JP3655031B2 - 磁気抵抗効果素子および磁気再生システム - Google Patents
磁気抵抗効果素子および磁気再生システム Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、磁気ヘッド等に用いられる磁気抵抗効果素子に関する。
【0002】
【従来の技術】
以前より、磁気記録媒体に記録された情報を読み出す場合は、コイルを有する読取り用の磁気ヘッドを記録媒体に対して相対的に移動させて、その時に発生する電磁誘導でコイルに誘起される電圧を検出する方法が一般的である。また、情報を読み出す場合に磁気抵抗効果型ヘッドを用いることも知られている[IEEE MAG-7,150(1971)]。この磁気抵抗効果型ヘッドは、ある種の強磁性体の電気抵抗が外部磁界の強さに応じて変化するという現象を利用したものであり、磁気記録媒体用の高感度ヘッドとして知られている。近年、磁気記録媒体の小型化・大容量化が進められ、情報読み取り時の読取り用磁気ヘッドと磁気記録媒体との相対速度が小さくなってきているので、小さい相対速度であっても大きな出力が取り出せる磁気抵抗効果型ヘッドへの期待が高まっている。
【0003】
従来、磁気抵抗効果型ヘッドにおいて外部磁界を感知して抵抗が変化する部分(以下、MRエレメントと呼ぶ)には、NiFe合金(以下、パーマロイと省略する)が使用されている。パーマロイは、良好な軟磁気特性を有するものでも磁気抵抗変化率が最大で3%程度であり、小型化・大容量化された磁気記録媒体用のMRエレメントに用いる場合には磁気抵抗変化率が不充分である。このため、MRエレメント材料として、より高感度な磁気抵抗変化を示すものが望まれている。
【0004】
近年、Fe/CrやCo/Cuのように、強磁性膜と非磁性膜をある条件で交互に積層してなる多層積層膜、いわゆる人工格子膜には、隣接する強磁性膜間の反強磁性的結合を利用して巨大な磁気抵抗変化が現れることが確認されており、最大で100%を超える大きな磁気抵抗変化率を示すものも報告されている[Phys.Rev.Lett.,Vol.61,2472(1988)][Phys.Rev.Lett.,Vol.64,2304(1990)] 。
【0005】
一方、強磁性膜が反強磁性結合しない場合でも、隣接する強磁性膜間の反強磁性的結合を用いずに別の手段で非磁性膜を挟んだ2つの強磁性膜の一方に交換バイアスを及ぼし磁化を固定しておき、もう一方の強磁性膜が外部磁界により磁化反転することにより、非磁性膜を挟んで互いに反平行な状態を作り出し、大きな磁気抵抗変化を実現した例も報告されている。このタイプをここではスピンバルブ構造と呼ぶ[Phys.Rev.B.,Vol.45806(1992)][J.Appl.Phys.,Vol.69,4774(1991)]。
【0006】
人工格子膜、スピンバルブ構造の膜のいずれも、強磁性膜の種類によって、積層膜の抵抗変化特性および磁気特性はかなり異なる。たとえば、スピンバルブ構造でCoを用いた場合、例えばCo/Cu/Co/FeMnでは、8%の大きな抵抗変化率を生じるが、保磁力が約20エルステッドと高く、軟磁気特性が良好でない。逆に、パーマロイを用いた場合、例えばNiFe/Cu/NiFe/FeMnでは、保磁力が1エルステッド以下の良好な値が報告されているが、抵抗変化率は4%程度と大きくはない[J.Al.Phys.,Vol.69,4774(1991)]。このように、積層膜の軟磁気特性は良好であるが、抵抗変化率が低下する。したがって、軟磁気特性および抵抗変化率の両方を満たす積層膜の構成元素および膜構造がまだ報告されていない。
【0007】
また、2つのタイプの膜には、以下の問題点がある。
【0008】
人工格子膜では、磁界レンジを無視した抵抗変化率ΔR/Rは、スピンバルブ型に比べて大きいが、反強磁性結合が大きいために飽和磁界Hsが大きく軟磁性に難があり、さらにこのRKKY的な反強磁性結合は界面構造に敏感であるので、安定した成膜が困難であり、また、経時変化を生じ易い。
【0009】
スピンバルブ構造の膜では、強磁性膜にNiFe膜を用いると良好な軟磁気特性が得られるが、強磁性膜と非磁性膜の界面が2つなのでΔR/Rは人工格子膜に比べて小さい。この界面の数を増やすために強磁性膜、非磁性膜、反強磁性膜を繰り返して積層してなる多層積層膜を構成しても、この積層膜中に抵抗の高い反強磁性膜が存在することになるのでスピン依存散乱が抑制され、結局ΔR/Rの増加は期待できない。
【0010】
また、磁気ヘッドに適する強磁性膜の困難軸方向に信号磁界を加えた場合、片側のみの強磁性膜で磁化が回転するので、図83に示すように、信号磁界により反強磁性膜1上の強磁性膜2と、非磁性膜3上の強磁性膜4の磁化のなす角度を約90°までしか変えられない。なお、容易軸方向では180°までの角度変化が生じる。その結果、ΔR/Rは容易軸方向の約半分に減少する。ここで、たとえ反強磁性膜1上の強磁性膜2の交換バイアス磁界を何らかの方法で弱くして両方の強磁性膜2,4の磁化回転を利用できるようにした場合、非磁性膜3の膜厚を薄くして抵抗変化率の増大を目指すと、2つの強磁性膜間に強磁性的な結合が働くために、信号磁界0の状態では強磁性膜間の磁化は同方向を向く。その結果、信号磁界により磁化回転しても2つの強磁性膜間での磁化の角度変化が僅かとなり抵抗変化が僅かになる。
【0011】
さらに、この非磁性膜の膜厚を薄くした場合に働く2つの強磁性膜間の強磁性的な結合は、強磁性膜の透磁率を劣化させるという問題もある。また、軟磁気特性の良好なNiFe膜では、通常の異方性磁気抵抗効果があるが、センス電流を信号磁界と直交する方向に流す方式では、図84に示すように、信号磁界0で2つの強磁性膜の磁化が同方向に揃った状態で、信号磁界による異方性磁気抵抗効果とスピン依存散乱による抵抗変化が互いに打ち消し合ってしまう。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
人工格子膜とスピンバルブ構造の膜の共通の問題としては、第1に、磁気ヘッドにおいて高感度を得るためには、供給する電流をできる限り増加させる必要があるが、この場合両者の膜とも、一部の強磁性膜がこの電流が作る磁界により磁化の方向が乱されて、磁界に対する高感度な抵抗変化が妨げられることである。具体的には、積層膜の最上層、最下層近傍では、電流磁界が強く、磁化が電流磁界方向を向き易い。
【0013】
第2に、バルクハウゼンノイズ抑制や動作点バイアス等の磁気ヘッドに適用する上で解決すべき重要な問題がある。
【0014】
以上のように、スピン依存散乱を利用した人工格子膜やスピンバルブ構造の膜を有する磁気抵抗効果素子では、高感度化に不可欠な、大電流投入時でも良好な軟磁気特性を示し、しかも大きい抵抗変化率ΔR/Rを示すことができないのが現状にある。
【0015】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、軟磁気特性が良好で抵抗変化率△R/Rが充分なスピンバルブ構造の膜または人工格子膜を有し、高感度の磁気ヘッドに適用が可能である磁気抵抗効果素子を提供することを目的とする。
【0016】
【課題を解決するための手段】
上記目的と達成するためになされた本発明は、図1に示すようなスピンバルブ構造の膜または図4に示すような人工格子膜を有する磁気抵抗効果素子に関するものであって、基板上に、少なくとも強磁性膜、非磁性膜、および強磁性膜が順次積層されてなる基本構造を有している。ここで、前記強磁性膜の材料としては、特に規定されない限り、Co、CoFe、CoNi、NiFe,センダスト、NiFeCo、Fe8 N等を挙げることができる。さらに、Co100-x Fex (0<x≦40原子%)からなる強磁性膜は、高△R/Rでかつ低Hcを示すので好ましい。強磁性膜の膜厚は1〜20nmであることが好ましい。なお、本発明において強磁性とはフェリ磁性を含む意味である。また、非磁性膜の材料としては、Mn、Fe、Ni、Cu、Al、Pd、Pt、Rh、Ru、Ir、Au、またはAg等の非磁性金属やCuPd、CuPt、CuAu、CuNi合金等を挙げることができる。非磁性膜の膜厚は0.5〜20nmであることが好ましく、0.8〜5nmであることが特に好ましい。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の磁気抵抗効果素子を具体的に説明する。
【0018】
本発明の第1の発明は、基板上に、少なくとも強磁性膜、非磁性膜、および強磁性膜が順次積層されてなる積層膜を具備した磁気抵抗効果素子であって、2つの前記強磁性膜が非結合であり、少なくとも一方の強磁性膜はCo,Fe,およびNiからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を主成分とし、かつ、その最密面が膜面垂直方向に配向していることを特徴とする磁気抵抗効果素子を提供する。
【0019】
第1の発明において、2つの強磁性膜が非結合であるとは、2つの強磁性膜間に反強磁性的交換結合が実質的に存在しないことを意味する。したがって、2つの強磁性膜において、反平行な磁化配列状態を実現する場合は、強磁性膜間の反強磁性的結合とは別の手段が強磁性膜へのバイアス磁界印加手段として形成される。また、最密面配向とは、fcc相の場合には(111)面を意味し、hcp相の場合には(001)面を意味する。
【0020】
第1の発明において、前記強磁性膜の最密面を膜面垂直方向に配向させる方法としては、前記強磁性膜の材料にPd,Al,Cu,Ta,In,B,Nb,Hf,Mo,W,Re,Ru,Rh,Ga,Zr,Ir,Au,およびAgからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を添加する方法(特に、抵抗変化率の低下がほとんどないPd,Cu,Au,Agの添加が好ましい)、強磁性膜を形成する基板としてサファイア基板のC面等を用いる方法、基板と強磁性膜との間にCu,Ni,CuNi,NiFe,Ge,Si,GaAs等のfcc格子を有する材料、NiO等の菱面体格子を有する材料、Ti,磁性非晶質金属(CoZrNb,CoHfTa等)、および非磁性非晶質材料からなる群より選ばれたものからなる下地膜を設ける方法、並びにMBE等の超高真空成膜装置により成膜する方法等が挙げられる。
【0021】
ここで、詳しく前記下地膜の具体例を示すと、例えばCo系強磁性膜において、Co90Fe10膜に代表されるfcc格子を有する強磁性膜を用いる場合には、Cu−Ge−Zr、Cu−P、Cu−P−Pd、Cu−Pd−Si、Cu−Si−Zr、Cu−Ti、Cu−Sn、Cu−Ti−Zr等に代表されるCu系合金、Au−Dy、Au−Pb−Sb、Au−Pd−Si、Au−Yb等に代表されるAu系合金、Al−Cr、Al−Dy、Al−Ga−Mg、Al−Si等に代表されるAl系合金、Pt系合金、Pd−Si、Pd−Zr等に代表されるPd系合金、Be−Ti、Be−Ti−Zr、Be−Zr等のBe系合金、Ge−Nb、Ge−Pd−Se等に代表されるGe系合金、Ag系合金、Rh系合金、Mn系合金、Ir系合金、Pb系合金等のfcc格子を有する金属系、またはこれらfcc格子を有する金属を主成分とする合金系、Ge、Si、ダイヤモンド等のダイヤモンド構造を有する材料、GaAs、Ga−Al−As、Ga−P、In−P等の閃亜鉛鉱型構造を有する材料等が前記fcc格子を有する材料として挙げられ、これらの中から選ばれた少なくとも1種類を主成分とする材料、またはそれらに他の元素を添加した材料等を用いることができる。上記した材料のうち、単元素金属以外の物質は、それ自身で既に強磁性膜と比較して十分に比抵抗が高いため、シャント分流分の電流を抑制する効果を有している。また、単元素金属への他元素の添加による比抵抗の増加は、様々な組み合わせが存在するが、Cu−Ni、Cu−Cr、Cu−Zr等に代表されるCu系合金、Au−Cr、Fe−Mn、Pt−Mn、Ni−Mn等の合金がその中の一例として挙げられる。
【0022】
非磁性非晶質材料としては、非磁性の単元素金属や合金、および非金属を添加物として含むもの等の非磁性金属材料や、水素化Siのような非晶質Si、水素化カーボン、ガラス状炭素、黒鉛状炭素等の非晶質カーボン等の非磁性非金属材料等が挙げられる。
【0023】
上述したような下地膜の膜厚は、特に限定されるものではないが、100nm以下とすることが好ましい。これは、下地膜の膜厚をあまり厚くしてもそれ以上の効果が得られないばかりか、逆に素子全体における下地膜に流れる電流の割合が大きく、結果として抵抗変化率が小さくなるからである。第1の発明において、下地膜は強磁性膜の最密面配向を改善する。さらに、上述したような材料のうち非磁性非晶質材料においては、基板材料によらずに層状成長させることが可能で安定して平滑な表面が得られるため、(111)配向の改善に加えて、その上に形成する強磁性膜の表面平滑性、さらには非磁性膜との界面の平滑性の向上を図ることができる。よって、良好な抵抗変化率を安定して得ることが可能となる。また、第1の発明における下地膜として、非磁性材料を用いると、その上に形成される強磁性膜に対して悪影響を及ぼすこともない。
【0024】
なお、下地膜を形成する場合、結晶配向性は改善されるが、平滑性が劣化して抵抗変化率が低下する場合がある。そこで、最密面配向を促進させるための前記第1の下地膜の材料として、fcc格子を有する材料や磁性非晶質金属を用いる場合には、Ti、Ta、Zrや非磁性非晶質材料等からなる平滑性を改善するための第2の下地膜を、第1の下地膜と基板との間に配置した2層構造にすることが好ましい。このような構成にすることにより、最密面結晶配向の向上によって得られる良好な軟磁気特性と高い磁気抵抗変化率とを併せ持つ磁気抵抗効果素子が得られる。また、2層構造において、強磁性膜と同じ結晶系を有し、かつ比抵抗が強磁性膜材料よりも大きい材料からなる第2の下地膜を用いることにより、上記効果に加えて、素子内に流れる電流におけるシャント電流分を少なくすることができる。なお、下地膜を2層以上の積層構造として使用する場合には、積層構造の厚さとして100nmを超えないことが望ましい。
【0025】
上述したような下地膜の作製方法としては、13.56MHz または100MHz 以上の高周波放電を用いた2極スパッタリング法、ECRイオン源やカウフマン型イオン源等の様々なイオン源を用いたイオンビームスパッタリング法、電子ビーム蒸発源やクヌーセンセルを用いた真空蒸着法、熱CVD法、様々なプラズマを用いたCVD法、有機金属を原料とするMOCVD法やMOMBE法等、各種成膜方法を適用することができる。これらの成膜方法に共通することとして、超高真空までの排気や原料ガスの超高純度化を通じて、水および酸素の管理を行うことが重要である。より具体的には、H2 OおよびO2 の含有量をppm 以下に、望ましくはppb オーダーまで低減することが好ましい。
【0026】
第1の発明において、強磁性膜の材料としては、Co系合金を用いることが好ましい。この理由は、Coを含有しない系では、得られる磁気抵抗効果素子の抵抗率変化△R/Rが4%程度とCo系合金の場合に比べて低く、またCoの単元素金属では最密面配向を実現してもCoが有する大きな結晶磁気異方性のため、軟磁気特性がそれほど向上しない恐れがあるからである。このとき、特に、Co100-x Fex (5≦x≦40原子%)がfcc相(111)配向とすることで10%以上の高△R/Rと80A/m未満の低Hcを示すので好ましい。
【0027】
強磁性膜の結晶配向は、そのX線回折曲線における最密面(例えばfcc相(111)面)反射ピークのロッキングカーブの半値幅が20°未満、特に7°以下であることが好ましい。
【0028】
第1の発明において、添加元素の添加含有量は、CoFe合金等を主成分とする強磁性膜の強磁性が室温で損なわれず、かつ、スピン依存散乱を阻害する金属間化合物が生成されない範囲である必要がある。例えば、添加元素がAl、Ga、Inである場合には、含有量が6.5at%未満であることが好ましい。添加元素がNb、Ta、Zr、Hf、B、Mo、Wである場合には含有量が10at%未満であることが好ましい。添加元素がCu、Pd、Au、Ag、Re、Ru、Rh、Irである場合には、含有量は40at%未満であることが好ましい。
【0029】
また、基板材料としては、MgO、サファイヤ、ダイヤモンド、グラファイト、シリコン、ゲルマニウム、SiC、BN、SiN、AlN、BeO、GaAs、GaInP、GaAlAs、BP等に代表される単結晶体、およびそれらの多結晶体やそれらを主成分とする焼結体、磁性または非磁性金属の単結晶体、多結晶体、焼結体等が代表例として挙げられるが、強磁性膜の種類およびその下地膜材料に応じて、基板材料を選択する。特に、Co系合金と良好な格子整合を有し、さらに平滑な面が容易に得易い特徴を有するサファイア基板のC面を用いることが好ましい。サファイア基板等の単結晶基板を用いる場合には、強磁性膜の厚さは20nm以下にすることが好ましい。これは、強磁性膜の厚さが20nmを超えると最密面配向が劣化するからである。
【0030】
ここで、最密面配向した上記磁性膜では、磁化方向が最密面面内から僅かに傾くとHcが急増する。したがって基板面にうねりがあると、たとえ最密面配向を実現しても磁化方向が(111)面内から外れる場合があるので、Hcは低下しない恐れがある。このため、基板の表面粗さが5nm未満であることが好ましい。なお、第1の発明の磁気抵抗効果素子は、上記構成に加えて非磁性膜と強磁性膜を交互に複数回積層したものであってもよい。
【0031】
第1の発明において、Co,Fe,およびNiからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を主成分とする強磁性膜の最緻密面、例えばfcc相(111)面が膜面垂直方向に配向することにより良好な軟磁気特性が得られる。これは、fcc相(111)面内においては、結晶磁気異方性K1 に依存した磁化容易軸が現れないからである。また、強磁性膜を形成する基板の表面粗さを制御することにより、強磁性膜における磁化を最密面面内に保存することができ、これにより結晶磁気異方性に伴う保磁力を低下させることができる。したがって、より良好な軟磁気特性が得られる。また、ロッキングカーブ半値幅を20°未満、望ましくは7°以下となるように配向することにより、保磁力(Hc)が100A/mまでである良好な軟磁気特性、無配向膜や他の配向(例えばfcc相(100)配向)を上回る高抵抗変化率(△R/R)(例えばCoFe膜では△R/R〜10%)、および高い透磁率を共に有する高感度な磁気抵抗効果素子を得ることができる。
【0032】
なお、ここで、積層膜の主結晶配向面の法線が、結晶配向面の揺らぎにより膜面内で成分を持ち、この膜面内成分が異方性を有していたり、結晶性の積層膜に発生する面欠陥の法線が、膜面内への揺らぎを持ち、この揺らぎが膜面内で異方性を有していることがある。このような異方性が強い方向は、膜成長する原子面において強磁性原子と非磁性原子が混在し易い方向である。したがって、この方向、すなわち膜面内成分による異方性が最も大きくなる方向にセンス電流を流すことにより、電子が界面でスピン依存散乱する確率が高くなると考えられる。
【0033】
すなわち、積層膜注の強磁性膜の結晶配向面が揺らいだり、面欠陥が導入されて原子配列に乱れが生じることにより、結晶配向面内の原子配列に乱れが生じた場合、その乱れの大きな方向にセンス電流を流すことによって、電子は等価的に多くの界面および強磁性膜を通過することになり、スピン依存散乱される確率が高くなる。このように、センス電流の方向を積層膜の結晶配向面の揺らぎ方向に沿う方向に設定することにより、磁気抵抗効果素子はより大きな抵抗変化率を示す。
【0034】
第2の発明は、基板上に、少なくとも強磁性膜、非磁性膜、および強磁性膜が順次積層されてなる積層膜を具備した磁気抵抗効果素子であって、少なくとも一方の強磁性膜はCo,Fe,およびNiからなる群より選ばれた少なくとも2種の元素を主成分とし、Pd,Al,Cu,Ta,In,B,Nb,Hf,Mo,W,Re,Ru,Rh,Ga,Zr,Ir,Au,およびAgからなる群より選ばれた少なくとも一つの元素が添加含有された組成を有することを特徴とする磁気抵抗効果素子を提供する。
【0035】
第2の発明の磁気抵抗効果素子は、上記構成に加えて非磁性膜と強磁性膜を交互に複数回積層したものであってもよい。
【0036】
第2の発明において、添加元素の添加含有量は、CoFe合金等を主成分とする強磁性膜の強磁性が室温で損なわれず、かつ、スピン依存散乱を阻害する金属間化合物が生成されない範囲である必要がある。例えば、添加元素がAl、Ga、Inである場合には、含有量が6.5at%未満であることが好ましい。添加元素がNb、Ta、Zr、Hf、B、Mo、Wである場合には含有量が10at%未満であることが好ましい。添加元素がCu、Pd、Au、Ag、Re、Ru、Rh、Irである場合には、含有量は40at%未満であることが好ましい。
【0037】
第2の発明においては、上述したような添加元素を加えることにより、Hcが100A/mまでである良好な軟磁気特性および5%以上の△R/Rを有する高感度な磁気抵抗効果素子を得ることができる。特に、Al,Ta,Zr,Nb,Hfの添加では、軟磁気特性が著しく改善される。この場合、軟磁気特性が良好になる理由は今のところ明確ではないが、結晶配向の改善によるもの以外に、結晶磁気異方性の低減による効果も含まれていると考えられる。さらに、Pd,Cu,Ag,Auでは、40at%程度まで大量に添加含有しても、金属間化合物が生成せず、かつ、格子定数が大きくなることにより、Cu等の中間非磁性膜との格子整合が良好になり、いわゆるバルク散乱によるスピン依存散乱の増大が期待できる。このため、軟磁気特性の改善に加えて高△R/Rを維持することができる。
【0038】
第3の発明は、基板上に、(n+1)層の強磁性膜とn層の非磁性膜とが交互に形成されてなる積層膜(ただし、nは1〜4の整数を示す)を具備した磁気抵抗効果素子であって、前記積層膜の最上層および最下層の強磁性膜の少なくとも一方に隣接して抵抗率が50μΩcm以上である強磁性膜がさらに積層形成されたことを特徴とする磁気抵抗効果素子を提供する。
【0039】
第3の発明において、抵抗率が50μΩcm以上である高抵抗強磁性膜は、強磁性膜またはフェリ磁性膜のいずれであってもよい。また、強磁性膜を積層数が5層以下の積層膜としたのは、強磁性膜/非磁性膜の界面の数が多くなると、高抵抗強磁性膜/強磁性膜の界面の働きが相対的に低下して△R/Rが向上しないからである。したがって、第3の発明は、スピンバルブ構造の膜を有する磁気抵抗効果に適する。
【0040】
このように、強磁性膜に高抵抗強磁性膜が接するように積層することによって、境界面でのマグノンの発生を抑制することができる。その結果として、マグノンと電子との衝突による電子のスピンの反転確率を小さくすることができ、これにより室温での抵抗変化率を増加させることが可能となり、高感度な磁気抵抗効果素子が実現できる。ただし、この高抵抗強磁性膜材料の抵抗率が50μΩcm未満であると、電流が主にこの高抵抗強磁性膜中を流れてしまい、逆に抵抗変化率が減少してしまう。換言すれば、抵抗率が50μΩcm以上の強磁性膜を用いることにより、高抵抗強磁性膜に電流が取られることを防止することができ、シャント効果による磁気抵抗変化率の低下が抑えられる。
【0041】
高抵抗磁性膜の材料としては、Ni、Fe、Co、NiFe、NiFeCo、CoFe、Co合金等にTi、V、Cr、Mn、Zn、Nb、Tc、Hf、Ta、W、Re等の元素を添加したものが挙げられる。
【0042】
第3の発明において、高抵抗強磁性膜は、高抵抗軟磁性膜であることが好ましい。このとき、隣接する強磁性膜と高抵抗軟磁性膜とが一体化することにより、高抵抗軟磁性膜、例えば良好な軟磁気特性を有する非晶質膜の磁化回転に伴い、強磁性膜の磁化も同様に磁化回転する。これにより強磁性膜の軟磁気特性が改善される。
【0043】
高抵抗軟磁性膜としては、CoZrNb等からなる高抵抗非晶質膜、FeZrN,CoZrN等からなる微結晶の高抵抗軟磁性膜、あるいはNiFeXにおいてXがRh,Nb,Zr,Hf,Ta,Re,Ir,Pd,Pt,Cu,Mo,Mn,W,Ti,Cr,Au,およびAgからなる群より選ばれたいずれか一つの元素である材料からなる膜を用いることができる。またこれらの中で、非晶質膜やCoZrN,NiFeNb等からなるfcc相を有する材料からなる膜を最下層の強磁性膜に隣接形成すると、その上の強磁性膜のfcc(111)配向が促進されるのでよりこの好ましい。
【0044】
高抵抗強磁性膜の膜厚は、0.5nm以上とすることが好ましい。これは、膜厚が0.5nm未満であると高抵抗強磁性膜自体の磁性が弱くなり、マグノンの発生を抑制することが困難となるためである。一方、高抵抗強磁性膜の軟磁気特性がそれに隣接する強磁性膜の軟磁気特性よりも劣る場合には、高抵抗強磁性膜の膜厚は10nm以下であることが望ましい。これは、膜厚が10nmを超えると強磁性膜の磁化過程に影響を与え、軟磁気特性を得ることが困難となるからである。
【0045】
第4の発明は、基板上に、(n+1)層の強磁性膜とn層の第1の非磁性膜とが交互に形成されてなる積層膜(ただし、nは1〜4の整数を示す)を具備した磁気抵抗効果素子であって、前記積層膜の最上層および最下層の強磁性膜の少なくとも一方の厚さが5nm以下であり、この厚さが5nm以下の強磁性膜に隣接して抵抗率が前記強磁性膜の2倍以下である第2の非磁性膜がさらに積層形成されたことを特徴とする磁気抵抗効果素子を提供する。
【0046】
第4の発明において、第2の非磁性膜の材料は、隣接する強磁性膜の材料と同じ結晶構造を有することが好ましい。すなわち、強磁性膜がfcc相を有する材料からなる場合、第1の非磁性膜もfcc相を有する材料が好ましく用いられる。このとき、第2の非磁性膜の材料と強磁性膜の材料との間の格子定数の違いが5%以内であることが好ましい。特に、第2の非磁性膜を最下層の強磁性膜に隣接して形成する場合は、強磁性膜と第2の非磁性膜との結晶整合性を高めることにより、強磁性膜をエピタキシャル成長させることが可能となり、よって界面における電子の散乱を抑制することができる。
【0047】
具体的に、第2の非磁性膜の材料としては、Mn,Fe,Ni,Cu,Al,Pd,Pt,Rh,Ir,Au,およびAgからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を主成分としたものを用いることができる。また、基板と第2の非磁性膜との間には、下地膜を介在させてもよい。
【0048】
第4の発明では、各強磁性膜において結晶成長が阻害されないように、強磁性膜を構成する材料の結晶は、膜厚方向に結晶粒径が大きいことが望ましい。なお、強磁性膜は5層を超えると強磁性膜と非磁性膜との界面の数が増加し、スピン依存散乱効果が実質的に消失してしまう恐れがあるので、強磁性膜の積層数は5層以下とする。
【0049】
第4の発明において、第2の非磁性膜の膜厚は、0.2〜20nmの範囲とすることが好ましい。これは、第2の非磁性膜の膜厚が0.2nm未満であると、第2の非磁性膜内に流入した電子が基板等との界面において非弾性散乱を受ける確率が増加し、平均自由行程を有効に伸すことが困難となり、逆に膜厚が20nmを超えても、それ以上の効果が得られないと共に、第2の非磁性膜のみを流れる電流が増え、大きな抵抗変化率を得ることが困難となるからである。
【0050】
第4の発明の磁気抵抗効果素子をセンサに適用する場合、第2の非磁性膜の材料は、強磁性膜の材料であるCoFe合金等の2倍以下の板状体であることが必要であり、さらには強磁性膜より小さい抵抗率を有することが好ましい。これは、第2の非磁性膜の抵抗率が強磁性膜の抵抗率より著しく大きいと、第2の非磁性膜に流入した電子が散乱を受け有効的な平均自由行程を長く保つことができず、抵抗変化率の増大は望めないからである。また、第2の非磁性膜の材料は、その抵抗率が強磁性膜の抵抗率の1/4以上であることが望ましい。これは、第2の非磁性膜材料の抵抗率が強磁性膜の抵抗率の1/4未満であると第2の非磁性膜のみに電流が流れ易くなるからである。
【0051】
このような第4の発明は、少なくとも一方の強磁性膜に隣接して第2の非磁性膜を積層することにより、この強磁性膜の厚さを5nm以下と薄くしても、電子の有効な平均自由行程を長く保てることを利用している。例えば、スピンバルブ構造の膜においては、強磁性膜の厚さを薄くしていくと、比抵抗が大きくなり、抵抗変化率が減少してしまう。そこで、強磁性膜を薄くすると同時に、薄くした強磁性膜に接して第2の非磁性膜を積層することにより、電子は強磁性膜表面において非弾性散乱を受けることなく、第2の非磁性膜に流入することができるようになり、有効的な平均自由行程を長く保ったまま、強磁性膜を薄くすることができる。このとき以上の作用を得るには、強磁性膜の積層数が5層以下である必要がある。
【0052】
上述したように第4の発明では、第2の非磁性膜を強磁性膜に接して積層することにより、通常は著しい抵抗変化率の減少を招く強磁性膜の厚さが5nm以下の場合でも、抵抗変化率の大きな磁気抵抗効果素子が得られる。しかも、強磁性膜の厚さを5nm以下と薄くしたことによって、狭トラック幅の高密度磁気記録再生に対応して強磁性膜を微細形状に加工しても、反磁界による磁壁発生が抑制でき、よって信号磁界の検出感度が低下することなく、またバルクハウゼンノイズの発生を抑えることが可能となる。その結果、高密度記録の再生に適した、ノイズが少なく高感度な磁気抵抗効果素子が実現できる。
【0053】
なお、第4の発明の磁気抵抗効果素子は、スピンバルブ構造の膜、人工格子膜のいずれを有するものであってもよい。ただし、スピンバルブ型磁気抵抗効果素子については、磁化が反強磁性膜等によって固着されていない強磁性膜に隣接して、第2の強磁性膜を積層形成することが好ましい。
【0054】
第5の発明は、基板上に、少なくとも強磁性膜、非磁性膜、および強磁性膜が順次積層されてなる積層膜を具備した磁気抵抗効果素子であって、前記積層膜の最上層および最下層の強磁性膜の少なくとも一方に隣接してこの強磁性膜よりも大きい抵抗率および長い平均自由行程を有する薄膜がさらに積層形成されたことを特徴とする磁気抵抗効果素子を提供する。
【0055】
第5の発明において、薄膜の材料としては、Bi、Sb、炭素等の半金属、高濃度にドーピングを行い縮退した半導体、SnO2 、TiO2 等の酸化物半導体等が挙げられる。また、薄膜の膜厚は、1〜50nmの範囲とすることが好ましい。これは、薄膜の膜厚が1nm未満であると電子の平均自由行程の増大効果が十分に得られず、膜厚が50nmを超えてもそれ以上の効果が得られないと共に、薄膜のみを流れる電流が増え、大きな抵抗変化率を得ることが困難となるからである。さらに、薄膜の抵抗率が強磁性膜の抵抗率より小さいと、電流が主に当該薄膜中を流れてしまい、磁気抵抗効果は逆に小さくなるので、薄膜は強磁性膜よりも大きい抵抗率を有するようにする。
【0056】
なお、第5の発明おいて、平均自由行程とは、他の物に散乱されずに電子が移動する平均の距離をいう。
【0057】
第5の発明において、強磁性膜の膜厚は、薄膜と接する場合、第4の発明と同様の理由で5nm以下とすることが好ましく、薄膜と接しない強磁性膜は平均自由行程を確保するために2〜20nmの範囲とすることが好ましい。
【0058】
このような第5の発明は、少なくとも一方の強磁性膜に接して、平均自由行程が長い薄膜を積層することにより、積層膜全体の有効的な平均自由行程を長くすることができることを利用している。例えば、スピンバルブ型積層膜における磁気抵抗効果の物理的機構としては、以下のことが知られている。すなわち、スピンバルブ型積層膜では、2つの強磁性膜間の磁化の方向が互いに平行なときには、磁化に平行なスピンまたは磁化に反平行のスピンのどちらか一方のスピンをもつ伝導電子が、膜全体で長い平均自由行程を持つことができるようになり、全体として低い比抵抗値を示す。これに対して、2つの強磁性膜間の磁化の方向が互いに反平行なときには、膜全体で平均自由行程の長い伝導電子は存在しなくなり、比抵抗値が高くなる。スピンバルブ型積層膜での磁気抵抗効果は、この2つの状態における平均自由行程の長さの差によって決まる。
【0059】
さらに、強磁性膜内部において、磁化に対して平行なスピンを持った電子と、反平行なスピンを持った電子とでは、その平均自由行程が異なることが知られており、上述した原因から、強磁性膜内部で長い平均自由行程を持つスピン方向の電子は、より長い平均自由行程を持っている方が、スピンバルブ型積層膜の磁気抵抗効果を大きくすることができる。そこで、第5の発明においては、平均自由行程が強磁性膜より長い薄膜を積層することにより、電子の有効的な平均自由行程を長くして、磁気抵抗効果をより大きくすることを可能にしている。ただし、上記薄膜の比抵抗が強磁性膜より小さいと、電流が主に積層した薄膜中を流れてしまい、磁気抵抗効果は逆に小さくなってしまう。そのため、上記薄膜の構成材料は、平均自由行程が長いと同時に、強磁性膜の抵抗率以上の抵抗率を有することが必要となる。
【0060】
また、上記平均自由行程が長い薄膜として、抵抗率が大きい材料を用いると共に、それと接する強磁性膜の厚さを薄くすることにより、積層膜全体としての比抵抗値を増加させることが可能になる。これにより、高い比抵抗値を持った積層膜が得られ、微細パターンにおいても低電流密度で大きな信号電圧を取り出すことができる。よって、発熱、マイグレーション等の問題を回避することが可能となる。
【0061】
なお、第5の発明の磁気抵抗効果素子は、上記構成に加えて非磁性膜と強磁性膜を交互に複数回積層したものであってもよい。
【0062】
第6の発明は、基板上に、少なくとも強磁性膜、非磁性膜、および強磁性膜が順次積層されてなる積層膜を具備した磁気抵抗効果素子であって、前記積層膜の最下層の強磁性膜がCoFe合金からなり、この強磁性膜に隣接してCoFe合金よりも格子定数の大きいfcc相を有する下地膜がさらに積層形成されてなることを特徴とする磁気抵抗効果素子を提供する。
【0063】
第6の発明においては、格子定数の大きいfcc相を有する下地膜上に形成される強磁性膜がCoFe合金からなるとき低Hcが実現され、特にCo100-x Fex (5≦x≦40原子%)からなる強磁性膜について軟磁気特性の改善が顕著となる。これは、Fe濃度が5原子%未満であるとhcp相が混入して、逆にFe濃度が40原子%を超えるとbcc相が混入して格子不整合が起こるからである。また、CoFeに添加し得る他の元素としては、Pd,Al,Cu,Ta,In,B,Zr,Nb,Hf,Mo,Ni,W,Re,Ru,Ir,Rh,Ga,Au,Agを挙げることができ、これらの元素が添加含有された場合にも同様なHc低減が実現される。
【0064】
第6の発明において、また、下地膜としては、fcc相で格子定数がCoFeよりも大きい材料であれば限定されないが、強磁性膜を構成するCoFr合金より大きい抵抗率を有する材料を用いることが好ましい。具体的には、Cu、Pd、Al等、Niやこれらを主成分とする合金、あるいはfcc相を有する強磁性材料を用いることができる。この下地膜の膜厚は、1原子層以上であればHcを低減することができ、さらに100nm以下とすることが好ましい。ただし、下地膜にCu等の抵抗率の低い材料を用いた場合には、センス電流が下地膜に分流し易くなるので、膜厚が2nm以下であることが特に好ましい。また、基板と下地膜との間には、平滑性改善のための膜が形成されていることが好ましく、平滑性改善のための膜としては、Cr、Ta、Zr、Ti等からなる膜を用いることができる。
【0065】
第6の発明では、fcc相であり強磁性膜の材料よりも大きい格子定数を有する材料からなる下地膜上に強磁性膜であるCo100-x Fex (0<x<100原子%)膜を形成すると、適度な格子歪がCoFe膜に誘導され、その結果Hcが大幅に低下して良好な軟磁気特性を示す。なお、この格子歪は下地膜の種類だけでなく、強磁性膜の膜厚や下地膜の膜厚等を調整することにより容易に制御できる。したがって、この強磁性膜上に例えばCu等の非磁性膜、CoFe膜等のスピン依存散乱能力を有する強磁性膜、および反強磁性膜を順次形成すると、僅かな信号磁界により大きな抵抗変化を生じる高感度な磁気抵抗効果素子となる。ここで、基板上に形成する下地膜の抵抗率が強磁性膜よりも大きいと、この下地膜へのセンス電流の分流が抑制でき、高い抵抗変化率を示す。さらに、この下地膜が層状に膜成長しないために各界面での平滑性が劣化して抵抗変化率が低下する場合には、層状に膜成長させる働きのある別の下地膜を上述したような下地膜と基板との間に介在させることにより高い抵抗変化率を実現することができる。
【0066】
なお、第6の発明の磁気抵抗効果素子は、上記構成に加えて非磁性膜と強磁性膜を交互に複数回積層したものであってもよい。
【0067】
第7の発明は、基板上に、少なくとも強磁性膜、第1の非磁性膜、および強磁性膜が順次積層されてなる積層膜を具備した磁気抵抗効果素子であって、少なくとも一方の強磁性膜の前記第1の非磁性膜と反対側の主面に隣接して第1の非磁性膜とは異なる厚さを有する第2の非磁性膜と強磁性膜とが交互に形成されており、これらの強磁性膜と第2の強磁性膜とからなる単位積層膜内での各強磁性膜の磁化が互いに強磁性的に結合されていることを特徴とする磁気抵抗効果素子を提供する。
【0068】
第7の発明においては、第1の非磁性膜を挟んで形成される両側の強磁性膜に対して少なくとも第2の非磁性膜および強磁性膜を隣接形成してもよいし、第1の非磁性膜の片側については単層の強磁性膜であってもよい。また、強磁性膜の第1の非磁性膜と反対側の主面に隣接して第2の非磁性膜および強磁性膜を交互に2周期以上形成して単位積層膜を構成することも可能である。ここで、単位積層膜中の第2の非磁性膜の厚さは2nm以下であることが好ましく、さらに、互いに近接する強磁性膜がRKKY的な反強磁性結合をしない程度の厚さであることが好ましい。これは、単位積層膜中での各強磁性膜の磁化を強磁性的結合状態に保つためである。例えば、強磁性膜の材料がCoFeであり、第2の非磁性膜の材料がCuである場合には、第2の非磁性膜の厚さは、1nm近傍でないように設定する。
【0069】
また、強磁性膜と第2の非磁性膜とは格子整合を保って成長すること、すなわち強磁性膜と第2の非磁性膜とが格子整合されて両者の界面における余分な散乱がないことが望ましい。これにより、抵抗の増加を防止することができる。
【0070】
第7の発明において、強磁性膜と第2の非磁性膜とからなる単位積層膜は、軟磁気特性が良好であり、格子の整合性がよく、強磁性的に結合されているため、反強磁性結合状態に比べて抵抗が小さく、スピン依存散乱を生じる強磁性膜と非磁性膜との界面数が多い。このため、単位積層膜中でのいわゆるバルク散乱による抵抗変化率増大が期待できる。したがって、この単位積層膜を強磁性膜単位として用いた人工格子膜やスピンバルブ構造の膜は、軟磁気特性が良好であり、スピン依存散乱に起因した高い抵抗変化率を示す。その結果、高感度な磁気抵抗効果素子が得られる。
【0071】
なお、第7の発明の磁気抵抗効果素子は、上記構成に加えて第1の非磁性膜と単位積層膜または強磁性膜を交互に複数回積層したものであってもよい。また、第7の発明の磁気抵抗効果素子は、スピンバルブ構造の膜、人工格子膜のいずれを有するものであってもよい。
【0072】
第8の発明は、基板上に、少なくとも強磁性膜、非磁性膜、および強磁性膜が順次積層されてなる積層膜を具備した磁気抵抗効果素子であって、少なくとも一方の強磁性膜へのバイアス磁界印加手段として前記積層膜に隣接または近接して形成されたバイアス膜を備え、かつ、2つの前記強磁性膜にそれぞれトラック幅方向の成分が互いに反平行となる方向のバイアス磁界が印加されて、2つの前記強磁性膜の磁化が信号磁界により互いに逆方向に回転することを特徴とする磁気抵抗効果素子を提供する。
【0073】
第8の発明において、信号磁界により2つの強磁性膜の磁化が互いに逆回転するようなバイアス磁界を印加する方法としては、積層膜に隣接または近接してバイアス膜を形成する方法、より具体的には反強磁性膜からの交換結合を用いる方法、硬質磁性膜を用いる方法、スピン依存散乱能力を有する強磁性膜に新たな強磁性膜を積層することにより生じる交換バイアスを利用する方法等や、さらにはセンス電流により発生するバイアス磁界や、微細パターン加工時に発する静磁結合(反磁界)を利用する方法が採用される。ただし、少なくとも一方の強磁性膜に対しては上述したようなバイアス膜を形成して、バイアス磁界が印加される。具体的には、例えば、2つの強磁性膜に隣接してそれぞれ反強磁性膜を積層し、この反強磁性膜を用い、隣り合う強磁性膜間でバイアス磁界の方向が180°異なるようにそれぞれの強磁性膜を着磁する。この場合の着磁は、強磁性膜および反強磁性膜の成膜時に静磁界を加える方向を180°変えること等により達成できる。ここで、隣り合う強磁性膜に加えるバイアス磁界は、強磁性膜の単磁区化に必要最少限の大きさ、例えば5kA/m以下であることが望ましい。また、両反強磁性膜は、2つの強磁性膜に互いに異なる方向のバイアス磁界を容易に印加するために、それぞれ異なるネール点を有することが好ましい。
【0074】
あるいは、以下に示す方法もある。一方の強磁性膜へのバイアス磁界印加には、反強磁性膜との積層による交換バイアス磁界を用いる。これに対し、別の強磁性膜へのバイアス磁界印加には、反強磁性膜の前記強磁性膜と反対側の主面に隣接して新たな強磁性膜を積層して、反強磁性膜により磁化固着された新たな強磁性膜から微細パターンに加工した時に発生する静磁結合磁界(反磁界)を利用する。なお、この新たな強磁性膜は、反強磁性膜と接する側から順に交換バイアスが加わるのに適した強磁性膜A(例えば、NiFeやCoFe等の結晶性の良い膜)と、さらに静磁結合磁界を発生するのに適した別の強磁性膜B(例えば、Co系の非晶質強磁性膜や窒化または炭化微結晶強磁性膜等)を強磁性交換結合するように積層した2層構造とすることが望ましい。この2層構造では、強磁性膜Bの膜厚、組成調整、作製条件等により強磁性膜のBsや抵抗値を例えば、Bsが低く、抵抗値が高くなるように調整することにより、静磁結合バイアス磁界強度や、強磁性膜Bをセンス電流の一部が流れることにより発生するいわゆるシャントバイアス(動作点バイアス)を調整することができる。なお、強磁性膜が異方性磁気抵抗効果を有するNiFe等からなる場合には、センス電流を信号磁界の方向と直交する方向に流すことが好ましい。すなわち、センス電流を信号磁界と直交する方向に流す方式では、NiFe膜等を用いた場合に無視できない通常の異方性磁気抵抗効果とスピン依存散乱による抵抗変化とが重畳されるので、ΔR/Rが増大する。
【0075】
また、反強磁性膜を用いて強磁性膜にバイアス磁界を印加する場合には、そのバイアス磁界が大きすぎることがときに問題となるが、この大きなバイアス磁界は反強磁性膜と強磁性膜との間に、反強磁性膜側を強磁性膜とした強磁性膜と非磁性膜との積層膜を介在させること等により低減できる。
【0076】
上述したような第8の発明においては、隣り合う強磁性膜間での磁化が信号磁界により急峻に反平行的な状態から平行的な状態に変化する。さらに、両強磁性膜の信号磁界零の場合の磁化方向を反平行にさせるために必要な反強磁性膜等からのバイアス磁界は、バルクハウゼンノイズ抑制のために必要な最小限に抑制される。このため、磁気ヘッドに適する困難軸方向に信号磁界を加えた場合(高周波特性が良好等の利点を有する)でも、両強磁性膜の磁化回転により、両強磁性膜間の磁化が0〜180°まで比較的低い磁界範囲で変化する。したがって、容易軸方向と同程度の大きな抵抗変化率を比較的低い磁界レンジで示す。なお、第8の発明では、2つの強磁性膜に印加されるバイアス磁界の方向を必ずしも互いに反平行とする必要はなく、換言すれば、信号磁界零の場合における両強磁性膜の磁化方向と信号磁界方向とのなす角がそれぞれ+90°、−90°に設定されてなくてもよい。具体的には、信号磁界零の場合の両強磁性膜の磁化方向と信号磁界とのなす角がそれぞれ+30°〜60°、−30°〜60°の範囲内に設定されることが好ましい。この理由は信号磁界零の場合の両強磁性膜の磁化方向を、反平行状態から信号磁界とのなす角が上述したような範囲内となるように傾けることにより、動作点バイアスが不要となるからである。
【0077】
さらに、従来のスピンバルブ型磁気抵抗効果素子では、非磁性膜の膜厚が薄くなると抵抗変化率が指数関数的に増大するので、できるだけ非磁性膜の膜厚を薄くすることが望ましいが、実際には、非磁性膜の膜厚が2nm未満になると上下強磁性膜間の強磁性的結合が強くなり、反強磁性的磁化配列が実現できなくなり、抵抗変化率が大幅に低下する問題点がある。しかしながら、両強磁性膜にバイアス磁界を加える第8の発明においては、非磁性膜の膜厚が2nm未満になっても反平行バイアス磁界強度の調整により反強磁性的磁化配列が実現できるので、抵抗変化率の飛躍的増大が期待できる。
【0078】
また、2つの強磁性膜にバイアス磁界を加えるので、すべての強磁性膜から磁壁がなくなりバルクハウゼンノイズが抑制できる。
【0079】
なお、第8の発明の磁気抵抗効果素子は、上記構成に加えて非磁性膜と強磁性膜を交互に複数回積層したものであってもよい。
【0080】
第9の発明は、基板上に、少なくとも強磁性膜、非磁性膜、および強磁性膜が順次積層されてなる積層膜を具備した磁気抵抗効果素子であって、2つの前記強磁性膜はそれぞれ信号磁界が印加されてもその磁化方向が実質的に保持される磁化固着膜、および信号磁界により磁化が変化して信号磁界を検出する磁界検出膜となり、信号磁界零の場合における2つの前記強磁性膜の磁化方向が互いに略直交しており、かつ、信号磁界方向にセンス電流を通電することを特徴とする磁気抵抗効果素子を提供する。
【0081】
第9の発明において、磁化固着膜の磁化を固着させる方法としては、反強磁性膜を磁化固着膜と交換結合するように積層する方法、磁化固着膜の高Hc化を図る方法、高Hcを有する強磁性膜を磁化固着膜に積層する方法が挙げられる。また、信号磁界零の場合における磁化固着膜と磁界検出膜の磁化方向を互いに直交させる方法としては、磁化固着膜の磁化と直交するように磁界検出膜の磁化容易軸を付与する方法、磁界検出膜に隣接または近接してバイアス膜を形成し磁化固着膜の磁化と直交する方向に例えば5kA/m以下程度の弱い交換結合バイアスを与える方法等が挙げられる。なお、後者の方法によれば、磁界検出膜が特に大きなバイアス磁界を有するCoFeからなる場合でも、磁化固着膜の磁化と略同一方向に磁界検出膜の磁化容易軸を付与して、この磁化容易軸と直交する膜面内方向にCoFeの異方性磁界を若干上回る交換結合バイアスを与えることにより、磁界検出膜の磁気異方性を低減でき、結果として低い磁界レンジで大きな抵抗変化率を得ることが可能となる。
【0082】
第9の発明において、信号磁界0の状態で磁化固着膜と信号磁界検出膜の磁化のなす角度を約90°に設定すると、例えば正の信号磁界の方向に磁化固着膜の磁化が向いている場合には、正の信号磁界では隣り合う強磁性膜間の磁化のなす角度が強磁性的になるので抵抗が低下し、逆に、負の信号磁界では、隣り合う強磁性膜間の磁化のなす角度が反強磁性的になるので抵抗が上昇する。すなわち動作点バイアスが不要になる。
【0083】
さらに、センス電流を信号磁界方向に通電することにより、磁界検出膜の磁化が電流磁界により信号磁界と直交する方向に向けて傾く。したがって、磁界検出膜に加わる電流磁界のためにバルクハウゼンノイズが抑制できる。また、この場合、電流磁界があるので磁界検出膜においては必ずしも磁化容易軸を必要としない。
【0084】
なお、第9の発明の磁気抵抗効果素子は、上記構成に加えて非磁性膜と強磁性膜を交互に複数回積層したものであってもよい。
【0085】
第10の発明は、基板上に、少なくとも強磁性膜、非磁性膜、および強磁性膜が順次積層されてなる積層膜を具備した磁気抵抗効果素子であって、2つの前記強磁性膜はそれぞれ信号磁界が印加されてもその磁化方向が実質的に保持される磁化固着膜、および信号磁界によりその磁化方向が変化して信号磁界を検出する磁界検出膜となり、信号磁界零の場合における2つの前記強磁性膜の磁化方向のなす角θが30°以上60°以下であることを特徴とする磁気抵抗効果素子を提供する。
【0086】
第10の発明において、磁化固着膜の磁化を固着させる方法としては、第9の発明と同様に磁化固着膜に反強磁性膜を積層することにより生じる交換バイアスを利用する方法や磁化固着膜となる強磁性膜を高保磁力膜とする方法等がある。また、磁界検出膜へのバイアス磁界印加手段としては、磁界検出膜の磁化容易軸、磁界検出膜に隣接または近接して形成した硬質磁性膜からのバイアス磁界、前記反強磁性膜に隣接または近接して形成した強磁性膜から発生する静磁バイアス、センス電流からの電流磁界等を利用できる。なお、センス電流からの電流磁界を用いるためには、信号磁界とほぼ同じ方向にセンス電流を通電することが必要である。ただし、磁化固着膜において磁化を安定的に固着させる観点からは、センス電流からの電流磁界が磁化固着膜の磁化方向とほぼ同じ方向に加わるように、センス電流を信号磁界と直交する方向に通電することが望ましい。
【0087】
第10の発明では、信号磁界零の場合における磁化固着膜と磁界検出膜とのなす角θを30〜60°以内に設定したので、磁化固着膜からの漏れ磁界により、動作点バイアスを不要としながらバルクハウゼンノイズ除去を行うことができる。第10の発明で上述したような磁化固着膜と磁界検出膜とのなす角θを30°〜60°に設定したのは、角θが30°未満であると信号磁界に対する線形応答磁界範囲が狭まり、60°を超えるとバルクハウゼンノイズ除去を充分に行うことができない恐れがあるからである。
【0088】
ここで、信号磁界と直交する方向にセンス電流を流す場合には、2つの強磁性膜間の強磁性的結合磁界の方向と電流磁界の方向が同じ軸上にある。その結果、透磁率低下を引き起こす隣り合う強磁性膜間の強磁性的結合方向とこの電流磁界方向が略同一方向となるようにセンス電流を流すと、この場合には、磁化固着されていない強磁性膜の磁化方向が磁化固着されている強磁性膜の磁化方向に回転するので、両強磁性膜の磁化のなす角度が減少する。その結果、強磁性膜として異方性磁気抵抗効果を示す材料を用いても異方性磁気抵抗効果とスピン依存散乱による抵抗変化が重畳されて、感度の増大が期待できる。逆に、強磁性的結合方向と電流磁界方向が逆方向になるようにセンス電流を流すと、この場合には、両強磁性膜のなす角度が増大するので、信号磁界に対する線形応磁界範囲を拡大できる。したがって、強磁性膜の材料等に応じて、センス電流の通電方向を適宜選択することが好ましい。
【0089】
なお、第10の発明の磁気抵抗効果素子は、上記構成に加えて非磁性膜と強磁性膜を交互に複数回積層したものであってもよい。
【0090】
第11の発明は、基板上に、少なくとも強磁性膜、非磁性膜、および強磁性膜が順次積層されてなる積層膜を具備した磁気抵抗効果素子であって、2つの前記強磁性膜へのバイアス磁界印加手段として前記積層膜に隣接または近接して積層形成された2層以上のバイアス膜を備えることを特徴とする磁気抵抗効果素子を提供する。
【0091】
第11の発明において、バイアス膜は、積層膜の最上層の強磁性膜上、および最下層の強磁性膜と基板との間にそれぞれ形成してもよいし、積層膜の最上層の強磁性膜上に2層以上形成してもよいし、最下層の強磁性膜と基板との間に2層以上形成してもよい。
【0092】
第11の発明において、前記バイアス膜としては反強磁性膜または強磁性膜を挙げることができ、このような反強磁性膜からの交換結合磁界、強磁性膜からの交換結合磁界または静磁結合磁界、さらには、センス電流からの電流磁界等がバイアス磁界として積層膜中の強磁性膜に印加される。なお、ここで、バイアス膜としての強磁性膜から交換結合磁界を発生させる場合は、積層膜の強磁性膜とバイアス膜としての強磁性膜との間に交換バイアスを低減させる膜を配置しても、積層膜の強磁性膜上にそのバイアス膜としての強磁性膜を直接形成してもよい。ただし、前者の場合、バイアス膜の一軸異方性磁界Hkが積層膜の強磁性膜の一軸異方性磁界Hkよりも大きいことが好ましく、バイアス膜の保磁力Hcが積層膜の強磁性膜の保磁力Hcよりも大きいことが好ましい。
【0093】
第11の発明では、最上層または最下層の強磁性膜のどちらか一方にはその磁化が実質的に信号磁界では動かないようなバイアス磁界を加え磁化固着膜とし、もう一方には信号磁界が検出できバルクハウゼンノイズが除去できるようなバイアス磁界を加え磁界検出膜とすることが好ましい。このときの磁化固着膜へのバイアス磁界印加には反強磁性膜の積層が適する。また、磁界検出膜へのバイアス磁界印加には強磁性膜または反強磁性膜の積層が適する。ここで、バイアス膜としての強磁性膜には、回転磁界中で熱処理を施したCo系非晶質膜等何等かの方法で単磁区化され磁化方向が一方向に揃った高抵抗の軟磁性膜や、静磁界中で熱処理を施したCoあるいはCoFe系の非晶質膜等高い一軸磁気異方性を有する膜、あるいは高保磁力膜等が適する。またバイアス膜となる強磁性膜を他の膜よりも幅広く形成して、そのエッジ部に硬質磁性膜や反強磁性膜を積層しても単磁区化された高抵抗な軟磁性膜が実現できる。
【0094】
第11の発明において、少なくとも2層のバイアス膜を上述したような積層膜に隣接または近接してさらに積層形成することにより、特定の強磁性膜へは磁化固着を可能にするような強いバイアス磁界を、他の特定の強磁性膜へはバルクハウゼンノイズを除去するために必要最小限のバイアス磁界を加えることが可能となる。このとき、2層以上のバイアス膜が積層形成される第11の発明では、例えば磁界検出膜のみを他の磁化固着膜等より幅広く形成してそのエッジ部にバイアス膜を積層する場合に比べ、一括した連続成膜によりバイアス膜を含めた多層膜が短時間で容易に作製できる利点がある。これは、厚さが1〜20nm程度の磁界検出膜のエッジ部のみを残して他の磁化固着膜等のエッジ部を除去し、磁界検出膜のみを幅広く形成することが非常に困難であることに基づく。
【0095】
さらに、ここで2層のバイアス膜により強磁性膜に印加されるバイアス磁界を直交させると、第9の発明と同様に信号磁界零の場合における磁化固着膜と磁界検出膜の磁化方向のなす角がほぼ90°になり、動作点バイアスが不要になる。また、磁界検出膜に加わるバイアス磁界によりバルクハウゼンノイズが除去でき、かつ、バイアス磁界の大きさがバイアス膜の磁気異方性や膜厚、あるいは積層膜とバイアス膜との界面の調整により容易に制御できる。しかも、バイアス磁界で強磁性膜の磁化容易軸の方向と略直交方向に印加すれば、高いHkを示すCo系材料からなる強磁性膜についても膜の透磁率を向上させることができる。
【0096】
また、第11の発明は、3層の強磁性膜および2層の非磁性膜が交互に形成されてなる積層膜を基板上に具備し、最上層および最下層の強磁性膜が磁化固着膜となり、透磁率が高い中央の強磁性膜が磁界検出膜となる磁気抵抗効果素子にも好ましく適用できる。
【0097】
このような磁気抵抗効果素子では、最上層の強磁性膜と最下層の強磁性膜は、低透磁率、すなわち積層膜に隣接または近接してさらに積層形成された2層以上のバイアス膜で磁化が固着されているので、信号磁界に対する磁化方向の変化は僅かである。一方、中央の強磁性膜は透磁率が高いために、僅かな磁界により大きな磁化回転を生じる。その結果、最上層の強磁性膜と最下層の強磁性膜の磁化と中央の強磁性膜の磁化のなす角度が信号磁界により鋭敏に変化する。また、従来のスピンバルブ構造の膜に比べてスピン依存散乱を生じる界面数が少なくとも2倍に増える。このため、僅かな磁界で大きな抵抗変化が得られる。
【0098】
なお、中央の強磁性膜の磁化を反強磁性膜等のバイアス膜により固着して透磁率を低下させると、反強磁性膜は抵抗率が高いのでΔR/Rは大幅に低下するが、最上層および最下層の強磁性膜の磁化を固着する場合は、反強磁性膜をスピン依存散乱ユニットの外に配置できるので、ΔR/Rを低下させることなく磁化固着が可能になる。
【0099】
さらに、高透磁率の強磁性膜は、スピンバルブ構造の積層膜の中央近傍に存在するので、センス電流からの電流磁界は弱くなり、その結果、電流磁界により磁界検出膜となる強磁性膜の磁化配列が乱される問題も回避できる。
【0100】
第12の発明は、基板上に、膜面内に六方晶C軸が存在する高保磁力膜と、前記高保磁力膜よりも低い保磁力を有する強磁性膜とを具備することを特徴とする磁気抵抗効果素子を提供する。
【0101】
第12の発明において、通常の高保磁力膜が膜面垂直方向の結晶磁気異方性による強い静磁結合で、低保磁力膜を高保磁力化してしまうことを抑制できる。これにより、この高保磁力膜をスピンバルブ構造の膜における磁化固着膜とした場合に、信号磁界を検出する磁界検出膜の軟磁気特性を劣化させることはない。また、磁化の平行状態、反平行状態を効率良く実現でき、さらに積層膜中の非磁性膜厚を著しく薄くすることができるため抵抗変化率を増大させることができる。なお、ここで磁化固着膜としての高保磁力膜および非磁性膜は交互に複数回積層されてもよい。
【0102】
さらに、単結晶様の高保磁力膜は電気抵抗が低いため、低保磁力膜との積層膜とした場合でもスピン依存散乱には影響せず出力を増大させることができる。さらに、この単結晶様の高保磁力膜は高い結晶磁気異方性を持つことから、高透磁率(磁化が動きにくい)を有し、磁化固着の効果が大きい。
【0103】
また、第12発明において、高保磁力膜は強磁性膜にバイアス磁界を印加するためのバイアス膜として用いてもよい。このとき例えば、高保磁力膜を磁化固着膜の磁化を固着させるためのバイアス膜として用いた場合にも、信号磁界を検出する磁界検出膜の軟磁気特性を劣化させることはない。さらに、この高保磁力膜は、バルクハウゼンノイズ対策用のバイアス膜や、信号磁界がない場合に磁化の反結合状態を作るバイアス膜としても用いることができ、同時に両方の機能を持たせることも可能である。さらに、第12の発明は、基板上に強磁性膜および非磁性膜が交互に形成されてなる積層膜を具備する磁気抵抗効果素子に限らず、NiFe合金等の異方性磁気抵抗効果を利用する磁気抵抗効果素子にも適用可能である。
【0104】
以下、本発明の実施例を具体的に説明する。
【0105】
(実施例1)
基板として、0.2μmの触針先端半径を有する触針式表面粗さ計で平均表面凹凸が2nm程度になるまでサファイア基板C面(α−Al2 O3 基板の(0001)面)をメカノケミカルポリッシング法により研磨して鏡面状態としたものを用いた。
【0106】
このサファイア基板を真空チャンバー内に載置し、真空チャンバー内を5×10-7Torr以下にまで排気した。その後、真空チャンバー内にArガスを導入し、真空チャンバー内を約3 mTorrとして、約4000A/mの静磁界中においてスパッタリングを行うことにより、図1に示すように、サファイア基板10上に強磁性膜であるCo90Fe10膜11、中間非磁性膜であるCu膜12、強磁性膜であるCo90Fe10膜11、反強磁性膜であるFeMn膜13、保護膜であるTi膜14を順次成膜してTi5nm/FeMn8nm/Co90Fe108nm/Cu2.2nm/Co90Fe108nmなるスピンバルブ構造の積層膜を作製して磁気抵抗効果素子を得た。さらに、この積層膜上にCuリード15を形成した。なお、CoFe系合金膜の組成は、大きな抵抗変化率を示すこと[日本応用磁気学会誌、16,313(1992)] および軟磁気特性の点からCo90Fe10とした。
【0107】
ここで、保護膜の材料としては、Ti以外にCu、Cr、W、SiN、TiN等の非磁性体を用いることができる。なお、FeMnの酸化を防ぐため、酸化物以外の材料を用いることが望ましい。また、Ti膜14の膜厚は保護効果があれば5nmでなくてもよいが、センス電流を流す際のTi膜14への分流による感度低下を防ぐため、またCo90Fe10膜11に比べて高い電気抵抗率を有することを考慮して膜厚は数十nm以下であることが望ましい。
【0108】
FeMn膜13と接するCo90Fe10膜11は、FeMnにより磁化固着され、もう一方のCo90Fe10膜11は、外部磁界に応じて磁化反転・回転する。強磁性膜であるCo90Fe10膜11の膜厚は2層とも8nmとしたが、2層の強磁性膜の厚さは同じでも異なっていてもよい。強磁性膜は、その膜厚が一原子層(0.2nm)以上であれば原理的に使用可能であるが、MRエレメントの実用上0.5〜20nmが妥当である。
【0109】
2つのCo90Fe10膜11の間に形成されたCu膜12の膜厚は本実施例では2.2nmで形成したが、この膜厚以外でもよく、実用上0.5〜20nmが望ましい。また、Cu以外の材料としては、Au、Ag、Ru、Cu合金等を用いることができる。
【0110】
反強磁性膜であるFeMn膜13は、直接接するCo90Fe10膜11の磁化固着に使用される。この膜厚は、約1nm以上あれば使用可能であるが、信頼性および実用性から2nm〜50nmであることが望ましい。なお、FeMn以外に、反強磁性膜の材料としてNi酸化物も使用できる。反強磁性膜の材料としてNi酸化物を用いる場合、Arおよび酸素の混合ガス雰囲気中でスパッタリングを行ったり、イオンビームスパッタ法、デュアルイオンビームスパッタ法等を適用することで良好なNi酸化物の反強磁性膜を形成することができる。また、Ni酸化物膜は、サファイア基板C面上に良好に形成することができるので、スピンバルブ構造をTi5nm/Co90Fe108nm/Cu2.2nm/Co90Fe108nm/Ni酸化物50nmとすることもできる。この場合、Ni酸化物膜の厚さは1nm以上であれば、安定したバイアス磁界をCo90Fe10膜に与えることができる。
【0111】
磁気抵抗効果素子の磁気特性、抵抗変化率、並びに結晶構造を調べた。なお、磁気特性は振動型磁力計(VSM)にて最大印加磁界1.2MA/mで測定し、抵抗変化率は静磁界中で4端子抵抗測定法により測定した。結晶構造はθ−2θスキャンおよびロッキングカーブX線回折法で測定した。VSMおよびX線回折では、メタルマスクで8mm角にパターニングされた膜について、抵抗変化率はメタルマスクにより1mm×8mmのストライプ状にパターニングされた膜について測定した。磁気抵抗効果素子の磁界中における抵抗変化は四端子法で測定した。
【0112】
磁気抵抗効果素子の測定結果を図2に示す。図2から分かるように、磁化容易軸方向に外部磁界を印加すると、最大抵抗変化率は約10%であった。また、この磁気抵抗効果素子の保磁力は160A/m以下であった。このように、この磁気抵抗効果素子は、約160A/mの弱い磁界で、約10%の大きな抵抗変化が得られており、良好な軟磁気特性と高い抵抗変化率が得られたことが分かった。また、磁化困難軸方向に外部磁界を印加すると、抵抗変化率は約4%であったが、保磁力は80A/mと軟磁気特性は極めて良好であった。
【0113】
また、この磁気抵抗効果素子の磁化曲線を図3(A)および図3(B)に示す。図3(A)から分かるように、磁化容易軸方向の保磁力は約160A/m、磁化困難軸方向の保磁力は約80A/mであることが分かる。また、図3(B)から分かるように、磁化容易軸方向には、FeMnに接するCo90Fe10膜に約5.3KA/mの交換バイアスが印加されていることが分かる。
【0114】
また、この磁気抵抗効果素子の結晶構造は、強いfcc相(111)面配向(最密面配向)を示していた。
【0115】
熱酸化Si基板上に上記と同様にしてTi/FeMn/CoFe/Cu/CoFe膜を形成した。これについて上記と同様にして評価した結果、X線回折の最密面ピークは上記の場合と比べて1/10以下に低下し、Hcは容易軸方向で3000A/mであり、磁気抵抗効果素子には応用困難な高い値であり、抵抗変化率も上記の(111)配向膜よりも小さな8%以下の値を示した。
【0116】
次に、MgO(100)基板上に上記と同様にしてTi/FeMn/CoFe/Cu/CoFe膜を作製した。これについて上記と同様にして評価した結果、X線回折ピークは高強度(100)ピークのみを、すなわち良好な(100)配向を示した。このとき、Hcは容易軸方向で1200A/mであり、磁気抵抗効果素子には応用困難な高い値を示し、抵抗変化率も上記の(111)配向膜よりも小さな8%以下の値を示した。
【0117】
以上のことから、(111)配向を実現すると、低Hcかつ高抵抗変化率が実現できることが分かる。
【0118】
次に、強磁性膜としてCo膜を用いたTi5nm/FeMn8nm/Co8nm/Cu2.2nm/Co8nmなるスピンバルブ構造の磁気抵抗効果素子をサファイアC面基板上に作製し、上記と同様にして磁気特性および抵抗変化率を測定したところ、同様な最密面配向、抵抗変化率は8%程度の値を示し、保磁力は800A/m程度あった。なお、熱酸化Si基板では、△R/R=7%、Hc=2000A/mであった。
【0119】
これらの結果から強磁性膜の材料としてCoを用いても低Hc、高△R/Rが得られるが、強磁性膜の材料としてCoにFeを添加した合金を用いることで軟磁気特性が発生しやすくなっており、より望ましい。
【0120】
さらに、Ti5nm/FeMn8nm/Co100-x Fex 8nm/Cu2.2nm/Co100-x Fex 8nm/サファイアC面またはガラス基板からなるスピンバルブ型の磁気抵抗効果素子をCo100-x Fex 強磁性膜のFe濃度x(原子%)を変化させて作製した。その結果得られた△R/RとHcの関係を下記表1に示す。表1から分かるように、サファイアC面上では5≦x≦40の範囲で顕著なHc低減と△R/Rの増大が実現されることが明らかである。
【0121】
【表1】
(実施例2)
サファイア基板のC面上、ガラス基板(コーニング社製#0211)上、Si基板の(111)面上に、厚さ10nmのCu下地膜を形成し、さらにその上にそれぞれ実施例1と同様の成膜条件でCo90Fe10膜を形成した。なお、Cu下地膜は、バイアススパッタリング法やイオンアシストしたイオンビームスパッタリング法・蒸着法等で成膜できる。このCo90Fe10膜の保磁力(Hc)を測定した。また、前記それぞれの基板上にCu下地膜を介してCo90Fe10膜の膜厚を種々変更して形成し、そのCo90Fe10膜の保磁力(Hc)を測定した。その結果を図6に示す。さらに、前記基板上にCu下地膜を形成せずに上記と同様にして種々の膜厚のCo90Fe10膜を形成して、それぞれその保磁力(Hc)を測定した。その結果を図7に示す。
【0122】
図6および図7から分かるように、いずれの基板においても、Cu下地膜が形成されている場合(図6)は、Cu下地膜が無い場合よりも低いHcを示している。また、Cu下地膜の有無にかかわらず、サファイア基板のC面、Si基板の(111)面、ガラス基板の順にHcが低く、良好であることが分かる。特に、サファイア基板のC面にCu下地膜を介して厚さ8nmのCo90Fe10膜を形成した場合に、80A/m以下の低Hcを示した。なお、Cu下地膜を有するCo90Fe10膜のHcは、Co90Fe10膜の膜厚増加にしたがって僅かに増加する傾向を示した。一方、Cu下地膜なしのCo90Fe10膜のHcは、まず膜厚増加に伴い減少し、さらに膜厚が増加するにしたがって増加する傾向を示した。例えば、Co90Fe10膜の膜厚が約8nmである場合、そのHcの極小値は160A/m以下であった。
【0123】
このように、基板上に強磁性膜を形成する際に両者の間に下地膜を形成することにより、良好な軟磁気特性を得ることができることが分かる。
【0124】
また、サファイア基板のC面上またはSi基板上にCo90Fe10膜やCo膜を形成する場合の下地膜としてCuNi合金膜を用いることにより、良好な軟磁気特性が得られることが分かった。また、ガラス基板上またはセラミック基板上にCo90Fe10膜やCo膜を形成する場合の下地膜として数〜100nmのGe,Si,またはTi膜を用いることにより、最密面配向が促進され、その結果、良好な軟磁気特性を得られることが分かった。
【0125】
また、Co90Fe10膜やCo膜より高抵抗である材料を下地膜に用いることにより、MRセンス電流の分流を防ぐことができる。例えば、実施例1において記述したNi酸化物膜は高抵抗であり、サファイア基板のC面上にエピタキシャル成長させることが可能な反強磁性膜であるので、下地膜と反強磁性バイアス膜を兼ねることができる。図8にNi酸化物膜26を用いたスピンバルブ構造の磁気抵抗効果素子を示す。
【0126】
(実施例3)
Co90Fe10膜が示す保磁力に及ぼすサファイア基板の面方位の影響を調べた。本実施例では、C面およびR面(α−Al2 O3 基板の(1012)面)で比較した。
【0127】
膜厚10nmのCo90Fe10膜をサファイア基板のC面とR面上にそれぞれ形成した。この面方位による結晶配向の違いを図9(A)および図9(B)に示す。図9(A)から分かるように、C面上では、良好なfcc(111)配向が実現でき、その結果保磁力が160A/m以下と良好な軟磁気特性を有するCoFe合金膜が形成できた。一方、図9(B)から分かるように、R面上では、fcc(111)のピーク以外にもfcc(200)のピークが検出され、fcc(111)配向があまり良好でない。このため、保磁力が数百A/m以上もあり、良好な軟磁気特性は得られなかった。
【0128】
図9(A)において、C面では基板であるサファイアのピーク以外に2θ=43.5°付近にfcc相(111)面に対応するピークのみ(若干のhcp相(001)面配向を含み得る)が強く現れている。また、このピーク強度が強いほどCo90Fe10膜は低保磁力を示した。一方、図9(B)において、R面ではサファイアのピークおよびfcc相(111)面ピーク以外に、2θ=52.6°付近にfcc相(200)面に対応するピークが現れている。このfcc相(100)面配向の存在は、結晶磁気異方性容易軸が面内に現れていることを意味し、これは保磁力を上昇させる原因となる。
【0129】
次に、このサファイア基板のC面上におけるCo90Fe10膜の(111)面(最密面)に対応するピークに関して、ロッキングカーブを測定した。そのロッキングカーブを図10に示す。図10から分かるように、θ=21.8°付近をピークとして半値幅が3°程度と極めて強い配向が確認できる。このロッキングカーブには、サファイア基板のピークも重複されているが、Co90Fe10膜の良好な結晶配向が確認できる。
【0130】
次に、図11に、Co90Fe10膜の保磁力と、Co90Fe10膜の(111)面(最密面)に対応するピークのロッキングカーブにおける半値幅との相関を示す。図11から分かるように、ガラス基板上にCo90Fe10膜を形成すると、(111)ピークが微弱である場合が多く、ロッキングカーブ半値幅は20°以上であり、Hcは3000A/m以上であった。また、Ar圧力、基板温度を最適化してロッキングカーブの半値幅が15°程度になると、Hcは1000A/m程度に減少する。このCo90Fe10にAlを約1%を添加した材料からなる膜をガラス基板上に形成すると、半値幅は8°程度に減少し、Hcは350A/m程度となる。また、サファイア基板のC面上にCo90Fe10膜を形成することにより、さらに半値幅は3°程度にまで減少し、Hcは約160A/m程度となる。したがって、最密面(Co90Fe10膜の場合(111)面)に対応するピークのロッキングカーブの半値幅が20°未満に減少するに伴い、急激に保磁力が減少する傾向にあることが確認できる。例えば、ロッキングカーブの半値幅が7°以下で、保磁力が160A/mと良好な値に近付いてくることが分かる。すなわち、Co90Fe10膜の最密面配向が強くなっていくにしたがって、Co90Fe10膜の保磁力が低下する。このように、良好な軟磁気特性は強磁性膜の配向度と強く相関があることが分かる。
【0131】
Co90Fe10膜の最密面配向を強くする方法としては、上述したように、第1に後述する各種添加元素を加える方法、第2に基板材料・方位を選択する方法、第3に基板とCo90Fe10膜との間に下地膜を設ける方法、第4にMBE等の超高真空成膜装置により成膜する方法等いくつかの方法が挙げられる。なお、第2の方法において、基板にサファイア基板のC面を用いた場合、その面をメカノケミカルポリッシュ、フロートポリッシュまたはイオンポリッシュ等で研磨して基板の平均表面粗さ(Ra)を2nm以下にすることにより、その上に形成したCo90Fe10膜がさらに良好な軟磁気特性を示すことが分かった。しかし、平均表面粗さが5nm以上では、Co90Fe10膜の保磁力は1000A/m以上であった。(実施例4)
実施例3において、Co90Fe10膜の単層膜について、第1および第2の方法で最密面配向を強くすることにより保磁力が低下することが分かった。次に、Co90Fe10膜を含む積層膜についても同様のことがいえるかを確認する。
【0132】
ガラス基板上にAl含有Co90Fe1010nm/Cu5nm/Al含有Co90Fe1010nmの積層膜を実施例1と同様の成膜条件で形成した。この場合のCo90Fe10膜中のAl元素添加量とCo90Fe10膜の保磁力との関係を図12に示す。図12から分かるように、積層膜においてもAl元素の添加により保磁力を低下させることができることが分かる。また、実施例2に示した第2から第4の方法でも同様に積層膜におけるCo90Fe10膜の最密面の配向を強くすることができた。
【0133】
次に、積層膜におけるCo90Fe10膜の保磁力の最密面ピーク強度依存性を図13に示す。図13から分かるように、単層膜の場合同様に最密面ピーク強度が大きくなるほど、保磁力が低下しているが確認できる。上記構造の場合、ピーク強度は102 (a.u.) と弱く、保磁力は103 A/m程度である。この場合において、Co90Fe10にAlを1原子%程度加えた材料からなる膜を用いることにより、保磁力は数百A/m程度に低下した。また、ガラス基板をサファイア基板のC面に代えることにより、103 (a.u.) 以上のピーク強度と100A/m以下の良好な保磁力が得られた。なお、このときの半値幅は7°以下であった。
【0134】
(実施例5)
Co90Fe10にAl以外の添加元素を加えて保磁力を調べた。この場合、添加元素として、Ta、Pd、Zr、Hf、Mo、Ti、Nb、Cu、Rh、Re、In、B、Ru、Ir、Wを用いたときにも保磁力の低下が認められた。また、それらの元素の組み合わせ、例えばTaとPd、NbとPd、ZrとNbを添加しても保磁力の低下が確認できた。一例として、Ta含有Co90Fe1010nm/Cu5nm/Ta含有Co90Fe1010nmの積層膜の構造において、Taの添加量と保磁力との関係を図14に示す。図14から分かるように、この場合においてもTa元素の添加により保磁力が低下したことが確認できる。
【0135】
(実施例6)
以上はCoFe膜に関して(111)高配向を実現した実施例であるが、CoFe膜に限られず、CoFeNi膜、CoNi膜等を用いても同様な効果が見られた。その実施例を下記表2に示す。表2は、(1)強磁性膜の組成、(2)基板の種類、(3)基板とスピンバルブ膜との間の下地膜をパラメータとして作製した図1と同様の構造(FeMn膜と接する側はCoFe膜のままである)を有するスピンバルブ膜における(111)ピークのロッキングカーブ半値幅△θ50、容易軸方向のHc、△R/Rを示したものである。比較のため、表2と同じ組成の強磁性膜のスピンバルブ膜を下地膜なしにガラス基板上に作製した場合の結果を表2に併記する。
【0136】
【表2】
表2から分かるように、CoFe膜に限らずCoFeNi膜やCoNi膜でも、ガラス基板への直接成膜に比べて、サファイアC面基板上あるいはTi,Si,Ge等からなる下地膜を用いることにより、△θ50<7°の良好な(111)配向膜を得ることができ、その結果Hcが低下し、高い抵抗変化率が実現できる。
【0137】
しかし、Ti等からなる下地膜やサファイアC面基板により(111)高配向の(M 1nm厚/Cu 1nm厚)16人工格子膜を作製したところ(M:Co20Ni80、Co20Fe15Ni65)、△R/Rは2%以下の著しく小さな値を示しRKKY的反強磁性結合特有の高い飽和磁界が消失した。(111)配向するとRKKY的反強磁性結合が得られないので抵抗変化率が低下したことが分かる。したがって、スピンバルブ膜に限らずRKKY的な反強磁性結合を用いないタイプ(保磁力の差を用いたいわゆる非結合型人工格子膜(第14回日本応用磁気学会学術講演概要集、1990年、177 頁)等)で(111)高配向を実現すると高い抵抗変化率と良好な軟磁性が両立しやすい。
【0138】
また、これに加えてFeMnに接する強磁性膜も下側磁性膜と同じ組成の膜に置き換えても同様の効果が得られることが確認された。
【0139】
(実施例7)
ガラス基板上(下地膜なし)にTi5nm/FeMn8nm/CoFe8nm/Cu2.2nm/強磁性膜8nmのスピンバルブ膜を実施例1と同様の条件で成膜した。このとき、下部強磁性膜に加える非磁性添加元素と容易軸方向の抵抗変化率とHcの関係を下記表3に示す。
【0140】
【表3】
表3から分かるように、ガラス基板に成膜した非磁性元素を添加しない膜に比べてHcが低下した。Al,Ta等の添加ではHcの低下が顕著であるが、大量に添加すると抵抗変化率が大幅に低下した。Alでは6.5原子%未満、Taでは10原子%未満で、NiFeからなるスピンバルブ膜を上回る5%以上の抵抗変化率と低Hcを両立できることが分かる。なお、CoFeにAlまたはTaを添加すると、X線回折において最密面ピーク強度が増加した。一方、Cu,Au,Ag,Pd等は、Hc低減効果がAlまたはTaほど顕著ではないが、10原子%以下の大量の添加でも抵抗変化率の低下が見られない。CoFeへのCu,Au,Ag,Pd等の添加でもX線回折における最密面ピーク強度が増加した。これらHcの低下には、X線回折における最密面ピーク強度が添加元素により向上したことから、前述した結晶配向性の向上が起因していると考えられる。これに加えて、添加元素による結晶磁気異方性の低減もHcの低下に起因している可能性もある。
【0141】
さらに、65℃95%RHの恒温恒湿槽に100時間放置して単層の各強磁性膜(100nm厚)について耐食性を調べたところ、Pdを7原子%以上添加した膜では変色はなかったが、非磁性元素を添加しないCoFe膜、Co20Ni80膜、Co20Fe15Ni65膜やAlを6.5原子%添加した膜、Taを6原子%添加した膜等は変色が見られた。すなわち、Pdの添加は、耐食性を改善する効果を発揮する。Pdのみの添加ではHcの低下があまり顕著ではないが、Pdを例えばCuと共に添加すると、高い抵抗変化率と耐食性を保って軟磁気特性のさらなる改善が可能になる。さらに、サファイアC面基板やアモルファス金属下地膜、fcc格子の下地膜を用いると、Pdのみの添加でもHcが80A/m未満にまで低下し、さらに、Pdの40at%までのPd濃度範囲で〜10%の高い抵抗変化率を示した。しかしながら、同じ貴金属で耐食性改善に効果的であると予想されるPtを添加すると、HcがPtを添加しない膜以上に増加した。このため、軟磁気特性の観点からPtの添加は好ましくない。
【0142】
(実施例8)
表面粗さがRa =2nm以下の熱酸化Si基板表面をSH(硫酸と過酸化水素の混合液)処理により清浄化した後、この基板を真空装置内に載置して、1×10-9Torr以下まで排気した。真空装置内の水および酸素は、質量分析器および露点計によって管理した。以上の手順が終了した後、装置内に超高純度Arガスを導入して、装置内の真空度を1×10-4Torrとし、ECRイオン源内部において2.45GHz のマイクロ波放電を発生させて加速したイオンビームによりスパッタリングを行い、図15に示すように、熱酸化Si基板150上に第1の下地膜151として、非晶質Si膜を膜厚5nmで成膜した。その後、真空を保ちながら連続して、第1の下地膜151上に第2の下地膜152として、Cu−Ni合金を膜厚2nmで成膜した。
【0143】
その表面に第1の強磁性膜153としてCo90Fe10合金膜を厚さ8nmで、非磁性膜154としてCu−Ni合金膜を厚さ2.2nmで、第2の強磁性膜155としてCo90Fe10合金膜を厚さ8nmで、反強磁性膜156としてFe−Mn合金膜を厚さ8nmで、保護膜157としてTi膜を厚さ5nmで順次成膜し、スピンバルブ構造の積層膜を作製した。以上の薄膜は、いずれもイオンビームスパッタリングにて形成した。さらに、この積層膜上にCu電極158a,158bを形成することによって、スピンバルブ型磁気抵抗効果素子159を得た。
【0144】
なお、強磁性膜153,155におけるCoFe系合金膜の組成物としては、大きな抵抗変化率(日本応用磁気学会誌:16.313(1992))および軟磁気特性の観点からCo90Fe10とした。
【0145】
このようにして得たスピンバルブ型磁気抵抗効果素子の結晶性、磁気特性および抵抗変化率を測定したところ、CoFe合金膜のX線回折による半値幅は1°であり、軟磁気特性を示す物性の一つである保磁力は0.1Oeであった。また、この素子を用いて測定した磁気抵抗変化率は、約10%という高い値を示した。
【0146】
また、比較のため、同じ処理を施した基板を真空装置内に載置し、1×10-7Torr以下まで排気した後、通常のArガスを2×10-3Torrまで導入し、その基板表面に非晶質Si膜を成膜することなく、Cu膜を下地膜として直接成膜し、その表面に実施例8と同一構成のスピンバルブ構造の積層膜を作製した。さらに、この積層膜上にCu電極を形成して、磁気抵抗効果素子とした。この積層膜は、通常の13.56MHz にて励起された2極スパッタリング法によって形成した。
【0147】
この磁気抵抗効果素子の結晶性、磁気特性および抵抗変化率を測定したところ、CoFe合金膜のX線回折による半値幅は7°であり、軟磁気特性を示す物性の一つである保磁力は1.5Oeであった。また、この素子を用いて測定した磁気抵抗変化率は約5%であった。
【0148】
(実施例9)
表面粗さがRa =2nm以下のサファイヤ基板を表面清浄化した後、この基板を真空装置内に載置し、1×10-9Torr以下まで排気した。真空装置内の水および酸素は、質量分析器および露点計によって管理した。以上の手順が終了した後、電子ビーム蒸着源を用いた超高真空蒸着法によって、第1の下地膜として、非晶質CuTi膜を膜厚3nmで成膜した。その後、真空を保ったまま連続して、励起周波数100MHz の超高真空RFスパッタリングを用いて、第2の下地膜としてFeMn合金膜を膜厚2nmで成膜した。
【0149】
次に、上記下地膜上に、Ti5nm/FeMn8nm/(Co81Fe9 )Pd108nm/Cu2.2nm/(Co81Fe9 )Pd108nmの構成を有するスピンバルブ構造の積層膜を全て励起周波数100MHz の超高真空RFスパッタリングを用いて形成し、さらにこの積層膜上にCu電極を形成して、スピンバルブ型磁気抵抗効果素子を作製した。
【0150】
このようにして得たスピンバルブ型磁気抵抗効果素子の結晶性、磁気特性および抵抗変化率を実施例8と同様に測定したところ、CoFe膜のX線回折による半値幅は1.5°であり、軟磁気特性を示す物性の一つである保磁力は1Oeであった。また、同素子を用いて測定した磁気抵抗変化率は、約12%という高い値を示した。
【0151】
(実施例10)
図16に示すように、支持基板30上にCoZrNb等からなる高抵抗非晶質層31を形成し、その上にCoFe合金等からなる強磁性膜32、Cu等よりなる非磁性膜33、強磁性膜32、およびFeMn等からなる交換バイアス層34を約4kA/mの静磁界中で順次形成し、交換バイアス層34上にリード35を形成して磁気抵抗効果素子を作製した。なお、各層は4元スパッタ装置で下記表4に示す成膜条件で成膜した。
【0152】
【表4】
この磁気抵抗効果素子の磁気特性を調べ、図17および図18にそのM−Hカーブ(磁化−磁界カーブ)を示す。なお、図17は容易軸方向のM−Hカーブ、図18は困難軸方向のM−Hカーブを示す。
【0153】
図17から分かるように、FeMnに固着されていない側のCoFe膜の保磁力Hc(図中a)は約500A/mとなり、通常のCoFe単層膜のHc約1600A/mに比べ著しく低い値を示した。さらに信号磁界入力側である困難軸方向についても、図18から分かるように、FeMnに固着されていない側のCoFe膜の保磁力Hc(図中b)が約600A/mとなり、通常のCoFe単層膜のHc約1600A/mに比べ著しく低い値を示した。
【0154】
また、この磁気抵抗効果素子の抵抗変化特性を調べ、図19にそのR−Hカーブ(抵抗−磁界カーブ)を示す。図19から分かるように、抵抗変化率△R/Rは従来のCo系スピンバルブ膜と同程度の約9%の高い抵抗変化率となった。また、FeMnに固着されていない側のCoFe膜の保磁力Hc(図中c)は図17から予想されるように約500A/mの低い値となった。
【0155】
本実施例では、交換バイアス層としてFeMn膜を用いているが、NiO等の反強磁性膜を用いてもよいし、また(Co/Cu)n等の構造を有する人工格子膜を用いても良好な特性が得られることが確認された。さらに、本実施例では、高抵抗アモルファス層としてCoZrNb膜を用いているが、その他に微小な結晶のFeZr膜、FeZrN膜、CoZrN膜、FeTaC膜、あるいはNiFeX膜(X:Rh,Nb,Zr,Hf,Ta,Re,Ir,Pd,Pt,Cu,Mo,Mn,W,Ti,Cr,Au,またはAg)等を用いてもよい。特に、fcc相の微結晶膜(Co系窒化膜、Co系炭化膜、NiFeX膜)では、fcc相(111)配向を促進する効果も相乗し、さらにHcが容易軸方向で〜250A/mに低下し、抵抗変化率が10%に向上した。
【0156】
比較のために、高抵抗アモルファス層を設けないで支持基板上に後述する図23と同様な強磁性膜、中間層、強磁性膜、交換バイアス層を順次積層してなる磁気抵抗効果素子の磁気特性を調べ、そのM−Hカーブを図20および図21に示す。なお、図20は容易軸方向のM−Hカーブ、図21は困難軸方向のM−Hカーブを示す。また、成膜条件は前記表3と同様とした。
【0157】
図20から分かるように、FeMnに固着されていない側のCoFe膜の保磁力Hc(図中d)は約2000A/mとなり、通常のCoFe単層膜のHcと同様に高い値を示した。さらに、困難軸方向についても、図21に示すように、FeMnに固着されていない側のCoFe膜の保磁力Hc(図中e)は約1400A/mとなり、通常のCoFe単層膜のHcと同様に高い値を示し、磁気抵抗効果素子としては不充分であった。
【0158】
(実施例11)
図22に示すように、支持基板30上にCu等からなる厚さ約5nmの下地膜36を形成し、さらにその上に交換バイアス層34、強磁性膜32、非磁性膜33、強磁性膜32、および高抵抗アモルファス層31を順次形成し、高抵抗アモルファス層31上にリード35を形成して磁気抵抗効果素子を作製した。なお、成膜条件は上記表3と同様にした。
【0159】
図22に示す構造、すなわち高抵抗アモルファス層を交換バイアス層よりも上層として形成する場合においても、低いHcを得ることができた。また、アモルファス層が高抵抗であるため、この層が最上層となってもシャント効果による磁気抵抗変化率の低下はなかった。なお、この場合には、FeMnの結晶配向制御のために下地膜を設けることが望ましい。
【0160】
(実施例12)
支持基板41上にCoPtCr膜42を厚さ8nmで成膜し、その上にレジスト43を塗布した後、所望のパターンにレジスト43をパターニングし、図23(A)に示すように、イオンミーリング等によりエッチングした。この際、CoPtCrのテーパ角Xは90°に近い方が望ましい。
【0161】
次に、図25(B)に示すように、エッチング後のレジスト43は除去せず、この状態でCoFe合金からなる強磁性膜44、Cu等からなる非磁性膜45、強磁性膜44、および高抵抗アモルファス層46を順次形成してスピンバルブ構造の磁気抵抗効果素子を作製した。この際、レジスト43のテーパ角Yは90°に近い方が望ましい。
【0162】
次に、レジスト43を除去した後に高抵抗アモルファス層46上にリード47を形成した。なお、このリード47は、レジスト43を除去する前に形成してもよい。このように作製することにより、図25(C)に示すように、界面状態に敏感なスピンバルブ構造を特性劣化を伴わずに作製することできる。
【0163】
上記構造のように、FeMn等からなる交換バイアス層を磁化固着膜として用いることなく、高保磁力膜を用いることができる。高保磁力膜の材料としては、下地膜を用いなくても適当な面内磁気異方性を発揮できる材料を用いることが望ましい。そこで、本実施例では、この特性を満足するCoPtCr膜を高保磁力膜として用いた。
【0164】
(実施例13)
図24に示すように、支持基板30上に高抵抗アモルファス層31、強磁性膜32、非磁性膜33、強磁性膜32、および高抵抗アモルファス層31を順次積層し、最上層の高抵抗アモルファス層31上にリード35を形成して磁気抵抗効果素子を作製した。
【0165】
図24に示す構造のように、磁化固着膜であるFeMnからなる交換バイアス層を用いず、センス電流により発生する磁界または形状による反磁界の効果による自己バイアス効果を利用して、強磁性膜32間での反強磁性的磁化配列を実現してもよい。
【0166】
この場合、センス電流により発生する磁界が膜幅方向(図中g方向)において、強磁性膜32を挟んで上下で反対方向となるように加わるようにし、さらに、膜幅方向の反磁界を低減するために2つの強磁性膜32は互いに反強磁性的に結合するようにする。その結果、交換バイアス層がなくても2つの強磁性膜32同士が反強磁性的に結合できる。したがって、信号磁界Hsを膜長手方向(図中f方向)に加えると2つの強磁性膜32の磁化は回転して膜長手方向に揃い強磁性的な結合となる。その結果、スピン依存散乱に起因した大きな△R/Rを得ることができる。
【0167】
(実施例14)
図25に示すように、熱酸化Si基板160上に、高抵抗強磁性膜161としてCoCr合金膜をイオンビームスパッタ法によって膜厚1nmで成膜した。次に、高抵抗磁性膜161上に、第1の強磁性膜162としてCoFe合金膜を厚さ3nmで、非磁性膜163としてCu膜を厚さ2nmで、第2の強磁性膜164としてCoFe合金膜を厚さ3nmで順次成膜し、スピンバルブ型の積層膜を形成した。
【0168】
この後、上記積層膜上に、反強磁性膜165としてFeMn膜を厚さ15nmで形成した。その上に、必要に応じて保護膜166を形成し、さらに電極167a,167b(間隔:10μm)を形成することによって、スピンバルブ型磁気抵抗効果素子168を作製した。
【0169】
このようにして得たスピンバルブ型磁気抵抗効果素子の抵抗変化率を測定したところ、室温で14%という高い値を示した。
【0170】
比較として、高抵抗強磁性膜161を形成しない以外は実施例14と同様にして、スピンバルブ型磁気抵抗効果素子を作製した。このスピンバルブ型磁気抵抗効果素子の特性を実施例14と同様にして評価したところ、室温での抵抗変化率は12%であった。
【0171】
(実施例16)
サファイア基板上に、第1の強磁性膜としてCo90Fe10合金膜、非磁性膜としてCu膜、第2の強磁性膜としてCo90Fe10合金膜、反強磁性膜としてFeMn膜を順に形成した。この際、第1および第2の強磁性膜の厚さ(dFeCo)を変化させて、抵抗変化率(Δρ/ρ0 )を測定した。その結果を図26に示す。なお、第1および第2の強磁性膜の厚さは同一とし、Cu膜の膜厚は2.2nm、FeMn膜の膜厚は15nmとした。また、上記磁気抵抗効果素子においては、反強磁性膜上に必要に応じて、耐食性等に優れたTa、Ni、NiCr等の保護膜を介して電極を形成する。図26から分かるように、dFeCoが5nm以下でMR効果が増大していることが分かる。また、dFeCo=3nm付近でピークをとり、2〜4nmが好ましい範囲となる。
【0172】
強磁性膜/非磁性膜(金属薄膜)/強磁性膜のサンドイッチ構造の厚さが薄くなってくると、金属薄膜と接していない面での電子散乱が大きくなり、抵抗のサイズ効果が表れる。サンドイッチ構造の比抵抗の変動分(Δρ)は、サンドイッチ構造のトータルの膜厚をt、平均自由行程をl0 とすると、Δρはl0 /tに比例する。諸条件で変化するが、図26からも明らかなように、Co系強磁性膜を用いた場合、強磁性膜厚は5nm以下とすることが良好なMR効果が得る上で好ましい。
【0173】
すなわち、強磁性膜の金属薄膜と接していない方の面に、低抵抗例えば30μΩcm以下の比抵抗をもった材料が接している場合、電子はその界面を通り抜け、30μΩcm以下の比抵抗をもった材料の中に流れてしまい、有効な表面散乱が起こりにくくなる。このため、有効な表面散乱を引き起こし、サイズ効果を利用するためには、30μΩcm以上の材料とするか、接している材料の膜厚を5nm以下とすることが有効である。
【0174】
サイズ効果を利用し、大きなMR効果を得るためには、Co系強磁性膜の膜厚は5nm以下にすることが好ましい。このとき、中間金属薄膜としては、Cu、Ag、Au等の比抵抗の小さい金属を用いることが望ましく、中間金属薄膜の膜厚はサイズ効果を利用するために、5nmより薄いことが好ましい。また、両強磁性膜の膜厚が大きく異なっている場合には、両強磁性膜における表面散乱の効果が異なってしまうため、磁気抵抗変化率は小さくなってしまう。このため、両強磁性膜の厚さの比は、1:1〜1:2の間にあることが望ましい。
【0175】
(実施例16)
図27に示すように、サファイア基板160上に非磁性膜161としてCuPd合金膜をRFスパッタ法によって厚さ2nmで成膜した。次に、非磁性膜161上に、第1の強磁性膜162としてCoFe合金膜を厚さ1nmで、非磁性膜163としてCu膜を厚さ2nmで、第2の強磁性膜164としてCoFe合金膜を厚さ3nmで順次成膜し、スピンバルブ型の積層膜を形成した。
【0176】
この後、上記積層膜上に、反強磁性膜165としてFeMn膜を厚さ15nmで形成した。その上に、必要に応じて保護膜166を形成し、さらに電極167a,167bを形成することによって、スピンバルブ型磁気抵抗効果素子171を作製した。
【0177】
この磁気抵抗効果素子では、反強磁性膜165により、第2の強磁性膜164には一方向異方性が与えられているため、低磁場中では磁化は一方向に固定されたまま動かない。これに対して、第1の強磁性膜162は、低磁場中でも磁場の方向に磁化を向ける。よって、外部磁化を変化させることにより、2つの強磁性膜の磁化の成す角度を自由に制御することができる。なお、反強磁性膜165は、第2の強磁性膜164に有効な一方向異方性を与える上で、1〜50nm程度の厚さとすることが好ましい。
【0178】
このようにして得たスピンバルブ型磁気抵抗効果素子171の抵抗変化率を測定したところ、第1の強磁性膜162の厚さを1nmと薄くしているにもかかわらず、室温で8%という高い値を示した。また、上記スピンバルブ型磁気抵抗効果素子171を、幅2μm×長さ80μmの微細形状に加工してCuリード間を2μmに規定した狭トラック幅の高密度磁気記録の再生に用いたところ、バルクハウゼンノイズを除去することができた。
【0179】
比較として、非磁性膜161を形成しない以外は実施例17と同様にして、スピンバルブ型磁気抵抗効果素子を作製した。このスピンバルブ型磁気抵抗効果素子の特性を実施例17と同様にして評価したところ、抵抗変化率は室温で3%と小さい値しか得られなかった。
【0180】
また、第1の強磁性膜162の膜厚を6nmとする以外は実施例16と同様にして、スピンバルブ型磁気抵抗効果素子を作製した。このスピンバルブ型磁気抵抗効果素子の特性を実施例16と同様にして評価したところ、抵抗変化率は室温で6%得ることができたが、実施例16と同様な再生微細素子により高密度記録(狭トラック幅)の再生を行ったところ、反磁界によるバルクハウゼンノイズが観測された。
【0181】
(実施例17)
図28に示すように、熱酸化Si基板160上に平均自由行程が長い薄膜172として、キャリア濃度が1020cm-3となるようにTeをドープしたGaAs膜をMBE法により厚さ10nmで成膜した。次に、TeドープGaAs膜172上に第1の強磁性膜162としてCoFe合金膜を厚さ1nmで、非磁性膜163としてCu膜を厚さ2nmで、第2の強磁性膜164としてCoFe合金膜を厚さ4nmで順次成膜し、スピンバルブ型の積層膜を形成した。
【0182】
この後、上記積層膜上に、反強磁性膜165としてFeMn膜を厚さ15nmで形成した。その上に、必要に応じて保護膜166を形成し、さらに電極167a,167bを形成することによって、スピンバルブ型磁気抵抗効果素子173を作製した。
【0183】
このようにして得たスピンバルブ型磁気抵抗効果素子の抵抗変化率を測定したところ、室温で18%という高い値を示した。また、上記スピンバルブ型磁気抵抗効果素子を高密度磁気記録の再生に用いて、105 A/cm2 という電流密度のセンス電流における出力信号電圧を測定したところ、1mVp-p という良好な値が得られた。
【0184】
比較として、TeドープGaAs膜172を形成しない以外は、実施例17と同様にして、スピンバルブ型磁気抵抗効果素子を作製した。このスピンバルブ型磁気抵抗効果素子の特性を実施例17と同様にして評価したところ、抵抗変化率は室温で2%と小さい値しか得られなかった。
【0185】
(実施例18)
ガラス基板上に厚さ10nmのCu膜を下地膜として形成し、その上にCo90Fe10膜を形成した。Cu膜およびCo90Fe10膜は、RF2極スパッタリング法により成膜した。なお、スパッタリングは、成膜中に永久磁石により約4000A/mの一方向磁界を基板近傍に加え、以下に示すスパッタリング条件により行った。
【0186】
このようにして作製したCo90Fe10膜のHc(困難軸方向)とCo90Fe10膜の膜厚の関係を図29に示す。また、図29には、比較のためガラス基板上にCu下地膜を設けないで直接Co90Fe10膜を形成したものも示した。なお、保磁力Hcは振動型磁力計により測定した。
【0187】
図29から分かるように、Cu下地膜を設けない通常のCo90Fe10膜では、膜厚20nm以下では2000A/m以上の高いHcを示した。一方、Cu下地膜を設けると、膜厚20nmのCo90Fe10膜ではHcの低下は僅かであったが、膜厚10nm以下では400〜900A/mにHcが大幅に低下した。このように、ガラス基板とCo90Fe10膜との間にCu下地膜を設けることにより、Co90Fe10膜のHcを低減できることが分かった。特に、Cu下地膜の膜厚は、1原子層以上であれば上記のHc低減の効果が認められた。なお、Cu下地膜上にまったく同様にCo膜を形成した場合はCoFe膜の場合ほどHcの低下は認められなかった。
【0188】
(実施例19)
ガラス基板上に厚さ5〜6nmのCu下地膜を形成し、さらにCu下地膜上にCo90Fe10膜、厚さ2nmのCu中間層、およびCo90Fe10膜を順次形成した。なお、これらの膜の成膜条件は実施例18と同様とした。
【0189】
この積層膜(Cu/CoFe/Cu/CoFe)におけるHc(困難軸方向)とCo90Fe10膜の膜厚の関係を図30を示す。また、図30には、図29と同様にガラス基板上にCu下地膜を設けないで直接Co90Fe10膜を形成したものも示した。
【0190】
図30から分かるように、Cu下地膜を設けない積層膜では、単位Co90Fe10膜の膜厚が5nm以上でHcは急激に増加するが膜厚3nm以下でHcが800A/mである。このように、単にCu中間層を設けるだけでもHcを低減できる。さらに、この積層膜にCu下地膜を設けることによりHcはさらに低下でき、単位Co90Fe10膜の膜厚が7nm以下で220〜400A/mの低いHcが得られることが分かる。したがって、Cu下地膜とCu中間層を用いたCo90Fe10積層膜では、実施例18の場合よりもHcを大幅に低減できる。
【0191】
また、Cu5nm/Co90Fe102.2nm/Cu2nm/Co90Fe102.2nmの積層膜の磁化曲線(容易軸方向)を図31に示す。図31から分かるように、磁界が0でも残留磁化が90%以上であり、この2つのCo90Fe10強磁性膜の磁化は反強磁性的ではなく強磁性的な磁化挙動を示すことが分かる。
【0192】
(実施例20)
Co90Fe10膜の単位膜厚を1.5nmとし、Cu膜の単位膜厚を1.5nmとして、(CoFe/Cu)n膜を実施例18に示す成膜条件で作製し、そのHcと積層回数nとの関係を調べた。その結果を図32に示す。この場合、ガラス基板上にCo90Fe10膜、Cu膜の順に積層したものと、Cu膜、Co90Fe10膜の順に積層したもの(第1層のCuは下地膜に相当すると見なされる)について調べた。
【0193】
図32から分かるように、積層回数が2の場合において、Co90Fe10膜を先に形成したときは、Hcは650A/mと若干高いが、積層回数が4〜8の場合においては、Co90Fe10膜が先でもCu膜が先でもHcは100〜300A/mと低い。これは、積層回数が増えるにしたがってCu下地膜の効果が薄らぎ、Cu下地膜(第1層のCu膜)の有無に拘らずHcが低くなるからであると考えられる。なお、この場合の磁化曲線も、図31と同様に強磁性的な結合を示す形状であった。
【0194】
なお、この積層膜は、断面透過電子顕微鏡観察やX線回折曲線の回折ピーク半値幅の測定から、結晶粒径が大きい、すなわちCu膜とCo90Fe10膜との界面で連続したエピタキシ的に結晶が成長していることが分かった。したがって、この積層膜は、非磁性膜と強磁性膜との界面での結晶成長遮断効果を利用した微結晶効果により軟磁性を発揮せしめている従来のFe/C等の多層膜とは異なり、余分な抵抗増大がないので、スピン依存散乱を利用した磁気抵抗効果膜への応用が可能である。
【0195】
(実施例21)
(Co90Fe10/Cu)n膜では、Cu膜厚に応じてCu膜に隣接する強磁性膜の磁化が反強磁性的に結合したり、強磁性的に結合したりすることが知られている。図33に(Co90Fe10(1nm)/Cu)16における困難軸方向のHs(飽和磁界)と単位Cu膜の膜厚との関係を示す。Cu膜の膜厚を1nm、2nm近傍に設定すると、隣接する強磁性膜間の反強磁性結合に起因する大きなHs(12〜240kA/m)を示す。また、容易軸方向でも図34に示すような残留磁化が大幅に低下した反強磁性的結合を表わす磁化曲線を示す。一方、それ以外の膜厚では、図31に示した磁化曲線と同様にCo90Fe10の誘導磁気異方性に相当する程度のHs(1000〜2000A/m)を示し、また、容易軸方向の磁化曲線も残留磁化が90%以上であり、反強磁性結合がない特性を示した。
【0196】
また、図33から分かるように、膜厚を例えば1.5nm程度の中間値に設定することにより強磁性的結合が得られることが分かる。強磁性的結合であれば、Hsが低いために磁気ヘッド等の磁気センサ応用上重要である困難軸方向の透磁率を高くできる。このように、本実施例においてCu膜の膜厚は、従来の巨大磁気抵抗効果を示す人工格子膜とは異なり、反強磁性結合しない中間値であることが望ましい。
【0197】
(実施例22)
基板50上に実施例18と同様の成膜条件で強磁性積層単位51を形成した。ここで、強磁性積層単位51は、実施例20および実施例21において示した非磁性膜であるCu膜と強磁性膜であるCo90Fe10膜との積層膜をいう。次いで、強磁性積層単位51上に、強磁性積層単位中の非磁性膜と異なる厚みを有する非磁性膜52を形成し、さらにその上に強磁性積層単位51を形成した。次いで、その上にFeMn、NiO、NiCoO等からなる反強磁性膜53を形成し、さらにその上に保護膜54を形成した。この保護膜54は必要に応じて形成する。最後に、エッジ部に電流を供給するために保護膜54上に電極端子55を形成して図35に示す磁気抵抗効果素子を作製した。
【0198】
ここで、強磁性積層単位51および反強磁性膜53の成膜を一方向磁界中で行うことにより、反強磁性膜53と直接接する強磁性積層単位51に交換バイアスを付与することができる。なお、反強磁性膜53と交換結合する強磁性積層単位51中の強磁性膜の磁化は固着されるので、強磁性積層単位51の代わりに軟磁性が若干低いCoFe単層膜を用いてもよい。また、フェロ結合したCoFe/Cu界面は必ずしも平坦である必要はなく、図36に示すように、Cu膜内に層状のCoFeが混在した状態でも同様な効果を発揮する。
【0199】
強磁性積層単位51を(Co90Fe101nm/Cu1.2nm)4 膜とし、非磁性膜52を厚さ2.5nmのCu膜とし、反強磁性膜53を厚さ10nmのFeMn膜とし、保護膜54を厚さ6nmのCu膜とした磁気抵抗効果素子の磁化曲線および抵抗変化特性(磁界方向は容易軸方向)をそれぞれ図37および図38に示す。なお、抵抗は4端子法により測定した。
【0200】
図37および図38から分かるように、H>800A/mで2つの強磁性積層単位51の間において磁化が反強磁性的に結合しており、H<500A/mで2つの強磁性積層単位51の間において磁化が強磁性的に結合している。すなわち、H=500〜800A/mの間で磁化が強磁性的結合から反強磁性的結合に変化していることが分かる。このH=500〜800A/mの僅かな磁界領域、すなわち僅かなヒステリシスで抵抗が大きく変化しており、このときの抵抗変化率ΔR/Rは8%である。
【0201】
比較のために、Co90Fe10単層膜からなる図35に示すスピンバルブ構造の磁気抵抗効果素子(強磁性積層単位51をCo90Fe10単層膜に置き換えたもの)の磁化曲線および抵抗変化特性をそれぞれ図39および図40に示す。
【0202】
図39および図40から分かるように、図38の抵抗変化と比べて磁化曲線にヒステリシスが大きく、その結果、抵抗変化特性にも大きなヒステリシスが存在する。また、ΔR/Rは約6.5%であり、図37の抵抗変化よりも小さい値である。
【0203】
以上の説明から、本発明の強磁性積層膜を用いたスピンバルブ構造の磁気抵抗効果素子は、軟磁性が良好であり、僅かな磁界で大きな抵抗変化を得られ、さらに強磁性積層単位内部にCo90Fe10/Cu界面が存在するので抵抗変化率が大きいことが分かる。
【0204】
以上までは(CoFe/Cu)n積層膜の実施例について詳しく述べたが、このスピンバルブ構造は他の強磁性膜(例えば、NiFe,NiFeCo,Co等)と他の非磁性膜(Cu基合金等)との積層においても同様な効果が期待できる。次に、図35におけるスピンバルブ構造において、強磁性積層単位51を種々の強磁性結合多層膜に変えた場合の容易軸方向の抵抗変化率とHcを下記表5に示す。
【0205】
【表5】
表5から分かるように、CoFe/Cu以外の組み合わせの強磁性多層膜を用いても単層磁性膜を用いたスピンバルブ膜(表2参照)に比べてHcが低減でき、かつ同等以上の抵抗変化率が実現できることが分かる。
【0206】
(実施例23)
図35における基板側の強磁性積層単位51として厚さ4nmのCu下地膜と厚さ5nmのCo90Fe10を用い、反強磁性膜53側の強磁性積層単位51に厚さ8nmのCo90Fe10単層膜を用いた場合の磁化曲線および抵抗変化特性をそれぞれ図41(A),図41(B)および図42に示す。
【0207】
図41(A)から分かるように、容易軸方向ではHcが800A/m以下と比較的大きい値を示すが、図41(B)から分かるように、困難軸方向では100A/m以下の低い値を示す。また、図42から分かるように、抵抗変化率ΔR/Rは容易軸方向で7.2%、困難軸方向で2.8%である。このように困難軸方向で抵抗変化率が低いことは、両強磁性層間でのフェロ結合のために反平行磁化配列が不充分であると考えられ、硬質磁性膜等により反平行磁化配列を促進するバイアス磁界を加えることにより容易軸方向と同程度のΔR/Rを得ることができる。すなわち、Cu下地膜とCo90Fe10膜の積層膜を用いても良好な軟磁性と高いΔR/Rの両方が得られる。
【0208】
(実施例24)
基板50上に実施例22において使用した強磁性膜積層単位51と、強磁性膜積層単位51の中の非磁性層と異なる厚みを有する非磁性膜52とを交互に少なくとも2回以上積層した。さらに、最上層の非磁性膜52上に保護膜54を形成した。この保護膜54は必要に応じて形成する。最後に、エッジ部に電流を供給するための電極端子55を形成して図43に示す磁気抵抗効果素子を作製した。強磁性積層単位51を(Co90Fe101nm/Cu0.6nm)4 膜とし、非磁性層52を厚さ2.2nmのCu膜とし、積層回数nを8としたものの困難軸方向の磁化曲線と抵抗変化特性を図44および図45に示す。
【0209】
図44および図45から分かるように、飽和磁界Hsは6000A/mと比較的小さな値を示し、Hcは240A/mと小さな値を示す。このとき、抵抗変化率は12%以下であり、抵抗変化が飽和する磁界は磁化曲線における飽和磁界Hsとほぼ一致し、また、ヒステリシスは磁化曲線のHcとほぼ一致する。これにより、僅かな磁界で大きな抵抗変化率を示すことが分かる。
【0210】
(実施例25)
鏡面状態に加工したMgO基板60の(110)面上に(Co90Fe101nm/Cu1.1nm)16積層膜61を形成した。この積層膜61をメタルマスクを用いて1×8mm2 のストライプ状にパターニングした。次いで、積層膜61上にエッジ部に電流を供給するための電極端子62を形成して磁気抵抗効果素子を作製した。なお、積層膜61上に保護膜として厚さ5.5nmのCu膜を形成してもよい。また、CoFe系合金膜の組成は、大きな抵抗変化率を示すこと[日本応用磁気学会誌、16,313(1992)] および軟磁気特性の点からCo90Fe10とした。
【0211】
この場合、MgO基板60の(110)面上にはCo90Fe10膜から形成した。Cu膜から形成すると、10%以上の大きな抵抗変化を得ることができないからである。図46において、積層膜61に示されている波形線は主成長面の断面を示している。この主成長面が揺らいでいる方向に、MRセンス電流(Is)を流す。
【0212】
ここで、積層膜61を成膜する成膜装置としては、多元同時スパッタリング装置を用いた。このスパッタリング装置は、Co90Fe10ターゲットをRFスパッタ、CuターゲットをDCスパッタできるような構成になっており、それぞれのターゲット上に交互に直流バイアスを印加した基板を通過させて成膜するものである。なお、主排気ポンプにはクライオポンプを使用した。この成膜装置を用いて、真空チャンバー内を5×10-7Torr以下にまで排気した後、真空チャンバー内にArガスを導入し、約3 mTorrとしてスパッタリングを行った。
【0213】
得られた磁気抵抗効果素子の抵抗変化率および結晶構造を調べた。なお、抵抗変化率は、静磁界方向の抵抗変化を四端子法で測定した。このときの電流密度は2.0〜2.5KA/cm2 とした。また、結晶構造は、以下の測定条件でX線回折法によりθ−2θスキャンおよび主回折面に関するロッキングカーブを測定することにより評価した。
【0214】
X線回折測定条件
(1)θ−2θスキャン
Cu−Kα、40kV、200mA
スキャン幅:2θ=2〜100°
ステップ幅:0.03°
係数時間 :0.5秒
(2)ロッキングカーブ
Cu−Kα、40kV、200mA
スキャン幅:2θ=20〜60°
ステップ幅:0.04°
係数時間 :0.5秒
図47(A)および図47(B)に磁気抵抗効果素子の積層膜のθ−2θスキャンによるX線回折曲線を示す。図47(B)に示すように、2θ=75°付近に、fcc相(220)面反射に相当する強い回折ピークが確認できる。これにより、X線回折曲線から積層膜の主成長面は一方向に歪みのあるfcc相(220)面であることが分かる。なお、図47(A)における2θ=4°付近のピークは、積層周期(〜2.1nm)による回折である。
【0215】
次に、この主成長面に関して、[100]軸方向および[110]軸方向からロッキングカーブを測定した。その結果を図48(A)および図48(B)に示す。図48(A)には、[110]軸方向から測定したロッキングカーブを示す。これよりθ=38°近傍に一つのピークが確認できる。一方、図48(B)には[100]軸方向からのロッキングカーブを示す。これよりθ=33°と41°付近の2つのピークの存在が確認できる。
【0216】
図49(A)および図49(B)に図48のロッキングカーブから判断される膜構造の概念図を示す。図49(A)においてうねった層は、主成長面のfcc相(110)面を示す。θ−2θスキャンX線回折法で測定される平均的な結晶成長面は(110)であるが、この(110)面は[100]軸方向に揺らいでいる。一方、[110]軸方向の揺らぎは極めて小さい。これは、図48(B)に示すロッキングカーブの2つのピーク([100]軸方向測定)と、図48(A)に示す1つのピーク([110]軸方向測定)に対応する。
【0217】
図49(B)にこの成長面の法線の膜面内成分分布を示した。この膜面内異方性は、[100]軸方向の大きな揺らぎにより、[100]軸方向に大きく、[110]軸方向に小さい面内分布となっている。後述するように、[110]軸方向にMRセンス電流を流した場合の抵抗変化率(△R/R)は、約30%であるのに対して、[100]軸方向に流した場合は、約35%を示す。
【0218】
次に、この積層膜の磁気特性を測定した。その結果に基づく磁気曲線を図50(A)および図50(B)に示す。図50(A)は外部磁界Hを[100]軸に平行に印加した場合の磁化曲線を示し、図50(B)は外部磁界Hを[110]軸に平行に印加した場合の磁化曲線を示す。なお、磁気抵抗効果素子の磁気特性は、振動型磁力計(VSM)で最大印加磁界1.2MA/mで測定した。また、磁化曲線の磁化量Mは飽和磁化Msを規格化して示した。
【0219】
図50(A)および図50(B)から分かるように、[100]軸が磁化容易軸、[110]軸が磁化困難軸である。このとき磁化容易軸の飽和磁界は約240kA/mであり、磁化困難軸の飽和磁界は約960kA/mである。
【0220】
このように、本実施例では、基板上に強磁性膜と非磁性膜とを順次少なくとも1回ずつ積層した積層膜を具備し、センス電流の方向が前記積層膜の結晶配向面の揺らぎ方向に沿う方向に設定されていることを特徴とする磁気抵抗効果素子を提供する。
【0221】
本実施例において、積層膜の主結晶配向面の法線は、結晶配向面の揺らぎにより膜面内で成分を持ち、その膜面内成分は異方性を有する。あるいは、結晶性の積層膜に発生する面欠陥の法線は、膜面内への揺らぎを持ち、この揺らぎは膜面内で異方性を有する。その異方性が強い方向は、膜成長する原子面において強磁性原子と非磁性原子が混在しやすい方向である。
【0222】
その方向に、すなわち膜面内成分による異方性が最も大きくなる方向にセンス電流を流すことにより、電子がスピン依存散乱する確率が高くなる。その結果、磁気抵抗効果素子は、より高い抵抗変化率を示す。
【0223】
(実施例26)
基板に印加するバイアスを変化させて、実施例25と同じ積層膜構造を有する種々の磁気抵抗効果素子を作製した。図51に抵抗変化率のバイアス電圧依存性を示す。なお、MgO基板の(110)面においてそれぞれ直交する[100]軸と[110]軸に平行に電流を流して測定した。図51から分かるように、それぞれの軸とも、抵抗変化率のバイアス依存性が弱く、[100]軸で約35%、[110]軸で約30%の値を示す。すなわち、[100]軸のほうが[110]軸よりも抵抗変化率が大きいことが分かる。
【0224】
(実施例27)
積層膜を(Cu2nm/Co90Fe101nm)16膜とすること以外は実施例25と同様にして磁気抵抗効果素子を作製した。
【0225】
このようにCu膜の膜厚を2nmに増加させた場合、[100]軸方向に電流を流した時の抵抗変化率は約25%であり、[110]軸方向では約19%であった。したがって、Cu膜の膜厚を増加させても、この抵抗変化率の方向依存性は保たれていることが分かる。この場合も、主成長面(fcc相(220)面)のロッキングカーブには、図48(B)に示すように[100]軸で2つのピーク、図48(A)に示すように[110]軸で1つのピークが確認された。
【0226】
なお、同様の構成でCu膜の膜厚およびCo90Fe10膜の膜厚をそれぞれ0.3nmから10nmまで変化させても、ロッキングカーブの傾向は上記と変わらず、[100]軸の方が揺らぎが大きい。また、抵抗変化率も[100]軸のほうが大きい傾向を示した。
【0227】
また、同様の構成で積層回数を2から70まで変化させても、ロッキングカーブおよび抵抗変化率の傾向は変わらず、[100]軸方向にセンス電流を流すほうが大きな抵抗変化が得られた。
【0228】
(実施例28)
積層膜を(Ru1nm/Co90Fe101nm)16膜とすること以外は実施例26と同様にして磁気抵抗効果素子を作製した。
【0229】
この磁気抵抗効果素子の△R/Rは、[100]軸方向にセンス電流を流す場合の方が[110]軸方向にセンス電流を流す場合より大きかった。また、Ru膜の膜厚を変化させても前記の傾向が認められた。
【0230】
この現象は、Co90Fe10膜の代わりにCo膜を用いた場合でも確認できた。また、Ru以外にAg、Au、Pd、Pt、Irを積層膜の材料に使用してもMgO基板の(110)面上における軸方向による△R/Rの差が確認できた。
【0231】
(実施例29)
積層膜を(Cu1.1nm/Ni80Fe201.5nm)16膜とすること以外は実施例25と同様にして磁気抵抗効果素子を作製した。
【0232】
この磁気抵抗効果素子の積層膜の[100]軸方向にセンス電流を流した場合、その抵抗変化率は21%であった。一方、[110]軸方向にセンス電流を流した場合の抵抗変化率は17%であった。また、この積層膜もCo90Fe10/Cu積層膜の場合同様に、結晶成長面はfcc相(110)面であり、ロッキングカーブ測定から成長面は[100]軸方向に揺らいでいることが分かった。なお、Ni80Fe20膜の膜厚およびCu膜の膜厚を0.5nm〜50nmと変化させても同様の傾向を示した。
【0233】
また、強磁性膜の材料としてCo、CoFe合金、NiFe合金、Fe、FeCr合金等を用いても、非磁性膜の材料としてCu、Au、Ag、Cr、Ru、CiNi合金等を用いても、積層膜の主成長面が揺らいでいる結晶軸方向とセンス電流方向が平行であれば大きな抵抗変化率を示すことが分かった。
【0234】
(実施例30)
GaAs基板の(110)面上に厚さ1.5nmのCo膜、厚さ50nmのGe膜、および厚さ1.5nmのAu膜を形成した。さらに、その上にMBE法を用いて図53に示す(Cu0.9nm/Co90Fe101nm)20積層膜を形成した。図中69はCu膜を示し、71はCo90Fe10膜を示す。さらに、積層膜上に保護膜として厚さ5nmのGe膜を形成して磁気抵抗効果素子を作製した。この積層膜はfcc相(111)面成長を示していた。このとき、センス電流の方向に関係なく、抵抗変化率は約15%を示した。
【0235】
次に、Au下地膜の厚さ0.8nmとし、それ以外の構造を上記と同様にして磁気抵抗効果素子を作製した。
【0236】
得られた2つの磁気抵抗効果素子を透過電子顕微鏡で観察したところ、Au下地膜の厚さが1.5nmのものは、ほぼ格子欠陥がなく、極めて良好な結晶性を有するものであった。一方、Au下地膜の厚さが0.8nmのものは、{111}面配向を示していたが、{100}面が<110>軸方向に滑ったことにより積層欠陥が観察された。また、この磁気抵抗効果素子における<211>軸および<110>軸方向の抵抗変化率を測定したところ、<110>軸方向では約15%であり、<211>方向では17%と増加していた。この結果、方向性を持った欠陥が入ることにより、抵抗変化率のセンス電流の方向依存性が発生することが分かる。
【0237】
図53に図52における積層膜の原子配列図を示す。{100}原子面が<110>方向にずれることによって、電流が<211>方向に流れる場合と、<110>方向に流れる場合で、単位長当り遭遇する界面の数が異なり、<211>方向で多いことが分かる。このような方向性を持つ格子欠陥による生じる伝導電子のスピン依存界面散乱サイト数の結晶軸方向依存性は、上述した積層欠陥の他に双晶欠陥でも発生したことが分かった。以下に、その例について説明する。
【0238】
GaAs基板の(100)面上に厚さ3nmのAu下地膜を形成し、さらにその上に(Co90Fe101nm/Cu1.1nm)16積層膜を形成した。この積層膜はfcc相(100)面配向を示した。このとき、<111>軸を中心軸として双晶が発生した。積層膜断面を<110>方向から観察した場合の原子配列を図55に示す。図54から分かるように、<111>軸まわりに双晶が発生することにより、<110>方向にCuと、CoもしくはFe原子との界面が現れることが分かる。
【0239】
この積層膜の抵抗変化率のセンス電流方向依存性を<110>軸および<100>軸方向において測定した。図55に{100}面成長した積層膜の双晶面および電流方向と抵抗変化率との相関を示す。図55から分かるように、抵抗変化率はセンス電流を<110>軸方向に流したときは18%を示し、<100>軸方向にセンス電流を流したときは16%の値を示す。このように{111}面と大きな角度で交わる<110>軸の抵抗変化率が高く現れた。一方、双晶が発生しなかったときは、抵抗変化率のセンス電流方向依存性は確認できなかった。
【0240】
(実施例31)
ガラス基板上に(Cu1.1nm/Co81Fe9 Pd101nm)16人工格子膜を形成した。人工格子膜の成膜は、基板に直流バイアスを印加しながら行った。印加する直流バイアスの大きさを変えて抵抗変化率を測定し、基板に印加する直流バイアスの依存性(バイアス依存性)を図56に示す。
【0241】
図56から分かるように、直流バイアスを増加させるにしたがって抵抗変化率は増加し、バイアス−50Vでは約28%の極大値を示す。さらに、直流バイアスを大きくした場合には抵抗変化率は減少する。
【0242】
直流バイアスを変化させて作製した種々の人工格子膜の結晶性を評価したところ、全ての人工格子膜の主成長面はfcc相(111)面成長であった。ここで、積層周期(2.1nm)から反射された2θ=4°付近に現れる長周期構造反射強度および2θ=44°付近に現れるfcc相(111)面から反射される主成長面のピーク強度について、それぞれのバイアス依存性を図57および図58に示す。
【0243】
図57から分かるように、長周期構造反射強度のバイアス依存性については、バイアス−20V程度に若干の極大を示すが、特にバイアスと強い相関があるとは言えない。また、図58から分かるように、fcc相(111)面反射強度のバイアス依存性についても、バイアス−10V付近に若干の極大を示すが、バイアスと強い相関があるとは言えない。
【0244】
また、強磁性膜としてCoFe合金系を用いていることにより、スピン依存散乱のバルク散乱が大きくなり、強磁性膜としてCo系膜を用いる場合に比べて界面の構造は敏感でなくなる。なお、強磁性膜としてCo系膜を用いる場合、抵抗変化率は膜構造に大きく依存することが報告されている。
【0245】
次に、保磁力(Hc)のバイアス依存性を図59に示す。図59から分かるように、バイアス−50V程度までは200A/m以下の良好な軟磁気特性を示すが、−60V程度から保磁力が増加し始める。したがって、印加する直流バイアスの大きさを選択することにより、抵抗変化率および保磁力の最適条件を選ぶことができる。なお、ガラス基板の代わりにSi基板、セラミック基板、GaAs基板、Ge基板を用いた場合でも、同様にして抵抗変化率と保磁力の最適点を選び出すことができた。
【0246】
(実施例32)
ここでは、スピン依存散乱能力を有する2つの強磁性膜両者の磁化回転により信号磁界を検出する本発明の実施例について説明する。
【0247】
図60に示すように、基板80上に反強磁性膜の配向制御用の下地膜81、反強磁性膜82、スピン依存散乱能力を有する強磁性膜83、非磁性膜84、強磁性膜85、および反強磁性膜82を順次形成した。さらに、最上層の反強磁性膜82上に電極端子86を形成した。この反強磁性膜82上に必要に応じて保護膜を形成してもよい。なお、下地膜81の材料は、反強磁性膜82がFeMnからなる場合にはCu、CuV、CuCr等のCu合金や、Pd等の非磁性fcc相またはNiFeやCoFeTa等の磁性fcc相を有する金属が望ましい。このとき磁性材料のほうが膜厚が薄くても(すなわちシャント分流が少ない)、良好な交換バイアスが付与できる。反強磁性膜82はFeMn、NiO、PtMn等からなり、その膜厚は5〜50nmである。強磁性膜83,85はNiFe、Co、CoFe、NiFeCo等からなり、その膜厚は0.5〜20nmである。非磁性膜84はCu、Au、Ag等からなり、その膜厚は0.5〜10nmである。また、反強磁性膜82は、強磁性膜85の全面に形成する必要はなく、強磁性膜83の両サイドのエッジ部(電極端子86近傍)にのみ形成してもよい。
【0248】
ここで、少なくとも強磁性膜83の成膜中には一方向の静磁界を図60中のx方向(センス電流方向)に加える。その結果、強磁性膜83に交換結合バイアス磁界がその静磁界方向に加わる。一方、少なくとも反強磁性膜82の成膜中には強磁性膜83の成膜中に加えた磁界方向とは180°異なる方向(マイナスx方向)に静磁界を加える。その結果、強磁性膜83とは180°異なる方向に強磁性膜85に交換結合バイアス磁界が加わる。その結果、2つの強磁性膜83,85の磁化のなす角度は信号磁界0の状態では反平行になる。なお、信号磁界Hsは図中のy方向に加わる。
【0249】
反強磁性膜82により強磁性膜83および85に反対方向のバイアス磁界を印加する方法には、次に示す方法もある。2つの反強磁性膜82としてそれぞれ異なるネール温度を有する膜を用い、これらのネール温度以上で静磁界熱処理を行い、降温中に両反強磁性膜82のネール温度の中間の温度で静磁界の方向を180°反転させる。その結果、強磁性膜83,85には反対方向へのバイアス磁界が付与できる。
【0250】
本実施例では、従来のスピンバルブ構造の膜とは異なり、反強磁性膜からの交換バイアスが加わった強磁性膜の磁化回転を利用しているので、その交換バイアス磁界はバルクハウゼンノイズを抑制する程度のあまり強くない磁界であることが望ましい。例えば、適用ヘッドのトラック幅等に応じて異なるが最大でも5kA/mである。しかしながら、現状のスピンバルブ構造の膜では、FeMnからなる反強磁性膜による交換バイアス磁界を用いるのが一般的であるが、この場合、FeMn膜とNiFe膜等の強磁性膜とを直接積層すると10kA/m以上の交換バイアスが生じてしまう。その交換バイアスを低減させるためには、反強磁性膜と強磁性膜の中間に交換バイアス調整用の膜、例えば飽和磁化の低い強磁性膜や非磁性膜を挿入する方法や、図61に示すように、強磁性膜83と85のそれぞれの膜中に非磁性膜87,88を介在させる、すなわち強磁性膜83,85をそれぞれ83aおよび83b,85aおよび85bに分離する方法がある。
【0251】
強磁性膜中に非磁性膜を介在させる方法では、反強磁性膜82と接する側の強磁性膜83a,85aには強い交換バイアスが加わるが、反強磁性膜82と接しない側の強磁性膜83b,85bには弱い交換バイアスが加わる。非磁性膜87,88の材料の種類やその膜厚により、反強磁性膜82と接しない側の強磁性膜83b,85bへの交換バイアスの大きさを低減できる。
【0252】
ここで、強磁性膜83aおよび83bの磁化のなす角度と、強磁性膜85aおよび85bの磁化のなす角度は、信号磁界による磁化回転で強磁性的な配列から反強磁性的な配列に変化するが、膜中央部における強磁性膜83bおよび85bの磁化のなす角度は、逆に反強磁性的な配列から強磁性的な配列に変化する。したがって、前者と後者のスピン依存散乱は相殺される。そこで、強磁性膜83a,85aおよび非磁性膜87,88の材料としては、スピン依存散乱能力がなく高抵抗のものであることが望ましい。さらに、反強磁性膜82と接する側の強磁性膜83a,85aの厚みは、反強磁性膜82と接しない側の強磁性膜83b,85bの厚みに比べて小さくすることが望ましい。
【0253】
上記のようにすることにより、磁界0で強磁性膜83および85の磁化方向を反平行に揃えることができる。その結果、第1に、磁気ヘッドに適する困難軸方向(図中y方向)に信号磁界を加えた場合でも、両強磁性膜の磁化回転により両強磁性膜間の磁化のなす角度が0〜180°まで変化する状態が実現でき、容易軸方向と同程度の高い抵抗変化率を実現できる。第2に、2つの強磁性膜にバイアス磁界が加わるので、両強磁性膜から磁壁を無くすことができ、バルクハウゼンノイズを抑制できる。第3に、センス電流と信号磁界が直交する方式では、従来スピンバルブ構造では相殺されていたNiFe膜等を用いた場合に顕著である通常の磁気抵抗効果とスピン依存散乱による抵抗変化とを兼ねることができ、△R/Rの増大が期待できる。
【0254】
(実施例33)
実施例32では、2つの反強磁性膜を用いて両強磁性膜の磁化を反平行にする方法を示した。しかし、必ずしも反強磁性膜のみでバイアス磁界を加える必要はなく、硬質磁性膜からの漏れ磁界や微細形状に加工した場合に生じる反磁界を利用しもよい。次に、その一例について説明する。
【0255】
図62から分かるように、基板90上にスピン依存散乱能力を有する強磁性膜91、非磁性膜92、および強磁性膜93を形成した。強磁性膜91,93および非磁性膜92の膜厚は実施例32と同様とした。その上に厚さ2〜50nmの反強磁性膜94を形成し、強磁性膜93に交換バイアスを印加した。さらに、その上に厚さ10〜50nmのCoPt、CoNiからなる硬質磁性膜95を形成した。硬質磁性膜95の上に電極端子96を形成した。成膜はすべて静磁界(図中x方向)中で行った。
【0256】
次いで、反強磁性膜94による交換バイアス磁界方向と同じ方向に400〜800kA/mの磁界を加えて硬質磁性膜95をx方向に着磁した。その結果、硬質磁性膜95のエッジ部からの洩れ磁界により強磁性膜91にはマイナスx方向にバイアス磁界が加わり、強磁性膜91と93の磁化は反平行状態になった。なお、強磁性膜93にも硬質磁性膜95からのバイアス磁界が加わるが、反強磁性膜94からの交換バイアス磁界の方が強くなるように交換バイアス力を設定することにより、前述した反平行磁化状態を実現できる。なお、硬質磁性膜95と反強磁性膜94を強磁性膜93の全面に形成する必要はなく、強磁性膜93のエッジ部(電極端子96近傍)のみに形成してもよい。
【0257】
なお、図62の95には硬質磁性膜の代わりに軟磁性に近い強磁性膜を用いることもできる。この場合、軟磁性に近い強磁性膜は、反強磁性膜94から交換バイアスが加わるように積層する必要がある。強磁性膜95に交換バイアスが加わると、強磁性膜95の磁化を一方向に固着できるので、信号磁界等の外部磁界が加わっても安定した静磁結合バイアス磁界を強磁性膜91に、磁気抵抗効果に不可欠な微細パターン形状に加工することにより強磁性膜93に加わる反強磁性膜94からの交換バイアス磁界と180°異なる方向に付与できる。このとき、強磁性膜95の膜厚や飽和磁化を調整することにより、所望の強度のバイアス磁界を強磁性膜91に付与できる。
【0258】
また、強磁性膜95の抵抗率や膜厚を調整することにより、所望のシャント分流動作点バイアスが付与できる。ここで、強磁性膜95では、反強磁性膜94と交換結合するのに要求される特性(反強磁性膜94とエピタキシャル成長するために反強磁性膜94と結晶構造や格子定数が同様である結晶性の強磁性膜、例えばNiFe膜、CoFe膜、CoFeTa膜、CoFePd膜が望ましい)と、静磁結合バイアスや動作点バイアスに要求される特性とを両立することが困難である(上記結晶性の膜では抵抗率が低すぎる)。そこで、強磁性膜95は、反強磁性膜94と接する交換結合用磁性膜(NiFeやCoFe系強磁性膜等)とバイアス用の強磁性膜(Co系非晶質膜、FeTaN等の窒化微結晶膜、あるいはFeZrC等の炭化微結晶膜等)が界面で強磁性交換結合する2層構造であることが望ましい。
【0259】
図62に示す構造の場合、硬質磁性膜95に電極端子96からのセンス電流が分流するのでΔR/Rがある程度減少することが避けられない。この問題は図63〜図65に示す構造により解消できる。
【0260】
すなわち、図63に示すように、基板90上に図62と同様に反強磁性膜94まで成膜し、その後、反強磁性膜94の両サイド近傍に硬質磁性膜95を形成する。その内側にトラック幅に相当する間隔で電極端子96を形成する。その結果、硬質磁性膜95にセンス電流が流れることを防止でき、ΔR/Rの低下を抑制できる。
【0261】
一方、図64に示すように、基板90上の最初に硬質磁性膜95を形成し、その上に絶縁膜97を介して強磁性膜91、非磁性膜92、強磁性膜93、および反強磁性膜94を順次形成し、さらに電極端子96を形成する。このとき、成膜中に静磁界を加えて、反強磁性膜94から強磁性膜93に所定の交換バイアス磁界を加える。成膜後にこの交換バイアス方向と同じ方向に硬質磁性膜95を着磁する。この方法でも、強磁性膜91と93に反対方向のバイアス磁界を印加することができ、しかも硬質磁性膜95に電流が流れることを防止できる。なお、絶縁膜97は硬質磁性膜95と強磁性膜91との交換結合により過大なバイアス磁界が加わることを防ぐ効果もある。
【0262】
また、図65に示すように、基板90上に強磁性膜91、非磁性膜92、強磁性膜93、および反強磁性膜94を順次成膜する。次に、この積層膜を所定の形状に微細加工する。この微細加工はレジスト等を用いてマスクを形成し、イオンミリング等により行う。この後、この残りのマスクを使用してリフトオフ法により強磁性膜91のサイドに硬質磁性膜95を形成する。最後に、強磁性膜93に加わる交換バイアスとは逆方向に硬質磁性膜95を着磁する。この方法でも、強磁性膜91と93に反対方向のバイアス磁界を印加することができ、しかも硬質磁性膜95に電流が流れることを防止できる。
【0263】
(実施例34)
図61に示すスピンバルブ構造において、ガラス基板80上に1at% のCrを含む厚さ5nmのCu下地膜、反強磁性膜82として厚さ15nmのFeMn膜、強磁性膜83aとして厚さ1nmのNi80Fe20膜、非磁性膜87として1at% のCrを含む厚さ1.5nmのCu膜、強磁性膜83bとして厚さ6nmのNi80Fe20膜、非磁性膜84として厚さ2.5nmのCu膜、強磁性膜85bとして厚さ6nmのNi80Fe20膜、非磁性膜87として1at% のCrを含む厚さ1.5nmのCu膜、強磁性膜85aとして厚さ1nmのNi80Fe20膜、並びに反強磁性膜82として厚さ15nmのFeMn膜を順次形成した。
【0264】
これらの膜の成膜は、永久磁石による静磁界中で2極スパッタリング法により真空を破ることなく一括に行った。なお、この永久磁石は基板ホルダーには一体的に取り付けられていない。また、このとき、予備排気圧1×10-4Pa以下、Arガス圧0.4Paの条件で行い、強磁性膜83の成膜が終了した後で基板ホルダーを180°回転させて永久磁石によるバイアス磁界(約4000A/m)の方向を180°反転した。このようにして、信号磁界0で両強磁性膜磁化の反平行状態を実現できるスピンバルブ構造の積層膜を作製した。
【0265】
得られた積層膜の抵抗を4端子法により測定した。具体的には、強磁性膜83および85の容易軸方向に1mAの定電流を加え、困難軸方向の膜の幅を1mmとして4mm間の電圧を測定した。磁界はヘルムホルツコイルにより強磁性膜83および85の困難軸方向に加えた。その結果、得られた抵抗−磁界特性を図67に示す。
【0266】
図66において、抵抗は最大磁界(16kA/m)での値を1に規格化して示す。磁界0では強磁性膜83と85の磁化が反平行状態にあるので、抵抗が最大値を示す。磁界が加わると、急激に抵抗は低下する。特に、2000A/m以上の磁界では抵抗はおよそ一定値を示す。約3.8%以下の抵抗変化率が2000A/m以下の僅かの磁界範囲で生じることが分かる。また、この抵抗−磁界特性にはヒステリシスやノイズが殆ど認められない。すなわち、このスピンバルブ構造の積層膜を用いると、著しく高感度でノイズの少ない磁気ヘッドを得ることができる。
【0267】
さらに、図60に示すスピンバルブ型磁気抵抗効果素子を作製して、非磁性層84(Cu)の厚みと抵抗変化率との関係を調べた。その結果を下記表6に示す。下地膜には厚さ5nmのNiFe膜を用い、強磁性膜83,85には厚さ8nmのNiFe膜を用い、反強磁性膜82には厚さ10nmのFeMn膜を用いた。
【0268】
【表6】
表6から分かるように、Cu厚が薄くなると急激に抵抗変化率が増加して、Cu厚が1.2nmでは9%の高い抵抗変化率が得られた。これは、強磁性膜83と強磁性膜85には50kA/mの比較的大きな反平行バイアス磁界がそれぞれに加わっているので、非磁性膜84の厚みを薄くしても安定した反強磁性磁化配列が実現できるためである。非磁性層(Cu)厚を2nm未満に薄くする場合、反平行磁化配列が崩れて抵抗変化率が激減する従来のスピンバルブ型磁気抵抗効果素子と異なり、両方の強磁性膜83,84に反対方向のバイアス磁界を加え、非磁性膜84の厚みを薄くすることにより大幅に抵抗変化率を増大できる。
【0269】
(実施例35)
次に、スピン依存散乱能力を有する強磁性膜の数を3層以上に増やした場合について説明する。
【0270】
図67に示すように、基板100上に反強磁性膜102の配向を制御するための下地膜101、FeMn、NiO、PtMn等からなる厚さ5〜50nmの反強磁性膜102、CoFe、Co、NiFe等からなる厚さ1〜20nmの強磁性膜103、Cu、Au等からなる厚さ1〜10nmの非磁性膜104、厚さ1〜20nmの強磁性膜105、厚さ1〜10nmの非磁性膜106、厚さ1〜20nmの強磁性膜107、および厚さ5〜50nmの反強磁性膜108を形成した。ここで、強磁性膜103,105,107の膜厚は、すべて等しくても異なっていてもよい。さらに、その上に必要に応じて保護膜を形成して電極端子109を形成した。なお、成膜は静磁界中で行った。
【0271】
反強磁性膜102と108からそれぞれ強磁性膜103と107に交換バイアスを一方向(図中x方向)に加えた。その結果、中間の強磁性膜105のみが透磁率が高く、強磁性膜103と107は低い透磁率、すなわち磁化の固着が実現できた。この磁化の固着には、反強磁性膜ではなく図63で示したような硬質磁性膜95を用いてもよい。なお、反強磁性膜102および108と接する強磁性膜103および107の材料として軟磁性があまり良好でないが抵抗変化率の高いCoやCoFeを用い、中間の強磁性膜105の材料として抵抗変化率はあまり高くないが軟磁性が良好であるNiFeを用いることにより低磁界で高い抵抗変化率を実現できる。
【0272】
このような構成により、中間の強磁性膜105の磁化回転が低磁界で容易に起こり、また、非磁性層を介した界面数が従来のスピンバルブ構造の膜に比べて2倍に増えるので、低磁界で従来のスピンバルブ構造の膜を上回る抵抗変化率を実現できる。また、この積層膜の中央に信号磁界で磁化回転する強磁性膜が位置することになるので、センス電流磁界による強磁性膜の磁化の乱れは僅かであり、安定した信号検出が可能になる。なお、実施例33で説明したような硬質磁性膜や反磁界によるバイアス法を併用すれば、強磁性膜103および107と、中間の強磁性膜105の磁化のなす角度を信号磁界0で反平行にすることができる。その結果、実施例32で述べた種々の効果により、さらに高感度で低ノイズの磁気抵抗効果素子を得ることができる。
【0273】
(実施例36)
図68は、スピン依存散乱能力を有する強磁性膜の数を4層に増やした積層膜を示す。
【0274】
基板100上に、反強磁性膜111、非磁性層113,115,117を介して積層した4層の強磁性膜112,114,116,118、反強磁性膜119を順次形成して、センス電流が信号磁界と同方向に流れるように電極端子109をその上に形成した。必要に応じて反強磁性膜111の下には配向制御用の下地膜を、反強磁性膜119の上には保護膜を形成する。各膜の材料、膜厚は図67に示したものと同様とした。
【0275】
少なくとも強磁性膜112の成膜中には静磁界を図中x方向(トラック幅方向)に付与して、一方、その後の成膜途中で静磁界方向180°反転して少なくとも反強磁性膜119の成膜中には静磁界を図中マイナスx方向に付与した。この成膜中の静磁界により、強磁性膜112にはx方向に、強磁性膜118にはマイナスx方向に交換バイアス磁界による磁化固着を生じる。また、この構成では、トラック幅が狭いと強磁性膜112,114,116,118の幅も同様に狭くなるので、その方向に強い反磁界が発生する。この反磁界により、反強磁性膜と接していない中間の強磁性膜114と116の磁化はそれぞれ強磁性膜112と118の磁化と反平行になる。すなわち信号磁界0では4層の強磁性膜の隣接する磁化は互いに反平行に向くことになる。
【0276】
なお、中間の強磁性膜114と116への反磁界が不充分の場合には、センス電流により発生する磁界が強磁性膜112と114ではマイナスx方向に、強磁性膜116と118ではx方向に加わるようにセンス電流を図中y方向に加えることが望ましい。ここで、反強磁性膜からの交換バイアス磁界をセンス電流磁界よりも大きくなるように設定すれば、強磁性膜112と118の磁化を電流磁界により乱されることなく反強磁性膜からの交換バイアス方向に固着できる。
【0277】
このような構成にすることにより、4層の強磁性膜の各磁化方向は、信号磁界0で反強磁性的に配列できる。したがって、界面数の増加に対応してΔR/Rが増加する。また、信号磁界が僅かに加わることにより各層の磁化が回転できるので、高感度なスピン依存散乱を用いた磁気抵抗効果素子を実現できる。
【0278】
(実施例37)
次に、スピン依存散乱能力を有する一部の強磁性膜の磁化を固着して、残りの強磁性膜の磁化を信号磁界0で信号磁界方向と異なる方向に配列する場合について説明する。
【0279】
図69は、センス電流と信号磁界の方向が直交する積層膜を示す。基板120上に、非磁性膜122を介在させたスピン依存散乱能力を有する強磁性膜121および123の積層膜、反強磁性膜124を順次形成した。各膜の材料、厚みは図60に示したものと同様とした。必要に応じて、反強磁性膜124上に保護膜を形成した後に電極端子125を形成した。
【0280】
ここで、少なくとも強磁性膜121の成膜中には、図中x軸およびy軸の2等分線の方向に静磁界を付与し、一方、少なくとも反強磁性膜124の成膜中には、その静磁界の方向を前者の方向と45°回転させて付与した(図中y方向)。その結果、強磁性膜121の磁化は前記静磁界のx方向に付与され、強磁性膜123の磁化は反強磁性膜124からのバイアス磁界により信号磁界方向に固着された。このような構成によれば、信号磁界0では両強磁性膜の磁化のなす角度は45°になり、信号磁界が強磁性膜123の磁化固着方向に加わると、両強磁性膜の磁化方向が強磁性的な配列になるため抵抗が減少し、逆に磁化固着方向と180°異なる方向に信号磁界が加わると、両強磁性膜の磁化方向が反強磁性的な配列になるため抵抗が増大する。したがって、線型応答を実現するために従来の磁気抵抗効果素子に必要であった動作点バイアスが不要になる。なお、この方法では、強磁性膜121と123との強磁性的な結合により強磁性膜121の磁化が信号磁界0でy方向に向けて傾き易く、大きな信号磁界が加わると再生信号が歪み易い傾向がある。これは、センス電流により発生する電流磁界が、強磁性膜121ではこの強磁性的な結合方向と180°異なる方向に加わるように、すなわちこの強磁性的な結合による磁界と電流磁界が相殺されるようにセンス電流の流れる向きを決めることにより回避できる。
【0281】
しかしながら、強磁性膜121や123に異方性磁気抵抗効果を有する膜を用いる場合には、逆にこの強磁性的な結合による磁界により強磁性膜121の磁化Mが強磁性膜123の磁化M方向に傾くと、磁気異方性とスピン異存散乱による抵抗変化が重畳するので(電流方向がx方向であるため)感度向上が期待できる利点がある。実際に、磁気抵抗効果素子が用いられる状況に応じて、強磁性膜121の磁化方向を電流方向等の手段により調整する必要がある。
【0282】
ところで、実施例37では、バルクハウゼンノイズ抑制に必要な縦バイアス磁界(図中x軸およびy軸の2等分線方向のバイアス磁界)を加える必要がある。このためには、実施例32に示したような反強磁性膜を強磁性膜121の基板側に配置して交換結合させる。あるいは、図70(A)に示すように、反強磁性膜124上に、ある程度軟磁性が良い(Hcが交換バイアス磁界HUAより小さい)強磁性膜126を積層して、少なくともこの強磁性膜126の積層中には、成膜中のバイアス磁界方向を概ね135°反転して強磁性膜126からの交換バイアス磁界を強磁性膜121に加える方法がある。この場合には、スピン依存散乱ユニットである膜が下地膜の役目も果たすので、反強磁性膜124上に成膜した強磁性膜126に容易に交換バイアスを付与できる。その結果、実際に再生ヘッドに適した微細パターンに加工したときに発生する静磁結合磁界(反磁界)により、縦バイアス磁界を強磁性膜121に加えることができるので、バルクハウゼンノイズが抑制できる。
【0283】
図70(A)の実施例では、反強磁性膜124の膜面両サイドで交換バイアス方向が異なるので、バイアス磁界方向が不安になる場合もある。これは、図70(B)に示すように、反強磁性膜124を中間に磁気結合を弱めるが結晶成長を阻害しない極薄い中間膜124b(Cu等のfcc相膜)を介して反強磁性膜124aと124cに分離することで回避できる。このとき、実施例32で述べたように、熱処理で交換バイアス磁界方向を制御可能とするため、反強磁性膜124aと124cはネール点またはブロッキング温度が異なる材料で構成されることが好ましい。さらに、強磁性膜126が厚く、Bsが高くないと所望の縦バイアス磁界が強磁性膜121に付与できないが、このとき強磁性膜126にセンス電流が分流するので、強磁性膜の抵抗率は高いことが望ましい。具体的には、Co系やFe系のアモルファス膜や窒化または炭化微結晶膜を用いることが望ましい。しかしながら、このような膜は、FeMn等の反強磁性膜と交換結合し難いので、反強磁性膜124aと接する部分には極薄いNiFeやCoFeTa等の交換結合しやすい強磁性膜124bを積層して、その上に高抵抗のアモルファス的な高Bs強磁性膜126aを強磁性交換結合するように積層することが望ましい。
【0284】
(実施例38)
図70(C)は、センス電流と信号磁界の方向が平行である積層膜を示す。センス電流の流れる方向が異なり、強磁性膜121の磁化が図中x方向に付与され、かつ膜の長手方向が90°回転していること以外は図69の構成と同様である。この構成においては信号磁界0では両強磁性膜の磁化のなす角度は90°になり、信号磁界が強磁性膜123の磁化固着方向に加わると、両強磁性膜の磁化が強磁性的な配列になるため抵抗が減少し、逆に磁化固着方向と180°異なる方向に信号磁界が加わると両強磁性膜の磁化が反強磁性的な配列になるため抵抗が増大する。したがって、やなり、動作点バイアスが不要になる。この構成では、センス電流による電流磁界が強磁性膜121の容易軸方向であり、この磁界がバルクハウゼンノイズを抑制する効果がある。
【0285】
さらに、実施例38では、強磁性膜123から発生しやすいフェロ結合磁界のために強磁性膜121の磁化がy方向に傾きやすいことを付け加えておく。実施例37で詳しく説明したように、この強磁性的結合磁界は、信号磁界ダイナミックレンジが縮まるが、異方性磁気抵抗効果を重畳する利点を有する。なお、電流磁界が強磁性膜121に加わるので、必ずしも強磁性膜121の容易軸がx方向にある必要はない。
【0286】
バルクハウゼンノイズ抑制効果が不十分のときは、強磁性膜123の磁化固着方向を信号磁界方向から外すことにより、図中x方向に静磁結合磁界が発生してより強いバルクハウゼンノイズ抑制磁界を付与できる。
【0287】
(実施例39)
図71は、スピン依存散乱能力を有する強磁性膜を3層とした場合の積層膜を示す。図71では、センス電流と信号磁界が直交する場合について示す。基板130上に、静磁界中で反強磁性膜131、非磁性膜133および135を介在させたスピン依存散乱能力を有する強磁性膜132,134,136の積層膜、反強磁性膜137を順次形成した。その上に電極端子138を形成した。
【0288】
ここで、静磁界の方向は、少なくとも強磁性膜132と反強磁性膜137の成膜中は同じ方向として(図中y方向)、強磁性膜134の成膜中はそれと45°の角をなす方向(図中x軸とy軸の2等分線方向)とした。その結果、強磁性膜132と136の磁化は図中y方向に固着され、強磁性膜134の磁化は高透磁率を保ち、磁界0では図中x軸とy軸の2等分線方向近傍に向く。したがって、この構成でも、磁界0では両強磁性膜の磁化のなす角度はほぼ45°になり、信号磁界が強磁性膜136の磁化固着方向に加わると、両強磁性膜の磁化方向が強磁性的な配列になるため抵抗が減少し、逆に磁化固着方向と180°異なる方向に信号磁界が加わると、両強磁性膜の磁化方向が反強磁性的な配列になるため抵抗が増大する。すなわち、動作点バイアスが不要になる。この構成では界面数が2倍に増えるので感度も向上する。
【0289】
(実施例40)
実施例38で示した方法の磁気抵抗効果素子の積層膜の抵抗−磁界特性を説明する。
【0290】
図70(C)において、基板120としてサファイアC面基板を用い、強磁性膜121として厚さ5nmのPd下地膜を有する厚さ6nmのCo90Fe10膜を用い、非磁性膜122として厚さ3nmのCu膜を用い、強磁性膜123としては厚さ4nmのCo90Fe10膜を用い、反強磁性膜124としては厚さ15nmのFeMn膜を用い、さらに、その上に保護膜として厚さを5nmのPd膜を形成した。
【0291】
この積層膜は2極スパッタリング法により真空を保ったまま一括に成膜した。なお、成膜中には永久磁石により静磁界を付与し、強磁性膜121の成膜を終えた後に静磁界の方向を90°反転させて、強磁性膜121と123の容易軸のなす角度を90°とした。また、スパッタリングの予備排気は1×10-4Pa以下、スパッタガス圧は0.4Paとした。
【0292】
この積層膜の抵抗−磁界特性を実施例33と同様に測定した。図72に困難軸方向の抵抗−磁界特性を示す。図72において、強磁性的な磁化配列での抵抗を1として規格化する。図72から分かるように、信号磁界0で線形性のよい抵抗の磁界変化が得られる。これにより、動作点バイアスが不必要であることが分かる。
【0293】
(実施例41)
ここでは、強磁性膜/非磁性膜/強磁性膜からなるスピン依存散乱ユニットの両強磁性膜に別の強磁性膜または反強磁性膜を2層以上積層して、そのとき発生する両バイアス磁界を概ね直交させた磁気抵抗効果素子の実施例を示す。
【0294】
図73は、基板120上に、CoPt等のハード強磁性膜、一軸磁気異方性磁界Hkがスピン依存散乱ユニットの強磁性膜よりも大きな高Hk強磁性膜(例えば、Hk〜5kA/mのCoFeRe膜等)やNiO等の反強磁性膜からなるバイアス磁界を印加するための第1のバイアス膜121a、スピン依存散乱ユニット(強磁性膜121、非磁性膜122、強磁性膜123)、FeMn等の反強磁性膜からなるバイアス磁界を印加するための第2のバイアス膜124を順次積層した多層膜を示す。この多層膜の第1のバイアス膜121aから発生するバイアス磁界は、積層界面を通した交換結合により主に強磁性膜121にバイアス磁界が加わる。一方、第2のバイアス膜124から発生するバイアス磁界は、積層界面を通した交換結合により主に強磁性膜123に加わる。この第1と第2のバイアス磁界は概ね直交するような方向関係を満足するように加える。さらに、第2のバイアス磁界は強磁性膜123の磁化が信号磁界で実質的に動けない程度の強い値とする(10kA/m以上が望ましい)。
【0295】
一方、第1のバイアス磁界強度は、信号磁界により強磁性膜121の磁化が回転でき、バルクハウゼンノイズが抑制できる程度の磁界とする。具体的には、第1のバイアス膜に反強磁性膜を用いる場合には、バイアス膜121aと強磁性膜121のバイアス磁界を5kA/m以下にすることが望ましい。第1のバイアス膜に強磁性膜を用いる場合には、何等かの手段によりバイアス膜121aの磁化方向を一定方向に保持して単磁区化してバイアス膜121aと強磁性膜121を強い交換結合で一体化すると、信号磁界によりバイアス膜121aおよび強磁性膜121が概ね同様に回転でき、強磁性膜121aが単磁区であるので、強磁性膜121も単磁区になりバルクハウゼンノイズが除去できる。あるいは、例えば界面に別の層を挿入してバイアス膜121aと強磁性膜121の交換結合〜5kA/m以下に弱める方法もある。この場合、強磁性膜121のみが信号磁界により磁化回転するため、バイアス膜121aの透磁率を抑制して磁化を動き難くすることが好ましい。この透磁率抑制手段としては、Hkの向上、保磁力の向上、あるいは何等かの手段で一方向性バイアス磁界をバイアス膜121aに加える等がある。
【0296】
ここで、強磁性膜121aを単磁区化する手段としては、図74に示すように、バイアス膜121aをスピンバルブユニットよりも長くしてバイアス膜121aのエッジ部に新たな反強磁性膜やハード膜121bを積層することが等が可能である。
【0297】
以上の構成の磁気抵抗効果素子を作製すると、強磁性膜123の磁化方向は固定され強磁性膜121の磁化が信号磁界に応じて変化するので、図69に示した実施例と同様に信号磁界〜0で線形性の良好な高感度な磁気抵抗効果素子が得られ、なおかつ信号磁界を検出する強磁性膜121の磁壁も除去できるので、動作点バイアスが不要で高感度・ノイズなしの信号磁界再生が可能になる。
【0298】
ここで、強磁性膜121の磁化容易軸方向をバイアス磁界方向と直交する方向に付与することが、特に磁気異方性の大きなCo系の強磁性膜を121に用いた場合には望ましい。そうすると、異方性磁界に相当する飽和磁界とバイアス磁界が相殺できるので、Hsが大幅に低減できるので、図69に示した飽和磁界−抵抗特性の傾きが急峻になり、通常のバイアス磁界方向と強磁性膜121の磁化容易軸が同方向である場合に比べて、より高感度な信号磁界検出が可能になる。バイアス磁界と強磁性膜の容易軸の方向を変えるには、バイアス膜121aの成膜中における磁界印加方向と強磁性膜121の成膜中における磁界付与方向を変える方法等がある。
【0299】
(実施例42)
図75に示すように、支持基板140上に、高保磁力膜の配向を制御するための厚さ20nmのCr下地膜141、Co等からなる厚さ8nmの高保磁力膜142、Cu等からなる厚さ3nmの非磁性膜143、および厚さ4.6nmのNiFe等からなる強磁性膜144を順次形成し、さらに、その上に電極端子145を形成してスピンバルブ構造の磁気抵抗効果素子を作製した。なお、積層膜の成膜は超高真空Eガン蒸着により行った。このときの基板温度は約100℃とし、真空チャンバー内は1×10-8Pa以下に排気した。
【0300】
基板温度約100℃とした場合のCo/Cr膜についてX線回折パターンを調べた。その結果を図76に示す。図76に示すように、この膜はCr(200)が高配向であり、このCr膜を下地膜としたCo膜も(110)が高配向であった。なお、Co(110)ピークのロッキングカーブ半値幅は約3°であった。次に、基板温度約100℃で成膜した図75に示すNiFe/Cu/Co/Cr/基板の構造の積層膜の困難軸方向のR−Hカーブを図77に示す。R−Hカーブは通常のレジストプロセス、イオンミーリングを用いて積層膜を2mm×6μmのパターンに加工し、4端子法により測定した値に基づいて作成した。このとき、容易軸はパターン長手方向とし、磁界はパターン幅方向に加えた。
【0301】
図77に示すように印加磁界±80Oeの場合、抵抗変化率約6.5%となり、飽和磁界は約3.6kA/mとなった。
【0302】
この構造は、高保磁力膜のHcが約8kA/mであるため、媒体からの磁界が8kA/m未満の場合は問題がないが、ヘッドと媒体との間が近い構造、すなわち媒体からの磁界が8kA/m以上となるような構造には適さない。そこで、図75と同様の構造、膜厚で、基板温度を約200℃とし、さらに約8kA/mの磁界中で積層膜を成膜した。
【0303】
基板温度約200℃とした場合のCo/CrのX線回折パターンは図76とほぼ同じであった。また、この積層膜もCo(110)ピークのロッキングカーブ半値幅は約3°であった。さらに、ポールフィギュアで測定したところ磁界方向に六方晶C軸の偏りが見られた。したがって、基板温度100℃、無磁界中において成膜した積層膜に比べ、単結晶様のCoが得られた。
【0304】
次に、基板温度約200℃、磁界中において成膜した図75と同じ構造の積層膜の困難軸方向のR−Hカーブを図78に示す。R−Hカーブは前記と同様に積層膜を2mm×6μmのパターンに加工し、4端子法で測定した値に基づいて作成した。このとき容易軸(C軸の方向)はパターン長手方向とし、磁界はパターン幅方向に加えた。
【0305】
図78に示すように、外部磁界±1.6kA/mの場合でも高保磁力膜の磁化は印加磁界によってほとんど動くことはなく、しかもNiFe膜の飽和磁界も約2.8kA/mと低く保つことができた。また、抵抗変化率も約7.5%となった。
【0306】
上記構成の積層膜は、外部磁界1.6kA/mでも高保磁力膜の磁化が安定しているため、NiFe膜の容易軸を幅方向として、CoのC軸を概ね長手方向とするパターンを作製した。この構成により動作点バイアスが不要となる。このとき、磁界をパターン長手方向に加え、そのときのR−Hカーブを測定した。なお、パターン形状は前記と同様に2mm×6μmとした。その結果を図79に示す。図79から分かるように、ヒステリシスのない良好なR−Hカーブが得られ、Hkも約1.6kA/mと低い値を示した。
【0307】
また、ここでは高保磁力膜としてCo膜を用いたが、CoNi膜、CoCr膜を用いてもよい。さらに、下地膜としてはCr膜の他にW膜等を用いてもよく、これらのCr,Wをベースとして、それに添加元素を加えてもよい。なお、この下地膜は、本発明全体にわたっていわゆるハード膜の下地膜に適用することができる。これにより、C軸を硬磁性膜の膜面内に存在させる(特定方向にC軸が揃う)ことができる。したがって、硬磁性膜を固着した場合に、その上に形成した強磁性膜まで固着されることを防止できる。
【0308】
ここで、参考のために下地膜のない積層膜のM−Hカーブを図80に示す。Coの磁化の垂直成分から漏れ磁界が発生し、NiFe膜の軟磁気特性を劣化させていることが分かる。これは、一部のNiFeとCoの磁化が一体化していると考えられる。
【0309】
(実施例43)
実施例42で示すように、基板温度約200℃で成膜した高保磁力膜は、単結晶様の膜で低抵抗であるため、電子の平均自由行程を高保磁力膜の厚みよりも充分に長くできる。したがって、図81のように高保磁力膜142と強磁性膜144とをCu非磁性膜143を介して積層した。この積層膜の抵抗変化率は約15%と高い値を示した。なお、このような構造の積層膜を作製するためには、第1層の高保磁力膜142の配向を制御するために下地膜を設けることが望ましい。また、本実施例では下地膜として厚さ20nmのCr膜141を用いた。
【0310】
(実施例44)
次に、配向制御用高保磁力膜を例えば実施例34でのバイアス膜として用いた場合について説明する。
【0311】
本実施例では、図82に示すように、配向制御用高保磁力膜142上に磁気的絶縁層146を介してスピンバルブ構造の磁気抵抗効果素子を形成した。このように、配向制御高保磁力膜142を用いることによって、膜端部において高保磁力膜142とNiFe膜144が静磁結合し、バルクハウゼンノイズの原因となっているNiFe膜端部の磁壁を固着させることができる。さらに、配向制御高保磁力膜を用いているため、高保磁力膜のNiFe膜に対する影響、例えば膜内部の漏れ磁界等を回避でき、NiFe膜の軟磁気特性を劣化させることなく、良好な素子を作製できる。また、ここではスピンバルブ構造の交換バイアス膜として反強磁性膜等を用いてもよい。
【0312】
【発明の効果】
以上説明した如く本発明の磁気抵抗効果素子は、高い抵抗変化率および優れた軟磁気特性を同時に発揮できるものであり、その工業的価値は大なるものがある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の発明の磁気抵抗効果素子(スピンバルブ構造)を示す断面図。
【図2】図1に示す磁気抵抗効果素子の抵抗変化率の外部磁界依存性を示すグラフ。
【図3】(A),(B)は図1に示す磁気抵抗効果素子の磁化曲線を示すグラフ。
【図4】本発明の第1の発明の磁気抵抗効果素子(人工格子膜)の一例を示す断面図。
【図5】図4に示す磁気抵抗効果素子の抵抗変化率の外部磁界依存性を示すグラフ。
【図6】Co90Fe10膜のCu下地膜がある場合の保磁力の膜厚依存性を示すグラフ。
【図7】Co90Fe10膜のCu下地膜がない場合の保磁力の膜厚依存性を示すグラフ。
【図8】本発明の第1の発明の磁気抵抗効果素子(スピンバルブ構造)を示す断面図。
【図9】(A)はサファイア基板C面におけるθ−2θスキャンX線回折曲線、(B)はサファイア基板R面におけるθ−2θスキャンX線回折曲線。
【図10】Co90Fe10膜/Cu膜/サファイア基板C面における最密面ピークに関するロッキングカーブ。
【図11】Co90Fe10膜における保磁力の最密面反射でのロッキングカーブ半値幅依存性を示すグラフ。
【図12】(Co90Fe10)1-x Alx 膜/Cu膜における保磁力のAl濃度x依存性を示すグラフ。
【図13】Co90Fe10膜/Cu膜における保磁力の最密面反射強度依存性を示すグラフ。
【図14】(Co90Fe10)1-x Tax 膜/Cu膜における保磁力のTa濃度x依存性を示すグラフ。
【図15】本発明の第1の発明の磁気抵抗効果素子(スピンバルブ構造)を示す断面図。
【図16】本発明の第3の発明の磁気抵抗効果素子を示す断面図。
【図17】図16に示す磁気抵抗効果素子の容易軸方向のM−Hカーブ。
【図18】図16に示す磁気抵抗効果素子の困難軸方向のM−Hカーブ。
【図19】図16に示す磁気抵抗効果素子のR−Hカーブ。
【図20】高抵抗アモルファス層を設けない磁気抵抗効果素子の容易軸方向のM−Hカーブ。
【図21】高抵抗アモルファス層を設けない磁気抵抗効果素子の困難軸方向のM−Hカーブ。
【図22】本発明の第3の発明の磁気抵抗効果素子を示す断面図。
【図23】(A)〜(C)は本発明の第3の発明の磁気抵抗効果素子の他の例の製造過程を示す断面図。
【図24】本発明の第3の発明の磁気抵抗効果素子の他の例を示す斜視図。
【図25】本発明の第4の発明の磁気抵抗効果素子の例を示す断面図。
【図26】図25に示す磁気抵抗効果素子において△ρ/ρ0 とdCoFeとの関係を示すグラフ。
【図27】本発明の第5の発明の磁気抵抗効果素子を示す断面図。
【図28】本発明の第5の発明の磁気抵抗効果素子を示す断面図。
【図29】本発明の第6の発明の磁気抵抗効果素子における保磁力の強磁性膜の膜厚依存性を示すグラフ。
【図30】本発明の第6の発明の磁気抵抗効果素子における保磁力の強磁性膜の膜厚依存性を示すグラフ。
【図31】本発明の第6の発明の磁気抵抗効果素子の強磁性膜の磁化曲線。
【図32】本発明の第7の発明の磁気抵抗効果素子における積層周期依存性を示すグラフ。
【図33】本発明の第6の発明の磁気抵抗効果素子の強磁性膜における飽和磁界HsとCu膜厚との関係を示すグラフ。
【図34】本発明の第7の発明の磁気抵抗効果素子の強磁性膜の磁化曲線。
【図35】本発明の第7の発明の磁気抵抗効果素子を示す断面図。
【図36】第7の発明において、CuとCoFeとの界面状態を示す断面図。
【図37】図35に示す磁気抵抗効果素子の磁化曲線。
【図38】図35に示す磁気抵抗効果素子の抵抗変化特性を示すグラフ。
【図39】従来の磁気抵抗効果素子の磁化曲線。
【図40】従来の磁気抵抗効果素子の抵抗変化特性を示すグラフ。
【図41】(A),(B)は本発明の第7の発明の磁気抵抗効果素子のCu下地膜を有する強磁性膜についての磁化曲線。
【図42】本発明の第7の発明の磁気抵抗効果素子のCu下地膜を有する強磁性膜についての抵抗変化特性を示すグラフ。
【図43】本発明の第4の発明の磁気抵抗効果素子を示す断面図。
【図44】図43に示す磁気抵抗効果素子の磁化曲線。
【図45】図43に示す磁気抵抗効果素子の抵抗変化特性を示すグラフ。
【図46】膜内の揺らぎを説明するための概略図。
【図47】(A)はMgO(110)面基板上Co90Fe10/Cu人工格子膜の小角反射のX線回折曲線、(B)はMgO(110)面基板上Co90Fe10/Cu人工格子膜の中角反射のX線回折曲線。
【図48】(A)は図47におけるfcc(220)反射に関する[110]軸方向から測定したロッキングカーブ、(B)は図47におけるfcc(220)反射に関する[100]軸方向から測定したロッキングカーブ。
【図49】(A)は結晶配向面の揺らぎによる結晶配向面の法線の面内分布を示す概略図、(B)は抵抗変化率のセンス電流方向依存性を示す概略図。
【図50】(A)はCu5.5nm/(Cu1.1nm/CoFe1nm)16人工格子膜の外部磁界[100]軸方向の磁化曲線、(B)はCu5.5nm/(Cu1.1nm/CoFe1nm)16人工格子膜の外部磁界[110]軸方向の磁化曲線。
【図51】MgO(110)面基板上におけるCo90Fe10/Cu積層膜の抵抗変化率のバイアス電圧依存性を示すグラフ。
【図52】fcc相(111)面配向したCo90Fe10/Cu積層膜に積層欠陥が導入された場合の概念図。
【図53】fcc相(111)面配向したCo90Fe10/Cu積層膜に積層欠陥が導入された場合の原子配列を示す概念図。
【図54】fcc相(111)面配向したCo90Fe10/Cu積層膜に双晶欠陥が導入された場合の原子配列を示す概念図。
【図55】図54に示す状態における抵抗変化率のセンス電流方向依存性を示す概略図。
【図56】ガラス基板上におけるCo90Fe10/Cu人工格子膜の抵抗変化率の基板バイアス依存性を示すグラフ。
【図57】ガラス基板上におけるCo90Fe10/Cu人工格子膜の長周期構造反射強度のバイアス依存性を示すグラフ。
【図58】ガラス基板上におけるCo90Fe10/Cu人工格子膜のfcc相(111)面反射強度のバイアス依存性を示すグラフ。
【図59】ガラス基板上におけるCo90Fe10/Cu人工格子膜の保磁力のバイアス依存性を示すグラフ。
【図60】本発明の第8の発明の磁気抵抗効果素子を示す斜視図。
【図61】本発明の第8の発明の磁気抵抗効果素子を示す斜視図。
【図62】本発明の第8の発明の磁気抵抗効果素子を示す斜視図。
【図63】本発明の第8の発明の磁気抵抗効果素子を示す斜視図。
【図64】本発明の第8の発明の磁気抵抗効果素子を示す斜視図。
【図65】本発明の第8の発明の磁気抵抗効果素子を示す斜視図。
【図66】本発明の第8の発明の磁気抵抗効果素子の抵抗変化特性を示すグラフ。
【図67】本発明の第12の発明の磁気抵抗効果素子を示す斜視図。
【図68】本発明の第12の発明の磁気抵抗効果素子を示す斜視図。
【図69】本発明の第10の発明の磁気抵抗効果素子を示す斜視図。
【図70】(A)〜(C)は本発明の第10の発明の磁気抵抗効果素子を示す斜視図。
【図71】本発明の第10の発明の磁気抵抗効果素子を示す斜視図。
【図72】本発明の第10の発明の磁気抵抗効果素子の積層膜の抵抗変化特性を示すグラフ。
【図73】本発明の第12の発明の磁気抵抗効果素子を示す斜視図。
【図74】本発明の第12の発明の磁気抵抗効果素子を示す断面図。
【図75】本発明の第13の発明の磁気抵抗効果素子を示す断面図。
【図76】Co/Cr積層膜のX線回折パターン。
【図77】基板温度約100℃で成膜した本発明の第13の発明の積層膜のR−Hカーブ。
【図78】基板温度約200℃で成膜した本発明の第13の発明の積層膜のR−Hカーブ。
【図79】パターン幅方向を容易軸とした場合の本発明の第13の発明の積層膜のR−Hカーブ。
【図80】下地膜を設けない場合の本発明の第13の発明の積層膜のR−Hカーブ。
【図81】本発明の第13の発明の磁気抵抗効果素子を示す断面図。
【図82】本発明の第13の発明の磁気抵抗効果素子を示す断面図。
【図83】従来の磁気抵抗効果素子を示す斜視図。
【図84】従来の磁気抵抗効果素子のR−Hカーブ。
【符号の説明】
10,20…サファイア基板、11,21,71…Co90Fe10膜、12,22,23,70…Cu膜、13…FeMn膜、14…Ti膜、15,24…Cuリード、26…Ni酸化物膜、30,41,140…支持基板、31,46…高抵抗アモルファス層、32,44,83,85,91,93,103,105,107,112,114,116,118,121,123,132,134,136,144…強磁性膜、33,45,143…中間層、34…交換バイアス層、35,47…リード、42…CoPtCr膜、43…レジスト、50,80,90,100,120,130…基板、51…強磁性積層単位、52,84,87,88,92,104,106,113,115,117,122,133,135,163…非磁性膜、53,82,94,102,108,111,119,124,131,137,165…反強磁性膜、54,166…保護膜、55,62,86,96,109,125,145…電極端子、60…MgO基板、61…積層膜、81,101,141…下地膜、95…硬質磁性膜、97…絶縁膜、142…高保磁力膜、146…磁気的絶縁層、160…熱酸化Si基板、161…高抵抗強磁性膜、162…第1の強磁性膜、164…第2の強磁性膜、167a,167b…電極、169…高抵抗反強磁性膜。
Claims (9)
- 第1の強磁性膜、第2の強磁性膜並びに第1および第2の強磁性膜の間に設けられた非磁性膜を含む積層膜と、前記積層膜に電流を供給する一対のリードとを具備し、第1および第2の強磁性膜の磁化の角度変化に依存して素子抵抗が変化する磁気抵抗効果素子において、前記第1および第2の強磁性膜は、主成分としてFe、CoおよびNiからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含み、前記第1の強磁性膜はPd、Cu、Ta、In、B、Hf、Re、Rh、Ga、Ir、AuおよびAgからなる群より選択される少なくとも1種の添加元素を含むことを特徴とする磁気抵抗効果素子。
- 前記添加元素はPd、Cu、Au、Ag、Re、RhおよびIrからなる群より選択される少なくとも1種であり、前記第1の強磁性膜中の前記添加元素の含有量は40at%未満であることを特徴とする請求項1記載の磁気抵抗効果素子。
- 第1の強磁性膜、第2の強磁性膜並びに第1および第2の強磁性膜の間に設けられた非磁性膜を含む積層膜と、前記積層膜に電流を供給する一対のリードとを具備し、第1および第2の強磁性膜の磁化の角度変化に依存して素子抵抗が変化する磁気抵抗効果素子において、前記第1および第2の強磁性膜は、主成分としてFe、CoおよびNiからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含み、前記第1の強磁性膜はCoFeにTa、Hf、B、Mo、W、NbおよびZrからなる群より選択される少なくとも1種の添加元素を10at%未満含むことを特徴とする磁気抵抗効果素子。
- 第1の強磁性膜、第2の強磁性膜並びに第1および第2の強磁性膜の間に設けられた非磁性膜を含む積層膜と、前記積層膜に電流を供給する一対のリードとを具備し、第1および第2の強磁性膜の磁化の角度変化に依存して素子抵抗が変化する磁気抵抗効果素子において、前記第1または第2の強磁性膜は、主成分としてFe、CoおよびNiからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含み、前記第1の強磁性膜はCoFeにAl、GaおよびInからなる群より選択される少なくとも1種の添加元素を6.5at%未満含むことを特徴とする磁気抵抗効果素子。
- 前記第1の強磁性膜および前記第2の強磁性膜のいずれか一方の磁化は実質的に固着され、他方の磁化は信号磁界により回転することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の磁気抵抗効果素子。
- 前記第1の強磁性膜および前記第2の強磁性膜のうち磁化が実質的に固着された強磁性膜に積層された反強磁性膜を有することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の磁気抵抗効果素子。
- 前記第1の強磁性膜および前記第2の強磁性膜のうち磁化が実質的に固着された強磁性膜はCoFe合金を含むことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の磁気抵抗効果素子。
- 前記非磁性膜はMn、Cu、Al、Pd、Pt、Rh、Ru、Ir、AuおよびAgからなる群より選択される元素を含むか、または前記非磁性膜はCuPd合金、CuPt合金、CuAu合金およびCuNi合金からなる群より選択される合金からなることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の磁気抵抗効果素子。
- 請求項1乃至8のいずれか1項に記載の磁気抵抗効果素子を備えた磁気ヘッド。
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