JPH08222180A - 質量分析装置及び質量分析方法 - Google Patents

質量分析装置及び質量分析方法

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JPH08222180A
JPH08222180A JP7024950A JP2495095A JPH08222180A JP H08222180 A JPH08222180 A JP H08222180A JP 7024950 A JP7024950 A JP 7024950A JP 2495095 A JP2495095 A JP 2495095A JP H08222180 A JPH08222180 A JP H08222180A
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清美 吉成
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洋一 小瀬
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Abstract

(57)【要約】 【目的】本発明の目的は、検出効率の高い質量分析装置
及び質量分析方法を提供することにある。 【構成】本質量分析装置は、イオントラップ,試料導入
手段2,電子銃5,検出器9,イオントラップに電圧を
印加する電源,電源や電子銃5などを制御する制御手段
3,検出器9の検出信号に基づいて質量分析を行う質量
分析手段10などで構成される。補助電源11によりエ
ンドキャップ電極間に発生させる補助電界の向きを検出
器9の方向のみにする。このとき、補助電圧の周期を、
検出対象イオンの軸方向の振動周期に近付けることによ
り、検出対象イオンを補助電界と同期させて確実に検出
器側に不安定化することができる。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は質量分析装置に係り、特
にイオントラップ型質量分析装置に用いるのに好適な質
量分析装置に関する。
【0002】
【従来の技術】イオントラップ型質量分析装置は、図2
に示すように、円環状のリング電極6と,リング電極6
の中心軸(z軸)方向にリング電極6を挟むように配置
された2つのエンドキャップ電極7及び8とを備える。
これらの各電極に直流電圧Uと高周波電圧Vcos(Ωt)
を印加することにより電極間の空間に四重極電界を形成
する。この四重極電界中でのイオン軌道の安定性は、数
1で表されるa値及びq値によって決まる。
【0003】
【数1】 a=8ZeU/(m ro 2Ω2),q=4ZeV/(m ro 2Ω2) …(数1) ここで、eは電気素量、ro はリング電極6の内半径、
mはイオン質量、Zはイオンの価数、Ωは高周波電圧の
角周波数、Vは高周波電圧の振幅である。
【0004】イオントラップ内におけるイオンの安定軌
道を与えるa,qの範囲を表わした安定領域を図3に示
す。安定領域内に示される曲線群はイオンのr方向(リ
ング電極6の半径方向)及びz方向(リング電極6の中
心軸方向)の振動特性を与えるファクターβr及びβz
の等高線である。安定領域は、βr=0,βr=1.0,β
z=0,βz=1.0 の曲線で囲まれた領域に相当す
る。安定軌道をたどるイオンは、そのm/Z(質量対電
荷比という)に応じて安定領域内のある点に相当する。
従って、m/Zに応じてβr,βzも決まる。
【0005】イオンの振動運動は、r方向とz方向の成
分に分解できる。各方向の振動特性は、それぞれβr,
βzの値により決まる。r方向及びz方向における振動
を支配する基本角周波数ωr及びωzは数2で与えられ
る。
【0006】
【数2】 ωr=Ωβr/2,ωz=Ωβz/2 …(数2) 従来の共鳴出射法では、図7に示すように、z方向振動
の基本角周波数と同じ角周波数をもつ交流電圧Δφ1(=
0cos(ωz t))及びΔφ2(=−Δφ1)をエンドキャッ
プ電極7及び8に印加していた。この交流電圧によりエ
ンドキャップ電極間に発生する補助電界E0 のz方向成
分の向きは、図7に矢印で示すように交互に変わるの
で、イオン軌道はz方向の正負両方向に均等に不安定化
する。例えば、ガスクロマトグラフに連結している場合
等には、試料をイオントラップ電極間の空間でイオン化
するため、図2に示すように、イオン生成用の電子銃5
を一方のエンドキャップ電極7側に設置する必要があ
り、検出器9はもう一方のエンドキャップ電極8側にし
か設置できない。この場合、イオン軌道はz軸の正負両
方向に不安定化するので、電子銃5側に不安定化したイ
オンは検出していなかった。
【0007】このような従来例として、一種類のイオン
だけを安定に捕捉した後に軌道を不安定化して検出する
技術が特開平1−258353 号公報に、捕捉イオンの固有振
動数に一致した振動数のイオン励起用電圧をエンドキャ
ップ電極間に印加してイオンをz方向に共鳴出射させ質
量を識別する技術が特開昭63−313460号及び特開平2−1
03856号公報に夫々記載されている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】上記従来技術では、イ
オン軌道はz軸の正負両方向に不安定化する(即ち、イ
オンが不安定化する方向はz軸の正方向及び負方向とな
る)が、電子銃側に不安定化したイオンを検出できない
ので、検出効率が低かった。
【0009】本発明の目的は、検出効率の高い質量分析
装置及び質量分析方法を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため
に、本発明では、所定の空間内に高周波電界により安定
に捕捉された複数のイオンから、検出対象イオンを検出
器方向に不安定化させ、検出器で前記検出対象イオンを
検出した信号を用いて質量分析を行う際に、検出手段方
向に主成分を有する電界を、前記検出対象イオンに対し
て、該検出対象イオンの検出器方向の振動が同期可能な
周期で印加することにより、前記検出対象イオンが不安
定化する方向を検出器方向にする。
【0011】好ましくは、前記複数のイオンのうち、前
記検出対象イオン以外の第2のイオンに検出器方向と異
なる方向の電界を印加することにより、該第2のイオン
が不安定化する方向を検出器方向と異なる方向にする。
【0012】また、好ましくは、前記複数のイオンのう
ち、質量対電荷比が前記検出対象イオンに近い第2のイ
オンに検出器方向と反対方向の電界を印加することによ
り、該第2のイオンが検出器方向に不安定化することを
抑制する。
【0013】
【作用】本発明によれば、検出手段方向に主成分を有す
る電界を、前記検出対象イオンに対して、該検出対象イ
オンの検出器方向の振動が同期可能な周期で印加するこ
とにより、検出対象イオンが不安定化する方向を検出器
方向にしたことで、ほとんどの検出対象イオンを損失な
く確実に検出器で検出できるので、検出効率を大幅に向
上することが可能となる。
【0014】好ましくは、検出対象イオン以外の第2の
イオンに検出器方向と異なる方向の電界を印加すること
により、第2のイオンが不安定化する方向を検出器方向
と異なる方向にしたことで、検出対象イオン以外の第2
のイオンによる空間電荷の影響を小さくできるので、こ
の影響に起因するマスシフトを低減し、分解能を向上す
ることもできる。
【0015】また、好ましくは、質量対電荷比が検出対
象イオンに近い第2のイオンに検出器方向と反対方向の
電界を印加することにより、第2のイオンが検出器方向
に不安定化することを抑制したことで、第2のイオンに
起因する誤測定を回避することもできる。
【0016】
【実施例】以下、本発明の実施例を図面を用いて説明す
る。
【0017】図1は、本発明によるイオントラップ型質
量分析装置の第1の実施例の概略図である。本質量分析
装置は、イオンを生成しトラップするための空間を形成
するイオントラップ,イオントラップ内に試料を供給す
る試料導入手段2,イオンを生成する電子銃5,イオン
を検出する検出器9,イオントラップに電圧を印加する
電源,電源や電子銃5などを制御する制御手段3,検出
器9の検出信号に基づいて質量分析を行う質量分析手段
10などから構成される。
【0018】イオントラップは、円環状のリング電極6
と,リング電極6の中心軸方向にリング電極6を挟むよ
うに配置された2つのエンドキャップ電極7及び8から
構成される。試料源1から試料導入手段2を介して電極
間の空間に供給された質量分析対象である試料は、電子
銃5からエンドキャップ電極7の開口12を通して供給
される電子と衝突してイオン化される。
【0019】主電源4からリング電極6に高周波電圧V
cos(Ωt)を供給することにより、電極間の空間に四重
極電界を発生させる。この四重極電界中における、質量
m,価数Zのイオンの軌道安定性は数1で規定されるa
値及びq値で決まる特性点(q,a)が図3に示した安
定領域内に存在するか否かに依存する。即ち、特性点
(q,a)が安定領域内にある場合、イオンは安定に電
極間の空間内を振動する。一方、特性点(q,a)が安
定領域外にある場合、イオンは不安定となり、その振動
振幅が増大して電極間の空間から出射される。
【0020】制御手段3は、分析すべきイオンの質量対
電荷比の範囲に基づいて、主電源4から電極に供給する
電圧を制御する。分析すべき質量対電荷比の範囲にある
全てのイオンをイオントラップ内に捕捉後、電極に供給
する高周波電圧の振幅を徐々に増加させることにより、
安定領域内の共鳴出射点(共鳴現象によりイオンが出射
する点)又は安定領域の境界上の通常出射点(共鳴現象
によらずイオンが出射する点)から出射するイオンの質
量対電荷比が増加する。即ち、質量数が小さいイオンか
ら大きいイオンへと軌道が徐々に不安定になり、エンド
キャップ電極の開口12,13を通って電極間の空間か
らイオンが出射される。このうち開口13を通って出射
したイオンだけが検出器9により検出され、質量分析手
段10で分析される。このようにして、電極に供給する
高周波電圧の振幅を変えることにより質量分離を行う。
このとき、制御手段3は、一連の質量分離過程である試
料のイオン化,質量走査,イオン検出,質量分析の全体
を制御する。
【0021】以下、本実施例で用いる本発明による第1
の共鳴出射法について説明する。イオントラップ内に安
定に捕捉されるイオンのz方向(リング電極6の軸方
向)の振動特性は、イオンの質量対電荷比によって異な
る。補助電源11により、図4に示すような補助電圧Δ
φ1 及びΔφ2 をエンドキャップ電極7及び8に各々印
加することにより、エンドキャップ電極間に発生する補
助電界E0 の向きを検出器9の方向のみにする。このと
き、補助電圧の周期を、検出対象イオンのz方向の振動
周期T′(=2π/ωz)に近付けることにより、検出対
象イオンを補助電界E0 と同期させて確実に検出器側に
不安定化することができる。
【0022】図4に示す本実施例の共鳴出射法と,図7
に示す従来の共鳴出射法とを用いてイオン軌道が検出器
方向又は電子銃方向に不安定化する割合を解析的に求め
た結果を表1に示す。表1中の解析結果は、主電源4か
ら供給される主高周波電圧Vcos(Ωt)の振幅の1%の
大きさの振幅をもち、共鳴出射点が図3の安定領域中の
βz=0.2957 の点に相当する角周波数ωz(=Ω
βz/2)をもつ補助電圧を、補助電源11からエンド
キャップ電極に印加し、主高周波電圧と補助電圧との位
相差を種々変えて数値解析して得られた各方向への不安
定化割合の平均値を示す。但し、ここでは、中性ガス及
び他のイオンとの相互作用は考慮していない。
【0023】
【表1】
【0024】表1のように、従来の共鳴出射法では検出
器方向及び電子銃方向の両方向に均等に不安定化してい
るのに対して、本実施例の共鳴出射法ではほとんどの検
出対象イオンの軌道を確実に検出器方向に不安定化でき
る。従って、本実施例の共鳴出射法では、従来の共鳴出
射法の約2倍の検出感度が得られる。また、これに伴い
S/N比が向上するため、特にイオン数が非常に少ない
場合に効果的である。尚、本実施例では補助電界E0
して検出器方向の成分のみを有する電界を用いた場合に
ついて説明したが、補助電界E0 としてはその主成分が
検出器方向を向いていれば良く、同様に検出感度を向上
することができる。
【0025】また、エンドキャップ電極に印加する補助
電圧としては、エンドキャップ電極7をアースとしエン
ドキャップ電極8に図4のΔφ2 を印加したり、エンド
キャップ電極8をアースとしエンドキャップ電極7に図
4のΔφ1 を印加しても良い。また、補助電圧の周期が
検出対象イオンの振動周期の1/2n(nは整数)倍程
度であってもよい。更に、本実施例では、主電源4から
の電圧をリング電極6に供給した例を示したが、主電源
4からの電圧をエンドキャップ電極にも供給する構成に
対しても同様な効果を得ることができる。
【0026】次に、本発明による第2の共鳴出射法につ
いて図5を用いて説明する。本共鳴出射法では、図7に
示した電圧にその振幅分の直流電圧V0 を重畳した補助
電圧Δφ1 をエンドキャップ電極7に印加し、直流電圧
−V0 を重畳した補助電圧Δφ2 をエンドキャップ電極
8に印加する。本共鳴出射法でも、第1の共鳴出射法と
同様に、エンドキャップ電極間に生成する補助電界E0
の向きを検出器方向のみにできるので、イオン軌道を検
出器方向に偏らせて不安定化することができる。
【0027】本共鳴出射法の補助電圧は、第1の共鳴出
射法に比べて検出対象イオンのz方向の振動モードに近
いため、他のイオンへの影響が小さく、より高い分解能
でイオンを検出することが可能となる。また、補助電圧
の周期が検出対象イオンの振動周期の1/2n(nは整
数)倍程度であってもよい。尚、本共鳴出射法でも、エ
ンドキャップ電極7又は8の何れかをアースとしても良
い。更に、本共鳴出射法で補助電圧に重畳する直流電圧
の絶対値をV0 よりも小さくしても良い。この場合、エ
ンドキャップ電極間に電子銃方向の補助電界も生成する
ことになるが、検出器方向の補助電界が電子銃方向の補
助電界よりも強くなるので、従来の共鳴出射法よりもイ
オンの検出効率を向上することができる。
【0028】次に、本発明による第3の共鳴出射法につ
いて図6を用いて説明する。本共鳴出射法では、補助電
圧として矩形波状のパルス電圧を用いる。この場合も、
図6に示す補助電圧Δφ1 をエンドキャップ電極7に印
加し、補助電圧Δφ2 をエンドキャップ電極8に印加す
ることにより、エンドキャップ電極間に生成する補助電
界E0 の向きを検出器方向のみにできるので、イオン軌
道を検出器方向に偏らせて不安定化することができる。
また、検出対象イオンのz方向の振動周期とほぼ一致さ
せた補助電圧の周期T′を保持したまま、補助電圧のパ
ルス幅Δtをできるだけ小さくすることにより、他のイ
オンへの影響を低減し、より高い分解能でイオンを検出
することができる。
【0029】図5に示す第2の共鳴出射法及び図6に示
す第3の共鳴出射法と,図7に示す従来の共鳴出射法と
を用いて、表1と同じ解析条件で、イオン軌道が検出器
方向又は電子銃方向に不安定化する割合を解析的に求め
た結果を表2に示す。表2のように、第2の共鳴出射法
及び第3の共鳴出射法の何れの場合も、ほとんどの検出
対象イオンの軌道を確実に検出器方向に不安定化でき
る。従って、第1の共鳴出射法と同様に、従来の共鳴出
射法の約2倍の検出感度を達成することができる。
【0030】
【表2】
【0031】次に、本発明による第4の共鳴出射法につ
いて説明する。本共鳴出射法では、検出対象イオンの検
出に先立って、検出対象イオン以外のイオン(不要イオ
ン)の軌道を電子銃方向に不安定化して、不要イオンを
エンドキャップ電極間から排除する。このために、エン
ドキャップ電極7及び8に印加する補助電圧は、第1か
ら第3の共鳴出射法で用いた補助電圧の極性を反転させ
たものを用いることができる。例えば、図4に示した補
助電圧の極性を反転させて、z方向成分が必ず電子銃方
向となるような補助電界E1 を生成するためには、図8
に示すような補助電圧Δφ1 及びΔφ2 をエンドキャッ
プ電極7及び8に各々印加すればよい。こうして不要イ
オンをエンドキャップ電極間から排除した後に、第1か
ら第3の共鳴出射法、または図3に示す安定領域の外に
出すことによりイオンを出射させる方法(通常出射
法)、あるいは従来の共鳴出射法によりイオンを質量分
離する。このとき通常出射と不要イオンの排除は、同時
に進行できる。また、検出器方向の補助電界と電子銃方
向の補助電界を交互に印加することにより、イオンの質
量分析のために質量検査する一連の過程の中で、検出対
象イオンの検出(検出器方向への不安定化)と不要イオ
ンの排除(電子銃方向への不安定化)を時間的にずらし
て交互に行うこともできる。例えば、質量分析対象イオ
ン(検出対象イオン)の質量を図12に示すように時間
的に連続的に走査する場合、次の質量のイオンを質量分
離するまでの時間(ΔT)のうち、Δt1 の間に検出器
方向の補助電界を印加し、残りのΔt2(=ΔT−Δt1)
の間に電子銃方向の電界を印加することにより、Δt1
の間に対象イオンを質量分離し、Δt2 の間に不要イオ
ンを排除することができる。
【0032】また、図13のように時間ΔT(=Δt1
Δt2)毎にΔmずつステップ状に質量走査させる場合で
も、図14のようにΔt1 の間連続的に質量走査し、Δ
2の間質量走査を一旦停止し、不要イオンの排除にあ
てるような質量走査方向でも同様に、Δt1,Δt2間で
補助電界を切り換えることにより、検出対象イオンの検
出及び不要イオンの排除を交互に行うことができる。
【0033】図12から図14に示すような質量分析の
ための質量走査は、四重極電界を徐々に変化させること
により行う。つまり、質量走査は、主高周波電圧の振
幅、又は主高周波電圧の周波数、あるいは直流電圧と主
高周波電圧の双方を徐々に変化させる等の方法による。
【0034】図12から図14に示すように時間と共に
検出対象イオンの質量を増加させる場合、不要イオンと
は、検出対象イオンよりも質量対電荷比が小さいイオ
ン、出射のタイミングを逸してイオントラップ内に残っ
ているイオン、又は質量分析対象の範囲外に相当するイ
オンである。時間と共に検出対象イオンの質量対電荷比
を下降させて質量走査する場合は、検出対象イオンより
も質量対電荷比が大きいイオン、出射のタイミングを逸
してイオントラップ内に残っているイオン、又は質量分
析対象の範囲外に相当するイオンが不要イオンとなる。
【0035】このような不要イオンに対応する周波数の
電子銃方向の電界を印加することにより、不要イオンの
排除を効果的に行うことができる。従って、測定の時機
を逸してしまったイオンによる誤測定を回避できると共
に、質量分析対象の範囲外に相当するイオンによる空間
電荷の影響を低減でき、また分解能も向上できる。
【0036】多くのイオンがエンドキャップ電極間に捕
捉されている場合、イオンの運動は他のイオンによる空
間電荷の影響を多大に受け、マスシフト(マススペクト
ルの位置ずれ)を起こす原因となる。これに対して、本
共鳴出射法のように不要イオンをエンドキャップ電極間
から排除することにより電極間の捕捉イオン数が減るの
で、検出対象イオンが他のイオンから受ける影響を低減
することができ、マスシフトを抑制し分解能を向上する
こともできる。
【0037】次に、図9及び図10を用いて、本発明に
よるイオントラップ型質量分析装置の第2及び第3の実
施例を説明する。本実施例は複数の質量分析装置を結合
した多段型の質量分析装置の例である。例えば、非常に
広い質量対電荷比の範囲のイオンを一度に分析する場合
に、大きさの違う2つのイオントラップ型質量分析装置
を結合させて、イオンの質量対電荷比の大きさのレベル
によって質量分析を分担する。このとき、図9に示すよ
うに、大型のイオントラップの後段に小型のイオントラ
ップが配置される場合と、図10に示すように、小型の
イオントラップの後段に大型のイオントラップが配置さ
れる場合とがある。
【0038】図9の構成の場合、大型の第1のイオント
ラップ14でできるだけ広い質量対電荷比の範囲のイオ
ンを安定に閉じ込めた後、予め定めた質量対電荷比より
も大きい全てのイオンを第1のイオントラップ14から
出射し、小型の第2のイオントラップ15に入射させ
て、ここで大きい質量対電荷比を持つイオンを専門に質
量分析する。第1のイオントラップでは予め定めた質量
対電荷比よりも小さいイオンを専門に質量分析する。こ
のとき、第1のイオントラップ14に対して前述した本
発明による共鳴出射法を適用することにより、第1のイ
オントラップ14から第2のイオントラップ15の方向
にのみイオンを出射できるので、イオン輸送部19を介
して無駄なくイオンを第2のイオントラップ15に入射
し、イオン数の損失を回避することができる。
【0039】図10の構成の場合は、小型の第1のイオ
ントラップ14でできるだけ広い質量対電荷比の範囲の
イオンを安定に閉じ込めた後、予め定めた質量対電荷比
よりも小さい全てのイオンを第1のイオントラップ14
から出射し、大型の第2のイオントラップ15に入射さ
せて、ここで小さい質量対電荷比を持つイオンを専門に
質量分析する。第1のイオントラップでは予め定めた質
量対電荷比よりも大きいイオンを専門に質量分析する。
但し、図9,図10において第2のイオントラップ15
に入射するイオンの運動エネルギーが高い場合、第2の
イオントラップ15に中性ガスを注入し(図示せず)、
中性ガスとの衝突によってイオンのエネルギーを低減す
る必要がある。
【0040】このように大きさを違えた複数のイオント
ラップを結合させた質量分析装置を用いると、同じ質量
対電荷比の範囲のイオンを1つのイオントラップで質量
分析するよりも、精度良く、高分解能で、しかも高速に
質量分析が可能となる。更に、第1のイオントラップか
ら第2のイオントラップの方向にのみイオンを出射する
ことにより、イオンを無駄なく第2イオントラップに入
射でき、検出感度の高いマススペクトルを得ることがで
きる。
【0041】次に、図11を用いて、本発明によるイオ
ントラップ型質量分析装置の第4の実施例を説明する。
本実施例は、イオントラップ14の後段に四重極質量分
析器(QMS)20を設けた例である。非常に高いエネル
ギーを持つイオンを四重極質量分析器20で質量分析す
るために、イオントラップ14において安定振動してい
るイオンを中性ガスと衝突させてそのエネルギーを低減
する。イオントラップ14内で低エネルギーとなったイ
オンは、質量分析を担う四重極質量分析器20の方向に
出射される。このときも、イオントラップ14に対して
前述した本発明による共鳴出射法を適用することによ
り、四重極質量分析器20の方向にのみイオンを出射で
きるので、イオンを無駄なく四重極質量分析器20に入
射し、S/N比の高いマススペクトルを得ることができ
る。
【0042】
【発明の効果】以上説明したように、本発明によれば、
検出手段方向に主成分を有する電界を、前記検出対象イ
オンに対して、該検出対象イオンの検出手段方向の振動
が同期可能な周期で印加することにより、検出対象イオ
ンが不安定化する方向を検出器方向にしたことで、ほと
んどの検出対象イオンを損失なく確実に検出器で検出で
きるので、検出効率を大幅に向上することが可能とな
る。
【0043】また、検出対象イオン以外の第2のイオン
に検出器方向と異なる方向の電界を印加することによ
り、第2のイオンが不安定化する方向を検出器方向と異
なる方向にしたことで、検出対象イオン以外の第2のイ
オンによる空間電荷の影響を小さくできるので、この影
響に起因するマスシフトを低減し、分解能を向上するこ
ともできる。
【0044】更に、質量対電荷比が検出対象イオンに近
い第2のイオンに検出器方向と反対方向の電界を印加す
ることにより、第2のイオンが検出器方向に不安定化す
ることを抑制したことで、誤測定を回避することもでき
る。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明によるイオントラップ型質量分析装置の
第1の実施例の概略図。
【図2】従来のイオントラップ型質量分析装置の断面
図。
【図3】イオントラップ内の安定領域の説明図。
【図4】本発明による第1の共鳴出射法に用いる補助電
圧を示す図。
【図5】本発明による第2の共鳴出射法に用いる補助電
圧を示す図。
【図6】本発明による第3の共鳴出射法に用いる補助電
圧を示す図。
【図7】従来の共鳴出射法に用いる補助電圧を示す図。
【図8】本発明による第4の共鳴出射法に用いる補助電
圧を示す図。
【図9】本発明によるイオントラップ型質量分析装置の
第2の実施例の概略図。
【図10】本発明によるイオントラップ型質量分析装置
の第3の実施例の概略図。
【図11】本発明によるイオントラップ型質量分析装置
の第4の実施例の概略図。
【図12】本発明による第4の共鳴出射法に用いる主高
周波電圧の振幅の時間変化を示す図。
【図13】本発明による第4の共鳴出射法に用いる主高
周波電圧の振幅の時間変化を示す図。
【図14】本発明による第4の共鳴出射法に用いる主高
周波電圧の振幅の時間変化を示す図。
【符号の説明】
1…試料源、2…試料導入手段、3…制御手段、4…主
電源、5…電子銃、6…リング電極、7,8,17,1
8…エンドキャップ電極、9…検出器、10…質量分析
手段、11…補助電源、12,13…開口、14…第1
のイオントラップ、15…第2のイオントラップ、16
…リング電極、19…イオン輸送部、20…四重極質量
分析器、21…四重極電極。

Claims (12)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】環状の第1電極と,該第1電極をその中心
    軸方向から挟むように配置された2個の第2電極と,前
    記第1及び第2電極で形成される空間内に高周波電界に
    より安定に捕捉された複数のイオンのうち、検出対象イ
    オンを不安定化させて検出する検出手段とを備えた質量
    分析装置において、 検出手段方向に主成分を有する電界を、前記検出対象イ
    オンに対して、該検出対象イオンの検出手段方向の振動
    が同期可能な周期で印加することにより、前記検出対象
    イオンが不安定化する方向が検出手段方向となるように
    制御する制御手段を備えたことを特徴とする質量分析装
    置。
  2. 【請求項2】請求項1において、前記検出対象イオン以
    外の第2のイオンに検出手段方向と異なる方向の電界を
    印加することにより、該第2のイオンが不安定化する方
    向が検出手段方向と異なる方向になるように制御する制
    御手段を備えたことを特徴とする質量分析装置。
  3. 【請求項3】請求項1において、質量対電荷比が前記検
    出対象イオンに近い第2のイオンに検出手段方向と反対
    方向の電界を印加することにより、該第2のイオンが検
    出手段方向に不安定化することを抑制する制御手段を備
    えたことを特徴とする質量分析装置。
  4. 【請求項4】請求項1乃至3の何れかにおいて、前記同
    期可能な周期は、前記検出対象イオンの検出手段方向の
    振動周期と同じ周期であることを特徴とする質量分析装
    置。
  5. 【請求項5】環状のリング電極と,該リング電極をその
    中心軸方向から挟むように配置された2個のエンドキャ
    ップ電極と,少なくとも前記リング電極に高周波電圧を
    印加して前記両電極間に形成される四重極電界により安
    定に捕捉された複数のイオンのうち、検出対象イオンを
    不安定化させて検出するイオン検出器とを備えた質量分
    析装置において、 検出手段方向に主成分を有する電界を、前記検出対象イ
    オンに対して、該検出対象イオンの検出器方向の振動が
    同期可能な周期で印加することにより、前記検出対象イ
    オンが不安定化する方向がイオン検出器方向となるよう
    に制御する制御手段を備えたことを特徴とする質量分析
    装置。
  6. 【請求項6】所定の空間内に高周波電界により安定に捕
    捉された複数のイオンから、検出対象イオンを検出器方
    向に不安定化させ、検出器で前記検出対象イオンを検出
    した信号を用いて質量分析を行う質量分析方法におい
    て、 検出手段方向に主成分を有する電界を、前記検出対象イ
    オンに対して、該検出対象イオンの検出器方向の振動が
    同期可能な周期で印加することにより、前記検出対象イ
    オンが不安定化する方向を検出器方向にすることを特徴
    とする質量分析方法。
  7. 【請求項7】請求項6において、前記複数のイオンのう
    ち、前記検出対象イオン以外の第2のイオンに検出器方
    向と異なる方向の電界を印加することにより、該第2の
    イオンが不安定化する方向を検出器方向と異なる方向に
    することを特徴とする質量分析方法。
  8. 【請求項8】請求項6において、前記複数のイオンのう
    ち、質量対電荷比が前記検出対象イオンに近い第2のイ
    オンに検出器方向と反対方向の電界を印加することによ
    り、該第2のイオンが検出器方向に不安定化することを
    抑制することを特徴とする質量分析方法。
  9. 【請求項9】請求項6乃至8の何れかにおいて、前記同
    期可能な周期は、前記検出対象イオンの検出器方向の振
    動周期と同じ周期であることを特徴とする質量分析方
    法。
  10. 【請求項10】複数の質量分析装置を結合して構成され
    る多段型の質量分析装置において、前記複数の質量分析
    装置のうち、少なくとも1つは請求項1乃至5の何れか
    に記載の質量分析装置であることを特徴とする質量分析
    装置。
  11. 【請求項11】請求項10において、前記複数の質量分
    析装置は、検出対象イオンの質量対電荷比の大きさに基
    づいて、該検出対象イオンの質量分析を分担して行うこ
    とを特徴とする質量分析装置。
  12. 【請求項12】請求項11において、前記質量分析装置
    は2つの質量分析装置からなり、第1の質量分析装置は
    予め定めた基準値よりも大きな質量対電荷比を有する検
    出対象イオンの質量分析を行い、第2の質量分析装置は
    前記基準値よりも小さな質量対電荷比を有する検出対象
    イオンの質量分析を行うことを特徴とする質量分析装
    置。
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