JPH0597688A - 糖尿病の治療方法 - Google Patents

糖尿病の治療方法

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Abstract

(57)【要約】 【目的】 哺乳動物のインスリン依存性糖尿病の罹患予
防、発達阻止または進行遅延をもたらす方法の提供。 【構成】 有効量のラパマイシンを単独でまたはインス
リンと組み合わせるかのいずれかで投与することによっ
て、哺乳動物におけるインスリン依存性糖尿病の罹患を
予防し、発達を阻止し、進行を遅らせる方法。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明はインスリン依存性糖尿病
の罹患を予防し、発達を阻止しまたは進行を遅らせる方
法に関する。
【0002】
【従来技術および課題】人口の0.3%に生じる疾患で
あるインスリン依存性糖尿病(IDDM)は、高血糖
症、糖尿および肝グリコーゲン濃度の減少のような代謝
性変化に起因する不十分なインスリン生成を伴う。臨床
的に、該疾患は、第1に、強度の空腹、頻繁な排尿およ
び抑えられない渇きを引き起こすことで観察される。外
因的にインスリン治療を施す場合であっても、網膜症、
神経障害、末梢血管障害、アテローム性動脈硬化症、体
重減少、発作、腎不全および死に至る昏睡のような合併
症が生じる。
【0003】IDDMの病因は、β−島細胞に対する自
己免疫応答に帰する。膵島はリンパ球で浸潤され(イン
スリン炎)、インスリン−生成のβ−細胞が破壊され
る。臨床的に観察される徴候が現れるまでに、約80%
のβ−細胞が破壊される。NODマウスにおける養子免
疫伝達の研究[ディ・ブイ・セリーズ(DV Serrez
e)、ジアベティス(Diabetes)37:252(198
8)]は、体液異常性(細胞質島細胞、インスリン、お
よび64Kdタンパク自己抗体)が疾患の進行の間の終
わり近くに寄与するが[エム・エイ・アトキンソン(M
A Atkinson)、サイエンティフィック・アメリカン
(Scientific Am.)62(1990)]、T−細胞
媒介事象はIDDMの初期に起きることを明らかにし
た。遺伝感受性を包含するクラスIIの主要組織適合性
複合体(MHC)が該自己免疫疾患において主要な役割
を果しているようである。この感受性の約60〜70%
はHLA領域に存する。[エイ・シー・ターン(A.
C.Tarn)、ランセット(Lancet)845(198
8)]。IDDMであるヒトの95%以上がHLADR
3および/またはDR4陽性であるのに対し、DR2は
該疾患を伴うことに陰性である。[ケー・ウィルソン
(K.Wilson)、アン・レブ・メド(Ann.Rev.Me
d.)41:497(1990)]。
【0004】インスリン補足によるIDDMの治療は全
く満足するものではないため、最近の研究は、IDDM
を治療および予防する薬剤の開発に焦点を合わせてい
る。数種の動物モデルを用いてIDDMの病因を研究
し、可能な治療および予防形態を評価した。
【0005】ヒトIDDMを模倣する2種の標準動物モ
デルが開発された。トチノ(Tochino)[イクサープタ
・メディカ(Exerpta Medica),295(198
2)]によって開発された第1標準動物モデルである非
−肥満性糖尿病(NOD)マウスは、自発的にIDDM
を発達させるマウス系である。インスリン炎が、最初、
約30日齢で観察され、140日齢までに約70%の雌
のNODマウスがIDDMに発達する。さらに、ランゲ
ルハンス島を取り囲みおよび/または侵略するマークし
た単核細胞浸潤が、β−細胞破壊と共に観察される。
[ワイ・モリ(Y.Mori)、ジアベトロジア(Diabet
ologia)29:244(1986)]。第2標準動物モ
デルは、T−細胞減少を包含し、IDDMの罹患を付随
するグロス異常性の免疫応答を発達させるバイオ・ブリ
ーディング(BB)ラットである。[シー・アール・ス
ティラー(C.R.Stiller)、サイエンス(Scienc
e)223:1362(1984)]。
【0006】免疫抑制剤であるシクロスポリンA(Cs
A)およびFK−506を、IDDMのBBラットおよ
びNODマウスのモデルにて評価し、CsAをヒト臨床
実験にて評価した。CsAはNODマウスおよびBBラ
ットの標準動物モデルの両方においてIDDMおよびイ
ンスリン炎の罹患を予防するのに効果的であるが、ID
DMの初期徴候の罹患後に初めて投与した場合、IDD
Mを治療するにほんの部分的に効果的であるにすぎない
ことがわかった。[ビー・フォームバイ(B.Formb
y)、ジャーナル・オブ・ファーマコロジー・アンド・
エクスペリメンタル・セラピューティックス(J.Pha
rm.Exp.Ther.)241:106(1987);シ
ー・アール・スティラー、メタボリズム(Metabolis
m)32Supp1:69(1983);およびエム・エイ
・ジャウォルスキー(M.A.Jaworski)、クリニカ
ル・アンド・インベスティゲイティブ・メディシン(C
lin.Invest.Med.)10:488(1987)]。
1の研究は、CsAが、IDDMの罹患後、NODマウ
ス標準動物モデルのIDDMに対してほとんど治療効果
を有しないことを報告した。[ワイ・モリ、ジアベトロ
ジア,29:244(1986)]。
【0007】新たに診断するIDDM患者におけるいく
つかの臨床実験にてCsAを評価した。CsA治療は、
外因的に投与するインスリンの必要な用量の減少を示
し、1年までの間のこれらの実験において、約23〜5
0%の患者にて緩解(非−インスリン依存性)を誘発し
た。IDDM診断後に最も早くCsA治療を開始した患
者における緩解の割合が最高であった。CsA治療の中
止後、緩解の持続性に対するデータは決定的でない。1
の研究は9カ月以上持続する緩解を報告しているのに対
して、別のいくつかの研究はCsA治療の中止後、緩解
が維持されなかったと報告している。[ジー・フュート
レン(G.Feutren)、ランセット 119:(198
6);ジェイ・デュプレ(J.Dupre)、ジアベティス
37:1574(1988);シー・アール・スティ
ラー、サイエンス 223:1362(1984);ア
ール・リプトン(R.Lipton)、ジアベティス・ケア
ー(Diabetes Care),13:776(1990);
ケイ・ウィルソン(K.Wilson)、アンヌ・レブ・メ
ド(Annu.Rev.Med.)41:497(199
0)]。
【0008】FK−506はIDDMのNODおよびB
B標準動物モデルの両方においてIDDMの罹患を妨げ
ることがわかった。2つの研究は、FK−506処理を
中止した場合にIDDMに発達しなかった約75%の動
物において、FK−506がFK−506処理の終了
後、各々、45日および20週間連続してIDDMの予
防を誘発することを示した。[エヌ・ムラセ(N.Mur
ase)、ジアベティス39:1584(1990);ケ
イ・クラサワ(K.Kurasawa)、クリニカル・イムノ
ロジー・アンド・イムノパソロジー(Clin.Immun.
Immunopath.)57:274(1990);ジェイ・
ミヤガワ(J.Miyagawa)、ジアベトロジア 33:
503(1990)]。
【0009】ストレプトミセス・ヒグロスコピカス(S
treptomyces hygroscopicus)によって生成される大環
状トリエン抗生物質であるラパマイシン[米国特許第3
929992号]は、アルブミンアレルギー性攻撃に対
して体液(IgE様)抗体の形成を予防し[マーテル・
アール(Martel,R.)、カナディアン・ジャーナル
・オブ・フィジオロジー・アンド・ファーマコロジー
(Can.J.Physiol.Pharm.)55:48(197
7)]、ネズミのT−細胞活性化を抑制し[スタルッチ
・エム(Staruch,M.)、FASEB3:3411
(1989)]、および組織不適合性齧歯動物における
器官移植組織の生存期間を延長させること[モリス・ア
ール(Morris,R)、メド・サイ・レス(Med.Sc
i.Res)17:877(1989)]が示されてい
る。
【0010】
【課題を解決するための手段】本発明は、有効量のラパ
マイシンを経口、非経口、鼻腔内、気管支内または直腸
内投与することにより、それを必要とする哺乳動物にお
いて、IDDMの発達を阻止するかまたは進行を遅らせ
る方法を提供する。さらに、本発明は、有効な予防量の
ラパマイシンをインスリン依存性糖尿病感受性哺乳動物
に投与することからなる、該哺乳動物におけるインスリ
ン依存性糖尿病の罹患を予防する方法を提供する。ラパ
マイシンをIDDMの発達を阻止するかまたはその進行
を遅らせるのに用いる場合、該ラパマイシンはインスリ
ンと組み合わせて投与することが好ましい。
【0011】IDDMに対するラパマイシンの効果はN
ODマウスにて確立された。NODマウスの糖尿病は、
ヒトIDDMと次に示す類似点を有する:1)糖尿病
は、遺伝的に、主要組織適合性領域内の位置とリンクし
ている;2)リンパ球による膵島の浸潤(インスリン
炎)は、インスリン分泌のβ−細胞の選択的破壊を伴
う;および3)膵島表面抗原に対する自己抗体が血液中
に検出される。[エム・ファガン(M.Fagan)、ジア
ベティス 40:715(1991)]。また、NOD
マウスモデルは、ヒトにおけるタイプI IDDMの病
因の解明だけでなく、IDDMの予防に対する有効な治
療法を設計し、試験することにおいても有用であると記
載されている。[イー・レイター(E.Leiter)、ア
メリカン・ジャーナル・オブ・パソロジー(Am,J.
Path.)128:380(1987)]。したがっ
て、NODマウスは、ヒトのIDDMを模倣する標準動
物モデルであると考えられる。
【0012】用いた操作および得られた結果は以下のと
おりである。さらに、CsAを、同一条件下、比較する
目的でNODマウスにて評価した。
【0013】雌のNODマウスを仕切り部屋に収容し、
食物および水を自由に与えた。ラパマイシンを、異なる
用量範囲を評価する一連の2種類の試験操作にて評価し
た。第1の実験においては、マウスを無作為に4つの処
理群:無経験対照、CsA(12mg/kg)、ラパマ
イシン(6mg/kg)およびラパマイシン(12mg
/kg)に分けた。処理群は、1群当たり6または7匹
いずれかのマウスを有した。第2の実験においては、マ
ウスを無作為に5つの処理群:無経験対照、ビヒクル対
照、ラパマイシン(6mg/kg)、ラパマイシン
(0.6mg/kg)およびラパマイシン(0.06m
g/kg)に分けた。第2の実験の処理群は、1群当た
り10匹のマウスを有した。両方の免疫抑制剤を8%ク
レモファー(cremophor)ELおよび2%エタノールを
含有するビヒクルに溶解した。第1の実験においては、
薬剤投与を56日齢にて開始し、マウスが170日齢に
達するまで、1週間に付き3回経口投与を続けた。第2
の実験においては、薬剤投与を64日齢で開始し、マウ
スが176日齢に達するまで、1週間当たり3回経口投
与を続けた。体重および水消費量は週単位をベースに測
定した。血液を一定間隔で採集し、血漿中のグルコース
濃度を酵素的に測定した。第2の処理の最後にβ−ヒド
ロキシブチレート、トリグリセリドおよびコレステロー
ルの血漿中濃度を評価した。ラパマイシンでの処理を中
止した後のIDDMの発生率もまた第2の実験において
評価した。
【0014】次の表は、第1の実験の各処理群のマウス
についての平均血漿中グルコース濃度を示す。
【表1】 平均血漿中グルコース濃度(mg/dl±SE)−実験1 処理群 無経験 ラパマイシン ラパマイシン CsA マウスの齢 (6mg/kg) (12mg/kg) (12mg/kg) 56日 130±5 113±3 114±3 126±2 66日 102±4 128±6 116±10 106±9 73日 119±8 147±14 128±5 127±6 85日 128±8 138±4 145±14 128±5 94日 128±4 155±8 143±15 137±4 108日 137±10 134±2 122±6 130±8 129日 398±133 150±7 141±4 357±0 143日 660±101 133±6 137±9 404±72 157日 483±122 137±6 129±11 570±75 171日 475±69 151±7 147±7 562±52
【0015】第2の実験において得られた結果を以下に
示す。
【表2】 平均血漿中グルコース濃度(mg/dl±SE)−実験2 処理群 マウス 無経験 ビヒクル ラパマイシン ラパマイシン ラパマイシン の齢 (6mg/kg) (0.6mg/kg) (0.06mg/kg) 79日 124±3.7 138±6.6 151±4.5 139±3.2 129±3.3 107日 420±192 388±109 124±3.0 130±6.2 430±113 135日 603±46 595±17 156±7.4 139±5.3* 598±44 176日 766±76 769±139 161±15 142±19 718±99 *;10匹のうち1匹のマウスは糖尿病(678mg/
dl)になり、166日齢で死んだ。この値は該群の平
均に含めていない。
【0016】血漿中グルコース濃度が一貫して200m
g/dl以上であることが、IDDMの明らかな罹患を
測定するのに用いた判断基準であった。0.6mg/k
gの群中の1匹のマウスを除いて、12、6および0.
6mg/kgの経口投与量でラパマイシン処理したマウ
スの血漿中グルコース濃度は、処理期間全体を通して2
00mg/dl以下を保持し、ラパマイシンがIDDM
の罹患を妨げることを示した。予測した通り、非処理N
ODマウス(無経験)は、第1の実験において129日
までに、第2の実験においては無経験およびビヒクル処
理NODマウスの両方にて107日までにIDDMに発
達した。無経験およびビヒクル処理NODマウスの間で
違いは観察されなかった。これらの結果はまた、CsA
がこの条件下でIDDMの罹患を予防するのに非効果的
であり;平均血漿中グルコース濃度が129日までで2
00mg/dlを越えることを示している。0.06m
g/kgの濃度でラパマイシンを経口投与した場合もI
DDMの罹患を妨げるに非効果的であった。
【0017】以下の表は、IDDMに発達した各処理群
におけるマウスの割合を示す。一貫して200mg/d
lを越える血漿中グルコース濃度は、IDDMの罹患が
決定的であると考えられる。
【0018】
【表3】 IDDMに発達したマウスの割合−実験1 処理群 無経験 ラパマイシン ラパマイシン CsA マウスの齢 (6mg/kg) (12mg/kg) (12mg/kg) 129日 33% 0% 0% 14% 143日 33% 0% 0% 43% 157日 67% 0% 0% 57% 171日 67% 0% 0% 71%
【0019】以下の表は、第2の実験において得られた
結果を示す。
【表4】 IDDMに発達したマウスの割合−実験2 処理群 マウス 無経験 ビヒクル ラパマイシン ラパマイシン ラパマイシン の齢 (6mg/kg) (0.6mg/kg) (0.06mg/kg) 79日 0% 0% 0% 0% 0% 107日 20% 30% 0% 0% 30% 135日 50% 50% 0% 10% 60% 176日 60% 60% 0% 10% 60%
【0020】第1の実験で、IDDMの罹患は、未処理
またはCsAで処理したいずれかのマウスにて129日
までに観察された。171日までに、未処理マウスの6
7%が、CsA処理マウスの71%がIDDMに発達し
た。第1の実験において、6および12mg/kgの経
口投与量でのラパマイシンが、対照群と比較して、有意
に(p=0.008、フィッシャー試験)IDDMの罹
患を妨げた。ラパマイシン処理マウス(6mg/kgお
よび12mg/kg)はIDDMに発達しなかった。第
2の実験において、0.6および6mg/kgの経口投
与量でのラパマイシンが、各々、評価した10匹中10
匹、10匹中9匹のマウスのIDDMの罹患を妨げた。
第2の実験におけるラパマイシン処理NODマウスのI
DDMの発生率は、無経験またはビヒクル処理のNOD
マウスで観察されるよりも有意に低かった(0.6mg
/kgラパマイシンでp=0.029、および6mg/
kgラパマイシンでp=0.005)。無経験マウスと
ビヒクル処理マウスのIDDMの発生率の間には有意な
差異はなかった。これらの結果は、ラパマイシンが1
2、6および0.6mg/kgの経口投与量でIDDM
の発達を効果的に妨げることを示す。
【0021】水消費量の進歩的増加が、NODマウスお
よびヒトの両方にてIDDMの罹患と共に観察された。
以下の表は、各処理群におけるNODマウスについての
平均水消費量を示す。
【0022】
【表5】 平均水消費量(ml/日±SE)−実験1 処理群 無経験 ラパマイシン ラパマイシン CsA マウスの齢 (6mg/kg) (12mg/kg) (12mg/kg) 60日 4.3±0.04 3.4±0.4 4.0±0 4.6±0.1 74日 5.0±0.02 4.5±0.1 4.5±0.1 4.3±0.04 88日 5.2±0.02 5.0±0.1 5.6±0.3 4.5±0.1 102日 5.1±0.1 4.3±0.2 5.6±0.1 4.0±0.2 116日 5.5±0.2 4.6±0.2 6.6±0.3 4.2±0.2 130日 8.8±1.7 5.2±0.1 6.6±0.2 4.7±0.2 144日 17.2±5.5 5.2±0.2 6.5±0.5 9.5±0.5 158日 16.7±4.9 4.5±0.1 5.8±0.8 18.3±0.4 172日 19.6±3.3 4.8±0.1 6.9±0.6 24.5±0.2
【0023】第2の実験において、以下の結果を得た。
【表6】 平均水消費量(ml/日±SE)−実験2 処理群 マウス 無経験 ビヒクル ラパマイシン ラパマイシン ラパマイシン の齢 (6mg/kg) (0.6mg/kg) (0.06mg/kg) 75日 4.4±0 4.4±0.1 4.9±0 4.4±0.1 4.8±0.1 89日 4.5±0.1 4.0±0 4.2±0.1 4.0±0.1 4.2±0 103日 7.1±1.2 6.3±0.9 4.4±0.1 4.2±0.1 6.9±0.8 117日 7.5±1.2 8.5±1.5 4.7±0.1 5.2±0.2 10.2±1.6 131日 10.5±1.2 14.0±1.6 4.7±0 5.8±0.8 17.0±3.6 145日 16.3±2.2 22.9±2.2 4.9±0.1 8.8±2.2* 16.1±1.3 159日 17.2±1.5 20.8±2.4 4.8±0.1 5.5±0.6 21.3±1.9 173日 20.1±1.5 14.6±2.9 4.7±0.1 5.2±0 15.4±2.3 *;10匹のマウスのうち1匹は糖尿病(678mg/
dl)になり、166日齢で死んだ。この値を該群の平
均に含めており、それが145日で観察された平均水消
費量が高い原因である。
【0024】これらの結果は、ラパマイシンが12、6
および0.6mg/kgの経口投与量で、IDDMの罹
患に伴う水消費量の進歩的増加を妨げ、マウスの正常な
体重増加に付随する期間にわたってほんのわずかに水消
費量が増加しただけであった。未処理NODマウスの水
消費量は、予想通りIDDMの罹患と共に増加した。C
sA処理マウスは、未処理マウスとほぼ同量の水を消費
し、すなわち、CsAは、この条件下でIDDMの罹患
を妨げなかったことを示す。
【0025】第2の実験においては、マウスが64日齢
になった時に処理を開始した。第2の実験における処理
を中止した後、マウスが176日齢になった時に、β−
ヒドロキシブチレート、トリグリセリドおよびコレステ
ロールの血漿中濃度を測定した。IDDMに発達したN
ODマウスにおいては、ビヒクル対照の非糖尿病マウス
と比較して、β−ヒドロキシブチレート、トリグリセリ
ドおよびコレステロールの濃度は有意に高かった。同様
の高さのβ−ヒドロキシブチレート、トリグリセリドお
よびコレステロール濃度がIDDMのヒトにおいても観
察される。0.6または6mg/kgのラパマイシンで
の経口処理は、IDDMの罹患および進行に付随するβ
−ヒドロキシブチレート、トリグリセリドおよびコレス
テロール濃度の高度化を妨げ、さらにNODマウスにお
けるIDDMの罹患を予防する能力を有することを確認
した。
【0026】第2の実験において、ラパマイシンでの処
理を中止した後、実験の間にIDDMに発達しなかった
マウス(各々、6mg/kgのラパマイシンで100%
NODマウス、0.6mg/kgで90%NODマウ
ス)をさらに41週間評価し、ラパマイシンの保護作用
を確立した。以下の表は、ラパマイシンでの処理の間に
IDDMに発達しなかったNODマウスにおける、ラパ
マイシン中止後のIDDMの発生率を示す。IDDMの
罹患は、血漿中グルコース濃度ならびに体重減少および
水消費量増加を包含する他の臨床徴候で測定した。
【0027】
【表7】 処理中止後のIDDMの発生率−実験2* 中止後の週数 ラパマイシン(6mg/kg) ラパマイシン(0.6mg/kg) IDDMの割合 IDDMの割合 1 0% 0% 3 0% 0% 6 0% 11% 9 0% 11% 15 0% 11% 21 0% 22% 26 0% 22% 33 0% 33% 37 0% 33% 41 0% 33% *該実験において評価したマウスは、処理期間の間にI
DDMに発達しなかった、ラパマイシン6mg/kgで
処理した10匹のマウスと、処理期間の間にIDDMに
発達しなかった、ラパマイシン0.6mg/kgで処理
した9匹のマウスを包含した。
【0028】これらの結果は、ラパマイシンが、処理期
間の間、IDDMの罹患を妨げるだけでなく、ラパマイ
シンでの処理が、発病率の予想レベルを減少させるか、
または処理を終えた後のIDDMの罹患を妨げるかのい
ずれかであり、それは処理を終えた後でさえ、最初のラ
パマイシン処理がβ−細胞機能を保護することを示す。
さらに、これらのデータは、ラパマイシンがIDDMの
罹患を予防する能力を有することを確認する。加えて、
これらのデータは、IDDMの罹患を予防し、進行を阻
止し、進行を遅らせるのに、連続的な長期間の処理を必
要とせず、おそらく、ラパマイシンの断続的投与の方法
が可能であることを示唆する。
【0029】ヒトのIDDMを模倣するこのイン・ビボ
標準薬理試験方法の結果は、ラパマイシンがIDDMの
明白な罹患を効果的に妨げ、したがって、予防的にID
DMの罹患を妨げ、発達を阻止し、進行を遅らせるのに
有用であることを示す。
【0030】ラパマイシン(6mg/kg)を、すでに
IDDMに発達しているNODマウス(130〜144
日齢)に断続的に投与しても、該疾患の進行を逆にする
ことはできなかった。おそらく、断続的投与計画では、
残っている膵β−細胞に対するT−リンパ球による攻撃
を排除するのに十分な治療範囲までラパマイシンの血中
濃度が増加していないため、ラパマイシンはIDDMの
進行を逆にすることができなかったと考えられる。ラパ
マイシンを非経口投与した場合、より高いラパマイシン
血中濃度が得られる。IDDMの罹患後、まだ破壊され
ていないいずれのβ−細胞をも保護する一方で、IDD
Mの発達を阻止し、その進行を遅らせるのに、ラパマイ
シンを十分な用量にて(好ましくは、非経口投与を介し
て)、好ましくはインスリンと組み合わせて投与すべき
である。IDDMの診断直後に開始したCsAとインス
リンを用いる臨床実験の組み合わせ療法は、IDDMの
緩解速度を増大させ、IDDMの最初の年におけるβ−
細胞機能を強化した。
【0031】ラパマイシン自体、一般に、少なくとも2
種類のヒト患者を治療するのに有用である。第1群の患
者は、IDDMの臨床的に観察しうる徴候にすでに発達
しているヒトである。CsAでの臨床実験で明らかなよ
うに、診断後の早期時点でラパマイシンによる治療を開
始し、残っているβ−細胞を破壊から保護することが好
ましい[ジェイ・デュプレ(J.Dupre)、ジアベティ
ス37:1574(1988);シー・アール・スティ
ラー、サイエンス 223:1362(1984)]。
この患者の場合、ラパマイシンをインスリンと組み合わ
せて投与することが好ましい。正常なグルコース耐性の
維持を助成することに加えて、一緒に行うインスリン投
与はさらに、残っているβ−細胞の負担を軽減し、かく
してそれらを保護する効果があると考えられる。
【0032】第2群の患者は、まだ臨床的に観察される
IDDM徴候に発達していないが、IDDMの潜在的発
達に基づくか、または遺伝的素因のため、IDDMに発
達する素因のあるヒトである。臨床観察されるIDDM
は突然に発達しないが、免疫系のように数年間静かに進
行し、β−細胞を排除する。[エム・エイ・アトキンソ
ン(M.A.Atkinson)、サイエンティフィック・ア
メリカン(Sci.Am.)60,1990年7月]。I
DDMの典型的徴候は、少なくとも80%のβ−細胞が
破壊された場合にのみ現れるが、現在では、臨床徴候が
明らかとなるかなり以前に、個人がIDDMに発達する
かどうかを決定することがより予測可能となっている。
IDDMの罹患は、その付随する自己抗体および他の選
択的マーカーの検出を介してますます予測可能となる。
該予測性を、危険性の低い一般の人、ならびにより危険
性の高い身内に適用する。[エヌ・マクラーレン(N.
Macleren)、ジアベティス 37:1591(198
8)]。これらの自己抗体およびマーカーは、細胞質島
細胞自己抗体(ICA)、インスリン自己抗体(IA
A)、64Kタンパクに対する自己抗体、および静脈内
グルコース負荷(IVGTT)に応答した第1段階のイ
ンスリン減少を包含する。ICAおよびIAAは共に、
IDDMに発達する10年前にヒト中に観察される。
[ケー・ウィルソン(K.Wilson)、アン・レブ・メ
ド(Ann.Rev.Med.)41:497(199
0)]。ICAを有するヒトは、IDDMに発達する危
険性が42%であるのに対して、ICAのないヒトはI
DDMに発達する危険性が0.6%であることがわかっ
た。さらに、ICA−サブフラクションの分析は、この
予測性を正確にした。生命表分析は、補体固定ICAに
対して陽性であるヒトの78%がIDDMに発達するの
に対して、非補体固定ICAではわずかに3%のヒトが
IDDMに発達すると予測する。[エイ・シー・ターン
(A.C.Tarn)、ランセット 845(198
8)]。加えて、実質的には100%の子供および若成
人が、IDDMの罹患前に64Kβ−細胞膜タンパクに
対する自己抗体を発達させると考えられている。[エヌ
・マクラーレン、ジアベティス 37:1591(19
88)]。
【0033】他の感受性のあるヒトは、IDDMを有す
るヒトの一親等(IDDMに発達する危険性5%)およ
びIDDMを有するヒトの一卵性双生児(IDDMに発
達する危険性50%)を包含する。これらの範疇に属す
るヒトは、実質的に一般のヒト(IDDMに発達する危
険性0.3%)よりもIDDMに発達する危険性が大き
い。[ケー・ウィルソン、アン・レブ・メド 41:4
97(1990)]。
【0034】感受性のあるヒトにてIDDMを予防する
場合、ラパマイシンをその単独活性成分として、または
インスリンと組み合わせて投与してもよい。インスリン
の予防的投与は、NODマウスにおけるIDDMの発達
の発生率を低下させると報告されている。[エム・エイ
・アトキンソン、ジアベティス 39:933(199
0)]。
【0035】ラパマイシンを予防的に投与してもよい他
の感受性のあるヒトは、その分野における当業者にとっ
て明らかである。
【0036】ラパマイシンをIDDMの治療に用いる場
合、錠剤、カプセル等の経口投与形に処方することがで
きる。ラパマイシンは単独で、またはそれを炭酸マグネ
シウム、ステアリン酸マグネシウム、タルク、、ショ
糖、乳糖、ペクチン、デキストリン、澱粉、ゼラチン、
トラガカント、メチルセルロース、カルボキシメチルセ
ルロースナトリウム、低融点ワックス、カカオ脂等の従
来の担体と組み合わせて投与することができる。希釈
剤、フレーバ剤、可溶化剤、滑剤、沈殿防止剤、結合
剤、錠剤−崩壊剤等を用いてもよい。ラパマイシンは、
他の担体と共にまたはなしでカプセル化してもよい。あ
らゆる場合で、固体および液体の組成物中の活性成分の
割合は、少なくとも、経口投与に対して所望の効果を付
与する割合である。さらに、ラパマイシンは非経口的に
注射してもよく、その場合、等張溶液を製造するため
に、他の溶質、例えば、十分なセラインまたはグルコー
スを含有する滅菌溶液の形態にて用いる。鼻腔内または
気管支吸入または通気法による投与の場合、ラパマイシ
ンを水性または一部水性溶液に処方し、ついでエアロゾ
ル形にて用いることができる。
【0037】ラパマイシンはまたインスリンと組み合わ
せることができ、好ましくは非経口的に投与し、その場
合、等張溶液を製造するため、他の溶質、例えば、十分
なセラインまたはグルコースを含有する滅菌溶液の形態
にて用いる。
【0038】必要な用量は、用いる個々の組成物、投与
経路、現れている症状の重篤度および治療すべき個々の
患者によって変化する。標準薬理試験操作にて得られた
結果に基づいて、正常なグルコース濃度を維持するのに
予測されるラパマイシンの1日の経口用量は、0.1〜
25mg/kg、好ましくは0.5〜18mg/kg、
さらに好ましくは0.5〜12mg/kgである。ラパ
マイシンを非経口投与した場合、必要な最小用量は、約
10倍少ないと思われる。したがって、正常なグルコー
ス濃度を維持するのに予測されるラパマイシンの1日の
非経口用量は0.01〜25mg/kg、好ましくは
0.05〜18mg/kg、さらに好ましくは0.05
〜12mg/kgである。
【0039】ラパマイシンをインスリンと組み合わせて
投与する場合、インスリン用量は、ラパマイシン処理を
行わない際の必要な量と同じであるか、または正常なグ
ルコース濃度を維持するのに必要な量以下に減少させる
かのいずれであってもよい。自己決定の毛細血管中グル
コース濃度は容易に測定することができ、インスリン
を、許容される血中グルコース濃度を維持するのに必要
な範囲まで投与することができる。ラパマイシンとイン
スリンを同時に投与する必要はない。例えば、ラパマイ
シンは、1回/日、数回/日または数回/週投与する
が、インスリンは単に1回/日投与であってもよい。投
与計画は、個々の患者の必要性に依存して変化する。ラ
パマイシンをインスリンと組み合わせて投与する場合、
ラパマイシンについての同一の用量範囲が適用できる。
【0040】治療は、一般に、化合物の最適用量よりも
少ない用量で始められる。その後、該状況下にて最適の
効果が達成されるまで用量を増加させる;経口、非経
口、鼻腔、気管支内投与の正確な用量は、治療する個々
の患者についての経験に基づき、顧問医が決定する。一
般に、ラパマイシンは、いずれの有害または有毒な副作
用ももたらすことなく、一般に効果的な結果が得られる
濃度にて投与することが最も好ましく、単一単位用量と
して、または所望により、用量を患者に依存して1日ま
たは1週を通して適当な回数投与する通常のサブユニッ
トに分割して投与することもできる。
【0041】
【発明の効果】本発明によれば、ラパマイシンを投与す
ることにより、哺乳動物のインスリン依存性糖尿病の発
達阻止または進行遅延をもたらす方法を提供することが
できる。さらには、IDDM感受性哺乳動物におけるI
DDMの罹患を予防する方法も提供することができる。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 スレンドラ・ネイス・セーガル アメリカ合衆国08540ニユージヤージー州 プリンストン、セイレ・ドライブ4番 (72)発明者 ローレル・ムーア・アダムス アメリカ合衆国27717ノースカロライナ州 ダーラム、ホーソーン・ドライブ8番 (72)発明者 トーマス・ジヨゼフ・カツジアーノ アメリカ合衆国19067ペンシルベニア州モ リスビル、ストツクハム・アベニユー350 番

Claims (7)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 有効量のラパマイシンを、インスリン依
    存性糖尿病の発達を阻止しまたは進行を遅らせることを
    必要とする哺乳動物に経口、非経口、鼻腔内、気管支内
    または直腸内投与することからなる、該哺乳動物におけ
    るインスリン依存性糖尿病の発達を阻止するか、または
    その進行を遅らせる方法。
  2. 【請求項2】 さらに、ラパマイシンをインスリンと組
    み合わせて投与することからなる請求項1記載の方法。
  3. 【請求項3】 正常なグルコース濃度を維持するのに必
    要なインスリン量が、インスリンの単独投与により正常
    なグルコース濃度を維持するのに要する量よりも少ない
    請求項2記載の方法。
  4. 【請求項4】 インスリン依存性糖尿病の発達を阻止し
    または進行を遅らせることを要する哺乳動物において、
    インスリン依存性糖尿病の発達を阻止するかまたは進行
    を遅らせるのに使用するラパマイシンと医薬上許容され
    る担体とからなる組成物。
  5. 【請求項5】 インスリンが組成物成分である請求項4
    記載の組成物。
  6. 【請求項6】 正常なグルコース濃度を維持するのに必
    要なインスリン量が、インスリンの単独投与により正常
    なグルコース濃度を維持するのに要する量よりも少ない
    請求項5記載の組成物。
  7. 【請求項7】 有効な予防量のラパマイシンを、インス
    リン依存性糖尿病感受性哺乳動物に投与することからな
    る、該哺乳動物におけるインスリン依存性糖尿病の罹患
    の予防方法。
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