JPH0776722A - 硫化物割れ抵抗性に優れたマルテンサイト系ステンレス鋼の製造方法 - Google Patents
硫化物割れ抵抗性に優れたマルテンサイト系ステンレス鋼の製造方法Info
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- JPH0776722A JPH0776722A JP22617293A JP22617293A JPH0776722A JP H0776722 A JPH0776722 A JP H0776722A JP 22617293 A JP22617293 A JP 22617293A JP 22617293 A JP22617293 A JP 22617293A JP H0776722 A JPH0776722 A JP H0776722A
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Abstract
(57)【要約】
【目的】 耐硫化物割れ性に優れ且つ低廉なマルテンサ
イト系ステンレス鋼の製造方法を提供する。 【構成】 SUS420をベースとした鋼(必要に応じ
てN,Ca,Mg,REMを添加)において、通常の焼
準−焼戻の間にAc1 〜Ac3 の中間温度域に加熱した
後Ms 点以下まで冷却する熱処理工程を挿入することに
よって耐硫化物割れ性を改善する。 【効果】 NiやMoなど耐食性向上には有効であるが
高価な合金元素を含まない鋼の硫化物割れ抵抗性を大幅
に向上させ得る。
イト系ステンレス鋼の製造方法を提供する。 【構成】 SUS420をベースとした鋼(必要に応じ
てN,Ca,Mg,REMを添加)において、通常の焼
準−焼戻の間にAc1 〜Ac3 の中間温度域に加熱した
後Ms 点以下まで冷却する熱処理工程を挿入することに
よって耐硫化物割れ性を改善する。 【効果】 NiやMoなど耐食性向上には有効であるが
高価な合金元素を含まない鋼の硫化物割れ抵抗性を大幅
に向上させ得る。
Description
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、油井管用継目無鋼管を
始め棒鋼、鋼板、型鋼などに用いられる場合に問題とな
る硫化物割れに対し優れた抵抗性を有するマルテンサイ
ト系ステンレス鋼の製造方法に関するものである。
始め棒鋼、鋼板、型鋼などに用いられる場合に問題とな
る硫化物割れに対し優れた抵抗性を有するマルテンサイ
ト系ステンレス鋼の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】マルテンサイト系ステンレス鋼中でもS
US420J1 に代表されるマルテンサイト系ステンレ
ス鋼(C:0.16〜0.25%、Si:<1.05、
Mn:<1.0%、P:<0.040%、S:<0.0
30%、Cr:12〜14%、Fe:残)はCO2 に対
する耐食性が優れるため、CO2 含有油ガス井開発用の
油井管に用いられているが、硫化物割れに対する感受性
が高いため、その適用はCO2 環境に限定され分圧で約
0.001atm 以上のH2 Sを含有する油ガス井に対す
る適用が極力避けられている。このようなH2 S含有環
境に対しては、より耐硫化物割れ性に優れた2相ステン
レス鋼が適用されてきた。しかしながら、2相ステンレ
ス鋼は高価であるため、CO2 耐食性を維持しながら、
さらにできるだけ廉価で且つ硫化物割れ抵抗性の高い材
料への要求が高まってきている。
US420J1 に代表されるマルテンサイト系ステンレ
ス鋼(C:0.16〜0.25%、Si:<1.05、
Mn:<1.0%、P:<0.040%、S:<0.0
30%、Cr:12〜14%、Fe:残)はCO2 に対
する耐食性が優れるため、CO2 含有油ガス井開発用の
油井管に用いられているが、硫化物割れに対する感受性
が高いため、その適用はCO2 環境に限定され分圧で約
0.001atm 以上のH2 Sを含有する油ガス井に対す
る適用が極力避けられている。このようなH2 S含有環
境に対しては、より耐硫化物割れ性に優れた2相ステン
レス鋼が適用されてきた。しかしながら、2相ステンレ
ス鋼は高価であるため、CO2 耐食性を維持しながら、
さらにできるだけ廉価で且つ硫化物割れ抵抗性の高い材
料への要求が高まってきている。
【0003】従来、このニーズに対応すべく幾つかの鋼
種が開発されてきている。たとえば「材料とプロセス,
Vol.4(1991)−801」に見られるように、
0.02C−0.13Si−0.46Mn−4.96N
i−12.89Cr−2.0Moの成分系の鋼では、S
US420J1 鋼の割れ発生限界H2 S分圧0.003
atm に対し、0.03atm 程度まで改善されることが述
べられている。しかしながら、SUS420J1 鋼に比
べてNiを約5%、Moを2%(これらの添加量は2相
ステンレス鋼の添加量:Ni5〜7%、Mo3%にかな
り近い)も添加するためかなり高価になる上、改善され
た許容H2 S分圧は僅か1桁であることから、必ずしも
市場ニーズを満足させるものではなかった。
種が開発されてきている。たとえば「材料とプロセス,
Vol.4(1991)−801」に見られるように、
0.02C−0.13Si−0.46Mn−4.96N
i−12.89Cr−2.0Moの成分系の鋼では、S
US420J1 鋼の割れ発生限界H2 S分圧0.003
atm に対し、0.03atm 程度まで改善されることが述
べられている。しかしながら、SUS420J1 鋼に比
べてNiを約5%、Moを2%(これらの添加量は2相
ステンレス鋼の添加量:Ni5〜7%、Mo3%にかな
り近い)も添加するためかなり高価になる上、改善され
た許容H2 S分圧は僅か1桁であることから、必ずしも
市場ニーズを満足させるものではなかった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記の問題
点を解消しようとするもので、油井管などに用いられる
際に問題となる硫化物割れに対する抵抗性に優れ且つ低
廉なマルテンサイト系ステンレス鋼の製造方法を提供す
ることを目的とするものである。
点を解消しようとするもので、油井管などに用いられる
際に問題となる硫化物割れに対する抵抗性に優れ且つ低
廉なマルテンサイト系ステンレス鋼の製造方法を提供す
ることを目的とするものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】一般に、炭素鋼、低合金
鋼の分野では鋼の硫化物割れ抵抗性は、鋼強度に依存
し、低強度材ほど優れている。マルテンサイト系ステン
レス鋼についても同様であると考えられる。しかしなが
ら、従来の製造方法(焼準−焼戻処理を施す方法)では
耐力として55〜60kg/mm2 以下にすることができ
ず、必然的に得られる硫化物割れ抵抗性にも限界があ
る。そこで、本発明者らは、従来レベル以下にまで鋼強
度を低下させる手段を研究した結果、マルテンサイト主
体の組織からなる鋼を素材としてAc3 〜Ac1 の中間
温度域に加熱した後Ms 点以下の温度まで冷却する熱処
理工程(2相域熱処理)を施しさらに引き続いて焼戻処
理を行うことが有効であることを知見した。
鋼の分野では鋼の硫化物割れ抵抗性は、鋼強度に依存
し、低強度材ほど優れている。マルテンサイト系ステン
レス鋼についても同様であると考えられる。しかしなが
ら、従来の製造方法(焼準−焼戻処理を施す方法)では
耐力として55〜60kg/mm2 以下にすることができ
ず、必然的に得られる硫化物割れ抵抗性にも限界があ
る。そこで、本発明者らは、従来レベル以下にまで鋼強
度を低下させる手段を研究した結果、マルテンサイト主
体の組織からなる鋼を素材としてAc3 〜Ac1 の中間
温度域に加熱した後Ms 点以下の温度まで冷却する熱処
理工程(2相域熱処理)を施しさらに引き続いて焼戻処
理を行うことが有効であることを知見した。
【0006】本発明はこの知見に基づくものであって、
その要旨は、重量%で C :0.1〜0.3%、 Si:<1.0%、M
n:0.1〜1.0%、 P :<0.02%、S
:<0.01%、 Cr:11〜14%、N
i:<0.5%を含有し、必要によってはN:0.01
〜0.1%、あるいはさらにCa,Mg,REMの1種
または2種以上でそれぞれ0.001〜0.03%を含
有し、残部が実質的に鉄からなり、且つマルテンサイト
主体の組織からなる鋼を、Ac3 とAc1 の間の温度に
加熱した後、Ms 点以下の温度まで冷却し、さらに、A
c1 以下の温度に加熱してから常温まで冷却する硫化物
割れ抵抗性に優れたマルテンサイト系ステンレス鋼の製
造法である。
その要旨は、重量%で C :0.1〜0.3%、 Si:<1.0%、M
n:0.1〜1.0%、 P :<0.02%、S
:<0.01%、 Cr:11〜14%、N
i:<0.5%を含有し、必要によってはN:0.01
〜0.1%、あるいはさらにCa,Mg,REMの1種
または2種以上でそれぞれ0.001〜0.03%を含
有し、残部が実質的に鉄からなり、且つマルテンサイト
主体の組織からなる鋼を、Ac3 とAc1 の間の温度に
加熱した後、Ms 点以下の温度まで冷却し、さらに、A
c1 以下の温度に加熱してから常温まで冷却する硫化物
割れ抵抗性に優れたマルテンサイト系ステンレス鋼の製
造法である。
【0007】以下、本発明について詳細に説明する。先
ず、成分の限定理由を述べる。 C:Cはマルテンサイト系ステンレス鋼の必須元素であ
り、少な過ぎると熱間加工時にδフェライトが析出し表
面疵の発生を招く。また、多過ぎると熱処理時にCr炭
化物が多量に析出し、耐食性に有効な固溶Cr量の低下
をもたらす。このことから0.1〜0.3%に限定し
た。 Si:Siは鋼の脱酸目的から添加して鋼中に残留する
成分でフェライトを安定化させるが、過剰な添加は熱間
加工性に有害なδフェライトの生成を招くため、その上
限を1.0%とした。
ず、成分の限定理由を述べる。 C:Cはマルテンサイト系ステンレス鋼の必須元素であ
り、少な過ぎると熱間加工時にδフェライトが析出し表
面疵の発生を招く。また、多過ぎると熱処理時にCr炭
化物が多量に析出し、耐食性に有効な固溶Cr量の低下
をもたらす。このことから0.1〜0.3%に限定し
た。 Si:Siは鋼の脱酸目的から添加して鋼中に残留する
成分でフェライトを安定化させるが、過剰な添加は熱間
加工性に有害なδフェライトの生成を招くため、その上
限を1.0%とした。
【0008】Mn:Mnの0.1%の添加は熱間加工性
に有害なSを固定するのに有効であるが1.0%より過
剰な含有は耐硫化物割れ性を劣化させる。したがって、
その含有量を0.1〜1.0%とした。 P:Pは熱間加工性および耐硫化物割れ性に有害である
ため可及的に低レベルが望ましい。ただし、0.02%
以下の含有は実用上問題のないレベルである。 S:SはPと同様に熱間加工性および耐硫化物割れ性に
悪影響をもたらす不純物元素であるため可及的に低レベ
ルが望ましい。しかしながら、0.01%以下では実用
上の問題がない。
に有害なSを固定するのに有効であるが1.0%より過
剰な含有は耐硫化物割れ性を劣化させる。したがって、
その含有量を0.1〜1.0%とした。 P:Pは熱間加工性および耐硫化物割れ性に有害である
ため可及的に低レベルが望ましい。ただし、0.02%
以下の含有は実用上問題のないレベルである。 S:SはPと同様に熱間加工性および耐硫化物割れ性に
悪影響をもたらす不純物元素であるため可及的に低レベ
ルが望ましい。しかしながら、0.01%以下では実用
上の問題がない。
【0009】Cr:Crの11%以上は耐食性を向上さ
せる。しかし、14%を超える過剰な添加はδフェライ
トの生成を促進し熱間加工性を低下させる。したがって
11〜14%に限定した。 Ni:Niはオーステナイト安定化元素であり熱間加工
時のδフェライト析出を抑制すると共にCO2 環境での
全面腐食を抑制するのに有効な元素であるが、0.5%
を超えて含有させると耐硫化物割れ性が低下することか
ら、その上限を0.5%とした。
せる。しかし、14%を超える過剰な添加はδフェライ
トの生成を促進し熱間加工性を低下させる。したがって
11〜14%に限定した。 Ni:Niはオーステナイト安定化元素であり熱間加工
時のδフェライト析出を抑制すると共にCO2 環境での
全面腐食を抑制するのに有効な元素であるが、0.5%
を超えて含有させると耐硫化物割れ性が低下することか
ら、その上限を0.5%とした。
【0010】上記のような鋼成分と後述する本発明にお
ける熱処理によって耐硫化物割れ性の優れたステンレス
鋼を提供する。さらに本発明は、鋼の性質を向上させる
ために、NあるいはCa,Mg,REMなどを選択して
含有させることができる。 N:Nは強力なオーステナイト安定化元素であり熱間加
工時のδフェライトの生成を抑制し熱間加工時の疵発生
を抑制するが、その効果は0.01%未満の少ない含有
量では不十分である。また0.1%を超えて含有される
と鋳造時に欠陥を生じることがある。したがって、Nの
含有量を0.01〜0.1%とした。 Ca,Mg,REM:これらは、いずれもSによる熱間
加工性低下を抑制するものである。しかしその含有量が
0.001%未満ではその効果は発揮されず、反対に
0.3%を超えて含有しても効果は飽和するため0.0
01〜0.3%とした。
ける熱処理によって耐硫化物割れ性の優れたステンレス
鋼を提供する。さらに本発明は、鋼の性質を向上させる
ために、NあるいはCa,Mg,REMなどを選択して
含有させることができる。 N:Nは強力なオーステナイト安定化元素であり熱間加
工時のδフェライトの生成を抑制し熱間加工時の疵発生
を抑制するが、その効果は0.01%未満の少ない含有
量では不十分である。また0.1%を超えて含有される
と鋳造時に欠陥を生じることがある。したがって、Nの
含有量を0.01〜0.1%とした。 Ca,Mg,REM:これらは、いずれもSによる熱間
加工性低下を抑制するものである。しかしその含有量が
0.001%未満ではその効果は発揮されず、反対に
0.3%を超えて含有しても効果は飽和するため0.0
01〜0.3%とした。
【0011】次に、本発明の熱処理条件について説明す
る。本発明の熱処理は、図1および図2で説明するよう
に各形状に熱間加工(A)した後、必要によってはAc
3 以上の温度に加熱する焼準処理(B)を施して、Ac
3 とAc1 の温度域に加熱する2相域熱処理(C)とA
c1 以下の温度に加熱する焼戻処理(D)によって構成
される。このうち、2相域熱処理は、加熱時にγ単相と
して組織を均一化する目的の従来の焼準処理とは異な
り、加熱時にα相とγ相の2相を存在させることにより
α相のCをγ相に分配させα相のC濃度を低下させるこ
とによる強度低下を目的とした処理である。ここでいう
α相とは焼戻マルテンサイト、フェライトおよび両者の
混合組織を総称するものである。また、その後の焼戻処
理は2相域加熱時のγ相の軟化を目的としたものであ
る。
る。本発明の熱処理は、図1および図2で説明するよう
に各形状に熱間加工(A)した後、必要によってはAc
3 以上の温度に加熱する焼準処理(B)を施して、Ac
3 とAc1 の温度域に加熱する2相域熱処理(C)とA
c1 以下の温度に加熱する焼戻処理(D)によって構成
される。このうち、2相域熱処理は、加熱時にγ単相と
して組織を均一化する目的の従来の焼準処理とは異な
り、加熱時にα相とγ相の2相を存在させることにより
α相のCをγ相に分配させα相のC濃度を低下させるこ
とによる強度低下を目的とした処理である。ここでいう
α相とは焼戻マルテンサイト、フェライトおよび両者の
混合組織を総称するものである。また、その後の焼戻処
理は2相域加熱時のγ相の軟化を目的としたものであ
る。
【0012】熱処理に供する素材は、鋳造品であれ熱間
加工品や熱処理品であれ、高温から一旦Ms 点以下の温
度まで冷却されたマルテンサイト主体の組織からなる鋼
でなければならない。ここでいうマルテンサイト主体の
組織とは、完全マルテンサイト組織またはマルテンサイ
トに一部フェライトを含む組織である。鋳造後や熱間加
工後のMs 点以上の温度では鋼は通常γ相主体の組織で
あり、この状態から2相域温度に入っても多量のα相を
析出させることは困難である上、炭化物が優先的に析出
成長するため著しい耐硫化物割れ性劣化、靭性劣化、耐
CO2 腐食性劣化などの問題を招く。
加工品や熱処理品であれ、高温から一旦Ms 点以下の温
度まで冷却されたマルテンサイト主体の組織からなる鋼
でなければならない。ここでいうマルテンサイト主体の
組織とは、完全マルテンサイト組織またはマルテンサイ
トに一部フェライトを含む組織である。鋳造後や熱間加
工後のMs 点以上の温度では鋼は通常γ相主体の組織で
あり、この状態から2相域温度に入っても多量のα相を
析出させることは困難である上、炭化物が優先的に析出
成長するため著しい耐硫化物割れ性劣化、靭性劣化、耐
CO2 腐食性劣化などの問題を招く。
【0013】本発明で必要とする熱処理前のマルテンサ
イト主体の組織は、前処理の如何に関わらず鋼をMs 点
以下の温度に冷却した場合に得られる。すなわち、本発
明の成分系では、鋳造後放冷された鋼塊、熱間加工後放
冷された鋼材、焼準処理や焼戻処理された鋼材など、い
ずれも一旦常温(Ms 点以下の温度)まで冷却された場
合にはマルテンサイト主体の組織が得られる。
イト主体の組織は、前処理の如何に関わらず鋼をMs 点
以下の温度に冷却した場合に得られる。すなわち、本発
明の成分系では、鋳造後放冷された鋼塊、熱間加工後放
冷された鋼材、焼準処理や焼戻処理された鋼材など、い
ずれも一旦常温(Ms 点以下の温度)まで冷却された場
合にはマルテンサイト主体の組織が得られる。
【0014】本発明における2相域熱処理は、上述の如
く、α相主体の他にγ相を少量析出させることによりα
相のC濃度を低下させ軟化させることを目的に行う。こ
の2相域加熱によって析出するγ相は周辺のα相のCを
吸収する。このため周辺のα相はC濃度が低下すること
により大幅に軟化され、この状態は焼戻処理後まで引き
継がれる。一方、γ相中のC濃度は従来の焼準処理にお
ける場合よりも高いが、γ相の分率は小さいため鋼の平
均的な強度は主に周辺のα相の強度低下に引きずられて
低下する。しかしながら、2相域熱処理ままでは、分率
が小さいながらも局所的に高強度のマルテンサイト(旧
γ相)が存在する。この状態では、耐硫化物割れ性や靭
性が不十分である。このため、この少量のマルテンサイ
トを軟化させる必要がある。すなわち、Ac1 以下の温
度に再加熱することによりマルテンサイトを焼戻すこと
が必要である。
く、α相主体の他にγ相を少量析出させることによりα
相のC濃度を低下させ軟化させることを目的に行う。こ
の2相域加熱によって析出するγ相は周辺のα相のCを
吸収する。このため周辺のα相はC濃度が低下すること
により大幅に軟化され、この状態は焼戻処理後まで引き
継がれる。一方、γ相中のC濃度は従来の焼準処理にお
ける場合よりも高いが、γ相の分率は小さいため鋼の平
均的な強度は主に周辺のα相の強度低下に引きずられて
低下する。しかしながら、2相域熱処理ままでは、分率
が小さいながらも局所的に高強度のマルテンサイト(旧
γ相)が存在する。この状態では、耐硫化物割れ性や靭
性が不十分である。このため、この少量のマルテンサイ
トを軟化させる必要がある。すなわち、Ac1 以下の温
度に再加熱することによりマルテンサイトを焼戻すこと
が必要である。
【0015】本発明における焼戻処理は、上述の如く、
2相域熱処理によって生成した少量のマルテンサイトを
軟化させて満足すべき耐硫化物割れ性、靭性を得ること
を目的として行うものであり、Ac1 以下の温度に再加
熱した後常温まで冷却する処理である。Ac1 以下の温
度に限定する理由は、高温時にγ相を現出させないため
である。もしAc1 以上に加熱すれば高温でγ相が現わ
れ、このγは冷却した後マルテンサイトに変態する。こ
の現象は2相域熱処理と同じであり、このような処理を
繰り返しても耐硫化物割れ性や靭性は向上しない。
2相域熱処理によって生成した少量のマルテンサイトを
軟化させて満足すべき耐硫化物割れ性、靭性を得ること
を目的として行うものであり、Ac1 以下の温度に再加
熱した後常温まで冷却する処理である。Ac1 以下の温
度に限定する理由は、高温時にγ相を現出させないため
である。もしAc1 以上に加熱すれば高温でγ相が現わ
れ、このγは冷却した後マルテンサイトに変態する。こ
の現象は2相域熱処理と同じであり、このような処理を
繰り返しても耐硫化物割れ性や靭性は向上しない。
【0016】以上の熱処理によって得られる鋼は、従来
の焼準−焼戻処理による鋼に比べて遥かに低い強度を示
し、その結果として耐硫化物割れ性や靭性が大幅に改善
されると共に、油井管として使用される場合に重要な耐
CO2 腐食性を損なうことがない。
の焼準−焼戻処理による鋼に比べて遥かに低い強度を示
し、その結果として耐硫化物割れ性や靭性が大幅に改善
されると共に、油井管として使用される場合に重要な耐
CO2 腐食性を損なうことがない。
【0017】
【実施例】本発明を実施例に基づいてさらに説明する。
表1に示す化学成分の鋼を供試材とした。この鋼のAc
1 は780℃、Ac3は900℃、Ms 点は290℃で
ある。熱間圧延材に対し、先ず990℃に15分間保定
した後空冷の条件でMs 点以下の温度である室温まで冷
却してマルテンサイト主体の組織(微量のフェライトを
含む)を形成させ、その後800〜880℃の2相温度
域(Ac1 とAc3 の間)に30分間保定した後空冷に
て室温(Ms 点以下)まで冷却する2相域熱処理を行
い、さらに引き続き750〜600℃(Ac1 以下)に
30分保定した後、空冷の条件で室温まで冷却する焼戻
処理を施した。この処理工程は上述の図2の工程と同一
である。
表1に示す化学成分の鋼を供試材とした。この鋼のAc
1 は780℃、Ac3は900℃、Ms 点は290℃で
ある。熱間圧延材に対し、先ず990℃に15分間保定
した後空冷の条件でMs 点以下の温度である室温まで冷
却してマルテンサイト主体の組織(微量のフェライトを
含む)を形成させ、その後800〜880℃の2相温度
域(Ac1 とAc3 の間)に30分間保定した後空冷に
て室温(Ms 点以下)まで冷却する2相域熱処理を行
い、さらに引き続き750〜600℃(Ac1 以下)に
30分保定した後、空冷の条件で室温まで冷却する焼戻
処理を施した。この処理工程は上述の図2の工程と同一
である。
【0018】熱処理条件および耐力を表2に示す。これ
より、Vノッチ付き4点曲げ試験片を採取し応力を付加
した状態で、72時間にわたり試験溶液に浸漬し硫化物
割れ発生有無を評価した。付加応力はノッチによる応力
集中を考慮せずに200kg/mm2 とした。試験溶液はN
aClを濃度3%で含有し酢酸および酢酸ナトリウムで
pHを3.5に調整した25℃の溶液に0.01〜1at
m の分圧でH2 Sガスを飽和させて用いた。
より、Vノッチ付き4点曲げ試験片を採取し応力を付加
した状態で、72時間にわたり試験溶液に浸漬し硫化物
割れ発生有無を評価した。付加応力はノッチによる応力
集中を考慮せずに200kg/mm2 とした。試験溶液はN
aClを濃度3%で含有し酢酸および酢酸ナトリウムで
pHを3.5に調整した25℃の溶液に0.01〜1at
m の分圧でH2 Sガスを飽和させて用いた。
【0019】割れ有無を表3に示す。これより本発明に
よれば(No.1〜20)、従来の焼準−焼戻を行う比較
例に比べて遥かに耐硫化物割れ性に優れていることが明
らかである。なお、No.25は、熱処理条件は本発明の
範囲にあるがNi量が本発明範囲を外れているため満足
すべき耐硫化物割れ性が得られない。
よれば(No.1〜20)、従来の焼準−焼戻を行う比較
例に比べて遥かに耐硫化物割れ性に優れていることが明
らかである。なお、No.25は、熱処理条件は本発明の
範囲にあるがNi量が本発明範囲を外れているため満足
すべき耐硫化物割れ性が得られない。
【0020】
【表1】
【0021】
【表2】
【0022】
【表3】
【0023】
【発明の効果】以上のように、本発明によって耐硫化物
割れ性に優れたマルテンサイト系ステンレス鋼が得られ
る。
割れ性に優れたマルテンサイト系ステンレス鋼が得られ
る。
【図1】本発明の熱処理工程の例を示したものである。
【図2】本発明の熱処理工程の別の例を示したものであ
る。
る。
Claims (3)
- 【請求項1】 重量%で C :0.1〜0.3%、 Si:<1.0%、 Mn:0.1〜1.0%、 P :<0.02%、 S :<0.01%、 Cr:11〜14%、 Ni:<0.5% を含有して残部が実質的に鉄からなり且つマルテンサイ
ト主体の組織からなる鋼を、Ac3 とAc1 の間の温度
に加熱した後Ms 点以下の温度まで冷却し、然る後さら
にAc1 以下の温度に加熱した後常温まで冷却すること
を特徴とする硫化物割れ抵抗性に優れたマルテンサイト
系ステンレス鋼の製造方法。 - 【請求項2】 重量%で C :0.1〜0.3%、 Si:<1.0%、 Mn:0.1〜1.0%、 P :<0.02%、 S :<0.01%、 Cr:11〜14%、 Ni:<0.5%、 N :0.01〜0.1% を含有して残部が実質的に鉄からなり且つマルテンサイ
ト主体の組織からなる鋼を、Ac3 とAc1 の間の温度
に加熱した後Ms 点以下の温度まで冷却し、然る後さら
にAc1 以下の温度に加熱した後常温まで冷却すること
を特徴とする硫化物割れ抵抗性に優れたマルテンサイト
系ステンレス鋼の製造方法。 - 【請求項3】 重量%で C :0.1〜0.3%、 Si:<1.0%、 Mn:0.1〜1.0%、 P :<0.02%、 S :<0.01%、 Cr:11〜14%、 Ni:<0.5%、 N :0.01〜0.1% を含有し、さらにCa,Mg,REMの1種または2種以上
をそれぞれ0.001〜0.3%含有して残部が実質的
に鉄からなり且つマルテンサイト主体の組織からなる鋼
を、Ac3 とAc1 の間の温度に加熱した後Ms 点以下
の温度まで冷却し、然る後さらにAc1 以下の温度に加
熱した後常温まで冷却することを特徴とする硫化物割れ
抵抗性に優れたマルテンサイト系ステンレス鋼の製造方
法。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP22617293A JPH0776722A (ja) | 1993-09-10 | 1993-09-10 | 硫化物割れ抵抗性に優れたマルテンサイト系ステンレス鋼の製造方法 |
Applications Claiming Priority (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP22617293A JPH0776722A (ja) | 1993-09-10 | 1993-09-10 | 硫化物割れ抵抗性に優れたマルテンサイト系ステンレス鋼の製造方法 |
Publications (1)
Publication Number | Publication Date |
---|---|
JPH0776722A true JPH0776722A (ja) | 1995-03-20 |
Family
ID=16841013
Family Applications (1)
Application Number | Title | Priority Date | Filing Date |
---|---|---|---|
JP22617293A Withdrawn JPH0776722A (ja) | 1993-09-10 | 1993-09-10 | 硫化物割れ抵抗性に優れたマルテンサイト系ステンレス鋼の製造方法 |
Country Status (1)
Country | Link |
---|---|
JP (1) | JPH0776722A (ja) |
Cited By (3)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
CN101974673A (zh) * | 2010-11-18 | 2011-02-16 | 骆伟强 | 一种利用双相钢材料进行加工牙条及螺栓螺母的方法 |
JP2015094004A (ja) * | 2013-11-12 | 2015-05-18 | 新日鐵住金株式会社 | マルテンサイト系Cr含有鋼材 |
WO2015107608A1 (ja) | 2014-01-17 | 2015-07-23 | 新日鐵住金株式会社 | マルテンサイト系Cr含有鋼及び油井用鋼管 |
-
1993
- 1993-09-10 JP JP22617293A patent/JPH0776722A/ja not_active Withdrawn
Cited By (4)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
CN101974673A (zh) * | 2010-11-18 | 2011-02-16 | 骆伟强 | 一种利用双相钢材料进行加工牙条及螺栓螺母的方法 |
JP2015094004A (ja) * | 2013-11-12 | 2015-05-18 | 新日鐵住金株式会社 | マルテンサイト系Cr含有鋼材 |
WO2015107608A1 (ja) | 2014-01-17 | 2015-07-23 | 新日鐵住金株式会社 | マルテンサイト系Cr含有鋼及び油井用鋼管 |
US10246765B2 (en) | 2014-01-17 | 2019-04-02 | Nippon Steel & Sumitomo Metal Corporation | Martensitic Cr-containing steel and oil country tubular goods |
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