JPH05179399A - オーステンパ性および打抜き性に優れたばね用鋼 - Google Patents

Abstract

(57)【要約】 【目的】 熱処理による変形防止の手間を要しないオー
ステンパ処理によって熱へたり性および打抜き性に優れ
たトーションスプリングに適したばね用鋼を得る。 【構成】 重量比でＣ：0.40〜0.70％、Ｓｉ：0.10〜0.
95％、Ｍｎ：0.50〜2.00％、Ｃｒ：0.10〜1.50％、Ｖ：
0.05〜0.50％、Ｎ：0.010 〜0.030 ％を含有し、さらに
Ｓ；0.03〜0.40％、Ｔｅ；0.001 〜0.15％およびＰｂ；
0.05〜0.20％のうち１種または２種以上を含有し、残部
がＦｅおよび不純物元素からなる。Ｍｎが焼入れ性を向
上し正常なオーステンパ組織とし、かつＶおよびＮ添加
により、結晶粒を微細化すると共に析出硬化させること
により、熱へたり特性が向上し、Ｓ、Ｔｅ、Ｐｂ添加に
より打抜き性を改善した。そのため、熱処理に手間を要
しないオーステンパ処理によって、優れた熱へたり性お
よび打抜き性を有するトーションスプリングに適したば
ね用鋼を得ることができる。

Description

【発明の詳細な説明】

【０００１】

【産業上の利用分野】本発明は自動車のトランスミッシ
ョンのシザースギヤ等に用いられるトーションスプリン
グに有用なばね用鋼に関する。

【０００２】

【従来の技術】シザースギヤは本体ギヤと同一形状の歯
車であって、本体ギヤと同軸で重ね合わせて装着され、
本体ギヤの回転と逆方向に付勢されて本体ギヤと共に相
手ギヤと噛み合い、相手ギヤとのガタツキを無くす役割
をする。

【０００３】このシザースギヤと本体ギヤを相互に逆方
向に回転するように付勢するのがトーションスプリング
である。このトーションスプリングは形状がアルファベ
ットのＣ字形をしており、このＣ字形の合口を拡げるよ
うにしてシザースギヤと本体ギヤの間に取付けられる。

【０００４】このトーションスプリングはカムシャフト
に装着され、１５０℃程度の高温に曝されるため、熱へ
たり性が要求される。熱へたり性は、最初に常温で合口
を所定間隔に拡げるために要する荷重に対して、１５０
℃で１００ｋｇの荷重で合口を拡げ９６時間経過後に、
同じ間隔で合口を拡げるために要する荷重の減少率で定
義される。そのため、従来、このトーションスプリング
には、炭素工具鋼鋼材であるＪＩＳ ＳＫ５の鋼板をＣ
字形に打抜き、焼入れ焼もどししたものが用いられてい
た。

【０００５】

【発明が解決しようとする課題】しかしながら、このト
ーションスプリングは薄い鋼板から打ち抜かれて製造さ
れるので、焼入れ焼もどしの熱処理において、歪が発生
する。この熱処理による歪による変形を防止するため、
部材を拘束して熱処理する必要があり、非常に手間が掛
かる。

【０００６】本発明はトーションスプリングの熱処理に
おいて、熱処理の歪による変形を防止するために、熱処
理に非常に手間がかかるという前記のごとき問題点を解
決するためになされたものであって、手間を要せずに熱
処理ができ、しかも熱へたり性と打抜き性に優れたトー
ションスプリングに適したばね用鋼を提供することを目
的とする。

【０００７】

【課題を解決するための手段】発明者は従来のトーショ
ンスプリングの熱処理において、変形を防止するために
拘束する手間を省略する手段として、焼入れ焼もどしに
代わってオーステンパを用いることを着想した。しかし
ながら、従来鋼をそのままオーステンパした場合、熱へ
たり性が低下することが判明した。

【０００８】そこで、発明者はオーステンパ処理した場
合の熱へたり性の低下を解決するため、さらに研究を重
ねた結果、Ｃｒを添加しＭｎを増量することにより焼入
れ性を向上し、さらにＶおよびＮの添加により結晶粒の
微細化と析出硬化により、熱へたり性の向上に成功し
た。

【０００９】しかしながら、Ｃｒの添加により、打抜き
性が低下するという別の問題点に逢着した。そこで、
Ｓ、Ｔｅ、Ｐｂ等の快削元素による、打抜き性の改善を
着想し、熱へたり性を維持しつつ打抜き性を改善できる
最適範囲を見出すことにより本発明を完成した。

【００１０】本発明のオーステンパ性および打抜き性に
優れたばね用鋼は、重量比でＣ：０．４０〜０．７０
％、Ｓｉ：０．１０〜０．９５％、Ｍｎ：０．５０〜
２．００％、Ｃｒ：０．１０〜１．５０％、Ｖ：０．０
５〜０．５０％、Ｎ：０．０１０〜０．０３０％を含有
し、さらにＳ；０．０３〜０．４０％、Ｔｅ；０．００
１〜０．１５％およびＰｂ；０．０５〜０．２０％のう
ち１種または２種以上を含有し、残部がＦｅおよび不純
物元素からなることを要旨とする。

【００１１】

【作用】本発明のオーステンパ性に優れたばね用鋼は、
Ｍｎを０．５０〜２．００％とＣｒ：０．１０〜１．５
０％を含有させたので、焼入れ性が向上し正常なオース
テンパ組織を得ることにより、熱へたり特性が向上し
た。また、Ｖを０．０５〜０．５０％、Ｎを０．０１０
〜０．０３０％含有させることにより、結晶粒を微細化
すると共に析出硬化により、熱へたり特性が向上した。
さらに、Ｓ；０．０３〜０．４０％、Ｔｅ；０．００１
〜０．１５％およびＰｂ；０．０５〜０．２０％のうち
１種または２種以上を含有させたので、打抜き性に優れ
ている。そのため、熱処理に手間を要しないオーステン
パ処理によって、優れた熱へたり特性を有するトーショ
ンスプリングに適したばね用鋼を得ることができる。

【００１２】次に、本発明において構成元素の添加理由
とその成分範囲を限定した理由について説明する。 Ｃ；０．４０〜０．７０％ Ｃはばね用鋼として要求される強度を確保するために必
要な元素であり、前記効果を得るためには少なくとも
０．４０％以上含有させる必要がある。しかし、０．７
０％を越えて含有させると、巨大炭化物が生成し易くな
り、靱性が劣化するので、上限を０．７０％とした。

【００１３】Ｓｉ；０．１０〜０．９５％ Ｓｉは製鋼時の脱酸に必要であると共に鋼を強化する作
用を有する。その含有量が０．１０％未満では、前記効
果が得られない。また、０．９５％を越えて含有される
と、製造時に脱炭が増加して、ばね特性を阻害するの
で、その含有量は０．１０〜０．９５％に限定した。

【００１４】Ｍｎ；０．５０〜２．００％ Ｍｎはオーステンパにより充分な硬さと靱性を付与し熱
へたり性を向上するために必要な元素である。その含有
量が０．５０％未満では前記効果が得られない。また、
２．００％を越えるとオーステンパ後にオーステナイト
が残留して、熱へたり性を阻害するので、その含有量は
０．５０〜２．００％に限定した。

【００１５】Ｃｒ；０．１０〜１．５０％ Ｃｒはオーステンパにより充分な硬さと靱性を付与し熱
へたり性を向上するために必要な元素である。その含有
量が０．１０％未満では前記効果が得られない。また、
含有量が１．５０％を越えると巨大炭化物が生成し、靱
性が劣化するので、その含有量は０．１０〜１．５０％
に限定した。

【００１６】Ｖ；０．０５〜０．５０％ Ｖは結晶粒を微細化し、析出硬化により熱へたり性を向
上することができる。前記効果を得るためには、少なく
も０．０５％以上含有させる必要がある。しかし、０．
５０％を越えて含有させると、熱へたり性向上の効果は
飽和し、巨大炭窒化物生成により靱性が劣化するので、
上限を０．５０％とした。

【００１７】Ｎ；０．０１０〜０．０３０％ Ｎは結晶粒を微細化し、析出硬化により熱へたり性を向
上することができる。前記効果を得るためには、少なく
も０．０１０％以上含有させる必要がある。しかし、
０．０３０％を越えて含有させると、鋳造中に鋼塊に冷
却過程でＮ₂ガスが発生し、材料に内部欠陥を生じるの
で、上限を０．０３０％とした。

【００１８】Ｓ；０．０３〜０．４０％ Ｓはばね用鋼の打抜き性を向上させるが、前記効果を得
るためには少なくとも０．０３％以上含有させる必要が
ある。しかし、０．４０％を越えて含有させると、巨大
介在物が生成し靱性を劣化するので、上限を０．４０％
とした。

【００１９】Ｔｅ；０．００１〜０．１５％ Ｔｅは打抜き性を改善するために必要な元素である。前
記効果を得るためには少なくとも０．００１％以上含有
させる必要がある。しかし、０．１５％を越えて含有さ
せると、靱性を劣化するので、その含有量は０．００１
〜０．１５％に限定した。

【００２０】Ｐｂ；０．０５〜０．２０％ Ｐｂはばね用鋼の打抜き性を改善するために必要な元素
である。前記効果を得るためには少なくとも０．０５％
以上含有させる必要がある。しかし、０．２０％を越え
て含有させると、靱性を劣化するので、その含有量は
０．０５〜０．２０％に限定した。

【００２１】

【実施例】本発明の実施例を比較例および従来例と対比
しつつ説明し、本発明の効果を明らかにする。本発明
鋼、比較鋼および従来鋼として、表１〜表３に示す化学
成分の供試鋼を溶製した。なお、表２〜表３において、
比較鋼Ｍ〜Ｖのうち、Ｍ鋼はＣ含有量の低いもの、Ｎ鋼
はＳｉ含有量の高いもの、Ｏ鋼はＭｎ含有量の低いも
の、Ｐ鋼はＭｎ含有量の高いもの、Ｑ鋼はＳ含有量の低
いもの、Ｒ鋼はＳ含有量の高いもの、Ｓ鋼はＣｒ含有量
の高いもの、Ｔ鋼はＶ含有量の高いもの、Ｕ鋼はＮ含有
量の低いもの、Ｖ鋼はＮ含有量の高いものである。ま
た、従来鋼であるＷ鋼はＳＫ５に相当する成分のもので
ある。

【００２２】

【表１】

【００２３】

【表２】

【００２４】

【表３】

【００２５】得られた供試鋼を厚さ３．５ｍｍの薄板に
圧延し、焼鈍した後打抜きにより、トーションスプリン
グを製造した。打抜きに際しては、工具寿命を測定し、
従来鋼の工具寿命を１とした比率で、打抜き性を評価し
た。

【００２６】続いて、打抜きにより製造したトーション
スプリングを８６０℃で１０分間加熱し、３５０℃の塩
浴中に１０分間保持するオーステンパ処理を施した。な
お、従来鋼については、前記のオーステンパ処理と、通
常の焼入れ焼もどし、すなわち、８６０℃に加熱し油焼
入れし、その後４１０℃で７０分間の焼もどしの両方を
行った。

【００２７】次いで、これら供試鋼から得られたトーシ
ョンスプリングについて、熱へたり性を測定した。熱へ
たり性は、常温で先ずトーションスプリングの合口を所
定間隔に拡げるに要する荷重を測定し、続いて１５０℃
で合口に１００ｋｇｆの荷重を９６時間かけた後、再び
トーションスプリングの合口を同じ所定間隔に拡げるに
要する荷重を測定し、その前後における荷重減少率で評
価した。得られた結果は、工具寿命と共に表４〜表６に
まとめて示した。

【００２８】

【表４】

【００２９】

【表５】

【００３０】

【表６】

【００３１】表６から知られるように、従来鋼を焼入れ
焼もどししたＳ鋼の熱へたり性が８．５％と良好である
のに対して、従来鋼のＳ鋼をオーステンパ処理したもの
は、熱へたり性が１１．０％と劣っているものであっ
た。また、表５に示したように、比較鋼であるＭ鋼はＣ
含有量が低く強度不足のため、熱へたり性が１５．０％
と劣り、Ｎ鋼はＳｉ含有量が高くばね特性の劣化により
熱へたり性は１４．０％と悪かった。また、Ｏ鋼はＭｎ
含有量不足のため充分な熱へたり性が得られず、熱へた
り性が１５．３％であって、Ｐ鋼はＭｎ含有量が高いた
めオーステナイト残留により熱へたり性が１４．４％と
劣った。

【００３２】Ｑ鋼は熱へたり性は８．２％であったが、
Ｓ含有量が低かったため、工具寿命が０．６で打抜き性
に劣り、Ｒ鋼は熱へたり性は８．４％でまずまずであっ
たが、Ｓ含有量が多かったので、打抜き時に割れを発生
した。

【００３３】Ｓ鋼は熱へたり性は８．２％であったが、
Ｃｒ含有量が高く巨大炭化物の生成により靱性に劣り、
打抜き時に割れを発生し、Ｔ鋼も同様に熱へたり性は
８．５％であったが、Ｖ含有量が高く炭窒化物の析出に
より打抜き時に割れが発生した。また、Ｕ鋼はＮ含有量
が低いため熱へたり性が１０．５％と低く、熱へたり性
の向上が見られず、Ｖ鋼は熱へたり性が８．４％とその
向上が見られたが、Ｎ含有量が高かったため、ブローホ
ールによる内部欠陥が発生した。

【００３５】これに対して表４〜表５に示したように本
発明鋼であるＡ〜Ｌ鋼は、Ｃｒを０．１０〜１．５０
％、Ｍｎを０．５０〜２．００％含有させて、焼入れ性
が向上し正常なオーステンパ組織が得られ、Ｖを０．０
５〜０．５０％、Ｎを０．０１０〜０．０３０％含有さ
せることにより、結晶粒を微細化すると共に析出硬化に
より、熱へたり特性が６．０〜８．５％と従来鋼よりも
向上しており、打抜き性についても、Ｓ；０．０３〜
０．４０％、Ｔｅ；０．００１〜０．１５％およびＰ
ｂ；０．０５〜０．２０％のうち１種または２種以上を
含有させたので、１．０以上であって、従来鋼と同等か
それ以上であって、熱処理に手間を要しないオーステン
パ処理によって、優れた熱へたり特性を有するトーショ
ンスプリングに適したばね用鋼が得ることができ本発明
の効果が確認できた。

【００３６】

【発明の効果】本発明のオーステンパ性および打抜き性
に優れたばね用鋼は以上詳述したように、重量比でＣ：
０．４０〜０．７０％、Ｓｉ：０．１０〜０．９５％、
Ｍｎ：０．５０〜２．００％、Ｃｒ：０．１０〜１．５
０％、Ｖ：０．０５〜０．５０％、Ｎ：０．０１０〜
０．０３０％を含有し、さらにＳ；０．０３〜０．４０
％、Ｔｅ；０．００１〜０．１５％およびＰｂ；０．０
５〜０．２０％のうち１種または２種以上を含有し、残
部がＦｅおよび不純物元素からなることを特徴とするも
のであって、ＭｎおよびＣｒが焼入れ性を向上し正常な
オーステンパ組織とし、さらにＶおよびＮにより、結晶
粒を微細化すると共に析出硬化により、熱へたり特性が
向上した。さらに、Ｓ；０．０３〜０．４０％、Ｔｅ；
０．００１〜０．１５％およびＰｂ；０．０５〜０．２
０％のうち１種または２種以上を含有させたので、打抜
き性に優れている。そのため、熱処理による歪を避ける
ことができ、熱処理に手間を要しないオーステンパ処理
によって、優れた熱へたり特性を有するトーションスプ
リングに適したばね用鋼を得ることができた。

───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 木村 昭憲 愛知県安城市御幸本町17−８

Claims (1)

【特許請求の範囲】
1. 【請求項１】 重量比でＣ：０．４０〜０．７０％、Ｓ
   ｉ：０．１０〜０．９５％、Ｍｎ：０．５０〜２．００
   ％、Ｃｒ：０．１０〜１．５０％、Ｖ：０．０５〜０．
   ５０％、Ｎ：０．０１０〜０．０３０％を含有し、さら
   にＳ；０．０３〜０．４０％、Ｔｅ；０．００１〜０．
   １５％およびＰｂ；０．０５〜０．２０％のうち１種ま
   たは２種以上を含有し、残部がＦｅおよび不純物元素か
   らなることを特徴とするオーステンパ性および打抜き性
   に優れたばね用鋼。