JPH08145061A - 合成樹脂製冠型保持器 - Google Patents

Abstract

(57)【要約】 【目的】 遠心力に基づく変形を防止して、保持器７ｃ
の一部が対向する面と擦れ合う事を防止し、焼き付きを
防止する。 【構成】 合成樹脂製の主部８に金属板１４を添設す
る。この金属板１４と主部８とは、主部８を射出成形す
る際に金属板１４の円孔１５、１５内に進入し更に固化
した合成樹脂により、不離に結合される。この金属板１
４は、上記主部８の剛性を高め、遠心力により弾性片１
０、１０が直径方向外方に変位するのを防止する。

Description

【発明の詳細な説明】

【０００１】

【産業上の利用分野】この発明に係る合成樹脂製冠型保
持器は、玉軸受を構成する複数の玉を転動自在に保持す
るもので、例えばオルタネータの回転軸を支承する為の
玉軸受用の保持器として利用する。

【０００２】

【従来の技術】各種回転部分を支持する為に、例えば実
開平６−５３８２３号公報等に記載されている様に、図
４に示す様な玉軸受が広く使用されている。この玉軸受
は、外周面に内輪軌道１を有する内輪２と、内周面に外
輪軌道３を有する外輪４とを同心に配置し、上記内輪軌
道１と外輪軌道３との間に複数個の玉５、５を転動自在
に設ける事で構成されている。上記外輪４の両端部内周
面には、それぞれ円輪状のシールド板６、６の外周縁を
係止し、両シールド板６、６によって、上記玉５、５設
置部分に存在するグリースが外部に漏洩したり、或は外
部に浮遊する塵芥がこの設置部分に進入したりするのを
防止している。

【０００３】又、上記複数個の玉５、５は、やはり上記
実開平６−５３８２３号公報に記載された、図５〜６に
示す様な保持器７に、転動自在に保持されている。この
保持器７は、冠型と呼ばれるもので、合成樹脂を射出成
形する事により、一体に形成されている。この保持器７
は、円環状の主部８と、この主部８の片面に設けられた
複数組のポケット９、９とを備えている。各ポケット
９、９は、互いに間隔をあけて配置された１対の弾性片
１０、１０から成る。各ポケット９、９を構成する１対
の弾性片１０、１０の互いに対向する面は、一般的に
は、互いに同心の球状凹面をなしている。但し、各面を
円筒面とした保持器もある。上記各玉５、５は、各弾性
片１０、１０の間隔を弾性的に押し広げつつ、上記１対
の弾性片１０、１０の間に押し込む事により、各ポケッ
ト９、９に転動自在に保持する。

【０００４】合成樹脂製冠型保持器の基本的な形状及び
機能は上述の通りである。又、この様な合成樹脂製冠型
保持器を構成する材料としては従来から、ナイロン４
６、ナイロン６６、ポリフェニレンサルファイド（ＰＰ
Ｓ）、ポリ四弗化エチレン（ＰＴＦＥ）、ポリエーテル
エーテルケトン（ＰＥＥＫ）等の合成樹脂が一般的に使
用されている。又、これらの合成樹脂中に、ガラス繊維
（ＧＦ）、炭素繊維（ＣＦ）等の補強材を１０〜４０重
量％程度含有させる事で、高温下での靱性並びに機械的
強度を高める事も、特開平２−１３４４１３号公報、同
４−３５１３１９号公報等に記載されている様に、従来
から知られている。更に、実開平６−１８４８号公報、
同６−８８２１号公報には、図７〜９に示す様な合成樹
脂製冠型保持器が記載されている。

【０００５】図７は、このうちの実開平６−１８４８号
公報に記載された合成樹脂製冠型保持器を示している。
この保持器７ａは、連結環１１を有し、この連結環１１
によって、ポケット９、９を構成する各弾性片１０、１
０の先端部同士を連結自在としている。この様な保持器
７ａは、高速で使用した場合にも、遠心力により上記各
弾性片１０、１０の先端部が直径方向外方に変位する事
を防止する。この結果、高速回転時にこれら各弾性片１
０、１０の先端部外周面と外輪の内周面とが擦れ合う事
が防止される。

【０００６】又、図８〜９は、上記実開平６−８８２１
号公報に記載された合成樹脂製冠型保持器を示してい
る。この保持器７ｂは、隣り合うポケット９、９の間部
分に凹部１２、１２を形成する事で軽量化を図ると共
に、金属製の補強板１３により、上記各ポケット９、９
の変形防止を図っている。

【０００７】

【発明が解決しようとする課題】オルタネータの回転支
持部分に組み込まれる玉軸受の場合には、高温且つ高速
（１３０℃以上、DmＮ≧６０万）で使用される場合が多
い。この様な使用条件下で玉軸受内の保持器は、内輪２
の外周面と外輪４の内周面との間に存在するグリースと
共に高速で回転する。この様な高速回転時に上記保持器
には、遠心力に基づく直径方向外側に向いた力、玉５、
５の公転に基づく拘束力（回転方向の力）、グリースの
攪拌抵抗等が組み合わされた複雑な力が加わる。この様
な複雑な力によって上記保持器は、不規則な運動を繰り
返し、衝撃を伴なう複雑な外部応力を受ける。

【０００８】ナイロン４６やＰＰＳをＧＦやＣＦで補強
した材料で造られただけの、従来の合成樹脂製冠型保持
器の場合には、上記の様な高温且つ高速の使用条件下で
長時間運転を継続すると、遠心力の作用により弾性変
形、或いは塑性変形する。この結果、これら各ポケット
９、９の内面と上記各玉５、５の転動面との間の隙間が
大きくなる。更には、各ポケット９、９の内面が玉５、
５の転動面から受ける力も加わって摩耗する。そしてこ
の隙間が大きくなると、次の様な問題を生じる。

【０００９】先ず第一に、玉軸受の回転に伴って保持器
が細かく振動し、上記各ポケット９、９の摩耗を更に促
進するだけでなく、有害な振動や騒音を発生する。第二
に、玉５、５による保持器の拘束が解かれる結果、この
保持器が部分的に、或は全体的に変位して、この保持器
の一部が相手面と擦れ合う。例えば、上記各ポケット
９、９を構成する各弾性片１０、１０が、例えば特開昭
５５−２０９０６号公報に記載されている様に、遠心力
に基づいて直径方向外方に変位し、これら各弾性片１
０、１０の外周面と内輪２（図４）の内周面とが擦れ合
う。又、上記保持器全体が軸方向に変位する結果、主部
８の軸方向片面とシールド板６（図４）の内側面とが擦
れ合う。この様に、保持器の一部が相手面と擦れ合う
と、摩擦熱により当該部分の温度が上昇し、焼き付き等
の故障の原因となる。

【００１０】前記図７に示した構造の場合、上記各弾性
片１０、１０の先端部が直径方向外方に変形する事を防
止できるが、保持器７ａ全体が軸方向に変位する事は防
止できない。又、保持器７ａの構造が複雑で、組立作業
が面倒になる。又、図８〜９に示した構造の場合には、
凹部１２を形成した分、保持器７ｂの剛性が低下する
為、補強板１３を設けるにしても、或る程度の軸方向寸
法を確保しないと十分な剛性を得られない。従って、軸
方向他面とシールド板６の内側面との擦れ合い防止効果
を得られない。更に、上記補強板１３を、この補強板１
３に形成した弾性爪の弾力によってのみ、主部８に係止
している為、補強板１３が主部８から外れ易く、この補
強板１３による補強作用が弱い。本発明の合成樹脂製冠
型保持器は、上述の様な事情に鑑みて発明したものであ
る。

【００１１】

【課題を解決するための手段】本発明の合成樹脂製冠型
保持器は、前述した従来の合成樹脂製冠型保持器と同様
に、合成樹脂製で円環状の主部と、この主部の軸方向片
面に設けられた複数組のポケットとを備えている。これ
ら各ポケットは、上記主部と一体に形成されて円周方向
に亙り互いに間隔をあけて配置された１対の弾性片の間
に玉を１個ずつ、転動自在に保持するものである。

【００１２】特に、本発明の合成樹脂製冠型保持器に於
いては、上記主部の軸方向他面に円環状の金属板を、上
記主部及び弾性片の射出成形時にインサートする事によ
って上記主部の全周に亙り、この主部に対して非分離に
添設している。

【００１３】

【作用】上述の様に構成される本発明の合成樹脂製冠型
保持器が、複数の玉を転動自在に保持する作用自体は、
前述した従来の合成樹脂製冠型保持器の場合と同様であ
る。

【００１４】特に、本発明の合成樹脂製冠型保持器の場
合、主部の軸方向他面に添設した金属板により主部の剛
性が向上する。この結果、外力を受けた場合にもこの主
部が変形しにくくなる。例えば、遠心力により各ポケッ
トを構成する弾性片の先端部が直径方向外方に変形する
場合には、上記主部が捩り方向に変形する。上記金属板
は、主部が捩り方向に変形する事に対しても抵抗となる
（主部が捩り方向に変形する事を防止する）。この為、
上記弾性片の先端部が直径方向外方に変位しにくくなっ
て、この先端部と外輪の内周面とが擦れ合いにくくな
る。

【００１５】又、上記金属板により上記主部の剛性が向
上する分、この主部の軸方向に亙る厚さ寸法を小さくで
きる。従って、この主部の軸方向他面と、玉軸受に組み
込まれたシールド板との距離を大きくできる。この結
果、上記ポケットの内面と玉の転動面との間の隙間が多
少大きくなっても、上記軸方向他面と上記シールド板の
内側面とが擦れ合う事がなくなる。

【００１６】この様に、合成樹脂製冠型保持器の各部が
相手面と擦れ合いにくくなるので、高温且つ高速で使用
しても、擦れ合いによる焼き付きが発生しにくくなる。
又、上記軸方向他面とシールド板の内側面との間隔が大
きくなる分、グリースの撹拌抵抗が減少し、グリースの
温度上昇並びに軟化を抑えられる。この為、グリースに
よる潤滑性能を維持できる。

【００１７】

【実施例】図１〜２は本発明の実施例を示している。保
持器７ｃは、合成樹脂製で円環状の主部８と、この主部
８の軸方向片面（図１〜２の上面）に設けられた複数組
のポケット９、９とを備えている。これら各ポケット
９、９は、上記主部８と一体に形成されて円周方向に亙
り互いに間隔をあけて配置された１対の弾性片１０、１
０の間に玉５、５を１個ずつ、転動自在に保持するもの
である。

【００１８】上述の構成に就いては、前述した従来の合
成樹脂製冠型保持器と同様である。特に、本発明の合成
樹脂製冠型保持器に於いては、上記主部８の軸方向他面
（図１〜２の下面）に円環状の金属板１４を添設してい
る。ＳＰＣＣ等の冷間圧延炭素鋼により造られたこの金
属板１４には、円周方向複数個所に亙って円孔１５、１
５を形成している。これら各円孔１５、１５は、上記主
部８から離れるに従って内径が大きくなるテーパ孔とし
ている。この様な金属板１４は、上記主部８及び弾性片
１０、１０を射出成形する際、成形型内にこの金属板１
４をインサートする事によって上記主部８の全周に亙
り、この主部８に対して非分離に添設している。即ち、
上記主部８及び弾性片１０、１０を構成する合成樹脂の
一部を上記各円孔１５、１５内に進入させて固化する事
により、上記主部８と金属板１４とを強固に結合してい
る。

【００１９】尚、上述の様な保持器７ｃの主部８及び弾
性片１０、１０を構成する為の合成樹脂として好ましく
は、２０重量％以上のＧＦ又はＣＦを含有させたナイロ
ン４６又はＰＰＳを使用する。含有量の上限は、前述の
公報に記載された従来技術と同様に、４０重量％程度と
する。

【００２０】上述の様に構成される本発明の合成樹脂製
冠型保持器が、複数の玉５、５を転動自在に保持する作
用自体は、前述した従来の合成樹脂製冠型保持器の場合
と同様である。

【００２１】特に、本発明の合成樹脂製冠型保持器の場
合、主部８の軸方向他面に添設した金属板１４により主
部８の剛性が向上する。この結果、外力を受けた場合に
もこの主部８が変形しにくくなる。例えば、遠心力によ
り各ポケット９、９を構成する弾性片１０、１０の先端
部が直径方向外方に変形する場合には、上記主部８が捩
り方向に変形する。上記金属板１４は、この様に主部８
が捩り方向に変形する事を防止する為、上記弾性片１
０、１０の先端部が直径方向外方に変位しにくくなっ
て、この先端部と外輪４（図４）の内周面とが擦れ合い
にくくなる。

【００２２】又、上記金属板１４により上記主部８の剛
性が向上する分、この主部８の軸方向に亙る厚さ寸法を
小さくできる。従って、この主部８の軸方向他面と、玉
軸受に組み込まれたシールド板６（図４）の内側面（図
４の上面）との距離を大きくできる。この結果、上記ポ
ケット９、９の内面と玉５、５の転動面との間の隙間が
多少大きくなっても、上記軸方向他面と上記シールド板
６の内側面とが擦れ合う事がなくなる。この様に、合成
樹脂製冠型保持器の各部が相手面と擦れ合いにくくなる
ので、高温且つ高速で使用しても、擦れ合いによる焼き
付きが発生しにくくなる。又、上記主部８の軸方向他面
と上記シールド板６の内側面との距離を大きくできる
為、これら両面間に存在するグリースの撹拌抵抗を小さ
くできる。この結果、玉軸受の回転トルクの減少を図れ
るだけでなく、グリースの温度上昇を抑え、このグリー
スの軟化を抑えて、グリースによる潤滑性能を維持でき
る。

【００２３】次に、本発明の効果のうち、金属板１４に
よる弾性片１０、１０の先端部の変形防止効果を確認す
る為に、本発明者が行なった実験に就いて説明する。実
験は、外径×内径×幅が４７mm×１７mm×１４mmのラジ
アル玉軸受に試験片である合成樹脂製冠型保持器を組み
込み、グリース潤滑で１０kgf のラジアル荷重を付与し
つつ、２２０００r.p.m.（７０．４万DmＮ）で回転させ
る事により行なった。実験には、本発明に属する（実施
例）金属板１４を添設した試験片と、本発明から外れる
（比較例）金属板を添設していない試験片とを６種類ず
つ、合計１２種類使用した。これら１２種類の試験片に
就いて、１７０℃で１０時間連続運転する高温耐久試験
と、１５０℃で１００時間連続する高温耐久試験とを行
なった。

【００２４】そして、これら高温耐久試験の前後に於け
る上記弾性片１０、１０の先端部の変形状態に就いて測
定した。測定条件を図３（Ａ）（Ｂ）に示す。隣り合う
ポケット９、９を構成する弾性片１０、１０の先端部外
周縁の点α、α同士を結ぶ直線ａと、この直線ａと平行
で主部８の外周面に接する直線ｂとの偏差ｘを求め、こ
の偏差ｘにより、上記弾性片１０、１０の先端部の変形
の有無を観察した。又、上記直線ａが直線ｂよりも直径
方向内側（図３（Ａ）の上側）に存在すれば上記ｘの値
をマイナス（−）とし、上記直線ａが直線ｂよりも直径
方向外側（図３（Ａ）の下側）に存在すれば上記ｘの値
をプラス（＋）とした。この様にして行なった実験結果
のうち、本発明に属するものの結果を次の表１に、本発
明から外れるものの結果を同じく表２に、それぞれ示し
た。

【００２５】

【表１】

【００２６】

【表２】

【００２７】これら各表の記載から明らかな通り、本発
明の合成樹脂製冠型保持器によれば、高温下で高速回転
させた場合でも、ポケット９、９を構成する弾性片１
０、１０の変形が起きないか、起こっても極く小さいも
ので済む。従って、弾性片１０、１０の先端部外周面と
外輪４（図４）の内周面とが擦れ合う事がなくなる。
又、これら弾性片１０、１０の先端部外周面と外輪４の
内周面との擦れ合い防止の為に、前記主部８の軸方向に
亙る厚さ寸法を大きくする必要がなくなる。この結果、
この厚さ寸法を小さくして、上記主部８の軸方向他面と
シールド板８の内側面との距離を大きくし、上記各ポケ
ット９、９の内面が多少摩耗した場合でも、これら両面
同士が擦れ合う事を防止できる。

【００２８】

【発明の効果】本発明の合成樹脂製冠型保持器は、以上
に述べた通り構成され作用する為、玉軸受を高温下で高
速回転させた場合でも、保持器の一部が相手面と擦れ合
う事がなくなり、長期間に亙って安定した軸受性能を維
持できる。言い換えれば、厳しい条件下でも焼き付き等
の故障を発生しにくく、合成樹脂製冠型保持器を組み込
んだ玉軸受、更にはこの玉軸受を組み込んだ各種機械装
置の耐久性、信頼性の向上を図れる。

【図面の簡単な説明】

【図１】本発明の実施例を示す部分拡大斜視図。

【図２】図１のＡ−Ａ断面図。

【図３】弾性片の変形状態の測定点を示す為の図で、
（Ａ）は部分平面図、（Ｂ）は（Ａ）の下方から見た
図。

【図４】合成樹脂製冠型保持器を組み込んだ玉軸受の１
例を示す断面図。

【図５】従来の合成樹脂製冠型保持器の第１例を示す半
部平面図。

【図６】同じく斜視図。

【図７】従来の合成樹脂製冠型保持器の第１例を示す部
分分解斜視図。

【図８】従来の合成樹脂製冠型保持器の第２例を示す分
解斜視図。

【図９】組み立てた状態で示す図８のＢ−Ｂ断面図。

【符号の説明】

１ 内輪軌道 ２ 内輪 ３ 外輪軌道 ４ 外輪 ５ 玉 ６ シールド板 ７、７ａ、７ｂ、７ｃ 保持器 ８ 主部 ９ ポケット １０ 弾性片 １１ 連結環 １２ 凹部 １３ 補強板 １４ 金属板 １５ 円孔

Claims (1)

【特許請求の範囲】
1. 【請求項１】 合成樹脂製で円環状の主部と、この主部
   の軸方向片面に設けられた複数組のポケットとを備え、
   各ポケットは、上記主部と一体に形成されて円周方向に
   亙り互いに間隔をあけて配置された１対の弾性片の間に
   玉を１個ずつ、転動自在に保持するものである合成樹脂
   製冠型保持器に於いて、上記主部の軸方向他面に円環状
   の金属板を、上記主部及び弾性片の射出成形時にインサ
   ートする事によって上記主部の全周に亙り、この主部に
   対して非分離に添設した事を特徴とする合成樹脂製冠型
   保持器。