JPH0421709B2 - - Google Patents

Description

【発明の詳細な説明】 本発明は各種絵具類の下地用絵具、詳しくは
紙、布、木、ガラス等の各種基底材（キヤンバ
ス）に施用することによつて、水性絵具及び油性
絵具のいずれに対しても適当な吸収性を示す堅牢
で格調高い下地層を形成できる新しい下地用絵具
に関する。

現在日本における油彩技法は、殆んどが非吸収
性地に描かれている。即ち油性絵具用の下地層
は、通常麻布に鉛白、チタン白、炭酸カルシウム
を展色材（アマニ油）で練り塗布されたものであ
る。しかしながらこの下地は非吸収性であり、そ
の上に使用される油絵具は通常展色剤として生の
乾性油を使用しているため、その乾燥は長期間
（平均0.3mm厚で約１〜６ケ月）を要するという最
大の欠点がある。しかも上記下地上への油性絵具
による画面の形成に当つては、色調のにごり、黄
変、層間のしわ、亀裂、剥離等の発生が見られ
る。更に上記下地は油性であるため、その上に水
性絵具を施しても固着せず、従つて古来からの伝
統的技法である水性絵具を下層に施し、これに透
明油絵具を塗り重ね立体的な多（重）彩発色を行
なうことは不可能である。

また市販の水性キヤンバスは、酸化チタン、炭
酸カルシウムを展色剤としてのビニル系樹脂に混
合した塗料を布地材に薄層として塗布したもので
あるが、このキヤンバス下地層は、絵具との固着
性を欠き、絵具のはじきを生じやすく、また油性
絵具を塗り重ねる場合、油のにじみを生じる欠点
がある。更に従来より一部画家により手づくりの
下地絵具が研究されているが、その処方は古代よ
り秘法とされている。公表されたものは主として
展色剤に天然にかわやカゼインが用いられている
が、にかわは急激な湿度の低下によりひび割れを
生じ、またカゼインは硬い基底材の歪には抗し得
ない欠点がある。しかも公知の手づくり下地層は
通常吸収性を具備するものの顔料分散性に乏し
く、塗面での吸収度合にばらつきを生じ、彩色の
バランスをくずす難点があり、殊に湿度の高い日
本では黴の発生を伴うと共に下地絵具自体貯蔵安
定性に欠ける不利がある。

本発明者らは上記公知の各種下地層及びこれを
形成させるための下地絵具に見られる諸欠点をす
べて克服し、均質、堅牢で、油性絵具及び水性絵
具のいずれにも合致する新しい下地面を容易に且
つ確実に形成可能な下地絵具を提供することを目
的として鋭意研究を重ねた。その結果、特定の顔
料及び展色剤の組み合せが、上記目的とする下地
面を形成できる下地絵具となることを見い出し
た。本発明はこの新し知見に基づいて完成された
ものである。

即ち本発明は、２水石膏及び（又は）胡粉を少
なくとも10重量％含有する顔料を、もしくはメタ
クリル酸のエステルを主とする重合性モノマー50
〜98重量％及びカルボキシル基含有モノマー２〜
50重量％からなる共重合体水溶液をアンモニア又
は有機アミンで中和して得られる水希釈性樹脂を
主剤とする合成樹脂系展色剤に練合・分散させた
ことを特徴とする各種絵具類の下地用絵具に係
る。

本発明の下地用絵具及びこれを用いて形成され
る下地層によれば、従来のそれらに比し、以下の
如き非常に顕著な諸効果が発現される。

(1) 従来、油絵具の重ね塗りには、およそ１日以
上を要したが、吸収地により展色剤の足かけは
数分で重ね塗りを可能とし、従来数ケ月を要し
た本格的な塗り重ね手法による制作期間が顕し
く短縮され、およそ数日で可能となり、１色で
も多彩で優美な色調を有する所謂伝統的、本格
的且つ堅牢な油彩画面を完成することができ
る。

(2) 水性絵具（透明・不透明・テンペラ・日本
画・インキ・各種マーカー等）についても従来
紙質の変色・変質にかわり、優美な色彩と堅牢
な画面をつくる。日本画用には粗粒子の混合、
下地色の作成も容易である。１日以内でできる
堅牢な下地はおよそ〜10日以内に於て各水性絵
具を薄く細いドローイングをほどこしても全く
ハジクことのない、又以後耐水性となる画期的
な下地である。

(3) 水性・油性絵具を同一下地に混合又は塗り重
ね可能な、いわゆる混合技法、鉛筆・パステル
類と淡彩でおこなう素描は従来困難とされてい
る画面の削りとり、ボカシ効果の容易さ、均等
な細線がひけるスクラツチ技法も大巾に改善さ
れる。又、油絵具の特徴の一つである盛り上げ
を行わなくとも平面技法でも立体的表現が可能
となる。

以下本発明下地用絵具の処方につき詳細する。

本発明絵具においては、２水石膏及び（又は）
胡粉を少なくとも10重量％含有する顔料を用いる
ことが重要であり、これを特定の合成樹脂系展色
剤に練合・分散させることによりはじめて所期の
効果を奏し得る。ここで２水石膏としては天然２
水石膏及び合成２水石膏のいずれをも使用でき
る。これらは単斜系の柱状結晶形態を有してい
る。その平均粒子径は、種類により若干異なり、
例えばボローニア２水石膏では約４〜15μmの範
囲にあり、人工石膏では0.5〜9μmのものが主で
ある。この平均粒子径は島津社製粒度分布測定器
RS−100（比重天秤法）により測定されたもので
あり、以下同じである。また胡粉は斜方系鱗片状
晶形態を有する天然（アラゴナイト）の炭酸カル
シウム（CaCO₃）を主成分とするものであり、
通常約1μm以下の微細なものから20μmまでの粒
子が平均に分布されている。本発明に特に好まし
い上記２水石膏及び胡粉は、平均粒子径が約0.5
〜20μmの範囲のものである。上記２水石膏及び
胡粉は単独でも、混合しても本発明に利用され
る。また本発明では、之等と共に更に必要に応じ
て他の白色顔料例えばリトポン、酸化チタン、鉛
白等や体質顔料例えば重質炭酸カルシウム、沈降
性硫酸バリウム、微粉末シリカ、アルミナ等を併
用して顔料とすることができる。該顔料中の上記
２水石膏及び（又は）胡粉の使用割合は、少なく
とも10重量％、好ましくは30重量％以上であるの
がよく、これを下回る場合、本発明所期の優れた
吸収性その他の諸特性を有する下地層の形成は困
難となる。

また本発明において合成樹脂系展色剤として
は、アクリル酸もしくはメタクリル酸のエステル
を主とする重合性モノマー50〜98重量部及びカル
ボキシル基含有モノマー２〜50重量部よりなる共
重合体をアンモニア又は有機アミンで中和して得
られる水希釈性樹脂を利用する。ここでアクリル
酸もしくはメタクリル酸のエステルとしては例え
ばメチルアクリレート、エチルアクリレート、ブ
チルアクリレート、２−エチルヘキシルアクリレ
ート、ヒドロキシエチルアクリレート等及び之等
に対応するメタクリレート等の１種又は２種以上
を使用できる。またカルボキシル基含有モノマー
としては、例えばアクリル酸、メタクリル酸、マ
レイン酸、イタコン酸等を例示することができ
る。上記カルボキシル基含有モノマーは得られる
共重合体中に２〜50重量％となる範囲、好ましく
は４〜30重量％となる範囲で用いられ、これが２
重量％を下回る場合、得られる樹脂はアルカリ中
和によつても可溶化困難となり、また顔料混和性
を低下させ、更にこれを用いた絵具は施用後の乾
燥に伴い塗面が不溶化し、水性絵具をはじく傾向
が生ずる。上記範囲を上回る場合、得られる樹脂
は耐水性に乏しく、従つてこれを用いた下地絵具
も耐水性が劣る弊害がある。本発明の上記展色剤
としてのアクリル系樹脂は、必要に応じ他のビニ
ル系モノマー例えばスチレン、アクリロニトリ
ル、酢酸ビニル、アクリルアミド等を共重合させ
ることも可能である。但し之等他のモノマーを併
用する場合は、アクリル系樹脂本来の耐久性、耐
変色性、耐劣化性等の諸特性を阻害しない量、即
ち通常アクリル酸エステル及び（又は）メタクリ
ル酸エステルの50重量％までの範囲とするのが望
ましい。

上記アクリル系合成樹脂は、これをアンモニア
又は有機アミン例えばジエチルアミン、トリエチ
ルアミン、モノエタノールアミン、ジメチルエタ
ノールアミン、モルホリン等により中和すること
により水希釈性を付与される。かくして得られる
アクリル系合成樹脂は水溶性であり、必要に応じ
水で希釈することにより容易に使用目的に応じた
所望の吸収性を具備する絵具に調整し得、これに
所定の顔料を練合・分散させて得られる絵具によ
る塗面は、最初水溶解性であるが経日的に不溶化
し、優れた耐水性を付与される。更に本発明にお
いて展色剤樹脂としては上記アクリル系合成樹脂
を主剤とし、これに主剤樹脂量の50重量％までの
他の通常利用されるビニル系共重合物、アクリル
エマルシヨン樹脂、揮発性アルカリにより可溶化
した乾性油変性アルキツド樹脂等を併用すること
ができる。

本発明絵具は、前記特定の顔料を上記展色剤の
水溶性中に練合・分散させ、必要に応じ希釈する
ことにより調製され、得られる絵具中のアクリル
系合成樹脂量（濃度）は、約５〜50重量％の範囲
とするのが好ましい。また顔料の配合量は展色剤
主剤とする樹脂（固形分）重量の約２〜20倍重量
とするのがよい。更に本発明の下地用絵具には、
従来よりこの種絵具に通常添加されることの知ら
れている市販の各種無機分散剤、セルローズ系の
粘度調整剤、消泡剤等の適当量を添加配合できる
ことは勿論である。

かくして本発明によれば従来より秘法とされて
おり、また公表されたものには見られない非常に
優れた諸特性殊に各種基底材に容易に適用でき、
しかも水性絵具及び油性絵具のいずれに対しても
親和性を有し、之等多種類の上塗り絵具の使用効
果と堅牢性を著しく向上させ得る本格的な下地絵
具が提供される。これは一般人、日曜画家、学
生、専問画家等の広範な人々にとり極めて有用な
ものである。

以下本発明を更に詳しく説明するため実施例を
挙げる。尚各例中部及び％とあるは重量基準によ
るものとする。

実施例１ 天然ボロニア２水石膏 100部 （平均粒径４〜15μm） 50％アクリル樹脂水溶液 70部 アクリル酸アルキルエステル （アクリル酸メチル（50％）、アクリル酸エ
チル（40％）、アクリル酸（10％）共重合体、
重合度500〜3000） 上記成分を混合し、アクリル樹脂量５〜50％と
なるよう水でそれぞれ希釈後、アクリル酸に対し
て当量のアンモニアで中和して、ステンレス製攪
拌機で予備攪拌し、石製３本ロールミルで５回練
肉し、本発明下地用絵具を調製した。

得られた絵具を８mm厚のシナベニア、ボード紙
及び麻布（にかわ目止め処理品）の夫々に、水を
１／２量〜等量加え平刷毛にて約10分おきに１〜10
回塗り重ね、下地塗膜層を形成させた。

この下地塗膜層は、以下の諸性能を発揮した。

１ 塗膜上に冷水を滴下後、およそ60〜120分で
不溶となり、耐水効果を徐々に発揮しはじめ
た。

２ 樹脂量５％以上のいずれの下地塗膜において
も、基底材が吸収度合の比較的大きいもの（ボ
ード紙、シナベニア）の場合、テープにより絵
具層の剥離テストの結果、良好なものであつ
た。また麻床（にかわ目止め処理品）を基底材
とした場合、樹脂量10％以上で同様に剥離しな
い優れたテスト結果を与えた。

３ 下地塗膜層は、透明な可視的灰色を呈し、単
−絵具の使用は問題ないが、混合技法（各種絵
具使用）の場合、若干明度のバランスがくずれ
る場合が認められた。しかしこの場合も例えば
チタンホワイト等の他の有色顔料を少量混入さ
せることにより上記バランスのくずれは回避で
きる。

４ 上塗り絵具として、水性、油性絵具とも、お
よそ10日間全くはじくことなく細線が抽出でき
た。これに対し従来のにかわ下地層では、下地
に均質化が望めず、吸収度合が大きくばらつ
き、また短時間ではじきを生ずる部分が現われ
る。

５ ２回塗り以上において、油絵具のにじみは全
く見られなかつた。

６ 油絵具自体の乾燥速度を従来の下地層に比し
約1/4以下に短縮できた。従つて上塗り絵具の
塗り重ねは、およそ５〜20分で可能となつた。

７ 金箔貼り、刻印うちのいずれも容易且つ良好
に仕上げることができた。

８ 上塗り絵具の削りとり、刻線は、樹脂量15％
以内で非常に良好に実施できた。

実施例 ２ チタンホワイト ０〜10部 （酸化チタンＲ−900、デユポン社） 合成２水石膏 60〃 （平均粒径 0.5〜20μm） 炭酸カルシウム 30〃 （白艶華PZ、白石工業社） 15％アクリル樹脂水溶液 70部 （実施例１と同じ共重合体を用いて調整し
た） 分散剤 少量 （ダモール731、ロームアンドハース社） 増粘調整剤 〃 （ナトロゾール250HR、ハーキユリーズ社） 消泡剤 〃 （ノプコ8034、サンノプコ社） 防黴剤 〃 （KM101A、ヘキスト合成社） ナトロゾール10％水溶液を予め調製しておき、
これと15％アクリル樹脂水溶液、分散剤、消泡剤
及び防黴剤との混合液（樹脂量５〜25％、好まし
くは10％前後となる様調整する）を、アクリル酸
に対して当量のアンモニアで中和した後予備攪拌
器で混合し、これにチタンホワイト、合成２水石
膏及び炭酸カルシウムを攪拌しながら投入し、約
１時間後石製３本ロールミルで５回練肉して、本
発明下地用絵具を得た。

これは一般テンペラ画（混合技法を含む）用と
して好適なものであつた。特に上記においてチタ
ン白を用いたものは、着色力と隠ぺい力を増し、
上塗り絵具の明度バランスのくずれがなく明度差
を一定化できるものであつた。また上記処方で
は、チタン白のほか白色顔料としての亜鉛華（例
えば白水化学社）や鉛白（例えば三井金属社）等
を使用することもでき、更に有色下地とする場合
には、チタン白にかえ、各種有色顔料を用いるこ
ともできる。之等のいずれの場合も、略々同等の
優れた特性を有する下地用絵具が得られる。

また上記処方において体質顔料（炭酸カルシウ
ム）は、シリカや硫酸バリウム等と代替でき、之
等の使用は２水石膏の分散性を向上させる働きが
あり、消泡剤の使用は特に樹脂量の増加乃至重合
度の増加に伴われる増粘作用（塗装時の気泡発
生）に対する消泡作用のため有効である。

実施例 ３ 上記実施例２に示す処方において、15％アクリ
ル樹脂水溶液の一部（50％まで）をアクリルエマ
ルジヨン樹脂（モビニール、ヘキスト合成社）、
ビニル系共重合樹脂（ポバール、東亜合成社）及
び水可溶化乾性油変性アルキツド樹脂（フタルキ
ツド、日立化成社）の夫々に代え同様にして本発
明下地用絵具を得た。

このものは一般油彩画用下地絵具として好適な
半吸収性を有しており、また基底材との堅牢性が
向上されたものであつた。

実施例 ４ 実施例２に示す処方において合成２水石膏に代
え、日本画用胡粉（平均粒径１〜15μm）を用い、
同様にして本発明下地絵具を得た。

このものは一般日本画用下地絵具として好適な
ものであつた。

日本画用下地絵具としては、また上記処方にお
いて用い得るチタン白の１部又は全部を粗粒の方
解末、水晶末などに代替することができる。

Claims (1)

【特許請求の範囲】
1. １ ２水石膏及び（又は）胡粉を少なくとも10重
   量％含有する顔料を、アクリル酸もしくはメタク
   リル酸のエステルを主とする重合性モノマ−50〜
   98重量％及びカルボキシル基含有モノマ−２〜50
   重量％からなる共重合体水溶液をアンモニアは有
   機アミンで中和して得られる水希釈性樹脂を主剤
   とする合成樹脂系展色剤に練合・分散させたこと
   を特徴とする各種絵具類の下地用絵具。