JPH08144008A - 高張力鋼およびその製造方法 - Google Patents

高張力鋼およびその製造方法

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JPH08144008A
JPH08144008A JP29249394A JP29249394A JPH08144008A JP H08144008 A JPH08144008 A JP H08144008A JP 29249394 A JP29249394 A JP 29249394A JP 29249394 A JP29249394 A JP 29249394A JP H08144008 A JPH08144008 A JP H08144008A
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steel
less
toughness
haz
oxide
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JP29249394A
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English (en)
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Masahiko Hamada
昌彦 濱田
Yasuto Fukada
康人 深田
Toru Takayama
透 高山
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Nippon Steel Corp
Original Assignee
Sumitomo Metal Industries Ltd
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Abstract

(57)【要約】 【目的】高張力鋼、特に大入熱溶接や高エネルギー密度
熱源を用いた溶接を行って低温で使用される高張力鋼で
あって、溶接部の靱性および耐亜鉛めっき割れ性に著し
く優れた鋼の提供。 【構成】(1)Cu を 0.7〜1.2 %含有し、その他C、Si、
Mn、Al、酸素、Nb、V、Nb、Cr、Mo、B、Ti、Zr、Ca、
REM を含むことができる組成を有し、MnO−Al2O3 −Si
O2の三元状態図において、MnOが23〜56%、Al2O3 が4
〜27%およびSiO2が30〜54%の各範囲が重複する領域内
(図1の斜線部)の組成を持つ複合酸化物の粒子であ
り、かつ直径が 0.2μm未満の微細粒子が6個/mm2以上
分散している鋼。 (2) 上記鋳片を 950〜1280℃に加熱し、750 ℃以上で圧
延を終了し、空冷または強制冷却した後、 475〜675 ℃
に加熱する方法。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、圧力容器、船舶、橋
梁、建築物、海洋構造物およびラインパイプ等の溶接構
造物に使用される高張力鋼であって、特に溶接部(溶接
金属部および溶接熱影響部)の靱性および溶接熱影響部
の耐亜鉛めっき割れ性に優れ、低温での使用も可能な高
張力鋼に関する。
【0002】
【従来の技術】近年、氷海域に設置される海洋構造物や
寒冷地向けのラインパイプ、或いは船舶やLNGタンク
等の大型鋼構造物に供される溶接用高張力鋼に関して
は、材質特性の改善要求が厳しくなってきている。
【0003】最近、ASTM(米国材料試験協会規格)A 71
0 などに規格化されているCu時効鋼を改良して溶接性に
優れた高張力鋼が提案されている。例えば、特開平5−
179344号公報には、Cu,Si,S,Ca を調整した鋼を制御圧
延を行った後、空冷または強制冷却することによって微
細粒組織とし、さらにCu析出硬化処理を施すことによっ
て、靱性の劣化を招くことなく、高強度化を図り、低温
靱性に優れた多層溶接HAZを形成する鋼板の製造方法
が開示されている。また、特開平5−239548号公報に
は、実質的にB(ボロン)を含有しない鋼を、制御圧
延、制御冷却によるCu,Nb の析出硬化の同時利用、ミク
ロ組織の微細化と適切な温度での焼戻処理することによ
って、溶接性および低温靱性の優れた80kgf/mm2 級高張
力鋼の製造方法が開示されている。
【0004】これらの用途向けの鋼材には、その使用目
的に応じた十分な強度が要求されることは勿論、特に溶
接金属部の靱性、溶接金属に接する母材の溶接熱影響部
(以下HAZと記す)での靱性、およびHAZの耐溶融
亜鉛めっき割れ性の改善についての要望が高い。
【0005】従来、高張力鋼のHAZ靱性に大きな影響
を及ぼすのは、オーステナイト結晶粒径、変態組
織、微細な硬化相の析出状態、および鋼板中の固溶
N量、が主なものであることが知られており、この知識
を基に種々の対策が提案されてきた。
【0006】例えばおよびに関しては、Tiを微量添
加し、鋼中にTiNを微細析出させてオーステナイト結晶
粒の粗大化を抑制する方法(昭和54年6月発行の「鉄と
鋼」第65巻8号 1232 頁、参照)、Caを微量添加しCaS
およびCaOを生成させ、オーステナイト結晶粒の微細化
とCaS、CaOを核とした粒内フェライトの析出とにより
組織を微細化する方法(昭和58年2月発行の「溶接学会
誌」第52巻2号 49 頁)、希土類元素(以下REM と記
す)の酸化物により同様に結晶粒を微細化する方法(特
開昭64-15320号公報)、さらには、Ti酸化物粒子を核生
成サイトとして粒内フェライトを生成させて組織を微細
化する方法(特開昭57-51243号公報および特開昭61-797
45号公報)等が提案されている。
【0007】に関しては、低炭素当量化やSiおよびAl
(アルミニウム) を低減することにより硬化相の析出を
抑制する方法(特開平2-190423号公報)等が提案されて
いる。また、に関しては、鋼に含まれるN (窒素) 量
を下げる方法や過剰のAlを添加することによりAlNとし
てNを固定する方法等が提案されている。
【0008】しかし、以上のような対策において、TiN
は、1400℃以上に加熱される部分では大部分が母材に溶
解すると考えられており、特に大入熱溶接を行ったとき
のHAZ溶融線近傍におけるオーステナイト結晶粒の粗
大化を免れ得ない。さらに、加熱過程で溶解したTiNは
冷却過程において再析出しない。すなわち、TiNが溶解
した部分では、冷却過程における粒内でのフェライト変
態が起こらず、さらには固溶窒素の増加をも招き、HA
Z靱性の劣化を避け得ないという欠点がある。
【0009】一方、Ca、REM およびTiの酸化物粒子の利
用については、これらを鋼中において微細に安定した状
態で溶製時に均一分散させることが非常に困難であり、
実生産上の問題が残る。また、仮にこれらの酸化物粒子
を分散させ得ても、その粒度は比較的大きく、フェライ
トの生成核としての機能を発揮させることは可能である
が、オーステナイト結晶粒を微細化するピニング効果
(ピン止め効果)を発揮させるまでには至らないと考え
られる。すなわち、1400℃以上の高温に加熱されるよう
な部分において、オーステナイト結晶粒の粗大化を抑制
するような技術は未だ開発されておらず、低炭素当量化
や低Si化、低Al化といった方法による微細硬化相の析出
形態制御や固溶N量の低減等の技術を併用してもHAZ
靱性の改善には自ずと限界がある。
【0010】脱酸金属であるAlは溶鋼中で酸素との反応
性が高く、アルミナ(Al2O3) を生成する。この Al2O
3(固体)は溶鋼(液体Fe)との界面エネルギーが高い
ため、生成した酸化物粒子が溶鋼中で凝集して粗大化
し、浮上するか、或いは数μm大の凝集した介在物とし
て鋼中に留まるため、鋼中で微細に分散させた状態に保
つことが困難であることはよく知られている。
【0011】また、Al含有鋼はベイナイト主体組織とな
る。このため、HAZの靱性を上げるという観点からは
低Al系の組成にするのがよいと考えられる。さらに、可
能であれば、Alを鋼中に留めないほどに極低Al化するこ
とが、HAZにおいて靱性を劣化させる島状マルテンサ
イトの生成を抑え、微細フェライト粒主体の組織として
HAZ靱性を向上させるのに望ましいとされてきた(平
成4年3月発行の「溶接学会論文集」第10巻3号 409
頁、参照)。
【0012】溶接構造物には、防錆能強化や美観向上手
段としてめっき処理が広く採用され、溶融亜鉛めっきは
優れた塗装性改善効果を発揮することから、最近でもそ
の適用範囲は拡大の傾向にある。しかし、溶融亜鉛めっ
きは溶接施工後の鋼材に対して施される場合が多く、鋼
材の組成、組み立てた構造物の形状、めっき浴への浸漬
方法などによっては「液体金属脆化(結晶粒界へ亜鉛が
侵入することに起因した脆化)による溶接熱影響部の割
れ」を発生することが多々あるとの指摘がなされ、問題
となっている。
【0013】特に、近年、鋼構造物の大型化や軽量化要
求に伴い鋼材の高強度化指向が高まってきたことから溶
接熱影響部での割れ発生事例が多くなり(55kgf/mm2
超える強度レベルになると割れの発生が目立つようにな
る)、液体金属脆化によるHAZの割れは大きな注目を
集めるようになってきた。そのため、液体金属脆化割れ
対策に関する研究も盛んに行われており、種々の報告あ
るいは提案がなされている。
【0014】例えば、「鉄と鋼、第70年(1984)、第10
号、 p.131〜137 」や「溶接学会論文集、第4巻(198
6)、第4号、p.93〜99」には「溶融亜鉛によるHAZの
液体金属脆化割れ防止には、HAZの硬さを低減させる
ことが有効である」との報告がなされている。しかし、
HAZの硬さを低減させることは、鋼材の合金成分量を
低減することであり、強度レベルを低下させることにな
り、高強度化指向に相反することとなる。
【0015】このような溶融亜鉛によるHAZの液体金
属脆化割れ防止対策として、例えば、特公平2−5814号
公報には、C、Mn、Si、Nb、V、Ti、Alの含有量を制限
し、かつ、93−8.8 ×103C(C−0.1)−63Si−38Mn+340V
≧42を満足させることによって、HAZの耐めっき割れ
性に優れた高強度低合金鋼が得られることを開示してい
る。
【0016】また、特開平2−57669 号公報には、B
(ボロン)を0.0002%以下に制限し、 C+Mn/10+Si/30+Cr/10+Mo/20+V/3+Ti/5−1/
40000B≦0.19 を満足させることによって、耐めっき割れ性に優れた高
張力鋼が得られることを開示している。
【0017】しかし、これらの方法によっても、構造物
が大型化すると溶接残留応力やめっき時の熱応力が増大
するため、溶融亜鉛めっき割れの発生は皆無とはなら
ず、完全な防止対策が確立されるには至っていない。
【0018】次に、溶接金属部の靱性改善については、
従来、炭素鋼、低合金鋼のアーク溶接後の溶接金属部の
靱性を確保するため、溶接金属部の組織を低酸素(200〜
400ppm) −Ti−B系とし、微細なアシキュラーフェライ
ト主体の組織とすることが必要である(Toughness Impr
ovement in Weld Metal of Carbon and HSLA Steelsin
Japan,First United States-Japan Sympo. Advances in
Welding Metallugy,(1991) p.227〜250 参照)。そし
て酸素含有量が100ppm以下になると、焼入れ性が上昇
し、上部ベイナイト組織となり、逆に靱性が低下すると
されている。
【0019】現在の高エネルギー密度熱源を用いた電子
ビーム溶接とレーザービーム溶接は、アーク溶接に較べ
て狭いビード幅で深い溶け込みが得られる高能率な低入
熱溶接方法であり、溶接施工される板厚が厚くなるほど
コストメリットが発揮される。しかし、溶接ままの溶接
金属部の靱性は必ずしも良好でなく( 溶接学会誌、第54
巻(1985)、第2号、p.46〜50)、高エネルギー密度熱源
を用いた溶接方法の適用拡大を阻害している。
【0020】この溶接金属部の靱性を改善するには、溶
接後に熱処理を行う方法があるが、作業工程が増えるこ
とになり上述のコストメリットが得られなくなる。
【0021】この高エネルギー密度熱源を用いた溶接法
による溶接金属部の靱性低下の原因は、酸素含有量(酸
化物量)が低いため微細なアシキュラーフェライト組織
が得られないことによる。即ち、高エネルギー密度熱源
を用いた溶接方法では、アーク溶接法のようにスラグ
(フラックス)などの酸素源を用いず鋼材そのものを溶
融させて接合するため、得られる溶接金属部の組成は基
本的には母材と同じであり、酸素含有量も母材と同様10
0ppm以下となる場合が多い。従って、アーク溶接によっ
て良好な靱性を示す微細なアシキュラーフェライト組織
を得るのに必要な酸素量 200〜400ppmに比べはるかに少
ない。
【0022】これを解決する方法として、例えば特開昭
62−64486 号には、Ti酸化物を均一に分散させた鋼を電
子ビーム溶接法のような低酸素溶接法で溶接して溶接金
属部の高靱化を図る方法が提案されている。また、特開
昭63−126638号には、実質的にAlを含有しない鋼(Al≦
0.007 %) を高エネルギー密度溶接法で溶接して溶接金
属部のSol.Al含有量を適切な範囲に調整すれば、前記意
識的に非金属介在物(Ti酸化物)を導入することなく、
溶接金属部の靱性を向上させる方法が提案されている。
【0023】しかし、Ti酸化物を均一に分散させる方法
は、溶製法ではかなり困難であり、その粒子の大きさは
比較的大きく、冷却速度の速い高エネルギー密度熱源を
用いた溶接方法では十分なフェライト変態核としては作
用しない。
【0024】また、実質的にAlを含有しない鋼の効果と
して、変態中のフェライトから未変態オーステナイトへ
のCの排斥が抑制され、オーステナイト中のCの濃化が
軽減され、未変態オーステナイトのフェライト変態が阻
害されず、結果として微細な針状フェライト組織が得ら
れるとしている。しかし、冷却速度が極めて速い低入熱
の高エネルギー密度熱源を用いた溶接方法においては、
過冷度が大きく未変態オーステナイトは非金属介在物以
外の場所からフェライトが核生成するよりも、第二相
(炭化物あるいはマルテンサイト等)として析出する方
がエネルギー的に有利であり、その効果は非金属介在物
(酸化物)を利用する場合に比べ、著しく劣ることが明
らかである。
【0025】
【発明が解決しようとする課題】前述したように溶接用
鋼板の諸性能の改善は、母材、溶接金属およびHAZに
ついて別々に検討され、それぞれの影響因子が明らかに
されている。
【0026】Cuの析出硬化による方法は、溶接時にオー
ステナイト結晶粒の粗大化を抑制することができないの
で、高い溶接部靱性を得るためには溶接入力を50 kJ/cm
以下に制限する必要がある。
【0027】HAZ靱性を改善するためのTiNは、1400
℃以上に加熱される溶接部では、母材に溶解してオース
テナイト結晶粒の粗大化を抑制することができず、改善
効果が得られない。また、Ca、REM 、Ti酸化物は、溶製
時に均一に分散させることが難しく、オーステナイト結
晶粒を微細化するピニング効果が得られない。
【0028】耐溶融亜鉛めっき割れ性についても種々提
案されているが、構造物が大型化すると溶接残留応力や
めっき時の熱応力が増大するため、溶融亜鉛めっき割れ
の発生は皆無とはならず、完全な防止対策が確立される
には至っていない。
【0029】溶接金属部の靱性改善効果を有するという
Ti酸化物は、上述したように溶製時に均一に分散させる
ことが難しく、粒子が大きくなって高エネルギー密度熱
源を用いた溶接方法ではフェライト変態核としては作用
しない。また、Alを実質的に低減した鋼は、高エネルギ
ー密度熱源を用いた溶接方法では針状フェライト組織が
得られないという問題がある。
【0030】本発明の目的は、量産が可能で適切な大き
さで且つ適切な個数の介在物粒子を鋼中に分散させた鋼
材であって、50 kJ/cm以上の大入熱溶接を行った場合、
溶融線近傍の領域において、オーステナイト結晶粒の粗
大化が抑制され、溶接部全域にわたって組織が微細化さ
れ、良好な低温靱性と耐溶融亜鉛めっき割れ性に優れた
溶接用鋼材を提供することにある。
【0031】
【課題を解決するための手段】従来、溶接用鋼板の諸性
能の改善は、母材、溶接金属およびHAZについて別々
に検討され、それぞれの影響因子が明らかにされてい
る。
【0032】本発明者らは上記の影響因子をさらに詳し
く検討した結果、次の知見を得た。
【0033】HAZの低温靱性の改善には、オーステ
ナイト粒の粗大化抑制による効果が大きい。
【0034】耐溶融亜鉛めっき割れ性の改善には、
「材料、第30巻(1981)、第 329号、p.83〜89、溶融亜鉛
中における鋼の溶接部強度」と題する論文に「破断位置
は溶接の熱影響により粒子が粗大化している箇所であ
る。溶融亜鉛中では粒界破壊が支配的であり、粗粒域は
粒界面積が細粒域に比べて小さいため亀裂が発生しやす
い。
【0035】そのためボンド部に近い粗粒域部から亀裂
が発生し、破断したものと考えられる。」と記載されて
いるように、溶融亜鉛めっきによる溶接熱影響部の割れ
は溶接による組織、即ちオーステナイト粒の粗大化に起
因しており、このオーステナイト粒の粗大化を抑制しな
いかぎり、本質的な解決策とはならない。
【0036】溶接金属部の低温靱性は、オーステナイ
ト粒の微細化による焼入れ性低減効果による粒内フェラ
イトの析出促進によって溶接金属の組織が微細化され、
低温靱性を改善できる。
【0037】この知見を基に、鋼のオーステナイト粒を
微細化する方法について検討した。
【0038】鋼の製造において、Alは脱酸および結晶粒
度調整等を目的として添加される基本的な元素である。
一方、Ti添加鋼においては、Al量を低減した場合に焼入
性の低下および組織の微細化等の効果を通してHAZ靱
性の改善がなされるとの報告(溶接学会論文集、第10巻
(1992)、第3号、p.93〜99)も見られる。
【0039】そこで、本発明者らは、Cu添加のC-Si-Mn
系の単純な組成の鋼を用いて、Alに着目した検討を行っ
た。その結果、『特定のMn−Al−Si−O(酸素)バラン
スを持つ微細介在物を分散させた鋼においては、1400℃
以上に加熱されても、オーステナイト粒の粗大化が抑制
される』という従来全く知られていない現象を見いだし
た。
【0040】本発明は、上記の新しい知見を基にしてな
されたもので、その要旨は下記(1)〜(5) の高張力鋼に
ある。なお、特に断らないかぎり、%は質量%を意味す
る。
【0041】(1) C: 0.03〜0.09%、Si:0.005〜0.35
%、Mn:0.5〜1.8 %、P:0.010%以下、S:0.005%以
下、Cu:0.7%を超え、1.2 %以下、Ni:0.2〜2.5 %、So
l.Al: 0.015 %以下、Insol.Al: 0.0002〜0.005 %、
O:0.001〜0.005 %、N: 0.0020〜0.0080%を含有し、
さらにV:0〜0.1 %、Cr:0〜0.5 %、Mo:0〜0.5 %以下
の1種または2種以上を含有し、残部がFeおよび不可避
的不純物からなる成分を有し、MnO−Al2O3 −SiO2の三
元状態図において、質量%でMnOが23〜56%、Al2O3
4〜27%およびSiO2が30〜54%の各範囲が重複する領域
内の組成を持つ三元系酸化物を主体とする複合酸化物の
粒子であり、かつ直径が 0.2μm未満の微細粒子が6個
/mm2以上分散している高張力鋼。
【0042】(2) 上記(1) に記載の成分の外にさらに、
Nb:0.003〜0.025 %、B: 0.0001〜0.0008%、Ti:0.003
〜0.020 %およびZr:0.005〜0.025 %の1種または2種
を含有する上記(1) の高張力鋼。
【0043】(3) 上記(1) または(2) に記載の成分の外
に、Ca: 0.0005〜0.005 %または/および希土類元素の
1種以上:0.005〜0.05%を含有する上記(1) または(2)
の高張力鋼。(4) 上記複合酸化物の微細粒子を構成する
酸化物のO(酸素)の5%以下がS(硫黄)と置換され
ている上記(1) または(3) までのいずれかの高張力鋼。
【0044】(5) 上記(1) から(4) のいずれかに記載す
る組成を有する鋳片を 950〜1280℃に加熱し、750 ℃以
上の温度で圧延を終了し、空冷または強制冷却した後、
さらに475〜675 ℃の温度に加熱することを特徴とする
上記(1) から(4) のいずれかの高張力鋼の製造方法。
【0045】
【作用】本発明の基本的原理は、通常、溶鋼中で凝集
し、浮上分離するかまたは粒径が数μmの大きな介在物
となるMn−Al−Si系酸化物を 0.2μm未満の微細介在物
として鋼中に分散させることにより、HAZ靱性、HA
Zの耐溶融亜鉛めっき割れ性、および溶接金属部の靱
性、特に高エネルギー密度熱源を用いた溶接における溶
接金属部の靱性を向上させるという点にある。以下、ま
ずこの基本原理について説明する。
【0046】既に述べたように、溶鋼との界面エネルギ
ーが高いAl2O3 は、鋼中で微細に分散させることが困難
であると考えられてきた。しかし、Alの添加量を微量に
して単独でのAl2O3 の生成を極く少量に抑えることによ
り、生成される複合酸化物の融点を低下させることが可
能となる。
【0047】図2はMnO−Al2O3 −SiO2の三元系状態図
である。同図から明らかなように、酸化物が複合化する
ことにより低融点になる。一般に、固/液界面と液/液
界面を比較すると、後者の方が界面エネルギーが低く、
微量な液体は多量な液体中で分散し、全体的として均一
に懸濁し易くなる。従って、鋼の溶製時に複合酸化物が
液体であれば、溶鋼と複合酸化物が液/液の界面で接す
るので、界面エネルギーが格段に低下し、複合酸化物は
凝集することなく、直径 0.2μm以下の微細な介在物と
して、溶鋼中で懸濁することになる。そして、この溶鋼
が凝固した後にも、複合酸化物は微細なまま鋼中に分散
した状態になる。
【0048】ここでいう複合酸化物とは、MnO−Al2O3
−SiO2の三元系酸化物を主体とする複合酸化物である。
「主体とする」というのは、MnO、SiO2および Al2O3
外に、これらの三元系酸化物の融点に実質的な影響を及
ぼさない程度の量の他の酸化物(例えば、CaO、MgO、
TiO2、ZrO2、(REM)O等)、あるいは硫化物(例えば、Mn
S、CuS、TiS、CaS等)、あるいはこれらの複合介在
物が含まれていてもよい、ということである。
【0049】特に、上記複合酸化物のO(酸素)の一部
をS(硫黄)で置換したもの、いい換えれば、MnOの一
部がMnSで置き換えられたものは、MnSが溶鋼と粒子の
界面エネルギーを低下させる作用を持つので、微細に分
散する粒子として好ましいものである。但し、酸化物中
のOのSによる置換率が高くなると、生成するMnSが凝
集して介在物の粗大化を招くので、この置換率は5%以
下であることが望ましい。
【0050】上記のようなMnO−Al2O3 −SiO2の三元系
酸化物を主体とする酸化物を、以下Mn−Al−Si系複合酸
化物と記す。
【0051】Mn−Al−Si系複合酸化物を構成する主要酸
化物であるMnO、 Al2O3およびSiO2の各酸化物の含有量
は、図1に示すMnO−Al2O3 −SiO2三元系状態図で、Mn
O:23〜56%、Al2O3: 4〜27%、SiO2: 30〜54%の各範
囲が重複する領域内、即ち、図1の斜線を施した領域内
で選択する。この領域内の組成であれば、図2から明ら
かなように複合酸化物の融点は通常の高張力鋼組成の溶
鋼の融点(溶製温度)約1550℃よりも低い、1400℃以下
になるからである。
【0052】本発明の高張力鋼中の介在物は、Al−Si−
Mn系複合酸化物からなり、主たる介在物の粒径が 0.2μ
m未満の微細な介在物が、6個/mm2 以上、均一に分散
したものである。ここで、介在物の粒径が 0.2μm未満
でなければならない理由は、主たる介在物の粒径が 0.2
μm以上である場合、このような介在物は凝集して、大
型のクラスターを形成しやすく、オーステナイト粒微細
化の観点からは有効でない。また、介在物の生成量が6
個/mm2 未満であればオーステナイト粒は300μm以
上に成長する。
【0053】以上は鋼材を溶製する際の現象について述
べたが、同様の現象が溶接金属中でも起こり、この様な
鋼板を高エネルギー密度熱源を用いた溶接(溶融池の酸
素が低い)を行った場合でも、溶接金属中に直径 0.2μ
m以下の微細な複合酸化物を分散させ、溶接金属部の靱
性を改善することができる。また、このような材料を溶
接材料としても使用できる。
【0054】次に、本発明の鋳塊の製造方法について説
明する。
【0055】前記の複合酸化物を微細に分散させるに方
法としては、以下に述べる方法がある。
【0056】(a) 図1の斜線部の組成になるように予め
配合した混合酸化物を加熱溶融させた1550℃以上の融液
を溶鋼中に注入する。
【0057】(b) 各酸化物の微粉末を図1の斜線部の組
成になるように配合した混合粉末を、1550℃以上の溶鋼
に添加する。
【0058】(c) 溶鋼の組成調製の段階でメタル−スラ
グ反応により生成する複合酸化物が図1の斜線部の組成
になるように調整する。
【0059】上記(a) および(b) の方法では、混合酸化
物の添加量は溶鋼1kg当たり 0.3〜10g が適当である。
添加された混合物は、溶鋼に浮上しているものはスラグ
として分離除去されるが、溶鋼中にあるものは凝固末期
まで液相で存在するため、凝固の段階で鋼中に残存した
ものが凝集粗大化せず、微細に分散する。
【0060】(c) の方法では、酸素との結合性(反応
性)が最も高い元素がAlであることから、溶製の初期に
Al2O3 が多量に生成することは好ましくなく、この点に
おいてAlおよびO量の調製並びにスラグの改質が非常に
重要である。
【0061】次に、本発明鋼のHAZ靱性、HAZの耐
溶融亜鉛めっき割れ性および溶接金属部の靱性が著しく
高い理由を説明する。
【0062】通常、Alは鋼材中において、固溶AlやAl窒
化物を含む酸可溶性Al(ここでは、Sol.Alと記す)およ
び主にMn-Al-Si系酸化物として存在する非酸可溶性Al
(ここでは、Insol.Al)として区別される。本発明鋼に
おける溶接部のオーステナイト結晶粒の粗大化抑制は、
主に微細に分散させた介在物 (Mn-Al-Si系複合酸化物)
によるピニング効果に基づく。
【0063】Mn-Al-Si系複合酸化物の大きさとしては、
前述のように 0.2μm未満であることが望ましく、ま
た、溶接金属部およびHAZの組織の微細化による靱性
向上の観点から、または耐亜鉛めっき割れ性向上の観点
から、できるだけ多くの粒子が分散することが望まし
い。しかし分散粒子の数としては 300万個/cm3 以上、
光学顕微鏡等の平面的な観察においては6個/mm2 以上
存在すれば、現在要求されているHAZ靱性の水準を満
足できる。但し、分散粒子数は30個/mm2 以上の方が好
ましい。
【0064】本発明の高張力鋼は、上記のような介在物
の分散状態を特徴とするもので、高張力鋼の使用目的と
そこで要求される機械的、化学的な特性に応じて合金成
分とその含有量を選べばよい。以下、その鋼の成分につ
いて説明する。なお、本明細書において「鋼の平均組
成」というのは、前記の介在物を含めて化学分析した場
合の組成であり、成分含有量の%は質量%を意味する。
【0065】C:Cは、鋼材の強度確保、時効処理時の
ε−Cu析出効果を発揮させるため、およびNb、V等の添
加時に組織微細化の効果を生じさせるために添加され
る。0.03%未満ではこれらの効果が十分でない。しか
し、Cが多過ぎると溶接部にマルテンサイト(α’)や
類似パーライト(α/Fe3C)を生成してHAZ靱性を悪
化させ、HAZでの溶融亜鉛めっき割れ感受性が増大す
るとともに母材の靱性および溶接性にも悪影響を及ぼ
す。従って、Cは0.09%以下とするのが望ましい。
【0066】Si:Siは溶鋼の予備脱酸に有効な元素であ
るが、セメンタイト中に固溶しないため、多量に添加さ
れると未変態オーステナイト粒がフェライト粒とセメン
タイトに分解するのを阻害し、島状マルテンサイトの生
成を助長し、また、MnOとの複合によって粗大な酸化物
を生成する。これらの理由から、Siの添加は、鋼中含有
量が 0.35 %以下となる範囲で行う。また、介在物中に
含有すべき最小のSi量を確保するため0.005 %以上必要
である。
【0067】Mn:Mnは強度確保に必要な元素であるとと
もに、脱酸剤としても有効な元素で、且つ前述の Al2O3
の融点低下をもたらすMnOおよびMnSを生成させるため
にも必要である。このため、Mnの含有量は 0.5%以上と
する必要がある。しかし、Mnの過剰な添加は、Siと同様
に複合酸化物の粗大化を引き起こし、焼入れ性を増やし
て溶接性およびHAZ靱性を劣化させるので、その含有
量は 1.8%を超えるべきではない。
【0068】P:Pは鋼に不可避的に含有される不純物
元素であり、粒界偏析元素であるためにHAZにおける
粒界割れの原因となる。さらに母材靱性、溶接金属部と
HAZの靱性を向上させ、スラブ中心偏析も低減させる
ためには、その含有量は0.01%以下とする。
【0069】S:Sは多量に存在する場合、溶接割れ起
点となるMnS単体の析出物を生成する。
【0070】但し、母材靱性、溶接金属部とHAZの靱
性を一層向上させ、スラブ中心偏析も低減させるために
は 0.005%以下とすることが好ましい。一方、MnSとし
てMn-Al-Si系酸化物の酸素の一部と置換したSは、前述
のように複合酸化物の界面エネルギーを低下させる効果
を有する。従って、上記の上限値以下の範囲である程度
の存在は、むしろ好ましい。このSの作用効果を利用す
るためには、0.0002%以上のSが含有されていることが
望ましい。
【0071】Cu:Cuは鋼材の強度および靱性を高める効
果があるが、HAZ靱性に対する悪影響も少ない。特
に、時効処理時のε−Cu析出による強度上昇効果を期待
する上で0.7 %以上必要である。しかし、Cu含有量が高
くなると溶接高温割れ感受性が高くなり、予熱などの溶
接施工が複雑になるため、その含有量は 1.2%以下とし
た。
【0072】Ni:NiもCuと同様に鋼材の強度および靱性
を高め、さらにHAZ靱性を高めるための有効な元素で
ある。しかし、0.2 %以下ではそれらの効果がなく、ま
た、2.5%を超えるとそれらの効果が飽和するため、Ni
の含有量を 0.2〜2.5 %とした。
【0073】Sol.Al:Sol.Alの増加はMn-Al-Si系複合酸
化物の微細分散に対してマイナス要因となる。すなわ
ち、Sol.Alが増加して全体的にAl量が増加するとMn-Al-
Si系酸化物が凝集、粗大化して所望のオーステナイト粒
成長抑制効果が得られなくなる。また、靱性に悪影響を
及ぼす微細硬化相である島状マルテンサイトの生成を抑
えるためにもSol.Alの低減は有効である。以上のような
観点から、Sol.Alはその含有量が低いほど好ましくその
上限を 0.015%とした。
【0074】Insol.Al:Alは前述のように多量に存在す
ると粗大なAl2O3 を生成する。従って、酸化物として添
加した量を含め、Insol.Alとしては鋼の清浄度を下げな
いように、0.005 %以下でなければならない。しかし、
前述のごとく、HAZ組織の微細化に必要な複合酸化物
を生成させて十分なオーステナイト結晶粒成長抑制効果
を得るには0.0002%以上が必要である。
【0075】O (酸素) :本発明の分散粒子は複合酸化
物が主体であり、Oが0.001 %未満では所望の介在物量
が得られない。しかし、多量に存在すると清浄度の劣化
が著しくなるため、母材、溶接金属部およびHAZとも
に実用的な靱性確保が困難となる。そこで、0.005 %以
下とする。
【0076】N (窒素) :Nは多量に存在すると、酸素
と同様、母材、溶接金属部およびHAZの靱性を悪化さ
せる。通常はTi添加によってTiN析出の形でNを無害化
しているが、本発明では特にTi添加を考える場合も、加
熱時にTiNが固溶して溶接金属部およびHAZの硬化を
招く恐れがあるため、また、窒化物が凝集により粗大化
する可能性があるため、上限を0.0080%とした。なお、
窒化物を生成させない場合には、固溶Nの増加による溶
接金属部およびHAZの靱性の劣化が生じるため、0.00
20%以上とすることが好ましい。
【0077】本発明の高張力鋼の主要成分は上記のもの
であるが、これらの外に、さらに、V、Cr、Mo、Nb、
B、TiおよびZrからなる元素群、ならびにCaおよびREM
からなる元素群、から選んだ1種以上の元素を添加する
ことができる。
【0078】V:Vは、鋼材の強度確保に有効である
が、過剰に添加した場合、鋼の焼入れ性を過度に高め、
溶接金属部およびHAZ靱性を悪化させ、溶融亜鉛めっ
き割れ感受性を増大させる傾向にある。従って、添加す
る場合は 0.1%以下の含有量とする。
【0079】Cr、Mo:CrとMoは、鋼材の焼入れ性を増
し、強度確保に有効であるが、過剰に添加した場合溶接
金属部およびHAZの硬化防止および溶接低温割れ感受
性を増大させる傾向にある。従って、添加する場合はと
もに 0.5%以下の含有量とする。
【0080】Nb、B、Ti、Zr:これらの元素は窒化物を
生成して1400℃未満に加熱される領域のオーステナイト
結晶粒の粗大化を抑制するとともに、変態組織を微細化
する作用を有する。しかし、特定量未満の添加では前記
作用を発揮せず、また多量に添加した場合には母材靱性
および溶接部靱性に悪影響を及ぼす。従って、それぞれ
の含有量の範囲をNb:0.003〜0.025 %、B:0.0001〜0.00
08%、Ti:0.003〜0.020 %およびZr:0.003〜0.020 %と
した。なお、本発明鋼においてO (酸素) はその大部分
がAl−Si−Mn系酸化物として存在しているため、TiO2
Ti2O3 等の酸化物は生成せず、Al-Si-Mn系酸化物のSi、
Mnの一部にTiが置換した形態で存在する。
【0081】Ca:Caは粒内フェライトの析出核となる酸
化物、硫化物を生成する元素である。また、硫化物の形
態を制御し、低温靱性を向上させ、特にラインパイプ用
鋼等で重視される耐水素誘起割れ性の改善にも効果を発
揮する。このようなCaの効果を得るためには、0.0005%
以上の含有が必要となる。一方、0.005 %を超える含有
量になるとCa系の大型介在物やクラスターを生成して鋼
の清浄度を劣化させる。
【0082】REM :REM はCaと同様にフェライト析出核
となる酸化物、硫化物を生成し、かつ、硫化物の形態を
制御して低温靱性を向上させ、耐水素誘起割れ性の改善
にも効果を発揮する。しかし、0.005 %未満の含有量で
は上記作用を発揮するには至らず、0.05%を超えると粗
大な介在物を形成し、靱性、溶接性を劣化させ、さらに
は清浄度をも劣化させる次に製造方法について説明す
る。
【0083】本発明の高張力鋼は、鋼材中に微細複合酸
化物と微細なε−Cu析出物が分散しているものである。
【0084】複合酸化物の微細分散には鋳片の凝固冷却
速度が速いほうが好ましく、造塊法よりも連続鋳造法に
よるほうが冷却速度が速く、また経済的な観点からも好
ましい。
【0085】鋳片の熱処理は、圧延後の時効処理でε−
Cuを微細に析出させるためCuを十分固溶させる溶体化処
理を行う。溶体化処理で鋳片を均一に加熱するには少な
くとも950 ℃以上(好ましくは1000℃以上)の加熱が必
要である。しかし、1280℃を超えるとオーステナイト粒
の粗大化が避けられず、母材の靱性を低下させるほか、
鋳片表面が酸化され肌荒れが激しく、その後の圧延時に
押し込み疵等を発生させる。なお、上記の溶体化処理は
圧延の前の加熱処理で行うことができる。
【0086】圧延終了温度が750 ℃以下となると、圧延
歪の蓄積が過剰となり、母材の靱性が劣化するので、圧
延終了温度を750 ℃以上とするのが好ましい。
【0087】時効処理は、溶体化処理で固溶させたCuを
ε−Cuとして微細に析出させ、母材の硬化による強度上
昇を図るものである。時効処理温度が475 ℃未満ではそ
の析出量が少なく、強度上昇の効果を得ることができな
い。また、675 ℃を超えると析出物が凝集して母材の靱
性が低下する。従って、時効処理温度を 475〜675 ℃の
範囲にした。
【0088】以上の説明は、厚板圧延を対象に述べた
が、熱間連続圧延、鋼管圧延および条鋼圧延にも適用可
能である。
【0089】本発明の高張力鋼は、特に高エネルギー密
度熱源を用いて溶接した場合にも、溶接金属部の靱性を
高めることができるので、次に示すような使用方法があ
る。
【0090】鋼板の端面をI型開先に加工し、高エネ
ルギー密度熱源を用いて突き合わせ溶接する。
【0091】本発明の高張力鋼を他の材質の異なる鋼
材の接合端面に挿入し、高エネルギー密度熱源を用いて
突き合わせ溶接する。
【0092】本発明の高張力鋼を溶接材料(フィラー
ワイヤ)として用いる。
【0093】また、本発明の高張力鋼は溶接のままでの
溶接金属部の靱性を向上させるものであるが、溶接後に
熱処理を行ってもよい。
【0094】
【実施例】
〔実施例1〕表1および表2に示す化学組成の鋼を真空
溶解炉で溶製し、断面 300mm× 180mm、高さ 350mmの鋳
塊(150kg) を得た。本発明例および比較例の鋳塊 No.16
〜27は、いずれも1600℃の溶鋼に表2に示す組成の1600
℃の混合酸化物を溶鋼1kg当たり 0.5〜8.0g添加した。
この酸化物添加によって鋼中に残存したものが、分散粒
子となった。比較例の鋳塊 No.28〜31は、化学組成は発
明の範囲であるが混合酸化物を添加することなく真空溶
解法で溶製し、同様の鋳塊に鋳造した。
【0095】
【表1】
【0096】
【表2】
【0097】I.介在物の調査 得られた鋳塊の中央部、即ち冷却速度の遅い部分から試
験片を採取し、複合酸化物の分散数、粒子の平均的な組
成を調査した。調査方法は下記(A) 、(B) のとおりであ
る。
【0098】(A) 直径 0.2μm未満の分散粒子の個数の
調査 各鋼種についてエネルギー分散型X線検出器(EDS)
を備えた走査電子顕微鏡を用いて写真撮影し、試料面に
換算して約3mm2中の直径 0.2μm未満の分散粒子の数を
計数した。
【0099】(B) 直径 0.2μm未満の分散粒子の平均組
成の調査 さらに、各酸化物の組成をEDSによって分析した。但
し、組成分析におけるEDSの感度はO (酸素) に対し
て十分な精度がなく、また、微小介在物であるため、母
材のFeからの特性X線を検出することになる。このた
め、Mn、Al、Siの3元素についての定量値から各酸化物
MnO、Al2O3 、SiO2の量を換算し、これからMn-Al-Si系
介在物の組成を求めた。得られた組成について鋼種ごと
に平均し、微細介在物の平均組成とした。また、Mn、A
l、Si量を酸化物換算したときのOの総量を求め、ED
S分析によって求めたSの定量値をこのO総量で割るこ
とによって介在物中のSの含有重量%を求めた。
【0100】介在物の調査結果を溶製中に添加した混合
酸化物の組成、添加量とともに表3および表4に示す。
【0101】
【表3】
【0102】
【表4】
【0103】表3および表4の介在物の平均組成を三元
状態図として図1に示した。同図に示す●は本発明鋳塊
(No.1〜15) のMn-Al-Si系酸化物の介在物の組成、○は
比較鋳塊(No.16〜22、28〜31) の介在物の組成、◎は比
較鋳塊(No.23 )の介在物の組成でS含有量が14.2%と
多いものの組成、□がCまたはCu含有量が外れたものの
組成である。
【0104】表1および表3からわかるように、化学組
成を発明の範囲に調整された鋼に混合酸化物を添加した
鋳塊No.1〜15は、介在物の平均組成はMnO−Al2O3 −Si
O2の三元状態図で発明の範囲(図1で斜線で示す範囲)
にあり、直径が 0.2μm未満の微細粒子が9個/mm2以上
分散している。
【0105】しかし、比較例の鋳塊No.16 〜22は、表2
および表4からわかるようにAl、SiMnのいずれかの1つ
が発明の成分範囲から外れているため、介在物の平均組
成はMnO−Al2O3 −SiO2の三元状態図の発明の範囲から
外れている。このため直径0.2 μm未満の微細粒子が5
個/mm2以下と少ない。鋳塊No.23 は、鋼のS含有量が0.
18%と高いため、介在物中のS含有量が8.3 %と高くな
り、凝集・粗大化し、直径0.2 μm未満の微細粒子が4
個/mm2と少ない。鋳塊No.24 〜27は鋼のCまたはCu含有
量が発明の成分範囲から外れているが介在物には影響し
ないので、介在物の平均組成はMnO−Al2O3 −SiO2の三
元状態図の発明の範囲にあり、直径が0.2 μm未満の微
細粒子が20個/mm2以上分散している。鋳塊No.28 〜31
は、鋼の化学組成は発明の範囲であるが、混合酸化物を
添加していないので、介在物の平均組成はMnO−Al2O3
−SiO2の三元状態図の発明の範囲から外れている。この
ため直径 0.2μm未満の微細粒子が5個/mm2以下と少な
い。
【0106】II. 母材の調査 次に表5および表6に示す圧延条件で熱間圧延を行い、
板厚15mmおよび30mmの鋼板に仕上げた。得られた鋼板の
板厚中央部から各種試験片を採取し、母材の機械的性質
(引張試験による降伏強さ、引張強さおよびシャルピー
衝撃試験による破面遷移温度)について調査した。その
結果を表5および表6に合わせ示した。
【0107】
【表5】
【0108】
【表6】
【0109】表5および表6から、本発明鋼(No.1〜1
6) は板厚30mmにおいて母材の引張強さが71kgf/mm2
上、−75℃以下の破面遷移温度が得られ、強度、靱性と
もに優れていることがわかる。
【0110】鋼板 No.17〜21は、本発明範囲の化学組成
を持つ鋳塊No.1を本発明範囲の圧延条件で圧延したもの
である。
【0111】鋼板No.17 は鋳片の加熱温度が900 ℃と低
いためCuの固溶が不十分となり、再加熱(時効処理)で
ε−Cuの析出が不十分となり、母材の引張強さが58kgf/
mm2と低い。
【0112】鋼板No.18 は鋳片の加熱温度が1300℃と高
いためオーステナイト粒の粗大化を阻止できず、母材の
衝撃遷移温度がいずれも−15℃となり、靱性が劣る。
【0113】鋼板No.19 は圧延仕上げ温度が700 ℃と低
いため圧延歪みの蓄積が過剰となる。このため母材の衝
撃遷移温度がいずれも−15℃となり、靱性が劣る。
【0114】鋼板No.20 は再加熱温度が400 ℃と低いた
めε−Cuの析出が不十分となり、母材の引張強さが30mm
厚さで53kgf/mm2 となり、強度が低下する。また、焼戻
しの効果が十分に得られないため母材の衝撃遷移温度が
−25℃となり、靱性も低下した。
【0115】鋼板No.21 は再加熱温度が750 ℃と高いた
め析出したε−Cuが凝集粗大化し、析出強化能をなくし
て母材の強度(引張強さ54kgf/mm2 )を低下させる。ま
た、粗大化したε−Cuが脆性亀裂の発生起点となること
から母材靱性(衝撃遷移温度−15℃)が低下する。
【0116】このように本発明の組成範囲を満たしてい
ても、適当な圧延条件を選定しなければ十分な母材の性
能を得ることができない。
【0117】鋼板No.22 から鋼板No.33 までは、成分組
成の一部が発明の範囲から外れた比較例の鋳塊No.16 か
ら鋳塊No.27 を、発明の範囲で圧延・熱処理を行ったも
のである。
【0118】鋼板No.22 〜24、および28の母材の強度お
よび靱性は、発明の範囲にある。しかし、鋼板No.25 は
母材中のSi含有量が0.65%と高い(鋳塊No.19 )ため、
焼入れ性が過度に上昇し、板厚15mmの衝撃遷移温度が−
20℃と高くなり、母材の靱性が低下した。
【0119】鋼板No.26 は、母材中のMn含有量が0.35%
と低い(鋳塊No.20 )ため、板厚30mmの引張強さが55kg
f/mm2 と低く、十分な母材強度が得られない。
【0120】鋼板No.27 は母材中のMn含有量が2.51%と
高い(鋳塊No.21 )ため、焼入れ性が過度に上昇し、板
厚15mmの衝撃遷移温度が−20℃と高くなり、母材の靱性
が低下した。
【0121】鋼板 No.29は、母材中のS含有量が0.018
%と高い(鋳塊No.23 )ため、酸化物中の酸素とSの置
換量が増大し、酸化物中のS含有量が8.3 %と高くなっ
た。
【0122】このため酸化物中のAl2O3 、MnO、SiO2
組成比が本発明の範囲であるが、凝集粗大化が生じ、粒
径0.2 μm未満の粒子数が1mm2 あたり4個と少ない。
このため板厚15mmの衝撃遷移温度が−15℃と高くなり、
母材の靱性が低下した。
【0123】鋼板 No.30は、母材中のC含有量が0.01%
と低い(鋳塊No.24 )ため、板厚15mmの引張強さが42kg
f/mm2 と低く、必要な強度(60kgf/mm2 以上)を得るこ
とができなかった。
【0124】鋼板 No.31は、母材中のC含有量が0.25%
と高い(鋳塊No.25 )ため、焼入れ性が過度に上昇し、
板厚15mmの衝撃遷移温度が−10℃と高く、母材の靱性が
低下した。
【0125】鋼板No.32 は、母材中のCu含有量が0.35%
と低い(鋳塊No.26 )ため、板厚15mmの引張強さが51kg
f/mm2 と低く、必要な強度(60kgf/mm2 以上)を得るこ
とができなかった。
【0126】鋼板No.33 は、母材中のCu含有量が1.78%
と高い(鋳塊No.27 )ため、ε-Cuが凝集粗大化し、ま
た焼入れ性も過度に上昇することから、板厚15mmの衝撃
遷移温度が−20℃と高く、母材の靱性が低下した。
【0127】鋼板No.34 〜37は、本発明の範囲内の組成
を有する溶鋼を用い、溶製段階に混合酸化物を添加せず
通常の溶製を行った鋳塊(No.28 〜31)から得られた鋼
板である。これらの鋼板は、母材の強度および靱性につ
いては発明の範囲にある。
【0128】このように本発明の組成範囲と圧延条件を
満足しなければ十分な母材の性能を得ることができな
い。
【0129】III.溶接部の調査 板厚30mmの鋼板はサブマージアーク溶接によるHAZ靱
性の調査と高エネルギー密度熱源を用いた溶接による溶
接金属部の靱性の調査に供し、板厚15mmの鋼板は拘束継
手試験による溶融亜鉛めっき割れの調査に供した。
【0130】(A) サブマージアーク溶接による靱性の調
査 板厚30mmの鋼板に図5に示すレ形開先加工を施し、同鋼
種同士を母材強度に応じた市販溶接材料を用いて入熱量
を3段階(入熱量20、50および100kJ/cm)に変え、サブ
マージアーク溶接法(以下、SAWまたはSAW法と記
載する。)で継手を製作した。得られた継手の溶接部か
ら図6に示すようにシャルピー衝撃試験片とCTOD試
験片(ASTM E 1290、BS 5762)を採取した。
入熱量20、50および100kJ/cmについて−45℃におけるシ
ャルピー衝撃試験と、入熱100kJ/cmについて−10℃にお
けるCTOD試験を行った。CTOD試験とは、疲労亀
裂を付与した貫通切欠型三点曲げ試験である。また、10
0kJ/cmの継手については溶融線近傍のHAZにおける平
均オーステナイト粒径をリニア・アナリシス法にて測定
した。
【0131】(B) 溶融亜鉛めっき割れ性の試験 溶接熱影響部のめっき割れ再現試験として、拘束継手試
験を行った。この拘束継手試験片は、図4に示すよう
に、板厚15mmの3枚の鋼板(1) を十字に組合せ、交差す
る隅角部の二箇所の位置に1パスの隅肉溶接(入熱量:
17kJ/cm 、800 ℃から500 ℃までの冷却時間:約8秒)
で試験ビード(6) を作製し、他の交差する隅角部の二箇
所の位置に多層盛り溶接(盛り数20)によって拘束ビー
ド(7) を設け、試験ビード(6) の表面に鋼板の降伏応力
に相当する残留応力が付与されて製作される。この拘束
継手試験片を溶融亜鉛めっき浴(480℃) 中に30分間浸漬
して、試験ビード表面(6) における割れ発生の有無を検
査する。また、割れを観察したのち、HAZ部の硬さを
ビッカース硬度計で測定するとともにオーステナイト粒
径をリニア・アナリシス法にて測定した。
【0132】(C) 高エネルギー密度熱源を用いた溶接金
属部の靱性調査 板厚30mmの鋼板(1) にI開先加工を施し、同鋼種同士を
ルートギャップなしの突き合わせ溶接を電子ビーム溶接
機を用い、下記の溶接条件で行った。
【0133】電子ビーム溶接条件 加速電圧:60kV ビーム電流:50mA 溶接速度:500 mm/min ワークディスタンス:325 mm a/b:0.9 (aは電子ビームの収束レンズ中央から電子ビームの焦
点までの距離bは収束レンズ中央から被溶接物表面まで
の距離) 得られた継手の溶接のままの状態で、図3に示す位置、
即ち溶接金属部(4) およびHAZ(5) からJIS 4号試験
片シャルピー衝撃試験片(3) を採取し、−45℃で試験数
を3として試験を行った。
【0134】これら溶接部の各種試験結果を表7および
表8に示す。
【0135】
【表7】
【0136】
【表8】
【0137】本発明鋼板(No.1〜16) は、Mn-Al-Si系酸
化物の介在物が図1の斜線内の組成をもち、かつその介
在物の粒径 0.2μm未満の分散粒子が6個/mm2 以上存
在する。このためSAW継手のシャルピー衝撃試験によ
るHAZ靱性が入熱20kJ/cmの場合21〜29vE-45(kgm)
〔V切欠JIS 4号試験片シャルピー衝撃試験片を−45℃
で試験したときの衝撃エネルギーが21〜29kgm であるこ
とを示す。以下同様。〕、50kJ/cm の場合20〜27vE
-45(kgm)、および入熱100kJ/cmの場合14〜24vE-45(kgm)
が得られ、HAZ靱性が著しく優れていることがわか
る。なお、本発明鋼板のNo.6、8、9、10、11、14お
よび15に見られるように、微細分散粒子の数が30個/mm
2 以上であると、特に入熱量の大きい溶接(100kJ/cm)
でも20vE-45(kgm)以上の吸収エネルギーが得られ、優れ
た靱性が得られる。また、入熱100 kJ/cmでSAW溶接
した継手から採取したCTOD試験片の−10℃における
試験結果も0.85〜1.32mmと大きく、優れた靱性が得られ
ることがわかる。
【0138】拘束継手試験片で溶融亜鉛めっき割れ性を
調査した結果では、本発明鋼板(No.1〜16) には割れの
発生は観察されなかった。一般に溶融亜鉛めっき割れ
は、HAZの硬さが上昇すると発生しやすくなる。しか
し、本発明鋼板のHAZの硬さ(最高硬さ)は比較鋼板
とほぼ同等であるが、微細分散粒子の含有によって平均
オーステナイト結晶粒が91μm以下に微細化されている
ため、割れの発生が抑制されたと考えられる。
【0139】高エネルギー密度熱源を用いた溶接(電子
ビーム溶接)で得られた溶接金属部の調査結果では、本
発明鋼板(No.1〜16) の平均オーステナイト結晶粒が65
〜88μmと細かく、シャルピー衝撃試験も21〜29vE
-45(kgm)が得られ、優れた靱性を示すことがわかる。
【0140】これに対して、比較鋼板(鋼板No.22 〜3
7)はSAW継手部におけるHAZ靱性の劣化〔入熱100
kJ/cmでの衝撃値が1〜8vE-45(kgm)、CTOD値が0.0
4〜0.34mmと低い〕、溶融亜鉛めっき割れ性の低下およ
び電子ビーム溶接した際のHAZ靱性の低下〔衝撃値が
4〜8vE-45(kgm)と低い〕を生じている。なお、鋼板N
o.17 〜21、30、32は母材の強度、靱性が低いため全て
の溶接性能試験を、No.31、33は拘束継手試験片による溶
融亜鉛めっき割れ性の試験および電子ビーム溶接試験を
行わなかった。
【0141】鋼板No.22 から鋼板No.33 までは、成分組
成の一部が発明の範囲から外れた比較例の鋳塊No.16 か
ら鋳塊No.27 を、発明の範囲で圧延・熱処理を行ったも
のである。
【0142】鋼板No.22 は、母材中のSol.Al含有量が0.
020 %と高い(鋳塊No.16 )ため介在物中のAl2O3 量が
72%と高く、粒径0.2 μm未満の粒子数が1mm2 あたり
3個と少ない。このため入熱量100kJ/cmでSAW法によ
る継手HAZの平均オーステナイト粒径が319 μmと大
きくなり、シャルピー衝撃値も7vE-45(kgm)と低く、H
AZ靱性が低下した。また、溶融亜鉛めっき割れ試験
(拘束継手試験)においてもHAZの平均オーステナイ
ト粒径が229 μmと大きくなり、継手部に微小割れが観
察された。さらに電子ビーム溶接の場合にも溶接金属の
平均オーステナイト粒径が124 μmと粗大化し、衝撃値
が7vE-45(kgm)と低く、靱性が低下した。
【0143】鋼板 No.23は、母材中のInsol.Al含有量が
0.001 %と低い(鋳塊No.17 )ため介在物中のAl2O3
が3%と少なく、粒径0.2 μm未満の粒子数が1mm2
たり5個と少ない。このため入熱量100kJ/cmでSAW法
による継手HAZの平均オーステナイト粒径が306 μm
と大きくなり、シャルピー衝撃値も8vE-45(kgm)と低
く、HAZ靱性が低下した。また、溶融亜鉛めっき割れ
試験(拘束継手試験)においてもHAZの平均オーステ
ナイト粒径が230 μmと大きくなり、継手部に割れが観
察された。さらに電子ビーム溶接の場合にも溶接金属の
平均オーステナイト粒径が135 μmと粗大化し、衝撃値
が6vE-45(kgm)と低く、靱性が低下した。
【0144】鋼板 No.24は、母材溶製にあたってSiを使
用しなかった(鋳塊No.18 )ため、介在物中のSiO2量が
7%と低くなり、粒径0.2 μm未満の粒子数が1mm2
たり3個と少ない。このため入熱量100kJ/cmでSAW法
による継手HAZの平均オーステナイト粒径が357 μm
と大きくなり、シャルピー衝撃値も6vE-45(kgm)と低
く、HAZ靱性が低下した。また、溶融亜鉛めっき割れ
試験(拘束継手試験)においてもHAZの平均オーステ
ナイト粒径が241 μmと大きくなり、継手部に割れが観
察された。さらに電子ビーム溶接の場合にも溶接金属の
平均オーステナイト粒径が155 μmと粗大化し、衝撃値
が7vE-45(kgm)と低く、靱性が低下した。
【0145】鋼板 No.25は、母材中のSi含有量が0.65%
と高い(鋳塊No.19 )ため、介在物中のSiO2量が60%と
高く、粒径0.2 μm未満の粒子数が1mm2 あたり4個と
少ない。このため入熱量100kJ/cmでSAW法による継手
HAZの平均オーステナイト粒径が401 μmと大きくな
り、シャルピー衝撃値も6vE-45(kgm)と低く、HAZ靱
性が低下した。また、溶融亜鉛めっき割れ試験(拘束継
手試験)においてもHAZの平均オーステナイト粒径が
255 μmと大きくなり、継手部に割れが観察された。さ
らに電子ビーム溶接の場合にも溶接金属の平均オーステ
ナイト粒径が127 μmと粗大化し、衝撃値が8vE-45(kg
m)と低く、靱性が低下した。
【0146】鋼板 No.26は、母材中のMn含有量が0.35%
と低い(鋳塊No.20 )ため、介在物中のMnO量が4%と
低く、粒径0.2 μm未満の微細な粒子数が1mm2 あたり
3個と少ない。このため入熱量100kJ/cmでSAW法によ
る継手HAZの平均オーステナイト粒径が292 μmと大
きくなり、シャルピー衝撃値も8vE-45(kgm)と低く、H
AZ靱性が低下した。また、溶融亜鉛めっき割れ試験
(拘束継手試験)においてもHAZの平均オーステナイ
ト粒径が201 μmと大きくなり、継手部に微小な割れが
観察された。さらに電子ビーム溶接の場合にも溶接金属
の平均オーステナイト粒径が133 μmと粗大化し、衝撃
値が5vE-45(kgm)と低く、靱性が低下した。
【0147】鋼板 No.27は、母材中のMn含有量が2.51%
と高い(鋳塊No.21 )ため、介在物中のMnO量が59%と
高く、粒径0.2 μm未満の粒子数が1mm2 あたり4個と
少ない。このため入熱量100kJ/cmでSAW法による継手
HAZの平均オーステナイト粒径が321 μmと大きくな
り、シャルピー衝撃値も3vE-45(kgm)と低く、HAZ靱
性が低下した。また、溶融亜鉛めっき割れ試験(拘束継
手試験)においてもHAZの平均オーステナイト粒径が
289 μmと大きくなり、継手部に割れが観察された。さ
らに電子ビーム溶接の場合にも溶接金属の平均オーステ
ナイト粒径が168 μmと粗大化し、衝撃値が6vE-45(kg
m)と低く、靱性が低下した。
【0148】鋼板 No.28は、母材中の酸素含有量が0.00
60%と高い(鋳塊No.22 )ため、酸化物生成量が多く、
酸化物が凝集粗大化し、粒径0.2 μm未満の粒子数が1
mm2あたり2個と少ない。このため入熱量100kJ/cmでS
AW法による継手HAZの平均オーステナイト粒径が27
6 μmと大きくなり、シャルピー衝撃値も4vE-45(kgm)
と低く、HAZ靱性が低下した。また、溶融亜鉛めっき
割れ試験(拘束継手試験)においてもHAZの平均オー
ステナイト粒径が234 μmと大きくなり、継手部に割れ
が観察された。さらに電子ビーム溶接の場合にも溶接金
属の平均オーステナイト粒径が122 μmと粗大化し、衝
撃値が8vE-45(kgm)と低く、靱性が低下した。
【0149】鋼板 No.29は、母材中のS含有量が0.018
%と高い(鋳塊No.23 )ため、酸化物中の酸素とSの置
換量が増大し、酸化物中のS含有量が8.3 %と高くなっ
た。
【0150】このため酸化物中のAl2O3 、MnO、SiO2
組成比が本発明の範囲であるが、凝集粗大化が生じ、粒
径0.2 μm未満の粒子数が1mm2 あたり4個と少ない。
このため入熱量100kJ/cmでSAW法による継手HAZの
平均オーステナイト粒径が343μmと大きくなり、シャ
ルピー衝撃値も5vE-45(kgm)と低く、HAZ靱性が低下
した。また、溶融亜鉛めっき割れ試験(拘束継手試験)
においてもHAZの平均オーステナイト粒径が249 μm
と大きくなり、継手部に割れが観察された。さらに電子
ビーム溶接の場合にも溶接金属の平均オーステナイト粒
径が141 μmと粗大化し、衝撃値が5vE-45(kgm)と低
く、靱性が低下した。
【0151】鋼板 No.31は、母材中のC含有量が0.25%
と高い(鋳塊No.25 )ため、焼入れ性が過度に上昇し、
板厚15mmの衝撃遷移温度が−10℃と高い。また、粒径0.
2 μm未満の粒子数および介在物組成は発明の範囲にあ
り、溶接部の結晶粒粗大化を抑制(SAW法で平均オー
ステナイト結晶粒径103 μm)効果があるが、焼入れ性
の上昇によって衝撃値が2vE-45(kgm)と低く、靱性が低
下した。
【0152】鋼板No.33 は、母材中のCu含有量が1.78%
と高い(鋳塊No.27 )ため、ε-Cuが凝集粗大化し、ま
た焼入れ性も過度に上昇することから、板厚15mmの衝撃
遷移温度が−20℃と高い。また、粒径0.2 μm未満の粒
子数および介在物組成は発明の範囲にあり、溶接部の結
晶粒粗大化を抑制(SAW法で平均オーステナイト結晶
粒径99μm)効果があるが、焼入れ性の上昇によって衝
撃値が3vE-45(kgm)と低く、靱性が低下した。
【0153】鋼板No.34 〜37は、本発明の範囲内の組成
を有する溶鋼を用い、溶製段階に混合酸化物を添加せず
通常の溶製を行った鋳塊(No.28 〜31)から得られた鋼
板である。これらの鋼板は、介在物組成はいずれも発明
の範囲から外れ、このため粒径0.2 μm以下の粒子数が
5個以下と少ない。このため入熱量100kJ/cmでSAW法
による継手HAZの平均オーステナイト粒径が333 μm
以上と大きくなり、シャルピー衝撃値も2vE-45(kgm)以
下と低く、HAZ靱性が低下した。また、溶融亜鉛めっ
き割れ試験(拘束継手試験)においてもHAZの平均オ
ーステナイト粒径が196 μm以上と大きくなり、継手部
に割れが観察された。さらに電子ビーム溶接の場合にも
溶接金属の平均オーステナイト粒径が146 μm以上と粗
大化し、衝撃値が7vE-45(kgm)以下と低く、靱性が低下
した。
【0154】
【発明の効果】本発明の鋼は、高い母材靱性を有し、H
AZ靱性、特にCTOD試験による靱性に優れ、さらに
HAZの耐溶融亜鉛めっき割れ性および溶接金属部の靱
性のいずれにも優れ、大入熱溶接法または高エネルギー
密度熱源を用いた溶接法を適用した溶接構造物において
も優れた低温靱性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明鋼の微細介在物の組成範囲 (斜線部) を
MnO−Al2O3 −SiO2系平衡状態図の上に示した図であ
る。
【図2】MnO−Al2O3 −SiO2系平衡状態図で、図中の細
線と数値は融点(℃)を示す。
【図3】電子ビーム溶接部から衝撃試験片を採取する位
置を示す図である。
【図4】拘束継手試験片を示す図である。
【図5】レ開先加工を施し、サブマージアーク溶接を行
う前の状態を示す図である。
【図6】サブマージアーク溶接部から衝撃試験片を採取
する位置を示す図である。
【記号の説明】
1.鋼板 2.溶接金属 3.
シャルピー衝撃試験片 4.溶接金属切欠位置 5.HAZ切欠位置 5'.
HAZ疲労切欠位置 6.試験ビード 7.拘束ビード 8.
裏当て材

Claims (5)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】質量%で、C: 0.03〜0.09%、Si:0.005〜
    0.35%、Mn:0.5〜1.8 %、P:0.010%以下、S:0.005%
    以下、Cu:0.7%を超え、1.2 %以下、Ni:0.2〜2.5 %、
    Sol.Al:0.015%以下、Insol.Al: 0.0002〜0.005 %、
    O:0.001〜0.005 %、N: 0.0020〜0.0080%を含有し、
    さらにV:0〜0.1 %、Cr:0〜0.5 %、Mo:0〜0.5 %以下
    の1種または2種以上を含有し、残部がFeおよび不可避
    的不純物からなる成分を有し、MnO−Al2O3 −SiO2の3
    元状態図において、質量%でMnOが23〜56%、Al2O3
    4〜27%およびSiO2が30〜54%の各範囲が重複する領域
    内の組成を持つ3元系酸化物を主体とする複合酸化物の
    粒子であり、かつ直径が 0.2μm未満の微細粒子が6個
    /mm2以上分散していることを特徴とする高張力鋼。
  2. 【請求項2】質量%で、C: 0.03〜0.09%、Si:0.005〜
    0.35%、Mn:0.5〜1.8 %、P:0.010%以下、S:0.005%
    以下、Cu:0.7%を超え、1.2 %以下、Ni:0〜3.0 %以
    下、Sol.Al:0.015%以下、Insol.Al: 0.0002〜0.005
    %、O:0.001〜0.005 %、N: 0.0020〜0.0080%を含有
    し、V:0〜0.1 %、Cr:0〜0.5 %、Mo:0〜0.5 %以下の
    1種または2種以上を含有し、さらにNb:0.003〜0.025
    %、B: 0.0001〜0.0008%、Ti:0.003〜0.020 %および
    Zr:0.005〜0.025 %の1種または2種を含有し、残部が
    Feおよび不可避的不純物からなる成分を有し、MnO−Al
    2O3 −SiO2の3元状態図において、質量%でMnOが23〜
    56%、Al2O3 が4〜27%およびSiO2が30〜54%の各範囲
    が重複する領域内の組成を持つ3元系酸化物を主体とす
    る複合酸化物の粒子であり、かつ直径が 0.2μm未満の
    微細粒子が6個/mm2以上分散していることを特徴とする
    高張力鋼。
  3. 【請求項3】請求項1または2に記載の成分の外に、質
    量%にてCa: 0.0005〜0.005 %または/および希土類元
    素の1種以上:0.005〜0.05%を含有する請求項1または
    2の高張力鋼。
  4. 【請求項4】上記複合酸化物の微細粒子を構成する酸化
    物のO(酸素)の5%以下がS(硫黄)と置換されてい
    る請求項1から3までのいずれかの高張力鋼。
  5. 【請求項5】請求項1から4のいずれかにに記載の組成
    を有する鋳片を 950〜1280℃に加熱し、750 ℃以上の温
    度で圧延を終了し、空冷または強制冷却した後、さらに
    475〜675 ℃の温度に加熱することを特徴とする請求項
    1から4までのいずれかの高張力鋼の製造方法。
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