu)n膜を実施例18に示す成膜条件で作製し、その
Hcと積層回数nとの関係を調べた。その結果を図32
に示す。この場合、ガラス基板上にCo90Fe10膜、C
u膜の順に積層したものと、Cu膜、Co90Fe10膜の
順に積層したもの(第1層のCuは下地膜に相当すると
見なされる)について調べた。
【0174】図32から分かるように、積層回数が2の
場合において、Co90Fe10膜を先に形成したときは、
Hcは650A/mと若干高いが、積層回数が4〜8の
場合においては、Co90Fe10膜が先でもCu膜が先で
もHcは100〜300A/mと低い。これは、積層回
数が増えるにしたがってCu下地膜の効果が薄らぎ、C
u下地膜(第1層のCu膜)の有無に拘らずHcが低く
なるからであると考えられる。なお、この場合の磁化曲
線も、図31と同様に強磁性的な結合を示す形状であっ
た。
【0175】なお、この積層膜は、断面透過電子顕微鏡
観察やX線回折曲線の回折ピーク半値幅の測定から、結
晶粒径が大きい、すなわちCu膜とCo90Fe10膜との
界面で連続したエピタキシ的に結晶が成長していること
が分かった。したがって、この積層膜は、非磁性膜と強
磁性膜との界面での結晶成長遮断効果を利用した微結晶
効果により軟磁性を発揮せしめている従来のFe/C等
の多層膜とは異なり、余分な抵抗増大がないので、スピ
ン依存散乱を利用した磁気抵抗効果膜への応用が可能で
ある。 (実施例21)(Co90Fe10/Cu)n膜では、Cu
膜厚に応じてCu膜に隣接する強磁性膜の磁化が反強磁
性的に結合したり、強磁性的に結合したりすることが知
られている。図33に(Co90Fe10(1nm)/Cu)
16における困難軸方向のHs(飽和磁界)と単位Cu膜
の膜厚との関係を示す。Cu膜の膜厚を1nm、2nm近傍
に設定すると、隣接する強磁性膜間の反強磁性結合に起
因する大きなHs(12〜240kA/m)を示す。ま
た、容易軸方向でも図34に示すような残留磁化が大幅
に低下した反強磁性的結合を表わす磁化曲線を示す。一
方、それ以外の膜厚では、図31に示した磁化曲線と同
様にCo90Fe10の誘導磁気異方性に相当する程度のH
s(1000〜2000A/m)を示し、また、容易軸
方向の磁化曲線も残留磁化が90%以上であり、反強磁
性結合がない特性を示した。
【0176】また、図33から分かるように、膜厚を例
えば1.5nm程度の中間値に設定することにより強磁性
的結合が得られることが分かる。強磁性的結合であれ
ば、Hsが低いために磁気ヘッド等の磁気センサ応用上
重要である困難軸方向の透磁率を高くできる。このよう
に、本実施例においてCu膜の膜厚は、従来の巨大磁気
抵抗効果を示す人工格子膜とは異なり、反強磁性結合し
ない中間値であることが望ましい。 (実施例22)基板50上に実施例18と同様の成膜条
件で強磁性積層単位51を形成した。ここで、強磁性積
層単位51は、実施例20および実施例21において示
した非磁性膜であるCu膜と強磁性膜であるCo90Fe
10膜との積層膜をいう。次いで、強磁性積層単位51上
に、強磁性積層単位中の非磁性膜と異なる厚みを有する
非磁性膜52を形成し、さらにその上に強磁性積層単位
51を形成した。次いで、その上にFeMn、NiO、
NiCoO等からなる反強磁性膜53を形成し、さらに
その上に保護膜54を形成した。この保護膜54は必要
に応じて形成する。最後に、エッジ部に電流を供給する
ために保護膜54上に電極端子55を形成して図35に
示す磁気抵抗効果素子を作製した。
【0177】ここで、強磁性積層単位51および反強磁
性膜53の成膜を一方向磁界中で行うことにより、反強
磁性膜53と直接接する強磁性積層単位51に交換バイ
アスを付与することができる。なお、反強磁性膜53と
交換結合する強磁性積層単位51中の強磁性膜の磁化は
固着されるので、強磁性積層単位51の代わりに軟磁性
が若干低いCoFe単層膜を用いてもよい。また、フェ
ロ結合したCoFe/Cu界面は必ずしも平坦である必
要はなく、図36に示すように、Cu膜内に層状のCo
Feが混在した状態でも同様な効果を発揮する。
【0178】強磁性積層単位51を(Co90Fe101nm
/Cu1.2nm)4 膜とし、非磁性膜52を厚さ2.5
nmのCu膜とし、反強磁性膜53を厚さ10nmのFeM
n膜とし、保護膜54を厚さ6nmのCu膜とした磁気抵
抗効果素子の磁化曲線および抵抗変化特性(磁界方向は
容易軸方向)をそれぞれ図37および図38に示す。な
お、抵抗は4端子法により測定した。
【0179】図37および図38から分かるように、H
>800A/mで2つの強磁性積層単位51の間におい
て磁化が反強磁性的に結合しており、H<500A/m
で2つの強磁性積層単位51の間において磁化が強磁性
的に結合している。すなわち、H=500〜800A/
mの間で磁化が強磁性的結合から反強磁性的結合に変化
していることが分かる。このH=500〜800A/m
の僅かな磁界領域、すなわち僅かなヒステリシスで抵抗
が大きく変化しており、このときの抵抗変化率ΔR/R
は8%である。
【0180】比較のために、Co90Fe10単層膜からな
る図35に示すスピンバルブ構造の磁気抵抗効果素子
(強磁性積層単位51をCo90Fe10単層膜に置き換え
たもの)の磁化曲線および抵抗変化特性をそれぞれ図3
9および図40に示す。図39および図40から分かる
ように、図38の抵抗変化と比べて磁化曲線にヒステリ
シスが大きく、その結果、抵抗変化特性にも大きなヒス
テリシスが存在する。また、ΔR/Rは約6.5%であ
り、図37の抵抗変化よりも小さい値である。
【0181】以上の説明から、本発明の強磁性積層膜を
用いたスピンバルブ構造の磁気抵抗効果素子は、軟磁性
が良好であり、僅かな磁界で大きな抵抗変化を得られ、
さらに強磁性積層単位内部にCo90Fe10/Cu界面が
存在するので抵抗変化率が大きいことが分かる。
【0182】以上までは(CoFe/Cu)n積層膜の
実施例について詳しく述べたが、このスピンバルブ構造
は他の強磁性膜(例えば、NiFe,NiFeCo,C
o等)と他の非磁性膜(Cu基合金等)との積層におい
ても同様な効果が期待できる。次に、図35におけるス
ピンバルブ構造において、強磁性積層単位51を種々の
強磁性結合多層膜に変えた場合の容易軸方向の抵抗変化
率とHcを下記表5に示す。
【0183】
【表5】 表5から分かるように、CoFe/Cu以外の組み合わ
せの強磁性多層膜を用いても単層磁性膜を用いたスピン
バルブ膜(表2参照)に比べてHcが低減でき、かつ同
等以上の抵抗変化率が実現できることが分かる。 (実施例23)図35における基板側の強磁性積層単位
51として厚さ4nmのCu下地膜と厚さ5nmのCo90
10を用い、反強磁性膜53側の強磁性積層単位51に
厚さ8nmのCo90Fe10単層膜を用いた場合の磁化曲線
および抵抗変化特性をそれぞれ図41(A),図41
(B)および図42に示す。
【0184】図41(A)から分かるように、容易軸方
向ではHcが800A/m以下と比較的大きい値を示す
が、図41(B)から分かるように、困難軸方向では1
00A/m以下の低い値を示す。また、図42から分か
るように、抵抗変化率ΔR/Rは容易軸方向で7.2
%、困難軸方向で2.8%である。このように困難軸方
向で抵抗変化率が低いことは、両強磁性層間でのフェロ
結合のために反平行磁化配列が不充分であると考えら
れ、硬質磁性膜等により反平行磁化配列を促進するバイ
アス磁界を加えることにより容易軸方向と同程度のΔR
/Rを得ることができる。すなわち、Cu下地膜とCo
90Fe10膜の積層膜を用いても良好な軟磁性と高いΔR
/Rの両方が得られる。 (実施例24)基板50上に実施例22において使用し
た強磁性膜積層単位51と、強磁性膜積層単位51の中
の非磁性層と異なる厚みを有する非磁性膜52とを交互
に少なくとも2回以上積層した。さらに、最上層の非磁
性膜52上に保護膜54を形成した。この保護膜54は
必要に応じて形成する。最後に、エッジ部に電流を供給
するための電極端子55を形成して図43に示す磁気抵
抗効果素子を作製した。強磁性積層単位51を(Co90
Fe101nm/Cu0.6nm)4 膜とし、非磁性層52を
厚さ2.2nmのCu膜とし、積層回数nを8としたもの
の困難軸方向の磁化曲線と抵抗変化特性を図44および
図45に示す。
【0185】図44および図45から分かるように、飽
和磁界Hsは6000A/mと比較的小さな値を示し、
Hcは240A/mと小さな値を示す。このとき、抵抗
変化率は12%以下であり、抵抗変化が飽和する磁界は
磁化曲線における飽和磁界Hsとほぼ一致し、また、ヒ
ステリシスは磁化曲線のHcとほぼ一致する。これによ
り、僅かな磁界で大きな抵抗変化率を示すことが分か
る。 (実施例25)鏡面状態に加工したMgO基板60の
(110)面上に(Co90Fe101nm/Cu1.1nm)
16積層膜61を形成した。この積層膜61をメタルマス
クを用いて1×8mm2 のストライプ状にパターニングし
た。次いで、積層膜61上にエッジ部に電流を供給する
ための電極端子62を形成して磁気抵抗効果素子を作製
した。なお、積層膜61上に保護膜として厚さ5.5nm
のCu膜を形成してもよい。また、CoFe系合金膜の
組成は、大きな抵抗変化率を示すこと[日本応用磁気学
会誌、16,313(1992)] および軟磁気特性の点からCo90
Fe10とした。
【0186】この場合、MgO基板60の(110)面
上にはCo90Fe10膜から形成した。Cu膜から形成す
ると、10%以上の大きな抵抗変化を得ることができな
いからである。図46において、積層膜61に示されて
いる波形線は主成長面の断面を示している。この主成長
面が揺らいでいる方向に、MRセンス電流(Is)を流
す。
【0187】ここで、積層膜61を成膜する成膜装置と
しては、多元同時スパッタリング装置を用いた。このス
パッタリング装置は、Co90Fe10ターゲットをRFス
パッタ、CuターゲットをDCスパッタできるような構
成になっており、それぞれのターゲット上に交互に直流
バイアスを印加した基板を通過させて成膜するものであ
る。なお、主排気ポンプにはクライオポンプを使用し
た。この成膜装置を用いて、真空チャンバー内を5×1
-7Torr以下にまで排気した後、真空チャンバー内にA
rガスを導入し、約3 mTorrとしてスパッタリングを行
った。
【0188】得られた磁気抵抗効果素子の抵抗変化率お
よび結晶構造を調べた。なお、抵抗変化率は、静磁界方
向の抵抗変化を四端子法で測定した。このときの電流密
度は2.0〜2.5KA/cm2 とした。また、結晶構造
は、以下の測定条件でX線回折法によりθ−2θスキャ
ンおよび主回折面に関するロッキングカーブを測定する
ことにより評価した。
【0189】X線回折測定条件 (1)θ−2θスキャン Cu−Kα、40kV、200mA スキャン幅:2θ=2〜100° ステップ幅:0.03° 係数時間 :0.5秒 (2)ロッキングカーブ Cu−Kα、40kV、200mA スキャン幅:2θ=20〜60° ステップ幅:0.04° 係数時間 :0.5秒 図47(A)および図47(B)に磁気抵抗効果素子の
積層膜のθ−2θスキャンによるX線回折曲線を示す。
図47(B)に示すように、2θ=75°付近に、fc
c相(220)面反射に相当する強い回折ピークが確認
できる。これにより、X線回折曲線から積層膜の主成長
面は一方向に歪みのあるfcc相(220)面であるこ
とが分かる。なお、図47(A)における2θ=4°付
近のピークは、積層周期(〜2.1nm)による回折であ
る。
【0190】次に、この主成長面に関して、[100]
軸方向および[110]軸方向からロッキングカーブを
測定した。その結果を図48(A)および図48(B)
に示す。図48(A)には、[110]軸方向から測定
したロッキングカーブを示す。これよりθ=38°近傍
に一つのピークが確認できる。一方、図48(B)には
[100]軸方向からのロッキングカーブを示す。これ
よりθ=33°と41°付近の2つのピークの存在が確
認できる。
【0191】図49(A)および図49(B)に図48
のロッキングカーブから判断される膜構造の概念図を示
す。図49(A)においてうねった層は、主成長面のf
cc相(110)面を示す。θ−2θスキャンX線回折
法で測定される平均的な結晶成長面は(110)である
が、この(110)面は[100]軸方向に揺らいでい
る。一方、[110]軸方向の揺らぎは極めて小さい。
これは、図48(B)に示すロッキングカーブの2つの
ピーク([100]軸方向測定)と、図48(A)に示
す1つのピーク([110]軸方向測定)に対応する。
【0192】図49(B)にこの成長面の法線の膜面内
成分分布を示した。この膜面内異方性は、[100]軸
方向の大きな揺らぎにより、[100]軸方向に大き
く、[110]軸方向に小さい面内分布となっている。
後述するように、[110]軸方向にMRセンス電流を
流した場合の抵抗変化率(△R/R)は、約30%であ
るのに対して、[100]軸方向に流した場合は、約3
5%を示す。
【0193】次に、この積層膜の磁気特性を測定した。
その結果に基づく磁気曲線を図50(A)および図50
(B)に示す。図50(A)は外部磁界Hを[100]
軸に平行に印加した場合の磁化曲線を示し、図50
(B)は外部磁界Hを[110]軸に平行に印加した場
合の磁化曲線を示す。なお、磁気抵抗効果素子の磁気特
性は、振動型磁力計(VSM)で最大印加磁界1.2M
A/mで測定した。また、磁化曲線の磁化量Mは飽和磁
化Msを規格化して示した。
【0194】図50(A)および図50(B)から分か
るように、[100]軸が磁化容易軸、[110]軸が
磁化困難軸である。このとき磁化容易軸の飽和磁界は約
240kA/mであり、磁化困難軸の飽和磁界は約96
0kA/mである。
【0195】このように、本実施例では、基板上に強磁
性膜と非磁性膜とを順次少なくとも1回ずつ積層した積
層膜を具備し、センス電流の方向が前記積層膜の結晶配
向面の揺らぎ方向に沿う方向に設定されていることを特
徴とする磁気抵抗効果素子を提供する。
【0196】本実施例において、積層膜の主結晶配向面
の法線は、結晶配向面の揺らぎにより膜面内で成分を持
ち、その膜面内成分は異方性を有する。あるいは、結晶
性の積層膜に発生する面欠陥の法線は、膜面内への揺ら
ぎを持ち、この揺らぎは膜面内で異方性を有する。その
異方性が強い方向は、膜成長する原子面において強磁性
原子と非磁性原子が混在しやすい方向である。
【0197】その方向に、すなわち膜面内成分による異
方性が最も大きくなる方向にセンス電流を流すことによ
り、電子がスピン依存散乱する確率が高くなる。その結
果、磁気抵抗効果素子は、より高い抵抗変化率を示す。 (実施例26)基板に印加するバイアスを変化させて、
実施例25と同じ積層膜構造を有する種々の磁気抵抗効
果素子を作製した。図51に抵抗変化率のバイアス電圧
依存性を示す。なお、MgO基板の(110)面におい
てそれぞれ直交する[100]軸と[110]軸に平行
に電流を流して測定した。図51から分かるように、そ
れぞれの軸とも、抵抗変化率のバイアス依存性が弱く、
[100]軸で約35%、[110]軸で約30%の値
を示す。すなわち、[100]軸のほうが[110]軸
よりも抵抗変化率が大きいことが分かる。 (実施例27)積層膜を(Cu2nm/Co90Fe101n
m)16膜とすること以外は実施例25と同様にして磁気
抵抗効果素子を作製した。
【0198】このようにCu膜の膜厚を2nmに増加させ
た場合、[100]軸方向に電流を流した時の抵抗変化
率は約25%であり、[110]軸方向では約19%で
あった。したがって、Cu膜の膜厚を増加させても、こ
の抵抗変化率の方向依存性は保たれていることが分か
る。この場合も、主成長面(fcc相(220)面)の
ロッキングカーブには、図48(B)に示すように[1
00]軸で2つのピーク、図48(A)に示すように
[110]軸で1つのピークが確認された。
【0199】なお、同様の構成でCu膜の膜厚およびC
90Fe10膜の膜厚をそれぞれ0.3nmから10nmまで
変化させても、ロッキングカーブの傾向は上記と変わら
ず、[100]軸の方が揺らぎが大きい。また、抵抗変
化率も[100]軸のほうが大きい傾向を示した。
【0200】また、同様の構成で積層回数を2から70
まで変化させても、ロッキングカーブおよび抵抗変化率
の傾向は変わらず、[100]軸方向にセンス電流を流
すほうが大きな抵抗変化が得られた。 (実施例28)積層膜を(Ru1nm/Co90Fe101n
m)16膜とすること以外は実施例26と同様にして磁気
抵抗効果素子を作製した。
【0201】この磁気抵抗効果素子の△R/Rは、[1
00]軸方向にセンス電流を流す場合の方が[110]
軸方向にセンス電流を流す場合より大きかった。また、
Ru膜の膜厚を変化させても前記の傾向が認められた。
【0202】この現象は、Co90Fe10膜の代わりにC
o膜を用いた場合でも確認できた。また、Ru以外にA
g、Au、Pd、Pt、Irを積層膜の材料に使用して
もMgO基板の(110)面上における軸方向による△
R/Rの差が確認できた。 (実施例29)積層膜を(Cu1.1nm/Ni80Fe20
1.5nm)16膜とすること以外は実施例25と同様にし
て磁気抵抗効果素子を作製した。
【0203】この磁気抵抗効果素子の積層膜の[10
0]軸方向にセンス電流を流した場合、その抵抗変化率
は21%であった。一方、[110]軸方向にセンス電
流を流した場合の抵抗変化率は17%であった。また、
この積層膜もCo90Fe10/Cu積層膜の場合同様に、
結晶成長面はfcc相(110)面であり、ロッキング
カーブ測定から成長面は[100]軸方向に揺らいでい
ることが分かった。なお、Ni80Fe20膜の膜厚および
Cu膜の膜厚を0.5nm〜50nmと変化させても同様の
傾向を示した。
【0204】また、強磁性膜の材料としてCo、CoF
e合金、NiFe合金、Fe、FeCr合金等を用いて
も、非磁性膜の材料としてCu、Au、Ag、Cr、R
u、CiNi合金等を用いても、積層膜の主成長面が揺
らいでいる結晶軸方向とセンス電流方向が平行であれば
大きな抵抗変化率を示すことが分かった。 (実施例30)GaAs基板の(110)面上に厚さ
1.5nmのCo膜、厚さ50nmのGe膜、および厚さ
1.5nmのAu膜を形成した。さらに、その上にMBE
法を用いて図53に示す(Cu0.9nm/Co90Fe10
1nm)20積層膜を形成した。図中69はCu膜を示し、
71はCo90Fe10膜を示す。さらに、積層膜上に保護
膜として厚さ5nmのGe膜を形成して磁気抵抗効果素子
を作製した。この積層膜はfcc相(111)面成長を
示していた。このとき、センス電流の方向に関係なく、
抵抗変化率は約15%を示した。
【0205】次に、Au下地膜の厚さ0.8nmとし、そ
れ以外の構造を上記と同様にして磁気抵抗効果素子を作
製した。
【0206】得られた2つの磁気抵抗効果素子を透過電
子顕微鏡で観察したところ、Au下地膜の厚さが1.5
nmのものは、ほぼ格子欠陥がなく、極めて良好な結晶性
を有するものであった。一方、Au下地膜の厚さが0.
8nmのものは、{111}面配向を示していたが、{1
00}面が<110>軸方向に滑ったことにより積層欠
陥が観察された。また、この磁気抵抗効果素子における
<211>軸および<110>軸方向の抵抗変化率を測
定したところ、<110>軸方向では約15%であり、
<211>方向では17%と増加していた。この結果、
方向性を持った欠陥が入ることにより、抵抗変化率のセ
ンス電流の方向依存性が発生することが分かる。
【0207】図53に図52における積層膜の原子配列
図を示す。{100}原子面が<110>方向にずれる
ことによって、電流が<211>方向に流れる場合と、
<110>方向に流れる場合で、単位長当り遭遇する界
面の数が異なり、<211>方向で多いことが分かる。
このような方向性を持つ格子欠陥による生じる伝導電子
のスピン依存界面散乱サイト数の結晶軸方向依存性は、
上述した積層欠陥の他に双晶欠陥でも発生したことが分
かった。以下に、その例について説明する。
【0208】GaAs基板の(100)面上に厚さ3nm
のAu下地膜を形成し、さらにその上に(Co90Fe10
1nm/Cu1.1nm)16積層膜を形成した。この積層膜
はfcc相(100)面配向を示した。このとき、<1
11>軸を中心軸として双晶が発生した。積層膜断面を
<110>方向から観察した場合の原子配列を図55に
示す。図54から分かるように、<111>軸まわりに
双晶が発生することにより、<110>方向にCuと、
CoもしくはFe原子との界面が現れることが分かる。
【0209】この積層膜の抵抗変化率のセンス電流方向
依存性を<110>軸および<100>軸方向において
測定した。図55に{100}面成長した積層膜の双晶
面および電流方向と抵抗変化率との相関を示す。図55
から分かるように、抵抗変化率はセンス電流を<110
>軸方向に流したときは18%を示し、<100>軸方
向にセンス電流を流したときは16%の値を示す。この
ように{111}面と大きな角度で交わる<110>軸
の抵抗変化率が高く現れた。一方、双晶が発生しなかっ
たときは、抵抗変化率のセンス電流方向依存性は確認で
きなかった。 (実施例31)ガラス基板上に(Cu1.1nm/Co81
Fe9 Pd101nm)16人工格子膜を形成した。人工格子
膜の成膜は、基板に直流バイアスを印加しながら行っ
た。印加する直流バイアスの大きさを変えて抵抗変化率
を測定し、基板に印加する直流バイアスの依存性(バイ
アス依存性)を図56に示す。
【0210】図56から分かるように、直流バイアスを
増加させるにしたがって抵抗変化率は増加し、バイアス
−50Vでは約28%の極大値を示す。さらに、直流バ
イアスを大きくした場合には抵抗変化率は減少する。
【0211】直流バイアスを変化させて作製した種々の
人工格子膜の結晶性を評価したところ、全ての人工格子
膜の主成長面はfcc相(111)面成長であった。こ
こで、積層周期(2.1nm)から反射された2θ=4
°付近に現れる長周期構造反射強度および2θ=44°
付近に現れるfcc相(111)面から反射される主成
長面のピーク強度について、それぞれのバイアス依存性
を図57および図58に示す。
【0212】図57から分かるように、長周期構造反射
強度のバイアス依存性については、バイアス−20V程
度に若干の極大を示すが、特にバイアスと強い相関があ
るとは言えない。また、図58から分かるように、fc
c相(111)面反射強度のバイアス依存性について
も、バイアス−10V付近に若干の極大を示すが、バイ
アスと強い相関があるとは言えない。
【0213】また、強磁性膜としてCoFe合金系を用
いていることにより、スピン依存散乱のバルク散乱が大
きくなり、強磁性膜としてCo系膜を用いる場合に比べ
て界面の構造は敏感でなくなる。なお、強磁性膜として
Co系膜を用いる場合、抵抗変化率は膜構造に大きく依
存することが報告されている。
【0214】次に、保磁力(Hc)のバイアス依存性を
図59に示す。図59から分かるように、バイアス−5
0V程度までは200A/m以下の良好な軟磁気特性を
示すが、−60V程度から保磁力が増加し始める。した
がって、印加する直流バイアスの大きさを選択すること
により、抵抗変化率および保磁力の最適条件を選ぶこと
ができる。なお、ガラス基板の代わりにSi基板、セラ
ミック基板、GaAs基板、Ge基板を用いた場合で
も、同様にして抵抗変化率と保磁力の最適点を選び出す
ことができた。 (実施例32)ここでは、スピン依存散乱能力を有する
2つの強磁性膜両者の磁化回転により信号磁界を検出す
る本発明の実施例について説明する。
【0215】図60に示すように、基板80上に反強磁
性膜の配向制御用の下地膜81、反強磁性膜82、スピ
ン依存散乱能力を有する強磁性膜83、非磁性膜84、
強磁性膜85、および反強磁性膜82を順次形成した。
さらに、最上層の反強磁性膜82上に電極端子86を形
成した。この反強磁性膜82上に必要に応じて保護膜を
形成してもよい。なお、下地膜81の材料は、反強磁性
膜82がFeMnからなる場合にはCu、CuV、Cu
Cr等のCu合金や、Pd等の非磁性fcc相またはN
iFeやCoFeTa等の磁性fcc相を有する金属が
望ましい。このとき磁性材料のほうが膜厚が薄くても
(すなわちシャント分流が少ない)、良好な交換バイア
スが付与できる。反強磁性膜82はFeMn、NiO、
PtMn等からなり、その膜厚は5〜50nmである。強
磁性膜83,85はNiFe、Co、CoFe、NiF
eCo等からなり、その膜厚は0.5〜20nmである。
非磁性膜84はCu、Au、Ag等からなり、その膜厚
は0.5〜10nmである。また、反強磁性膜82は、強
磁性膜85の全面に形成する必要はなく、強磁性膜83
の両サイドのエッジ部(電極端子86近傍)にのみ形成
してもよい。
【0216】ここで、少なくとも強磁性膜83の成膜中
には一方向の静磁界を図60中のx方向(センス電流方
向)に加える。その結果、強磁性膜83に交換結合バイ
アス磁界がその静磁界方向に加わる。一方、少なくとも
反強磁性膜82の成膜中には強磁性膜83の成膜中に加
えた磁界方向とは180°異なる方向(マイナスx方
向)に静磁界を加える。その結果、強磁性膜83とは1
80°異なる方向に強磁性膜85に交換結合バイアス磁
界が加わる。その結果、2つの強磁性膜83,85の磁
化のなす角度は信号磁界0の状態では反平行になる。な
お、信号磁界Hsは図中のy方向に加わる。
【0217】反強磁性膜82により強磁性膜83および
85に反対方向のバイアス磁界を印加する方法には、次
に示す方法もある。2つの反強磁性膜82としてそれぞ
れ異なるネール温度を有する膜を用い、これらのネール
温度以上で静磁界熱処理を行い、降温中に両反強磁性膜
82のネール温度の中間の温度で静磁界の方向を180
°反転させる。その結果、強磁性膜83,85には反対
方向へのバイアス磁界が付与できる。
【0218】本実施例では、従来のスピンバルブ構造の
膜とは異なり、反強磁性膜からの交換バイアスが加わっ
た強磁性膜の磁化回転を利用しているので、その交換バ
イアス磁界はバルクハウゼンノイズを抑制する程度のあ
まり強くない磁界であることが望ましい。例えば、適用
ヘッドのトラック幅等に応じて異なるが最大でも5kA
/mである。しかしながら、現状のスピンバルブ構造の
膜では、FeMnからなる反強磁性膜による交換バイア
ス磁界を用いるのが一般的であるが、この場合、FeM
n膜とNiFe膜等の強磁性膜とを直接積層すると10
kA/m以上の交換バイアスが生じてしまう。その交換
バイアスを低減させるためには、反強磁性膜と強磁性膜
の中間に交換バイアス調整用の膜、例えば飽和磁化の低
い強磁性膜や非磁性膜を挿入する方法や、図61に示す
ように、強磁性膜83と85のそれぞれの膜中に非磁性
膜87,88を介在させる、すなわち強磁性膜83,8
5をそれぞれ83aおよび83b,85aおよび85b
に分離する方法がある。
【0219】強磁性膜中に非磁性膜を介在させる方法で
は、反強磁性膜82と接する側の強磁性膜83a,85
aには強い交換バイアスが加わるが、反強磁性膜82と
接しない側の強磁性膜83b,85bには弱い交換バイ
アスが加わる。非磁性膜87,88の材料の種類やその
膜厚により、反強磁性膜82と接しない側の強磁性膜8
3b,85bへの交換バイアスの大きさを低減できる。
【0220】ここで、強磁性膜83aおよび83bの磁
化のなす角度と、強磁性膜85aおよび85bの磁化の
なす角度は、信号磁界による磁化回転で強磁性的な配列
から反強磁性的な配列に変化するが、膜中央部における
強磁性膜83bおよび85bの磁化のなす角度は、逆に
反強磁性的な配列から強磁性的な配列に変化する。した
がって、前者と後者のスピン依存散乱は相殺される。そ
こで、強磁性膜83a,85aおよび非磁性膜87,8
8の材料としては、スピン依存散乱能力がなく高抵抗の
ものであることが望ましい。さらに、反強磁性膜82と
接する側の強磁性膜83a,85aの厚みは、反強磁性
膜82と接しない側の強磁性膜83b,85bの厚みに
比べて小さくすることが望ましい。
【0221】上記のようにすることにより、磁界0で強
磁性膜83および85の磁化方向を反平行に揃えること
ができる。その結果、第1に、磁気ヘッドに適する困難
軸方向(図中y方向)に信号磁界を加えた場合でも、両
強磁性膜の磁化回転により両強磁性膜間の磁化のなす角
度が0〜180°まで変化する状態が実現でき、容易軸
方向と同程度の高い抵抗変化率を実現できる。第2に、
2つの強磁性膜にバイアス磁界が加わるので、両強磁性
膜から磁壁を無くすことができ、バルクハウゼンノイズ
を抑制できる。第3に、センス電流と信号磁界が直交す
る方式では、従来スピンバルブ構造では相殺されていた
NiFe膜等を用いた場合に顕著である通常の磁気抵抗
効果とスピン依存散乱による抵抗変化とを兼ねることが
でき、△R/Rの増大が期待できる。 (実施例33)実施例32では、2つの反強磁性膜を用
いて両強磁性膜の磁化を反平行にする方法を示した。し
かし、必ずしも反強磁性膜のみでバイアス磁界を加える
必要はなく、硬質磁性膜からの漏れ磁界や微細形状に加
工した場合に生じる反磁界を利用しもよい。次に、その
一例について説明する。
【0222】図62から分かるように、基板90上にス
ピン依存散乱能力を有する強磁性膜91、非磁性膜9
2、および強磁性膜93を形成した。強磁性膜91,9
3および非磁性膜92の膜厚は実施例32と同様とし
た。その上に厚さ2〜50nmの反強磁性膜94を形成
し、強磁性膜93に交換バイアスを印加した。さらに、
その上に厚さ10〜50nmのCoPt、CoNiからな
る硬質磁性膜95を形成した。硬質磁性膜95の上に電
極端子96を形成した。成膜はすべて静磁界(図中x方
向)中で行った。
【0223】次いで、反強磁性膜94による交換バイア
ス磁界方向と同じ方向に400〜800kA/mの磁界
を加えて硬質磁性膜95をx方向に着磁した。その結
果、硬質磁性膜95のエッジ部からの洩れ磁界により強
磁性膜91にはマイナスx方向にバイアス磁界が加わ
り、強磁性膜91と93の磁化は反平行状態になった。
なお、強磁性膜93にも硬質磁性膜95からのバイアス
磁界が加わるが、反強磁性膜94からの交換バイアス磁
界の方が強くなるように交換バイアス力を設定すること
により、前述した反平行磁化状態を実現できる。なお、
硬質磁性膜95と反強磁性膜94を強磁性膜93の全面
に形成する必要はなく、強磁性膜93のエッジ部(電極
端子96近傍)のみに形成してもよい。
【0224】なお、図62の95には硬質磁性膜の代わ
りに軟磁性に近い強磁性膜を用いることもできる。この
場合、軟磁性に近い強磁性膜は、反強磁性膜94から交
換バイアスが加わるように積層する必要がある。強磁性
膜95に交換バイアスが加わると、強磁性膜95の磁化
を一方向に固着できるので、信号磁界等の外部磁界が加
わっても安定した静磁結合バイアス磁界を強磁性膜91
に、磁気抵抗効果に不可欠な微細パターン形状に加工す
ることにより強磁性膜93に加わる反強磁性膜94から
の交換バイアス磁界と180°異なる方向に付与でき
る。このとき、強磁性膜95の膜厚や飽和磁化を調整す
ることにより、所望の強度のバイアス磁界を強磁性膜9
1に付与できる。
【0225】また、強磁性膜95の抵抗率や膜厚を調整
することにより、所望のシャント分流動作点バイアスが
付与できる。ここで、強磁性膜95では、反強磁性膜9
4と交換結合するのに要求される特性(反強磁性膜94
とエピタキシャル成長するために反強磁性膜94と結晶
構造や格子定数が同様である結晶性の強磁性膜、例えば
NiFe膜、CoFe膜、CoFeTa膜、CoFeP
d膜が望ましい)と、静磁結合バイアスや動作点バイア
スに要求される特性とを両立することが困難である(上
記結晶性の膜では抵抗率が低すぎる)。そこで、強磁性
膜95は、反強磁性膜94と接する交換結合用磁性膜
(NiFeやCoFe系強磁性膜等)とバイアス用の強
磁性膜(Co系非晶質膜、FeTaN等の窒化微結晶
膜、あるいはFeZrC等の炭化微結晶膜等)が界面で
強磁性交換結合する2層構造であることが望ましい。
【0226】図62に示す構造の場合、硬質磁性膜95
に電極端子96からのセンス電流が分流するのでΔR/
Rがある程度減少することが避けられない。この問題は
図63〜図65に示す構造により解消できる。
【0227】すなわち、図63に示すように、基板90
上に図62と同様に反強磁性膜94まで成膜し、その
後、反強磁性膜94の両サイド近傍に硬質磁性膜95を
形成する。その内側にトラック幅に相当する間隔で電極
端子96を形成する。その結果、硬質磁性膜95にセン
ス電流が流れることを防止でき、ΔR/Rの低下を抑制
できる。
【0228】一方、図64に示すように、基板90上の
最初に硬質磁性膜95を形成し、その上に絶縁膜97を
介して強磁性膜91、非磁性膜92、強磁性膜93、お
よび反強磁性膜94を順次形成し、さらに電極端子96
を形成する。このとき、成膜中に静磁界を加えて、反強
磁性膜94から強磁性膜93に所定の交換バイアス磁界
を加える。成膜後にこの交換バイアス方向と同じ方向に
硬質磁性膜95を着磁する。この方法でも、強磁性膜9
1と93に反対方向のバイアス磁界を印加することがで
き、しかも硬質磁性膜95に電流が流れることを防止で
きる。なお、絶縁膜97は硬質磁性膜95と強磁性膜9
1との交換結合により過大なバイアス磁界が加わること
を防ぐ効果もある。
【0229】また、図65に示すように、基板90上に
強磁性膜91、非磁性膜92、強磁性膜93、および反
強磁性膜94を順次成膜する。次に、この積層膜を所定
の形状に微細加工する。この微細加工はレジスト等を用
いてマスクを形成し、イオンミリング等により行う。こ
の後、この残りのマスクを使用してリフトオフ法により
強磁性膜91のサイドに硬質磁性膜95を形成する。最
後に、強磁性膜93に加わる交換バイアスとは逆方向に
硬質磁性膜95を着磁する。この方法でも、強磁性膜9
1と93に反対方向のバイアス磁界を印加することがで
き、しかも硬質磁性膜95に電流が流れることを防止で
きる。 (実施例34)図61に示すスピンバルブ構造におい
て、ガラス基板80上に1at% のCrを含む厚さ5nmの
Cu下地膜、反強磁性膜82として厚さ15nmのFeM
n膜、強磁性膜83aとして厚さ1nmのNi80Fe
20膜、非磁性膜87として1at% のCrを含む厚さ1.
5nmのCu膜、強磁性膜83bとして厚さ6nmのNi80
Fe20膜、非磁性膜84として厚さ2.5nmのCu膜、
強磁性膜85bとして厚さ6nmのNi80Fe20膜、非磁
性膜87として1at% のCrを含む厚さ1.5nmのCu
膜、強磁性膜85aとして厚さ1nmのNi80Fe20膜、
並びに反強磁性膜82として厚さ15nmのFeMn膜を
順次形成した。
【0230】これらの膜の成膜は、永久磁石による静磁
界中で2極スパッタリング法により真空を破ることなく
一括に行った。なお、この永久磁石は基板ホルダーには
一体的に取り付けられていない。また、このとき、予備
排気圧1×10-4Pa以下、Arガス圧0.4Paの条
件で行い、強磁性膜83の成膜が終了した後で基板ホル
ダーを180°回転させて永久磁石によるバイアス磁界
(約4000A/m)の方向を180°反転した。この
ようにして、信号磁界0で両強磁性膜磁化の反平行状態
を実現できるスピンバルブ構造の積層膜を作製した。
【0231】得られた積層膜の抵抗を4端子法により測
定した。具体的には、強磁性膜83および85の容易軸
方向に1mAの定電流を加え、困難軸方向の膜の幅を1
mmとして4mm間の電圧を測定した。磁界はヘルムホルツ
コイルにより強磁性膜83および85の困難軸方向に加
えた。その結果、得られた抵抗−磁界特性を図67に示
す。
【0232】図66において、抵抗は最大磁界(16k
A/m)での値を1に規格化して示す。磁界0では強磁
性膜83と85の磁化が反平行状態にあるので、抵抗が
最大値を示す。磁界が加わると、急激に抵抗は低下す
る。特に、2000A/m以上の磁界では抵抗はおよそ
一定値を示す。約3.8%以下の抵抗変化率が2000
A/m以下の僅かの磁界範囲で生じることが分かる。ま
た、この抵抗−磁界特性にはヒステリシスやノイズが殆
ど認められない。すなわち、このスピンバルブ構造の積
層膜を用いると、著しく高感度でノイズの少ない磁気ヘ
ッドを得ることができる。
【0233】さらに、図60に示すスピンバルブ型磁気
抵抗効果素子を作製して、非磁性層84(Cu)の厚み
と抵抗変化率との関係を調べた。その結果を下記表6に
示す。下地膜には厚さ5nmのNiFe膜を用い、強磁性
膜83,85には厚さ8nmのNiFe膜を用い、反強磁
性膜82には厚さ10nmのFeMn膜を用いた。
【0234】
【表6】 表6から分かるように、Cu厚が薄くなると急激に抵抗
変化率が増加して、Cu厚が1.2nmでは9%の高い抵
抗変化率が得られた。これは、強磁性膜83と強磁性膜
85には50kA/mの比較的大きな反平行バイアス磁
界がそれぞれに加わっているので、非磁性膜84の厚み
を薄くしても安定した反強磁性磁化配列が実現できるた
めである。非磁性層(Cu)厚を2nm未満に薄くする場
合、反平行磁化配列が崩れて抵抗変化率が激減する従来
のスピンバルブ型磁気抵抗効果素子と異なり、両方の強
磁性膜83,84に反対方向のバイアス磁界を加え、非
磁性膜84の厚みを薄くすることにより大幅に抵抗変化
率を増大できる。 (実施例35)次に、スピン依存散乱能力を有する強磁
性膜の数を3層以上に増やした場合について説明する。
【0235】図67に示すように、基板100上に反強
磁性膜102の配向を制御するための下地膜101、F
eMn、NiO、PtMn等からなる厚さ5〜50nmの
反強磁性膜102、CoFe、Co、NiFe等からな
る厚さ1〜20nmの強磁性膜103、Cu、Au等から
なる厚さ1〜10nmの非磁性膜104、厚さ1〜20nm
の強磁性膜105、厚さ1〜10nmの非磁性膜106、
厚さ1〜20nmの強磁性膜107、および厚さ5〜50
nmの反強磁性膜108を形成した。ここで、強磁性膜1
03,105,107の膜厚は、すべて等しくても異な
っていてもよい。さらに、その上に必要に応じて保護膜
を形成して電極端子109を形成した。なお、成膜は静
磁界中で行った。
【0236】反強磁性膜102と108からそれぞれ強
磁性膜103と107に交換バイアスを一方向(図中x
方向)に加えた。その結果、中間の強磁性膜105のみ
が透磁率が高く、強磁性膜103と107は低い透磁
率、すなわち磁化の固着が実現できた。この磁化の固着
には、反強磁性膜ではなく図63で示したような硬質磁
性膜95を用いてもよい。なお、反強磁性膜102およ
び108と接する強磁性膜103および107の材料と
して軟磁性があまり良好でないが抵抗変化率の高いCo
やCoFeを用い、中間の強磁性膜105の材料として
抵抗変化率はあまり高くないが軟磁性が良好であるNi
Feを用いることにより低磁界で高い抵抗変化率を実現
できる。
【0237】このような構成により、中間の強磁性膜1
05の磁化回転が低磁界で容易に起こり、また、非磁性
層を介した界面数が従来のスピンバルブ構造の膜に比べ
て2倍に増えるので、低磁界で従来のスピンバルブ構造
の膜を上回る抵抗変化率を実現できる。また、この積層
膜の中央に信号磁界で磁化回転する強磁性膜が位置する
ことになるので、センス電流磁界による強磁性膜の磁化
の乱れは僅かであり、安定した信号検出が可能になる。
なお、実施例33で説明したような硬質磁性膜や反磁界
によるバイアス法を併用すれば、強磁性膜103および
107と、中間の強磁性膜105の磁化のなす角度を信
号磁界0で反平行にすることができる。その結果、実施
例32で述べた種々の効果により、さらに高感度で低ノ
イズの磁気抵抗効果素子を得ることができる。 (実施例36)図68は、スピン依存散乱能力を有する
強磁性膜の数を4層に増やした積層膜を示す。
【0238】基板100上に、反強磁性膜111、非磁
性層113,115,117を介して積層した4層の強
磁性膜112,114,116,118、反強磁性膜1
19を順次形成して、センス電流が信号磁界と同方向に
流れるように電極端子109をその上に形成した。必要
に応じて反強磁性膜111の下には配向制御用の下地膜
を、反強磁性膜119の上には保護膜を形成する。各膜
の材料、膜厚は図67に示したものと同様とした。
【0239】少なくとも強磁性膜112の成膜中には静
磁界を図中x方向(トラック幅方向)に付与して、一
方、その後の成膜途中で静磁界方向180°反転して少
なくとも反強磁性膜119の成膜中には静磁界を図中マ
イナスx方向に付与した。この成膜中の静磁界により、
強磁性膜112にはx方向に、強磁性膜118にはマイ
ナスx方向に交換バイアス磁界による磁化固着を生じ
る。また、この構成では、トラック幅が狭いと強磁性膜
112,114,116,118の幅も同様に狭くなる
ので、その方向に強い反磁界が発生する。この反磁界に
より、反強磁性膜と接していない中間の強磁性膜114
と116の磁化はそれぞれ強磁性膜112と118の磁
化と反平行になる。すなわち信号磁界0では4層の強磁
性膜の隣接する磁化は互いに反平行に向くことになる。
【0240】なお、中間の強磁性膜114と116への
反磁界が不充分の場合には、センス電流により発生する
磁界が強磁性膜112と114ではマイナスx方向に、
強磁性膜116と118ではx方向に加わるようにセン
ス電流を図中y方向に加えることが望ましい。ここで、
反強磁性膜からの交換バイアス磁界をセンス電流磁界よ
りも大きくなるように設定すれば、強磁性膜112と1
18の磁化を電流磁界により乱されることなく反強磁性
膜からの交換バイアス方向に固着できる。
【0241】このような構成にすることにより、4層の
強磁性膜の各磁化方向は、信号磁界0で反強磁性的に配
列できる。したがって、界面数の増加に対応してΔR/
Rが増加する。また、信号磁界が僅かに加わることによ
り各層の磁化が回転できるので、高感度なスピン依存散
乱を用いた磁気抵抗効果素子を実現できる。 (実施例37)次に、スピン依存散乱能力を有する一部
の強磁性膜の磁化を固着して、残りの強磁性膜の磁化を
信号磁界0で信号磁界方向と異なる方向に配列する場合
について説明する。
【0242】図69は、センス電流と信号磁界の方向が
直交する積層膜を示す。基板120上に、非磁性膜12
2を介在させたスピン依存散乱能力を有する強磁性膜1
21および123の積層膜、反強磁性膜124を順次形
成した。各膜の材料、厚みは図60に示したものと同様
とした。必要に応じて、反強磁性膜124上に保護膜を
形成した後に電極端子125を形成した。
【0243】ここで、少なくとも強磁性膜121の成膜
中には、図中x軸およびy軸の2等分線の方向に静磁界
を付与し、一方、少なくとも反強磁性膜124の成膜中
には、その静磁界の方向を前者の方向と45°回転させ
て付与した(図中y方向)。その結果、強磁性膜121
の磁化は前記静磁界のx方向に付与され、強磁性膜12
3の磁化は反強磁性膜124からのバイアス磁界により
信号磁界方向に固着された。このような構成によれば、
信号磁界0では両強磁性膜の磁化のなす角度は45°に
なり、信号磁界が強磁性膜123の磁化固着方向に加わ
ると、両強磁性膜の磁化方向が強磁性的な配列になるた
め抵抗が減少し、逆に磁化固着方向と180°異なる方
向に信号磁界が加わると、両強磁性膜の磁化方向が反強
磁性的な配列になるため抵抗が増大する。したがって、
線型応答を実現するために従来の磁気抵抗効果素子に必
要であった動作点バイアスが不要になる。なお、この方
法では、強磁性膜121と123との強磁性的な結合に
より強磁性膜121の磁化が信号磁界0でy方向に向け
て傾き易く、大きな信号磁界が加わると再生信号が歪み
易い傾向がある。これは、センス電流により発生する電
流磁界が、強磁性膜121ではこの強磁性的な結合方向
と180°異なる方向に加わるように、すなわちこの強
磁性的な結合による磁界と電流磁界が相殺されるように
センス電流の流れる向きを決めることにより回避でき
る。
【0244】しかしながら、強磁性膜121や123に
異方性磁気抵抗効果を有する膜を用いる場合には、逆に
この強磁性的な結合による磁界により強磁性膜121の
磁化Mが強磁性膜123の磁化M方向に傾くと、磁気異
方性とスピン異存散乱による抵抗変化が重畳するので
(電流方向がx方向であるため)感度向上が期待できる
利点がある。実際に、磁気抵抗効果素子が用いられる状
況に応じて、強磁性膜121の磁化方向を電流方向等の
手段により調整する必要がある。
【0245】ところで、実施例37では、バルクハウゼ
ンノイズ抑制に必要な縦バイアス磁界(図中x軸および
y軸の2等分線方向のバイアス磁界)を加える必要があ
る。このためには、実施例32に示したような反強磁性
膜を強磁性膜121の基板側に配置して交換結合させ
る。あるいは、図70(A)に示すように、反強磁性膜
124上に、ある程度軟磁性が良い(Hcが交換バイア
ス磁界HUAより小さい)強磁性膜126を積層して、少
なくともこの強磁性膜126の積層中には、成膜中のバ
イアス磁界方向を概ね135°反転して強磁性膜126
からの交換バイアス磁界を強磁性膜121に加える方法
がある。この場合には、スピン依存散乱ユニットである
膜が下地膜の役目も果たすので、反強磁性膜124上に
成膜した強磁性膜126に容易に交換バイアスを付与で
きる。その結果、実際に再生ヘッドに適した微細パター
ンに加工したときに発生する静磁結合磁界(反磁界)に
より、縦バイアス磁界を強磁性膜121に加えることが
できるので、バルクハウゼンノイズが抑制できる。
【0246】図70(A)の実施例では、反強磁性膜1
24の膜面両サイドで交換バイアス方向が異なるので、
バイアス磁界方向が不安になる場合もある。これは、図
70(B)に示すように、反強磁性膜124を中間に磁
気結合を弱めるが結晶成長を阻害しない極薄い中間膜1
24b(Cu等のfcc相膜)を介して反強磁性膜12
4aと124cに分離することで回避できる。このと
き、実施例32で述べたように、熱処理で交換バイアス
磁界方向を制御可能とするため、反強磁性膜124aと
124cはネール点またはブロッキング温度が異なる材
料で構成されることが好ましい。さらに、強磁性膜12
6が厚く、Bsが高くないと所望の縦バイアス磁界が強
磁性膜121に付与できないが、このとき強磁性膜12
6にセンス電流が分流するので、強磁性膜の抵抗率は高
いことが望ましい。具体的には、Co系やFe系のアモ
ルファス膜や窒化または炭化微結晶膜を用いることが望
ましい。しかしながら、このような膜は、FeMn等の
反強磁性膜と交換結合し難いので、反強磁性膜124a
と接する部分には極薄いNiFeやCoFeTa等の交
換結合しやすい強磁性膜124bを積層して、その上に
高抵抗のアモルファス的な高Bs強磁性膜126aを強
磁性交換結合するように積層することが望ましい。 (実施例38)図70(C)は、センス電流と信号磁界
の方向が平行である積層膜を示す。センス電流の流れる
方向が異なり、強磁性膜121の磁化が図中x方向に付
与され、かつ膜の長手方向が90°回転していること以
外は図69の構成と同様である。この構成においては信
号磁界0では両強磁性膜の磁化のなす角度は90°にな
り、信号磁界が強磁性膜123の磁化固着方向に加わる
と、両強磁性膜の磁化が強磁性的な配列になるため抵抗
が減少し、逆に磁化固着方向と180°異なる方向に信
号磁界が加わると両強磁性膜の磁化が反強磁性的な配列
になるため抵抗が増大する。したがって、やなり、動作
点バイアスが不要になる。この構成では、センス電流に
よる電流磁界が強磁性膜121の容易軸方向であり、こ
の磁界がバルクハウゼンノイズを抑制する効果がある。
【0247】さらに、実施例38では、強磁性膜123
から発生しやすいフェロ結合磁界のために強磁性膜12
1の磁化がy方向に傾きやすいことを付け加えておく。
実施例37で詳しく説明したように、この強磁性的結合
磁界は、信号磁界ダイナミックレンジが縮まるが、異方
性磁気抵抗効果を重畳する利点を有する。なお、電流磁
界が強磁性膜121に加わるので、必ずしも強磁性膜1
21の容易軸がx方向にある必要はない。
【0248】バルクハウゼンノイズ抑制効果が不十分の
ときは、強磁性膜123の磁化固着方向を信号磁界方向
から外すことにより、図中x方向に静磁結合磁界が発生
してより強いバルクハウゼンノイズ抑制磁界を付与でき
る。 (実施例39)図71は、スピン依存散乱能力を有する
強磁性膜を3層とした場合の積層膜を示す。図71で
は、センス電流と信号磁界が直交する場合について示
す。基板130上に、静磁界中で反強磁性膜131、非
磁性膜133および135を介在させたスピン依存散乱
能力を有する強磁性膜132,134,136の積層
膜、反強磁性膜137を順次形成した。その上に電極端
子138を形成した。
【0249】ここで、静磁界の方向は、少なくとも強磁
性膜132と反強磁性膜137の成膜中は同じ方向とし
て(図中y方向)、強磁性膜134の成膜中はそれと4
5°の角をなす方向(図中x軸とy軸の2等分線方向)
とした。その結果、強磁性膜132と136の磁化は図
中y方向に固着され、強磁性膜134の磁化は高透磁率
を保ち、磁界0では図中x軸とy軸の2等分線方向近傍
に向く。したがって、この構成でも、磁界0では両強磁
性膜の磁化のなす角度はほぼ45°になり、信号磁界が
強磁性膜136の磁化固着方向に加わると、両強磁性膜
の磁化方向が強磁性的な配列になるため抵抗が減少し、
逆に磁化固着方向と180°異なる方向に信号磁界が加
わると、両強磁性膜の磁化方向が反強磁性的な配列にな
るため抵抗が増大する。すなわち、動作点バイアスが不
要になる。この構成では界面数が2倍に増えるので感度
も向上する。 (実施例40)実施例38で示した方法の磁気抵抗効果
素子の積層膜の抵抗−磁界特性を説明する。
【0250】図70(C)において、基板120として
サファイアC面基板を用い、強磁性膜121として厚さ
5nmのPd下地膜を有する厚さ6nmのCo90Fe10膜を
用い、非磁性膜122として厚さ3nmのCu膜を用い、
強磁性膜123としては厚さ4nmのCo90Fe10膜を用
い、反強磁性膜124としては厚さ15nmのFeMn膜
を用い、さらに、その上に保護膜として厚さを5nmのP
d膜を形成した。
【0251】この積層膜は2極スパッタリング法により
真空を保ったまま一括に成膜した。なお、成膜中には永
久磁石により静磁界を付与し、強磁性膜121の成膜を
終えた後に静磁界の方向を90°反転させて、強磁性膜
121と123の容易軸のなす角度を90°とした。ま
た、スパッタリングの予備排気は1×10-4Pa以下、
スパッタガス圧は0.4Paとした。
【0252】この積層膜の抵抗−磁界特性を実施例33
と同様に測定した。図72に困難軸方向の抵抗−磁界特
性を示す。図72において、強磁性的な磁化配列での抵
抗を1として規格化する。図72から分かるように、信
号磁界0で線形性のよい抵抗の磁界変化が得られる。こ
れにより、動作点バイアスが不必要であることが分か
る。 (実施例41)ここでは、強磁性膜/非磁性膜/強磁性
膜からなるスピン依存散乱ユニットの両強磁性膜に別の
強磁性膜または反強磁性膜を2層以上積層して、そのと
き発生する両バイアス磁界を概ね直交させた磁気抵抗効
果素子の実施例を示す。
【0253】図73は、基板120上に、CoPt等の
ハード強磁性膜、一軸磁気異方性磁界Hkがスピン依存
散乱ユニットの強磁性膜よりも大きな高Hk強磁性膜
(例えば、Hk〜5kA/mのCoFeRe膜等)やN
iO等の反強磁性膜からなるバイアス磁界を印加するた
めの第1のバイアス膜121a、スピン依存散乱ユニッ
ト(強磁性膜121、非磁性膜122、強磁性膜12
3)、FeMn等の反強磁性膜からなるバイアス磁界を
印加するための第2のバイアス膜124を順次積層した
多層膜を示す。この多層膜の第1のバイアス膜121a
から発生するバイアス磁界は、積層界面を通した交換結
合により主に強磁性膜121にバイアス磁界が加わる。
一方、第2のバイアス膜124から発生するバイアス磁
界は、積層界面を通した交換結合により主に強磁性膜1
23に加わる。この第1と第2のバイアス磁界は概ね直
交するような方向関係を満足するように加える。さら
に、第2のバイアス磁界は強磁性膜123の磁化が信号
磁界で実質的に動けない程度の強い値とする(10kA
/m以上が望ましい)。
【0254】一方、第1のバイアス磁界強度は、信号磁
界により強磁性膜121の磁化が回転でき、バルクハウ
ゼンノイズが抑制できる程度の磁界とする。具体的に
は、第1のバイアス膜に反強磁性膜を用いる場合には、
バイアス膜121aと強磁性膜121のバイアス磁界を
5kA/m以下にすることが望ましい。第1のバイアス
膜に強磁性膜を用いる場合には、何等かの手段によりバ
イアス膜121aの磁化方向を一定方向に保持して単磁
区化してバイアス膜121aと強磁性膜121を強い交
換結合で一体化すると、信号磁界によりバイアス膜12
1aおよび強磁性膜121が概ね同様に回転でき、強磁
性膜121aが単磁区であるので、強磁性膜121も単
磁区になりバルクハウゼンノイズが除去できる。あるい
は、例えば界面に別の層を挿入してバイアス膜121a
と強磁性膜121の交換結合〜5kA/m以下に弱める
方法もある。この場合、強磁性膜121のみが信号磁界
により磁化回転するため、バイアス膜121aの透磁率
を抑制して磁化を動き難くすることが好ましい。この透
磁率抑制手段としては、Hkの向上、保磁力の向上、あ
るいは何等かの手段で一方向性バイアス磁界をバイアス
膜121aに加える等がある。
【0255】ここで、強磁性膜121aを単磁区化する
手段としては、図74に示すように、バイアス膜121
aをスピンバルブユニットよりも長くしてバイアス膜1
21aのエッジ部に新たな反強磁性膜やハード膜121
bを積層することが等が可能である。
【0256】以上の構成の磁気抵抗効果素子を作製する
と、強磁性膜123の磁化方向は固定され強磁性膜12
1の磁化が信号磁界に応じて変化するので、図69に示
した実施例と同様に信号磁界〜0で線形性の良好な高感
度な磁気抵抗効果素子が得られ、なおかつ信号磁界を検
出する強磁性膜121の磁壁も除去できるので、動作点
バイアスが不要で高感度・ノイズなしの信号磁界再生が
可能になる。
【0257】ここで、強磁性膜121の磁化容易軸方向
をバイアス磁界方向と直交する方向に付与することが、
特に磁気異方性の大きなCo系の強磁性膜を121に用
いた場合には望ましい。そうすると、異方性磁界に相当
する飽和磁界とバイアス磁界が相殺できるので、Hsが
大幅に低減できるので、図69に示した飽和磁界−抵抗
特性の傾きが急峻になり、通常のバイアス磁界方向と強
磁性膜121の磁化容易軸が同方向である場合に比べ
て、より高感度な信号磁界検出が可能になる。バイアス
磁界と強磁性膜の容易軸の方向を変えるには、バイアス
膜121aの成膜中における磁界印加方向と強磁性膜1
21の成膜中における磁界付与方向を変える方法等があ
る。 (実施例42)図75に示すように、支持基板140上
に、高保磁力膜の配向を制御するための厚さ20nmのC
r下地膜141、Co等からなる厚さ8nmの高保磁力膜
142、Cu等からなる厚さ3nmの非磁性膜143、お
よび厚さ4.6nmのNiFe等からなる強磁性膜144
を順次形成し、さらに、その上に電極端子145を形成
してスピンバルブ構造の磁気抵抗効果素子を作製した。
なお、積層膜の成膜は超高真空Eガン蒸着により行っ
た。このときの基板温度は約100℃とし、真空チャン
バー内は1×10-8Pa以下に排気した。
【0258】基板温度約100℃とした場合のCo/C
r膜についてX線回折パターンを調べた。その結果を図
76に示す。図76に示すように、この膜はCr(20
0)が高配向であり、このCr膜を下地膜としたCo膜
も(110)が高配向であった。なお、Co(110)
ピークのロッキングカーブ半値幅は約3°であった。次
に、基板温度約100℃で成膜した図75に示すNiF
e/Cu/Co/Cr/基板の構造の積層膜の困難軸方
向のR−Hカーブを図77に示す。R−Hカーブは通常
のレジストプロセス、イオンミーリングを用いて積層膜
を2mm×6μmのパターンに加工し、4端子法により測
定した値に基づいて作成した。このとき、容易軸はパタ
ーン長手方向とし、磁界はパターン幅方向に加えた。
【0259】図77に示すように印加磁界±80Oeの
場合、抵抗変化率約6.5%となり、飽和磁界は約3.
6kA/mとなった。
【0260】この構造は、高保磁力膜のHcが約8kA
/mであるため、媒体からの磁界が8kA/m未満の場
合は問題がないが、ヘッドと媒体との間が近い構造、す
なわち媒体からの磁界が8kA/m以上となるような構
造には適さない。そこで、図75と同様の構造、膜厚
で、基板温度を約200℃とし、さらに約8kA/mの
磁界中で積層膜を成膜した。
【0261】基板温度約200℃とした場合のCo/C
rのX線回折パターンは図76とほぼ同じであった。ま
た、この積層膜もCo(110)ピークのロッキングカ
ーブ半値幅は約3°であった。さらに、ポールフィギュ
アで測定したところ磁界方向に六方晶C軸の偏りが見ら
れた。したがって、基板温度100℃、無磁界中におい
て成膜した積層膜に比べ、単結晶様のCoが得られた。
【0262】次に、基板温度約200℃、磁界中におい
て成膜した図75と同じ構造の積層膜の困難軸方向のR
−Hカーブを図78に示す。R−Hカーブは前記と同様
に積層膜を2mm×6μmのパターンに加工し、4端子法
で測定した値に基づいて作成した。このとき容易軸(C
軸の方向)はパターン長手方向とし、磁界はパターン幅
方向に加えた。
【0263】図78に示すように、外部磁界±1.6k
A/mの場合でも高保磁力膜の磁化は印加磁界によって
ほとんど動くことはなく、しかもNiFe膜の飽和磁界
も約2.8kA/mと低く保つことができた。また、抵
抗変化率も約7.5%となった。
【0264】上記構成の積層膜は、外部磁界1.6kA
/mでも高保磁力膜の磁化が安定しているため、NiF
e膜の容易軸を幅方向として、CoのC軸を概ね長手方
向とするパターンを作製した。この構成により動作点バ
イアスが不要となる。このとき、磁界をパターン長手方
向に加え、そのときのR−Hカーブを測定した。なお、
パターン形状は前記と同様に2mm×6μmとした。その
結果を図79に示す。図79から分かるように、ヒステ
リシスのない良好なR−Hカーブが得られ、Hkも約
1.6kA/mと低い値を示した。
【0265】また、ここでは高保磁力膜としてCo膜を
用いたが、CoNi膜、CoCr膜を用いてもよい。さ
らに、下地膜としてはCr膜の他にW膜等を用いてもよ
く、これらのCr,Wをベースとして、それに添加元素
を加えてもよい。なお、この下地膜は、本発明全体にわ
たっていわゆるハード膜の下地膜に適用することができ
る。これにより、C軸を硬磁性膜の膜面内に存在させる
(特定方向にC軸が揃う)ことができる。したがって、
硬磁性膜を固着した場合に、その上に形成した強磁性膜
まで固着されることを防止できる。
【0266】ここで、参考のために下地膜のない積層膜
のM−Hカーブを図80に示す。Coの磁化の垂直成分
から漏れ磁界が発生し、NiFe膜の軟磁気特性を劣化
させていることが分かる。これは、一部のNiFeとC
oの磁化が一体化していると考えられる。 (実施例43)実施例42で示すように、基板温度約2
00℃で成膜した高保磁力膜は、単結晶様の膜で低抵抗
であるため、電子の平均自由行程を高保磁力膜の厚みよ
りも充分に長くできる。したがって、図81のように高
保磁力膜142と強磁性膜144とをCu非磁性膜14
3を介して積層した。この積層膜の抵抗変化率は約15
%と高い値を示した。なお、このような構造の積層膜を
作製するためには、第1層の高保磁力膜142の配向を
制御するために下地膜を設けることが望ましい。また、
本実施例では下地膜として厚さ20nmのCr膜141を
用いた。 (実施例44)次に、配向制御用高保磁力膜を例えば実
施例34でのバイアス膜として用いた場合について説明
する。
【0267】本実施例では、図82に示すように、配向
制御用高保磁力膜142上に磁気的絶縁層146を介し
てスピンバルブ構造の磁気抵抗効果素子を形成した。こ
のように、配向制御高保磁力膜142を用いることによ
って、膜端部において高保磁力膜142とNiFe膜1
44が静磁結合し、バルクハウゼンノイズの原因となっ
ているNiFe膜端部の磁壁を固着させることができ
る。さらに、配向制御高保磁力膜を用いているため、高
保磁力膜のNiFe膜に対する影響、例えば膜内部の漏
れ磁界等を回避でき、NiFe膜の軟磁気特性を劣化さ
せることなく、良好な素子を作製できる。また、ここで
はスピンバルブ構造の交換バイアス膜として反強磁性膜
等を用いてもよい。
【0268】
【発明の効果】以上説明した如く本発明の磁気抵抗効果
素子は、高い抵抗変化率および優れた軟磁気特性を同時
に発揮できるものであり、その工業的価値は大なるもの
がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の発明の磁気抵抗効果素子(スピ
ンバルブ構造)を示す断面図。
【図2】図1に示す磁気抵抗効果素子の抵抗変化率の外
部磁界依存性を示すグラフ。
【図3】図1に示す磁気抵抗効果素子の磁化曲線を示す
グラフ。
【図4】本発明の第1の発明の磁気抵抗効果素子(人工
格子膜)の一例を示す断面図。
【図5】図4に示す磁気抵抗効果素子の抵抗変化率の外
部磁界依存性を示すグラフ。
【図6】Co90Fe10膜のCu下地膜がある場合の保磁
力の膜厚依存性を示すグラフ。
【図7】Co90Fe10膜のCu下地膜がない場合の保磁
力の膜厚依存性を示すグラフ。
【図8】本発明の第1の発明の磁気抵抗効果素子(スピ
ンバルブ構造)を示す断面図。
【図9】(A)はサファイア基板C面におけるθ−2θ
スキャンX線回折曲線、(B)はサファイア基板R面に
おけるθ−2θスキャンX線回折曲線。
【図10】Co90Fe10膜/Cu膜/サファイア基板C
面における最密面ピークに関するロッキングカーブ。
【図11】Co90Fe10膜における保磁力の最密面反射
でのロッキングカーブ半値幅依存性を示すグラフ。
【図12】(Co90Fe101-x Alx 膜/Cu膜にお
ける保磁力のAl濃度x依存性を示すグラフ。
【図13】Co90Fe10膜/Cu膜における保磁力の最
密面反射強度依存性を示すグラフ。
【図14】(Co90Fe101-x Tax 膜/Cu膜にお
ける保磁力のTa濃度x依存性を示すグラフ。
【図15】本発明の第1の発明の磁気抵抗効果素子(ス
ピンバルブ構造)を示す断面図。
【図16】本発明の第3の発明の磁気抵抗効果素子を示
す断面図。
【図17】図16に示す磁気抵抗効果素子の容易軸方向
のM−Hカーブ。
【図18】図16に示す磁気抵抗効果素子の困難軸方向
のM−Hカーブ。
【図19】図16に示す磁気抵抗効果素子のR−Hカー
ブ。
【図20】高抵抗アモルファス層を設けない磁気抵抗効
果素子の容易軸方向のM−Hカーブ。
【図21】高抵抗アモルファス層を設けない磁気抵抗効
果素子の困難軸方向のM−Hカーブ。
【図22】本発明の第3の発明の磁気抵抗効果素子を示
す断面図。
【図23】(A)〜(C)は本発明の第3の発明の磁気
抵抗効果素子の他の例の製造過程を示す断面図。
【図24】本発明の第3の発明の磁気抵抗効果素子の他
の例を示す斜視図。
【図25】本発明の第4の発明の磁気抵抗効果素子の例
を示す断面図。
【図26】図25に示す磁気抵抗効果素子において△ρ
/ρ0 とdCoFeとの関係を示すグラフ。
【図27】本発明の第5の発明の磁気抵抗効果素子を示
す断面図。
【図28】本発明の第5の発明の磁気抵抗効果素子を示
す断面図。
【図29】本発明の第6の発明の磁気抵抗効果素子にお
ける保磁力の強磁性膜の膜厚依存性を示すグラフ。
【図30】本発明の第6の発明の磁気抵抗効果素子にお
ける保磁力の強磁性膜の膜厚依存性を示すグラフ。
【図31】本発明の第6の発明の磁気抵抗効果素子の強
磁性膜の磁化曲線。
【図32】本発明の第7の発明の磁気抵抗効果素子にお
ける積層周期依存性を示すグラフ。
【図33】本発明の第6の発明の磁気抵抗効果素子の強
磁性膜における飽和磁界HsとCu膜厚との関係を示す
グラフ。
【図34】本発明の第7の発明の磁気抵抗効果素子の強
磁性膜の磁化曲線。
【図35】本発明の第7の発明の磁気抵抗効果素子を示
す断面図。
【図36】第7の発明において、CuとCoFeとの界
面状態を示す断面図。
【図37】図35に示す磁気抵抗効果素子の磁化曲線。
【図38】図35に示す磁気抵抗効果素子の抵抗変化特
性を示すグラフ。
【図39】従来の磁気抵抗効果素子の磁化曲線。
【図40】従来の磁気抵抗効果素子の抵抗変化特性を示
すグラフ。
【図41】本発明の第7の発明の磁気抵抗効果素子のC
u下地膜を有する強磁性膜についての磁化曲線。
【図42】本発明の第7の発明の磁気抵抗効果素子のC
u下地膜を有する強磁性膜についての抵抗変化特性を示
すグラフ。
【図43】本発明の第4の発明の磁気抵抗効果素子を示
す断面図。
【図44】図43に示す磁気抵抗効果素子の磁化曲線。
【図45】図43に示す磁気抵抗効果素子の抵抗変化特
性を示すグラフ。
【図46】膜内の揺らぎを説明するための概略図。
【図47】(A)はMgO(110)面基板上Co90
10/Cu人工格子膜の小角反射のX線回折曲線、
(B)はMgO(110)面基板上Co90Fe10/Cu
人工格子膜の中角反射のX線回折曲線。
【図48】(A)は図47におけるfcc(220)反
射に関する[110]軸方向から測定したロッキングカ
ーブ、(B)は図47におけるfcc(220)反射に
関する[100]軸方向から測定したロッキングカー
ブ。
【図49】(A)は結晶配向面の揺らぎによる結晶配向
面の法線の面内分布を示す概略図、(B)は抵抗変化率
のセンス電流方向依存性を示す概略図。
【図50】(A)はCu5.5nm/(Cu1.1nm/C
oFe1nm)16人工格子膜の外部磁界[100]軸方向
の磁化曲線、(B)はCu5.5nm/(Cu1.1nm/
CoFe1nm)16人工格子膜の外部磁界[110]軸方
向の磁化曲線。
【図51】MgO(110)面基板上におけるCo90
10/Cu積層膜の抵抗変化率のバイアス電圧依存性を
示すグラフ。
【図52】fcc相(111)面配向したCo90Fe10
/Cu積層膜に積層欠陥が導入された場合の概念図。
【図53】fcc相(111)面配向したCo90Fe10
/Cu積層膜に積層欠陥が導入された場合の原子配列を
示す概念図。
【図54】fcc相(111)面配向したCo90Fe10
/Cu積層膜に双晶欠陥が導入された場合の原子配列を
示す概念図。
【図55】図54に示す状態における抵抗変化率のセン
ス電流方向依存性を示す概略図。
【図56】ガラス基板上におけるCo90Fe10/Cu人
工格子膜の抵抗変化率の基板バイアス依存性を示すグラ
フ。
【図57】ガラス基板上におけるCo90Fe10/Cu人
工格子膜の長周期構造反射強度のバイアス依存性を示す
グラフ。
【図58】ガラス基板上におけるCo90Fe10/Cu人
工格子膜のfcc相(111)面反射強度のバイアス依
存性を示すグラフ。
【図59】ガラス基板上におけるCo90Fe10/Cu人
工格子膜の保磁力のバイアス依存性を示すグラフ。
【図60】本発明の第8の発明の磁気抵抗効果素子を示
す斜視図。
【図61】本発明の第8の発明の磁気抵抗効果素子を示
す斜視図。
【図62】本発明の第8の発明の磁気抵抗効果素子を示
す斜視図。
【図63】本発明の第8の発明の磁気抵抗効果素子を示
す斜視図。
【図64】本発明の第8の発明の磁気抵抗効果素子を示
す斜視図。
【図65】本発明の第8の発明の磁気抵抗効果素子を示
す斜視図。
【図66】本発明の第8の発明の磁気抵抗効果素子の抵
抗変化特性を示すグラフ。
【図67】本発明の第12の発明の磁気抵抗効果素子を
示す斜視図。
【図68】本発明の第12の発明の磁気抵抗効果素子を
示す斜視図。
【図69】本発明の第10の発明の磁気抵抗効果素子を
示す斜視図。
【図70】(A)〜(C)は本発明の第10の発明の磁
気抵抗効果素子を示す斜視図。
【図71】本発明の第10の発明の磁気抵抗効果素子を
示す斜視図。
【図72】本発明の第10の発明の磁気抵抗効果素子の
積層膜の抵抗変化特性を示すグラフ。
【図73】本発明の第12の発明の磁気抵抗効果素子を
示す斜視図。
【図74】本発明の第12の発明の磁気抵抗効果素子を
示す断面図。
【図75】本発明の第13の発明の磁気抵抗効果素子を
示す断面図。
【図76】Co/Cr積層膜のX線回折パターン。
【図77】基板温度約100℃で成膜した本発明の第1
3の発明の積層膜のR−Hカーブ。
【図78】基板温度約200℃で成膜した本発明の第1
3の発明の積層膜のR−Hカーブ。
【図79】パターン幅方向を容易軸とした場合の本発明
の第13の発明の積層膜のR−Hカーブ。
【図80】下地膜を設けない場合の本発明の第13の発
明の積層膜のR−Hカーブ。
【図81】本発明の第13の発明の磁気抵抗効果素子を
示す断面図。
【図82】本発明の第13の発明の磁気抵抗効果素子を
示す断面図。
【図83】従来の磁気抵抗効果素子を示す斜視図。
【図84】従来の磁気抵抗効果素子のR−Hカーブ。
【符号の説明】
10,20…サファイア基板、11,21,71…Co
90Fe10膜、12,22,23,70…Cu膜、13…
FeMn膜、14…Ti膜、15,24…Cuリード、
26…Ni酸化物膜、30,41,140…支持基板、
31,46…高抵抗アモルファス層、32,44,8
3,85,91,93,103,105,107,11
2,114,116,118,121,123,13
2,134,136,144…強磁性膜、33,45,
143…中間層、34…交換バイアス層、35,47…
リード、42…CoPtCr膜、43…レジスト、5
0,80,90,100,120,130…基板、51
…強磁性積層単位、52,84,87,88,92,1
04,106,113,115,117,122,13
3,135,163…非磁性膜、53,82,94,1
02,108,111,119,124,131,13
7,165…反強磁性膜、54,166…保護膜、5
5,62,86,96,109,125,145…電極
端子、60…MgO基板、61…積層膜、81,10
1,141…下地膜、95…硬質磁性膜、97…絶縁
膜、142…高保磁力膜、146…磁気的絶縁層、16
0…熱酸化Si基板、161…高抵抗強磁性膜、162
…第1の強磁性膜、164…第2の強磁性膜、167
a,167b…電極、169…高抵抗反強磁性膜。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (31)優先権主張番号 特願平5−53612 (32)優先日 平5(1993)3月15日 (33)優先権主張国 日本(JP) (72)発明者 橋本 進 神奈川県川崎市幸区小向東芝町1番地 株 式会社東芝研究開発センター内 (72)発明者 澤邊 厚仁 神奈川県川崎市幸区小向東芝町1番地 株 式会社東芝研究開発センター内 (72)発明者 上口 裕三 神奈川県川崎市幸区小向東芝町1番地 株 式会社東芝研究開発センター内 (72)発明者 佐橋 政司 神奈川県川崎市幸区小向東芝町1番地 株 式会社東芝研究開発センター内

Claims (12)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 基板上に、少なくとも強磁性膜、非磁性
    膜、および強磁性膜が順次積層されてなる積層膜を具備
    した磁気抵抗効果素子であって、2つの前記強磁性膜が
    非結合であり、少なくとも一方の強磁性膜はCo,F
    e,およびNiからなる群より選ばれた少なくとも1種
    の元素を主成分とし、かつ、その最密面が膜面垂直方向
    に配向していることを特徴とする磁気抵抗効果素子。
  2. 【請求項2】 基板上に、少なくとも強磁性膜、非磁性
    膜、および強磁性膜が順次積層されてなる積層膜を具備
    した磁気抵抗効果素子であって、少なくとも一方の強磁
    性膜はCo,Fe,およびNiからなる群より選ばれた
    少なくとも2種の元素を主成分とし、Pd,Al,C
    u,Ta,In,B,Nb,Hf,Mo,W,Re,R
    u,Rh,Ga,Zr,Ir,Au,およびAgからな
    る群より選ばれた少なくとも一つの元素が添加含有され
    た組成を有することを特徴とする磁気抵抗効果素子。
  3. 【請求項3】 基板上に、(n+1)層の強磁性膜とn
    層の非磁性膜とが交互に形成されてなる積層膜(ただ
    し、nは1〜4の整数を示す)を具備した磁気抵抗効果
    素子であって、前記積層膜の最上層および最下層の強磁
    性膜の少なくとも一方に隣接して抵抗率が50μΩcm以
    上である強磁性膜がさらに積層形成されたことを特徴と
    する磁気抵抗効果素子。
  4. 【請求項4】 基板上に、(n+1)層の強磁性膜とn
    層の第1の非磁性膜とが交互に形成されてなる積層膜
    (ただし、nは1〜4の整数を示す)を具備した磁気抵
    抗効果素子であって、前記積層膜の最上層および最下層
    の強磁性膜の少なくとも一方の厚さが5nm以下であり、
    この厚さが5nm以下の強磁性膜に隣接して抵抗率が前記
    強磁性膜の2倍以下である第2の非磁性膜がさらに積層
    形成されたことを特徴とする磁気抵抗効果素子。
  5. 【請求項5】 基板上に、少なくとも強磁性膜、非磁性
    膜、および強磁性膜が順次積層されてなる積層膜を具備
    した磁気抵抗効果素子であって、前記積層膜の最上層お
    よび最下層の強磁性膜の少なくとも一方に隣接してこの
    強磁性膜よりも大きい抵抗率および長い平均自由行程を
    有する薄膜がさらに積層形成されたことを特徴とする磁
    気抵抗効果素子。
  6. 【請求項6】 基板上に、少なくとも強磁性膜、非磁性
    膜、および強磁性膜が順次積層されてなる積層膜を具備
    した磁気抵抗効果素子であって、前記積層膜の最下層の
    強磁性膜がCoFe合金からなり、この強磁性膜に隣接
    してCoFe合金よりも格子定数の大きいfcc相を有
    する下地膜がさらに積層形成されてなることを特徴とす
    る磁気抵抗効果素子。
  7. 【請求項7】 基板上に、少なくとも強磁性膜、第1の
    非磁性膜、および強磁性膜が順次積層されてなる積層膜
    を具備した磁気抵抗効果素子であって、少なくとも一方
    の強磁性膜の前記第1の非磁性膜と反対側の主面に隣接
    して第1の非磁性膜とは異なる厚さを有する第2の非磁
    性膜と強磁性膜とが交互に形成されており、これらの強
    磁性膜と第2の強磁性膜とからなる単位積層膜内での各
    強磁性膜の磁化が互いに強磁性的に結合されていること
    を特徴とする磁気抵抗効果素子。
  8. 【請求項8】 基板上に、少なくとも強磁性膜、非磁性
    膜、および強磁性膜が順次積層されてなる積層膜を具備
    した磁気抵抗効果素子であって、少なくとも一方の強磁
    性膜へのバイアス磁界印加手段として前記積層膜に隣接
    または近接して形成されたバイアス膜を備え、かつ、2
    つの前記強磁性膜にそれぞれトラック幅方向の成分が互
    いに反平行となる方向のバイアス磁界が印加されて、2
    つの前記強磁性膜の磁化が信号磁界により互いに逆方向
    に回転することを特徴とする磁気抵抗効果素子。
  9. 【請求項9】 基板上に、少なくとも強磁性膜、非磁性
    膜、および強磁性膜が順次積層されてなる積層膜を具備
    した磁気抵抗効果素子であって、2つの前記強磁性膜は
    それぞれ信号磁界が印加されてもその磁化方向が実質的
    に保持される磁化固着膜、および信号磁界により磁化が
    変化して信号磁界を検出する磁界検出膜となり、信号磁
    界零の場合における2つの前記強磁性膜の磁化方向が互
    いに略直交しており、かつ、信号磁界方向にセンス電流
    を通電することを特徴とする磁気抵抗効果素子。
  10. 【請求項10】 基板上に、少なくとも強磁性膜、非磁
    性膜、および強磁性膜が順次積層されてなる積層膜を具
    備した磁気抵抗効果素子であって、2つの前記強磁性膜
    はそれぞれ信号磁界が印加されてもその磁化方向が実質
    的に保持される磁化固着膜、および信号磁界によりその
    磁化方向が変化して信号磁界を検出する磁界検出膜とな
    り、信号磁界零の場合における2つの前記強磁性膜の磁
    化方向のなす角θが30°以上60°以下であることを
    特徴とする磁気抵抗効果素子。
  11. 【請求項11】 基板上に、少なくとも強磁性膜、非磁
    性膜、および強磁性膜が順次積層されてなる積層膜を具
    備した磁気抵抗効果素子であって、2つの前記強磁性膜
    へのバイアス磁界印加手段として前記積層膜に隣接また
    は近接して積層形成された2層以上のバイアス膜を備え
    ることを特徴とする磁気抵抗効果素子。
  12. 【請求項12】 基板上に、膜面内に六方晶C軸が存在
    する高保磁力膜と、前記高保磁力膜よりも低い保磁力を
    有する強磁性膜とを具備することを特徴とする磁気抵抗
    効果素子。
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