JPH073403A - 高強度Fe−Ni−Co合金薄板およびその製造方法 - Google Patents

高強度Fe−Ni−Co合金薄板およびその製造方法

Info

Publication number
JPH073403A
JPH073403A JP14812493A JP14812493A JPH073403A JP H073403 A JPH073403 A JP H073403A JP 14812493 A JP14812493 A JP 14812493A JP 14812493 A JP14812493 A JP 14812493A JP H073403 A JPH073403 A JP H073403A
Authority
JP
Japan
Prior art keywords
present
less
heat treatment
amount
alloy
Prior art date
Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
Pending
Application number
JP14812493A
Other languages
English (en)
Inventor
Kiyoshi Tsuru
清 鶴
Tadashi Inoue
正 井上
Current Assignee (The listed assignees may be inaccurate. Google has not performed a legal analysis and makes no representation or warranty as to the accuracy of the list.)
JFE Engineering Corp
Original Assignee
NKK Corp
Nippon Kokan Ltd
Priority date (The priority date is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the date listed.)
Filing date
Publication date
Application filed by NKK Corp, Nippon Kokan Ltd filed Critical NKK Corp
Priority to JP14812493A priority Critical patent/JPH073403A/ja
Publication of JPH073403A publication Critical patent/JPH073403A/ja
Pending legal-status Critical Current

Links

Landscapes

  • Heat Treatment Of Steel (AREA)

Abstract

(57)【要約】 【目的】 高強度で、低熱膨張性、繰返し曲げ特性、メ
ッキ性、ハンダ付性、耐食性およびエッチング性に優れ
たリードフレーム用合金薄板を提供する。 【構成】 Wt% で、Ni:27 〜30%,Co:5〜18%,Mn:0.10 〜
3.4%, Si:0.14%以下であって、Ni、CoおよびMnの含有量
は、Coが10% 未満では、62.0% ≦2Ni+Co+Mn ≦68.0% で
あり、C:0.010 〜 0.080%,N:0.0002〜0.014%,H:1.9ppm
以下,S:0.0040%以下,P:0.004% 以下,O:0.0040%以下,Cr:
0.01〜0.06%,Mo:0.01 〜2.0% を含有し、残部Feおよび
不可避的不純物から成り、更に組織中のオーステナイト
量が30〜90% 、結晶粒度No. がNo.8以上の整粒であるこ
とを特徴とする高強度Fe-Ni-Co合金薄板。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、耐食性、繰返し曲げ
特性に優れた高強度Fe-Ni-Co合金薄板およびその製造方
法に関し、高強度で耐食性、エッチング性および繰返し
曲げ特性に優れたICリードフレーム用材料およびその
好ましい製造方法を提供するものである。
【0002】
【従来の技術】近年における半導体の高集積化およびパ
ッケージの薄肉化にともない、リードフレームは多ピン
化および薄肉化の傾向をたどっており、これによりリー
ドフレーム用材料に対しては、高強度化が求められてい
る。
【0003】上述したような多ピン用高強度リードフレ
ーム材料としては、特開平3-166340号公報に開示された
技術に基づくものがある。この開示された技術において
は、Fe-Ni-Co系合金でのNiおよびCo量を制御し、かつ特
定の加工率による加工誘起マルテンサイト変態と、その
後の焼鈍で逆変態オーステナイト相を析出させ、特定の
比率で2相組織とすることにより、リードフレームの各
種特性、特にハンダ付性、メッキ性および低熱膨張特性
を損なわずに、高強度化(HV で260 以上、引張強さが80
kgf/mm2 以上) を達成するものである。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上述し
た従来の技術に基づくリードフレーム材料は、H V =270
〜380 、引張強さ85〜117 kgf/mm2 、平均熱膨張係数α
RT-300=5.2〜8.5 ×10-6/ ℃( 室温から300 ℃までの平
均熱膨張係数) の特性を有し、かつ優れたAgメッキ性、
ハンダ付性および耐隙間腐食性を合せ有するが、下記に
示すような材質特性において問題があった。 (1)素材の耐食性 (2)繰返し曲げ特性(曲げ加工性) (3)HV =275 以上の高強度材においては、熱膨張係数
αRT-300は6.8 ×10-6/℃以上となり、IC製造工程でSi
チップがリードフレームに実装される際の熱歪により、
Siチップが破損する危険性。
【0005】前記素材の耐食性に問題があるのは、素材
がマルテンサイト+オーステナイトの2相組織から成
り、かつオーステナイト相は逆変態により形成された転
位密度の低いオーステナイト相が主であるため、このオ
ーステナイトと転位密度が高いマルテンサイトとの間で
腐食が進行しやいので、リードフレームにするために素
材コイルをスリットしたり、リードフレームに微細加工
を施したりする間に、素材表面に点錆が発生し、重大な
問題となるのである。
【0006】通常の42アロイ(Fe-42wt%Ni)では、上述の
ような問題は皆無であり、この素材のようにNiが32.5%
以下の合金であること、および同一材料内で転位密度の
異なる金属相が共存することが、耐食性を劣化させる主
要因と推察される。
【0007】繰返し曲げ特性も、前述したように、この
材料が高強度のマルテンサイトと多量の低強度の逆変態
オーステナイトとの混在組織を有するからである。ま
た、熱膨張特性も、更なる高強度化を意図した場合、上
述した技術の特徴である冷延時の加工誘起変態によるマ
ルテンサイト量の増加とともに、損なわれるものであ
る。
【0008】さらには、この技術の特徴としている熱膨
張と高強度のバランス化だけでは、最近の高い強度、低
い熱膨張特性に対するニーズに即応できない。すなわ
ち、平均熱膨張係数α30-400(30〜400 ℃の平均熱膨張
係数) が4 〜8 ×10-6/ ℃で、引張強さが120kgf/mm2
上を満たす成分、組織は、この技術によっては求めるこ
とができない。
【0009】なお、最近のリードフレームに対する更な
る低コスト化の要望により、Agの薄メッキ化の傾向が強
まり、この技術でみられるAgメッキ厚(3μm)よりも薄メ
ッキ化が進んでおり、このような要望に対しては、この
技術で特徴とする合金においても、Agメッキ性の問題が
生じているのが現状である。さらには、前記特開平3-16
6340号公報においては、この合金のハンダ付性を左右す
るぬれ性の面が改善されたという事実は見受けられな
い。
【0010】この発明は、上述したような従来技術の問
題点を解消するためになされたものであり、低い熱膨張
性を維持するとともに、ハンダ付性を向上させた耐食性
に富み、かつ繰り返し曲げ特性に優れた高強度Fe-Ni-Co
合金薄板およびその製造方法を提供することを目的とし
ている。
【0011】
【課題を解決するための手段】この発明に係る高強度Fe
-Ni-Co合金薄板は、 wt% で、Ni:27 〜30%,Co:5〜18%,Mn:0.10 〜3.4%,
Si:0.14%以下であって、Ni、CoおよびMnの含有量は、Co
が10% 未満では、62.0% ≦2Ni+Co+Mn ≦68.0% であり、
Coが10% 以上では、69.5% ≦2Ni+Co+Mn ≦72.5% の関係
を満足し、C:0.010 〜 0.080%,N:0.0002〜0.014%,H:1.9
ppm 以下,S:0.0040%以下,P:0.004%以下,O:0.0040%以下,
Cr:0.01〜0.06%,Mo:0.01 〜2.0% を含有し、残部Feお
よび不可避的不純物から成り、更に組織中のオーステナ
イト量が30〜90% 、結晶粒度No. がNo.8以上の整粒の高
強度Fe-Ni-Co合金薄板である。
【0012】また、 上記高強度Fe-Ni-Co合金薄板の成分に加えて、B,
Nb,Ti,Zr,Ta,V およびWの1種または2種以上を合計で
0.01〜0.50% 含有し、かつ上記の高強度Fe-Ni-Co合金薄
板と同じ組織を有する高強度Fe-Ni-Co合金薄板である。
さらには、 30〜400 ℃の平均熱膨張係数が(4〜8)×10-6/ ℃、
硬さがビッカース硬度(HV ) で280 以上、引張強さが85
kgf/mm2 である上記またはの高強度Fe-Ni-Co合金薄
板である。
【0013】また、この発明に係る高強度Fe-Ni-Co合金
薄板の製造方法は、 の高強度Fe-Ni-Co合金薄板と同じ組織を有する合
金の冷延素材から、1次圧延−1次焼鈍−2次圧延−2
次焼鈍−3次圧延−低温熱処理の工程を経て、薄板を製
造するに際し、1次冷延率(CR1) を、60〜80% 、1次焼鈍
温度(T1)を、700 〜740 ℃、2次冷延率(CR2) を、75〜8
5% 、2次焼鈍温度(T2)を、700 〜740 ℃、3次冷延率(CR
3) を、20〜70% 、低温熱処理温度(T3)を、400 〜540
℃、低温熱処理時間(t) を、0.5 〜60分とするものであ
る。
【0014】
【作用】本発明に係る高強度Fe-Ni-Co合金薄板におい
て、化学成分を限定したのは、次の理由によるものであ
る。すなわち、低熱膨張特性、高強度で優れた繰返し曲
げ特性および耐食性に富む材質特性を得るためには、組
織中のオーステナイト量、特に残留オーステナイト量を
適正に制御する必要がある。このためにはCo,Ni,Mn,Si,
C およびN 量を適正に選定しなければならない。そこ
で、各成分について、次のような成分範囲を選定した。
【0015】Ni は27% 未満または30% を超えると、熱
膨張係数が大きくなり、シリコンチップとの熱膨張に対
する整合性が劣化する。このため、Niの成分範囲を、27
〜30%のとした。
【0016】Co は、5%未満または18%を超えると、
熱膨張係数が大きくなり、シリコンチップとの熱膨張に
対する整合性が劣化する。このため、Coの成分範囲を、
5 〜18%(wt%、以下全ての% はwt% を示す) とした。
【0017】Mnは、3.4%を超えるとオーステナイトが安
定し、加工誘起変態が生じにくくなる。また、0.10% 未
満ではマルテンサイト変態開始温度が高く、オーステナ
イトが不安定となり、冷間加工時に加工誘起に基づくマ
ルテンサイト変態が生じやすく、結果的に十分な残留オ
ーステナイト量が得られない。これらのことにより、Mn
の成分範囲を0.10〜3.4%とした。
【0018】Si は、0.14% を超えると、マルテンサイ
ト変態開始温度が高く、オーステナイトが不安定とな
り、溶体化処理時の冷却過程でマルテンサイト変態を起
こし、以下に述べるようなCo,Ni およびMn量の適正化が
図られても、本発明で意図する残留オーステナイト量が
得られず、メッキ性やエッチング性も本発明で意図する
レベルのものが得られないため、Siの成分範囲は0.14%
以下とした。
【0019】また、本発明で意図する材質特性を得るた
めには、上記のような各成分の単独の添加量を規定する
のみではなく、Ni,Co およびMnの総量をCo量に応じて、
制御しなければならない。すなわち、Coが10% 未満で(2
Ni+Co+Mn) が62.0% より少ないか、Coが10% 以上で(2Ni
+Co+Mn) が69.5% より少ない場合には、マルテンサイト
変態開始温度が高く、オーステナイトが不安定となり、
加工誘起に基づくマルテンサイト変態が生じやすく、結
果的に十分な残留オーステナイト量が得られない。ま
た、Coが10% 未満で(2Ni+Co+Mn) が68.0% を超えるか、
Coが10% 以上で(2Ni+Co+Mn) が72.5% を超える場合に
は、オーステナイトが安定し、加工誘起に基づくマルテ
ンサイト変態が生じにくくなる。このため、Coが10% 未
満では、62.0% ≦2Ni+Co+Mn ≦68.0% とし、Coが10% 以
上では、69.5% ≦2Ni+Co+Mn ≦72.5%となるようにし
た。
【0020】また、C およびN は本発明においては、加
工誘起に基づくマルテンサイト変態を適正に制御し、か
つ最終の時効処理において一層の高強度化を達成させる
ための必須の元素である。すなわち、まずC は0.010%未
満では、オーステナイトが不安定となり、加工誘起に基
づくマルテンサイト変態が生じやすく、結果的に十分な
残留オーステナイトが得られないとともに、時効硬化に
よる強度上昇も期待できない。また、C が0.080%を超え
ると、逆にオーステナイトが安定となりすぎ、加工誘起
に基づくマルテンサイト変態が生じにくくなるととも
に、メッキ性およびエッチング性が劣化する。このた
め、C の成分範囲は0.010 〜0.080%とした。
【0021】N は、0.0002% 未満では、オーステナイト
が不安定となり、低熱膨張特性が得られなくなり、0.01
4%を超えると、オーステナイトが安定となりすぎ、加工
誘起に基づくマルテンサイト変態が生じにくくなるとと
もに、メッキ性およびエッチング性が劣化する。このた
め、N の成分範囲は0.0002〜0.014%とした。なお、Nが
0.014%以下の範囲においては、本発明で意図する低熱膨
張特性、高強度で優れた繰返し曲げ特性、耐食性および
メッキ性のいずれをも得ることができる。
【0022】さらに、本発明においては、繰返し曲げ特
性を向上させるために、上記した成分規定に加えて、S
およびO の含有量を低減させることが必要である。ま
た、本発明で意図するメッキ性のさらなる向上のため
に、H,S,P,O の低減およびCrの適量添加が必要である。
【0023】すなわち、S およびO は、非金属介在物の
形成を通じて、繰返し曲げ特性やメッキ性に悪影響を及
ぼす元素である。S が0.0040% を超えると、繰返し曲げ
特性が劣化し、メッキ性およびエッチング性も本発明で
意図するレベルが得られないため、S の成分範囲は0.00
40% 以下とした。なお、ハンダ付性の向上のために好ま
しいS の成分範囲も、0.0040% 以下である。
【0024】O は、0.0040% を超えると、繰返し曲げ特
性が劣化し、メッキ性およびエッチング性も本発明で意
図するレベルが得られないため、O の成分範囲は0.0040
% 以下とした。
【0025】S およびO の存在により、繰返し曲げ特性
が劣化する機構は、本発明の場合、曲げ破断した破面
に、多数のS あるいはO を含む非金属介在物の存在が認
められることから、これらの非金属介在物を起点として
割れが進行することが、繰返し曲げ特性が劣化する要因
となっているのではないかと推察される。
【0026】さらに、本発明においては、メッキ性およ
びエッチング性を、本発明で意図するレベルにするため
に、上記したS およびO の低減に加えて、H,P およびCr
の低減が必要である。すなわち、先ずP は、薄板の熱処
理時に表面に偏析し、メッキ性およびエッチング性を劣
化させる。P が0.004%を超えると、本発明で意図するメ
ッキ性およびエッチング性が得られなくなるので、P の
成分範囲は0.004%以下とした。なお、ハンダ付性の向上
のためにより好ましいP の成分範囲は、0.001%以下であ
る。
【0027】H は、本発明の合金のメッキ性に対して大
きな影響を及ぼす元素である。すなわち、H は、本発明
の合金の溶製時に不可避的に混入し、その量は従来技術
においては1.9ppmを超え、場合によっては4 〜5ppm程度
も残存する。このようにして合金中に残存しているH
が、IC製造過程でのAgスポットメッキ後のダイボンデン
グの加熱時に、ガスとなってメッキ層と下地合金( リー
ドフレーム材料) との境界面に滞留する。このようにH
ガスが滞留している部分は、フクレとよばれ、メッキ不
良と判定される。このような現象が起こっても、Agのメ
ッキ層が従来の3μm 程度と比較的厚い場合には、メッ
キ層がH ガスの内圧に十分耐えるだけの強度を有してい
るので問題になっていなかったが、最近のAg薄メッキ化
の傾向から、メッキ層の厚さが2 μm 以下のものも一般
的になりつつある状況下においては、メッキ層がH ガス
の内圧に十分耐えるだけの強度を発揮できなくなり、上
記したフクレの存在が問題となってきた。また、前記従
来レベルのH を含有したこの種合金にハンダ付けする場
合でも、ハンダのぬれ性が劣っているという問題点があ
った。
【0028】上記したような極く微量のH の存在による
メッキ性への悪影響は、従来の42アロイやコバールとい
ったオーステナイト単相のものに比較して、本発明の合
金のようにマルテンサイト( α´) を含むものにおいて
は、マルテンサイト相のH の溶解度が低いため、特に著
しい。
【0029】上記したH が1.9ppmを超えると、本発明の
意図するようなメッキ性が得られなくなるため、H の上
限を1.9ppmとした。なお、本発明で規定するレベルにH
量を低減させるためには、溶製時に最適な真空脱ガスを
採用することが必要である。すなわち、見かけの水素分
圧を低下させるために、本発明合金では脱ガス時の圧力
を0.1Torr 以下の高真空度にすることや、底吹き希釈Ar
ガス量を増加させる等の方法を採用することが好まし
い。
【0030】Crは、薄板の熱処理時に表面に強固な酸化
膜を形成し、メッキ性を劣化させるが、耐食性およびエ
ッチング性を向上させる元素である。しかし、Crが0.06
% を超えると、本発明で意図するメッキ性が得られなく
なる。一方、Crが0.01% 未満になると、良好な耐食性お
よびエッチング性が得られない。したがって、Crの成分
範囲は0.01〜0.06% とした。
【0031】本発明で意図する低熱膨張特性、高強度で
優れた繰返し曲げ特性およびメッキ製を確保しつつ、耐
食性を向上させるためには、Moの適量添加が必要であ
る。Moの添加量が0.01% 未満であると、耐食性の向上が
図れず、一方2.0%を超えると、本発明で意図する低熱膨
張特性およびメッキ性が損なわれる。そこで、Moの成分
範囲は0.01〜2.0%とした。
【0032】本発明の合金においては、組織制御のた
め、C 量が従来合金に比べて多いため、C が結晶粒界や
相境界に存在すると、耐食性は劣化しやすい。Moは耐食
性が局部的に劣化する結晶粒界や、オーステナイト相と
マルテンサイト相の相境界に粒界偏析や濃化を通じて、
耐食性を改善していると考えられる。
【0033】本発明において上記したMoに加えて、B,N
b,Ti,Zr,Ta,V およびWの1 種または2 種以上を合計で
0.01〜0.50% 含有させることにより、合金の耐食性を本
発明で意図する他の特性を劣化させることなく、さらに
向上させる。この場合の添加量が0.01%未満である
と、耐食性のさらなる向上が見られず、一方0.50%
を超えると、本発明で意図する低熱膨張特性およびメッ
キ性が得られなくなる。これらのことから、B,Nb,Ti,Z
r,Ta,V およびWの1 種または2 種以上を添加する範囲
を0.01〜0.50% とした。
【0034】また、最終製品である薄板の結晶組織は、
オーステナイト相( 残留オーステナイト相および逆変態
オーステナイト相を意味する。以下同じ) 、加工誘起マ
ルテンサイト相であるが、このオーステナイト相が30%
未満であると、本発明で意図する低熱膨張特性が得られ
ない。また、このオーステナイト相が90% を超えるか、
逆変態オーステナイト相が20% を超えると、本発明で意
図する合金の強度がえられないので、オーステナイト相
の割合を30〜90% とし、逆変態オーステナイト相の割合
を20% 以下とした。
【0035】なお、本発明でいう残留オーステナイト相
とは、次ぎのとおりのものをいう。すなわち、本発明に
おいては、焼鈍後のオーステナイト相は冷間圧延によ
り、その一部が加工誘起変態してマルテンサイト相とな
り、他の部分が未変態のままオーステナイト相として残
留する。このオーステナイト相のことを、残留オーステ
ナイト相という。また、逆変態オーステナイト相とは、
前記の加工誘起変態したマルテンサイト相が、最終熱処
理時にオーステナイト相に逆変態したものを意味する。
そして、本発明におけるオーステナイト量とは、前記残
留オーステナイト相と逆変態オーステナイト相との総和
のことである。
【0036】なお、本発明におけるオーステナイト相の
量(Vf,%)は、X 線回折強度を用いて、(1)〜(3)に
より求めた。残留オーステナイト相の量(%) は、低温熱
処理前の値であり、逆変態オーステナイト相の量(%)
は、低温熱処理後のオーステナイト相の量(%) から残留
オーステナイト相の量(%) を差し引いたものである。
【0037】 Vf1=1/[ 1+G1・{Iα(200)/Iγ(220) }] …………(1) Vf2=1/[ 1+G2・{Iα(200)/Iγ(311) }] …………(2) Vf=(Vf1+Vf2)/2…………(3) 但し、Iα(200):マルテンサイトの(200) 面のX 線回折
強度 Iγ(220):オーステナイトの(220) 面のX 線回折強度 Iγ(311):オーステナイトの(311) 面のX 線回折強度 G1:測定定数 G2:測定定数
【0038】本発明の合金の繰返し曲げ特性およびエッ
チング性を向上させるためには、上記した成分規定に加
えて、最終の結晶組織の粒径の制御が重要である。本発
明者らは、成分および最終の結晶組織のオーステナイト
相の量が、本発明規定内にある合金の、結晶粒度と繰返
し曲げ特性およびエッチング性との関係を調べた。
【0039】その結果、結晶粒度No. がNo.8以上の整粒
のものが、繰返し曲げ特性が4 回以上、エッチングファ
クターが2.5 以上と優れたレベルを示すことを見いだし
た。このことから、本発明においては、優れた繰返し曲
げ特性およびエッチング性が得られる結晶粒度の範囲と
して、結晶粒度No. をNo.8以上とした。なお、ここでN
o.8以上の整粒組織とは、結晶粒度No. がNo.7以下の粗
粒が20% 以下のものをいう。
【0040】次に、本発明の合金の製造方法において、
上記した結晶組織(オーステナイト量、結晶粒度)を得
るためには、冷延素材を溶体化処理することなく、冷延
と焼鈍を2回繰返し、次ぎに冷延を行った後、低温熱処
理を施すという工程を採り、かつ各工程での製造条件の
最適化が必要である。なお、本発明における冷延素材
は、スラブを圧延した熱延鋼帯、またはストリップキャ
スト法により製造された鋼帯を熱間にて軽圧下すること
により得られる鋼帯を意味する。
【0041】すなわち、1次冷延率(CR1) 、2 次冷延率
(CR2) 、1次冷延後および2 次冷延後の焼鈍温度(T1)お
よび(T2)、3 次冷延率(CR3) 、低温熱処理温度(T3)およ
び低温熱処理時間(t) を下記のようにすることにより本
発明の目的とする結晶組織を得ることができる。
【0042】CR1:60〜80% CR2:75〜85% CR3:20〜70% T1:700 〜740 ℃ T2:700 〜740 ℃ T3:400 〜540 ℃ t:0.5 〜60min
【0043】上記のように規定したのは、次の理由によ
る。すなわち、CR1 が60% 未満またはCR2 が70% 未満で
あると、最終の結晶組織が結晶粒度No. がNo.8未満の組
織となり、本発明で意図する繰返し曲げ特性が得られな
い。CR1 が80% 超えまたはCR 2 が85% 超えであると、最
終の結晶組織が結晶粒度No.7以下の混粒組織となり、本
発明で意図する繰返し曲げ特性が得られない。これらの
ことから、CR1 およびCR2 は上記した範囲とした。
【0044】1 次冷延および2 次冷延後の焼鈍温度はい
ずれも、700 〜740 ℃の範囲とすることが必要である。
この焼鈍温度が700 ℃未満であると、焼鈍後完全な再結
晶組織が得られず、焼鈍温度以外の製造条件が本発明の
規定値内であっても、最終の結晶組織が結晶粒度No. が
No.7以下の粗粒を20% 以上含む混粒組織となり、本発明
で意図するような繰返し曲げ特性が得られない。また、
焼鈍温度が740 ℃を超えると、焼鈍後の結晶粒度No. が
No.7以下の粗粒組織となり、焼鈍温度以外の製造条件が
本発明の規定値内であっても、本発明で意図するような
繰返し曲げ特性が得られない。
【0045】以上により、本発明の合金において、最終
の結晶組織を結晶粒度No. がNo.8以上の整粒組織からな
るものにするため、1 次冷延および2 次冷延後の焼鈍温
度はいずれも、700 〜740 ℃の範囲とした。
【0046】以上のような工程を経た材料の最終的な好
ましい結晶組織、機械的性質および低熱膨張特性は、最
終冷間圧延(3次冷延)において圧下率を適正に選び、
かつ適切な低温熱処理を行うことにより得ることができ
る。
【0047】図1には、後述する本発明の合金No.1を、
CR1、CR2 、CR3 、T1 および T2 が、本発明の規定内に
入るようにして処理したときの、3 次冷延ままの鋼帯、
およびその後低温焼鈍した鋼帯から採取した試験片を基
に調査した、それぞれの鋼帯の機械的性質( 引張強さ、
繰返し曲げ特性、硬度) 、オーステナイト量、熱膨張係
数と最終冷間圧延率との関係を示すが、この図1 から、
低温熱処理前の3 次冷延率(CR3) が20% 未満では、本発
明で意図する強度および硬度は得られていない。
【0048】一方、3 次冷延率(CR3) が70% を超える
と、本発明で意図する強度および硬度は得られているも
のの、繰返し曲げ特性および熱膨張係数に関しては、本
発明で意図するレベルが得られていない。なお、3 次冷
延率(CR3) が20% 以上では、オーステナイト相の量は90
% 以下であり、3 次冷延率(CR3) が70% を超えると、オ
ーステナイト相の量は30% 未満になる。低温熱処理後の
逆変態オーステナイト相の量は、3 次冷延率(CR3) が70
% では5%、3 次冷延率(CR3) が80% では7%である。
【0049】以上のような結果から、本発明で意図する
強度、硬度、繰返し曲げ特性および熱膨張係数が得られ
るオーステナイト相の量は、30〜90% であり、このオー
ステナイト相の量が得られる3 次冷延率(CR3) として、
20〜70% を採用した。なお、本発明においては、上記し
た最終冷延後の適切な低温焼鈍は、強度を低下させるこ
となく、低熱膨張特性を向上させ、かつ繰返し曲げ特性
を向上させる。
【0050】この熱処理は、熱処理温度が400 ℃未満ま
たは熱処理時間が0.5 分未満であると、十分な特性の向
上が得られず、一方熱処理温度が540 ℃超えまたは熱処
理時間が60分超えであると、合金内に逆変態オーステナ
イト相の量が20% を超えて生成し、本発明で意図する強
度が得られない。この逆変態オーステナイト相は、他の
金属相( 残留オーステナイト相および加工誘起マルテン
サイト相) に比べて転位密度が低く、この相の存在によ
り、繰返し曲げ特性および耐食性が劣化してしまう。こ
れらのことにより、低温熱処理条件として、熱処理温度
を400 〜540 ℃、熱処理時間を0.5 〜60分とした。
【0051】本発明においては、逆変態オーステナイト
相の量が20% 以下の範囲で含有されてもよいが、強度、
繰返し曲げ特性および耐食性を劣化させないように、逆
変態オーステナイト相は、均一かつ微細に分散させる必
要がある。
【0052】図2 は、熱処理条件の適正化により、合金
の硬度を優れたレベルまで向上させることができるとい
うことを示すグラフである。すなわち、本発明で規定し
た熱処理条件、熱処理温度を400 〜540 ℃、熱処理時間
を0.5 〜60分の範囲内で、ビッカース硬度(HV)の上昇値
ΔHVは10である。さらに、熱処理条件を熱処理温度420
〜520 ℃、熱処理時間15〜16分にすると、ΔHVは50以上
となり、熱処理条件を熱処理温度420 〜520 ℃、熱処理
時間30〜60分にすると、ΔHVは100 以上となる。
【0053】上記したような合金の製造方法において
は、合金の組成に応じて、本発明の規定値内で適切な条
件を選定すれば、より優れた特性( 強度、繰返し曲げ特
性、低熱膨張特性) が得られる。なお、30℃から400 ℃
までの平均熱膨張係数( α30-400) 、硬度および引張強
さについては、パッケージ組立工程および使用条件を検
討した結果、α30-400は(4〜8)×10-6/ ℃、硬度はビッ
カース硬度(HV)で280 以上、引張強さは85kgf/mm 2 以上
であれば、十分使用に耐えられるものであることが分か
ったので、前記のような特性値を本発明の範囲に定め
た。
【0054】
【実施例】本発明によるものの具体的な実施例につい
て、より詳細に説明すると、以下のとおりである。 ( 実施例1)表1 に示す化学成分を有する本発明合金およ
び比較合金の板厚2.5mm の冷延素材は、真空溶解した溶
鋼を鋳造して鋼塊を造り、この鋼塊を分塊圧延、熱間圧
延、脱スケールおよび表面疵取りの工程を経て製造し
た。
【0055】
【表1】
【0056】上記のようにして得られた冷延素材に、1
次冷延( 圧下率60%)-1次焼鈍(730℃×2 分)-2 次冷延(
圧下率75%)-1次焼鈍(720℃×2 分)-3 次冷延( 圧下率60
%)-低温熱処理(500℃×10分) の一連の処理を施し、0.1
mm の板厚の合金薄板を得た。そして、得られた合金薄
板から試験片を採取し、結晶組織および機械的性質、30
〜400 ℃間の平均熱膨張係数、Agメッキ性、ハンダ付
性、点錆発生状況およびエッチング性について調査し、
表 2および表 3に示すようなデータを得ることができ
た。
【0057】
【表2】
【0058】
【表3】
【0059】表 2におけるオーステナイト相の総量は、
前記X線回折強度を使用した(1)〜(3)式により算
出した。なお、オーステナイト相の総量の欄にカッコで
示した数値は、逆変態オーステナイト相の量のみを示
す。
【0060】表3 のAgメッキ性は、前記合金薄板を溶剤
脱脂−電解脱脂−酸処理という工程で処理した後、厚さ
5 μm のCuストライクメッキを施し、その上に厚さ2 μ
m ののAgメッキを施した後、450 ℃で5 分間加熱し、メ
ッキ層のフクレの発生の有無を、50倍に拡大して調べ
た。表3 のAg メッキ性の欄の○は前述したフクレが無
いことを示し、×はフクレが発生していることを示す。
【0061】表3 のハンダ付性は、前記合金薄板上に1.
5 μm 厚さのスズメッキを施した素材を用い、メニスコ
グラフ法により行った。すなわち、前記素材を、ハンダ
組成がSn60% 、Pb40% で、ハンダ浴温度が235 ±5 ℃の
ハンダ浴中に、浸漬深さを2mm にして5 秒間浸漬したと
きの、ハンダぬれ時間で評価した。ハンダ付性欄の◎は
ぬれ時間が0.5 秒以下、○はぬれ時間が0.5 秒超え1.0
秒以下、×はぬれ時間が2.0 秒超えであることを示す。
なお、ここでいうぬれ時間とは、試験材をハンダ浴に浸
漬したときに試験材のハンダ浴表面に位置する部分まで
試験材の表面がぬれる時間をいう。
【0062】表 3の耐食性を評価するための点錆発生頻
度の調査は、前記合金薄板にJIS Z2371の規定に従い、
塩水を100 時間噴霧し、その後に合金薄板の点錆発生頻
度を調べた。また、表3 のエッチングファクター(Ef)と
して示す数値は、図3 に示すように、被エッチング材2
1を、d1 の径の開口22a を有するレジストフィルム22
でレジストしてエッチングしたときに、被エッチング材
21に生成されるエッチング部23の最大径をd2、エッチ
ング深さをH としたときに、(4) 式で示される数値であ
る。 Ef=2H/(d2-d1)…………(4)
【0063】表2および表3のから明らかなように、試
料No.1〜No.7の本発明の成分規定を満たすものは、本発
明で意図する結晶組織、機械的性質、低熱膨張性、メッ
キ性、エッチング性および耐食性を示していることが分
かる。中でも、試料No.1〜No.3およびNo.7は、No.4〜N
o.6に比べて、Si,P,S,Oが好ましいレベルまで低減さ
れ、かつCrがより好ましい範囲で添加されたものであ
り、上述した諸性質に加えてハンダ付性にも優れている
ことが分かる。また、No.1およびNo.3〜No.7は、Moを適
当量添加して本発明規定内で、さらなる耐食性向上元素
が添加されたものであり、それらの元素が添加されてい
ない試料No.2に比較して、点錆発生頻度が低く、耐食性
がより優れていることが分かる。
【0064】これらの発明例に比べて、C 量が本発明の
規定の上限を超えている比較例の試料No.8は、オーステ
ナイト相の量が本発明の規定の上限を超えており、所要
の強度が得られていないとともに、メッキ性やエッチン
グ性も劣っている。また、C量および(2Ni+Co+Mn) の量
が本発明の規定の下限を下回る比較例の試料No.9は、オ
ーステナイト相の量が本発明の規定の下限を下回ってお
り、所要の低熱膨張性が得られていない。
【0065】さらに、Si量が本発明の規定の上限を超
え、かつ(2Ni+Co+Mn) の量が本発明の規定の下限を下回
っている比較例の試料No.10 は、オーステナイト相の量
が本発明の規定の下限を下回っており、α30-400は8 ×
10-6/ ℃を超え、低熱膨張性に劣り、メッキ性およびエ
ッチング性にも劣っている。また、Mn量が本発明の規定
の上限を超えている比較例の試料No.11 は、オーステナ
イト相の量が本発明の規定の上限を超えており、所要の
強度が得られていない。また、逆にMn量が本発明の規定
の下限を下回っている比較例の試料No.12 は、オーステ
ナイト相の量が本発明の規定の下限を下回っており、所
要の低熱膨張性が得られていない。
【0066】本発明の成分規定の上限に対して、P量が
超えている比較例の試料No.13 、S量が超えている比較
例の試料No.14 、N 量が超えている比較例の試料No.15
、O量が超えている比較例の試料No.16 、Cr量が超えて
いる比較例の試料No.17 は、いずれも本発明例に比較し
てメッキ性が劣っている。また、比較例のNo.13 〜No.1
6 は、メッキ性に加えてエッチング性にも劣っている。
さらには、比較例のNo.14 〜No.16 は、繰返し曲げ特性
について、他の比較例に比べて劣っている。
【0067】Moの量が本発明の規定の下限を下回ってい
る比較例の試料No.18 は、錆発生頻度が本発明例に比べ
て著しく高く、耐食性が劣っている。このことから、本
発明においては、Moの適量の添加が必須であることが分
かる。
【0068】H 量が本発明の規定の上限を超えている比
較例の試料No.19 は、メッキ性が本発明例に比べて劣っ
ている。また、(2Ni+Co+Mn) の量が本発明の規定の上限
を超えている比較例の試料No.20 およびNo.21 は、オー
ステナイト相の量が本発明の規定の上限を超えており、
所要の強度が得られていない。Siも本発明の規定の上限
を超えており、メッキ性が劣っている。
【0069】比較例の試料No.20 およびNo.21 は、前記
した特開平3-166340号公報に開示された合金と同等な成
分構成を持つものであるが、本発明で意図するAgメッキ
性、ハンダ付性、耐食性およびエッチングも得られてお
らず、従来技術のみでは本発明で意図する効果は達成さ
れていない。
【0070】N の量が本発明の規定の下限を下回ってい
る比較例の試料No.22 は、時効による高強度化が得られ
ていない。また、Crの量が本発明の規定の下限を下回っ
ている比較例の試料No.23 は、良好な耐食性およびエッ
チング性が得られていない。
【0071】以上のように、本発明で意図する結晶組
織、機械的性質、低熱膨張性、メッキ性、エッチング性
および耐食性を得るためには、本発明の成分規定を満た
されねばならないことが、この実施例で明らかとなっ
た。
【0072】( 実施例2)前記した表1 の試料No.1の発明
合金の冷延素材を、真空溶解炉で溶解した溶鋼を鋳造し
た鋼塊から、分塊圧延、熱間圧延、脱スケールおよび表
面疵取りの工程を経て製造した。そして、この冷延素材
を、表4 に示すように、1 次、2 次および3 次の冷延
率、および1 次、2 次焼鈍および低温熱処理の設定温度
および時間を種々に変化させて処理し、試料No.24 〜N
o.47 の24の試験材を得た。
【0073】
【表4】
【0074】これらの試験材を基に、それぞれの結晶組
織、機械的性質、低熱膨張性、Agメッキ性、ハンダ付
性、耐食性およびエッチング性を調査した。表5 に結晶
組織および機械的性質を、表6 に低熱膨張性、Agメッキ
性、ハンダ付性、耐食性およびエッチング性を示す特性
値を示す。
【0075】
【表5】
【0076】
【表6】
【0077】表4 〜表6 中、試料No.24 〜No.31 は、本
発明で規定した製造条件を全て充たすものであり、低温
熱処理条件は2分以内の短時間のものであるが、本発明
で意図する結晶組織、機械的性質、低熱膨張性、メッキ
性、エッチング性および耐食性を示している。これに対
して、試料No.32 は1 次冷延率CR1 が試料No.36 は2次
冷延率CR2 が、それぞれ本発明の規定の上限を超えてい
るので、混粒となっており、所要の繰返し曲げ特性およ
びエッチング性が得られていない。また、試料No.33 は
1 次冷延率CR1 が試料No.37 は2 次冷延率CR2 が、それ
ぞれ本発明の規定の下限を下回るので、整粒ではあるが
結晶粒度No. が本発明の規定の下限を下回っており、所
要の繰返し曲げ特性およびエッチング性が得られていな
い。
【0078】さらに、試料No.34 は1 次焼鈍温度T1が、
試料No.38 は2 次焼鈍温度T2が、それぞれ本発明の規定
の上限を超えているので、結晶組織は混粒となってお
り、結晶粒度No. が本発明の規定の下限を下回り6所要
の繰返し曲げ特性が得られていない。また、試料No.35
は1 次焼鈍温度T1が、試料No.39 は2 次焼鈍温度T2が、
それぞれ本発明の規定の下限を下回るので、結晶組織は
混粒となっており、所要の繰返し曲げ特性およびエッチ
ング性が得られていない。
【0079】以上に述べたように、1 次、2 次の冷延率
および1 次、2 次の焼鈍温度の制御が、結晶組織の結晶
粒度および整粒度を高める上に極めて重要なことであ
り、この適正な制御により、繰返し曲げ特性が向上する
ことが理解できる。
【0080】さらに、試料No.40 は3 次冷延率CR3 が本
発明の規定の上限を超えるので、オーステナイト相の量
が本発明の規定の下限を下回り、所要の低熱膨張特性お
よび繰返し曲げ特性が得られていない。また、試料No.4
1 は3 次冷延率CR3 が本発明の規定の下限を下回るの
で、オーステナイト相の量が本発明の規定の上限を超
え、所要の強度が得られていない。試料No.42 は最終の
低温熱処理が施されていないものであり、所要の繰返し
曲げ特性が得られていない。
【0081】また、試料No.43 は低温熱処理温度T3が本
発明の規定の上限を超え、試料 No.45は低温熱処理時間
が本発明の規定の上限を超えるものであり、低温熱処理
前の残留オーステナイト相の量はいずれも40% であった
が、逆変態によるオーステナイト相の量が、試料No.43
では22% 、試料 No.45では21% 生成されており、いずれ
も所要の強度および繰返し曲げ特性が得られていない。
また、メッキ性および耐食性も本発明例のものに比較し
て劣っている。
【0082】さらに、試料No.44 は低温熱処理温度T3
本発明の規定の下限を下回り、試料No.46は低温熱処理
時間が本発明の規定の下限を下回るものであり、いずれ
も所要の繰返し曲げ特性が得られていない。
【0083】以上の試料No.42 〜No.46 に見られるよう
に、適切な低温熱処理を行うことが、本発明で意図する
結晶組織、機械的性質、低熱膨張性、メッキ性、耐食性
およびエッチング性を向上させる上で重要なことである
ということが分かる。
【0084】試料No.47 は、特開平3-166340号公報に開
示された製造方法で冷延素材を処理したものであるが、
オーステナイト相の量は本発明の規定の上限を超え、結
晶組織は混粒であるとともに、結晶粒度No. も本発明の
規定の下限を下回っている。そして、オーステナイト相
の量は、2次焼鈍前28% であったが、2 次焼鈍で逆変態
オーステナイト相が65% 生成され、オーステナイト相の
総量が93% と、本発明の規定の上限を超えている。この
ため、所要の強度、繰返し曲げ特性、メッキ性、耐食性
およびエッチング性が、本発明例のものと比較して劣っ
ている。すなわち、上記したような従来技術では、本発
明で意図する効果は達成されない。
【0085】上述したように、本発明によるものは、冷
延後の薄板に、1000℃×1hr というような溶体化処理は
施さないものであり、この溶体化処理は施さないことに
より、最終の結晶組織の結晶粒度や整粒度の調整が可能
になるのである。
【0086】( 実施例3)実施例1 で示した表1 の試料N
o.5と同じ成分組成の冷延素材を、実施例2 で示した表4
の試料No.24 と同じ処理条件で3 次圧延まで実施し、
低温熱処理条件(温度、保持時間) のみを表7 のように
変化させて、試料No.48 〜67の試験材を得た。
【0087】
【表7】
【0088】そして、それらの試験材を用いて、実施例
1と同じような方法で、硬度(HV)、繰返し曲げ特性、耐
食性、エッチング性および低熱膨張性( 熱膨張係数) を
調べ、表8 のような結果を得た。
【0089】
【表8】
【0090】本発明合金の試料No.49 〜No.61 は、低温
熱処理条件が本発明で規定する範囲内( 温度400 〜540
℃、保持時間0.5 〜60分) にあり、ビッカース硬度が低
温熱処理前に比較して10以上上昇しているが、これは加
工誘起マルテンサイト相中に、逆変態オーステナイト相
が生成され、格子歪が生じたことによるものと考えられ
る。
【0091】この硬度の上昇分ΔHVは、低温熱処理温度
を420 〜530 ℃、低温熱処理時間を15〜60とすれば、50
の上昇が保証され( 試料No.49,53,58,59) 、低温熱処理
温度を450 〜520 ℃、低温熱処理時間を30〜60と低温熱
処理条件を絞ると、70の上昇が保証され( 試料No.50,5
2,56,57) 、低温熱処理温度を475 〜500 ℃、低温熱処
理時間を40〜60と低温熱処理条件をさらに絞ると、100
が保証される( 試料No.51,55) 。また、硬度の上昇とと
もに、耐食性、繰返し曲げ特性、エッチング性、Agメッ
キ性、ハンダ付性および低熱膨張性ともに優れたものに
なっていることが分かる。
【0092】一方、比較例の試料No.62 およびNo.63
は、低温熱処理温度は本発明に規定する範囲にあるが、
低温熱処理時間が本発明の規定の上限を超えているの
で、マルテンサイト相中のオーステナイト相の量が増加
し、硬度の上昇が見られないとともに、繰返し曲げ特
性、エッチング性、Agメッキ性、ハンダ付性および耐食
性も劣化している。また、比較例の試料No.64 は、低温
熱処理時間が本発明の規定内にあるが、低温熱処理温度
が本発明に規定する下限を下回るので、オーステナイト
相の生成量が少なく、良好な繰返し曲げ特性がえられな
い。
【0093】比較例の試料No.65 は、低温熱処理温度は
本発明の規定内にあるが、低温熱処理時間が本発明に規
定する下限を下回るので、オーステナイト相が生成され
ず、硬度の上昇が見られれず、良好な繰返し曲げ特性も
得られない。また、比較例の試料No.66 およびNo.67
は、低温熱処理温度が本発明の規定の上限を超えている
ので、低温熱処理時間が本発明の規定内にあっても、オ
ーステナイト相が多量に生成されすぎ、硬度の上昇が見
られないとともに、良好な繰返し曲げ特性、エッチング
性、Agメッキ性、ハンダ付性および耐食性が得られな
い。
【0094】以上のように、本発明において目的とする
結晶組織、機械的性質、低熱膨張特性、メッキ性、繰返
し曲げ特性、耐食性およびエッチング性を的確に得るた
めには、本発明に規定する製造条件が重要なファクター
であることが分かる。
【0095】
【発明の効果】この発明により、Fe-Ni-Co成分系の多ピ
ン薄板リードフレームに必要な強度を具備するととも
に、優れた繰返し曲げ特性、所要の低熱膨張特性、メッ
キ性、耐食性およびエッチング性を備えた合金薄板を提
供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】Fe-Ni-Co系合金の最終冷延率と引張強さ、硬
度、繰返し曲げ特性オーステナイト相の量および熱膨張
係数の関係を示すグラフである。
【図2】温熱処理温度と低温熱処理時間が、Fe-Ni-Co系
合金の硬度、繰返し曲げ特性、耐食性および低熱膨張性
にどのような影響を及ぼすかを示すグラフである。
【図3】エッチングファクターの概念を説明する説明図
である。

Claims (4)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 Wt% で、Ni:27 〜30%,Co:5〜18%,Mn:0.1
    0 〜3.4%, Si:0.14%以下であって、Ni、CoおよびMnの含
    有量は、Coが10% 未満では、62.0% ≦2Ni+Co+Mn ≦68.0
    % であり、Coが10% 以上では、69.5% ≦2Ni+Co+Mn ≦7
    2.5% の関係を満足し、C:0.010 〜 0.080%,N:0.0002〜
    0.014%,H:1.9ppm 以下,S:0.0040%以下,P:0.004%以下,O:
    0.0040%以下,Cr:0.01〜0.06%,Mo:0.01 〜2.0% を含有
    し、残部Feおよび不可避的不純物から成り、更に組織中
    のオーステナイト量が30〜90% 、結晶粒度No. がNo.8以
    上の整粒であることを特徴とする高強度Fe-Ni-Co合金薄
    板。
  2. 【請求項2】 請求項1に記載の成分に加え、B,Nb,Ti,
    Zr,Ta,V およびW の1種または2種以上を合計で0.01〜
    0.50% 含有し、かつ請求項1に記載の組織を有すること
    を特徴とする高強度Fe-Ni-Co合金薄板。
  3. 【請求項3】 30〜400 ℃の平均熱膨張係数が(4〜8)×
    10-6/ ℃、硬さがビッカース硬度(HV ) で280 以上、引
    張強さが85kgf/mm2 であることを特徴とする請求項1ま
    たは請求項2に記載の高強度Fe-Ni-Co合金薄板。
  4. 【請求項4】 請求項1または請求項2に記載の組織を
    有する合金の冷延素材から1次圧延−1次焼鈍−2次圧
    延−2次焼鈍−3次圧延−低温熱処理の工程を経て薄板
    を製造するに際し、 1次冷延率(CR1) を、60〜80% 、 1次焼鈍温度(T1)を、700 〜740 ℃、 2次冷延率(CR2) を、75〜85% 、 2次焼鈍温度(T2)を、700 〜740 ℃、 3次冷延率(CR3) を、20〜70% 、 低温熱処理温度(T3)を、400 〜540 ℃、 低温熱処理時間(t) を、0.5 〜60分 とすることを特徴とする高強度Fe-Ni-Co合金薄板の製造
    方法。
JP14812493A 1993-06-18 1993-06-18 高強度Fe−Ni−Co合金薄板およびその製造方法 Pending JPH073403A (ja)

Priority Applications (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP14812493A JPH073403A (ja) 1993-06-18 1993-06-18 高強度Fe−Ni−Co合金薄板およびその製造方法

Applications Claiming Priority (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP14812493A JPH073403A (ja) 1993-06-18 1993-06-18 高強度Fe−Ni−Co合金薄板およびその製造方法

Publications (1)

Publication Number Publication Date
JPH073403A true JPH073403A (ja) 1995-01-06

Family

ID=15445799

Family Applications (1)

Application Number Title Priority Date Filing Date
JP14812493A Pending JPH073403A (ja) 1993-06-18 1993-06-18 高強度Fe−Ni−Co合金薄板およびその製造方法

Country Status (1)

Country Link
JP (1) JPH073403A (ja)

Cited By (7)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
US9603459B2 (en) 2006-10-13 2017-03-28 Genthem Incorporated Thermally conditioned bed assembly
US9756952B2 (en) 2014-01-13 2017-09-12 Bedgear, Llc Ambient bed having a heat reclaim system
US9814641B2 (en) 2009-08-31 2017-11-14 Genthrem Incorporated Climate-controlled topper member for beds
US9974394B2 (en) 2007-10-15 2018-05-22 Gentherm Incorporated Climate controlled bed assembly with intermediate layer
US10226134B2 (en) 2008-07-18 2019-03-12 Gentherm Incorporated Environmentally-conditioned bed
US10405667B2 (en) 2007-09-10 2019-09-10 Gentherm Incorporated Climate controlled beds and methods of operating the same
WO2023243710A1 (ja) * 2022-06-17 2023-12-21 株式会社プロテリアル Fe-Ni系合金薄板の製造方法およびFe-Ni系合金薄板

Cited By (21)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
US9603459B2 (en) 2006-10-13 2017-03-28 Genthem Incorporated Thermally conditioned bed assembly
US10405667B2 (en) 2007-09-10 2019-09-10 Gentherm Incorporated Climate controlled beds and methods of operating the same
US9974394B2 (en) 2007-10-15 2018-05-22 Gentherm Incorporated Climate controlled bed assembly with intermediate layer
US10226134B2 (en) 2008-07-18 2019-03-12 Gentherm Incorporated Environmentally-conditioned bed
US12016466B2 (en) 2008-07-18 2024-06-25 Sleep Number Corporation Environmentally-conditioned mattress
US11297953B2 (en) 2008-07-18 2022-04-12 Sleep Number Corporation Environmentally-conditioned bed
US11938071B2 (en) 2009-08-31 2024-03-26 Sleep Number Corporation Climate-controlled bed system
US9814641B2 (en) 2009-08-31 2017-11-14 Genthrem Incorporated Climate-controlled topper member for beds
US11903888B2 (en) 2009-08-31 2024-02-20 Sleep Number Corporation Conditioner mat system for use with a bed assembly
US10675198B2 (en) 2009-08-31 2020-06-09 Gentherm Incorporated Climate-controlled topper member for beds
US11642265B2 (en) 2009-08-31 2023-05-09 Sleep Number Corporation Climate-controlled topper member for beds
US11020298B2 (en) 2009-08-31 2021-06-01 Sleep Number Corporation Climate-controlled topper member for beds
US11045371B2 (en) 2009-08-31 2021-06-29 Sleep Number Corporation Climate-controlled topper member for beds
US11389356B2 (en) 2009-08-31 2022-07-19 Sleep Number Corporation Climate-controlled topper member for beds
US10104982B2 (en) 2014-01-13 2018-10-23 Bedgear, Llc Ambient bed having a heat reclaim system
KR20210129748A (ko) * 2014-01-13 2021-10-28 베드기어, 엘엘씨 열 회수 시스템을 갖는 주변 베딩
US10898009B2 (en) 2014-01-13 2021-01-26 Bedgear, Llc Ambient bed having a heat reclaim system
US10568436B2 (en) 2014-01-13 2020-02-25 Bedgear, Llc Ambient bed having a heat reclaim system
US9820581B2 (en) 2014-01-13 2017-11-21 Bedgear, Llc Ambient bed having a heat reclaim system
US9756952B2 (en) 2014-01-13 2017-09-12 Bedgear, Llc Ambient bed having a heat reclaim system
WO2023243710A1 (ja) * 2022-06-17 2023-12-21 株式会社プロテリアル Fe-Ni系合金薄板の製造方法およびFe-Ni系合金薄板

Similar Documents

Publication Publication Date Title
US6692584B2 (en) High tensile cold-rolled steel sheet excellent in ductility and in strain aging hardening properties, and method for producing the same
JP2019506523A (ja) 耐水素遅れ破壊特性、耐剥離性、及び溶接性に優れた熱間成形用アルミニウム−鉄合金めっき鋼板、並びにそれを用いた熱間成形部材
KR20110127283A (ko) 냉간압연 다상조직 스틸 제품의 제조를 위한 스틸 조성물
JP2005120399A (ja) 延性に優れた高強度低比重鋼板およびその製造方法
JP2005510624A (ja) 加工性および耐つまとび性に優れたほうろう用鋼板およびその製造方法
EP3889315A1 (en) Iron-aluminum-based plated steel sheet for hot press forming, having excellent hydrogen delayed fracture properties and spot welding properties, and manufacturing method therefor
JP5094888B2 (ja) 延性に優れた高強度低比重鋼板の製造方法
US5792286A (en) High-strength thin plate of iron-nickel-cobalt alloy excellent in corrosion resisitance, repeated bending behavior and etchability, and production thereof
KR100627430B1 (ko) 용기용 강판 및 이를 제조하는 방법
WO2022145061A1 (ja) 鋼材
JPH073403A (ja) 高強度Fe−Ni−Co合金薄板およびその製造方法
EP3889313A1 (en) Aluminum-based plated steel plate for hot press having excellent resistance against hydrogen delayed fracture and spot weldability, and method for manufacturing same
JP2005029889A (ja) 延性に優れた高強度低比重鋼板およびその製造方法
JP7223210B2 (ja) 耐疲労特性に優れた析出硬化型マルテンサイト系ステンレス鋼板
US5246511A (en) High-strength lead frame material and method of producing same
JP2797835B2 (ja) 耐食性、繰返し曲げ特性に優れた高強度Fe−Ni−Co合金薄板およびその製造方法
JP7167343B2 (ja) 水素遅延破壊特性及びスポット溶接性に優れた熱間プレス用アルミニウム系めっき鋼板及びその製造方法
JP2007291434A (ja) 極薄鋼板及びその製造方法
KR20060075725A (ko) 가공경화형 저 니켈 오스테나이트계 스테인레스강
JP3510445B2 (ja) 軟化焼鈍特性に優れた電子部品用Fe−Ni系合金薄板
CN116323994A (zh) 奥氏体系不锈钢钢材及其制造方法以及板簧
JPH06102810B2 (ja) 二次加工性に優れた深絞り用合金化溶融亜鉛メッキ鋼板の製造方法
JPH04202642A (ja) メッキ性,ハンダ性,繰返し曲げ特性に優れた高強度低熱膨脹Fe―Ni合金およびその製造方法
JPH1180906A (ja) 降伏応力を高めた高強度ステンレス鋼帯およびその製造方法
JP2830472B2 (ja) 耐食性、繰返し曲げ特性、エッチング性に優れた高強度Fe−Ni−Co合金薄板およびその製造方法