JP6645373B2 - 厚鋼板とその製造方法 - Google Patents

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本発明は、厚鋼板とその製造方法に関する。
船舶、海洋構造物、低温貯蔵タンク、建築・土木構造物に代表される大型構造物は、破壊に対する安全性を確保する必要がある。特に脆性破壊がひとたび発生すると、高速かつ長範囲にわたって破壊が進行するため、環境や経済に甚大な影響を与えるおそれがあるからである。
近年、海上輸送の高効率化を目的に10000TEU(Twenty-foot Equivalent Unit;20フィートコンテナの最大積載数を表す数値)を超えるような大型コンテナ船の需要が増加し、コンテナ船の重要部材である船体上部のアッパーデッキやハッチサイドコーミングに使用される鋼材には、高強度化や厚肉化が要求されている。
一般的に、鋼材の高強度化や厚肉化を図ると、脆性破壊の発生や伝播に対する鋼材の抵抗性は小さくなる。そのため、鋼材に万が一亀裂が入った際にも亀裂が停まる脆性亀裂伝播停止特性(BCA:Brittle Crack Arrest)と、鋼材そのものに亀裂が入らないようにする脆性亀裂発生特性(CTOD:Crack Tip Opening Displacement)の両方の特性を兼ね備える鋼材を開発する必要がある。
特許文献1には、各金属組織の面積率および結晶粒径に相当する結晶粒界密度を規定し、さらに板厚の1/4の深さ位置(本明細書では、厚鋼板の板厚の1/4,1/2の深さ位置を、それぞれ、「1/4t部」,「1/2t部」という)の{100}面を有する組織分率、1/2t部の{110}面を有する組織分率を規定した、良好なアレスト特性を有する高強度の厚鋼板が開示されている。
特許文献2には、金属組織および表層で形成される金属組織の結晶粒径と硬さ、1/2t部の結晶粒径を規定し、さらに各板厚位置での(100)面の面積率を規定した、良好なアレスト特性を有する高強度の厚鋼板が開示されている。
特許文献3には、金属組織および表層で形成される粗大結晶粒の存在率と1/2t部の結晶粒径を規定し、さらに各板厚位置での(100)面の面積率を規定した、良好なアレスト特性を有する高強度の厚鋼板が開示されている。
特許文献4には、金属組織および1/2t部の結晶粒径を規定し、また製造時における1/2t部の温度を制御しながら最適な圧下を与えることにより、良好なアレスト特性を有する厚鋼板を製造する方法が開示されている。
特許文献5には、表層および1/2t部の結晶粒径と集合組織を規定した、良好なアレスト特性を有する高強度の厚鋼板が開示されている。
特許文献6には、金属組織および表層の粗大なフェライトを抑制し、さらにセメンタイトのサイズを制御すること、またアレスト特性を満足するため必要な有効結晶粒径の最大値をNi含有量および板厚から計算し、厚鋼板の製造時にも同様にNi含有量および板厚から必要な圧延温度を規定することにより、良好なアレスト特性を有する高強度の厚鋼板を製造する方法が開示されている。
特許文献7は、焼戻し時の昇温速度、表面および内部の温度状態、および焼戻し温度を規定した、良好なアレスト特性を有する、板厚が50〜125mmの高強度の厚鋼板を製造する方法が開示されている。
特許文献8には、加速冷却後から焼戻しまでの時間を規定することにより、良好なアレスト特性を有する高強度の厚鋼板を工業的に安定的かつ効率的に製造する方法が開示されている。
特許文献9には、1次仕上げ圧延および2次仕上げ圧延を規定し、最適な温度で最適な圧下を行うことにより、良好なアレスト特性を有する高強度の厚鋼板を製造する方法が開示されている。
特許文献10には、比較的低温で圧延し、さらに仕上げ圧延後の表面温度を制御して表層の結晶粒を微細化することにより、良好なアレスト特性を有する厚鋼板を製造する方法が開示されている。
特許文献11には、質量%で、C:0.02〜0.25%、Si:0.0001〜0.4%、Mn:0.5〜2.0%、P:0.03%以下、S:0.001〜0.050%、O:0.001〜0.005%、N:0.006%以下、insol.Al:0.0001〜0.005%、sol.Al:0.0001〜0.0005%、insol.Mg:0.0001〜0.005%、sol.Mg:0.0001〜0.0005%、残部Feおよび不純物からなる化学組成を有し、Mg、MnおよびAlからなる酸化物とMnSからなる、粒径0.6μm未満の複合介在物が1×10個/mm以上存在する、溶接熱影響部(HAZ:Heat Affected Zone;HAZ)の靱性に優れた厚鋼板が開示されている。
特許文献12には、質量%で、Mn:0.1〜3.0%、Al:0.01%以下、S:0.01%以下を含有し、残部Feおよび不純物からなり、Mn酸化物とAl酸化物の微小粒子が分散し、鋼中に含まれる微小粒子のうちで、酸化物とMnSとからなり、かつ酸化物がMn酸化物とAl酸化物からなり、そのうちのMn酸化物の占める割合が酸化物部分の50〜90質量%となる酸化物で、かつ0.1〜10μmの大きさのものが、断面積の1mmあたり30〜2000個分散した、Mn酸化物とAl酸化物の微小粒子が分散した厚鋼板が開示されている。
さらに、特許文献13には、所定の化学組成を有し、炭素当量:0.30〜0.40質量%、SOLB:−0.0015〜+0.0015質量%、1/2t部において、結晶粒径の加重平均値DAVE:3.0〜17.0μm、圧延方向に垂直な面に対して15°以内の角度をなす{100}面の面積率:2.0〜20.0%であり、1/4t部において、0.5〜2.0μmの円相当径をそれぞれ有するTiN粒子、MnS粒子、および複合粒子の個数密度の合計:20〜200個/mm、1〜10μmの円相当径を有する酸化物粒子の個数密度:20〜200個/mmであり、板厚:10〜35mm、降伏応力:300〜500MPaである、製造コストが低く、かつ生産性が高い、アレスト特性と大入熱溶接時の溶接熱影響部の靭性とに優れた厚鋼板が開示されている。
国際公開第2013/150687号パンフレット 特開2013−221190号公報 特開2013−221189号公報 特開2012−172258号公報 特開2011−214116号公報 特開2008−248382号公報 特開2011−52244号公報 特開2011−52243号公報 特開2008−261030号公報 特開2015−25205号公報 特開2014−5527号公報 特開平5−271864号公報 特開2015−98642号公報
これらの従来の技術には、以下に列記の課題(i)〜(iii)がある。
(i)厚肉化に伴う焼入れ性の確保
70mm以下の板厚では冷却速度を高めることにより厚鋼板の焼入れ性の不足を補うことができる。しかし、70mmを超える板厚では、1/2t部の冷却速度は板厚に依存して決まる。このため、厚鋼板の1/2t部の焼入れ性が低下し、必要な強度を得られない。したがって、厚鋼板の化学組成を最適化することにより所望の強度を確保しながら、良好なアレスト特性を得られる金属組織と、加熱および圧延条件を見出す必要がある。
(ii)アレスト特性の確保
良好なアレスト特性を確保するためには、結晶粒の微細化が望ましいことが一般的に知られる。しかし、板厚が70mmを超える場合には、厚鋼板の化学組成と製造条件を調整することだけでは、従来知見されている結晶粒径を得ることは難しい。したがって、厚鋼板の表層から板厚方向の内部に至るまでの金属組織を精緻に制御する必要がある。
(iii)継手CTOD特性の確保
船舶の建造時には溶接を用いるため溶接部の特性の確保が課題である。特に板厚が50mm以上の厚鋼板では、溶接時の入熱量が増加するため、溶接熱影響部の低温靱性の確保が困難になる。HAZ靱性の確保のためには、破壊起点となり易い金属組織の形成を抑制する必要がある。
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、板厚が70mmを超える、優れたアレスト特性および継手CTOD特性を有する高強度の厚鋼板を提供することを目的とし、具体的には、大型構造用鋼、特に船舶用として使用されるのに十分な継手CTOD特性を有し、かつアレスト特性に優れた、板厚が70mm超の高強度の厚鋼板とその製造方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題iに対しては、(I)厚鋼板の化学組成の見直しを行い、Niの含有および炭素当量Ceqの最適化が有効であることを知見した。
(I−A)化学組成の最適化
海洋構造物に用いられる鋼材をベースに、強度を高める化学成分と靭性の影響を、板厚が100mmの厚鋼板を用いて検討した。Ni,Mo,V含有量と靭性の関係を調査した結果、Ni含有量によらず靭性の低下はみられなかったが、Mo,V含有量が増加すると靭性が著しく低下した。このことから、板厚が70mm超の厚鋼板に関しては、Niが強度および靭性の向上を図るために最適な元素であることが判明した。
ただし、Mo,V含有量を適正な範囲に制限すれば、厚鋼板の強度を上昇させるだけでなく、靭性も確保できる。Vノッチ付シャルピー衝撃試験による破面遷移温度vTrsが−80℃までを許容値とする場合には、V含有量の上限は0.15%であり、Mo含有量の上限は0.35%である。
(I−B)炭素当量Ceqの最適化
板厚が70〜100mmまで大型コンテナ船用の厚鋼板(EH47)の強度規格を満足するために必要な炭素当量Ceqについて、各種の化学組成を有する厚鋼板を用いて圧延条件や焼戻し条件を変更して、炭素当量Ceqと、各1/2t部における強度との関係を調査した。その結果、板厚が70mmの場合には炭素当量Ceq.を0.40以上とすることにより、板厚が100mmの場合には炭素当量Ceq.を0.47以上とすることにより、1/2t部の強度を満足できることが判明した。また、炭素当量Ceq.を0.52超とすると、強度が高くなり過ぎ、靭性が低下することが判明した。
次に、本発明者らは、上記課題(ii)に対しては、(II)金属組織分率および表層部の結晶粒径の最適化が有効であることを知見した。
本発明者らは、板厚が70mm超の厚鋼板のアレスト特性を確保するために、金属組織とその結晶粒径に着目した。一般に、結晶粒径を小さくすればアレスト特性は向上するとされる。また、板厚が70mm超の厚鋼板の内部を急速に冷却することは困難であるため、厚鋼板の内部にはフェライト組織が必ず発現する。そこで、フェライト−ベイナイト組織からなる板厚が70mm超の厚鋼板について、結晶粒径とフェライト分率の関係を調査した。
図1に、1/2t部(板厚中心部)のフェライト粒径とフェライト分率との関係をグラフで示し、図2に、1/2t部(板厚中心部)の有効結晶粒径とフェライト分率との関係をグラフで示す。
図1のグラフに示すように、板厚が70mm超の厚鋼板ではフェライト分率が小さくなれば、1/2t部におけるフェライト粒径が小さくなる傾向があることが分かる。よって、厚鋼板のフェライト組織のみを考慮すれば、フェライト分率を低下することによりアレスト特性の向上が期待できることになる。
しかし、フェライト−ベイナイト組織では、ベイナイトの平均粒径はフェライトの平均粒径の3倍程度大きい。このため、フェライト分率を減少させることは逆にベイナイト組織を増加させることにつながる。このため、厚鋼板全体としての結晶粒径(有効結晶粒径)が大きくなり、結果的にアレスト特性が低下する。図2のグラフにも示すように、フェライト分率を減らすことは、厚鋼板の1/2t部の有効結晶粒径を大きくし、アレスト特性の向上にはつながらないことが明らかである。
よって、アレスト特性の向上にはベイナイト組織を微細化することが好ましい。しかしながら、厚鋼板の実際の製造においてベイナイト組織を微細化することは困難である。ベイナイト組織の微細化には、粗圧延での圧下量を大きく確保してオーステナイト粒を微細化させ、さらに仕上圧延での加工歪を多く蓄積させることが必要となる。しかし、実際に板厚が70mm超の厚鋼板を製造する場合、初期のスラブ厚が決まっているため、粗圧延での圧下量を確保すると仕上圧延時の圧下量を確保できなくなり、また仕上圧延時の圧下量を確保すると粗圧延での圧下量を確保できず、ベイナイト組織を微細化できない。
フェライト粒径を小さく確保し、かつフェライト分率を一定量確保すれば、有効結晶粒径も小さくなり、アレスト特性の著しい向上が期待される。そして、同一の化学組成を有するスラブを用い、製造条件を種々変更して板厚が80mmの厚鋼板を製造した。その結果、フェライト分率、フェライト粒径および有効結晶粒径が変わらないにもかかわらず、厚鋼板のアレスト特性が大きく相違する場合があることを知見した。
例えば、1050℃でスラブ加熱を行い、仕上圧延を730℃または780℃で行った厚鋼板について、フェライト分率およびフェライト粒径はほぼ変わらず、有効結晶粒径も780℃仕上圧延の厚鋼板で19.0μm(1/4t部)、24.0μm(1/2t部)、730℃仕上圧延の厚鋼板で17.6μm(1/4t部)、22.8μm(1/2t部)とさほど変わらないのにもかかわらず、アレスト特性が−10℃でのKca値でそれぞれ596N/mm1.5、7007N/mm1.5と一桁異なる結果となった。
そこで、これらの厚鋼板について詳細に調べたところ、厚鋼板の表層部の金属組織が大きく相違することが判明した。高アレスト特性を得られた730℃仕上圧延の厚鋼板では、金属組織が圧延方向に沿って扁平になっていた。扁平なこの金属組織が初期段階で厚鋼板に亀裂が入ることを防止すると考えられる。
したがって、高強度かつ高アレスト特性を有する板厚が70mm超の厚鋼板では、フェライト分率、フェライト粒径および有効結晶粒径を規定することに加えてさらに、厚鋼板の表層部の金属組織を規定することが有効である。
さらに、本発明者らは、上記課題(iii)に対しては、(III)鋼中介在物の制御によるHAZ組織の形成時の粒内変態を促進することが有効であることを知見した。
HAZ靱性を確保する手段として結晶粒微細化が有効である。図3に、溶接時のHAZ組織の変化を模式的に示す。
HAZでは1400℃近傍まで加熱される際に結晶粒成長により粗大なオーステナイト粒が成長する。このような粗大なオーステナイト粒が成長すると靱性低下の一因となる。従来より、結晶粒微細化手法として、(a)オーステナイト粒成長をTiN等で抑制するピン留め効果を活用する手法、(b)オーステナイト粒内に存在する介在物を起点に粒内フェライトを成長させて結晶粒微細化を図る手法が提案されている。
本発明に係る厚鋼板では、製鋼過程においてTi・Al・O・Nバランスを制御することにより微細なTiN粒子を鋼中に分散させる。TiN粒子はHAZにおいてオーステナイト粒成長を抑制し(ピン留め効果)、粗大なオーステナイト粒成長を抑制することが可能となる。
一方、1400℃近傍では、TiNは溶解し易くなってピン留め効果が低下し、粗大なオーステナイト粒が成長し易くなる。そこで、本発明では、介在物による粒内変態も併せて活用する。溶接時にオーステナイト粒内に粒内フェライトを効果的に成長させるために、粒内フェライトの生成核となる介在物を制御する。
特に板厚が50mmを超えるような厚鋼板では、表面および内部それぞれの冷却速度の差異により板厚方向での介在物の組成および個数の制御が困難である。このため、粒内フェライトの生成核となる介在物を制御する。そこで、粒内フェライトの成長のメカニズムを解明した結果、以下に示す事項が判明した。
図4は、Ti系複合酸化物を模式的に示す説明図である。
(III−1)マトリックスから介在物の内部へとMnが拡散する駆動力が、溶接冷却時に介在物の周囲にMnSが複合析出する際に形成されるMn濃度の傾斜により、生じる。
(III−2)MnがTi系酸化物の内部に存在する原子空孔へ吸収される。
(III−3)介在物の周囲にMn濃度が少なくなるMn欠乏層が形成され、このMn欠乏層のフェライトの成長開始温度が上昇する。
(III−4)冷却時にフェライトが介在物から優先して成長する。
これらを前提として、粒内フェライトの生成核となる介在物のMnS複合量が粒内フェライト成長に影響を及ぼすことが判明した。
(III−5)Mnを吸収するための空孔を内部に多数有するTi系酸化物が核となる。
(III−6)複合したMnSが多いと、介在物の周囲により大きなMnの濃度勾配を形成し、Mnが拡散する駆動力を増加させてMn欠乏層を形成し易くなる。
(III−7)複合したMnSが少ないと、介在物の周囲にMnの濃度勾配が形成され難く、Mn欠乏層が形成され難くなる。
(III−8)Ti系酸化物は、Mnを吸収するための空孔を内部に多数含有しており、MnSは、Ti系酸化物の周囲に析出する時に周囲との濃度差を形成し、Mnを吸収する駆動力を形成する。
以上のメカニズムに基づき、TiNにより粗大粒の成長を抑制するとともに、Ti系複合酸化物の複合形態を制御して、粒内において介在物を起点に粒内フェライトの生成を促進し、これにより、微細なHAZ組織を形成することにより溶接部の低温靱性に優れた厚鋼板を提供できる。
本発明は、以上の知見に基づくものであり、以下に列記の通りである。
(1)化学組成が、質量%で、C:0.04〜0.12%、Si:0.05〜0.50%、Mn:1.30〜2.20%、P:0.020%以下、S:0.0010〜0.0100%、Cu:0.05〜1.00%、Ni:0.05〜1.50%、Nb:0.005〜0.050%、Ti:0.005〜0.050%、sol.Al:0.005%以下、O:0.0010〜0.0050%、N:0.0010〜0.0100%、Cr:0〜0.50%、Mo:0〜0.35%、V:0〜0.15%、B:0〜0.0030%、Ca:0〜0.010%、Mg:0〜0.0050%、REM:0〜0.0050%を含有し、残部がFeおよび不純物であり、
下記(1)式で示される炭素当量Ceq.が0.40〜0.52であり、
以下に規定する(a)〜(f)項を満足するとともに、
板厚が70mm超である、厚鋼板。
Ceq.=C+Mn/6+(Cu+Ni)/15+(Cr+Mo+V)/5 ・・・(1)
(a)表層5mm以内の組織は圧延方向に伸長した組織であり、該組織の平均アスペクト比が1.5以上である。
(b)内部の金属組織はフェライトとベイナイトの複合組織であり、板厚の1/4の深さ位置である1/4t部のフェライト分率:面積率で5.0〜35%、板厚の1/2の深さ位置である1/2t部のフェライト組織分率:面積率で3.0〜40%、各板厚位置でベイナイトおよびフェライト以外の組織:面積率で5%未満(0%を含む)のパーライト、マルテンサイトまたはMA(島状マルテンサイト)の1種以上を含む。
(c)前記1/4t部の平均フェライト粒径:10μm以下、前記1/2t部の平均フェライト粒径:12μm以下である。
(d)前記1/4t部の有効結晶粒径:22.0μm以下、前記1/2t部の有効結晶粒径:32.0μm以下である。
(e)鋼中に含まれるTi系酸化物の周囲にMnSを複合する複合介在物であり、任意の断面で現出させた前記複合介在物の断面積に占めるMnSの割合:面積率で10%以上90%未満、前記複合介在物の周長に占めるMnSの割合:10%以上である。
(f)0.5〜5.0μmの前記複合介在物の面分散密度:10〜100個/mmである。
(2)さらに、質量%で、Cr:0.05〜0.50%、Mo:0.05〜0.35%、およびV:0.005〜0.15%の1種以上を含有する、1項に記載の厚鋼板。
(3)さらに、質量%で、B:0.0003〜0.0030%を含有する、1または2項に記載の厚鋼板。
(4)さらに、質量%で、Ca:0.0005〜0.010%、Mg:0.0005〜0.0050%、およびREM:0.0005〜0.0050%の1種以上を含有する、1〜3項のいずれかに記載の厚鋼板。
(5)RH真空脱ガス装置でのTi添加前溶鋼内の酸素ポテンシャルOXPが10〜60ppmに制御されて鋳造された鋼片を用い、
該鋼片を、厚さ方向の中心部が1000℃超1150℃以下になるように、加熱し、
該鋼片の厚さ方向の中心部が1000℃超1150℃以下にある時に、該鋼片に累積圧下率15〜60%、および各パスの平均圧下率3.5%以上の再結晶域圧延を行った後、
放冷し、
前記1/2t部の温度がAr以上950℃以下にある時に、累積圧下率40%以上、および各パスの平均圧下率5.0%以上の未再結晶域圧延を行い、
さらに、該未再結晶域圧延の最終パス開始温度を板表面の温度で(Ar−20)〜(Ar+30)℃として圧延を完了し、
次いで、加速冷却を開始し、板表面の温度で550℃以下まで加速冷却を行う、
1〜4項のいずれかに記載の厚鋼板の製造方法。
(6)前記加速冷却の終了後、350℃〜650℃の温度で焼戻し処理する、5項に記載の厚鋼板の製造方法。
本発明により、Kca値が6000N/mm1.5以上の優れたアレスト特性および継手CTOD特性を有する、板厚が70mm超の高強度の厚鋼板を提供できる。具体的には、本発明により、大型構造用鋼、特に10000TEUを超えるような大型コンテナ船用として使用するのに十分な継手CTOD特性と、優れたアレスト特性とを有する板厚が70mm超の高強度の厚鋼板を提供できる。
このため、本発明に係る厚鋼板を大型コンテナ船の船体上部のアッパーデッキやハッチサイドコーミングに用いれば、脆性破壊が発生したとしてもその破壊進展を停止することができ、気温が低い海域で運行される大型コンテナ船の信頼性を高めることができる。
図1は、板厚方向の中心部(1/2t部)のフェライト粒径とフェライト分率との関係を示すグラフである。 図2は、板厚方向の中心部(1/2t部)の有効結晶粒径とフェライト分率との関係を示すグラフである。 図3に、溶接時のHAZ組織の変化を模式的に示すグラフである。 図4は、Ti系複合酸化物を模式的に示す説明図である。
本発明を説明する。以降の説明では、化学組成または濃度に関する「%」は特に断りがない限り「質量%」を意味する
1.本発明に係る厚鋼板の化学組成
はじめに必須元素を説明する。
(1−1)C:0.04〜0.12%
Cは、厚鋼板の強度を高める元素である。C含有量が0.04%未満では、この効果を得られない。一方、C含有量が0.12%を超えると、厚鋼板の強度の上昇により靭性、溶接性、HAZ靭性および継手CTOD特性がいずれも低下するとともに、アレスト特性が低下する。
したがって、C含有量は0.04〜0.12%である。C含有量は、0.05%以上であることが好ましく、また、0.09%以下であることが好ましい。
(1−2)Si:0.05〜0.50%
Siは、脱酸元素であるとともに厚鋼板の強度に有効な元素である。Si含有量が0.05%未満では、これらの効果を得られない。一方、Si含有量が0.50%を超えると、溶接熱影響部が硬化することによりHAZ靭性および継手CTOD特性が低下する。
したがって、Si含有量は0.05〜0.50%である。Si含有量は、0.10%以上であることが好ましく、0.30%以下であることが好ましい。
(1−3)Mn:1.30〜2.20%
Mnは、厚鋼板の焼入れ性を高め、厚鋼板の強度および靭性を高める元素である。Mn含有量が1.30%未満では、これらの効果を得られない。一方、Mn含有量が2.20%を超えると、中心偏析が顕著となり、厚鋼板の1/2t部の靭性が顕著に低下するとともに、アレスト特性が低下する。
したがって、Mn含有量は1.30〜2.20%である。Mn含有量は、1.60%以上であることが好ましく、2.00%以下であることが好ましい。
(1−4)P:0.020%以下
Pは、不純物元素であり、厚鋼板の機械的特性を低下させ、特に、低温靭性を低下させる。したがって、P含有量は0.020%以下である。P含有量は、なるべく低いほうが好ましく、0.015%以下であることが好ましい。
(1−5)S:0.0010〜0.0100%
Sは、Mnと結合してMnSを形成する。MnSを複合析出させるため、S含有量は0.0010%以上とする。一方、Sが過剰に含まれると、粗大な単体MnSの析出につながり、靱性低下の要因となる。このため、S含有量は0.0100%以下である。S含有量は、MnS複合析出、HAZ靱性および継手CTOD特性を確保するため、0.0020%以上であることが好ましく、0.0050%以下であることがさらに好ましい。
(1−6)Cu:0.05〜1.00%
Cuは、鋼に固溶して靭性を損なわずに強度を高めることができ、アレスト特性を改善する。Cu含有量が0.05%未満では、これらの効果を得られない。一方、Cu含有量が1.00%を超えると、厚鋼板の靭性の低下、および、析出物の増加によりアレスト特性が低下し、さらに、熱間での加工の際に表面に微小な割れが発生する。
したがって、Cu含有量は0.05〜1.00%である。Cu含有量は、0.20%以上であることが好ましく、0.50%以下であることが好ましい。
(1−7)Ni:0.05〜1.50%
Niは、鋼に固溶して靭性を損なわずに強度を高めることができ、アレスト特性を改善する。Ni含有量が0.05%未満では、これらの効果を得られない。一方、Niは高価な元素であり、過剰な添加は製造コストの上昇を招く。したがって、Ni含有量は0.05〜1.50%である。Ni含有量は、0.30%以上であることが好ましく、1.10%以下であることが好ましい。
(1−8)Nb:0.005〜0.050%
Nbは、本発明に係る厚鋼板において重要な元素である。Nbは、微量の添加により、未再結晶オーステナイト域を拡大し、組織微細化による強度およびアレスト特性の改善に寄与する。さらに、Nbは、変態強化および析出強化にも寄与する。
Nb含有量が0.005%未満では、上記効果を得られない。一方、Nb含有量が0.050%を超えると、粗大な析出物が生成し、アレスト特性が劣化するだけでなく、HAZ靭性および継手CTOD特性を著しく劣化させる。
したがって、Nb含有量は0.005〜0.050%である。Nb含有量は、0.007%以上であることが好ましく、0.020以下であることが好ましい。
(1−9)Ti:0.005〜0.050%
Tiは、本発明に係る厚鋼板において重要な元素である。Tiは、Ti系酸化物を形成し、粒内フェライトの生成核として作用する。さらにTi系酸化物を形成後に残ったTiは、TiNを形成し、鋼片の加熱時にオーステナイト粒径が大きくなることを抑制する。オーステナイト粒径が大きくなると、変態後のベイナイトの粒径も大きくなる。
Ti含有量が0.005%未満であると、粒内フェライトの生成核としてのTi系酸化物の面分散密度が減少し、HAZ靭性および継手CTOD特性が低下するとともに、所望のベイナイト粒径を得られない。
一方、Ti含有量が0.050%を超えると、Ti系酸化物の面分散密度の増加および粗大なTi系酸化物が増加し、HAZ靭性および継手CTOD特性が低下するとともに、粗大なTiCが生成して靭性およびアレスト特性が低下する。
このため、Ti含有量は、0.005〜0.050%である。Ti含有量は、0.007%以上であることが好ましく、0.020%以下であることが好ましい。
(1−10)sol.Al:0.005%以下
sol.Alは、不純物元素であり、Al含有量の増加により、Ti系酸化物の生成が抑制される。その結果、HAZ靭性および継手CTOD特性が低下する。そのため、sol.Al含有量は0.005%以下とする。
(1−11)O:0.0010〜0.0050%
Oは、Ti系酸化物を生成するために必要な元素である。O含有量は、充分な介在物の面分散密度を得るため、0.0010%以上とする。一方、Oを過剰に含有すると、破壊の起点となり得る粗大な酸化物系介在物が形成され易くなる。そのため、O含有量は0.0050%以下とする。粗大な酸化物系介在物の形成を抑制する観点から、O含有量は、0.0030%以下であることが好ましい。
(1−12)N:0.0010〜0.0100%
Nは、Tiと結合してTiNを形成し、オーステナイト粒の粗大化を抑制する。N含有量が0.0010%未満では、この効果を得られない。一方、N含有量が0.0100%を超えると、不純物として存在するため、靭性の低下を招き、その結果、アレスト特性を劣化させる。
したがって、N含有量は0.0010〜0.0100%とする。N含有量は、0.0020%以上であることが好ましく、0.0060%以下であることが好ましい。
次に、任意元素を説明する。
(1−13)Cr:0〜0.50%
Crは、厚鋼板の強度を高める元素であるため、必要に応じて含有してもよい。しかし、Cr含有量が0.50%を超えると、厚鋼板の強度の増加に伴う靭性の低下が顕著になる。したがって、Cr含有量は0.50%以下である。
一方、Cr含有量が0.05%未満であると、厚鋼板の強度を充分に高めることができない場合がある。したがって、Cr含有量は0.05%以上であることが好ましい。
(1−14)Mo:0〜0.35%
Moは、厚鋼板の強度を高める元素であるため、必要に応じて含有してもよい。しかし、Mo含有量が0.35%を超えると、厚鋼板の強度の増加に伴う靭性の低下が顕著になるとともにアレスト特性が低下する。したがって、Mo含有量は0.35%以下である。
一方、Mo含有量が0.05%未満であると、厚鋼板の強度を充分に高めることができない場合がある。したがって、Mo含有量は0.05%以上であることが好ましい。
(1−15)V:0〜0.15%
Vは、炭窒化物を形成し、厚鋼板を析出強化する作用を有するため、必要に応じて含有してもよい。しかし、V含有量が0.15%を超えると、析出強化に伴う靭性の低下が顕著になる。したがって、V含有量は0.15%以下である。
一方、V含有量が0.005%未満であると、厚鋼板を充分に析出強化できない場合がある。したがって、V含有量は0.005%以上であることが好ましい。
(1−16)B:0〜0.0030%
Bは、微量含有することにより焼入れ性を高める元素であり、必要に応じて含有してもよい。しかし、B含有量が0.0030%を超えると、効果が飽和するとともに、HAZ靭性を低下させる。したがって、B含有量は0.0030%以下である。
一方、B含有量が0.0003%未満であると、焼入れ性を安定して高めることができない場合がある。したがって、B含有量は0.0003%以上であることが好ましい。
(1−17)Ca:0〜0.010%
Caは、HAZ靭性を向上させる元素であり、必要に応じて含有してもよい。しかし、Ca含有量が0.010%を超えると、HAZ靭性および溶接性が低下する。したがって、Ca含有量は0.010%以下である。
一方、Ca含有量が0.0005%未満であると、HAZ靭性を安定して向上させることができない場合がある。したがって、Ca含有量は0.0005%以上であることが好ましい。
(1−18)Mg:0〜0.0050%
Mgは、HAZ靭性を向上させる元素であり、必要に応じて含有してもよい。しかし、Mg含有量が0.0050%を超えると、HAZ靭性および溶接性が低下する。したがって、Mg含有量は0.0050%以下である。
一方、Mg含有量が0.0005%未満では、HAZ靭性を安定して向上させることができない場合がある。したがって、Mg含有量は0.0005%以上であることが好ましい。
(1−19)REM:0〜0.0050%
REMは、HAZ靭性を向上させる元素であり、必要に応じて含有してもよい。しかし、REM含有量が0.0050%を超えると、HAZ靭性および溶接性が低下する。そのため、REM含有量は0.0050%以下である。
一方、REM含有量が0.0005%未満であると、HAZ靭性を安定して向上させることができない場合がある。したがって、REM含有量は0.0005%以上であることが好ましい。
(1−20)(1)式で示される炭素当量Ceq.:0.40〜0.52%
鋼板の炭素当量Ceq.は、式(1):Ceq.=C+Mn/6+(Cu+Ni)/15+(Cr+Mo+V)/5により求められる。炭素当量Ceq.が0.40%未満であると、1/2t部まで焼きが入らず、降伏強度460MPa以上の高強度を得られないとともに、靭性が低下することもある。一方、炭素当量Ceq.が0.52%を超えると、必要な強度を容易に得ることができるが、靭性、溶接性およびアレスト特性が低下するとともに、製造コストが増加する。したがって、炭素Ceq.は0.40〜0.52%とする。
(1−21)残部
本発明に係る厚鋼板は、以上の化学組成を有し、残部はFeおよび不純物である。不純物としては、鉱石やスクラップ等の原材料に含まれるものや、製造工程において含まれるものが例示される。
2.本発明に係る厚鋼板の金属組織
以下に示す(2−1)〜(2−6)項の規定を全て満足することにより、高強度および良好なアレスト特性および継手CTOD特性を得られる。
(2−1)表層5mm以内の圧延方向に伸長した組織の平均アスペクト比:1.5以上
厚鋼板の表層5mm以内のL断面に形成される組織の短軸と長軸の比であるアスペクト比の平均が1.5以上である。このアスペクト比を1.5以上にすることは、本発明に係る厚鋼板が良好なアレスト特性を有するために最も重要な因子の一つである。
アスペクト比が1.5未満であるとアレスト特性が著しく低下するのに対し、アスペクト比が1.5以上であると、シアリップ(厚鋼板の表層における延性的な塑性変形)の形成が良好となり、アレスト特性が顕著に改善される。
本発明に係る厚鋼板は、板厚が70mm超のものであるため、表層の組織は内部組織と異なる傾向がある。特に規定はしないが、表層の組織は、フェライト、ベイナイト、マルテンサイト、焼戻しベイナイトおよび焼戻しマルテンサイトの何れか1種の単独組織、または2種以上の混合組織である。
(2−2)厚鋼板の内部の金属組織:フェライトとベイナイトの複合組織、1/4t部のフェライト分率:5.0〜35%、1/2t部のフェライト組織分率:3.0〜40%、各板厚位置でベイナイトとフェライト以外の組織:5%未満(0%を含む)のパーライト、マルテンサイトまたはMA(島状マルテンサイト)の1種以上
本発明では、厚鋼板に良好な強度を付与するために、フェライトとベイナイトの組織分率を調整する。本発明に係る厚鋼板は、基本的にフェライトおよびベイナイトの複合組織からなる。本発明に係る厚鋼板の製造にあたっては、焼戻しを行う場合があるが、ベイナイトと焼戻しベイナイト、マルテンサイトと焼戻しマルテンサイトを区別せずに扱ってよい。
一方、フェライトとベイナイトの組織分率はアレスト特性にも影響する。EBSDを用いてImage Quality像と15°以上の方位差を有する境界を粒界と定義したGrain Boundary像を重ね合わせてベイナイト組織を評価したところ、ベイナイトに該当する組織はフェライト組織に比べて粗大な結晶粒を呈することが判明した。
このことから、フェライトとベイナイトの組織分率は、厚鋼板の後述する有効結晶粒径に影響を与える一つの要素となる。強度を付与するとともに、有効結晶粒径を適切に制御してアレスト特性を向上させるためには、1/4t部のフェライト分率を5.0〜35%とするとともに、1/2t部のフェライト分率を3.0〜40%とする。
1/4t部と1/2t部でそれぞれフェライト組織分率を規定する理由は、板厚が70mmを超える厚鋼板では、圧延時のオーステナイト粒径や蓄積される歪み量が、1/4t部と1/2t部とにおいて大きく相違するためである。
なお、各板厚位置において、ベイナイトおよびフェライト以外に、パーライト、マルテンサイト、MA(島状マルテンサイト)の一種以上を含んでもよい。その場合のフェライトおよびベイナイト以外の組織の組織分率は合計で5%未満とする。
以上のように組織分率を示したが、強度とアレスト特性は、各組織の状態にも依存するため、本発明では、さらに金属組織について以下の要件を満足する。
(2−3)1/4t部の平均フェライト粒径:10μm以下、1/2t部の平均フェライト粒径:12μm以下
1/4t部,1/2t部の平均フェライト粒径は,それぞれ、10μm以下,12μm以下である。フェライト粒径がこれを超えると、有効結晶粒径が顕著に微細化されず、良好なアレスト特性を得られない。フェライト粒径は微細化するほどアレスト特性が良好になるものの、70mmを超える板厚の厚鋼板では、フェライト粒径の微細化を達成するには低温で圧下率を高くした圧延を行わなければならず、圧延装置への負担が高まり、製造が困難になる。
フェライト粒径の下限は規定しないが、本発明に係る製造方法により製造する場合には、1/4t部,1/2t部の平均フェライト粒径は実質的に3μm以上となる。
なお、1/4t部,1/2t部それぞれで平均フェライト粒径を規定する理由は、上述したように、板厚が70mmを超える厚鋼板では、圧延時のオーステナイト粒径や蓄積される歪み量が、1/4t部と板厚の1/2t部とにおいて大きく相違するためである。
(2−4)1/4t部の有効結晶粒径:22.0μm以下、1/2t部の有効結晶粒径:32.0μm以下
1/4t部,1/2t部の有効結晶粒径の平均値は、それぞれ22.0μm以下,32.0μm以下である。有効結晶粒径は良好なアレスト特性を得るのに最も重要な因子であり、微細化するほどアレスト特性が良好になる。そのため、1/4t部,1/2t部の有効結晶粒径が22.0μm,32.0μmを超えると、良好なアレスト特性を得られない。
70mmを超える板厚の厚鋼板では、有効結晶粒径を微細するには低温かつ高圧下率の圧延を行わなければならず、圧延装置への負担が高まり、製造が困難になる。
有効結晶粒径の下限は規定しないが、本発明に係る製造方法により製造する場合には、1/4t部,1/2t部の有効結晶粒径は、それぞれ、実質的に10μm以上,15μm以上となる。
なお、1/4t部,1/2t部それぞれで平均フェライト粒径を規定する理由は、上述したように、板厚が70mmを超える厚鋼板では、圧延時のオーステナイト粒径や蓄積される歪み量が、1/4t部と板厚の1/2t部とにおいて大きく相違するためである。
(2−5)鋼中に含まれるTi酸化物の周囲にMnSを複合する複合介在物の任意の断面における複合介在物の断面積に占めるMnSの割合:10%以上90%未満、この複合介在物の周長に占めるMnSの割合:10%以上
本発明に係る厚鋼板では、介在物中のMnS量を規定する手法として、任意の切断面における複合介在物の断面積に占めるMnSの面積率を測定する。
複合介在物の断面積に占めるMnSの割合が10%未満である場合には、複合介在物中のMnSの複合量が不十分であり、十分なMn欠乏層を形成できないために粒内フェライトの生成が困難になる。
一方、複合介在物の断面積に占めるMnSの割合が90%以上である場合には、複合介在物中がMnS主体となり、Ti系酸化物の占める割合が低下してMn吸収能が低下し、Mn欠乏層を十分に形成できず、粒内フェライトの生成が困難になる。
さらに、MnSは、複合介在物の周囲からのMnの吸収が必要であるため、複合介在物の界面に存在する必要がある。複合介在物の全周長のうちMnSが占める割合が10%未満である場合は、複合介在物の周囲から十分にMnを吸収できず、Mn欠乏層を形成できないために粒内フェライトの生成が困難になる。
(2−6)径が0.5〜5.0μmの複合介在物の面分散密度:10〜100個/mm
複合介在物の径が0.5μm未満であると、周囲から吸収できるMn量が少なく、粒内フェライトの生成に必要なMn欠乏層の形成が困難になる。一方、複合介在物の径が5μmより大きいと、複合介在物自体が破壊の起点になる。このため、径が0.5〜5.0μmの複合介在物を対象とする。
安定した粒内フェライトの生成のためには、径が0.5〜5.0μmの複合介在物が旧オーステナイト内に少なくとも1つ程度含まれる必要があるため、面分散密度で10個/mm以上存在する必要がある。一方、径が0.5〜5.0μmの複合介在物が過剰に多いと破壊の起点になり易くなる。このため、径が0.5〜5.0μmの複合介在物の面分散密度は100個/mm以下である。
3.本発明に係る厚鋼板の板厚
本発明に係る板厚が70mmを超える厚鋼板は、良好なアレスト特性を有する。板厚の上限は特に設けないが、本発明によれば、板厚が120mmまでは良好なアレスト特性および継手CTOD特性を得られる。
4.本発明に係る厚鋼板の機械特性
(4−1)降伏強さ:460MPa以上、引張強さ:570〜720MPa
本発明に係る厚鋼板は、YP47級に関する。このため、本発明に係る厚鋼板の降伏強さは460MPa以上であり、引張強さは570〜720MPaである。
(4−2)アレスト特性(−10℃におけるKca値:6000N/mm1.5以上)
本発明に係る厚鋼板は、−10℃におけるKca値が6000N/mm1.5以上の優れたアレスト特性を有する鋼材に関する。Kca値は、温度勾配型のESSO試験を実施して評価する。
評価方法は、負荷応力を少なくとも3条件以上として温度勾配型のESSO試験を実施し、負荷応力と脆性亀裂長さから求まるKca値を脆性亀裂が停止した位置の温度でグラフを描画し、対数近似から−10℃におけるKca値を算出することにより、求める。
(4−3)母材靭性(破面遷移温度vTrs:−40℃以下)
本発明に係る厚鋼板の1/2t部における、Vノッチ付シャルピー衝撃試験による破面遷移温度vTrsは、−40℃以下である。
(4−4)継手靭性:試験温度−10℃での継手CTOD試験における限界亀裂進展長さδc:0.4mm以上
本発明に係る厚鋼板の継手CTOD試験における限界亀裂進展長さδcは、試験温度−10℃で0.4mm以上である。
5.本発明に係る厚鋼板の製造方法
(5−1)製鋼および連続鋳造工程
本発明に係る厚鋼板は、RH真空脱ガス装置でのTi添加前の酸素ポテンシャルOXPが10〜60ppmに制御されて鋳造された鋼片を素材として、製造される。
すなわち、本発明に係る厚鋼板の金属組織の微細化に有効な介在物は、製鋼工程におけるRH真空脱ガス処理から連続鋳造にかけての凝固過程において、鋼中に微細に分散する。
効果的に介在物を分散させるためにRH真空脱ガス処理の前にArガスを上部より溶鋼内に吹き込むバブリング処理を行い、溶鋼の表面に存在するスラグと溶鋼とを反応させることによりスラグ内のトータルFe量を調整し、溶鋼内の酸素ポテンシャルOxpを10ppm以上60ppm以下の範囲に制御する。
バブリング処理後、RH真空脱ガス装置での成分調整時には、Alを添加せずTiを添加する。これにより、Ti酸化物を鋼中に微細に分散することができる。
(5−2)鋼片加熱工程:厚さ方向の中心部で1000℃超1150℃以下
鋼片の加熱温度は、厚さ方向の中心部の温度を基準として1000℃超1150℃以下とする。
70mmを超える厚鋼板では、その表面および1/2t部間には温度差が発生するため、表面温度で管理すると、1/2t部の温度が低下していないにも関わらず次工程に進んでしまい、必要な強度、靭性およびアレスト特性を得られないおそれがある。そのため、鋼片の厚さ方向の中心部の温度を基準とする。
加熱温度が1150℃超である場合、加熱オーステナイト粒が粗大化するため、アレスト特性を得るための微細な組織を得ることが困難になる。一方、加熱温度が1000℃以下である場合、溶体化が不十分となる。鋼片の好ましい加熱温度は、1000℃超1100℃以下である。
(5−3)再結晶域圧延工程
鋼片の厚さ方向の中心部が1000℃超1150℃以下である温度域において累積圧下率で15%以上60%以下とし、各パスの平均圧下率を3.5%以上として再結晶域圧延を行う。
再結晶域圧延の温度は、厚さ方向の中心部の温度を基準として、1000℃超1150℃以下とする。厚さ方向の中心部の温度を基準とする理由は、上述したように、厚鋼板の表面および1/2t部間には温度差が発生するため、表面温度で管理すると、1/2t部の温度が低下していないにも関わらず次工程に進んでしまい、必要な強度、靭性およびアレスト特性を満足できないおそれがあるためである。
再結晶域圧延の温度が1150℃超であると、再結晶による微細なオーステナイト粒が得られず、かえって粗大化する場合がある。一方、再結晶域圧延の温度が1000℃以下であると、オーステナイトの再結晶が顕著に起こらない。
また、再結晶域圧延における累積圧下率は15%以上とする。累積圧下率が15%未満であると、鋳造時に生成したポロシティなどの内部欠陥の影響を低減できないだけでなく、製品として必要な厚鋼板の幅を得られない。
一方、再結晶域圧延における累積圧下率が高いほど、再結晶オーステナイトの微細化やオーステナイトへの圧延ひずみの導入が進行するものの、再結晶域圧延における累積圧下率が高過ぎると、再結晶域圧延に続いて行われる未再結晶域圧延での累積圧下量を確保できなくなる。このため、再結晶域圧延における累積圧下率は60%以下とする。
さらに、再結晶域圧延における各パスの平均圧下率は3.5%以上とする。各パスの平均圧下率が3.5%未満であると、内部にひずみが入らず、オーステナイトの再結晶が顕著に起こらず微細なオーステナイトを得られないだけでなく、パス数が増加して生産性が低下する。
各パスの圧下率の上限は特に設けないが、各パスでの圧下率が10%超であると、再結晶オーステナイトが粗大化することがあるため、各パスの圧下率は、好ましくは10%以下であり、さらに好ましくは4%以上である。
(5−4)冷却工程
再結晶域圧延後、鋼板を放冷する。水冷により未再結晶域まで冷却すると、表面は冷却されるものの1/2t部の冷却が進まず、表面と1/2t部の温度差が大きくなる。このような状態で未再結晶域圧延を行うと、表面の結晶粒径は小さくなるのに対し、1/2t部の結晶粒径が粗大化する。このため、表面と1/2t部の温度差を小さくし、1/2t部の結晶粒も小さくできるように、放冷する。
ここで、放冷とは、鋼板を一定時間待機させることにより冷却することを意味し、放冷の冷却速度は、1/2t部で0.1〜0.6℃/秒である。
(5−5)未再結晶域圧延工程
1/2t部の温度がAr以上950℃以下で累積圧下率40%以上、各パスの平均圧下率を5.0%以上の未再結晶域圧延を行う。
未再結晶域圧延の温度域は、1/2t部の温度を基準としてAr点以上950℃以下の温度域とする。1/2t部の温度を基準とするのは、上述したように、厚鋼板の表面および1/2t部間には温度差が発生するため、表面温度で管理すると、1/2t部の温度が低下していないにも関わらず次工程に進んでしまい、必要な強度、靭性およびアレスト特性を満足できないおそれがあるためである。
1/2t部の温度が950℃超であると、オーステナイトの扁平が得られず、冷却後に微細な組織を得られない。一方、1/2t部の温度がAr点未満であると、フェライトとオーステナイトの二相域圧延となり、表層や1/4t部で粗大なフェライトが多数生成し、所望のアレスト特性が得られなくなる。
また、未再結晶域圧延における累積圧下率が40%未満であると、CR(制御圧延)の効果が十分に得られず、微細な組織が得られなくなる。このため、未再結晶域圧延における累積圧下率は40%以上とする。
未再結晶域圧延における累積圧下率の上限は特に設けないが、板厚が70mmを超えると、未再結晶域で65%超の累積圧下率を確保しようとすると、再結晶域圧延における累積圧下率を確保できなくなるため、未再結晶域圧延における累積圧下率は65%以下であることが好ましい。
さらに、未再結晶域圧延における各パスの平均圧下率は5.0%以上とする。未再結晶域圧延における各パスの平均圧下率が5.0%未満であると、厚鋼板の内部まで圧延歪みが導入されず、微細な組織を得られないだけでなく、パス数が増加して生産性が低下する。
(5−6)未再結晶域圧延の最終パス開始温度:板表面で(Ar−20℃)〜(Ar+30℃)
さらに、未再結晶域圧延の最終パス開始温度を板表面で(Ar−20℃)〜(Ar+30℃)として圧延を完了する。
仕上げ圧延の最終パス開始温度は、板表面で(Ar−20℃)〜(Ar+30℃)とする。仕上げ圧延の最終パス開始温度が、板表面で(Ar+30℃)超であると、板表面5mm以内にアスペクト比が1.5以上の扁平な組織が形成されない。一方、仕上げ圧延の最終パス開始温度が、板表面で(Ar−20℃)未満であると、板表面5mmを超える領域にもアスペクト比が1.5以上の扁平な組織が形成され、アレスト特性が低下する。
(5−7)加速冷却工程
次いで、加速冷却を開始し、板表面の温度で550℃以下まで加速冷却を行う。
仕上げ圧延完了後に加速冷却を開始する。強度および靭性の向上の観点から加速冷却は、圧延完了後から20℃以上温度が低下する前に開始されることが好ましい。板厚が70mm超の厚鋼板では熱伝達が遅延することから1/2t部の冷却速度は1〜10℃/秒程度にしかならない。
しかし、本発明では、厚鋼板の表面の組織状態を制御するために、板表面での冷却速度を50℃/秒以上とすることが好ましい。
また、加速冷却の停止温度は、板表面の温度で550℃以下とする。加速冷却の停止温度が板表面の温度で550℃超であると、1/2t部の冷却が不十分になり、強度および靭性が低下する。そのため、室温まで冷却することが望ましい。しかし、実際の製造においては、厚鋼板の脱水素を考慮する必要があるため、さらに望ましい範囲は300〜400℃である。
(5−8)焼戻し温度:加速冷却終了後350℃〜650℃
焼戻し温度は350℃以上650℃以下である。焼戻し温度が350℃未満であると、焼戻しの効果が不十分になるとともに、350℃以上での焼戻しにより得られる効果と同等の効果を得るためには、長時間の熱処理が必要になり、工業的でない。
一方、焼戻し温度が650℃超であると、強度の低下が著しくなり、所望の強度を得られない。また、微細な析出部の生成により組織が硬化し、靭性が低下するおそれもある。焼戻し温度は、好ましくは400℃以上550℃以下である。
表1に示す化学組成を有するとともに、RH真空脱ガス装置でのTi添加前溶鋼内の酸素ポテンシャルOXPが表2に示す値に制御されて鋳造された鋼片を、厚さ方向の中心部が表2に示す加熱温度となるように加熱し、表2に示す開始温度、終了温度、累積圧下率および各パスの平均圧下率で再結晶域圧延を行った後に放冷した。
その後、表2に示す開始温度、終了温度、累積圧下率および各パスの平均圧下率で未再結晶域圧延を行い、この未再結晶域圧延の最終パス開始温度を板厚方向の表面で表2に示す温度として圧延を完了し、表2に示す板厚を有する厚鋼板とした。
次いで、表2に示す開始温度で加速冷却を開始し、表2に示す停止温度まで加速冷却を行い、一部については、さらに、表2に示す温度で熱処理(焼戻し処理)を行って、試料No.1〜36の厚鋼板を製造した。
Figure 0006645373
Figure 0006645373
試料No.1〜36の厚鋼板について、以下に列記の測定方法により、
(a)介在物(MnS面積率、MnS周長率、個数密度)
(b)金属組織(アスペクト比、フェライト分率、フェライト粒径、有効結晶粒径)
(c)降伏強さおよび引張強さ
(d)母材靭性
(e)アレスト特性
(f)継手CTOD特性
を測定した。
(a)介在物中のMnS面積率、MnS周長率、個数密度の測定方法
介在物分析用の試験片は、試料No.1〜36の厚鋼板の1/4t部より採取した。
介在物は、電子プローブマイクロアナライザー(EPMA)を用い、介在物を面分析し、マッピング画像からMnS面積率および周長に占めるMnSの割合を測定した。MnS面積率および介在物周長に占めるMnS割合は、各供試材につき20個ずつEPMAによる分析を行い、平均値を算出することにより、求めた。
また、介在物の個数密度は、SEM−EDXを組み合わせた自動介在物分析装置により分析し、検出された介在物の形状測定データから粒子径が0.5〜5μmの範囲である介在物の個数密度を算出することにより、求めた。
(b)金属組織(アスペクト比、フェライト分率、フェライト粒径、有効結晶粒径)の測定方法
試料No.1〜36の厚鋼板の1/4t,1/2t部よりサンプルを切り出し、ナイタール腐食した組織を光学顕微鏡の500倍で撮影し、フェライトの面積率および結晶粒径と表層5mm以内のアスペクト比を測定して求めた。また,有効結晶粒径はコロイダルシリカで仕上げたサンプルを1mm×2mmの領域を2μmステップでEBSD測定し、15°傾角を粒界として測定して求めた。
(c)降伏強さおよび引張強さの測定方法
試料No.1〜36の厚鋼板1/4t,1/2t部よりJIS5号引張試験片を切り出し、引張試験を行うことにより、板厚の1/4t部,1/2t部それぞれにおける降伏強さおよび引張強さを測定して求めた。降伏強さ:460MPa以上、引張強さ:570〜720MPaを合格とした。
(d)母材靭性の測定方法
試料No.1〜36の厚鋼板の表面,1/4t部,1/2t部それぞれから試験片を切り出し、Vノッチ付シャルピー衝撃試験を行って破面遷移温度vTrsを求めた。破面遷移温度vTrsが−40℃以下を合格とした。
(e)アレスト特性
試料No.1〜36の厚鋼板から試験片を切り出し、負荷応力を3条件として温度勾配型のESSO試験を実施し、負荷応力と脆性亀裂長さから求まるKca値を脆性亀裂が停止した位置の温度でグラフを描画し、対数近似から−10℃におけるKca値を算出することによりKca値を求めた。−10℃におけるKca値:6000N/mm1.5以上を合格とした。
(f)継手CTOD特性の評価方法
作成した厚鋼板からCTOD試験用の試験片をn=3で採取後、開先加工を施し、サブマージアーク溶接(SAW)により入熱5.0kJ/mmで多層溶接を行って溶接継手を作成した。作成した溶接継手のHAZ部にノッチ加工を施し試験温度−10℃でBS7448規格準拠にてCTOD試験を行った。試験結果の良否はCTOD試験結果にて判定し、
◎:3本共にゲージオーバー(取り付けたクリップゲージが限界まで開ききること)
○:3本の内1本もしくは2本がゲージオーバーで、残りが0.4mm以上
×:3本の内1つでも0.4mm未満
の3水準の判定基準を設定し、○以上を合格とした。
測定結果を表1,3にまとめて示す。
Figure 0006645373
表3における試料No.1〜9は、本発明で規定する条件を全て満足する本発明例であり、試料No.10〜36は、本発明で規定する条件を満足しない比較例である。
試料No.1〜9は、いずれも、板厚が70mmを超え、降伏強さ:460MPa以上、引張強さ:570〜720MPa、破面遷移温度vTrs:−40℃以下、−10℃におけるKca値:6000N/mm1.5以上、試験温度−10℃での継手CTOD試験における限界亀裂進展長さδc:0.4mm以上の機械特性を有している。
このため、試料No.1〜9は、板厚が70mmを超える、優れたアレスト特性および継手CTOD特性を有する高強度の厚鋼板であり、例えば、大型構造用鋼、特に船舶用として使用されるのに十分な継手CTOD特性を有し、かつアレスト特性に優れた、板厚が70mm超の高強度の厚鋼板である。
これに対し、試料No.10は、C含有量が本発明の範囲の上限を上回るため、焼入れ性が著しく高まり、フェライト生成量、母材靱性、アレスト特性および継手CTOD特性がいずれも低下した。
試料No.11は、Mn含有量が本発明の範囲の下限を下回るため、焼入れ性が低下し、強度が不足した。
試料No.12は、Mn含有量が本発明の範囲の上限を上回るため、焼入れ性が著しく高まり、フェライト生成量、母材靱性、アレスト特性および継手CTOD特性がいずれも低下した。
試料No.13は、S含有量が本発明の範囲の下限を下回るため、介在物に占めるMnSの面積率および周長率が低下し、継手CTOD特性が低下した。
試料No.14は、S含有量が本発明の範囲の上限を上回るため、介在物に占めるMnSの面積率および周長率が過剰となり、継手CTOD特性が低下した。
試料No.15は、Cu含有量が本発明の範囲の上限を上回るため、Cuチェッキングにより表面の靭性が低下するとともに、Cu析出により内部の靭性が低下し、アレスト特性が低下した。
試料No.16は、Nb含有量が本発明の範囲の上限を上回るため、析出物が増加して靭性が低下し、アレスト特性が低下した。
試料No.17は、Ti含有量が本発明の範囲の下限を下回るため、粒内変態に有効な介在物の個数密度が不足し、継手CTOD特性が低下した。
試料No.18は、Ti含有量が本発明の範囲の上限を上回るため、析出物が増加して靭性が低下し、アレスト特性が低下した。
試料No.19は、sol.Al含有量が本発明の範囲の上限を上回るため、粒内変態に有効な介在物(Ti系酸化物)の個数密度が不足し、継手CTOD特性が低下した。
試料No.20は、RH真空脱ガス処理時の酸素ポテンシャルが本発明の範囲の下限を下回ったため、O量が少なくなり、粒内変態に有効な介在物(Ti系介在物)の個数密度が不足し、継手CTOD特性が低下した。
試料No.21は、RH真空脱ガス処理時の酸素ポテンシャルが本発明の範囲の上限を上回ったため、O量が多くなり、鋼中に粗大な介在物(Ti系介在物)が増加し、継手CTOD特性が低下した。
試料No.22は、炭素当量Ceqが本発明の範囲の上限を上回るため、焼入れ性が著しく高まり、フェライトの生成量、母材靱性、アレスト特性、および継手CTOD特性がいずれも低下した。
試料No.23は、Mo含有量が本発明の範囲の上限を上回るため、焼入れ性が著しく高まり、フェライト生成量、母材靱性、アレスト特性、および継手CTOD特性がいずれも低下した。
試料No.24は、鋼片の加熱温度が本発明の範囲の上限を上回るため、初期オーステナイト粒径が粗大化し、焼きが入り易くなったことによりフェライト生成量が低下し、またオーステナイト粒が大きいことに起因して平均有効結晶粒径が粗大化して、アレスト特性が低下した。
試料No.25は、再結晶域圧延での累積圧下率が本発明の範囲の上限を上回るためにオーステナイト粒径が微細化したものの、未再結晶域での累積圧下率が本発明の範囲の下限を下回ったため、有効結晶粒径の微細化が達成されず、アレスト特性が低下した。
試料No.26は、再結晶域圧延での累積圧下率が本発明の範囲の下限を下回るため、また、試料No.27は、再結晶域圧延での平均圧下率が本発明の範囲の下限を下回るため、いずれも、オーステナイトの微細化が進行せず、有効結晶粒径の微細化が達成されず、アレスト特性が低下した。
試料No.28は、未再結晶域圧延での圧延開始温度が本発明の範囲の上限を上回るため、圧延初期に未再結晶域での圧下が実質的に行われておらず、オーステナイト内部へのひずみの蓄積が十分進まなかったため、有効結晶粒径の微細化が達成されず、アレスト特性が低下した。
試料No.29は、未再結晶域圧延での圧延終了温度が本発明の範囲の下限を下回っているため、粗大なフェライトが多数生成し、強度が低下するだけでなく、アレスト特性も低下した。
試料No.30は、未再結晶域圧延での累積圧下率が本発明の範囲の下限を下回るため、オーステナイト内部へのひずみの蓄積が進行せず、有効結晶粒径の微細化が達成されず、アレスト特性が低下した。
試料No.31は、未再結晶域圧延での平均圧下率が本発明の範囲の下限を下回るため、オーステナイト内部へのひずみの蓄積が進行せず、有効結晶粒径の微細化が達成されず、アレスト特性が低下した。
試料No.32は、未再結晶域圧延の最終パス開始温度が本発明の範囲の上限を上回るため、表面の伸長組織が未発達となり、アレスト特性が低下した。
試料No.33は、未再結晶域圧延の最終パス開始温度が本発明の範囲の下限を下回るため、表面の伸長組織は発達するものの、内部の温度が高いため、オーステナイト内部へのひずみの蓄積が進行せず、有効結晶粒径の微細化が達成されず、アレスト特性が低下した。
試料No.34は、冷却停止温度が本発明の範囲の上限を上回るため、内部組織に焼きが入らず、強度が低下した。
試料No.35は、熱処理温度が本発明の範囲の下限を下回るため、生成した島状マルテンサイト(MA)が熱処理により分解せず、靭性が低下し、アレスト特性が低下した。
さらに、試料No.36は、熱処理温度が本発明の範囲の上限を上回り2相域まで加熱されたため、島状マルテンサイト(MA)が生成され、靭性、アレスト特性および強度がいずれも低下した。

Claims (6)

  1. 化学組成が、質量%で、
    C :0.04〜0.12%、
    Si:0.05〜0.50%、
    Mn:1.30〜2.20%、
    P :0.020%以下、
    S :0.0010〜0.0100%、
    Cu:0.05〜1.00%、
    Ni:0.05〜1.50%、
    Nb:0.005〜0.050%、
    Ti:0.005〜0.050%、
    sol.Al:0.005%以下、
    O :0.0010〜0.0050%、
    N:0.0010〜0.0100%、
    Cr:0〜0.50%、
    Mo:0〜0.35%、
    V :0〜0.15%、
    B :0〜0.0030%、
    Ca:0〜0.010%、
    Mg:0〜0.0050%、
    REM:0〜0.0050%
    を含有し、残部がFeおよび不純物であり、
    下記(1)式で示される炭素当量Ceq.が0.40〜0.52であり、
    以下に規定する(a)〜(f)を満足するとともに、
    板厚が70mm超である、厚鋼板。
    Ceq.=C+Mn/6+(Cu+Ni)/15+(Cr+Mo+V)/5 ・・・(1)
    (a)表層5mm以内の組織は圧延方向に伸長した組織であり、該組織の平均アスペクト比が1.5以上である。
    (b)内部の金属組織はフェライトとベイナイトの複合組織であり、板厚の1/4の深さ位置である1/4t部のフェライト分率:面積率で5.0〜35%、板厚の1/2の深さ位置である1/2t部のフェライト組織分率:面積率で3.0〜40%、各板厚位置でベイナイトおよびフェライト以外の組織:面積率で5%未満(0%を含む)のパーライト、マルテンサイトまたはMA(島状マルテンサイト)の1種以上を含む。
    (c)前記1/4t部の平均フェライト粒径:10μm以下、前記1/2t部の平均フェライト粒径:12μm以下である。
    (d)前記1/4t部の有効結晶粒径:22.0μm以下、前記1/2t部の有効結晶粒径:32.0μm以下である。
    (e)鋼中に含まれるTi酸化物の周囲にMnSを複合する複合介在物であり、任意の断面で現出させた複合介在物の断面積に占めるMnSの割合:面積率で10%以上90%未満、介在物の周長に占めるMnSの割合:10%以上である。
    (f)0.5〜5.0μmの前記複合介在物の面分散密度:10〜100個/mmである。
  2. さらに、質量%で、
    Cr:0.05〜0.50%、
    Mo:0.05〜0.35%、および
    V:0.005〜0.15%
    の1種以上を含有する、請求項1に記載の厚鋼板。
  3. さらに、質量%で、
    B:0.0003〜0.0030%
    を含有する、請求項1または2に記載の厚鋼板。
  4. さらに、質量%で、
    Ca:0.0005〜0.010%、
    Mg:0.0005〜0.0050%、および
    REM:0.0005〜0.0050%
    の1種以上を含有する、請求項1〜3のいずれかに記載の厚鋼板。
  5. RH真空脱ガス装置でのTi添加前溶鋼内の酸素ポテンシャルOXPが10〜60ppmに制御されて鋳造された鋼片を用い、
    該鋼片を、厚さ方向の中心部が1000℃超1150℃以下になるように、加熱し、
    該鋼片の厚さ方向の中心部が1000℃超1150℃以下にある時に、該鋼片に累積圧下率15〜60%、および各パスの平均圧下率3.5%以上の再結晶域圧延を行った後、
    放冷し、
    前記1/2t部の温度がAr以上950℃以下にある時に、累積圧下率40%以上、および各パスの平均圧下率5.0%以上の未再結晶域圧延を行い、
    さらに、該未再結晶域圧延の最終パス開始温度を板表面の温度で(Ar−20)〜(Ar+30)℃として圧延を完了し、
    次いで、加速冷却を開始し、板表面の温度で550℃以下まで加速冷却を行う、
    請求項1〜4のいずれかに記載の厚鋼板の製造方法。
  6. 前記加速冷却の終了後、350℃〜650℃の温度で焼戻し処理する、請求項5に記載の厚鋼板の製造方法。
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