JPH07268644A - 塗膜密着性に優れたＡｌ板及びＡｌ合金板とその表面処理方法 - Google Patents

Abstract

(57)【要約】 【目的】 生産性が良く、特別な廃棄処理を必要しない
処理液を使用して、従来材と同等以上の優れた塗膜密着
性に優れたＡl板及びＡl合金板を提供する。 【構成】 Ａl板又はＡl合金板の表面に、塗膜用等の下
地皮膜として、フォスフォン酸基を有する有機酸皮膜が
設けられていることを特徴とする塗膜密着性に優れたＡ
l板及びＡl合金板である。Ａl板又はＡl合金板の表面を
脱脂した後、７０〜１００℃の熱水を１秒以上接触さ
せ、その後フォスフォン酸基を有する有機酸を固形分と
して０.１〜２０g／リットル含有する水溶液を塗布した
後、１秒以上保持し、水洗し乾燥することにより製造さ
れる。このような有機酸としては、ビニルフォスフォン
酸、メチルフォスフォン酸、プロピルフォスフォン酸等
が挙げられる。

Description

【発明の詳細な説明】

【０００１】

【産業上の利用分野】本発明は、塗膜密着性に優れたＡ
l板及びＡl合金板とその表面処理方法に関する。

【０００２】

【従来の技術】Ａl板及びＡl合金板は、軽量であると共
に、成形性及び耐食性等に優れるという特性を有するこ
とから、包装容器、キャップ、日用品、建材として広く
用いられている。そして、それらの多くは、実用に際
し、材料の塗膜密着性向上、耐食性向上及び装飾を目的
として、表面処理及び樹脂被覆が施されている。例え
ば、Ａl板をキャップに用いる場合、キャップに成形す
る前に、Ａl板の表面にサイズコートと呼ばれる下地塗
装や、りん酸クロメート処理を施した後、樹脂塗装され
る。

【０００３】

【発明が解決しようとする課題】サイズコートは、トッ
プコートと呼ばれる上塗り樹脂塗膜の密着性を高め、加
工等によるトップコートの剥離防止を主目的とするもの
であり、塗膜の密着性に関しては実用上問題のない性能
が得られるが、りん酸クロメート処理のような化成処理
等に比してコストや生産性の面で不利である。

【０００４】特に、キャップ用材料の塗装方式は、通
常、切板を一枚一枚片面づつ塗装するウィケットタイプ
であり、従来は、サイズコート塗布→焼付け→トップコ
ート塗布→焼付け、と工程が繁雑であり、生産性の点で
問題がある。

【０００５】一方、りん酸クロメート処理は、アルミニ
ウム材料の防食或いは塗装下地処理として一般に用いら
れており、コイルフォームで処理が可能であり、焼付け
等も必要としないことから工程が繁雑とならず生産性の
面で有利であるが、処理液中にクロム、フッ酸を含有し
ているため、処理液及びすすぎ水の廃棄には特別な設備
を必要とする。

【０００６】本発明は、このような事情に着目してなさ
れたものであって、その目的は、従来材と同等以上の優
れた塗膜密着性に優れたＡl及びＡl合金板を提供し、ま
た、生産性が良く、特別な廃棄処理を必要しない処理液
を使用して塗膜密着性に優れたＡl板及びＡl合金板を製
造する方法を提供することにある。

【０００７】

【課題を解決するための手段】上記の課題を解決するた
めの手段として、本発明は、Ａl板又はＡl合金板の表面
に、塗膜用等の下地皮膜として、フォスフォン酸基を有
する有機酸皮膜が設けられていることを特徴とする塗膜
密着性に優れたＡl板及びＡl合金板を要旨としている。

【０００８】また、その製造方法は、Ａl板又はＡl合金
板の表面を脱脂した後、７０〜１００℃の熱水を１秒以
上接触させ、その後フォスフォン酸基を有する有機酸を
固形分として０.１〜２０g／リットル含有する水溶液を
塗布した後、１秒以上保持し、水洗し乾燥することを特
徴としている。

【０００９】

【作用】以下に本発明を更に詳細に説明する。

【００１０】まず、本発明に係るフォスフォン酸基を有
する有機酸について説明する。本発明で述べているフォ
スフォン酸基を有する有機酸とは、以下の化学式で表わ
される極性基を有した有機酸を示している。

【００１１】

【化１】

【００１２】通常、Ａl材の表面は酸化物層により覆わ
れており、更にその酸化物層は、大気中の水と容易に反
応し、表面は水和され、水酸基(ＯＨ基)によって覆われ
ている。ＯＨ基によって覆われたＡl材の表面にフォス
フォン酸基を有する有機酸を接触させると、Ａl材表面
のＯＨ基とフォスフォン酸基のＯＨ基は酸塩基反応によ
って結合する。

【００１３】また、フォスフォン酸基は塗料の極性又は
活性中心とも反応し結合する性質を有している。

【００１４】したがって、フォスフォン酸基を有する有
機酸をＡl材表面に塗布すれば塗膜密着性を向上させる
ことが可能である。このような有機酸としては、ビニル
フォスフォン酸、メチルフォスフォン酸、プロピルフォ
スフォン酸等が挙げられる。

【００１５】次に、本発明の製造方法について説明す
る。まず、Ａl板又はＡl合金板の表面を脱脂した後、７
０〜１００℃の熱水を１秒以上接触させるが、その理由
は以下のとおりである。

【００１６】脱脂した後のＡl材表面に吸着した水分は
Ａl材表面に強く吸着しているわけではなく、このよう
なＡl材表面の吸着水にフォスフォン酸基を有する有機
酸を結合させても充分な塗膜密着性を得ることができな
い。

【００１７】しかし、Ａl板又はＡl合金板の表面を脱脂
した後、熱水と接触させると、Ａl材表面には水酸基が
強く結合した水酸化Ａlを生成させることができ、水酸
化Ａlが生成した表面にフォスフォン酸基を有する有機
酸を結合させると、Ａl材表面とフォスフォン酸基を有
する有機酸の結合力を強くすることができる。

【００１８】ここで、脱脂されたＡl板又はＡl合金と接
触させる熱水の温度を７０〜１００℃とするのは、７０
℃未満にすると効率よく水酸化Ａlを生成させることが
できなく、一方、１００℃超では圧力釜等の圧力装置が
必要となると共に経済的でなくなるからである。また、
熱水との接触時間を１秒以上とするのは、１秒未満にす
ると水酸化Ａlを均一に生成させることができなくなる
からである。

【００１９】なお、Ａl材表面に水酸化Ａlを生成させる
熱水中には、アンモニア、アミン、アルコールアミン及
びアミドのように水酸化Ａlの生成を促進する薬剤を添
加してもよい。

【００２０】次に、フォスフォン酸基を有する有機酸を
塗布するが、塗布するフォスフォン酸基を有する有機酸
の固形分を０.１〜２０g／リットルとする理由は以下の
とおりである。

【００２１】塗布するフォスフォン酸基を有する有機酸
の固形分が０.１g／リットル未満では塗膜密着性の向上
効果が小さく、しかし、２０g／リットル超では塗膜密
着性の向上効果が飽和し、経済的でなくなるからであ
る。

【００２２】フォスフォン酸基を有する有機酸の塗布方
法としては、従来行われている何れの方法でも実施する
ことができ、例えば、スプレー法、浸漬法、ロールコー
ト法等、任意の方法を採用し得る。

【００２３】更に、塗布後、１秒以上保持する。これ
は、フォスフォン酸基を有する有機酸の水溶液を塗布し
た後、Ａl材表面のＯＨ基とフォスフォン酸基のＯＨ基
が反応によって結合するには１秒以上保持することが必
要であるからであり、１秒未満ではＡl材表面をフォス
フォン酸基を有する有機酸で均一に覆うことができなく
なる。

【００２４】次に、塗布及び保持した後、水洗するが、
その理由は以下のとおりである。すなわち、フォスフォ
ン酸基を有する有機酸は、Ａl材表面と塗膜との界面に
存在することにより塗膜密着性を向上するのであるが、
Ａl材表面及び塗膜との結合に関与していないフォスフ
ォン酸基を有する有機酸がＡl材表面と塗膜との界面に
過剰に存在すると、成形加工時にフォスフォン酸基を有
する有機酸の凝集破壊により塗膜剥離が発生する。

【００２５】したがって、Ａl材表面にフォスフォン酸
基を有する有機酸を塗布した後、Ａl材表面と結合して
いない過剰のフォスフォン酸基を有する有機酸はＡl材
表面から除去しておく必要がある。除去の方法として
は、水で洗い流す方法が簡便であり十分である。

【００２６】そして、前記の水洗したＡl材は、表面を
充分に乾燥することが必要である。乾燥が不充分である
とブロッキングが発生したり、塗膜密着性が低下するよ
うになる。乾燥に好ましい温度は２０〜３００℃であ
り、乾燥時間は温度により異なり適宜決められる。

【００２７】なお、本発明におけるＡl合金の材質は、
用途に応じて利用し得る種々の成分系及び組成のものが
可能であるのは以上までもない。

【００２８】次に本発明の実施例を示す。

【００２９】

【実施例】ＪＩＳ Ａ １２００Ｐ(質別Ｈ３４)に該当す
るＡl板で、厚み０.２４mmのＡl板を使用し、先ず、こ
の表面を８０℃の脱脂液(中アルカリタイプ)中に１０秒
間浸漬する方法により脱脂した後、水洗し乾燥した。

【００３０】次に、上記脱脂処理後のＡl板を、表１に
示す如く、８０〜９８℃の熱水に１０〜６０秒間浸漬し
て熱水と接触させ、しかる後に、表１に示す濃度のビニ
ルフォスフォン酸水溶液に浸漬して塗布し、塗布後保持
した。

【００３１】更に、このビニルフォスフォン酸水溶液を
塗布したＡl板を水洗し、その後７０℃の電気炉中に３
０秒間放置して乾燥を行った。

【００３２】得られたＡl板を用い、成形加工用樹脂塗
装(関西ペイント製、ＳＪ-６８３２Ｂ、１８０℃×１０
分焼付)を施した塗装材料を作製し、その塗装面が外面
になるように絞り比２.５の貫き絞り加工(絞りと同時に
トリミング加工を行う加工)を行い、塗膜の密着性を評
価した。また、貫き絞り加工後、沸騰純水中で３０分間
煮沸処理を行い、塗膜の密着性を評価した。評価は、ト
リミング部の塗膜の剥離状態で判定し、剥離の全くない
ものを５点、全周剥離が生じているものを０点とし、そ
の間は剥離状態により点数を付けた。その結果を表１に
示す。

【００３３】一方、比較のために、上記脱脂処理後のＡ
l板と同様のＡl板について、６０℃の熱水へ６０秒間浸
漬して熱水と接触させた後、ビニルフォスフォン酸処理
したもの(比較例１)、熱水接触を施さないもの(比較例
２)、ビニルフォスフォン酸処理を施さないもの(比較例
３)、０.０１％のビニルフォスフォン酸で処理したもの
(比較例４)、及びビニルフォスフォン酸を塗布してから
の保持時間が１秒未満のもの(比較例５)を用い、上記と
同様の方法により塗装材料を作製し、その塗膜の密着性
を調べた。その結果を表１に示す。

【００３４】また、従来実施されているサイドコートＡ
l材、及びりん酸クロメート処理Ａl材についても、上記
と同様の方法により塗装材料を作製し、その塗膜の密着
性を調べた。その結果を表１にそれぞれ参考例１、参考
例２として示す。

【００３５】この表１からわかるように、比較例１、
２、３、４及び５のＡl板の場合にはいずれも塗膜の密
着性が悪いが、本発明例のＡl板の場合は、いずれも塗
膜の密着性が良好であり、優れている。

【００３６】

【表１】

【００３７】

【発明の効果】以上詳述したように、本発明によれば、
生産性が良く、特別な廃棄処理を必要としない処理液を
使用して、従来のサイズコート材、及びりん酸クロメー
ト処理材と同等以上の塗膜密着性を得ることが可能とな
る。したがって、このＡl板及びＡl合金板を基板として
用いることにより、従来のサイズコート材、及びりん酸
クロメート処理材と同等以上の優れた塗膜密着性が得ら
れる。

Claims (2)

【特許請求の範囲】
1. 【請求項１】 Ａl板又はＡl合金板の表面に、塗膜用等
   の下地皮膜として、フォスフォン酸基を有する有機酸皮
   膜が設けられていることを特徴とする塗膜密着性に優れ
   たＡl板及びＡl合金板。
2. 【請求項２】 Ａl板又はＡl合金板の表面を脱脂した
   後、７０〜１００℃の熱水を１秒以上接触させ、その後
   フォスフォン酸基を有する有機酸を固形分として０.１
   〜２０g／リットル含有する水溶液を塗布した後、１秒
   以上保持し、水洗し乾燥することを特徴とする塗膜密着
   性に優れたＡl板及びＡl合金板の表面処理方法。